logo 第二回大会
 2005年3月。『神秘を照らす科学の光』白河重工(SRI)第3開発部では、ストライク・バック開発局より提供されたVM−AXシステムデータをもとに検討が続けられていた。試作開発機であるSPT最大の特徴は操縦サポートを行うAIの存在と、緊急時に稼働する裏AIの存在である。VM−AXはその裏AIが制御することで機体の運動性能、出力、火力他全ての性能を飛躍的に向上させることができる。

「システム『狂鬼人間』のVM−AXリンク成功しました」
「お疲れさん。やっぱり向こうの設計は分からないの?」

「ホワイトデーモンとレジテックは非公開技術が多いんですよ。開発側としてはリンク部分しか見ないんで作るのは楽でも正直不安はありますね…ただでさえ機体とパイロットの双方に影響を与えるシステムなんですから」

 宇宙空間における人型汎用機の活動を一名のパイロットの操縦技術のみで完全に賄うことは無論、不可能である。ナビゲータによる無線サポートにも限界があり、自然、パイロットを補佐するAIプログラムの存在は不可欠の要素であった。慣性制御、姿勢制御、操縦フィードバック等をAIが受け持つことにより操縦者は自分の思ったとおりの動きを機体に要求することができるのだ。ストライク・バックに技術提供を行っているWDファクトリーは試作機「白い悪魔」の頃からパイロットと機体の自然なリンクに注力をして開発を進めてきた企業であり、先日もAI−Jの導入による機体の無人操作を実現させていた。こうした企業の当然の戦略として公開できる技術とできない技術の境界があることを白河重工開発責任者である「狂わせ屋」女史は認識していたので、

「だが私は誤らない」


トーナメント一回戦 オーガイザーvsHITODAMA


 多目的宇宙ステーション「アストロボーイ」で開催される新ストライク・バック第2回大会では12機の参加申請が行われていた。「天駆けるモノノフ」無頼兄・龍波は自信のオーガイザーに、新大会初参戦となる神代進は人型ボール、HITODAMAに騎乗しての参戦となる。

「今回は君の希望通り人型の機体にしてみたよ」
「(人型にしてまでボールにこだわらんでも…)」

 言いつつもコクピットに乗り込み、画像の荒いマニュアルビデオを鑑賞する。とはいえ慣れない宙戦を学ぶに、画面に映っている古井戸の画像がどこまで助けになるというのだろうか。
 両機磁気カタパルトから撃ち出されて最初の接触、これまでとは戦法を変えてきたオーガイザーは先制のガイ・クラッシャーを中間距離から発射、打ち出される鋼鉄の拳がHITODAMAを直撃する。慌てて距離を離したHITODAMAは背中に搭載した卒塔婆ファンネルを切り放して猛然と襲いかかるが、オーガイザーの鋼鉄の装甲に阻まれてペースを取り返すことができない。すかさず距離を詰めるとオーガイザーは再びガイ・クラッシャーを命中、HITODAMAも念珠バルカンを発射して反撃するがやはり装甲に勝るオーガイザーが有利。
 正面からの撃ち合いに応じる不利を悟ったHITODAMAは距離を離すとガイ・クラッシャー射程外から卒塔婆ファンネルによる攻撃に専念する。オーガイザーは厚い装甲を活かして致命的なダメージを防ぐが、この距離では反撃ができず暫くは一方的な攻勢にさらされる事に。ブースト全開して一気に距離を詰めるが今度はそこを狙ってHITODAMAが念珠バルカンを正面から撃ち込む。弾幕に遮られて動きの止まったオーガイザーにHITODAMAは再び離脱、ファンネルで攻撃。
 気がつけばHITODAMAの展開となっているかに見えたが、オーガイザーも一撃があり双方が装甲を削られていく消耗戦。直撃こそしなかったがガイ・クラッシャーを連続で命中させたオーガイザーに逆転を図るべく念珠バルカンで牽制して距離を取ったHITODAMAは卒塔婆ファンネルで狙撃、最後に中間距離での両機正面からの撃ち合いとなり、装甲と火力で勝ったオーガイザーが接戦をものにした。

