logo 第四回大会
 汎用人型機同士による対戦格闘競技、ストライク・バック大会の特徴のひとつは形式上登録制とはいえ、実質はほぼオープン参加となっている点にある。何しろ競技で使用が許されている基本装備が決められているために競技はセッティングとパイロットの実力勝負、そして参加企業はその基本装備を提供することで参戦以外の方法による企業アピールを行うのである。その為複合企業体から中小企業、地方自治体からはては個人商店までが場合によっては参加してしまうのがストライク・バックなのだ。

「精神同調式緊急プログラム、VM−AXサクリファイス試験開始します」

 メガロバイソンチームの天才メカニック少女、ジアニ・メージはプロジェクト研究室にこもって、開発実験に余念が無かった。彼女のもっぱらの興味は世紀末パワードトレーサー、SPTに搭載されている緊急プログラムVM−AXを解析することにある。人工知能AIを搭乗者の精神と同調させることによって機体にまるで生身であるかのような反応速度を与え、しかも出力までを増幅させることができる。その論理は分かる、だがなぜ精神同調が機体の出力までを増大させるか、更に搭乗者の精神に独特な影響を与えるのか、それが理解できない。試しに乗せてみた(!)パイロットのマック・ザクレスはVM−AX発動の感覚を「あの力が流れ込んでくるような」と称していた。
 失敗は成功の母、を掲げるメージとしては分からないことはまずは試してみるべきだと思ったのに違いない。独自に設定したVM−AXを機動、効果の検証を行うがプログラムにミスがあったのか、サクリファイスが異常動作を始める。

「レイ、VM−AX起動!」
「レイ、VM−AX起動!」
「レイ、VM−AX起動!」
「レイ、VM−AX起動!」

「うあああああ・・・!」

 通常SPTは「レイ」と呼ばれるAIによって稼働しているが、VM−AXは特定の条件が満たされることで裏AI「フォロン」を起動させるプログラムコードである。そしてフォロンが稼働している間はレイは停止した状態になる筈なのだが、どうやらメージはそのレイを停止させるコードの入力を怠ったらしく、起動条件が満たされた状態でレイは次々とVM−AX起動コードを発効しだしたのだ。次々と流れ込んでくるフォロンの意思に研究室にはメージの悲鳴が響きわたり、それもやがて静かになっていく。


トーナメント一回戦 JAライスボールvsクイックシルヴァー


 2005年11月。宇宙ステーション「アストロボーイ」で開催される、中本工業主宰ストライク・バック第4回大会。オープニングマッチは神城進のJAライスボールとロストヴァ・トゥルビヨンのクイックシルヴァー、ベテラン同士の一戦である。
 JAライスボールはこだわりのボール、更に今回は東久留米市農協がスポンサーについているために農学力の粋を集めたオニギリ型ボールでの参戦。挨拶代わりの梅干ミサイルが火を吹くがこれは外れ、反撃のメルクリウスブレスが太い炎の帯を描いてライスボールの海苔アーマーをこんがりあぶる。ここからロストヴァ得意の中間距離、カドゥケウスで狙うが今度はアーマーで弾かれる、だがロストヴァの真骨頂は中距離を維持することより、中距離を主体に距離をコントロールすることにある。続けてカドゥケウスを弾かれたところで遠距離、メルクリウスブレスを命中。
 その後も中間距離でライスボールの遠赤外線ビームをかわしながらカドゥケウスで牽制する展開が続くが、粘りが決め手というライスボールのアーマーをなかなか貫通できずに試合は長期戦の様相を呈してくる。10分過ぎ、遂に遠赤外線ビームがクイックシルヴァーに命中、これは損害軽微だったが続けての砲撃は直撃。戦況が互角となるかに見えるや反動で下がったクイックシルヴァーはその距離からメルクリウスブレスを発射!この離れ業を直撃させて容易にペースを握らせない。
 再び距離を測る両機、ロストヴァの熟練に圧されているライスボールだが、装甲と出力を活かして粘り続ける。開始20分遠赤外線ビームが直撃、だがまたもシルヴァーはメルクリウスブレスの炎の舌で反撃。そして25分、両機損害の厳しい状況でライスボールが渾身の遠赤外線ビームを命中、これで決まるかと思われたが相手のお株を奪う粘りを見せたロストヴァが完璧な機体制御からのメルクリウスブレスでライスボールを焼きオニギリに変えた。

