VRS第二回大会-VIRTUAL SIRIES BACK II-
 バーチャル・ストライク・バック。電脳都市「リンク」で催される、人型汎用機による対戦格闘競技である。厳正な審査を経て「リンク」に登録された住民たちはこの都市で生活を行うことを許されるが、性別や年代、国籍まで含めてプロフィールの詐称が一切認められていないという仮想空間としては特異な環境がむしろこの世界に特有のモラルを与えていた。「リンク」にはエチケットは必要だがネチケットは必要ない、とはとある日本法人のコメントだ。
 自分のIDを使用して「リンク」に接続した者は、この世界では「パペット」と呼ばれる極端にシンボライズされた人形の姿で歩き回ることになる。端末機や通信回線に求められる性能の問題もあるが、主な理由は老若男女多人種多言語多文化の人々が参加をするに際して文句を言いようがないデザインにするためである。

 部屋を出て町に赴き街路を歩く、電脳都市における移動方法は個人の自由だが例えば検索機能を使って目的地を選び、そこに転送されることも可能だ。この方法であればVRS競技場まですぐに行くこともできるし、手にしたチケットを使うだけで席に直接座ることもできる。もう少し、雰囲気を楽しみたい者は会場へと続く道をわざと歩いていくことによって、同じ大会を見るために隣を歩いている「パペット」の姿を見ることができるだろう。関連商品が揃えられているオフィシャルショップや軽食の宅配サービス、開催時間までの暇を潰すための映像コーナーやシミュレータゲームなど、大会自体が産業と化している様子は現実世界と何ら変わるところはなかった。
 今大会の参加チーム数は全6チーム。そのためトーナメントは変則的な方式が採用されることになった。3チームずつ二つのブロックに分けてリーグ戦を行い、二勝をしたチームがあればそこが決勝戦に進出する。全チームが一勝一敗の場合は判定によって決定される。抽選による組み合わせはAブロックがメガロバイソンプロジェクトと北九州漁協にチーム「レギオン」の3チーム、Bブロックが前回優勝者であるクスノテックとSRI白河重工、そして謎のプルトニウム伯爵83世による3チームである。


VIRTUAL SIRIES BACK II Aブロック第一戦 アナザーバイソン1vs尖閣諸島防衛超・タコボールMk2
 強豪として知られるメガロバイソンプロジェクトだが、積極的なメンバーの育成や入れ替えが行われている点でも知られている。今大会ではパイロットに新人のゲルフ・ドックを起用、若いというより幼くも見えるゲルフは同チームの重鎮であるメカニックのザム・ドックの孫である。集束式レーザー砲ムラクモオロチ・改を中心装備としたアナザーバイソン1に騎乗して、仮想空間とはいえ初めてとなるストライク・バックの競技フィールドに挑む。

「まあ練習の調子が出せればOKだな」
「は、はい!」

 回線越しに、敬愛するマック・ザクレスに声をかけられたゲルフの頬が上気している。パイロット専用のコクピット端末に小柄な身体を沈めて現実とまるで違うことのない手順で計器やシステムの一つ一つを入念に確認、わずかでも見落としがあれば祖父の怒声が飛ぶことは分かっており、どこか緊張が抜けないながらも丁寧に確認を済ませていく。サブスクリーンに浮かんでいる対戦相手の映像はおなじみ漁協協賛シリーズ、尖閣諸島防衛超・タコボールMk2。赤い国から漁場を守るべく立ち上がった、海の男の機体である。超攻勢機を正面にして練習の調子を出す、マックのアドバイスが口で言う程やさしくないことはゲルフも重々承知していた。

 機体がカタパルトから射出される映像は仮想空間上のものであっても、コクピットにかけられるGは現実と違わないように設計されている。両機の相対距離は遠距離、タコボールは初手から超・遺憾の意を示しており虚空を飛び交う熱線が正確にバイソンがいる座標に向かう。カタパルト射出の衝撃からすぐに立ち直ったゲルフはこれを落ち着いて回避、ムラクモオロチ・改をばらまくように発射して二発を命中させるが同時にタコボールの周辺で小さな光が閃いたかと思うと反撃のエネルギー波が飛んでくる。自動防衛システムである超・専守防衛が命中してバイソン1は先手を取りながらも押される状態に。

