NEON GENESIS EVANGELION 2 #6 " The Next Generation " side-D 「いけないっ! 二人ともエントリープラグの中に戻って!! 早くっ!!」 その場の異変にいち早く気が付いたのは、まず一番にアスカだった。 右脚部強化装甲(パワードユニット)に仕舞い込まれた三叉(さんさ)の武装・・・ パワードトライデントを胸部の位置にまで噴射発進させると、先端部分を三叉に別れさせ、β側のPWSコントロールによる高周波エネルギーの収束を待ち、直ぐにでも投擲出来る状態で、α側のこの僕にまで渡す。 しかし、突然のLNAの襲撃により、ツバサ君たちの方はと言うと、元居たエントリープラグ内に駆け込む事だけが、せめてもの精一杯だった。 結局、プラグは挿入動作にまでは至らず途中までで引っ掛かり、あるいは再び・・・ と望んだ自律作動(ダイレクト・ネゴシエーション)さえも成立しそうになかった状況下では、いくらパワードEVAと言えども動かない。 人質を取られたような格好で身動きも出来ないまま、じりじりと武装を構えるしかなかった僕たちのコクピットの中でのLNAアラートは、その時、けたたましくうるさいほどに鳴り響き、急速に拡大していく黒い影の波長パターンが、本物の「青」であるという事を指し示していた。 侵食される危険・・・ 混乱する思考・・・ 動かないEVA・・・ いや、違う! この状況でも身動き出来る男(おとこ)が、ここに居た! 「おんどれ、わしの子どもに何さらすんじゃいっ!! 離さんかいっ!!」 静から動へと一瞬にして変化する中で、各部ジョイントが焼き切れるかのような機動音が発生した後に行われる、全てを見開いていても動体視力が追いつかないほどに電撃的なエヴァンゲリオン mk.2の突進・・・ 僕は、冗談ではなく目の前のmk.2(マークツー)が一瞬、消えたのかと思ったぐらいだった。 虚を衝いたトウジの目の醒めるような体当たり攻撃は、轟音と共に黒い影を実体化させ、身動きの取れないパワードEVA弐号機を捉えていた侵攻LNAの体躯を引き離していく。 けれど、その無謀な突撃の代償として、トウジの機体も頭部モニターと右肩部の一部の構造を失った。 「トウジ、離れて!! 左っ!!」 頭部モニターが壊れた事により、全ての映像が見えている可能性は保証されない。この場合のパイロットは、音声情報だけが全くの頼りだ。僕は、トウジに対して、左側に移動するように指示を出した。 でんぐりを打って、難を逃れるエヴァンゲリオン mk.2。 すかさずにパワードトライデントを投げ込むパワードEVA初号機。 投げ込まれたPWS兵器・パワードトライデントは、LNA側のATFに到達すると、目の前に存在するオレンジ色の対立位相を無理矢理に抉じ開け、徐々に結界内部へと浸透していく。 完璧に位相を抉じ開ける事に成功したパワードトライデントは、LNA本体の顔部部分へと突き刺さり、僕たちに必殺の突進スペースを与えてくれた。 「アスカ、今の内に前に出るよっ!!」 「了解!」 パワードEVAは、格闘戦主装備パワードソードを抜き放ち、間合いを詰めるべく前進する。 ホバークラフト・コントロールを兼ね備え、突進衝力をも攻撃力へと変換させるパワードEVA(POWERED-4)にとって、それは、絶対に外すはずの無い必殺の一撃となる筈だった・・・ なのに・・・ なのに、外すかぁ!? この距離で? 「分裂移動攻撃( Segmentation Broad movement )!?」 空を切るパワードソードが目標を捕らえずして大地に打ち下ろされた時、頭部を残して分裂移動した各部のLNAの細胞片は、あろう事か、倒れ込んで動かないトウジのmk.2に向かって、ひたすらに殺到していたのだった・・・
