logo 第七回大会
 巨大な青い惑星を背景にした、無重力の宇宙空間を一体の汎用人型機が疾駆している。その場所は地球の重力圏から脱した宙域であり、衛星軌道を外れた周辺区域には意図的かつ慎重に配備された障害物が漂っている。地球を巡る数々の人工衛星に衝突したり、地表に落下するようなことがあれば国際問題にもなりかねず、厳密に規定された区画と時間においてそうした航行が許されていた。
 機体はごく標準的なドラグーン機であり、外装もごく控えめでカラーリングすらされてはいない。見る者が見ればそれがかなり旧式の機体であることは、肩のあたりに描かれている汎地球連邦軍のマーキングや機体番号の形式から見ても分かっただろう。それはロストヴァ・トゥルビヨンが彼女の出身である軍から払い下げて、宙航用に換装してテスト飛行に用いている愛機「シンプルトレジャー」であった。もとは彼女が士官時代から乗り回していた訓練機であり、操縦竿の一本にいたるまでが所有者の手に馴染んでいる逸品である。世にドラグーンは数あれど、これだけバランスの取れた機体はないとファンの多い事でも知られている機種であり、競技専用のストライクフレームとはまた異なる、彼女のモデルであった。

「位相ベータマイナス3.0・・・誤差が大きいわよ?」

 時折混じるノイズの中を無線回線を通じて、指示を送る。宇宙空間ではストライク・バックの競技用フィールドとは異なり、不確定な要因が機体制動の一つすら阻害する。だが彼女のような戦闘機乗りにとって、それが心地よいスリルと緊張感を生み出すことは地上であろうと宙空であろうと変わらない。
 彼女の周囲を漂流する障害物には重力位相に干渉して座標を変更する性質が組み込まれており、自動追尾システムのような働きをする。自然な慣性の制動によって機体をローリングさせながら、暗闇を縫うようにして飛行する様はそれが無機的な金属と機械のかたまりであるという印象を与えなかった。

 彼女と彼女のチームがこうした訓練飛行を行うことは別段珍しいことではなかった。パイロットによってはシミュレータを好む者や、実戦に近い競技フィールドを利用する者もいるが、職人気質のロストヴァは慣れ親しんだ愛機の操縦竿を握ることに強いこだわりと誇りを持っている。彼女は飛行しつつオペレータに補正指示を与えながら、予期できぬ環境に即応するための彼女のアルテを作り上げるのだ。

「・・・近・・・を・・・」
「オヴァ?ノイズが酷いわ、もう一度・・・」
「・・・接近・・・波形確認、緊急回避を!」

 突如、ロストヴァの背後から光エネルギーの筒が飛来して襲いかかる。シンプルトレジャーは咄嗟の動きでこれを回避するが、彼女自身が後に思い返してもそれは幸運の産物でしかなかった。砲撃に続けて、全身に鏡面装甲を施した機体が接近すると腕部に格納されたレーザーメスを展開する。
 宇宙空間での活動には多くの規制と管理が行われているのが常識であり、一般宙域で兵器を持って飛行するなど本来ありえないことだったが、問題はロストヴァが目の前の現実に対して反撃する手段を持っていないということである。だが彼女の最悪の予測は当たらず、襲撃者は最大加速を続けると交戦せずにその場を通り過ぎて急速離脱してしまった。オペレータが安否を確認する声がコクピットに響き、通信が回復したことを理解するとロストヴァは不愉快寸前の声で返信を送った。

「ストーカーは逃げていったわ・・・若い娘に夜道は禁物ね」


トーナメント一回戦 メガロバイソン5vsドン・エンガス・カスタム


 2006年12月、人型汎用機同士による格闘競技「ストライク・バック」第七回大会。前回優勝者であるロストヴァ・トゥルビヨンが訓練中に未確認機に襲撃された、そのニュースは参加者間でも話題となっていたが、相手の素性も行方も一切が不明のままであるという状況は変わっていなかった。

「なんか、やーな話よねえ」

 宇宙ステーション「アストロボーイ」内の移動式通路の上で、発進ブースに向かうアリー・イマイは腕を組んでいた。メガロバイソンチームは前大会での好成績を反映して再びバイソン5で登場、アリーにとってそれは例の無愛想なパイロット、ダルガン・ダンガルと再び組むということでもあった。もちろん、無愛想というのは単に個性の問題であるが、無愛想のあまり自分の指示を聞かないとなれば話は別である。アリーは隣りに立っている、ヘルメットで顔の見えないパイロットに念を押していた。

「いーい?今回は攻勢主体、あたしの言うこと聞いてよね」
「・・・それは責任の一端はお前が負うということだな?」

 アリーがダルガンの声を聞いたのはそれが初めてであったが、よりにもよって人を莫迦にした物言いである。そんな連携に不安なしとしないバイソンの相手はアラン・イニシュモアとドン・エンガス・カスタム。アリーの記憶では新興ながら攻勢を得意とする、プレッシャーの強い相手である。
 試合は変形機能を備えたメガロバイソン5に対するは高機動機のドン・エンガスの激突。近接格闘戦で高出力モードを維持し、一気に制圧するのがアリーの作戦だったが相対距離は遠距離から開始。すかさずエンガスがゼロ・ウイングを展開する姿を見て、アリーは自分の計算違いを理解して小さく舌打ちする。接近すれバイソンの有利は動かないが相手の機動力はそれを許そうとしないであろう、だがバイソン5とて遠隔砲撃を不得意とする機体ではないのだ。

(MEDUSA・FORCE)

 バイソン5が変形と同時に多門砲塔を開くとムラクモオロチ・改が一斉発射、複数の光条が襲いかかるがエンガスは初手から防御に専念してこれを華麗に完全回避する。更に反撃のリヴァイアサンがバイソン5の装甲を舐め、ダメージ軽微ながら逆転先制に成功した。気をよくしたアランはエンガスのコクピットで余裕を見せている。

