VRS第十一回大会-VIRTUAL STRIKE BACK XI-
 電脳仮想空間LiNKを舞台にした人型汎用機による対戦格闘競技、VRSことバーチャル・ストライクバックの基幹システムはもともとフレーム開発用のシミュレータをLinkに接続したものである。宇宙空間という特殊な環境を想定したシミュレータだけあって物理現象や機器制御の再現度も現実世界と比べて遜色なく、それこそ安価に宇宙開発を行うためのツールとして重要な意味合いを持っていた。それは宇宙空間で用いるための機器や装備の開発というだけではなく、それを宇宙空間で人間が扱う技術の体験というより狭義なシミュレータとしての意義も兼ねている。


VIRTUAL STRIKE BACK XI Aブロック第一戦 ねころけっと試製雪豹 vs 魔王
「随分とフィードバック値が低いではないか。何があったのか」
「走査信号と直結式AIの相性が悪いようです。システムをほとんど制御できていません」
「これでは試験にならんな。やむを得ない、神経パルスの電圧を210%まで増加させろ」

 口髭の下で表情を不満げに歪めながらウォルフガング卿が指示を伝えている。機体とパイロットを有線で直接接続する彼らのシステム、直結式VM−AXは一部で非難が多く、両者が完全にリンクしたときに得られるパフォーマンスの高さが反論を封じているが「調整」の難しさは未だ課題として残されていた。パイロットのフランシスは比較的成功例の一つだが、AI=ヨハンナに人間的な機能の多くを依っているためにフランシス単体ではどうしても機械人形めいた動作しか実現することができない、それが卿の評価である。

「このフランシスの対戦相手が高性能AIか、皮肉なものだ」

 口でいうほどには卿の表情には感慨のかけらも見られない。電脳仮想世界のモニタに映し出されている魔王は異様に肩部の大きい不恰好なフォルムを宙空に浮かべていて、対戦用のフィールドを挟んではるか対角線上に対峙している機体の姿は複数存在する別の情報モニタで確認することができた。雪豹を名乗るねころけっと試製機、獣めいたしなやかな動きを実現する機体と人間に準じた並列思考と判断を行う高性能AIはTeamKKが技術の粋を投入した産物である。

「うらー!喧嘩すんなよテメーら」

 今回も「俺は社長で女子ゲーマー」山本いそべは自らオペレータとして登録、機体を操縦するパイロットは右脳型AIであるNii−REDと左脳型AIであるNii−BLUEを並列搭載して高速かつ揺らぎのあるパイロットAIを追求したNii−NXとして実現してみせた今年度の期待作でもあった。OS同士が仲たがいすることがあるのでオペレータが仲裁する必要があるのはタマに傷だが、某所ではAIとパイロットがふつうに喧嘩する姿を見せられる例もあって日進月歩の分野で後れを取るわけにはいかない。
 とはいえいそべ曰く今回の売りはTAMA動物公園とコラボレーション開発したユキヒョウっぽい白いカラーリングとふわふわの尻尾がメインで、構造材が現行機の三倍とかばかみたいな高コストでなければ導入が決まっていたに違いなくその意味では仮想世界バンザイ!なのだがふかふかの手ざわりそのものには根強いファンが多くこっそりと開発しているリアル手ざわりシリーズぬいぐるみがそれはそれでちょっとした収入源になっているかもしれない。

 対戦は開始と同時にめずらしく攻勢を仕掛けたねころけっとがまるちぽーを投射してファーストアタックに成功すると、すかさず超高速高機動モードに移行して常の回避に専念する。魔王が解き放つUNKNOWNは命中すれば痛いに違いないが、ただでさえ精密度の低そうな砲撃をねころけっとに当てるのは至難の業であると先制した優位にいそべ自身が豪語してみせる。

