NEON GENESIS
EVANGELION 2 #10 " Paradise Array "
「・・・と言う訳で、大ピンチ! すかさず私は、囲い込むブラジル=アルゼンチン(連合空軍の対エヴァミサイル)を千切(ちぎ)っては投げ! 千切っては投げ!・・・」
「・・・もう駄目! 撃たれる!! そう思った瞬間に現れる巨大化シンジ先生〜! 僕のアスカに何するんだ〜 許さないぞ〜 ってね!? これはもう、愛よっ! 愛っ!! ププッ、恥ずかしいっ! 私の事、愛しちゃってるんだから〜 もぅ〜」
溶かし込んだ朝食(スープ)に口をつけるのもソコソコに、アスカの熱演(再現ドラマ)が続いている。
真実6割・脚色4割(そんな台詞は言ってない筈?)ぐらいであろう、その在り得ない武勇伝は、精神世界に落ち込んだこの僕の記憶とも、ほぼ同一にシンクロするものだった・・・
ただし、日向さんによる真実の極秘指令(こくはく)に同調する伍号計画(ODD)妨害を意図して、初号機でこの僕が退場していた筈だった作戦現場(タヒチ)から、アスカの参号機が派遣された新戦場(アマゾン)に現れるまでの期間は、『一月と十日』。
距離で言うなら、『1万km』。
全てが正しいと仮定したとして、考えられる物理的可能性は・・・
次元回廊(ワームホール)
・・・なのだろうか?
莫大なエネルギー量を生成するパワード・エヴァンゲリオンの連動型内燃機関(SSD)の暴発の全てが、マイナスエネルギーと呼ぶべきエキゾチック物質へと転化され、時間(4次元)と空間(3次元)を一時(ひととき)に超越する次元回廊(ワームホール)を形成していた・・・
そう考えるならば、この遠く離れた不可思議なアスカとの結び付きにも、ある程度の説明が付く。
現に、新使徒群(LNA)と言う生物種は、固有の空間転移能力(ODP)を駆使して地球上の任意点に出没するのであり、量子レベルにせよ、構成体レベルにせよ、彼ら(使徒)と言う実例(サンプル)が既にして有る以上、時間転移(タイムトラベル)は別にして、空間転移(テレポーテイション)であるならば、全くの絵空事と言う程ではない。
時間と次元を超越して結ばれる南洋(タヒチ)と南米(UBA)。
『アスカ』を受け継いで内包する大切な女性(アスカ)・・・ アスカ・ホーネットの下へと飛び越えて、引き戻したその力・・・
初号機破壊からの空白の一ヶ月を僕は全くに知らないのであり、この体が失われて再構成(サルベージ)されたのか、それともただ単に記憶喪失に過ごしていたこの僕の勘違いであったのかも、今はよく解らない過去である。
何も知らない・・・
何も解らない・・・
人知を超え、寄る術(すべ)も無い孤島の中、ただ在る物は個(シンジ)であり、他人(アスカ)であり、何かがあったのだと言う確信の源と成り得る甘美な言葉(じゅもん)が、その後に次(つ)いでいる・・・
「望む世界を君にあげよう・・・ 僕達にはその力がある・・・」
僕は、あの時、あの世界の中において、『彼ら』から確かにそのように聞かされ、そして、願い込んだ筈なのだ。
「もう一度、逢いたい・・・」
と。
アスカ(ホーネット)がアスカ(ラングレー)なのであり、アスカの中に居るアスカがこの僕を見ていると解(かい)した今、その願いは既(すで)にして叶えられたと知るべきであろう。
今ここにある現実だけがその結果(『かいき(回帰)』)としての『全て』であるのなら、今一度(ひとたび)の再開(はじまり)が何なのかを詮索して行く以上に、ここに在れる幸運(しあわせ)を悦(よろこ)び、如何に活かせるかまでを考える事こそが、この僕・・・、『碇シンジ』としての新しい責任範囲となる筈だ。
疑っては、いけない・・・
躊躇っても、いけない・・・
背中を押され、お膳立てをして貰っておきながら立ち止まろうとする愚かしさなんて、誰からも許されない『弱さ』に為(な)るのだろうとも思うし、まず第一、『アスカ』の中に居る『アスカ』からこっぴどく叱(しか)られてしまう『意気地無さ』でもあるのだろうと、正直に想像する・・・
失われた『想い』をこの手に取り戻す力は、他の誰でもなく、この僕の中でこそ培(つちか)い行く物なのだ・・・
・・・だからこそ、カヲル君。
この僕は、この存在(きせき)を信じよう・・・
そして、綾波にも告(つ)げたい・・・
君達を愛しています・・・
叶うなら、その場にて、見守って居て下さい。
今より始まるこの僕の『新生』を・・・
楽しそうな笑い声と共に、オーバーな身振り手振りでその場を和(なご)ませてくれるアスカ(・ホーネット)を目の前にして、僕は誓う。
何事も後悔の無き様に・・・
彼ら(Angels)の指し示す道筋が、奇跡的な彼女(アスカ)と共に在る日々に繋がっている事を堅く信じながら・・・
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