logo 第九回大会
 西暦も2000年を過ぎて、時が21世紀を迎え入れたことを人類はさも当然のことのように受け入れている。世紀を超えるに際して予測された多くの幸福な、または不幸な未来の姿などまるでなかったことのように、日常は日常のままであって未来とは幼児が夢見ていた他愛のないおとぎ話の中のできごとでしかないかのように思われていた。
 だが、発展はたいていが緩やかなものであって、当時の人類が現在の姿を見れば、そこにまぎれもない未来の姿を認めていたであろう。例えば、人型汎用機械が宇宙空間を飛び交うような、そんな日常的な未来の姿のことを。

「アルファIV、起動試験開始します」

 第六世代プログラミング言語として開発された自律型言語、ALPHAをもとに設計された基礎人格を搭載した人型汎用機が、漆黒の宇宙空間を漂っている。駆動部をゆっくりと回転させる、その動きはぎこちないが歩き出したばかりのアルファには未だほとんどの情報が与えられていない、いわば赤子と同様の状態であった。初期条件のみを与えればあとは時間をかけて成長していくのを待てばよい、それが「アルファ」を産み出した者の基本思想である。

「だが、いい子に育てるには躾が必要だね」

 指示に従い、中空に漂う岩塊の撤去作業を行っている汎用機の姿をモニター越しに眺めながら、アルファの開発者たちは諦観した目を向けている。アルファIVは彼らが作り出した四度目の人格であり、これまでの三例は人格が形成される前に自律処理に耐えきれず、単なる音律のままで留まるかまたはあえなく崩壊していたものである。
 通常、人工知能に用いられているプログラミング言語は彼らが認識した環境に対して独自に判断して応答する能力を持っている。それはストライク・バック競技の一部で用いられているオペレータ・プログラム等に見られるように、人間の行動を助ける能力としては優れて役立っているが、人間に代わって行動をするものではない。ALPHAの特徴は環境を認識せずとも判断を行う機能を備えていることにあったが、それを正常に働かせるためには未だ時間が必要であった。


トーナメント一回戦 ケルビムMk4vsコッペリア


 西暦2007年8月。第9回を迎えるストライク・バック宇宙大会の会場では、先に映像公開された「アルファIV」稼働実験の様子が話題に上っている。未だ赤子のような頼りない動きであるとはいえ、完全無人による汎用機体の操縦が実現するかもしれないとあればその技術の革新に興味を引かれずにはいられなかったであろう。

「無人機、無人機、無人機、ね・・・」

 ロストヴァ・トゥルビヨンはしばらく前に、テスト飛行中に彼女を襲った所属不明機のことを思い出していた。未だ無人機の稼働試験が行われている現在、だが、彼女はかの不明機が無人機であった可能性を奇妙な確信を持って信じている。もともと戦闘機乗りであったロストヴァはその後、ストライク・バックの競技パイロットとして一対一の戦いを多く経験してきたが、その彼女にとって操縦には必ずパイロットの人格が反映されるものであることを知っていた。無限に存在する可能性から一つの判断を行う、右に行っても左に行っても同じ結論が得られる状況で、どちらに行くべきかを人間は単なる好みと気分によって決めているのだから。

「ロストヴァ!調整完了だ、確認頼む」
「OKアイン、2分30秒で出れるわ」

 習慣のように返しているが、試合開始時刻にはまだ余裕がある。だが、どんな状況でも最速での出撃が可能となる行動をすることに彼女は慣れていたし、その感覚が与える緊張感を試合に持ち込むようにしていた。テストでも、競技でも、かつていた戦場でも彼女の習慣を変えたことはない。

「これも私の好みと気分、かしらね」

 一回戦、ロストヴァ陣営のコッペリアに対するは炎天使シャル・マクニコル騎乗のケルビムMk4。こちらは予定時間をいっぱいまで用いての調整に余念がない。狂神父とまで呼ばれるメカニックの手で設計された、座天使の出撃は儀式そのものであってそれを簡略化するなど考えられるものではなかった。

「座天使は四度目の戦で降臨して槌を振るう!炎は車輪となり主の敵を轢殺するのだ」
「仰せのままに、天使の剣持て十字を描いて参ります」

 メカニックにして現役神父である天使十真の叫声に向けて敬虔に答える、シャル・マクニコルの言葉がどこまで彼の本意であるかは分からない。だがシャルのパイロットとしての技量を疑う者はいなかったろう。

(CHERUBIM・FORCE)

 両者中間距離、ロストヴァの間合いから開始するがケルビムはその名を象徴する車輪めいた形態に変形すると、一気に接近してチャイルド・オブ・ファイアの炎を浴びせかける。直撃を受けたコッペリアだが落ちついて追撃を避けると後退してフェイター(Wheatear)を射出、小さな翼を持つ撒布機雷がすべるように飛来してケルビムの装甲を叩いた。ケルビムも反撃のホイール・オブ・オファニムの車輪を離脱させるが、コッペリアはこれを確実に回避する。
 一度接近、炎天使得意の近接戦闘を挑まれる前に急襲したコッペリアはアイオブエナメル(Eye of enamel)の火閃を振るうとすぐに離脱する。まとわりつく流体エネルギーが装甲を焼き、優位に立ったロストヴァは更にフェイターを放ち続けてプレッシャーを与える。開始14分にようやくエネルギー線を切ることに成功したケルビムだが、長時間に渡って焼かれていた装甲はすでに破壊寸前。対するコッペリアの損害は初弾で受けていた一撃のみでここまでは一方的な展開。

「天使の剣持て描くのは十字、車輪持て轢くは円・・・そして円は万物の動きを伝える」

 コクピットで呟きながら、集中するシャルがホイール・オブ・オファニムによる反撃を放つ。ダメージは軽微だが連続して攻勢を狙いつつ、コッペリアの移動範囲を狭めて近接戦を狙おうとする目論見がロストヴァには見えていた。