「あとはヌルヌルのリズムゲームと変わんねー!」

 オペレータとして彼女が手にしているコントロールパネルには赤と青の大ボタンがひとつずつあるきりで、これを両手でばしばしとたたくだけの操作系だが誰にも扱えるように見えて60分の1秒単位で機体の動作を把握しつつメインAIを切り替えてやらなければならない。だがたかが60分の1秒を正確に把握するなどいそべにとっては電卓やそろばんを正確にはじくよりも手軽で容易な操作に違いなかった。
 相対距離を把握して前進後退しつつ降りそそぐUNKNOWNの雨を冷静に回避、19分には二度目のまるちぽーを命中させると後はそのまま逃げ切ることに成功して超回避機にふさわしいパーフェクト・ゲームを演出。魔王は緊急モードを作動させることもできず完封される結果になった。

ねころけっと試製雪豹(30分判定)魔王 40vs32


VIRTUAL STRIKE BACK XI Aブロック第二戦 アナザーバイソン4 vs 魔王
 その日、メガロバイソンプロジェクトのブースはにわかに騒々しくなっていたが騒動の主人公は寡黙なままだった。ダルガン・ダンガルは過去に本大会で優勝した実績もある熟達のパイロットだが、近年は自ら主張することもなく後進の活躍を見守っていると思われていたのが今回の仕様変更に合わせて姿を現したのである。フルフェイスとパイロットスーツ姿のまま無言で差し出された記憶デバイスには彼自身がカスタマイズした機体の設計データが収められていた。

「頼まれれば組むのが俺らの仕事だ、否も応もねえ」

 メカニックのザムは当然のようにダルガンの要望に従った機体データを組み上げるとシミュレータに搭載したから、VRSではこれだけで出撃準備が完了したことになってしまう。他のパイロットにすれば先を越された恰好になるのかもしれないが、しばらく修行に出ていたところをコンドルのジョーのように帰ってきた仲間が参戦するというのだから応援しないという理由はない。もちろん若いパイロットの中には「メインパイロットがVRSまで出てきたら本戦が更に遠くなるー!」と正直な主張を口にする者もいたが日本代表への道はスポンサーの有無で決まるものではないのだからそこは頑張って欲しいと思う(なんのはなしだ)。

「なるほど!機体の設計は理解しました、オペレートは任せてください!」

 そのデータを見ただけで豪語するオペレータのメージと、メカニックのザムがそのままチームに入るのは彼らがそれだけチームの誰からも信頼されている証拠だろう。機体はダルガンカスタムとして採番されたアナザーバイソン4、対戦相手となるザ・ピットの魔王は先の第一戦を落としておりブロックを突破するためにも連敗が許されない立場で挑んでくるだろう。
 アナザーバイソン4はパイロットの特性に合わせた近接格闘戦主体に仕上げられた機体であり、もとは中距離戦用に開発されていた四聖獣のエネルギーを両腕部に充填して直接相手を殴るスタイルに昇華させている。だが高出力のジェネレータ性能のほとんどを武装に費やしているために推進力には不安があり、魔王はそこを突いて距離を離すとUNKNOWNを射出して砲撃戦を敢行する。先方としては当然の選択であり、ダルガンもこれを想定して機体にはムラクモオロチ改を搭載、隔戦にも対応できるように設計を行なっていた。

「さあ撃ち合いです!ヘドブチハカセナァー!」
「・・・」

 もちろん本心では修行の成果を見せるために格闘戦を挑みたかったに違いないダルガンだが、パイロットとしてオペレータの指示に従うことは当然である。慣れない砲撃は精度こそ甘いが高出力高威力の機体特性とメージのオペレートを信じて正面から撃ち合い、短期決戦で強引に押し切ってしまう。緊急システムを起動した魔王は反撃が本格化する前に沈められてしまい無念の連敗、復帰初戦を圧倒してみせたダルガンだが快勝に安堵したか、修行したはずの近接戦を披露する機会がなかったことを残念に思ったかは無言のフルフェイスから窺い知ることはできなかった。

