リプレイ第0回 −冒険者たち−
 広大な河川、果てのない海洋、そびえたつ山脈、奥深い密林・・・卑小な人間の文明を無視するかのように存在する、それらを人間はフロンティアと称して古くから征服を試みてきた。人々は未開の辺境を目指して足跡を記し、道を切り開き、住居を据え付ける。そのために多くの技術と資金と人員とを導入し、人間の文明は長く広く栄えてきたのだ。遥かな昔、すでに滅びた遺跡群でさえもそうした文明の所産であり名残である。あるいは人の愚かな振る舞いによって文明が再び閉ざされると、そこは再びフロンティアに戻り人々はまた足跡を記すべく新しい一歩を踏み入れる。延々と続く、その繰り返しだ。
 幾度でも、いつの時代でも、そうしたフロンティアに足を踏み入れようとする人間は後を絶たない。そしてその最初の楔を打ち込もうとする人間の事を、人は冒険者と呼んでいる。

 これは、そんな冒険者たちの物語であるかもしれないような気もしないでもない。


 活気づいた町の一角にある、さほど大きくはないが荘厳さを失ってはいない石造りの寺院。その正門に据え付けられた木製の両開きの扉がきしむような音を立てると、薄暗い中から一人の男が陽光の下に足を踏み出した。まだ青年と呼べるであろう、男が着ているなめした皮鎧の胸には至高神である秩序と正義の神、ファリスの印章が掲げられている。年齢に似合わない、きれいに整えられた口ひげが印象的だ。
 だが若い神官である筈の、男の腰のベルトには無骨な戦槌が吊り下げられており、片腕には円形の盾がくくりつけられている。胸の聖印が無ければ、その姿は荒くれ者の傭兵にしか見えないだろう。彼が信奉する神には似合わない、どこか人の悪い笑みを浮かべると男は口ひげを軽くしごき、ほこりっぽい背負い袋を担ぎなおすと石造りの寺院を後にした。彼が信じている、彼なりの正義を世に広めるべく男は礼拝よりも実践を求めようというのである。

絵 クロマ「人間の神官戦士で男、名前は(手元のMMRをおもむろに開くと最初に目に入った単語が「黒又山」)クロマ・タヤマーです。種族は人間で年齢は21歳。ファリスを信仰している堅物の神官の筈ですけど、傭兵出身なせいか実際はずいぶん融通が利く性格をしています。装備はヘビーメイスとスモールシールドとハードレザー。本当は剣とか金属鎧が欲しいんですけど金が無いので…ダガーとか持ってた方がいいですかね?」

絵 ミステル「予備の武器は持ってた方がいいですな」

絵 クロマ「ではそうしましょう。ファイター技能も持ってますが、プリーストが他にいないみたいなんでそっちを優先にしようと思ってます」

 クロマは知力・筋力・生命力を中心にして全体的に能力値が高くなっています。初期技能はファイター(戦士)とプリースト(神官)。当人はプリースト優先と言っていますがパーティ全体のバランスを考えると当初はファイターを上げた方が良かったかもしれません。
 器用度が人並みで技能がまだ低いことを考えたのか、武器は安定して使うことができるヘビーメイス(戦槌)を選びました。クリティカルヒット(急所への一撃)が極端に出にくくなる難点がありますが、当人曰く自分のサイコロの目ではどうせクリティカルヒットなんて出ないとのこと。本音は所持金と相談して決めただけのようですが…。


 冒険者といえば吟遊詩人に語られるような、華やかな印象がなくもないが実態といえばたいていは定住する地も決まった職も持たない、流れ者や無頼漢の集まりでしかない。少なくとも、堅苦しい人々にそう思われていることは間違いないだろう。とはいえ縦方向の社会に属することを嫌う者たちは、えてして横の連帯を重んじることも少なくはない。孤独を好み、他人への干渉を嫌うと自称しておきながら、存外彼らのような人間こそ仲間に対する正当な評価や信頼、協力や相互幇助といった関係を重要視するものだ。そうした冒険者たちを手助けする用途で知られている施設を通称「冒険者の店」と呼ぶ。
 その店は一見すれば宿場と酒場を兼ねたような、活気のある建物であり並べられている木製のテーブルや椅子のそこらには昼日中から無頼漢たちが陣取っては暇を持て余しているように見える。正直なところ、日の当たる場所で生きている人々にとってはあまり近づきたい店ではないだろう。