「覚悟の量で決まる戦いというものがあるのだよ」

 うそぶく神代進の操作で遠慮無く接近してくるタコボールに対してバイソン1はグレネードマインボムを撒布、ハンディバルカンを正面から叩きつけるがタコボールはこれを受けながらも超・専守防衛で反撃、更に振りかざした超・日の丸の旗で追撃する。至近距離から放たれるハンディバルカンを神代はベテランらしく余裕を持った動きで回避、超・日の丸の旗を命中させてペースを完全に掴む。完全に翻弄されているバイソン1のコクピットにオペレータのメージから指示が飛んだ。

「何やってるんですか!ここは相手の誘いに乗るんですよ!」
「え、えーっ!?」

 超攻勢機を相手に正面きって撃ち合う、正気の沙汰とは思えない指示だが他の策がある訳でもない。距離を離そうとするバイソン1は得意距離とは言えない状態から強引にハンディバルカンとグレネードマインボムを発射、これに構わず接近を図るタコボールに対して強引な攻勢を行う。超・専守防衛の反撃で少なからぬ損害を負うものの、それならば多少の被弾を覚悟した上で得意距離に持ち込んだほうがよいだろう。
 開始8分、ようやく二度目のムラクモオロチの距離まで離すと三連続で発射、数発は巧みに弾かれてしまうが一度に六本の光条が三度、次々とタコボールの装甲に叩きつけられる。さしもの自動防衛システムもこの一斉射撃には対応することができず、ここで初めてバイソン1が戦況を優位に覆すことに成功した。それでも海の男らしく制圧前進を図るタコボールに容赦なくハンディバルカンを命中させて、離れたところで再びムラクモオロチの三連斉射。損害状況は拮抗しているがペースは完全にバイソン1が握る。それでもタコボールは強引な接近を試みるが、バイソン1もこれに対応しながら遠距離に戻してムラクモオロチを連続発射。相手の攻勢によって超攻勢機が押されている状況で、神代のコクピットにも超能力イルカフリッパーから指示が飛んだ。

「攻めるキュ?」

 三十八計あろうが男の選択は攻勢にあるとばかり、ここまで隠蔽していた超・映像流出が一瞬の隙をついて直撃する。そのままハンディバルカンによる弾幕を正面から受けながら、超・日の丸の旗と超・専守防衛の攻勢で一気にタコボールがバイソン1を追い込んだ。気がつけばすでに開始25分を過ぎていたが、わずか3分間の攻勢で戦況を逆転したタコボールは撒布されるグレネードマインボムの海にも呑まれず、ムラクモオロチの波涛もくぐり抜けて超・遺憾の意を示すとこれでとどめ。タフな消耗戦を制して大漁旗を掲げることができた。

○尖閣諸島防衛超・タコボールMk2(25分機動停止)アナザーバイソン1× 5vs-1


VIRTUAL SIRIES BACK II Aブロック第二戦 尖閣諸島防衛超・タコボールMk2vsマイナス
 続いての対戦は勝利したタコボール陣営が連戦。対するはチーム「レギオン」より今大会ではシャルロット・R・オリヴォー、一本三つ編みの金髪と大きな垂れ目の、やや官能的な彼女がパイロットとして参戦する。タコボールが連勝すればそのまま決勝戦進出が確定するが、負けた場合は三戦目の結果を待つことになるだろう。

「フレンド・アンジェラ?もしワタシらが負けたら三戦目は無しかしら」
「試合はあるわよ。だけど勝敗への興味は薄れてしまうでしょうね」
「あら、客席をシラけさせてはいけないわ!」