「・・・」

アナザーバイソン4(12分機動停止)魔王 29vs-12


VIRTUAL STRIKE BACK XI Aブロック第三戦 アナザーバイソン4 vs ねころけっと試製雪豹
 Aブロック突破の一枠をかける対戦は、得意のスタイルで一戦目を完勝してみせたねころけっと試製雪豹と苦手のスタイルでも相手を圧倒してみせたアナザーバイソン4との激突である。ねころけっとにすれば至近距離でも殴りかかる拳を完璧に避けてみせる自信はある、問題はどんな完璧なマシンでも避けることができないシステム上のわずかなブレをどこまで吸収できるかで、いっそ右脳型AIと左脳型AIによるゆらぎで対応することができればいいな。

「コンセプトは悪くねー!あとは課題を克服するだけだ」

 うそぶいてみせるが機械はともだちゲームは三時のおやつのいそべだからこそ人間の技を疑う理由はない。開始と同時に解き放たれたカタパルトからのっそりと前進してくるアナザーバイソンの威圧感を前にしても、彼女にすればプロトタイプエグゼドエグゼスが迫ってきやがった連射の準備はいいかーという程度にしかプレッシャーは感じなかった。

「一回避けて二回避けたら三回避けるぅー」

 振りまわされる拳を動物めいた動きで避けながら、わずかな隙を突いてまるちぽーの一撃を当ててみせる。噂の大型兵器は確かに反則級の破壊力がうかがえて、当たればたぶんタダではすまないが当たらなければ扇風機となんら変わるところはないだろう。止まるそぶりもなく振り回される拳を更に避けながら二撃目のまるちぽー、ダメージなど微々たるものだが反撃を完璧に避けてしまえばそれでいい。完全な勝利か、完全なタヒかがこの試合のスタイルだ。

「宙返り中は無敵みてーなもんだ!てめーら撃ちこめぇー」

 テンポよく赤と青のボタンを叩きながら両AIに指示を出す。理性と感覚を超えた決定力は人間というかゲーマーだからこそ知ることができるので、瞬時に戦況の変わる中で適切にボタンを押せる彼女こそ人間をこえたゲーマーという存在だった。ちなみにお姉ちゃんの要求がどんどんめんどくさくなってるからと妹のあんずはシステムを組み上げたらあとは彼女に任せて256x212ドットの16色戦況モニターから事態の推移を見守っている。更に一撃、まるちぽーを命中させてここまでは圧倒的だが与えたダメージが蚊ほどもないのは仕方ない。

「あ、ゆらいだ」

 呟いたその瞬間に四星獣のエネルギーをたっぷり込めた拳で殴られると一撃で毛並みのよい装甲をひしゃげさせられてしまう。これ自体はちょっとした交通事故で済むと死角から躍り出た黒いまるちぽーがバックアタックを敢行して優位を取り戻してみせた、のだが運悪く連続してシステムのブレを発生させてしまったねころけっとの反応が遅れた瞬間に最大火力で四星獣を撃ちこまれてしまうと一瞬で機動停止。超高機動を一撃必殺で押し切られてしまう、いそべとしては不運も含めて無念の結果だがダルガンにすれば修行の成果にふさわしい派手な結果を見せたとは言えるだろう。

「・・・」

アナザーバイソン4(10分機動停止)ねころけっと試製雪豹 27vs-4


VIRTUAL STRIKE BACK XI Bブロック第一戦 サロメ vs バラクーダ
 今大会は新装備投入が発表された上での電脳仮想世界での開催であることによって、いつも以上に機体や装備試験の色合いを濃くしているチームが多い。チーム・レギオンでもその状況は同様で、パイロット用ブースの端末画面に表示されている機体情報を眺めながらバーバラ・R・オリヴォーは呆れとも愚痴ともつかない言葉を同僚に漏らしていた。

「フレンド・アンジェラ?もう少し機体のバランスを取るという考えはないものかしらね」
「たまには弾けてみなさいな、フレンド・バーバラ。きっと爽快よ」

 生真面目に仕様の確認をすればするほど、大出力兵器の利点よりもリスクばかりが目についてしまうのは彼女の性格の故であるのだろうか。与えられた条件で最善のパフォーマンスを発揮する、そこに異存はないが機体に向いた人選というものもこの際は考慮して欲しいものである。