○クイックシルヴァー(25分起動停止)JAライスボール× 2vs-6


トーナメント一回戦 にゅう・どんきほーてぜーたvsメガロバイソン3


「それでも僕の血の半分は地球人の血です…父さんは…」
「無抵抗の人間を殺すほど…グラドスの人間は…」
「このコクピットは僕の世界だ…それなのに、お前は僕の意思の外に存在する…」

 オペレータのメージがしばらくあっちの世界に行ってしまったメガロバイソン陣営。パイロットのマック・ザクレスとしては信頼するパートナー不在の事態は些か心許ない。だがメガロバイソン3のセッティング自体は充分に完了しており、取りあえず一回戦への支障は無さそうである。対するベアトリス・バレンシアはいつものネジのゆるんだラテン娘、にゅう・どんきほーてぜーたに乗って登場する。
 遠距離戦から開始、バイソン3のムラクモオロチは完全に装甲に阻まれてしまいダメージ無し。どんきほーてのはでなよろいが、名に相応しい派手な光に彩られる。両機接近、かくしうでとレーザービームファイヤーが交錯、更に接近してどんきほーてはぴかぴかぱんちで殴りかかる。反撃装備のない距離で近接格闘戦に持ち込んだどんきほーてはドッグファイトを敢行、重いパンチのラッシュでバイソン3の装甲を叩きまくった。たまらず離れたバイソン3はレーザービームファイヤーを抜き撃ち、これがタイミング良く直撃して一息つくが、すぐに接近戦に持ち込まれるとぴかぴかぱんちが命中。ここでメージの調整したオリジナルVM−AX「サクリファイス」が起動した。

「レイ、VM−AX起動!」

 その瞬間、マックの脊髄をあれが駆け抜けるとバイソン3の駆動系が異常出力で満たされる。VM−AXの最大の特徴は機体負荷を超える異常出力を制御する手法であり、裏AIフォロンとパイロットの精神を同調させるシステムであった。だがその同調が「フォロンをパイロットにダウンロードする」ことによって得られていることが明らかになるのは、天才ジアニ・メージの尊い犠牲(死んでません)の賜物である。
 全身を蒼い光に包まれながら高速で飛来するバイソン3。どんきほーても有線式アームのかくしうででこれを迎撃、押し切りたいところだがバイソン3は更に距離を取るとムラクモオロチを連続発射!複数の光条がどんきほーてに襲いかかり、はでなよろいを今度は易々と突き破る。続けて接近、レーザービームファイヤーで一気に逆転勝ちを決めてしまった。どんきほーては難敵相手に堅実な攻めを見せたものの、最後は出力不足が災いして相手に力負けする恰好となる。

○メガロバイソン3(14分起動停止)にゅう・どんきほーてぜーた× 11vs-3


トーナメント一回戦 デザートGMvsケルビムMk1


 一回戦第三試合は砂漠仕様のデザートGM対炎の天使ケルビムMk1。宇宙戦なのに砂漠仕様であるのは今更のことなのでパイロットのジムは気にしていない。

「別にいいんですけどね」

 どんな機体仕様でも乗りこなすというのが、ジムの年齢に似合わぬ熟達した技量である。オープン参加が認められているストライク・バックでは様々なスポンサーがつくことは今更珍しい現象ではない。対抗するケルビム陣営にしたところで、一神教の民族系資本の影響が強いのである。

