NEON GENESIS
EVANGELION 2 #9 " Turning Point " side-A3
「第12機動艦隊群、ハルゼー提督より連絡! EVANGELION mk.2−SR、全機起動!! 対ANGELフォーメーション、第3陣結界形成!! Nダミー・システム、全力稼動っ!!」
「第13機動艦隊群、フレッチャー提督に連絡! EVANGELION mk.2−SR7、SR8、SR9、SR10、SR11、SR12、SR13、該当爆心地(OFT308−CCP)に向かって、即座に投入せよ!!」
「 投入 ( Battle Station ) ! 」
「 起動 ( Commence the Action ) !! 」
新たなる戦略情報が次々に集積し、過去に発した適切な発令の優先順位が分刻みで修正を迫られて行くような臨戦体制下にあるブルーリッジの戦闘指揮発令所(CIC)内において、一人孤高とした冷静さを保ち続けようとして行く努力は割合に難しい。
最強、最高のエース(切り札)、パワード・エヴァンゲリオンが急襲を受け、決定的な致命傷を受けながらも、辛うじて4体の攻撃担当使徒群(LNA)を打ち負かす事が出来た事に成功している範囲内までは、危ういながらも許容出来るシナリオ進行であったのだと我らの上層部(軍参委/中央作戦本部)に対して抗弁出来ようにしても、初号機αパイロット(シンジ)がβパイロット(アスカ)を脱出させ、1体の指揮官使徒(大天使)を道連れに『消滅(自爆)』の道を選択してしまった時から、伍号計画(真ODD)内部における『予定調和』と言う名の歯車は狂ってしまったのだ・・・
司令椅子の手すりに手を打ち付けて静かな苛立ちをあらわにするグエン大将や、苦虫を噛み潰したような表情に変化しているラムスドルフ少将の雰囲気は、司令部全体の雰囲気へと即座に波及する。
伍号計画(救世)の失敗・・・
世界の終わり・・・
戦闘区域(OFT308)内における新たなるエネルギー波形(LNA)とAMP−ATF(S2−Enrgy)の融合の予兆が示されているモニター群を眺め見ているほとんどの司令部部員達の心の中には、そんなありふれた思考停止にも似た破滅へのキーワードの一つ一つが、今くっきりとした『形』となって奏(かな)でられていた・・・
「遅らせる、遅らせる、と見せかけて、本当は一手順早める事こそが、(日向)上佐の真の目的だったとはね・・・ してやられたと言うべきか、はたまた、我々全員、単なる間抜けの集団だったと言うべきか・・・」
「第一世代(碇シンジ)の退場・・・ 第二世代(鈴原ツバサ、アサヒ)を利用した誘発行為の不発・・・ どちらにせよ、大衝撃(インパクト)時に在ると言う葛城遅延(KDS)の効果を必要以上に怖れ過ぎていましたね。 『見限る』には遅すぎたかもしれないし、この局面で、この『先行』は正直痛い・・・ だが、しかし・・・」
「・・・やはり、貴方(チャン特佐)もそう思いますか?」
「ええ・・・」
取り戻せないほどの損失ではない!
真(パワード)が駄目なら、裏(クロス・コア)を行えばよいのだっ!
構築の主鍵(メイン・ローダー)たり得るアダムの子(祝福されし者=BP)は、今でも我らが確保しているのだからっ!!
それは今まさに救助艇(UGM)に救難されようとするアスカ・ホーネット(BP)の様子を眺め見ている二人のパワーズ参謀の一致した見解だった。
まったくをもって度し難い。
アルファ・システムへの介入が見受けられたにしても、今は全くに回復している・・・
例え、パワーズによる世界戦略の象徴であったアルファ(A・L・Fa)防空システム(連動型攻撃衛星群)の何割かと、新世界における神の軍隊(カリスマ)の中心となる筈だったパワードEVA初号機(P−EVA01)を失った失態があるにせよ、弐号機(代替機)は依然として健在であり、今やSR−EVAを介した神の子(BP)の十字列覚醒(クロス・コア構想)さえもが、目前である・・・
直前になって疑義された軍務秘書官(日向マコト)の離反策とは、本当に『この程度』の混乱(嫌がらせ)で、『終結』なのだろうか?