「あらあら、坊やも上手になっちゃってもう」

 優勢にありながらも自分が確実に追い込まれていることに気づいたロストヴァだが、それだけに隙を見出すこともできずにいる。遂に近接戦、満を持して放たれた炎天使の剣が自動人形の肌を切り裂くと激しい衝撃に機体が揺れた。
 体勢を直すと同時に反撃を図るコッペリアだが、火力に勝る炎天使は更に攻勢を強めると装甲を削る。耐えながらコッペリアは抜き撃ちでフェイター発射、同時にホイール・オブ・オファニムの反撃を受けて激しい衝撃が機体を襲うが辛うじて装甲を維持するとケルビムの回避を阻んだフェイターの一撃がすべりこむように命中して炎天使の攻勢を振り切った。ぎりぎりの攻防を制したロストヴァが辛くも一回戦突破に成功。

○コッペリア(27分機動停止)ケルビムMk4× 1vs0


トーナメント一回戦 シュレディンガーの猫vs漁協可変タコボール


 おなじみの漁協協賛タコボールは今回、可変機能を更に強化しての登場となる。遠距離戦での飛行型ボール形態、近接格闘戦闘でのタコ型バトロイド形態とくればその中間はガウォークモード、飛行形態で足が出せるようになったかわりに予算にも足が出たとは、親切にオチまでつけた解説であった。

(GAWALK・FORCE)

 カタパルトから射出されるタコボールの、ボール型にタコ足が出ている姿は一見してかなりバランスが悪い機体に見える一方で安定した攻勢能力には定評がある。パイロットの神代進が騎乗するコクピットのモニター越し、対峙しているのはジェーン・ドゥと彼女が操るシュレディンガーの猫である。こちらは明かりを落としている操縦席に事務的な通信が聞こえている。

「チューンナップで向上させた出力のほぼ全てを、機動性に注力している。理論上は250mmまでの稼働誤差で機動制御が可能だが、特に反射フィードバックの数値には注意したまえ」
「了解。御期待に添えるように努力致します」

 品の良い、だが無個性なジェーンの声が響く、シュレディンガーの猫はKUSUNOTECの猫たーぼにも似た、超高機動機で設定されているがこのタイプは機動性において比類無き一方でことに攻撃精度と装甲強度、そして推進力までが激減するという弱点をいかにして補うかが鍵となる。

 開始早々の撃ち合い、シュレディンガーの猫がスカラーの沈黙を解き放ってタコボールの装甲を叩く。だがミラーたこつぼの鏡面装甲が出力の低い指向性エネルギーを乱反射させてダメージを拡散させた。ここで接近戦、シュレディンガーの猫がエントロピーの網を、タコボールが灼熱たこスミを振り回して互いの装甲を灼く。ここまでの展開は全くの互角。
 開始5分を過ぎて、シュレディンガーの猫は中間距離を保ったままスカラーの沈黙を連続射出する戦術に専念する。命中精度は高いとは言えないが、手数で攻勢に出る相手にタコボールはわずかに押されている。

「でもこのまま耐えて反撃を狙うキュ?」

 サイボーグイルカフリッパーの指示を受けて、タコボールが吸盤ミサイルを発射。高出力のミサイルを直撃させて一気にペースを取り戻す。ここで接近、タコ型バトロイド形態に変形して8本の足を広げるが、タイミングを合わせたシュレディンガーの猫もエントロピーの網を放ってこれが命中、高温の流体エネルギーがタコボールの装甲に絡みついた。すかさず離脱、タコボールが装甲を焼き続けるエネルギー線を解除するには、攻勢によって相手のセンサーを断ち切らねばならない。
 だが高機動性を利して時間をかけつつ、相手の反撃を封じたシュレディンガーの猫はそのまま防御姿勢を堅持して時間を稼ぐとタコボールは無念のタコ焼きボールとなって起動停止。ジェーン・ドゥが手堅く一回戦を勝利した。

○シュレディンガーの猫(21分機動停止)漁協可変タコボール× 20vs0


トーナメント一回戦 どんきほーてキーマカレー風味vs海猫た〜ぼCR


 まずは前回、2007.04.02付けの産系新聞にて有限会社KUSUNOTECの本社が秋田県にあると掲載されていたが、投書によりこれが東京下町某所の間違いであることが確認された。だが、その下町の一角に巨大なストライクフレームの頭だけが突き出した公園があるかどうかは未だ未確認となっている。
 そのKUSUNOTEC社屋兼ラボラトリ兼工場兼従業員の住み込み所で、社長の山本いそべは自ら奇態なコントローラをぶんぶんと振り回していた。別段Wiiで遊ぼうというのではなく、ストライクフレーム操縦用のインタフェースの研究開発中である。複雑構造をしている汎用人型機械を可能な限り平易な方法で扱うにはこうした技術は不可欠であり、ことに民生用の開発も行っているKUSUNOTECとしては、小型計量でかんたんというポイントは抑えておきたいところだろう。

「これが中小の生きる道ぃー」

 ちょっと切なげに、でも元気なKUSUNOTECは今回、夏らしく青い機体の海猫た〜ぼCRで登場。対するは謎のラテン系ベアトリス・バレンシアに謎のインド人オペレータと謎の着ぐるみクマさんがメカニックにつく謎のどんきほーてキーマカレー風味。かなり訳が分からないのはいつものことだが、それもパイロットの味である。
開始と同時に両機接近、初手から双方の希望距離である近接格闘戦に突入する。この状態では距離の奪い合いは意味をなさず、効率的な攻撃と確実な防禦をどれだけ見せられるかが鍵となるであろう。どんきほーてはひかるこぶしを振り回すが、海猫た〜ぼはいつものようにそれを俊速で回避する。両者ともに月光ベースの軽装甲機であり、機動性特化で常の戦法が使える海猫た〜ぼがやはり優位か。

 どんきほーてのひかるこぶしは出力であれば充分以上に高く、一撃が命中すればかんたんに相手の装甲を突き破るだろうが、海猫た〜ぼはそれを確実に回避してしまう。逆に海猫た〜ぼは右腕に内臓した大型のいくらスプレッドガンを発射、抜き撃ちで放つために精度は甘いが、数弾が命中するとどんきほーての機体を激しく揺さぶる。猫たーぼ得意の一方的な展開となり、どんきほーても粘ろうとしたが装甲の薄さが災いして一気にたたみかけられると機動停止。海猫た〜ぼが完勝して二回戦へと駒を進めた。