「お帰りなさい、あなた!」 「ハハハ・・・ そんなとこに、居ったんか。どないしたんや? えらい言い難そうにしてからに・・・ なんぞ買うて欲しいもんでもあるんか? ええんやで? 無理せんでも・・・」 「違うわよ、もう! ・・・あのね・・・」 「ん?」 「・・・私、子どもが出来たみたいなの。しかも、双子よ!」 「え!? ほんまか? このわしに子ども? でかしたぞ、ヒカリ! ハハハ、ばんざーい! ばんざーい! よっしゃ、わしはこれからもいっぱい、いっぱい頑張るでぇ〜 家族が何人になろうとも、このわしの力で全員を幸せにしてやるんや!」 ばんざーい! ばんざーい! 一歩・・・ また一歩と、ATフィールドを全開にしながらトウジのエヴァンゲリオン(mk.2)に近づくにつれ、彼のコクピットの中から聞こえ漏れ出している音声の内容は、彼の亡き妻との楽しい思い出ばかりだった。 自我領域が曖昧な物となる精神戦( Psycho Attack )の中、おそらくLNAがトウジの精神をのっとる為に、作為的な幻影を次から次へと見せて来るのだろう・・・ 僕がLNA−メルキセデクとの戦闘の際に、アスカの幻影を見せられていた時と全く同じように・・・ 僕たちが一番大切に想っている思い出にまで、土足で踏み込んで来るLNAの行為の数々。 僕には、到底、許せるものではなかった・・・ 「トウジ! お願いだ、起きてくれ! 今度こそ僕は君を助けたい! 何も出来なかった・・・ 何も出来なかった昔の僕とは違うんだって事をこの僕に信じさせてくれ! 大切な君(しんゆう)の為に出来る事を、僕は・・・ 聞いているのか? トウジ! トウジ! トウジっ!!」 何度目の拳合か分からないが、確実に何発かの拳撃はLNAの反抗防御を掻(か)い潜(くぐ)って、mk.2(マークツー)本体への振動(ゆさぶり)を与える事に成功している。 一縷の望み・・・ 儚い希望・・・ 本来、圧倒的に勝っている筈のパワードEVAでさえも、互角のパワーで戦わざるをえない苦しい格闘条件の中で、しかし、確実に悪魔のようなmk.2の眼光は、通常状態のソレへと確実に戻りつつあった。 のっとられたmk.2の中で、トウジ自身が目覚めつつある! 理由は分からない。 パワードEVAに対する防御とトウジに対する精神攻撃の双方が、ついに両立出来なくなったという事なのかもしれない。それは、ひょっとしたらこのままの攻撃を継続するのだとしたら、トウジとLNA本体の分離をも促進させてくれる可能性があるのではないか? という儚い希望と期待感を、この僕たちに持たせてくれていた。 けれど、それでもなお、僕たちに残された残り時間は、無常にも後1分。 そして、最終リミットまで、後4分を切っていたのだった・・・ 「・・・シンジ・・・ か・・・」 「トウジ!!」 「・・・何や知らんけど、わしは楽しいんやけどな、滅茶苦茶キツイ(きっつい)夢を見っとたでぇ・・・ ヒカリの夢や・・・ あいつ、夢ん中でも、わしの事、鈍感馬鹿、鈍感馬鹿って言いくさりおってからにな・・・ わしがこんなにもヒカリの事を想うてるんやって事に全然気ぃ付いてくれへんねん・・・ どない思う?」 「トウジ、もう時間がないんだ! 僕の話を聞いてくれ!」 「・・・ツバサとアサヒは? 二人は無事か?」 「ああ、僕たちの側に居る! だから!」 「そうかぁ・・・ それやったら・・・」 「・・・リミットだ、初号機パイロット・・・。そして、Mk.2パイロット・・・ 酷なようだが、今から君達に対して、現状で、君達の取るべき最善の行動の全てを告げる・・・」 ネルフ司令部からの強制回線割り込みモードによって、両機の正面モニターに浮かび上がるポップアップウィンドウ。 