NEON GENESIS
EVANGELION 2  #8  " THE DAY "  side-B2









 『銀の剣(Silver Sord = P-EVA01)、ODD東方第一戦線に投入っ!!』





 『戦略空軍SS、および空軍SS管理管轄下の全光学観測所(レーダーサイト)群、軍参委令第1068号に則(のっと)り、ODD統括司令本部長管轄下にその指揮権限が委譲されました!  司令搭乗艦(ブルーリッジ)主導下における、FPS−05レーダー網DG−DEWラインA・L・Fa(アルファ)システム、全て予定通り、異常無しっ!  只今より全ODD出動部隊は、MAGIネットワークによる全地球規模統合管制システム(GCI−EMLS)の傘下に統轄されますっ!!』






 「金色(P−EVA弐号機)の状況は?」






 『金の斧(Golden Ax = P-EVA02)、第一次攻撃予定線に進駐っ!  超弩級砲(パワードランチャー)準備良しっ!  何時でも行けますっ!!』






 『エルズワース戦略空軍基地、第6波N2ミサイル発射っ!!』






 『南大西洋フォークランド沖、第六艦隊群、第7波N2ミサイル発射っ!!』






 『第1波N2ミサイル、30秒±1補正にて攻撃目標に到達予定! 金の斧(P−EVA02)、第1次攻撃、カウトダウン、10、9、8、7・・・』






 『ヘンダーソン第278航空集団、三個基幹戦略航空群を投入!  SuperN2爆雷( " Angel Buster " )の使用は、15分後より可能です!』






 『マクドネル・ハインツ戦略空軍基地、第8波N2ミサイル発射っ!!』








 第二次連合艦隊、第一艦隊群総指揮旗艦、”ブルーリッジ”内に設置されていた連合艦隊ODD総司令部の発令所は、オペレーター部員の報告とその確認を求める参謀チームの怒号の嵐で、その混雑が最骨頂を極めていた。




 次々に浮かび上がるメインディスプレイ情報には、段階的に打ち出されていた戦略N2ミサイルの軌跡が只一点・・・ 新たなる新使徒(LNA)拠点とでも言うべき、OFT−308(仏領タヒチ)封印海域に向かって、急速にスパイラル(螺旋)状に集約して行っている様子が映し出されている。





 史上最大の作戦、”O・D・D”は、真の意味において、今始まったのだ・・・






 四号計画の失敗は繰り返さない!






 近付きすぎた無様さ(OPD)を乗り越える改善策だけを、『唯一』の至上命題と思っているかのように・・・









 「・・・始まりましたね」




 「ええ・・・」










 この時、指揮中枢特化艦、”ブルーリッジ”艦内には、国連軍事参謀委員会・(常任)軍務局長、兼、防衛参議官、ウィルムット・カナン”中将に引き続いた、パワーズ第二世代を代表する『』の顔と『』の顔・・・  ウィリアム・スプルーアンス作戦参謀(POWERS−NAチャン・チュン・イー政務参謀(POWERS−EA両名の姿もあった。




 後ろには彼らにとってのお飾りとも言うべきODD総司令官・グエン大将に対して、律義にも全作戦の進展状況を逐一に御注進申し上げている生真面目なODD参謀長・ラムスドルフ少将の厳めしい姿もある。




 だが、しかし、彼らの形式上の上司たるべき、見るからに他人任せな態度を隠せもしないグエン陸軍大将と、うるさ型の官僚軍人が服を着て歩いているような・・・ と専らに司令部内では評されているラムスドルフ戦空軍少将の将官級の二人が、『』と『』の両面において構成されるODDの本質を『完全』には理解出来ていなかった事に対する反射的な意味合いと全くの同程度に、彼ら(パワーズ)には彼ら(パワーズ)の優先すべき論理があり、かつ、懸念すべき憂慮事項が幾つかに存在していた・・・・








 「総帥に張り付いているのは、誰です?」




 「おそらくは日向上佐(上級特佐)・・・」




 「彼は知っているのですか?  ブラジル=アルゼンチン連合(UBA)が、査察官会議(バルセロナ・ラウンド)を完全主導するまでに至った統括特務部隊(パワーズ)の統制権に挑戦をし、国軍の復活・・・ 領域内特別高等武装警察(MP−38)の戦力増強を、10月人事以降、急速かつ内密に充実させつつあると言う現実を・・・」




