1998年にその企画が明らかになってから、四年目に突入するかと思われた昨年、ついに2001年12月21日、四人囃子の未公開音源によるボックスセットが日の目を見る事となりました。
この企画は、元々四人囃子オフィシャルホームページへの投稿がきっかけとなり、その後四人囃子ファンがその企画に多数賛同、これまで四人囃子のメンバーの手元とファンの手元で、まさに保存/熟成されていた音源の数々がボックスセットとして世に出た訳です。
このボックスセット、ナンバリングが施され、既にかなりの数が市場に出ている筈です。
(筆者も当然一セット購入しましたが、街場では3000番台のものも確認されています。限定プレスですのでみなさん、お早めに....)
今回は、そんなボックスセットの全容をレビューしたいと思いますが、何せ五枚組のボリューム、加えてDisk Union購入者にはボーナスCDが一枚付いてくるという大容量、さすがに一回でレビューし尽くすのは無理というもの、数回に分けてと言うことになりますが、どうぞご容赦の程を。
では行ってみませう(^^)/。
さて、先にも書いたように、このボックスセットの話が本格化したのは、四人囃子オフィシャルホームページへのある方の投稿がきっかけでした。
その投稿に賛同した四人囃子オフィシャルホームページのWEBマスター/青木氏が、四人囃子元メンバー達に働きかける事により、この企画は本格的なものになっていきます。
四人囃子オフィシャルホームページではサイト閲覧者にどのようなボックスセットであるべきかの問いかけを始めました。
様々なアイディアが集まり、加えてファンが保有する音源情報(当然、アンオフィシャルなものや放送音源です)が集まって来ました。
そこで集まった声の中で一番大きかったのは、やはりライブ音源を始めとする未公開音源を納めて欲しいという声でした。
当初、四人囃子サイドでは既発のアルバムのリマスター版を収録した形でのボックスセットも考えていたようですが、ファンの声がライブ音源を中心とした未公開音源への興味に傾いて行った事も四人囃子サイドも感じ取っていったのでしょう。
今回発表されたボックスセット'From the Vaults'は一部放送音源を使用していますが、いずれにしても公式にLPやCD化されていない音源ばかりで構成される運びとなったのです。
四人囃子サイドの保有する音源だけでなく、ファンが提供した音源も多数含まれていると思われ、公式にリリースされている音源だけでは味わえない、四人囃子の当時の演奏力、構成力が眼前に現れたと言っても過言ではないでしょう。
四人囃子の公式デビューアルバムは、'一触即発'であることはみなさん、ご存じのとうりです。
'20才の原点'('98年に'四人囃子アーリーデイズ'として四人囃子の演奏とボーナストラックでCD化)は、サントラ盤であり、'一触即発'レコーディングのバーターとして録音されたもので、デビューアルバムとしてはカウントされていない訳ですが、この'74年に発表された'一触即発'の曲を始め、セカンドアルバム'ゴールデンピクニックス'に収録される'泳ぐなネッシー'が既にデビューアルバムの発表前に演奏されていたことは、ファンの間では良く知られていた話ですが、それらのデビューアルバム発表以前の音源が'From the Vaults'の一枚目のCDに納められています。
さすがに元の音源自体が古い事もあって音質的には苦しい面(テープスピードが一定でない音源もあります)も一部ありますが、それでも、かなりの補正を施され鑑賞に支障は無く、この当時の四人囃子の演奏力と構成力には舌を巻かざる負えません。
(四人囃子サイドに話を伺う機会があったのですが、音質的には全てハイ上がりの状態で、幾つかの処理の後、やはりプロトゥールズを使用したそうです。CrimsonのDGM音源のような同じ録音からの音の差し替えも行われたようです)
一枚目のCDは'73年の'ミラージュ オブ四人囃子'、あの伝説的なワンマンコンサートの'おまつり(やっぱりおまつりのある街へ行ったら泣いてしまった)'からスタート、この時が初演だった'ピンポン玉の嘆き'、同初演の'泳ぐなネッシー'が続きます。
坂下氏のオルガンソロのバックで森園氏のギターと岡井氏のドラムでのアクセントの付け合いなど、ライブならではの演奏を聴かせる'おまつり(やっぱりおまつりのある街へ行ったら泣いてしまった)'などは、さすがに早い時期に出来上がっていたオリジナルと言うこともあって余裕さえ感じさせる演奏です。