 騎乗する機体名はマイナス、酩酊と狂気の神デュオニソスの乙女にふさわしい、赤みを帯びた葡萄酒色の機体の姿が仮想空間に浮かんでいる。対峙するタコボールMk2は元が作業用ポッドとは思えない、豪華な飾り付けが海に生きる男たちの機体を思わせていた。
 高出力機同士の激突は派手なものになった。中間距離から放出されたタコボールの超・映像流出が初手から直撃、的確な回避行動すら上回る速攻が火花を虚空に閃かせるが、酒神の杖テュルソスをゆっくりと構えたマイナスは意に介さずに前進すると相手のお株を奪うかのように強引な攻撃をタコボールの装甲に突き立てる。

「さあ、倒れるまで踊り狂いましょうよ!」

 両機とも足を止めての近接格闘戦闘に移行、貫通力に劣る超・日の丸の旗を振りかざしたタコボールだが躊躇のない連続攻撃で得意の攻勢モードにシフトする。マイナスはこれを正面から迎え撃ちながらも、熟達した技量を見せて至近距離から襲い掛かる軌跡を巧みに回避、反撃のテュルソスを振り下ろすが神代もこれを的確にガードしてみせた。

「漁協の力を舐めてもらっては困るな」

 近接戦闘はシャルロットの庭であるが、神代の攻勢は距離を選ぶことがない。超・日の丸の旗がそれ自体に魂が宿っているかのようにマイナスの装甲を叩くが酒神の杖の一撃はそれに充分に拮抗することができる。数度の格闘戦の末に二度目のテュルソスが直撃すると押され気味の戦況を一撃で取り戻してしまった。
 開始10分。ここまで双方の戦況は互角でわずかにタコボールがペースを支配しているが、損耗では武器の性能差でやや押されている状態となっている。時間経過に従いタコボールの出力がわずかに低下するが、酒神の乙女にふさわしいマイナスのジェネレータは無尽蔵の出力を維持している。

 この状況で更なる攻勢に移行したのは無論というべきか尖閣諸島防衛超・タコボールMk2である。日本の漁場を守るためにも弱腰外交は許されないと、振り回される超・日の丸の旗がマイナスの装甲を削っていく。一撃のダメージこそ決して大きくはないが、確実な攻撃とマイナスの反撃を確実に弾いてみせる力量はベテラン神代の本領発揮といったところだろう。
 体勢を立て直したシャルロットが一手遅れながらも再攻勢に移行すると、日の丸旗の軌跡をかいくぐってテュルソスの一撃を突き立てる。直撃とはいえないがこれを好機と見て大振りの一撃がタコボールの装甲に突き刺さるが、この局面を待ちかまえていたかのように同時に閃いた自動防衛システム、超・専守防衛が反撃の刃を振りかざすとマイナスの装甲に激しく叩きつけた。絶好の勝機を潰されたマイナスのコクピットだが、パイロットの声はむしろ高揚に満ちている。

「だって秘跡の宴は!これからが本番ですものね!」

 酒神の杖テュルソスの軌跡が大振りに描かれると、襲い掛かる超・日の丸の旗を意に介さず、装甲を叩く衝撃にも臆することなく狂乱した乙女が踊る。一撃目で戦況をひっくり返し、二撃目でこれを一気に追い詰め、三撃目は自動防衛システムの刃を深々と突き刺されながら超攻勢機を圧倒する勢いで攻めきったマイナスが逆転勝利を決めた。

○マイナス(18分機動停止)尖閣諸島防衛超・タコボールMk2× 3vs-3


VIRTUAL SIRIES BACK II Aブロック第三戦 マイナスvsアナザーバイソン1
 Aブロック最後の対戦はチーム「レギオン」駆るデュオニソスの乙女マイナスと、新鋭ゲルフ・ドックが騎乗するアナザーバイソン1。マイナスが勝てばそのまま決勝戦進出が確定するが、バイソン1が勝利した場合は三チームが一勝一敗による判定となる。一戦目も二戦目も僅差による決着であったために、相応の損害差で勝つことができればバイソン1の逆転突破は充分に可能だろう。