 「充分に、知っているでしょう・・・ 彼の持つ独自の旧ネルフ諜報人脈は、私の受け持つ特務機関のソレをかるく凌駕します。それはもう、そら恐ろしいくらいにね・・・」





 「では、連合派・・・ サーキス中将に予定されている某重大事件も、彼が当然に一任を?」





 「その信頼・・・ お見事と言う他ありませんな」









 お手上げのポーズを取るチャン特佐のふざけた態度を見なかったことにしてやり過ごしながら、スプルーアンス上級特佐は、メイン戦略ディスプレイにその視線を移していた。




 惜しむかな、全軍が統括特務部隊(パワーズ)の間接支配下に置かれている現在の理想的な軍事体制の中で、勃興著しい南半球随一の超大国、ブラジル=アルゼンチンを基盤とした南米軍団(SASSだけが、その統制の空白地域となってしまっている・・・




 頑強なUBA(ブラジル=アルゼンチン連合)の解体とその実質的な無害化戦略は、これを機に『統制権』を一挙に拡大したいと腹案しているパワーズの現行中枢部にとって、” PLAN−No.5 (ODD) ”と並び立つ程に重要な戦略課題なのであり、何物にも代え難き『政治闘争』でもある。






 そして、日向マコトという強化人間(ジョーカー)は、実に多彩に使える男なのだ・・・






 裏工作の天才、チャン特佐と共に歩んだ、JS−13・・・




 旧ゼーレ系、JS−9との確執と暗闘・・・






 『総帥を疑えば、血で償う事になる』と言う評判を作り上げ、連合派の重鎮、アーネスト・リュイシュン西上海特別市(国連協定市)市長を初めとする要人の排除抹殺計画等の汚れ役に徹していた『八月の霧』事件の伝説などは、決定的な関与の証拠をつかませなかったその手腕の見事さを含めて、いまや統括特務部隊(パワーズ)内部でも、秘密裏に『有名』な話である。






 世界中の誰もが知る筈の無かった『使徒(ネルフ)情報』、『赤木データ』を総帥に売り込んで、横やりから出世街道レースをのし上がってきた男、日向マコト・・・






 総帥のみとの強固な主従関係で結ばれ、組織から離れた単独行動を主に得意とする『壊し屋(クラッシャー)』・・・






 だが、評判通りに歩んできた強烈な14年間の裏街道経歴のみを額面通りに受け取っていたのでは、その人の持つ本質を見誤る愚にも繋がる事になるだろう。






 軍政・・・  軍令・・・  特務工作・・・






 彼は、命ぜられたあらゆる分野に渡って期待する物以上の成果を納め、そして、その職務遂行に対する絶対的な信用を『組織(ヴァイスハイト)』に向かって確立し続けてきたのだから・・・








 「・・・だが、しかし、基本的に信用出来ない。信用してはいけない危険な香りがする・・・」





 『 どうして? 』





 「寸(すん)での所で世界最強の軍事力・・・ パワード・エヴァンゲリオンの指揮権を剥奪出来たので、まだ良い・・・ けれども、例え総帥御自身がその遂行能力を深くに御信頼されているとは言え、結局の所、旧ネルフ勢力の一員である彼が、一体何を目的として、わざわざ単独ルートから総帥の権力に近づき、肉体改造手術(E技術投入)を受け入れていたのかが、誰にも読めていないという事・・・・」





 『 ・・・だから? 』





 「私が内偵した所、封印ネルフ施設の全てを権限内において開放する事に成功していた彼は、意識して第二世代(SG)戦略を優先し、そして、決定的な瞬間において、我々の希望・・・ 神の御使い(BP)の覚醒を、半瞬だけ『葛城遅延(KDS)』させようと画策していた気配が見受けられ・・・ !?






 ・・・今、私は誰と話したんだ?






 思わず、ぎょっとして、後ろを振り向いた作戦参謀・スプルーアンス上級特佐は、一段高くなった指揮所内のへりの所に、青い髪の小さい女の子が、ちょこんと大人しく座っている異様な光景を見た。






 ショートカットの女の子・・・




 何処となく子悪魔的な笑みを浮かべているその表情は、確かに何処かで『見た』ことがあるような気が・・・







 「君は、一体、何処から・・・」





 『 クスクスクス・・・ 』







 物言わず、すぐさま白昼夢のように消え去り行った女の子の残像に、スプルーアンス上佐は、きっと自分が疲れているのだと思った。




 連日連夜の打ち合わせで、確かに寝る暇はなかった。




 目敏(めざと)いラムスドルフ少将や、やはり同様に抜け目の無い傍らのチャン特佐が、話の最中、突然に少しだけ振り乱した自分の奇異的行動に対して、怪訝そうな目付きと心配げな視線を、こっそりと交互に送り付けている様子を見るに付け、あの印象的な女の子(プチ・デビル)の映像を現実に眺めやっていたのは、どうやら自分だけであったらしい。






 ODDとの同時進行で行われているパワーズによる『世界制覇』に向けて、若輩ながら重要な役割とポジションを背負わされている事に対する恍惚と不安が織り成す幻影(イリュージョン)とでも言い訳しておいた方が、この場合、より適切であるのだろうか?





