NEON GENESIS
EVANGELION 2  #10  " Paradise Array "








 2029年代における基軸通貨の一つ、統一レアルの暴落は、たぶんに人為的な誘導である事が世界的な共通認識として受け入れられていた・・・




 南部市場(拡大メルコスル)の盟主であり、世界経済の主要プレーヤーにのし上がったBA連合(UBA)を標的にした複数ヘッジファンドによる経済戦争・・・




 その裏に在る統一母体(しきんげん)は、ADL(=WEISHEITであり、これこそが統括特務部隊(UNF.POWERSの宣戦布告であることは国家戦略に携(たずさ)わるモノの一員であるならば、知らぬ者は居ない周知の事実であるとも言えていた。




 ただ単に証拠が無いだけである。




 事実は事実として、国連軍(統制派)による前哨戦(敵対行為)が、既に始まっていると言えるのだった・・・





「なぜ、ブラジル=アルゼンチン(UBA)のみに拠出金引き当ての大幅増額が望まれているのか、高等財務企画官に誠意ある回答を求めたい・・・」



「統一復興開発局(UNIORD)局長、ブーテフリカ・ブーメジエン君・・・」





 白熱する国連改革委員会の席上において、オランダ人議長に呼ばれて立ち上がる長身の黒人エリートは、流暢な英語(A-level)にてその答弁を繰り返していた。





「サンモリッツ宣言は、国際協調の精神を育(はぐく)むものである。一等国による一定以上の軍備増強は好ましくない・・・ 」





 そのような余力(かね)があるのなら、俺達(ユニオード)に回せ!



 ましてや、加盟国単独で、E兵器(エヴァンゲリオン)開発に従事しているなど以ての外である。




 眼光鋭く『言外』にばれていると匂わせる彼の答弁は、すなわち統制派(コスモス)の主張を、強くに体現するものとなっていた。




 統制派のNo.3であり、漆黒の法剣(ブラック・ブレイド)ないしは財政再建請負人(ファイナル・セイバー)とも称されている彼の発言は、国際連合補佐官・民生執行部門における現在の大勢を大きくリードするものとして、『彼ら』の主導する国連改革草案(UNREP)への同調(シンパシィ)と共に、多くの国連参加諸国(発展途上国)の国務系実務参加者レベル(審議官・参事官級派遣員)を主勢力とした支持支援を取り付け易いと言う大もとの雰囲気が形成されていたのである。





「・・・これは、制裁と考えて宜しいか?」



「我々(UNIORD)に制裁を行う権限は無い。これは要請である。不適切な発言は、議事録からの削除・抹消を要求する・・・」





 既に多数派を工作している事の余裕が、会場全体の雰囲気から感じられている・・・




 睨むように立ち尽くすBA連合(UBA)、テハス・ブリュンスタッド特命全権大使を無視して、颯爽と壇上から降り行く、『涼しげ』なるブーメジエン局長・・・






「横暴だっ!」





「国連ファッショだっ!」







 各国の改革委員会出席者の内、連合派(フリーダム)と目されている諸外国の特命大使・国連大使たちが一様に声を荒げているのだが、その声は、思いの外、大きくは広がらない・・・




 ベネズエラ、ホンジョラス、パラグアイ、コロンビア、etc・・・




 ブラジル=アルゼンチン(UBA)の勢力圏内とでも言うべき拡大メルコスル(MERCOSUR)諸国は別にしても、旧・連合派を構成する主要躍進国、南アフリカ、ナイジェリア、インド、オーストラリア、中華民国(台湾)などの常任・非常任諸国などが全くと言って良いほど、BA連合(の対案)に同調していないのである。





 勝てる!





 そう確信するブーメジエン高等財務企画官は、隣席の人物に会釈をしつつ着席し、それ以後の議論の成り行きを、ただ静かに見守っていた。




 隣席に並び座るその人物も、顔を隠すかのような腕組みで、身じろぎ一つせず、企画官と同様、静かに成り行きを見守っている・・・




 やがて、腕組みをしている方の人物の席上ディスプレイ画面に、同時期、常任理事国UBA国防部隊(MP-38国連軍特務(POWERS-Nervとの小競り合い、およびその結果としてのパワード・エヴァンゲリオン参号機消失問題について話し合われていた国連軍事参謀委員会(MSC)・裁定特別委員部会終了の報告メールが映し出されて来ていた。




 短く立ち上がるポップアップ音の後、居住いを正して敬礼する映像メールの送信者は、統制派No.2、ウィルムット・カナン防衛参議官(中将)。そして、受け取る一方の受信者こそは、経歴を偽った国連官僚の側面を併せ持っている独国(ドイツ)人・・・




 そこに居る美麗な容貌の老骨なる一介の欧州人こそは、国際連合補佐官制度(UNテクノクラートの頂点に君臨する総帥、アレクサンドル・ツーロン首席補佐官であり、ゼーレ(SEELE亡き後の世界を統べるもの(WEISHEIT一員アドルフ・リデルフェルム・フォン・クロンシュタット教授、その人であったのだった・・・