第八回大会
「如何ですかな、実験データは?」
「順調だよ。それが良いこととは思えないけどね」
その研究施設にはこれまでに蓄積されていた膨大な情報が収められていたが、それが彼らの目的に叶うべく展開されなければまるで意味のないものであったろう。複数のディスプレイに映し出されている、情報の展開モデルとそれに基づいて構築された運動データが刻々とその姿を変化させてゆく。
薄暗い中にモニターの光が明滅を繰り返している部屋で、存外に若い声をした痩身の男が複数のスタッフに指示を送っている。だが指示の内容は分厚いファイルを数冊も積み上げた設計書に沿ったものであり、既に幾十度もの検討を重ねた結果をなぞっているにすぎない。あとは目の前の仮想空間上で彼らの予想が実現化するのを待つばかりであった。
赤と緑と青の明滅が繰り返される世界の中で、その全てが所有する意味を完全に理解しているのは指示を送っている男一人だけである。それ故に、彼はこの場所にいなければならなかったのだ。彼以前に多くの者が残してきた知識と情報が、彼の手によってようやく完成しようとしていた。予定されていた最後の処理が終わり、無味乾燥なモニターに「NORMAL END」の文字が映し出されたことを確認したスタッフの一人が告げる。
「プロジェクト・エデン、正常終了しました」
「・・・やれやれ、ご苦労様」
実験の結果が成功に終わっても、男の顔に喜びの色はなかった。彼は疲れていた。自分が完成させた成果にではなく、それが利用されうる未来に彼は思いを馳せざるを得なかったのだ。エデンの園が産み落とす、新たな種子は人類に確実な発展と利便性をもたらすものであろう。だが技術の進歩は人類の進歩と必ずしも同義ではないという人間世界の不幸な現実を、彼は知る者であった。
【有限会社クスノテック 小型土建ロボット販売へ】
(2007.04.02産系新聞より抜粋)
有限会社KUSUNOTEC(山本いそべ社長)は4月2日、従来の作業用ビルダーフレームを小型、軽量化した新型フレーム「ツキノワ」を発売した。この作業用フレームは従来のナカモト重工業製のフレームに比べて全高、重量ともに3分の2、価格は3分の1程度の小型軽量、低価格が売りの作業機械である。ハードは一対の大型アームで安定した作業を行え、短めの脚部でバランスを取る構造だ。
ソフトウェアはオープンソース開発で、基本的動作は単純動作だがユーザ側による組み込みによって多用途の目的に使用できる。KUSUNOTECでは月産5台を目標としている。
【自律型プログラミング言語「アルファ」発表】
(2007.04.04日系工業新聞より抜粋)
株式会社柏木技術研究所より4月3日、第六世代プログラミング言語として注目を浴びていた「ALPHA」の開発に成功したとの発表が正式にリリースされた。自律型言語は基礎因子に環境因子と呼ばれる条件を予め設定することによって自らの行動原則を成形するが、更にALPHAの最大の特徴である人格因子を与えることで極めて人間に近しい原則を得ることができる。複雑な操作を有する産業機械の補助動作や義手義足をはじめとする医療分野への応用、無人作業機械への活用など多分野への実用化が期待される。
開発は同研究所と英国のレジテック・ラボラトリによる共同開発、開発主任は柏木技術研究所の田中広樹主任。
トーナメント一回戦 ドン・エンガスEZ1vs猫たーぼ・ツキノワ
2007年4月、人型汎用機による宙空格闘戦競技「ストライク・バック」シリーズ第八回大会。前大会まで無敗の三連覇を遂げている「女王」ロストヴァを止めるべく、参加各チームは機体の調整に余念がない状態であった。今大会はこれまで以上に基本フレームのチューンナップ規制が緩和されており、各チームのメカニック担当は腕を振るう余地が拡大したことに対して袖をまくり上げている。
「こいつは・・・絞ってきたなー」
「でしょ?こんだけ動ける機体はないですよ、あとはオーナーのウデ次第」
チーフメカニックのカズサが自信たっぷりに言うが、どうせ操縦するのは自分だとアラン・イニシュモアは考えていた。零細企業のオーナーであり自ら開発する機体を自ら操縦してプレゼンテーションにしようという、彼らのようなチームは決して珍しくはない。基本機体であるストライク・フレームの開発コスト減に伴い、腕に自信さえあればその敷居は決して高くはないのがこの競技の魅力となっていた。町の商工会議所や漁協、横浜市が単独参戦することすらあるのがストライク・バックなのである。
アランの駆るドン・エンガスEZ1(イージーワン)は得意のアウトレンジ設計を維持しつつも、軽量化と高速機動性を追求した自信のハイチューン機である。だが彼らの一回戦の相手もハイチューンでは人後に落ちぬこだわりを持つクスノテック陣営、山本いそべと猫たーぼ・ツキノワであった。前大会に続いてコンセプトの近いベテランに挑むことになったのはアランのクジ運であったろうか。
「すぺしゃるちゅーん・ツキノワ仕様猫たーぼ発進ー!」
小型軽量の猫たーぼを更に、自社開発のツキノワをベースに小型化した猫たーぼ・ツキノワが開始と同時に高速で接近する。超大型ショットガンであるいくらスプレッドガンが至近距離で放たれるが、咄嗟に反応したエンガスも一弾かすったのみでこれを回避する。自機も相手も尋常ではないスピードで動く、アランはすかさず距離を取ってティアマト機雷を一斉撒布して牽制。これで遠距離まで離れるとリヴァイアサンの発射角を定めながら、高速移動する猫たーぼをセンサーに捉えるべく図る。毒舌機能つきオペレータ・ロボのレプラコーンが相対座標を計測しつつアランに指示を飛ばしていた。
「バァスタァードッ!」
基本的にスラングを使わないと気が済まないらしいオペレータの声を受けて、二連装攻撃ユニットのリヴァイアサンを連続射出。一撃、二撃目はかわされるが三撃目が直撃して猫たーぼの薄い装甲を激しく削る。互いに極限まで装甲を削り軽量化をしたハイチューン機であり、一撃が戦況を覆す綱渡り的な展開になることはやむを得ないであろう。
