VRS第十回大会-VIRTUAL STRIKE BACK X-
電脳仮想空間LiNKを舞台にした人型汎用機による対戦格闘競技、VRSことバーチャル・ストライクバックも第十回大会を迎えることになった。本戦に比べると規模も小さく参加するチームも限られてはいるが、テスト大会としての意義は確立されていて本大会を前に機体やチームの試運転をしたり、新鋭のパイロットや機体を導入して実戦に耐える水準に達しているか確認するためにまずVRSに出場するといった例がまま見受けられる。
だがそうした中でも群を抜いた戦績を残しているのがチーム・レギオンで、ここまでの九大会で計三回の優勝を成し遂げている彼女たちは今のところVRSを専門にして参戦しているチームであった。大会の都度役割を入れ替えて参戦する、チームの三人が同姓を名乗っているが血縁はなく軍務上登記されただけの「家族」である。
「フレンド・シャルロット?今日こそは主役になれるのかしら」
鏡を前にしてシャルロット・R・オリヴォーは意識を切り替える。今大会でのパイロットは彼女で用意される機体も彼女専用にカスタマイズされた近接格闘機のデータがすでに仮想空間の上でアイドリング状態になっているはずであった。
VIRTUAL STRIKE BACK X Aブロック第一戦 Dice-traveler ver.にゃんけい vs アナザーバイソン3
バラエティ番組の企画として参戦してみたら思いのほか善戦してしまい思わぬ人気が出たらどうしようとわくわくしていた塩追津みひろだが、その後事務所にもけっこうな問い合わせが来たもののほとんどは仕事の依頼ではなくパイロットとしてウチで働いてみませんかという建築土方のお誘いだったのは人型汎用機の操縦適性を持つ人間がまだまだ少ないことを意味していたのかもしれない。
「しごとー!しごとまってるー!」
「いやいや今どきのアイドルは特異があってナンボだから」
「特異!?得意でなく特異と申したか!」
微妙な発音をよく聞き分けたなーとディレクターもプロデューサーも感心するが、実際建築用フレームの操縦者求むという公募ばかりでは国際的ではあってもアイドルでなくガテン系になってしまうだろう。とはいえ番組としてはスポンサーを探すのに役立ったから彼女の価値は大いに上がっているのだがそれは彼女がこの企画から逃げられないということも意味していた。アイドルとしてロボットに乗る、ではない。アイドルとしてサイコロで適当に決めたロボットに乗るのがHDYLWの企画だったから何でも乗れるという特異(得意)は現場だったら重宝するに違いなかった。
今大会は参加チームが6チームということで対戦も変則的になり、3チームずつに分かれて対戦を行い勝ち残ったチームが決勝戦に進出する。みひろたちのAブロックは最初の相手はメガロバイソンプロジェクト、前大会では新パイロットの新布陣で出陣したが一回戦で敗れていたこともあってチームに自信を取り戻すためにマック・ザクレスが久々に復帰するらしい。過去に多くの大会で活躍して今はサポートに回っている名パイロットである。
「なんか相手のパイロットすごいヒトらしーぞ。復帰の話題だけで名前がトレンドに上がってるじゃん」
「うれしくねー」
陽気に残念がるHDYLWとサイコロが用意した機体だが、またも攻撃の数字が出ずによくいえば長期戦仕様、悪くいえば攻撃力皆無のぺちぺちパンチであるver.にゃんけい。粘って耐えれば負けないし負けなければ勝機はある、こないだロストバさんが証明してたじゃないかと開き直ったみひろだが開き直りでもしないとやってらんないよ(みひろ談)。
スタジオに設営したコクピットブースとバックヤードブースから参戦する。対峙するアナザーバイソン3が画面の向こうにある仮想世界に登場するが、この感覚は肉眼で相手を見れるわけでもない宇宙空間とほとんど変わらない。バイソン3は右腕のクローに接続されたワイヤーが伸縮するアンカーホイップを装備、これを中間距離から伸ばしてくるが、Dice-travelerは恋と地雷の桶狭間で弾幕を張ると接近してにゃんけいパンチで勝負する仕様。
