第六回大会
2006年6月、人型汎用兵器同士による格闘競技「ストライク・バック」が衛星軌道上で開催されるようになって、今回で第6回目を迎える。それは単純に剣闘士の試合を見るような娯楽として人々に受け入れられている一方で、参加企業やスポンサーにとっては、得意な条件下で様々な技術の試験やプレゼンテーションを行う舞台としても認識されている。たとえばいち小企業であるKUSUNOTEC社などは、町工場的な設備で機体の駆動制御技術や強度を保持しながら軽量化を実現する技術では国際的な大企業に比肩するとも言われているが、それを実践して証明したのはこの舞台であった。
「いーい?今回はまちがえないでよね!」
「わかってますよ、社長」
前大会未参加だったKUSUNOTECの女子高生社長山本いそべが、開発スタッフに念を押すのはこれで何度目であろうか。軽量化による極限までの運動性能を追求するのが彼女たちのポリシーであったが、あろうことか先の大会ではパイロットである社長の体重を誤って機体設計に取り込んでしまい、重量不足に陥ってしまったのである。機体のメインフレームが変更されたことによるミスというところであろうが、機体に関する制限は公式ルール上で明確に定められていることもあって、大会側でも認可するわけにはいかなかった。
「ですが重量オーバーでなくて不足だったんでしょ?機体制動に影響が出るかもしれませんけど、内装に重りでも乗っければパスできたでしょうに」
「あたしの体重を大会規模で公表しろっていうのかー!」
コンマ何グラムで調整していると豪語するKUSUNOTEC、棄権であれば規定重量不足により失格でことは済むが、再審査となれば当然そのデータは公表されざるを得ないだろう。
ともあれ修正計算をほどこした新フレームで遅ればせながらの参戦、噂の機体フレーム「イプシロン2」は確かに反応がよく敏感になってもいたが、DEC○や東Aプランといった歴戦のシューティングゲームで慣らした彼女の反応速度にとってはさしたる違いはないようだ。何しろ彼女といえば怒○領蜂をノーミスクリアできるという強者なのだから。
ただ、それとは別に彼らには気になることがないでもなかった。
「スカーレット社というのはちょっと聞いたことがない名前ですよね。新規参入であれだけ装備や機体まで出してくる企業ですし、どっかで聞いたことがあってもいいと思うんですよ、この業界、決して広くないんですから」
「うーん・・・ロストヴァのおばちゃんなら軍のコネで知らないかなぁ?」
トーナメント一回戦 メガロバイソン5vsミートボールボール
「乗り替わり!?どういうことですか!」
「予算委員会からの通達でね、あくまで実験的なものだから」
マック・ザクレスの剣幕を流すように、アリー・イマイはにこやかな顔で説明をしていた。マックたちの戦績は悪くはないが間違っても良いとはいえない、そんな伸び悩み気味の状態に業を煮やしたメガロバイソン予算委員会が新機体と新パイロットを送りつけてきたのである。
「この際入れ替えてみるのも手だろうな」
「幸いパイロットの目処はついた、使ってみても良かろうて」
「だがファイブの予算は計画外だ。ワシの部局では持たんぞ」
「さよぉ」
真っ暗な会議室で円卓を囲みながら、そんな会話が交わされていたのであろう。アリーとしては目の前にいるマックに同情を禁じ得ないが、彼女自身を含めて単なるエージェントが予算委員会の命令に逆らえるはずもなかった。新しいパイロットは名前をダルガン・ダンガルといいロボット操縦経験者であるという意外は経歴不明、ふだんからフルフェイルのヘルメットにパイロットスーツで歩いているという謎の人物である。機体はスカーレット謹製可変戦闘機Xiフォースをベースにしたメガロバイソン5。
対する神代陣営は今回、食肉協会協賛となる新シリーズの1号機ミートボールボールで参戦。安心国産骨髄コンピュータである「牛頭」を搭載する純国産機。
両者ともに新機体での激突は遠隔距離からバイソン5が移動攻撃でムラクモオロチ・改を発射、ミートボールボールの反撃ボンレスミサイルを受けながらも数発を着弾させて先制。高速機動から攻撃、移動、攻撃を繰り返して襲いかかる複数の光条がミートボールボールの装甲を叩き、手数で相手を圧倒する。
ここでミートボールボールは前進、遠赤外線ビームをレアで発射するが外れ、だがこの砲撃で双方が相手のセンサー捕捉に成功すると再び遠距離から撃ち合う。バイソン5の移動攻撃は精度が甘くガードされるが、ミートボールボールはボンレスミサイルを正確に着弾させて一気に戦況を五分に戻す。手数で勝るバイソン5だが、攻勢機である筈のミートボールボールはパイロットの神代の技量で優れた防御性能を発揮しておりこれを打ち破ることができない。続けての砲撃も確実にガードされてしまう。
「聞いてるの!?もっと積極的に行けるわよ!」
「・・・」
今回、オペレータ役も入れ替わっているアリーの指示が飛ぶ開始10分、遠距離からムラクモオロチ・改を放つバイソン5だが積極的な攻勢には出ず、砲撃に専念して優勢を保ち続ける。戦況を変えるべくミートボールボールが接近、中間距離でレアからミディアム、ウェルダンまで設定を直した遠赤外線ビームを連続発射。つぎつぎと飛来する火線はだがバイソン5を捕らえることができず、虚しく宙を舐める。20分を経過してもバイソン5は無理な攻勢に出ずに移動攻撃、確実にミートボールボールの装甲を削る。装甲値が50%超を維持している状態で相手は機動停止寸前、圧倒的な状況でミートボールボールの砲火も堅実に避けられてしまう、勝負あったという状態で28分、遠赤外線ビームがようやく命中するが損害軽微、だが29分で再び命中、これは相応の被害を与える。