○海猫た〜ぼCR(15分機動停止)どんきほーてキーマカレー風味× 40vs-3


トーナメント一回戦 トランス・バイパーvsトータス号狂鬼人間マイルド


「やっぱりキテレツな機体になるのか・・・」
「もちろんナリ(もぐもぐ)」
「コ、コロッケ・・・」

 SPTといえば白河重工、狂わせ屋女史が率いるトータス号陣営の登場である。博打要素が強い一方で、型にはまれば全ての機体を凌駕する高出力を発揮する、世紀末パワードトルーパーの性能を熟知しているのは彼らしかいないであろう。相手はトランス・バイパー、ネス・フェザードの登場である。
 開始初弾はトータス号から、中間距離で放たれるバイパーのピクセリオンボムをかいくぐって強力なサンビーム500の一撃が直撃して先制、バイパーもすかさず接近して掌から伸びるパルマフィオキーナを深く突き刺す。ダメージは双方互角だが、特殊兵装として積み込まれていたアルテミスの肖像が反位相攻撃を行ってバイパーに追加ダメージを与えた。

「嫌なもん積んでるねえ、高出力兵器は博打になるか」

 コクピットで呟くと、ネス・フェザードは相対距離を測る。相手の大型ビーム砲を避けて接近戦で押したいところではあるが、隙あらば一撃必殺を狙うトータス号から受けるプレッシャーは大きい。近接戦でパルマフィオキーナを振るうが、慎重に動きすぎたか命中させることができず、離れた瞬間を狙われて再びサンビーム500を受けてしまう。
 ここまではトータス号が押してはいるが、圧倒的というほどではない。開始15分、バイパーは中間距離のままピクセリオンボムで反撃し、装甲を叩くが致命傷には到らず。再び接近してパルマフィオキーナを狙うがバイパーもこれを避けて中間距離への移行を狙う。その後は距離の取り合いが続き、両者積極的に攻めることができないまま30分が経過して時間切れ。

「しまった・・・警戒しすぎたか」

 コクピットでネスが後悔の息をつき、トータス号が判定勝利を決めたが特殊自己防衛プログラムVM−AXが発動しないまま終了したことに、一部の人間は不服そうであった。

○トータス号狂鬼人間(30分判定)トランス・バイパー× 26vs19


トーナメント一回戦 メガロバイソン4vsドン・エンガス”ボレアリス”


 ストライク・バック大会が競技性の重視とともに、スポンサーやメーカーにとっては大規模な技術プレゼンテーションの意味を秘めていることは今更である。その事情は零細企業でも変わらず、ここで産み出された技術が生産ラインに乗る例も珍しいものではない。
 アラン・イニシュモアもそうした零細フレームメーカーのオーナー兼パイロットであり、大会で実力を見せて自前の技術を売り込みたいところであったが、今のところ彼らの社でもっとも好評を博しているのは毒舌機能つきオペレータAI「レプラコーン」の存在である。

「おいおい、そんなシケたサック顔してんじゃねーゾォ!」

 こいつがうちの一番人気かと思いながら、アランは機体コンセプトの確認に入る。ジェネレータ出力を推進力と機動性に費やした典型的な高機動機、遠隔射撃を主体とするドン・エンガス”ボレアリス”である。一部関係者間で有名な唯我独尊メカニックマンのカズサ様が推薦するジェットコースター・マシンだが、この手の機体は攻撃であれ防禦であれ性能が極端に片寄りやすい傾向がある。

「つまりはオーナーの腕次第、だぜ?」
「なんか俺いつもそう言われてるぞ?」

 どこか納得しがたい顔でコクピットに乗り組むアラン。対するはメガロバイソン陣営、前々回大会では一回戦でそのアランに敗戦、補欠ポジションに回ったダルガンとアリーに代わって再びマック・ザクレスたちが登場する。ニュータイプ負荷訓練を受けていたマックは久々の実戦投入、そして元来ベーオウルフ機をベースにするメガロバイソンを思い切った軽量高機動機に改装してしまっていたのは、オペレータにして天才エンジニアのジアニ・メージである。

「失敗は発明の母ですからね!」
「その台詞聞くのも久しぶりだなあ」

 気合いを入れて、改装されたメガロバイソン4がカタパルトから射出。エネルギー・フィールドに囲われた宇宙空間で姿勢制御を行いつつ相対座標を確認する。距離は遠隔、射撃戦の間合いに両者が同時に動くとドン・エンガスがイシュタルゲートを開いて炎の舌を吐き出す。飛び交う火閃がバイソン4を狙うがこれを確実に回避すると、切り放されたアウトレンジブローがバーニア噴射をしてエンガスに命中して先制した。
 撃ち出された拳が戻ってドッキング、すかさず逆の腕が発射、流れるようなワンツーパンチはメージの自信作である。返しのアウトレンジブローがエンガスに命中するが、攻め込まれる危険を感じたアランも足を止めてイシュタルゲートを開放、バイソン4の薄い装甲を焼く。

「ユーゥ・ファーイヤァーッ!」
「それは何のオペレーションだこの野郎ーっ!」

 思いきりスラングを叫ぶレプラコーンに全力で毒づきながら、ドン・エンガスが正面切ってバイソン4と撃ち合う。続けて三発、命中させるが反撃のロングレンジブローも受けて交互に殴り合う展開、初弾のダメージがありエンガスが不利といった状況。更にバイソン4が容赦のないアウトレンジブロー、これが連続で命中して一気に追い込まれると追撃を狙って接近、中間距離から今度は多関節マニュピレータで伸びるロングレンジブローが襲いかかる。
 だがこれを間一髪で回避、反撃のエテメンアンキは命中しなかったが相手の制御姿勢が崩れた瞬間をアランは見逃さなかった。ここで取るべき行動は二つ、こちらのダメージが大きいのを承知で反撃覚悟の攻勢に出るか、確実に守勢を立て直して相手の装甲を削るか。