「弾を避ける様も極めれば芸術になるな」
「寝言はシット・サァーック!来ぅるゾォ!」

 D型毒舌機能付きオペレータ・ロボのレプラコーンが警告した瞬間、ムラクモオロチの砲火がエンガスに直撃!機体が激しく揺さぶられると一瞬で四割近い装甲ダメージを受けてしまった。攻勢策が当たったバイソンは更に砲撃、危険を察して防御に専念したエンガスはこれを確実に避けると高出力のリヴァイアサンで反撃の火を命中させる。攻勢が途絶えてからバイソン5がムラクモオロチで反撃、これは命中せずエンガスが直撃の不利を取り戻して双方ほぼ互角の状況となった。
 開始6分、互いに足を止めて相対座標の捕捉を図る。撃ち合うムラクモオロチとリヴァイアサンの海竜が装甲を叩くが、この状態では装甲の薄いエンガスが不利。だがエンガスは追い詰められつつ相手の砲火を少しずつ回避して優位を渡さない。そして10分、双方が撃ち合いから動きを止めたところでバイソン5が遂に近接戦を狙って前進、だがエンガスは落ちついてガトリングガンを放ちこれを抑えると再び離れてリヴァイアサンでバイソンの装甲を破壊、一瞬の仕掛けを捕らえたエンガスが二回戦へと駒を進めた。

「キッカァース!(レプラコーン・談)」

○ドン・エンガス・カスタム(12分判定)メガロバイソン5× 3vs-0


トーナメント一回戦 どんきほーてたーんえーvsケルビムMk2


 地上戦ストライク・バックの時代から長く参戦しているにも関わらず、ベアトリス・バレンシアの戦績は振るわない状態が続いている。神経が単分子ワイヤーでできていると評判の、能天気なラテン系小娘はそれでも落ち込むことなく愛機どんきほーてたーんえーに搭乗、相手は強敵シャル・マクニコルが駆るケルビムMk2。実はこの試合前、どんきほーて陣営には奇妙な客が訪れていたのだが、ベアトリスはそうした渉外活動にはまるで関与していないために気にもとめていなかった。

「んーんんー?」

 鼻歌混じりに近接戦闘を挑むどんきほーてが、振りまわしたほのおのつるぎでケルビムに大きなダメージを与える。残留する流体エネルギーが装甲を焼くと、思わぬ不利を挽回するべくケルビムはチャイルド・オブ・ファイアの武装装甲を解放して突進。更に離れてフォーウイングス、翼状の放射板から放たれる熱線がどんきほーてを襲って両者ほぼ互角の戦況となった。先制されて不利を受けながら、冷静に戦況を回復するシャルの手腕は見事なものである。
 双方切り合い、一合目は外れるがケルビムが連続してチャイルド・オブ・ファイアの攻勢を行いどんきほーてを追い詰める。続けて一撃、歴戦のパイロットであるシャルの攻めは好機を逃さず容赦がない。離れてほのおのびーむとフォーウイングスの撃ち合いは外れ、ここで業を煮やしたシャルが格闘戦を挑むが、待ち構えたほのおのつるぎが命中するとどんきほーてが反撃を開始。機体にまとわりつく熱エネルギーが滞留してケルビムの装甲を焼き、炎天使は急速離脱を図ると同時に展開した翼からフォーウイングスを放射してこれを振りほどく。だが遠距離戦となったところで狙いすましたほのおのたいほうが直撃!どんきほーてのラッシュに追い詰められたケルビムが近接距離に近づくとほのおのつるぎとチャイルド・オブ・ファイアが交錯。双方の装甲が破壊されて同時に機動停止となるが、ダメージ判定は互角で引き分け再試合が決定。接戦に観客席をどよめきが支配した。

「換装急いで!出るよ!」
「準備おっけー!発進!」

 競技としてのストライク・バックの特徴はストライクフレームと呼ばれる基本フレームに装着される、センサーを埋め込んだ特殊装甲の存在にあり、これが破壊されると双方の機体に安全装置が働いて機動停止するシステムとなっている。これはフレームさえ無事なら装甲を換えるだけですぐに再出撃が可能になるということでもあり、元来は機体の汎用性と競技性を守るために考案されたシステムだが、今では機体の連続使用を可能にするために多岐の分野で応用されている技術だった。
 そして十分程度のインターバルを経て両機ともにカタパルトから射出、試合が再会される。速攻するケルビムがフォーウイングスを乱雑に発射して一発がかするが損害は軽微、らしからぬ安易な攻勢だが熟達の炎天使はここで思い切った戦術変更を試みる。更に接近して攻勢、強引な突進からチャイルド・オブ・ファイアを今度は直撃させてペースを握った。

「さあ、プレッシャーを制するのはどっちだ?」

 距離の取り合いからケルビムが接近、どんきほーてもほのおのつるぎを当てると炎天使の装甲を焼くがケルビムはかまわず離れてフォーウイングスで解除する。再度接近、離脱して砲撃、距離を移して相手を撹乱するオーソドックスな動きから急速接近してチャイルド・オブ・ファイアの突進。強引な攻勢にどんきほーてが機体制動を失ったところで完璧に狙ったフォーウイングスの熱線がどんきほーてを焼いて一気に機動停止。果敢な攻勢で押し切ったケルビムとシャル・マクニコルが練達の戦いぶりを披露した。

△ケルビムMk2(22分判定)どんきほーてたーんえー△ -5vs-5
○ケルビムMk2(再試合14分機動停止)どんきほーてたーんえー× 33vs-3


トーナメント一回戦 トランス・バイパーvsスターダスト・ミラージュ


 ネス・フェザードはロストヴァと同じく軍出身の戦闘機乗りであり、彼女とは旧知の間柄でもある。職人気質の戦闘機乗りにすれば、戦場を離れた場所で背後から襲いかかるという行為自体が許されないものであるが、単純に卑劣さを憤るには彼らは純粋な性格をしてはいなかった。ロストヴァが聖女の如く人に好かれる者だとは思ってもいないとはいえ、不自然な事件に別の目的を疑うのは自然な思考であったろう。

「あの娘さんなら襲われる前にストーカーを刺しそうだがね」

 などと失礼なことを考えつつ、ネスは自チームの発進ブースに入ると無愛想なオペレータのカーネルに軽く手を上げてから、愛機トランス・バイパーのセッティングを始める。相手は今大会初参戦となるジェーン・ドゥが騎乗するスターダスト・ミラージュ。パイロットデータ等一切が不明の選手である。

