logo 第十二回大会
 西暦2008年12月、中本重工業主催ストライク・バック第十二回大会。前大会では新規投入された高次元ジェネレータ搭載機「イプシロン」が圧倒的な猛威を振るい、優勝こそ阻まれたもののストライク・バック競技の安全性そのものが一般に問われるほどの問題となった。管理システムの改修に伴い、全体的に武器装備の出力が抑えられていたために通常の対戦はすべて時間切れ判定、一方でイプシロンの絡む対戦はすべて機動停止による決着を見たことも、その猛威を際立たせる原因となっていたようだ。

「そもそも次元ジェネレータの導入経緯が不明である。噂されている軍用試験のためであれば、パイロットの安全性など二の次ということか」
「噂をもとに非難されては困る。確かにイプシロンの潜在出力は主催者の想定を超えていた、それは認めるがこれまでもストライク・バックは競技としての安全管理を第一に追求する姿勢を変えたことはない」

 実際に軍需用の技術や要員がストライク・バックに流れている事情はあるし、その逆もまた同様であろう。だが少なくとも建て前としては、競技場がそのまま戦場の準備となる事態は好ましいものではない。軍事が最先端の技術を生み出すのではなく、最先端の技術を軍事に用いようとする者は常に存在するのだから。


トーナメント一回戦 フォルカーvsてきぱきフォーチュナー


 静志津香とチーム「S.M.A.R.T.」。先鋭技術の追求において群を抜いた集団だが、新機体となるてきぱきフォーチュナーの調整には未だ試行錯誤を繰り返しているようだ。長剣と短剣の組み合わせである、エーテルソードの二刀流で攻防から射撃戦までを支配しようとする、自動フィードバックプログラムが今回の主軸となっているが未だ理想は実現していない。

「目指せ八方斬り、なのだー」

 コクピットで軽妙に動き回る天使型AI、ホリィ・エンジェルが呑気な声でパラメータの確認を行っている。メインシステムを外付けにしたり、戦闘時には有線接続したりと試行錯誤を重ねながら、その間も技術力が向上を続けていたこともあって今では完全無線状態でのナビゲートを実現していた。とはいえ無線による通信量の不足もあって、ややアバウトな指示は志津香でなければ理解できないのが悩みどころである。対するは出場三戦目となるノーティ騎乗のフォルカー。パイロット自身は温厚で実直な好青年にしか見えないが、バランスの取れた動きでこれまでにも下馬評を覆す戦果を見せている。
 両機の対戦は中間距離から開始。フォーチュナーが抜いた剣からマジックフレイムを放つと、フォルカーはランサーフォースを射出するが牽制の一撃は互いに命中せず。ここで先んじたフォルカーが素早く距離を離してロングレンジカノンで砲撃、飛来する熱エネルギー線にホリィが反応する。

「ちょっと左、来るのだー」
「魅せますよぉ。剣の舞いをー」

 どうしてこの指示で反応できるのかさっぱり分からないが、カウンターソードが閃くと正確に二本の熱線を弾き返してフォルカーに命中させる。一瞬の間に反撃用の相対座標まで算出する、これこそ自動フィードバックプログラムの真骨頂である。すかさず接近してマジックフレイムを着弾、反撃するフォルカーのランサーフォースも剣の一閃で防御。与えた損害こそ軽いがてきぱきフォーチュナーが先制してペースを掴む。
 ここで接近してエーテルソードの間合い。移動攻撃は外れるが急速後退したフォルカーに狙いすましたマジックフレイムの一撃、反撃のランサーフォースを受けるがこれもカウンターで弾いて追撃を与える。再接近して斬撃、これはフォルカーが懸命に回避するが距離を離すたびにマジックフレイムで追撃を受けてしまい、それでも近接戦闘での八連斬りだけはノーティも確実に回避する。

「長期戦になれば反撃を狙える、今は耐えろ!」
「了解!シータ」

 オペレータの声に応える。開始10分でてきぱきフォーチュナーのジェネレータ出力がわずかに落ちるが、フォルカーの出力は未だ安定している。近接格闘戦が続き、エーテルソードの軌跡が襲いかかるがフォルカーはこれをひたすら防御、中間距離に離れたところで移動攻撃から高出力のランサーフォースを射出してようやく直撃させる。同時にカウンターソードで弾かれて被弾するが、ここで遠距離に移行するとロングレンジカノンを抜き撃ちで命中させた。続く二発目の砲撃でわずかながら形勢を逆転、ここではじめてフォルカーがペースを掴むと開始20分を経過、てきぱきフォーチュナーのジェネレータ出力が低下する。

「とてもよくないですねぇ〜」

 無造作に前進しながら確実に狙ってくるランサーフォースの一閃を弾くと、一瞬の攻防に賭けたフォーチュナーが近接距離を確保。エーテルソードの斬撃を連続で繰り出すが、回避に専念したフォルカーがこれを凌いで試合終了間際に急速離脱、ロングレンジカノンを連続発射したところでタイムアップ。パイロット適性を発揮したノーティが二回戦進出を決めた。

○フォルカー(30分判定)てきぱきフォーチュナー× 26vs15


トーナメント一回戦 ドン・エンガス<<イルダーナ>>vsオーガイザー


 不況の中、オペレータロボの毒舌AIが売上げ好調なこともあって会社的には良くてもオーナー兼パイロットとしては不満がたまっているらしいアラン・イニシュモア。勝率が決して振るわない中で前大会では久々の一回戦突破、逃げの戦術が功を奏していたがオペレータロボであるレプラコーンからはさんざんなじられる原因ともなっている。もっとも、レプラコーンが彼をなじらなかった例など近年記憶にないのだが。

「やあチキンくん。汚い尻をピカピカに磨いてきたかい?」
「ふん、いつかその口から『マイ・ロード』と言わせてやる」

 対するは漢の機体、オーガイザーだがここ数回続いた敗戦に業を煮やしたか、無頼兄の姉である龍波紅刃が今回自ら搭乗する。穏やかな容姿と柔らかい物腰ながら、その正体は笑顔の鬼姉とは無頼兄自身の述懐である。