「ツイてんなら行けやァ!メーン!」

 レプラコーンの指示に従ったのかどうかは分からないが、積極攻勢に出たエンガスは最大出力でイシュタルゲートから炎の舌を吐き出すとこれがバイソン4に直撃!同時にアウトレンジブローの反撃も受けるが辛うじて持ちこたえ、戦況を互角とまでは行かずともそれに近い状態まで強引に引き戻す。両機ともに装甲負荷限界が近く、相打ちならバイソン4が有利だが、回避に成功してカウンターを当てれば一発で逆転を決めることも可能だった。
 両機慎重に動きを予測しながら移動、相手のミスを狙う構えでありパイロット同士の我慢比べである。緊張感をはらんだ時間が一分、二分、三分、四分と続いて開始11分、バーニア転換により防禦姿勢が崩れたエンガスの動きを確実に捕捉したバイソン4がアウトレンジブローを放って命中。欠場明けの意地をうかがわせる粘り勝ちを見せた。

「メーン!」
「メージ・・・さん?」

○メガロバイソン4(11分機動停止)ドン・エンガス”ボレアリス”× 7vs-4


トーナメント一回戦 GMストライカーvsアルギュロトクサス


 一回戦も最後の対戦、GM陣営はひさびさに正統派の設計に見える、チョッパムアーマーを装備したGMストライカーで登場。攻撃位相を自動計算して反撃を行う、レーヴァティンシステムをアーマーに搭載した機体である。

「微妙に違う気もするけど・・・設計には共感できるかな」

 テストパイロットとして常々不幸な機体に乗せられている機がしなくもないジムだったが、今回は期待できそうな素振りである。そのテスタージムに対するはオリジナルテスターことテムウ・ガルナが騎乗するアルギュロトクサス。今回、いつものオペレータである登戸とき子さんがカゼで欠席のため、新人メカニックの岩田くんが一人でオペレータとメカニックを兼任するということである。

「お前パイロットもやっちゃえよ」
「無理っス」

 開始早々、GMストライカーの振るうビームランスがアルギュロトクサスに命中。慌てて離脱、クリムゾンフェイバーを放つがGMはシールドを立てるとこれをガードする。急襲から先制を受けたアルギュロトクサスだが、テムウがパイロットに選ばれている理由はテスターとしてどれだけ不憫な環境にも文句一つ言わずにいるからではない、不平はたらたらなのだが、それはそれとして戦況に左右されずに実力を発揮できるタフな技量の故であった。
 落ちついて機体制動を直し、的確に遠隔距離を維持するとクリムゾンフェイバーを発射、これを直撃させて一気に戦況を引き戻すテムウ。一方的に攻撃、GMのチョッパムアーマーが放つ追尾ミサイルで反撃を受けるが、アルギュロトクサスの優位は動いていない。だが急襲で先制から逆転されているジムも、状況を選ばない安定した技量には自信がある。

「チャンスは・・・接近するしかないよな!」

 開始19分まで粘ったところで接近してビームランスを命中、続けての攻勢はかわされるがテムウの反撃はしっかりとシールド、完璧に受け切ったところで再接近してビームランスの刃先を突き立てた。この一撃で両者のダメージはほぼ互角となり、双方距離を入れ替えながら残り5分ほどの攻防を経るがタイムアップ。わずかに最初の攻勢に勝ったアルギュロトクサスが判定勝利を収めた。

○アルギュロトクサス(30分判定)GMストライカー× 12vs-11


トーナメント二回戦 ふわふわエターニアvsコッペリア


 二回戦、最初の対決は前大会優勝の静志津香とホリィ・エンジェルが駆るふわふわエターニアが登場する。

「なのだー♪」
「ですのー♪」

 機嫌がいいのは前回優勝のせいばかりではなく、ようやくにしてオペレータロボットのホリィを有線から無線接続に変えたことであった。本体の制御系コンピュータとオペレータロボット間の接続は有線で行ってもなお、データ伝送にロスが起こるほどの情報量があったが、技術の粋を集めてまで無線化にこだわったのはもちろん彼女たちの趣味である。

「でもデータを全部は送れなかったんで、ホリィの通信と処理性能を簡略化しちまったんですけどね」

 つまりデータ解析はふわふわエターニアのコンピュータ本体が行い、それを簡易化して伝送したらホリィはわりとてきとうな言葉でパイロットに伝える。それを志津香がなんとなく理解するというオペレータシステムとしてはかなりの荒技を採用しており、おそらく彼女たちでなければ使えないシステムであったろう。

「それじゃあ・ふぁふぁふぁふぁ」
「ふぁいやーふらっしゅ・ですねー」

 エターニアの対戦相手は一回戦を制しているロストヴァ・トゥルビヨンとコッペリアである。初弾は中間距離、相対距離の確認と同時にエターニアがファイヤーフラッシュを発射。これで急襲をかけてコッペリアに先制のダメージを与える。離れてたたみかけるべくロックオンレーザーの照準を合わせるが、これをさせじとコッペリアもウィスパーオブウィンドゥサイド(Whisper of window side)の照準を開放していた。

「めぇーがくらっ・・・」
「させないわよ!」

 レーザー波形干渉によるメガクラッシュの発動を狙うエターニアの機体制動に、完璧に合わせたコッペリアがウィスパーオブウィンドゥサイドの二機のユニットを急襲させる。先ほどのお返しとばかりに、相手の行動を読んだ積極攻勢がエターニアに直撃、相打ち気味だがメガクラッシュ発動を阻止したためにややコッペリア優位の体勢で押し返した。
 ここで接近、中間距離での撃ち合いは双方が浮遊機雷を射出するが座標が合わずに命中せず。エターニアはフラッシュシステムを機動させて瞬間加速、一瞬、機体がぶれるように動くと機雷を確実にかいくぐり、ガードを駆使しながら反撃の隙を窺う。攻撃の精度を含めた機体制動ではロストヴァの技量にやや分があるように見えるが、志津香とホリィは回避とガードの動きでこれを防いでいる。

