NEON GENESIS
EVANGELION 2 #8 " THE DAY " side-B
星連合(スター・アライアンス)、Lufthansa−ADL(ルフトハンザADL)・・・
欧州航路・南米航路を中心として、世界の旅客・空輸部門の約96%程のシェアを分割占有する4つのメジャーネットワーク(WING−4)の一角に名を連ねる巨大航空運輸企業・・・
2016年末以降の景気後退と株価暴落(DOUBLE BLACK MONDAY)・・・、および、その翌年に訪れる奇跡的な反転高騰(MIRACLE WENDSDAY)の絶妙なタイミングを計りきり、過去に例を見ないほどの勢いで急激なM&A戦略路線を展開して行ったグローバル・コングロマリット、SIMIENS−ADL(ジーメンスADL)傘下の模範的な優等生・・・
横殴りの雨が間近に迫った冬の訪れを感じさせるミュンヘン国際空港に降り立つ日向は、旧式タラップの最下層から今までに搭乗していたエアバス505Dの機体を振り返ると、乗り換えのJ.F.ケネディ国際空港(ニューヨーク)で別れる事となった副官・・・ 長門レミ一尉に話し込んでいた自分自身の言葉を静かに思い出していた・・・
『・・・静かに時を待て・・・』
ビッカース・ハインケル・マウザー
フォルクスワーゲン(VW)・ADL
アエロスパシアル・ダイナミックス・マトラ・BPX
ヘキスト・トタルフィナ・ADL
ブリティッシュ・ペトロリアム
・・・・
直系の連結子会社の印である連合社章『ジーメンス・ダイアモンド』を掲げる主だった大企業は、欧州連合(EU)市場の中だけに限ってみても、優に30は下らない。
財界の第二パワーズとも言うべき、ジーメンスADLの急激な世界市場制覇を支えていたものは、ただ一重に、国連軍統括特務部隊(パワーズ)との表沙汰に出来ない密接な繋がり(ADL協定)と、基金審査部を経由した二重帳簿操作による国際復興基金(IRMF)の戦略(M資金、DM特別緊急融資)運用であった以上、最終的には全ての内情に精通するアレクサンドル・ツーロン首席補佐官・・・ ADL(=WEISHEIT)『総帥』の意向には、どの企業舎弟も絶対に逆らえないようなシステムに出来ているのだ・・・・
欧州軍団(EUSS)のサーキス中将は、政・財・軍の思惑と陰謀の渦の中で確実に葬りさられる事となるだろう・・・
『背任横領』と言う名の不名誉な罪によって・・・
「陸軍一佐時代の現代空挺・機甲戦技研(203研/プラハチーム)における輝かしい研究成果を出発点とし、やがて26年に開催された冬季総合判定演習において、揮下の欧州第8軍団(ボヘミア軍団)の行動展開をして史上最強の機動陸軍(Systematic
Army)とまで言わさせしめたオプション戦術の革命児、智将ヤン・サーキスの名は、EUSS(欧州軍団)のみならず、国連軍SS全体の宝だ・・・
そこが崩れる事の意義は大きい・・・」
「最終的な標的は、連合派・代表幹事会筆頭、SASS(南米軍団)司令長官、兼、防衛参議官、ランベルト・ブラウニー大将・・・
しかし、崩れますか? 日向上級特佐? 彼らは軍事技術の専門家であり、頑強に抵抗されると却って鎮圧は難しくなるやもしれません・・・」
「崩すのさ・・・
そのための査察官会議(バルセロナ・ラウンド)であり、それ故のパワーズ(POWERS)だ・・・・」
・・・自分は、なんと卑怯者の領域を突き進んでいることだろう。
・・・だが、引き返せない。
・・・戻れる訳もない。
後一歩で積年の悲願が達成されるこの大事な時期だというのに、今ここで躊躇わなければならない理由など、私の中に一体何があろう・・・
もし仮に、ここまでのあらゆる非道に手を染めておいて、最後の最後で己(おの)が行為を許せない偽善者(hypocrite)がこの世の中に居るのだとしたら、そいつは救い難い『大馬鹿』でしかあり得ないのだ。
誰の為にもならない事に対して、思い悩む必要は無い・・・
卑怯者には、卑怯者の流儀があるのだから・・・
「こいつが俺の闘い方なんだ、シンジ君・・・
決して誇れはしないだろ? 」
