リプレイ第3回 −探索者たち−
冒険者。背を伸ばしても大人の胸ほどまでも届かないでいる、幼い頃からその存在に魅了されていた者は少なくないに違いない。困難な地形を乗り越えて、難解な障害を打ち破り、凶暴な怪物を打ち倒していく。そうした冒険の魅力は結果として得られる栄誉や報酬だけではなく、冒険の過程そのものにあると言っても決して過言ではないだろう。そうした、幼い魂を魅了する願いを幾人かは抱き続けてついには実現する者が現れる。こうして新しい冒険者が生まれると彼らにあこがれる新しい者もまた生み出されていくのだ。
クロマ「よくやくご主人様への借金を返すことができました」
真実の指輪を巡る冒険で手に入れた経験によって、パーティは人間として一回り大きくなることができました。手に入れた報酬によってファラやザイード、ターナが品質の良い武器を購入したこともあり、戦力の強化も充分に期待できることでしょう。もっとも、品質の良い武器は作るのに時間がかかるとして使えるのは次回からということにしてあります。クロマは新しくセージ(賢者)技能を取得していますが、いまいち前衛で役に立っていない事情を思うとファイター(戦士)技能を上げた方が良かったんじゃないかと思わなくもありません。
GM「それじゃあ今回も『偉大なハゲタカ亭』から始めるよ。君たちは荷馬車襲撃事件の犯人としてスケープ・ゴートになることもなく、無事に報酬を手に入れてのんびりしている。で、食事でもしながらくつろいでいたんだけど店に一人のおばさんが入って来た。いかにもおのぼりさんといった様子できょろきょろと店内を見回した後で、ぱっと表情を変えるとザイードに声をかけてくるよ。『ああザイードちゃん、冒険者になったって本当だったんだねえ』」
ザイード「どなた?」
オランの外れにある、小さな狩人の村で生まれ育ったというザイード。冒険者の店に現れた女性は彼女が小さい頃に何かと世話になっていた人で、名前をマーワリー・シャハブといいました。彼女は仕事を頼みたいことがあるので、ザイードに村まで来てはくれないだろうかと言っています。村までは半日もかからず、詳しい話はそこでするとのことでした。
ザイード「誰か一緒に来てくれないかな?」
ミステル「行ってらっしゃい」
ファラ「知り合いなら一人で行くのもいいんじゃないですか?」
懐かしい風景にザイードは目を細めている。目的地はオランからごく近く、村というより集落とでもいう程度ものだった。山林に近いこともあって、狩猟を生業とする者たちが集まって小さな村となっている。石畳で覆われているオランからの街道もこの村までは伸びていないが、近郊であれば敢えて舗装をする必要すらないということだろう。出奔してからそう何年もの歳月が経っていた訳でもなく、見知った姿と声が彼女を出迎えている。
GM「マーワリーさんの家につくと父親やら生意気盛りの兄妹やらが出迎えてくれる。昔けっこうお世話になった人たちなんで、君もよく覚えているよ」
ザイード「兄貴の方のこめかみをぐりぐりしながら、懐かしさに談笑してます」
ひとしきり歓談が続いた後でマーワリーが切り出した話は彼女の父親、シャハブ家では祖父にあたるガウリィ・シャハブのことでした。昔はなかなか知られた魔法使いで、冒険者でもあった人ですが既にかなりの老齢で、最近はボケが回ってきたのか夜な夜な家を抜け出してはどこかに『冒険』に行こうとするということです。なんとか家族で捕まえて問いただしてみたところ、昔の冒険でとある遺跡に隠したままになっている『海宝の首飾り』なる宝を取りに行きたいという話でした。
首飾り自体は単なる宝石で、それなりに値打ちはあるだろうが特に魔法がどうという品ではないとのこと。ですがガウリィにとっては思い出の品であり、自分でなければ誰かに取って来てもらえないだろうかと言いますが家族はもちろん村にもそうした荒事に向いている人はいません。そこでマーワリーが思い出したのが冒険者になろうと村を出た『ザイードお嬢ちゃん』のことでした。他ならぬ知り合いの頼みであり、ザイードは首飾りを手に入れることを約束するとその日は村で休み、翌日オランに戻ると仲間たちにことの次第を伝えます。
クロマ「事情は分かりました。で、報酬は?」
ザイード「聞いてこなかった」
ミステル「使えん!」