「OK、アブ?仕掛けるわよ、位相は3・4・2でオヴァ?」

 膠着状況のまま18分が経過。コッペリアがフェイターの小さな翼を射出、エターニアは当然のようにこれをガードするが同時に高速離脱、慣性に耐えながらウィスパーオブウィンドゥサイドを射出して命中させる。更に再接近、ここで反撃にロックオンレーザーを狙うであろうエターニアの動きを読みきると、座標固定したユニットを再び切り放した。

「あぶない、のだー!」

 ホリィのその言葉が届くよりも早く、ウィスパーオブウィンドゥサイドがエターニアの装甲を直撃して一気に破壊されると機動停止。攻勢のタイミングを支配したロストヴァが前大会優勝のエターニアを撃破して準決勝進出を決めた。

○コッペリア(21分機動停止)ふわふわエターニア× 26vs-1


トーナメント二回戦 シュレディンガーの猫vs海猫た〜ぼCR


 二回戦二試合目、奇しくもというのは猫機体同士の対決になったというだけではなく、どちらも月光ベースの超高機動機という点にもあった。だが性能特化した機体であるからこそ、それを支える戦術は意外なほどに重要であるしこと同型機ともあればそれがより顕著になるであろう。高速で飛来、接近した両機の相対距離は近接。

「急速離脱ハ危険、受ケナガラ後退を指示シマス」
「了解」

 オペレータのファイ・アビスが流す合成音声を受けて、ジェーンは襲いかかるいくらスプレッドガンの軌道を解析する。シュレディンガーの猫は同時にエントロピーの網で牽制をすると、ゆっくりと後退してスカラーの沈黙をばらまくが海猫た〜ぼもこれを当然のように回避。合わせるようにとびうおスパンカーIIIの誘導ミサイルが発射されるが、これはシュレディンガーの猫も回避に成功した。

「厄介な勝負になりそうね・・・」

 双方接近、多弾頭で出力に勝るいくらすぷれっどガンは命中すれば薄い装甲を一気に破るであろうが、エントロピーの網も高エネルギー線が命中すればかなりの累積効果が期待できる。どちらも回避性能に自信があるだけに一瞬のミスが致命的になりかねない。
 離れて撃ち合い、再び接近を繰り返してまたも距離を離す。開始10分を過ぎても双方の攻撃が命中する様子はないが、戦況は緊迫感を増していくばかりであった。試合終了まで30分間、すべての攻撃を避け切ることはどれほど優れたパイロットの腕でも機体の耐久度でも難事なのだ。

「ジェネレータ出力低下・・・思い切って行くかなあ」

 流体コクピットに浮いているいそべが、少しだけ眉をしかめる。わずか1ドット1フレームの動きがもたらす影響を、彼女は充分に心得ていたがそれは相手も同様であろう。移動攻撃をしかけるがこれは命中せず、攻勢に移行して機体制動を行う一瞬にすかさずシュレディンガーの猫がスカラーの沈黙を放ったが海猫た〜ぼも強引に回避する。そのまま再接近、カウンターに対するカウンターを狙った海猫た〜ぼのいくらスプレッドガンがついに相手を捕らえると一撃、二撃と連続命中した。

「・・・やられたっ!」

 損害は大きいものではなく、ジェーンも体勢を立て直すが残り時間は10分程度。ただ一度の攻防を制した海猫た〜ぼがそのまま時間切れで逃げ切り、同型機対決を勝利した。

○海猫た〜ぼCR(30分判定)シュレディンガーの猫× 40vs31


トーナメント二回戦 トータス号狂鬼人間マイルドvsメガロバイソン4


 一回戦でVM−AXを発動させずに勝利という、なんとも煮えきらない勝利を収めたトータス号。これほど使いでの難しい機体もないだろうが、型にはまったときの恐ろしさでも他に類を見ない機体であることは確かなのだ。

「いっそ最初から装甲ぶっ壊して出たいねえ」

 とんでもないことを呟いている狂わせ屋女史の言葉を無視して機体に乗り組むコルネリオ。相手はメガロバイソン4、狂わせ屋ではないがなかなかマッドなエンジニアが評判のチームでもある。

「いっそ最初からVM−AXを受けて見たいですねえ」
「いや、相手するのは俺なんだけど・・・」

 とんでもないことを呟いているメージの言葉を、マックは無視できずにいるようだ。脱力しかけるマックだが、何をぼやぼやしてんだというザム・ドックの怒声を受けて慌ててコクピットに駆け込んだ。整備は万全、この際は操縦に専念するのがパイロットの役目なのであろう。
 双方中間距離で開始、SPTはVM−AXに出力の多くを費やしているために通常時の機体性能は決して高いものではない。バイソン4はロングレンジブローを放つと続けざまの左ブローを命中させて先制する。先制して逃げ切るのは対SPT戦の基本だとそのまま攻勢に移行、マニュピレータをフル回転させるが、コクピットにメージの悲鳴が響き渡った。

「反撃来てます!逃げてくだ・・・」

 トータス号の自動反撃システムであるアルテミスの肖像がエネルギー弾を返すが、出力が低くバイソン4の装甲をかるく弾くことしかできない。だが一瞬、油断したマックは隠れるように飛来していたサンビーム500の軌跡を捕らえることができず強烈な衝撃がバイソン4の機体を揺るがした。高出力に設計されたトータス号の一撃はVM−AX発動前にしてなお、直撃すれば一撃で戦況を覆す力を持っている。
 続けて攻勢に出るトータス号だがバイソン4も懸命に防禦すると、ここで押される訳にはいかないと反撃に転じる。もとより先制して逃げ切る方針を一度の砲撃で萎縮して変えるようではこの相手とは戦えないだろう。ロングレンジブローの両拳が飛び交うとトータス号を続けざまに殴りつけ、すぐに状況を挽回するとトータス号の緊急システムが作動した。

