VRS第七回大会-VIRTUAL STRIKE BACK VII-
 電脳都市LIve NetworK、通称「リンク」の普及は一般よりもむしろ企業と研究機関を対象に行われている。汎用的な環境で共有することができる汎用的な仮想空間、商業的な要求にはついでに応えているが、その主軸はあくまで宇宙進出に向けた研究開発用のプラットフォームを提供することにある。大型構造言語「シータ」や人工知能基盤「アルファ」との親和性が極めて高い一方で、簡単な映像表現にすら劣るのがリンクであり、一般の端末ではリンクを翻訳して演出を加えるソフトウェアが多々出回っている。

 バーチャル・ストライクバックVRSはどうであったか。複雑にシミュレートされている筈の人型汎用機の行動計算をリンクは容易に実現してみせる。それがどのような演算で成り立っているか、現状ではまだ開発者の脳を切り開かない限り理解することはできず、そのような例はこの世界で珍しいことではない。必要に応じて産み落とされた偶然であれば、それは必然と変わらないのだから。


VIRTUAL STRIKE BACK VII Aブロック第一戦 アナザーバイソン1 vs MT拾参號リメイク
 もともとはフレーム開発者が情報を共有するために、リンクを利用したシミュレーションを構築したのがVRS開催のきっかけである。スポンサーや賞金も本大会とは比べ物にならないが参加に必要なコストも知れているから、よりハードルは低くなり実験的な装備や機体が投入される例も珍しくない。初戦はメガロバイソンプロジェクトとチーム・さんくちゅあり、双方が高出力機イプシロンによる対戦となるが機体コンセプトは正反対といえるほど異なっている。

「設定はこれでOKだ。癖のある装備だが、命中補正はメージに任せればいい」
「はい。でも腕が四本あるのは、どうも慣れませんね」

 すっかりトレーナー役が板に着いているマック直々の指導にゲルフ・ドックも恐縮する。パイロットとしては強引でミスが多い自分より、技量でも経験でもマックのほうが遥かに熟達しているとゲルフは本気で考えていた。パイロット以外に能がないから逆に出番があるのかとも思ってしまうが、ミスを承知の思いきりの良さが彼の魅力であることはゲルフ以外の皆が知っている。

「うしー!勝率が低い!」
「ストレートだな、お嬢」
「オーナー企業でもスポンサーはいるの、信兄ぃの戦績だってちくちく言われるのよ」

 一方さんくちゅありでは牛山信行に天宮あてなが奮起を促しているが、高出力機に守備の固い牛山を乗せた「蝶のように牛のように刺す」スタイルは彼ら独自のものである。堅牢さは充分だが決定力に欠けるのが課題となっていて、安定はしているが地味でスポンサー受けが悪いのをあてなが対外的にフォローしていたりした。彼女曰く、これでも信兄ぃは優秀ではあるのだ。
 遠距離攻勢機のアナザーバイソンと近距離防御型のMT拾参號リメイク。同系機を真逆のコンセプトで仕上げたある意味注目の対決は近接戦で開始するが、全距離対応がないMTは最低限この距離で食らいつかなければそもそも勝負にならない。格闘戦でなお前進を試みる相手にバイソンは応戦しながら後退を図るが弾幕をかわしながらMTが再び接近、アームドアームズで一撃を命中させて先制攻撃に成功する。

「殴り合い上等!背中の腕で殴るイメージです!」
「???」

 バイソンプロジェクトのオペレータブースに響くメージの感性的すぎる指示はともかく、両腕に携えたバルカンで交互に牽制しつつ遠距離まで離したところで背中に装填されている射出式の拳が撃ち放たれた。これが今回の主力装備となるアウトレンジブロー、二発とも直撃させると無理矢理接近を図るMTを弾幕で止め、もう一度後退して再び射出される拳を命中させる。一撃は装甲で弾かれたが、ここまで開始10分でほぼ一方的な展開。

「大丈夫!信兄ぃは究極的には無敵になれる!」
「頼もしいことを言ってくれる!」

 あてなの叱咤を受けていっそためらわずに突進したMTが至近距離でアームドアームズを命中、反撃を受けたバイソンは得意距離に戻すよりも圧倒的優位の戦況を活かした削り合いを選択する。相手は攻撃力も装甲も勝るがすでに機動停止寸前、攻勢機のアナザーバイソンならば強引な攻撃で沈めるのが彼らのあるべき姿だろう。
 完全に足を止めて至近距離からハンディバルカンを連射、だが彼らにも誤算が二つあった。一つはイプシロン機の命中精度の低さ、もう一つは対峙する牛山のパイロットとしての腕であり致命となる有効打を弾きながら待望の至近距離であればとためらいのない攻撃、だがバイソンも今さら退くことはできない。

