VRS第十二回大会-VIRTUAL STRIKE BACK XII-
電脳仮想空間Linkを舞台にした、人型汎用機による対戦格闘競技。VRSことバーチャル・ストライクバックである。仮想空間であるからには、本戦に比べて環境の用意や参加が容易ではあるのだが、だからこそ本戦に比べて本格的に参入をするチームは決して多くはなく、事前の調整や実践テスト、若手パイロットの登用を積極的に行うチームのための大会として開催されている面もある。だがそれはそれで、VRSのシミュレータの再現性の高さを証明してはいるだろう。
VIRTUAL STRIKE BACK XII Aブロック第一戦 イボールナク vs 魔王
今大会も参加チームは6チームで、AB2ブロックに分かれて双方を勝ち抜いた機体が優勝決定戦に進出する形式をとる。まず登場したのは新型機体の試験を続けているザ・ピットの「魔王」と、クトゥルフ系タコボール第四弾として投入された「イボールナク」の冒涜的な対戦である。
もともとの魔王は異様に肩部の大きな人型をしていたが、改修された機体はあからさに巨大な砲身の下にヒトめいた手足のある胴体がぶら下がっているというもので、放たれる光条の一撃必殺だけを狙う目的も設計思想も分かりやすい。対するイボールナクは頭部が無く裸で両手に口のある太ったボールで、体は白熱していて北九州漁協でも非常に少数のマニアックな職員たちに人気があった。
開始早々、魔王の砲身からアンノウンが解き放たれると、イボールナクに直撃する。続けて砲撃、これもまっすぐに目標を捉えるが今度はイボールナクが絶妙のタイミングで弾いてみせた。邪悪で残虐なパイロットという漁協の要求に「北九州ニハソンナやくざナ人はイナイヨ、トッテモへいわナ国ダヨ(棒」といっていつものように投入されたベテラン神城進ならではの動きだが、魔王は遠距離砲戦の間合いを確保してアンノウンの光条を放ち続ける。三弾目は外れ、四弾目は再びガードされるが、命中精度は高くこのまま押し切るつもりでいるのは明らかだった。
「やるな」
「やられてるキュ」
サイボールイルカフリッパーの冷静な指摘を受け止めつつ、前進したイボールナクはグラーキの黙示録を放つと、邪悪な針の一本が魔王に突き刺さる。次の瞬間、魔王の姿を見失うと再び虚空を貫いたアンノウンの直撃を受けるが、怯まず前進したイボールナクは反撃開始、グラーキの黙示録を立て続けに放って二撃目三撃目と命中させて戦況を五分に引き戻す。ここまで開始10分、戦況は測ったように双方が損害率五割。
そのまま中間距離でグラーキの黙示録を放つが外れ、後退した魔王がアンノウンを放つがこれも外れ。接近したイボールナクが今度はグラーキの黙示録を命中させると魔王の緊急モード、直結式VM-AXが起動して悪夢のような砲身に急速にエネルギーが満ちていくのが分かる。果敢に攻勢を試みるイボールナクだが、時空移動で再出現した魔王から同時に解き放たれたアンノウンを直撃されると一撃で起動停止させられてしまった。
「認めたくないものだな」
「若さゆえの過ちキュ」
魔王(15分起動停止)イボールナク 12vs0
VIRTUAL STRIKE BACK XII Aブロック第二戦 イボールナク vs オーガイザー
無頼兄・龍波は悩んでいた。このストライクバックにおいて漢(おとこ)らしい彼らのスタイルが崩れたことなどただの一度もないのだが、それにしても勝ち星が振るわないでいる事情は見過ごせない。自分たちのスタイルを貫いた上で勝利を手にしている陣営は他にもあるのだから、言い訳はできないし言い訳をするつもりも彼らにはなかった。
「魂鋼は頼りになります。それでどれだけ彼が傷を受けているか、あんたには分からんのですか?」
いつもとは違う淡々とした調子で、姉の紅刃に語られるとさしもの無頼兄も堪えたらしい。意思ある装甲、魂鋼ですべての攻撃を受け止めると、硬く握り締めた拳で殴るのが彼らのスタイルだが、だからといって魂鋼が傷つくことを顧みないでもよいのか。紅刃の説得はいつもと方角を変えての試みでしかなかったのかもしれないが、彼女が言っていることは間違ってないし、装甲だから傷つけられるのが仕事などという正義に欠ける言葉を無頼兄は口にしない。
