第十回大会
時は21世紀。人類の進歩は多くの不安を抱えながらも未だ停滞してはおらず、その歩みが地球という惑星の表面だけであっても新たなフロンティア、宇宙空間へと抜け出したことによって更なる発展への道が示されていた。
やがて人工衛星に軌道シャトル、宇宙ステーションといったいわゆる「宇宙への玄関口」が設けられるに到った、その主因は星間物質に建築資材と燃料を求める技術が遂に実用化されたことであると言っても過言ではない。結局、古代文明の時代から人類はものを造り上げる生き物であったという事情は変わらないようだ。そして過酷な宇宙環境で、より汎用的な作業を行うために開発された作業機械、人型汎用機械を用いた対戦格闘競技がストライク・バックなのである。
西暦2007年12月。宇宙ステーション「アストロボーイ」の中、戦場となるエネルギーフィールドが一望できる関係者用の展望室で、旧知の戦闘機乗りに呼び止められていたロストヴァ・トゥルビヨンは優美な眉を歪めていた。
「本当なの?その話」
「まあ、面白くない話だがな」
短い用件だけを伝えてしまうと、ネス・フェザードは展望室を後にしてしまう。随分勝手な話だと思うが、それは用件に対してなのか、それを持ち込んだネスに対してなのかは些か判然としない。
所属不明フレームによる、先の襲撃事件の足取りが掴めたというのが話の発端である。予想されていたことではあるが、レジテック系列のグループ企業による無人フレームの暴走がことの真因であったらしい。らしい、というのはその話自体をロストヴァが信用していないからだ。そう都合よく事故や暴走が起きてたまるものかと思う。
出所が軍部とのことで、軍籍のあったネスに情報が流れたのだろうが杜撰な話である。ことが公になれば余程問題になりそうなものだが、ことはそれだけ深刻であるのか、あるいは公にしたい情報であるということか。
だが、ロストヴァが懸念しているのはネスに伝えられた非公式な依頼である。暴走した無人フレームとやらの捕獲、それも記憶装置部の回収を行って欲しいというのだ。AIの学習成果を破棄したくないからということだが、その成果とやらを得るために一体どれだけの「友誼」がレジテックから軍に流れたのであろうか。
トーナメント一回戦 ベリンスラノクスvsトランス・バイパー
宇宙戦ストライク・バックも記念すべき第十回大会を迎える。初戦に登場するのは「ソードフィッシュ」ネス・フェザードと彼の愛機トランス・バイパーである。高機動からの近接格闘戦を得意とするバイパーに、対するは無冠ながらも安定した実力では折り紙つきのテムウ・ガルナ。得意の遠隔戦闘機ベリンスラノクスでの参戦である。
両者遠距離から、ベリンスラノクスが速攻からマグニファイを打ち出すとこれが命中して先制する。初手から得意距離を奪われたバイパーは回避に専念しつつも位相反撃システム「ミラージュコロイド」を起動させた。ベリンスラノクスが攻撃、相対座標を瞬時に計算すると反射砲を撃ち出してこれを命中させるが、すぐにコクピットで顔を曇らせたネスが舌打ちする。
「出力が足りん・・・ロブの奴、セッティングが甘いぜ」
軽く操縦盤を叩く、ネスが毒づいたのは反射砲の出力ではなく、トランス・バイパー自体の推進出力である。確実に優位距離を狙ってくるベリンスラノクスに対して、この機体ではそれを覆すだけの機動力が得られないのだ。いくら位相反撃システムとはいえ、すべての砲撃をミラージュコロイドで返すことは不可能である。ひとたび接近すれば毒蛇の牙は獲物に深く突き刺さるであろうが、ベリンスラノクスはバイパーの接近自体を許すまいとしているのだ。
不満げなネスの予想どおり、一方的な攻勢とそれに対する反撃が続くが開始19分、粘ったトランス・バイパーもそのまま追い詰められると機動停止。テムウ・ガルナが安定した実力を見せて一回戦突破を果たす。
○ベリンスラノクス(19分機動停止)トランス・バイパー× 13vs0
トーナメント一回戦 GMタンクvsトータス号狂鬼人間中辛
もはや蒼い流星SPTといえば、白河重工の専売特許である。緊急回避システムから派生した超高出力高機動モード、VM−AXを使いこなすトータス号陣営に、対するは現役で軍籍を持っているジムとGM陣営が挑む。
「あの・・・今更言うまでもなくこれは宇宙戦なんだけど、下半身が戦車ってのはOKなんですか?」
ジムの疑問に、メカニックのジェガンは鋭い目を向けたままで何も答えない。確かにキャタピラの無限機動はあらゆる地形を走破するが、宇宙空間は地形ではないだろう。彼の前に用意されているGMタンクはその名の通り、GMの上半身に戦車の下半身がついた代物であった。ストライク・バックの基本ルールではフレームの規格は厳密に定められていたが、どうやらこれは問題ないということらしい。
それでも優秀かつ不幸なテストパイロット、通称テスターの一人であるジムは、はいはい了解ですとおざなりな返事をすると次の瞬間にはコクピットに身を乗り入れていた。扱うとなれば特異な機体であろうと限定された地形であろうと、問題はないつもりでいるのだ。
「やるだけやってみるか!」
開始と同時にGMタンクが体当たりも辞さない突貫。雑な攻撃に見えるが、ジムとしては重装甲と重量を活かした攻勢を狙っているつもりである。一方でコルネリオ・スフォルツァが騎乗するトータス号は少しでも距離を離して高出力兵器の間合いを測りながらも、長期戦に持ち込みVM−AXの発動を狙うのが作戦になるだろう。
