logo 第一回大会
 2004年も年末を迎えて一足早い新年が、そして一足遅い新世紀が訪れようとしていた。

「3…2…1…打ち上げ開始」

 レールシャトル「幻影の影」が一般客を乗せて始めて衛星軌道上に打ち上げられる。電磁力によって重力圏を脱したシャトルは予定宙路に乗ると、ビーム誘導されながら多目的宇宙ステーション「アストロボーイ」に接続、何らの異常も事故も起こさず、当然のように普通の人々が宇宙へと足を踏み入れたのだ。
 アストロボーイは化学・工業・半導体等の技術研究開発を主体とした巨大な施設であると同時に、観光・娯楽施設としての機能を備えていた。それはシャトル打ち上げやステーション開発に貢献したスポンサー群の意向であり、目先の利益があってこそ人類はこれだけ早く宇宙に出ることができたのである。そして彼らスポンサー群が主催する技術と技量を競い合う舞台こそ、今や戦場を宇宙へと移した「ストライク・バック」なのであった。

◇ ◇ ◇

 ストライク・バックは技術開発とそのアピールを目的として、様々な企業、自治体が参加を行っている。更に地域振興を兼ねて大企業が中小企業や地方自治体を後押しする例も多く、故に町の一企業が宇宙に出ることも可能であった。そしてその俗な事実こそが、「身近な宇宙」というイメージへの最大の貢献を為していたのである。

「大会当日、受験じゃないか!」
「どうするんですか、社長!?」

 クスノテック代表取締役社長である山本いそべは新しいストライク・バック大会に新機種2体を投入、社運を賭けた意気込みとあこがれの工業高校の受験を天秤にかけなければならないという深刻な事態に悩んでいた。社長と中学生という相反する板挟みに悩むいそべ、そこに颯爽と現れたのはあの男である。

「話は聞かせてもらったよ」


トーナメント一回戦 キャバリアータイプJvsとらたーぼLmd


 記念すべきオープニングバウト、その一回戦では新技術発表として主催者推薦機が参戦登録されていた。人工頭脳「AI−J」を搭載した無人機キャバリアータイプJである。大会公式パイロットである新庄ジュンペイの行動パターンを第六世代言語によりプログラム化し、コンピュータに入力して完成した「AI−J」、無論あらかじめプログラミングされた条件に対する行動を起こすだけだが、従来困難であった応用力にも優れるとされるシステムである。今後、より複雑な人格にも適用できるようになれば、宇宙開発には欠かせない無人機に利用できることは確実だろう。
 対するクスノテック代表は山本・J・いそべ騎乗のとらたーぼLmd(リミテッド)。駆動系と推進制御の技術開発を中心とするクスノテックはもちろん自社開発機である瑞雲をベースに設計。パワージェネレータとセンサー装甲の一部を交換するだけで機体タイプの変更を可能としたのは、開発技術とアイデアの結実である。

「ポゥーッ!」

 コクピット映像が出ないためにあまり知られてはいないが、猫たーぼシリーズよりBBS(バブルボードシステム)を採用しているとらたーぼでは、機体搭乗時にはパイロットスーツを脱いでゲル状の衝撃吸収剤に浸っている。コクピットから嬌声が響くと、リング上の宇宙ステーション内側に設けられている射出口より、専用の競技フィールドに向けて機体が射出される。
 両機中間距離に設定したところで試合開始、多弾頭砲弾を搭載したキャバリアーJはレールキャノンを撃つもとらたーぼは宙戦でも変わらぬ機動力でこれを回避。抜き撃ちのローリングタイガーを命中させて先制する。虹色の軌跡を描く砲弾を避けつつ、尻尾型の伸縮式アタッチメントを確実に命中させる技量は流石受験中の女子中学生社長とは思えない技だ。
 展開は完全にとらたーぼペースのまま、キャバリアーJもわずかな反撃を命中させるも完全にワンサイドゲームとなった。無人の人工知能機デビュー戦としてはいささかあっけないものであったろうが、技術は実践によっても進歩をつづけるものであろう。

