第五回大会
中本興行主催、ストライク・バックが衛星軌道上にある宇宙ステーション「アストロボーイ」で開催されるようになって、今回で第5回大会を迎える。先の大会後、技術スポンサーであるレジテック社とWDF社に査察が入ったものの、その後の経過は未だ伝わっていない。レジテックが提供する疑似バイオ装甲と神経系信号伝達技術、WDFの人工知能同調技術に対して、国際倫理上問題のある手法が取られている可能性がある、という指摘はその真偽のほどは確かではないが、放置できる問題ではないだろう。
「いかがわしくない兵器が存在するなら見てみたいものね」
「それは軍人の感想だな」
ラウンジで珈琲のカップを手に肩をすくめる、ロストヴァ・トゥルビヨンの発言に苦笑するネス・フェザード。両者とも軍人出身の戦闘機乗りであり、兵器というものがどのような存在であるかを知っていた。軍隊で用いる技術とは、軍隊よりも軍隊で儲ける者が注目する技術なのである。
ともあれ、今大会では査察の影響もあって大幅な兵装や機体の変更が行われている。ことにパイロットである彼等にとって重要なことは機体のメインフレームにかけられている修正であり、それは操縦感覚と呼ばれるものに直接影響を及ぼさずにはいられないであろう。
「で、シミュレータに乗ったご感想は?」
「複雑で反応も良すぎるな。あれじゃあ本当に戦闘機だ」
ストライク・バックの参加機体は全て「イプシロン」と呼ばれるメインフレームを軸に、各社がジェネレータや駆動系システム、センサー装甲を設計した基本機体に、更に各参加チームがカスタマイズを施したものである。今回、修正されたメインフレーム「イプシロン2forメガドライバーズカスタム」では、より精密で複雑な動作が可能になると同時に、操縦者にもその精密さと複雑な動作が要求されることになっていた。むろん最低限の動きは人工知能がサポートしているし、オペレータがレーダーやセンサーを分担することも可能だが、パイロットに技量が必要である点は変わらなかった。
珈琲を飲み干すと、両者は席を立ち上がりラウンジを後にする。大会が始まってしまえば、チームの異なる者同士が出会う機会は勝ち進んだフィールドの中でしかない。
トーナメント一回戦 トータス号改良型vsJAサラダボール
農協協賛シリーズ、JAサラダボールに搭乗する神代進は、無農薬バイオコンピュータと呼ばれる農林一号を機体に搭載、センサー補助機能を与えている。ストライク・バックシステムにおいて、パイロットをサポートするこうしたナビゲートシステムやオペレータの存在はあまり表に出ることがない一方で、決して無視が許されるものではない。査察の対象となり、今回は使用が見送られている世紀末救世主パワードトレーサー伝説、SPTに搭載されていたVM−AXシステムも、本来はこのナビゲートシステムの延長戦上にあった。そのSPTが今回、公式機体として認められていないこともあり、いきおいVM−AXをベースにした各チームのシステムも封印状態とせざるを得ない。
「かーらーす、なぜなくのー、からすはやーまーにー・・・♪」
などと鼻歌を唄っていたのはSRI白河重工代表であり技術者でもある「狂わせ屋」女史である。改装したトータス号でも従来のコンセプトは押さえているが、基本設計からの変更でありその影響には未知数の部分も多いだろう。大幅なシステム改変、とはいえエネルギーフィールドが張られた競技フィールド内で一対一で戦う競技形式はこれまでと同様である。
試合開始とともに両機射出、サラダボールが対鬼用大豆バルカンを、トータス号はおなじみ伝送装置を発動させて座標を合わせながら必殺冷凍光線を発射。だがこれは双方が命中せず。続けて砲撃、サラダボールのバルカンがトータス号の装甲を叩くと反撃の冷凍光線も命中、直撃するが頑強なタマネギアーマーが損傷を抑える。
ここまで撃ち合って両者ともに、新システムの感触に違和感を覚えたことであろう。より精度が上がり、確実な操作が求められるイプシロン2では防御以上に攻勢においてより正確さが求められる。ライスボールは状況を見てすかさず接近戦に移行するが機体制動が充分ではなく、振り回されるあつあつヒートパスタも宙を切る。その間にトータス号の伝送装置がサラダボールを捕捉するが、サラダボールも相手の間合いを嫌って近接戦を続行する膠着状態に。