○オーガイザー(19分機動停止)HITODAMA× 2vs-5


トーナメント一回戦 りふぁいん・どんきほーて弐号だぶるぜーたvsふわふわエターニア


「暴走ラテン娘」ベアトリス・バレンシアはいつもの不明瞭なセンスに従い何か強そうな武器と何か強そうなビームを搭載したりふぁいん・どんきほーて弐号だぶるぜーたに搭乗。そしてふわふわしづねーさんはいつものふわふわエターニアで参戦、撹乱戦法を重視した装備が感覚か計算ずくかは今の所不明。
 対戦は両者遠隔距離からの開始、どんきほーて弐号は何か強そうなビームを発射するが、これをかわしたエターニアはビームストリングで相手の動きを縛るとロックオンレーザーの一斉射出。流れる光の糸が乱反射してどんきほーての何か固そうな装甲を叩く。早い時期のチャンスを見たエターニアはここで思い切って用意していた秘密兵器に移行、ロックオンレーザーとビームストリングによる一点収束攻撃「メガクラッシュ」を試みる。正確に相手の中点を捉えた光が幻想的な軌跡を描いて襲いかかり、装甲強度に自信のあるどんきほーてはこれを真正面から受け止める。

「補正角度にぶれが出ています!メガクラッシュ発動30%」

 瞬間、エターニア陣営のオペレータからもたらされた報告である。低出力のレーザーを一点に収束させて装甲貫通を狙うだけに、僅かな計算の狂いが命取りになる。だが目算の外れたエターニアはすぐに前進、中間距離に入ると背面スロットからトラップソードをばらまいた。これも撹乱と牽制を目的にした光学兵器だが出力不足もあって的確に命中するもどんきほーての装甲を貫けない。
 遠距離に移行、エターニアは再びメガクラッシュを狙うがやはりレーザー全弾直撃してもどんきほーての装甲に乱反射して完全発動はできず、逆に反撃のビームを受けると体勢を崩す。好機と見たどんきほーてはトラップソードの罠を無視するかのように突進、多少の損害を受けながらも一気に近接戦闘に持ち込み何か強そうな武器を命中させる。パイロットの技量に助けられているエターニアは致命傷こそ避けるが、決め手の無い状態でトラップソードの攻撃圏内に誘導するも再び接近されて何か強そうな武器を直撃される。これで展開はほぼ確定、距離の取り合いの後どんきほーては確実な近接戦でエターニアの装甲を削り、離れてロックオンレーザーを狙う相手の反撃を凌ぐと一気に接近して何か強そうな武器でとどめ。どんきほーてがエターニアをきっちりと抑え込んだ。

○りふぁいん・どんきほーて弐号だぶるぜーた(17分機動停止)ふわふわエターニア× 22vs-9


トーナメント一回戦 ヴェラ・シーラvsメガロバイソン3


 こちらも新大会では初となるネス・フェザードは純白の高速機動機ヴェラ・シーラに騎乗しての登場。対するマック・ザクレスはメガロバイソン1から抽出したデータをもとに、射撃戦に特化したバイソン3を投入する。機能的なフォルムが美しいヴェラに無骨な力強さを持つバイソンと、外見の対比においてまで対称的な両機の激突となった。
 対戦は両者の適性を更に比較するが如く中間距離で開始。ヴェラ・シーラはエビルバイトを射出、これを回避したメガロバイソン3は比翼を撃つがこれもヴェラ・シーラは回避。挨拶代わりの撃ち合いの後で接近したヴェラはデュアルファングでの接近戦を狙うがこれも回避したバイソン3は至近距離から四聖獣を射出して命中!不意をつかれたヴェラの装甲に複数の小爆発が起こる。だが近接戦自体はヴェラの距離であり、続けての四聖獣は確実に回避するとデュアルファングで反撃、更に離れてエビルバイトを命中させる。ここまでの攻防は全くの互角。
 再び接近戦、双方至近距離からのデュアルファングと四聖獣の攻撃を回避しあうが、7分過ぎに再びバイソン3の四聖獣が直撃!だがヴェラ・シーラは追撃を確実にかわすと一旦距離を離し、また接近してデュアルファングを今度は命中、状況をまたも五分に戻す。続けて近距離、中間距離での撃ち合いでも双方削り合いとなって優劣はつかなかったがここで遠距離まで離れたメガロバイソン3はヤマタノオロチを一斉発射!八本の光条が鎌首をもたげてヴェラ・シーラに突き刺さると、エビルバイトと比翼の撃ち合いとなり負荷に耐えきれなくなったヴェラの装甲が破壊、機動停止を余儀なくされた。