「ヴィア・ドロローサは罪深き者が歩む悲しみへの道である。十字架を背負いて処刑場への道を歩ませ給え。父と子と聖霊の御名によって」

 だが開発者の思惑がどうであれ、パイロットは自分の技量と機体の性能、そしてスタッフのサポートを信じて戦うのみである。そのGMとケルビムの対決は中間距離から、ビームスプレーガンを余裕を持ってかわしたケルビムは十字架型の小型アンカー、ヴィア・ドロローサを射出。ハンターズ・ワイア系の兵器だが無線で射出され、指向性の強い電磁波のラインによって機体の運動を阻害する。センサー装甲システムにより競技の安全性を保証するストライク・バックでは電磁波兵器の使用には極めて厳しい審査が必要であり、今大会になってようやく試験導入が許された装備であった。
 近接戦闘、GMはビームサーベルで連続攻撃、電磁波の介入を避けながらケルビムに斬りかかる。ケルビムも炎の子チャイルド・オブ・ファイアのアタッチメントで反撃。設置されるヴィア・ドロローサを避けながらケルビム相手に近接格闘を行う困難は大きく、装甲を削られるGMだが積極的な攻撃で一進一退の攻防が続く。隙を見て優位に立つべくGMは距離を取ってビームスプレーガン、これが命中して撹乱したところに接近、これは弾かれて逆に反撃を受けるが、もう一度離れてスプレーガンは命中、更に接近。積極的な移動と攻撃のコンビネーションでGMがわずかに優位に立つ。
 ここからは再び接近戦、GMはヴィア・ドロローサの罠とチャイルド・オブ・ファイアの装甲に悩まされながらも手数で勝負、ケルビムは相手の攻勢を堪えながらも確実な一撃を狙っていく。近接距離での高度な削り合いは10分近く続けられるが、最後はスプレーガンのダメージを活かして押し切ったGMが勝利。

○デザートGM(17分起動停止)ケルビムMk1× 4vs-5


トーナメント一回戦 ふわふわエターニアvsオーガイザー


 ふわふわぽにぽにおねーさん対、男の機体オーガイザー。今回、試験導入された集束式レーザーシステム「メガクラッシュ」がオーガイザーと無頼兄・龍波の「男」相手にどこまで通用するかが注目である。
 試合は遠隔、静志津香は初手から希望のメガクラッシュ発動距離から開始した。完璧に計算された軌道がオーガイザーの座標位相に向かって発射、互いに集束しながら一点をめざして着弾する。だが重装甲「魂鋼」がこれを正面から弾き返すと機体の周囲に乱反射した光が舞った。それでも同時着弾したレーザー砲はオーガイザーの魂鋼にわずかなダメージを与える。先手の一撃が思った程の出力が得られなかったことに動揺したか、オーガイザーに距離を詰められるエターニアだが落ちついてニードルガンで狙撃、スクリーミング・キャノンの砲火をかわしながらも的確に装甲に当てていく。更に離れてメガクラッシュ狙い、だがこれはオーガイザーが懸命に回避。いくら装甲に自信があっても、連続被弾は避けたいところだろう。
 エターニア優位の戦況で状況打破を狙うオーガイザーはここで接近、必殺ガイ・クラッシャーで襲いかかるが一撃命中のみで直撃はせず。エターニアもすかさず離れてメガクラッシュ、だがふわふわおねーさんの狙いはそれだけではなかった。

「目標捕捉ぅ…発動!」

 行動曲線を完璧に計算し、座標予測を行ってのメガクラッシュ連続発射。バッテリーパックが焼き切れるかと思える8連続射出がオーガイザーの魂鋼に正面から襲いかかった。競技フィールドが揺れるのではないかと思える程の振動、だが相当なダメージこそ被ったものの、オーガイザーはこれを充分に耐えきってしまう。ここは寧ろメガクラッシュの集束計算に未だ改善の余地があるかもしれない。
 だが遠距離を保ってのエターニアの封じ込めは完璧で、決め手にこそ欠けるがオーガイザーの反撃を許さない。オーガイザーも終了直前、スクリーミングキャノンを直撃させるが焼け石に水となり、そのまま30分が経過して判定によりふわふわエターニアが二回戦進出。

