NEON GENESIS
EVANGELION 2  #7  " Honest Family "  side-B








S.S.G.P−EVA01 (SILVER)


主兵装 : パワードランチャー (封印)


選択近接兵装 : パワードソード


追加兵装 : パワードトライデント


操縦者 : α−碇シンジ、β−琉条・アスカ・ホーネット





S.S.G.P−EVA02 (GOLD)


主兵装 : パワードランチャー (封印)


選択近接兵装 : パワードブーメラン


追加兵装 : パワードランス


操縦者 : α−鈴原ツバサ、β−鈴原アサヒ








『VBF(Virtual Battle Field)24, ROUND:1, Grade-2, FIGHT!』









「恩義はあっても、こういう場面は、関係無し、無し!! 覚悟しときぃや? 甘(あも)う見とったら怪我するでぇ〜 アスカお姉ちゃんに、シンジ先生っ!」




「言ったな? ツバサ君?  よし、来いっ!!」








 観戦武官観戦技官日向司令・・・





 西シャンハイ(国連軍東亜軍団司令部に出張中だと言う青葉副司令や長門一尉を除いたネルフ関係者の層々たるメンバーが全てを見守る中、シミュレーションプラグを使用した初めてのパワードEVA公開模擬戦闘は始まった。



 実戦並みに調整されたLCLの圧力と細部までリアルな状景を反映する戦術モニタ設定の数々が、寸分変わらない臨場感と昂揚感をこの僕たちの間に醸し出してくれる。



 対外通信が封鎖されてからの僕たちEVAパイロットは、初号機(SILVER)弐号機(GOLD)の両者とも同時に中央情報(CIS)から切り離された特殊状態での洋上サバイバル戦闘(MSB)と言う設定の中で、新たに索敵段階から独自のシステムを構築して行かなければならなくなるよう強要されており、なおかつ、その際には、実戦に即した行動と機敏な判断力をも、個々人に発揮するよう期待されている。





 ツバサ君たちとの短い通信の後、全ての戦術モニタ情報が文字どおり次々にクリアされ、自機体の所在位置さえも正確には掴めない混沌とした状況の中で、僕たちは、如何に唯一最後まで残されたパートナー・・・ βパイロットと協力し合って素早く互いの仮想目標(P−EVA)を捕捉し、且つ、無駄の無い近接攻撃を相手に対して行えるかという事・・・





 すなわち、今日の正式訓練においては、今までの訓練の集大成・・・ 互いに互いの同乗パートナーを全面的に信用し、信頼されると言う事が、一義的な『勝利』への絶対的な条件だったのである。







「左方向!! 来るわっ!!」



「何がっ!?」



「ブーメラン!!」







 P−EVA特有の多重防壁・・・ AMP・ATFが、いきなりの弐号機からの先制攻撃を辛うじて食い止める。



 だが、その肉眼には見えないアウトレンジからの正確なブーメラン攻撃は、いまだこちら側からの正確な捕捉も終了していない現段階において、既に僕たちの位置関係の方は、ツバサ君たちの弐号機から全くに知られているという事実を意味した。







「投擲(とうてき)した位置は?」



「おおよそ!!  でも、駄目!  きっと昨日みたいに移動してる! こっちはまだ半分も終わってないのにっ!!」



「とにかく動こう!  このままじゃ、格好の的だ!」







 アスカが得意とするパワードランチャー(長距離攻撃)が使えない設定(Grade-2)である以上、ノーマル近接戦闘のセオリーにまで持ち込ませなければ、僕たちの選択兵装では勝ち目が薄い。



 また、近距離から中距離にかけての攻撃幅(レンジ)を圧倒的な得意とするツバサ君とアサヒちゃんのフィールドに何時までも留まっていれば、ツバサ君たちは、この先行した状況を上手に利用して、早々にツバサ君たちの方に有利な『突進態勢(Powered Attack)』を確立してしまう事になるだろう。