○メガロバイソン3(15分機動停止)ヴェラ・シーラ× 4vs-9


トーナメント一回戦 ケルビムMk1vsトータス号宇宙型


 ホワイトデーモンファクトリー謹製、世紀末パワードトレーサーことSPTを今回採用したのは唯一、白河重工トータス号陣営である。対するは「剣天使」シャル・マクニコル騎乗のケルビムMk1、炎の子の名を冠する新装備を配しての登場。
 まずは遠距離から双方が様子を見る展開、ケルビムのアルベーとトータス号の人食い蛾が互いに命中、出力で勝るケルビムはアドバンスドシステム「スティグマ」の負荷があるために長期戦は避けたいところだろう。接近を図るところにトータス号の冷凍光線が襲いかかるが、狙いが甘く命中せず。近接戦闘に入るとケルビムの「炎の子」チャイルド・オブ・ファイアの距離となり、全身から熱エネルギーを放出した炎の天使はほとばしる熱エネルギーの刃で斬りつける。初撃こそ外れたが続いての斬撃は命中、更に相手の防御をかいくぐっての斬撃でトータス号の装甲を激しく削った。だがここでトータス号のVM−AX「狂鬼人間」が発動し、機体の周囲にオーバーロードした蒼いエネルギーが収束を始める。
 戦況は中間距離に移行、ここまで優勢を保っているケルビムMk1だがこの距離では反撃の手だてがなく距離と体勢の立て直しを図る。好機を狙うトータス号の冷凍光線は外れ、だが伝送装置によって確実に座標捕捉を図り続けての砲撃が今度はケルビムを捉えるものの、これは回避される。そして徐々に命中精度の上がる冷凍光線が遂にケルビムの位置を捉えると、信じがたいほどの出力を伴って命中した。

「・・・!!」

 暴走した蒼い流星は一撃で炎の子の装甲の半ばを吹き飛ばす。その衝撃は観客用モニターの映像と音声が一瞬、途切れる程であり、これで完全に動きを止められたケルビムにとどめとなる冷凍光線が襲いかかった。一撃目に勝る衝撃が未だ強度を保っていた筈のケルビムのセンサー装甲を紙のように突き破り、VM−AX発動後わずか2発の砲撃によってトータス号が勝敗を決してしまったのである。

○トータス号宇宙型(10分機動停止)ケルビムMk1× 20vs-6


トーナメント二回戦 GMコロニー戦仕様vsオーガイザー


 前回サイコミュ搭載の試験機で優勝したGMは今回コロニー戦仕様で登場。兵装としての実用化を目指すGM陣営としては量産化対応できる機体での戦績を指向するのは当然である。

「あれ?宙戦用なのに遠距離武器は無いんですか」
「コロニー戦にそんなものは必要ないだろう」

 それはそうかもしれないが、見た目は若いジムのパイロット適性は万能距離対応のベテランケースでありできれば遠距離兵装も欲しかったところである。まして相手は格闘戦に長けた男の機体、オーガイザーなのであるから。
 対戦は中間距離から開始、GMの頭部から放たれたマシンガンの弾道はオーガイザーの男の装甲、魂鋼で弾かれてしまう。反撃のガイ・クラッシャーをGMはシールドで受けるがその衝撃は軽いものではない。この距離でGMはシールドの影からマシンガンで狙撃しつつ様子を窺い、オーガイザーはガイ・クラッシャーの一撃を狙う。いずれも頑丈な装甲に自信を持っているのでGMとしては威力に勝るビームサーベルの間合いに入りたいところであろう、だが接近しての一撃は外れるとオーガイザーのフレイム・バイパーの炎の舌に装甲を舐められる。
 双方ペースを掴めないまま開始6分、攻勢を狙ったマシンガンとガイ・クラッシャーの撃ち合いがともに直撃、続けての砲撃はやはり命中せずここまで展開は互角。だが続けての撃ち合いで今度はガイ・クラッシャーの威力が勝りオーガイザーが優位に立つ。接近して反撃を狙うGMのビームサーベルは外れ、離れての撃ち合いとなるが双方決め手がなく消耗戦じみた展開に突入する。先の一撃分の不利があるGMは逆転を狙うが頼みのビームサーベルが命中せずに万事休す。最後は削り合いに負ける形でフレア・バイパーの炎の舌で装甲が焼き切られるとGMが機動停止に追い込まれた。

