NEON GENESIS
EVANGELION 2 #6 " The Next Generation "
「パワードEVA初号機、AMP・ATフィールド展開・・・ γ−VLS(Gamma TYPE - Valiant Logic Signal)の発生を確認!!」
「パワードEVA弐号機、初号機VLS影響下におけるフィールド内活性(ATF-Active Promotion)を確認 ・・・ 第六次PPS連動試験、成功!! 続いて、両機、変形システム(ETS)項目のチェックに移ります」
第3新東京市海上100kmの上空で浮上する二体のパワードエヴァンゲリオンが同時に飛行形態(POWERED-2)から準飛行形態(POWERED-3)へと変形する。
その形態は、決戦兵器パワードランチャーを使用する事の出来る最低限の攻撃体勢にある事実を意味した。
「 ・・・ 先程の結果は?」
「01(初号機)が、36pt。02(弐号機)が、43pt。どうやら今までの計測スコアを平均すれば、新型ダミーを使用する方が遥かに効率的な運用が望めそう・・・ ですね。ODD本番での無人案併記を主張する作戦参謀(スプルーアンス上級特佐)の提案内容が、今の今から想像出来てしまうかのようです・・・ 本隊(カナン少将)はそれを支持するでしょう・・・ 」
「フッ、そうだな・・・ だが、可もなく不可もなく(硬直した安定性)は、この場合、同時に欠点でもある。ましてや、応用の利かない無人案(REI)主力などと・・・ 現パイロット両名が、叩き出した62ptのシンクロ記録を抜けぬ内には、まだまだ Direct-Conversion
タイプ・Nダミーを主力とする訳にはいかないな・・・ 真なる伍号計画(ODD)では、あらゆる可能性への対処を考慮しておく必要があるのだから・・・ それは分かっているのだろう? 長門一尉?」
「はい」
「運用上の本命・・・ SGパイロット達の到着は何時になる?」
「FGパイロット、鈴原トウジ特務二尉と共に、明日、ブリスベーンDDを発つ予定です。おそらく15日の有人搭乗試験には、間に合うのではないかと・・・ 」
NEON GENESIS
EVANEGELION2
CROIX ROUGE
・・・・・
The Next Generation
「ねぇ、先生、シンジ先生。起きてよ、起きてったらぁ」
僕は、その日、何時もより10倍くらい元気のあるアスカに揺り起こされて目を覚ましていた・・・・
「う〜ん、もう少しだけ寝かせてよ、アスカ・・・ 昨日はね、大和先生の夫婦喧嘩ヤケ酒に付き合わされて、すっごく大変だったんだよぉ・・・」
「情っさけないわねぇ、もう〜 」
うっすらと目を開ける視線の先には、小犬のワンポイントをあしらったQueen's
courtのエプロンを着けているアスカが居た。台所から漂って来る香辛料の臭いと左手に持っているお玉から察するに、朝ご飯としてなんとカレーライスまで作ってくれていたらしい。
「・・・天気の良い休日に何時までも行動を起さず、のうのうと惰眠を決め込んでいるような人間は絶対に出世なんかしない! これは社会人として永遠の真理であるっ! よいか、アスカ!? そ〜いう男の所だけには、嫁に行ってはいかんぞっ!? 何かと言うと酒に溺れて自分を見失っている男も本質的には同様じゃっ!! ・・・って言うのが、うちのおじいちゃんの口癖だったんだけど、ひょっとして、シンジ先生は、両方?」
「うっ、その通り・・・ かも・・・。言い訳出来ません、ズバリすぎて・・・」
LNAは出ない。
起動訓練だって、次の土曜日まで何にも無い。
期末試験用の英語問題等は、とっ〜くの昔に作成してある。
今のこの僕の状態を一言で喩えるのならば、久々にやってきたこの世のパラダイス・・・
と言っても、決して言い過ぎではなかった。
「・・・それじゃあ、言い訳出来ないって、結論で良いよね? ついでに、永遠に出世しない僕にも乾杯っ!! じゃあね、お休みなさい、アスカ・・・ 」
「・・・ ちょっと、ちょっと、シンジ先生?」
「何だい?」
「出世だとか、大人の付き合いだとかは、どうでも良いんだけどねぇ・・・ ひょっとして、本気で忘れてな〜い?」
「何を?」
僕は、もう一度、シーツをひっかぶる一歩手前で、目を開けた。陽光に照らされて視界の真正面に飛び込む逆さまなアスカの顔は、さっきまでと違って、何故だか、とっても怒っているようにも見える・・・・
はて? 何でなんだろう?