とはいえ一行にも依頼をむげに断る理由もなく、詳しい話を聞こうと改めて村を訪れます。かんたんな交渉の結果現金による報酬は無いが、首飾りと一緒に宝石を隠していたのでそれらは自由にして構わないとのこと、更に必要経費はすべてザイード持ちという条件で依頼を引き受けることに決めました。最後の条件は冗談まじりではありますが、『ザイードの頼みなら聞くよ』という彼らなりの態度の現れでもあります。
◇
遺跡に続いているという洞窟の入り口は村から数日程度しか離れてはおらず、山腹の斜面に穿たれた裂け目が歳月を経た草や根で隠されているように見える。人が立ち寄った様子はほとんど見えないが、周囲の地面には幾度か踏み固められた様子があってここが入り口として使われていた痕跡をわずかに認めることができた。太陽の光は裂け目の奥深くを照らすことができず、一行は闇の中に足を踏み入れる準備を始める。緊張や不安が無いと言えば嘘になるだろうが、それ以上に好奇心とスリルが彼らの心を支配していた。
ターナ「たいまつに火をつけます。いざとなれば『火炎弾』が使えるんで」
ザイード「じゃあこっちは『明かり』の呪文で、自分の杖の先を照らします」
天然の洞窟は入り口こそ狭くなっていたものの、中は充分に広く二人が並んで歩いても窮屈に感じないほどである。どうやら元は広い洞窟であったのが、土砂が崩れるか何かで入り口が狭まっていただけのようだ。足下には湿り気のある砂や泥が積もっているが、やはりその下の地面は馴らされた跡があってかつては人が行き来をするために使われていた様子が窺える。
GM「しばらく奧に進むと前方から何かがバサバサと飛んできた。全部で三匹ほどいるよ」
クロマ「ふっふっふ。さっそくセージ技能の出番ですね」
GM「ジャイアント・バット(巨大コウモリ)だね。反応は…問答無用で襲い掛かってくる」
しょせんは洞窟に巣くっているだけの動物。魔法使いが出るまでもないだろうと、クロマとファラの戦士二人が武器を構えると他の三人は静観します。まずは力一杯振り下ろしたファラの戦槌がいきなりクリティカルヒットで命中、一撃でコウモリをしとめてしまいます。クロマの槌矛はちまちまと命中しますがサイコロの目が悪く、なかなか倒すことができません。その間にファラの戦槌が再びクリティカルヒットで命中して二匹目のコウモリも落ちました。残るはクロマの相手をしていたコウモリが一匹、いったんは逃げて行きますが洞窟の奧には逃げ場がなく戻ってきたところをまたまたファラのクリティカルヒットで倒されてしまいました。
クロマ「…何も言いませんよ」
洞窟を先に進むとそこは地底に広がる泉に面していた。さほど大きなものではなく、水面も透き通って落ち掛かる光を跳ね返しているが、自然よりもむしろ人為的な堀か庭園のように感じさせるのは先入観のせいであったろうか。長く放置されていた末に住み着いていたらしい、巨大なムカデやナメクジといった動物らが道を塞ぐが時には退け、時にはこれを避けて洞窟の奧を目指していく。どの程度の時が経ったであろうか、ようやく目の前には石造りの床や通路が現れると装飾の凝らされた扉が構えられている様子が目に入ってきた。
ファラ「どうやらここで間違いなさそうですね」
扉を押し開けた中は通廊めいていて正面に扉が一つ、左に伸びた通路は一度右に折れてから紋章の彫り込まれた扉で行き止まり、右手の通路もやはり左に折れてからその先は登りの階段になっているようでした。正面の扉は装飾も何もない簡素なもので、簡単な鍵がかけられていましたがこれはミステルが外します。中は正方形の部屋になっていて、入り口以外に扉はなく床面が黒と白の市松模様に塗られている奇妙な場所でした。一番奥にある黒い床の上に、これみよがしに大きな箱が置かれていて開けてみると中には銀貨がぎっしりと詰まっています。
クロマ「箱の置いてある黒い床が安全なんでしょうかね?念のため入り口の扉は開けたまま押さえておきますよ」
試しに箱の中の銀貨を取り上げてみると、黒い床のすべてが勢いよく下に沈み込むと同時に扉が音を立てて閉まろうと動き出しました。慌てて銀貨を戻すと床も扉も戻り始めますが、今の時点でこれを何とかする方法を考えるのは莫迦らしいと考えた一行はこの部屋を置いて先に進むことにします。
紋章が掘られている左の扉はどうしても開かず、仕方なく右手の通路を進みますが階段を上った先が住居めいたつくりになっていて、たどり着いた広間は正面と左右のそれぞれに扉が構えられています。正面の扉には取手も鍵穴もなく奇妙な台座がついているだけで、開けるには何かヒントがあるだろうと左右の扉を先に調べることにしました。