先制して優位に立ったドン・エンガスはリヴァイアサンで追撃を図るが、猫たーぼはそれを嫌って距離を詰めようとする。すかさずエンガスはティアマトを一斉撒布、一撃でも当たれば薄い装甲に大きな被害を与えるだろう機雷の大量射出を猫たーぼは当然のように避けてしまう。いくらメーカー自ら小型軽量を図った機体であるとはいえ、その技量は神業というよりも鬼の技に近い。これでもう一度距離を話したエンガスがリヴァイアサン連続発射、これも猫たーぼは確実に回避してしまう。
「寝てんのかオマエ!ちゃんと目ェ開いて狙えよナ!」
「あー!うるせえうるせえうるせえ!」
口の悪いレプラコーンの叱咤を受けながらも、有効距離である遠隔間合いの維持に専念するエンガス。この距離であれば相手の反撃を受ける心配がないこともあり、アランとしてはこのまま押し切るまたは逃げ切りたいところで14分過ぎ、追撃のリヴァイアサンが命中して小柄な猫たーぼの機体が揺動する様子にコクピットで会心の表情を浮かべる。だが当の猫たーぼのコクピット内にあるいそべの表情は飄々としたものであり、この状況でもまるで緊張感を感じさせることはなかった。
「いっかーい、にかぁーい」
気の抜けた声が、一度目で大量撒布されるティアマトの海をかいくぐって二度目で接近と同時にいくらスプレッドガンを発射する。一撃命中、ダメージ軽微だがいそべが測っていたのは攻撃のタイミングではなくエンガスの攻撃モードをかいくぐっての近接戦闘を実現するための行動パターンの確立であった。機雷を射出する動きに合わせて相対加速を行うことで、容易に懐に飛び込むと再び至近距離からのスプレッドガン、これも一撃が命中すると続けての射撃も着弾。確実にこちらの動きに対応されていることを理解したアランの脳裏に戦慄が走る。
「あ、ありえねェ・・・」
その同様が機体制動に現れた瞬間、猫たーぼのいくらスプレッドガンの真っ赤な散弾がエンガスの装甲を叩き、バランスを崩したところで今度は完璧に捕捉した超大型ショットガンの弾頭が四門、直撃して一気にドン・エンガスを機動停止に追い込んだ。
○猫たーぼ・ツキノワ(28分機動停止)ドン・エンガスEZ1× 23vs0
トーナメント一回戦 ふわふわエターニアvsトータス号狂鬼人間弐式
世紀末パワードトルーパー、SPTの復活に白河重工の狂わせ屋女史は高揚感を隠しきれない。SPTの最大の特徴はVM−AXと呼ばれる特殊自己防衛プログラムとそれに伴う超高速戦闘システムにあるが、常軌を逸した負荷に加えてSPT症と呼ばれる謎の症例によって安全性に疑問が持たれたことにより導入が凍結されていたものである。
「フフフ、またこのシステムが日の目を見るのね・・・」
「またなのか、またSPTなのか・・・」
狂わせ屋女史とパイロットのコルネリオ・スフォルツァがSPT−IIの基本仕様を確認している。元来VM−AXは戦場からの緊急離脱を目的に開発された機構だが、LCMシールドを展開して自ら発射したミサイルすら追い抜くことができる機動力は体当たり攻撃すら可能にする。だが強力極まるシステムに機構の多くを費やすために、機体の基本性能は低い。今回もSPT機で参戦登録をしているのは彼らのみであった。
対するはチーム「S.M.A.R.T.」ことふわふわエターニア陣営。工学技術では業界随一と呼ばれ、レイストリーム現象と呼ばれる干渉現象を利用したレーザー波増幅システム、通称メガクラッシュを実用化したチームであった。
「でもレーザーの本数が減っちゃったんですねー」
愛機エターニアの操縦席で、糸目でのんきに言うのは静志津香。両機戦闘フィールドに射出されており相対距離は中間、エターニアがファイヤーフラッシュの機雷撒布を行って戦場を設定する。先制して押し切るべく距離を離すと同時にレーザー発射角の計算を開始、その大部分は同乗する天使型AI「ホリィ・エンジェル」が受け持っていた。
「ちゅう・ちゅう・たこ・かいなー♪」
ホリィの唄う音節に合わせて照準を合わせるとロックオンレーザー発射、四本の干渉レーザー波が完璧に着弾するが期待する効果は現れない。細い目をいっそう細める志津香にホリィがトータス号の兵装を検知した。
「うーんと、複合装甲張ってるのだー」
「えー、ずるいですわねー」
加工した鏡面装甲の上に強化樹脂を張る、こうもり男と名付けられた装甲はレーザー波を乱反射させると同時に熱効果も拡散させてしまう。精密な計算を必要とするメガクラッシュを狙うには厳しい状況であった。
続けて撃ち合い、トータス号が恐怖の電話で反撃を試みるが基本的な機体性能で劣るSPT機はどうしても後手に回ってしまう。散発的な攻撃で確実に追い詰められながら、コルネリオはあきらめにも似た諦観の中でその時を待ち続けている。不本意はあろうとも、彼ほどにSPTに慣れたパイロットはいないのだ。
強化された複合装甲を、それでも少しずつ削られながらトータス号はシールド展開すると中間距離から加速、エターニアの撒布する機雷を受けつつ果てしなき暴走を命中させて反撃に転じる。そして機体への負荷が規定値を超えると同時に、通常AIがシステム制御装置を解除するとあの力が流れ込んできた。
「レイ!VM−AX作動!」
ブースターが開き、全身を蒼いエネルギーに包むと高加速機動を始めるトータス号。だが戦況は未だエターニアが優位であり、志津香とホリィはこのまま綱を落ちずに渡り切りたいところであろう。
パイロットとの精神感応を優先した、ホリィの的確な指示と座標計算によってトータス号の軌跡を予測するとファイアーフラッシュが一斉撒布される。VM−AXの高加速は回避を困難にすると同時に衝突時の相対ダメージも増加させ、弾幕の海に自ら飛び込んだトータス号は装甲の各所に火花と閃光を散らし、たちまち機動停止寸前に陥った。瞬間、特殊自己防衛プログラムが再作動して推進剤が注入されると、トータス号を包む蒼い輝きが色を変えて赤い閃光へと姿を変えていった。これが二段階VM−AX、従来を越える出力を放出するレッドゾーンの発動である。