○とらたーぼLmd(8分機動停止)キャバリアータイプJ× 35vs-3


トーナメント一回戦 アーンカラゴンvsオーガイザー


 一回戦二試合目は宇宙戦にいまいちピンと来ていない、今年22歳のテスターことテムウ・ガルナと、こちらは堂々宇宙侍を名乗っている無頼兄・龍波との一戦。どちらも機体の宙戦仕様設計こそしているものの、これまでの基本方針は変更せずに初めての舞台で手慣れた戦いを見せるつもりでいるようだ。
 まずは中間距離から、テムウ騎乗のアーンカラゴンは移動攻撃からヴォーテックスを発射するが命中せず、反対に初手から狙ってきた無頼兄騎乗のオーガイザーはガイ・クラッシャーによる有線攻撃を命中させて先制する。だがこの攻防で距離を取ることに成功したアーンカラゴンは多弾頭兵器イラプションを一斉発射、装甲で弾かれたものの全弾を命中させて優位に立つ。たまらずオーガイザーは前進、ヴォーテックスを受けつつもガイ・クラッシャーで反撃。直接の削り合いなら僅かに出力に勝るオーガイザー有利か。
 ここでオーガイザーは待ちかまえていた近接戦闘に移行、機体をラッシュ・モードに変形させた鋼神を起動するが、タイムラグがあったか格闘戦での相手の捕捉に失敗。すかさず距離を取ってアーンカラゴンがヴォーテックス発射、オーガイザーはこれを装甲で弾き返すと続くイラプション連打も一部被弾しつつも回避する。だが二射目のイラプションをかわしきれずに一斉被弾するとたまらず前進したところをヴォーテックスで狙撃されて万事休す。テムウ・ガルナがテクニカルな戦いで一回戦を勝利した。

○アーンカラゴン(8分機動停止)オーガイザー× 23vs-7


トーナメント一回戦 サイコミュ試験用GMvsウシナー・デデミテルナ


 続いて一回戦第三試合、両機がフィールド上に現れると場内には悲鳴にも似た声が響きわたった。

 話は数週間前に遡る。

「ふむ。で、今日は何の用なのかね?」
「貴重なお時間をいただきまことに恐縮です。早速ですが、まずはこれをご覧ください」
「む・・・。」
「我々の新機体『ウシナー』です」
「悪趣味だな。これで大会に出る気かね?」
「はい、そう考えております」
「今までにもこれに似た構想は数多くあった。しかし、莫大なコストが必要ということで実現はされたことはなかったな」
「はい。この機体の主要パーツにも値段がつけられないものが数多く使用されております」
「パーツか・・・。なるほど、そういう考え方か」
「はは。さすがは先生、どこかの社長とは違いますね」
「世辞はいらん。話を聞かせろ」

「ふむ。で、それは脅迫かね?」
「我々としましてもこの計画は何としても成功させねばなりません。そして、そのためには先生のお力が必要であり・・・」
「まて!この機体が現行の機械工学原則法に抵触しているのは明らかだ。私だけの権限ではどうしようもないことではないか?」
「ですからこそ、先生にお願いしております」
「話にならんな」
「いえ、決して難しいことではありません。我々はこう考えております。先生には認可の判を『押さない』でいただきたいのです」
「・・・何のつもりだ?」
「この機体の問題点は後日予定されている発表会ですぐさま指摘されるでしょう。当然、世論は黙っていません」
「そんなことは開発する前からわかっていたことだろう?」
「だからと言って我々も引き下がれません。世論を同調させつつ、この機体を合法化させなければなりません」
「そこで審議会か?」
「はい。その席で先生には認可に反対してもいたいのです」
「反対?話が見えないな」
「我々には実に豊潤な資金があり、これを用いれば合法化などは容易いのです。しかし、それでは世論は納得しません。マスコミを動かしても、完全には疑念を払拭できない」
「なるほど。ギリギリがいいのだな」
「先生の聡明さには頭が下がります」
「話はわかった。タカで売っている私だ。立ち回りは心得ている」
「先生にもけして損の無いお話です。よろしくご検討ください」
「ふん。任せておけ」