「不甲斐ない弟に代わって、今回だけですえ」

 わざわざコクピットを複座式に換装し、無頼兄と二人で乗り込む。やや変則だが「S.M.A.R.T.」の制御技術と千葉県我孫子市の私企業WDF社のコクピット快適リフォームプランが活かされているらしい。無頼兄が操縦する狭苦しい座席の後ろに紅刃が悠々と陣取り、足で弟の頭部に指示を下すというマグネマン・スタイルを採用している。一応登録上は無頼兄がパイロットであり、スタッフが同乗するスタイルとして認められているようだが、このあたりは丁度アランとレプラコーンの関係に近いのかもしれない。
 開始早々、ドン・エンガスが振り回すゲイボルグIIの槍先が鋼鉄巨神の装甲を削るが、こちらも先制攻撃を狙ったオーガイザーは構わず突進、集束する光の腕でエンガスを掴むと至近距離から高エネルギーを解き放つ。

「ガァァイ・ブレイザァァァァー!」
「ちがいます。そんな色気のない技やおまへん(ぐりっ)」

 掌から打ち出される光の槍「輝」がエンガスに直撃して、一撃で装甲の半ば近くを削る。すさまじい破壊力に機体制動を失いかけるが、レプラコーンの制御プログラムが発動して相対距離を維持しながらゲイボルグでの反撃を図る。どれほど個性的であってもオペレータとして同乗している理由はあるのだ。

「S・H・I・T!チキンらしく逃げろよテメー!」
「あーあー!分かってるよこの野郎!」

 ゲイボルグで牽制しながら、距離を離したエンガスがタスラムを放る。魂鋼の頑丈な装甲に阻まれるものの、複数弾を当ててから接近して再びゲイボルグで攻撃。オーガイザーも光の槍「輝」と長刀「閃」の一撃を狙うが、逃げを公言するエンガスは懸命にこれを回避する。
 開始10分、両機ジェネレータ出力がわずかに落ちたところで流れるように接近、「輝」を狙う腕を危うくかわしたエンガスがゲイボルグを当ててから近接剣のアンサラーに組み替える。Xiフォースの変形機能を装備武器に応用したシステムは、毒舌AIに劣らず彼らの売りになっていた。振動剣の刃が魂鋼を打つと同時に、オーガイザーの長刀も閃光の如く閃く。

「ガァァイ・ブレーーーーードッ!」
「ちがいます。そんな悠長な技やおまへん(ごすっ)」

 近接格闘戦に切り替える瞬間に合わせられた一閃がエンガスの装甲を裂く。ここまで圧倒的に押されているエンガスだが粘り強く耐えながら後退、遠距離からタスラムを次々と命中させると再接近してゲイボルグの斬撃、開始20分でほぼ互角の状態に持ち込む。両機のジェネレータ出力が更に減退し、加速が鈍ったタイミングを測ってエンガスが遠距離を確保、立て続けにタスラムを命中させて損害軽微ながらついに逆転に成功、オーガイザーも再逆転を試みる。

「反撃、行きますえ!(ごすっ)」
「うっ」

 急に反応が鈍くなったオーガイザーを立て続けに襲う魔弾タスラムが追い込み、残り2分で思い切って接近したオーガイザーの長刀「閃」が閃くが損害を最小限に抑えたエンガスが逃げ切って逆転勝利。ドン・エンガス<<イルダーナ>>が接戦を制して一回戦突破に成功した。

「(ごす)(ごす)(ごすっ)」
「・・・・・・・・・・・・・」

○ドン・エンガス<<イルダーナ>>(30分判定)オーガイザー× 18vs16


トーナメント一回戦 ガー・フィッシュvs猫ろけっとRE


 強豪山本いそべ騎乗の猫ろけっとREに対するはベテラン、ネス・フェザード駆るガー・フィッシュ。いずれも高機動性を活かした機体同士による対決となる。町工場のKUSUNOTECと軍系のネス陣営が対等の立場で激突するのも、ストライク・バックならではの組み合わせであろう。

 先制攻撃を図って中距離からスターダストを一斉発射するガー・フィッシュの先制攻撃に対して、猫ろけっとはごく当然のようにこれを回避、同時に光学欺瞞ポッドまるちぽーの展開を開始する。いわゆる囮機であると同時に、兵装も備えており敵センサーを撹乱しながらフォーメーションを組んでの構成も可能にする特殊装備である。
 編隊を組んだ猫ろけっとが接近して近接格闘戦に移行、至近距離の攻防はガー・フィッシュ得意の展開でもあるが、猫ろけっとはバーニングいくらランチャーの火線を振り回して罠を張ると相手を誘い込む。開始早々に受けた一撃で捕捉されると、相対距離を確保されたまま熱エネルギーが送り込まれてゆっくりとガー・フィッシュの装甲を焼き続ける。

「まずいね、こいつは流石に・・・」

 コクピットでネスが舌打ちするが、エネルギー線を解除するには相手に一撃を与えてセンサーを断ち切るしかない。だが猫ろけっとは至近距離で近接格闘戦をしながら、なお全ての攻撃を回避できるだけの機動力を持っていた。追撃で狙うバーニングいくらランチャーこそ回避するものの、反撃するブレイジングナックルも空を切ってこれを捕らえることができない。開始10分を過ぎてガー・フィッシュのジェネレータ出力が落ちるが、チューニングを施している猫ろけっとはに戦況はますます不利を増していく。
 更に12分、16分と追撃のバーニングいくらランチャーが命中して損害こそ軽微だがペースは完全に猫ろけっとが確保。反撃の手がないまま20分を過ぎて更にガー・フィッシュは出力低下、ここからは猫ろけっとの一人舞台である。

