'ヒバリの舌'から'星も輝かぬ聖書の黒へ'(2000.09.25 2000.10.01追記と追伸)

 今日のお題は'King Crimson 30th Anniversary Edition'シリーズの第三弾です。
今回の三枚の発売で、いわゆる'69年から'74年迄の初期Crimsonのスタジオアルバムが全てリマスターされた事になります。
残念ながらライブ盤二作は、未だ再発、もしくはリマスターされるのかはっきりしませんが、初期Crimsonの姿がこの2000年紀にも残される事となった訳です。
そんな三作品を、例によってリマスターの具合も含めて紹介していきませう。


Larks' Tongues in Aspic まずは前作Islandsから米国ツアーを経て一端解散したCrimsonが新たなラインナップで登場した、そのデビュー作とも言える'Larks' Tongues in Aspic'であります。
このラインナップ、今更語る必要もありませんが、まさに絶頂期を迎えつつあったYesを抜けたBill Bruforld、もしかしたらIsland Crimsonに参加していたかもしれなかった元FamilyJohn Wetton、当時ははっきり言ってまったくの無名だったDavid Cross、そしてDerek BaileyEvan ParkerらとThe Music Improvisation Companyでの活動も行っていたJamie Muirと、Crimson史上では初代Crimsonと十分に渡り合える充実したラインナップだったわけです。
BillCrimson参加は、確かにこのラインナップの中で一番大きなニュースでした。
有名な'YES MAN TO JOIN CRIMSON'のジャックのMelody Makerの記事が、今回のリマスター盤のブックレットに掲載されています。
Johnの参加は、例のIsland Crimson参加話(Fripp翁と話すのが一週間遅かったとか....)がありましたから、このLarks' Crimsonからすれば予定どうりだったのでしょう。
Jamieの参加もFripp翁にとっては、Keith Tippet Groupのプロデュース作業からFrank Perryのプレイを聴いて、同様のプレイヤーを捜していた事もあり、比較的すんなりと決まったようです。
(最初に合った際にJamieの自宅の二階でセッションをしたと言うのは有名なお話....)
ちなみに、Davidの加入話は色々言われてきましたが、本当のところはEGマネージメントに所属しながらなかなかデビュー出来ず、Jamieとのデュオを始めようとしていたところ、Fripp翁に声をかけられたというのが真相のようです。
このラインナップで'72年の7月頃からリハーサルを開始、その後当然のごとくIsland Crimson時代のレパートリーから精神異常者のみを残し、全てを新曲(と言っても、殆どテーマ部分が出来ている程度のものが殆どでしたが....)に差し替え、大幅にフリーのインプロビゼーションをフューチャーして、ドイツ/フランクフルトのZoom Clubでお披露目公演、そのまま英国国内ツアーに突入します。
このツアーの演奏は、確かに凄まじいもので、時には収拾のつかないフリーインプロビゼーション大会になったこともありました。
(当時の音源がPirateで数枚出ていますが、残念ながら音質は皆劣悪な為、当時の雰囲気を知る程度しか出来ませんが...)
但し、この英国ツアーがCrimsonを完全にメインストリームに戻したとも言えましょう。
特に、Jamieのパフォーマンスとパーカッションプレイが先導するインプロ部分は、当時の英国の音楽マスコミが絶賛していたのも事実です。
そんなツアーの終了後に、これまでツアーで練って来た作品を収録したのが'Larks' Tongues in Aspic'なのです。
収録曲について個々にコメントするのも何ですから、今回はこのリマスタリング作業がどんな効果をもたらしたか???
そんな部分を取り上げてみますと、正直リマスタリングの良い面と悪い面の両方が極端に現れてしまっていると言えましょうか??
良い面は、今回のリマスタリング作業でアナログ盤ではややもするとマスキングされてしまう傾向にあったJamieのパーカッションが非常にクリアに聞こえるようになった点でしょう。
特に'Lark's Pert One'と'Exiles'、'Lark's Pert Two'では特にJamieのプレイが聞き易くなったと思います。
で、悪い面はというと、BassGuitarViolin等がそれぞれFuzzを使った部分がアナログ盤に比べると異常に歪みがきつくなり、バランスが悪くなった点でしょう。
Jamieのパートを際だたせるイコライジングが歪み物を逆に強調してしまったのか、デジタル化の宿命なのかは判りませんが、この二つが非常に両極端に現れたリマスタリングとも言えなくもありません。
正直なところ、ちょっと残念というかもったいないような気がしてなりませんね.....
(やっぱアナログは手放せないよな....)
さて、残念ながら、このアルバムレコーディング完パケ直後のMarquee公演でJamieが負傷、そのままCrimsonを脱退してしまいます。
後のインタビューでその辺のところは明らかになりましたが、結局一度はDerekとのセッション等で音楽に戻りながら、現在は音楽を辞めてイラストレータ(というか画家なのかな....)となってしまいました。
まあ、あのようなバイタリティー、エネルギーの溢れるプレイを長い間続けるのは無理だったのでしょうね.....
Jamieのプレイは公式にはDGMでリリースされたBeat Club音源で聴けますが、'72年の英国ツアーのもっと良質な音源が残っていないのかな???と思ってしまう筆者なのでした。
(以下、2000.10.01追記)
この'Larks' Tongues in Aspic'で一番成長したのは誰でしょうか??
筆者は多分、Billだと思うのです。
BillYes時代から確かにうまいドラマーでしたが、変なたとえかもしれませんけど、算数でいうと常に余りの出ない割り算のようなドラミングだったと思うのです。
それが、Jamieと出会ったのをきっかけに割り算の余りを楽しむ事を覚えたように思えるのです。
そんな割り算の余りの部分や、いわゆる字余りの部分を楽に受け入れられるようになったことで、Crimson参加後のBillの演奏は非常に変化に富み、リズムを自在に操れるようになったと思うのですね。
そんなプレイの成長は、やはり自由自在に演奏を行ったJamieのプレイの影響が大だと思います。
(どうも最近、Jamieのプレイは過大評価されていたとの意見を良く見受けますが、それこそ間違いだと思いますよ、筆者は....)
結局Jamie脱退後に幾つかのパーカッションセットを引き継ぐわけですが、このBillの一足飛びの成長のおかげでJamie脱退後もCrimsonのパワーは落ちなかったのかも知れません。
(以上、2000.10.01追記)