「いいんですか?アレじゃ判を押してくれないじゃないですか?ただでさえ票集めはギリギリなんですよ!」
「アレでいいのですよ。あのタヌキがタダで言うこと聞くはずがないのです。決議直前で絶対に連絡が来ますよ。『判を押されたくなかったら・・・』ってね」
「じゃあ、最初から・・・」
「政治家なんて人種は、カネをちらつかせるとつけ上がります。弱めのネタでも、こちらが主導権を握るには十分ですからね。むしろカネは後ででいいのですよ。それに、決議までに審議会のメンバーは半数になりますし、そうなれば買うべき票数なんてたかが知れています」
「はぁ・・・」

◇ ◇ ◇

 そうして現れたウシナー・デデミテルナの外見はぶよぶよとした「人間の胎児そのもの」であった。ストライク・バックの機体は規定のフレームに各チームがある程度自由にデザインをしたセンサー装甲を取り付ける方式であり、これまでに生体じみた素材が使われた例も確かに存在する。だがここまで悪趣味といえるほど徹底したデザインとなると流石に例が無い。対するジム陣営はシステム改変記念のオリジナル機体、サイコミュ試験用GM投入とのことだが

「これってノーマルのGMにサイコミュ試験用ザクの腕をとりつけただけじゃないですか」

 パイロットの意見は黙殺されたが、それでもサイコミュコントロールにはそれなりの自信があるらしい。試合はそのGM希望の遠距離で開始、有線制御された両腕が伸びると指に擬した五連装ビーム砲から熱線が放たれる。対するウシナー・デデミテルナはエレクトと称する熱線を振り回し、これが双方命中。ウシナーはゆっくりと距離を縮め、双方が有線制御ビーム砲とエレクトを交錯、更に距離を接近させると不安定に振り回されるエレクトの熱線が周囲を踊るが、制御が充分でないのか命中しない。

「ウシナー、動作が不安定じゃないか?」
「マズいですね…サイコミュに反応してるみたいです」

 コクピットよりジムがかけているプレッシャーにより、動きが制限されるウシナー。アドバンスシステムの負荷も相まって不自然な行動曲線が安定せず、GMの砲撃を直撃こそしないものの徐々に被弾が増えている。肉質の装甲に砲撃が当たる様はかつてないほど不気味な光景を宙空に現出させていた。再び接近、だがウシナーはやはり兵器制御が追いつかずに連続攻撃も外れ。サイコミュプレッシャーの蓄積が限界に達したところで、完全にコントロールを失ったウシナーから充分距離を離したGMがビーム砲で狙撃、完全に沈黙させることに成功した。
 尚、この試合の映像は後に複数の分野で取り上げられる事となる。

○サイコミュ試験用GM(10分機動停止)ウシナー・デデミテルナ× 26vs-6


トーナメント一回戦 ふわふわエターニアvsトータス号宇宙型


 続いて一回戦最後の対戦、ちょっと初心に戻ったしづねーさんこと静志津香&ふわふわエターニアに、対するは白河重工(SRI)所属パイロットであるコルネリオ・スフォルツァとトータス号宇宙型。今回は各陣営とも実験機や試作機を投入しつつも、それだけに基本方針は従来のスタイルを踏襲している例が多いようだ。注目は宙戦仕様に改変されているワイヤシステムを双方が使用しているところか。
 戦闘は中間距離から開始、光の軌跡を描きながらビームストリングがトータス号を捉えると、エターニアがニードルガンの抜き撃ちを命中させて先制する。ダメージは軽微、トータス号も青い血の女を切り放して反撃しやはり損害軽微。
 だが距離を離したエターニアはビームストリングのラインを繋いだままロックオンレーザーを射出、降り注ぐ光の雨がトータス号の装甲を叩く。たまらず距離を詰めるトータス号にエターニアは落ちついてニードルガンを抜き撃ちで命中、やはり威力は弱くダメージはわずかだが、エターニアの本命は振り解かれずに繋いだままとなっているビームストリングにあった。トータス号の伝送装置を高機動を活かして確実に解除しつつ、ビームストリングで捕捉した相手の座標に狙いすましたロックオンレーザーの三連射出!多少は装甲で弾かれたが、24本もの光条が次々とトータス号に襲いかかり派手な炸裂光の花を咲かせる。損害に耐えきれなくなったトータス号は危機管理を兼ねた裏システム「狂鬼人間」を発動、だが爆発的に稼働する筈のトータス号の動きはエターニアのビームストリングが捉えており、続くニードルガンの狙撃を直撃させて相手が本領発揮する間もないままに機動停止に追い込むことに成功した。