両者探り合う展開から5分過ぎ、GMタンクの突貫が命中すると作業用マニュピレータから放たれる炸裂弾で追い打ちをかけるが、打ち返されたサンビーム500怪を避け切れずに直撃する。高出力の光の槍がGMの装甲に深く打ち込まれた。
思わぬ反撃に怯むことなくGMタンクは更に突貫、キャタピラ機で踏みつぶさんとする勢いで巧みに接近すると重量を活かした体当たりでトータス号の装甲を削る。続けて炸裂弾を命中させるとトータス号のサンビームを、今度は確実にシールドで防御した。
じっくりと相手を追い込んで開始17分、スピードを乗せたGMタンクの突貫が直撃するとここでトータス号も緊急モードを認識して、裏AIが作動する。
「レイ!VM−AX作動!」
機体の全身を蒼い光が包み始める、トータス号の様子にGMも相手が高加速モードへの移行を始める前に一気に決着すべく攻勢を強める。更に突貫して体当たりを命中させるが、これで危険状態を完全に突破したトータス号の二段階VM−AXが解き放たれた。
「VM−AX!スーパーチャージ・オン!」
トータス号を覆う蒼い光が赤い輝きに変わり、恐らくはすさまじいGを伴っているであろう超加速を機体に与える。一瞬で戦場を離脱するとサンビーム500怪を発射、これはGMが必死にシールドで防ぐと再接近して突貫。更に作業用マニュピレータから炸裂弾を当ててトータス号を追い込む。
ここで更に距離を遠距離に離したトータス号から、こうもり男砲の太い熱線が二本、暗黒の宇宙空間を貫くとレッドゾーンの高出力を乗せてGMタンクに直撃する!装甲が消し飛び蒸発するのではないかと思わせる強烈無比な一撃に、GMタンクの機体が激しく揺動すると危険を悟ったジムが再接近すべく前進。だが、これがトータス号からの誘いであった。
「直撃コース!来・・・」
オペレータのネモからの、危急を告げる通信に続けて響く振動。常軌を逸した出力を伴う、サンビーム500怪がここでGMタンクを捕らえると直撃、作業用マニュピレータの腕ごと装甲を吹き飛ばして起動停止に追い込んだ。
○トータス号狂鬼人間中辛(24分機動停止)GMタンク× 6vs-14
トーナメント一回戦 ケルビムMk4vsどんきほーて全国版
続いて登場するのは若いながらも実力ではベテランと言ってよい、「剣天使」シャル・マクニコルが騎乗するケルビムMk4。機体もパイロットも近接戦闘での攻勢には定評があるが、実力が評価される一方で不思議と勝ち星に恵まれずに苦戦が続いている。天使十真は血管も破れんばかりの剣幕で叫ぶが、この男がメカニックの技量では信頼できるのも事実であった。
「主よ!主よ、何故我らに祝福は訪れぬのか!これこそ我らへの試練だとでもいうのか!」
「出ます。我らに信仰の御加護を」
十真の嘆きを背にコクピットに入るシャルは冷静な調子を変えていない。それが真摯な信仰心によるのか、冷徹な知性によるものかは他人が窺い知ることのできるものではなかった。
信仰心厚いケルビム陣営に対するは不埒なラテン系小娘、ベアトリス・バレンシアとどんきほーて全国版である。呑気な口調は実は日本語を奇妙に習得してしまっただけではないかという意見もちらほら聞かれるが、実際に何も考えていないだけかもしれない。騎乗するはどんきほーて全国版、小型軽量の月光機である。
開始と同時に近接戦から前進、炎天使の一撃を狙うケルビムだがどんきほーては防御姿勢を崩さずにこれを回避。その動きが回避性能を極限まで高めて少ない好機を狙う、いわゆる「猫たーぼセッティング」であることをシャルはすぐに理解した。先鋭化しているだけに型にはまれば無類の強さを発揮する一方で、わずかなバランスの崩れが弱点に直結するタイプである。
「だが厄介だね、さて・・・」
「ばーくだんばらばら!行っけえー!」
攻め手の数で勝負すべく、どんきほーてが中間距離から撒布機雷を射出するがケルビムも余裕をもって回避。更に距離を離すと、どんきほーてはなぞのぶきを射出して襲いかかる。
ケルビムのベースであるXiフォース特性ならば撃ち合いでも格闘戦でも相応の性能を発揮することができる筈だが、距離を詰めることができないまま一方的にどんきほーての攻勢を受ける。シャルにすれば思わぬ展開となってしまった。
「くそっ、近付けない・・・?」
わずかに距離を詰めてホイール・オブ・オファニムを放つもどんきほーては当然のように回避、もう一度距離を離されるとなぞのぶきが命中、超回避機を相手に先制を許してしまう。
両者ペースを掴み切れないまま15分過ぎ、双方のジェネレータ出力にも低下が見られるが戦況は変わらず。距離を詰めきることができないケルビムは必殺の炎天使を発現させることができずに、遠距離戦で逃げ切られると最後になぞのぶきで追い打ちを受けたところでタイムアップ。どんきほーてが完勝で一回戦を突破した。
○どんきほーて全国版(30分判定)ケルビムMk4× 40vs26
トーナメント一回戦 漁協可変スーパータコボールvsシャルージュ
新規参戦、「結構赤い」シャルージュに騎乗するパイロットはノーティ。一見して温厚な好青年だがその実力は無論、未知数の領域にある。初戦を控えたチーム内にはそれほど緊張した面持ちは見られず、ごく自然な動作でコクピットに入るとヘルメットを被って通信回路を開く。
「シータ、そろそろ出るよ?」
