NEON GENESIS
EVANGELION 2 #10 " Paradise Array "
二日目の朝がやって来た・・・
寄せては返す汀(みぎわ)の音も今はただ近くて遠くて、朝凪(あさなぎ)の静寂(しじま)に包(つつ)まれた南洋の清爽感は、右手から昇り行く太陽も在るのだと言う不可思議な光景を、しばし当たり前に受け入れてしまうかのような穏やかさを伴って現れていた・・・
西経145°、南緯20°
仏領(フレンチ)ポリネシア・ソシエテ諸島に属する東の外れ
作戦(ODD)区域の中心地となっていた筈の『赤い海』・タヒチ封印海域(OFT308)よりも、幾分、水没した旧・ムルロワ環礁区(OFT311)よりに流された地点に存在するのであろう打ち捨てられた名も無き無人島・・・
昨日段階で、非常用の保存食および常備薬、それに当面必要となるに違いない寝具・サバイバルツールその他一式をプラグ内部(コクピットシート下段内蔵防水ポケット)より持ち出した際、興味本位で稼動データ端末をつついて得られたそれが結論だった・・・
規模として小規模な孤島であるとは言え、それなりに山地も存在する洋島であったので、地勢的には、珊瑚島(アトゥール)と言うよりも、火山島(ボルカニック)であるのかもしれない。
全島を蓋(おお)い尽くす緑豊かな植生は、生命線である水資源を担保する降雨現象が、この島においては熱帯性となって現れて来ると言う確実な現実を示唆しており、北西部にひらけている美しい白浜の海岸は、直近の堡礁(バリア)や礁湖(ラグーン)までの風景を含めて、この世にかくやと言わんばかりの楽園が在ると言う『自己主張』を声高に繰り返すものだった。
本体であるパワード・エヴァンゲリオン(P-EVA03)・・・
それに加えて、衛生的で安定的な水資源(H2O)を確保する目的で、有人プラグであったアスカのβプラグ(エントリープラグ)を参号機内部から射出して得られるピンク色の人工物(簡易型真水プラント:LCL浄水機能を転用)の存在さえも、正直、この楽園(せかい)には不要であり、不釣合いな『異物』であるのかもしれないとさえ思えて来る。
無人であるαプラグ(Nダミー)から発し続ける救難信号を、国連軍(UNF)もしくは直接にネルフ本部(POWERS-Nerv)の支援(哨戒)部門が拾ってくれるのに、どんなに長くて1日、2日・・・
(乗員)救難機と(機体)回収船を用意してくれているアレコレを含めてもせいぜいプラス3日とかからない手間暇であろう事は疑いなく、ひょっとしたら、今、この時、この瞬間も、こちらの発信源(はまべ)へ向かって来てくれている最中であるのかもしれない。 ・・・連絡が無いだけで。
だからこそ、許して貰おうと思う。
見逃して欲しいとさえ感じる。
異物である事を・・・
使命(せかい)を忘れて、楽園(せかい)に在る事の安穏(ぜいたく)を・・・
僕達二人は、こんなにも綺麗な南方楽土(Paradis)に零(こぼ)れ落ちた一時(ひととき)だけの異邦人(Etranger)であり、再び日常(せかい)に戻り行く時、忘れえぬ使徒との戦いが待ち受けて復活する『万能決戦兵器』搭乗員であるべき自身達の運命から、決して免(まぬが)れて休みに来た訳ではないのだから・・・
ん、んぅ〜
木陰の中のお姫様は、ただ幸せそうに眠っている・・・
昨日一日、はしゃぎ通して、遊び通して、少々に疲れているのだろう。
手を伸ばして、ほっぺたをつついてみても、「んにゃ〜」とか、「ふにぃ〜」とか、楽しげな擬音しか帰ってこない。
世界は平和だった・・・
傍らの女性は、とても愛(いと)しくて、大切だった。
こんな日が続けば良いのに・・・
それが、今この僕の『願い』となって生きていた。
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