○ふわふわエターニア(30分時間切れによる判定)オーガイザー× 21vs15


トーナメント二回戦 トータス号試作型・ジャガーの目は赤いvsクイックシルヴァー


 二回戦より登場、SRI(白河重工)チームは「狂鬼人間」システムを調整に出しての新装備を搭載したトータス号試作型・ジャガーの目は赤いで参戦。対するは激戦を勝ち残ったロストヴァとクイックシルヴァー。
 中間距離より開始、トータス号は大型拳銃を抜いて撃ち放つがこれは外れ、逆に初弾からしっかりと狙ってきたクイックシルヴァーがカドゥケウスの砲火を命中させて先生する。続けての撃ち合いでも確実に狙ってくるクイックシルヴァーの攻撃を回避しつつ、トータス号は攻撃の精度が甘く命中しない。展開を変えるべく距離を離したトータス号はサンビーム500を照射、複数の光条が弧を描いて突き刺さる。クイックシルヴァーも反撃のメルクリウスブレスを放射、高エネルギーが直撃するが同時に、トータス号に搭載していた新システム「魔女の唄」が作動した。エネルギー反射衛星システムが正確に位相を逆算すると報復の砲火がクイックシルヴァーに命中する。開始数分の高エネルギーの撃ち合いによって双方ともに損害大。
 ここで中距離に移行、クイックシルヴァーがカドゥケウスを放つが装甲で弾かれる。トータス号の大型拳銃も命中するがかすったのみ。再度反撃のカドゥケウス、これは命中してダメージ軽微。離れてトータス号はサンビーム500を発射、計算されつくした軌道で襲いかかるがこの局面でロストヴァは回避に専念、サンビームの軌跡を全てかわしてしまう。抜き撃ちで放ったメルクリウスブレスは命中、魔女の唄の反撃覚悟でかなりの損害をトータス号に与えることに成功した。
 これでペースを握ったクイックシルヴァーは接近して中間距離、確実な回避で大型拳銃の弾丸をかわしてカドゥケウスを命中、装甲に弾かれながらも構わず攻勢、トータス号を押し切ることに成功した。バランスの良い戦術展開を見せたロストヴァが一番乗りで準決勝進出。

「残念だけど、それでは世界で二番目ね(ロストヴァ談)」

○クイックシルヴァー(10分起動停止)トータス号試作型・ジャガーの目は赤い× 7vs-3


トーナメント二回戦 メガロバイソン3vsヴェラシーラ


 久々に登場するはネス・フェザード。元は軍のパイロットであり、過去に遡れば初期第二回大会の優勝者であるが、その後は好成績から遠ざかっている通称「ソードフィッシュ」。対するメガロバイソン陣営はどうやら復活したらしいオペレータのメージを迎えて万全の状態で望む二回戦である。

「ご心配をおかけしました」
「大丈夫なのか」
「失敗は成功の母ですから」

 そんな失敗は無いほうが良いのだが、とりあえず一回戦に続く爆発力を見せたいところだろう。試合開始は遠距離から、バイソン3が得意のムラクモオロチを発射するがヴェラシーラはこれを一部受けながらも回避に専念、トリックワイアで捕捉してからヒートベノムを撃ち込む。教科書どおりの攻防でファーストアタックを凌いでから接近、堅実に回避行動を取りつつガンビットの弾幕で確実に装甲を叩く。SPT系として博打性が強くならざるを得ないバイソン3としては嫌な展開か。続けて接近戦、ヴェラシーラはこの距離でも高速機動を維持しつつ、至近距離からドラゴンクラインを炸裂。多弾頭磁力砲弾が放たれるがこれは装甲で弾かれる。相手の出力不足に安堵するバイソン3のコクピットに、メージの警告が届いた。

「いけません!相手の狙いは…」

 ヴェラシーラの戦法はあくまでトリックワイアによる戦況のコントロールにある。出力不足を承知でバイソン3を「固める」ことを狙ったワイアが近接距離で完全にバイソン3を捕捉、元来遠距離対応で反撃性能のないバイソン3に至近距離からドラゴンクラインが連射された。一撃の損害こそごく軽微だが、このまま一方的な攻撃を受け続ければたまったものではないだろう。たまらず距離を離すバイソン3はレーザービームファイアーを発射、だが完璧に捕らえられたワイアは外れず、不完全な状態からの砲撃をヴェラシーラは余裕で回避するとガンビットで牽制、すぐに接近戦に距離を縮めると続けてドラゴンクラインの攻勢に戻る。開始10分、ここまでほぼ一方的な展開のまま遂にバイソン3の損害率が50%を突破した。

「レイ、VM−AX起動!」

 緊急プログラム「サクリファイス」が起動、だがこの時点でヴェラシーラのトリックワイアは完全にバイソン3を捕獲している。ネスの狙いはVM−AXによる超高出力起動のハンデをワイアで埋めてしまおうとする正にトリックであった。集束するエネルギーをバイソン3はまず、ワイアの脱出に用いなければならない。でなければ蒼い流星と称される高起動戦術を発揮することはできないだろうが、ヴェラシーラも逃そうとはせず捕らえた猛牛にドラゴンクラインを叩き込む。加えてVM−AXによる負荷がバイソン3に損耗を強いておりこのままでは失血死に致ることになるだろう。開始19分、遂に中間距離に離れたバイソン3が最大出力でのレーザービームファイヤーを発射、これがヴェラシーラに直撃して同時にトリックワイアも解除される。
 だがヴェラシーラにしてみれば既にバイソン3は「できあがって」いた。ワイア解除に合わせてガンビットアームが動くと確実な砲撃がバイソン3を捕らえ、その一撃で装甲が破壊されて猛牛は起動停止。見事なコントロールでネス・フェザードが勝ち名乗りを上げた。