「質問!どうして桶狭間が地雷原なんですかー!」
「それが昨日のスタバでさー、あーいや頑張れ!」
「雑談トークしてるー!」
だがこれが開始早々に当たって思わぬ先制に自信を持つとかかってきなさいと構えるみひろだが、遠距離に離されたところでバイソン得意のムラクモオロチで狙われると必死に避けるも一本を被弾してしまう。反省してすぐに接近、相手の反撃がこない格闘戦の距離に貼り付くがここで優位に立つ攻撃力がないのが悲哀を誘う。中距離を獲られると今度はアンカーホイップに捕まってしまい、高出力の電流を流されて一撃で大ダメージ。
「しびれるー!しびれるぜちくしょー!」
何しろ装備の出力に圧倒的な差がありすぎる。Dice-travelerはパイロットが攻撃を避けることで不利を補っているのだが、マックの狙撃はなんかやたらと正確で基本的にみひろは全部避けなければならないがそれにも限度があった。先日対戦したメガロバイソンほどの圧力はないがこちらの攻撃も落ち着いて避けられてしまうので更にどうしようもなく思えてくる。
開始16分の遠距離砲戦で再びムラクモオロチ改を被弾、その後は懐に潜り込んでひたすら殴り続けるがすべて捌かれてしまうとそのままタイムアップ。時間のほとんどを格闘戦で一方的に支配したにも関わらず、両機ともに被弾は2回ずつでバイソン3はその2回で最大効率のダメージを与えてDice-travelerは最低値のダメージしか与えることができなかった、その結果がそのまま現れてアナザーバイソン3が圧倒した内容での判定決着となる。どれほど完璧なセッティングでも一試合中に2度は好機が訪れて2度は危機が訪れる、そのデータを最も極端な形で再現したHDYLWが経験の差を見せられることになった。
「はい!ところでどうしてお坊さんが飛んでくるんですか!」
「飛ぶよ?イケメンマッチョ坊主とイケメンインテリ坊主は飛ぶよ?」
アナザーバイソン3(30分判定)Dice-traveler ver.にゃんけい 38vs10
VIRTUAL STRIKE BACK X Aブロック第二戦 うボール=さすら vs Dice-traveler ver.にゃんけい
3チームがブロック突破を決めるのであれば、勝利したチームが勝ち残る巴戦の形式にすれば対戦数を削ることができるが今大会では初戦で負けたチームがもう1チームと対戦する形式をとっている。つまりすべてのチームに最低限2度の対戦が行われるわけで、有り体にいえば観客のために対戦数を確保しているのであろうが参戦するチームにすれば一度負けても復活の目は存在するということだ。
「だからここで僕たちが負ければ次の試合がAブロックの代表者決定戦になる!」
「戦う前から負けることを考えるやつが以下略ー!」
威勢がいいのは番組中のテンションが高いからだが、相手は北九州漁協の生ごみ捨て場で発見された銘板を元に開発されたボールでエイ本の書に「頭手足なきかたまり」と記載されるくらいにボール、うボール=さすらである。もちろん北九州漁協の市場は安全だがTOYOSUの地下にはもっとすごいものが埋まっているかもしれなかった。
「すべてはボールに始まり、ボールに終わるのさ」
「六週間くらい解析すると真理がつかめるキュ?」
神代進と超能力イルカフリッパーもあくまでLiNKの仮想世界から参戦しているはずなのだがそこはどこか宇宙的で冒とく的な場所に思える。攻撃的な仕様は北九州漁協ならではだが超星石の銘板のQRコードを撮影すると漁協商品が30%OFFされると言われていあいあ。
開始早々に格闘戦距離で殴り合いになると、にゃんけいパンチでぺちぺちと殴られるが、うボールは地球の生命の恐るべき原型でのしかかるようにぶつかってくる。一撃の重さも固さも圧倒的でまともに殴り合えばうボール=さすらが旧支配者にふさわしい栄光を取り戻してくれるだろう。
「私は夢に見る。やつらが海面にまで登ってきて、戦争に疲れた微弱な人類の生存者を海中に引きずり込むのをね」
