NEON GENESIS
EVANGELION 2  #10  " Paradise Array "








 鬱蒼と生い茂っている密林(ジャングル)を掻き分けて歩み行き、キャンプ地周辺の危険状況や地形データなどを肉眼で確認し、安全かどうかを少しずつ判断する作業(マッピング)は、(一人でも、)意外に楽しいものとなっていた。




 見渡しの良い密林の切れ間を見つけて、一休みとばかりに自生している野生バナナをもぎ取って頬張る中、こういった用途においても、プラグスーツ(=重装備?)は万能の『防護』服である事を体験として実感する。




 ボタン一つで通気性もコントロール出来、伸縮自在。




 空(低圧)でも、海(高圧)でも、ましてや密林(高温多湿)地帯においても、搭乗員(パイロット)の肉体を保護してくれる基本仕様(スペック)だっただなんて、(プラグ外条件下において、)実際それぞれに使用する(放り出される)特殊な機会(ケース)にでも恵まれ(まきこまれ)なければ、正直、永遠に解らない贅醇な二次機能(おまけ)であったのだ。





「アロー(allo)、アロー(allo)、こちらシンジ。アスカ、そちらに異常はありませんか?」





 相手(アスカ)側からの微(かす)かな反応を待ち侘びながらに、僕は思う・・・




 事前に、今一つよく解っていないままの性能だったんだと言えば、使い馴染んだこの(左腕)内蔵ブレスレット型通信装置(Pilot Handycommunicator System、PHS)の単体能力だって、そう・・・




 何所でも使える映像投影機能付携帯『TV』電話くらいの感覚で、とっても便利に使い込んでいた適格者(パイロット)備品だったのだが、それはあくまで有効範囲内(直線200mくらい)に在る時に限っての運用形態(最善サービス)なのであって、範囲を超えると途端に映像モードを犠牲にし、音声モードを最優先(プロトコル変換)する通信環境(仕様)にあるらしい。




 そして、その音声モードでさえ、測ってみれば、せいぜい半径1kmくらいの有効範囲内・・・




 本部(ネルフ)なり、プラグ内部操縦席(エヴァンゲリオン・コクピットシート)なり、ちゃんとした増幅器(ブースター)の備わっていた所でしか利用する経験(きかい)も無かったので、P-EVA(パワード)周辺を離れてしまうと、すぐさま携帯以下の性能(アンテナ0〜1本)にまで成り下がる通信体系(PHS)だっただなんて、今日初めてに知り得てしまう、ちょっとした『新事実』なのであった。






「こちらアスカ。・・・ベースキャンプ、異常な〜し」






 途切れ途切れになる音声の向こう側で、ブーたれている(っぽい)アスカが居た・・・




 事実、ヒルの吸血痕と言うのは、血が流れて(見た目が)派手になってしまう上に、傷口がなかなか塞(ふさ)がらない特殊な種類である事もまた明白なので、ちゃんとした手当てをしてあげた後でも、(ヒルに)怯(ひる)んだアスカには大事をとって『居残って』貰う事にした・・・、と言う隊長判断(「ここに居てくれる? アスカ?」)自体に問題(まちがい)があったであろう筈もなく、振り返れば(本人(アスカ)だって)納得済みの役割分担だった訳であり、ゆめゆめ、連絡を入れる度(たび)に、





 バナナ発見!  ( 「うわっ! おいしそう!」 )



 パパイヤ発見!  ( 「うんっ! おいしいっ!」 )



 マンゴー発見!  ( 「来れなくて、残念だねぇ。アスカ・・・ 」)





 とか、意地悪く、こちらも楽しみ(いじり)すぎてしまった行為が発端(ほったん)で怒ってる・・・ なんて言う事は、決して無いっ! (・・・筈?





 再三やりとりした挙句、ついには「全部持って帰りなさいよねっ!?」と言う奉勅命令(アスカ命令が確定されつつある非常事態宣言(「持って帰らないと・・・ひどいわよ?」)も、まぁ、当然と言えば当然の反論不可!と相成った訳であり、らしさ満載の大冒険紀行、パート2(孤軍奮闘、南洋密林シンジ編 : 「そもそも、僕は・・・ どうして、ここまでの苦労(たんけん)を、今ここで!? 」)と言うのも、ある意味、必然の状況(なりゆき)であったとも言えようか?






 状況に流されるこの僕は、多分絶対、笑っているに違いなかった。




 姿は見えずとも、こんなにも『彼女』を身近に感じてる・・・




 通信機(PHS)を耳元に押し当て、わずかな音声の向こう側にいるアスカは、時に怒っているアスカだったり、笑っているアスカだったり・・・





 見上げれば何処までも青く澄み渡る青空の下(もと)、この島は『楽園』で、畏(おそ)れるものは何も無く、(調べれば調べるほどに、)悠久の時間は無制限の安息と共に僕達二人の傍(そば)に居(お)り、暖かく見守り続けてくれている気分を感じて、僕はそっと目を閉じ掛けていた。




 だからこそ、余計に油断していたのかもしれない・・・




 『ソレ』が迫っていると言う現実を・・・







 がさがさ



         がさがさ







 明らかに何かが迫っている『物音』を感じて、瞬時に跳ね起きる。




 一つ・・・ 二つ・・・




 反射防止加工が施されている黒塗りのコンバットナイフ(CAMILLUS)を、まるで(EVA操縦による)プログレッシブ・ナイフでそうするように身構えて、迫り来る物体(アンノウン)に対し、耳を澄ませて神経を集中する。





 ・・・蛇?



 いや、もっと大きいっ!





 立ち姿勢のまま、眼に見えぬ脅威を推定し、素早く対応を打算して行動する。





 見渡しのいい平地(スポット)のド真ん中で身構えながら、


「シンジ先生は、世界一ナイフの似合わない男の人よね〜」



 などと、失礼なコメントする『アスカ(・ラングレー』と『アスカ(・ホーネット』の映像が脳裏を掠(かす)めつつ交差する戦闘(りんせん)体勢。





 ジリジリとした緊張の中、目の前の茂み(bush)を突破してくる諸勢力は、中型哺乳類、1、小型哺乳類、2。




 先頭をひた走る隊長機(?)には、リーダーの印であるエンブレム(赤首輪)が取り付けられていて、3倍素早い行動を・・・





 プヒィ〜 プヒィ〜 プヒィ〜





「・・・へ? ・・・ぷひぃ?






 まるでやっと見つけた懐かしい人物が僕(もくひょう)であったかのよう、泣きながら一心に駆け寄ってくる愛くるしい『ソレ』らが、いわゆる日本猪(いのししの親子の一群であると言う事を真に理解するその時まで、僕は、しばし呆然と突っ立っているのみだった・・・



 と言う事なんて、勿論、更に言うまでも無い事なのであった・・・