開始10分、ようやく距離を合わせたトータス号が冷凍光線射出!だが超高出力の連装レーザー砲は軌道制御も難しく、命中させることができない。サラダボールの大豆バルカンも外れ、高出力サイサリス機の特徴が悪い方向に出てしまっているか。それでも伝送装置の効果もあり戦況はトータス号が圧倒するが、神代も直撃コースの一撃をガードして損害を抑え続ける。終了間際の28分、トータス号の冷凍光線が再び命中、これもタマネギアーマーに阻まれてしまうがサラダボールには反撃の手管がなくそのまま試合終了。終始戦況をリードしたトータス号が判定で勝利を収めた。
○トータス号改良型(30分判定)JAサラダボール× 37vs27
トーナメント一回戦 にゅう・どんきほーてぶいvsふわふわエターニア
一回戦第二試合はどちらもある意味マイペースの代表のような両名、どんきほーて騎乗のラテン娘ベアトリス・バレンシアと、ふわふわエターニアに乗る静志津香おねーさん。
「複座ですか?いいですけど今回は間に合いませんよ」
「無理ですかーあ」
いつも思いつきで会話をしているのではないかと言われる、静志津香の要求に答えることがエターニアチームでは一番の難題らしい。無線ナビゲートをしているオペレータにしたところでメカニックの兄ちゃんが兼任しているのであるが、この人物はエターニアの天使めいた翼の設計となめらかな駆動パターンを完成させた人物としても知られている。余談ではあるが、剣天使シャル・マクニコルの陣営ではエターニアチームを目指せ!という言葉が奇妙な合い言葉になっているらしい。フィールド射出後、エターニアが翼を美しく広げる様はストライク・バックの定番シーンの一つとなっているのだ。
だが敵方の事情はあくまで敵方の事情である。試合開始、どんきほーてはしっかりと狙ったがとりんぐほーでエターニアを狙撃して先制する。エターニアは距離を離すと複数のターゲットマークを操り、こだわりのロックオンレーザーを発射。複数の光条を軌道操作して一点に同時着弾させる、メガクラッシュシステムである。
「エネルギー集束!・・・変換率100%を超えました!」
おおお、と沸くエターニア陣営。実戦で兵装試験を行っていると言われてしまえばそれまでだが、元来ストライク・バックの存在自体が一部スポンサーにとっては兵装の実践プロモーションを兼ねていることも事実なのである。この時の砲撃は相手の出力を見たどんきほーてが危険を察して一部回避したこと、相手が装甲の薄い烈風機であったこともあり損傷は最低限に抑えられたとはいえ、相手に与える損害とプレッシャーは充分だったろう。続けて連続砲撃はどんきほーてが回避に専念したこともあって命中せず。
「ぺたぺたくものす発射ーっ!」
どんきほーてもここから反撃を図るべく、粘性のワイヤー弾を放ちエターニアの動きを妨害すると接近、近接格闘戦に持ち込むとひかりのつるぎで切りつける。反撃能力を持たないエターニアは直撃回避に専念、どんきほーても積極的に攻めることはできないでいるが確実に装甲を削っていく。
開始13分、戦況は未だメガクラッシュ初弾のダメージが活きているエターニアがわずかに優勢、多少の損害覚悟で強引に加速移動して一気に距離を離すとロックオンレーザーを連続発射。狙いが甘く外れるが、続けてターゲットを合わせたエターニアが二度目のメガクラッシュ発動。どんきほーてはこれを横に移動して瞬間で回避、だがわずかにかすった二弾が高出力の残滓のみで装甲を削る。指向性のある光線が戦場を縦横に飛び交い、どんきほーての回避と反撃行動に制限を与えている。そして19分、三度目のメガクラッシュがまたも命中!今度も一部を回避されたものの初弾に匹敵するダメージがドンキホーテの機体を揺さぶる。
ここまで大苦戦中、形勢逆転を図りたいどんきほーてはようやく距離を詰めるが、がとりんぐほーは度々かすらせるものの追い打ちのひかりのつるぎはガードされてしまう。結局これに阻まれてペースを掴むことができないまま時間切れとなり試合終了。続けての判定決着となったがエターニアが文句のない展開で二回戦へと駒を進めた。
○ふわふわエターニア(30分判定)にゅう・どんきほーてぶい× 29vs18
トーナメント一回戦 ケルビムMk2vsドン・エンガス
「本気ですか?代表」
「もちろんだ」
ストライク・バック大会久々の新規参入となるのは、某零細個人商店主であるというアラン・イニシュモア。会社の運営資金稼ぎにと、若い代表自ら機体を駆っての参戦である。
「幾ら主催者からカネが出るといっても、維持費も修理代も莫迦にならないんですから。あまり壊さないで下さいよぉ」
「分かってると言っているだろう」
という、大会の主旨を無視する社員からの現実的なアドバイスを背に設計した機体はドン・エンガス。大型兵器を搭載した高出力機である。対するは若いながら既にベテランパイロットと称して良いであろう、シャル・マクニコルとケルビムMk2。地上戦では3回の優勝経験を持つ、グラップリングの名手である。