○オーガイザー(15分機動停止)GMコロニー戦仕様× 17vs-1


トーナメント二回戦 サラマンディアvsりふぁいん・どんきほーて弐号だぶるぜーた


 続いてロストヴァ・トゥルビヨンの登場。安定した戦績ながら最近あと一歩が振るわない彼女は「年は取りたくないね」と冗談まじりに韜晦する。騎乗機体はドラグーン一筋、火竜の名を持つサラマンディアは全身を赤く塗装された攻勢機である。対するは一回戦を力ずくで突破した「暴走ラテン娘」ベアトリス騎乗のどんきほーて。
 開始はそのどんきほーて希望の近距離から、豪快に振り回される何か強そうな武器を軽くかわしたサラマンディアはファイアキッスの炎の舌で先制する。続けて攻撃、どんきほーても得意距離で優位を取られる訳にはいかず、反撃に転じるがここまでは双方互角の削り合いといったところ。

「年の割に元気なオバサンなんだから!」
「2x歳、ロストヴァ嬢が若さで負けるわけがないでしょ?」

 言いつつ近接戦闘での相手の潜在力を嫌ったサラマンディアは得意の中間距離に移行する。この距離で反撃の手管を持たないどんきほーてをライトフェアリーの弾幕で封じ込めるが、相手の装甲に阻まれて決定打には到らない。それでも相手の動きに的確に反応して確実な距離を保つ技量と精神的なスタミナは流石というべきか。ここまで動きを封じられていたどんきほーて弐号だが展開自体は未だ互角、状況打開を狙い接近すると何か強そうな武器で斬りかかる。これは命中するが損害軽微、逆に反撃のファイアキッスで装甲を削られることに。
 これでペースは完全にサラマンディアに移行。絶好の機会を逃したどんきほーてから改めて距離を取るとライトフェアリーの弾頭が分厚い装甲を叩く。いずれも致命打とはならないが、反撃の手を持たないどんきほーてを確実に弱らせていく。どんきほーても21分過ぎに最後の近接戦闘をしかけるものの効果はなく、終了間際に根負けした相手にライトフェアリーを叩きつけてとどめ。長期戦を優位に進めたロストヴァが準決勝進出を決定した。

○サラマンディア(29分機動停止)りふぁいん・どんきほーて弐号だぶるぜーた× 26vs-2


トーナメント二回戦 グラウルングvsメガロバイソン3


 二回戦第三試合は特殊状況下での抜きんでた環境適性を持つと言われているテスター、テムウ・ガルナが登場。得意の遠距離砲撃機であるグラウルングに対するマック・ザクレスとメガロバイソン3もやはり遠距離仕様の砲撃機であり、両者が搭載する多弾頭砲台による派手な撃ち合いが予想された。
 開始からその遠距離での間合、グラウルングのフレイスカロスとバイソン3のヤマタノオロチの撃ち合いとなる。砲戦に一日の長を見せたテムウとグラウルングは八頭の光の牙をことごとく回避し、マック&バイソン3は回避こそ振るわないが器用に装甲で光弾を弾き損害を最小限に抑える。続けて第二射、今度はマックが見事に敵弾回避に成功して反撃のヤマタノオロチを次々と命中させる。第三射はやはり両者が回避に専念するがグラウルングのフレイスカロスは僅かに命中、ここまで展開は互角。見栄えのする多弾光線砲が複数の軌跡を描く撃ち合いは観客の目を奪ったが、当初の予想どおり双方にとっては神経を削り合う攻防戦となった。
 一本橋から足を踏み外した者が自らを危地に晒すこととなるであろう、そのプレッシャーの中で第四射は思い切って狙撃モードにシフトしたグラウルングが数発を着弾、続けて第五射を回避されつつも着弾させて均衡を破ることに成功する。そしてひとたび制御バランスを崩したメガロバイソン3に容赦のないフレイスカロス連続射出、装甲で弾かれつつもことごとくを命中させる。反撃のヤマタノオロチを装甲で防ぐことにも成功し、これでグラウルングが主導権を握った。
 こうなると消耗戦とならざるを得ない攻防では逆転も難しくなり、バイソン3も最後の隙を狙ってヤマタノオロチを複数着弾させるが、損害承知で狙撃されたフレイスカロスの砲火に装甲を破られると機動停止に追い込まれた。終わってみればグラウルングが安定した展開で準決勝進出。

