NEON GENESIS
EVANGELION 2 #9 " Turning Point " side-C5
" This is Ryujou. NDS−Entry Plug α ( "KAWORU-004" ) is drive mode "retrial". Cut off all energy root of "VET-S2" !! "
" Yah ! Roger ! Good luck ! Our "PRINCESS"! "
" Yes… Good luck! "
推進剤供給管(VET-S2 Tube)が切り離され、機体にPOWERS(パワーズ)−N203とマーキングされているP−EVA専用空中給油機(Boeing:KCR-PEVA03)の一機が、飛行動作中のパワード・エヴァンゲリオン(POWERED-2)から即座に離脱して行った。
続いて現れるモニターウィンドーには、第3新東京市(ネルフ本部)の長門レミ『三佐』が、たった今国境線を越え、反パワーズ体制の急先鋒・南米ブラジル=アルゼンチン連合(UBA)の領空内にまで進駐している単独行動のアスカの機体(P−EVA)に対し、新たなる指示と最後の指令を与えるべく画面の中央部分へと映し出されていた。
頭部をすっぽりと覆い隠して操縦する新型コクピット(リビジョン2)に換装が終了したエントリープラグ(Entry−β)の中に座っている専属パイロットのアスカ・ホーネットも、遠く離れたネルフ本部(長門三佐)からの逐次なる要求に機敏に反応して、飛行動作中のパワード・エヴァンゲリオンを慣性状態から臨戦体制へと安定変化させている・・・
外部センサーの伝達も、内的バランサーの情報も、完全複合型人的操縦(ダブルエントリーシステム)方式に類する程度に、ほぼ適正水準状態を保ちつつあると言って良く、水平軸線と垂直軸線が交差表示される全方位型マーカーと中枢部(S2−Energy)に直結する武器管制システム(PWS)の連動も、いまや一分の隙も無く完成していると言っても過言ではなかった事だろう。
精密的確なダミーシステム(KAWORU)にその大半を制御させている効果と、ネルフ技術陣の不眠不休の努力の御蔭で、司令部(パワーズ・ネルフ)側から要請されていた新型パワード・エヴァンゲリオン参号機(P−EVA03)のスペックは、ほぼ能力的にはシンジ(先生)がα側(Entry−α)で操縦桿を握っていた頃の壱号機(P−EVA01)と同等か、それ以上の能力(ポテンシャル)を秘めている万能決戦兵器にまで高められているのである。
航空統制(A・L・Faシステム)のくびきが外され、中継役のネルフ艦隊(第11機動艦隊群)が(旧ネルフ・青葉グループのサボタージュにより)額面通りの機能を提供しなくなっている今、単独E兵力(パワードEVA)派遣による電撃作戦遂行には、本部施設(MAGI−4)と一体になったダミー体系(NDS)の整備が必要不可欠でもあった。
問題はただ一点・・・
中枢を御(ぎょ)しているダミー(KAWORU)とそれを操る琉条アスカとでは、戦闘時の相性が微妙にずれているという事・・・
シンジ先生が死亡してから後、一ヶ月後・・・ 最初のダミー(REI)では、起動状態にすら至らなかった。
4体目のダミーにしてようやく適正以上の『数値』を確保する事に成功しているとは言え、Nダミー01(REI)でも、Nダミー05(KAWORU)でも、苦も無く自由自在に扱えていた鈴原兄妹(ツバサ・アサヒ)と違って、アスカは『選り好み』するし、身近な碇シンジ(03)と組んでいた頃の方がどう考えてもまだ『まし』な能力(パワー)を発揮するかのような訓練風景なのである。
単独シンクロテストの成績では、第一世代(FG)パイロット・碇シンジ達のそれをはるかに凌駕して、第二世代(SG)の鈴原ツバサ・アサヒ(04)と同等の好成績を修め続けている第6適格者(06)の彼女(アスカ・ホーネット)が、理論的には在り得ない『拒否反応(POWER DOWN)』を、何故ダミー(KAWORU、REI)パートナーとだけは繰り返してしまうのか?と言うことについては、とうとう誰にも解明出来ない実に不可思議な事例として、ネルフ技術本部の解析記録の中へと封印(部外秘)されてしまっている状況報告(レポート)だったのだけれども・・・