「今度は気ィ抜くんじゃねえぞ」
「は、はい!」

 第一戦で逆転負けを喫した後、さんざんメカニックにどやされていたゲルフだが、敗戦よりも最後までオペレータが指示する正面からの撃ち合いに応じきれなかったことが悔しいところだろう。対戦相手はその超攻勢機タコボールを正面から撃破してみせたチーム「レギオン」駆るマイナスが相手である。計器類の状況を確認、機体ステータスを確認、パイロットの血圧や心拍数まで表示されている数字にすべて問題がないことを確認しながら、天才メージの指示を仰ぐ。

「じゃあさっきは戦ったんで今度は逃げましょう」

 どうにも意図が分からない。勝たなければ決勝進出できない相手であるのはもちろん、相応の損害差までつけなければならないというのに逃げるとはどういう戦術だろうか。コクピット端末の中で小さく首を傾げながらも対峙した両機の間合いは近接距離、踊り狂うテュルソスの軌跡を受けながらも損害は最小限に抑えて至近距離からのハンディバルカンを命中させる。ファーストアタックは同時ながら勢いでバイソン1が勝った恰好だが、通信回線からメージの怒声が響く。

「違います!逃げるんですよ!」
「ご、ごめんなさい!」

 先制して怒られることに理不尽を感じつつも後退、だがマイナスは離されまいと食らいつくように前進する。バイソン1もグレネード・マインボムを撒布して相手の突進を阻もうとするが、的確に配置されるカラム・クラテールを被弾して戦況を五分に戻されてしまった。遅ればせながらオペレータの意図を理解したゲルフが多少の損害を承知の上で急速離脱、マイナスの射程外に出たところでムラクモオロチを一斉射出した。襲い掛かる複数の光条がデュオニソスの乙女の装甲を叩き戦況を一気に引き離す。

「可愛くないわね、祭りに付き合いなさいよ!」

 距離を詰めてカラム・クラテールを撒布するマイナスだが、バイソン1も撒布機雷で対応。先程と同じ中間距離の攻防の筈が戦局が変わっただけでバイソン1が優位に展開をしている。相打ちで互いが装甲を削る状況では本来、出力や装甲に勝る側が有利になるがダメージに差が出ていれば劣勢の相手を追い詰めることができるのである。一息に接近、テュルソスの殴打を直撃させて挽回を図るマイナスだがムラクモオロチの被弾で受けた損害が蓄積しており状況は思わしくない。開始10分が経過してバイソン1のジェネレータ出力が低下、ここからは速攻が生きてくる。

「今です!撃ちまくりましょー!」
「了解!」

 至近距離から斉射したハンディバルカンの弾頭が次々と叩きつけられて、一気呵成の攻勢を受けたマイナスが沈黙。得意距離からペースを掴んでおいて好機と見るや一息にしとめる、理想的な戦いで難敵を撃破したアナザーバイソン1が勝利、損害差による判定でそのまま決勝戦進出の切符を手に入れた。

○アナザーバイソン1(12分機動停止)マイナス× 20vs-3


VIRTUAL SIRIES BACK II Bブロック第一戦 カツカレー大盛vsトータス号
 Aブロックに比べるとやや個性が強いチームが集まった感の強いBブロック。最初の対戦は謎のプルトニウム伯爵83世とSRI白河重工チームのトータス号。超攻勢機vsSPTという、その組み合わせだけでストライク・バックのファンであれば注目間違いなしの派手な攻防が期待できるカードになった。

「謎の伯爵、心の伯爵、魂の伯爵の力を見せてやろうではないかね」

 自慢のヒゲを隙なく整えた姿に、無意味な貫禄を漂わせているとはいえ破壊力は一級である。一方で世紀末の戦士コルネリオが騎乗するSPTはVRSシステム移行に伴い機体性能が改修された中、装甲を犠牲にしてオーバーロード時の最大出力が更に向上されている。その決定には白河重工を支える狂わせ屋女史の意向が大きく働いたと言われているが、その目的がSPTの更なる強化にあるのか狂化にあるかは判然としない。
 両機遠隔距離で対峙、プルトニウム伯爵駆るカツカレー大盛が名状しがたき何かを放つと初手からの積極攻勢でトータス号を派手に吹き飛ばす。更に容赦のない追撃、襲い掛かる二本の軌跡が深々と装甲に突き立てられて開始時間わずか2分でトータス号の装甲をレッド・ゾーンに追い込んだ。だがそれは蒼い流星が開始わずか2分で閃くことを意味してもいる。