「近接まるちぽー、起動ぅ」
「ぷろぐらむ・のーまるえんど。れでぃ」

 オペレータプログラムのMii+ZELDAが応答、捕捉した相手にバーニングいくらランチャーが立て続けに襲いかかり、次々と装甲を焼きながらラッシュを図る。意地を見せたガー・フィッシュがブレイジングナックルを直撃させるものの時すでに遅く、終了間際まで粘ったところにとどめのバーニングいくらランチャーが命中して起動停止。猫ろけっとREが実力を見せて二回戦に進出を決めた。

○猫ろけっとRE(29分機動停止)ガー・フィッシュ× 33vs-6


トーナメント一回戦 ケルビムMk6vsどんきほーて完全制覇の旅


 近接格闘戦の雄、剣天使シャル・マクニコルとケルビムMk6は今回、ベース機体を斑鳩からXiフォースに変更。高出力高機動機としてのコンセプトは維持しながらも、よりフレキシブルな構成で挑む。対するラテン娘、ベアトリス・バレンシアはどんきほーて完全制覇の旅をSPT−IIで換装するという思い切った変更を実施し、しかも高出力機としてのSPTの特性を活かすというアグレッシブなセッティングを試みている。

「御心のままに!出撃します!」
「さーて、お祭りの時間よー!」

 積極果敢に近接格闘戦を挑むべく、一気に加速して間合いを詰めるどんきほーてに対してケルビムはいったん距離を置くと中間距離からの迎撃、ホイール・オブ・オファニムで牽制するが初弾は命中せず。相対距離を確保しつつ続けて放った一撃が命中、かすった程度だが先制攻撃に成功する。
 反撃の手を持たないどんきほーてに対して、このまま相対距離の確保を狙うケルビムは続けてホイール・オブ・オファニムを投げるがどんきほーても懸命に回避し、次々と飛来する座天使の輪をかいくぐりながら必死に反撃の機会を狙い続けている。ここまで開始から6分ほどが経過、一方的に攻められているがベアトリスはいりゅーじょんを展開しつつ回避に専念して致命的な損害は受けてはいない。

「フランコ!フランコしょうぐぅーん!」

 7分過ぎ、ようやく近接格闘戦の距離に持ち込むとどんきほーてがひかりのつるぎを抜き放つ。ケルビムもソード・オブ・パニッシュを構えて大型剣同士の対峙となるが、初撃は襲いかかるひかりのつるぎをケルビムが落ち着いて回避。二撃、三撃と確実に狙ってくる斬撃を防いでから再び中間距離に離脱する。シャルとしては確実な優位を得ていない以上、SPT機を相手に博打を打つことはできなかった。
 ケルビムが座天使の輪を投擲、これをかいくぐったどんきほーての剣は弾かれ、離れてケルビムの反撃も回避される。互いの技量を駆使した一進一退の攻防は双方隙を見せないまま膠着するかに思えたが、開始14分、遂にホイール・オブ・オファニムがどんきほーてを捕らえる。決定打にはならないがペースを掴んだケルビムが攻勢にシフトし、連続攻撃を図ると飛び交う輪が相手を確実に追い詰めながら装甲を削っていく。

「逃がさないよ!」

 自分の間合いを取るべく接近してくるどんきほーてを待ち構えていたソード・オブ・パニッシュで一撃、容赦なく距離を置くとホイール・オブ・オファニムで追い打ちをかける。一方的な展開のまま残り6分となったところでどんきほーての装甲値が警告を発し、緊急プログラムVM−AXが起動するとあの力がどんきほーてとベアトリスを駆けめぐった。

「レイ!VM−AX起動!」
「うぁー!クセになりそーう!」

 全身をほとばしる蒼い閃光に包まれる、次の瞬間ソード・オブ・パニッシュとひかりのつるぎの双方が直撃!相打ち状態となりどんきほーてもかなりの損害を受けたが、ケルビムの受けたダメージは常軌を逸しておりシャルの背筋を悪寒が走る。
 急速後退して安全圏への避難を図るが、すぐに間合いを詰められるとひかりのつるぎをまたも直撃されてしまい、わずか二回の斬撃でそれまでの優位が吹き飛び、残り3分で完全に互角の状態まで持ち込まれてしまった。コクピットの中で、窮地に陥ったシャルはひとつ息をつくと自分に呟く。

「逃げられない、それなら逃げない!」

 中間距離からホイール射出、これを当然のようにかいくぐった蒼い流星がおそるべきスピードで近付いてくる。交差する一瞬を完璧に捕らえたソード・オブ・パニッシュが命中してそのままタイムアップ。最後の攻防で冷静さを見せたシャルが際どい攻防を制した。

○ケルビムMk6(30分判定)どんきほーて完全制覇の旅× 33vs-6


トーナメント一回戦 SRI専用機vsアルテミス


 前大会、物議を醸したイプシロン機の猛威によって一時入院することになったというコルネリオ・スフォルツァだが、一説によれば入院の実際の理由はイプシロンではなくVM−AXの使いすぎではないかとも言われている。

「あーっはっはっは!」
「どうせならあの状態の方がいいんだけどねえ」

 代わって今回は代役のパイロットとして助さんが搭乗、機体もイプシロン系のSRI専用機での出撃となる。相手は女神アルテミスで出陣するロストヴァ・トゥルビヨン。名の如く、射撃兵装を主体にした機体での参戦。
 まずは遠距離から、両機様子を見ながらアルテミスがエクリプスを解き放ち、矢の雨を振らせるが狙いが甘く命中せず。距離を詰めて中間距離に移行、タイミングを合わせたSRI専用機が散歩する首を解き放つとこれが連続命中して先制攻撃に成功する。

