VRS第六回大会-VIRTUAL SIRIES BACK VI-
 電脳都市LIve NetworK、通称「リンク」が一般に普及している多くのプラットフォームと異なっている理由はごく単純なもので、きわめて旧式の通信方法を用いても限定的な参加を可能としている点にある。最新の端末やオペレーティング・システムを用いなければ閲覧どころか接続すらできない、そのような事態を避けるためにリンクでは数段階に分かれた動作環境があらかじめ定義されていた。むろん開発する側にとってそれは相当な負担になるが、国や地域によってはむしろ下位互換されているほど参加者も閲覧者も多くなるために無視できないという事情がある。

 そして最新設備が普及していない開発途上の国ほど「リンク」に積極的に参加するとなれば、それを目当てに参与する企業や団体も対応せざるを得ない。フレーム開発に先行するEU圏や北米、極東アジア等に比べて後発地域にとっては恰好のシミュレーションの舞台であり、しかもこれらの基礎技術はオープンソースとして開示されていた。つまり「リンク」が普及している理由はフレームが普及しているおかげである、といえば身も蓋もない事実ではあるだろう。
 バーチャル・ストライク・バック、VRSはそのフレーム同士が宇宙空間と同様に仮想空間で対決する競技であるが、その経過は最新式の端末機で映像化することもできるし、データ解析されたオールテキストで表示することもできる。ユーザインタフェースとは必ずしも写実的直感的であれば優れているのではなく、むしろ開発者にはコンピュータが用いる言葉に人間が合わせる例も珍しくはなかった。下位互換「リンク」の普及を助けるもう一つの理由である。


VIRTUAL SIRIES BACK VI Aブロック第一戦 アナザーバイソン1 vs オーガイザー
 開発者用のモニタを延々と流れている数字と文字の羅列、それをそのまま読み取ってしまう人間もごくまれには存在する。先の本大会では反射衛星とデルタ・アタックによる100%反撃システムを試験投入したが、距離の壁を越えることができず近接戦闘でたびたび苦杯をなめることになったメガロバイソンプロジェクトの天才ジアニ・メージもその類である。

「失敗は成功のグランドマザーです!」

 と豪語するメージは前回の失敗をふまえ、彼ら本来の全距離対応仕様に戻すことを想定してアナザーバイソン1の再設計を行っていた。機体のテストプレイをあらためてVRSで行い、本戦に備えるつもりでいるのは他のチームを含めても珍しいスタンスではない。一回戦の相手となるオーガイザーも近年、不振が続いており彼ら本来のスタイルを取り戻そうと模索している最中であった。過去の戦績だけを見ればバイソン陣営が優位にあるのは明らかだが、遠距離攻勢機と近接格闘機の激突であり、互いに相手の得意を封じることもできる組み合わせとなれば油断することはできない。
 相対距離はオーガイザーの距離となる近接戦闘から開始、ハンディバルカンの砲門を開いたアナザーバイソン1が至近距離から砲火を撃ち放つが、オーガイザーは再換装した漢の装甲「魂鋼」でこれを弾くとガイ・ブレイカー!の叫びとともに熱い拳が命中する。遠距離攻勢と近接格闘の激突、それは双方のパイロットであるゲルフ・ドックと無頼兄・龍波にとっても事情は同じであり、バイソン1のコクピットにメージの声が飛ぶ。

「ついでに距離を離してください!」
「了解!」

 やけにアバウトに聞こえなくもない指示にも従順に応えるのが、ゲルフの持ち味である。あくまで得意の攻撃スタイルを維持しながらも慎重に後退を図り、中間距離まで下がったところで双門式のデュアルバルカンを発射、これを命中させるがオーガイザーはやはり装甲で弾くと同時にガイ・ブレイザー!の叫びとともに胸板からほとばしる熱線で反撃する。

「燃え尽きるほど燃えるぜ!俺のハート!」
「燃え尽きたらあかんやん」

 にこやかな鬼姉こと紅刃の冷静な罵倒を受け流して、無頼兄も相手に劣らぬ攻勢を継続する。ここまではオーガイザーが対応できる距離であり、彼としては相手にあと一歩の後退を決して許してはならなかった。その事情は当然ゲルフも心得ているが、無理な移動を試みれば的になるだけであり攻撃の中で機会をうかがうのがアナザーバイソン1の戦い方である。
 電脳世界、仮想世界での操縦とはいえパイロットは実際の操縦席を模したブースに着座してそこでは擬似的な衝撃すら再現される。ゲルフも無頼兄もそれらを体感しながら高速で機体を駆り、オペレータは通信回線を通じて彼女たちの指示を送ることになる。ただし規定ではオペレータが機体に同乗することも認められており、オーガイザー陣営の紅刃であれば弟にかかとで物理的な指示を送ることもあるのでこのときも側頭部に指示を受けていたかもしれない。

「(ゴッ)これだ!これが漢の拳だぜ!」

 タイミングを計って機体を加速、接近戦への移行を優先したオーガイザーは、ハンディバルカンの弾幕を正面から浴びながらも怯む色すら見せずに突進してガイ・ブレイカーの拳を命中させた。好機を確信した無頼兄はここで足を止めると竜巻のようなラッシュを敢行、至近距離からの砲火はすべて魂鋼で受けきるつもりで削り合いを挑む。
 大振りの右ストレートで一撃、重い左ボディで一撃、切り返して右フックで一撃。攻勢機だからこそ回避に劣るアナザーバイソン1は弾幕を張って攻勢を止めようとするが、オーガイザーは意に介さずラッシュを繰り返す。無謀にも見えるがこれこそ無頼兄のペースであり、バイソン1がこれを脱するには一切の攻撃を緩めずに距離を離すという難事に成功しなければならなかった。