「どうせ器用に逃げるなんてできません!砕けて当たりますよー!」
「砕けるの前提!?」

 彼ららしい攻勢を仕掛けたアナザーバイソンだが、あと一撃、最後の決定打を最後まで入れることができず近接格闘戦に屈すると機動停止。MT拾参號リメイクがまさかの逆転勝利を演出してみせた。

短評)遠距離砲戦メインながら全距離対応ができるバイソン、とはいえ近接戦でのMT拾参號の強さは圧倒的で距離の奪い合いがポイントになった。僅差で苦杯を飲んだバイソンの敗因は近接戦で命中精度が低く、削り合いに持ち込めなかったことか。

○MT拾参號リメイク(18分機動停止)アナザーバイソン1× 6vs-2


VIRTUAL STRIKE BACK VII Aブロック第二戦 タコボールストロンガー vs ねころけっとBLK
 いかん締切がーと叫びながら、登録期限ぎりぎり(註.本当はオーバーしてます)に端末機を相手に激打北斗の拳なみの高速入力をしているのはもちろん山本いそべである。最近妹のあんずが成長期で色ぽくなってきたり、どこぞのOBAさんでさえ浮いた話があるのに納得いかーん!と思いつつ今日も今日とて仕事一筋職人気質の俺は社長で女子高生だった。
 今大会参戦するTeamKK謹製ねころけっとBLKは認可ぎりぎりの最小設計に挑戦、ということで外せる物をすべて外してコクピットに猫っぽい脚がついた幼児体型デザインがいっそ機能的に見えなくもない。超軽量超高機動、かつこの脚で障害物を蹴って宇宙空間を転身する仕様であり完成すればデブリを避けるどころか足場に使うことができるシステムである。相変わらず装甲なし、通称「紙」はいつも通りの設計だ。

「シンプルなデザインならこちらも負けていないさ」
「タコでカブトムシだキュ」

 事前公表される機体情報を照会しながら、うそぶいてみせる神代進と北九州漁協の恐ろしさは彼らが自分のスタイルを保持しつつ平然と機体を更新してみせる、あくなき挑戦者精神にあるかもしれない。今大会でも先のアマゾン開発中に発見した電気ウナギを動力とするエコロジーなボール、ストロンガーを投入しているがこれでも高電圧800Vの再生可能ダイナモだ。

 タコボールはひたすら攻める、対するねころけっとはひたすら守りながら隙を窺うのがスタイルだが防御主体機は抜き撃ちの不利を補うために武装は高性能でなければならず、左腕に装填したぶるーまるちぽーが鍵になるだろう。対戦開始、遠距離から襲いかかるカブトローサンダーを軽快にかわしつつ砲弾を撃ち放すがはずれ、だが避けつづけて撃ちつづけるのが彼らの真骨頂であり三度目のトライで一撃を命中させる。

「よけたらガラ空きのアゴを殴るー!」
「指示が曖昧です、れでぃ」

 パッド操作を確立するためにいそべがオペレートして人工知能Mii4が操縦を担当するのが昨今の彼らのスタイルである。多弾頭で襲いかかるタコボールのカブトローサンダーは一撃の出力が低く、連続被弾しなければ恐れるに値せずねころけっとに連続で被弾させることが至難の業なのだ。タコボールもまるちぽーを確実に弾いてペースを握らせずにいるが、ここまで膠着しつつねころけっとの優位は変わらない。双方のコクピットブースで双方のパイロットが呟く。

「このまま終わんないねー」
「ここままでは終わらないな」

 開始8分、戦況が急転する。遠距離を保持したまま双方が思い切った撃ち合い、互いに命中被弾してわずか二度の攻防で互いの装甲を激しく削る。装甲は薄いが高威力の兵器も積んでいるねころけっとが依然として優位、だが緊急モードが発動したタコボールはここで超電子ダイナモが起動してチャージアップする。