「あら、失敗」

 急速後退して離脱、アルテミスが再びエクリプスで反撃を図るがやはり牽制攻撃のみで命中せず。数発放ったところでようやく一撃、続けてもう一撃が命中するが損害はごく軽微。ここで開始10分が経過してアルテミスのジェネレータ出力が低下する様子に、優勢を確保しているSRI専用機が攻勢に転じる。遠距離から接近、中間距離で散歩する首を放ち牽制しながら更に接近。飛び道具をかいくぐって近接戦闘からスペクトルG線発射機を起動するが、この至近距離からムーンシャインの矢が放たれると命中、思わぬ反撃を受ける。
 好機を得たアルテミスがすかさず後退、狙いすましたルナティックダンスの光条がSRI専用機を貫く!これで一気に逆転、更に距離を放してエクリプスを着弾させるともう一度接近してルナティックダンスで追い打ち、わずか3分間のラッシュで戦況を覆してしまった。

「十秒早い・・・でもその十秒は、決して追いつけないのよ」

 そのまま接近してムーンシャインで追撃、SRI専用機も散歩する首で必死の反撃を試みるが遠距離からエクリプスで動きを止められると攻め手を封じられて、最後はルナティックダンスで狙撃されてとどめ。貫禄を見せたロストヴァが一回戦を突破した。

○アルテミス(23分機動停止)SRI専用機× 30vs0


トーナメント一回戦 リック・GMvsメガロバイソン5


 一回戦最後の対戦。メガロバイソン陣営は前大会、機体にかかった過度の衝撃でメインパイロットのマック・ザクレスが負傷。大事をとって今大会ではダルガン・ダンガルが久々の登場となる。予算委員会としては戦績を考慮してマックをメインパイロットに据える方針のようで、オペレータのジアニ・メージとメカニックであるザム・ドックは引き続いての参戦となる。

「まあ、仕方ないわ。お願いね」
「任せて下さい!」

 ダルガンのチームオペレータであるアリー・イマイの気軽な様子に、メージもいつもの陽気さで答えている。当のダルガンといえばあいかわらずヘルメットで顔を隠したままであり、さて何を考えているのかさっぱり分からないが過去の参戦経験もあってその腕前に問題はない。
 対するはGM陣営、リック・GMに騎乗するジム。脚部を換装して熱核バーニアを搭載した、宇宙戦用のジムである。

「あのー・・・GMってもともとホバー移動しないんだから、脚部バーニア変更しても意味ないんじゃ?」
「大丈夫だ。脚なんて飾りだから」
「もしかして、それが言いたくて換装した?」

 普段は無口なくせにこんな時だけお茶目なジェガンの激励を受けて搭乗する。武器がビームバズーカ一本というのも、局地戦闘向けGMでの参戦が多いウチらしいかとため息をつく。収束率が弱い兵器ではあるが、その分だけ強引に攻めることはできるし直撃すれば威力も大きいだろう。機体を選ばず臨機応変の戦い方ができることも、テスターたる者の適性であった。
 両機遠距離からの撃ち合いは互いに様子を見つつ、リック・GMのビームバズーカとバイソン5のムラクモオロチ・改が交錯する。続けて砲撃、ビームバズーカが熱エネルギーの余波でバイソン5を揺るがすと、反撃のムラクモオロチも命中するがメガクラッシュ効果は発動せず。

「アルファマイナス12度来ました!直撃コースです!」
「間に合わない。反撃する」

 ダルガンの声が通信波に流れると同時に、ビームバズーカがバイソン5を直撃する。初弾の攻防もあってここまで状況はほぼ互角。積極攻勢を図るGMが続けてビームバズーカを放つが今度はバイソン5も回避に成功する。更に撃ち合い、ムラクモオロチの数弾が命中。効果的にシールドで弾くリック・GMが守り、命中精度に勝るメガロバイソン5が攻めるという展開。
 再び中間距離から放たれたバズーカがわずかに命中、離れて連続射出されたムラクモオロチが連続命中して互角の攻防のままで10分が経過、コクピットでジムが呟く。

「もう少し精度が高いといいのになあ・・・そんなこと言っても文句言われるだけだよな、きっと」

 出力で勝りながらも、膠着する状況に愚痴をこぼしながらビームバズーカでの砲撃に専念するジム。他に攻め手がない以上は地道に粘るしかないのだが、シールドをかいくぐって数弾命中するムラクモオロチの光条が意外にプレッシャーをかけてくる。堅実に回避、あるいはシールドするが徐々に損害に差がつきはじめた。

「接近できませんか?膠着を破るチャンスですけど」
「無理だな。向こうの方が速い」
「それでは遠慮なく撃ちまくってください!」

 雑な指示に聞こえないこともないが、素直に従ったダルガンが遠距離のまま積極的にムラクモオロチを発射。連続命中させてペースを握りつつエネルギー収束のタイミングを図る。守勢に優れる相手に、全弾命中させなければメガクラッシュ効果は発動しないのだから簡単ではない。反撃のビームバズーカが正面から着弾するが、決定的なダメージには至らず。

「1、2、3、4・・・6本行けます!」

 開始18分、距離変更を試みたGMの隙をついてムラクモオロチが全弾命中。完全とは言いがたいがエネルギー収束効果が発動してリック・GMの装甲に突き立った。必死にシールドを展開するGMを相手に、一気に追い込んだところで20分が経過。そのまま撃ち合いに転じるとバズーカの直撃を受けながらも、続けての収束エネルギー砲を叩き込むと機動停止に成功する。強引に押し切ったバイソン5がGMの撃破に成功した。

○メガロバイソン5(21分機動停止)リック・GM× 17vs0


トーナメント二回戦 フィアスディアティvsフォルカー


 常に安定した戦績を残しながらも優勝から遠ざかっていた無冠のテスター、テムウ・ガルナだが前大会では久々の栄冠を得てとりあえず社員旅行に出発。T県塩原市にある温泉で日頃の疲れを癒し、山菜キノコ汁を味わってきたイハラ技研一行だが帰ってみるとハワイの研修?から帰っている筈のオペレータ登戸さんの姿がない。留守番電話に残されていた伝言では、研修先のホテルでエビに当たったとのことで現在入院中、休職しますとの連絡が入っていた。