「まずいです!とてもまずいですよ!」
「やるだけやってみます!」

 メージの警告を正確に理解したゲルフはすぐに反応すると中間距離までの後退を成功させるが、そこで捕捉されるとガイ・ブレイザーの火であぶられてそれ以上の離脱には失敗、デュアルバルカンで反撃するもあと一歩を下がることができず最後は再接近されてガイ・ブレイカーの拳で沈黙させられた。

短評)重装甲と格闘戦装備を選択したオーガイザーはラン&ガンによる近距離確保に成功したことが勝因。逆にバイソン1は全距離対応の超攻勢機だからこそ、距離の取り合いを制することができなかったことが不利に直結した恰好。

○オーガイザー(10分機動停止)アナザーバイソン1× 28vs-3


VIRTUAL SIRIES BACK VI Aブロック第二戦 タコボールアマゾン vs 魔王
 北九州漁協アマゾン支部。大阪名物世界一決定戦なみに指摘したいことがある団体だが、漁場開発計画の一環として設計された深海用タコボールが先のVRS第五回大会で優勝の栄冠を勝ち得たことは今さらだろう。その設計に基づいて開発されたタコボールXはストライク・バック本戦に参加、するではなく本当に深度一万メートルの深海探索に挑戦すると、ダイオウイカの代わりに古代インカの遺構を発見してしまったのも快挙ではあった。

「アマゾンさ」
「アマゾンきゅ」

 その遺構から発掘されたロスト・テクノロジーを投入して設計されたというタコボールアマゾンが今大会に参戦する。やはり色々突っ込みたいところはあるがあくまでストライク・バックの世界観は書いたもん勝ちにして勝てば官軍が基本だった。
 アマゾンらしく野性味あふれるタコボールに対するは新規参戦チーム、だが詳細は不明な点が多く現時点ではチーム名の「ザ・ピット」を含めて最低限登録されたデータと映像しか明らかにされていない。オーストリア系の貴族が後ろ盾になっているらしく、メカニックとしてウォルフガング卿テオドールという人物の名が挙げられている。パイロットはフランツ=ヨハン、同家の傍流に連なるれっきとした貴族で、肖像を見る限りでは戦闘機に乗るより詩吟でも唱えているほうが似合いそうな青年だった。

「フランツにはただ教えた通りやらせれば良い。わかっているな」

 それが仮想世界で行われるとしてもVRSの規定はすべて本戦に準じている。大会中、設営されたブースに立ち入ることができるのはパイロットを例外としてオペレータとメカニックだけであり、ザ・ピットのブースにはウォルフガング卿がただ一人座って通信回線に向けて口を開いていた。おそらくオペレータはパイロットに同乗しているのであろうが、モニタと計器類が並べられた近未来的なブースの一角に中近世的な調度類が置かれている様がアンバランスだった。
 モニタ越しに描かれる映像に、宇宙空間を模した仮想空間に射出された二機のフレームが対峙する。一機はむろん神代進が搭乗するタコボールアマゾン、一機はフランツ=ヨハンが駆るその名も「魔王」である。

「相対座標確定、遠距離砲戦ヲ展開」

 球形の作業用ポッドをベースにしたタコボールに対して、魔王は人型をしているが肩部が不格好に大きく貧弱な胴体がぶら下がっているように見える。不気味に感じないといえば嘘になるが、神代は警戒して様子を見るよりも自分のペースを構築することを選択、先んじて撃ち放ったジャングラーを直撃させる。先制された魔王は反撃の「閃光」を放射するが出力でも装甲でもタコボールが勝る。
 積極攻勢から中間距離に移ったタコボールアマゾンが振り下ろした大切斬で正面から両断、やはりこの一撃も直撃すると魔王は機体制動を大きく崩しながらも射出した「鋼鉄」が弧線を描いて着弾する。神代得意の制圧前進に怯む色すら見せないが、破壊力で劣る事実は認めざるを得ず続けての大切斬も直撃されると一気呵成に攻め立てられる。その様をモニタ越しに遠望して指示を下したのはウォルフガング卿であった。

「よろしい。システムの起動を確認した」

 魔王に搭載されているオペレータAIはヨハン=フランツ。公式にはパイロット自身のパーソナルデータを基に構築した直結式人工知能とされているが、技術としてはフランツの能力そのものを向上させる拡張基板のようなものらしい。未だ試作段階であり、パイロットにかかる負荷が予見できないため緊急時に限定して起動される設計となっていたが、問題があるとすればその起動にVM−AXを利用していることだったろう。
 緊急システムが起動すると魔王のジェレネータにかけられていた制御がすべて解放され、出力が急速にレッドゾーンに到達する。正面で対峙する神代は心中で戦慄しつつ、危険を避けるためあえて虎口に飛び込む決断をすると更なる積極攻勢を敢行、長引く前に勝負を決めなければ一撃で戦況を逆転されかねない。