開始距離は近接から、スピードを活かした近接格闘戦はケルビムの十八番であり、刑場への道と呼ばれるヴィア・ドロローサで捕捉したところに炎の子チャイルド・オブ・ファイアが打ち込まれる。
「離れテ離れテ!マーキング解除しナイと追い込まれるヨ!」
ドン・エンガスのコクピットに、オペレータロボット「レプラコーン」の警告が響く。新規参入であれ新型メインフレームを扱う以上条件は同じ筈だが、性能や機能を活かす戦術となれば、これに経験の所産があることを否定できない。離れてライトニングプラズマ、更に離れてライトニングボルトとレーザー系兵器を一斉発射するドン・エンガスだがケルビムはしっかりと防御に専念してこれを回避する。続けて中距離、高出力のライトニングプラズマが解き放たれるが相手を捕捉できず、その間にヴィア・ドロローサによるマーキングが完了し、ケルビムが一気に間合いを詰めると炎の子が襲いかかった。
ここまで一方的な展開、反撃の手管が掴めずにいるドン・エンガスだが14分、一瞬の隙をついて距離をとると再びライトニングプラズマ発射、そしてライトニングボルトを射出。だが驚くべきタイミングで防御行動を合わせていたケルビムはこの攻撃も回避に成功してしまった。精密射撃で狙った起死回生の砲撃が回避されてしまい、更に確実な移動で近接戦に持ち込まれると反撃の手を封じられたドン・エンガスはこれで打つ手なし。近接戦を維持することを優先したケルビムの一方的な展開となって最後はチャイルド・オブ・ファイアの三連直撃で時間切れ寸前に息の根を止められた。近接戦狙いが完全に成功したケルビムと、大型兵器重視で相手のマーキングを確実に振り払うことができなかったドン・エンガスとの作戦差が如実に現れた一戦。
○ケルビムMk2(29分起動停止)ドン・エンガス× 40vs-5
トーナメント一回戦 GMIIvsメガロバイソン4
「全距離熱線兵器ですか・・・レーヴァティンが来たら恰好の餌食じゃないすか?」
パイロットのジムが今回搭乗する機体、GMIIの設計を見て最初に漏らした言葉である。軍人あがりというより兵士あがりというべき、しがないテストパイロットの身としては、あからさまに性能評価の意図が透けて見える危険な機体コンセプトがあったとしても文句を言うことはできない。今回からオペレータとしてチーム入りすることになったネモと挨拶を交わすと、手慣れた動作でコクピットに入り熱線系装備のジェネレータチェックを始めている。
対するメガロバイソン陣営では、天才技術者ジアニ・メージ設計のオリジナルSPTを搭載していたバイソン3がオーバーホールに出され、替わりに戻ってきたバイソン1を宙戦仕様に変更したメガロバイソン4で参戦。パイロットはマック・ザクレスにオペレータがジアニ・メージの黄金コンビである。SPTの「あの力」を体験する必要がなくなったマックは内心安堵していたが、
「『レイ』の裏AIの名前はどうして『ズナー』じゃなかったんでしょう?」
というメージの呟きを聞き、ああまだこの娘は独自で研究を続けているんだと思うことしきりであった。
そんな両者の対決は中間距離、移動攻撃から抜き打ちでバルカンを打つGMIIと四聖獣・改の撃ち合いは双方命中せず。これまでの三試合を見ていたジムは機体の感触を確かめるように頭部バルカンの照準を合わせて発射、バイソン4もマックとメージが申し合わせたように回避行動を合わせておりこれを確実に回避する。避けると同時に攻撃に移行、独自AIによる追跡機能を持つ四聖獣が解き放たれると、一撃はシールド受けられてしまうが続く二発を着弾、直撃には遠いが先制する。
「超電磁バリア大作戦、目標数値クリアしました!」
通信回線からメージの声が届く。指向性の磁場で相手の機動力を奪い捕捉性能を高める、バイソン4の追加装備がGMIIを捕らえることに成功。頑強なGMIIの装甲に弾かれるが、確実に損傷を与える。開始10分、危険を感じたGMIIはダメージ覚悟で移動行動、近接格闘戦に切り替え。ビームサーベルで切りかかるが超電磁バリアの影響のせいか空振り、距離を離されると容赦なく四聖獣が襲いかかる。一撃の損害は極めて小さいものの、バイソン4はそれを容赦なく確実に命中させて一方的にペースを掴む。
開始21分、バイソン3の反撃のバルカンが命中してようやく超電磁バリアのマーキングリセットに成功するが、ここで一か八かを賭けて切り込んだビームサーベルの一撃は命中せず、痛恨のミスに距離を戻したバイソン4は更に攻勢、四聖獣・改の攻撃により遂にGMIIの装甲が負荷限界を超えて崩壊した。