とりあえず一歩でも前に進み行くためには、自ら立ち止まる甘えなどは、決して許されはしない。
事前に予想され得た世界最強の戦闘能力を併せ持つ守護天使・・・ LNA−Melchsedec (平和の天使)が『変体』もしないままの状態で復活してきたOPDの後始末時においては、この棚から転がり込んできた千載一遇の幸運(チャンス)を生かし切ろうという意志を優先させるあまりに、途中からパイロットであるシンジ君の命などは、微塵も考慮に入れていなかった男・・・
生誕例の非常に少ない適格者第二世代(SG)を標的にした様子が見受けられる尖兵・・・ LNA−Orifel (創造の天使)が悠然と目の前で『融合行為』を行いだした事実を確認した時には、捕まって身動きのとれなくなっていた貴重なもう一人の適格者(サンプル)パイロット・・・ 鈴原トウジ二尉を、EVANGELION Mk.2の機体ごと焼き払い、放棄した・・・
言い訳したところで許して貰える物でもないだろう・・・
LNA(使徒)とEVA(新生命体)、双方の合法的処分・・・
残りLNAは、多く見積もっても、せいぜい5体か、6体・・・
一方、現存するSSDベースのエヴァンゲリオン(EVA)シリーズは、ODD第二任務(Stage-2)以降に回される予定となっていたWEISHEIT(ヴァイスハイト)管理管轄下の戦略予備機体(Mk.2-SR)を数に含めて、13機プラス2機の合計15機もの体制にある・・・
今やEVAシリーズは、数的に充分な『脅威』となりうる段階にまでやって来たのだ・・・
14年前の第三衝撃(T.I.C.)前夜と同じように・・・
「もう少し・・・ もう少しだ・・・ 誰にも邪魔させない・・・」
降りしきるミュンヘンの雨が、中央コンコースへと歩みゆく日向の新式制帽や冬服コートを激しく濡らしていく・・・
理由などはない。
だが、その雨はまるで、これからウィーン行のITCオーストリア新線(ドイツ版新幹線オーストリア線)に乗り換え、『総帥』の待つザルツブルグの隠れ家(柊の館)に喜び勇んで直行しようとしている日向自身の密かな決着の是非に対して、絶対的見地に佇んで居るのであろう何処かの誰かが、気紛れでお節介な警告のバリアーを発しているかのような、そんな冷たい雨であったようにも、日向自身の心には感じられていたのだった・・・
太平洋(Pacific)と言う言葉は、平穏な海( "El Mare Pacificum" )と言うマゼランの呼称から由来する・・・
巡航速度から第二警戒戦速に切り替わったEVAキャリアー、ホフヌング(SCVE−10001,”Hoffnung”)の飛行甲板にいる僕たちは、オアフ島、パールハーバー(真珠湾)鎮守府に設定された艦隊集結地から只ひたすらにODD攻撃予定地点・・・ 仏領タヒチに向かって、中部太平洋を南下していた・・・
「あ〜あ、つまんないの・・・ 日本を出てから海と軍艦と飛行機ばっかし・・・ ハワイに着いたら、アラモアナのショッピングセンターくらいには連れて行って貰えるもんだと思って、ずっと楽しみにしてたのに〜・・・」
「クスッ、退屈かい? でも、観光じゃないんだから、こんな物だよ? 僕たちは、栄(は)えあるエヴァ・パイロット! 欲しがりません! 勝つまではっ!! って宣言してた人は、一体、何処の誰だったかなぁ〜♪・・・ 」
「だって、そんな事言ったってさぁ・・・」
「ね? 陸に揚げさせて貰えなかった代わりじゃないけれど、(壮行)パーティーも開いて貰ったんだし、アスカの持ち込んだバイオリンの練習は、好きな時に好きな場所で思う存分、やらせて貰えてたじゃないか・・・ 僕だって、久しぶりのチェロで面白かったよ? 輸送艦(ホフヌング)のみんなの前では、艦長さんや船務長さんたちと一緒に簡単な弦楽合奏(カルテット)まで御披露させられちゃったしね・・・」
「む〜、幾らエヴァパイロットだからと言ったって、こうも変わり映えがしない毎日が続くんじゃ、普通、限度があるじゃない〜 ツバサやアサヒの弐号機(P-EVA02)なんか、もうとっくに出撃しちゃったしさっ!