「このままタイムアップね、まあよく・・・」
アリーが呟いた瞬間、遠距離に移したバイソン5は砲門を全開にしてムラクモオロチの派手な一斉照射!無防備な状態でボンレスミサイルの直撃を受けながらも、ボールの装甲を貫ききって試合終了直前に相手を機動停止に追い込み勝利を決める。移動と防御を主体にした堅実な動きから、一瞬を狙っての攻勢による撃破。効率的な攻めであると思いながらも、オペレータとしては釈然としない一戦となった。
○メガロバイソン5(30分判定)ミートボールボール× 6vs-6
トーナメント一回戦 にゅう・どんきほーてえっくすvsドン・エンガス・カスタム
「代表、もうお身体はいいんで?」
「当たり前だ。つーか怪我なんぞしてないぞ」
オペレータロボット用のレシーバを耳に着けながら、アラン・イニシュモアはパイロットスーツに身を包んでいた。零細企業のオーナー自ら新規参入、前大会ではいいところなく惨敗してしまったものの人は学び向上する。その敗戦で本人曰くエイトセンシズに目覚めたというアランは設定を調整しなおしたドン・エンガスに乗って再度の挑戦を図る。
対するはどこまでもひたすら明るく能天気なラテン系小娘ベアトリス・バレンシア。どうにも戦績が振るわないのは競技ならではの厳しさだが、まるで悩んでいるように見えないのは存外に大物かもしれない。オペレータに謎のインド人を連れてまずは一回戦突破を目指す。
両者中間距離から開始、互いに烈風銀河系高速機を駆っての撃ち合いはどんきほーてがなんとかびーむで砲撃、ドン・エンガスはガトリングガンを発射。やはり互いに命中させて五分の立ち上がりを見せる。ここで確実に距離をとったエンガスがライトニングボルトを照射、教本に忠実ともいえる動きを見せたアランだが咄嗟に回避行動をとったどんきほーてはこれを回避する。エンガスのコクピットで舌打ちするアラン。
「ちっ・・・上手くはいかないもんだ」
「気をヌクなよオマエ!距離をとっテ!」
レシーバを通じてエンガスのオペレータロボット「レプラコーン」の悪口が飛ぶ。距離はこちらに有利とあわてて連続砲撃するエンガスだが、確実な狙撃のはずが照準を誤り次々と外してしまう。しまったと思いつつ第二射、精度が甘い砲撃だが今度は無事に命中、確かにまだまだ上手くいっていない。
どんきほーても距離を詰めてなんとかびーむを命中、接近してひかるこぶしで一撃を狙う。しかし今度はエンガスが咄嗟の回避行動でこれを防ぐことに成功、戦いながらもようやく宙戦の動きに慣れてきたか。
「あたしのこぶしが光れぇー!」
序盤に不利を被っているどんきほーては好距離を逃さずに攻勢、中距離に離れたところを抜き撃ちのなんとかびーむで牽制してから接近するとひかるこぶしで殴りかかる。防御に専念して懸命に避けるエンガスだが続いてのこぶしは命中、離れてなんとかびーむ、これも命中して戦況は再び五分に戻った。
ここで攻勢を狙うどんきほーてだが、エンガスは高速機動に切り替えて逆噴射から離れるとライトニングボルトを連射、勢いあまって光の壁に衝突したどんきほーてが機体制動を崩した一瞬を狙って接近、ガトリングガンでバランスを崩す。すかさずアウトレンジに離れると完璧にセンサーが捕捉状態になっていることを確認しつつライトニングボルト発射!美しい弧を描いて全弾命中した光の矢がどんきほーての装甲を破壊した。遠距離専念ではなく、距離を揺さぶりながらチャンスを生み出したアウトレンジ狙いが成功したアランがストライク・バック初勝利を獲得。
○ドン・エンガス・カスタム(16分機動停止)どんきほーてえっくす× 22vs-7
トーナメント一回戦 ケルビムMk2vsGMマインレイヤー
GMシリーズ搭乗でおなじみのジムであるが、外見はどこから見てもふつうの兄ちゃんにしか見えない彼が一貫してパイロットに選ばれている、その理由がパイロットに対する何らかの信頼感にあるということは先のメガロバイソン陣営の例を見るまでもないだろう。スポンサーやチームがそこに勝利を求める例もあれば、数ある実験機を乗りこなして適正な実践データを提供することのできる者もいる。ジムの場合であればより後者に近いと思われていた。
「また、ノーマルのGMにMSVザクのバックパックを安直にくっつけてますねえ・・・どっから持ってくるんだか」
格納庫にあるGMマインレイヤーを見て、もはや慣れましたという風情のジム。だがそれも搭載された兵装の詳細を見るまでのことだった。近距離装備、散布機雷。中距離装備、散布機雷。そして遠距離装備も散布機雷。距離を問わずひたすら機雷を散布するだけという、あまりにも特殊すぎる仕様である。
「相手の攻撃だけじゃなく、自分のバラまいた機雷をも避けろっていうんですか・・・まあ何とかしてみますか」
もはや今更という感で、あきらめ顔になるジムだが自分で特異な戦場を設定して戦うとあれば興味がないわけでもない。ようは相手を引き込めるかどうかであろう。その対戦相手となるのは若きベテラン、剣天使シャル・マクニコルとケルビムMk2。高速機動と近接格闘の雄である。
まずは中間距離から開始、距離を離したいGMだがケルビムはそれを許さず前進すると接近戦を狙う。だが待ちかまえて散布した機雷が被弾、バランスを崩したところで再び離脱。早くもフィールドには多量の機雷が撒かれ始めていた。
「これを避けるのは骨だな」
どちらが言った言葉であろうか、機雷の海の中を飛来したケルビムはチャイルド・オブ・ファイアの一撃を狙うが、大幅に移動の制限を受ける中で得意の機動性を発揮しきれない。GMはひたすら効果的な機雷配置のみに専念する一方で、自らそれを避けるべく機体制動を重視。決め手には欠けるがゆっくりとケルビムに出血を強いる。恐れず攻勢に出るケルビムだが鉄壁のGMは初撃を回避、二撃目はシールドで弾くと更に守勢を堅持。開始10分まで一方的なGMマインレイヤーのペースで展開するが、ケルビムが被弾したダメージも未だ軽微でしかない。
