NEON GENESIS
EVANGELION 2 #9 " Turning Point " side-A4
「・・・殺さないのかね?」
『総帥』に厳然と銃口を突き付ける日向は、その問いに対しては、あくまでも静かなる沈黙を持って答えていた。
表面上には解らないかもしれないが、現時点においては、予めに仕掛けておいた外部からの時限爆弾・・・ ODD司令部側からは全くの盲点となっていたであろう筈のMAGIクラスの性能を叩き出すもう一つの統制コンピュータ・シュツッツガルド:LUNA−2(Fab.25)経由でのMAGIネットワーク(GCI−EMLS)全体に対する分散電子攻撃(ハッキング)が始まっている頃合いだったのである。
もはや全ての戦略情報は混乱し、混乱したその情報を全出動部隊が最後まで共有し続ける結果が解っていたのだとしても、なおかつ、そこから逃れる事の叶わない皮肉さと狡猾さ・・・
ある特定の目的のために、メインゲート(PMG)と緊急バックアップルート(EBR)を不自然なほどまでに第四世代MAGIへと集中・統一管理させておかなければならなかったカナン=パワーズ戦略が、この場に至って、完璧に裏目と相成ってしまった当然の帰結だとも言えるだろう・・・
無論、第3新東京市において引き継がれていた旧・国連第一戦略情報本部(現:パワーズ・ネルフ)級の本部施設を、『総帥』・ツーロン補佐官(ヴァイスハイト)、及び、『隊司令』・カナン中将(パワーズ)の承認の元に、全面的に使用する『時間』と『権限』と『権力』をもたらされていた地位にあるネルフ司令・日向パワーズ上級特佐であったればこそに可能となり得る高度な『芸当(ハッキング)』ではあったのだが・・・
「 復讐・・・ か?」
「・・・今の貴方がそれを知る必要はない」
「私を退場させた所で、止められる訳でもないし、戻せる訳でもない・・・ それだけは、最低限承知しているんだな? 日向上佐?」
「付随する結果は怖れないつもりです、フォン・クロンシュタット教授・・・ 無論の事、虚構であった訳でもありません・・・
私は嘘偽りなく、貴方をも尊敬していたのですから・・・」
「・・・謝罪は必要かな?」
「・・・いいえ」
「そうか・・・ ならば、もう何も言うまい・・・」
時には質問する余裕さえも見せ、命を狙われつつもあくまでも動じる気配の見えてこない老練なツーロン補佐官(クロンシュタット教授)の行動に対して、決定的にその場の支配権を握っている筈の日向秘書官の方は言うと、どちらかと言うと、照準を相手の急所(心臓)へと確実に定めておきながら、今一歩何かを躊躇っていると言ったような風体でもあった・・・
元々、食事時であり、なおかつ、現場(ODD)をモニターしている大画面が見えやすいように部屋全体の照明を薄暗くしてあった『総帥』の広間では、統合システム(GCI−EMLS)の混乱の最中に、第一艦隊群、第六艦隊群、第七艦隊群の各艦隊ユニットが、戦場から生き残るための『戦闘状態』に入っている一部の様子が映し出されている・・・
パワーズ(統括特務部隊)執行部の抱いている世界制覇幻想の粉砕・・・
世界統合の象徴となり得る最高女神(BP)戦略の妨害・・・
『総帥』、ツーロン補佐官(クロンシュタット教授)に対する個人的な感情と復讐心・・・
そのモニターの映し出す乱戦状態は、この『一瞬』に全てを賭けていた筈の日向自身にとって、まさに『至福』な光景となり得る筈の代物であったのだが・・・
「・・・誰だっ!!」
主に暗殺業務に従事する事が決定して以降、銃の名手としての名声を既に確立している日向マコト軍務秘書官は、右手側に持つ銃口とその射線を全くにぶらさずにして、左手一本で二丁目の拳銃(リボルバー)を抜き放していた。
クロスする銃口が、相手よりも早く、新たなる闖入者の左胸へと確実に狙い定められて、日向自身の個人的な『機敏さ』と戦闘能力の『高さ』を如実に物語っている。
だが、しかし、今の状況とクロンシュタット教授(ツーロン補佐官)との状態を反射的に確認し、改めて新たなる進入者に対して引き金を引き定めようとしたその一瞬の段階に至って、ある種の瞬間的な『驚き』の感情が芽生えて来ると共に、暗殺者としての日向の動作は、約半瞬ほどで停止した・・・
そんな筈が有り得るのだろうか?
この時、薄暗い暗闇の形成する逆光の中、静かに開け放たれたドアの光の中に佇んでいる、その人物とは・・・
「・・・葛城三佐っ!?」
返礼は、三発の銃声・・・
的確に突き刺さる銃弾の一つ一つが、否応無く日向の肉体を後方へと吹き飛ばして行く過程の中で、日向はたなびく長髪の黒髪と、人目を引く綺麗な赤いパーティードレスを着込んでいる、とても美しい女性の姿を見た。
それは一昔前(旧ネルフ時代)の純粋な彼(日向)であったのならば、生涯に愛しているのだと信じていた女性・・・
まごうかたなき『葛城ミサト』なる者の射撃法(シューティング・スタイル)に、全く瓜二つの陰影だったのであった・・・
|