「機体はドラグーン、装備は全距離型で完全標準・・・こういうのがかえって嫌だねえ」

 コクピットで呟くと操縦竿の握りごこちを確かめるネス。相手の得意も傾向も分からないという状況には、どうしてもやりにくさがつきまとう。ことにベテランは相手の動きを予測することで相対的な強さを発揮するものであるのだから。
 双方近距離から開始、無難に様子を見るバイパーにスターダスト・ミラージュは高周波ブレードF9で切りかかる。これは確実に回避するとバイパーのビームドリルとミラージュのブレードが数度、切り合うが互いに警戒しているためか命中せず。そのまま近接戦を狙うバイパーに距離を離したミラージュがガトリングキャノンを発射、これも外れるが接近しての高周波ブレードが今度はかすってダメージ軽微。中間距離の撃ち合いに戻ったところで10分が経過した。

「・・・参ったわね、こんなに反応が軽いとは」
「誤差最大7パーセントデス、最低3ポイント修正しないト命中しまセン」

 シミュレーションでの予想以上に操作の軽い機体フレームに苦労しながら、スターダスト・ミラージュのコクピットでは落ちついた女性の声とオペレータの機械音声が響いている。ファイ・アビスの指示を受けて機体制動を試みたジェーンは、移動攻撃を図るバイパーにこちらも距離の取り合いを挑むと近距離と中間距離が激しく入れ替わった。だが両者ともに攻勢に移る機会を掴めず、膠着状態のまま空虚な撃ち合いが続く。開始18分、接近したミラージュの高周波ブレードがバイパーを捕らえるがこれを回避、逆にバイパーのビームドリルがかすってわずかに装甲を削る。ここでミラージュは攻勢にシフト、ガトリングキャノンは回避されるが接近して高周波ブレードがわずかに命中、損害はごく軽いが総ダメージで優位に立つ。ここで23分が経過、薄氷の優位ではあるがその後7分間の撃ち合いを粘り切ったミラージュが苦戦ながら初参戦で無事、初勝利を収めることに成功した。

○スターダスト・ミラージュ(30分判定)トランス・バイパー× 39vs38


トーナメント一回戦 ふわふわエターニアvsとら猫たーぼJJ9


 いつもの下町のゲームセンターにて。R−TYPEとサイヴァリアを1コインクリアしていた山本いそべはふと心づくと、日課である右手の鍛錬B−WINGをプレイすることも忘れて立ち上がり、自分の家でもある二階建てのKUSUNOTEC工場へと駆け込んでいった。

「そうか!機動力は力なんだ!」

 元は廃材置き場になっていた、真新しい格納庫に入ると自分の愛機である競技用ストライクフレームの設計スタッフを集める。総勢12名、全員がKUSUNOTECの従業員であり、本業の民生用作業機械の生産も兼任している彼らを前に居間兼休憩室でいそべ社長は先ほどのアイデアを語りだした。

「次回はこーゆーのを考えてるんだけどどーかな?」

 スーパーのチラシの裏に書かれたアイデアを話し合うこと数時間、基本となる猫たーぼの設計思想を残しつつ、大型アップデートを図る新構想が構築されていく。建物は町工場規模でもレーシングチーム並みの精密設計には定評があるKUSUNOTECだけに、その動向には早くも注目が集められていた。
 だがチームとしての技術力であれば、彼らの対戦相手となる静志津香が所属するチーム「S.M.A.R.T.」エターニア陣営もそのレベルの高さで知られている。KUSUNOTECのようなメーカーではなく、純粋に技術者を集めて作られているプロジェクトチームであり、構成員はパイロットの志津香にチーフメカニックの通称「おやっさん」、整備班長の整備員Aと下っ端整備員B、システムエンジニアのファットマン・・・。

「あとはハンニバルさんにフェイスマンさんとクレイジーモンキーさんとコングさんと・・・」
「それはAチームですよ、志津香さん」

 なごやかな雰囲気の「S.M.A.R.T.」だが能力は超一級の職人集団であり、特に生体運動のプログラムと工学機構における表現能力の技術では業界でも群を抜いていると言われていた。エターニアシリーズで有名な羽ばたく翼の動きや、小柄な天使型のAIオペレータ「ホリィ・エンジェル」などはその最たるものである。
 技術力を誇る両チームの対戦はKUSUNOTECのとら猫たーぼJJ9に、対するはふわふわエターニア。両機の対戦は中間距離から始まるが、とら猫たーぼが放った牽制のわかさぎバルカンを無視してエターニアがニードルガンで狙撃、これがいきなり命中してエターニアが機先を制する。接近して猫ロケットパンチは外れ、遠距離まで離れるとエターニア自慢のロックオンレーザーが命中。本数は少ないが装甲の薄い猫たーぼの機体が激しく揺さぶられる。

「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!?」

 旧システムにあったお風呂式バブルボードシステムを改良した、某工科大学開発の最新生命環境システムである「アクアリウムバブルシステム」の溶液の中で機体制動を立て直そうと図るいそべ。耐G性と生命維持の双方を高いレベルで満たすシステムとはいえ、360度投影式モニターを兼ねる球形コクピットでの操作に慣れるのは彼女にも至難の業であった。

「ど・れ・み・ふぁ・そーらーしー」
「たーげっとろっくおんなのだー!」

 音階をつけて狙点を合わせる志津香の声に続けて、ホリィの声が響く。襲いかかる六本の光条を機体を旋回させて回避するとら猫たーぼだが、四発が連続着弾。例え四発であっても猫たーぼの薄い装甲には致命的なものであり、ここまではエターニアの一方的なペースとなる。だが苦戦する猫たーぼもここまで本当の意味での新システムを作動させてはいなかった。

「Miiエネルギー転換、開始ぃー!」

 以前に搭載されていた全自動機体軌道制御コンピュータ「FAM−CON」をアップデートした汎用型自立制御インタフェース「Mii」を立ち上げる。空間機動を持続させることで運動エネルギーを攻撃に転換するという単純なシステムだが、もしも猫たーぼの機動力を転換することが可能ならば確かにその破壊力は計り知れないものとなるだろう。
 機体の表面にエネルギー・フィールドを展開、これに運動エネルギーを与えて充電すると猫たーぼの機体がうっすらと輝き始めた。接近してねこロケットパンチ、本体の制動を止めないように射出された攻撃がエターニアの装甲に叩き込まれると一撃でバランスを崩し、続けて二撃、三撃とわずか三回の連続攻撃で装甲の半ば以上を吹き飛ばす。猫たーぼはくるくると機体を旋回させながらロケットパンチの再装填を実施、そこにわずかな隙を見たエターニアが思い切った加速、開始時同様にわかさぎバルカンの被弾を覚悟して遠距離間合いを確保した。