 五層の多重防壁(AMP・ATF)に護られているとは言え、相手も同じパワードシリーズである以上、その全てを一瞬にして突破(中和)される可能性だってある。





 とにかく今は、戦術モニタの再設定の全てが終了していない全くに不利な態勢であっても、この地点より移動して活路を見出すより他に方法が無かった。







「終わった!? アスカ?」



「もう少し・・・ 終わったわ、先生!  それにツバサ達の位置もっ!!」







 人型行動形態(POWERED−4・ホバークラフトコントロール)のまま、ジグザグに仮想海面上を疾走する僕たちの視界の右片隅には、パワードブーメランを片手でキャッチする弐号機の姿があった。



 けれど、再びキャッチしたパワードブーメランを投擲すると同時に間髪いれない戦術移動を繰り返し、点在する島影を次々に新しい隠れ蓑としていく弐号機は、モニタ上の攻撃ライン予測から考えて、あくまで後方から回り込んでの一撃離脱(ヒット&アウェイ)戦法に全てを賭けている腹積もりでいるらしかった。



 そして、(自分が有利であるにも関わらず、)容易には初号機との近接戦闘フィールドにまで踏み込んで来ようとしていない様相を垣間見せている所などは、何かの秘策を『隠し持っている』という事の証明なのだろう。





 だったら、この場合、執拗に繰り返す無意味なブーメラン攻撃は、前段階における全くの囮(ブラフ)



 それならばそれなりの対応策というものが、こちらにもあるのだが・・・







「ソードを出すわっ!! 先に突進して、先手を打ちましょ、先生!」





 攻撃は最大の防御! そんなの当ったり前じゃないっ!!





 思わずそう怒られているような気がして、僕は微笑んだ。



 そして、こう言葉を繋げる。







「ハハ・・・ アスカらしいね。相変わらずだなぁ」



「相変わらず?」



「でも、それが一番正解に近いと思う・・・ よし、PWS(Powered Weapon System)が正常に立ち上がったら、こちら側から仕掛けてみよう。アスカは、AMP・ATFの管理を・・・ 僕は攻撃ライン(ACTIVE-LINE)を計算する」



「ちょっと待って! ”相変わらず ”って、どういう事? 私は・・・」



「え!?  ・・・あ、また来た! 避けるよ、アスカ! 避け切ったら、その時点で仕掛けるからっ!!」



「待って! 先生!!」







 しかし、その飛行するブーメランの自動追尾(ホーミング)を振り切りながら攻撃面再設定(動作変更)の全てを終了し、PWSコントロールの始動・・・ こちら側からの『突進態勢』が整った事をモニター上で確認し終えた時、一体『どの時点』で投げ込んでおいたのかがよく分からない『二つ目』のパワードブーメランが、全く予想外な方向から僕たちの初号機を襲ってきたのだった。







「なっ!?  じ、時間差(Delayed Attack)!?」



「対応が遅いでぇ、先生っ!!  一本目は、わしらが貰(もろ)うたわっ!!」






 パワードランス(西洋長槍)を前方に構えたまま、準飛行形態(POWERED-3)で 突進して来る弐号機の機影・・・ 



 その疾走する金色の塊は、紛れも無く世界最強の兵器の一つだった・・・
















「おおう・・・ 素晴らしい!  彼らは、まさにパワードシステム使いこなしている! ムルマンスク仮説(多重連装理論)が机上の空論だと言ったのは何処の誰だ!? 見ろ! 弐号機のパワー補正は、最盛期時点でのアダムをも二倍強に凌駕しているぞ」




「潜在的スペックとしてではなく、ODD実戦でも使用可能になるのだ。ドイツを離れられないムルマンスク博士も、この成果をご覧になられれば、きっとお喜びになられる・・・ しかし、この目で見てもいまだ信じられない。これがSG(第二世代)なのか? 彼らはα、β共に七歳児なのだぞ・・・」







初号機融和率 63%、弐号機融和率 96%、

稼動構成 PCS ・・・ 弐号機優位



初号機伝導効率 84%、弐号機伝導効率 84%、

稼動構成 PES ・・・ 同等  



初号機成功率 46%、弐号機成功率 53%、

稼動構成 PWS ・・・ 弐号機優位



初号機損傷率 24%、弐号機損傷率 8%、

稼動構成 PPS ・・・ 弐号機優位 





TPA−G2 (Total Point Average、Grade-2)