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶさ」
「悪を倒せとイルカを呼ぶキュね」

 今大会はSPT仕様のタコボール、VMーAX発動による超加速と同時に放たれた電キックがねころけっとを直撃する。れっどまるちぽーの熱線で迎撃こそ成功するが、この一撃で双方が機動停止寸前。時間は半分以上残されて逃げ切れるとは思えず、攻勢機のタコボールは当然のようにカブトローサンダーを一斉射出した。
 今度は当たれば一撃死となる雷撃の雨が降り注ぐが、すべて避けなければならない砲火ならすべて避けるのがねころけっとである。入神の技量で回避と同時に反撃、ぶるーまるちぽーの一撃は弾かれるがもう一撃を命中させてこれでタコボールストロンガーが沈黙、TeamKKが難敵を撃破して一回戦を突破した。

短評)最大回避力でも100%にならない、だからすべて避けるのではなくいざとなればすべて避ける、その上で攻撃力も上げるという難題へのTeamKKらしい回答。タコボールの誤算は反射システムを積んだ近距離戦でねころけっとが非武装だったため、コスト1だけ装備が活かせなかったこともあるだろう。

○ねころけっとBLK(17分起動停止)タコボールストロンガー× 9vs-2


VIRTUAL STRIKE BACK VII Bブロック第一戦 魔王 vs モイライ
 魔王の対戦相手が運命を司る三女神モイライとは気がきいているかもしれず、あるいは対戦カードとしては皮肉がきいているのかもしれない。スタイルに応じて三人がポジションを入れ替わる、チーム・レギオンらしい機体は今大会、スナイピングに優れたバーバラ・R・オリヴォーがパイロットとして搭乗する。

「フレンド・シャルロット。対戦相手の資料は見たかしら」
「あのパイロット?気弱と根暗を絵に描いたような奴に見えたわね」
「いえ、そういう話ではなくて」

 呑気に評しているオペレータに呆れそうになるが言葉を止める。シャルロットの評価には彼女も全く同感だが、先の本大会ではあれが博打要素の強いSPT機を操っており「気弱と根暗を絵に描いたような奴」にそんなことが可能なのか。いずれにせよ侮ってよい相手には思えない。
 だが開始早々、バーバラの警戒心は疑念を含んだ当惑に変わる。中間距離を狙う魔王に対してモイライは落ちついて距離を離しながらアトロポスを命中させると、これを嫌って近づいたところを待ち構えてラケシスをお見舞いする。高出力砲での迎撃を受けて明らかに怯んだ魔王ともう一度距離をとってすかさずアトロポスを命中、戦い慣れていない相手を完全に手玉にとってみせる。

「なにコイツ?こんなチキンに怯えても意味ないわ、一気に沈めましょ!」
「同感ね」

 短時間で一方的に決める、それがSPT対策の基本のひとつでありこの相手と展開ならそれができる筈である。再びラケシスを命中させてほぼ一方的な展開のまま魔王の損害率が50%を突破、ここまで開始からわずか7分しか経っていない。魔王のコクピットで緊急モードが発動、目を覚ました直結式人工知能「ヨハン」がパイロットの口を借りて不平の言葉を並べ立てる。

「やれやれ、フランツがあまり無能で嫌になるね」

 無理な距離確保に固執せず、狙撃を図るモイライに先手を打って白金を命中させた魔王がセンサーから逃れると同時に相対座標の再計算を開始する。計算しながら移動、相手を捕捉して解き放った鋼鉄を命中させるが序盤の不利はこの程度で覆らず、削り合いに持ち込まれることを避けながら効果的な反撃方法を構築しなければならない。それは難事には違いなく、フランツには無理だがヨハンには可能だった。
 緊急モード発動と同時に明らかに動きが変わった魔王を相手に、わずかに戸惑いを隠せずにいるコクピットのバーバラにメカニックのアンジェラから警告じみた通信が入る。相手の状況ではなく、自分の機体であれば彼女が一番理解している。

「フレンド・バーバラ!さっきの遠距離砲、女神の衣では受けきれないわよ」
「了解したわ。速攻あるのみ」

 応じるバーバラだが、魔王のパイロットは追い詰められたことを自覚した上で正確な予測と回避を試みそれを実現しているのが分かる。凡人がなし得る動きではなく、かつパイロットの技量とオペレータの支援が高レベルで咬み合わなければこのような芸当などできるはずがない、だが先ほどまでと同じパイロットにそれができる理由が理解できない。