「レイ!VM−AX起動!」

 仮想空間で行われる戦闘であっても、コクピット端末に及ぼされる影響は忠実に再現されるのがVRSの特徴である。通信回線を走るあの力がコルネリオの脳髄に流れ込むと、表現のできない叫びと同時にトータス号の全身が蒼い光に包まれた。これこそ白河重工の粋を結集して開発されたソウル・ハッキング・システムである。
 急加速、急速接近する蒼い流星が一息に至近距離まで詰めるとかまいたちが襲い掛かり、カツカレー大盛の装甲に叩きつけられる。遠距離戦仕様にセッティングされたカツカレーはこの動きに対応できず、続くかまいたちの一撃も直撃してやはり二撃で戦況を戻されてしまった。ちょっとやり過ぎたかもしれない狂鬼人間の姿をモニター越しに遠望しつつ狂わせ屋女史がうそぶく。

「だが私は謝らない」

 こうなれば完全にトータス号のステージであり、オーバーロードした蒼い流星の軌跡が一撃、二撃、三撃と交錯してカツカレー大盛を一気に機動停止に追い込んだ。SPT機の機能と性能を最大限に発揮した、理想的な勝利と言えるだろう。

○トータス号(10分機動停止)カツカレー大盛× 19vs-8


VIRTUAL SIRIES BACK II Bブロック第二戦 トータス号vs猫ろけっとXVB
「それにしても一息つけて良かったですよ。これで年越しにモチが食えますね」

 いよいよ前回大会の優勝チームであるクスノテックが登場する。超高機動機による回避戦術を極限まで追求する技術者集団であり、その実力は図抜けているがわずかなセッティングのミスがあればそこから容易に崩れてしまう。命綱のないサーカスへのこだわりは彼らの中で信仰に近いが、対戦相手となるトータス号はそのクスノテックの天敵とも言える機体である。単純な確率論でいえばどれだけ先鋭化したチューニングでも、競技時間の中にはやはりわずかな空白が生まれることがある。その一瞬に強烈無比な一撃を受ければ装甲が無いに等しい猫ろけっとでは耐えることができないのだ。
 モニター越しに伝わるプレッシャーは大きいが、それを完璧な技量で克服するのがゲーマーというものだろう。猫ろけっとのパイロットは引き続き人工知能であるMii3DSが担当、山本いそべがサポートする。対するトータス号は先の暴走の余韻がただようコルネリオがコクピット端末で不気味な表情を漂わせていた。

 先手を取ったのは大方の予想通り猫ろけっとXVB。しらうおバレットを発射、誘導性能を持つ磁力砲弾がゆるやかに軌跡を曲げながらトータス号の装甲を打つとそのまま接近してたちうおブレードで切りかかる。薙刀形の光フィールド兵器が一撃、返しの二撃と閃いて火花を飛び散らせた。
 両機至近距離からの格闘戦となり、たちうおブレードとかまいたちが互いに交錯するが猫ろけっとの機動力は目の前で襲い掛かる斬撃を完璧に回避してみせる。猫ろけっとの反撃は着実にトータス号の装甲を削っていくが、トータス号にすればそれこそ望むところであり開始12分にはSPI機に搭載されている裏AIがレッド・ゾーンを検出した。

「レイ!VM−AX起動!」
「さー。こっからが本番ー」

 トータス号を包む蒼い流星の出力は猫ろけっとの比ではなく、まともに食らえば一撃で身体の半分をこそぎとられる怪物の顎に等しい。目の前で振り回される高エネルギーの塊が一撃、二撃、三撃、四撃と襲い掛かるが、モニター越しに感じられる圧倒的なプレッシャーはとても電脳世界で行われているものとは思えない。Mii3DSも正確な反応で回避を続けているがシステム内のプログラムが切り替わるわずかな一瞬を捕捉される。