○グラウルング(9分機動停止)メガロバイソン3× 13vs-1


トーナメント二回戦 黒猫たーぼ360vsトータス号宇宙型


 無事に工業高校への進学を果たした山本いそべ、強豪として知られる猫たーぼとクスノテック陣営だが意外に苦手としているのがトータス号であることはあまり知られていない。超高機動機を自認する猫たーぼにとって最も恐ろしいのが「一撃必殺」であること、外見というか体型に成長が見られない山本いそべとしては白河重工代表がなかなかにコンプレックスを刺激される相手であることなど、理由はいくつかあったかもしれない。だがこの苦手意識を払拭するにはやはり堂々たる勝利に勝るものはないであろう。

「勝つためには勝つのがいちばん!」

 わかったようなわからないような理屈を述べつつ、近所の野良猫の動きをモーションサンプリングしたという自信の黒猫たーぼ360で出陣する山本いそべ。対するトータス号宇宙型は先の一回戦に続いて「果てしない暴走」を見せつけることができるか。
 黒猫たーぼが動きの愛らしいくろねこしっぽで狙う中間距離は、同時にトータス号の冷凍光線の距離でもある。双方の撃ち合いは互いに命中、だがもともと装甲の薄い黒猫たーぼにとってはVM−AX発動前の出力でも損害は決して小さくない。体勢を立て直してからあらためて黒猫しっぽで攻撃、狙いの甘い冷凍光線を回避しつつトータス号の装甲を削る。続いての砲撃は相打ち、それでも黒猫たーぼには未だ余裕があったが、ここで早くもトータス号のVM−AX「狂鬼人間」が起動。蒼い流星が機体を包み始めると瞬間、オーバーロードした冷凍光線がトータス号の機体ごと宙空を横切り黒猫たーぼに襲いかかる。脅威的な反射神経を発揮した黒猫たーぼはこれをかわしざまにくろねこしっぽを叩き込むが、続けての砲撃と伝送装置による座標捕捉までは計算に入れていなかった。

「うにゃあああっ!?」

 超高速から逆加速で超高速に到達、しかも正確な座標捕捉により機体ごと突進する二筋の冷凍光線に貫かれた黒猫たーぼは一撃で装甲を完全粉砕、撃沈される。一撃の損害率70.0%は地上戦から続くストライク・バック被ダメージ最高値であり、パイロットの安否が心配された数分後、コクピットユニット無事回収のアナウンスが場内に告げられていた。

○トータス号宇宙型(7分起動停止)黒猫たーぼ360× 6vs-4


トーナメント準決勝 オーガイザーvsサラマンディア


 準決勝一試合目。ここまで男の正面突破で勝ち進んでいるオーガイザーに対するはロストヴァ・トゥルビヨンと赤いサラマンディア。「三倍早くはないのね」とはどこぞで言われそうな指摘だが、どちらかというとスピードを保ちつつ距離の取り合いで相手を翻弄するタイプである。その動きの見事さから中距離の女王と称されるロストヴァだが、対戦相手の無頼兄とオーガイザーがこれまでのスタイルを変えて中距離主体を狙ってきたことは完全な誤算となった。
 開始早々その中間間合いから、オーガイザーの鋼鉄の拳がサラマンディアに襲いかかる。直撃をさけつつライトフェアリーで弾幕を張るが、武器の出力でも装甲でもオーガイザーが勝るのは明らかだった。だが懸命な回避を試みつつ手数で勝負するサラマンディアはそれでもロストヴァの操縦で、戦況を互角どころかわずかに優位に進める。その精神的なタフネスには舌を巻くしかない。