「沈みたまえ!」

 未だ開始5分、蒼い光をまといながら超速で後退する魔王にタコボールがジャングラーを命中させるが、直撃弾を食らいながらも解放された「閃光」が連続して降り掛かるとタコボールを貫き、一瞬で装甲の三分の一を消し飛ばしてしまう。
 双方が正面から砲火に身を投げ合う激戦、むろんVX−AX発動後の破壊力では魔王が圧倒しているが、先制の利がある神代はわずかすらも退かずに攻勢を強化すると三たび放たれたジャングラーが命中して危険すぎる相手が目覚める前に奈落の底に送り返すことに成功した。ザ・ピットはインパクトのある登場となったものの、ベテランの妙味に封じられる恰好となり敗戦。

短評)内容的にはタコボールが終始圧倒、VM−AX起動後も短期決戦でしとめたため結果以上に安定した実力を見せつけている。にも関わらずここまでのダメージをたたき出す魔王の破壊力は圧巻だが、短時間でのVM−AX起動と発動後の長期戦の実現というSPTの矛盾を克服できるかどうかがカギとなるだろう。

○タコボールアマゾン(7分機動停止)魔王× 7vs-9


VIRTUAL SIRIES BACK VI Bブロック第一戦 MT拾参足す事の15號 vs 双腕仕様機アスタコnoubelle
「スっとライック、バッ・クぅに・出ぇ・るぅ・ゾォ」
「スっとライック、バッ・クぅに・出ぇ・るぅ・ゾォ」
「こん・かいぃ(=今回)は遅刻ぅに・な・ら・な・い・ゾォ」
「こん・かいぃは遅刻ぅに・な・ら・な・い・ゾォ」

「・・・何よ、あれ?」

 前回の大遅刻の反省をふまえた、牛山信行&商店街の有志の皆さんによるパフォーマンスに天宮あてなは苦笑していたが彼女自身もお祭り騒ぎが嫌いというわけではない。若いというより幼いながら、都市型巨大マンションのオーナー役を押し付けられている彼女としては、その立場に不満がなくともお祭り騒ぎが適度な気晴らしになるという事情もある。まして最たるお祭りのストライク・バックでオペレータをするともなれば、牛山に好きな指示ができる立場は人が思うよりもはるかに楽しかった。

「そんな訳で信兄ぃ・出ぇ・るぅ・ぞー!」

 投入する機体はMTことメカタウラス、人身牛頭の近接格闘機だが今大会では更に高出力高機動を追求してかの蝶のように舞い蜂のように刺すスタイルを目指す。近づいて圧倒、逃げたらバッサリぶった切る名付けて太陽の使者鉄人2●号じゃ!とはなぜか今さら老人口調で豪語するメカニック仔羊徳兵衛自信の言葉である。
 その彼らチーム・さんくちゅありと対戦相手になるイハラ技研には奇妙な共通点があった。それはさんくちゅありに仔羊モータースの後ろ盾があるように、技研には手賀沼の雄WDFが勝手にサポートをしているという点だ。今大会でも「どす黒い白」WDF社長が秘密裏に開発した、オペレータとメカニックのツインAI搭載機アスタコnoubelle(ヌーベル)を投入。ぼっちに優しいストライクバックをコンセプトにした超高性能AI仕様機である。

「で、おめーがパイロットか。オレ忙しーから気が向いたら助けてやんよ」
「・・・」

 と、やけに偉そうな自称ピディンと名乗るAIを相手に、仕事中のドカヘル姿で乗せられたのは我らがテムウ・ガルナ。自分ではご用聞きのバイトさんだと思っていたら従業員扱いされていたらしく、勤務時間中の参戦は手当も残業代も出ないことを最近知らされていた気の毒なお兄さんである。近接格闘と遠距離砲戦の対峙はAブロック一回戦と同様、得意距離を手に入れた側が優位な組み合わせとなる。
 開始はテムウ得意の遠距離から、抜き放たれたムーンストライクがメカタウラスに直撃すると超高出力の光の槍が機体を激しく揺動させる。コクピット・ブースで現実と違わぬ衝撃を体感しながら、機先を制された牛山はゼロウイングの時空加速で至近距離に出現、アームド・アームズで殴りかかるが移動攻撃で精度が落ちたところを狙われてダブルスイングで迎撃される。

「信兄ぃ何やってんのー!」

 罵倒しながらあてなもオペレータの仕事を忘れてはいない。相手が全距離対応にしている以上は距離を離されれば不利は当然、近距離でも油断することができないが大型装備を搭載した強みは活かすことができる。つまり作戦自体は正しいから戦況だけを立て直す必要がある、あてな嬢ちゃんの思わぬ指示に牛山はコクピットが空になるような深呼吸をすると、離脱を図ろうとするアスタコに執拗に食らいつきながら両の拳を振り回した。脇をしめたコンパクトな攻撃はフレームだろうが人間だろうが殴り合いの基本であるとばかりタイミングを計って時空加速、近接戦で小刻みなダメージを与え続けて開始10分ほどで戦況を五分近くに戻すことに成功する。