「VM−AX!スーパーチャージ・オン!」
次の瞬間、閃いた果てしなき暴走が赤く輝く光の帯となってエターニアを貫くと巨大な爆発が生じた。計測不可能値を算出したホリィがエラーを出し、一瞬エターニアのコクピットが暗転するがすぐに予備電源により復旧する。
だが同時に放たれていたファイヤーフラッシュも確実にトータス号の軌道に重ねられており、一瞬の交錯で限界負荷を越えていたのは果てしなき暴走者であった。赤く姿を変えた流星の尾が消えると装甲が剥がれるように分解し、そのまま流れていくと機動停止する。先制の優位を活かしたエターニアが、最後の際どい攻防によって難敵の撃破に成功した。
○ふわふわエターニア(19分機動停止)トータス号狂鬼人間弐式× 6vs-11
トーナメント一回戦 ケルビムMk3vsトランス・バイパー
続いては炎天使シャル・マクニコルとケルビムMk3の登場。天使型をイメージした機体での参戦が売りとなっているケルビム陣営だが、天使十真(あまつか・とうま)と称するメカニックチーフが本当に現役の神父をしているという一風変わり種のチームでもある。
「炎天使の雄々しき勇姿!主の偉大さを知らしめるのだ!」
「御心の、ままに」
情熱的な信仰心は冷徹な集中力と同居しうる、シャルはそれを証明することができるパイロットであった。その相手となるのは戦績こそ安定しないが、随所での栄冠を手にしているトランス・バイパーとネス・フェザードである。両者とも軽量機による近接格闘戦を得意とし、至近距離での技術戦が展開されるであろうことが予想された。
両機中間距離から開始、出会い頭に思い切った攻撃に出たケルビムのフォーウイングスが命中して先制攻撃に成功する。機先を制してそのまま接近、チャイルド・オブ・ファイアをまとい襲いかかるが回避性能を上げているバイパーはこれを巧みにかわす。至近距離での攻防でも確実に攻撃をかわすバイパーだが、攻勢をゆるめないケルビム相手に反撃の機会が掴めない。9分過ぎにも炎天使の攻撃が命中、ここまで一方的な展開となっている。
「何をやっとるか!離れても狙われるだけだ、お前さんの腕で何とかしろ!」
「はいはい、分かってますよ!」
通信回線を通じて響き渡る、オペレータのカーネルの怒声に答えながら相手の隙を窺う。幸いというべきか、押されながらも戦況は膠着しており決定打は出ていないのだ。相手は若いながら歴戦の戦闘機乗りであるが、キャリアならばネスも負けてはいない。
加速を抑えるべくケルビムの攻勢が止まった一瞬、バイパーの左腕に装着していたブースターが火を吹くとブーストナックルが襲いかかる。咄嗟に反応したケルビムがこれを受けながらもダメージを抑えるが、腕が伸びきる前にバイパーの右腕もすでに加速を始めていた。完全に捕捉したブーストナックルが炎天使の胴体に直撃して、一気に戦況を互角に戻す。
「やるっ・・・!」
一瞬の隙を突かれたケルビムのコクピットでシャルは舌打ちをするが、相対座標の再構築には成功している。続けて攻勢に出ると、炎天使の拳が虚空を切ってバイパーに襲いかかった。ことごとくをかわすバイパーだがラッシュをかけるケルビム相手にやはり反撃に移ることができず、終了間際にチャイルド・オブ・ファイアの攻撃を受けるとそのまま逃げ切られてタイムアップ。接戦を最後に覆したケルビムが一回戦を突破した。
○ケルビムMk3(30分判定)トランス・バイパー× 25vs14
トーナメント一回戦 アルファ=オメガvs漁協たこつぼーる
漁協協賛シリーズ、前大会に引き続きタコ型機体に黄金のタコツボを被って防御性能を増したたこつぼーるの登場。対するはジェーン・ドゥ駆るアルファ=オメガの一戦である。ジェーンはコクピットで通信を交わす女性の声だけしか確認されたことがなく、年齢容姿その他一切が不明のパイロットであった。
「駆動系・・・承認、動力系・・・承認、制動系・・・承認。出撃可能状態、承認」
「オメガは右からの反応が2ポイント劣る。注意したまえ」
「了解しました」
通称「教授」と呼ばれるメカニックとの通信を終える。アルファ=オメガはベーオウルフフレームをベースに、全距離対応にバランスを重視した設計となっており、いわゆる「崩れることの少ない機体」をコンセプトにしていた。一方で、たこつぼーる騎乗の神代進はやはり距離を選ばない全面攻勢を得意としており、両機正面からの攻勢による激突が予想される。
近距離から双方攻撃開始、互いに命中せず距離を離すとオメガのサルガッソーの悪魔にたこつぼーるもたこ焼きボムを両機一斉射出する。多量の機雷撒布が行われるが誘導に成功したのはたこつぼーるであり、オメガは一部をガードしつつも多少の損害を被った。たこつぼーるが再度接近、やきたてタコ足を振り回すが命中せず。再び離れて機雷の撃ち合いはたこ焼きボムが命中してここまでオメガが一方的に押されている状況。
「相手の狙いは近接戦・・・このまま撃ち合うわよ」
「相対ベクトル、マイナス。座標データを確認して下サイ」
不利な状況でなお、それを維持することを選択したオメガはここから反撃開始、相手の軌道を想定してサルガッソーの悪魔を射出するとこれを立て続けに命中させる。一部はガードされるが、ジェーンはこの距離であれば僅かに出力の勝る自機が優位にあることを確信していた。それはたこつぼーるに騎乗する神代にも同様であり、戦況を逆転されたこともあって近接戦への移行を図るが、ジェーンは頑なにそれを許すまいとする。
「・・・構わないさ」
コクピット内でうそぶくと、神代も遠慮のないたこ焼きボムの一斉射出。もともとたこつぼーるは全距離対応の攻勢機であり、それだけに特定の距離で相手が勝る事態は常に想定をしなければならない。戦場を無数の撒布機雷が埋め尽くすと両機の周辺に一斉に熱と光の花が咲き乱れた。続けて接近、ここでたこつぼーるの狙っていたやきたてタコ足が命中すると炎の舌がオメガの周囲にまとわりつく。