 若い神官は店の入り口をくぐると、どこかすすけた店内を見渡すように首を巡らせる。ファリスの聖印を胸に、戦槌を腰に下げた男はテーブルの一つに知り合いらしい女性が座っている姿を見つけると気軽に近づいて木製の椅子に腰を下ろした。軋むような音に続いて、かんたんな料理を頼む声が響く。
 神官と同程度の年齢に見える、女性がいかにも奇妙な姿をしていることはこの店では特に珍しいことではないだろう。狩人のようにも見えるが背後の壁に立てかけられている弓はいささか長大に過ぎるし、並べて立てかけられている節くれだった杖にいたっては御伽話の魔法使いが手にするような代物だ。その通り、彼女が狩人でもあり魔法使いでもあるなどと言ったところで、たいていの人間は笑うだけで信じようともしないであろう。

絵 ザイード「ザイード・ウォレスです。人間の女性で年齢は22歳。学者の家に生まれたのでソーサラー技能を持ってますけど、本人は堅苦しいのが嫌だったのかレンジャーを志して狩人みたいな生活を送っています。魔法使いとしてはちょっと精神力が低いのが悩みですけど…」

絵 ミステル「サイコロ四つで14は別に低くない」

絵 ザイード「そうなの?」

 ソーサラー(魔法使い)は古代語魔法と呼ばれる強力な呪文を唱えることが可能ですが、他の技能に比べると特に成長が遅いという難点を持っています。ザイードは即戦力を狙って成長が早いレンジャー(野戦)技能を先に上げることを選んだようですが、確かに彼女の能力値では器用度と筋力がなかなか高く、低レベルの攻撃呪文を唱えるよりも弓を撃った方がはるかに強力でしょう。ただし呪文を使いたいときは弓から杖に持ち帰る必要があるので注意が必要です。
 レンジャー技能は屋外捜索に優れている技能ですが、弓を扱った攻撃を行うことも可能です。ファイターとは異なり防御はできませんし、重い鎧を着ることもできませんが習得の速さとソーサラーとの兼ね合いを考えれば意外に面白い組み合わせかもしれません。ちなみにサイコロを一個振った平均は3.5で四個なら14なので、決して低い能力値とはいえませんがもちろん高い分には困ることはないでしょう。


 やや賑やかになったテーブルに顔を向けて、それまで寡黙に杯を口に運んでいたもう一人の女がどこか胡散臭げな様子で眉を上げる。派手な染料で模様が描かれている顔は神官や狩人に比べても高齢で、医学の未発達なこの大陸ではそれだけで珍しい存在だろう。旅の日差しと歳月に焼かれたのであろう顔には女とは思えぬ精悍さと、生き延びるためのしたたかさが見て取れた。

絵 ターナ「能力値がやたら低かったんで(GMの許しを得て)もう一回振り直しました。名前はターナ・ルタン、人間の女で生まれが…旅人ってなんか当たり前で面白くないな。年齢60歳とか過ぎててもいいですか?」

絵 GM「だめ。最初の登録は30歳くらいまでってルールブックに書いてあるだろ(正論ではある)」

絵 ターナ「じゃあ折衷案で46歳くらいでどうですか?生まれが旅人だからバード技能持ってて後はシャーマン取って…他に何か持ってた方がいいですかね?」

絵 クロマ「定番はシーフかセージかレンジャー。二人目のシーフがいると便利だからシーフでどう?」

絵 ターナ「じゃあそうします。武器はロングスピアですけど呪文唱える時は片手空けてればいいんですよね?」

 クロマやザイードの能力値がやたらと高かったこともあって、仲間うちのバランスを揃えようとターナの能力値はサイコロを振り直して決めています。年齢の件もそうですが、余程ゲームバランスや世界観を壊すのでない限りルールをどこまで厳密に守るかはGM判断で決めてしまえば良いでしょう。ただし、今回の場合はGMがターナのプレイヤーに恩を売るという黒い考えがあったかもしれません。
 結局ターナが選んだ技能はバード(吟遊詩人)にシャーマン(精霊使い)にシーフ(盗賊)となりました。本当はクロマが言うほどにシーフ技能はなくてもいいでしょうし、あるいはセージ(賢人)技能を取る手もありますがシーフであれば多少は武器を手に戦えるようになるのはメリットです。当面はシーフ技能を活かしながらシャーマン技能を伸ばして行けば強力な戦力になるでしょう。注意として、精霊使いは魔法使いと違って片手さえ空いていれば呪文を唱えることができますが、金属鎧を身に付けることはできないので防御力の点では過信は禁物です。