「ったく、オレ忙しいんだから面倒かけさせんなよな」
「ED、僕たち仕事なんだからさ」
「あのー、いいかな?」

 一方でアスタコのコクピットではAI同士が気の合った掛け合いをしていたが、とりあえずパイロットは操縦に集中しなければならない。今回も私を楽しませてくれているかね?というWDF代表の心の声が聞こえてきそうだが、無意味に環境耐性が強いテムウは黙って攻防に集中する。その間もメカタウラスの攻勢は続いており、幸い回避に優れる牛山は攻撃精度が高いとはいえないが、こちらも出力を上げただけ精度が落ちており互いに少ないチャンスをものにしなければならない。
 回避に優れた両者の攻防は膠着状態のまま時間が過ぎて行くが、それでも攻撃の確度で勝るメカタウラスがわずかに優位を保つ。距離を奪い合いながら互いに攻撃が命中しない展開が続き、残り5分を切ったところで決着を狙ったメカタウラスがゼロウイングを発動させると至近距離に出現する。

「悪ー魔が町を狙ってる、僕らーの町ぃを、狙ってるぅー!」
「ハンマーパンチィ」

 突然、コクピットに大音声で流れる太陽の使者のテーマ曲が牛山の鼓膜と心臓をたたく。これぞ仔羊徳兵衛謹製SYO-WAサーキット、パイロットのテンションを無理矢理引き上げる秘密装備であった。神戸市長田区に実物大金属製モデルがあるという鉄人を思わせるハンマーパンチがアスタコを直撃、これで勝負ありかと思わせたが急速離脱したアスタコも外すことができないこの局面でムーンストライクを直撃させる。この展開で戦況は五分のまま、遠距離戦をさせる訳にはいかないメカタウラスがもう一度時空移動を発現させた。

「勝負ッ!」

 至近距離に出現すると同時の交錯はわずかながらアスタコのダブルスイングが命中、これでタイムアップとなりイハラ技研が辛勝する。結果だけを見ればメカタウラスの敗因は要所で受けたムーンストライクの直撃弾にも見えるが、むしろ高出力ながら攻撃精度の低い装備を全距離対応で補ったアスタコに僅差の勝因を求めるべきだろう。

短評)結果でも内容でも僅差となった好勝負。MT28号の強みはゼロウイングを活用して遠距離をなかなか取らせなかった点で、アスタコの勝因はその近距離に配備したダブルスイングのおかげで圧倒されずに済んだ点にあるだろうか。互いに攻撃自体の命中が少なく、その中で偶然1/3ガードが発動しなかったのもMTにはアンラッキーだった(念のためバグではないことを再確認しました)。

○双腕仕様機アスタコnoubelle(30分判定)MT拾参足す事の15號× 10vs9


VIRTUAL SIRIES BACK VI Bブロック第二戦 嵬星Chaos-custom vs ヴィヴィアン
 トーナメント一回戦、残る組み合わせはSSBT清和ストライクバックチームとレギオンによる対戦。先の本大会でSRI白河重工謹製、狂鬼人間を体験したSSBTの一部メンバーは多少、その影響を受けたらしく電脳空間上とはいえ嵬星の機体仕様をややアブノーマルにカスタマイズした模様である。

「相手のSAN値を削っちゃいましょ!」
「いあ!いあ!」

 メカニックのアルシオーネ・ビアズリーとオーナーの清和須売流が声を揃えて奇妙な雄叫びをあげている様子に、灯乃上むつらはどう反応すればよいのかわからない。カオスカスタムをうたう機体設計もなかなか狂気風ではあるが、幸いなことにあちらの岸辺に行ってしまったわけではなさそうで、いつものようにパイロットとしてご主人様のために頑張ればよさそうではあった。設計を見る限り嵬星Chaos-customの機体コンセプトは高機動と特殊装備を活用した変則的な戦闘スタイルだが、これはこれでむつらの操縦能力に期待したバランスであるには違いない。一見わがままオーナーを中心に遊んでいるように見えて実はパイロットを中心にした行動指針が立てられているのがSSBTであり、それを理解しているむつらが従順な理由でもあった。
 一方で年頃の女性としての控えめな従順さから遥か遠くにあるチーム・レギオンだが、三人娘が大会ごとに交替する編成は今回アンジェラ・R・オリヴォーがメインパイロットを務める、過去第三回大会で優勝した組み合わせとなる。

「ヘイ、フレンド・バーバラ。アンジェラのAはエースのAね?」
「それならせいぜいエースの実力を見せなさい」

 冗談としては挑発的な言葉を冗談の通じないオペレータに向けて豪語する、バーバラの反応をおもしろがるようにアンジェラは片眉を上げるが大言壮語は自分にプレッシャーをかけるためでもある。集中力を高めるだけ高めてこそ彼女の真価は発揮されるのであり自信に根拠は必要ない。それをわかっていてなおアンジェラの冗談につきあえないのは、これはもうバーバラの性格というしかないだろう。
 両機カタパルトから射出されると同時に中間距離で対峙、互いに得意とする間合いだが足を止めての激突にはならず、相対距離を保ちながら嵬星は機動力を駆使して相手を翻弄することを図り、ヴィヴィアンはこれを捕捉しての一撃を狙っていた。初弾は双方の攻撃が相打ち、生ける炎とコーリング・アヴァロンが交錯するが破壊力であればヴィヴィアンが圧倒する。