「こいつ、いったい、どういう・・・」

 遠距離でも中間距離でも、確実にモイライの砲撃を避ける魔王を捕捉できないまま白金を受けたところに追撃となる鋼鉄を被弾、思わず後退したところを完璧に捕捉されていることがコクピットから理解できる。序盤の攻防、それを攻守ところを変えて再現されたことに気づいたバーバラの背筋に悪寒が走り、見えるはずがない魔王のコクピットで浮かべているパイロットの笑みが彼女の目に映る。

「残念だったね。さようなら・・・Feuer!」

 最後は白金の連続砲火を受けたモイライが機動停止。序盤に圧倒しながら緊急モード後にたたみかけることができず、前回優勝のチーム・レギオンが無念の一回戦敗退となった。

短評)速攻から押し切ることができなかったモイライと、逆に速攻を受けながら押し切られず相手の得意距離に対応してみせた魔王で明暗が分かれた恰好。モイライはパイロット特性で補ってなおイプシロン機の命中精度の低さに泣かされたか、あるいは多弾頭砲撃を避ける何らかの手だてが欲しかったか。

○魔王(19分機動停止)モイライ× 10vs-2


VIRTUAL STRIKE BACK VII Bブロック第二戦 嵬星S(スナイパータイプ) vs オーガイザー
 仮想空間上で行われている以上、機体の操縦やオペレーションなどは本物を再現したシミュレータ・ブースで行うが、一般的な登録作業などはありきたりな端末機を使って入力すればそれで済んでしまう。例えば今大会から追加されたチーム名の登録などもそういった作業の一つである。汎用的なモニタを前にして、深刻そうな顔で曲げた指をあごに当てていた無頼兄・龍波がぼそりと呟いた。

「超・左武来亞威(スーパー・サムラーイ)でどうだろうか」
「そんなんチーム龍波でいいですえ」

 そのようなことについ頭を悩ませてしまうのは無頼兄らしい男の児戯というものだが、姉の紅刃にすればくだらないと断じる類のことでしかない。本来の格闘仕様に原点回帰以降、まだまだ課題はあるが復調のきざしが見えているオーガイザーのセッティングを考えることはチーム名なんかよりもはるかに重要なはずだった。
 一般的なイメージとは反するかもしれないが、オーガイザーは格闘戦に限定すれば極めてバランスに優れた機体であり攻撃にも防御にも機動性にも優れて穴らしい穴がない。つまりストロングポイントがないのではなく格闘戦そのものがそれなのだが、では格闘戦以外でどう戦うか、今回スナイパータイプを堂々とうたう相手にそれを証明せねばならないが解決法は一つではない。そしてそれは相手にも同じことが言えた。

「江洲江洲美意亭(えすえすびいてい)とか面白いかな」
「あたま悪すぎます」

 清和ストライクバックチーム、SSBTが用意した機体は嵬星Sスナイパータイプ、遠距離からの狙撃を主体にしつつ、格闘戦でもしのげるように装備を揃えており離れるまではじっと我慢の子という先方になるだろう。オーナー兼オペレータである清和須売流の丁寧な説明と指示にパイロットの灯乃上むつらも従順に頷いているが、この従順な素直さこそ彼女の売りだった。素直だからこそ応用力が高い、単に不純な動機で彼女を選んでいるのではなく不純なのは半分だけだった。

「世紀末ぱわーどとるーぱー?なんか操縦系がしっくりこないですー」
「まーあ本職ではないけどさ、100回は練習したから行ける行ける」

 正確には98回だがそれはそれとして、本来軽快な動きが得意なパイロットに大型高出力砲を携えての狙撃をさせようというのだからチャレンジなのは承知していた。
 開始と同時にオーガイザーが突進、機先を制された嵬星Sは倶利伽羅の太刀を抜いて迎撃しつつ、まずは格闘戦から離脱する隙を探さなければならない。武者じみた外見の嵬星と長髪を輝かせるオーガイザーの対峙は互いに様になる絵だが、格闘専用機のプレッシャーはすさまじく余裕などとてもあるものではない。