「急速離脱を指示しまス。状態維持は危険」
オペレータのファイ・アビスが発する機械音声を受けて離脱、サルガッソーの悪魔を射出してオメガも反撃する。続けての接近戦はグレムリンの爪で迎撃して、離れるとまたも機雷撒布、戦況は完全に互角となっている。だが開始20分、たこつぼーるは遂に待望の近接距離の維持に成功すると八本のアームを可動させた。
(KRAKEN・FORCE)
やきたてタコ足を振り回して、応戦せざるを得なくなったオメガと斬り合い、熱せられた流体金属がオメガの装甲を焼くと遂に負荷限界を越えて機動停止。たこつぼーるが接近戦から一気に勝負を決めた。
○漁協たこつぼーる(23分機動停止)アルファ=オメガ× 10vs-3
トーナメント一回戦 偵察用GMvsオーガイザー
放浪する宇宙サムライ、無頼兄・龍波の登場。豪快で曲がったことの大嫌いな無頼兄だが、そんな彼でも悩みがない訳ではない。コクピットで愛機オーガイザーの最終点検をしている様子に、彼をサポートするAI・鬼刃(きば)が問いかける。
「感応値低下・・・パイロット状態ヲ確認セヨ」
「あー、悪かったよ気合い入れっぞ」
だが無頼兄が気にしていたのは自分の体調でも機体の様子でもなく、今大会よりメカニックとして参戦することになった彼の姉のことである。龍波紅刃は一見したところおっとりした温厚な女性にしか見えないが、無頼兄にとって頭の上がらない姉であり裏では鬼姉とも笑顔の鬼神とも呼んでいた。もちろん、本人を前にそのようなことが言えるはずもないだろう。
その無頼兄とオーガイザーの相手はジムが搭乗する偵察用GM。先の未確認機による襲撃事件を受けて設計されたらしく、手ブレ補正機能までつけたガンカメラを備える高精度情報収集機であった。
「いや、対応が早いのは認めるけど・・・」
対戦相手にガンカメラを向けてどうするつもりでいるのか、ジムの疑問は消えなかった。その件についてはメカニックのジェガンもオペレータのネモも沈黙を守っており、どうせ聞いても無駄であろうことは分かっている。だがジムの疑問も両機が戦闘フィールドに射出されて、高精度ガンカメラで捕捉できる遠距離戦に入るまでのことであった。
レーダー透過機能の発達によって、光学認識による索敵が重視されるストライク・バックでは思いのほかガンカメラは相手の捕捉に優れた装備であるのだ。慣れぬ手つきでシャッターならぬトリガーを引くと、連装式のモリにも似たハープーンショットがカメラから撃ち出される。
「お、これはいいかも!」
もとよりジムはどんな機体でも扱うことのできる適応性が売りのパイロットである。近接戦を狙うオーガイザーに更にフォーカスを合わせると今度はカメラからバルカンショットが撃ち出された。どうやらオートフォーカス機能と武器選択機能が連動しているらしい。思わぬ先制攻撃を受けたオーガイザーもようやく接近戦に移行、必殺ガイブレイザーに熱放射を始めるが、通信回線を通じて行われるネモの指示がジムの行動予測を助けている。オーガイザーが離れてソウルヴァルカン、命中すると一気に加速接近してガイブレイザーの特攻を行うがこれを予測したGMは確実にガードに成功する。
ここまでほぼ一方的な展開、コンビネーション攻撃までブロックされたオーガイザーだがコクピットで指示を送るAI・鬼刃の機械音声には動揺した様子は見られない。それは彼がAIであるが故ではなく、戦局を判断した上でのことである。
「状況ハ不利デハナイ、コノママ攻勢ヲ継続セヨ」
「おお!そう来なくっちゃなァ!」
超合金Zに匹敵する魂鋼の装甲は、攻められながらも致命の傷を許してはおらず展開は射撃戦から確実に近接格闘戦に移行しつつあった。既に開始20分近く、ガンカメラの狙撃で少しずつ追い詰められてはいるが、ここは自分のスタイルを信じるしかないだろう。そして23分、遂に火を吹いたガイブレイザーの右拳がGMの装甲を叩き、返す左拳はシールドでガードされるが無頼兄はこれを好機と判断した。
「押し切るぜ!ガァイ・ブレイザァー!」
そのまま肩から強引に体当たりを敢行する。猪突する質量の塊に激突されたGMはダメージを受けるとともにバランスを崩すと急速離脱、だがソウルヴァルカンで狙撃したオーガイザーが再特攻によるガイブレイザーを命中させたところでタイムアップ。この最後の攻防で逆転に成功したオーガイザーが接戦を制して一回戦を突破した。
○オーガイザー(30分判定)偵察用GM× 17vs14
トーナメント一回戦 サンジョンバード3vsどんきほーてキーマカレー風味
一回戦最後の対決は新規参加の宇宙の流れ者一族という三条つばめ、かもめ、ひばりの三人姉妹が登場。娘三人寄れどもかしましいという組み合わせでもないらしい。
対するベアトリス・バレンシアは着ぐるみぐまのフーさんと謎のインド人を従えた、摩訶不思議なチームでの参加というやや変わった組み合わせによる対戦である。
(EPSILON・FORCE)
両機ともに近接戦闘狙いで接近戦から開始、三条三姉妹騎乗のサンジョンバード3は至近距離から火弾を放ちつつ突進し、ベアトリスの駆るどんきほーてもひかるこぶしで応戦する。至近距離から二度の殴り合いは双方外れ、鉤爪をむくサンジョンバードにどんきほーてはこれを回避しながらカウンターのこぶしを振るうとこれが直撃する。24時間365日ひたすらカレーという謎のインド人が誘導してババビール風ラテン娘のベアトリスが一気に攻勢、高出力のひかるこぶしで殴りかかると一気に畳み掛ける。
ここまで一方的な展開で開始12分、サンジョンバードの攻撃がようやくどんきほーてに命中、技名を考えるのは苦手という特攻で装甲を削るがどんきほーては続いての攻勢をやはり回避しながらひかるこぶしで反撃を叩き込む。更に追撃、サンジョンバードも反撃を図るが至近距離でも回避能力に長けているベアトリスの機動性に追いつけず、決定打こそ受けていないが攻勢の糸口が掴めない。最後は追い詰められてそのまま押し切られると、とどめのひかるこぶしで機動停止。経験の差を見せてベアトリスが二回戦への最後の切符を手に入れた。