まずはVRSの世界で改修されたオーガイザーはこれまでの攻撃と装甲偏重を完全に捨てたわけではないが、機動性も意識してチューンナップが施されている。相手は先の第一試合に登場したイボールナク、攻勢機を相手にして力を試すことができるだろうか。
「ガイ!!ミサイルパンチ!!!」
遠距離から鋼鉄の右拳を放つが命中せず。高速で移動しながらの抜き撃ちだから命中精度が下がっているが、それを承知で間合いを掴むと回転する左拳が放たれて、今度は正確にイボールナクを捉えるがこれはブロックされてしまった。冒涜的なイボールナクからグラーキの黙示録で反撃されて、針の一本が命中する。先制を許したオーガイザーだが動きは悪くなく、攻防が難しくなることを承知の上でさらに加速した。
オーガイザーのミサイルパンチは外れ、イボールナクのグラーキの黙示録も三連続で放たれるが命中せず、今度はオーガイザーが攻めに回るがミサイルパンチは五連続で外れ。あえて難易度を上げたチャレンジを繰り返しているから、悲観的にならず諦めもせずに攻撃を続けると今度は完璧に相手を捕捉して、ミサイルパンチを三連続で命中させた。一発は弾かれるが、これで戦況を覆したところで開始から15分が経過する。
「これは彼が黙示録を読んだせいで起きたのだという、信じられない理解だった。しかし彼が抗議の声を上げる前に、彼の息は止まった。手が顔の上に伸びてきて、手のひらにある濡れた赤い口が開いたためだ」
「つまりまだ行けるキュね」
などという会話がイボールナクのコクピット・ブースで語られると、オーガイザーのミサイルパンチを弾いた頭のない冒涜的な裸の巨人が、両の手のひらにある口を開いて襲いかかる。魂鋼の意思すら食らいそうな攻撃が左右とも命中して再び戦況を逆転、これで20分が経過するがオーガイザーのコクピット・ブースでは確証を得たように無頼兄が操縦桿を握る手に力を込める。
「大丈夫だ!行けるッ」
強がりではなく、ここまで攻防を続けた体感である。イボールナクは攻撃の性能も防御の性能も高いが、オーガイザーの機動力はそのどちらも上回ることができる。残り10分を圧倒し続ければ、チャレンジの一度を成功させる機会は必ず訪れる。果たして遠距離から狙い続けたミサイルパンチが26分に命中すると、この一撃で戦況を再再逆転したオーガイザーがそのまま押し切って接戦を制してみせた。
オーガイザー(30分判定)イボールナク 23vs21
VIRTUAL STRIKE BACK XII Aブロック第三戦 オーガイザー vs 魔王
次回大会を前にして機体を改修、VRSで試験導入するという流れは双方が共通している。攻撃&装甲というこれまでの方針を踏襲しつつ、機動力を向上させたオーガイザーと、緊急システム起動時の一撃必殺のコンセプトをさらに極端にして追求している魔王との対戦である。
「フランシスの反応が鈍い?パフォーマンスに問題はないと聞いているが」
「パイロットとしての性能には問題ありません。ただ・・・」
「ではよい。無意味な検討に費やす時間は不要だ」
酷薄というよりも無関心の体でウォルフガング卿は手のひらを振ってみせる。前任のフランツに比べて、フランシスは優れた性能を見せているが、先の大会で「ヨハン」と無理矢理コンタクトをさせた負荷が尾を引いているのだろうか。万が一があれば惜しいがいざとなれば代わりを用意すればよい。卿の認識は性能の良い部品を評価する技術者のそれでしかないが、その部品は魔王に搭乗するパイロットではあるのだ。
「工程完了。魔王起動します」
「頼むぜ!AI鬼刃、オレたちは勝ァーつ!」
両機ともオペレータAIを搭載していることも同じだが、魔王とオーガイザーは「情」というものの扱いにおいて対極の存在である。AIにも装甲にも情を抱く無頼兄と、パイロットにすら情を認めないザ・ピットは絶対的に異なる。