○ヴェラシーラ(20分起動停止)メガロバイソン3× 27vs-2


トーナメント二回戦 黒猫たーぼX86vsデザートGM


 いよいよ登場クスノテック最強機体候補の猫たーぼ。大会前には過去の猫たーぼシリーズ公開搭乗のファンサービスを行い、企業秘密のBBS(バブルボードシステム)こそ青少年育成のために入れ換えたが、子供たち中心にその動作を体験してもらう。もっとも、企業の最新技術が集まるストライク・バックではこうした機会を欲しがる者は子供だけではないだろう。記念品のサイン入り黒猫人形を抱えた子供と家族連れを、黒服にサングラスのいかにもなガイジンが呼び止める。

「ボーヤ、あの機体はドーデシタかね?」
「操縦がファ○コンのコントローラだったよ」
「・・・マジカヨ」

 事の真偽はともかく、性能は疑うべくもない黒猫たーぼX86に挑むは一回戦を勝ち上がったデザートGM。

「でも宇宙戦で地雷って…ご、ごめんない許して下さい頑張って使いますから」

 両機の接触は中間距離から、黒猫たーぼは得意のローリング運動を行いつつ機体本体の動きに無線追従する鈴型ビット「すずうたビット」からの砲撃で先制。GMはビームスプレーガンでビットの狙撃を狙うがこれは回避される。だがGMの狙いは遠距離、すかさず距離を離すとレールキャノンで牽制しつつ反射衛星システムを搭載した地雷の座標に追い込もうとするが、物理砲弾のとびうおスパンカーには地雷のセンサーが反応しないことが判明。襲いかかるトビウオ型ミサイルの軌道をこれは回避するが、GMとしては堂々と正面から挑むしかない。
 続けて遠距離での双方の撃ち合いは互いに回避、距離を詰めた黒猫たーぼはビームスプレーガンをかわしつつ、すずうたビットの砲撃。ビットに搭載された低出力型ししゃもブラスターがGMの装甲を焼く。更に接近、ぽかぽかしっぽで殴りかかるがこれは外れ、GMのビームサーベルも回避。離れてビットの砲火が再び命中する。ここまで完全に黒猫たーぼのペース。
 遠距離戦に移行、レールキャノンで狙撃を狙うGMだが黒猫たーぼはそれを堅実に回避、小型ミサイルのとびうおスパンカーを次々と発射するとやはり堅実にGMに損害を与えていく。一度接近、すずうたビットで砲撃、離れたところでGMには反撃の手が無くとびうおスパンカーで撃沈される。GMサイドが地雷を活用できなかったとはいえ、黒猫たーぼが実力を見せつけるパーフェクト・ゲームで快勝した。

○黒猫たーぼX86(13分機動停止)デザートGM× 40vs-3


トーナメント二回戦 ふわふわエターニアvsイヴァス・イヴィア


 地元青年会の代表として自治体の運動会に参加していたテムウ・ガルナ。北欧系クォーターとは思えない馴染みっぷりで近所の人気者である青年は今回、筋肉痛をおしての参戦。対戦相手のふわふわぽにぽにおねーさんは一回戦、難敵オーガイザーを退けての二回戦。
 両機遠距離での開始。エターニアがロックオンレーザーで捕捉開始、一斉射出するがイヴァス・イヴィアもその一部を受けながらも懸命に回避。反撃のツインブレイズを命中させて先制の撃ち合いを押し切って優勢に立つ。だが続けての撃ち合いではエターニアがイヴァス・イヴィアの砲火をかわしつつ反撃のロックオンレーザーを命中、状況を五分に戻す。両者がが遠距離でのシュート狙いのため、相対距離を維持しながら三度目の砲戦、今度はエターニアのレーザーを一部回避しながら放ったイヴァス・イヴィアのツインブレイズが命中。好機と見たイヴァス・イヴィアはそのまま攻勢開始、狙いすましたツインブレイズを直撃させるがここにきてようやくエターニアも光エネルギー集束システム、メガクラッシュを発動させる。