○どんきほーてキーマカレー風味(25分機動停止)サンジョンバード3× 33vs0
トーナメント二回戦 ナイトオブナイトvs猫たーぼ・ツキノワ
前大会で前人未到の三連覇を達成した「女王」ロストヴァ・トゥルビヨンがいよいよ登場、機体は汎用ドラグーン機であるナイトオブナイト(KnightofNight)で参戦。だが「男性型機はゲンが悪いのよね」とは本人の言葉である。その相手は一回戦で月光系の同型機ドン・エンガスを撃破した山本いそべと猫たーぼ・ツキノワ。実力者同士の一戦は両者中間距離からの開始、得意の中距離はロストヴァの間合いだが、猫たーぼの常軌を逸した機動力は距離を問わずに発揮される。ナイトオブナイトのコーリングトライアンフをかいくぐって猫たーぼが接近、いくらスプレッドガンを放つが迎撃のデスアンドホナーと双方命中せず。序盤は互いに様子を窺う展開となる。
「相変わらず、子供は落ち着きがないわねえ?」
「相変わらず、おばさんは口うるさいのだー!」
毒づきながら中間距離、牽制射撃からコーリングトライアンフで狙撃するが猫たーぼは回避、再接近したいくらスプレッドガンをかすらせてダメージ軽微とはいえ先制する。中間距離に戻して射撃するが外れ、命中精度がやや甘くロストヴァはコクピットで舌打ちをする。ドラグーンに熟達している彼女は今回の機体が機動性と回避性にやや傾倒していることを認識していたが、機動力勝負となれば猫たーぼの土俵でありできればそれは避けたいところであった。
続けてコーリングトライアンフ三連するもやはり猫たーぼの装甲を叩けず、有効距離の維持は相手にプレッシャーをかけることができるが猫たーぼもそれを承知で攻撃のことごとくを回避する。巡ってくる一瞬の好機を狙うのが猫たーぼと山本いそべのスタイルであり、この状況ではプレッシャーをかけられているのが自分であることをロストヴァは認識せざるを得ない。
「もう一度、乙女の憧れ騎士様の攻撃・・・」
中間距離から狙撃状態でのコーリングトライアンフを三連、確実に捕捉するが猫たーぼはその全てを確実に回避する。回避行動から猫たーぼの両肩に搭載された空間機動ジェネレータが座標エネルギーを運動エネルギーに転換すると、ナイトオブナイトの三射目に合わせて加速、一瞬で至近距離に現れるといくらスプレッドガンを解き放った。
「しまっ・・・!」
次の瞬間、コクピットが衝撃で激しく揺れる。四発の大型弾を直撃されたナイトオブナイトはすぐに反撃に転じるが、攻勢後も隙を見せない猫たーぼはこれを確実に回避。その後は中間距離に移行、23分過ぎに狙い続けたコーリングトライアンフが猫たーぼのモード移行時に発生したタイムラグを突いて命中するが、直撃を避けられ決定打とはならずに逃げ切られるとそのまま時間切れ。ロストヴァの連勝は9でストップとなり、ゲンの悪い機体で一瞬のミスに涙を飲む結果となった。
○猫たーぼ・ツキノワ(30分判定)ナイトオブナイト× 35vs18
トーナメント二回戦 ふわふわエターニアvsケルビムMk3
「ホリィちゃん?ホリィちゃーん?(ぶんぶん)」
「うーん?トンファーは勘弁なのだー」
一回戦、レッドゾーンの衝撃からようやく目を覚まつつあるらしいふわふわエターニアと、ケルビムMk3の対戦は意外なことにZ大会に入ってからの初対決となる、天使型機同士の激突となった。四つの可変スラスターと四門の砲門を持つ鋭角的なケルビムに対して、エターニアは生物的な動きをする銀白色の翼が印象的な機体である。
「ケルビムは絶対の炎!主の御姿を不浄な世界から包み隠す炎にして主の臨在の徴である!」
メカニックチーフに送り出され、万全の整備体制でカタパルトから射出されるケルビムは先制を図り前進、接近戦からチャイルド・オブ・ファイアの出力を上げるがこれは急ぎすぎたか命中せず。離れたエターニアはファイアーフラッシュを撒布すると更に後退、遠距離に到達するとロックオンレーザー発射、これも移動攻撃のためか捕捉できずに光条が宙を切る。
遠距離戦でのメガクラッシュを狙うエターニアに、近接戦で炎天使を発動させたいケルビムは再接近するが命中せず、両者距離の取り合いに終始して攻勢に移ることができない状況が続く。再び遠距離からまたも中間距離に詰められると、ファイアーフラッシュがわずかにケルビムの装甲をかするが効果は微小。ここで強引に機雷の雲を突破したケルビムがチャイルド・オブ・ファイアをまとい突進、エターニアも反応するとこれを確実にガードする。
「機雷の海を泳ぎましょーう」
「ふぁふぁふぁふぁふぁいやぁ・ふらっしゅぅ」
志津香の声にホリィが続けて、ファイヤーフラッシュが撒布される。宙域を漂う撒布機雷に衝突して、多少ながらも再びケルビムが被弾、接近してのチャイルド・オブ・ファイアも回避される。そこから中距離、遠距離と離れてエターニアがロックオンレーザーを放つがこれはケルビムが回避。双方膠着状態となるが、ここまでの軌道データの解析に成功したのはエターニアに同乗しているホリィ・エンジェルが先であった。
「右右左上左左左左いー」
呑気な口調はパイロットとの思考リンクを優先した故とされており、その分だけ簡易化された情報に従って撒布された機雷が予測されたケルビムの行動曲線上に配置される。連続着弾、続けての撒布は回避するが近距離戦を狙った行動を再び予測して射出された機雷が複数弾、ケルビムの薄い装甲にまともに着弾する。
一気に追い詰められたケルビムは危機を悟るとチャイルド・オブ・ファイアで突進、これを命中させるが連続攻撃がガードされると離れて発射したフォーウイングスも回避され、そこにエターニアのロックオンレーザーが狙いを定める。
「ちゅう・ちゅう・たこさんうぃんなー♪」
「めぇが・くらっしゅーう!」