「こんどはぁーいきますわよー」
「えーい!」

 完璧に制御された六本の光の矢が六方向から猫たーぼを貫くと、幾何級数的に増大したエネルギーがMiiシステムのフィールドに過負荷を与えてオーバーロードさせる。暴走したエネルギーが転換機の許容量を超えると誘爆し、一瞬で猫たーぼは眩いばかりの球形の光に包まれた。アクアリウムバブルシステムのコクピットの頑丈さに救われて、パイロットは無事であったが一撃の被ダメージ24ポイントという記録を出してとら猫たーぼが撃沈。エターニアが激戦を制した。

○ふわふわエターニア(12分機動停止)とら猫たーぼJJ9× 15vs-16


トーナメント一回戦 オーガイザーvsGMボタン


 続いては豪快無比な放浪の宇宙サムライ、無頼兄・龍波とオーガイザーが登場。対するは連邦量産汎用機GMのカスタマイズに頑なに注力しているGM陣営、どちらも最近の戦績こそ振るっていないが大会優勝経験者同士であり、型にはまったときの強さは侮れない。

「胸の所の大きなボタンは何ですか・・・?」

 一見するといつものGMだがスプレーガンもバルカンもサーベルもない、GMボタンの外見を見て軽く肩を落とすジム。強度としなやかさを兼ね備えた改良型マニュピレータの試験という名目だが、どう考えても洒落で作った機体であろうことは機関車エマのデザインがされたシールドや、オペレータのネモがつけているポッコちゃんのお面を見ても明らかだろう。

(絶対後付けで設定作ってるんだ!これ)

 だがふざけているように見えても近接重装甲機という機体のコンセプトだけはしっかりと設計されているようで、それもある意味ジムには腹立たしいことであった。いずれにしてもテストパイロットの彼が機体コンセプトに文句をいえる立場にはないのである。両機の対決は中間距離から開始、オーガイザーのソウルヴァルカンとGMボタンのボタンシュートが交錯する。

「ヴァルカン!!」
「ボタンシュート!」

 両者ともに技名を叫びつつ、近接戦闘を想定していたところに好距離での撃ち合いとなるがこれは双方とも外れ。やはり漢は接近戦とばかりに距離を詰めるオーガイザーに、GMも受けて立つと光エネルギーを集束させた拳を構える。ガイブラスターが照射されるがGMは機関車エマのシールドでこれをがっちりガード。オーガイザーのコクピットでナビゲートを勤めるAI・鬼牙(きば)が状況を分析する。

「装甲ハ互角、相手はガード性能ニ優レルガ出力ハコチラガ上。攻撃アルノミ」
「望むところだぜェ!」

 オペレータの許しを得て猪突猛進、攻勢に出るオーガイザーだがGMもボタンパンチで正面から対抗、双方が互いの重装甲を打ち破れずに、削り合いながらも膠着する展開となる。手数もほぼ同等だが、効果的に機関車エマでガードを行うGMボタンがわずかに優勢を保つ。だが開始20分、ここまで耐え続けていたオーガイザーのブラスターが命中し、状況が互角となったところで業を煮やした無頼兄が更なる攻勢に移行した。

「ガイ・ブラスタァー!」

 全身に熱エネルギーをまとって突進する、ガイブレイザーの強化版である。無頼兄の声がコクピットに響き、GMボタンと正面から殴り合うも出力差でオーガイザーが優勢。GMもガードを崩さずにボタンパンチで反撃を試みるが、オーガイザーの装甲を突き破ることができずに時間切れ。膠着の末に粘り切ったオーガイザーがGMを振り切って勝利を収めた。

○オーガイザー(30分判定)GMボタン× 24vs19


トーナメント一回戦 トータス号・海からの脅威vs漁協タコボール


「・・・なんだ、これは」

 どちらかといえば寡黙であるコルネリオ・スフォルツァがそう言うのも無理はなかったろう。白河重工ラボラトリー内の格納庫にて、今回投入が予定されているストライクフレームを前に呆然とした様子を隠せないでいる。その機体は可変機であるXiフォースをベースとしており、通常形態こそ人型になっていたが、変形後の異様な姿はコルネリオの想像を絶していた。背後からかつかつと床を叩く音に続いて、声がかけられる。

「新機軸よ。あの娘がくれたこれがヒントになった」

 コルネリオが振り向いた先、立っていたのは「狂わせ屋」女史である。その手に握られていた、奇妙なぬいぐるみがこの驚くべき機体であるトータス号・海からの脅威を完成させたというのだ。
 一方でこれもロガーンの偶然であったのだろうか、コルネリオの対戦相手となる神代進の搭乗機もまたXiフォースをベースにした可変機体である。こちらは基本フォルムとして球形作業ポッドのボール型を採用しており、腕部のマニュピレータを変形させて姿を変える。漁協協賛機となる今大会に投入する、機体の名は漁協タコボール。

 そう、彼らの機体はタコ型だった。

 中間距離から開始、人型形態をしたトータス号が形容しがたきものを放ち、球形ポッドのタコボールは遠赤外線弾Mk2を発射する。互いに命中するがダメージ軽微、攻勢に出るべく接近すると両機の姿が変わって宇宙空間にあるエネルギー・フィールド内に二匹のタコが出現する。唖然とする場内だが、それはコクピット内のメインモニターで相手の姿を見ている両パイロットも同様であったろう。
 向かい合った二匹のタコは触手めいた腕部を伸ばして攻撃、より生き物めいた動きを追求するトータス号に対して漁協タコボールは柔軟性のあるアニメロボ調の動きを思わせなくもない。接近したトータス号の名状しがたきものがタコボールの装甲を激しく叩くが、操作が困難だったか双方ともに攻撃の精度はいまひとつの状態が続く。開始9分、一度距離を離したタコボールがボール型に変形、ポッドから遠赤外線弾Mk2を放つとこれを命中させて反撃。トータス号もすかさず接近すると名状しがたきものを絡ませるが、今度はタコボールも足アームパンチを直撃させて食らいつく。