ウインドウに存在する日向さんと長門一尉の顔は、もう既に事務的なソレへと変化していた。 そして、意識を取り戻したのもつかの間、しばらくの間、ただ黙ってAMERIAアタックが発動されるに至った状況の説明と、非情とも言うべきMk.2(マークツー)のみによる現場への単独「待機」命令を聞かされていたトウジは、やがて、決意したかのような凛然(りんぜん)とした表情を見せると、僕に向かって、はっきりとこう言ったのだった。 「シンジ、一生の頼みがある・・・ 聞いてくれ・・・」 「馬鹿、違う! 簡単に諦めるなっ! トウジ!! 本当は、まだ少しだけ時間はあるんだっ!」 「そんな少ない時間で何が出来る? ・・・ネルフ ・・・いや、そもそも軍隊と言う所がどういう所なんかは、嫌と言うほどに、わしもよう知っとる。今更、ツバサとアサヒだけ、ブリズベーンに戻してくれって言うても、通らん話やろう・・・ だから、聞いてくれ。これから降り掛かるであろう適格者(QP)の悲しみも苦しみも・・・ そして、喜びさえも・・・ その全てを一身に経験して来た筈のシンジなんやったら、あいつらのこれからだって上手に導いてやれる・・・」 「トウジっ!!」 「・・・やんちゃな坊主とお姫様や・・・ 骨が折れる奴等やろうけど、気ぃ悪うせんといてな・・・ きっと・・・ きっと何時かは、素直な良い子になりよるから・・・」 「お父ちゃん!!」 「お父さん!!」 「阿呆(あほう)! お前ら、まだ、そんな所に居(お)ったんかいっ! お前らは、シンジ兄ちゃんと共に、早(はよ)う、行けっ!! お前らが・・・ お前らが無事やったら、わしは、それでええんやっ! さっさと早う逃げてくれっ!! 二人とも・・・ お父ちゃんを・・・ シンジっ! 二人の事・・・ 二人の事、わしは、確かに頼んだでっ!!」 駆け寄る気配を見せていたパワードEVA両機の気勢を制するよう、トウジは渾身の怒声と共に、LNAの支配下にはないmk.2を介した独自のATFを展開して行った。 BAL( Burst Activation Line )・ATフィールド・・・ 心の力が産み出すオレンジ色の強力なエネルギー総体の結晶・・・ 強烈なパワーの発生の前に、押し出されるように結界外へと排除される僕たちは、そのまま機体を準飛行形態(POWERED-3)へと変化させ、傍らのパワードEVA02(弐号機)の端をつかむと全速力で、その場から後退する。 最終リミットまで、後30秒を切っていたからだ・・・ 正面モニターの中のmk.2の機影が、みるみる内に遠ざかっていく。 だが、その揺るぎ無く存在する羽の生えた巨人の姿は、離れ行く者の悔恨の涙で濡れていたのだ・・・ 「これでええ・・・ んかな? ・・・あいつらが立派な大人に成長していく姿がもう見られへんのは残念やけど、AMERIAなんちゃら・・・ の攻撃圏に巻き込まれるんは、わしだけで充分な話やからな・・・ のぉ? そう思うやろ? ・・・」 やがて、上空からのきらめきと共に、雲海を貫いて発動される 十二条の閃光・・・ LNAを道連れに舞い降り行く、人類の生みなした神の雷(いかずち)・・・ 衛星軌道上からの必殺の一撃が、辺りの空間を包み込む瞬間(とき)、 トウジは・・・・ ・・・笑った。 ただ一言、「ヒカリ」という言葉だけを僕たちに残して・・・ 東方正教会(露西亜)十字( Russian cross )・・・・ 赤い十字架・・・・ 斜方線 ・・・・ 現れては消え、消えては現れるモニター情報が、目の前の出来事が嘘偽りでないという事実を補完した。
第六話 「彼らはやって来た」 −完− The Next Story ・・・ Genesis 1:7 " Honest Family " E2メニューに戻る / VBトップに戻る/感想コーナーへ |