「撃ち合いは駄目って言ったろ!無秩序かつ軽やか(?)に行くぞ」
「いあー!」

 須売流の声にむつらも唱和してみせる。続けて相打ち、だがこれで機体制御を回復した嵬星はコウモリめいて見えるシャンタク鳥の翼を広げると短距離の時空移動を繰り返して相手の狙撃をかわすことに集中する。名状しがたいバールのようなものを懐に構えると側背から一撃してすぐに離脱、索敵視界の外から生ける炎を走らせた。炎の舌が機体を舐める様子にたまらず、メカニックのシャルロットが回線に介入する。

「あーん、ワタシのヴィヴィアンちゃんー!」
「カマビスシイわよ、フレンド・シャルロット!」

 少しはパイロットの心配もしなさいよと、仮想空間内での対戦ながら思ってしまうのはコクピットブースの性能の高さだろう。宇宙空間仕様のフレームのコクピットに外部の熱がわずかでも届くことはありえないが、衝撃は別であり重力も空気抵抗も受けない環境ではわずかな揺れですら敏感に伝わるのだ。

 不規則な動きで襲いかかる嵬星が牽制に繰り出す生ける炎はヴィヴィアンの重装甲にも効果を発揮しており、アンジェラとしては破壊力で押すしかなく灼かれながらもコーリング・アヴァロンの腕を伸ばして捕捉攻撃を狙い続ける。電脳世界であれ宇宙空間の戦闘と同様、モニタの向こうには宙空を飛び交う機体が映し出されていたがその中に嵬星の姿は数瞬も収めることができずにいる。
 八双飛びと称したくなる、むつら本来の動きが戻って来た嵬星は高速機動の中に攻勢を織り交ぜると生ける炎を連続して命中、先制された損害を取り戻すと黄衣の王を放ちこれを着弾、戦況の逆転に成功する。完全にペースを奪われたヴィヴィアンは相手の出現ポイントを予測してコーリング・アヴァロンを命中させるが反撃を回避することができない。先制された不利を挽回してみせた会心の展開に、SSBTのブースは意気上がるがここで気を緩めないようにと須売流から指示が送られた。

「相手さんは出力低下も見えてきたぞ、楽勝楽勝ー」
「須売流さまー!油断禁物ですー!」

 結果としてはパイロットが気を引き締める役には立っている。むろん、アルシオーネがチューニングした機体は出力が低下する素振りもなく長期戦にも充分耐えるだろう。完全に追い詰められたヴィヴィアンはすでに一撃受ければ沈む状態であり、戦況を覆す妙手があるようには見えないがそれでもコクピットブースに座すアンジェラの表情から根拠のない自信が揺らぐ様子はなかった。SSBT側の指示に遅れること数分、レギオンのブースからもオペレータの指示が届く。

「予想曲線、送るわね。追いつけるかは貴女の腕次第」
「待ちくたびれたわ、フレンド・バーバラ。あたしがOBAさんになる前に!」

 どこぞの女王様が気を悪くしそうな台詞に機体を急加速、コーリング・アヴァロンで再捕捉して一撃を命中させると嵬星も急速離脱するが「レギオン」の本領はこの後の攻防にかかっている。アンジェラの攻撃力とシャルロットの重装甲は嵬星に封じられているが、三列目のバーバラが局面を変えれば話は別だった。それを成功させるためには時間を稼ぐこと、開始13分の砲撃を最後にヴィヴィアンの攻勢が衰えると嵬星は優位を保ちながら高速機動を続けるが、5分、6分、7分とそれが続くと相手の真意に気付いた須売流がしまったと声を上げてから送話器を握る。

「やられた!相手さんの目論見は・・・」

 言い終わる前にシャンタク鳥の翼で出現した嵬星に吸い込まれるようにしてコーリング・アヴァロンが直撃、次の瞬間には移動して再出現したその地点を正確に予測した狙撃が命中するとわずか二撃で機動停止。オペレータの計算を駆使した追尾攻撃が完璧に成功してヴィヴィアンが一瞬の逆転劇を演出してみせた。

「演出家の賞はフレンド・バーバラ、あんたに譲るわ」
「あら、演出家の頭文字はBではないのよ」

短評)SSBTの全距離対応とオペレータ&メカニック特性は極めて弱点が少ないセッティングだったが、出力低下してなお逆転できるレギオンの破壊力に不覚を喫する形となった。一方でレギオン三人娘の組み合わせは弱点と同時に、はまると非常に強力になる可能性があるかもしれない。

○ヴィヴィアン(22分機動停止)嵬星× 3vs-6


VIRTUAL SIRIES BACK VI Aブロック準決勝 オーガイザー vs タコボールアマゾン
 Aブロック準決勝は一回戦で本来の彼ららしい近接格闘戦を披露したオーガイザーと、SPT機を相手に派手な短期決戦による削り合いを見せたタコボールが激突。圧倒攻勢に優れる北九州漁協を相手に宇宙(そら)駆けるサムライこと無頼兄も積極的なラン&ガンで挑むつもりでいるはずであったが開始早々、近距離で対峙した両者はめずらしく攻勢を躊躇する。互いに相手の出方をうかがうつもりでいたのか、珍しいお見合い状態に石を投げたのは北九州漁協のサイボーグイルカフリッパーであった。

「殴り合うキュね?」
「もちろんさ」

 一瞬早く、機体制御を回復したタコボールがギギの腕輪を叩き付けると、機先を制されたオーガイザーも彼のあるべき姿を取り戻してガイ・ブレイカーで反撃。これは相打ちとなるが握った拳の熱さと装甲の厚さでオーガイザーの男は北九州の海の男に決して劣るものではない。自然に流れるように中間距離まで離れたところで、男の機体に装備されているべき胸の放熱板が灼熱する。