「ガァイ・ブレイカー!」

 男らしい圧倒攻勢、押されながら相撃ちの太刀を確実に入れるむつらのセンスは流石だが、格闘戦では性能に差がありすぎて勝負にならない。もう一撃を受けたところで自然な流れで後退、距離を離すと散布機雷の火宅の影に隠れながら雲耀飛天の巨大な砲身を固定する。あくまで接近戦を試みる相手に移動しながら狙撃を図る戦法には正直ロスがあるが、障害物そのものが攻撃力を持つ機雷源でありこれを撃つことで誘爆を狙うことはできる。

「でも直撃できませんー!」

 頑なに相撃ちさせるだけで感嘆ものだが、不利を受けていることには変わらない。オーガイザーが再接近に成功するとガイ・ブレイカーと倶利伽羅の太刀がやはり相撃ちになるがこれで嵬星の緊急モードが発動、展開をモニタリングしていたメカニックのアルシオーネが趣味的な笑みを浮かべる。

「VM−AX起動。目が赤く光るようにしといたからね〜」
「仕方ない。むつら、こっからは好きにやってみろ!」

 好きにしろと言われても、一変した嵬星の出力と加速性能は暴れ馬を駆るのに似て手綱を握るのも尋常な苦労ではない。それでも5分近く機体に振り回されたとはいえ、火宅や倶利伽羅の太刀の威力まで上がったなら相撃ちの効果もこれまでとは変わってくるだろう。
 当然のように怯まず格闘戦を挑むオーガイザーを迎え撃って倶利伽羅の太刀で三撃、すべて相撃ちになるが魂鋼の重装甲を相手にしてもむしろ嵬星が押してみせる。スナイピングの距離まで持ち込むことはできずにいるが、散布機雷は存分に活かして躍り出るように抜いた太刀筋を叩き込む。

「これは、むつらがよくやってるなー」

 申し訳なさそうに呟く須売流だが、格闘戦を狙う相手に遠距離まで持ち込む手段に欠けたことが今さらのように悔やまれる。この状況で終盤は圧倒的に押した嵬星だが、あと一歩で逆転の芽が見えたところで無念のタイムアップとなり判定でオーガイザーが勝利。主力の狙撃兵器をほとんど使えず、それでいて善戦したのだから不本意な結果ではあったろう。

短評)格闘機でバランスのとれたオーガイザーの良さが出た内容。基本性能が劣る機体で確実に相撃ちを続けて接戦に持ち込んだ嵬星Sは見事ではあったが、接近を図る相手に遠距離をどうやって確保するか、それが成功していればあるいは一方的な優位を得ることもできたかもしれない。ちなみにSPT相手の殴り合いを制したオーガイザーの勝因はおそらく魂鋼のたまものだったろう。

○オーガイザー(30分判定)嵬星S× 7vs1


VIRTUAL STRIKE BACK VII Aブロック準決勝 MT拾参號リメイク vs ねころけっとBLK
 準決勝最初の対決は一回戦で逆転勝利を演出したチーム・さんくちゅありと、VM−AX発動後の一撃を受けながら逃げ切ってみせたTeamKKの一戦。どちらも粘り強い防御力が売りのチームだがそれだけに決定力を補う工夫が必要になる点も共通している。

「くっつけば勝てるよー、信兄ぃガンバ!」

 さんくちゅありの本拠はガンバのホームタウンでもあるがそれはそれとして、格闘戦に持ち込むことができればMT拾参號が、砲戦になればねころけっとが一方的に攻める装備となっており互いに距離の確保が鍵になることは間違いない。はたして相対距離は遠距離から開始、ねころけっとから放たれたぶるーまるちぽーが命中して先制するが、襲いかかる二発のうち一方を弾いてみせたのはパイロットの牛山ならではというべきだろう。難儀な相手であることは自覚しつつ、パッドを握るいそべの表情には百戦錬磨のゲーマーとしての自信がうかがえる。

「でも距離は、あげなぁい」
「あげません。れでぃ」

 先の一回戦では相対距離を無視して襲ってくるタコボールを相手に影を潜めていたが、距離の取り合いになればねころけっとの新兵装とびうおダンパーが活きてくる。まるちぽーを発展させた無線制御できる反射用ブロックで、これを足場にすることで移動や防御、攻撃反射にまで応用できるシステムである。ただでさえ捕まえづらいねころけっとが、更に複雑な軌跡で逃げ回るのだからMT拾参號にすれば気の遠くなるような話だった。
 未だ双方決定打こそないものの、遠距離を飛び回るねころけっとが一方的にぶるーまるちぽーを撃ち続けてMTを圧倒する展開が10分以上も続く。操縦桿を握る牛山へのプレッシャーも相当なものだろうが、彼もまたゲーマー畑に生きてきた者であり神経を削る攻防が彼の栄養素なのだ。