「つまり博打のような機体を渡されて博打をしろと言われているわけね」
「よくできました!」

 罪深き名で知られるサロメの名を冠する機体の対戦相手は雷撃機バラクーダ、厄介な相手ではあるが今回のシステム改修でも大きな手を加えているようには見えず相手の方針そのものはシンプルで分かりやすい。高速機動が始まれば大型兵器で撃ち抜くことは至難になる、ならばその前に仕掛けるしかないだろう。
 開始早々、両者のセンサーが最大稼働をする前の状態で速攻を仕掛けたサロメがジュエルド・ボディで突進を敢行するとこれを直撃させてみせる。半ば博打に見えるかもしれないが最大の可能性で狙撃を成功させるタイミングはここしかなく、相手が機体バランスを復帰させる数分の間にターゲットを捕捉すると二撃目の突進、これも直撃させてわずか二発で装甲の三分の二を吹き飛ばした。バーバラの計算ではもう一撃、同様にバランスを戻すまでのタイミングを測って三発目の突進を当てることができれば勝利できる算段であった。

「有難う、これで眠りなさい!」

 目論見通りジュエルド・ボディを命中、わずかに削りきれず機動停止には至らないが開始10分でほぼ勝負を決めてみせる。だが勝負が決したわけではない。

「やれやれ。三回首を刎ねられても生きているとは大変な幸運だ」

 バラクーダのコクピット・ブースでうそぶいてみせたネス・フェザードが実際に自分ののどもとを撫でてみせたかどうかは分からないが、圧倒された状況から一瞬で距離を詰めると至近距離からアクセルバイトで反撃、こちらは残り20分を一撃も被弾せずに逆転する算段である。
 時空移動で空間を震動させながら至近距離を通り過ぎることによって装甲そのものにダメージを与える、バラクーダの雷撃戦を止める方法はほとんどなく人間に制御できるとは思えない超高速の突進をただひたすら避け続けるしかない。もう一度攻撃を当てられればその瞬間に勝負が決まるが、そのための距離を取ることすらバラクーダは許さない。八方塞がりの状況だがバーバラの表情には動揺した様子も焦慮した様子も浮かぶことはなかった。

「お昼寝の時間が終わるまでは付き合いましょう」

 言葉ほど余裕があるわけではないが、削られる前に時間切れで逃げ切ることができればそれで勝負は決まる。全身の装甲を焼かれながらひたすら劣勢に晒されるサロメだが僥倖ともいえる先制攻撃を完璧に成功させてみたのだから、これで及ばなければ運が悪かったと諦めるしかないだろう。28分、29分、そして30分を過ぎて僅差の勝利を宣告されたのは悪徳の姫君に対してであった。

「三回首を刎ねて称えられるのだから、これも幸運かしらね」

サロメ(30分判定)バラクーダ 11vs4


VIRTUAL STRIKE BACK XI Bブロック第二戦 バラクーダ vs とるねんボール
 6チームが出場、3チームがAB両ブロックに分かれて争う今大会のルールでは、初戦で負けたチームが続けてもう一チームと対戦を行う運営になっている。連勝による勝ち抜けにすると試合数が減るからという至極単純な理由だが、客が観戦できる機会を増やすというだけではなくもともと本戦前の試験的な意味合いが強い大会なので対戦数が増えるに越したことはない。いずれにしても初戦でレギオンに敗れたネスとしては連敗は脱落を意味するから勝利が必須の条件となる。

「まあ深く考えても仕方がない。次も楽しませてもらうさ」

 とはいえ対戦相手となる北九州漁協はクトゥルフ神話系タコボール第三弾とるねんボールを投入しており、生鮮食品コーナーに紛れ込んでいた「生きている音」の技術で完成した音響兵器タコボールを見れば楽しませてもらうというよりも正気度の判定がたびたび必要になるかもしれなかった。
 初戦で急襲された意趣返しか、開始と同時にアクセルバイトで積極攻勢に出たのはバラクーダだったが防ぐことができないはずの空間震動をとるねんボールは奇妙な音の波を展開して正面から弾いてみせる。背後には狂気の楽隊を従えてこの世ならぬ不気味で暗澹たる調べを奏でている音符型のボール、滑稽に見えてもおかしくない姿がことさら不気味に見えるのはそれが真に人類の理解を超える存在をうかがわせるからであったろうか。