「レイ!VM−AX作動!」

 全身が蒼いエネルギーに包まれていく、トータス号に向かってバイソン4は名の如く解き放たれた雄牛のようにラッシュをかける。ときおり受ける反撃も意に介さず、一気に削りきるつもりでいるのは間違いない。開始10分、トータス号のアラートが更に危険水域を突破すると再ブーストが始動した。

「VM−AX!スーパーチャージ・オン!」

 二段階のあの力がトータス号とコルネリオの中を駆けめぐり、赤く輝く機体が常軌を逸したスピードで機動を開始した。たとえ機動停止寸前であっても、この状態のSPTの機動力は尋常なものではなく捕らえるには困難を伴う。
 熱線というよりも高熱の槍にも見えるサンビーム500を回避、返しのロングレンジブローを放つバイソン4だが完璧には捕らえきれずわずかに拳をかすらせる。綱渡りにも似た攻防が続く17分、果敢に攻めかかるバイソン4を捕らえたサンビーム500の光が遂に命中、競技とは思えない爆発が装甲を彩り、巨大な光の塊がバイソン4の機体を包んだ。

「マック!応答してください!マック!マック!?」
「・・・だ・・・動く・・・大丈夫だ」

 あまりの高エネルギーに発生したノイズをくぐり抜けて、メージの声に応える声が返ってきた。慌てて機体の損傷状況を確認、駆動系は充分に稼働しているが装甲の負荷限界は近く、もはや自動反撃システムの砲火にすら耐えられそうにない。機動性の上がっている相手に確実な一撃を与えなければ、このまま逃げ切られるかさもなくばとどめの一撃を受けて最後だろう。
 マックは頼りなく動く機体の制動を慎重に立て直すと、深呼吸をしてから操縦竿を握り直す。もはや反撃を恐れても仕方がないと再びロングレンジブローで攻勢に出るが、トータス号の最大スピードを捕らえるのは容易ではない。無為な時間が過ぎていくように思われるが、序盤から攻勢に出ていたために残り時間には余裕があった。25分過ぎ、遂に相手の座標を捕らえたバイソン4の拳がトータス号に命中、ぎりぎりの状態で押し切ったメガロバイソン4が難敵を退けて準決勝進出。

○メガロバイソン4(25分機動停止)トータス号狂鬼人間マイルド× 2vs-2


トーナメント二回戦 アルギュロトクサスvsオーガイザー


 前大会では準優勝を遂げている放浪の宇宙サムライ、無頼兄・龍波が登場。メカニックである実姉の紅刃には「優勝しなければ火あぶり」と檄を飛ばされていたが、知り合いらしいエターニアの志津香相手の敗戦だったことでそこは寛大に見られたようである。

「全殺しでかんべんしてあげましたえ?」

 全身火傷に包帯まみれで無事に生還を果たした無頼兄は、こだわりのオーガイザーで再登場。相手は無冠のスーパーテスター、テムウ・ガルナとアルギュロトクサスである。

「今回もアバレるぜぇ!」

 無頼兄が勢いよく突進、バーニングスナイプをかわしながら全身を炎にまとってのガイブレイザーをいきなり命中させて先制する。近接戦闘ならオーガイザーの男の拳に勝る者はそう多くはいないだろう。危険宙域を離れるべく後退するアルギュロトクサスにソウルヴァルカンで追い打ちをかけて優勢を図るが、テムウも落ちついた動きで離脱に成功する。

(CRIMSON・FORCE)

 Xiフォース機特有の高速変形、高機動というよりも遠隔飛行と狙撃に適した航宙機のようなフォルムに変わると、クリムゾンフェイバーの熱線を撃ち放つ。オーガイザーの重装甲「魂鋼」がこれを弾き、すかさず距離を詰めてヴァルカン、アルギュロトクサスが離れて再びクリムゾンフェイバーと距離の取り合いと撃ち合いが交互に行われる。開始12分、間合いを詰めて再攻勢に出るべく前進を図る無頼兄に、オペレータAI・鬼刃の警告が耳を打つとアルギュロトクサスも再び変形を開始していた。

(BURNING・FORCE)

 アルギュロトクサスの炎はオーガイザーのように全身を熱で覆うものではなく、炎の武器を振り回すというものでもない。腕部マニュピレータが伸びると機体姿勢が変わり、半人型の姿に変じると襲いかかる。腕自体に展開されたエネルギー・フィールドを至近距離から射出するように伸ばし、的確に装甲の継ぎ目を狙うバーニングスナイプの「狙撃」が打ち込まれた。
 一撃のダメージこそ小さいが、オーガイザーのガイブレイザーをかいくぐりながら確実に装甲を叩く、これで体勢を崩してから急速離脱、再び変形して砲撃モードに移行するとクリムゾンフェイバーを三連斉射、20分の時点で双方の損害を互角に戻してしまう。

「いやー、凄いっスね先輩」

 オペレータの台詞としてはなかなか役に立たない言葉だが、どのみち岩田くんはメカニックだし、いつもの登戸とき子さんも特に役に立っていたわけではないので関係ないだろう。状況は互角、問題はここから相手を押し切ることができるかどうかである。

「好機ハ一度、シクジレバソレマデ」
「わかってる!プレッシャーかけやがるぜェ!」

 コクピットでAI・鬼刃の言葉に景気よく応えながら、遠距離で放たれる火閃を避けるべく無頼兄は汗を流している。狙うはただ接近するための、そのタイミングだけであった。
 そして25分、遂にアルギュロトクサスの砲火が弱まった一瞬に最大加速を合わせたオーガイザーが突進、一気に至近距離に到達するとガイブレイザーで特攻する。直撃とはいえないまでもこれが命中、離脱するアルギュロトクサスに合わせてソウルヴァルカンを狙い撃ってたたみかけたところで時間切れとなり、終了間際のラッシュを成功させたオーガイザーが準決勝最後の枠を手に入れた。