幸い機雷の火力は烈風銀河の装甲でも恐れることはない、そう判断したケルビムはより積極的な攻勢にシフトするとついにチャイルド・オブ・ファイアを命中。大きな損害を与えるがその瞬間、GMから自動位相捕捉をした機雷が射出されてケルビムの装甲に打ち込まれた。マインレイヤーにはレーヴァティンシステムを応用した機雷による自動反撃システムまで搭載されていたのである。ここまで来ると大した徹底ぶりであった。
迂闊な攻勢に出ることができなくなったケルビムだが、自機の周囲は機雷に埋められておりこのままでは失血死は確実となる。あくまで兵装の火力ではケルビムが勝る、自動反撃を承知で再び攻勢に出た炎の天使はいくつもの機雷を被弾しながらも加速、いったん離れてサウザンド・アローを狙うがこれは外れ。接近して離脱、再びサウザンド・アローを発射して今度は装甲をかすらせる。損害は軽微だがこれでわずかにバランスを崩すGM、だが機雷の海の中であればわずかなバランスが致命的な隙につながらないとは限らないだろう。
「見えたっ!」
機雷原の中をジグザグに高速疾走するとそれらをかいくぐり、多量の熱エネルギーを放射したチャイルド・オブ・ファイアがGMを直撃!更に続けての突進も直撃してこの二発でケルビムは戦況をひっくり返す。三撃目はガードされ、自動機雷の反撃も受けているケルビムだが高出力エネルギーの衝突はそれ以上にGMの装甲を激しく削っていた。
こうなると決め手に欠けるGMには効果的な反撃ができず、距離を離してもサウザンド・アローで狙撃されてペースを掴めず、30分が経過してタイムアップとなりケルビムが逆転勝利を収めた。
○ケルビムMk2(30分判定)GMマインレイヤー× 12vs-7
トーナメント一回戦 トランス・バイパーvsオーガイザー
「うん?スカーレットかい、知らないなあ」
戦闘機乗りのネス・フェザードは、ロストヴァ・トゥルビヨンなどと同じく軍の出身者である。無論、その系統の知り合いや知識は持っている訳だが彼もやはりスカーレット社の存在についてはこれまで聞いたことがなかった。すると、ありえる話としてはどこかが出資して設立した新興企業であろうか。いずれにせよ兵器は兵器であって機体は機体である、今回、騎乗するトランス・バイパーもそのスカーレット社謹製Xiフォースをベースにしてはいるが、その点で彼が気にするところはない。
一方で対戦する無頼兄・龍波とオーガイザーは自らの機体に対するこだわりが強く、ある意味では新興企業の機体など気にしていても仕方がないというところか。彼は彼のコンセプトをただ一心に追求するのみであった。
「ガァイ・ブレイザー!」
両者接近戦から開始、初弾から必殺ガイブレイザーを放つとこれを直撃させて先制するオーガイザーだが、バイパーの鱗めいたメタルスケイルの装甲は熱エネルギーを展開すると、集束しなおして反射する。レーヴァティンシステムで多少の反撃を得たところで距離をとって体勢を立て直し、バイパーはフレイファング、オーガイザーはガイフレアーと両者性能の似た熱放射砲を放つがどちらも命中せず。熱エネルギー系兵器は強力な一方で、一部を除けばどうしても精度が甘くなりがちなのは仕方のないところだろう。
その後も互いに砲撃が続き、どちらも好機をうかがっているがそのきっかけが掴めない。だが業を煮やして攻勢に出たのはやはり漢の機体オーガイザー、バイパーのビームドリルをかいくぐってガイブレイザーで突進、直撃はしないが力ずくで優勢に立つ。
またも両者離脱、炎の舌を振り回しながら近接戦の機会をうかがう。斬り合いのような攻防に、観客席には不思議な静けさが漂うが、たとえ大歓声が起こっていたとしても今の両者には届かなかったであろう。再び加速すると両機が正面から接近、一瞬交叉して離れるが、ガイブレイザーの一撃で被弾したのはまたもトランス・バイパー。
勝機を見たオーガイザーは出力最大で攻勢に移るとガイフレアーを放ってから炎の舌に続くようにして突進、ブースト加速しつつガイブレイザーで激突する。出力を上げてこれを正面から受けたバイパーだが、オーガイザーは熱暴走も承知で全身をエネルギー・フィールドで包んだまま突進した。
「ブースト!ガイ・ブレイザァーッ!」
反撃に削られる装甲も無視して突撃前進、ついにバイパーの装甲が負荷限界を超えて崩壊すると機動停止する。強硬すぎる正面突破戦法でオーガイザーが一回戦を突破。
○オーガイザー(17分機動停止)トランス・バイパー× 25vs-2
トーナメント一回戦 とら猫たーぼJ9vsトータス号・死神の子守歌
今大会では参加者が13名登録されているために、3名がシード登録されて一回戦が全5試合設けられている。その5試合目の参加となるのがKUSUNOTEC代表山本いそべにとら猫たーぼJ9と、対するはコルネリオ・スフォルツァと狂わせ屋女史率いるトータス号陣営。
「うちがXiフォースを使わないでどうするね」
という白河の狂わせ屋女史の命によって、当然のようにXiフォースをベースに設計されたトータス号・死神の子守歌。様々な設計が行われるトータス号だが、共通するのは強力極まる兵装を如何にして相手に直撃させるかという、その一点に集約された設計理念でありKUSUNOTECには鬼門とも言える相手である。
両機射出、中間距離から開始。まずはとら猫たーぼが右腕に構えた剣菱銃器店考案めだかバルカンを発射するが、挨拶代わりという程度かこれは命中せず。いったん離れると、とら猫たーぼに搭載されている簡易カタパルトから8体の小型兵装が射出された。「8ぴきのねこ」と称する、新開発の遠隔攻撃兵器である。