「それは低く無窮の遠から聞こえてくる音楽的な音色だったキュ?」

 サイボーグイルカフリッパーが説明する意味は分からないが、多少の想定外など無視してスタイルを貫くバラクーダは連続してアクセルバイトによる突入を続けると数発を着弾、とるねんボールも鈍重にしか見えない動きからこの世ならぬ不思議な調べを放つと震動波を思い切りぶつけてみせる。原理としてはバラクーダと同じ時空操作攻撃らしくり、バラクーダの突進を弾くことができる道理でもあった。

「エーリッヒ・ツァンの音楽はご存じかな?」

 神城進が断言すると、至近距離に飛び込んでくるバラクーダに正面からぶつけるようにおぞましい音の波が衝突する。宇宙空間を模した仮想空間でも衝撃や震動はコクピット・ブースに再現されるようにつくられてはいたが、ツァンが奏でる音はあまりにも宇宙的だったから悪夢のような音色を忠実に再現することができていたかは分からない。
 速攻を仕掛けたバラクーダをとるねんボールが迎撃、だがとるねんボールが及ぼした衝撃の影響によるものかこの後は双方が失速するとまるでまともな操作を受け付けなくなったかのようで、互いに機体制御も攻撃も成功させることができずに膠着したまま時間だけが過ぎてそのまま判定決着、わずかな優勢を維持したバラクーダが勝利を得ることができた。不穏であり不満もあり不可解でもある展開と結末ではあったが、当事者はあえて追求しようとはせずに彼らだけが体験した事実をその後誰に語ることもなかったものである。

「キュ」

バラクーダ(30分判定)とるねんボール 26vs17


VIRTUAL STRIKE BACK XI Bブロック第三戦 サロメ vs とるねんボール
 Bブロック突破を賭けた一戦、チーム・レギオンは勝てばそのまま優勝決定戦への進出が確定、北九州漁協が勝てば各チームが一線に並び再び星の奪い合いを行うことができる。通常であれば損傷した機体の修復や整備に時間を費やす必要があるが、電脳仮想空間では考慮する必要がなく再試合を行う手間ははるかに容易で済むだろう。

「いずれにしても関係ないわね。このまま勝利して突破を決めてしまうのだから」
「フレンド・バーバラ、珍しく強気じゃない?」

 陽気なシャルロットがバーバラの言葉に珍しげな様子を見せる。初戦の結果に満足して自信ありげというよりも単に開き直っているだけかもしれないが、機体の特性がはっきりしているからいっそ自分のパフォーマンスに集中すればよいと割り切って考えているのだろう。とはいえ迷わずに自分のスタイルを貫くというのであれば対戦相手の北九州漁協も大概で、撃ち合いに後手を踏む事態は避けたいというのはサポートするシャルロットの本音でもある。

「J△SRACがさっそくみかじめ料を取りに来たらしい」
「怖いキュね」

 北九州漁協のブースでは神代進とサイボーグイルカのフリッパーが既得権益を糾弾しているが、音楽家育成業のトルネンブラ氏曰く、せっかく音楽の才能を与えて演奏させても利権893がいちいち金をせびりに来くるのでやはり音楽教室からの徴収は考え直すべきではないかとこれはあくまで音楽家育成業のトルネンブラ氏の考えである。
 先んじて仕掛けたのはとるねんボールで、中間距離からこの世ならぬ不気味で暗澹たる調べを奏でると時空間を震動させる歪みがサロメに正面から襲いかかる。だがこれを平然として受けた悪徳の姫君はジュエルド・ボディで突進するとおぞましい音符を貫いてみせた。戦術の少なさを一撃の火力で補う、装甲の薄さを一撃の火力で補う、すべてがその前提に立っているからその一撃を確実に命中させられるかに集中するのがバーバラの役割である。