 双方膠着状態のまま14分、トータス号の名状しがたきものをタコボールはしっかりとガード、だがトータス号も粘り強く攻勢に出ると今度は名状しがたきものを命中させる。しばらく互いに腕を振り合った後で、離れたタコボールが遠赤外線弾Mk2を発射、これを命中させてここまでの戦況を互角に保つ。その後も10分近い攻防を耐え抜くと両者タイムアップ、判定となるが双方ダメージ互角のため引き分けとなり、今大会二度目の再試合が決定した。
 インターバルを経て試合再開。今度は遠距離からタコボールが積極攻勢を挑み、連装式の魚肉ソーセージ弾で先制する。トータス号も応射、描写しがたきものを命中させるがタコボールの魚肉ソーセージ弾も命中、ダメージ軽微ながら更に遠赤外線弾Mk2も命中させるとここまではタコボールのペース。

(KRAKEN・FORCE)

 近接戦闘になり、トータス号の名状しがたきものとタコボールの足アームパンチが双方直撃、これで相手を捕捉したトータス号が攻勢に出ると連続攻撃で戦況を逆転させる。懸命にガードして距離を離そうとする相手の思惑に乗らずに執拗な攻撃を続け、とどめとなる名状しがたきもので遂にタコボールの装甲を破壊。タコ対決を制したトータス号が二回戦進出を決めた。

△トータス号・海からの脅威(30分判定)漁協タコボール△ 19vs19
○トータス号・海からの脅威(16分機動停止)漁協タコボール× 19vs-1


トーナメント二回戦 アストライアーvsドン・エンガス・カスタム


 二回戦が始まり、シード選手が登場する。無冠の強豪にしてデンマークで二番目にスウェットの上下が似合う男、テムウ・ガルナはアストライアーに搭乗。可変機であるXiフォースフレームの特性のためか、人型汎用機というよりも引き絞った弓にも似た戦闘機の姿を思わせる。対戦相手は一回戦でメガロバイソンを撃破したアラン騎乗のドン・エンガス・カスタム。強敵相手にアランのオペレータロボットであるレプラコーンも警戒の声を送る。

「オマエよりベテランのスナイパーだゼ?油断すんなヨ」
「あーっ、分かってるよ分かってるよ」

 おざなりな返事をするアランは慣れた動きで計器類をチェック、零細企業故にパイロット兼任のオーナーであるが、少なくとも自分では自分のチームや機体の状態を把握しているつもりだった。正面切っての撃ち合いは望むところであり、カタパルトからの機体射出を確認するとすぐに相対距離を遠距離に図る。だがやはり一日の長があるか、一手早く反応したアストライアーから放たれたコンヴィクションハートが捕鯨用のヴァリスタのように鋭い切っ先を放ちドン・エンガスに命中する。

「だから油断してんじゃネーヨ!耳がねーのかオマエは!」

 罵倒の声が響くコクピットで、慌てて機体制動を修正するドン・エンガスだが撃ち合いではタイムロスがそのまま相手に攻勢を許す時間となる。アストライアーは好機に容赦せずコンヴィクションハートを射出、それも乱射するのではなく正確な間隔をおいての連続攻撃であり、的確に座標を狙って襲いかかる攻勢に一瞬で追い詰められるドン・エンガス。

「止まれ止まれ止まれえー!」

 揺さぶられる機体を強引に抑え込んだドン・エンガスもここで反撃開始、相手の攻勢を回避するとリヴァイアサンを発射して装甲にかすらせる。続けての砲撃は外れ、だが相手の攻撃も確実にかわして少しずつペースを取り戻す。綱渡りの感覚でアストライアーのコンヴィクションハートを回避しながら反撃のリヴァイアサンを当てるドン・エンガスだが、やがてオペレータのレプラコーンが絶望的に呟いた。

「S・H・I・T、シールド張ってやがるゼ・・・」

 機体周辺、正四面体の位相に時折展開されているエネルギーフィールド、デルタシールドがアストライアーへのダメージを確実に軽減しているのである。機動性では勝るが装甲に劣るドン・エンガスはより厚い壁を破らなければならない。そのプレッシャーがかかったか、開始12分過ぎから再攻勢に出たアストライアーの猛攻にエンガスは相打ちを図るのが精一杯となり、逆転を狙った砲火を直撃させたものの、押し切られて無念の機動停止。強敵を破っての二回戦突破はならなかった。

○アストライアー(17分機動停止)ドン・エンガス・カスタム× 9vs-8


トーナメント二回戦 ケルビムMk2vsスターダスト・ミラージュ


 続いては一回戦で熱戦を制したケルビムMk2と、接戦の末の粘り勝ちを手中にしたスターダスト・ミラージュの激突。
 静かな立ち上がりに遠距離からセーリングアタッカーで牽制するミラージュだが、精度の甘い砲撃を落ちついて回避したケルビムは四枚の翼を広げるとフォーウイングスの熱線を照射し、これを命中させて先制する。ヒットアンドアウェイの基本に忠実に、接近するケルビムの攻勢を手堅くかわすミラージュに対して再びフォーウイングス、機体制御を崩して再突進、チャイルド・オブ・ファイアの火閃でペースを握る。

「反射速度は17、でも確定率が30未満・・・」
「近接戦、来マス」

 コクピットで呟くジェーンにオペレータの機械音声が警告する。ストライク・フレームの反応は多くの者が思う以上に鋭く、攻撃は狙わなければ当たらないし、回避は試みなければ成功しない。言葉にすれば当然のように思えるが、ことに宇宙戦では機体の特性とパイロットの戦術が合わなければ充分な力を発揮できないのである。初参加ながら優れた回避行動を見せているスターダスト・ミラージュだが、攻撃の精度が甘く反撃の砲火が確定しない状況で強敵相手に不利を強いられていた。