・・・まぁ、周りが少々ロマンチックじゃないと言う事を除けば、久しぶりに先生と二人きりになれたこれはこれで、結構悪い気もしないんだけどねぇ〜・・・」
正規空母、 | アーク・ロイヤル ( Ark Royal ) 、 |
| キティ・ホーク ( Kitty Hawk ) 、 |
| エンプレス ( Empress ) ・・・ |
間隔を置いて作動する各艦固有のC型スチーム(蒸気)カタパルトの推進音と、ブラスト・デフレクターに対する急激な機体制動と共に発生するペガサス(PEGASUS)エンジンの喧噪な機動音の数々は、飛行甲板上で続々と発進準備体制下に置かれて行く艦載航空機・・・ 国連海軍SS共通採用、21式汎用可変翼型主力戦闘攻撃機、JCA−サイクロン ( JCA - FA3 "Cyclone" 2021 model )空母戦闘団の実力を、僕たちに必要以上に大きく見せる物だった。
僕の腕にしがみつき、甘えたようにその顔を摺り寄せる仕草を見せているアスカと共に居る僕には、それらの『人』の為し得る純軍事的な統一行動の全てが、人類種の持つ本来の底力(POWER)を誇示するための壮大な小道具の一端であったかのようにも思える。
真正面からの力(P−EVA)だけでは、進化する脅威(LNA)には勝てないと言う事の意義・・・
人の構築しうる絆(Ring−Line)と適切な知恵の実(=科学の力)のみが、使徒(Angel)を追い返し、破綻を克服すると言う事・・・
そんなODD概要の最終的な作戦ミーティングを、司令代行となった青葉さんから得々と受けて居てもなお、僕にとっては腕に感じる身近なアスカの体温だけが本当の意味での実感なのであり、一分一秒でも彼女と共に在りたいと願う心だけが、その中にある唯一の真実ではあったのだけれども・・・
「・・・ねぇ、アスカ・・・」
「何? シンジ先生? 」
気が付けば、パワードEVAに搭乗しなければならない時間が迫っている・・・
それは、二人だけの直接な時間が、もうじきに終わりを迎えるという事の裏返しでもある・・・
僕が彼女の事を好きになっていると言う事・・・
彼女も僕の事を好いてくれていると言う事・・・
彼女は、決して『 アスカ 』ではなかったのだと言う事・・・
様々な矛盾を内包したままに嘘を吐(つ)いているこの時の僕は、まるで『それ』だけが唯一絶対的な解決策であるかのよう、只、ごく自然な風を装いながらに傍らの彼女の華奢な体に近づき、そして、その感じやすい彼女の耳元に、こっそりに僕からの・・・ これだけは決して何処の誰にも邪魔されないであろう、ささやかなる『企み』を持ちかけていたのだった・・・
「・・・僕が良いと言うまで、目を瞑(つぶ)っててくれる?」
「え! ・・・ はは〜ん・・・ ハイ、ど〜ぞ!
これで良いでしょ? ・・・フフ ・・・先生って、時々大胆よねぇ〜 こんな所でだなんて!」
このまま時間が止まっていて欲しい・・・
ウインクをしながらに目を閉じ、精一杯に背伸びをして唇を突き出す彼女の勘違いを、僕はとても可愛らしく感じたし、愛おしくも思った・・・
まるで『全て』の想いを消し去りたいかのよう、多大な爆音を轟かせながらに、また一機の艦載航空機の主形可変翼が変形して行き、そして、そのまま間髪入れずに視線の先に並行航行するエンプレス上の飛行甲板を一気に滑走加速して飛び去り行ったこの戦闘的な現実でさえをも、今この時・・・
この瞬間の彼女を好きになっているこの僕の『気持ち』までをも消し去る事は不可能なのだろう・・・
風に揺れた彼女の髪に触れ、首筋まわりに手を回し、そっとジャンパーの内ポケットに忍ばせておいた彼女への『プレゼント』を掛けてあげる行為に成功してもなお、しばしの間に、僕は呆然と自失し、ともすれば、そのまま彼女を求め始めている自分自身を押えるのに必死だった・・・
「・・・もう良いよ、アスカ・・・」
「ん〜 ・・・!? えっ!? わぁ〜!!」
「・・・気に入ってくれた?」
ここで無理をした笑顔を形成できるほどに僕は大人だ・・・
・・・そう思いたかった。
控えめに光り輝いた北極星(Polaris)のジュエリーを、本当に驚いた表情を見せたままで居る彼女の目の前に翳(かざ)しながらに、僕はせめてもの明るさを装っている。