 専門化された特別な能力を持つ者たちは仲間を募り危地へ赴くと、彼らの技と知識を用いて互いに助け合い目的を遂行しようとする。そうした能力は人間に限られたものではなく、妖精と呼ばれている人に似た亜人たちにとっても同じものだ。人には持つことができない優れた能力が、互いに助け合う仲間の力として多いに活用される。
 気がつけば神官は先程までのテーブルの席にはおらず、カウンターを挟み店主と何やら言葉を交わしていた。交渉が成立したのであろう、若い神官がテーブルに声をかけると狩人の女性や精霊使いの女が立ち上がる。彼らの動きにつられたように、少し離れた席でくつろいでいた小柄な亜人の女性も席を立った。千斤の力と細工師の指先を合わせ持つと呼ばれている大地の妖精族、ドワーフの女性である。テーブルの上には山となった杯が積み上げられていたが、巨大なつるはしを担ぐドワーフ女の足取りにはいささかの惑いも見られなかった。

絵 ファラ「ドワーフの女性で名前はファラ・コーエン。年齢は…ドワーフの寿命ってどれくらいでしたっけ?」

絵 GM「だいたい200歳くらい」

絵 ファラ「じゃあ若くしたいんで40歳にしときます。ファイターが2レベルで武器はマトックにしましょう」

絵 ミステル「なかなか当たらんけど当たった時の事は考えたくないですな(とても強いのである)」

絵 ファラ「クラフトマン技能は宝石細工にしておきますね」

 マトックとは戦闘用の巨大なつるはしで、命中率こそありませんが振り回して相手に突き刺さったときの威力はあらゆる武器の中でもトップクラスのものです。これがドワーフ族の怪力で振り回されるのですから、当たり所が良ければ(悪ければ)たいていの人でも怪物でも一撃で倒すことさえできるでしょう。他のメンバーが一様に皮鎧を装備している中で彼女だけは頑丈なチェインメイル(鎖かたびら)を着ていることもあり、直接戦闘能力では頭一つ抜けています。
 クラフトマン技能はドワーフが種族として固有に持っている細工師としての能力です。冒険で役に立つ機会は決して多くありませんが、例えば宝石鑑定のような機会があれば思わぬ役に立つことがあるでしょう。


 飲み干した酒代に、ドワーフ女は懐から小さな宝石を取り出すとカウンターに放り投げる。よく磨かれたそれはそれは店内に差し込んでいるわずかな光に反射して輝き、実際の価値以上に周囲の目をひいた。四人の男女はめいめいに荷物を担ぎ、ぞんざいな扉を押し開けるとしっかりとした足取りで店を後にする。方々が石畳で覆われた町は陽光の下で活気づいていて、行き交う人々の姿や露店で張り上げられる声が目にも耳にもやかましい。大きな町であれば昼には昼の喧騒が、夜には夜の喧騒があるものだが無頼漢が集まる店の近くであれば、それが多少不健全な色を帯びていることは仕方のないことだろう。
 見知った顔が連れだって歩いている姿に気付き、路地裏の隅に腰掛けていた影が目深に被っていた頭巾の布をめくり上げる。半妖精ならではの鋭角的な顔にどこか険があるように見えるのは、あまり人に誇ることができない彼の出自のせいであったろうか。くわえていた小さな水ギセルの管を口から放すと、手早くしまい込んでどこか面倒くさそうに立ち上がる。その瞳は一見して胡乱な気怠さに支配されているようにも見えるが、より真摯に覗き込む者がいたとすれば奥底に潜んでいる英知と自信の存在に気が付いたことであろう。

絵 ミステル「人間育ちのハーフエルフで生まれは狩人。パーティバランス考えるとやっぱシーフですね。あとはレンジャーとセージの技能を持っていて、装備はショートソードとソフトレザー。名前はミステルです」

 冒険に出る仲間たち全体のバランスや役割分担は重要です。全員が戦士では偵察をしたり複雑な罠を避けようとするときに困りますし、全員が魔法使いでは肉弾戦から守ってくれる壁がなくなってしまうでしょう。一般的なパーティの構成は3から6人程度で、武器を手に戦えるファイター、魔法を使える者、それに罠外しや隠密行動に優れるシーフあたりはそれぞれ必要になってきます。ソード・ワールドRPGのルールでは一人の人間が複数の技能を所持することができるので、野外活動に優れるレンジャーや様々な知識を持っているセージ技能などを併用することができますが、あまり複数の能力を持ちすぎるとそれだけ習熟に時間がかかってしまいます。
 ミステルはハーフエルフという、人間とエルフの混血で肉体的にはやや弱いものの機敏さや賢さに勝ります。軽装で多方面に優れた能力を持っており、直接戦闘ではいささか非力ですが有用で頼りにされる場面は多くなるでしょう。


 運と才覚を頼りに危険と困難に挑み、未開の辺境に足跡を残そうとする者たち。フロンティアを目指して道を切り開く。それがたとえ細く小さな道であろうとも、いずれは大きな道へとつながるかもしれない。

 これは、そんな冒険者たちの物語である。

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