初号機 ・・・ 27pt  弐号機 ・・・ 46pt









 浮かび上がるコンソールと共に正面スクリーン上には観測数値が提示され、それを見詰める技術陣顧問団・・・ 国連軍の委託を受けたジーメンスADLを筆頭とするPE計画企業体連合の技術者科学者グループの輪の内からは、次々に今あるシミュレーション結果に対する感嘆と驚嘆の声が上がっていた。







「ここまでに格差が付いた限りにおいては、才能は経験を凌駕する・・・ と言う事なのかもしれん。砲撃戦闘試験(Grade-1)の結果を見て、ODDまでにギリギリの細部を詰めよう。日数的に見て、フィードバックが可能になるかどうかは疑わしいが・・・」



「確かに、そうかもしれんな。パワードシステムは適切な人材(SG)を得て、予想以上に化けているよ。全力で解析に費やしたとして、果たして我々の手におえるのかどうか・・・ だが、しかし、私が思うに、初号機のAMP・ATFは・・・」



「いや、それは違うぞ。3年前のデンバー会場にて発表されたノーフォーク博士の論文を覚えているだろ? 伝導系の更なる向上を見越してのアイディアなら、その見通しは非常に困難な物と言わざるをえない・・・ 楽観的だ」



「ならば、工程をPWSの最適化のみに特化するか? 事ここに至れば、無理や無茶は出来ない。人的資源(マンパワー)は、出来るだけ安全な前進が見込める既存分野にのみ集中させておくが上策ではないか・・・」







 彼らにとっての今ある成果は、14年にも及んだアダム研究の賜物であり、結晶でもある。 



 興奮のあまり他の存在を無視しての喧々諤々に熱中した議論が始まり行く中で、その上方に位置する発令所においても、同時期、PE計画(伍号計画)遂行担当ネルフ司令日向マコト上級特佐国連軍中央作戦本部ODD特別専任作戦参謀ウィリアム・スプルーアンス上級特佐との間で、モニター結果を見詰めながらの最終的な意見調整がなされていたのだった。







旧ネルフ・・・ 碇=冬月体制は、赤木リツコ博士の保有する貴重なE計画データの一部を意図的に隠蔽していた・・・ もし第三衝撃(T.I.C.)以前の早い時期に赤木データ全てが我々の間に共有されていたのであれば、パワードエヴァンゲリオンの研究開発は、ゆうに10余年程度は早まった事でしょう。ムルマンスク博士の発想の原点は、第6使徒(ガギエル)戦闘時におけるセカンド・クォリファイド(惣流・アスカ・ラングレー)とサード・クォリファイド(碇シンジ)の親和性にあると聞いています。日向司令も、その事実は御存知の筈でしょう?」




「・・・知っている。一人よりも二人・・・ 単独操作(シングル・オペレーション)よりも、複合操作(マルティプル・オペレーション)・・・ その方が、エヴァンゲリオンのコア統制に適している事が実証的に突き止められ、それまでに信じられて来たコントロール設計思想が一変されたのだ・・・ 忘れる訳が無い。大事な事は何一つ知らされなかった末端であったとは言え、私も旧ネルフ司令部の一員だったのだからな・・・」




「真実に一番近かった筈の旧ネルフ司令部・・・ 碇ゲンドウ氏が、一体、何の為に単独操作とファースト・クォリファイド(綾波レイ)の組み合わせに拘っていたのかは、今となっては知る余地もありません。碇ゲンドウ氏冬月コウゾウ氏の志向した野望は、ゼーレによる旧ネルフ粛正と、第三衝撃(T.I.C.)勃発直前におけるファースト・クォリファイドの挺身行為の双方により潰(つい)えました。だが、しかし、最終的に世界を破滅と破綻の危機から救った英雄は、ゼーレの用意したフィフス・クォリファイド(渚カヲル)ではなく、ゲンドウ氏の実の息子・・・ 碇シンジ氏だった・・・ これは果たして本当に偶然による結末だったのでしょうか?」




