Missing Link/Giles Giles & Fripp → King Crimson(2001.07.15 2001.07.31追記)

久しぶりに、非常に興味深い音源が英国でアナログ盤1000枚限定で発表されました。
このアナログ盤、何とCrimson結成前のGiles Giles & Fripp(以下、GG&Fと表記します)の未発表音源を集めたもの。
Krimson News日本語版でこのニュースを知ったんですけど、何せ英国のみ、しかも1000枚限定と言うことで、さてどうやって入手しようかしら??と思っていたのですけど、英国のHMVでオンラインオーダを受けているつーんで、もう無理かな??と思いながら調べたら、何とまだ入手可能との事、早速オーダしたら約三週間程度で手に入れる事が出来ました。
ちゃんと届くかな??ジャケットひん曲がってないかな??盤、割れて届くなんてのは無いよな??と心配してたんすけど、そんなこともなく無事に到着しました。
ちなみに、日本でも何件かの輸入盤屋が何枚か仕入れたそうですけど、すぐ売れたらしいですね。
で、この音源、音も興味深いのは当然ですけど、とにかく裏ジャケットのライナーノーツの内容が非常に興味深いものなんです。
何カ所かのサイトでは既にこの盤を紹介してますけど、この裏ジャケのライナーを含めて音源を考察したものは殆ど見あたりません。
てー事で、当方のサイトでは、そんなライナーの内容を含めて、音源のレビューをしてみたいと思います。
では(^^)/


Giles Giles & Fripp/Metaphormosis さて、これが今回発売された'Giles Giles & Fripp/Metaphormosis'というアルバムです。
ちなみに、このアナログ盤、無茶苦茶分厚く重い盤です。
はっきり言って、日本のアナログレコードなんかと比較すると二倍はあるんでないかい??つーくらいです。
おかげで、プレイヤーのカートリッジの高さを上げないとまともにかけられません(^^)。
さてそんなことはどーでも良いですが(でもアナログ盤って重いほうが確かに音は良いんですけど...)、このアルバム、先にも書いたように一応1000枚限定との事ですが、ちなみにひっ者のナンバリングは'602'でした。
まあ、所謂ブートだと限定枚数の三倍は製造されるなんてのもあるんですけど、一応契約に基づいた正規盤ですから、一応1000枚ってのは守られるんでしょーね??
(ナンバリングが'001'とか、'1000'なんてのは、きっと後々プレミアが付くんかな???)
Krimson News日本語版Igago氏が確認したところによると、一応Fripp翁も販売の許可は与えているらしいっすね。
でも、1000枚じゃ大した儲けも出ないでしょうしね、後でCDも出るのかな??


 さてさて、音の方はというと、全て未発表の音源であることは100%間違いないです。
一部で、'SHE'S LOADED'が1992年に出た'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'のボーナストラックと同じではないか??とも言われましたが、これも違いますね(理由等は後で)。
で、この音源の出元は何なんでしょって事になりますけど、色々な状況やらアルバムの裏のライナーを見ると、全ては、あのPeter Gilesが保有していた音源のようです。
当時PeterRevox F36という1/4inchテープを使用するステレオテープレコーダを持っていた事は、19681130日にGG&Fが唯一公式の場に登場したBBC-TV(Channel 2)の'Colour Me Pop'の音(何が演奏されたかというか放送されたかは、未だにはっきりしたことを書いた記録を見たことがないんですけど、時期的には'Thursday Morning'あたりなんでしょうね??)の録音でも使用されたとの記録がありますが、今回のこの音源も全て、これを使用して録音されたんですね。
アルバムトップの'HYPOCRITE'は、そのレコーダを使用してThe Beacon Hotelの地下室で録音された最初のものだそうです。
(確かにホテルの地下室らしく、ノイズとして水道管の音らしきものも交じっているのはご愛敬??)
2曲目の'NEWLY WEDS'もその時の録音と見て間違いないでしょう。
そして問題は3曲目以降なんです。
こちらも同じレコーダを使用しているんですけど、録音のクオリティがかなり上がっているというか、当時ならマスタとしてレコード化も出来るぐらいのクオリティはあるんです。
(あくまで、1967〜1968年当時のクオリティって話ですけど...)
19671016日にGG&FLondon 93A Brondesbury Roadに活動拠点を移していますが、このフラットに何と、GG&Fはプライベートスタジオを作っちゃったのです、しかもドラムブース付きで。
このプライベートスタジオで録音されたものが、このアルバムの3曲目以降に収録されたトラックという訳です。
ちょっとタネあかしをすると、今回のこのアナログ盤、実は全てのトラックはモノラルなんですね。
(一応、マスタリングで疑似ステレオのような効果は付けてあるみたいですが)
で演奏を聴いてみますと、どうも一発録りではなくて、オーバーダブも行われている事は明白です。
何と、この録音でもサックスのダブルレコーディングと言う、後の'IN THE COURT OF THE CRIMSON KING AN OBSERVATION BY KING CRIMSON'でも使用された手法が使われているのは、ちょっと驚き。
(Guitarが複数聞こえる部分で、Ian McDonaldが弾いている可能性も無いとは言えませんが、それもA.Guitarでのバッキング程度でしょうし、楽器の持ち替えでのノイズもあんまし入っていないですし)
で、二トラックのレコーダを使ってどうやったの??というと、これは裏ジャケのライナーにも書かれていますが、当時Peterは'track-bouncing'、つまり所謂ピンポン録音(一トラックに録音後、それを再生しながら、もう一方のトラックに録音してオーバーダブを行う手法)を使っていたそうなのです。
ちなみに、Peterはこの手法を地元のオーディオ屋に習ったそうな(と言っても、そのオーディオ屋が何とEMIの技術研究部門に居た方だったそーな)。
まあ、'track-bouncing'ではやろうと思えば、何度でも音を重ねる事が出来ますが、さすがに三回程度が音質的には限界でしょう。
事実、今回のこの音源で'track-bouncing'を使っていると思われるトラックは、大体三回までしか使っていないようです。
これで、おわかりでしょうが、だからこのアルバムはモノラル録音なんですね??