「アスカちゃん、確認するわね? ブラジル=アルゼンチン連合(UBA)政府とは、その領土内において作戦行動を起こさざるを得ない特殊事情について、事前にこちら側から話をつけています。ダミーシステム(NDS)の馴らしを兼ねて、該当地点に到達したら想定通りにパワードランチャーを打ち込み、消滅もせず使徒(LNA)が出て来たのなら即座に変形(POWERD-4)して応戦しなさい。私達の目的は確認された『使徒の巣(黒き月)』の撲滅であり、必要以上の環境破壊でもなければ、兵力の示威行動でもありません。作戦に成功したら、即座に国外に退去して、無用な警戒を・・・」
「・・・レミさん?」
「何?」
「さっき、ここの政府とは仲が悪くても、もう話がついているって言ってた訳よね・・・ 間違いなく・・・」
「そうよ。アスカちゃんは、何にも心配要らないわ。・・・気にしないで。」
「だったら、あの黒い飛行機(戦闘機)は何? 何か『帰れ』って、さっきから英語で・・・ きゃあ!!」
威嚇の段階をはるかに通り越し実弾を発射した三機のステルス戦闘機が、距離によるタイムラグを飛び越え、P−EVAのモニター映像(アスカの視点)を通じてという形で、司令部側の長門三佐たちにも確認された。
ATフィールドが存在するため、通常兵器が何ら役に立たないとされているエヴァンゲリオン(E兵力)に向けて発射された三基の誘導ミサイルが、アスカのフィールドを突抜けて本体であるエヴァンゲリオンを直接に攻撃しているという現実は、ネルフ司令部にとって信じられない驚きを持って迎えられたのである。
即座に、オペレータ達による連合政府(B/A)とのコンタクトが求められ、MAGI−4による計画企画段階を含んだ登録・現行兵器体系の照会が逐次に実行されているのだが、連合政府(ブラジリア)との緊急回線は繋がらず、情報解析は芳しくない。
まず第一に、兵力(P−EVA)派遣を黙認する事に関しての事前合意を蔑(ないがしろ)にされて現地軍(MP−38)から攻撃を受けていると言う目前の事実と、第二に、通常兵器によって、アスカの構築する堅固なP−EVA/ATフィールドが破られてしまったのだという二重の驚愕により、怒号の飛び交う司令部(第3新東京市)側の混乱は、ふたたび最骨頂へと達していた。
「拒絶! 宮殿(パレス)のMAGI−4は、人為的に遮断(カット)されている模様っ!! 応答有りませんっ!!」
「ニューヨーク(軍参委)経由でパワーズ(統括特務部隊)の上位回線を開きなさい! 大統領政庁(アルゼンチン宮殿)が駄目なら、軍系統(MP−38)による強制侵入(コンタクト)をっ!!」
「駄目ですっ! 開きま・・・ いや、待て。長門三佐!! ブラジリアですっ!! SASS(南米軍団)経由で、現地軍司令部(ラプラタ・ストリート)が通告を発しましたっ!! 軍団直系ではありません、8番ですっ!!」
「何っ?! 」
長門三佐が8番の受話器を受け取ると同時に、ポップアップウィンドウが真正面に立ち上がる正面モニターでは、B/A連合正規軍(特高警察庁)の紺色の制服(ネイビー・ブルー)に身を包まれた厳めしい初老の軍人の姿が映し出されていた。
小型の翻訳機(インコム)を耳に付け、特高警察庁航空幕僚監部ホセ・マルティネス航空警視正と名乗る男と対峙する長門三佐は、相対したまさにその瞬間から、その彼の背後にある強力な意思の力と用意された破滅への序曲を感じ取っている。
彼らは、本気で『やる気』にあるのかもしれない・・・
”踊り人形”作戦の失敗(日向事件)によって、攻撃衛星(A・L・Faシステム)とそれに付随する情報衛星(ランドスコープ)による相互監視体制(パワーズ体制)の一角が崩された今、確かに通常兵力の移動と国力の強大さによる駆け引きを行いたかったのなら、今こそが『チャンス到来』だろう・・・