「ああーっ、ワンミスー!」

 暴走したかまいたちが猫ろけっとに直撃。一撃の損耗率30パーセントはこの組み合わせではよほど軽いが、恐ろしいのはこれでわずかであれ機体制動が狂うことにある。命綱のないサーカスだからこそそのわずかの狂いが致命的になりかねない。
 続けての空白とすさまじい衝撃。二度目に直撃したかまいたちによる損耗率は45パーセント、あと一撃を受ければ装甲が保ちそうにないが同時に猫ろけっともたちうおブレードを命中させていてトータス号の制動を崩すことに成功していた。絶好の機会、であれば猫ろけっとがすべきことは逆転を狙う攻勢ではなく彼ら本来の完璧な防御に相手を誘い込むことである。命中せずとも機体を揺動させそうなかまいたちの軌跡をぎりぎりで避けながら返しのたちうおブレードを一閃、そこから薙刀の柄を巧みに回転させて突き込む一撃で蒼い流星を振り払った猫ろけっとがデッドラインぎりぎりの勝利を手に入れた。

○猫ろけっとXVB(21分機動停止)トータス号× 10vs-2


VIRTUAL SIRIES BACK II Bブロック第三戦 猫ろけっとXVBvsカツカレー大盛
 Bブロック最後の対戦となる三戦目。猫ろけっとXVBが連勝すればそのまま無傷で決勝進出を確定させるが、カツカレー大盛が勝利すればAブロック同様に三チームの損害状況を比べての判定決着となる。その場合は第一戦で豪快な勝ちを収めているトータス号がやや有利になるかもしれないが、いずれにせよ目の前の勝負に勝たなければ次が無いという事情は変わらない。

「プログラム・起動完了。ステータス・良好。れでぃ」
「難易度調整、猿・人・神・『鬼』でよろしくー!」

 人口知能MiiDSに山本いそべの遠隔指示が入力される。人間が直接操作した方が正確で早いという実に迂遠なシステムだが、クスノテックにとってはそれもまた技術の一環であろう。

 全距離対応しつつも主軸は近距離、超高起動による回避を売りにする猫ろけっとに対してカツカレー大盛は遠距離を主体にした超攻勢機をコンセプトにしている。開始早々の相対距離は猫ろけっと優位の近接戦、反撃の恐れがない距離からたちうおブレードが先制の刃を叩きつけた。
 続けて襲い掛かる刃をかわしながら、距離を離したいカツカレーは目からビームを放つが猫ろけっとは余裕の動きで回避、しらうおバレットを着弾させて再び接近するとたちうおブレードで薙ぎ払う。機体特性を活かしながら相手の隙を容赦なく狙う、理想的な展開で完全にペースを握ると続けて振り回される光フィールドの薙刀が二撃、三撃と叩きつけられてここまで一方的な展開。

「これが目からビームであるッ!」

 唐突に距離を離したカツカレーのコクピット端末で、唐突にプルトニウム伯爵の声が響く。タイミングを合わせて撃ち放たれた目からビームが装甲の薄い猫ろけっとを直撃して派手に吹き飛ばした。損耗率37.5パーセントはSPTにも劣らぬ威力であり、三発命中をさせれば相手を沈黙できる計算になる。優位を得て一気に距離を離したカツカレーは名状しがたき何かを発射、更に目からビームを放つが猫ろけっとはマンボウレーザーにも似た高出力兵器を落ち着いて回避。
 だが猫ろけっとが機体制動を立て直してしまうとカツカレーの反撃もここまで。近接格闘戦に戻されるとたちうおブレードの刃が立て続けに閃いて装甲を確実に削り取っていく。一撃の威力こそ小さいが連続攻撃による損害の蓄積と、何よりも距離を戻せないことによって反撃を封じられての一方的な展開となり、装甲が負荷限界に達したカツカレーは無念の機動停止となる。貫禄を見せた猫ろけっとの決勝戦進出が決定した。