対戦は中間距離を経てオーガイザーが近接戦を図る。高速移動しながらの格闘戦は先のミサイルパンチによる狙撃よりもさらに難しく、ガイ・クラッシャーの拳が続けて空を切ると魔王はゆっくりと後退。スピードではなく機械よりも精密な軌道計算で相対距離を取ろうとするが、鬼刃の人工頭脳で計測してみせた座標をめがけたミサイルパンチが命中してオーガイザーが先制した。遠距離から一撃必殺を狙う魔王の砲撃を高速機動で避けながら、右と左のミサイルパンチを交互に放つと立て続けに命中。開始12分、ここまでオーガイザーが魔王を圧倒する。
「フィードバック値に異常はない。やはり取り越し苦労ではないか」
戦況をそっちのけで収集される数値に目を通している卿の存在など意識することすらもなく、与えられたプログラムを遂行し続けているフランシスはあらゆる順境にもあらゆる逆境にもプレッシャーを受けるということがない。ただ正確な間合いを取ることを試み続け、相手を捕捉することを試み続け、照準に捉えた瞬間にアンノウンを抜き放つ。
一撃目はオーガイザーの魂鋼に正面から受けられるが、そのままの距離で撃ち合いながら再び捉えた一撃で戦況を五分に、更に追撃が相打ちになるが、破壊力で勝る魔王はこれで強引に戦況を覆してみせた。残り五分、同時に累積していたダメージで緊急システムが起動する。だが機体がエネルギーを収束させようとする一瞬、AIがパイロットに上書きされる一瞬を狙って懐に飛び込んだのはオーガイザーだった。
「ガイ!!クラッシャー!!!」
これ以上はない完璧なタイミングで仕掛けたラッシュで、重い右拳が魔王の脆弱な機体に打ち込まれると、勢いのまま弾き飛ばされた魔王に追い打ちとなる左のミサイルパンチが命中する。残り2分、これで仕留めきることはできなかったが、彼ら本来のスタイルである積極攻勢で押し切ってみせたオーガイザーがAブロックを突破して優勝決定戦への進出を決めてみせた。
オーガイザー(30分判定)魔王 11vs4
VIRTUAL STRIKE BACK XII Bブロック第一戦 バラクーダ vs 斑鳩改
憧れのストライクバック本大会への参戦を果たしたロボット研究会。当日までコントローラの開発が間に合わずに、けっきょくパイロットは同門のソーティにお願いしたのが結果は悪くもなく、手に入った記録やデータからいよいよコントローラのテストデバイスも完成したので、まずはVRSで試験導入して本戦に備えることになった次第である。パイロットはナイン、オペレータは大会でパイロットを経験したソーティが務めてくれることになった。ちなみにナインは弱冠5歳で大学入学を果たした俊英の宇宙オウムである。
フォース・フィールド装甲を搭載した斑鳩機をベースに今回は機体を設計する。開発元のクスノテック社は猫ろけっとや急猫たーぼ機で知られているが、近年では某大学の研究チームと共同したTeamK.K.として大会に出場している、国産フレーム開発の最先端を行く町工場である。ロボット研究会を設立したばかりのナインたちには雲の上の存在だが、宇宙オウムであればいずれ羽ばたけば雲の上にも届くに違いない。対戦相手はバラクーダ、著しく好不調の波があることで知られているが、斑鳩乗りとしては先達の一人である。
中間距離から、斑鳩改はバスターフォースをばらまくが、飛び交う散弾はバラクーダにすべて回避されてしまう。相手の機動力が高いことは承知の上なので、斑鳩改は手を緩めずに連続攻撃、一発を命中させると更に攻撃、今度は二発が命中して先制攻撃を成功させた。
「油断せず!このまま行こう」
「アリガトー」
すかさず時空移動をしたバラクーダがアクセルバイトを試みる。斑鳩改はこれを回避するがバラクーダも三回連続攻撃を敢行して一弾が命中、威力は低いが熱エネルギーを絡みつかせて損害を累積させるのがバラクーダの目論見である。そのまま至近距離に張り付かれて、反撃ができずにいる斑鳩改に対してバラクーダが更に追撃を命中させるが、かろうじて熱線を振り払ったところで距離を離すとバスターフォースを命中。これで戦況はほぼ互角。
