NEON GENESIS
EVANGELION 2 #6 " The Next Generation " side-C
”Entry-α,Entry-β,insert!”
”A10-NC connecting PCS-L1( level-one ).
Main control's occupied by BRIDGE PROCESSOR " Hermony " !
”
”Syncronized supporter on loading ・・・ " Hermony "
corrected 10 delayed action per seconds for PCS-L2 ( level-two )! ”
”PCS,PES,PWS,PPS・・・
rights ! POWERED SYSTEM all green !! ”
”Call back " CAGE " - Information ! Transformation style "POWERED-2"
O.K.? ”
”Yes, regulation array phase-3. POWERED EVANGELION (P-2)
transformation permits・・・ No ! No ! All PET-movements continuied !! α-control
side " IKARI,SINJI ", give me a statement of PET-Information
central standard !”
「・・・了解! 飛行形態(POWERED-2)移行完了! α−コントロール主導で、パワードEVA−01(ゼロワン)を出しますっ! ゲートを開けて下さいっ!」
次々にクリアされる進路を待つ間にも唸りを上げていく三基のSSDの鼓動が八番ケージのホール全体に響いていく過程の中で、僕とアスカは、発進シグナルが青に変わるのをじっと静かに待っていた。
発進準備中にも続々と寄せられる集中管制室からの現在情報によれば、弐号機(パワードEVA−02)は、準飛行形態(POWERED-3)で、伊豆諸島から小笠原群島に向けての中間海域を、南に向かって迷走中であるらしい。
全力で追いつけば、硫黄島辺りで捕捉する事が可能となる位置関係にある。
問題は捕捉した後、一体どうするのか? という事なのだが・・・
「碇先生、聞こえますか?」
「長門一尉!?」
「射出後で構いません。パワードEVAで、説得役の鈴原二尉を拾ってください。外環ゲート235に、鈴原二尉を乗せたmk.2(マークツー)を出しておきます」
「分かりました」
左方部前面モニター上部に立ち上がるポップアップウインドウに長門一尉の指示が飛んだ。
続いて、右方部前面モニター下部にトウジのポップアップウインドウが立ち上がる。
「すまんのう、シンジ・・・ それに琉条さん。二人にも迷惑をかける事になってしもうて・・・ 帰ってきたら、あいつらだけは、思いっきり叱ってやらなな・・・ 宿舎で大人しぃしとるのかと思うとったら、こんなにも皆さんに心配かけるような大ボケかましよってからに・・・ ほんまにもう・・・ あいつらときたら・・・」
「大丈夫よ、鈴原さん。私たちがうまく止めて見せるわっ! どういう理由だか知らないけど、二人をあんまり叱らないであげて・・・ 二人には、きっと何か理由があったのよ!」
「そうだよ、トウジ! 僕たちは全然構わないさ・・・ 今はとりあえず、今後の事だけを考えよう?」
「ありがとう・・・ 二人とも・・・」
トウジのウインドウが閉じるのと同時に、前方の発進シグナルが青へと切り替わった。
と、同時にパワードEVAの推力を加算した電磁カタパルトが、加速を付けて一気に稼動する。
射出後の上空左旋回の機動の最中に、都市中に響き渡る射出警告音と共に山間部の射出ゲート235が開き、トウジのmk.2(マークツー)もドッキング装備(パック)を装着した状態で、たった今小さく発進して行く姿が見えていた。
僕たちは、そのまま片膝をついて待機するmk.2(マークツー)の背中の誘導ランプを目標に、トウジの紫の機体(エヴァンゲリオン)へと近づいていく・・・