「あらじゃあ私がやってみようかしら」

 鶴の一声、というか井原オーナーの気軽な一言によって今回も代役オペレータでの参戦となる。そのイハラ技研チームに対するは一回戦を粘り強い戦いで突破したノーティが騎乗するフォルカー。両機ともに遠隔攻撃を主体としており、パイロットの技量が問われる対戦となる。
 初弾は中間距離から撃ち合い、冷静に回避行動をとったノーティが飛来するブラストバラージをかわしながら遠隔間合いに移行すると、テムウもこれに即応する。

(Insurrection・Force)

 フィアスディアティがインサレクションの熱線を解き放つとフォルカーもロングレンジカノンを命中させ、互いに互角のダメージを与える。だが暴走の呼び名にふさわしいインサレクションの火線が再び荒れ狂うと、回避を試みるフォルカーに容赦のない連続攻撃が命中、先制を許すことになる。

「相手はバランスが良すぎる。避けながら狙えないか?」
「ああ、やってみるよ」

 言うほどにノーティも簡単に考えている訳ではない。フィアスディアティの砲火は出力こそ抑えられているが、精度の高い砲撃が休む様子もなく連続で撃ち放たれている。フォルカーの反撃はロングレンジカノンであり、出力でも精度でも相手に勝るが砲火は単発でしかない。有利とはいえない、という状況だが砲火を確実に避けることさえできれば、反撃を積み重ねることで勝機は狙えるだろう。
 襲いかかる暴火を時折、機体にかすらせながら反撃を試みるフォルカーだが開始7分に被弾、続けて砲撃を受けて一気にペースを握られてしまう。慌てて回避に専念、10分が経過するがフィアスディアティは悠然としながらも攻勢を弛めない。スクリーンに映る戦況を遠望しながら、フォルカー陣営のメカニックであるハイナーが漏らすように呟く。

「まずいねぇ、確かにスキが無さすぎる」
「呑気に言ってる場合か!」

 声を荒げるシータ。両者ともに安定して隙が少ない、であれば有利とはいえないという状況の劇的な打破は難しくなるだろう。膠着しているように思わせて、時折命中する砲火が確実にフォルカーを突き放していく。
 開始15分、気が付けば装甲破壊寸前まで追い込まれたフォルカーは反撃を図ってロングレンジカノンを命中させるが、続けての狙撃は回避される。逆転の手を掴めずにいる間に襲いかかる火線に追い込まれると単発の反撃を見せながらも開始20分、とどめとなるインサレクションの一撃で機動停止。終わってみれば実力を発揮したフィアスディアティが危なげない戦いぶりで前大会優勝者の実力を見せつける結果となった。

○フィアスディアティ(20分機動停止)フォルカー× 24vs-1


トーナメント二回戦 ドン・エンガス<<イルダーナ>>vs猫ろけっとRE


 二回戦、続いての対決は緒戦の接戦を切り抜けたドン・エンガスと安定した実力を見せつけている猫ろけっと。零細企業社長であるアラン・イニシュモアと超技術者集団KUSUNOTECの山本いそべという、社長同士の対決でもある。

「同じ社長でも随分違うみたいですね。でも見習えなんてとても言えないから安心していいよ?」
「やかましい、ウチだって今年の業績は上々だ!」

 その業績が当の毒舌AIの売れ行きのおかげだということは死んでも口にすることができない。まったくこんなモノを買う連中がいるなんて理解に苦しむと、半ば本気でアランは考えているが残念なことに君のところの自社製品だよ社長。
 両者近接戦闘から、グラディウスリバース発売記念に青と白カラーに塗り分けている猫ろけっとがバーニングいくらランチャーを発射すると同時に、エンガスもアンサラーで応戦するが双方命中せず。どちらも回避を主体にしており、牽制が空撃であってもそれで相手を追い込む構えである。続く剣撃がかわされるとエンガスが後退、Xiフォースの変形機構を武器変形に応用した「イルダーナ」システムによって白い戦士の剣が瞬時に魔槍ゲイボルグIIに変形、更に後退して魔弾タスラムを発射する投擲武器に切り替わる。これで攻撃、再接近してゲイボルグで突きかかるが猫ろけっとは当然のように回避する。

「ヒャッハー!ヒァウィゴー!」

 前後に急速移動しつつ、猫ろけっとがまるちぽーを起動させようとするタイミングを正確に測って突き込んだゲイボルグが命中、ドン・エンガスが先制する。離れてタスラムで追い打ち、これはかわされるが再びゲイボルグを命中させるとペースを乱された猫ろけっとに更にタスラムで追い打ち。直撃とはいかないが装甲の薄い猫ろけっとには厳しい戦況となる。

「まるちぽーフォーメーション、回転アタックーぅ!」
「ぷろぐらむ・れでぃ」

 機体を旋回させた猫ろけっとが光学欺瞞ポッドによるフォーメーション攻撃で反撃、位相をわずかにずらした砲撃がエンガスに命中する。そのまま遠隔距離を維持、両機相手の様子をうかがう膠着状態となるが状況は依然としてドン・エンガスが優位に立っている。エンガスのゲイボルグによる連続攻撃は猫ろけっとが回避、接近して猫ろけっとのバーニングいくらランチャーもエンガスは確実にかわしてみせる。
 ここで20分が経過、ドン・エンガスのジェネレータ出力が低下するが高スペックを維持した猫ろけっとがここで反撃に転じる。相対距離を徐々に近接格闘戦に移しながら23分、遂にバーニングいくらランチャーが命中。損害こそ軽微だが高エネルギー線が巻き付いてエンガスの装甲を焼きはじめる。