 何にせよ、大真面目に今後の伍号(ODD)計画・第二段階発動(Stage−2)の適切な時期について検討し、その抜かりの無い遂行準備に取り掛かろうとしている現行ODD司令部の面々の中で、「これくらいの小さい女の子が、今そこで笑って居なかったですか?」などと言う間抜けで馬鹿馬鹿しい質問などは、全軍の指揮中枢たる作戦参謀・スプルーアンス上級特佐の名誉にかけて、口に出して言い出せる筈もなかった訳であるのだが・・・







 『金の斧(P−EVA02)第一次攻撃、超弩級砲(パワードランチャー)、冷却開始!  第二弾設定、S2パワー供給量の速やかなる微調整を要すっ!』






 『ホールズクリーク戦略空軍基地、第13波N2ミサイル発射っ!!  ICBM(ミニットマン−4)、SLBM(トライデント−G3)型N2戦略兵器の第一段階ストック、全て予定通りに射出されましたっ!!』






 『ア・ル・ファ(A・L・Fa)防空システム、アメリア三号機、四号機、六号機、八号機、十一号機、傾斜軌道上で封印海域(Battle Field : OFT-308)の全域をカバーっ!!  リーサ、ファーティマを始めとする残りのαシリーズの全機は、拠出アメリアに対するポジション・サポートに回りますっ!!』






 自分が忘失していようがしていまいが、ODD作戦はこのように滞りなく遂行されているし、現時点においては、静穏で予想外なほどに新使徒(LNA)側からの敵対行動(カウンターアクション)も無く、全ては人類(パワーズ)側の思惑で描き直した理想革命・・・ 『約束の日』の終了に向けて、予定通り、順調に推移している・・・






 何事も無かったかのようにチャン特佐を始めとするパワーズ参謀チームとの作戦続行協議を続けながら、スプルーアンス上佐は、それでもなお、あの先程に現れた印象的な幼子の態度や表情は、一体、過去のどんな場面で出会ったことがあったのだろうか?と言う事を、一瞬だけ脳裏の中に思い出していた。






 「艦内には居る筈の無い可愛らしい幼子の幻影・・・  天使にせよ、悪魔にせよ、生命の源たる使徒の巣(黒き月)を一掃してしまう事になるこの闘い(ODD)の行く末には、無関心では居られないという事か・・・  馬鹿馬鹿しい・・・ 」






 WASP(ワスプ)上流階級の出身で、参謀大学首席卒業のエリート・・・ 





 そして、その上で、次世代の国連軍SSを背負って立つだろうとまで専らに噂されているウィリアム・スプルーアンス上級特佐が、よくよく注意して眺めてみれば、その突発的に現れた女の子の両目が、彼も嫌と言うほどに学習させられているある種の神秘的なほどに『紅い』瞳の類であったのだと言う事を思い出すのは、この場合、もう少しだけ先の出来事になるのであった・・・



















 「 来たでぇ! 来たでぇ! 来たでぇ! 来たでぇ!  わしらの時代が、来たでぇ!  ドバァと撃って、ちょちょちょっと、やっとったら、後は、シンジ先生アスカお姉ちゃんに全部お任せや!!  これで帰ったら先生の美味しい三食昼寝におやつ付きやなんて、ほんまにボロい商売やの〜 なぁ、アサヒ?」






 「ふざけてないで、ちゃんと機体を安定させてなさいよ!  馬鹿ツバサっ!!  二回目もマーク(照準軸線)からずれたら、私の方が青葉さんから怒られるんだからね!」








 パワード砲第一弾を照射した後の莫大なエネルギー放出による不安定さから回復した洋上のパワードEVA弐号機は、ODDにおける最大の攻撃目標・・・ LNAの誕生する使徒の巣(黒き月)を標的とした更なる第二弾に向けて、めぐるましくパワード・システムのシステム設定を切り替えていた。