超加速による接近と一撃離脱を繰り返すバラクーダに対して、斑鳩改は弾幕を張るようにバスターフォースでの迎撃を試みる。双方が互いに得意距離を奪い合いながら、15分過ぎにようやくバスターフォースが命中してわずかな優勢を得た斑鳩改がそのまま戦況をキープする。至近距離に張り付かれた状態でも回避に専念して、タイミングを計るように距離を離すと反撃を試みる。そのまま最後まで優位を保つと終了間際にもバスターフォースを命中させて逃げ切りに成功し、スピード戦を制したロボット研究会がナインの初陣を勝利で飾ってみせた。
「ワーイ。アリガトー、アリガトー」
斑鳩改(30分判定)バラクーダ 32vs26
VIRTUAL STRIKE BACK XII Bブロック第二戦 アナザーバイソン3 vs バラクーダ
何人もの優れたパイロットを輩出しているメガロバイソンプロジェクトで、新鋭として期待がかけられているベル・グラノだが、今のところは先輩パイロットたちに学びながら機会を待っている状態である。そうした中で、彼女が特に敬意を表しているマックが自ら後進を育てるために検証したアナザーバイソン3に、ベルを搭乗させてのVRSへの参戦を進言したことはその機会が訪れたということであり、逸るなというほうが難しい。
「負けません!いえ、勝ちます!」
初戦の相手、バラクーダはベテラン中のベテランといえる戦闘機乗りだが、戦績はあまりにも不安定だから充分勝利が狙える相手かもしれない。まして、新鋭のロボット研究会が彼らの初戦を制しているのだから、ブロック突破のためにも勝つしかない。ともすれば自らを追い詰めてしまいそうな考えだが、ベルの意気込みをマックはあえて容認する。
「若いねえ」
コクピット・ブースで呟いたのはマックではなく対戦相手、バラクーダを駆るネス・フェザードである。気まぐれで波がありすぎるという評価を平然と受け入れて、それを公言してみせる性格は彼と対峙する者にとってはたまったものではない。裏を返せば彼ほどプレッシャーに縁遠い人間はいないということでもあるのだから。
中間距離から撃ち放ってくる、アナザーバイソン3のアンカーホイップを平然と避けながらバラクーダは一撃離脱、雷撃戦を試みる。二度、かわしたところで三度目のアンカーホイップが直撃してバラクーダの薄い装甲を弾き飛ばすが、無謀なアタックを繰り返したバラクーダが、機体が擦過した瞬間にアクセルバイトで咬みつくと熱エネルギーの牙を打ち込んだ。
「踊れ踊れ、ってやつだな」
熱線を絡みつかせたバイソン3に、まとわりつくようにバラクーダが接近と離脱を図る。振り払うことができないバイソンは少しずつ失血を続けるが、戦況を五分に追いつかれた瞬間に再びアンカーホイップを直撃。攻撃の手を緩めず更に攻勢に出ると続けて一撃、二撃とアンカーホイップを命中させて、一気呵成の攻めでバラクーダを起動停止寸前まで追い込んだ。ここまで開始から18分。
だが追撃されて失血を続けながら、ベルが攻勢を続けたように、起動停止寸前まで追い込まれてもネスがスタイルを変えることはなく、そして彼ほどプレッシャーに縁遠い人間はいなかった。開始20分、アクセルバイトを命中させると再び熱エネルギーのかたまりをバイソン3にまとわりつかせて損耗を図る。このまま最後までもつれこむかと思われたが、状況に関わらずプレッシャーに動じず自分のスタイルを貫く、ことはベルも目の前の相手から学んでいる。
「行っ・・・くぞおらー!」
装甲を削られながら、思い切り振り回したアンカーホイップを命中させて、粘るバラクーダを振り切ることに成功。楽勝でも圧勝でもないが、自分のスタイルを貫いた上で勝つことがストライク・バックでは最も貴重な勝利である。
アナザーバイソン3(25分機動停止)バラクーダ 9vs-6
VIRTUAL STRIKE BACK XII Bブロック第三戦 アナザーバイソン3 vs 斑鳩改
Bブロック突破を決める一戦は、ロボット研究会とメガロバイソンプロジェクトの激突。両チームともパイロットは新進気鋭だが、バイソンプロジェクトにはチームが築き上げた厚い経験と実績がある。
「足を止めての積極攻勢はベルの個性にも合っているように見える。君はこのまま特性を伸ばすといい」