ミステル「順番に聞き耳を立てていきますか」
GM「そうだね。左の扉からはかすかに何かが動いているみたいな音が聞こえるよ」
一行が緊張しながらもゆっくりと扉を開けると、思ったよりも広々とした部屋は居室を兼ねた書斎のようになっており、天井まで届きそうな本棚が所狭しと立ち並んでいました。正面にはどっしりとした机が据え付けられていて、一つしかない椅子には古めかしい衣装をまとった骸骨が腰掛けています。部屋の主であるらしい、骸骨は不機嫌そうに顔を上げるとノックもせずに現れた無礼な客に視線を向けました。もっとも、その目ははるか昔に失われてしまっており落ちくぼんだ眼窩の暗がりが冒険者たちをにらみつけています。
部屋の主は言うまでもなくゴースト(幽霊)です。数百年以上も昔、古代王国期の時代の人物ですが死んだ後も朽ちた身体にしがみつき、彼の屋敷であったらしいこの部屋で暮らしていました。それが魔法使いとしての知識によるものか、探求心のままに成仏することができなかったのかは今となっては知る術もありません。読んでいた本を妨げられたゴーストは攻撃的とは言わずとも非友好的な様子を見せています。
GM「とはいえこのゴーストも本ばかり読んでいたので退屈していなかった訳ではない。『そうだな、何か新しい知識を教えてくれたらお前たちを見逃してやってもいい。宝も金も、どうせ私には必要ないものだからな』と言っているけど」
ザイード「それじゃあ地上の噂話を」
GM「『そんなものは以前来た冒険者に聞いている』」
クロマ「それではファリス神のありがたい教えを」
GM「『却下だ』」
ゴーストの要求は彼の立場や実力を考えれば寛大なものではありますが、難題には違いないでしょう。それまで静観していたミステルがではこういうのはどうだろうかと、荷物からコップを三つとコインを一枚取り出して、テーブルの上で逆さにしたコップの下にコインを入れてからくるくると動かし始めました。興味ありげに見つめているゴーストの様子に、しばらくしてコップの動きが止まるとさてコインはどこに入っているかと問い掛けます。ゴーストは右の一つを指さしますが、三つとも持ち上げたどのコップの下にもコインはありません。
ミステル「これのやり方を教える、というのはどうでしょうか」
GM「『ぬう…新しい知識とは違う気がするが、確かに今までそんなことを教えてくれた者はいなかったな』」
好奇心を持ったらしいゴーストは遺跡の探索を許可すると、協力するつもりはないが彼の居室であるこの部屋の物を除けば、見付けた物を持っていくのも止めはしないと言います。一行はゴーストの部屋を辞すると今度は右側の扉に向かいました。開けてみると中は倉庫じみていてさほど広くもなく、机や棚が乱雑に並べられていましたが一角にある椅子にはやはり一体の骸骨が座っています。
ザイード「もしかして魔法使いは無条件に知ってませんか?」
GM「え?(ルールブックを見る)本当だ。じゃあザイードには分かるけど、ボーン・サーバント(骸骨人形)だね」
骸骨人形は特に襲い掛かってくるでもなく、がらくただらけの部屋をかきまわしている様子を見ると片付けているのか散らかしているのかもはっきりしない様子です。一行は邪魔にならないように、骸骨が動かした後の棚や机を調べますがそれほど値打ちのあるものは見当たらず、ごくありきたりの剣が一本と小さな盾が使えそうな程度でした。それでも根気よく探していると、骸骨人形が動かした箱の中に入っていた小さな駒と羊皮紙の束を見付けます。
GM「羊皮紙は日記やメモといった書き付けだね。たいした内容は書いてないけど変な書き込みがある。『重さだけで順番は関係ない』ってさ」
一緒に入っていた駒は全部で15個あり、三つの色が5つずつ用意されている。部屋を出て正面の扉にあった台座を調べてみると、丁度駒と同じサイズをした穴が5つ開いていた。どうやら駒が鍵になっていて、15個のうち正しい組み合わせの5つをはめれば扉が開く仕掛けになっているらしい。
GM「駒の種類は赤が5つに青が5つ、そしてモスグリーンが5つだ」
ファラ「どうして緑じゃないんですか?」
GM「なんとなく」
先程のメモを思い出し、どうやら重さが鍵になる仕掛けらしいということで三種類の駒を比べて見ますがと赤が軽くて青が重く、モスグリーンはその間の重さになっているようでした。