○メガロバイソン4(26分機動停止)GMII× 36vs0
トーナメント二回戦 ソニック・バイパーNTvsトータス号改装型
トーナメント二回戦第一試合は前大会優勝者、ネス・フェザードとソニック・バイパーNTが登場。対するは一回戦を判定ながら安定した内容で勝ち進んだトータス号。
「さて、扱いきれるシロモノか・・・」
コクピットで指を鳴らし、メインフレームと機体バランスが新しくなっているという操縦竿を握る。トータス号の伝送装置の恐怖は存分に心得ているつもりであり、これを振り切るには優れた機体制動が必要になるのだ。
だが開始早々、中間距離から解き放たれたトータス号の冷凍光線がソニック・バイパーに命中!充分な回避行動をとっていたつもりだが、奇襲の一撃に反応が遅れたか先制を許すことになった。思わぬハンデからペースを奪われないためにもバイパーがアサルトで反撃、トータス号はこれをしっかりとガードする。近接格闘戦狙いの前進は失敗、その間にも伝送装置の座標捕捉が続き、危険な状態のままバイパーは更にアサルトで射撃、これもガードされてしまう。
開始7分、今度は接近に成功したバイパーがビームドリルで攻撃、高速機動からの一撃でようやく戦況を五分に戻す。トータス号は座標設定を解除された伝送装置を再び起動。互いに距離を測りながらバイパーは近接戦を、トータス号は冷凍光線の間合いを狙う。緊張感をはらんだ距離の取り合いが続き、動いたのはソニック・バイパー。強引な加速から振り回したビームドリルが命中、離れてアサルトを発射、直撃には遠いが命中させてペースを掴む。当てて前進、離れて射撃はガードされるが再び接近、ビームドリルを命中させる。ソニックの異称に相応しい高速起動戦術でリードしたまま残り時間3分。
その残り3分で伝送装置の捕捉完了、射出した冷凍光線がバイパーNTに直撃!一撃で装甲の半ばを吹き飛ばすすさまじい破壊力を見せつけるが、強引に機体を抑え込んだネス・フェザードは崩れた体勢からアサルトを狙撃する離れ業を披露。トータス号の装甲をかする程度のダメージだが、これで伝送装置を解除すると得意の近接距離に移動、そのまま30分を逃げ切った。難敵相手に冷徹な動きを見せたバイパーが準決勝進出。
○ソニック・バイパーNT(30分判定)トータス号改装型× 21vs19
トーナメント二回戦 ふわふわエターニアvsオーガイザー
続いて登場、男の機体オーガイザーに対するはおねーさんの機体ふわふわエターニア。重装高出力機であるオーガイザーは、攻勢機でありながら出力よりも精度を重視するエターニアにとってある意味鬼門とも言える相手である。魂鋼と称する重装甲に、メガクラッシュシステムがどこまで通用するか。エターニアにとっては試金石とも言える一戦である。
初弾は遠距離での様子見から、エターニアが牽制のロックオンレーザーを放つがこれは命中せず。続けて砲撃、これも牽制で放つが新システムの影響か、相対座標の制御に失敗したオーガイザーがこの回避に失敗して数発が着弾する。
「装甲、通ってます。行けますよ!」
エターニアのコクピットにオペレータからの無線が流れる。オーガイザーが接近、飛爪を発射するがエターニアはしっかり回避、距離を空けるがオーガイザーは再接近して再び飛爪、今度は一撃を回避するものの一撃が命中する。体勢を崩したところに続けて飛爪が今度は直撃!エターニアの翼が激しく揺れる。だがどんな状況にあっても動じないのが、このような場合では静志津香の真骨頂でもあった。
「ビームのあめあられですよ〜」
距離を離してロックオンレーザー大量射出、一見無駄弾に見えるこの砲撃こそが、メガクラッシュの緻密な軌道を集束させるための補助曲線となっているのだ。完全に座標を捕捉したオーガイザーの装甲、更にただ一点に向けて複数の軌跡を描いた光条が同時に着弾する。
「メガクラッシュ発動!出力400%超えます!」
オーガイザーの魂鋼に激しく鮮やかな光が咲き乱れる。続けて命中、並みの機体であればこれでほぼ勝敗が決していたかもしれないが、オーガイザーの厚い装甲、魂鋼はそれでも一部を弾き返す。更に密度の増した砲撃で乱反射した光が互いを打ち消し合うという幸運も味方し、かなりの損害を受けながらもオーガイザーは辛うじて体勢を立て直した。前進しながら飛爪、エターニアも相対距離をコントロールしつつ逆にニードルガンを当てて相手の出足を挫き、更にロックオンレーザーの雨あられ。