「は、はい!任せてください!」
多少噛み合っていない返答がそれはそれで初々しい。彼女は我は強いが思考は柔軟で、指示に対する応答も誠実だったからチームワークについてマックは懸念していなかった。むしろメカニックのザムをはじめベテランのスタッフを構えている中で、オペレータとしては経歴の浅い自分もまた仲間の足を引っ張らないようにと生真面目に考えている。攻撃主体だが闇雲に攻めるのではなく、確実に狙撃する。スナイパーとしての資質がベルにあることは彼女がパイロットとして選ばれたときの評価ですでに認められていた。
巨大な錨そのものに見える、アンカーホイップを振り回して相手を殴りつける、この派手な攻撃方法で狙撃するのは決して容易ではないがベルはそれをやってのける。果たして対戦でも早々にアンカーホイップが斑鳩改に命中して、これで初手から主導権を握ることに成功。対する斑鳩改はこれをかいくぐるように接近して時空移動爆走、ゼロ・ブーストでバイソン3の間合いの内側に潜り込んでくる。相手の特性に応じて弱点を突いてくる、斑鳩改の動きは論理的で隙がない。
「いい動きだよ、そのまま相手の懐に張り付いて!」
「マカセロー!マカセロー!」
器用に体全体で操縦しているナインに、ソーティはブースのあちこちにあるパネルに目を走らせながら指示を飛ばす。目が回りそうなほどたくさんの情報がリアルタイムで動き続ける状況は、とても追いつけるものには思えず、先の大会ではオペレータをしていたナインはよくもまあこの仕事をあの小さな体でこなしていたと感心するしかない。そういえば宇宙オウムは目が頭の左右についているから、視界がヒトよりも少しだけ広いのだろうかと思う。
そのまま10分間ほど至近距離を維持しながら、斑鳩改が攻勢を試みるがバイソン3は意外に隙を見せようとはしない。それでもその3分後にはゼロ・ブーストを命中、展開としては完全にロボット研究会がペースを握っていて、相手に反撃の余地をほとんど与えていなかった。
「でも当たらない、いや、避けられてる?」
「コノー!コノー!」
斑鳩改のセッティングや、宇宙オウム用のコントローラも必ずしも精度が高いものとはいえないが、それでもあと一歩が追いつけずにいるのは、狙撃機のバイソン3で距離を詰められたベルが回避を成功させているからでもあった。特性を活かすというなら、彼女は明らかに同門のゲルフなどとは異なるスナイパーである。結局対戦はそのまま時間切れとなり、バイソン3が勝利。30分間のほとんどを圧倒されながら、開幕の一撃だけで逃げ切ってみせた手腕は評価されて然るべきだろう。
「相性の悪い相手だったからな。よく粘ってくれたよ」
「え!?そうだったんですか!」
アナザーバイソン3(30分判定)斑鳩改 34vs30
VIRTUAL STRIKE BACK XII 決勝戦 アナザーバイソン3 vs オーガイザー
決勝戦はパイロットをベル・グラノに変えてからの初優勝を狙うメガロバイソンプロジェクトと、満を持してのVRS初優勝を狙うオーガイザーの対戦。オーガイザーは攻撃&装甲重視のこれまでの路線に、機動性を加えてバランスをとった機体であり、アナザーバイソン3はパイロットの特性に合わせた狙撃機だが、攻撃しつつ最低限の防御にも目を向けている機体である。
「できれば初手で押し切りたい。最初はハイペースで、あとは慎重に」
「はい!任せてください」
マックの指示に、モニタ越しで拳を握ってみせるベルの姿が映っているが、先のBブロックで斑鳩改を相手にしたときと同じ指示であり、つまりは相性の悪い相手ということである。ベルもそのことに気づいているに違いないが、おくびにも表情に見せない態度はむしろ同じパイロットの出自として感心できた。そして相性の有無は対戦相手のオーガイザーも承知しているに違いなく、あちらこそ初優勝を前に意気込んでいるに違いないのだ。
「ガイ・・・」
「アンカー!!ホイップ!!!」
開始早々、マックの指示に忠実に先手を仕掛けたバイソン3が、アンカーホイップを命中させる。更に続けて狙撃、二投目のアンカーホイップも命中させてこれ以上はない先制攻撃に成功した。だが問題はここからである。