「・・・何が言いたい?」




「万全を期して準備されていた筈の参号計画(人類補完計画)は第三衝撃(T.I.C.)の惨状を引き起こし、使徒の脅威に対する人類側の最終勝利宣言として用意されていた筈の四号計画(恒久保全計画)は、新たなる侵攻使徒群(LNA)の再活性化を促しました・・・ 例え、私達の思惑がどうであれ、伍号計画が同じ轍(てつ)を踏まない等と言う保障は何処にも『無い』と言う事ですよ・・・・・・」







 モニター上の戦闘シーンは、スコール(熱帯雨)の降り注ぐROUND:2に移り行き、眼下に存在する観戦所の博士連中達は、新たなる戦闘状況が生み出す興奮に一喜一憂していたのだが、司令部上位に存在する日向、スプルーアンス両上級特佐の間には、ただ単に言葉にならない沈黙だけがあった。





 追跡光点が再びクロスし、突進スピードを加算した初号機とAMP・ATFを全開にする弐号機が激しく激突して行く中で、モニターを眩しそうに見上げるスプルーアンス作戦参謀とサングラスを掛けたままの日向司令との二人だけの会話が静かに・・・ とても静かに再開し、そのまま連綿と途切れる事無く続いて行く・・・





 そこでお互いに交換されている会話は紛れも無く第三衝撃(T.I.C.)以降の使徒(LNA)行動と対応国連軍に関する『核心』情報なのであり、パワーズ中枢に属しているSSエリート幹部・・・ ツーロン派(統制派)将校にしか公開されていない秘密情報が、そのほとんどを占められていたのだった。







カナン少将が提案された軍制改革は確実に通ります・・・ 10月人事の布石は、ODD後の世界で最大限の効果を発揮する事になるでしょう。各SS(軍団司令部)に対するパワーズ支配は一点の曇りなく完成し、統帥命令は唯一、総帥を中心とした新軍事参謀委員会が発行する体制に集積移管される手筈・・・ これに至る状況はまた、我々、WEISHEIT(コスモスの人間が長年待ち望んだ理想の形でもあります。ですが・・・」




「このままでは、肝心、要のODDにおいて、予想され得る使徒(LNA)側の抵抗を打ち破り行く要素が薄い・・・ とでも?」




「・・・第二世代(SG)の効果は認めます。そして、新ネルフが今までに積み重ね上げて来た陰日向(かげひなた)の努力の数々も・・・ ですが、我々にとっての本命は、あくまで祝福されし者(BP)。彼女の進化向上が示され無ければ、この作戦の本質はある意味、無意味であるのかもしれません。貴方自身が内密にご報告されている通り、彼女は単なるEVAパイロットの枠内だけには止まらない奇蹟の素材です・・・ 彼女には、全てを犠牲にしてでも、我々を導く『女神』にまで進化して貰わなければ困る・・・」




「承知している。そのためのネルフ(POWERS-Nerv)だ・・・ 我々は伍号計画全体が成功を収めるよう、任務を継続するODD特設司令部に対しての協力を惜しまないし、カナン少将に対しては、経過の全てを逐一御報告申し上げている。彼女は、ODD戦闘時のやむをえないアクシデントにおいて、我らの望み通りの進化を遂げることになるだろう・・・ それまでは単なる普通の少女でしかないのだ・・・」





「その言葉に嘘偽りが無いことを・・・ 信用信頼が、我ら(じんるい)に残された唯一の武器であるのですから・・・」







 再度の沈黙が二人の間を支配しかけた時、モニター上の初号機は、弐号機の圧倒的な反転攻勢に曝されていた。



 僅かながらに失望の表情を見せながら、静かに椅子から立ちあがるスプルーアンス作戦参謀の事を、日向司令も引き止めはしない。



 もはや、Grade−2シミュレーション状況下における弐号機優勢が、二本目でも覆りそうに無い様相が確定し終えた時、彼らは初めてお互いの視線を真っ直ぐに絡ませ、そのままに頷きを返し、彼らのみが解りうる意志疎通を互いに交わし合っていたのだった。