「シット、サァーック!」

 後に本人は否定するが、ボイスレコーダによればパイロットの肉声によるスラングを響かせたエンガスが急速後退からタスラムを命中させてエネルギー線を切断する。猫ろけっともすかさず展開したまるちぽーフォーメーションからの砲撃を当てるものの、いくらランチャーの火線が切れたことでエンガスには時間切れで逃げ切る目が見えてくる。
 残り5分、複雑なプログラムで展開されるまるちぽーの行動パターンを予測できずにいるエンガスに猫ろけっとの砲撃が命中。続けて機体をローリングさせつつ牽制の砲撃を放ってから接近、バーニングいくらランチャーを放つが惜しくも外れ。残り2分、至近距離から放たれる再度のいくらランチャーが命中して高エネルギー線に捕捉されるが一気に急速離脱を図ったドン・エンガスが終了間際のまるちぽーからの砲撃を避け切って僅差で時間切れ判定による逃げ切りに成功。強敵を相手に殊勲の判定勝ちを収めて準決勝進出を決めた。

「マイ・ロード!マイ・ロォード!」
「自分で言ってやがる・・・」

○ドン・エンガス<<イルダーナ>>(30分判定)猫ろけっとRE× 25vs24


トーナメント二回戦 ケルビムMk6vsアルテミス


 続いては一回戦を接戦で切り抜けた「剣天使」シャルと安定した強さを見せている「女王」ロストヴァが対峙。開始と同時に得意の近接格闘戦を狙うシャルだがロストヴァもそれは理解しており、素早く遠距離に離れるとエクリプスを放つがケルビムもこれを落ち着いて回避してみせる。

「モードシフト、座天使の輪を!」

 初弾を回避しながらケルビムが接近、座天使の輪を放つと連続して命中させるが、アルテミスは損害も構わず狙撃モードに入るとルナティックダンスの光条を解き放った。これが直撃して体勢が崩れた剣天使に、多少の危険を意に介さず放たれるエクリプスが矢になって命中する。開始からの三手で装甲の半分を一気に削り取ったアルテミスが俄然優位に立つと、そのまま遠距離を保持してケルビムにプレッシャーをかける。

「くっ。強い・・・」
「天使が女神に剣向ける愚かさを、知りなさい?」

 膠着が続くがケルビムは装甲を大きく削られた状態で、アルテミスの一方的な砲撃を避け続けなければならない。剣天使を象徴する大型剣を構えて前進するが危うく襲いかかるルナティックダンスを回避、またも距離を離されてしまう。
 ここで10分が経過、遠距離から三度続けて放たれるエクリプスが再びケルビムに命中する。確実に追い込みながら隙を見せず、だが好機は逃さない。開始16分、再び仕掛けるアルテミスにケルビムもホイール・オブ・オファニムを繰り出して連続着弾、だが同時に放たれたルナティックダンスを回避できず相打ちとなる。これで危険状態に達したケルビムにすかさずエクリプスが命中して機動停止、完璧な立ち回りを演じたアルテミスが二回戦突破に成功した。

○アルテミス(17分機動停止)ケルビムMk6× 30vs0


トーナメント二回戦 メガロバイソン6vs漁協パーフェクトタコボール


 トーナメント二回戦、前大会でマックが負傷する原因となった漁協パーフェクトタコボールが登場する。圧倒的な活躍で予算削減の危機を乗り越えたタコボール陣営では、漁協のみなさんへの感謝と人情を込めた大漁旗を装備して登場。対するメガロバイソン陣営では無口なダルガンが珍しくオペレータのメージに声をかけていた。

「仇討ちになるのか?」
「そーなんですか?」

 開始は近接格闘戦から、イカリを上げろとばかりに勢いよく突進するタコボールが漢の大漁旗を振り回すと、力強い一撃がバイソン5に叩き込まれる。調整が行われたとはいえ、イプシロン機の高出力による一撃が装甲を派手に削り、続けて景気よく二撃目が振るわれるがこれはバイソン5も回避。

「そうそう当たるものではない」
「戦いは非情キュね?」

 サイボーグイルカフリッパーの指示を受けて、接近戦を挑むタコボールにバイソン5も足を止めて正面から対峙する。格闘戦であればダルガンにも自身があり、すかさずヒートホイップを振るとタコボールに巻き付ける。熱線が装甲を焼き、主導権を奪い返すがタコボールも至近距離から大漁旗で熱線を断ち切って追撃を逃れる。
 足を止めての攻防が続くが開始8分、再びヒートホイップを命中させたバイソン5が連続攻撃でタコボールを追い込む。一撃の損害は決して大きくないが追撃の熱エネルギーが装甲を焼き、反撃を図る漢の大漁旗もバイソン5に直撃するが相打ち覚悟のヒートホイップもタコボールに命中!双方大きく体勢を崩すが互いに積極攻勢を止めず、不充分な状態から先んじて機体制動を立て直したバイソン5が一気呵成に攻めると続けて命中した熱線の鞭がタコボールを焼きタコボールに変える。短期決戦を制したバイソン5が難敵の撃破に成功した。

○メガロバイソン5(13分機動停止)漁協パーフェクトタコボール× 22vs-1


トーナメント準決勝 フィアスディアティvsドン・エンガス<<イルダーナ>>


「マ・・・マァイ・ロォーゥドくぅん。次は行けるかにゃ?」
「そんなに言いたくないかこの野郎」

 二回戦で強豪KUSUNOTECを撃破した、零細企業のオーナー兼パイロットが続いて対戦するのはやはり強豪イハラ技研。準決勝ともなれば相応の相手と対峙しなければならないのも当然だが、オペレータ曰くチキン戦法を武器にして初の決勝進出を狙いたいところであろう。対するイハラ技研はツナギが似合う毛ボコリ青年、テムウ・ガルナが相変わらずの実力を発揮して先の二回戦でも安定した強さを見せており、アランにとっても実力が試される対戦となる。
 近距離から開始、遠距離主体のフィアスディアティに対してドン・エンガスはアンサラーの剣を抜いて切りかかるが奇襲攻撃は命中させることができず、離れると同時に襲いかかるブラストバラージの砲弾をかいくぐると再び接近、有利な距離を確保する。連続してアンサラーで切りかかるが、動きが慎重すぎるためかなかなか命中させることができない。