必死に守り必死に弾いているにゃんけいにも海の底の支配者は容赦しない。ばらまかれる弾幕などまるで存在しないかのように前進しながら灰色の原初の無形のイモリを解き放つがこれは避けられてしまう。だがたとえ避けられたとて圧倒攻勢に出るのが冒とく的で宇宙的な北九州漁協の流儀であり、至近距離に接近するにゃんけいに地球の生命の恐るべき原型をたたきつけるとこれを直撃させることに成功した。
人間には克服できるはずのない存在を相手にして、にゃんけいは格闘戦の距離を保つことはできるが襲いかかる頭手足なきかたまりを必死に防ぐのが精一杯に見える。粘り強く必死に守り続ける堅牢さにパイロットの適性を窺わせて、にゃんけいパンチで反撃する。破壊力では相手にもならないから避けるか防ぐかして粘りながら数を当てていくしかにゃんけいに勝機はない。
「彼らはよくやっているな」
「でもきっとそろそろSAN値が限界キュ」
距離も確保して手数でも勝り、致命的な一撃を受ける数を少しでも減らした。だがそれに勝る一撃の威力と相手の貧弱な攻撃力を弾く厚い装甲で圧倒したうボール=さすらが時間切れ判定で勝利する。これでHDYLWは脱落、ブロック代表は北九州漁協とメガロバイソンプロジェクトで争われる。
うボール=さすら(30吻判定)Dice-traveler ver.にゃんけい 27vs16
VIRTUAL STRIKE BACK X Aブロック第三戦 うボール=さすら vs アナザーバイソン3
前大会、メガロバイソンプロジェクト期待の新鋭として初陣に挑んだものの一回戦で敗退したベル・グラノ。なにしろ同チームのパイロットといえば全員が本大会での優勝経験を持つという俊英揃いで、しかも本人は同年代のゲルフをライバル視していたからショックも大きかったらしい。すっかり不調に陥ってしまうとシミュレーションでの状態も散々でこれではとても参戦させられたものではない、とメンバーから外されてしまっていた。代わって参戦することになったのはベルのサポートをしていたかつてのエースパイロット、マック・ザクレスである。
「まあ彼女にも自信を取り戻してもらいたいからね」
これで自分もあっさり負けたらさぞ面目が立つまいと思わなくもなかったが、初戦ではHDYLWを圧倒して堂々と復帰戦を飾っていた。食い入るように観戦していたベルはもちろん、本大会のパイロットを務めている後輩のゲルフもマックの腕がいささかも錆び付いていないことに驚かされる。
「いやあ、後輩の前で恥をかかないようにするので精一杯だよ」
「そ、そんなコトは・・・!」
VRSは本戦とは違って、コクピット・ブースを出ればメンバーとすぐに会えるのがありがたい。モニター室で観戦をしているベルはかしこまった姿勢のままでマックの対戦を見ていたらしく、どうやら先輩としての面目は保てたようだ。次の対戦、北九州漁協を相手に勝利すればブロック突破と優勝戦への進出が決まるが相手も言わずと知れたベテランであり気が抜けるはずもない。あらためてコクピット・ブースに入り、端末を起動すると意識を対戦に集中させる。
うボール=さすらは中間距離から灰色の原初の無形のイモリを解き放つとこれをいきなり命中させて先制、アナザーバイソン3は機先を制されるがそれで冷静さを失うならエースパイロットなど務まらない。被弾しながら後退して遠距離を確保するとムラクモオロチ・改を射出、更に連続で斉射して八方から襲いかかる光条をすべて正確にうボールに着弾させてみせる。うボールは二発を弾くが残り六発は命中してこれだけで機動停止寸前、追い込まれた神代もそれで動揺せずに中間距離からアンカーホイップを弾くと同時に灰色の原初の無形のイモリを命中させて反撃を図る。
「こちらも・・・当たれっ!」
再び後退して射出したムラクモオロチ・改をこれもすべて命中させてバイソン3が勝利。優位な距離を確保して正確な攻撃を命中させる、作戦を完璧に遂行してみせたマックが堂々とAブロックを突破して優勝決定戦進出を決めてみせた。
「流石にできすぎだな。どうせならあと一試合できすぎでありますように」
アナザーバイソン3(6分機動停止)うボール=さすら 28vs-8