それは、その日に起った戦慄の死闘(かなしみ)への、まさに取り返しのつかない第一歩となるものだったのだった。
「被害状況は? 事件の経緯を速やかに報告しろっ! 」
「日向司令!?」
今、ようやく司令部に到着した日向上級特佐に対して、長門一尉は、管理保管上、セキュリティ・プロテクトに全くの盲点があったという事と、格納パワードエヴァンゲリオン弐号機(POWERED-1 − ゼロツー)が、訪れた子供たちに呼応して独りで(D.N.)に作動したという隠しようも無い事実の双方から、まず一番に報告した。
「そして、イルマ第2航空集団、JCA−F(ファイター)部隊から3機、イオウジマ南方混成団、JCA−P(パトロール)部隊から1機が、既に撃墜されています。幸いにして、人命は失われておりません。今の段階でなら、まだ言い訳も立ちます!」
「ODD演習の一環による不慮の事故・・・ EASS(国連軍東亜州軍団大軍管区司令部)に対する名目はそんな所だな・・・ 実際、P−EVA自体のキャリア運用能力を試す絶好の機会となっているのだから、これは嘘ではない。シャンハイ(西上海)との直接交渉は、青葉副司令に任せよう。彼には友人が多い・・・」
「日向司令・・・」
「第2世代(SG)の力・・・ 我々の予想以上であると分かっただけでも意味はある。そんな顔はするな、長門一尉」
何気無しに肩を抱く日向司令を、少し驚きの目で見上げる長門一尉。
けれど、そこには彼女の求める視線は、決して現れてはいなかった・・・
「統括特務(POWERS)権限第14項により、当該海域への作戦行動は、全てPOWERS-Nerv(ネルフ)の上位統括(指揮権限)とする! 良いか? 部隊標準21時よりの問題行動は、Nerv司令、日向マコト上級特佐発案による特別夜間機動演習である! 出動中のSS空軍JCA部隊は、全機後退せよ! 前段階において発令されたスクランブル情報は全て虚偽! 誤報である!」
「夜が明けるわ・・・」
左側の遥か水平線の彼方が、急速に白ばんで来る様子が分かる。
聞こえて来るのは、飛行形態特有に発生するSSDの駆動音だけ・・・
慣性飛行(巡航状態)でパワードエヴァンゲリオンを動かして来ただけに、僕たちパイロットは、この追跡飛行中、ほんの少しばかり仮眠しておくべき時間があるにはあったのだが、打ち合わせの為に各自の通信チャンネルを交流してみると、mk.2(マークツー)のトウジだけは、やはり一睡も出来ていなかったようである。
予想外な長丁場となり、遭遇予想地点を過ぎ去っても、いまだ弐号機(02)の機影が見えていない事も合わせて、モニターに映り込むトウジの顔には、明らかなる疲労の影が見えていた。
「今、太陽の出る方で、なんぞ光ったんやないか? 二人には見えたか? 」
「いや、僕は右舷の方を見てたから・・・ アスカは?」
「鈴原さんと同じ。私も見えたような気がする・・・ 自信はないけど、とりあえず行ってみない、先生?」
モニターの光点は、もう少しで弐号機を捉える地点までやって来ている事を指し示しているのである。機械的な誤差があるとは言え、二人が暗闇の中に見えたように感じたものが、ツバサ君達の弐号機である可能性は非常に高いものと言わざるを得ない。
僕たちは合議の末、慣性飛行を取りやめ、指示されていたコースよりも、やや左側へとその進路(コース)を変えた。
すると・・・
「・・・ぐう、ぐう・・・」
「・・・すう、すう・・・」
徐々に昇りつつある朝日の光に近づくにつれ、ノイズ交じりで拾って来る音の数々は、間違いなく昨日聞いたばかりであるツバサ君とアサヒちゃんの寝息だったのだった。
どうやら、彼らはコクピットの中で、ずっと眠り込んでいたらしい。
パワードEVA発見の報と、これより強制停止行動に移る旨を司令部の長門一尉にまで通告した後の僕たち三人の中には、誰言うと無くホッとした雰囲気が流れていた。
「クス、眠ってるみたいね」
「そうやな、琉条さん。ハハハ・・・ 人の気ぃも知らんと、この阿呆が・・・ えらい大きな寝息を立てよってからに・・・」
