NEON GENESIS EVANGELION 2 #10 " Paradise Array " 「特ダネのため〜なら、エンヤ〜コ〜ラ〜 」 湿気を含んだ密林(アマゾン)の奥地を、支流に沿ってゴムボートで進み行く日本人が、ここにも一人・・・ 東亜連合通信(本社:西上海市)南米支局に派遣された一特派員(ジャーナリスト)と言う身分で、ここ何ヶ月も南米大陸・BA連合当局(ブラジリア)の動向(うごき)に張り付いていたその男の名前は、相田ケンスケ。 苦労の甲斐あって、北方管区に集結する特高警察(MP-38)選抜部隊と、それらの部隊が隠密裏に建設・警備の役割を担っていた筈である『黄金郷(El Dorado)』と言う名の秘密『EVA工場』の存在を突き詰め、その手に入れた情報源(ニュース・ソース)の真偽を確認する目的で、現地(セルバ)における潜入取材を単独敢行していたと言う事の次第(しだい)だった訳である。 慣れない密林(セルバ)潜行など、日本人の彼などには相当な苦労であった事実は想像に難くない。普通なら(、仕事とは言え、)敬遠するであろう危険行為の一種である筈だが、彼の場合、むしろ喜び勇んで自らに潜入していた方だったと特記しておくべきであろう。勿論、だからと言って、彼が決して特殊で、特別な日本人であったと言う訳でも無いのだが・・・ 「はぁ〜、”好きでやってただけ”の事だったけど、ちゃんと役立ってるなんてねぇ・・・」 飯盒での炊き方からテントの設営まで、おおよそ軍隊チックな生活知識を手に入れていた御蔭で、長期にわたる野外(フィールド)での取材活動などは、全くと言って良いほど苦にならない。 中学生の子ども時分に熱中し、時には一人特殊部隊などと言うお馬鹿設定を想定した事があったような気もするサバゲー(軍隊ゴッコ)訓練で培った野外活動体験も、意外と馬鹿に出来ぬものがあったんだなぁ〜等と感心しつつ、ケンスケは、あの時(第三新東京市)、あの頃(市立第壱中学校)の『気分』とは明らかに異なる『感じ方』をしている自分自身の心の成長に思いを馳せて、何とは無しに可笑しかった。 力の象徴である兵器/軍隊/エヴァパイロットに憧れた中学生時代に仕入れ込んだ基礎知識の数々が、『反戦派』戦場ジャーナリストとなって活躍する今の自分を形づくっている『原点』なのだ。皮肉にも・・・ なりたくても為れなかった『エヴァパイロット』・・・ 早稲田大学文科二類(文化構想学部)への進学の後、バイト先の居酒屋にやって来た先輩(台湾人女性ジャーナリスト)の影響もあってか、就職先としての『マスメディア』を強くに意識する・・・ ほとんど内々定で決まりかけていた日経新聞社(NIKKEI)から、まるで拉致されるかのように美人先輩に連れて来られた新進気鋭の東亜連合通信社(EAP)・・・ 好きだった先輩が殺されて、『暴力機関』としての軍隊を強く認識するに至った西上海本社での国際連合軍・番記者時代(西上海動乱)を経て、赴任した統括特務部隊(パワーズ)・日向マコト二等佐官から『銃口』によって脅(おど)されたと言う貴重な経験だって、少なからずに存在する。 「”我々”の闘争の結末を知りたければ、旧ゼーレ(SEELE)・・・ クロンシュタット教授(ツーロン補佐官)とロシュフォール・カールマン上院議員の周辺を調べておくが良い・・・」 明らかに『見逃す』口振りと共に、銃口を下げ、不敵に笑った日向マコト二等佐官が、ケンスケもよく知る第三新東京市・ネルフ(Nerv)本部の司令部部員(かんけいしゃ)であり、作戦部長・葛城ミサト三佐の部下として行動していた重要人物(いきのこり)である事を知ったのは、彼が紐育(ニューヨーク)へと去り、自分が西上海(シャンハイ)を離れただいぶ後の事だったので、それ以後、二度と日向自身の姿を見る機会も無かったし、訪れても来なかった・・・ 程無くして陰日向(かげひなた)に台頭しつつあった統括特務部隊(パワーズ・エリート)の影響力を伝え聞くたびに、ケンスケにとっては、統制派・・・日向マコトの銃口(ぼうりょく)に屈せざるを得なかった過去の汚点が頭をよぎり、色鮮やかな記憶となってよみがえってしまう事、度々(たびたび)であったのだ・・・ だからこそ、余計に示したかったのかもしれない。 『ペンは剣よりも強い』んだという事を・・・ だからこそ、余計に頑張れたのかもしれない。 世界が陰謀によって突き動かされゆくだなんて大嘘だ・・・ 隠されたシナリオは、市井の民(シビリアン)の元へと曝(さら)されて、正されなければならない。 その為の公器・・・ その為の報道(マスコミ)なのだから・・・ 真実を指嗾(しそう)する日向自身が『総帥(ツーロン首席補佐官)』暗殺に失敗し、既に死亡している末路を迎えていた可能性だなんて、この時点では全くこれっぽっちも想像だにしていなかった南米(アマゾン)特派員・相田ケンスケは、警備センサーと暗視カメラによる外縁部警戒網を掻い潜(くぐ)り、更なる上流(奥地)を目指していた。 無人偵察機(UAV)の定期周回が、この地における情報(ソース)の正しさを証明し、地下部分(ジオフロント)に作られていたと言うBA連合(UBA)の戦略拠点(El Dorado : エル・ドラード)が、ごく間近に迫って来たと言う軍事的な現実を、余さず洩らさず、物語っている。 