VIRTUAL STRIKE BACK X Bブロック第一戦 魔王 vs ヒッポリュテ
リーグ本戦での優勝を果たしたザ・ピットだが、パイロットのフランシスはそのまま療養に入っており入院加療中とされていたフランツが復帰参戦する。無論直結式AIもフランツに合わせてヨハンが起動されるとすでにオペレータ・ブースシステムへの投入も完了されていた。
「SYSTEM-CONNECT:FRANZ=JOHANNES ACCESS-READY」
「宜しい。魔王を起動したまえ」
代表を務めるウォルフガング卿は登録上はメカニックとされているが、必要な処理はすべて自動化されていたから彼は指示を出すだけである。画面上で起動された「魔王」は直結式AIとの相性がよいとは言えない機体だが、緊急システムを起動できれば距離を選ばずに相手を圧倒する攻撃力は健在だった。対戦相手のチーム・レギオンはメンバーの編成でスタイルまで変えてくる変則的なチームだが、今回参戦するヒッポリュテにはシャルロット・R・オリヴォーがパイロットとして搭乗、近接格闘戦を得意とする攻撃的なグラップラーであり削り合いになれば相性としては悪くない。
初弾はお互いに中間距離で、散布機雷をばらまくと魔王の鋼鉄とヒッポリュテのバスターフォースが空間を満たすが双方ともこれにいきなり被弾するほど散漫な注意力はしていない。だが双方がこの距離から更に機雷を散布、密度を倍にした機雷原の海を双方が泳ぐ中で一撃ずつ被弾、互いに損害は軽微だが散布された機雷に周囲を囲われた状況でヒッポリュテが勇んで接近する。
戦神の娘たるアマゾンの女王には願ったりの格闘戦で、魔王が繰り出した白金の鋼線が先んじて襲いかかるが多少の被弾など意に介さずヒッポリュテが武装した拳を打ち込むとこれが直撃、バランスがよいとはいえない魔王の機体を大きく傾がせる。そのまま至近距離に貼りつかれると白金で迎撃を図る魔王だが、アマゾンの女王の装甲をわずかに削りながらも再び振りかぶった拳が深々と打ち込まれてこれで魔王の緊急システムが起動、直結型AI「ヨハン=フランツ」がパイロットの脳に上書きされる。
「SYSTEM-EXCHANGE:JOHANNES=FRANZ-GO」
緊急システムの起動は単純にジェネレータの出力を爆発的に高めるから、攻撃の威力が上がると同時に機体の加速性能も飛躍的に向上する。一瞬で中間距離まで離れた魔王は高速で移動しながら鋼鉄を更にばらまくと双方の装甲に派手な火花が躍るようになる。複数の機雷を互いに一斉被弾して、損害は同等だが先の格闘戦で押されていた分だけ魔王が不利に立たされている状況は変わらない。
危険極まる高エネルギーのかたまりを相手にしてヒッポリュテは接近、格闘戦で一気に勝敗を決しようとするが魔王は更に加速すると更に散布する機雷の密度を高めていく。八方を機雷に塞がれたヒッポリュテが連続で装甲を叩かれると魔王は高速機動しながらの入神の動きでこれを回避。得意の格闘戦で相手をねじ伏せようとするヒッポリュテに対して、魔王は機雷の海を潜り抜ける操縦技術の優劣で勝敗を決するつもりでいる。機械よりも正確な直結式AI「ヨハン」はフランツの技量を一切のミスを犯さずに最大のパフォーマンスで発揮してみせる。
「よい判断だが機械的だな。やはりヨハンの性質が強すぎるか」
モニタに移されている戦況を見ながらウォルフガング卿が評すると、ヒッポリュテは博打気味に無理矢理加速接近して魔王の至近距離に三度潜り込んだ。この距離でも格別ヒッポリュテが有利にはならないが、機体をぶつける勢いでがつがつと当たるととどめを狙った魔王が後退を図り、これを許さずに追撃したアマゾンの女王が加速と同時に打ち込んだ拳で魔王の装甲を破壊する。計算され尽くして優位を得た展開がただ強引なだけの接近攻勢に破られる結果となる。
「まあよい。フランツを初期設定に書き換えておけ」
ヒッポリュテ(19分機動停止)魔王 9vs-3
VIRTUAL STRIKE BACK X Bブロック第二戦 魔王 vs オーガイザー