「でも、トウジ・・・ どうしようか? 硫黄島本島が近い。ツバサ君たちが眠っているのなら、操作率が落ちている今の内になんとか強制着陸を・・・ 二人が起き出してからでは、かなり難しくなって来るかもしれない・・・」
こちらの01(初号機)は、mk.2を抱えての飛行形態(POWERED-2)。それに対して、ツバサ君たちの02(弐号機)は、身軽な状態での準飛行形態(POWERED-3)なのだ。経験的に僕たちの方が操作に慣れているとは言え、彼らは未経験であるのに国連SS空軍の追撃部隊(プロフェッショナル)を撃退した程の順応力の持ち主だとも予想される・・・ 実際に蓋を開けてみれば、お互いの戦闘条件は全くの五分であるのかもしれなかった・・・
トウジは、考える間もなく即座に答えを返した。
「・・・シンジ、わしをぶつける事は可能か?」
「え!?」
「足枷になっているわしのエヴァンゲリオンを、ぼんくらボケボケのあいつらの機体のココにまで正確にぶつける事は可能か? 可能やったら、ぜひともやってくれ。わしが力ずくで止めたるっ! いや、正確やないな・・・ わしは、そうしたいんや、絶対に・・・ お前らはサポートに回ってくれ!」
一瞬、躊躇わないでもない危険な行為の提案ではあるのだが、他に強制停止の名案があった訳でもない。トウジは冗談でこんな事を言っている訳ではないし、この場合、時間との勝負(二人が起き出すまでの勝負)である以上、熟考は無意味だ。
僕は、β側のアスカに同意を求めて、機体の機動に入った。
01(初号機)が、再度、上位に駆け上がり、前を行く02(弐号機)を斜め前に見下ろして行けるポイントに到着する。
しばらくの間、水蒸気の白煙(ベーパー)を出しながら、上下に平行併走する01(初号機)と02(弐号機)。
そして、アスカはトウジを切り離した。
「さっさと起きんかいっ! この阿呆(アホ)んだらぁっ!!」
トウジの怒声と共に、空中で激突したmk.2とパワードEVAの両機は、そのままの勢いで突き進み、轟音を響かせながら摺鉢山の山腹へと激突して行ったのだった・・・
「さぁ、何でこんな事をしでかしたんか、お父ちゃんだけには言うてみぃ? 全然怒らへんから」
「嫌や、もう怒っとうやんか〜」
「うるさいっ! 当たり前やないかっ! この阿呆(アホウ)っ!!」
人型行動形態(POWERED-4)で硫黄島に降り立った時に僕たちが見たものは、巨大で世界最強の戦闘力を持つパワードEVAに対して、敢然と叱責を繰り返す小型のEVANGELION mk.2・・・という絵的に物凄い構図だった。
まるで体格だけは大きくなった常識の無い甘えん坊を、必死に躾ようとしている可哀想な親御さんの姿にも見えて来る。
僕とアスカの二人は、この鈴原親子の会話の成り行きに、どう声を掛けたら良いのかも分からないまま、ただ黙って背後から見守っている事しか出来なかった。
「どうせパワードEVAの外見の格好良さに騙されて、その機体の中に潜り込んでみたいなぁ〜♪ ぐらいに思うてもうたんやろ? ほんまに、しょうもない・・・ ツバサ辺りが一番に考えそうなこっちゃっ! ええか? よう聞け。エヴァンゲリオンちゅうんはなぁ、子どもの玩具と違う(ちゃう)んじゃい! 気軽に乗っとったら、怖い目にも会う、痛い目にも会う。ましてや、お前らは、お前らの我が侭の為に、関わってる皆さんにも多大な迷惑を掛けとんのやぞ? それが分かっとんのかっ!!」
「そやけど、お父ちゃん・・・」
「そやけども、へったくれもあるかいっ! 特に、ツバサっ!! お前は大人しいアサヒまで、そそのかして巻き込んだんやなっ!? お前だけ特別に2倍折檻じゃ、宿舎に帰ったら覚悟しとれっ!」
「嫌っ!! 私は、日本(JAPAN)になんて帰らないっ!!」
「え?? ア、アサヒ!?」
それまで、ただ大人しく叱られるがままだったアサヒちゃんが、泣きながらトウジに反抗した。
「私達はただ帰りたかっただけ・・・ ねぇ、もういいでしょ? 帰ろうよ。ブリズベーンに戻ろうよ。・・・お父さんのウソツキ! 日本(JAPAN)なんて全然つまらなかったわ・・・ 私、お家に帰りたい。ルーシーお姉ちゃんの所に行きたい・・・」