○猫ろけっとXVB(18分機動停止)カツカレー大盛× 25vs-2


VIRTUAL SIRIES BACK II 決勝戦 アナザーバイソン1vs猫ろけっとXVB
photo photo  電脳仮想都市「リンク」の名称はそれほど奇をてらったものではなく、単純に「LIveetwor」の略称となっている。この件に限らず「リンク」は可能な限り簡素であることを念頭に置いた表現が用いられていた。派手な演出はあくまでもそれが営まれている、特定の施設や場所で行われていれば良い。
 VRS競技場はその中でも派手な演出が行われる施設となっているが、入場時に要求される端末機の性能は意外に高くない。その理由は単純にスペックに応じたメニューを揃えているからであり、三次元映像まで備えたリプレイを見ることもできれば、テキストのみのVRS競技結果を受け取ることも可能となっている。一般的に推奨される性能こそ提示されているとはいえ、それに満たないものが参加できないとなれば普遍性を満たすことはできないのだ。

「あ、えーと。あの・・・頑張ります」

 チームのために用意されているコクピット用の端末ブースに足を向けようとしていたゲルフが、奇妙にかしこまった様子を見せているのは同チームに所属しているダルガン・ダンガルに会ったせいである。マックと並ぶバイソンシリーズの正パイロットだが、温厚なマックに比べると無口でヘルメット越しの顔すら見えないダルガンはやはり苦手ということなのだろう。必要最低限に頭を下げて、傍らを通り過ぎるがすれちがいざまに何かを言われたような気がして立ち止まる。あるいは単なる気のせいだったのかもしれない。

(戦いは最後まで気を抜かないこと)

 それが先にザムに言われたことと同じであったのは奇しくもではなく当然のことなのだろう。最後に勝つ者とは誰でもなく、最後まで負けない者なのだ。
 一方で第一回大会からここまで無敗のまま再び決勝戦へと臨むクスノテックでは、おなじみ風呂型端末で山本いそべが最後のチェックを行っている。はっきり言ってしまえばオペレータである彼女のブースがBBS仕様になっている理由も必要もないのだが、Mii3DSが被弾時の衝撃を受ける設計になっているのだから、自分もそれを共有することで少しでも反応速度を合わせることができるかもしれない。

「いや単なる趣味だから」

 そう言ったかどうかは分からないが、決勝戦の組み合わせは第一回大会と同じくバイソンvs猫ろけっと。完全優勝をもくろむクスノテックに対するは新鋭パイロットに雪辱を託すバイソン陣営となる。両チームの、そして大勢の観客のモニターに流れる情報は両機体の状況を事細かに映し出しながら、画面端には競技開始までのタイムカウントが表示されている。すでにコクピット端末には機体がカタパルトを疾走する際の負荷がかけられており、それが一瞬、無重力に転化された瞬間が決勝戦開始の合図となった。

 初弾は中間距離から、バイソン1が撒布するグレネードマインボム・改を当然のようにかいくぐった猫ろけっとがしらうおバレットを命中させて先制する。更に遠距離から放たれるムラクモオロチ・改も意に介さずくぐり抜けるとたちうおブレイカー、射撃戦モードに変形した薙刀の柄から発射される弾頭がバイソン1の装甲を叩く。

「射撃戦は大歓迎ですよ!」
「はい!」

 天才メージの声に反応したゲルフは遠距離戦の維持を優先。移動砲撃で射出したムラクモオロチがMii3DSのわずかなタイムラグを捕らえると、猫ろけっとの無いに等しい装甲に叩きつけられる。不利を悟った猫ろけっとは中間距離から更に待望の近接格闘戦へと移行するが、ここで移動処理を優先したMii3DSに合わせて至近距離からバイソン1のハンディバルカンが放たれる。開始5分間の攻防でバイソン1が優位を確保。
 ようやく体勢を立て直した猫ろけっとは続く攻勢を得意の機動性能で回避しつつ、しらうおバレットで反撃するがチューニングされているらしいバイソン1の装甲を貫ききれずにいる。再び遠距離戦に持ち込まれると、数発たちうおブレイカーを命中させて反撃を図るが効果は薄く、嵐のように襲い掛かるムラクモオロチの光条をかいくぐるので精一杯といった状況。