オーガイザーは飛爪で多方向から襲いかかるがエターニアは飄々とした動きでこれを回避、一撃を受けるもののニードルガンで牽制しつつ、20分過ぎに抜き撃ち気味にロックオンレーザーを連続発射。襲いかかる複数の光条にそれまで蓄積していた装甲のダメージが限界値を超えたオーガイザーは遂に起動停止、ふわふわエターニアが快勝を決めた。
○ふわふわエターニア(20分起動停止)オーガイザー× 23vs0
トーナメント二回戦 ケルビムMk2vsブラックウィドウ
「アブラカダブ・・・面倒よ、『アブ』でいいわね?」
ストライク・バックでは試合に参加できるメンバーは機体を操縦するパイロット、無線による遠隔指示が許されているオペレータ、そして機体整備を行うメカニックの最大3名までが認められている。それ以外のチームメンバーは専用のブースに待機をする必要があるが、職人気質の者が多いパイロットは単独で参加をする例も珍しくはなかった。それが変化を見せている理由は、宇宙戦に対応するためにオペレータの存在が有効になる例が増えてきたからであろう。今回初参戦のアラン・イニシュモアのようにオペレータロボットを利用する例もあれば、バイソン陣営の天才ジアニ・メージのように従来からオペレータが存在する例もある。今回ロストヴァ・トゥルビヨンのオペレータについたアブのように新規で雇われる例も存在するが、優秀な人間であればパイロットに限らず採用されることも、こうした競技では珍しいことではない。
トーナメント二回戦第三試合、ロストヴァ騎乗のブラックウィドウとシャル搭乗のケルビムMk2の一戦。開始早々近距離から、急襲をかけたケルビムのチャイルド・オブ・ファイアが直撃!咄嗟の回避行動を失敗したブラックウィドウが先制を許してしまう。
「初歩的なミステイク、さて立て直せるものかしら」
コクピットでどことなくひと事のように呟くロストヴァだが、無論、彼女流のメンタルコントロールである。ケルビムの兵装は彼女が得意とする中間距離には向いていない、その様子を見てすかさず距離を離したブラックウィドウはパッショネイトエンブレイスを起動、ケルビムのヴィア・ドロローサと同じく相手を追跡捕捉するマーキングシステムである。指向性のある力場を発生させて相手の行動を阻害する、それを指してケルビムは刑場への道と称し、ブラックウィドウは「抱擁」と称していた。
ロストヴァ駆る黒衣の貴婦人はスィートカレスを発射、初撃はかわされるが第二射を命中させる。これでケルビムの刑場への道を断ち切り、続けて砲火を連続着弾。一撃の損害こそ小さいが、多弾命中によって双方の損害は完全に五分の状態となっている。
一方的な守勢から脱却すべくケルビムは思い切った前進、不利な体勢から強引に炎の子が襲いかかるが命中せず。だがブラックウィドウも反撃のキスオブダイは外れ。中距離に戻してスィートカレスの砲撃を続けるが今度は当たらない。この状態で双方互角のまま膠着、ともに動きを制限された状態で効果的な攻勢に出ることができない。ケルビムの近接格闘戦も、ブラックウィドウの精密射撃も互いを捕らえることができず、開始8分ほどから両機全く攻撃を成功させることができないままに距離を奪い合う。中距離、近接、中距離と相対距離を変えながらも決定打は出ず。観客の集中力は散漫にならざるを得ないが、戦場で撃ち合うパイロットにすればわずか一回のミスが勝敗を決めかねない、スリルに満ちた攻防である。
「スリル・スリル・スリル・・・」
この状態でリズムを取りながら最後の一手を狙っていたロストヴァが、試合終了直前に仕掛けるとスィートカレスの一撃をケルビムに命中させる。損害軽微、だがこのわずかな一撃によって両者のダメージの均衡が崩れ、タイムアップと同時に判定によりブラックウィドウの勝利が宣告された。ケルビムにすれば最後に自分の甘さ、あるいは幼さが悔やんでも悔やみきれない一戦となったか。
○ブラックウィドウ(30分判定)ケルビムMk2× 31vs30
トーナメント二回戦 メガロバイソン4vsアースティルティト
大崩れしない不思議な実力者、アジアで二番目にスウェットの上下が似合う男と呼ばれているテムウ・ガルナとアースティルティトの登場。ちなみにストライク・バックの初期からイハラ技研チームはオペレータとメカニックの登録を行っているが、それがどの程度役に立っているかは疑わしいと言われている。何しろイハラ技研はWDF社から全面的な技術供与を受けているために、パイロット以外はあまりすることがないのである。彼らの中には待機ブースで面白い競技を見ながら酒が呑めるとか、他のチームの美形パイロットに会うことができるとか、そうした不埒な動機でこの大会に参加している者さえいるのだ。