「座標一致、メガクラッシュ発動ー」

 呑気な声に乗って六方向からの光条が緻密な計算によって描かれる軌跡を通り、イヴァス・イヴィアの装甲のただ一点に同時同ベクトル着弾する。かなりの損害を与えるが相打ちとなっているエターニアのダメージも決して低くはない。続けて砲撃、今度はこれを機会と見たエターニアがツインブレイズを確実に避けつつロックオンレーザーを一部着弾させる。だがここで追い打ちを狙っての砲撃はイヴァス・イヴィアが全弾回避に成功、逆にツインブレイズの砲火を命中。
 追い詰められたエターニアは攻撃回避に専念してロックオンレーザー、これは命中させるがやはり懸命に回避を行うイヴァス・イヴィアを捕捉しきれずメガクラッシュの完全発動には至らない。逆に容赦のないツインブレイズの砲火を受けて遂に機動停止、イヴァス・イヴィアが準決勝進出を果たした。正面からの撃ち合いでも回避行動を有効に活かしたテムウ・ガルナの戦法勝ちか。

○イヴァス・イヴィア(8分機動停止)ふわふわエターニア× 6vs-4


トーナメント準決勝 クイックシルヴァーvsヴェラシーラ


「あら久しぶり、生きてたのね」
「おかげさまで、な」

 試合前に許されている通信で、シニカルな笑みを交わし合うロストヴァとネス。両者ともに旧ストライク・バックの優勝経験こそあれ、最近の復権を狙っている点では同じであるし、ネスに到っては地上戦第二回大会以来優勝からは遠ざかっているのだ。
 中距離の女王とソードフィッシュの一戦はミドルレンジから、クイックシルヴァーのカドゥケウスもヴェラシーラのガンビットも双方が確実な動きで回避する。一息に接近してドラゴンクラインを炸裂、続けて殴りかかるがクイックシルヴァーはこれを装甲で弾いた。だがヴェラシーラの狙いは変わらずトリックワイヤによる捕捉にある、この攻防を利用してシルヴァーを捕らえたヴェラシーラは離れて再びガンビット、続けて二射、三射と命中させてペースを掴む。
 戦況を危険視したクイックシルヴァーはカドゥケウスを命中させてワイヤ解除にようやく成功、だが続けての砲撃は回避されるとまたも懐に飛び込まれてドラゴンクラインで襲われる。懸命に回避、あるいは弾き続けるが近接格闘戦では反撃手段がないシルヴァーにとっては極めて苦しい状況となる。続けて接近戦を狙うヴェラシーラをしのぎながらも反撃のカドゥケウスを遂に命中、だが追い打ちは堅実に回避されてしまった。

「それでも…諦める訳にはいかないのよね」

 冷静というより冷徹に好機をうかがうシルヴァーは、トリックワイアに悩まされながらもカドゥケウスを命中。だが決め手にはならず試合は長期戦の様相、たびたびワイアで動きを制限されると小刻みな損耗を強いられるシルヴァーが不利な展開。20分を過ぎて、起死回生を狙ったクイックシルヴァーは中間距離の維持に専念してカドゥケウスの連続抜き撃ちによる強引な攻勢に移行、この状況では狙いうる最後の策であったが近接戦での損耗もあってそのまま押し切られると遂に装甲が負荷限界を超えて機動停止。タフネスを見せたヴェラシーラが勝利した。