「ガイ・ブレイザー!!」

 たぎる炎が男の胸板からほとばしると、タコボールもこんがり灼かれながら怯む色すらも見せず大切斬を振り下ろす。ここまでは両機ともほぼ互角の展開で、正面からの削り合いを演じているが手数でわずかにタコボール、装甲でわずかにオーガイザーが優位に立っている。そのまま中間距離を飛び交う炎に互いが空を切らせると、やはり申し合わせたように互いが足を止めて紅蓮の炎が一方をあぶり一方にたたきつけられる。申し合わせたように息の合った攻撃と防御が繰り返されつつ、再びガイブレイザーと大切斬が相打ちとなるがこうなれば小細工を使う余地もなく、そもそも小細工など使うつもりがないのが無頼兄・龍波だった。

「行くぜ!ガァイ・ブレイカー!』

 叫ばなければ気が済まないのではなく、魂のほとばしりが口から漏れ出ているだけである。迎撃覚悟で一息に突進、一瞬で至近距離の更に内側まで飛び込んだオーがイザーの重い拳が突き刺さると、さすがにこれを嫌ったタコボールが離脱を図るが振り下ろされた大切斬を避けずに魂鋼に受け止めさせると男の拳を固く強く握りしめた。

「そしてッ!グアアアアアイ(ぶちっ)」

 耳から血が吹き出そうな突進、迎撃するタコボールの攻撃を食らいながら握力×体重×スピード=破壊力の方程式に従う大振りの一撃が装甲ごと貫いて勝負あり。攻撃と防御が奇妙なほどに噛み合った攻防はタコボールを串焼きタコボールにしたオーガイザーが堂々の決勝進出を決めた。

短評)タコボールのセッティングは堅牢にして強力と手がつけられないが、オーガイザーの格闘能力は近距離であればこれを上回ることができていた。中間距離ではタコボールに優位を取られながらもガイ・ブレイザーで確実に装甲を削り、近距離戦に持ち込めたことが勝負の分かれ目となったか。

○オーガイザー(12分機動停止)タコボールアマゾン× 9vs-1


VIRTUAL SIRIES BACK VI Bブロック準決勝 双腕仕様機アスタコnoubelle vs ヴィヴィアン
 準決勝残る一戦はいずれも一回戦を僅差で突破したイハラ技研とチーム・レギオンが激突。どちらも高い攻撃力を持つ機体であり、攻撃の安定度ではレギオンが勝っているがアスタコに搭載された主砲ムーンストライクは一撃で戦況を覆す破壊力を持っている。
 初撃はそのアスタコに搭乗するテムウ・ガルナの真骨頂たる遠距離砲戦から開始。ヴィヴィアンが湖底に誘うハンド・フロム・ザ・レイクを伸ばせばアスタコはムーンストライクを解き放って互いに命中、相打ちであれば一撃の破壊力でアスタコが圧倒するがヴィヴィアンは二撃目の砲火も命中させて先制を許さない。

「一撃で敵わないなら二撃返すべきよね、アンダスタン?」

 コクピット・ブースを激しく揺らされながら、心中の怯みなど微塵も感じさせない陽気な声を上げるアンジェラだが、これに対峙するテムウもこれはこれでプレッシャーには無縁の存在であった。なにしろWDFが勝手に任命したテストパイロットとして、数々の「おもしろ耐性試験」を無理矢理体験させられてきた彼は多少のことでは動じない。サハラの猛暑とシベリアの酷寒にも、コクピット内にハトを放たれても背後から美女のバストを頭に乗せられても「動じなかった」のがテムウ・ガルナなのだ。
 ザリガニを思わせるアスタコの双腕からレーザーが発生すると、互いに収束現象を引き起こして超高密度の光条が生み出される。ムーンストライクの原理はロックオン・レーザーを同一座標に重ねて放つのと理屈的には変わらず、複数の光エネルギーを一本に集中することで破壊力が増大する。それも確実に、だ。

「とはいえテメーじゃ当てらんねえだろうから手伝ってやんよ」
「ED、またそういう・・・」
「もしもーし、撃ちますよー」

 どうやらAI同士がパイロットを無視してかけあいをするのが今回の仕様らしい。別にテムウ自身はひとりぼっちとも友達がいないとも思っていないが、あくまで無視されるのもなんとなく腹が立つのでつきあってあげているだけで、たとえAIが相手でも話し相手がいるのは楽しいよねとか、そんな寂しいことは決して思っていなかった。
 とはいえこんな奴らが放つムーンストライクが命中、しかも続けての砲撃も直撃して、わずか五分に満たない時間でヴィヴィアンは早くも機動停止寸前まで追い込まれる。遠距離戦では破壊力において圧倒的にアスタコが有利、ならばアンジェラに考えられる選択肢は女王譲りの中間距離に持ち込んで優位を取り返すことのはずだが、それは決して彼女らしい選択肢ではない。