○オーガイザー(30分判定)アルギュロトクサス× 23vs9


トーナメント準決勝 コッペリアvs海猫た〜ぼCR


 女王ロストヴァは前大会、連覇をストップされた因縁の相手である海猫た〜ぼと対戦。その海猫た〜ぼに騎乗する山本いそべが、彼女ともっとも相性の悪いエターニアとトータス号の二機が揃って二回戦で姿を消していたことに安堵の息をついたかどうかは明らかではなかった。
 猫た〜ぼの機動性をしても逃げ切ることの難しいエターニアの砲撃と、当たれば一撃でこっぱみじんにされるSPTを除けば、残る難敵は目の前にいる「ロストヴァおばさん」くらいのものである。猫た〜ぼ相手に平然と膠着戦をしかけてくるロストヴァの技量は、始まる前からパイロットの神経を削る戦いになるであろうことを予感させていた。

「正確さは自動人形の如く、なんてね」

 急襲するコッペリアのフェイターが海猫た〜ぼに連続して命中、反撃のとびうおスパンカーIIIを軽やかに回避する。相手のお株を奪う動きで優位に立ったコッペリアは、接近戦を狙う海猫た〜ぼにすかさず距離を離すと連続でフェイターを放つ。海猫た〜ぼは急襲に焦ったか、慣れない攻勢モードにシフトする動きを的確に狙われてこれを連続被弾、開始5分で一気に不利な状況まで追い込まれた。

「おばさんずるいぞぉー!」

 いそべはコクピットで呪いの言葉を吐くと、回避行動に専念する。これ以上相手のペースに乗れば挽回どころか一気に撃破されかねず、ここは彼女のペースでいずれ来る好機を待つしかないだろう。その間にも中間距離からフェイターを当てられるが損害は軽微であり、致命傷には到っていない。
 開始11分、これまで防戦一方となっていた海猫た〜ぼがようやく反撃、とびうおスパンカーIIIを数弾命中させるがこちらも損害軽微。だがこれでセンサー捕捉に成功すると、回避行動に専念しながら砲撃を繰り返してついに格闘戦の間合いまで接近する。右腕に内臓されている大口径ショットガンの弾頭が至近距離から火を噴くが、コッペリアもこれは回避して当たらず。ここで思い切った海猫た〜ぼがもう一度攻勢を仕掛けると加速しての再接近から攻撃、いくらスプレッドガンが直撃して劣勢の挽回に成功する。

「子供に・・・やられたかっ!」

 今度はロストヴァが呪いの言葉を吐くが、これでようやく戦況は五分といったところ。ここまでで開始20分、残り10分間の攻防は両機とも消耗が激しい中でとびうおスパンカーとフェイターが虚空に飛び交う展開となる。数弾をコッペリアが被弾するが状況は変わらず、だが29分、最後に再接近を図った海猫た〜ぼのいくらスプレッドガンが命中してこれでタイムアップ。競り合いから一瞬の攻防を制した海猫た〜ぼが決勝進出を決めた。

○海猫た〜ぼCR(30分判定)コッペリア× 25vs15


トーナメント準決勝 メガロバイソン4vsオーガイザー


 これまで辛勝を続けながらも準決勝まで上がってきたメガロバイソン4、機体に蓄積しているダメージも相当なものであろうが、センサー装甲システムを着脱することで整備の時間を大幅に短縮することは可能だ。とはいえ、駆動系やジェネレータ等のチェックを欠かす訳にはいかず、メカニックのザム・ドックはどれだけ手と時間があっても足りない思いであったろう。

「壊れても俺が直してやる。だが気ィ抜いて壊したらただじゃおかねえぞ!」

 昔気質の叱咤に激励されながら、マックはコクピットに乗り組むと点検を始めていた。一方のオーガイザーもメカニックの紅刃が万全の整備を行い、装甲耐久値のチェックまで完璧にこなしている。何故かエターニア陣営とも親交のあるらしい紅刃の脇にはチーム「S.M.A.R.T.」のメンバーとホリィ・エンジェルも押しかけており、ホリィに到っては紅刃の横で一緒になって整備用端末をいじっていた。

「耐久値のバランスはてきとーにぴっぽっぱ」
「んじゃぴっぽっぱにしときましょうかあ?」
「・・・おい」

 その両機の激突は中間距離での対峙から。ソウルヴァルカンを放つオーガイザーの砲撃を落ちついて回避したバイソン4がロングレンジブローを命中させる。だが当たりも浅く、先制とも言えぬ程度の損害を意に介さず突進したオーガイザーは近接距離から全身に炎をまとってガイブレイザーで攻勢、連続で襲いかかる灼熱の機体にバイソン4はこれを懸命に回避。
 ここで一旦距離を離したオーガイザーが、ソウルヴァルカンを当ててから再接近してガイブレイザーによるコンビネーション攻撃を命中、優位に立った。

「動きは負けてません!思い切って攻めてください!」

 バイソン4の通信回線にメージの声が響く。ここまで開始10分、接近してたたみかけを狙うオーガイザーにバイソン4もこれをしのぎながら後退、ロングレンジブローを発射。連続して放たれる多関節マニュピレータの拳が命中し、オーガイザーの装甲「魂鋼」もこれに耐えるがラッシュの負荷は大きくバイソン4がペースを引き戻す。
 中間距離の確保に成功したバイソン4はそのまま攻勢を続け、オーガイザーも近接戦闘を狙うがそれを許さずにラッシュを図る。襲い来る遠隔操作の拳を全力で耐えた無頼兄が23分、ソウルヴァルカンの発射と同時に突進して近接戦闘に持ち込むことに成功した。

「燃えるぜッ!ガァイ・ブレイザァー!」
「受け・・・きってやるよ!」

 オーガイザーの炎がバイソン4に連続して命中、装甲が悲鳴を上げるがマックもこれを耐えると危険距離からの離脱に専念、双方の殴り合いは30分時間切れとなるが中盤のラッシュが功を奏したバイソン4が最後の攻めを耐え切って決勝戦進出の切符を手に入れた。