「・・・最悪の場合 ・・・バックアップとしての量産型(mk−2.SR)全機一斉投入はありえますよ? ジーメンスADLの北米工場は、パワード構想が本格化した後を受けても、クロス・コア構想そのものを放棄せず、フェアチャイルド氏の個人的な支援を受けて、独自に予算外の13機目をロールアウトさせました。そして、これを私の部門に引き継がせておいたのです・・・ 『約束の日』のために・・・」




DC型Nダミープラグを介した13機のSRエヴァに、2機のパワードエヴァ・・・ それに随伴航空艦隊を合わせて、3個の機動艦隊群(TFG)の同時再編成か・・・ アルファ防空システムを併せて、パワーズが表舞台に出て行く案件には十分すぎるほどだな。『総帥』も、いよいよにお喜びになられることだろう・・・」





「・・・BPの件 ・・・もし『起らな』ければ、『起し』ますよ? それで宜しいですね? 日向司令?」







 信じるは、覇(DINASTY)・・・



 志向するは、力(POWER)・・・






 肯定もせず否定もしない男に別れを告げ、動き出す世界の中心たる運命と義務を黙々と受け入れ行く真のエリートパワー・・・





 No.7(ナンバーセブン)、ウィリアム・スプルーアンス上級特佐・・・






 参謀大学高級幕僚課程(GSA−AC)の18期を首席で卒業し、参謀大学始まって以来の頭脳とも称されているWASP(ワスプ)階層のこの非凡な傑物が、日向の陣取る第一発令所のフロアから律動的な印象を残したままに消え去り行った時、相変わらず後ろを振り向きもしないままの日向上級特佐は、ROUND:2全計測数値評価(TPA)の掲示されている正面モニターを見詰めたままに、こう小さく呟いていた。







「四号計画の責を取らされてしまった頑固者の信濃ミノル大将とは違って、君は、誰もが認める本物の天才であり、ツーロン=カナン体制を支える最も大事な次世代の柱石(ちゅうせき)だ・・・」







 そして、言葉を繋げる・・・







「・・・だが、そう簡単に思い通りになるのかな?」







 カナン少将・・・



 フェアチャイルド北米区担当専務・・・



 ノーフォーク博士・・・





 日向自身には億尾にも出さず、何食わぬ顔をして、スプルーアンス上級特佐の特務行動を支援していた他のヴァイスハイト・メンバーに対しては、嘲(あざけ)りの笑みさえも込み上げて来る事が全くに否定出来ない・・・





 会合にて、熱狂的にパワード構想を支持したその裏で、相反するSR−13(クロス・コア)構想の準備をも、同時に推し進めていた理由など分かりきっている・・・



 総帥のみと繋がっている得体の知れない東洋人の若僧の言う事など端っから信用していなかったのか、或いは、極端に集中している最強軍事力(パワードEVA)に対して、万に一つの抑止力(ブレーカー)を仕組んでいるつもりだったのか・・・







「いくら疑おうとも、カナン少将・・・ 俺のシナリオは、既に始まってしまっている・・・ これを止める事は、もう誰にも出来ないっ! スプルーアンス・・・ 勿論、アンタにもだっ!!」







 観戦所からの伝令に応じて、後ろをようやくに振り返る日向は、今現在、ネルフ副司令・青葉シゲル特佐を補佐しながら難題な交渉事に従事している筈の腹心、長門レミ一尉が、何とは無しに側に居り、あまつさえ、これから起り行くであろう事象の全てを全面的に肯定し、そしてその全てを理解してくれているかのよう、只優しく自分自身に対して微笑み返してくれていると言う事・・・



 そんな有り得る筈も無い、奇妙な既視感(デジャブ)幻想を味わっていた。







 何故、遠く離れたシャンハイに居る彼女に対して、そんな気持ちを抱いたのか?



 そして、何故、その対象が青葉ではなく、彼女だったのか?





 それは全てを捨て去り、只一心を見詰めているような今の日向にとっては、よく分からなくなってしまった感情の類(たぐい)だったのだった・・・











(Cパートに続く)