「分かっている。無理はするな」
無愛想に答える若いオペレータ、θの声に軽く笑みを浮かべると何度か操縦竿を握り直し、手袋越しの感触を確かめた。相手は神代進と漁協可変スーパータコボール、ゴールドでゴージャスなミラーたこつぼゴールドに身を固めた、重装甲防御型機体である。
(KRAKEN・FORCE)
近接戦闘から開始、八本の足を器用に振り回すスーパータコボールは灼熱たこ足ブレードで襲いかかるが、シャルージュは落ちついて回避しながら高周波ブレードを振るって足の一本を切り落とす。そのまま一気に遠距離まで離れるとXiアームズを起動、連続で打ち込みペースを握ることに成功した。
「変形するキュ?」
先制を許した神代もサイボーグイルカフリッパーの指示を受けて滑らかに変形、たこつぼに身体を収めたスーパータコボールに姿を変える。
(NAUTILUS・FORCE)
装甲を固めたタコボールが吸着タコボムを射出するが、シャルージュは的確な動きで防御姿勢を取るとこれを回避、離れて確実にXiアームズで狙撃する。頑丈な装甲に阻まれて圧倒するとまではいかないが、新人とは思えぬ冷静な戦いぶりでここまで一方的な展開。
回避15分を過ぎてここまでシャルージュは一撃の被弾も許していない。接近戦を嫌いながらゆっくりと距離を離すと、更にXiアームズを当てて装甲を削る。開始20分、タイムカウントに視線を滑らせながら、θの声がノーティの耳に届いた。相対距離が縮められているとの指摘にすかさず回避行動を取ると、近接格闘戦から振り回されるスーパータコボールの足が辛くも宙を切った。
「助かった、シータ」
「莫迦!まだ来てるんだ!」
その声と同時に、撒布された吸着タコボムがシャルージュの装甲を叩く。攻勢から誘ってまた仕掛ける、ベテランの妙技を見せたタコボールは再突進して灼熱たこ足ブレードを振るうと今度は直撃して高熱の足がシャルージュを切り裂いた。
「まだこっちが優位だ!距離を離すことだけを考えろ!」
オペレータの指示に従ったシャルージュは反撃を試みつつも後退、攻勢を強めるスーパータコボールは強引に接近すると再びたこ足ブレードが命中、残り5分で守勢を一気に挽回するが急速後退したシャルージュが遠距離に離れたところでタイムアップ。反撃を凌いだシャルージュが初陣を勝利で飾った。
○シャルージュ(30分判定)漁協可変スーパータコボール× 27vs22
トーナメント一回戦 スリーピングビューティvsオーガイザー
「とりあえず、男性形は鬼門だから乗らない」
冗談めかして言うロストヴァだが、テストパイロットとしてはそうも行かないことくらいは承知している。実力でも実績でも折り紙つきのベテランだが、迷信に思えるゲン担ぎも莫迦にできないものだ。騎乗する機体はスリーピングビューティ、女性形機体となる「眠り姫」で出撃する。
対するは放浪の宇宙サムライ、無頼兄・龍波と漢のオーガイザー。たてがみを模した無数の繊維状の放熱板が獅子を思わせる、外見に違わぬ豪快無比の機体である。前回、罰ゲームとして本当に大気圏に落とされたと噂される無頼兄は、必殺『大気圏突入落とし』を身につけたと吹聴しているが、遠い目をしている宇宙サムライの胸に去来する思いは計り知れない。
「タイムアップが多かったんで手を入れましたえ?安心して死んでらっしゃいな」
「・・・ああ」
穏やかな顔で、どこまでが本気か分からない口調で無頼兄の姉の龍波紅刃(たつなみ・くれは)が笑みを浮かべている。機体の軽量化を図ると同時に肩部にスラスターを追加して突進力を上げた、それ自体は無頼兄の好みに叶うものだ。
両機中間距離から開始、積極攻勢でソウルヴァルカンを放つオーガイザーと、眠り姫の放つスィケットオブソーン(Thicket of thorns)が相打ちとなる。強化装甲、魂鋼が「効かん!」と叫ぶが損害はややオーガイザーが上。相手はロストヴァ、弱点の無さが戦いづらい相手であり、無頼兄は舌打ちするがここで彼得意の戦法をやめる理由はない。
「突撃!ガァイ・ブレイザー!」
スラスターの出力を活かして接近してのガイブレイザー、全身に炎をまとう突進がスリーピングビューティに直撃して一撃で戦況をひっくり返す。すかさずスリーピングビューティも離脱してスィケットオブソーンで反撃、派手な撃ち合いは双方互角の状況。
オーガイザーは再び得意の格闘戦、炎の拳を振るうがロストヴァも至近距離で確実に回避行動に専念する。不利な状況でも揺らぐ素振りすら見せず、中間距離に後退するスリーピングビューティだがオーガイザーはこの好機を狙っていた。
「当てるぜ!ヴァルカン!!」
狙撃するソウルヴァルカンの火砲が眠り姫に命中、だが同時に反撃のスィケットオブソーンもオーガイザーに命中する。自信の攻勢を返されたオーガイザーに隙ができるとたたみかけるようにスリーピングビューティが接近、イバラの蔦を思わせるスピニングニードル(Spinning needle)が襲いかかる。
これで一気に装甲を削られると再び中間距離、スィケットオブソーンで狙撃されて一気に追い込まれるオーガイザー。コクピットで無頼兄をナビゲートするAI・鬼刃の電子音声が流れた。
「今ハ退ケバ負ケル!タダ攻勢アルノミ!」
「おお!その通りだぜェ!」