「シューティングは本気で殺しにきてナンボだろ!」
「最後まであきらめんなうしー!」

 確率は低いが決してゼロではなく、さんくちゅありのオペレータを務めるあてなも叱咤だけではなく行動予測をした補正データを刻々と送り続けている。それはわずかな助けにしかならないが、先鋭化された攻防ではそのわずかな助けで命中と回避の成否が決まるのだ。
 開始12分、この対戦で初めて至近距離まで接近することに成功したMT拾参號がラッシュを仕掛ける。その至近距離でさえ避けてしまうのがねころけっとだが、反撃がなければ無謀でもリスクはないとばかり連続攻撃を敢行するとこれが命中、もう一撃命中してわずかながら戦局の逆転に成功した。直後に展開を終えたとびうおダンパーで離脱されると、ぶるーまるちぽーを被弾してすぐに五分の状況に戻されるがここまでで開始20分が経過。

「当てれば勝つ、または避ければ勝ぁーつ!」
「どっちだよ、れでぃ」

 ここでベテラン女子高生の妙味を活かしたいそべが、とびうおダンパーではない通常移動で距離を置きながら右のれっどまるちぽーから左のぶるーまるちぽーと続けて着弾させる。タイミングをずらした奇襲で優位を得てこれで残りは5分、ねころけっとの機動力であれば充分逃げ切りが図れるが通常移動のロスのぶんだけとびうおダンパーもすぐには展開できず、最後の攻防に賭けた牛山も再接近を図る。

「タイムアップにゃまだ早いぞおー!」

 この一瞬、守備的なスタイルを捨てて強引に振り回したアームドアームズが命中してまさかの再逆転、残り3分で値千金の一撃を決めたMT拾参號が一回戦に続く逆転勝ちで決勝進出を果たす。

短評)相性ではねころけっとが圧倒的に優位な対戦となり、とびうおダンパーの優位性が活かされてMTの好機は数えるほどしかなかったがその好機での攻撃にすべて成功し、一方で何度か見せた牛山のガードが致命傷を避けたこともあり殊勲というべき結果となった。

○MT拾参號リメイク(30分判定)ねころけっとBLK× 15vs13


VIRTUAL STRIKE BACK VII Bブロック準決勝 魔王 vs オーガイザー
 前大会優勝したチーム・レギオンを撃破した魔王を迎え撃つのは自称正義の宇宙サムライ無頼兄・龍波。砲戦に持ち込ませず格闘戦なら彼に勝てる相手はそう多くない、無敵の格闘ロボ・オーガイザーである。

「そら多うないけど」

 いないわけではない、と注意するのは鬼姉こと紅刃である。単純だけに調子に乗ると強いが調子に乗るとむかつくのが弟の欠点だと姉は勝手に思っていた。そもそも一回戦、SSBTとの対戦ではスナイパータイプの嵬星に格闘戦で押されたし、相手の魔王は一回戦を砲戦で決めたが格闘戦は見せていないのだから実力を測ることなどできるはずがない。

「どっちにしろアンタに器用な時間稼ぎは期待しません。近づいて殴る、手ぇ抜かんこと」
「おおよ!」

 言われるままに、もちろん言われずとも前進攻勢奮闘を仕掛けるオーガイザーは開始早々の急襲でガイ・ブレイカーを命中させて男の先制攻撃に成功する。先手を取られた魔王は胆汁で反撃を図るがまるでプレッシャーを与えることはできず、構わず攻めるオーガイザーの拳を連続被弾してわずか4分で緊急モードが起動、何が起きたのか理解する間もないままコクピットに座っていたパイロットの表情が呆れたような苦みを含んだものに一変する。