四本のうち波形干渉できたのは三本だけであったが、もとより装甲の薄いケルビム相手にメガクラッシュ発動した光の帯が閃くと炎天使の装甲を一気に破壊、ふわふわエターニアが難敵を圧倒しての準決勝進出を決めた。
○ふわふわエターニア(25分機動停止)ケルビムMk3× 33vs-19
トーナメント二回戦 漁協たこつぼーるvsオーガイザー
続いてたこつぼーるとオーガイザーの対戦、両機ともに攻勢機同士の激突となるがコンセプトは大きく異なっている。重火器と重装甲で突進する、近接戦闘による正面突破を好む無頼兄に対して神代の戦法は距離を問わず容赦のない攻勢制圧前進にあった。
「削り合いになりますえ?装甲を過信したらあきません」
「お、おう!わかってるぜー!」
姉の紅刃の言葉はもっともな意見ではあるが、正面激突ができる相手との対戦は望むところである。光学モニターに映し出されているタコツボ型の戦闘用ポッドが秘めているであろう、圧倒的な火力に無頼兄は高揚感すら感じていた。
中間距離から開始、たこつぼーるから放たれるたこ焼きボムはオーガイザーの頑強な魂鋼に阻まれるものの多少のダメージを与えて、多少ながら先制攻撃に成功する。だがそのまま接近戦に挑んでの殴り合いが戦いのメインとなることを両機ともに理解していた。
(KRAKEN・FORCE)
「男は黙ってドラグーン!可変機なんざ選ばねぇぜ!」
近接戦闘ですかさずタコ形態に変形するたこつぼーるに、コクピットで気合いを入れる無頼兄。全身を炎に包んだガイブレイザーで突進すると体当たりを見舞うが、同時にたこつぼーるの周囲に展開する黄金のタコツボが熱エネルギーを吸収、反射してオーガイザーの装甲にたたきつけられた。
「位相反射システムかよ!楽しいモンつけてんじゃねーか!」
「長期戦ハ不利、更ニ攻勢ヲ強メヨ!」
「当然だァァー!」
熱エネルギーおよび光学エネルギーを100%とは言わずとも反射する、自動反撃システムが相手ではオーガイザーの重装甲であっても無事では済まない。姉が言っていたことの意味を今更ながら理解した無頼兄はオペレータAI・鬼刃の意を受けて更に出力を上げた。
たこつぼーるは回避とガードを巧みに織りまぜるが、思い切ったオーガイザーの攻勢にやきたてタコ足の熱線を食い込ませることができずにいる。幾度か命中をしても、その都度反撃を受けしまい、継続して熱線を送ることができないのだ。
「ファイナル!ガァイ・ブレイザァーッ!」
右拳に乗せた熱エネルギーを機体加速に乗せて、放たれるガイブレイザーが黄金のタコツボを粉砕するとたこつぼーるは機動停止。無頼兄にとっては理想的な展開で正面からの激突を制覇することに成功した。
○オーガイザー(17分機動停止)漁協たこつぼーる× 18vs-3
トーナメント二回戦 どんきほーてキーマカレー風味vsポリュヒュムニア
もう一人のシード枠となる「北欧で最もスウェット姿が似合う男」テムウ・ガルナが登場する。春になってイハラ技研にも岩田新蔵という若い新人くんが入社、花見で意気投合してこれで将来はご用聞きの軽ワゴンを運転しなくてもよくなるかとテムウの期待もひとしおであった。今はメカニック担当のおやっさんに弟子入りしてメーターの検針とプロパンの付け替えから教わっているらしい。
対するベアトリス・バレンシアとどんきほーては一回戦に続いてXiフォース機が相手となり、ここは連続撃破をして上位進出を目指したいところである。
(GEOMETRY・FORCE)
近接戦闘から開始、特徴的なデザインを好むのがイハラ技研の機体の特色であり、ポリュヒュムニアの近接形態も脚部の代わりに針にも似た長いバランサーを下げ、肩から背中にかけて搭載されている複数の大型スラスターから両腕のアームが伸びている。アームに装着された剣を磁力レールで打ち出すスラッシュラインが襲いかかると、どんきほーてもひかるこぶしを返すが双方移動攻撃のためか命中せず。離れてどんきほーてがまっすぃーんがんを発射するがこれも外れ。更に遠距離間合いにまで離れれば、そこはテムウ得意の距離となる。
(MUSICA・FORCE)
変形したポリュヒュムニアのスラスターが広がると、複数の翼を持つ芸術神めいた姿に変わり攻撃用アタッチメントが切り放された。刃を鉤爪のように構えたディバインストロークがどんきほーての装甲を削り、続けての攻撃はかわされるも死角からもう一本のアタッチメントが装甲を切り裂く。
まっすぃーんがんで牽制してから接近を図りたいベアトリスだが、テムウはそれを許さずに遠距離から確実にディバインストロークを操作、再び二本の音律が襲いかかるとベアトリスは守勢に手一杯となる。
「エル・ノサワ・メンドーゥサァー!」
訳の分からない言葉を叫びながらどんきほーてが思い切った突進、不利を強引に補うべくまっすぃーんがんで牽制してから接近してひかるこぶしを命中させる。近接形態に変形したポリュヒュムニアにも怯まず、近接戦での優位を信じてひかるこぶしを握りしめた。ベアトリスのオペレータについている、謎のインド人が近接戦闘でのテムウの行動軌跡を予測すると、そのデータが環境因子に設定される。再びひかるこぶし、高出力エネルギーを放出する右拳がポリュヒュムニアに打ち込まれた。
離脱を図るテムウに追撃のまっすぃーんがん、接近して攻撃は回避されるが離れるとまたも牽制射撃、これを繰り返して終了間際30分にどんきほーてのひかるこぶしがポリュヒュムニアに直撃!高エネルギーが叩き込まれるがここでタイムアップ、判定となるが序盤の攻勢で大きく優位に立っていたテムウが辛うじて逃げ切る形で勝利。終盤のラッシュが届かずベアトリスは惜しくも敗退となった。
○ポリュヒュムニア(30分判定)どんきほーてキーマカレー風味× 19vs15
トーナメント準決勝 猫たーぼ・ツキノワvsふわふわエターニア