我が意を得た無頼兄が真正面から突進、自らの損害も構わずガイブレイザーで体当たり。これが直撃するが状況は依然としてオーガイザーが不利。だがAI・鬼刃の目算通りここまでで開始15分が経過しており、軽量化で機体負荷が軽減しているオーガイザーに対してスリーピングビューティの出足が鈍り始めた。
中間距離でソウルヴァルカンを命中、相手の得意距離でペースを掴んでから接近してガイブレイザー。これで双方起動停止寸前の状態となるが、このまま判定になればわずかにオーガイザーが優位の状況。だが、無論無頼兄には時間切れを狙うつもりはないし「女王」ロストヴァを相手に守勢に入って10分間を逃げ切れるとも思っていない。
互いに距離の取り合いとなり、近接戦と中間間合いがめまぐるしく入れ替わる。相手を捕捉できない状態で攻撃が空を切るが、近接状態でスピニングニードルを一瞬、当てた眠り姫が間合いを離すとスィケットオブソーンを射出。これを命中させたロストヴァが逆転勝利で一回戦を突破した。
「あらあら、やんちゃなお姫様だこと」
○スリーピングビューティ(24分機動停止)オーガイザー× 1vs-3
トーナメント一回戦 ドン・エンガス”ク・ホリン”vsてきぱきフォーチュナー
「やあ、臆病なキャンディアス君。今日も君にお似合いな景気の悪いサック顔をしているが元気かナ?」
「変なコトバばっかり覚えやがってこの野郎・・・」
毒舌機能付きオペレータロボ「レプラコーン」に激励されて、アラン・イニシュモアが登場する。一部で人気のあった前メカニックのカズサ様を左遷、更迭して新人メカニックにヒュウガ・コレトウを起用、今回は近接格闘戦型に調整しなおしたドン・エンガスで勝負する。
決算期も近付いており、そろそろ実績を残さないとヤバイらしいとは専らの評判であり、この辺りは零細メーカーの辛いところだが一方ではレプラコーンに採用している毒舌AIがことのほか売れているらしく、計画を達成しそうだという事情もアランには腹立たしかった。
対戦相手はチーム「S.M.A.R.T.」ふわふわエターニアから心機一転、ロールアウトした新シリーズてきぱきフォーチュナーで勝負する。一見すると長剣と短剣の二刀を持つ、ナイトタイプの格闘機に見えるがエターニアシリーズでは天使の翼を再現した「S.M.A.R.T.」開発陣の技量は今更であり、今回の機体コンセプトも関係各社から注目の的になっていた。
「テメーとはエライ違いですね。アスホールのクセに穴があったら入りたいか?」
「分解すんぞコラ!」
中間距離から、速攻をしかけたドン・エンガスがハイドポンプを射出。先制を狙った一斉攻撃だが、フォーチュナーは双剣を振ると撒布機雷の軌道を一瞬で解析して、その殆どを弾き落としてしまう。呆気に取られるアランに向けて突き出された剣先からマジックフレイムが飛ぶと命中、手痛い反撃を許してしまた。フォーチュナーのコクピットではオペレータロボのホリィ・エンジェルが機嫌よくにこにこと笑っている。
「八つまでならぁ、落とすのだー」
「これがぁ、八連斬りですよー」
静志津香もいつもの穏やかな笑み。剣撃の軌道のみで攻防のすべてを実現してしまおうという、フォーチュナーは距離を測りながら襲いかかるハイドポンプを叩き落としてはマジックフレイムを飛ばす。なんとか接近したいドン・エンガスだが、相手の大型剣も間違いなく格闘戦用であることを思えば無闇な突進は自殺行為になりかねない。慎重にタイミングを測りながら、ハイドポンプの大量射出でフォーチュナーを封じようとする。撃ち落とされながらも、多量の撒布機雷は確実に相手の装甲を削っていた。
こうして両者決め手がないまま、20分を過ぎても戦況は変わらず膠着状態。わずかにフォーチュナーが優勢だが一撃で返すことのできる程度の差でしかない。残り時間が刻々と減っていく中で24分、業を煮やして一気に飛び込んだドン・エンガスを待ち受けるようにフォーチュナーがエーテルソードを抜き放った。
「これが魔法剣、ですぅー」
ホリィ・エンジェルに大雑把な軌道解析をさせて何となく志津香が理解するいつもの連携、エーテルソードの一閃がドン・エンガスの装甲を斬る。すかさずマジックフレイムで追い打ち、踏みとどまったエンガスも突進するとゲイボルクを抜いてフォーチュナーに一撃を与える。残り五分で一気に展開が動き、双方激しく削り合うがここでタイムアップ、随所で効果的な防御を見せていたフォーチュナーが逃げ切って判定勝ちを収めた。
「クヨクヨすんなよ、実力も実力のうちさ!」
○てきぱきフォーチュナー(30分判定)ドン・エンガス”ク・ホリン”× 22vs15
トーナメント二回戦 猫ろけっとDRvsベリンスラノクス
おなじみKUSUNOTECの女子高校生社長である山本いそべ。前大会で優勝した宣伝効果もあって民政機体の開発から営業に販売まで、モンスターハンターにはまりつつ多忙な毎日を送っていたところ過労でダウン。一ヶ月の入院によりドクターストップがかかっていた。
ストライク・バックは宇宙空間で行われることもあって、健康管理は厳しく無理を押してでも参戦するという訳にはいかない。周囲にさんざ絞られたらしいが、問題は代わりのパイロットである。存外に和気藹々とした雰囲気の中、一週間後に迫った大会をどうするかと頭を悩ませていたところ、
「・・・やるよ?」
小さく手を挙げたのはいそべの妹である山本あんず、当年とって13歳。これでもKUSUNOTECの制御開発主任だが、半分家内製手工業っぽい会社だけに実力のほどは未知数かもしれない。
「まー、あんず、まかせたわ」