これはお守りだから、アスカに持って居て欲しい・・・
邪魔にならなければ、何時までも持ち続けて居て欲しい・・・
その上で、アスカ・・・
君に対する僕のこの『想い』も聴いて下さい・・・
・・・これから先の未来に、貴方が変らずに幸せで元気にいられる事を祈っています・・・
例え、ここで消え去り行くこの僕が、本当はごく僅かであっても君の思い出の中には止まってはいけない身の上だったのだとしても・・・
嘘吐きに曖昧な態度で、揺れ動く思春期な君の想いや好意を戸惑わせていたにすぎないのだとしても・・・
・・・こう思っている僕は、やはり身勝手で我侭な男であるのかもしれません。
何があっても・・・
何が起ころうとも・・・
僕は君の事を大事に思っているし、”共に在りたい”・・・
そう願い続けていたのです。
本気です・・・
信じて下さい・・・
「これから先の未来に・・・」 以降の台詞を、『当然』に口に出して言える訳でもなかった僕は、眼前に見せびらかせていた首飾りを彼女の胸元にそっと置き直すと、その体を優しく抱きしめ直していた。
真実を語ってはいけない事柄の方が多くて、予めに言い残しておきたかった事の半分も彼女に伝えきれない事に気が付いた歯がゆさを感じながらに、僕はただ黙って彼女の蒼い瞳と真正面から向き合っている。
彼女の体温の暖かさを感じ・・・
女の子の体は、何故こんなにも柔らかいんだろうという事を思い・・・
実体の無い偽りある言葉の数々は、その効力を失って無意味な物へと変化するような気もした・・・・
徐々にではあるのだが、表層上の笑顔はやがてに消え去り行き・・・、そしてまた、「聞いて下さい」とこちらから一方的なお願いを持ち掛けておきながら、一向に何も話さなかったこの僕の態度を見て、相対する彼女の方でも、きっと内心では少しばかりに不信がらずには居られなかった事だろう・・・
だが、しかし、それでもなお、子供と大人の領域を容易に行ったり来たりする目の前の彼女(アスカ)は、僕の腕の中で、少しだけ恥ずかしそうに俯(うつむ)き・・・ そして、意を決して顔を上げ、とても魅力的な笑顔を振りまいたままに、こう言った物だった。
「ふむふむ・・・ すると、じゃあ、何かな? やたらと小難しい事をくどくどと言いたがるシンジ先生の心の声を、私が、( 『誰にでも』解るよう〜に、)すご〜く簡単に解説し(まとめ)てあげちゃうと、このお礼は、ワ・タ・シ? ・・・まぁ、訊くまでも無いじゃないっ! 私の方は、何時だってO.K.なんだけど?」
好きです・・・
僕は貴方の事を愛しています、アスカ・・・
再びにその意を強くした僕は、彼女の唇にキスをした・・・
触れるか触れないかの軽いキスを繰り返し終えた後、満足げに見詰め合う二人の間には、しばしの時が流れる・・・
僕は、なけなしの理性を総動員して、大好きな彼女に向かって最後の『嘘』を付こうとしていた。
「そ、それはまだ早いよ。だって、君は中学生・・・」
「ふ〜ん、ここまで来てもなお、先生は『まだ』だと思ってる訳だぁ〜 ・・・・
クスクス、変なのぉ〜 ・・・って言うか、無理してるのかな? すっごく」
離れた僕の唇に人差し指をあてがい、再びに片目でウインクをする彼女は、照れた表情を浮かべたままに、僕からの『本当』の返事を待っている。
僕は、僕に体を預けたまま、とてもおかしそうに笑い出している彼女に対して、言い訳めいた口を開き掛けようとして止めにした。
やがて、二人して何とは無しに大いに笑い込んだ後、僕は静かに彼女の体を抱きしめて欲(ほっ)し、腕の中に大人しく佇(たたず)む彼女(アスカ)に対して、本当に言い残しておきたかった言葉がなんであったのかと言う事を・・・ 規制されても、絶対に伝え残しておきたかった言葉がなんであったのか、と言う事を、唐突に頭の中で思い出す。
そうか・・・
あれこれ悩むまでもなく、こんなにも簡単に言い出せる一言だったのだ・・・
人に想いを伝える言葉と言う物の本質は・・・
「忘れないで、アスカ・・・ 僕は、ずっと君の事が好きだよ・・・」
「ウン、解ってる・・・」
『当該、第三(作戦)行動水域に突入! 第七戦闘序列に移行っ!!