「退けないのがお仕事の辛いところよね」

 サラマンディアの薄氷を踏む優勢が崩れかけたのは11分過ぎ。オーガイザーのガイ・クラッシャーが遂に直撃するが、追撃の拳が外れたところを狙いサラマンディアもライトフェアリーで照準、狙撃。これが相打ちとなるも構わず連射、オーガイザーと正面からの撃ち合いで優位に立ち続ける。
 だが開始16分、再び襲いかかる鋼鉄の拳がサラマンディアを直撃、反撃のライトフェアリーが厚い魂鋼に遮られて弾かれるとオーガイザーが一気に攻勢に出る。もともと消耗戦で身を削っていたサラマンディアに強烈な拳が襲いかかり、遂にラッシュに耐えきれなくなった装甲が火花を上げて解体すると赤い竜はその動きを止めた。思わぬ苦戦を制したオーガイザーが決勝進出を決める。

○オーガイザー(19分起動停止)サラマンディア× 8vs0


トーナメント準決勝 グラウンルングvsトータス号宇宙型


 一回戦、二回戦と戦慄の勝利を見せつけたトータス号宇宙型。だがVM−AX「狂鬼人間」は発動時のパイロットとAI間のリンクが極めて強く、二度の暴走がコクピットに在るコルネリオ・スフォルツァに与える影響が懸念された。対してグラウルングに騎乗するテムウ・ガルナはいかに困難な環境下でも確実な操縦技術を発揮するテスターだが、SPTと対峙するプレッシャーはまた別の話である。
 準決勝第二試合はグラウルング希望の遠距離から。トータス号の人食い蛾を確実に回避すると、フレイスカロスの八本の光条が正確な軌跡を描いて着弾。このあたりの動きはさすが遠距離戦の第一人者である。続けて砲撃、これは着弾しつつ今度は装甲できっちりと弾かれるが、トータス号の反撃もグラウルングは装甲で弾き返す。双方遠距離からの撃ち合いは手数に勝るグラウルングが優位に進め、トータス号も前進して冷凍光線をかすらせるが待ちかまえていたセイブルハープーンの弾頭を浴びてペースを握ることができない。一方的とは言えないが確実に優位な状況のままグラウルングはフレイスカロスを射出、だがここで損害値50%を越えたトータス号が裏AIを作動、VM−AX「狂鬼人間」が起動する。

「レイ!VM−AX発動!」

 機体のどこからか聞こえてくる音声とともにSPTに搭載されたAIシステム「レイ」が裏AIを作動させた。トータス号を中心に収束する蒼い輝きが時間とともにその強さを増してゆく様子を見て、グラウルングはそれが頂点に達する前に勝負を決しなければならない。距離は遠隔に移行、フレイスカロスを放つが装甲で弾かれてしまい、逆に出力の増したトータス号の人食い蛾を受けてしまう。これは充分に耐えたグラウルングだが、その間に伝送装置で座標位置を捕捉されると冷凍光線の正面に機体を晒すこととなった。
 瞬間、オーバーロードした蒼い流星が解き放たれると二筋の光が虚空を走り、グラウルングが存在していた座標を刺し貫く。機体どころか競技場のエネルギー・フィールドを振動させる程の衝撃が先の黒猫たーぼ同様、一撃でグラウルングを粉砕した。続けての戦慄に観客の多くが声を失う中で、トータス号のコクピットでは不安定な哄笑だけが響きわたっていた。

○トータス号宇宙型(8分起動停止)グラウルング× 14vs-7


NAKAMOTOストライク・バックZ第二回大会決勝戦 オーガイザーvsトータス号宇宙型


「やはりサンプリングした波形に不安値が出ています。これ以上は…」
「決勝戦まで来て今更退けないわよ。諸刃の剣は承知の上」

 宇宙戦ストライク・バック第2回大会、決勝戦は「天駆けるサムライ」無頼兄・龍波駆るオーガイザーと、対するはコルネリオ・スフォルツァが騎乗する脅威のSPT、トータス号宇宙型との対決である。パワーと装甲を重視するオーガイザーと、VM−AX発動後の一撃必殺冷凍光線で勝ち上がってきたトータス号。ドーナツ状をした宇宙ステーション「アストロボーイ」中央部に設けられた競技フィールドのスタンバイも完了し、対戦機が据え付けられた稼働カタパルトがゆっくりと外周を滑走している。既にタイムカウントが始まっており、観客席の興奮と歓声が増大していく中で、カウントゼロと同時に両機が無重力のフィールド内に射出される。

