NEON GENESIS
EVANGELION 2 #5 " POWERED EVANGELION " side-B
「概要は、今までにお伝えした通りです、碇先生。主力武装パワードランチャー(PDL)は、変形後にしか撃てません」
「SSDに直接つなげる必要性があるからですか?」
「それもあります。ですが、この方式における利点は・・・ 」
「見て見てぇ、シンジ先生。ピッカピカのおニューよ。今日から、私、このスーツを着るんだって! どう? 似合ってるかなぁ?」
格納庫に出向いた僕と長門一尉を見とめたアスカが、エントリープラグ(Entry-β)から、即座に駆け寄って来る。
その駆け寄るアスカのプラグスーツの配色が、かつてのアスカの物と違って、全体的にショッキング・ピンクで構成されているのだという事を、僕はその時になって初めて知った。
「女の子らしくて、可愛いいよ。綺麗なアスカに、とても似合ってると思う・・・」
「え!? そ、そうかなぁ。ねぇ、本当に? 本当にそう思う?」
「思うよ。そのスーツは、アスカの格好にとてもよく似合ってる。僕は好きだな・・・」
「ま、まぁ、先生の性格からして、何を着ても似合うってぐらいの事は言ってくれそうだなぁ・・・とか思ってたけど・・・・ フフッ、まぁ、とりあえず、そんなにもきっぱりと言い切るのなら、率直な意見、其の一として素直に聞いておけるってもんよねぇ〜 有り難う、先生」
嬉しそうに照れた表情を浮かべるアスカが、僕の目の前に居た。
しかし、本当の僕の思いとしては、似合う似合わないは別にして、その彼女の姿が、せめて赤ではなかったという事にのみに、心から救われた思いがしたような気になっていただけだった・・・
勿論、それは、直接アスカに話す事の出来ない僕だけの個人的な感想であったのだけれども・・・
「では、碇先生。私は、これにて・・・ アスカちゃん、戦闘中に何か分からない事が生じた場合には、ミッションリーダーの私に直接聞くか、ベテランの碇先生の指示にしたがってね!」
「大丈夫よ、レミさん。あの程度のシステムで分からないことなんて、天才の私には、何にもないもんっ!! 悪いけど、そんなものは取り越し苦労、余計なお世話ってもんだわっ!」
自信満々かつ何処かぶっきらぼうに返事を返すアスカの様子を見た長門一尉は、僕の顔を一度だけ振り返るとクスリと笑い、「彼女はああ言ってますから、後は、宜しくお願いしますね、碇先生」とすれ違いざまに小声で囁きながら、僕にインターフェイスセットだけを手渡して、そのまま格納庫を去っていった。
「ねぇねぇ、先生。それって、結局の所、何なの? そう言えば、あの時の先生も、それを付けていたみたいだったけど?」
長門一尉が去ってしまうと打って変わって機嫌の良くなったアスカは、興味津々にインターフェイスを眺めている。
いくら、ピンクのスーツだからと言っても、この戦闘姿になったアスカに、アスカのシンボルとも言うべきインターフェイスの事を、この僕自身の口から説明する日がやって来ようなんて、昔の僕には、到底想像もつかない事だった。
アスカを見る僕の気持ちは、さらに複雑性を増していくような気がする。
馬鹿馬鹿しい。何を今更・・・
彼女が彼女である事なんて、僕にはとっくに分かっている事だというのに・・・
「インターフェイスだよ、アスカ。ともすれば髪飾りみたいにも見えるけど、これはね。戦闘中に、このエヴァンゲリオンとのシンクロ性能を僅かでも向上させようと言う目的で開発された重要な操縦補助道具(シンクロサポーター)なんだ・・・」
「へぇ、そうなんだ。で、何処に、どうやってつければいいの? やっぱり、頭?」
「・・・僕が、つけてあげるよ。動かないで、アスカ」
僕を見上げる彼女の赤い髪飾りをそっと外し、ピンクの専用インターフェイスに置き換える振りをしながら、僕は、流れる彼女の栗色の髪に手を置くと、そのまま胸の中へ彼女の頭を静かに抱き寄せた。
「せ、先生!?」
「アスカ・・・ この新しいパワードエヴァンゲリオンの思考言語は、今の所、英語
only だよ。日本語フォーマットへの変換が間に合っていない・・・ だから、アスカが英語が苦手だと言うのなら、あるいは、今日だけでも・・・」