「叔父さん、フランツは僕にとって足手まといでしかない」
「まあそう言うな。出来が悪くても兄は兄だ」

 魔王がゲーテの書いたエルフ・キングであれば確かにヨハンは妖精の王にふさわしい。メカニックブースにあるウォルフガング卿は苦笑しながら、戦況でも魔王の状態でもなくパイロットの脳波パターンを注視していた。あまりヨハンの出現が早まればフランツが抑制される時間も長くなる、彼が無能な故の自業自得とはいえ調整する側の身にもなってもらいたいものだった。
 開始間もない状況だが両機の損害はほぼダブルスコアでオーガイザー優位、これではヨハンが不平を鳴らすのも当然だが言いながらも魔王を加速、センサーをフル稼働させて相手を捕捉すると緊急モード起動からきっかり5分で解き放った鋼鉄を直撃させてみせる。再び格闘戦に持ち込むべく接近を図るオーガイザーを冷静に胆汁で迎撃、完璧に戦況をコントロールして10分で逆転に成功すると胆汁の継続効果が魂鋼の装甲を焼きはじめた。

「ははは、何分で溶けるかな」

 笑いながら無邪気に言ってのけるが、ヨハンの無意識下ではフランツが魔王を操ってオーガイザーの砲火を避けている。互いが互いをどのように考えているかはともかく、解放された魔王の性能はフランツ=ヨハンだからこそ扱えるのだ。
 圧倒的優位から一転窮地に立たされ、このままではジリ貧になるオーガイザーも無頼兄が懸命に立て直すとガイ・ブレイザーで反撃、胆汁のセンサーを振り払うがすでに機動停止寸前まで追い詰められたところで開始20分を経過。

「最後まであきらめねえ!それが男だ!」
「最後でなく最初の5分で当てな負け、気ぃ入れなさい!」

 紅刃の指示は茶化しているのではなく、魔王にセンサーを回復されるまでの5分間で決めなければ逃げられるという警告である。いずれにせよ無頼兄はシンプルに近づいて殴る、だが紅刃が警告する以前にヨハンは付き合おうともせず回避と時間稼ぎに専念しながら座標計算を進めていた。
 勝っているのに汗をかくなんてばからしい、悪びれもせず逃げを決め込んだヨハンがオーガイザーの執念をかわして決勝進出の残る一枠を獲得した。

「Tscheus、ばいばい、元気でね」

短評)魔王の特徴はVM−AX発動を想定した装備やメンバーを選んでいることだが、逆にいえばそれまで一部兵器は使い物にすらなっていない。だからこそヨハンが際立っているが遠距離でも近接戦でも対応できるのは確実に強みだろう。

○魔王(30分判定)オーガイザー× 15vs3


VIRTUAL STRIKE BACK VII 決勝戦 MT拾参號リメイク vs 魔王
photo photo  電脳都市「リンク」上での激突とはいえ用いられるシステムは現実と異ならない。モニタ越しに宇宙空間を見るか、モニタ越しに仮想空間を見るかの違いである。第7回となるVRS決勝戦はテクニカルガードから格闘戦を狙う独自スタイルを見せるチーム・さんくちゅありのMT拾参號リメイクと、VM−AX発動後の爆発力に多重の策を持つザ・ピットの魔王による新鋭同士の対戦となった。

「本戦に勢いつけるぞー!」
「っしゃ!」

 さんくちゅありのブースで気合いを入れるあてなと牛山だが、相手の魔王が近距離にも適正を持つことは準決勝で見せられているし距離を離せば対処する術すらなくなってしまう。決して優位とは言いがたいが守勢に耐えることさえできればMT拾参號の格闘戦での破壊力はトップクラスであり、装甲が厚いとはいえない魔王を一気に沈黙させることができるはずだった。理想はVM−AX発動をぎりぎりまで引き延ばすこと、そして発動後は一気に決めることである。

「ヨハンに任せ過ぎだ。お前も少しは働きたまえ」
「申し訳ございません、叔父上」

 対するザ・ピットは一回戦も準決勝もヨハンの活躍だけで勝っている、他でもないフランツ自身がそう思いながら身の置き場もない様子でコクピットに座していた。養子に迎え入れた青年の様子をウォルフガング卿は通信回路越しに傍観しつつ、彼自身は膨大に蓄積され続けているデータの解析に忙しい。器が割れさえしなければ大事なのは寝かされている酒である。

 決勝戦は中間距離で開始。フランツは本来無能ではなくパイロットとしては相応の技量を積んでおり、落ちついてセンサーをたどりながらMT拾参號を捕捉すると鋼鉄を命中させて先制する。一度接近されるが慌てず離脱して再び鋼鉄を着弾、この「慌てず」「落ちついて」操縦ができれば彼はごく尋常な戦闘機乗りになれるはずだった。開始10分は堅実な距離確保と迎撃を繰り返して魔王が一方的にペースを掴んでいる。