考えたくはないけれども、叔父様(カールマン大統領)は、父様(ヴァイスハイト)とカナン中将(パワーズ)の要望に対して、最初っから知らぬ存ぜぬを押し通す御心算で、私達(ネルフ/E兵力)の派遣を受け入れていたらしい・・・
父様たち、国際連合・統制派(コスモス)の支配(くびき)から離脱する、またとない『口実』を得たいが為に・・・
通常なら国連旗(ブルー・フラッグ)と南米軍団旗(スカイ・フラッグ)が掲げられているのであろう位置にあるブラジル国旗とアルゼンチン国旗の燐立を眺め見た長門三佐は、アスカの機体(パワードEVA)の受けた被害が比較的軽微であるという報告に安堵しつつ、窓口であるマルティネス航空警視正との交渉を開始した。
フィールドを突き破る事に代表された独自の最新技術・・・
忠誠心溢れる官僚機構と、1000年は戦えるであろう豊富な戦略物資の数々・・・
やはり国際連合・連合派(フリーダム・ブルー)の総本山であるブラジル=アルゼンチン連合の本質は、油断のならない戦闘国家にあるのだと、長門三佐は思った・・・
『貴公たちの機体は、明らかに領空侵犯である。ただちに退去せよ。』
『こちら統括特務部隊(パワーズ)、長門。一体、どういう事か? 我ら(ネルフ)には、国連軍事参謀委員会(MSC)より委託された新使徒(LNA)特別調査権が認められている。LNA特有のODP(オブジェクティブ・ディメンション・パワー)が貴国(B/A連合)領内に感知された今、E兵力(P−EVA)を派遣するは、組織権限上、ごく自然な成り行きであり、その旨も連合政府(ブラジリア)に対して既に通知して了承済みである。速やかに兵を引き、下がられよ。』
双方ともに理にかなって毅然とした受け答えではあるのだが、戦闘を中止させる為の効果のある無しに関しては、残念ながら全く関係の無い問題でもあっただろう。
約3分ほどに及んだ国際協定(サンモリッツ宣言)に関する二、三の形式的なやり取りが終了して、翻訳機の不調を訴えたマルティネス航空警視正は、新しい翻訳機を傍らの幕僚から受け取ると、はるかに年下であった国際連合武官(国際公務員)である長門三佐に対して、半分笑いながら返答を返した。
『そのような通達や要請は、我らの預かり知らぬ所である。本官は、我が祖国の法と正義に基づき、正統なる上官の命にしたがって、己が職務に忠実たるのみ。侵入者は排除する。』
SASS(ブラジリア)からの映像が途絶え、バックグランドからモニターに浮かび上がった、交渉の最中もミサイル攻撃を受け続けるアスカの映像を、受話器を持ったまま愕然と見詰めていた長門三佐は、仕方なく首を横に振るとパイロットであるアスカに対して対抗的防戦命令(ADI)を指令した。
使徒(LNA)ないしは使徒の巣(黒き月)が再びに現出する可能性が十分に高くなった今、現時点の現地点で、B/A連合が『何か』を企(たくら)もうとも、統括特務部隊パワーズ(POWERS)ではなく、使徒対策特務機関ネルフ(Nerv)としての威信にかけて、こちら側から退く訳には行かない。
外交ルート(国際連合)にせよ、機関ルート(統括特務部隊)にせよ、仮にも十大大国の一角であるB/A連合正規軍(特高警察庁、MP−38)との小競り合いに対する正式な裁定と決着は、また『後ほど』と言う段取りになってしまう事だろう。
人為的にフィールド(ATF)を破られたのだとしても、外部強化装甲(パワード・ユニット)とダミーシステム(NDS)が幾層にも守っているのだから、事態がどう推移するにせよ、アスカちゃん(BP)とエヴァンゲリオン(P−EVA)だけは大丈夫・・・
無論の事、相手側(特高警察庁)は、少々痛い目を見る結果となるだろうが・・・
現地のアスカが叫んでいる『どいてよっ!! 馬鹿っ!! 私は、闘いたくなんかないのにっ!!』という心からの叫び声と怒号を耳にしながら、司令部(第3新東京市)にある長門三佐は、そっと目を瞑り、もう一度だけ、この守るべきものから攻撃を受けていると言う馬鹿馬鹿しい事態と事実に対して、愚にもつかない孤独な歎息をついていたのだった・・・
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