考えてみれば男の機体であるオーガイザーが魔王に挑むというのはなかなか男らしいシチュエーションではないだろうかと無頼兄・龍波は一人うなずいているが、彼の戦績が決して振るわない事情を思えばそのようにのんきなことを言っていると56しますえと彼の鬼姉である紅刃などは頭をいためている。オーガイザーと同じ汎用型のドラグーン機も、近接格闘機もこれまで相応以上の活躍をした例はいくつもあるのだから彼らのスタイルへのこだわりがハードルを高くしているわけではけっしてないはずである。彼らのスタイルを活かす絶妙なセッティングなりサポートなりがどこかで欠けている、つまり1+1は2ではなく200だから10倍だぞ10倍なのである。
「今回は好きにやってみんさい」
「え?お、おおよ!」
どういうわけか紅刃からフリーダムのお墨付きをいただいた無頼兄が戸惑いながらも決めたのは中間距離の武装名をカッコよく変えたことである。つまり気合いの問題だが紅刃としてはこの際だからVRS戦で彼らのスタイルを少し検証してみようというつもりでいる。幸いトーナメントだと思われていた今大会では3チームがブロック突破を決める形式になっていて、最低でも2戦はデータを集めることができるだろう。まずはSPT機である魔王との対戦、緊急システムが発動すれば驚異的な破壊力を発揮するが装甲を含めた基本性能では劣る相手であり、考えようによっては二種類の機体と対戦すると考えることもできる。
「チェーーン!アンッカーーッ!!」
コンバトラーV的なイントネーションで叫ぶ無頼兄の声にこめかみを抑えながら、まずは中間距離でオーガイザーが発射したチェーンアンカーが正確に魔王を捉えるがこれは回避されてしまう。攻撃そのものは命中しているのだからこれは相手を褒めながら舌打ちをすればいいだろう。すかさず前進、移動攻撃になるために斬撃そのものは空振りするがタイミングは絶妙で魔王の懐に飛び込むとそのまま格闘戦に移行する。どうしたのだろうかというほどフリーダムな無頼兄の調子がいいが、相手は緊急システムが発動する前で機体性能で劣る点を忘れないようにと紅刃は自分を戒める。
「ガイ・スゥオーード!!」
そのまま積極的に攻勢、鋼鉄の剣を振り回すと相撃ち気味に命中するが、装甲でも威力でも勝るオーガイザーが格闘戦では圧倒する。慌てて後退を図る魔王に追い打ちの斬撃で切り付けるとこれも命中、ここまで開始わずか6分でオーガイザーが一方的に優位を確保。ここから中間距離に逃れた魔王との撃ち合いになる。相手の攻撃を回避しながら移動攻撃、双方が距離の取り合いに専念するために攻撃の精度が甘くなって互いに空を撃つ展開が続く。一度相手を捉えたチェーンアンカーは避けられてしまい、こちらも被弾はしていないが膠着した展開が続く。
開始19分、チェーンアンカーで相手を捉えると三度目の直撃を浴びせたオーガイザーだが、これで魔王の緊急システムが起動して全身が蒼い光に包まれる。対SPT戦としては理想的な展開で、緊急システムの発動をぎりぎりまで遅らせていざ発動したら一気に決めることができればリスクは最小限に抑えられるだろう。唯一の懸念はオーバーロードして加速性能も増している魔王を相手にして近接戦が取りづらくなることだろうか。
「だがッ!チェーーン・アンッカァーーッ!!」
もはやうるさいのは機体の性能の一部だと思うことにするが、中間距離での撃ち合いに応じたオーガイザーは堂々と攻勢に出るとチェーンアンカーを撃ち放つ。一気に接近して斬撃、再び離れたところでチェーンアンカーを連続で命中させると危なげなく魔王を機動停止させてほぼ完勝の体で一戦目を勝利。勇んで凱旋する無頼兄だが隙がなかったわけではなく、紅刃は端末を起動すると記録された戦況と比較しながらレポートを書き込んでいた。
「装甲の強度と近接戦闘での出力差は申し分なし、格闘戦を履行しながら柔軟に中間距離に対応した戦術は良。一方で攻撃精度が甘く結果として長期戦になっていることを思えば均した破壊力は高いとは言えず。魂鋼の重装甲がある機体がそれを使わなかったなら完勝だけど無駄も多かったということやねえ」
オーガイザー(27分機動停止)魔王 39vs-3