第一特務隊、P−EVA01(ゼロワン)パイロット両名は、プラグスーツ着用の後、至急、第一格納庫控室にまで集合せよっ!!』
野暮な物音は、もう何も聞こえない・・・
年下の彼女と狂おしいほどに熱く激しく唇が一つに繋がりながらに、僕はこう確信している・・・
人を好きになることは『力(POWER)』だ・・・
本当は何もない自分を・・・
何も残せないまま、存在が消え去り行く自分自身の人生の愚かさしさを・・・
せめてもに忘れさせ、和らげくれる・・・
僕は彼女が望めば、スーパーマン(超人)にだって為れるだろう・・・
空だって飛べるかもしれない・・・
A10-NC connecting PCS-L1 ・・・ All SSD power to graviton control adjustment・・・
頭上のメインハッチが開かれて行き、南国のまばゆい陽光が頼もしいくらいに銀色(シルバー)に光り輝いたパワード・エヴァンゲリオン初号機の外部強化装甲(パワード・ユニット)を明るく、色鮮やかに照らし出して行く・・・
・・・Zero clear after five count・・・ No!
No! First preference EM-limiter free mode O.K.?
・・・Yes! PCS,PES,PWS,PPS circuit all green・・・ and rising
permssion is applied by α-control SIP-TQP・・・
Wait! ELS rise up! S.S.G.P.EVA-01 rise up!
Secure area for P.T.A (Powered Transformation Action),on the spot of this SCVE upper !!
母艦格納形態(POWERD-1)のまま、圧倒的な重機動音を轟かせながらにUNGF−10001とマーキングされたエヴァキャリアー、ホフヌングの前飛行甲板格納部から浮上して行くパワード・エヴァンゲリオンの熱き勇姿の全貌は、見る人の全てに『無敵』の信仰を抱かせるに十分な光景であっただろう。
断続的な浮上警告音があたりの海域全体に鳴り響いて行き、いよいよにその複雑で巨大な機体構造の全てを、目に見えるホフヌング上空にまで現出させる事に無事成功していた僕たちは、ふと通り過ぎる艦橋構造物(アイランド)横を眺め見てみると、ホフヌングのブリッジのみんなが一人残らず窓辺にまで寄って来て、出撃する僕たちを励ましてくれる意図を持って、暖かく『帽』を振ってくれているという事実を知った。
・・・と、同時に、第11機動艦隊群の先頭隊列を航行しているイージス巡洋艦、”ヴィンセンス( Vincennes )”および”シュルクーフ( Surcouf )”の両対空護衛艦からは、まるで僕たちの出撃の合図を待っていたかのように、二基の垂直発射型N2巡航ミサイル(VLS−SSM、ハープーンN2)が打ちあがっている。
終わり行く世界に『抵抗』の意志を示せる動物は、唯一『人間』である・・・
神様には信じてもらえないかもしれないその強き言葉を、もう一度だけ『万物』には声高く主張していたかったかのように・・・
「 ・・・さようなら・・・ もう一人のアスカ・・・ 」
連絡の為にコクピットディスプレイの真正面に浮かび上がった愛らしいアスカのポップアップウインドウに対して、僕はもう一度だけ、そっとそう呟(つぶや)いてみる。
その回りの風景では、蒼空に浮かんだ『白き月』の残照が、僕たち人類の存亡を賭けた馬鹿馬鹿しい戦闘行動の行く末の全てを、優しく暖かく包み込もうとしていた。
・・・誰に言っても信じてもらえる類の物ではないのかもしれない。
母艦格納形態(POWERD-1)から高速飛行形態(POWERD-2)へと変形し終わったパワード・エヴァンゲリオンが正副合わせて三基のSSDを後方に轟かせている喧騒な発進過程の中で、僕は、何とは無しに月に浮かんでいた『綾波』の幻影に笑われているような気がした。
何故、今この時、そんな馬鹿げた事を思いついたのだろう?
でも、僕は『そう』思った・・・
それは、『それ』だけの話だったのだった・・・・
(B2パートに続く)