「どうせ愛しい人の首を求めるなら、いっそ自分で刎ねてしまうのがよいかしら」
「あら、彼女が求めるのは首じゃないわ。彼の命なのよ」

 不謹慎な軽口が交わされるのは余裕があるからではなく彼女たちなりに集中するためのやり取りらしい。通信を交わしながらシャルロットは感覚的としか思えない勢いで座標情報を送り続けて、バーバラは計算機よりも細かく情報を分析すると照準器への動きを連動させる。本来精度が落ちるはずの移動攻撃でジュエルド・ボディを起動、再びとるねんボールに直撃させて戦況を一気に優位に持ち込んでしまった。
 だがこの状況でとるねんボールも怯む色は欠片も見せず、ただ宇宙的な盲目の意思に従うかのように奏でられる音律が襲いかかるジュエルド・ボディを一撃二撃と弾き返す。狂気の楽隊の調べが解き放たれるとサロメに命中、押されながら永劫の奈落に相手を連れ去ろうとする意思はかき消えてはいないがバーバラもそれで躊躇することはない。

「関係ないわね。首を刎ねてしまいましょう!」

 座標確保はシャルロットに任せて完全にスナイピングに専念したバーバラが遠距離からジュエルド・ボディで突入、初弾は直撃こそ避けられたが連続攻撃を命中させてとるねんボールを機動停止。北九州漁協は撃ち合いで正面から撃破されるという彼らにとっては不本意な結果になった。

「超兵器ジャイアンリサイタルが使えればよかったがな」
「電源不足で動かなかったキュ」

サロメ(16分機動停止)とるねんボール 23vs-3


VIRTUAL STRIKE BACK XI 決勝戦 アナザーバイソン4 vs サロメ
photo photo  新装備の導入に伴う効果を確かめる意味合いが強くなった今大会だが、優勝決定戦に進出した両陣営ともその新装備を搭載した機体で勝ち進むことに成功している。これだけで優位性が証明されたとは言えないが、少なくとも期待しただけの成果を最低限示すことはできたというところであろうか。

「機械も道具も使い方次第だからな」
「万全に使って頂くのがワタシたちの役目ですからね!」

 メカニックのザムとオペレータのメージが断言する。近接格闘戦が主体のダルガンとアナザーバイソン4で、接近戦と遠距離砲戦それぞれのスタイルで勝利を得ているのは彼らが機体と装備の特長を活かすと同時に弱点を補っているからでもあるだろう。ダルガンが無言でいるのは彼がそれを理解しているからというよりも彼がいつも無言だからだが、自分にできる最大のパフォーマンスを見せると同時に仲間に任せるべきは完全に任せる、のが彼らのスタイルだった。

「教訓が一つ。荷物が重すぎるとバランスを取るのがとても難しくなるわね」
「感謝しているわ、フレンド・アンジェラ」

 自分のパフォーマンスを最大に見せてあとは同僚に任せるというのであればチーム・レギオンも同様で、今大会でメカニックを任されているアンジェラ・R・オリヴォーがさんざ苦心したのもジュエルド・ボディ用の大型ジェネレータを積むために選んだ機体の調整に関してである。移動攻撃をしながら狙撃もするという無茶なコンセプトはシャルロットとバーバラの腕に押し付けつつ、機体設計を担当した彼女自身としてはもう少し火力と装甲を上げることができたのではないかというのが正直な感想でもあった。

「あら、これより更に火力を上げられたというのは魅力的ね」
「代わりに誰かさんのようなじゃじゃ馬になるけどね」
「それは困るわね!」

 アナザーバイソン4は近接格闘戦が主体だが遠距離戦をムラクモオロチ改の攻撃力で補っている、サロメは遠距離砲戦に特化しているが機体バランスを取るために一部の性能をあえて下げてでも弱点を減じている。おそらく距離の奪い合いではサロメが優位に立つがバイソン4は砲戦にも迷わず正面から応じてくるだろうことが予想できた。
 両機がカタパルトから射出されて仮想空間上のフィールドで対峙、はたして戦前の予想通り確実に相対距離を離そうとするサロメに対してアナザーバイソン4は砲戦を受け入れると堂々と受けて立つ構えを見せる。先手を取って放たれたムラクモオロチだがサロメはこれを悠々と回避、バイソン4は近接戦への移行を試みる素振りも見せず二射目のムラクモオロチを放つがこれも回避されてしまう。