VIRTUAL STRIKE BACK X Bブロック第三戦 ヒッポリュテ vs オーガイザー
ザ・ピットが連敗したことによってBブロックはチーム龍波とレギオンの勝者が代表として優勝決定戦に挑むことになる。初戦で魔王に快勝したオーガイザーはいわずとしれた重装甲近接格闘機で、引き続きパイロットの無頼兄がフリーハンドで操縦する様子をメカニックの紅刃が自己解析する陣容を取るつもりでいるらしい。
対するヒッポリュテもシャルロット・R・オリヴォーが操縦する近接格闘機で両機とも装備も戦術もほぼ等しい相手との殴り合いが予想されている。入れ替わりでメカニックを務めるバーバラも機体データを送信するが、運を天に任せるのは彼女たちの好みではなくわずかな差異に勝機を見出そうとする。
「違いは単純。相手は重装甲、こちらは装甲ではかなり劣るけれど自動反撃を含めて攻撃力で勝っている。総合すればヒッポリュテがわずかに有利よ、後はパイロットとオペレータが結果を出すだけ。O・K・フレンド?」
「あら、わずかな有利と大きなプレッシャーをありがとう!」
パイロットブースに皮肉な調子の返答が響く。彼女たちはチームとしての連携もよく私人としても特段仲が悪くはなかったが、これまでVRSに参戦して以来シャルロットだけが優勝経験がないことを気にしていないといえば嘘になる。慈善事業ではないのだから彼女だけが勝てなければいずれ有難くない話が持ち上がっても不思議はないだろう。
最初から至近距離での殴り合いを想定とした対戦であり、初撃で遠距離からの狙撃を行うつもりもなく開始と同時に双方が無造作に近付くと仮想空間に浮かぶ機体が拳を固く握る。オーガイザーの剣が振り下ろされて、これがヒュッポリテに命中すると自動反撃システムが刃を返す。後手を踏むだけ攻撃の精度も威力も劣るがこれにサポートされるだけヒュッポリテが優位にあるというのがメカニックの主張である。
「ならパイロットが優秀だから圧勝よね!」
アームド・アームズの拳がオーガイザーに打ち込まれると、ガイ・スォードで切られるがこれも同時に自動反撃が作動する。だがオーガイザーは怯む色も見せずに三度のガイ・スォードで斬撃、これは自動反撃が間に合わずに双方の損害はほぼ互角の状況が続く。機体が優位で戦況が互角ならパイロットの攻防では不利ということではないか、シャルロッテは不満げにコクピット・ブースのマニュピレータを握ると相手を殴るための拳を握りしめる。一方でオーガイザーを駆る無頼兄はフリーハンドを与えられているからには頭の中までフリーダムにひたすら男らしく殴り合うのを止めない。シンプルだからこそ迷いがないのが彼が宇宙スペースサムライたる所以だった。
「ガァイ・スゥオーード!!」
ここまでで開始7分、オーガイザーの男の剣がアマゾンの女王を切りつけて攻勢に出ると、ヒュッポリテは手数に劣りながらも自動反撃で食らいつくという展開。双方ともに不本意なところがあるとしてもそれで殴り合いの手が止まるわけでもなくオーガイザーの剣が止まることもない。開始12分、再びオーガイザーが切りつけると続けて大振りの連続攻撃、これに合わせたヒュッポリテがアームド・アームズの拳と自動反撃の刃を同時命中させると一瞬だがオーガイザーの手が止まる。優位どころか押されながらも辛うじて互角に持ち込んでいた戦況を覆すなら好機に一気に攻めるしかない。
「ごめんなさいね!デートは無理だけどプレゼントだけ頂くわ!」
一瞬に賭けて三撃を連続したラッシュを叩き込んだヒュッポリテが逆転でオーガイザーを沈黙させる。優位を予想しながら押されていただけに満足のいく内容ではなかった、かといえば結果さえ出れば気にしないと断言できるメンタルがなければプレッシャーをはねのけることなどできないのであろう。
「だって、運も実力だしマイ・フレンドの助けも私に魅力があるからですものね?」
ヒュッポリテ(15分機動停止)オーガイザー 9vs-4
VIRTUAL STRIKE BACK X 決勝戦 ヒュッポリテ vs アナザーバイソン3