「アサヒ・・・」
「ツバサは、私の言う事を聞いてくれただけよっ! ツバサが、そそのかしたんじゃないわっ! 私が頼んだのよっ!!」
「アサヒ、お前・・・」
「・・・勿論、アサヒだけが、そう思ったからやないで・・・ 俺かて同意見や・・・ せやから、お父ちゃんと別れた後、もうええから帰りたい、帰りたい、思うてアサヒと二人で歩いとったら、何時の間にか、こいつの前に来とって、大きいなぁ・・・ と思うて二人で見とったら、いきなり、だぁ・・・となって、ぐわぁ・・・となって、何や知らんけど、せっかくやから、とりあえずこのまま乗ってみようか? という事になったら、いきなり目の前にBrisbaneって、でっかく出て来るから・・・」
「ツバサ・・・」
ツバサ君の話を要約すると、こういう事だった。
NERV司令部に用事のあると言うトウジと別れた後に、迷路のような進路に逸れてしまった二人が、ひょんなことからパワードEVA弐号機(02)の格納庫に来てしまい、「独りで」に作動する弐号機に導かれるようにコクピットの中へと入ってみると、簡単にコンタクトが成立して機体の起動に入って行った・・・
どうやらシンクロ適正とは別の基準で異なるEVAシリーズ特有の相性の問題・・・ ダイレクト・ネゴシエーション(Direct-Negotiation)が、彼らの間には成立していたらしい。
僕は、かつて、第三使徒との初戦闘時において、Nerv司令部内で綾波と初めて出会った時にも、この自律作動(ダイレクト・ネゴシエーション)に命を守られた経験もあるし、また、記憶には無いけれども、EVA暴走時にも似たような行動があったとも聞いている。
更に言うならば、通常時においても、いとも簡単にこの特殊操作法を実行した地球上で只一人の人物を僕は知っているのだ。
僕にとっての友となれたのかもしれない人・・・
そう、フィフス・クォリファイド(第五適格者)、カヲル君だ。
彼は、確か「魂さえなければ、同化出来る」とも言っていた筈だが・・・
「ツバサ、アサヒ・・・ 分かった。とりあえず、第3新東京市に戻ろう? お前らの乗ってるソレは、お前らの物とは違うんや・・・ だから、それだけは、持ち主の所にちゃんと返しておいたらなアカン! その後、どうしたらみんなが良いようになるかは、お父ちゃんが十分に考えておくから・・・ だから、なぁ?」
再び30分ほどの説得が繰り返された後に、アサヒちゃんのすすり泣く声とみんなの沈黙がその場を支配する中で、モニターの中のツバサ君は渋々に頷いた。
二人が一緒に乗り込んでいる方のエントリープラグ(Entry-α)が、みんなの見守る中、僕たちの指示通りの手順で、内部からイジェクトされる。
しばらくしてから、LCLに濡れた体で、二人寄り添って出て来たツバサ君とアサヒちゃんの姿が見えた時には、水平線上の太陽はすっかりと昇ってしまっていた。
彼らが逃走した真意を知って以降、明らかに怒りのトーンが維持出来なくなってしまっていた、この時のトウジの心中は、一体、幾許(いくばく)の物があっただろうか?
彼らはトウジ自身を含めて、例えば、何も知らないまま「選ばれた」という事を「誇り」に感じていたかつてのアスカとは違うのであり、また、今のアスカと同じように、自分自身の想いを騙してまで無理矢理に「選ばれた」事に「意義」を見出そうとしているのとも違う・・・
ましてや、流れ流されて乗らざるを得なかった、この僕とも全然違うだろう。
愛すべき家族全員がEVAシリーズの搭乗者として「選ばれ」、逃れようも無い体制の監視下に置かれるという事の苦悩・・・
望むものを奪い去り、望まぬものを押し付けられる適格者(Qualified
Person)としての運命が、ここにある・・・
搭乗者を選別するが故の対使徒防衛汎用決戦兵器「EVAシリーズ」が生み出す悲劇には、本当に果てが無かった。
そして、その上、彼らに生じた悲劇は、それだけでは止まらない・・・
この時、二人が抜け出した弐号機(02)の足元には、僕たちが気付く筈も無い強大な黒い影が、深く静かに忍び寄っていたのだから・・・
(Dパートに続く)