この三曲は非常にバランスの良い音源が使用されていて、特に'ピンポン玉の嘆き'が非常に素晴らしい出来です。
冒頭のネスカフェの瓶に転がしたというピンポン玉のSEに導かれ、さすがにメロトロンは使用されていませんが、アルバム'一触即発'ではアルバムのエンディングを飾るどちらかと言えばSE的な曲が実際にライブで演奏された事は、まさに貴重なものであり、しかも演奏自体が非常に充実している事に驚かされます。
この曲は所謂Pink Froydの影響が濃く、オルガンのボイシングや音色の選択、そしてマレットを使用したドラミングにその雰囲気を感じさせます。
加えて、やはり'一触即発'では冒頭の'ハマベス'として収録されたオープニングパートを含む'泳ぐなネッシー'の初演もまた非常に貴重なものと言えます。
この強迫的なイントロから始まる'泳ぐなネッシー'は後の'ゴールデンピクニックス'に納められた演奏と違い、ファンタジー的なアレンジと言うより、恐怖映画的な感じがするのも、これは初演のなせる技でしょう。
ボーカルやバッキングのオルガンを聞いていると後の'ゴールデンピクニックス'と若干コード進行も異なるようです。
とは言っても、オープニング及びエンディングのテーマのメロディーは出来てはいませんが、後の'ゴールデンピクニックス'のレコーディングで五つ程度のパートに分けて録音したという個々のパート(これは、'How
To Make The Nessy'としてDisk 3で確認出来ます)の元のアイディアは出来ており、その繋ぎの部分がインプロ化している(何と、Yesの'Close
To The Edge'のテーマまで出てきますが....)状態というのも非常に興味深い部分です。
特に中間部のインプロはピアノとギターを中心とした演奏、坂下さんのピアノはNiceやEL&Pのファーストの'Take
A Pebble'でKeithがやっていたような片手でコードを押さえつつ、もう一方の手でピアノの弦を直接つま弾く、所謂プリベアードピアノのプレイも登場します。
ちなみに、このCDに納められている音源を確認すると、歌詞も若干異なり、最終的な'ぜ'付き言葉なんかも、'ゴールデンピクニックス'で完成した事が判ります。
(ちなみに、ブックレットに掲載された'ゴールデンピクニックス'のレーベルマークは残念ながらサードプレス以降のものです。初回プレスと多分セカンドプレスは色鮮やかな四人囃子のロゴマークが中央に載り、リリース年度表記も'76年になっていますんで....)
さて、今回'泳ぐなネッシー'は何と合計六トラックが収録されています。
CD一枚目には先に紹介した初演の'73年杉並公会堂ライブの他、'73年俳優座、そして同'73年暮れのヤクルトホールの三音源のてんこ盛りです。
'73年俳優座音源は、あの有名な裁判沙汰寸前迄行ったという、東宝レコードが四人囃子人気に便乗して発売した'73 四人囃子'の音源と元は同じものです。
'73 四人囃子'発売時には、収録されなかった'泳ぐなネッシー'が初めて日の目を見た訳です。
こんな事を言うのもなんですが、多分当時のレコード会社の力関係で、'泳ぐなネッシー'を収録するなんてのはさすがに出来なかったのか、単に収録時間の関係かは判りません。
ただ、この音源、完全に二チャンネルにセパレートされたPA送りの音源と思われ、ベースとドラムをセンターに鍵盤とギター及びボーカルを左右に振った形での収録となりました。
はっきり言って、無茶苦茶音は良いです。
それを考えると東宝レコードが'73 四人囃子'に使用したのも、この時のテープがデモテープとして持ち込まれたものが使用されたのですが、当時のレコード会社側の判断でモノラルミックスとなった(LPにはステレオの表記がありますが、疑似ステレオ程度にしか感じません)というのが良く判ります。
逆に言えば、四人囃子サイドが同意して出していれば、もっと良い音の'73
四人囃子'が登場したかもしれないのです。
残念ながら、CD化時に岡井氏がリマスターしたものは筆者未聴なので、何とも言えませんが...ただ、'HISTORY'に納められた'一触即発'から考察すると、多分'73 四人囃子'のマスターは疑似ステレオでミックスされているものしか残っていないのではないでしょうか??