Starless and Bible Black さて、ちょっと'Larks' Tongues in Aspic'で長くなってしまいました。
結局Jamieの抜けたCrimsonはそのままワールドツアーに入ります。
これは、Crimson初のワールドツアーで、英国、欧州、そして米国の他、当初は日本もツアー候補地に挙がっていたようです。
ただ、このときは招聘元(まあ、UDOかキョード東京のどっちかでしょう)と折り合わず、結局この時期のCrimsonが日本の地を踏む事は無かったのです。
(後のDiscipline Crimsonの日本初来日は異常に盛り上がりながらも、'70年代Crimsonを予想した聴衆を思いっきり外した事が、'80年代Crimsonの評価を下げる原因となったのですが^^)
Crimsonは夏前に休暇に入りますが、8月にはリハーサルを再開、そして後に'Starless and Bible Black'に収録される'Fracture'、'The Great Deciver'、'The Night Watch'、'Lament'が形となっていきます。
9月には第二次ワールドツアーを開始、後に'The Night Watch'として公式盤が発売されるアムステルダム公演でのライブレコーディングが行われ、そこから'The Night Watch'の冒頭部分(演奏中にDavidのメロトロンがメルトダウンした事により冒頭のみが'Starless and Bible Black'に使用されたのは有名なお話)、Crimsonが唯一平和を表現した曲(と言ったのはDavidでしたね....)'Trio'、'Starless and Bible Black'そして'Fracture'がアルバム'Starless and Bible Black'に使用される訳です。
'Starless and Bible Black'収録予定曲はオミットされましたが、このアムステルダム公演の音源はラジオ放送もされた事もあって、Pirateの世界ではもう無数にタイトルを変えて発売されたのは有名なお話)
加えてワールドツアー前に六公演だけ行われた英国ツアーのグラスゴーでの'We'll Let You Know'(2000.10.01 訂正)、アムステルダム公演の数日前のチューリヒ公演での'The Mincer'、そしてスタジオで録音した'The Great Deciver'、'Lament'、冒頭意外を完全に取り直した'The Night Watch'を合わせて発表されたのが'Starless and Bible Black'という訳です。
実際にはライブ部分のトラックも歓声の完全消去や、ミス、音質不良部分のダビングも行われた訳ですけど、後に発売された'The Night Watch'を聴くと、演奏上の問題は殆ど無いと思えます。
このようにライブ録音をまるでスタジオテイクのように取り扱うのはFrank Zappaが有名ですけど、Frankの場合は逆にライブテイクを素材にしてまったく違うトラックを創り出したり、サウンドコラージュをするわけで、Crimsonのようにライブテイクを殆ど素のままで使用するのとは、ちと違う訳です。
(以下、2000.10.01追記)
実は筆者は、このアルバムの殆どがライブレコーディングを素材にしていると発売当初には知りませんでした。
その事実を教えてくれたのは、あの黒田史郎氏が主宰として発行していた'Rockin' Balls'のNo.4(19769月)でした。
この雑誌によって様々な(今となってはFripp翁の日記や各種のブックレットで明らかになっている事ですが...)Crimsonの情報によりCrimsonがどんなバンドであったのかが判ったのでした。
昔のMusic Lifeなんか、殆ど憶測的な作り話ばかり載っていたのですけど、この雑誌の事実と史実を伝える事を前提とした編集方針は、今でこそ色々なブート系雑誌が真似していますが、当時としては非常に画期的だったと思います。
ちなみに'THE YOUNG PERSONS' GUIDE TO KING CRIMSON'の日本版は当初Fripp翁の編纂のブックレットが付くという事で当時非常に楽しみにしていましたが、結局オミットされ写真集のみが付きました。
でも、'Rockin' Balls'のNo.4(19769月)のおかげで、その埋め合わせがされたとも言えなくもありません。
(以上、2000.10.01追記)