「さぁみんな、ご飯の時間だー!」
多少演出過剰気味に、気合いを入れて8ぴきのねこが小型砲塔を開くとレーザーが放たれる。かるかんディスクシステム(SET SIDE B)と呼ばれるナビゲートAIが一部操作を代行するが、基本はあくまでゲーム機然としたパッドで操作。1ドット1フレームまで操るという精密砲火は出力こそ劣るがトータス号に命中すると装甲を削る。反撃のスペクトルG光線はとら猫たーぼが当然のように回避、その機動力は相変わらず健在のようだ。
距離を詰めて近接戦を狙いたいトータス号は前進、だがとら猫たーぼはめだかバルカンで牽制すると再び遠距離戦に移行、だがここでスペクトルG線銃が命中する。直撃こそしないが装甲の薄いとら猫たーぼは相応のダメージ。とら猫たーぼもここで接近を許さず8ぴきの猫で反撃するとダメージを奪い返し、今度はスペクトルG線銃の狙撃もきっちりと回避した。ここまで展開はほぼ互角だが、手数でとら猫たーぼが優位。引き続き遠距離での撃ち合いとなり、火力こそ劣るが8ぴきの猫が確実に砲撃を続けてトータス号の装甲を削る。
ぴろりろりろん。
ここでとら猫たーぼの追尾センサーもトータス号の捕獲に成功、おなじみBBSと呼ばれるコクピット内に電子音が鳴り響いた。それはパイロット操作による狙撃の他に、機体の持つ自動フィードバック機能がトータス号を捕捉したということであり、攻撃の精度が飛躍的に増大するということである。
絶好のチャンスに8ぴきのねこはぐるぐるとレーザー発射、更に精度を上げた砲火は装甲の弱い箇所に集中して威力を増す。だがここで反撃の機会を逃さなかったトータス号のスペクトルG線銃も直撃!とら猫たーぼの優位は動いていないがトータス号も譲らず、前進するとようやく接近戦に移行する。
(HORNET・FORCE)
今大会初となる、試合中のXiフォース変形。驚くほど滑らかな動きでトータス号の両腕と胴体のユニットが変形すると、タイムロスもなく高エネルギーモードに切り替わった。その動きに一瞬、とら猫たーぼに乗るいそべは奇妙な既視感を覚えるがトータス号の「蜂に刺されて五人目が」攻撃、すかさず回避すると中距離に戻してトータス号も元の形態に変形する。見たところ変形システムの不備はないようだが、それを活かすことは別の問題であった。
中距離から遠距離まで戻したとら猫たーぼはめだかバルカン、8ぴきのねこと堅実な攻勢を持続。だが開始16分、わずかな砲撃の隙を突かれてトータス号のスペクトルG線銃がとら猫たーぼを直撃した。激しく機体が揺れるがどうにか持ちこたえ、両機の損害も未だにとら猫たーぼがわずかに優位となっている。その後は両者が互いに距離を取り合うが、有効な攻撃にまで移行することができずに10分以上の時間攻防を続けた後にタイムアップ。僅差のままとら猫たーぼがトータス号を振り切り、一回戦最後の勝ち上がりを決めた。
○とら猫たーぼJ9(30分判定)トータス号・死神の子守歌× 22vs18
トーナメント二回戦 メガロバイソン5vsドン・エンガス・カスタム
「バイソン5が好成績を上げたら、わしらは二軍落ちかもな」
整備帽に手をかけて、軽く肩をすくめるようにしてメガロバイソンチームのメカニックであるザム・ドックはつぶやいた。アリー・イマイは実験的なものと言っていたが、予算委員会の思惑は明白で要は互いに対抗馬を出して競合させようという狙いだろう。それがザムのひいき目であったとしても、パイロットのマックもオペレータのメージもけっこうな仲間であるし、少なくとも彼らにはメガロバイソンに対する愛着を感じることができる。
「所詮機械は人間次第だ。作る奴、使う奴、直す奴が信じてやりゃあ応えてくれる」
古めかしい人間であるザムとしては、新パイロットのダルガンには好意を抱きようもないのだが、もともと彼は新参者に無条件で好意を抱くような人間でもない。一回戦を終えてもヘルメットを取らず、あいかわらず何を考えているか分からないが帰還後の整備は真面目に行っているし腕も悪くないように見える。アリーの小娘が言うとおり、しばらくは様子を見るしかないだろう。愛想が悪いことについては、ザムにしてもとやかく言えた義理ではないのだから。
「相手は一回戦を見る限り遠距離主体、せっかくのXiフォースなんだから近距離主体で押し切れるわよ」
「・・・」
果たしてオペレータの言葉が聞こえているのかどうか、カタパルトから発進したメガロバイソン5の二回戦はアラン・イニシュモアとドン・エンガスが相手となる。両者遠距離からバイソン5はムラクモオロチ・改を一斉発射するがエンガスはこれを全弾回避、反対にライトニングボルトを炸裂させて損害こそ軽微だが先制攻撃に対する反撃を許してしまう。通信回線にアリーの怒声が響くがそれすらも届いているかは不明だ。
接近して中間距離からエンガスがガトリングガンを発射、これを命中させるとまたも遠距離に移行してライトニングボルトで追い打ちをかける。序盤から一方的な攻勢で気をよくしたアランはここで足を止めて最大出力による一斉射撃を図ったが、聞こえてきたのはオペレータロボット「レプラコーン」の罵声だった。
「サァーック!撃ち合いは・・・」
下品な叫びと同時に一斉発射されたライトニングボルトが周囲を飛び交うが、その隙間を縫うようにしてムラクモオロチが飛来すると大蛇の顎がエンガスの薄い装甲に次々と突き刺さった。これまでの優位もありバイソン5が追い詰められている状況は変わらない筈であったが、一撃の損害率が50%を越える砲撃はパイロットに大きなプレッシャーを与えずにはおかない。続けての砲撃も直撃を受けると、エンガスの装甲もバイソン5と同様にアラームを出し始めた。