○ヴェラシーラ(26分機動停止)クイックシルヴァー× 18vs0


トーナメント準決勝 黒猫たーぼX86vsイヴァス・イヴィア


 前大会を含め、幾度かの決勝で顔を合わせている強豪両者が今大会では準決勝で激突する。まずは黒猫たーぼと山本いそべ、問題だったのは今回エネルギー反射設備を備えた「たくちくすミラー」をビットに搭載させたまでは良いのだが、セッティングが甘かったのか相手の装備と距離に反応させて作動させることがなかなかできないのである。だがそのハンデを置いてもなお、KUSUNOTECは猫たーぼの性能に充分な自信を持っていた。対するテムウ・ガルナは北欧系クォーターとは思えないほどネイティブな日本語を話す、ツナギの似合う好青年として知られている。
 両機中間距離から、黒猫たーぼがすずうたビットから砲撃、これを命中させて初手から先制する。イヴァス・イヴィアのベルディストの砲撃は黒猫たーぼが当然のように回避。続けて接近、くねくね動く二本のぽかぽかしっぽが伸びるが、今度はイヴァス・イヴィアがこれを避ける。離れてすずうたビットの砲撃、更に離れてとびうおスパンカーと追い打ち、損害こそ軽微だが一方的なペースで動きを封じたところにすずうたビットの砲火が着弾。ここまで一方的な黒猫たーぼのペース。
 遠距離戦に移行、イヴァス・イヴィアがツインブレイズを吐いて命中。黒猫たーぼの薄い装甲を揺さぶるが、とびうおスパンカーの反撃が確実に命中し、展開を変えることができない。名の通りトビウオ柄に彩色された長航行式ミサイルが次々と発射されると、交叉する軌道でイヴァス・イヴィアに襲いかかり光と炎の花を咲かせる。最後は前進した黒猫たーぼがすずうたビットからの砲撃でイヴァス・イヴィアを撃沈、完勝に近い内容で強豪が堂々の決勝進出を果たした。

○黒猫たーぼX86(11分機動停止)イヴァス・イヴィア× 31vs-12


NAKAMOTOストライク・バックZ第四回大会決勝戦 ヴェラシーラvs黒猫たーぼX86


 第4回ストライク・バック決勝戦。今回は幾つか導入された試験機や試験装備の効果がいまひとつ振るわず、一方で全体的に試合時間の平均が伸びており、いわゆる基本的な兵装の活用や20分以上の長期戦が行われる例も増えている。試合に博打的な要素が減ればそれだけ、求められるのはパイロットの技量でありメカニックやオペレータによる機体セッティングやサポートの妙となるであろう。
 ドーナツ型多目的宇宙ステーション「アストロボーイ」の中央部に設置されているストライク・バック競技用エネルギー・フィールド。完璧な重力制御が行われているそのフィールド内に決勝進出を果たした二機の機体が射出された。一方は久々の栄冠に王手を掛けるヴェラシーラとネス・フェザードに、一方は連覇を狙う強豪黒猫たーぼとパイロット兼社長兼女子高生の山本いそべである。

 両者近距離から開始、いずれも軽量による高速機動を重視した近接格闘戦を旨とする。まずはヴェラシーラがトリックワイアを殊更に見せびらかして相手の動きを牽制すると、ドラゴンクラインの炸裂弾を至近距離から撃ち放つ。黒猫たーぼの薄い装甲に容赦のないダメージを与えると続けて炸裂弾、開始早々からこれを受ける訳にはいかない黒猫たーぼは懸命に回避。機体の機動性とパイロットの腕を信頼して回避と同時に黒猫しっぽで反撃、だがヴェラシーラも防御姿勢に入ると攻勢を確実に凌ぐ。
 開始6分過ぎ、トリックワイアの効果が確実に影響を及ぼし始めた黒猫たーぼに、ヴェラシーラのドラゴンクラインが再び命中。出力こそ低いとはいえ、装甲の薄い猫たーぼには厳しい損傷。続けて双方が至近距離での攻撃、これは双方ともかすったのみ。だがこれでトリックワイアの解除に成功した黒猫たーぼは続けてぽかぽかしっぽで攻勢に出る。生き物のようになめらかに動く尾がヴェラシーラに襲いかかり、絡めとると廃熱機構を利用した熱放射によってダメージを与える。この攻撃でこれまで優勢であったヴェラシーラは一転してピンチ到来、起死回生の反撃を狙いドラゴンクラインを炸裂。これが装甲の薄い猫たーぼに連続命中して大きなダメージを与える。開始15分、だがここまでは黒猫たーぼが優勢。