それとも、ちょっと邪推すると、この時の音源は多分東宝レコードに残ったもの以外に、四人囃子サイドにも先のような二チャンネルセパレート音源が残ってはいるものの、今回のボックスでは'73 四人囃子'との曲の重複を避ける為に、このような形になったのでしょうか??
さて、演奏のほうはというと、先の初演音源と比べるとたった一ヶ月の間に完全に贅肉をそぎ落としたアレンジになったという点が特筆される部分でしょう。
ベースの音が非常に綺麗に取れていまして、これを聞くと当時の中村氏の演奏がいかに'唄うベース'であったかが良く判ります。
それと、最後のパートでボーカルに戻る前のギターのリフレインなんかは、'ゴールデンピクニックス'で使っても良かったんじゃないか??と思わせるくらい充実してます。
この演奏を聴けば、当時のレコード会社の有名どころが殆ど声を掛けたというのが、まさに事実であったと言うことが如実に判る事でしょう。
さて、'73年12月のヤクルトホール音源は、'泳ぐなネッシー'と'一触即発'の二曲が納められていますが、このヤクルトホール音源は、'四人囃子アーリーデイズ'と題された'20才の原点'サウンドトラックの編集(語り部分のカット)及び別音源が追加されたものにて、'煙草(夜U)'が収録されて当時ファンの間ではかなりの話題となりました。
ただ'煙草(夜U)'でもそうだったのですけど、この音源は先の四曲よりもちょっと音的に歪みがきついようです。
演奏のほうは、'泳ぐなネッシー'については一部異なるところはあるものの、大筋では俳優座音源のアレンジに準じていて、この時点で、一応のアレンジが固まったように思えます。
と言っても、'ゴールデンピクニックス'ではさらに変化し、あの、まさに物語的かつやさしさに満ちたアレンジになる訳ですが....
さて、'一触即発'の方は、イントロの冒頭はギターソロ無しでリフを一度回し、その後ギターのソロが入るパターンのものです。
ここでは、中村氏の'唄うベース'が逆にかなりのドライブ感を出しています。
リズム的には若干遅めですが、それが逆に曲に重さを与えているようで、非常に新鮮な感じがします。
ちなみに、ボーカルパートのバッキングのギターの流し方がPink
Floydの'The Dark Side Of The
Moon'に近いのも特徴です。
中間部のボーカルパートでは中村氏とのデュオでのボーカルも聴けます。
そう言えば、有名になった'だ.....'のエコーもきちんと収録されている等々、発見の多い音源ですが、何と言ってもここでは聴きモノは坂下氏の強烈なオルガンソロでしょう。
かなりワイルドなグリスも交え、かなりの時間の表現力豊かなソロが堪能出来ます。
雰囲気的には、ここでのソロはDeep Purple風のソロに近いか??
元々、このパートのリフはDeep Purpleの'Space Truckin'でのライブバージョンに近い事もあり、そんな感触を与えてくれるのかも知れません。
先に音的には歪みがきついと書きましたが、リマスタリングの結果、逆に後半のオルガンの迫力が素晴らしくなっている事は特筆ものです。
後半のギターソロも含めて、これだけの演奏が出来たのだという四人囃子の当時の姿には唖然とするしかありません。
さて、何と一枚目のCDをレビューするだけで、こんだけの量になってしまいました。
それだけ、この'From the Vaults'の内容が非常に濃いものだという、愕然とする事実なのです。
このまんまいくと、いったいどんだけの量になるのか、自分でも恐ろしいくらいでして、、今回はここらへんで止めておきます。
次回はワンステップフェス音源を含むDisk 2、そしてデモトラックてんこ盛りのDisk 3あたりのレビューを何とか書きたいと思います。
と言うことで、今回はこの辺で(^^)/。