・・・ならば、恐れるほどに大した事はない。
地位を捨て、パイロット(碇シンジ)を犠牲にし、挙げ句の果てに何を目指しての反乱劇だったのかまでは今の所よく判らないが、『八月の霧』事件を首謀した伝説の彼(JS−13)でさえも、所詮は我ら(WEISHEIT)の手の内であったか・・・
「・・・ですが、グループ(旧ネルフ)全体で動いていたと言う可能性は? 彼ら(旧ネルフ)は、どちらかと言うと真実に近い側に居ます・・・」
「無い! 単独だろう・・・ 司令代行(青葉特佐)とのコンタクトでも確認出来ていれば、これを理由にどうとでも(一斉排除)出来たものを・・・」
「彼の下に在る若手(尉官級パワーズ)は、関与しているでしょうか? チャン特佐? 統制派(コスモス)の結束に響くまでの動きがあった場合、根が深くなってしまいます・・・」
「統制派同志(コスモス・カラー)を疑い合う事態は避けたい・・・ 長門一尉を始めとする若手のパワーズ連中(23・24期生)は、事前に、中本(ちゅうほん、国連軍中央作戦本部)や軍参委(ぐんさんい、国連軍事参謀委員会)の中枢に引き戻して、引き離してあったんだ・・・ 監視付とは言え、彼女らの軍歴に傷は付かんよ・・・ そのように処理する・・・」
「・・・ならば、安心して秘書官(日向上佐)を断罪出来るあたりが、現段階での精一杯と言った所ですね・・・ 不満は残りますが、仕方ありません・・・ 連合派対策と言う意味においても、パワーズ・ネルフ(POWERS-Nerv)の解体・再編成を優先させましょう・・・」
何時の間にかチャン特佐との密談の中に加わっていた他のパワーズ参謀達(ラム特佐、マフディ特佐)との会合を交えて、作戦参謀・スプルーアンス上級特佐は、即座に、パワーズ・ネルフ”元”司令・日向マコト上級特佐の反乱劇は伍号計画(PE計画)の根本に何らの変更を及ぼさぬ物であり、『D−DAY』は『予定通り』に決行されると言う既定のパワーズ方針を、論議(情報)の蚊帳の外に在るODD司令官(グエン大将)に対して、上申した。
司令官の隣で「予めにその日向とやらの行動は押さえ切れなかったのかね?」とでも言いたげな視線を送っている参謀長(ラムスドルフ少将)閣下を尻目に、床下に現れる戦略情報図と初号機αパイロット/碇シンジ氏(3QP)の作った予定外のクロスコア・ポイント(CCP)・・・ および、その内部で、為すすべも無く留まっているβパイロット/琉条・アスカ・ホーネット(BP)の現況説明に入っているスプルーアンス上級特佐は、目の前の少女(『メイン・ローダー』)が一体どれほど偉大な存在と成り得るのかをイマイチよく分かっていなさそうな態度をとりつつある最高司令官・グエン大将の何時もの様子を流し目で見やりつつ、
「統制派(パワーズ)の権力基盤とて万全ではない・・・ 一個人(日向上佐)でも、ここまでの挑戦が行える事を、連合派(カールマン派)幹部に知られたら・・・」
という事をふと自嘲ぎみに考えた。
『総帥』 ・ アレクサンドル・ツーロン首席補佐官・・・
ウィルムット・カナン中将 / 防衛参事官・・・
ブーテフリカ・ブーメジエン高等財務企画官・・・
今の状態の『まま』では、親亀こけたら、皆こけてしまう・・・
一見、傍目からは華々しく軍権力の中枢部(軍参委四部局:軍務局、兵務局、統合局、主計局)に居座っているかのように思えるパワーズ(統括特務部隊)の任務形態であるが故に、実戦部隊(SS)に基盤を持たない我々(統制派)こそが、依然として『弱者』であると言うごく当たり前の危機認識が、その構成員の中でさえ『無い』という体(てい)たらく・・・
10月人事と、それに続く10月改造人事の冒険に着手して以来、国連軍中央権力の再強化戦略(官僚体系の再構築、軍団制の解体、中央軍(パワーズ)再統合)は、後戻り無く動き出しているのであり、若々しい南半球諸国に強固な基盤を築き上げている自由主義者・・・ カールマン(連合派)・ネットワークと対抗して行く上でも、今この時、こちら側(統制派=コスモス)にこそ、より強固な一枚岩を演出する必要性があったというものを・・・
内心の困惑を押し隠して理知的に作戦概要(クロス・コア構想)の補足説明を続けているスプルーアンス作戦参謀の真摯なる横顔を眺めていたこの時のチャン・チュン・イー政務参謀は、それに加えて、目の前の神の子(アスカ・ホーネット)が覚醒するにせよ、しないにせよ、ODD戦後の世界においては、連合派(カールマン派)との決戦スケジュールを一刻も早く進めておかなければいけなくなった気勢にある事態を強くに認識していた。
先すればすなわち人を制す・・・・
複雑に絡み合う内部事情と、外に向かっては団結を誇らなければならない巨大組織(統制派)の二律背反・・・
遅れれば遅れた分だけ後で取り戻す事が尋常に困難となるであろうし、『D−DAY』以後の世界戦略(スケジュール)にも、思わぬ支障を来たす結果となるであろう。
貴方(日向上佐)を捨てても、私は選びますよ?
