NEON GENESIS EVANGELION 2 #9 " Turning Point " side-D6 波の声が聞こえる・・・ 『夢うつつ』に目の醒めて行くこの『僕』の目の前へ飛び込んできた一番最初の『光景』は、何処かの南国であるのかもしれない潮騒な砂浜だった・・・ ぼんやりとした心で起き上がり続けようとする視線の先には、海面の上に立つ『綾波』と『カヲル君』が一瞬だけ『微笑んでいた』ような気もする。 ややあって、南風の中には『誰も居なかった』現実を見とめて、首をゆっくりと横に傾ける僕は、入れ替わるように捕らわれて行く『意識』の中に、見慣れた『ピンク色』の女性物のプラグスーツの影(かげ)を認めて、少々に驚いていた・・・ 「アスカ・・・」 横たわる彼女に返事は無い。 よろよろと起き上がって『彼女』に近づき、ただすやすやと『眠っている』だけである彼女の吐息(といき)を確認すると、僕は何処と無く安心してホッとしたかのように、その場の中でへたり込んでしまった。 良かったのか悪かったのかどうかは別として、実感として『還ってきたのだ』とも思う・・・ 傍らに座ったまま、濡れたように乱れた彼女の栗色の髪に触れ、整えてあげようとした矢先に身じろぎしてゆっくりと目覚め出す彼女(アスカ)の身体に、僕の行動や行為は制動されたように戸惑い・・・、そしてまた、実際に宙(ちゅう)をわたって行こうとする『一歩手前』で停止していた・・・。 大切な彼女の『目覚め』を目の前にして、僕は自分自身の欲望に『忠実』であって良いものかどうかに対して、前例の無い『困惑』な想いを禁じえなかったのだ・・・ 「・・・シンジ・・・」 心の深淵(しんえん)で、強張(こわば)る『意識』を感じる・・・ このアスカは、『アスカ』なのか、『アスカ』なのか・・・ だがしかし、それはある意味、『些細』な物事でもあった事だろう・・・ うっすらと目を開きつつ、手を差し伸べるこの僕の輪郭を捕らえだそうとする彼女のおぼろげな視線に向かって、何をどう言って切り出したら良いのかを『確信』する僕は、複雑な思いで『ここに居るよ!』と呟(つぶや)いている・・・ 彼女は、ゆっくりと『応えた』・・・ 「・・・先生?」 「やぁ!」 『呼び捨て』で終わらなかった事実に落胆は感じるけれども、あれこれ考えるまでも無くこうして彼女(アスカ)との新しい『現実』は、始まり行く事だろう。 意識を完全に取り戻した彼女は、いきなりの『平手打ち』をこの僕に向かって食らわしていた。 叩かれた良い音が、あたりに響き渡っていく海岸の浜辺の中で、彼女は言う。 後になって判った事であるのだが、目の前にあった僕の表情(かお)は、この時、あまりにも、のほほんとして『呑気』なものに見えていたのだそうだ。 「勝手に死んで、勝手に生き返って・・・ 私が・・・ この私が、一体どんな想いで・・・」 感情が激している彼女は、それ以降、涙をポロポロと零し落として、もう『言葉』にもならない。 彼女が泣いてくれたおかげで、僕は泣かなかった。 だから、その分だけ『優しい』気持ちになれたような気がする・・・ 僕は、震える彼女の体を抱きしめて包み込み、少しだけ照れてしまったかのように『こう』言う・・・ 「ただいま・・・」 見詰め合う彼女との『距離感』が、限りなく零(ゼロ)に向かって近づいて行く『奇跡』の中で・・・ 零し落とす彼女の涙に手を触れて、僕は、僕にとって『大事な一言』となる想いを、しゃっくりさえもあげゆく彼女に向かって、こう『告げて』いた・・・ 「愛しているよ、アスカ・・・ 世界中の誰よりも・・・」 一旦は顔を上げ、再び『安心』したかのように僕の胸の中において泣き崩れている彼女のか細い体を、僕は、優しく抱きしめ続けている・・・ それは、『彼女』に向かっては、全くの『初めて』の告白だった・・・ そしてまた、『彼女』に向かっても、再び『二度目』の告白となる代物だったのだった・・・ 第九話 「永遠のアスカ」 −完− The Next Story ・・・ Genesis 1:10 " Paradice Array " E2メニューに戻る / VBトップに戻る/感想コーナーへ |