 さて、収録されている曲のほうに話を戻すと、'ERUDITE EYES'は'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'にも収録されていたFripp翁のナンバー。
この曲ではIanFluteをフューチャーし、'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'とはまた違った演奏を聴かせてくれます。
この演奏のほうが、'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'より面白いかも??
4曲目はFripp翁のGuitar練習曲。
5曲目は未発表曲の'SCRIVENS'、こちらは当時のビート物と軽いジャズ物が交じったような不思議な曲。
その次の'MAKE IT TODAY'は、B面にJudy Dybleをボーカルにフューチャーした音源も入っているんですが、こちらのほうが、演奏は密ですね。
ちなみに、このテイクはJudy脱退後に録音されたものでしょう。
A面最後は、'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'にも収録された'DIGGING MY LAWN'、演奏のほうは'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'に近い仕上がりですが、当然、こちらのトラックは三人のみ(IanJudy参加前の録音でしょう)の演奏です。


 さあ、今度はB面です。
B面トップは、'I TALK TO THE WIND'、Judyのボーカルでは無く、IanMichaelのボーカルによるもの。
ちなみにJudyのボーカルをフューチャした'I Talk To The Wind'は後にKing Crimsonのベストアルバム'The Young Person's Guide to King Crimson(1975年)'に収録されましたけど、Judyバージョンの音源は、多分Peterからダビングして貰った音源をFripp翁は使ったんじゃーないでしょうか??音質的に落ちていますしね??
さて、どちらの音源も後の'IN THE COURT OF THE CRIMSON KING AN OBSERVATION BY KING CRIMSON'で収録されたバージョンのようなコーダ部分はありません。
お次は、Judyのボーカルをフューチャーした'MURDER'、この曲ではJudyIanMichaelPeterの四声コーラスによる、なかなか凝ったナンバーです。
この曲が公にならなかったのは、結局GG&Fが'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'以降、シングルを出しただけ(それも所謂バンク物)で公式のアルバムを作らなかったからなんでしょうね??良い曲なのにね???
B3曲目はA面ではIanのボーカルをフューチャーしていた'MAKE IT TODAY'のJudyバージョン。
ちなみに、JudyGG&Fに参加していたのは僅か一ヶ月だったとの事で、少なくともその一ヶ月の間で'I Talk To The Wind'、'Murder'、'Make It Today'の三曲の音源を残した事になります。
4曲目は'WONDERLAND'というFripp翁の曲。
ちなみにこの曲だけ、音楽出版事務所が付いておらず'Copyright Control'となっております。
今回、このアルバムを出す際、レーベル側がFripp翁に許可を求めたというんですけど、もしかしたらこの曲のせいかもしれませんね??
実際、他の曲は全て'Copyright'に出版事務所の名前で付いていますし、極論すると'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'みたいに出す事も出来るんじゃないかとも思えますんで。
(まあ、この点は、あまり筆者も言い切る自信はありませんが)
さて、問題は最後の二曲なんです。
つまり、'SHE'S LOADED'と'WHY DON'T YOU JUST DROP IN?'の二曲。
実は、この二曲とも19681028日〜29日にDeccaのスタジオにてレコーディングしたという記録が残っています。
(ちなみに、'UNDER THE SKY'も同時期に録音が行われています)
ちなみに、そのDeccaで録音された曲の内、'SHE'S LOADED'と'UNDER THE SKY'は'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'のCD化の際にボーナストラックとして収録されたのですが、残念ながら'WHY DON'T YOU JUST DROP IN?'はテープが見つからず未収録という話がCD版の'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'のライナーにも書いてあります。
と言うことは、'SHE'S LOADED'と'WHY DON'T YOU JUST DROP IN?'の二曲はこの音源か??と思われそうですが、実は違うんですね、これ。
今回収録されたものはどちらもPeterの保有する音源です。
ただ今回面白い発見があったのは、このアルバムに収録された'SHE'S LOADED'は、実はCD版の'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'収録の音源のベーシックトラックと思われる点です。
先にも書きましたように、Peterの音源は全てモノラルなわけですが、CD版の'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'収録の音源を聞くとこの音源がセンターに定位され、その周りをスタジオで録音した装飾楽器で仕上げているようなんです。
多分、スタジオにPeterのマスターを持ち込み、それを四トラックレコーダあたりにコピーしてダビング作業を行ったんじゃないでしょうか??
(冒頭のコーラスもオーバダブしたみたいですね??Decca音源は)
収録時間が四秒程違いますけど、これは結局最終的にはマスターは別になりますし、タイムチャートの打ち方でCDのほうも変わりますんで、その為でしょう。
それから考えると僅か二日のDeccaでのレコーディング作業ですんで、他のDecca音源の二曲もその手が使われた可能性は十分にあると思います。
最後の'WHY DON'T YOU JUST DROP IN?'ですが、こちらは後にCrimsonでもステージナンバーとして演奏され、'Islands'では'The Latters'に改作されたわけですが、今回の音源は完全なオリジナルバージョン、Crimson時代のインプロや感覚的なアレンジではなくて、もっとしっかりしたアレンジ、ビートミュージック的な感じのアレンジですけど、やっぱFripp翁のGuitarは独創的ですね。
ちなみに、Michaelのドラムは、既にCrimsonでの演奏にかなり近い感じです。