「フレンド・バーバラ、正直この機体でよく当てるものだと思うわよ」
「有難う、それでは自画自賛させてもらおうかしら!」

 基本的にサロメの機体セッティングは移動攻撃、回避攻撃を前提として組まれているから狙撃の正確度のほとんどはバーバラの技量に任されている。押し付けている、とメカニックが述懐した通りだがそれを承知で狙撃したサロメがジュエルド・ボディを連続で命中させることに成功。バイソン4も譲らずに突入してくるサロメをムラクモオロチで迎撃すると、相打ち気味に命中させるが損害はバイソン4の方が大きい。

「問題ありません!不利は承知の上ですから!」
「・・・」

 それは問題がないと言えるのだろうかと思うがやはりダルガンは何も言わない。ここまで押されているが一撃の威力ではサロメが優っていても手数ではバイソン4に利がある。ここは押し切るべきだとムラクモオロチを射出、すべて避けられるがそれでも連続攻撃を敢行して今度は二発を命中、サロメが隠し技ともいえるセブン・ヴェールスでの反撃を命中させるがこれで運良く損害を互角まで持ち込むことができた。

「運試しならこちらが有利です!カズ撃って当てましょう!」
「・・・!」

 オペレータの声を疑わずに相打ち承知でムラクモオロチを発射。ジュエルド・ボディとセブン・ヴェールスによる反撃を受けながら想定していたのはバイソン4の火力よりもサロメの装甲の薄さである。互いの砲撃が互いの装甲を叩くがぎりぎりで動きを止めたのは悪徳の姫君であり、専門外の距離と戦術を承知で砲戦に応じてみせたアナザーバイソン4が自らの弱点を補うチームプレイで万全の勝利を得てみせた。

「・・・」

アナザーバイソン4(10分機動停止)サロメ 4vs-3 ※アナザーバイソン4が優勝

−結果&総評−

 スロット3装備の試験を兼ねたぽい今大会ですが、優勝機のアナザーバイソン4は近接戦でスロット3装備をしつつ隔戦用の武器を用意して機体とオペレータやメカニック特性で補うバランスを見事に当ててみせたという感じです。一方でサロメは遠距離戦にスロット3装備を置いた上で、移動や回避のバランスをとって得意の遠距離戦を維持するというスタイルでしたがバランスをとるために一部の性能は尖ったものにせずに安定させたという感じで逆に遠距離vs遠距離になったときにバイソン4の方が力押しできたという感じでしょうか。
 あとは運次第でもしかしたら運が悪かったのではないかと思わせるのがねころけっとで、優勝機のバイソン4を相手にパーフェクト・ゲームの勢いで進めながら2ターン連続で回避行動しなかったところに直撃弾を食らってます。10分(10ターン)での結果なので30ターンでも同様の結果になった可能性もありますが、運またはセッティング次第で逃げ切る可能性はあったかもしれません。

ー順位ー機体名ーーーーーーーー機体ーパイロットーーーーーーーオペレーターーーーーーーメカニックーーーーーー
 優勝 アナザーバイソン4  イプ ダルガン・ダンガル   ジアニ・メージ     ザム・ドック
 2位 サロメ        斑鳩 バーバラ・RO     シャルロット・RO   アンジェラ・RO
 3位 ねころけっと試製雪豹 斑鳩 Nii−NX      山本いそべ       山本あんず
 3位 バラクーダ      斑鳩 ネス・フェザード    カーネル        ロブ
 5位 魔王         SP フランシス=ヨハンナ  ヨハンナ=フランシス  ウォルフガング卿
 5位 とるねんボール    イプ 神代進         超能力イルカフリッパー 伝説の船大工源さん

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