調べ上げていた無人偵察機(UAV)の徘徊(パトロール)をやり過ごし、ホッして汗を拭ったまさにその一瞬、遠くからの地響きがあり、飛び立つ水鳥の大群から、待ち望んだゲートがゆっくりと今開こうとしている事態の変動を、密林に擬装するケンスケは、直感として、すぐさまに体感していた。 「誰だ? 誰が来たんだ?」 望遠レンズを拡大し、ゲートに向かって飛行していた飛行物体に対して、すぐさまその照準を定め行く・・・ そこに映った飛行物体は、BA連合・特高警察の送迎連絡用VTOL・『トータス』であり、更に拡大(フォーカス)すると、操縦者(パイロット)と助手席に座っている者(特高幹部)以外に2人の人物(ゲスト)が乗り合わせている内観までが、外部からも具(つぶさ)に観察出来ていた。 夢中でシャッターを切り続けるに、ふと、どこかで『見知った』ようなその同乗の人物達の容貌を脳裏に浮かべ、記憶の片隅で素早く(誰だったかを)照合検索する相田ケンスケは、思い当たった二人の人物像の意外性に、自分自身の思考の中で驚いてしまう。 一人は、ダミー(エントリー)プラグ研究の世界的権威、ダニエル・ノーフォーク博士であり、これは、東亜軍団(EASS)・欧州軍団(EUSS)と共に、統制派(コスモス)の本丸である北米軍団(NASS)に属する高等技術研究所(Fab.31)の総責任者として、とりわけ学界に著名な人物である。 だが、もう一方の国連軍々装を身に纏った人物こそは、世間に名前こそ知られる機会は無かったであろう筈なのだが、『日向マコト』の生い立ちや行動を調べ上げていたケンスケにとっては、非常に馴染み深い人であり、日向と同様、ネルフ(Nerv)あがりの統括特務部隊員(パワーズ)として、因縁浅からぬ物を感じざるを得なかったその人物の名は、新生ネルフ(POWERS-Nerv)副司令・青葉・・・ 「青葉シゲル特等佐官っ!?」カメラを外し、飛行する物体を、ケンスケは遠くに眺める・・・ それは探していた『ゲート』の所在を確認すると共に、世界に隠された裏側の目論見(しんじつ)に近付いた、大いなる第一歩だったのだった・・・ 「航空統制(アルファ・システム)の頚木は外され、力による均衡は、粉砕された・・・ E兵器が残り一体(P-EVA02)となってしまった国際連合(UN)に対して、ブラジル=アルゼンチン(UBA)は、世界を7回は滅する事の出来る程度のE兵器(EVA)戦力を保有している・・・」 眼下の熱帯雨林(セルバ)を眺めながら、国連軍の夏期兵装を身に纏った青葉特佐は、同乗者であるノーフォーク博士に対して、声を掛けていた。 「何故、ブラジル=アルゼンチン(UBA)に?」 と。 その問いに、少しだけ吃驚した様な表情を浮かべたノーフォーク博士は、その後、さも可笑しそうに笑いながらも、当たり前に答え返していた。 「科学者と言うのは、実に、因果な人種(しょうばい)でな・・・ 自分の中の真実に近付けるのであれば、ツーロン(統制派)でも、カールマン(連合派)でも、特段、大した違いは無いのだよ・・・」 政治的な思惑がどうであれ、莫大な予算が必要となるE技術(テクノロジー)は前進出来る時に前進するべきであり、その獲得した技術(きせき)をどう利用するかは、後世代の勝利者(ニンゲン)に判断を委ねれば良い事である。 ・・・その為の手段(スポンサー)を選ぶ心算など、はなっから無いっ! 嘘偽りの無い本音を語ってから、ウインクしながらに、こうも付け加える。 「どちらとも友人だったしね? (条件を整えて、)請われたら駆けつけるさ。どちらにも・・・」 やがて、双方共に無言になりかけていたその時に、今度はノーフォーク博士の方から青葉に尋ね返す番(きかい)がやって来た。それは些細ではあるけれども、ノーフォーク博士にとっては、根本的な疑問点の一つと言って良いほどの質問(といかけ)であったのだった。 「”君たち(パワーズ)”こそ、統制派だと思っていたのだがね? 」 日向マコト(POWERS-Nerv)は、カールマン(UBA)の企みと決意を知り、これを押える側にこそ、回らねばならなかった筈だ? 何故、ブラジル=アルゼンチン(UBA)へのE技術流入を黙認していたか? 人の好(い)いムルマンスク(博士、独国シュツッツガルト:Fab.25)あたり等は、日本人は言う事を聞かん!と、本気になって嘆いておったようだがのぉ・・・ 探るような目つきで青葉の事を捉えている博士の姿を見て、青葉の方も実に笑いながら答え返さざるを得なかった。 「パワーズ(統括特務部隊)と言っても、私達はネルフ(使徒専門)です・・・ それに・・・」 「それに?」 そこまで『英語』で交わされていた両者の会話は、一方により、唐突に『日本語』へと切り替わってしまっていた。 「我が戦友(とも)の想い(ねがい)は、ここでしか実現できません。(事態の進んだ、)今となっては・・・」 アマゾン(セルバ)の大地が開き、秘密工場(エル・ドラード)への扉(ゲート)がその正体をのぞかせて、下降するVTOLを受け入れる・・・ それは、世界を二分する片方の勢力(フリーダム・ブルー)に肩入れした日本人(ネルフ職員)が、その成果に向かって足を踏み入れた、初めての瞬間だった・・・ 第十話 「楽園への方程式」 −完− The Next Story ・・・ Genesis 1:11 ( The LAST of EVANGELION ) " WITH YOU " E2メニューに戻る / VBトップに戻る/感想コーナーへ |