 さて、今回のこの音源ですが、結局真相はPeter保有の音源が世に出たというのがホントのところのようです。
ちなみに、良く見るとPeterは出版事務所として、'Aluna Music Group'と契約を結んでいるようですが、この音源の発売にあたって、制作上のライセンス管理は全て'Aluna Music Group'が行ってるとジャケにも書かれていますんで。
ただ、今回のこの音源の一番の存在価値は、19682月から3月にかけて録音されながらも、結局同年の9月まで発売されなかったというタイミングの悪さが祟った'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'を、JudyIanPeter Sinfieldが次々に加入する事によって新たな曲作りに踏み出す事で過去のものとしたGG&Fの姿が描かれている事、そしてなによりそんな状況が公になっていなかったGG&FCrimsonの、まさにMissing Linkが明らかになった事ではないでしょうか??
その事が、この音源が非常に価値のあるものと語れる、一番大きな理由なんじゃないでしょうか??
あ、大したもんじゃありませんけど、今回、このアルバムのジャケ裏、それと'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'CD版のライナー、その他の資料から1967年から1968年のGG&Fの動きをまとめてみました。
今回のアルバムのライナー、ちょっと他の資料と食い違いがあるんですけど、その辺はご勘弁を。
でも、ホント、1967年から1969年の英国の音楽シーンって面白かったんだねー??

PS: 7月も下旬になり、ようやく'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'の日本版CDが発売となりました。
まあ、ゴタゴタもあったのか、当初の予定よりも遅れてしまったのはご愛敬??
ですけど、正直言って、内容的には期待外れでした。
いや、収録曲は旧独盤と同じというのは判ってたんすけど、今回自慢出来る出来は残念ながら紙ジャケだけですね??
CARAVANの再発紙ジャケシリーズは、特に収められたブックレットの写真やら英語のライナー等々、非常に満足のいく出来だったんすけど(近いうちに特集しよっと^^)、何せ、'The Cheerful Insanity of Giles Giles & Fripp'は日本語ライナーだけ。
内容も大鷹氏のわりには物足りないなー。
'キング・クリムゾン友の会(All Person's Guide To King Crimson)'で指摘もあったけど、'Giles Giles & Fripp/Metaphormosis'を聞いた後なら大鷹氏も違った話を書いたかも??でもねー、旧独盤CDのライナーもなかなか良い内容だったんだけどね???
せめて、旧独盤のライナーをブックレット形式で付けてくれりゃ、も少し何とかなったかも....
で、一番の問題は今回のデジタル・リマスターの出来です。
はっきり言って、これ、誰が作業したの??あんましひどいんでびっくりしちゃいました。
確かに旧独盤よりも音圧のレベルは50%近く大きくなってるすけど、これどう考えても
レベル上げすぎじゃん!!!!!
音歪んじゃってるもん!!!!!
こんなん、プロの仕事じゃないぞー!!!!

デジタルリマスターだってったって、これじゃ何にもならんでないかい???
はっきり言って、買って損したような....そんな感じ....
(2001.07.31 ちと長ーい追記)

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