「仕方ないわね、相手の土俵に乗りますか」

 そう呟くと、不利を承知で高周波ブレードを抜いて切りかかるジェーンとミラージュ。高速で振動する強化カーボナイト製の刃をケルビムの薄い装甲に叩きつけて反撃開始。射撃戦の精度をパイロットの技量でどこまで補うことができるか、相手の攻撃を装甲で防ぎながらも、続けて斬撃を繰り出すがケルビムも相手の思惑に素直に乗るつもりはない。距離を離すとフォーウイングスで揺さぶりをかけ、少しでも損害を蓄積させるべく図る。
 開始20分までほぼ互角の状態、フォーウイングスをしっかりガードして反撃を図るミラージュだがケルビムも容易に隙をつくらず残り時間8分になったところで炎天使が猛攻。チャイルド・オブ・ファイアで突進してから離れてフォーウイングス、接近して攻撃、離れて砲撃を繰り返す。ミラージュも懸命にこれを防ぐが完全とはいかずに、積み重なったダメージに遂に機体バランスを崩すとその瞬間を狙ってケルビムがフォーウイングスを発射。これが直撃して撃破とまではいかなかったものの、確実に優勢に立った炎天使がそのまま逃げ切って判定勝ち。最後は経験の差で押し切られる形となった。

○ケルビムMk2(30分判定)スターダスト・ミラージュ× 30vs13


トーナメント二回戦 ふわふわエターニアvsオーガイザー


 強敵とら猫たーぼを撃破して、勢いに乗りたいエターニアに対するはいつでも勢いに乗っている漢の機体オーガイザー。漢が戦うにはいささかのほほんとしすぎている相手だが、無頼兄にとっては大きな問題ではない。

「条件ハ一回戦ト同様、接近攻撃デ押シ切ルベシ」
「そう来なくっちゃなァ!」

 突進するオーガイザーは先手を打ってガイブレイザーを放つが、エターニアはこれを軽く回避する。続いて離れるとソウルヴァルカン、だがこれは命中せずにエターニアがニードルガンを返して命中。オーガイザーの厚い装甲に阻まれるが先制に成功する。

「えーと・・・接近来るのだー!」

 コクピットで飛びはねているオペレータのホリィの声を聞いて、機体を引くが間に合わずに接近されたエターニアはガイブレイザーの攻撃をかわしきれずに被弾。エターニア本体と有線接続をしているホリィ・システムの欠点はセンサー情報がケーブルを通るまでのタイムラグにあるが、そのおかげでホリィはAIにも関わらず悩む時間があるという不思議な愛嬌を持ったシステムになっている。
 勢い込んで攻勢に出るオーガイザーだが、エターニアもこれはガードして弾き返すと体勢を立て直す。安定した防御性能は彼女たちの売りであり、最強の矛に対して最強の盾を構えながらも的確な反撃を狙うのがエターニアのスタイルであった。移動と同時にニードルガンを合わせ、離れるとロックオンレーザー発射!完璧な連携で六本の光条が装甲を叩くが、エネルギー集束の効率が悪く効果はあと一歩。その後両者ともに防御を固めて膠着、エターニアが薄氷の優勢を保つが残り5分でオーガイザーがラッシュ。

「ガァイ・ブレイザァァー!!」

 全身をエネルギーフィールドに包むと突進、腕部に装着されたブースターが作動して高熱をまとう拳が炸裂する。右の拳が命中、旋回して左の拳を発射。離れてヴァルカンを当ててから最後に突進しながらのガイブレイザー。わずか五分間程度の猛攻によって一瞬で状況をひっくり返したオーガイザーがそのまま逆転して時間切れ判定勝ち。凶暴なラッシュを受けてエターニアは無念の涙を飲むことになった。

○オーガイザー(30分判定)ふわふわエターニア× 28vs9


トーナメント二回戦 トータス号・海からの脅威vsアイアンメイデン


 前大会優勝者の「女王」ロストヴァ・トゥルビヨンが登場。二大会連続優勝の快進撃にストップを図るのはタコ合戦を制したトータス号・海からの脅威。大会前、ゲームセンターでクレーンゲームにはまっていた狂わせ屋女史の考案になる多関節機であり、通りがかりの某KUSUNOTEC社長が取ったぬいぐるみがタコ型であったためにそのスタイルになったということを、コクピットにいるコルネリオは知らない。それでも自分が再現したタコの動きには絶大な自信がある、狂わせ屋女史は観覧用のモニターを前に呟いている。

「だが私は謝らない」

 中間距離から開始、トータス号は形容しがたきものを命中させるがアイアンメイデンもメイデンモディスティで反撃。一進一退の攻防が続くがこの距離はロストヴァの間合いであり、相対距離を保ちながら遠隔操作で伸びるアタッチメントがトータス号の死角から襲いかかると、鎌にも見える鋭い刃が装甲を切り裂く。
 認識できない方角から襲来する攻勢に不利を強いられたトータス号は前進して接近、名状しがたきものを振り回すがアイアンメイデンはこれに付き合おうとせずに離脱、再びメイデンモディスティが襲いかかる。だがトータス号も執拗に前進してもう一度近接格闘戦に距離を戻すと今度は名状しがたきものを直撃させる!高出力の触手が鋼鉄の乙女を締め上げるが、メイデンも潜ませていた熱放射ユニットを抜くとリモースフルティアーズを閃かせる。ダメージこそ小さいが高熱のエネルギーが滞留してトータス号の装甲を焼く。

「・・・何かヤバイッ!(JPP)」

 コクピットで舌打ちするコルネリオはエネルギー線を切断すべく後退、だがまとわりつく炎の舌を断ち切ることができず、メイデンも相対距離を保ちながら捕縛した綱をゆるめない。熱線で縛られて遂に耐えきれなくなったトータス号の装甲が破られると機動停止、アイアンメイデンが堂々たる勝利で準決勝に駒を進めた。

○アイアンメイデン(17分機動停止)トータス号・海からの脅威× 28vs-2


トーナメント準決勝 アストライアーvsケルビムMk2


 いよいよ準決勝、無冠のテスター、テムウ・ガルナに対するは前大会でそのテムウに煮え湯を飲まされているシャルとケルビムMk2。雪辱を図るシャルにすれば得意の近接戦闘に持ち込みたいところだが対戦は遠距離から開始、弓型の形態からアストライアーがコンヴィクションハートを命中させて先制する。初弾の不利を挽回すべく、ケルビムは四枚の翼を開いて前進すると更に接近、近接戦闘に持ち込んだ。Xiフォース機であるアストライアーもこれに対応して機体を変形させる。

