NEON GENESIS
EVANGELION 2
Genesis 1:2
・・・
”Starting Process(b) ”
「何をする! 日向 特佐!! これは・・・ これは一体、どういう事だ!!」
衛兵に両腕を捕まれた対使徒戦略情報本部(AAIA)司令、信濃ミノル大将は、相変わらず胸の十字架を触り続けている男、日向マコトに向かってそう叫んだ。
「どうもこうもありませんよ、信濃司令。貴方は解任された、そういう事です」
一回り年の離れている元司令官に向かって、日向は激することなく言葉を発する。一方、唐突に拘束された側の信濃司令官の方は、とても冷静ではいられなかった。
「何の? 一体、何の法的権限で・・・」
「我々は、総帥直系の統合管理官であり、理由はどうとでもなります・・・ お忘れになられましたか?」
「くっ! こんな時にだけ、虎の威(パワーズ)を借り付けるつもりか!? だが、聞けっ、日向よっ!! 我々には、まだAMERIAがある。物理破壊は避けられんが、必要最低限の目的を達する事だけは、絶対に確実な状勢だっ!! 何故だ? 今、どうしてこの私が、たかが佐官級ごときの管理官に拘束を受けねばならんのだ!! 我々(将官級)には国連総長からの信任状もあるのだぞ!? 無下(むげ)には出来まいっ?」
「連れて行けっ! 司令は錯乱状態だっ!!」
「ハッ」
「待て、日向! 何故、強気になれる? どうしてだ? お前(特務官)や補佐官たち、パワーズ(統制派)連中は、この使徒群(L.N.A.)の復活を利用して、一体、何をどうしたいんだっ!? 騙されん! 俺は騙されんぞっ!! 答えろ、日向ぁああ!!」
連行されていく信濃司令に一瞥もくれずに、日向は、傍らに付き添う女性士官の方を振り向くと、即座に命令を下して、行動を開始した。
「長門一尉、多くは言わん・・・ 分かっているな?」
「分かっております」
きびきびした動作が小気味良い。
そのまま、敬礼一つ繰り返して退出する長門レミ一尉を視界の片隅に置きながら、日向は、手元にあるスピーカースイッチの一つをオンにした。
「みな、現状のまま、その場で聴け。Operation ”Praying Doll ” は、部隊標準18:15の段階をもって失敗に終わり、司令官・信濃大将の解任を持って、その継続権限が剥奪された・・・ 残された我々には、一刻の猶予も残されていない。本日ただいまより、ここ国連軍第一戦略情報本部(AAIA)は、POWERS(パワーズ)の直令下におかれ、その専任事項は、伍号計画(PE計画)の遂行に切り替わる・・・ なお、AMERIAのEMLシステムは、ランクBに落とし、これを継続。MAGI-4の最優先事項は、市内に現存するEVAシリーズの復活に、これを変更。総員、19:00における期限を持って行動せよっ!!」
「ま、まだ学校の方に残っておられたんですか、碇先生?」
震えるアスカを宥めつつ、校門に向かっていた僕に対して、何処となく慌てた感じの教頭先生が声をかけて来た。
「すいません、教頭先生。遅くなりました。すぐに帰りますので」
「いえ、碇先生。今だったら、もう帰らない方が良いでしょう。 たった今、関東、東海、甲信越地方に非常事態宣言が発令されましたから」
「え!? 非常事態宣言が・・・ ですか!?」
「ええ、そうです。詳しい状況は分かりませんが、実に14年ぶりに発令されました。校内に残っている生徒は、その子で最後ですか?」
おそらくそうだとは思いますが、正確には分かりません。部室棟に残っている子がいるのならば、あるいは・・・・
曖昧なるままにそう答えると、教頭先生は、運動場の方向へと駆け出しながらに、即座に、こう答え返した。
「私が、今から確かめてきますので、碇先生は、その子を早くシェルターにまで避難させてあげてください。あっ、それと、地域住民もやがて避難して来るでしょうから、その誘導役のお手伝いの方も、後で一緒にお願いします」
「はい、分かりました」
そう返事をする僕に対して、頷きで返事を返す教頭先生。
だが、校内を点検するために、急いでその場から離れようとしていた教頭先生は、別れ間際に、思い出したようにこちら側を振り返り、こう話を付け加えていたのだった。
「そうそう、そう言えば、長門レミというとてもお美しい女の方が、碇先生の古くからの知り合いだとかで、わざわざ会いに来られていましたよ。つい先刻のことです。何処かに携帯でお電話されていたようですので、もし、また職員室の方に戻っていらっしゃるようでしたら、碇先生の方から直接に避難シェルターの位置の事を教えておいてあげてください。お願いします!」
長門レミ?