○ふわふわエターニア(8分機動停止)トータス号宇宙型× 38vs-5


トーナメント二回戦 とらたーぼLmdvsりふぁいん・どんきほーて弐号ぜーた


 一回戦四試合が終わり、二回戦からは抽選によるシード選手が参加。「暴走ラテン娘」ベアトリス・バレンシアも他選手同様に継続参加、機体名は愛機どんきほーてを踏襲しているがベース機に試験機SPTを採用した超攻勢型で参戦。対するとらたーぼは今更言うまでもない超高機動機であり、コンセプトの極端に異なる両機の対決となった。
 まずは中間距離から開始、とらたーぼのローリングタイガー尻尾と、どんきほーての伸縮自在よがぱんちが双方命中、だが相打ちなら出力でも装甲でも劣るとらたーぼは不利になる。続けての攻勢は確実に防御に専念、双方が回避に成功。ここで近接戦に持ち込んだどんきほーては攻勢モードだいまじーんを作動、近接格闘で殴りかかるがとらたーぼはこの至近距離での攻撃すらを回避してしまう。5分以上粘ったところで一瞬の隙をついたとらたーぼが距離を空けるとローリングタイガー、だが相手が攻撃に出るタイミングに絶妙に合わしたどんきほーてはここでも相打ちを誘うことに成功、一撃勝負の削り合いならやはり優勢に立つ。
 だがどんきほーての誤算は超攻勢のために導入したアドバンスシステム「どーぴんぐ」の存在。これによりSPTの基本性能でとらたーぼに肉薄しているが、同時にシステムが機体に与える負荷が大きく長期戦になれば不利は目に見えている。そのため撃ち合いでは優位ながら状況はむしろ不利、そこに続けてのローリングタイガーを一瞬の判断ミスで避け損なう。直撃により大ダメージ、だがここでイエローゾーンを超えたどんきほーての裏システムが作動する。

「レイ、VM−AX起動!」

 先のトータス号に続くVM−AXの発動である。どんきほーての機体が白く輝きだし、肉眼での視認が困難なほどの加速で突進、とらたーぼに殴りかかる。出力、機動力共に増大したラッシュをとらたーぼはぎりぎりの動きで回避、もともと装甲の薄い機体に一撃が命中すれば無事では済まないだろう。だがどんきほーてのアドバンスシステムは稼働しており、このラッシュを長く続けることができないのも自明である。
 突進、攻勢、離脱と狙撃が息をつく間もなく続けられる、機体負荷以上にコクピット負荷を抑えることで実現したというVM−AXだが強力な出力を完全に制御することはできない。とらたーぼはそのわずかな隙間を縫うようにして徹底した回避行動に専念する。緊迫の攻防が10分ほど続いたところで遂にどんきほーての機体が負荷限界に達し、制御を失うとその勢いのまま外壁のエネルギー・フィールドに高速で衝突、停止する。SPT機は可能性と課題の双方を見せる結末となり、とらたーぼが二回戦を突破。

○とらたーぼLmd(20分起動停止)りふぁいん・どんきほーて弐号ぜーた× 24vs0


トーナメント二回戦 メガロバイソン2vsアーンカラゴン


「一度くらいワタシ自身で乗りたいんです!性能を体感させてください!」
「いや、だけど…メージは宙戦どころか耐G訓練だって充分じゃないだろ?」
「大丈夫です!失敗は成功の母ですから!」

 失敗してもらったら困るのだが、ともあれ機体リニューアルに合わせてメガロバイソンチームではオペレータのジアニ・メージが今回は騎乗。正パイロットのマック・ザクレスがオペレータに入りサポートに回ることとなった。機体はメガロバイソン2、バイソン1は地上戦データ回収のために整備中であり、バイソン2のセッティングは今回のメージ騎乗に合わせて本人がカスタマイズにまで参与することとなったのである。