「うん・・・でも今回だけだよ?」
ある意味見事であったのは、スーパーシューティングゲームプレイヤーであるいそべ仕様にカスタマイズされた猫たーぼをポップンミュージックなら得意という妹向けに改変した開発陣であろうか。ともあれいそべの同級生やKUSUNOTECのおやっさんで構成されたTEAM K.Kの面々は小さなパイロットを大層気に入ったようで、あんず専用に猫耳&尻尾&白いスクール水着風スーツを揃えるという遊びっぷりまで発揮する。
機体は緊急仕様でやや重量アップした猫ろけっとDR、どこか青い音速ハリネズミを思わせる、AGESチックな機体である。対するは一回戦を堅実に突破しているテムウ・ガルナとベリンスラノクス、初戦で当たるには厳しい強豪となった。
カタパルトから射出される、機体の受けるGを吸収しながら機体の制動を行う。間合いはテムウ得意の遠距離、当然のように飛来するマグニファイを落ちついて引きつけると、猫ろけっとはこれを回避する。開発陣苦心の作として、操作が苦手なあんずのためにコントローラにある「回避」ボタンを押せば行動AIが回避行動をとってくれるという親切設計。厳しい連続攻撃を、リズムを取りつつ回避する。だがいくらAI使用とはいえ、相手も回避行動を予測して攻撃を放っている以上は操作を誤れば被弾することには変わりないのだ。
「あんずは・・・がんばるよ」
相対距離がゆっくりと縮まる、タイミングを測って今度は攻撃ボタンを押す。高周波でマイナス温度化されたソニックアイスビームが放たれるがこれは外れ、ベリンスラノクスもエナジーチェインを撒布するが機動力のある猫ろけっとを捕らえられず。続けて接近、自己発生させた力場を利用して宇宙空間で回転ジャンプすると、そのままロケットスピンアタックを狙う猫ろけっとだがこれはベリンスラノクスが回避する。
隙を窺いながら一撃を狙う、KUSUNOTEC機特有の展開に膠着状態のまま時間が過ぎていくが、ジェネレータの安定度を上げている猫ろけっとはそのまま勢いを持続して性能低下の心配もなさそうである。
「ソニックがんばれ!」
「ガッテンダ!」
点滅する「がんばれ」ボタンを叩いたあんずに、渋い声が応える。がんばれモードに入った猫ろけっとだが、制御するのはオペレータAIであるMii用のヴァーチャルコンソール「T.O.W.E.R」、機動コントローラ「MD」制御コントローラ「CD」上位統合システム「32X」が縦に積み重なってそれぞれにACアダプターが必要なシステムである。
がんばるAIが機体制動を図る猫ろけっとだが開始20分、その制動のタイミングに合わせたベリンスラノクスの放つマグニファイがここでようやく命中する。正確極まる一撃でワンチャンスをものにしたテムウがそのまま残り時間を逃げ切ってタイムアップ、山本あんずは一部に早くも生まれた熱烈なファンに惜しまれつつも初戦敗退となった。
○ベリンスラノクス(30分判定)猫ろけっとDR× 40vs33
トーナメント二回戦 トータス号狂鬼人間中辛vsどんきほーて全国版
いわゆる「猫たーぼセッティング」で一回戦を突破したどんきほーてとベアトリス・バレンシア。先鋭化された機体だけに型にはまれば強力な一方で、弱点も明確にならざるを得ない、そのぎりぎりのバランスがフォーミュラ・ワンのような精密な設計を求める、それを証明する相手がこのタイプには鬼門とされているSPT、「狂わせ屋女史」が率いるトータス号陣営である。
「完璧はありえない、必ず好機がやって来る。そこを狙うのがウチの戦い方だからねえ」
「分かってるんだがな」
改めて言われるまでもないその僅かの好機、しかもVM−AX発動中の終盤戦の好奇のみで試合を決めてしまうのがSPTの戦い方だ。最近無性にトンファーが似合うコルネリオは、その特性を充分に知り尽くしている。
両者中間距離から、先制するどんきほーてがばくだんばらばらを撒布してトータス号の装甲を叩く。棍棒のように重く太いサンビーム500怪が飛来するがこれは当然のように回避、離れてなぞのぶきで追い打ちをかける。
積極攻勢、なぞのぶきを打ち込むどんきほーてはこうもり男砲の反撃を受けて思わぬ被弾、だが相打ちでも損害状況はトータス号が勝り、どんきほーては序盤から優位な体勢。しばらく膠着状態での撃ち合いが続いた11分、どんきほーて全国版のなぞのぶきが直撃して一気にトータス号を追い込むが、ここで早くもSPTのあの力が作動した。
「レイ!VM−AX作動!」
蒼いエネルギーを全身に帯びて加速、その速度差に相対座標を見失ったどんきほーての隙をついてこうもり男砲が直撃する。機体が大きく揺らぐがまだどんきほーてが優勢、離れるとなぞのぶきで反撃して装甲を削り返す。
続いてなぞのぶきを射出、これにこうもり男砲を合わされて相打ちとなるが、直撃を回避したどんきほーてがトータス号を追い詰める。だが、追い詰めたということは同時にSPTの二段階VM−AX、レッドゾーンが作動するということでもあるのだ。
「VM−AX!スーパーチャージ・オン!」
蒼いエネルギーが真紅に変わる、そのスピードはどんきほーての機動力にも匹敵し、出力では比べるべくもない。だが相手は機動停止寸前の状態であってただ一撃を命中すればそれで試合は決するのだ。飛来するサンビーム500怪を汗を流しながらも回避、これを食らえばひとたまりもないだろう。