ここで攻撃は最大の防御とばかりにエンガスがライトニングボルトの一斉発射、バイソン5も正面からムラクモオロチを解き放つと複数の光条が宇宙空間のフィールド内を飛び交い、相手の装甲に突き刺さる。あまりに強力すぎる砲火に一瞬で互いの装甲が吹き飛ばされて双方機動停止。判定となるが正面からの撃ち合いで装甲の薄いエンガスがより多大な損害を受けて無念の敗北。バイソン5が二回戦突破に成功した。
○メガロバイソン5(7分判定)ドン・エンガス・カスタム× -6vs-15
トーナメント二回戦 ジャイルーカーラインvsケルビムMk2
二回戦も第二試合目になって、いよいよシード選手が搭乗する。遠距離戦闘のベテランにして過酷なコクピット環境下における優れたパイロット適性を持つというテスターことテムウ・ガルナは今回、可変機体であるXiフォースをベースにした妖精王妃ジャイルーカーラインで参戦。相手は得意の高速機動戦術で機雷の海を乗り越えた炎天使ケルビムとシャル・マクニコル。
まずは炎天使の領分である近距離戦闘から開始、全身に熱エネルギー・フィールドを展開するケルビムに対してXiフォース機の変形が行われるが、
「こいつ近接兵器積んでねーじゃん!」
機体設計をしたというWDF社のミスであろうか、恐るべき事実に戦慄するテムウにケルビムのチャイルド・オブ・ファイアが襲いかかる。これで思わぬ先制を受けるがすぐに離れるとスパークショット、牽制すると遠隔距離へ移行する。
(CLUSTER・FORCE)
妖精の長弓を思わせる狙撃形態、更にスラスター部も変形すると高加速で距離を取ってからデジョンクラスターの砲撃で反撃に移る。多少のアクシデントをパイロットの臨機応変さで補ってしまう、テムウの恐ろしさはシャルもこれまでの対戦で自覚していた。更に接近、スパークショットで牽制すると離れてデジョンクラスター、妖精王妃の高出力の砲火が連続で襲いかかり圧倒される炎天使。サウザンド・アローで反撃を試みるが効果は少なく、距離を詰めることができないままにデジョンクラスターの砲火を浴び続け、開始10分で完全に一方的なペースとなってしまう。
なんとか粘って反撃から逆転を図りたいケルビムは再びサウザンド・アローで牽制、今度は接近に成功するとチャイルド・オブ・ファイアを展開。相手に反撃の目がない近接格闘戦で押し切るべく攻勢に出るが、その瞬間テムウはジャイルーカーラインの設計思想を理解した。
(FIELD・FORCE)
プログラムの作動と同時に、両腕を広げた妖精王妃がスラスター部を展開するとシールドに変形。遠距離戦を得意とするジャイルーカーラインの変形は、近距離では防御専用に用いられるのだ。炎天使の一撃が正面から直撃するが、展開されたシールドはその損害を最小限に抑えてしまう。厳しい状況に追い込まれたケルビムだがそれでも攻勢の手をゆるめず、炎の子で攻撃すると離れてサウザンド・アロー。少しずつ装甲を削るがジャイルーカーラインが遠距離戦に戻したところでデジョンクラスターが炸裂し、炎天使を撃破した。
○ジャイルーカーライン(21分機動停止)ケルビムMk2× 24vs-4
トーナメント二回戦 ジューンブライドvsオーガイザー
そして登場するのは前大会優勝者である「中距離の女王」ロストヴァ・トゥルビヨン、軍出身の戦闘機乗りであり、典型的な「腕を買われている」タイプのパイロットである。その手腕は意外に派手さがなく慎重だが、崩れることもないために一方的にペースを握られて敗戦する例もほとんどない。対戦者にすれば必ず苦戦を覚悟しなければならぬ、最も厄介なタイプの相手となるだろう。
「まったく、発育不全の子供が妙齢のお姉さんをつかまえて」
どこから伝わったのか、山本いそべのロストヴァおばちゃん発言を聞いたらしい彼女は不機嫌を隠すのに苦労していたが、それとは別に彼女には気になっていることがあった。大会前に「ソードフィッシュ」ネス・フェザードから聞いていたスカーレット社について、彼女なりに調べていた中で興味深い情報が一つ入ってきたのである。
「出資のほぼ全てがレジテックとその配下の難波系ダミー会社・・・きな臭いったらないわね」
レジテックといえばストライク・バック大会のスポンサーであったが、技術動向に問題があるとして先日来査察が入っている企業である。スカーレットとの関係は設立に関連する出資のみであって、役員や従業員の流れは一切ないこと、医療機器の開発を主体とするレジテックに対してスカーレットの主な事業は海運業という、莫迦にしているとしか思えないほどに徹底した関連のなさも彼女の目にはかえって不愉快に映っていた。
とはいえ、きな臭いというだけで追求はできないしロストヴァにしたところで一介の雇われパイロットでしかない。大会スポンサー企業の裏を気にする前に、大会の対戦相手を気にしなければならないのだ。相手はオーガイザー、タフネスには定評のある難敵である。
対戦は中間距離から開始、ロストヴァは先の優勝機である黒衣の貴婦人に乗り替わって、今大会は純白の機体ジューンブライドに搭乗。得意の間合いからサムシングフォーを放ちこれを確実に命中させる。機体は愛用するドラグーン系、装備は件のスカーレット製だが使い勝手は悪くない。
オーガイザーは接近、ガイブレイザーのチャージに入るがジューンブライドも接近戦からブレイジングブーケで攻撃、これは外れるが双方が互いの距離で攻め手を持っているために気を抜くことはできない展開となる。後退してジューンブライドがサムシングフォー、連続しての砲撃で早くも一方的にペースを握る。オーガイザーが誇る漢の装甲、魂鋼も連続放火に晒されては無傷という訳にはいかない。再び接近するもブレイジングブーケで迎撃されて攻勢に移れず、やはり距離を離されてサムシングフォーで削られる展開が長く続く。