(SIRENE・FORCE)

 広く腕を伸ばした風貌は明らかに格闘戦向きには見えない、その姿にシャルは一瞬戸惑うも炎の天使を構えると前進するが、次の瞬間、小さな衝撃が機体を揺るがした。

「しまった・・・!?」

 機雷にも似た極小の炸裂弾、フェーザーオブフェイトが射出、撒布されるとケルビムに数弾命中する。得意の遠距離戦では確実で強力な狙撃を狙い、近接戦闘では堅牢な防御を誇りながら相手を炸裂弾の海に追い込んでいく、前大会機ジャイルーカーラインの特性を更に追求したシステムである。ケルビムは一旦離れてフォーウイングスで牽制、体勢を立て直すが虎をしとめるには巣に入らなければならない。
 一度チャイルド・オブ・ファイアをまとい直すと、セイレーンフォースの間合いに突入するケルビム。フェーザーオブフェイトが装甲をかするがもとより一撃の被害は大きいものではない。ダメージが累積する前に押し切りたいところではあるが、アストライアーの守りは堅牢である。ケルビムが再び離れてフォーウイングス、これは命中させてプレッシャーをかけるが距離を離し過ぎれば今度は相手の得意である射撃戦を狙われることになってしまうだろう。

「見えた!」

 前大会のマインレイヤー戦を思い出して、炸裂弾の海に突入したケルビムはこれをかいくぐるとチャイルド・オブ・ファイアで攻撃、アストライアーに炎の舌を浴びせる。15分を過ぎて双方が重さを増すプレッシャーに脅かされる中、時折撒布弾を被弾しながらも確実に相手の装甲を削るケルビムだが攻撃を狙った瞬間、それまで受動に回っていたアストライアーが動いた。相手の行動曲線を予測して撒布弾であるフェーザーオブフェイトを射出、相対ベクトルを利用してケルビムを狙撃したのである。これが直撃して装甲の薄いケルビムは大きなダメージを受ける。
 思わぬ攻撃にペースを崩すケルビム、自分の得意距離に罠をしかけられた炎の天使はここで小細工を断念して思い切った攻勢に出る。装甲の薄い機体の全面を連続で被弾しながら玉砕覚悟で最接近、チャイルド・オブ・ファイアの炎の舌を浴びせかけた。激しい削り合いはわずかにこちらが不利とはいえ、戦況はほぼ互角。双方の累積ダメージが限界に近くなったタイミングを狙って距離を離すと翼を開いた炎の天使がフォーウイングスを照射、熱エネルギーがアストライアーを焼くがデルタシールドの守りがこれを耐えると更に距離を離す。

(GUN・FORCE)

 数秒で射撃形態に戻ったアストライアーが高出力のコンヴィクションハートを発射。これが命中してケルビムは機動停止、激戦を制したテムウ・ガルナが決勝進出を決めた。

○アストライアー(27分機動停止)ケルビムMk2× 6vs0


トーナメント準決勝 オーガイザーvsアイアンメイデン


 準決勝二試合目はオーガイザーとアイアンメイデンの一戦、ここまで大会二連覇七連勝中の鋼鉄の乙女に対する漢の機体。

「相手ハ機体制動が安定、コチラモ回避行動ヲ重視セヨ」
「漢は攻撃あるのみ!攻撃は最大の攻撃だァ!」

 その宣言に相応しく初弾から攻勢、ソウルヴァルカンを放つオーガイザーにアイアンメイデンもメイデンモディスティで応射する。中間距離の出力ではメイデンが勝る筈だが、装甲で勝るオーガイザーとしては押し切って近接格闘戦を狙いたいところだろう。続けてメイデンモディスティを受けるが装甲で弾いてダメージ軽微、すかさず接近するとオーガイザーの全身を炎が包み込む。

「ガァァァイ・ブレイザァーッ!」

 強引な移動攻撃がメイデンに直撃して、一撃で戦況をひっくり返す。離れると視界の外からメイデンの遠隔アタッチメントが襲いかかるが、オーガイザーもヴァルカンを当ててこれを迎撃。ガイブレイザーの一撃で優位に立った状態で、ロストヴァ得意の中距離戦を互角の状況で押しているとあればオーガイザーの有利は動かしがたいだろうが、中距離の女王も簡単に譲るような可愛げは持っていない。
 死角から襲うメイデンモディスティが連続して命中、すかさずオーガイザーも接近してガイブレイザーを直撃させる。技量の粋を尽くして正面から削り合う、心地よい緊張感が互いを熱くさせるが無頼兄が燃え尽きるほどの熱さであれば、ロストヴァはその中でも一片の冷徹さを失ってはいなかった。開始17分、近接戦闘を図るオーガイザーにリモースフルティアーズの一撃、厚い装甲にまとわりついた火閃は高熱を帯びて時間とともに浸食する。

「こっちの有利は変わらねェ!特攻するぞ!」
「修正シマス。状況ハ危険、対処ヲ」
「黙れ!特攻するぜェー!」

 一気攻勢、腕部のバーニアを加速させると同時に関節部を稼働させたガイブレイザーの拳をめりこませるが、メイデンもリモースフルティアーズの火閃を巻きつかせる。右で一閃、更に左に隠していた二閃目をオーガイザーの装甲に巻きつけると高エネルギーを放射、危機を感じた無頼兄は急速離脱を図るがそこはロストヴァの距離であった。
 待ちかまえていたメイデンモディスティが命中、追い打ちのリモースフルティアーズを絡みつかせて勝負ありかと思わせたが、攻勢を妨げられたオーガイザーが絶体絶命の局面で狙ったのはより以上の攻勢である。思い切ったガイブレイザーの一撃が命中して火閃を断ち切ると双方機動停止寸前の状態で残りは5分、わずかにオーガイザーが優勢の状況であり、一撃が勝敗を決める紙一重の状況となった。その状態に来て初めて、メイデンのコクピットにあるロストヴァの昂揚も最高潮に達する。