双方撃ち合うが、超高速機動で飛び回る機体同士が相手を捕捉する困難さは想像以上のものである。21分、トータス号がこうもり男砲を放つがどんきほーてが回避、中間距離と遠距離を取り合いながら26分、双方が同時に相手をターゲットに収めると遂に放たれたサンビーム500怪がどんきほーて全国版を装甲ごと貫き、一撃で機動停止に追い込んだ。
○トータス号狂鬼人間中辛(26分機動停止)どんきほーて全国版× 3vs-5
トーナメント二回戦 シャルージュvsスリーピングビューティ
重装タコツボ機を下したシャルージュと、超攻勢機オーガイザーを下したスリーピングビューティーの激突。両者とも万能型のバランス機であるが、このタイプは大きく崩れることが少ない一方で相手を圧倒することも難しく、パイロットにはプレッシャーに耐える強さが要求された。
「まあ機体が傷付くのは気にしなさんな。面倒さえ見てやれば女性ほど機嫌が悪くはならない」
「はは。それじゃあ、出るよ」
メカニックのハイナー・フォン・ツィールベルクにからかわれながら、ノーティは再びフルフェイスのヘルメットを被ると計器の様子と愛機のコンディションを確認、オペレータとの回線を繋ぎ、問題のないことを報告する。ほぼ同時に、全く同じ手順を対戦相手のロストヴァも行っているが、こちらはより簡素に、より手際よく行っているのは経験と性格の現れであったろうか。
「OKアブ。あとはいつもの通り、オヴァ?」
両者遠距離で対峙、シャルージュは移動攻撃からXiアームズ・アタッチメントを飛ばしてくるがスリーピングビューティも難なくこれを回避する。反撃する眠り姫のキスミープリンスチャーミング(Kiss me Prince Charming)を今度はシャルージュが回避しつつXiアームズで反撃、命中させて先制した。
「・・・上手い」
コクピットの中でロストヴァが呟く。不充分な体勢から連続攻撃して全て当てられるとは思ってもいなかった、少なくとも新参だからと侮れる相手ではないらしい。すかさず中間距離に移行、スィケットオブソーンを放つと一発目は牽制し、これで捕捉して二撃目を直撃、早くも戦況を取り戻す。侮れずとも侮られる訳にはいかぬ、と言いたげの反撃である。
中間距離のままやや膠着状態を維持、再びシャルージュが攻勢に出る。遠距離に離したところでXiアームズを発射、直撃こそ避けるがやはり抜き撃ちで当ててくる。再接近を狙うスリーピングビューティに、シャルージュは高速で下がりながらXiアームズを当てる。ここで接近、相手の反撃を落ちついて回避してから再び後退、またもXiアームズが命中。ここまで開始16分、シャルージュが一方的に押している展開。
「最後まで気を抜くな!相手も逆転を狙っているぞ」
「OKシータ、サポート頼む!」
逃げるよりも確実に当てて押し切る、それは勝利への美学でもこだわりでもなく、彼らにはその方法が向いているからだ。距離を取りながらXiアームズを命中、機動停止寸前となっているスリーピングビューティは懸命に中間距離まで戻すとスィケットオブソーンで反撃、命中するが損害は軽微。
だがロストヴァもここから攻勢に出る。連続で解き放たれるイバラの蔦が不規則な軌跡を描き、シャルージュの周囲を囲った。多方向からの攻勢をかわしながら思い切って距離を離したシャルージュがXiアームズを放つがこれは回避されると、中間距離に戻したスリーピングビューティのセンサーが今度は完璧に獲物を捕捉する。
「楽しい、ダンスを。忘れないわ!」
一撃、二撃、三撃、そして四撃。リズムを取るように連続で突き刺さったスィケットオブソーンが、一気にシャルージュの装甲を貫いてスリーピングビューティが逆転勝利。女王に相応しい実力を見せたロストヴァが準決勝進出を決めた。
○スリーピングビューティ(28分機動停止)シャルージュ× 4vs-3
トーナメント二回戦 てきぱきフォーチュナーvsメガロバイソン4
「なかなか調子がいいようじゃないか」
「さよぉ」
「予算申請書では前回と同仕様か・・・だが予備費からは出せんぞ。そうだ、バイソン2のパーツから流用させよう」
「さよぉ」
予算委員会の承認を得て、登場するメガロバイソン4は前回同様に高出力を維持したまま高機動を追求した遠隔格闘戦という独特のスタイル。天才ジアニ・メージ苦心の作品である。
「バイソン2のスーパーな魂は4に受け継がれるのです!」
いつものように気合いの入っているオペレータに、マック・ザクレスは顔を和ませる。機体整備はメカニックのザム・ドックが名人級の腕を見せているが、開発とサポートはメージが受け持っており、彼らの実力にマックは信頼を置いていた。相手はてきぱきフォーチュナー、ロールアウトしたばかりで情報の少ない機体だけに、万全の体勢で臨む必要があるだろう。
先手は距離を取ったバイソン4のアウトレンジブロー、有線操作で伸びる巨大な拳が襲いかかるがフォーチュナーもこれを回避する。続けて攻撃、命中して先制するがかすっただけで損害は軽微。
「ゆっくりとぉ〜。あでやかに〜」
剣舞のモーションで抜き放った剣が芸術的な軌跡を描き、殴りかかるバイソン4の拳に向かって斬りつける。位相反撃システムを武器格闘に応用したカウンターソードシステムであり、ガードシステムと合わせた「S.M.A.R.T」自信のプログラムである。反撃による損害が必至となるバイソン4としては、速攻で押し切るか持久戦で回避に専念するか、選択しなければならない。