「負ァけられっかよォーッ!」
力強くコクピットで叫ぶと、捨て身の突進からオーガイザーはガイブレイザーで特攻、これが遂に命中すると一撃でジューンブライドの機体を激しく揺さぶる。脳まで揺れるかという衝撃に、渾身の力で操縦竿にしがみつきながらロストヴァは悪態をついた。
「生憎・・・綱渡りは慣れてるのよね!」
一気呵成の攻撃を前に、ジューンブライドは当然のように距離を離す。そこを狙ったオーガイザーはガイフレアーを発射、連続で命中させて損害を与えるが六月の花嫁は意に介さず、そのままの距離でサムシングフォーを連続射出するとオーガイザーの魂鋼を砕いて遂に機動停止。ジューンブライドが序盤の優勢を存分に活かして勝ち上がった。
○ジューンブライド(28分機動停止)オーガイザー× 26vs-1
トーナメント二回戦 ふわふわエターニアvsとら猫たーぼJ9
「志津香さーん、オペレータAI間に合いましたよ!」
「まあ。ありがとうございます〜」
呑気で陽気な返答をメカニックに返しているのは静志津香、前大会ではオペレータを同乗させる複座式コクピットを希望していたのだが間に合わずに断念、ならばといっそAIを搭載した小型ロボットを用意してそれを乗せたいと言い出したのである。エターニア機の天使の羽根を再現した技術力には定評があるメカニックの自信作は「ホリィ・エンジェル」と名付けられた、天使というよりも妖精を思わせる小型の人型ロボットである。
「よろしくです〜」
まだプロトタイプということで、人形のような天使は背中にソケットのついた一本のコードを垂らしているが、妙にパイロットと波長の合いそうな口調と思考ルーチンを組むのにとにかく苦労した、とは開発者の弁だ。両者組んでの初陣、相手は烈風にして銀河であるとら猫たーぼJ9と山本いそべ。
中間距離から開始、同時にタイミングを合わせてニードルガンで狙撃するエターニアだが、とら猫たーぼはこれを当然のように回避する。挨拶代わりの奇襲はエターニアの動きの良さを現していたが、双方とも狙うは遠距離戦である。申し合わせたように両者は距離を置くと、視界を埋め尽くすような多量の光条を射出する。エターニアは自機を中心とした自己反射による軌道制御式のレーザーを、とら猫たーぼは分離された小型兵装「8ぴきのねこ」がそれぞれ搭載したレーザー砲を解き放った。
「右右左右左左うえ〜」
適当に指示をしているように見えて、コードをエターニアのメインセンサーに直結したホリィ・エンジェルは的確な指示を飛ばしている。本体AIメモリーの殆どを思考ルーチンに費やしてしまったので、オペレータ機能はすべて外付けでエターニア本体に設置せざるを得なかったという、本末転倒に思えなくもないシステムであった。
そのホリィ・システムの発想は悪くなかったのだが、情報が細いケーブルを通る間にわずかなタイムロスが起こるという問題は避けられない。エターニアが連続発射するロックオンレーザーを完璧に回避した猫たーぼは8ぴきのねこが反撃、これが命中して先手を取られてしまう。エターニアもすぐに相対座標を合わせると、相手のわずかな隙を狙ってロックオンレーザーを当てるがその瞬間、8ぴきのねこのうち2匹が奇妙な反応をすると猫たーぼ本体の左腕装甲に取り付けてあったリフレクターが反射エネルギーを伝送した。
「ちゅーちゅーばうす、今回の隠し味ぃ!」
レーヴァティンシステムによるまさかの反撃、これでペースを乱されたエターニアは続けてロックオンレーザーを完全回避されると撃ち合いを狙われて装甲を削られる。正面から攻撃重視の撃ち合いでなお、殆どの弾道を避けてしまうのは超高機動機、猫たーぼの本領発揮か。
戦況は一進一退、わずかに猫たーぼが優位という程度の状況だが、エターニアがシールド展開してレーザーを弾くよりも猫たーぼが高速機動でレーザーを避ける率の方が圧倒的に高い。エターニアの反撃も時折命中するが、それでは一点集中によるメガクラッシュ発動の出力には足りないのだ。こうして猫たーぼ優位の撃ち合いが長く続くが、開始15分。
「ひーふーみーよー、いっつむー。合いましたわー」
「めぇがくらっしゅー!」
重力場を生むために自転するステーションの中で、観客席から見ればうずまき状に流れる6本のレーザーがその終着点でただ一点を狙って正確に着弾する。出力を幾何級数的に増大させた高エネルギーは猫たーぼの紙のような装甲を軽く突き破り、一撃で機体の半分をそぎ取った。リフレクターの反撃を受けるのも構わず、エターニアはもう一度ロックオンレーザーを構えると発射。すでに機動停止寸前だったとら猫たーぼはこれを完全に避けきることはできず、そのまま装甲が破壊されて撃墜される。一瞬の逆転劇によってふわふわエターニアが準決勝進出を決めた。
○ふわふわエターニア(16分機動停止)とら猫たーぼJ9× 10vs-1
トーナメント準決勝 メガロバイソン5vsジャイルーカーライン
「なかなかいい成績じゃないの」
アリー・イマイの言葉には多少の皮肉が入っている。確かに接戦あるいは苦戦こそしているが、二勝して準決勝進出という状況は立派なものだろう。ただ、アリーにすればこうもオペレータとしての指示を無視されて気分のよかろうはずもなかった。しかもパイロットのダルガンはあいもかわらずフルフェイスのヘルメットを被ったままであって、何を考えているかも分からないのである。
「はーあ、これならメージちゃん呼んどくんだったわ」
正オペレータというべき、天才ジアニ・メージは今回は会場には来ていない。ただアリーの本音はオペレータがどうこうというよりも、彼女がいれば退屈はしないだろうという期待の方が強かったろう。オペレータの言うことを聞かずともきちんと勝っているのであれば、それはパイロットの判断が優れているということでけっこうなことだ。だが、アリーにしてみればそれでは「暇」なのである。