さてリマスタリングの音質のほうですけど、このアルバムはリマスタリングで音質的にはアナログの良さをそのまま持って来るのに成功しているのではないでしょうか??
まあ、幾分クリア感が強くなってはいますが、でも良い仕事じゃーないでしょうか??
さて、Crimsonはこの後の米国ツアー中にDavidの神経衰弱が他のメンバーからも指摘され、結局ツアー終了後Davidは首になっちゃう訳です。


Red 米国ツアーから帰国後、では次作、つまり'Red'のレコーディングも決定していたのですけど、Fripp翁の頭の中には既にCrimsonを解散させる事を考えていたのかも知れません。
そんなこんなの騒ぎの中、結局この時期、つまり初期Crimsonの後期Crimson(うーん、変な表現^^)のラストアルバムとなったんが'Red'な訳です。
先のようにDavidは首になっていますが、前作と同様のライブトラック'Providence'(やはり有名な'USA'の元ネタとなったプロビデンス公演)を収録した関係上、Davidの名前もゲスト扱いでクレジットされているのは、ちと皮肉なお話。
ちなみに、ライブアルバム'USA'では既にDavidを首にしていたこともあったのでしょう。ダビング作業にDavidを参加させるわけにもいかず、Eddie Jobsonを起用したのもそんな事情が本当のところでしょう。
ただ、何故かFripp翁は自分以外のいわゆるリード楽器を対局に置きたがります。
Ian McDonaldMel Collinsらの旧メンバーの他、何とRobin Miller、そしてMarc Charigまで参加させちゃいました。
良く言われる話ですが、Fripp翁は既に頭のなかでは解散を決めていた事もあり、投げ遣りな演奏をしているなんてのがありますが、その点はちょっと違うような気もします。
少なくとも、このアルバムが所謂ダブルトリオで実現されたMetal Crimsonのベースとなったのも事実だと思いますし。
確かにリード楽器をゲストに迎えてはいますけど、逆にGuitarバンド然とした部分も出てきて、それはそれで新鮮だと思うのです。
まあ、さすがにラストの'Starless'で大団円を迎えるというか、暗黒の彼方に帰っていくなんてのは、さすがに解散を前提にしているから出来たことって事もありそうですけど。
(以下、2000.10.01追記)
とは言いながら、'Red'リリース前にIanの正式参加と四人編成によるツアーを行うとのニュースも出ていました。
ただ、このリリース直前のFripp翁による解散宣言は、後のFripp翁の告白で明らかになったように、初代CrimsonUSツアー後の空中分解の原因であったIanMichaelの脱退宣言に対するIanへの復讐だったと言います。
まあ、Crimsonを自分一人に背負わせた事に対する恨み辛みなのかも知れませんけど、実際はこのお話、Fripp翁お得意の後付話なのかも知れません。
ホントのところは当時バンドの運営で一番精神的にまいっていたのはFripp翁自身だったとも思えますから....
(以下、2000.10.01追記)

ちなみに収録曲の内、純粋な新曲は'Red'と'One More Red Nightmare'の二曲のみ、まあ'Providence'は別として'Starless'も先の米国ツアーでは演奏されていましたし(ちなみに、'Starless'、Johnの話によると一度はボツになった曲だそーな....)、'Fallen Angel'もメインリフは既にJamie在籍時のLarks' Crimsonにてインプロナンバーで披露されていました。
実際、Fripp翁はこの手は得意でして、'Lament'や'Larks' Part One'なんかはIsland Crimson時代の最初のツアーのインプロで演奏されてましたし、なんつったって'Mantra'が'Exiles'のイントロに変身したのも有名なお話ですから(^^)。
さて、リマスタリングの感じですけど、うーんアナログ盤と差ほど変わらないかな??ってところでしょうか??
アナログ盤時代にA面の'Fallen Angel'と'One More Red Nightmare'はなーんか歪みっぽかったのですけど、今回のリマスタリングでも同じ感じですから、それはそれで狙いだったのでしょうね??
まあ、アナログ盤とあんまし変わらないと言っても、部分的にはちょっと問題視したくなるところもありますよ。
特に'Starless'のラストのMellのソプラノソロがなーんかデジタルの癖にアナログよりスピード感が無いのがなーんか不思議。
これは、何故なんでしょーね??
(お前の再生装置のせいだって???、うーんそうかな????)


 さて、初期Crimsonは、ライブアルバムを除いて、これでリマスタリングが完結した訳です。
でも、やっぱ'USA/USA U'、'Earth Bound'も早く何とかならないかな.....
ちなみに次は'80年代のDiscipline Crimsonの三作のリマスタリング盤が出るでしょう。
まあ、Discipline Crimsonはどうも日本で人気が今一つなのですけど、以前書いたように今の時代には逆に合うんじゃないかな???っとも思ってしまったりして.....

PS: 筆者もご多忙に洩れず、10月はMillennium Crimsonの日本ツアーを追いかける予定です。
(さすがに全部は無理なんで、計三回程出向く予定です)
コンサートリポートは、近いうちにお送りします。
(2000.10.01 追伸)

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