僕は、彼女を怒らせるような事を言ったっけか?
・・・言っていたのだった。思いっきり・・・
「私との約束を綺麗サッパリ忘れていたという罪は、異様に、異様に、異〜様に重いわよ。こんなんじゃ全然に許されないんだからねっ!!」
プンスカ
・・・そういう擬音が似合いそうなアスカが僕の目の前にいる。
ここは、2015年段階で完全破砕されてしまった第3新東京市復興計画(T3RP)の看板事業として、第三芦ノ湖の真ん中に建設された最新鋭・新式浮島工法の湖上都市、「ドリームレイクシティ」。そして、その人工島内の中央商業施設、「フェスティバルアベニュー」の一角に、今月の末オープンしたばかりである話題のカフェレストラン、「Neige
Blanche(ネージュ・ブランシュ)」だった。
「大体、シンジ先生は、この美少女との約束の重さと言うものを・・・ あっ、すいません。このチョコ・ア・ラ・モードとぉ・・・、マーベルプティング追加でお願いしま〜す♪ ・・・ねぇ、聞いてる? この後のペナルティは、相当に覚悟してもらいますからね。何時かみたいな猿の縫いぐるみなんかじゃ、絶対に騙されないんだからっ!」
「・・・アスカ」
何よ?
物言わずジト目で答えるアスカの勢いに、僕は喉まで出掛かった「食べ過ぎなんじゃないのかい?」という言葉をすげなく引っ込めた。
きっと女の子の胃袋というものは、甘い物に関してだけ別腹であるに違いない。
そうだ。そう思おう。
でないと、この量には説明が・・・
「まぁ、海よりも深く反省してるんだったら、まずは遊遊館に行って今話題のジンベエ君夫婦を見て〜、その先のアヴェニューのブティックにも当然付き合ってもらって〜、それからねぇ・・・」
財布が全額僕持ちであるという事で、彼女はすっかり安心しきっているのだろう。どうやら行く先々全てにおいて、彼女はトコトンまでこの僕に奢らせるつもりでいるらしかった。
「う〜ん、映画も良いし、プラネタリウムっていう線も捨て難いわねぇ・・・ まっ、いくら悩んでた所で、新厚木の第三TDLってコースは、もう充分に手後れだとは思う・け・ど、誰かさんの御蔭で・・・」
「もういいかげん、それは許してくれよう。僕が悪かったから」
「ふ〜んだっ!」
全身これ非難・・・ 絶対に許しませんからねっ!!
といった感じで、目の前のアスカは、鼻を鳴らして、舌をちょこっとだけ突き出している。
しかし、そういう無防備にストレートな彼女の顔を久々に眺め続けていると、不思議と僕の心の中にも、ホッとするような空気が流れていったようにも感じられて来るのだった。
ここ最近の彼女は、学校とネルフと僕のマンションの三個所を行ったり来たりするだけの単調な毎日であり、今の彼女には、真の意味での自由な時間という物が存在しない。
そして、エヴァパイロットの先輩として、ここまで環境が激変してしまっている彼女に対して心細やかに気を遣わなければいけなかった筈である経験者の僕は、一人三役の自分自身(教師・保護者・エヴァパイロット)をこなして行く過程の中で、気が付けば、何時だって年下の彼女の方から気を遣われてしまっていると言う恥ずかしい現実・・・
どちらの方が大人(おとな)であるのかよく分からない状況の中で、こんな時に、こんな事でしか甘えて貰えない自分自身が情けなくもあり、悲しくもある。
だが、同等に嬉しさも感じられて来るのだ。
こんな気持ちを彼女に話したら、
「先生って、ばかぁ?」
とか、言われそうだけれども・・・・
さすがに食べ過ぎだったのか、何のかんのと言いつつも、実はこっそりとトイレの方に駆け込んで行った(ようである)アスカを待ちながら、僕は一人、アップルティーをかき混ぜまわしながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
海水が流れ込んでしまった割には一時よりも塩分濃度の薄くなりつつある第三芦ノ湖の湖岸まわりを、一組の白鷺夫婦が楽しそうに戯れている姿が遠くに見えている。
静かな・・・
それでいて、とても平和な暖かい一日・・・
だが、そんな平穏な気分に浸っている僕のすぐ後ろでは、飲食店の雰囲気とは似合わないほどに大きくて・・・・
けれど、僕にとっては懐かしく、とても親近感を感じさせてくれる、ある男性の声が、唐突に響いて来たのだった・・・