そんな悩みを抱えているメガロバイソン陣営だったが、準決勝の相手はもはや天敵とも言ってよいテムウ・ガルナ。これまでの5大会のうち、通算4大会でバイソンを沈めているのがこのテムウなのだ。それだけ相手が安定した戦績を発揮している強豪ということもあるだろうが、ここでそのテムウを撃破することが叶えば予算委員会に与えるインパクトは絶大だろう。
両者の対戦は中間距離から、ジャイルーカーラインの挨拶代わりのスパークショットは外れ。離れて撃ち合い、ムラクモオロチ・改が装甲をかするが反撃のデジョンクラスターが命中し、更に近づいてスパークショットを当てて妖精王妃が先制する。離れて妖精の弓を連続発射、一方的な展開で開始わずか5分でバイソン5を追い詰める。
「ちょっと!相手の距離を・・・」
アリーが叫んだ瞬間、放たれたムラクモオロチがジャイルーカーラインの装甲に次々と突き刺さって連続着弾!好機とばかりに前進、接近すると近接戦モードでのXiフォース変形が行われる。
(LIONFIN・FORCE)
変形プログラムの作動と同時に、それまで高速機動用に閉じられていたフィンが一斉に展開すると、高出力モードに移行した余剰熱の放出を始める。そのエネルギーを乗せたヒートホイップを振り回して牽制、防御に専念してこれを懸命に避けるジャイルーカーラインだが、相対座標を正面に合わせた瞬間に鋭い先端での貫通攻撃、これが命中して戦況を互角に戻す。
だがここで距離を離したジャイルーカーラインは、デジョンクラスターでバイソン5を振り切ろうと図る。砲撃の出力では相手に利があることを承知していたバイソンは手数で勝負、ムラクモオロチを撃ちまくるが妖精王妃もデジョンクラスターを次々と命中させてバイソンの装甲を削る。やや押されながらも互角に近い戦況で双方の負荷限界が見えた22分過ぎ、両者が隙を狙った砲撃はムラクモオロチとデジョンクラスターの双方が直撃!両機同時に機動停止に追い込まれるが、判定でジャイルーカーラインが勝利。5度目の正直ならずで、メガロバイソンが無念の準決勝敗退となった。
○ジャイルーカーライン(22分判定)メガロバイソン5× -1vs-6
トーナメント準決勝 ジューンブライドvsふわふわエターニア
そして準決勝第二試合はジューンブライドとふわふわエターニアの一騎打ち、前大会決勝戦の組み合わせであり、エターニアにとっては雪辱戦となる対決でもある。
「うーんと。相手がかたいとめがくらっしゅが出にくいから気をつけよ〜」
「りょーかいですわ〜」
早くも息が合っているらしいパイロットとオペレータのコンビに対して、ロストヴァ側はいかにも形式ばったやり取りしか要求しないのは彼女が軍人上がりだからであろう。最低限の指示と時間で機体の状態を確認したら、相手の情報収集に全力を投じてそれを最低限の報告と時間で伝えてもらえれば良いのである。
「OK、アブ?Z位相を3%マイナス・・・」
もはやオペレータの正式な名前も覚える気はないらしいロストヴァだが、得意距離の確保が生命線である彼女にとって機体のコンディションは何にも増して重要であり、彼女の集中を乱すことなく確実なサポートを行えるオペレータであれば最上なのだ。相手はエターニア、明確な得意距離を持つ機体でありどれだけ戦況をコントロールできるかが問われる一戦となる。
入念なオペレータの計算が実を結んだか、相対距離は中距離で開始。ジューンブライドが気前良くサムシングフォーを放ち先制するが、エターニアもガードして直撃は避けたために損害は軽微。エターニアも離れてロックオンレーザー、だが一撃が命中しただけではエネルギー集束には遠い。続けて砲撃、これもわずかに命中するが双方ともに様子を窺う状態。
「ひーふーみー、センサー捕捉ぅ」
「うてーっ!」
連続砲火でジューンブライドとの相対座標を懸命に掴んでいたエターニアが再びロックオンレーザー、完全とは言えないが数発命中させると戦況が動き始める。被弾しながらも思い切った突進から距離を縮めた六月の花嫁がサムシングフォーを発射して反撃、続けての砲火も命中させて優位に立つ。
今度は離れてエターニアがロックオンレーザー、ジューンブライドもヴァージンロードを放ち反撃するが手数と精度でエターニアが上回る。双方が撃ち合い開始12分、互いの砲火が交錯して直撃する。
「めがくらっしゅ140%です〜」
一点集中によるエネルギー集束を狙うメガクラッシュシステムだが、基本出力が劣るために140%ではまだまだ低い。相手の装甲値にもよるが、あと一本が抜ければそこから幾何級数的に破壊力が増大するのだ。
ここで押し切れずに接近を許したエターニアはニードルガンで狙撃、牽制するが遠距離に戻せずサムシングフォーを受けてしまう。コクピットにアラームが表示されるが辛うじて離脱、ロックオンレーザーをこれは牽制で放つが「中距離の女王」はここを勝機と見て前進、容赦なくサムシングフォーを連続発射!だがエターニアは防御に専念すると当たれば致命となる砲火の全てを完全回避に成功した。開始20分が経過、またも距離を離したエターニアはロックオンレーザーを射出するが回避される。続けての砲撃をかいくぐってジューンブライドが接近、ここを思い切ってニードルガンで狙撃すると直撃させて再び離脱、絶好のチャンスにロックオンレーザーの狙いを定めて解き放つ。
「ひーふーみーよー、いっつむー」
純白に光る六月の花嫁の一点を狙った砲撃が完璧に計算された軌跡を描いて集中、飛来する。だが今度はジューンブライドが全身全霊を賭した回避行動によって致命となる数本の被弾を避けることに成功した。ここで敢えて距離を狙わず、ヴァージンロードを撃ち放ったジューンブライドはその一撃でエターニアの最後の粘りを断ち切り機動停止。二大会連続となる決勝進出を決めた。