ザイード「それじゃあ(なんとなく)赤赤青モスグリーンモスグリーンの順で穴に置いてみます」
GM「そうするとだね…(げっ)扉が開いた」
ミステル「あっけないですな」
実はそれぞれの駒の重さが赤が1、モスグリーンが2、青が4となっていて五つはめこんだ合計の重さが10になると扉が開くという仕掛けになっていました。もちろんこの組み合わせではなくモスグリーン五つでも扉が開いていたことになりますが、ポイントは三種類あってパズルのように見せかけながら実は一種類の駒しか使う必要がないところです。
◇
ようやく開けることができた扉の向こうは如何にもといったつくりになっていて、殺風景な石造りの部屋の奥は一段高い台座のようになっている。上には装飾された箱がうやうやしく鎮座しているが、傍らに並べられている三つの椅子にはそれぞれ骸骨が座していた。先程までと似ているがどこか様子が異なっており、腰掛けながらも鎧を来て剣を下げている骸骨の姿ははるかに剣呑な様子に見える。
GM「こいつの正体もザイードには分かるね。ドラゴントゥースウォリアー(竜牙兵)だ」
竜牙兵はその名の通り、竜の牙から魔法で作られる骸骨戦士ですがその能力はボーン・サーバントとは比べ物になりません。冒険者たちの実力では一体でも勝てるかどうか怪しいといったところで、三体ともなればまず勝つのは不可能でしょう。
クロマ「今のところ竜牙兵は動く様子は無いんですよね?では盾を構えて『防御専念』しながら部屋に入ります。もし竜牙兵が動いたら部屋の外に逃げますんで、皆さんも逃げられる用意をしておいてください」
クロマが一歩部屋に入ると三体の竜牙兵は動き出しますが、部屋の外に出るとまた椅子に戻り座ってしまいます。
クロマ「追ってこないんですよね?それじゃあザイード、あなたの弓で部屋の外から竜牙兵を撃ってください。あまり弓が効く相手ではありませんが、全部矢を使えばなんとか倒せるでしょう」
ザイード「正々堂々とは戦わないの?」
クロマ「それは戦の神マイリーの教えです。至高神たるファリスはそのような瑣末な事は気にしません」
かなり卑怯で時間もかかる戦法ですが、まともに戦えばまず全滅が避けられない相手であることを思えば有効な作戦といえるでしょう。ザイードは銀の矢と普通の矢をそれぞれ20本ずつ持っていましたが、すべて撃ちきって竜牙兵の一体を破壊した上にもう一体にもかなりの傷を負わせることに成功します。更にターナの『火炎弾』による追い打ちで、この二体目も破壊して残るは無傷の竜牙兵が一体のみとなりました。
ファラ「どうしますか?あと一体なら正面から勝てるかもしれませんけど」
ターナ「じゃあ思い切って突撃しましょう。『勇敢』の呪文をファラにかけますよ」
こうして一行は残った竜牙兵に攻撃を挑みました。部屋の外からの狙撃は確実であっても冒険者としては不満がたまる戦法でしたから、やはり華々しく戦ってみたかったようです。とはいえ魔法の援護を頼りに戦士の二人が前面に立ちますが、ファイター技能の低いクロマは一度竜牙兵にかすり傷を負わせた程度で、後は防御に専念しながらひたすら自分の傷を『治療』する意外のことができなくなってしまいます。ファラの戦槌も回避に優れる竜牙兵にはなかなか命中せず、その間にクロマの生命力がみるみる削られていくと精神力も使い果たし、瀕死の状態まで追い込まれてたまらず後退します。
クロマ「いざとなったら一発当てるつもりで再突入します」
ミステル「いや、そろそろいつものが出るでしょう」
クロマの戦線離脱直後、ミステルの予言?通りファラの反撃が命中、これがクリティカルヒットします。狙ったようなタイミングの一撃で破壊寸前になった竜牙兵に再びターナの『火炎弾』、やはりかすり傷ですがなんとか破壊する事に成功しました。
クロマ「私一人だけ瀕死なんですけど」
ちなみにパーティの目算では、部屋を出ても竜牙兵が追ってきた場合は最初の市松模様の部屋まで逃げるつもりでいたようです。全員が白い床に乗って床の仕掛けを作動させれば、竜牙兵を孤立させることができたかもしれません。ようやく竜牙兵を倒して部屋を探索した一行は、箱の中に収められていた宝と『海宝の首飾り』を見付けることができました。
GM「じゃあ目的の品物を手に入れた君たちは部屋を出る訳だけど、そうするとどこか遠くの方からゴゴゴ…と何かが動くような音が聞こえてくる」