「頬を張られて、張り返さないなんてありえないわ!」
「好きになさいな。ディア・マイ・フレンド」

 パイロットの無謀を揶揄するようなオペレータの返答、だが彼女たちなりに戦況はわきまえている。圧倒的に不利な状況でまず距離移動を図ったところで隙にしかならないし、相手もそれを予測して狙撃するに違いない。ならば危険を承知でアンジェラの攻撃精度に賭けて戦況を引き戻す、それを守るのはシャルロットの重装甲とバーバラの攻撃予測である。
 あえて留まった遠距離でハンド・フロム・ザ・レイクが伸びると、不規則な軌跡を描く弾頭が吸い込まれるようにアスタコに直撃。ヴィヴィアンの破壊力も決して低くはなく、攻撃力で圧倒されても相手の命中精度が低いこの距離に活路を求めるのがレギオンの狙いだった。アスタコのツインAIもパイロットを罵倒&たしなめながらとどめの一撃を狙うが命中せず、アンジェラの攻撃が突き刺さると高出力の一撃に装甲を貫かれて無念の機動停止。一回戦に続く逆転劇を演じてみせた「レギオン」が決勝戦残り一枠を確定させた。

「言ったわよね?一発殴られたら、平手打ちは二発お返しするのよ」

短評)展開は逆転劇となったが内容としてはヴィヴィアンが優勢、むしろ先行されたものの安定した攻撃精度で挽回してみせた恰好になる。アスタコは善戦したものの及ばずという結果だが、弱点となったのは高出力ならではの命中精度の低さなのでこれを克服するか、あるいは長期戦に持ち込むことで一撃を狙う手もあるか。

○ヴィヴィアン(9分機動停止)双腕仕様機アスタコnoubelle× 7vs0


VIRTUAL SIRIES BACK VI 決勝戦 オーガイザー vs ヴィヴィアン
photo photo  電脳都市「リンク」にアクセス、個人認識を行った後に接続地域が端末情報から判別されると拠点ポイントの一つであるロビーにパペットの姿が出現する。仮想世界と現実世界で特に異なる点があるとすれば、いわゆる自宅に該当する場所が存在しないことだがパペットがそれを兼ねていればそれは必要ない。例えば荷物を送るだけでも自宅ではなくパペットに宛てればよく、受け取れば部屋でも倉庫でもなくポケットにいくらでもしまうことができるのだから。
 パペットは彼のポケットにしのばせているメモ書きを見て、ストライク・バックが開催される競技場へのアクセス方法を知ることができる。移動自体に時間はかからず、選べば目の前に扉が現れてそれをくぐればそこは競技場の目の前だが、時間に余裕がある者であれば指定された時間まで「周囲をぶらつく」ことによって無作為な広告や商品を眺めることも可能だった。

 このような操作は下位端末ではただのテキストメニューとして表示されるし、そうでなければ実際の町や人を模した仮想空間の中に描かれる。映像は実像をトレスすることもあるがたいていは画像が用いられて、それは究極のところごく近い過去に人が想像した映画やコミックから着想を得たものと異ならなかった。SF小説であれば「次元扉が出現した」とだけ描写されていたシステムがこの世界では実現しており、そしてごく近い過去に人が想像した、汎用人型兵器による対戦格闘競技も今は「ストライク・バック」として実現すると電脳世界で繰り広げられるようになっていた。

「魂鋼!やっぱり俺の真の相棒はオマエだな」
「お友達がいない子は不憫やねー」

 コクピット・ブースでうそぶく無頼兄の言葉に紅刃が茶々を入れている。バーチャル・ストライク・バック第六回大会。仮想空間上であれば開発コストを大幅に削減できる事情もあって、本戦を前にプロトタイプ機やテストチームが導入されることも多く大会の立ち位置としては前哨戦的な印象もないわけではない。だがシミュレータとしての実現性が極めて高く、メンバーが用いる端末用ブースも現物と違わず、モニタ越しに宇宙空間で行われていた戦いが電脳空間で行われるだけの違いであれば参戦する人間の感覚として現実と変わることは何もなかった。
 Aブロックを勝ち上がったオーガイザーは彼ら本来のスタイル、重装甲に任せて被弾覚悟で前進、格闘戦に持ち込むラン&ガンを発揮して久々の決勝戦への登場。対してBブロックを生き残ったヴィヴィアンは攻撃的なパイロットをオペレータとメカニックが支えるスタイルで二度の逆転劇を演出していた。

「あたしたちは強い。負けるわけがない、なぜならば?」
「ビコーズ、私たちは強いから、よね」

 アンジェラの言いたいことがわかってきたのか、彼女らしくもなく笑いながらバーバラが答えてみせる。強い自分の姿を想像してそれを再現してみせる、イメージトレーニングの基本であり決して冗談でもふざけているわけでもない。そして冗談でもふざけているのでもない事柄であればバーバラは理解できる、なんて堅物だろうかと心中舌を出しているのはパイロットのアンジェラではなく機体の最終調整を行っていたシャルロットであった。

「ハーイ、フレンドA&B。ヴィヴィアンちゃんのご機嫌は最高よ」

 ことさらにふざけた呼び方をするのは嫌がらせの意味があったかもしれない。アンジェラの攻撃センスとバーバラの緻密な計算で決勝まで勝ち進んできた彼女たちだが、シャルロットの機体設計がそれを支えていることもまた疑いない。にも関わらず彼女への注目が薄いことは不条理だと思いながら、いざ自分がパイロットやオペレータの立場になれば他人への評価など顧みもしないのが彼女の性格である。
 両機の整備とカタパルトへの搭載はすでに完了していた。どちらも攻撃主体の重装甲機だがオーガイザーはより装甲を活かした格闘戦への依存度が高く、ヴィヴィアンは連続攻撃を図りながら相手の反撃を封じることを理想とする。言い換えるならば無頼兄の好みは殴られながら殴り返す男の戦いであり、アンジェラの理想は一方的に殴り倒せばそれで構わなかった。