『聖域 (アジール)』を・・・
それはパワーズ(POWERS)の現行執行部員なら、誰でも同じ想いです。
第二任務(クロス・コア)と祝福されし者(琉条アスカ)の説明をスプルーアンス上佐から引継ぎ、使徒の巣(黒き月)の放つATフィールドを打ち破る再度の火力集中を提案しかけていたチャン特佐の側で、この時、将校用の緊急呼び出し回線がいきなりに鳴り響き出して、その場に居合わせたパワーズ参謀たちの『本能』的な注意を喚起した。
続いて現れる正面モニター左上部での緊急(エマージェンシー)ポップアップウィンドウには、アルファ・システムの変調以降、電算管理室(CCC)の洗い出し(総チェック)へ詰めている筈だった情報参謀・ブローニング特佐の血相を変えた姿が映し出されている。
「スプルーアンス上佐っ! スプルーアンス上佐は居るか!? チャン特佐でも良いっ!!」
「こちらスプルーアンス。 電算室? どうしました?」
顔を見合わせて、ブローニング特佐の只ならぬ雰囲気を感じ取った他のパワーズ連中は、誰言うと無く手持ちのインコム(小型通信・翻訳装置)のスイッチをオンにして、二人の直通音声回線の中にこっそりと割り込んで行った。
「本部施設(MAGI-4)が使えないっ!! 340正(せい)層までの対侵入者・自律防御障壁(666プロテクト・改)も崩壊寸前っ!! 我々(の艦隊)は、想定・62秒で孤立するぞっ!! 」
「!? どういう事です!?」
「 第三新東京市(MAGI-4-01)、伯林市(MAGI-4-02)、西上海市(MAGI-4-03)、桑港市(MAGI-4-04)、倫敦市(MAGI-4-05)、莫斯科市(MAGI-4-06)・・・ 全てのMAGIシリーズが、我々との接続(アクセス)拒否審議を始めているんだっ! これらの再奪取は、1台たりとて容易では無い! 残り時間が1分弱となった今、敵さんの方が一枚も二枚も上だっ!!」
「バックアップ(LUNA-2)は!? バックアップは使えないのですか!?」
「そのバックアップ(ルナツー)こそが、起点(くろまく)なんだ・・・ アルファ・システム(攻撃衛星群)への電子的な介入は、我々(マギフォー)の基幹制御をルナツー(Fab.25)・ネットワークへ退避させんが為に仕組まれていた巧妙なる前哨戦に過ぎんよっ! 我々(の艦隊)は、GCI−EMLS(統合システム)傘下部隊への離脱命令を、我々の手によりて発信しているっ!!」
JUSTICE IS POWER (正義無き力は、無力なり!!)
ブローニング特佐からの連絡と時を置かずして、次々と浮かび上がる正面モニター群の中の見慣れた2023年教書(パワーズ綱領)は、旗艦”ブルーリッジ”のメインフレーム(第四世代MAGIシリーズ)が外部ルートからの攻撃的なハッキングを受け、その中枢制御を乗っ取られつつあると言う『有り得る筈の無い』緊急事態を端的に指し示していた。
常人監視の中、ここまでの華やかなる芸当を可能にしているのは、電子戦に対する深い経験と知識(ノウハウ)があり、なおかつこちら側のブローニング特佐を上回る実力を持っているのであろうと推測される情報科将校出身のパワーズ(POWERS)・・・
「やってくれたなっ!! 日向マコトっ!!」
正道による『世界革命』を標榜しているパワーズ思想を嘲笑うかのようなその敵対的メッセージの内容を眺め見たスプルーアンス上級特佐は、今やODDファースト・スクランブル(初号機の喪失)以上の混乱の中に巻き込まれつつあるパワーズ参謀部員たちの戦闘指揮所(CIC)内で、そう叫んだ。
『総帥』と『パワーズ思想』と『神の軍隊(シャイニング・ファース)』に対する侮辱と攻撃・・・
二段構えの戦術行動により、真実の目的を誰からも隠していた見事さ・・・
西上海機関員(JS−13)時代の『彼』は、人前では決して笑わない男として『有名』だったそうだが・・・
静かに訪れるメインコンピュータ(MAGI−4)の敢え無い停止により、全ての戦略単位からの『孤立』を余儀なくされて行く第一艦隊群・最新鋭指揮中枢特化艦”ブルーリッジ”艦内において、参謀大学開闢以来の大天才との誉れ高かったスプルーアンス上級特佐は、我らの『総帥』の元に居るのであろう『裏切り者(日向上佐)』の高笑いを、この時、確かに耳にしたような気がした・・・