ターナ「とりあえず走って戻りましょう」
通路を戻ると、遺跡の入り口近くで別の冒険者の一行が現れました。どうやら先程開けることができなかった左側の扉の反対側にも入り口があって、彼らはそこから遺跡に入ってきたようです。エルフにハーフエルフ、ドワーフにグラスランナーと全員が妖精という珍しい四人組はこちらを胡散臭そうな目で見ながら、何故かエルフがエルフ語で、ドワーフがドワーフ語で話しかけてきました。
ファラ「共通語じゃないんですか?じゃあこちらもドワーフ語でかくかくしかじかと事情を話してしまいます」
GM「全部話すんだね?そうするとガウリィの名前を聞いてエルフとハーフエルフは明らかに不快な顔になった。ドワーフはそれを見てちょっと小声になると、君たちが『海宝の首飾り』を持っているかと聞いてくるよ」
ドワーフの話によるともともとガウリィはこのエルフの昔の冒険者仲間だったそうですが、ある時『海宝の首飾り』を持ち出したまま姿を隠してしまったということでした。首飾りはエルフの家に伝わっていたもので、どうしても行方を追うことができずにいましたが彼は魔法使いの修行をして『物体探査』の呪文を習得すると、ようやくこの遺跡にあることを突き止めたのだと言っています。
ミステル「『物体探査』というと、私らが勝てるレベルではありませんな」
ファラ「でも私たちの目的は首飾りを持って帰ることですよね。いっそこの人たちと一緒に村に行きましょう」
こうして一行は四人の妖精の一団を連れて村へと戻りますが、ザイードは首飾りを見付けたことを知らせて来ると一足先に戻りました。もともと彼女の故郷だから、というのはもちろん言い逃れるための理由です。シチューを囲んで団欒しているシャハブ家に駆け込んだザイードはガウリィを引きずるようにして連れ出しました。さすがに家族や子供がいる前では聞きにくい話もあるということでしょう。
ザイード「まずはシャハブ家のシチューをごちそうになってから、思い出したようにガウリィさんを引っぱり出して事情を聞いてみます」
ザイードがガウリィから聞き出した話によると、確かに『海宝の首飾り』は彼がエルフの家から持ち出してしまったものだと白状します。色々と気まずい事情があり、遺跡の奧に隠していたがずっと返せずにいたことが心残りだったので、老い先短い今になって取りに行こうとしたということでした。ガウリィは首飾りを彼らに返すことについてはもともとそのつもりだったと言いますが、妖精の四人組がやってきたという事情を聞くとどこか渋い顔をします。同じ頃、宿に残っていたファラもドワーフから話を聞いていました。
GM「ドワーフは『首飾りを返してもらえればあいつらも納得すると思うけど、ガウリィって奴はうちのエルフの姉だかに手を出してたらしいんだ。あいつらが人間嫌いなのもそのせいだし、会ったら殺してやるって言ってたぜ』と言ってエルフとハーフエルフの二人をこっそり指さしている」
ファラ「そういえばメンバーにハーフエルフがいましたね(嘆息)」
結局、シャハブ家の人にも口裏を合わせてもらってザイードが帰った時にはガウリィは病気で急死していたことにして『海宝の首飾り』はエルフたちに返すということで落ち着きました。嘘をついてことなかれで済まそうというのですから、いちおうファリス神官であるクロマは良い顔をしませんでしたが、そこは何も見ない何も聞こえないというふりをすることにしたようです。
それから数日後。
クロマ「ノーコメントです」
ファラ「まあ解決はしましたから」
GM「じゃあ後日談だけど、君たちが『偉大なハゲタカ亭』で休んでいると…」
ターナ「はい?」
GM「マーワリーおばさんが入ってきてザイードに近寄ってくる『ザイードちゃん、実はお願いがあるんだけど…』」
ザイード「あのじじい、まだ何かやってたんかーいっ!」
何かを求める時、人は冒険の旅に出るのかもしれない。どのような試練が、どのような困難が待ちかまえていようともそれを理由に彼らが探索と冒険をあきらめることは決してないであろう。彼らは困難な地形を越え、難解な障害を破り、狂暴な怪物を倒して求めるものを得ようとするに違いない。
彼らは探索者、冒険者であるのだから。
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