「レッツ・バトル・ザ・マン!」
「あーはいはい」

 紅刃が適当にあしらう中、タイプの異なる攻勢機同士による決勝戦はオーガイザーが得意とする近接格闘戦から開始する。この距離であれば防御力でも破壊力でも、むろん男でも無頼兄がはるかに勝っておりヴィヴィアンのキス・オブ・レディを無骨な重装甲で受け止めたオーガイザーが握りしめたガイ・ブレイカーの拳を叩き付けた。ヴィヴィアンとしては得意の中間距離に持ち込みたいが、先の準決勝と同様一方的に殴られて礼をしないのはアンジェラの好みではない。
 あえて至近距離に足を止めるとキス・オブ・レディを命中させるが、格闘専門機のオーガイザーを相手にこの距離にとどまることは自殺行為以外の何ものでもない。今さらのように後退を図るヴィヴィアンに、ラン&ガンの見本ともいうべき積極的な加速攻撃で再び距離を詰めたオーガイザーがガイ・ブレイカーを直撃、やはりキス・オブ・レディと相打ちになるがこの展開であれば無頼兄の望むところであった。ヴィヴィアンのコクピット・ブースにオペレータからの警告が響く。

「フレンド・アンジェラ、貴方のプライドはまだ有効かしら?」
「わかってるわよ。負ければ泥、冠は一つしかないのよね!」

 改めて中間距離に後退、コーリング・アヴァロンを命中させるとガイ・ブレイザーの反撃を受けながら構わず攻勢を継続する。破壊力であれば依然としてオーガイザーが勝っているが、アンジェラの狙いは優勢な相手が得意のラン&ガンを再び仕掛ける、そのタイミングを予測することにこそあった。

「突撃!ガアアアアアイ」
「シュート・ヒム!」

 中間距離から格闘戦に戻す、今大会のオーガイザーの強さを支えた積極攻勢に出る瞬間を狙ったヴィヴィアンが至近距離からキス・オブ・レディを叩き付ける。無頼兄であればこれを避けるはずもなく、正面から突破して撃破を図るがアンジェラはこれがラストプレイとばかり足を止めると攻撃を全開した。
 鬼神の勢いで振りかざされるガイ・ブレイカーを避けるではなく砲火で受け止めると、両者最後の一撃が双方同時に解き放たれて双方同時に着弾した。攻防が終結した一瞬後、沈黙した敗者からゆっくりと離脱したのはヴィヴィアン。レギオンがトーナメント三戦をすべて逆転勝利で飾りチーム二度目の優勝を獲得した。

「もう一度言えるわね。あたしのAはエースのAなのよ」

○ヴィヴィアン(13分機動停止)オーガイザー× 12vs-2 ※ヴィヴィアンが優勝

−結果&総評−

 今大会では高出力機イプシロンが多く投入されていて、攻撃力の高さを示してか短期決着が目立っています。一方でバランスに難があり、特に攻撃の命中精度が下がる点がカギになる機体ですが優勝したヴィヴィアンはその点をうまく克服していた点が勝敗につながったかもしれません。
 ドラグーン機では準優勝となったオーガイザーが近接格闘機の見本ともいうべきスタイルで復活、近距離での強さと近距離を得る方法がうまく機能して相手にほとんど遠距離を与えることがありませんでした。このあたりドラグーンはバランスが取りやすいと思います。近接機で別スタイルを模索するメカタウラスは一回戦敗退でしたが、結果は完全に運次第という内容なのでトーナメントに泣かされた感もあります。ただし守備力に優れる格闘機というスタイルで、攻撃力をどう補うかまたは防御力を更に高めるかは要検討かもしれません。

 一点特化型は当然弱点ができますのでそれがフォローできないと苦手な相手に完敗する危険が常にあります。基本的にストライク・バックには無敵のセッティングが存在しない、と考えた上で完璧なスタイルを探すよりも自分のスタイルを磨くことを追求したほうがよいかと思います。

−順位−機体名−−−−−−−−−−−機体−−パイロット−−−−−オペレータ−−−−−−−−−メカニック−−−−−−−−−
 優勝 ヴィヴィアン        イプ  アンジェラ・R・O バーバラ・R・O      シャルロット・R・O
 2位 オーガイザー        ドラ  無頼兄・龍波    AI・鬼刃         紅刃・龍波
 3位 タコボールアマゾン     イプ  神代進       サイボーグイルカフリッパー 伝説の船大工源さん
 3位 双腕仕様機アスタコヌーベル イプ  テムウ・ガルナ   EDシステム        HFシステム
 5位 アナザーバイソン1     イプ  ゲルフ・ドック   ジアニ・メージ       ザム・ドック
 5位 MT拾参足す事の15號   イプ  牛山信行      天宮あてな         仔羊徳兵衛
 5位 嵬星カオスーカスタム    ドラ  灯乃上むつら    清和須売流         アルシオーネ・ビアズリー
 5位 魔王            SP  フランツ=ヨハン  ヨハン=フランツ      ウォルフガング卿

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