「刹那の、快楽を・・・教えてあげる!」

 多量のアドレナリンを分泌させ、ソウルヴァルカンの狙撃を回避したロストヴァがメイデンモディスティを命中させて逆転勝利。決勝進出を決めて三連覇に王手をかけた。

○アイアンメイデン(28分機動停止)オーガイザー× 1vs0


NAKAMOTOストライク・バックZ第七回大会決勝戦 アストライアーvsアイアンメイデン


 第7回大会決勝戦は奇しくも前大会と同じ組み合わせとなった。三連覇を狙う「女王」ロストヴァに対するは無冠の強豪テムウ・ガルナ。的確な相対距離の維持で戦局を支配するロストヴァの技量と、堅牢な守りと精密な狙撃を使いこなすテムウの技量が激突する戦いとなるであろう。
 決勝戦が開始される前に次回大会からのいくつかの新ルールや新装備の導入について説明が行われる。最大の変更点はメカニックの腕の見せ所となるであろう、チューンナップの規制緩和である。他にも一部で根強い人気を誇ったSPT機の戦列復帰、装備の改変などが挙げられている。宇宙戦が展開されるようになって以降、競技の安全性を求めるためにこれをサポートするオペレータやメカニックの重要性が上がっており、チームの能力が要求される傾向が徐々に強くなってはいるが、直接矛を交えるパイロットの技量が重要であることには変わらない。ロストヴァもテムウも地上戦から参加しているベテランであり、いずれも安定した戦績を誇る強豪同士の激突である。

(SIRENE・FORCE)

 両機カタパルトから射出、宇宙ステーション「アストロボーイ」に設けられたストライク・バック専用の競技フィールド内に展開して相対距離は中距離、ロストヴァとアイアンメイデンの間合いである。この距離で反撃能力を持たないアストライアーは防御形態を取り、メイデンは構わず攻勢に出る。移動して距離を離されるがすぐに加速して前進、自分の有利を承知しているロストヴァは得意距離を譲ろうとはしない。

「OK、アブ?加速曲線アルファ2、次ターンの計算お願いね」

 自分の技量を信じる者は容易に人の技に頼ることができる。相手の行動を予測して先手を打つためのデータを得る、360度の運動制御を要求される宇宙戦では極めて重要な技術であった。これを感覚で補う者やコンピュータに計算させる者もいるが、それは用いる手段の差異でしかない。
 メイデンモディスティが飛来してアストライアーに命中、堅牢な装甲はこれを弾くが損害がない訳ではない。視界の外から襲いかかるアタッチメントの刃は装甲の弱い箇所を狙って執拗に迫るとアストライアーを削っていく。開始13分、再び距離を離そうとするアストライアーにメイデンはラブレターを発射、これで牽制して相手の狙撃体勢を妨害する。ここまで圧倒的とまではいかないものの一方的なアイアンメイデンのペースとなるが、アストライアーも多少の牽制射撃に怯えて自分の有利を捨てる訳にはいかなかった。

(GUN・FORCE)

 ようやく狙撃距離に入ると変形、引き絞った弓を思わせる戦闘機は移動しながら相対距離の確保と座標の捕捉に専念して攻勢を控える。相手が確実な一撃を狙っていることに気がついているロストヴァとしてはこれを何としても阻止すべく、牽制のラブレターを放つがアストライアーもこれを巧みに回避すると遂に求めていた座標を得て、コンヴィクションハートを発射。

「・・・っ!!」

 一撃で激しく機体が揺さぶられると、最大加速で飛来した巨大な銛が鋼鉄の乙女に傷を負わせる。ここから連続攻撃、自在に操られる二本の無線アタッチメントが襲いかかるとメイデンの装甲を削っていく。衝撃に機体を激しく揺らしながら、不利を避けるべく前進すると今度はメイデンモディスティで反撃、互いの得意距離からの遠隔操作式アタッチメントによる削り合いは完全に互角のまま27分を経過、残り時間は3分。

「もっと、気持ちいいことしましょうね!」

 口の端を軽く上げて、追い詰められたその状態で最高の技量を見せたロストヴァが再度メイデンモディスティを射出。機体センサーの死角であり、オペレータの死角であり、パイロットの感性すらも潜り抜けた彼女の「節度」がアストライアーに突き刺さった。最後まで逆転を狙ったアストライアーも反撃を図るがそのまま逃げ切られてタイムアップ。実力を見せた「女王」ロストヴァが前人未到の三連覇を達成した。

○アイアンメイデン(30分判定)アストライアー× 17vs12

cut


成績 パイロット        機体名          オペレータ       戦績
優勝 ロストヴァ・トゥルビヨン アイアンメイデン     アブ          3戦3勝通算17戦13勝
準優 テムウ・ガルナ      アストライアー      登戸とき子       3戦2勝通算19戦12勝
3位 無頼兄・龍波       オーガイザー       AI・鬼牙(きば)   3戦2勝通算13戦07勝
3位 シャル・マクニコル    ケルビムMk2      アポカリプス      3戦2勝通算12戦05勝
5位 静志津香         ふわふわエターニア    ホリィ・エンジェル   2戦1勝通算14戦07勝
5位 アラン・イニシュモア   ドン・エンガス・カスタム レプラコーン      2戦1勝通算05戦02勝
5位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号・海からの脅威 牧さん         2戦1勝通算13戦06勝
5位 ジェーン・ドゥ      スターダスト・ミラージュ ファイ・アビス     2戦1勝通算02戦01勝
9位 山本いそべ        とら猫たーぼJJ9    Mii         1戦0勝通算13戦09勝
9位 ダルガン・ダンガル    メガロバイソン5     アリー・イマイ     1戦0勝通算13戦06勝
9位 ジム           GMボタン        ポッコちゃんのお面装着 1戦0勝通算11戦05勝
9位 ネス・フェザード     トランス・バイパー    カーネル        1戦0勝通算08戦04勝
9位 ベアトリス・バレンシア  どんきほーてたーんえー  謎のインド人      1戦0勝通算08戦01勝
9位 神代進          漁協タコボール      カニミソ        1戦0勝通算07戦00勝
−− ウテルス・シンドローム  −−−          −−−         0戦0勝通算04戦02勝
−− 新庄ジュンペイ(魚顔)  −−−          −−−         0戦0勝通算01戦00勝


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