「この角飾りだけは付けてください!」
「…まあ、それで観に来るガキどもが喜ぶなら、なあ」

 古風な技術屋であるザム・ドックとしては多少呆れつつも、このくらいの我侭なら聞いてやるかと機体を改修。そうして完成したメガロバイソン2は金色の角と胸甲、腕には巨大なトゲつきハンマー、胸の中央には緑色のクリスタルといったいかにも子供向けアニメロボ然とした外見。対するアーンカラゴンとテムウ・ガルナは一回戦でオーガイザーを撃破、続けてスーパーロボットとの対戦は何やら因縁めいたものを一人感じなくもない22歳の冬であった。
 双方遠距離から、バイソン2は両肩のミサイルポッドからグレネードマインボムを発射。これを命中させるがアーンカラゴンもイラプションを一斉発射、続けての撃ち合いも双方全弾命中させるが手数に勝るアーンカラゴンが一気に優位に立つ。バイソン2はこの距離での攻防は危険と判断、損害を受けつつも防御シフトし相手の攻撃を防いでから前進する。接近すれば充分な装備を備えたバイソン2で優勢に立つことは不可能ではないだろう。
 中間距離、バイソン2は巨大なトゲ付きハンマー、ヘビーホイップを投げつけて威嚇するがアーンカラゴンは落ちついてこれを回避、確実にヴォーテックスの弾頭を命中させて相手を追い込む。たまらず移動を図ったバイソンを今度は捕捉、相打ち承知で続けてヴォーテックスを命中。体勢を戻すと距離を離して充分に照準を合わせたイラプションで八方からバイソン2を貫いた。

「判断に操縦が追いつきませんでした…」

 悔しそうにコクピットから救出されるメージ。テムウ・ガルナとアーンカラゴンが準決勝進出。

○アーンカラゴン(7分起動停止)メガロバイソン2× 22vs-11


トーナメント二回戦 サイコミュ試験用GMvsケルビムMk1


 続いては前大会、地上戦ストライク・バック最後の優勝者であるシャル・マクニコルが登場。新機体となるケルビムシリーズMk1でエントリーする。相手は一回戦でウシナーを封じ込めたジムとサイコミュ試験用GM、近接格闘戦機と遠距離狙撃機との対戦である。
 まずはケルビム、シャル得意の近接戦闘から開始、炎の剣の斬撃で先制する。更に新兵器装備であるワイヤー追撃がGMの装甲に食い込み、初手から大ダメージ。だが距離を離したGMは両腕の有線ビーム砲を射出、二方向からの十本の熱線を命中させて容易に展開を譲ろうとはしない。続けての砲撃は外れ、ケルビムも十字弓とアルベーで距離を問わずに反撃するがこれはかすったのみ。

「この感覚…!?」

 その間もコクピットで違和感を感じ続けるシャル。GMから放たれるサイコミュプレッシャーは時が経つにつれて相手の集中を阻害し、そこを狙って有線ビーム砲を命中させる。ケルビムの十字弓はやはり直撃に到らず損害軽微、危機を悟ったケルビムは急襲して近接格闘線を挑み、炎の剣のラッシュで反撃。アドバンスシステム「スティグマ」で強化された反応速度は、駆動部に負荷をかけ続けながら高出力を発揮する、正しくラッシュ向けのセッティングである。防戦一方となったGMはこれを回避専念して耐えつつ反撃の機会を伺うが、その間も機体にまとわりつく炎の軌跡が装甲を焼き続けていた。逆に追いつめられることとなったGMはここで賭けに出ると思い切った攻勢に転じ有線ビーム砲を直撃、これで戦況を五分に戻すと互いに距離を離してビーム砲とケルビムのアルベーが交錯、双方着弾してセンサー装甲を破壊、起動停止に追い込んだ。

「両者判定…DRAW!!」

 おお、とあがる歓声。接戦の末ドローにより両機とも一旦回収されると予備装甲を装着し直し、延長再試合に臨むこととなった。延長戦のルールは通常どおりだが、試合時間は10分を制限を切られることとなる。両機射出カタパルトに再配置されると発進、すぐに再試合が開始された。
 こうして再開された対戦は試合時間を意識したのか、両者ともに守勢を捨てた正面からの撃ち合いとなる。サイコミュ試験用GMの有線式ビーム砲が死角からケルビムを襲い、ケルビムは長距離航行式弾頭であるアルベーを命中させる。続けて十字弓、再び離れてビーム砲とアルベーの撃ち合い。だが正面からの削り合いで出力に勝るGMがケルビムを押し切り、延長戦を制すると準決勝進出を決めた。シャルとしては正々堂々戦いすぎた、その性格が裏目に出たか。