「あーっはははははははは!」

 トータス号コクピット内で響く哄笑。VM−AX「狂鬼人間」の影響が残るトータス号は中間距離の抜き撃ちで冷凍光線を発射するが狙いが甘く命中せず、オーガイザーがこの距離から男の拳ガイ・クラッシャーで急襲して先制する。両者は距離変更せずに正面からの撃ち合いを選択、オーガイザーは更にガイ・クラッシャーで攻勢に出る。続けて撃ち合い、トータス号はVM−AX発動まで耐えつつ少しでも相手を削りたいところだが、オーガイザーの鋼鉄の鎧がそれを阻む。伝送装置で捕捉したところに冷凍光線が命中するも、通常状態のSPTの出力では魂鋼を貫けない。開始5分までほぼ一方的な展開でオーガイザーが攻勢に出るが、損害を受け続けたトータス号がここで遂にリミッター解除、裏AIが起動されてVM−AX「狂化人間」が発動した。
 蒼い流星と呼ばれる、収束したエネルギーがジェネレータ限界を超えてトータス号に常軌を逸した出力を与えるとともに、慣性制御、姿勢制御、操縦フィードバックを裏AIがサポートする。オーガイザーは構わず攻勢に出るが、伝送装置の効果が累積すれば恐るべき高出力の光線に連続で晒されなければならない。無頼兄の取るべき道は攻勢、制圧のみである。

「ガァァァァイ・クラッシャァァァァッ!」

 オーガイザーが決戦で頼るべきもこれまで常にパイロットの信頼に応えてきた男の拳だが、ほぼ同時に飛来した反撃の冷凍光線が遂に装甲「魂鋼」を捉える。オーガイザーはこれに耐えてなおも攻勢、だがかわされたところに機体ごと飛来する蒼い流星が命中。直撃こそ避けたもののトータス号の攻撃の精度は確実に上がっていた。オーガイザーは覚悟を決めるかのようにその場で機体制動をかけると力強く拳を引いて構えた。

「ファイナルッ!ガァイ・クラッシャァァァッ!」

 これまでの拳が男の拳であれば、その攻撃は捨て身の男の拳であった。防御を放棄したガイ・クラッシャーの一撃が高速で飛来する蒼い流星を捉えると、正面から激突する!オーバーロードしていたトータス号のエネルギーが放散をはじめ、消え去ったところでセンサー装甲が崩壊。正面突破で難敵をしとめたオーガイザーが初優勝を飾った。

○オーガイザー(10分機動停止)トータス号宇宙型× 16vs-1

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総合成績
優勝 無頼兄・龍波       スカ オーガイザー        ド 4戦4勝通算05戦04勝
2位 コルネリオ・スフォルツァ ニュ トータス号宇宙型      S 4戦3勝通算05戦03勝
3位 テスター         ニュ グラウルング        ド 2戦1勝通算06戦04勝
3位 ロストヴァ・トゥルビヨン スカ サラマンディア       ド 2戦1勝通算04戦02勝
5位 ベアトリス・バレンシア  ドグ りふぁいんどんきほーて弐号 桜 2戦1勝通算03戦01勝
5位 マック・ザクレス     ニュ メガロバイソン3      テ 2戦1勝通算03戦01勝
5位 ジム           ベテ GMコロニー戦仕様     ド 1戦0勝通算05戦04勝
5位 山本いそべ        にゅ 黒猫たーぼ360      猫 1戦0勝通算04戦02勝
9位 静志津香         スカ ふわふわエターニア     ド 1戦0勝通算03戦01勝
9位 シャル・マクニコル    ドグ ケルビムMk1       桜 1戦0勝通算02戦00勝
9位 神代進          ニュ HITODAMA      テ 1戦0勝通算01戦00勝
9位 ネス・フェザード     ドグ ヴェラ・シーラ       桜 1戦0勝通算01戦00勝
−− エピデミック・コード   ベテ ウシナー・デデミテルナ   S 0戦0勝通算01戦00勝
−− スペース新庄ジュンペイ  ベテ 子供を食う         マ 0戦0勝通算01戦00勝


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