「持久戦でガシガシ攻める!これしかありません!」
「い、いいのか?それで」
言葉に矛盾を感じなくもないが、オペレータの言葉を信じて攻勢に出るマック。アウトレンジブローとカウンターソードが交錯して双方、損害が出るがここまではバイソン4が押している。位相反撃システムの自動計算は絶対ではなく、強引な攻勢に出るバイソン4の拳に対してフォーチュナーも全て反応することはできずに不利を被らざるを得ない。だがフォーチュナーは同時にガードシステムを応用した、エーテルソードの刀身を防御にも利用してバイソン4の拳を弾いている。
双方粘りながら時間は25分を経過、ここでフォーチュナーがエーテルソードの間合いに飛び込むことに成功。近接戦が不得手なバイソン4に対して二刀の剣が襲いかかるが、やや武器操作の制動が甘くしとめきれずにいるところでタイムアップ。好機を活かしきることのできなかったてきぱきフォーチュナーが無念の敗退、メガロバイソン4が準決勝進出を決めた。
○メガロバイソン4(30分判定)てきぱきフォーチュナー× 25vs4
トーナメント準決勝 ベリンスラノクスvsトータス号狂鬼人間中辛
いよいよ準決勝、一回戦二回戦と恐怖のVM−AX、レッドゾーンを爆発させて勝ち進んでいるのは白河重工製トータス号狂鬼人間中辛。相手は北欧系クォーターという触れ込みが関係者には今一つ信用されていない、やけにネイティブジャパニーズ風のテムウ・ガルナが騎乗するベリンスラノクスである。
「先輩、デンマークって寒いんですよね?」
「超さむいよ」
冬場らしく厚着をしているテムウを、メカニックの岩田くんが奇異な視線で見ている。オペレータのとき子さんはかつて「北欧系クォーターのパイロットがやって来る」と言う情報にベルサイユのばらのフェルゼン様のような人を想像したというが、岩田くんの目の前でイハラ技研のツナギの上からマフラーに帽子を被っているテムウはせいぜいご用聞きの兄ちゃんにしか見えないのだ。
そのテムウ兄ちゃんは開始早々の近距離戦で一旦、様子を見るとすぐに距離を離してエナジーチェインを撒布、同時に放たれたトータス号のサンビーム500怪を受けるがVM−AX前の出力であれば損害はさほど大きい訳ではない。
構わず離脱、飄々とセンサーを合わせるとマグニファイを射出、相手の反撃も構わずに積極攻勢に出る。テムウとしては珍しい戦い方に見えるが更に攻勢、マグニファイを連続で直撃させて一気にトータス号を追い込んだ。
「レイ!VM−AX作動!」
「VM−AX!スーパーチャージ・オン!」
VM−AXレッドゾーンが起動、多量のあの力がコルネリオに流れ込むと全身を蒼く、そして赤く輝かせたトータス号が超加速を始める。
だがここでベリンスラノクスは更に攻勢、容赦せずにマグニファイを叩き込むと、出力の増したこうもり男砲の反撃で受ける損害すら気にせず、そのまま一気に押し切ってトータス号を沈めてしまった。ここまで開始わずか7分、SPTの弱点を突いての短期決戦を完璧に演出して見せたテムウ・ガルナとベリンスラノクスが堂々の決勝進出である。
「いや、だって怖いし」
○ベリンスラノクス(7分機動停止)トータス号狂鬼人間中辛× 20vs-4
トーナメント準決勝 スリーピングビューティvsメガロバイソン4
準決勝2試合目は一回戦からの接戦を制して勝ち上がっている「女王」ロストヴァ騎乗のスリーピングビューティと、シード枠から堅実な勝利で勝ち進んでいるメガロバイソン4の対決。移動しながら得意の中間距離奪取を図りたい眠り姫に対して、バイソン4も同じく中間距離からの撃ち合いを誘うつもりでいる。開始と同時に取った間合いは中距離、相対加速度をゼロに保つバイソン4は完全に足を止めて撃ち合いの構えを見せていた。
両者ともに高出力兵器を中間距離に置いた機体設計をしているが、ロストヴァがより全方向に対応しているのに比べるとマックは中遠距離系に得意を置いているのだから、本来バイソン4は遠距離戦を挑んだ方が優位な筈である。
「あら、いい度胸をしてるじゃないの」
余裕のある素振りを見せるロストヴァだが、本来、彼女の戦法は足を止めるよりも間合いを変えながら相手を揺さぶる方法を用いることが多い。高出力兵器同士の撃ち合いは必ずしも彼女の本意ではなく、バイソン4もそれを理解して撃ち合いを挑んでいるのだろう。
「装甲ではこちらが不利です!ひたすら攻めて下さい!」
「了解!」
メージの声に応えるマックが放つ、ロングレンジブローが先制して、両者中間距離からの撃ち合いとなる。続けての拳はスリーピングビューティが回避、スィケットオブソーンを返してすぐにペースを取り戻した。
双方の撃ち合いは両者が確実に回避、すかさず四方にイバラの蔦を放った眠り姫が猛牛を囲うとこれを斬撃、バイソン4も敵攻撃に囲われた状態からロングレンジブローを発射すると、左をかすらせて右の一撃が命中。
開始7分。ここまで互いの状況は互角だが、連続でロングレンジブローを当てられたスリーピングビューティがわずかにバランスを崩したところに、バイソン4がもう一度左拳を命中させるとロストヴァがコクピットで強い舌打ちをする。
「無粋な雄牛!お姫様のお気に召さなくてよ!」