いよいよ準決勝。猫たーぼ陣営は今回、クスノテックと東京工科大学によるTEAM K.K.という混成チームでの参戦をしており、技術者の中には学生の姿も散見されている。もっともパイロット兼社長のいそべが現役女子高校生であることを思えば、いっそロボットの競技会かコンテストに参加した方が違和感のない顔ぶれであったかもしれない。小型軽量機で知られる猫たーぼを更に小型化しつつ、クスノテック開発の空間機動ジェネレータまで搭載した技術力は感嘆ものであったろう。
対するはチーム「S.M.A.R.T.」エターニア陣営。こちらはチームへの出資は不明だが、能力の優秀な技術者やパイロットを集めた実験性の強い一団となっている。精神感応AI搭載オペレータのホリィ・エンジェルをはじめとする先進的な技術とともに、たいていは志津香の思いつきから生まれているらしい趣味的な傾向でも知られている。両者の対戦はここ二大会で連続してエターニアの勝利、志津香としては三連勝で返り討ちにしたいところであろうか。
「でもおもしろい幾何ソフトを見つけたんですよお?」
「よーし、こっちにアップロードしていいぞー!」
わざわざ無線回線を開いてまで、リアルタイムのパズルゲームを送っているところを見ると仲が悪い訳ではないらしい。最近は各陣営間での技術提携も頻繁に見られるようになっており、ストライク・バック全体の技術向上を助ける事情になっているようだ。だが対戦が始まってしまえば、彼女たちは互いの手の内を「楽しむ」ことに躊躇する関係でもなかったろう。
「この、ちゅう・ちゅう・ちゅう♪」
呑気な声でリズムを取りながら、遠距離間合いから放たれるロックオンレーザーが宙を切る。開始早々の砲撃は狙いも甘く、続けて二度の光条も命中せずに近接格闘戦を狙う猫たーぼが前進、エターニアが射出する機雷の海をかいくぐりながらとびうおスパンカーを撃つがこれは回避される。
ここで接近戦を許さず再離脱、猫たーぼのタイミングをずらしたエターニアが絶好の好機にロックオンレーザーを一斉発射!初弾は回避されるものの二射目で四発中二発を命中、メガクラッシュ発動こそ至らないが先制に成功する。
「Mii、エネルギー転換、はじめー!」
回避性能に優れる猫たーぼは、わずかなダメージでも先制を取ることで相手に強力なプレッシャーを与えることができる。その機先を制されたいそべは再び接近を図ることにして、エターニアのファイヤーフラッシュ機雷を泳ぎ抜けるとごく当然のように至近距離に到達する。右手に内臓されたいくらスプレッドガンが四連同時発射されると、エターニアの装甲に叩き込まれて一気に戦況をひっくり返してしまう。その間も高機動力を高エネルギーに転換する空間機動ジェネレータの効果で猫たーぼの加速力は向上、このままならいずれVM−AX並みの機動性を得ることもできるかもしれない。
「とってもとても困りましたねー」
ふわふわほえほえしている志津香とホリィも、状況は理解しているのかロックオンレーザーを狙うことができる遠距離まで離脱すると砲撃、猫たーぼは当然のようにこれを回避する。更に接近、いくらスプレッドガンを放つがこれは命中せず。
既に攻防は20分を越えており、互いに緊張感のある距離の取り合いから攻勢を狙うが近接と遠距離の間合いを交互に奪いつつも決め手を得ることができない。だが28分、終了ぎりぎりになって遂にエターニアが猫たーぼの軌道捕捉に成功した。
「ちゅう・ちゅう・ねこさんうぃんなー♪」
「めぇが・くらっしゅー!」
干渉する光条はやはり完全とはいかず、三本のみの集中となるがケルビム戦同様にメガクラッシュ発動に成功した光エネルギーの槍が猫たーぼに直撃!この一撃で一気に戦局を決めたふわふわエターニアがそのまま判定で逃げ切って決勝進出を決めた。
○ふわふわエターニア(30分判定)猫たーぼ・ツキノワ× 26vs14
トーナメント準決勝 オーガイザーvsポリュヒュムニア
準決勝二試合目は無冠のスウェット、テムウ・ガルナと放浪の宇宙サムライ、無頼兄の激突。こちらも先の試合と同様に遠距離戦を狙うポリュヒュムニアに近接格闘戦を挑むオーガイザーとの間での距離の取り合いが鍵になるであろう。
「ヴァルカン!!」
中間距離からソウルヴァルカンの抜き撃ちで開始、これは外れるがオーガイザーは一気に接近すると遠慮のないブーストから全身を炎に包んで突進する。ガイブレイザーの右拳がポリュヒュムニアに命中するが、すかさず反撃のスラッシュラインが至近距離から打ち出されてオーガイザーの装甲を切り序盤の攻防は互角といったところ。
ここで戦況は膠着、近接格闘戦はオーガイザーに優位の状態だが両者ともに相手の反撃を警戒したか一歩を踏み込むことができずに攻撃を命中させるに至らない。一旦離れてオーガイザーがソウルヴァルカン、これもポリュヒュムニアに回避されてしまう。
(GEOMETRY・FORCE)
再び接近戦を挑むオーガイザーは右拳から上体を回転させた左拳のガイブレイザーを命中、だがポリュヒュムニアも右のスラッシュラインで牽制してから左の刃を打ち込んで一歩も引かない。魂鋼の厚い装甲で防いではいるが、それがなければ戦況は近接戦主体にも関わらずオーガイザーが不利に陥っているかもしれなかった。
「捨て身ってのは!身を捨てることだァー!」
開始20分、強引な前進突破攻勢が遂に功を奏したか、ガイブレイザーの突進がポリュヒュムニアに直撃して機体を派手に揺るがす。反撃のスラッシュラインを受けるも気にせずに火を吹く左拳を至近距離から発射、この二発で芸術神の名を持つ相手を突き放した。
だがポリュヒュムニアもそのまま圧倒はされずスラッシュラインで反撃、距離を離すと同時に狙い撃たれたソウルヴァルカンも確実に回避するとバランスを崩しながらも離脱、遠距離間合いの確保に成功する。
(MUSICA・FORCE)
変形したスラスターが広がり攻撃用アタッチメントを射出、宇宙空間を疾駆するディバインストロークがオーガイザーに襲いかかると幾筋もの刃の軌跡が魂鋼の装甲を削る。だが攻勢が本格的なものになる前にここで無念のタイムアップ、終盤まで相手の得意距離に乗せられてしまったテムウが粘り強い反撃を見せたものの無念の準決勝敗退となった。