「やあチキンくん。キミには目はついていますか?」
「やかましい!これも作戦のうちだ!」

 オペレータの声にいらぬ欲をかいたか、中間距離に離れたところで手早くゲイボルグIIで突きかかり、これを命中させるが的確に反撃を狙われるとブラストバラージを被弾。体勢が崩れたところで更に距離をとって解き放たれるインサレクションがエンガスに突き刺さった。

「あら。遠慮なく撃ってよさそうよ」

 井原オーナーのアドバイスか、すかさず放ったブラストバラージを更に命中させてフィアスディアティが一気にペースを掴む。動きを封じられたエンガスだが相手の得意な遠距離戦から、タスラムでの反撃を試みるがインサレクションの炎をかいくぐりながらの攻防では不利を避けられないだろう。

「そろそろ出力が落ちちまうぜ。ボウヤは早いからな!」
「ふん!イルダーナの全距離対応は伊達じゃないぞ」

 それが強がりなことは明白だが、この際は開き直るしかないことはアランもレプラコーンも理解している。容赦なく襲いかかるインサレクションを時折被弾しながらも、あくまで回避を主体にして致命傷を避けつつ反撃を図る。だが機体制動であればテムウのそれも尋常ではなく、エンガスが放つタスラムもフィアスディアティはこれを確実に回避してしまう。
 一方的に引き離された状態で17分、インサレクションをかいくぐってエンガスが放つタスラムがようやく命中、続けて攻撃して数弾をかわされながらも再び命中。ここで20分が経過してエンガスのジェネレータ出力が更に低下するが、フィアスディアティのそれは衰える気配がない。

「ノーゥ」

 バランスが良すぎる、とまで称される安定した機体にここまで押されると反撃の手も少ない。開始22分、ようやくタスラムを同時着弾させるがインサレクションの反撃も直撃して更に追い込まれてしまうと、それでも諦めずにタスラムを数弾命中させるが距離を詰めることもできないまま無念の時間切れ。終盤に意地を見せたものの、内容としては一方的に押される形でドン・エンガスが敗退、イハラ技研が三大会続けての決勝進出を決めた。。

○フィアスディアティ(30分判定)ドン・エンガス<<イルダーナ>>× 21vs9


トーナメント準決勝 アルテミスvsメガロバイソン5


 残る一枠、もう一方の準決勝はここまで一回戦、二回戦を安定した強さで勝ち進んできた両者の対決となる。「女王」ロストヴァは有効距離を確保しながら一撃を狙う戦法、メガロバイソンはパイロットの乗り替わりもあって、半ば試験半ば捨て駒扱いの参戦だったが充分以上の実力を発揮していた。

「相手は強敵です!隙を見せずにガンガン攻めて下さい!」
「・・・」

 どこか無茶な要求に聞こえなくもないオペレータのアドバイスに無口無表情なダルガンも戸惑うに見えるが、天才メージの言うことだからたぶん彼女なりの理論があるのだろう。言葉通りに開始直後から積極攻勢に出たバイソン5がグレネードマインボム・改を先制して着弾させるとそのまま接近、ヒートホイップを狙うが流石にアルテミスもこれは回避する。

「相対座標確保。データお願いね、アブ?」

 奇襲を受けたロストヴァだがペースは崩さずすぐに中間距離に戻すと、機雷の海を泳ぎながら悠々と機体をローリングさせる。無論、余裕がある訳ではないが確実に反撃を図りつつ数度の砲撃で牽制、相手の攻撃にタイミングを合わせてルナティックダンスで狙撃。グレネードマインボムと相打ちになるが出力で勝るアルテミスが一撃で戦況を挽回、互角に戻してしまう。
 だがメージの意を受けたかダルガンは積極攻勢を継続。牽制しつつグレネードマインボムの撒布機雷を連続発射、一撃のダメージこそ少ないもののこれを被弾させて反撃する。再び接近するがこれは読んでいたアルテミスが至近距離からムーンシャインを放つとこれが命中、双方が思い切った攻勢に出てバイソン5はムーンシャインを被弾しながらも遂にヒートホイップでの捕獲に成功。ここで開始10分が経過して両機ともわずかにジェネレータ出力が低下する。

「もう一度、楽しいダンスに付き合ってね!」

 またも中間距離での撃ち合い、グレネードマインボムの撒布機雷とルナティックダンスの矢が互いに突き刺さるが、損害ではバイソン5が勝る。連続撒布による追撃こそ成功させるが、ダルガンはなかなか得意距離を取れず接近しても確実な反撃を受けてしまうために互角の攻防を続けながらペースを握ることができない。

「構いません!気にせずドーンと行きましょう!」

 ガンガンとかドーンというのはあまり精密な指示ではないが、精密に攻めるよりも積極的に行けということか。両機互角ながらややアルテミスに押されている状況で、バイソン5は中間距離を取られたまま撒布機雷による反撃を図ると大量射出で相手の行動を阻害しながら、上手く機雷の海に追い込んでこれを被弾させる。開始16分、機雷の連続着弾に成功したバイソン5がここで初めてわずかながらも戦況の逆転に成功。
 三度目の格闘戦を狙って接近、ヒートホイップを振るがこれも読んでいるアルテミスは熱線の鞭を二本とも回避、離れて撃ち合いになるとルナティックダンスとグレネードマインボムがまたも相打ちするが双方とも直撃には至らず。今度はアルテミスが離れ際の一撃を狙うが、バイソン5もぎりぎりのところでルナティックダンスの光条を回避する。20分が経過、両機とも更にジェネレータ出力が低下。

「まだまだ、長い夜を楽しみましょう」
「・・・」

 この状況で両者ともにペースを崩さず、中間距離で牽制射撃を撃ち合いながら隙を窺う。二度の砲火に続けてアルテミスがルナティックダンスを射出、これをバイソン5がかわしたところに追い打ちの一撃が命中する。直撃こそしなかったが反撃のグレネードマインボムを完璧な機体制動で回避したアルテミスが、ここに来て戦況の再逆転に成功。受けて立ったバイソン5も連続発射した撒布機雷を命中させて、残り5分で戦況は未だ互角。だが双方機動停止寸前の状態でなおも積極攻勢に出たバイソン5がグレネードマインボムを放つとこれが連続命中、遂にアルテミスが機動停止する。最後まで削り合いとなる激戦を制したメガロバイソン5が堂々の決勝進出を決めた。