「オレの!オレたちの魂を折ることは誰にもできないぜ!」
「ツマリ前進スルトイウコトダナ」
AI鬼刃も、魂鋼の装甲も無頼兄の意思を疑うことはない。彼ら本来のスタイルである重装甲を活かした正面攻撃、それを封じられず実行するための高機動が「新」オーガイザーの目論見である。今大会でそれが完全に実現しているとは言い難いが、より完全に近づけることで彼らは「真」オーガイザーにもなれるだろう。前進して至近距離に詰める。すぐに強引な攻勢には行かずに体勢を整えながら、固く握り締めた拳を大きく振りかぶる。
「ガイ!!クラッシャー!!!」
これを命中させてオーガイザーが反撃に転じるが、やはり強引に追撃するのではなく、確実に至近距離に張り付きながら拳を振るうタイミングを計る。無理・無茶・無謀ともいうべき彼らの漢らしさは影を潜めたが、バイソン3にすれば付け入る隙が少なくなったというしかない。
拳闘士よろしく、威力よりも細かい連打を仕掛けたガイ・クラッシャーが命中、そのまま至近距離を保って、左の拳を打ち込んでから今度は思い切り右の拳で打ち抜いた。宇宙空間で見られる見事な格闘戦で、オーガイザーが先制された不利を逆転してみせる。ここまで開始12分。
「ガードヲ開クナ!足ヲ止メルナ!油断スルノハ勝負ガツイタ後ダケダ!」
「おおよッ!」
大会前に、自分たちで決めたことを覆さず忠実に実行する。高機動でひたすら至近距離に張り付く。これを完璧に遂行されると反撃する手がないバイソン3には手も足も出すことができない。この状況で、襲いかかる拳をしのごうとするバイソンだが20分を過ぎて再びオーガイザーがラッシュを敢行、鋼鉄の拳が何発も猛牛の装甲に打ち込まれる。
「おっしゃァ!」
最後まで状況の打開を図ろうとするバイソン3に対して、近接格闘戦の間合いを譲らなかったオーガイザーは終了間際にもう一撃ガイ・クラッシャーを命中させるとそのままタイムアップ、堂々の初優勝の栄冠を獲得した。最後まで撃破されずに耐えてみせたのが、せめてものバイソン3の意地というべきだろう。
「正直、あそこまでできたのは大したもんだ。だからこそ悔しいよな」
「・・・はい。悔しいです」
オーガイザー(30分判定)アナザーバイソン3 34vs30 ※オーガイザーが優勝
−結果&総評−
これまでの基本コンセプトは譲らず、殴らせて殴るスタイルから高機動型で殴るスタイルにシフトしたオーガイザーがVRS初優勝です。多少、相手との相性の良さに救われたところがありましたが、裏を返せば、相性の悪い相手が少なくなるスタイルにシフトしたともいえるかもしれません。逆に準優勝のアナザーバイソン3は、Bブロックにも相性の悪い組み合わせが見られる中で決勝に進出しているのは侮れないかと思います。斑鳩改は全体的にバランスのよい機体になっていましたが、攻撃の命中精度がもう少し上がるともう少し楽に戦えたかもしれませんでした。イボールナクはネタ的には最高、と思わせて実は二戦ともぎりぎりで落としているので、冒涜的なだけで決して悪い機体には見えませんでした。
そしてこれらの総評ですが、あくまで私見なので、プログラムを組んだ私よりも参加者の方が機体セッティングの経験は上ですというのは謙遜でもなんでもない事実ですので念のため。
ー順位ー機体名ーーーーーーーー機体ーパイロットーーーーーーーオペレーターーーーーーーメカニックーーーーーー
優勝 オーガイザー ドラ 無頼兄・龍波 AI鬼刃 紅刃龍波
2位 アナザーバイソン3 イプ ベル・グラノ マック・ザクレス ザム・ドック
3位 魔王 SP フランシス=ヨハンナ ヨハンナ=フランシス ウォルフガング卿
3位 斑鳩改 斑鳩 ナイン ソーティ ロボット研究会
5位 バラクーダ 斑鳩 ネス・フェザード カーネル ロブ
5位 イボールナク イプ 神代進 サイボーグフリッパー 伝説の船大工源さん
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