僕の知り合い!?
僕は、教頭先生の言う、そのような女性の名前に、まったくの聞き覚えがなかった・・・
『目標、ディメンショナル・フォールト(次元移動)!!
AMERIA四号機、八号機、十号機、追尾不全っ!! 目標を喪失(ロスト)しましたっ!!』
(やはり動的に進化した奴等の前では、 AMERIAアタックと言えども、何の効果も成さないガラクタに成り下がったか・・・ 何も現状(しんじつ)を知らない信濃ではないが、少々の足止め効果ぐらいは、この俺も期待していた物だったのだが・・・)
衛星軌道上から発せられる指向性攻撃、AMERIAアタック。
第4世代のMAGIとリンクして、寸分の狂いもなく目標を打ち抜く、人類の生んだ36個の連動超兵器(スーパーウェポン)。
しかし、目標であるべき使徒は、19:00
ジャストに開始されたその電離圏上空からの必殺の一撃を、いともたやすく、簡単にかわしてしまっていた・・・
『目標、再現出!! on stage JNT201・・・
なっ! 本当か!? ・・・こ、この場所は!?』
「どうした? 続けて、状況を報告しろっ!」
狼狽するオペレーターに対して、低い声で一喝する日向。
しかし、その実、その報告の中身に対して、格段の期待をしている訳ではない。
そう、この時の日向には、報告の結果を待つ間でもなく、使徒が一体何処から来て、何処に転移しようとしたのか、ある程度の範囲で予想が出来ていたのだ。
(おそらくは、第3新東京市近辺・・・ それは、始まりの土地・・・)
『日、日本です。第3新東京市海上100km・・・ JNT201、ポイント21D!! 信じられません! タヒチ周辺の作戦海上から、一万kmを瞬時に転移してきましたっ!!』
(やはり、復活する
Evangelion を見逃さないかっ!! 賢明だなっ!? L.N.A.(Lost Number's Angels)っ!!
)
それまで、机を前にしながら、一瞬たりとも体を微動だにしていなかった日向特佐(総司令代行)は、その瞬間、即座に椅子から立ち上がって、このように命令を下していた。
「内閣府官房(せいふ)には、非常事態宣言を出すように要請しろ!! そして、EASS/FASS(東亜軍団・SS空軍極東アジア方面隊)司令部に対しても、支援要請!! イルマ、コマツ、カデナ、ニュータバルの各対使徒装備JCA−F2・F3(フォワード)部隊は、残らず全部上げろ!! いいか、倒そうと思うな。復活するまでの時間を稼ぐだけでいい・・・ 現状で、使徒(LNA)のパワーに対抗出来る攻撃主体は、G.E.D.エヴァンゲリオン、只一体だけだっ!!」
「ふ〜ん、変態だとは常々思ってたけど、まさか、見境無しの女たらしでもあったとはねぇ・・・ しっかり、ナンパには励んでたって訳だ・・・」
「な、何の事だよ、琉条さん」
幾分、落ち着きを取り戻したアスカが、何故だか、妙に突っかかってきた。
それは、知り合いであると言う嘘を吐いてまでこの僕を訪ねて来たのだという女性の姿を、急いで職員室の方まで確かめに行く途中での出来事だった。
「長門レミって、どんな人?」
「し、知らないよ。会ったこともないんだから」
「嘘! 何で会ったこともないのに、突然、そのお美しい方っていうのが、ムッツリ変態のあんたの所なんかを訪ねて来るのよっ!! そんなの全然おかしいじゃないっ!!」
ムッツリ変態って何なんだ?