○メガロバイソン5(26機動停止)アルテミス× 5vs0


NAKAMOTOストライク・バックZ第十二回大会決勝戦 フィアスディアティvsメガロバイソン5


 いよいよトーナメント決勝戦。前大会からの再システム改修を受けながらも、充分な実力を見せて勝ち残ってきた両機の対戦となる。遠距離からの砲撃を主体にして、安定した隙のない力を見せるフィアスディアティは前大会に続いての連覇を狙う。対するメガロバイソン5は外観こそこれまでのバイソンシリーズに近いものの、近接戦モードと高速機動モードの切り替えによる移動攻撃を重視した機体で、乗り替わっているパイロットのダルガンと合わせて堂々の決勝進出。 「このままガーンでドーンと行っちゃいましょう!」 「ああ」  タイムカウントに合わせてカタパルトから射出された二つの機体が、強烈なGに耐えてストライク・バック専用フィールドに躍り出すと周囲を緊張感が支配する。観客用のスクリーンや中継用カメラ、そしてオペレータのコンソールや両フレームのコクピットに瞬時にして映像情報が展開され、第十二回大会決勝戦が開始した。  相対距離は遠距離で開始、初弾からフィアスディアティがインサレクションを一斉に解放するが、これを手堅く回避したバイソン5が反撃となるムラクモオロチ・改を数弾命中させて先制攻撃に成功する。続けてムラクモオロチ射出、これも命中させてダメージこそ軽微だがペースを掴んだ。 「フィン展開、コンバット・フォース移行します!」 「分かっている」  熱放出するバイソン5が一気に近接戦闘を狙って接近、フィアスディアティが放つブラストバラージをかいくぐりながら至近距離に飛び込むと、タイミングを合わせたヒートホイップの熱線で捕獲する。危険を感じたフィアスディアティも急速離脱しながらブラストバラージを射出、すぐにエネルギー線を断ち切るが撒布されたグレネードマインボム・改を受けてここまでの戦況は一方的にメガロバイソン5が支配。 「あら?でもあれって捕まらずに済んだのよね」 「ええ、そうっすよオーナー」  通信回路ごしに井原オーナーとメカニック岩田くんの会話を聞きながら、再び遠距離を確保したフィアスディアティが襲いかかるムラクモオロチの光条を避けつつインサレクションで反撃。数発を被弾しながらも、解き放たれる力がバイソン5の装甲に突き刺さる。そのまま相対距離を確保して思い切った撃ち合いに移行、出力で勝るフィアスディアティが続けての砲撃も強引に命中させて戦況を互角に戻す。 「格闘戦は狙えるか?」 「無理っぽいです。このままモビル・フォース移行!」  高速機動用にフィンを閉じて、襲いかかるインサレクションの回避に専念するバイソン5。数発を被弾しながら致命的な損害は避けつつ、ムラクモオロチによる反撃を図る。両者撃ち合いながらもやや膠着状態となる展開が数分間続き、ここで開始10分が経過するとバイソン5のジェネレータ出力が低下。メージが言っていた通り、推進力の低下したバイソン5で格闘戦への移行は難しくなるだろう。  グレネードマインボムを撒布して牽制、フィアスディアティの放つブラストバラージを被弾するが状況は互角に近いながらもわずかにバイソン5が有利。ここで思い切って攻勢を図るダルガンは遠距離戦に移ると同時に手早くコクピットの計器類とコンソールを支配して相対位置を固定すると、ムラクモオロチを一斉射出する。次の瞬間、相打ち気味に被弾したインサレクションがバイソン5の機体を揺るがすが、収束させた光エネルギーがメガクラッシュ効果を発動してフィアスディアティに直撃! 「やりました!計算バッチリです!」  この一撃で追い込んだバイソン5が続くムラクモオロチの追撃を命中させるとフィアスディアティは機動停止、一瞬の勝機を活かしたメガロバイソン5が優勝の栄冠を手に入れた。  無邪気に喜んでいるオペレータの声を聞きつつ、臨時出場のつもりが思わぬ優勝を果たしたことに戸惑わなくもないダルガンはヘルメットの上からぽりぽりと頬をかいていた。

○メガロバイソン5(14分機動停止)フィアスディアティ× 14vs-1

cut


成績 パイロット        機体名            戦績           所属
優勝 ダルガン・ダンガル    メガロバイソン5       4戦4勝通算24戦16勝 メガロバイソンプロジェクト
準優 テムウ・ガルナ      フィアスディアティ      3戦2勝通算33戦22勝 イハラ技研
3位 ロストヴァ・トゥルビヨン アルテミス          3戦2勝通算30戦21勝
3位 アラン・イニシュモア   ドン・エンガス<イルダーナ> 3戦2勝通算12戦05勝
5位 山本いそべ        猫ろけっとRE        2戦1勝通算30戦19勝 KUSUNOTEC
5位 シャル・マクニコル    ケルビムMk6        2戦1勝通算18戦07勝
5位 神代進          漁協パーフェクトタコボール  1戦0勝通算14戦04勝 北九州漁業協同組合
5位 ノーティ         フォルカー          2戦1勝通算06戦03勝
9位 静志津香         てきぱきフォーチュナー    1戦0勝通算23戦12勝 TEAM「S.M.A.R.T.」
9位 龍波紅刃/無頼兄     オーガイザー         1戦0勝通算21戦11勝
9位 助さん          SRI専用機         1戦0勝通算21戦09勝 白河重工
9位 ネス・フェザード     ガー・フィッシュ       1戦0勝通算13戦06勝
9位 ジム           リック・GM         1戦0勝通算14戦05勝
9位 ベアトリス・バレンシア  どんきほーて完全制覇の旅   1戦0勝通算14戦03勝

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