スリーピングビューティのスィケットオブソーン、一撃が弧を描いてバイソン4を牽制すると、続く二本目が関節部を切り裂くように直撃した。だがバイソン4もこれに押し負けずにロングレンジブローを連打、ぎりぎりの動きでイバラの蔦を避けると有線操作の拳を飛ばす。直撃こそしないが両拳が連続で命中、開始12分で未だ互角の状況だが、損害も両者ともに大きくここからはワンチャンスの狙い合いになるだろう。
「足を、止めて、押し切る!」
開始16分。呪文のように呟きながら、左右の拳を繰り出すバイソン4のロングレンジブローがスリーピングビューティを捕らえると両拳ともに命中。強引に押し切ったバイソン4がそのまま難敵を沈めて勝利、マックが二大会連続となる決勝戦進出を決めた。
○メガロバイソン4(16分機動停止)スリーピングビューティ× 11vs-1
NAKAMOTOストライク・バックZ第十回大会決勝戦 ベリンスラノクスvsメガロバイソン4
宇宙戦になってより第十回目となる、記念すべきストライク・バック大会決勝戦。イハラ技研チームのテムウ・ガルナは常に安定した戦績を誇りながらも、不思議と優勝経験が少ない無冠のテスターが定着しつつある強豪。対するメガロバイソンプロジェクト、マック・ザクレスは初参戦から少しずつ戦績を伸ばしており今回、2大会連続での決勝進出となる実力を見せている。遠距離での攻勢を得意とするテムウのベリンスラノクスと、機動性を確保しながら中遠距離での高出力兵器によるラッシュを狙うメガロバイソン4。どちらが勝っても宇宙戦大会では初優勝となる、両者の激突が開始される。
両機カタパルトから射出、テムウ待望の遠距離だがそれはマックにとっても同様である。様子見の姿勢からアウトレンジブローが飛来、ベリンスラノクスはごく当然のように回避に成功。
「装甲と出力はこちらが劣るんです!ミスは厳禁!」
「了解、メージ!」
続けてアウトレンジブローが命中、先制攻撃に成功するが攻撃自体はかすった程度で損害はほとんど与えていない。攻勢を図るバイソン4にベリンスラノクスがカウンターでマグニファイを放つと命中、更に開放されたアタッチメントが襲いかかると相打ち気味に双方の遠隔兵装が打ち込まれる。
「油断しすぎです!撃ち合いになれば不利なんですよ!」
オペレータの叱咤を受けて防御姿勢をとると前進、中間距離へと移る。だがここにも罠を張っていたベリンスラノクスはエナジーチェインを撒布しており、機雷の海をかいくぐるバイソン4は巻き込まれて被弾。開始8分、再び離れて体勢を立て直したバイソン4がアウトレンジブローで反撃、強引な移動で相当数被弾しながらも強引にロングレンジブローを打ち込む。ここまで戦況は互角に近いが、中間距離であれば撒布機雷の威力よりもバイソン4の破壊力が勝っている。マックとしてはこの状態を利して押し切りたいところであったろう。
「どうもまずいなぁ」
コクピットで飄々とするテムウは無理に離脱を狙わず、連続してエナジーチェインを射出する。これをまともに受けてバイソン4の装甲が煙を上げるが反撃のアウトレンジブローもベリンスラノクスに命中。続けて機雷大量撒布、これも連続被弾して周囲が爆煙に包まれた。不利な状況を感じさせぬ攻勢から、好機を掴んだベリンスラノクスは一瞬で間合いを離して得意距離からマグニファイを放つ。この距離であれば出力でも装甲でもベリンスラノクスが勝る、戦況を支配する完璧な攻め手である。
「退けません!ひたすら攻めて!」
メージの声にバイソン4は遮られる視界でのシュートヒム、両の拳を打ち出すとマグニファイを被弾しながらもロングレンジブローが命中する。一瞬の時間を経て、センサー装甲が破壊されて起動停止したのはベリンスラノクス。最後に攻め切ったメガロバイソン4が優勝、初の栄冠を手に入れた。
○メガロバイソン4(13分機動停止)ベリンスラノクス× 1vs-1
成績 パイロット 機体名 戦績 所属
優勝 マック・ザクレス メガロバイソン4 3戦3勝通算19戦12勝 -メガロバイソンプロジェクト-
準優 テムウ・ガルナ ベリンスラノクス 4戦3勝通算27戦17勝 -イハラ技研-
3位 ロストヴァ・トゥルビヨン スリーピングビューティ 3戦2勝通算25戦18勝
3位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号狂鬼人間中辛 3戦2勝通算19戦09勝 -白河重工-
5位 山本あんず 猫ろけっとDR 1戦0勝通算25戦16勝 -KUSUNOTEC-
5位 静志津香 てきぱきフォーチュナー 2戦1勝通算21戦12勝 -TEAM「S.M.A.R.T.」-
5位 ノーティ シャルージュ 2戦1勝通算02戦01勝
5位 ベアトリス・バレンシア どんきほーて全国版 2戦1勝通算12戦03勝
9位 無頼兄・龍波 オーガイザー 2戦1勝通算19戦11勝
9位 シャル・マクニコル ケルビムMk4 1戦0勝通算15戦06勝
9位 ジム GMストライカー 1戦0勝通算12戦05勝
9位 ネス・フェザード トランス・バイパー 1戦0勝通算09戦04勝
9位 アラン・イニシュモア ドン・エンガス”ク・ホリン” 1戦0勝通算07戦02勝
9位 神代進 漁協可変タコボール 1戦0勝通算09戦01勝
** ジェーン・ドゥ シュレディンガーの猫 0戦0勝通算05戦02勝
** 三条つばめ サンジョンバード3 0戦0勝通算01戦00勝
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