「近づけ近づけ、期待値ならチャンスは10分に一回よ」
「もう10分過ぎてるよ!」

 だが最初から距離の壁を承知しているMT陣営には苦境を冗談にする余裕がある。12分、絶好の間合いで飛び込むことに成功するとアームドアームズを直撃、一気にラッシュをしかけて二撃目三撃目と叩き込む。崩れると脆いフランツは対応できずに戦況を五分に戻されるが、同時に緊急モードが起動して直結式人工知能ヨハンが覚醒した。

「フランツにしてはよくやったね、石よりも役に立っている」

 嘲りの言葉を吐きながら、それが当たり前のように抜群のタイミングで後退すると同時に鋼鉄を直撃させて接近を図るMT拾参號を半ば強引に突き放す。豪語するだけの実力を見せるからこそフランツを嘲り罵る権利がある、ヨハンは本気でそのように考えていた。
 一方さんくちゅありは緊急モードを発動されて戦況が不利になったとはいえ、近接格闘戦で圧倒すれば逆転できるだけの損害はここまで充分に与えている。MT拾参號も勝負を捨てず急速前進、接近して一気呵成のラッシュを打ち込もうとするが魔王には、ヨハン=フランツにはこれを迎え撃つ用意があった。

「悪いね。ダンスの相手には役者が不足しているんだ」

 高出力で吐き出した胆汁を直撃させると、アームドアームズと相撃ちになるがそれまでの損耗に耐えきれずMT拾参號が機動停止。きわどい接戦を平然として削り合って制した魔王が堂々とVRS初優勝を飾る。後日、ザ・ピットのパイロットブースでモニタデバイスが派手に破壊されたという報告が上がるが、関係者からは詳細なコメントは得られていない。

○魔王(19分機動停止)MT拾参號リメイク× 10vs-1 ※魔王が優勝

−結果&総評−

 今回は参加8チーム中SPTが3チームというなかなか世紀末な比率でしたが、この機体のポイントはVM−AXが発動しても命中&回避は上がらないことで、しかも装甲がちょっと柔らかいので押し切られる可能性は常に持っています。なのでタコボールを下したねころけっとの回避性能とか、嵬星に競り勝ったオーガイザーの装甲とかちょっとした要素が勝敗を分けていますが優勝した魔王は短評でも書いたとおり、この微妙なバランスをメンバー特性と装備で補っていて発動前は耐えて発動後に攻める、そのタイミングを効果的に決めていたのが見事でした。

 あとは忘れられがちですがイプシロンは基本的に命中回避の精度が低い機体です。例えば命中11は成功率60%を超えますが、10だと50%なので補正を受けると実質半分も当たりません。それを装備や特性など何で補うかは別にして、ある程度極端な能力値でなければ1違えば10%以上成功率に影響するので注意してください。これはドラグーンの性能が平均ではなくすべて平均以上だということも意味しています。

 ちなみに私のあてにならない戦前評では、MT拾参號はねころけっとに勝てるとは思わず逆に決勝ではMTが魔王を沈めると思ってました。実際ねころけっとのとびうおダンパーは脅威になっていましたし、魔王はVM−AX発動時に戦況を五分に持ち込めていなかったら勝てなかったかもしれません。ただし私の評価が正しいとは限らない点は重ねて注意です。

−順位−機体名−−−−−−−−−−−機体−−パイロット−−−−−オペレータ−−−−−−−−−メカニック−−−−−−−−−
 優勝 魔王            SP  フランツ=ヨハン  ヨハン=フランツ      ウォルフガング卿
 2位 MT拾参號リメイク     イプ  牛山信行      天宮あてな         仔羊徳兵衛
 3位 ねころけっとBLK     斑鳩  Mii4      山本いそべ         山本あんず
 3位 オーガイザー        ドラ  無頼兄・龍波    AI・鬼刃         紅刃・龍波
 5位 タコボールストロンガー   SP  神代進       サイボーグイルカフリッパー 伝説の船大工源さん
 5位 モイライ          イプ  バーバラ・R・O  シャルロット・R・O    アンジェラ・R・O
 5位 アナザーバイソン1     イプ  ゲルフ・ドック   ジアニ・メージ       ザム・ドック
 5位 嵬星S           SP  灯乃上むつら    清和須売流         アルシオーネ・ビアズリー

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