△サイコミュ試験用GM(12分DRAW)ケルビムMk1△ -3vs-3
○サイコミュ試験用GM(4分起動停止)ケルビムMk1× 15vs-7


トーナメント二回戦 フライミートゥーザムーンvsふわふわエターニア


 これで全機が出そろうことになるトーナメント二回戦最後の試合、パイロットの操縦技量では群を抜いていると言われるロストヴァ・トゥルビヨンは神秘的に青く光を反射する中量機、フライミートゥーザムーンに騎乗。対するは恐ろしくも華麗な光の雨を振らせる翼の女騎士、ふわふわエターニアを駆る静志津香。宙空に輝く機体のシルエットであれば、今大会でも最も美しい両機の対戦となった。
 カタパルトより射出された両者の相対距離は中間、ロストヴァの間合いから始まった対決はフライミートゥーザムーンのムーンシャインとエターニアのニードルガンの撃ち合いで開始。ムーンシャインはかすっただけで損害軽微、ニードルガンはムーンが装甲で完璧に弾いてしまう。続けて両者高速起動を一瞬たりとも止めずに同間合いでの撃ち合い、エターニアがムーンシャインの軌跡をかわしながらニードルガンを命中させるとムーンは移動攻撃による抜き撃ちの射撃をきっちりと命中させる。生ある物のように剽悍な動きで、しかも何故互いに正確に攻撃を命中させることができるのか。場内を歓声が渦巻く中でエターニアが待望の遠距離に移行、ロックオンレーザーを一斉発射するとこれを全弾命中!だがムーンも致命となる攻撃は装甲で弾きつつ被害を最小限に食い止める。
 ここまでわずか五分、展開は互角にして損害も50%に到達するが両者の動きに影が見えることはない。フライミートゥーザムーンはやはり抜き撃ちのムーンシャインで砲撃、これをきっちり命中させるとエターニアも離れてロックオンレーザーの雨を降らせる。エターニアの秘密兵器である、8本の光条に隠れて飛んでくるビームストリングは相手をひとたび捕捉しつつも、超高速起動でたちまち解除されてしまい効果が薄い。展開は戦前の評価に沿うかのように完全にパイロットの技量戦となった。
 開始10分、撃ち合いから遠距離に離れたエターニアはロックオンレーザー射出、ムーンは遠隔操作による直接攻撃兵器ブルームーンを飛ばす。予測できない方向から襲いかかる刃に装甲を切り裂かれながら、それでも完全には互いを捕捉できないでいた削り合いは両者同時に機体装甲の耐久度が限界値を超えて起動停止。きわどい判定となったがわずかにフライミートゥーザムーンが優勢、勝利を得た。

○フライミートゥーザムーン(10分起動停止)ふわふわエターニア× -1vs-2


トーナメントJ決勝 とらたーぼLmdvsアーンカラゴン


 いよいよ準決勝。最初の対戦は強豪とらたーぼと受験中の女子中学生社長、山本・J・いそべ駆るとらたーぼLmd。

「ハッ、フゥ!…アッ」

 重ねて言うがパイロットのプライバシー保護のためにコクピット映像は届いていない。リズムに乗りまくった嬌声の響くとらたーぼ陣営は気合充分、対するはスーパーロボット連戦を勝ち抜いたアーンカラゴン騎乗のテムウ・ガルナ。テストパイロットとして過酷な環境下での機体操作には定評がある。
 試合は遠距離から、挨拶代わりの撃ち合いで開始される。とらたーぼは円盤状のフライグパンケーキを放つがこれは外れ、アーンカラゴンは一二回戦と猛威を振るっているイラプションを射出。確実にセンサー捕捉してからの多弾頭狙撃だが、とらたーぼは機体周辺にメルティングバターと称する黄色い残像光を発して相手のセンサーを撹乱する。だがこの光にはもう一つの悪魔的な効果が秘められていた。

