NEON GENESIS
EVANGELION 2 #9 " Turning Point " side-C1
「ツバサ君!! 時間が無いのっ! アスカちゃんが何処に行ったのか、教えてちょうだいっ!! 今直ぐにっ!!」
「はっはっはっ、豪州生まれの日本男児として、それだけは教えられんなぁ・・・ 幾らレミ姉さんの頼みとは言え、アスカお姉ちゃんからはキツク言われとるっ!! シンジ先生のマンションに行っとるなんて、絶対レミ姉さんには言うなって・・・ はぅっ!? しもうたっ!!」
「馬鹿ツバサっ!! 自分からばらしちゃってるんじゃない! もう!」
「そう・・・ アサヒちゃんも知っていたって訳ね?」
「え!? あ! いや・・・ その・・・」
『アスカお姉ちゃんにどやされ(怒られ)てまう・・・ どないしょう・・・』
・・・そう言うツバサ君たちの悲鳴にも似た半べその数々を背中で受けながら、長門一尉は自分の(ネルフ)本部内に割り当てられた官舎の一室を疾風のように飛び出して行った。
ならず者共(連合派の工作員)が、残存エヴァパイロットを狙っている・・・
遺憾ながら、情報局経由で碇シンジ氏の第三新東京市内居住所が特定された『可能性』もあり
担当各員は、搭乗員保護規定Aに基づいた適切な対抗措置を講じるよう注意されたし
そういう極秘訓令を、正規ルートであるべき中央作戦本部(CSO)・情報局(ギルジューク・アスロン少将)を通さずして、統制派(コスモス)の新たなる牙城、軍事参謀委員会(MSC)・軍務局(ウィルムット・カナン中将)から直接に受け取り、碇(シンジ)先生亡き今の三人のエヴァパイロット達全員を合理的に自分の手の届く範囲(ネルフ)内に押しとどめようと画策していた長門一尉ではあったのだが、『よくわかる尾行の撒き方1−2−3』や、『監視撃退・はじめの一歩/−ネルフ編−』というブロック毎に単純化したハウツーものを、(何時の間にやら)碇先生から直接に伝授されていた(らしい)三人の子どもたちは、実際に監視を開始して見ると、監視する側にとって、はなはだ『扱い難い』被保護者たちだったのである。
一つには、自分たち(パワーズ・ネルフ)よりも、亡くなった碇先生の方が、軍務とは関係無い旧ネルフ施設(第3新東京市ジオフロント)の細部構造をよくよく理解していたと言う事もあったのだろう。
複雑に構成された通路・エレベーターのみならず、廃棄されたエアダクトや打ち捨てられた非常階段までを巧みに駆使して、追手を撒いて行くその技術は、小さな背の子供ならでは柔軟さで、下手な情報部員顔負けの素早さとテクニックだったのだ。
入るのは難しくても、出る方はやたらと『簡単』だったネルフ本部の敷地構造も、そのささやかなる『逃亡ごっこ』に大きく寄与していたのかもしれない。
真なる問題の在処は、何処に行っても誰とでも『仲良く』なる三人の子どもたち(チルドレン)が、軍部(パワーズ)から無理矢理に施設内部へと閉じ込められて居て自由を制限されてしまっていると思い込んでいる(一部の)事情を知らない行政部員(一般ネルフ職員)たちの目の前で、例えその一時的に逃亡(息抜き)しようとしている悪巧みな姿が見つかったのだとしても、彼らはこっそりと見ないフリをしてあげていて、上層部(パワーズ)には『何にも言わなかった』事であったのだが・・・
「無事で居て! 今夜の第3新東京市は、『遊び』じゃないの! 『本物』がやって来るのよ、アスカちゃん・・・」
愛車(ポルシェ911)に飛び乗り、エンジンをスタートさせる長門一尉は、自分の拳銃に残されている弾倉を素早く確認(チェック)した。
東洋の魔都・西上海で死闘を演じたアーネスト・リュイシュン国際連合協定特別市々長、イー・インジョン憲兵准将、扶桑タカユキ軍医准将(ゼーレ/JS−9)グループの狂った番犬・・・
『フェイ兄弟』の長兄、『フェイ・ツァートン』特務特佐が、ブラジル=アルゼンチン(連合派)の内密な意向を受けてやって来る・・・
私は勝てるだろうか?
課長(二佐)時代の日向司令の機転と助けがなければ、あのまま無様に殺されてしまっていたであろう、この私が・・・
ポルシェのエンジン音が、長門一尉の『決意』とリンクする・・・
ライトを灯し、奴等が探索を開始するであろうシンジ先生の昔のマンションに急行する長門一尉は、行きすがら、何度『奴らの能力には勝てない』と思い込んでしまった事だろう?
だが、それでも勇気を奮い起こして、彼女は現場に向かって行った。
『希望(アスカちゃん)』を守りたい・・・
今の彼女には、もうそれだけしかなかったのだから・・・
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