対するは一回戦を、超電磁バリア大作戦にて見事に勝ち進んだメガロバイソン4。飛ばしたワイヤーから指向性のある磁場を発生させるという、特殊兵装の有効性は昨今の大会でも各チームによって実証されている。
「なんとかVM−AXを通常機体に組み込めませんかねえ」
「・・・頼むからやめてくれ」
身も省みず、未だに研究を続けているらしいメージを通信回線ごしに宥めながら、マック・ザクレスは気を入れ直す。試合が始まってまで気を抜いて勝てるほど、相手は甘くはないのである。
エネルギーフィールド内に両機射出され、相対距離は遠距離から開始。バイソン4は一回戦GMII相手に猛威を振るった超電磁バリア大作戦でさっそくマーキングを仕掛けると、グレネードマインボムを発射。だがアースティルティトは多弾頭ダグロゥ・アタナワを一斉発射。双方が初弾から積極的な攻勢を仕掛けると、宇宙空間を派手な火花が咲き乱れる。遠距離は相手の間合いと、これを嫌ったバイソン4は回避行動をとりつつ中間距離まで接近する。熟練のパイロットでも難しい動きだがアースティルティトは構わずにエリアバスター発射、出力で僅かに劣るバイソン4は四聖獣・改で反撃するも状況は不利。
攻勢の手を弛めないアースティルティトは距離を離して再びダグロゥ・アタナワ発射!これが連続着弾して制御バランスを崩したバイソン4に向けて、容赦のない連続射撃を解き放つ。バイソン4もグレネードマインボムで反撃、形勢を戻そうとするが効果は薄い。
それでも開始8分、中間距離に動いたバイソン4は回避行動から抜き撃ちで四聖獣を射出。これを命中させて一息つくと機体をくるりと一回転、バランサーを正常に戻して更に四聖獣で追撃、命中させて反撃を図る。一度距離を離されるが、制動が落ちつけば中間距離ならバイソンの方が兵装で勝るだろう。あとは序盤で受けた不利をどのように取り戻すかだが、アースティルティトもバイソン4の反撃に押されながら要所で反撃を命中させて相手に負荷をかけ続ける。
15分、遠距離戦となりバイソン4のグレネードマインボムをかすらせながら、アースティルティトがダグロゥ・アタナワを着弾。追い詰められたバイソン4は接近、四聖獣での反撃を図るが粘りに粘ったところで攻勢に移行する瞬間を完璧に狙撃されると、ダグロゥ・アタナワの光条に貫かれてジ・エンド。アースティルティトが準決勝最後の枠を勝ち取った。
○アースティルティト(19分機動停止)メガロバイソン4× 7vs-9
トーナメント準決勝 ソニック・バイパーNTvsふわふわエターニア
ベスト4が出そろった準決勝第一試合は前大会優勝ソニック・バイパーとトーナメント一回戦から勝ち進んできているふわふわエターニア。近接攻勢型のバイパーと遠距離牽制型のエターニアは機体コンセプトからして大きく異なる、両者の対決である。
まずは遠距離、双方様子見の状態からエターニアが当然のようにロックオンレーザーを発射するが、バイパーも余裕をもって回避する。だが初弾の牽制はエターニアにとって得意の誘い水である、一瞬で照準を合わせると続けてメガクラッシュ狙いのレーザー発射。バイパーの薄い装甲でこれを受ける訳にはいかず、懸命に回避するが集束エネルギーの残滓が装甲を擦る。
なんとか得意の近接格闘戦に持ち込みたいバイパーだが接近したところにニードルガンを合わせられて被弾、更に離れればロックオンレーザーに振り回されて近づくことができない。次々と襲いかかるビームの雨あられを回避するパイロットの技量は大したものだが、軽微な損害が蓄積して無視できない状況になりつつある。開始10分が過ぎて展開は完全にエターニアのペース。
ここでようやく接近に成功したバイパーだが、移動攻撃によるビームドリルの一撃は外れ。博打的な攻撃とはいえ確実に当てられないことは痛いが、離れたエターニアに今度はアサルトを合わせて反撃する。接近して攻撃、離れて牽制をエターニア得意の遠距離戦に持ち込まれることなく続けることができれば逆転も不可能ではないだろう。
だがエターニアも油断も容赦もせず、ロックオンレーザーの間合いこそ防がれているものの中間距離からのニードルガン狙撃でバイパーの動きを抑えようとする。装甲値がイエローゾーンを突破しているバイパーも、思い切って接近してビームドリルを命中させるが反撃に移るには相手の動きを捕らえきれない。残り時間わずかとなり、エターニアは回避に専念してビームドリルの攻勢をかわすと相手のラッシュが衰えた隙をついて急速後退、砲戦に移ったところで時間切れ。ペースを握り続けたふわふわエターニアが決勝進出を決めた。