「DA,DA,DANCE!…ポゥーッ!ポォォォォォォーゥ!」

 特定仕様の機体に対して黄色い残像光が反応すると、対戦相手の通信システムに介入しコクピット内にスペース新庄ジュンペイの3Dプロモーション映像&ミュージックがサラウンドで流れ出す!通信とセンサーによる制御システムを活用するストライク・バックでは反則ぎりぎりになる、相手の精神をメルトさせる極めて危険なシステムだ。これで相手がダメージを受けているところにとらたーぼのローリングタイガーが命中する。だがテムウ・ガルナも精神的に過酷な環境下での戦いには慣れていた、なんといっても彼はテスターなのだ。
 確実なかわし合いと撃ち合い、パイロットの技量と平常心が問われる展開でアーンカラゴンはヴォーテックスを命中、超高機動力を誇るとらたーぼの僅かな操縦の隙を確実についてくる。更にイラプションの弾道を利用して相手を追いつめ、ローリングタイガーの相打ちを誘われるがヴォーテックスを直撃、バランスを崩してイラプションを今度は命中させる。回避性能抜群のとらたーぼ相手に削り合いを演じる、その技量は見事というほかない。

 こうなるととらたーぼは装甲の薄さが響いてくる。アーンカラゴンの攻勢の殆どを回避しつつ、捕捉されると一撃でも損害は無視できない。更に誤算となったのはアーンカラゴンが攻勢のみでなく、とらたーぼの反撃も確実に回避してくることだった。開始10分まで両者互角のまま双方の損害が50%程に達すると、アーンカラゴンは戦法を変えたかイラプションをほとんど狙いを定めずに連続射出!その殆ど全てをかわすとらたーぼの超高機動力も流石だが、それでも少しずつ命中しては装甲を削られると最後は弾幕に追いつめられたところにイラプションが連続着弾。パイロット性能を見せつけたテムウ・ガルナが難敵を下して決勝進出を決めた。

○アーンカラゴン(14分機動停止)とらたーぼLmd× 20vs-9


トーナメント準決勝 サイコミュ試験用GMvsフライミートゥーザムーン


 続いて準決勝もう一試合はサイコミュ試験用GMとフライミートゥーザムーン。今回は宙戦一回目のためか、近接格闘機はやや参加が少なくなっている。GMは指先が砲台になった両腕が切り放される、中距離から遠距離を兼ねる有線式ビーム砲が主力兵器、一方のフライミートゥーザムーンはその神秘的な外見とは反対に、装備は実弾系主体の重厚な性能を持っている。
 まずはロストヴァ得意の中間距離から開始、GMはサイコミュプレッシャーで相手を牽制、有線式ビーム砲を撃つがこれはムーンが回避。すかさず距離をとったGMはビーム砲発射、ブルームーンの反撃を受けながらもこれを直撃させて先制する。
 これでペースを掴んだGM、続く中間距離に移ってからでもサイコミュで確実にプレッシャーを与えつつ有線ビーム砲で攻撃、ムーンは反撃が安定せず距離を保って撃ち合うが優勢に転じることができない。ムーンシャインの弾頭が虹の軌跡を描いて宙空を流れるが、安定しない軌跡は敵を捕捉できずにGMのサイコミュプレッシャーが蓄積してパイロットの動きを遮るようになる。

「やられた…っ」

 自身の反射速度、連射フィードバック、確定率まで落ちたことはサブモニターの数値を見るまでもなく知ることができる。コクピットで舌打ちしたロストヴァの目の前に複数の熱線が飛来し、ムーンの装甲を貫いた。サイコミュ搭載したGMが初宇宙戦にして念願の決勝進出を決定。

