NEON GENESIS EVANGELION 2 #9 " Turning Point " 消えた・・・ その感覚だけは、エマージェンシー(非常事態)の鳴り響くβ-プラグ(コクピット)の中で取り残されてしまった形のアスカにもよく判った。 しばしの空白の後、轟然(ごうぜん)な衝撃音の発生と共に存在自体が消え去り行った喪失感・・・ いったい、幾許(いくばく)、気を失っていたのかも解らない・・・ 自我を取り戻し、唐突に失いかけた意識の中から舞い戻った主鍵(メイン・ローダー)の彼女は、正面モニタが拾い出している前方ODD映像の中にあって、必死に彼女にとってのシンジ先生の姿を追い求めようとして足掻いている。 どんな時でも、彼女には絶対的に優しかった先生の姿を・・・ 時折寝ぼけたようにボッーとしていたり、間の悪い助平(?)と感じたりした事もあったけれども、実は容姿だってそんなにイケテない事もなかったと思っている彼女のシンジ先生は、はっきりと彼女(アスカ)の事を、彼女(アスカ)よりも好きだと言ってくれていた・・・ 大好きだと言っていた・・・ 本気で怒った姿など只の一回だって見たことが無く、悲しい時には慰めてくれて、楽しい時には何を言うでもなく一緒に笑ってくれていたような彼(シンジ)の姿を・・・ そしてまた、ずっと一緒だと言ってキスを交わし合った約束の一夜さえをも、まるで在りはしなかった彼女(アスカ)の空想なのだと嘲笑われているかのような気分で、正常に回復した正面モニターの映像から離れ出た彼女は、彼女にとっての唯一の真実を確かめるかのよう、大好きになっていた彼(シンジ)の姿を追い求めて必死にエントリープラグ(β−プラグ)のハッチを開けている・・・ 轟(とどろ)く爆風の余波が海上に晒(さら)し出された彼女の頬を駆け抜け去り、形成されるキノコ雲の生誕は、エントリープラグの外に出た彼女の知覚の中へと、たった一つの間違えようの無い光景だけを深くに刻み込んでいた・・・ 今、確かに先生(碇シンジ)は消えたのだ・・・ ずっと側に居ると約していた、大切な彼女(アスカ・ホーネット)の事を残して・・・ 「 ・・・ばかぁ・・・ 」 約束を守らなかった先生(シンジ)の最期を呆然と見送るアスカは、力のない『抗議』の意思を示そうとしている。 消え入りそうな声で・・・ 自然と零れ落ちる両目からの涙を、自分では全く拭い去る事も出来ないままに・・・ 形成される周辺海域での緑色光の絶対領域(AMP−ATF)の発生に気付く様子も無く、シンジ(先生)からプレゼントされていたペンダントを左手で固く握り締めていた彼女(アスカ)は、気が付けば声あらん限りに叫んでいた。 「馬鹿! 大馬鹿シンジっ!!」 と。 やがて、何もしていないのに現場を見ているだけで段々と痛くなって来る頭痛の原因が一体何なのかと言う事もよく分からないままに涙も涸れ出し始めていたその時の彼女(アスカ)は、己が己で無くなる意識の渦の中で、自分ではずっとずっと対等な恋をしているつもりだった先生(シンジ)の名前を呼び続けている。 間に合わなかったパワードEVA弐号機の現場到着・・・ パイロット救出部隊(UGM)の発艦と量産型EVA(SR−EVA)の一斉投入・・・ それは新ネルフ(POWERS−Nerv)による任務(PE計画=真ODD)成功が達成されていれば不要であったと同時に、予想外な修正事態(アクシデント)に対処する為に用意されていたもう一つの裏ODD・・・ パワーズ(POWERS)本隊主導によるODD第二任務(クロス・コア構想)の始まりを告げていた高らかなる嚆矢(かぶらや)となる物でもあったのだった・・・ (本編へ続く) |