○ふわふわエターニア(30分判定)ソニック・バイパーNT× 30vs14
トーナメント準決勝 ブラックウィドウvsアースティルティト
冬季五輪と日本の雪にはしゃぎまわって腰痛気味というテムウ・ガルナが騎乗するアースティルティトに対するは、黒衣の貴婦人ブラックウィドウを駆る名手ロストヴァ。ことに単純な戦績だけではなく、安定した実力を持つ者の恐ろしさというものは両者がともに理解している。負けるとは限らずとも、簡単に勝てない相手と戦うことは想像以上に神経をすり減らすことになるのだ。
「最初の一撃はハード・グッドバイ、なんてね」
遠距離からパッショネイトエンブレイスでマーキング、ハードグッドバイを放つブラックウィドウがこれを当てて先制する。アースティルティトも反撃のダグロゥ・アタナワを当てるが損傷は軽微。すかさず距離を動いたブラックウィドウは得意の中間距離からスィートカレスを発射、だがこれは直撃せず、アースティルティトもエリアバスターで反撃。
ここまで展開は互角、出力と装甲ではアースティルティトが勝っているが、ブラックウィドウは機体バランスとパッショネイトエンブレイスのマーキング性能でそれをカバーしている。双方が隙をついての攻撃をしかも回避する、緊張感をはらんだ展開が続くが8分、相手の攻勢の隙をついたアースティルティトがダグロゥ・アタナワを完璧に狙って放ち全弾命中!機体を激しく揺るがせたブラックウィドウはすかさず中間距離に逃げるが、大きなダメージを被った。
戦況不利に追いやられたロストヴァとブラックウィドウだが、得意の中距離戦に持ち込み仕切り直しを図る。その狙いはもちろんパッショネイトエンブレイスによるマーキング、それを理解しているアースティルティトは何とかこれを解除しなければならない。だが遠距離戦なら無類の操縦&狙撃能力を誇るテムウも、中距離となればロストヴァに遅れを取る。完全に距離を固められた状態でスィートカレスを確実に当てられていき、装甲を削られると開始17分に命中した砲撃によって形勢逆転。
ここからは決め手にこそ欠けるが一方的な展開となる。不利において崩れることのないロストヴァの粘りは優勢においてなお崩れることがなく、テムウは反撃の糸口を掴むことができない。確実に中間距離を維持されて反撃の手を潰された状態で、時折確実に撃ち放たれるスィートカレスがアースティルティトの機体を舐める。一度、思い切ったブーストで距離を離すが逆にハードグッドバイで的確に狙撃されると反撃体勢を構築できずに、そのまま30分時間切れ。ロストヴァと黒衣の貴婦人が決勝進出を決めた。
○ブラックウィドウ(30分判定)アースティルティト× 26vs17
NAKAMOTOストライク・バックZ第五回大会決勝戦 ふわふわエターニアvsブラックウィドウ
システム改装によるストライク・バック第5回大会、決勝戦の組み合わせは多弾頭レーザーの乱射による牽制から必殺の一撃を狙うふわふわエターニアと、冷徹なまでのバランス戦術で相手のミスをついて確実に追い詰める、黒衣の貴婦人ブラックウィドウ。これまでの傾向として新メインフレーム「イプシロン2」の影響は、パイロットの技量と作戦に対する依存度が増し、要所での確実な防御と弱点をついた確実な攻撃が求められることとなっている。その意味ではエターニア騎乗の静志津香も、ブラックウィドウを駆るロストヴァ・トゥルビヨンも新システムでの決勝戦に相応しいパイロットであろうか。
「センサー・・・OK、ジェネレータ・・・OK、駆動系・・・OK、
システムオールグリーン・・・オヴァ?」
モニターの明かりのみに照らされているコクピットで、システムの起動を完了させるとパイロットは機体の状態とパイロットスーツの安全装置を確認する。通信感度は良好、カウントダウンの様子はモニターに映し出されており、射出の衝撃に備えて軽く、シートに座り直すとヘルメットを固定する。カウントダウンの開始と同時に両機バトルフィールド内に撃ち出され、エネルギー力場によって敷かれているレールの上をカタパルトに乗った機体が高速で滑る。Gに耐えつつ、カウントダウンが完了して両機がバトルフィールド内に撃ち出されていよいよ決勝戦が始まった。
まずは遠隔距離から。ブラックウィドウはパッショネイトエンブレイスを射出すると、エターニアのロックオンレーザーも幾何学的な軌道を選んで多数撃ち出される。だがこれは双方様子見、早くも仕掛けたロストヴァとブラックウィドウがハードグッドバイを一撃、確実に狙撃して命中させてくる。エターニアもすかさず回避行動をとるがこれに失敗、反撃の手こそ出しているもののブラックウィドウが先制する。これを序盤からの好機と見たロストヴァは相手の得意な遠距離戦であるにも構わず、攻勢に出るとハードグッドバイでまたも狙撃、これを確実に命中させて一気にペースを握る。