 共に、7歳児であるにもかかわらず、とても頭の良い鈴原の子ども達は、LCLで満たされたコクピットディスプレイの全面に浮かび上がっている戦術・戦略情報(VCI、Visual Combat Information)をちゃんと『理解』し、司令部からの突発的なミサイル位置情報変更に対しても、コンマ単位の素早さで滞り無く『適切』なポジショニングを行なっているのだ。





 ・・・まさに神童としか言いようが無いだろう





 ATフィールドを自分たちの都合の良いように再構築し、またその間隙を縫うような形で、即座にパワード・ランチャーの第二弾照射準備を行っているそのシンジ&琉条アスカ以上に素晴らしいEVA操縦技術(テクニック)とコンビネーションを端からに見ていると、まるで彼らは端っからパワード・エヴァンゲリオンに乗る為に生まれてきた仕組まれた子供たち(チルドレンであったかのような錯覚にも思えて来る程だった・・・・





 だが、しかしっ!!







 フ〜ン、フン、フン、フン、フン、フン、フン〜 ♪






 「・・・何ぞ言うたか?  アサヒ?」





 「え!?  私、何にも言ってないわよ?」







 フン、フン、フンフン、フ〜フフン♪






 「・・・気の所為なんかなぁ・・・  何か、さっきからワシの耳には、ブリズベーンのルーシーお姉ちゃんが好きやったベートーヴェン(第9)って奴が聞こえて来るみたいなんやけどぉ・・・」





 「もぉ!  こんな本番でも何、ふざけた事を・・・  って・・・  あれ?」







 フン、フン、フン、フン、フン、フン、フン、フン♪






 「な?」





 「・・・本当だ・・・」







 フンフン〜フン〜フン〜、フ〜フフン♪









 洋上1000mの上空で聞こえて来る有り得る筈の無い『鼻歌』を不思議に思って、彼ら達があたりをきょろきょろと見渡してみると、彼らが再びにS2エネルギー収束の再設定を行ったばかりである熱の篭(こも)ったパワードランチャーの先端部分において、白いカッターシャツの学生服を着た銀髪の『少年』が、ポケットに手を突っ込んだまんまのごく普通の状態で、ごく『当たり前』のように宙に『浮いて』いた。









 「・・・あんた誰やねん!」





 「・・・お兄ちゃんは、誰?」







 「ここは君たちの言う戦場にはならないよ・・・ 早くお帰り・・・」









 驚く二人の当然な質問には答えず、この時の『』は、ただ優しげに笑った・・・






 恐怖も無く、圧迫も無く、ただ淡々とした暖かさと凛とした雰囲気が、彼の言動と態度の裏側の背景には存在している。







 『何処か』で出会った事があるような『懐かしさ』・・・





 それは、ある意味、『波動』と言っても良いのかもしれない・・・





 訳も話さず、しきりに速やかなるパワードEVAの撤退だけを勧めて来る不思議な『』・・・




 音声装置(スピーカー)を通さずとも、会話が成立しているという事の特異さを何とも思わず、気が付けばツバサとアサヒの二人は、ただ惹かれるかのように、摩訶不思議な『』との会話に引き摺り込まれていた・・・







 「ひょっとして、(新使徒・LNAを)攻撃するな!って事が言いたいんかぁ? けどなぁ、兄さん・・・ 兄さんが神様の御使いやろうがなんやろうが、いきなり帰れ!って言われたって、出来る事と出来へん事があるわなぁ・・・ ワシら、ここに頼まれて来とるんやで?  これから何が起こるんやろうとも、せめてもう一発ぐらいは(パワードランチャーを)打ち込んでおかんと気が済まへんし、ワシらが居らんかったら、先生らのATフィールドだって・・・」





 「そうよ!  悪いLNA(使徒)をやっつけるんだって・・・  みんな先生たちと協力して、お父さんの敵(かたき)を討つんだって、青葉さん(副司令)は言ってたわ・・・  (神様が現れた)理由はどうだか知らないけど、お願いだから私達の(大切な任務の)邪魔をしないで!」







 幼き双子たちの大人びた行動の中にも、当然に理由があり、感情があるという悲しき事象をどのように説明すれば良いのだろう・・・






 時にはそれ相応の『子ども』に戻られる時があっても、彼らの根底には自らに降り掛かった運命の理不尽さに対する自分らなりの『怒り』があり、またその感情をパワードシステムの操縦操作部分の中に上手に利用されたからこその正式弐号機(P-EVA02)パイロットなのである。