「エアロックから放り投げれば地球の引力で帰還できますなぁ(龍波紅刃・談)」

○メガロバイソン4(30分判定)オーガイザー× 21vs6


NAKAMOTOストライク・バックZ第九回大会決勝戦 海猫た〜ぼCRvsメガロバイソン4


 いよいよ決勝戦。お馴染みTEAM K.K.、KUSUNOTEC陣営はこだわりの超高機動機、猫たーぼで久々の決勝進出である。

「MiiプラスDSセットかんりょーう」

 機体の組み立てまで自分で参加するのは、いそべの趣味であろう。運動エネルギーをジェネレータ転換するMiiシステムと、液晶タッチパネルにより誘導兵器を直接コントロールできるDS(ダイレクトターゲッティングシステム)を搭載。対するメガロバイソンチームは、一回戦からの激戦を一歩ずつ上がり初の決勝進出。両拳による中遠距離での肉弾戦を狙う高機動機という、やや特異なコンセプトの機体で勝ち上がっている。

「ところで気づいてましたか?バイソン4は月光機なんです」
「え?改修前のバイソンはベーオウルフ機じゃなかったか?」
「中身ごと入れ替えました!」

 どうやって、とは聞くだけ無駄だろう。マックとしてはメージの指示とザムの整備を信頼して操縦に専念し、それでここまで進んできているのだからそれでいい筈なのだ。
 近接戦闘を狙う海猫た〜ぼと、距離を置いての殴り合いを欲するバイソン4の決勝戦。両機の対決は中間距離、バイソン4の間合いから開始する。勢いよく襲いかかるロングレンジブローを海猫た〜ぼは平然とかわしつつ、とびうおスパンカーで反撃するがこれも回避される。続いて海猫た〜ぼが急襲、接近すると至近距離からいくらスプレッドガンを発射。軽量化で薄くなっているバイソン4の装甲に命中させると追撃を図った。

「ムーンサルトは空中回転だー!」

 お魚の泳ぐアクアリウム式コクピットに浮きながら、DSパネルを足でなぞると軌跡を変えたとびうおスパンカーがバイソン4に命中、コクピット外からは分からない器用な攻撃で戦況を優位に持ち込んだ。思わぬ速攻を受けたバイソン4だが、彼らのチームも序盤から勝負を捨てるつもりはない。

「今は回避に専念してください!チャンスは必ず来ます!」
「了解!」

 メージの通信を受けてマックが応える。海猫た〜ぼは攻勢が厳しい相手ではないが、先制を許せば逃げ切られる可能性がありプレッシャーは大きい。距離を取りながら回避に専念、要所でロングレンジブローで放ち牽制しつつ、追尾センサーを逃れながら10分近くも様子を窺う展開が続く。そして14分、絶好の相対距離を掴んだマックが操縦を腕部マニュピレータ用のモーショントレーサーに切り替えるとロングレンジブローを発射。両拳が海猫た〜ぼの座標を捕らえるが、一瞬前までそこにいた機体は姿を消しており攻撃も空を切るだけだった。

「早いですよ!待ってください」
「すまない!だが・・・」

 マックが焦る気持ちももっともである。すでに開始から15分、残り時間も気になるが超高機動機を相手に回避行動に専念しているため機体の損耗が激しい。すりへったタイヤが路面を滑るごとく、制動が困難になる機体を操らねばならないのだ。
 両者隙を窺いつつ、残り10分を切って消極的な展開に飽きが見えはじめた頃、もう一度バイソン4が動く。先ほどと同じ動きで相対距離を確保、ロングレンジブローの両拳はやはり回避されてしまうが、これにカウンターを狙った海猫た〜ぼの一瞬の隙を見つけたバイソン4の拳がついに直撃する!

「やったか!?」
「まだです!あと一撃・・・」

 その言葉を聞き終えるまでもなく、機体に悲鳴を上げさせながらラッシュに移るバイソン4。残り時間は4分ほどだが、今の攻撃でこちらの相対座標を失った海猫た〜ぼには恐らく反撃の手だてはない。勝負を決めるべく突進するバイソン4に、海猫た〜ぼも身を固めると、襲いかかる猛牛の拳を徹底した機動力で回避する。残り時間3分、続けてロングレンジブローで攻勢、残り2分、更に放たれる二つの拳も回避。
 だが最後にバイソン4が一撃を狙った瞬間、残るジェネレータ出力を使いきるつもりで思い切った前進に出た海猫た〜ぼがバイソン4の懐に飛び込んだところで遂にタイムアップ。序盤の攻勢から逃げ切った海猫た〜ぼが接戦を制して、久々の栄冠を手に入れた。

○海猫た〜ぼCR(30分判定)メガロバイソン4× 30vs28

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成績 パイロット        機体名            戦績           所属
優勝 山本いそべ        海猫た〜ぼCR        4戦4勝通算24戦16勝 -KUSUNOTEC-
準優 マック・ザクレス     メガロバイソン4       4戦3勝通算16戦09勝 -メガロバイソンプロジェクト-
3位 ロストヴァ・トゥルビヨン コッペリア          3戦2勝通算22戦16勝
3位 無頼兄・龍波       オーガイザー         2戦1勝通算19戦11勝
5位 テムウ・ガルナ      アルギュロトクサス      2戦1勝通算23戦14勝 -イハラ技研-
5位 静志津香         ふわふわエターニア      1戦0勝通算19戦11勝 TEAM「S.M.A.R.T.」-
5位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号狂鬼人間マイルド  2戦1勝通算16戦07勝 -白河重工-
5位 ジェーン・ドゥ      シュレディンガーの猫     2戦1勝通算05戦02勝
9位 シャル・マクニコル    ケルビムMk4        1戦0勝通算15戦06勝
9位 ジム           GMストライカー       1戦0勝通算12戦05勝
9位 ネス・フェザード     トランス・バイパー      1戦0勝通算09戦04勝
9位 アラン・イニシュモア   ドン・エンガス”ボレアリス” 1戦0勝通算07戦02勝
9位 ベアトリス・バレンシア  どんきほーてキーマカレー風味 1戦0勝通算10戦02勝
9位 神代進          漁協可変タコボール      1戦0勝通算09戦01勝
** 三条つばめ        サンジョンバード3      0戦0勝通算01戦00勝


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