”・・・ nowadays ・・・ Do you really think junior high school
students can't speak English? ”
そう淀みなく話すアスカは、僕の目を見上げたまま、わずかながらに微笑んだ。
「・・・だけど、アスカ。ここに来て、何もいきなり ・・・ 分かって欲しい。本当の僕は、今の今でも反対なんだ。乗らなくても済む方法があるのなら、最後までアスカにはその選択を行なってもらいたいと心の底から思ってる・・・ ネルフの都合にアスカが巻き込まれなきゃいけない理屈なんて全然にない。そんな人間は、僕一人で十分なんだよ・・・ だから・・・」
「 ・・・ 有り難う、シンジ先生。私の事を心配してくれて・・・ だけど、もう良いの。パイロットとして選ばれた以上は、戦闘だって、何時かは経験しなきゃいけない事だから・・・・それにね」
「それに? 」
「この方が、こうしてみんなのために頑張ってる先生に近くなれるじゃない。大丈夫。今の私は、かえって嬉しいと思ってるくらいよ」
そう言って、アスカは僕の背中に手を回して、体を預けて来た。
シクス・クォリファイド(第六適格者)にして、新型パワードエヴァンゲリオンにおける最高のパートナーとなるべく選ばれたアスカ・ホーネット・・・
なまじエヴァパイロットとしての素質を持って生まれた事が発覚したがために、祖父を失って悲しみに打ち震えていた彼女もエヴァに乗って戦わなければならなくなってしまった皮肉な運命。
だけど、僕は、この手の中のアスカを守りたいと思う。
共に在りたいと願う。
例え、本当に不適格な僕自身には、そう願う資格なんて全くにないのだとしても・・・
「ねぇ、先生。そんな事よりも、本物のL.N.A.を倒せたら、私の言うことを聞いてくれる? 私ねぇ、来週あたり、シンジ先生と・・・」
「 ・・・ アスカ。アスカが怪我もなく無事に帰って来たら、僕は、その時に何だってアスカの言うことを聞いてあげるよ。約束する・・・」
「・・・本当?」
「だから・・・ね?」
「ん?」
三種警戒ラインをLNAに突破された事を告げる緊迫したアナウンスがホフヌング艦内に流れる中、僕は、安全に帰って来るおまじないだからと言って、腕の中の彼女のおでこにそっとキスをする。
顔を離すと、一瞬だけ怒ったような表情を見せているアスカ・・・
僕は「嫌だったの?」と聞いてみる。
彼女は言った。
「・・・そうじゃないでしょっ! そのおまじないは、ココっ! ココにするのっ!! 大事なんだからね、間違えないでよぅ! もう〜」
改めて重なり合う唇が、本気で熱い・・・
・・・目を閉じて・・・
甘い吐息を漂わせるアスカ・・・
僕はただ彼女を守りたかった。ただそれだけが、本物の希望(Hoffnung)であったのだから・・・
*
「ヘイズ艦長、今日の日本は、どうやら全国的に月曜日のようなのだが、君のジンクスによると、これからの戦闘の行方はどうなるのかね? 私は、副司令の立場として、君の朝食の内容がとても気になる所なのだが・・・」
突然の青葉の質問に、発進準備を進める飛行甲板を見詰めていた艦長は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐさまその意図を理解して、ニヤリ笑いを浮かべながら、傍らの青葉副司令に向かって返答した。
「マーマレードでしたよ。そうですね。大丈夫なんですね。『英雄』と『あの娘』は、立派にLNAを倒して、私達の艦を守ってくれるのでしょう。ああ、やはり今朝の私の選択は、間違えていなかった。マーマレードは、世界の平和に貢献する、実に偉大な食べ物なのですなぁ、そう思いませんか? 青葉副司令?」
浮上していくパワードエヴァンゲリオンの機体が、銀色に眩(まぶ)しい。
正副合わせて三基のSSDによって生じるバックファイヤーを上空に眺めながら、震え出す戦闘ブリッジに居残る青葉たち三人は、この新たなる戦闘鬼神、S.S.G.パワードエヴァンゲリオン−01(ゼロワン)が生み出す完全なる勝利を、その時、訳もなく、確信していた・・・
(Cパートに続く)