今大会は6チームがABの両ブロックに分かれて代表による優勝決定戦を決める方式になっており、対戦数としては七試合あって二戦を勝利したチームが優勝決定戦に進出している点では通常のトーナメントと変わらない。Aブロックを勝ち進んできたアナザーバイソン3は高出力のイプシロン機をベースにしながら、名手マック・ザクレスによる中遠距離戦での攻防で確実に砲撃を命中させて攻撃を回避するスタイルを見せている。対するヒッポリュテは可変機体セブンフォースの高パフォーマンスを活かして、多少の強引さを承知で近接格闘戦を貫くスタイルである。互いに相手の得意距離での攻撃手段を持っておらず、距離の確保がそのまま優位に直結するだろう。
「仮想空間でもブースもメンバーもそのままだからな、助かるよ」
「では優勝の結果もそのまま頂きましょう!」
バイソン3のブースでオペレータのメージの声も常のトンパチぶりが鳴りを潜めているように見えるが、あれはあくまでゲルフの特性を活かすために煽っているので本来スラングまみれになるのは彼女のスタイルではないらしい。観戦用の大型スクリーンの前で通信を聞いているゲルフには新鮮に思えなくもないが、つまりゲルフだからスラングまみれになるので彼としてはちょっと複雑だった。
一方でヒュッポリテのブースでは娘たちのかしましい声が交わされているが、それは女三人集まればといった様子ではなく喧嘩を前にして三人ともがいきり立っているかに見える。戦前評はほぼ互角、辛うじて「バイソン3が不利ではない」と報じられていた事情も彼女たちが声を荒げる原因になっていたかもしれない。
「距離確保した方が有利で加速性能はヒュッポリテに分があるわ。ただし遠距離でも中間距離でも火力が劣っていてこちらの優位は懐に飛び込んだときだけ。理解できる?フレンド・シャルロット」
「頼もしい友人があてにならないことは理解できましてよ、マイ・フレンズ!」
別に責任を押し付け合っているわけではなく、自分の領分でベストを尽くせと彼女たちなりに発破をかけあっているだけである。コクピット・ブースに前傾気味の姿勢で座りながら、格闘戦用のマニュピレータを右手と左手に握っているシャルロットはこのままのスタイルで機体の移動も制御も行う。この「殴り合う感覚」は宇宙空間と仮想空間を問わず近接格闘機のパイロットのほとんどに共通していた。対するマックのコクピットは急加速に耐えるようシートに身を沈めた姿勢で姿勢制御用のツインレバーを握り、顔の前にはターゲット・スコープを構えることができる。マックの場合はスコープを使わず感覚だけで相手を捕捉する術にも長けていたが、この旧式のスコープを愛用するパイロットは意外と多い。
双方の機体が対戦用のフィールドに据えられたカタパルトを疾走すると加速を得て射出される、それらはすべて仮想世界での出来事だがすべてのモニターやセンサーから得られる情報だけではなくコクピット・ブースが受ける振動やGも再現されているからパイロットにとっては現実の世界と何も変わるところがない。相対距離はミドルレンジ、ヒュッポリテが配したバスターフォースの弾幕にバイソン3は正面からアンカーホイップを撃ち放ってこれを命中させる。相撃ちでもこの距離ならバイソン3が火力で勝り、遠慮する理由はマックにはない。
「ラン・オア・ステイ?」「ステイ!」「OK!」
会話を暗号で飛ばしたのは読まれないためでなく反応を速くするためだが、犬の散歩のように聞こえなくもない。メージの指示にマックは狙撃体勢のまま待機すると、すかさず移動攻撃を仕掛けてきたヒュッポリテが至近距離に飛び込んでアームドアームズを閃かせる。破壊力のある拳が襲い掛かるが高速で移動・接近しながら攻撃を当てるのは容易ではなく連続攻撃がすべて外れるとそのまま機体が流されて中間距離まで離される。天地が入れ替わる感覚で相対座標を追い続けていたマックはこの瞬間を逃さずアンカーホイップで狙撃、鋼線を引く鋼のツメが正確にアマゾンの女王を捉えて装甲を派手に削り取った。だが完璧に相手の手のひらの上で踊らされたシャルロッテはこれで揺るがずに彼女のスタイルを貫こうとする。