とその時、他愛も無く思わないでもなかったのだが、今は一刻を争う。
彼女が何時もの調子を取り戻した事を喜ぶ半面、悠長な話を続けてはいられなかった僕は、彼女の肩に手を置きながら、こう言った。
「とにかく、僕は職員室の方を覗いてみるから、琉条さんは、ここで待ってて。後で必ず僕がシェルターの方に連れて行くから・・・」
すると、アスカは、肩に置かれた手を乱暴に振り解きながら、こう叫んだ。
「気安く触らないでよっ、馬鹿!! ふんっ、わざわざ嘘吐き変態なんかに連れて行って貰わなくても、シェルターぐらい、独りで行けるわよ! 子供じゃないんだからっ!!」
そして、弾けるようにシェルターの方角へと駆け込んで行ってしまった。
途中、わざわざ大袈裟に振り向いた上に、イ〜ダッという表情を残しつつ・・・
(やれやれ、このアスカの心も、やっぱり僕程度なんかでは、理解し難いものがあるなぁ・・・ 一体、何がまずかったんだろう?・・・)
振り解かれた手のやり場に困りながら、そんなことを思っている僕のすぐ後ろで、突然、クスクスと笑う女性の声が聞こえて来た。
「可愛らしい、お子さんですね。貴方の生徒さんなのですか? 碇先生? 」
その声に驚いて振り向くと、 彼女は、どういう訳だか、この僕に向かって敬礼をした。
「!? ・・・あなたは何方ですか?」
「おや? 御存じない? 私の方は、こんなにも貴方の事を学習して、知り尽くしているというのに・・・」
そう言ってなおもクスクスと笑う。
そこに立っていた人物は、見覚えの無いジャケットに身を包まれているロングヘアの女性だった。
しかし、感じが良くて美人な顔立ちである事は認めるけれども、全く見たことがない人物に、非常におかしそうに笑われているという事実だけは、如何ともし難い。
僕は、声に怒りがこもらないよう注意しながら、その女性本人に訊ね掛けてみた。
「分かりません。 どう考えても、僕と貴方は、全くの初対面だと思うのですが・・・ 違いますか?」
「そうですね。その通りです。申し訳ありません。 やっと本物の貴方に出会えた喜びで、ついついその事実を失念しておりました。お許し下さい」
そう言って深々と頭を下げる彼女の姿に、僕の疑問は更に深まっていく。
そんな僕に対して、顔を上げた彼女は、その表情を真剣なものに切り替えつつも、こう名乗ったのだった。
「私は、国連軍統括特務部隊POWERS(パワーズ)所属、長門レミ一尉であります。以後、お見知りおきを・・・」
そして、彼女は、軍関係者というキーワードに驚いている僕を尻目に、僕が関わりを持たなくなって以降の特務機関ネルフの動向を、かいつまんで説明し出した。
壊滅したはずのネルフが、組織的に別系統の形態で残されていたということ。
僕が知らなかっただけで、そこでは、最終使徒・アダム研究が極秘裏に押し進められていたのだということ。
さらには、改良型エヴァンゲリオンの発展とアダム研究の研究成果をベースとして、変形機構をダイナミックに内蔵した新型エヴァンゲリオンが現在只今も開発中であるということ。
それらの研究開発は、全て、予想され得る『約束の日』のために行われていたということ・・・
その話のどれもが、僕にとっては、全く信じられないものばかりであった。
ネルフ? 使徒? EVA? アダム?
それらは、全て14年前に終わった出来事だったはずじゃないか・・・ それに、そんな話が、今のこの僕と一体何の関係があるんだ?
僕はそう思っていた。
しかし、そうではなかったのだ。
それは、最後の最後になって、彼女が僕の瞳を真っ直ぐに見据えながらに、
ここへやって来た真の目的を小さく付け加えたことからも、明らかな事となった。
彼女は、その話の最後で、はっきりとこう述べたのだ。
「仕組まれた『約束の日』を成就させるために、人類の敵、使徒(L.N.A.)は、スケジュール通りの復活を遂げました。お願いです、碇先生。お力をお貸し下さい。第三衝撃(T.I.C.)の英雄・・・ 選ばれしEVA初号機パイロットとして、かつて、その全ての使徒撃退・殲滅に成功していた貴方の比類無き力を・・・」
・・・と。
それは、漠然と考えていた不安感が、実際に現実のものであったことを・・・
そして、ありふれた日常が、唐突に終焉を迎えてしまったのだということを・・・
この僕に告げている一言だった・・・・・・