「絶対に絶対に絶対にぃー」

 いそべの指示にタイムラグを発生させながらもMii3DSは懸命に対応、散発的な攻撃を命中させてわずかに戦況を詰めようとするものの、要所でバイソン1の反撃を受けてしまう。長期戦となって開始20分、アナザーバイソン1のジェネレータ出力が低下するがここまで依然としてバイソン陣営の優位は動いていない。双方の損害状況から見て装甲破壊による機動停止は難しく、残り10分を逃げ切ればバイソン1が勝利となるだろう。一度は至近距離まで詰められたバイソン1だが、メージの指示に忠実に遠距離に離したゲルフはムラクモオロチで牽制、再接近を阻害すべくグレネードマインボムを大量撒布する。だが前後左右上下すべてを敵の砲火に晒されながらも、クスノテックは戦法を変えないし変える訳にはいかない。
 ようやく近接距離まで切り込んだ一瞬にたちうおブレードの軌跡が命中、ハンディバルカンの応射も受けてしまうがわずかに出力に勝った一撃で遂に戦況を五分に戻す。直後に離脱してグレネードマインボムとしらうおバレットが相打ち、残りわずか3分でバイソン1が得意の遠距離に持ち込むとムラクモオロチを一斉射出する。六方向から襲い掛かる光条が立て続けに連射される。

「絶対に負けなぁーい!」

 六十分の一秒の処理タイミングを先読みした、いそべの指示にMii3DSが反応して巧みな機体制動からたちうおブレイカーによる射撃が命中して遂に逆転。残り1分、起死回生を狙って放たれたグレネードマインボムも命中するが、正面から応射したしらうおバレットも着弾して最後の再逆転を許さなかった猫ろけっとXVBが二大会連続制覇を達成した。

○猫ろけっとXVB(30分判定)アナザーバイソン1× 19vs18 ※猫ろけっとXVBが優勝

−結果&短評−

 第一回大会から無敗のまま優勝を果たしたクスノテック。今大会の内容を見ても決して難攻不落の戦いぶりとはいえないが、競り合いでの粘り強さを発揮して勝利を得ている点は見事だろう。また一部チームの敗因として、距離適性が原因で不利を受けている例がある点は見逃せない。苦手間合いを避けるために移動行動が重要になるのは当然だが、相手と自分が同距離で対戦する場合には移動行動自体が隙になるという落とし穴も存在するので注意すること。
 次回大会では大幅な機体や装備の改修は行わないが、イプシロン機の性能が「劣化版で常時発動するVM−AX状態」のようになっているのでこのあたりは調整する予定。更にシステム上の問題として「ガード成功時には反射衛星は作動しない」という点と、「VM−AX発動時にはトラストアップの有無に関わらず性能低下をしない」という特徴があるので要注意(特にガード&反射は強力になりすぎるため)。

−順位−機体名−−−−−−−−−機体−−パイロット−−−−−−−−オペレータ−−−−−−−メカニック−−−−−
 優勝 猫ろけっとXVB    斑鳩  Mii3DS       山本いそべ       山本あんず
 2位 アナザーバイソン1   7楓  ゲルフ・ドック      ジアニ・メージ     ザム・ドック
 3位 トータス号       SP  コルネリオ・スフォルツァ さおり嬢        牧さん
 4位 尖閣防衛超・タコボール イプ  神代進          超能力イルカフリッパー 伝説の船大工源さん
 5位 マイナス        イプ  シャルロット・R・O   アンジェラ・R・O   バーバラ・R・O
 6位 ビーフカレー大盛    イプ  プルトニウム伯爵83世  自称謎のインド人    自称謎のインド人

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