「近づく、殴る、切り刻ませて!」
物騒な言葉を平然と言い放つと再び接近して叩き込んだ拳を今度は命中させる。更に離れたところにバスターフォースを散布、直撃には遠いが戦況を五分に近いところまで戻したところで開始十分が経過。ここまで格闘戦の指示はパイロットの本能に任せて機体状況の把握に専念していたオペレータのアンジェラから通信が入る。
「フレンド・シャルロット?相手のジェネレータ出力低下、少しは抱きつきやすくなるわね」
「あら、素敵じゃあないの!」
相手が不利ではないという状況ならわずかな戦況の変化がもたらす影響も小さなものではない、そこがレギオンの三人娘が狙う勝機である。バイソン3の加速が弱まった瞬間を狙って接近したヒュッポリテがアームドアームズの一撃、これが直撃するとそのまま懐に貼り付いたアマゾンの女王は容赦のない連続攻撃を命中させて一気に形勢を逆転する。追い込まれたアナザーバイソン3だがマックもこの状況で平静を失わずに彼の得意のスタイルを貫くことに専念、被弾を承知で後退して距離を離すと待望の遠距離戦に移行してムラクモオロチ・改が解き放たれた。
「当たるっ!」
スコープを外した感覚だけで放たれた光条が鎌首をもたげた蛇のように襲いかかるとヒュッポリテの装甲に突き刺さる。ヒュッポリテも必死に回避を試みるがジェネレータを空にする勢いで解放されたエネルギーの大蛇が続けざまに降り注いで三発四発とアマゾンの女王の装甲に穴をあける。これで戦況は完全に互角、両者ともに機動停止寸前の状態に追い込まれてあと一撃が命中すればそこで終わるだろう。
「あとは勝つだけでいいだなんて、なんて運がいいのかしらね!」
迷わず言い切ったシャルロットがすかさず前進、強引な接近からアームドアームズを命中させてぎりぎりのところでバイソン3を沈黙させる。最後まで一進一退の攻防を繰り広げた両者だが、最後に距離の奪い合いを制したヒュッポリテが薄氷にして会心の勝利を得て優勝。
ヒュッポリテ(20分機動停止)アナザーバイソン3 6vs-1 ※ヒュッポリテが優勝
−結果&総評−
今大会ではシャルロット・スタイルのヒュッポリテが優勝。これでレギオンは三人娘の全員が優勝をしたことになり、どのスタイルでも結果を残しているのだからかなり恐ろしいチームです。ヒュッポリテはバランスのいい近接格闘機で中長距離が主体の相手には決して多くない近距離戦の機会に大ダメージを叩き込み、同距離のオーガイザー戦では自動反撃で装甲差を補う戦いで勝利を得ていますが、そのオーガイザーもバランスは良かっただけにあと一歩攻撃か防御のどちらかを強化できればいろいろ変わってくるかもしれません。
準優勝のバイソンプロジェクトはひさびさにマックが復帰、さすがの実力を見せています。距離さえ離せば攻撃でも回避でも高いパフォーマンスを発揮する、ニュータイプスタイルのかなり理想的なバランスなんだと思います。うボールは攻撃力がある一方で命中精度がやや劣り、ダイストラベラーは守備力がすごいですが攻撃力が致命的に低いという殴られ役に甘んじてしまった感があるでしょうか。魔王は再びのVRS参戦ですが、スタイルとSPTの相性が自己矛盾を起こしているのを承知で投入しているので本戦ではスタイルを変えてくる予定とのことでした。
ー順位ー機体名ーーーーーーーー機体ーパイロットーーーーーーーオペレーターーーーーーーメカニックーーーーーー
優勝 ヒュッポリテ セブ シャルロット・RO アンジェラ・RO バーバラ・R・O
2位 アナザーバイソン2 イプ マック・ザクレス ジアニ・メージ ザム・ドック
3位 オーガイザー ドラ 無頼兄・龍波 AI・鬼刃 紅刃・龍波
3位 うボール=さすら イプ 神代進 超能力イルカフリッパー 伝説の船大工源さん
5位 ダイス・トラベラー ドラ 塩追津みひろ 不治村P 熟死野D
5位 魔王 SP フランツ=ヨハン ヨハン=フランツ ウォルフガング卿
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