 双方至近距離で相手の動きに反応して回避行動を取りながらの殴り合いが続く。ヴェラシーラのドラゴンクラインを黒猫たーぼは完全回避、だが反撃のぽかぽかしっぽは外れ。続けての攻防も双方が回避するが、再びトリックワイアが黒猫たーぼの足を捕らえ始めてその動きを制限する。ドラゴンクラインが炸裂し、それでも懸命に回避行動をとる黒猫たーぼだが一発を被弾。続けて命中、これは装甲で弾くが累積したワイアの効果によって、確実に黒猫たーぼは追い詰められていた。
 トリックワイアの解除を試みたい黒猫たーぼだがヴェラシーラはそれを許さず、しっぽの攻撃をかわしながらドラゴンクラインを撃ち放つ。直撃こそしないが回避性能が売りの黒猫たーぼに続けて命中、逆転の可能性が見いだせぬまま遂に装甲が破壊されて機動停止。ヴェラシーラとネス・フェザードが久々の栄冠を手中に収めることとなった。

○ヴェラシーラ(23分機動停止)黒猫たーぼX86× 10vs0

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 こうして宇宙戦第4回大会が無事閉幕する。だが、騒動が起きたのはそれから一週間ほどしてからのことであった。これまでブラックボックスとされていたレジテック社とホワイト・デーモン・ファクトリー両社の提供技術の中に、幾つかの国際条例に抵触する恐れのある内容があることが判明したのである。イギリスのレジテック社と千葉県我孫子市の手賀沼畔にあるWDF社に査察が入り、事態は連日報道の一面を賑わせることとなった。

「我が社としては医療産業技術のプレゼンテーションを行う必要がある為、アプラ・シリーズに疑似バイオ装甲を利用すること、および交換システムに神経系信号伝達技術を流用することは当然の企業戦略と言えます。現にストライクバック効果により、レジテックの義手義足の技術も販売実績も飛躍的に向上しました。噂の『人間の胎児』も趣味が悪いと批判されたことはありますが、我が社としては赤子の肌の質感すら表現が可能だという技術アピールに過ぎません。もっとも冗談の範疇であれば、趣味が悪いと言われるのは英国人としてはちょっとした誇りとなるやもしれませんね(レジテック広報部コメント)」
「納得いかない。ヴアー。納得いかない。クソ。ファンの人はオレたちの試合を見にきたのに、クソ。もう1回やってやる。もう1回。3年前からの新日本プロレスと小川の戦いだから、セコンドが熱くなるのはわかる。すべてを含めたこの試合で勝ちたかった。はっきりした形で、もう1回やりたい。いつでもいい。ルールなんていらないのかも(WDF代表コメント)」

 両社のコメントは様々であったが、結果としてはレジテックの疑似バイオ装甲技術と神経系信号伝達技術、WDFの人工知能同調技術について問題は発見されなかったのである。ただこの騒動が一般に与えたイメージは大きく、両社は中本工業を含めたストライク・バック管理委員会と協議の上、同技術の一時凍結を決定した。これにより、次回大会の機体および装備系列に大幅な影響が与えられることは避けられないであろう。
 であれば、重要となるのはパイロットの技量であるか。

総合成績
優勝 ネス・フェザード     ドグ ヴェラ・シーラ         桜 3戦3勝通算04戦03勝
準優 山本いそべ        にゅ 黒猫たーぼX86        烈 3戦2勝通算11戦08勝
3位 ロストヴァ・トゥルビヨン スカ クイックシルヴァー       ド 3戦2勝通算08戦04勝
3位 テムウ・ガルナ      にゅ イヴァス・イヴィア       ド 2戦1勝通算11戦07勝
5位 ジム           ベテ デザートGM          ド 2戦1勝通算08戦05勝
5位 マック・ザクレス     ニュ メガロバイソン3        S 2戦1勝通算07戦03勝
5位 静志津香         スカ ふわふわエターニア       ド 2戦1勝通算06戦02勝
5位 コルネリオ・スフォルツァ ニュ トータス号試作型ジャガーの目は ベ 1戦0勝通算08戦04勝
9位 無頼兄・龍波       ドグ オーガイザー          ド 1戦0勝通算07戦04勝
9位 シャル・マクニコル    ドグ ケルビムMk1         桜 1戦0勝通算05戦01勝
9位 ベアトリス・バレンシア  にゅ にゅう・どんきほーてぜーた   桜 1戦0勝通算05戦01勝
9位 神代進          ニュ JAライスボール        魔 1戦0勝通算04戦00勝
−− ウテルス・シンドローム  ニュ ウシナー・デデミテルナ     S 0戦0勝通算04戦02勝
−− 地雷屋ジュンペイ     ドグ 打竜牙             烈 0戦0勝通算01戦00勝


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