ここで中間距離まで接近、双方がスィートカレスとニードルガンを撃ち合い、互いにかすらせて損害軽微。遠距離戦に戻るとブラックウィドウの砲撃をガードしたエターニアは反撃のロックオンレーザー、これも直撃せず。ペースを握りたいエターニアだったが黒衣の貴婦人はハードグッドバイを三度、命中させてここまで完全にブラックウィドウが圧倒。
得意の筈の遠距離戦で相手の攻勢を許しているエターニアはフィールド内にレーザーの光条を縦横無尽に張り巡らせる。パッショネイトエンブレイスによるマーキングも断ち切り、ロックオンレーザーの精度を上げていく。だがその間にもブラックウィドウは隙を狙って中距離に移行、スィートカレスを放つが、エターニアも容易に追い込まれることを許さずにここで距離を離すとブラックウィドウの砲撃をガードして弾き、ロックオンレーザーを一斉発射!これを連続着弾させるが出力が足りず、メガクラッシュ完全発動には到らない。
相手に好機を与えることを許さないロストヴァは前進して中間距離、これでメガクラッシュを封じられたエターニアは大会屈指の加速力を見せるがそれでも容易に相対距離を離すことができずにいる。中距離からブラックウィドウの砲撃を時に弾き、時に回避することはできてもそこから劇的な反撃に移れない。ニードルガンで反撃、ガードを駆使しながら攻勢を押し返そうとするが完全とは言いがたい。
開始19分、ようやく遠距離に移ったエターニアはロックオンレーザー射出によって、パッショネイトエンブレイスのマーキング解除を行う。命中精度の高いロックオンレーザーであり、押されているとはいえメガクラッシュが発動すれば一撃で戦況をひっくり返すことは可能だ。この状況でロストヴァは相手の距離をものともせずに積極攻勢、相打ちで削り合いになることを恐れるエターニアはこれに応じず、ただ一瞬の好機を狙う。そして21分、相手のマーキングを外すことに成功し、この試合で初めてロックオンレーザーの座標計算を完全成立させることに成功した。
「メガクラッシュ、行きま〜す!!」
かけ声と共に、複数の光条がただ一点に向けて集束する。これが直撃すれば充分にメガクラッシュ発動、逆転も可能であったろうがロストヴァはここで防御に専念、レーザーの完全回避に成功する。最後のチャンスを絶妙のタイミングでかわされたエターニアはここで手が尽きて、続くハードグッドバイの連続射撃によってセンサー装甲を貫かれると遂に機動停止。「中距離の女王」ロストヴァ・トゥルビヨンが久々の栄冠を勝ち取った。
「オールグリーン。OK、アブ?」
○ブラックウィドウ(23分機動停止)ふわふわエターニア× 18vs-2
成績 パイロット 機体名 オペレータ 戦績
優勝 ロストヴァ・トゥルビヨン ブラックウィドウ アブ 3戦3勝通算11戦07勝
準優 静志津香 ふわふわエターニア メカニックのお兄ちゃん 4戦3勝通算10戦05勝
3位 テムウ・ガルナ アースティルティト 登戸とき子 2戦1勝通算13戦08勝
3位 ネス・フェザード ソニック・バイパーNT カーネル 2戦1勝通算06戦04勝
5位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号改装型 牧さん 2戦1勝通算10戦05勝
5位 マック・ザクレス メガロバイソン4 ジアニ・メージ 2戦1勝通算09戦04勝
5位 シャル・マクニコル ケルビムMk2 アポカリプス 2戦1勝通算07戦02勝
5位 無頼兄・龍波 オーガイザー UNKNWON 1戦0勝通算08戦04勝
9位 ジム GMII ネモ 1戦0勝通算09戦05勝
9位 ベアトリス・バレンシア にゅう・どんきほーてぶい −−− 1戦0勝通算06戦01勝
9位 神代進 JAサラダボール 農林一号 1戦0勝通算05戦00勝
9位 アラン・イニシュモア ドン・エンガス レプラコーン 1戦0勝通算01戦00勝
−− 山本いそべ −−− −−− 0戦0勝通算11戦08勝
−− ウテルス・シンドローム −−− −−− 0戦0勝通算04戦02勝
−− ジュンペイ・カニンガム −−− −−− 0戦0勝通算01戦00勝
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