 そして、その込み入った裏面の事情を知ってか知らずか、父を失った幼き双子の固定的な負(マイナス)の感情を憐れむよう、じっと表出するストレートな激情を受け止めていた『』は、しばらくの間、ただ無言だった・・・





 やがて、それを受け、静かに語りかけるよう、返す言葉をようやくに紡ぎ出した『』は、ツバサやアサヒの二人が全く想像だにもしていなかった方向性からの話題で攻めて来る。






 『』は、相変わらずに、宙に浮いたままの超常な状態を保っていた・・・








 先生?  ・・・ああ、そうか、シンジ君の事だね・・・  彼は君たちにも優しくしてくれているのかい?」






 「お兄ちゃん(兄さん)、シンジ先生を知ってる(知っとん)の?」






 「ああ、よく知っている。君たちのお父さん・・・ 鈴原トウジ君や、『アスカ』君の事も、無論ね・・・」






 「・・・お父(とう)ちゃんも?」




 「・・・それに、『アスカ』お姉ちゃんまで? 」








 何ゆえか自嘲ぎみに笑う彼は、更に、昔とは違って大人となっているシンジ(先生)の様子を訊ね、そして、ただいま現在彼らが、彼の事を好きであるのかどうかという一見全くに無関係そうな質問を、鈴原の名前を聞いた瞬間から非常に打ち解けた表情に変りつつある目の前の二人に対して、訊ね掛けてきた。






 彼らは答えた。







 「好きやよ?  お父ちゃんの次くらいに好きっ!!  それがどないしたん?」







 『』は続けざまに質問する。








 シンジ君アスカ君・・・ いや、君たちにとってのシンジ先生アスカ』・ホーネットの二人が、君たちを放って置いて(この世から)居なくなってしまう事態がもしあれば、少しくらいは寂しいと感じてくれるかい?」







 「当たり前の事を言わないでっ!!  せっかく仲良くなれたのにっ!! 」







 『』は再びに笑った・・・




 知る人ぞ知る『最高』の笑顔で笑った・・・






 幾許かの時間が過ぎ去りし後、最早これまでと静かに動き出した目の前の『』は、それまでよりも『より』強い調子と『より』優しげなる語調を持って、鈴原トウジと旧姓・洞木ヒカリというかつてに存在していた、平凡な・・・




 それで居て、誰もが羨むような最高に幸せな人生の日々を、異郷にて確かに積み重ね上げて行く事に成功していた、ある前向きな日本人夫婦の気性をストレートに受け継いでいる『運命の双子』の真っ直ぐな心根(こころね)に対して、最後で最後の要請を試みていた・・・







 「心優しき第一世代(FG)の血を引きし者に要請する・・・  ここから立ち去り、出来得る限りにおいて、運命に魅入られた『彼ら』の事を守って欲しい・・・ これから起りうる可能性の未来(約束の日の中で、運命を自ら変革する自己を持った選ばれし御子(みこ)である『君たち』の力(パワー)でなければ、予定された因子(インパクト)を覆す事は、到底不可能な物事となってしまうのだから・・・」







 「兄さん・・・ 名前は?」







 「 ・・・ 渚カヲル  ・・・ 滅び行く刻(とき)を見定める運命に在る者・・・ 」









 なんとなくに難しすぎて言っている事の内容の全てを100%に理解出来るというものでもなかったのだけれども、爽やかな感情とともに存在が消え去り行った『カヲル』の笑顔だけは、決してこの後も忘れないだろうと二人は思った。







 説明のしようの無い雰囲気・・・・





 神様の御使いに相応しく、あっと思う間でもなく一瞬にして姿が見えなくなった『』の事をアレコレと言い合う中で、彼ら二人は、ある種の確証めいた推測認識を持つに至ったのだ。







 外見が全然似ていないお父さんシンジ先生に似ている・・・






 アスカお姉ちゃんや、ブリズベーンのルーシーお姉ちゃんにも似ている・・・






 理由も理屈も無く、『カヲル』は『味方』であるに違いない・・・と。










 警告!  オブジェクティブ・ディメンション・パワー(ODP)、感知!!  LNAアラート、レベル3!!