○サイコミュ試験用GM(7分機動停止)フライミートゥーザムーン× 26vs-2


NAKAMOTOストライク・バックZ第一回大会決勝戦 アーンカラゴンvsサイコミュ試験用GM


 宇宙戦となって記念すべき第一回、NAKAMOTOストライク・バックZの決勝戦は遠距離攻勢を得意とするアーンカラゴンとどんな苦境にもたぶん耐えるに違いないテムウ・ガルナ。対するはテムウ以上にテスト機に乗せられっぱなしのジムが騎乗するサイコミュ試験用GM。いずれも中距離から遠距離の射撃兵器を主体としつつ、機体適性の高いパイロットが騎乗する両者の対戦となる。
 宇宙ステーション「アストロボーイ」はドーナツ型に設計をされており、遠心力による重力を発生させることが困難な中心部はくりぬかれて中空になっている。この場所に無重力状態での開発作業が必要な工場プラントユニットなどを取り付けることができるのだが、今はエネルギー・フィールドで囲われたストライク・バック専用競技場が設置されている。無重力で大気が存在しない空間では、施設の移動も最低限の推進装置と制御装置さえあれば充分に可能となるのだ。
 その中でフィールド外周に沿って設置されたカタパルトは、いわばストライク・バックの伝統のように踏襲されている。アーンカラゴンとGM両機の紹介映像が流れると、カウントダウンの中それぞれの機体がカタパルトを高速で疾駆する。そしてカウントがゼロになると同時に無重力空間へと放り出される二つの機体、今、決勝戦が開始された。

 中間距離の様子見状態から、アーンカラゴンはヴォーテックスを、GMは有線式ビーム砲を撃ち放つ。確実に狙って狙撃した砲火は互いに命中するも両者が装甲と反射角度を利用してこれを弾いてしまった。だが確実な機体制御ではテムウに分があるか、続けての砲火を全てとはいえないまでも、避けながら一撃ずつヴォーテックスを当てていく。更に追撃、これも命中させてここまではアーンカラゴン優勢。
 戦況を見たテムウは後方に即時加速、距離を離すと必殺のイラプションを一斉発射!これを次々と着弾させるがGMもひるまず長距離からビーム砲を発射、通常二方向から狙う有線砲撃を並列射撃させて双方を直撃させる。かなりの損害を負わせるが、それでもアーンカラゴンが未だ優勢。続いて撃ち合い、小口径多弾頭のイラプションが次々とGMの装甲を派手な花火で彩ち、反撃のビーム砲も一弾が直撃するが戦況は変わらず。圧倒的とは言いがたいがペースを握ったままアーンカラゴンは相対距離を遠隔に保ち容赦のないイラプションの砲火を浴びせる。これが全弾命中してGMは機動停止寸前。
 とどめを狙うアーンカラゴンにGMは前進、ビーム砲を抜き放つがこれはかすったのみ。だがアーンカラゴンのヴォーテックスは回避に成功、これ以上わずかでも受ければ装甲が持たないだろう。だが距離を詰めたジムはここでもサイコミュプレッシャーを与え続ける。そして待望の遠距離に戻したアーンカラゴンは最後のヴォーテック射出、回避に専念してこれを全てかわすGMだが、最後の一弾がついに命中!だがこれを装甲で弾くと反撃の有線式ビーム砲をやはり並列射撃、サイコミュプレッシャーで捉えたアーンカラゴンに直撃させてGMが逆転勝利。初の宙戦を初優勝で飾った。

○サイコミュ試験用GM(9分機動停止)アーンカラゴン× 1vs-2

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総合成績
優勝 ジム           ベテ サイコミュ試験用GM   ド 4戦4勝通算04戦04勝
2位 テムウ「テスター」ガルナ ニュ アーンカラゴン      ド 4戦3勝通算04戦03勝
3位 山本・J・いそべ     にゅ とらたーぼLmd     猫 3戦2勝通算03戦02勝
3位 ロストヴァ・トゥルビヨン スカ フライミートゥーザムーン ド 2戦1勝通算02戦01勝
5位 静志津香         スカ ふわふわエターニア    ド 2戦1勝通算02戦01勝
5位 シャル・マクニコル    ドグ ケルビムMk1      桜 1戦0勝通算01戦00勝
5位 ジアニ・メージ      ニュ メガロバイソン2     ド 1戦0勝通算01戦00勝
5位 ベアトリス・バレンシア  ドグ りふぁいん・どんきほーて S 1戦0勝通算01戦00勝
9位 コルネリオ・スフォルツァ ニュ トータス号宇宙型     S 1戦0勝通算01戦00勝
9位 エピデミック・コード   ベテ ウシナー・デデミテルナ  S 1戦0勝通算01戦00勝
9位 無頼兄・龍波       ドグ オーガイザー       ド 1戦0勝通算01戦00勝
9位 人工頭脳AI−J     ベテ キャバリアータイプJ   ド 1戦0勝通算01戦00勝


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