○ジューンブライド(26分機動停止)ふわふわエターニア× 5vs-3
NAKAMOTOストライク・バックZ第六回大会決勝戦 ジャイルーカーラインvsジューンブライド
「OK、アブ。システムオールグリーン・・・オヴァ?」
第6回トーナメント決勝戦はロストヴァ・トゥルビヨン騎乗のジューンブライドに対するテムウ・ガルナとジャイルーカーラインの激突、いずれも勝率5割を越える強豪同士の一戦である。新スポンサーであるスカーレット社が提供する可変機Xiフォースは今のところその性能を存分に発揮できているとは言いがたい面もあったが、テムウ騎乗のジャイルーカーラインもXiフォース機でありこれまでの動きは悪くない。何よりその滑らかな変形能力は観客の注目を大いに集めていた。イプシロン2フレームの影響もあるのだろうが、戦闘にほぼ影響を与えないスピードで可変機構を動作させるシステムが可能だとは誰もが想像しなかったのである。
(CLUSTER・FORCE)
カタパルトから打ち出されたジャイルーカーラインが変形、高速機動用のスラスターを展開すると同時に妖精王妃の長弓を構える。対するジューンブライドは純白の機体を駆って飛来すると両者対峙、決勝戦が開始された。
中間距離から撃ち合い、ジャイルーカーラインのスパークショットもジューンブライドのサムシングフォーも外れるが、両者とも牽制によって相手との相対距離を掴み、捕捉する隙を窺っている。反応が良すぎるとされる新フレームで、すでにその特性を活かした戦いを実践している手腕は彼らの技量の証明というべきだろう。離れてデジョンクラスターの一撃で妖精王妃が先制、だがこれは掠ったのみで殆ど損害を与えていない。
「最初の一つはSomething・New、新しい祝福を」
演出気味に呟きつつ、仕掛けたのはロストヴァ駆るジューンブライド。中間距離を狙って飛び込むとスパークショットで狙撃されながらもサムシングフォーを打ち込んで命中させる。ジャイルーカーラインもすぐに距離を離してデジョンクラスター、確実に命中させて戦況を五分に戻した。一瞬、コクピットで舌打ちしかけるロストヴァだがすぐに体勢を立て直すと再接近を敢行。
「次の一つはSomething・Borrow、腹心の友を愛せよ」
再びサムシングフォーを解き放つがジャイルーカーラインもスパークショットで反撃、相打ちに近い状態となって戦況は互角のまま変わらない。だが今度は距離を離そうとする妖精王妃の動きを遮って、ジューンブライドが三度目の攻勢を試みた。
「三つ目はSomething・Old、古き謙譲の心を込めて」
リズムを取りながら連続攻撃、四つの砲火が妖精王妃を直撃して装甲の半ば以上を吹き飛ばす。一瞬前まで互角だった筈の戦況は、今では六月の花嫁が巻き返すと妖精王妃を追い詰めていた。遠距離戦に逃れるジャイルーカーラインだが、ジューンブライドはヴァージンロードで追撃、だがここで引き絞られた妖精の弓が放たれるとデジョンクラスターの軌跡が矢となって六月の花嫁に突き刺さる。続けて二射、三射、四射、五射・・・宇宙空間では派手な音こそ聞こえないが、それ以上に派手な光芒と衝撃が踊りジューンブライドの装甲を破壊寸前まで叩くと、気がつけば両者ともに機動停止寸前の状況となっていた。次に安定した一撃を受ければそのまま沈む、この状況で当然、ロストヴァは引くことなく最後の一撃を狙って信頼する中間距離へと前進する。状況によらぬ冷徹なまでの操縦能力、それを実現する自己コントロール能力こそが彼女の真骨頂である。
「最後の一つはSomething・Blue・・・純潔を証明する!」
そして放たれたの一撃がジャイルーカーラインを直撃し、これがとどめとなって妖精王妃は機動停止。ロストヴァ・トゥルビヨンが実力を見せて二大会連続の優勝を成し遂げた。
○ジューンブライド(21分機動停止)ジャイルーカーライン× 4vs0
成績 パイロット 機体名 オペレータ 戦績
優勝 ロストヴァ・トゥルビヨン ジューンブライド アブ 3戦3勝通算14戦10勝
準優 テムウ・ガルナ ジャイルーカーライン 登戸とき子 3戦2勝通算16戦10勝
3位 静志津香 ふわふわエターニア ホリィ・エンジェル 2戦1勝通算12戦06勝
3位 ダルガン・ダンガル メガロバイソン5 アリー・イマイ 3戦2勝通算12戦06勝
5位 山本いそべ とら猫たーぼJ9 かるかんDS 2戦1勝通算13戦09勝
5位 無頼兄・龍波 オーガイザー AI・鬼牙(きば) 2戦1勝通算10戦05勝
5位 シャル・マクニコル ケルビムMk2 アポカリプス 2戦1勝通算09戦03勝
5位 アラン・イニシュモア ドン・エンガス・カスタム レプラコーン 2戦1勝通算03戦01勝
9位 ネス・フェザード トランス・バイパー カーネル 1戦0勝通算07戦04勝
9位 ジム GMマインレイヤー ネモ 1戦0勝通算10戦05勝
9位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号・死神の子守歌 牧さん 1戦0勝通算11戦05勝
9位 ベアトリス・バレンシア にゅう・どんきほーてX 謎のインド人 1戦0勝通算07戦01勝
9位 神代進 ミートボールボール 牛頭 1戦0勝通算06戦00勝
−− ウテルス・シンドローム −−− −−− 0戦0勝通算04戦02勝
−− ジュンペイ・カニンガム −−− −−− 0戦0勝通算01戦00勝
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