 「アサヒ!  出た!  使徒(LNA、Lost Number's Angels)や!!」





 4体、4体出た! 青葉さん(副司令)が言ってた『1体の大天使』じゃなかったけど、今なら、そう・・・ かえってチャンスかもしれないわっ!」





 「どうする?  撃つんか?  行くんか? 」





 「え!  そ、それは・・・」







 何時もならば本能と直感でもって即座にパワードEVA機動の判断を下している彼ら二人が、この時ばかりに砲撃戦闘と近接戦闘の切り替えの微妙なるタイミングの判断に迷ってしまったのは、時間のかかるパワードランチャー第二弾の再収束がほぼ終息していたと言う物理的な理由と、ついさっきまでのカヲルの言動がなんとなく頭の中にこびりついていたという心理的な理由があるのだろう・・・







 眼下に居座る4体の巨大生物は、お父さんの敵(かたき)の仲間・・・




 それらを滅ぼす行動に、普段なら躊躇いの気持ちなど微塵も感じられよう筈も無いのに・・・







 「パ、パワードランチャーで、使徒の巣を・・・  いや、ランチャーを切り離して『きんせつかくとう』の方を・・・ い、いや、だけど、やっぱり・・・」





 「ん!?  ちょー待て、アサヒ!  ・・・消えた!  消えよった!?? 」







 二人が適切な判断に迷っている一瞬の隙を突いて、先刻までうるさいまでに鳴り響いていたコクピット内のLNAアラートが突如として静まり返り、ディスプレイ上に映し出されていた4体の生体熱源は一瞬にして彼らの目の前から消え去ってしまった。





 瞬時移動(テレポート)・・・





 LNAの持つその能力は、LNA(新使徒)にこそ固有であって、攻撃主体を『追尾』する性質を現象レベルで具現化する事を可能にした非常に厄介な戦闘能力である。





 そして、それが故に、何も知らず目標(LNA)に全攻撃兵力を近づけ過ぎたOPD(四号計画)の大失敗を鑑(かんが)みて、今、現実に攻撃を仕掛けている戦闘主体は、自分たちのP−EVA弐号機の一機のみとなっているのであり、近接の半径30km行動圏(ADF)内には、何一つ『E兵器』以外の直接な戦闘行動を起しているユニットが存在せず、また存在しないよう、大部分の必要戦闘火力を5000km以上の遠方に分散配置した総数1万発にも及ぶ戦略N2兵器に頼っていた段取りでもあったのである。





 だが、こうまでして大仰に整えられていた殲滅戦闘計画の限られた舞台(ステージ)の上で、一方的な主役(やられ役)のままで居る事をこそ期待されていた筈である彼ら(LNA)の攻撃意識は、一体、何処に?





 この期に及んで『何処』に向かって侵攻を開始しようと言うのか?





 LNA(使徒群)LNAの巣(黒き月)を滅する強き意志を持ち、またその能力を内包して世界最強の砲撃戦闘を仕掛けている攻撃主体は、現に彼らの目の前に存在している『パワードEVA弐号機』でしか有り得なかったと言うのに・・・







 「・・・先生(初号機)か?  先生の所なんかもしれん!」





 「(シンジ)先生の所?」






 ようやくに現れては、消え去ったLNA(使徒群)に、まるっきりの肩透かしを食らわされた格好のP−EVA弐号機・・・





 突如として現れた『カヲル』なる人物の警告・・・





 正体不明の『』は、主戦場となるべき使徒の巣(黒き月)から立ち去り、ODDの終幕戦において、誘き出されたLNAに最後の決定的な止めを刺す予定となっていたシンジ先生とアスカお姉ちゃんの二人の大切な家族の事を『彼ら』にこそ守って欲しいと言っていた・・・









 ・・・α認証!  β認証!  現行PWS命令、全放棄!  P−EVA02、準飛行形態(POWERED-3)から高速飛行形態(POWERED-2)へっ!!









 発射態勢の整ったパワードランチャーを即座に切り離し、黄金色(ゴールド)に輝いた巨大なる人工進化工学メカニズム(P−EVA)の変形が音をたてて急速に完成して行く僅かなる様(さま)さえをも、コクピットの中に居る二人には非常にもどかしく感じられた・・・






 冗談ではなく、何かが起る気がする・・・






 確証の無いその気持ちは、今や、かつての事件にて、自らの産み為した不注意により大好きだった父親を失わざるを負えなくなってしまった幼き彼らの共通体験の中において、ともすれば何度でも繰り返しに再現されてしまう認識映像(トラウマ)となって、彼ら二人を拘束する効果を併せ持つ『予想』だったのであった・・・








(B3パートに続く)