○オーガイザー(30分判定)ポリュヒュムニア× 16vs5
NAKAMOTOストライク・バックZ第八回大会決勝戦 ふわふわエターニアvsオーガイザー
第8回大会決勝戦はともに準決勝で強豪を下した、ふわふわエターニアとオーガイザーによる激突となる。両機に搭乗する静志津香と無頼兄・龍波とは旧知の間柄らしいが、ふわふわほえほえおねーさんと宇宙サムライがどうした経緯で知り合っているのかは人の知るところではないようだ。
「負けたら火あぶりですえ?」
無頼兄が姉にそう言われたという記録は存在しない。優勝した第二回大会以来の決勝進出となるオーガイザー陣営では、準決勝で削られていた魂鋼の装甲換装も終わり、駆動系および出力系統の確認から相棒のAI・鬼刃のメモリクリーニングまで完了して既に万全の体勢になっている。
「そーいやお前さんの名前、鬼牙で登録されてなかったか?」
「申請時ノトラブルト思ワレル。今回ヨリ修正シタ」
運営管理局でオペレータの申請を行う際、同時期にオンラインで登録手続きを行っていたホリィ・エンジェルのシステムが介入をしたという噂もある。その真偽は不明だが、人格プログラムを接続するようになってから稀とはいえ奇妙なトラブルが発生するようになったのはストライク・バックだけの話ではなかった。一方のチーム「S.M.A.R.T.」エターニア陣営でも準備は万全であり、機体の最終調整を行いながらもホリィ・システムとの精神感応値を計測する作業に余念がない。
「ちゅう」「ちゅう」「たこ」「かいなー」
奇妙な合いの手は実戦での思考リズムを合わせるためである。AIに第六世代言語が投入されるようになったのはストライク・バックZ大会が始まって以降だが、今ではかなり高いレベルでの人格が認められる段階に入りつつあった。
両機スタンバイ、宇宙ステーション「アストロボーイ」に連結されたストライク・バック専用フィールドに繋がるカタパルトに設置されると、パイロットが搭乗して最終確認と承認作業が行われる。タイムカウントはすでに始まっており、残りが10分を切った段階で格納庫から切り放されたカタパルトが射出口へゆっくりと移動する。「アストロボーイ」の自転慣性に合わせてカタパルト射出、フィールド内周を巡るレール上を滑走しながらGと加速が機体に与えられて行き、タイムカウントゼロと同時に両機発進。決勝戦が開始された。
「ガァイ・ブレイザァー!」
一息に接近、最大加速からエネルギーを放出して体当たりを狙うオーガイザーの突進はエターニアがしっかりとガードする。離れてソウルヴァルカン、エターニアはこれも確実にガードに成功。ここから反撃に転じると移動攻撃でロックオンレーザーを発射するが外れ、続けての第二射も命中せず。ここで戦術を変更して前進、中間距離に移るとファイヤーフラッシュを大量撒布。装甲が頑健でメガクラッシュ発動がしにくいオーガイザーを相手に機雷中心の手数で攻めようという算段である。
「機雷の海を泳ぐのですー」
「もっともっともっと・ふぁいやーふらっしゅう」
連続撒布される浮遊機雷群に衝突したオーガイザーはかなりのダメージ。不利を挽回すべく接近、ガイブレイザーの拳を右から左と振り回すがエターニアは初撃を回避、二撃目はガードしてオーガイザーに攻勢を許さない。離れて機雷撒布、ロックオンレーザーと牽制したところでまたもファイヤーフラッシュ、魂鋼の装甲に激しい閃光が明滅した。危機を悟ったオーガイザーは逆転を狙い強引な前進、攻勢を図る。
「当ァたれェーッ!」
握りしめる拳だがこれも宙を切ると容赦なく機雷源に追い込まれるオーガイザー。既にフィールド内はエターニアの撒布した機雷が各所に配されており、これをかわしながら戦わねばならなかった。ソウルヴァルカンの反撃を当てながらも決定的な主導権を握ることができず、重装甲に守られながらも度重なる被弾に損耗の激しいオーガイザーは最後の逆転を狙うべく近接格闘戦でのガイブレイザーによる特攻を試みる。
「突撃!ガァイ・ブレイザァーッ!」
「ちゅう・ちゅう・ちゅう・ちゅーぅ♪」
だが最後はオーガイザーの突進する軌道を計算して、しっかりと機雷を配置したエターニアのファイヤーフラッシュが宇宙サムライの前進を阻んで機動停止。実力を見せたふわふわエターニアが優勝の栄冠を手に入れた。
○ふわふわエターニア(27分機動停止)オーガイザー× 30vs-7
成績 パイロット 機体名 戦績 所属
優勝 静志津香 ふわふわエターニア 4戦4勝通算18戦11勝 TEAM「S.M.A.R.T.」-
準優 無頼兄・龍波 オーガイザー 4戦3勝通算17戦10勝
3位 山本いそべ 猫たーぼ・ツキノワ 3戦2勝通算20戦12勝 -KUSUNOTEC-
3位 テムウ・ガルナ ポリュヒュムニア 2戦1勝通算21戦13勝 -イハラ技研-
5位 ロストヴァ・トゥルビヨン ナイトオブナイト 2戦1勝通算19戦14勝
5位 シャル・マクニコル ケルビムMk3 2戦1勝通算14戦06勝
5位 ベアトリス・バレンシア どんきほーてキーマカレー風味 2戦1勝通算09戦02勝
5位 神代進 漁協たこつぼーる 2戦1勝通算08戦01勝
9位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号狂鬼人間弐式 1戦0勝通算14戦06勝 -白河重工-
9位 ジム 偵察用GM 1戦0勝通算11戦05勝
9位 ネス・フェザード トランス・バイパー 1戦0勝通算08戦04勝
9位 アラン・イニシュモア ドン・エンガスEZ1 1戦0勝通算06戦02勝
9位 ジェーン・ドゥ スターダスト・ミラージュ 1戦0勝通算03戦01勝
9位 三条つばめ サンジョンバード3 1戦0勝通算01戦00勝
** ダルガン・ダンガル −−− 0戦0勝通算12戦06勝 -メガロバイソンプロジェクト-
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