From the Vaults + 1(Part 3の2)〜四人囃子/ボックスセット(2002.02.03)

 前回は、'From the Vaults'のDisk 3の前半、そう森園囃子期、つまり'ゴールデンピクニックス'期のデモやテストミックストラックのレビューをお送りしました。
今回はDisk 3後半、佐藤囃子期のデモトラックのレビューをお送りします。
ただ、ご存じのとうり四人囃子の歴史的な事から考えると、本来はアルバム'
PRINTED JELLY'の頃のトラックが続くのが自然ですが、ここに収録されているのは、''制作前のデモトラックが納められています。
まあ、収録時間やデモトラックを集めるという構成上の問題もあったのでしょうが、もしかすると'
PRINTED JELLY'関連のデモは制作されなかったか、もっとラフなものしか存在しなかったのかも知れません。
とりあえず、そういう話は置いておいて、早速レビューに入りましょう。


 さて、森園氏脱退という大きな事件を経た四人囃子は、'ゴールデンピクニックス'発表後、とりあえず決まっていたライブを幾つかこなし、'76821日の第二回ワールドロックフェスティバルへの参加後、しばしの休養に入ります。
実際には'76828日にフジテレビのニューミュージック・スペシャルに出演していますが、これは録画分の放送でした。
その後、'76年の秋頃に新メンバーの佐藤満氏と連絡をとっていたそうです。
このとき、佐藤氏の他にもう一人候補者がいたそうで、実際にスタジオでのセッションも行っていたそうですが、札幌時代にCLOSE TO THE EDGEで'73年のAロックに出演、'75年の'
WORLD ROCK FESTIVAL EASTLAND'札幌公演にも参加し注目を集め、その後MARTIAN ROADで活動していた佐藤氏が正式にメンバーとなります。
'7612月の北海道のNHK-FMに地元のバンドである安全地帯とともにMARTIAN ROADと四人囃子は競演していますが、このときのギターも既に佐藤氏が担当していたそうです。
翌'772月から3月にかけて、新メンバーを加えた四人囃子はリハーサルの為に合宿に入り、6月に渋谷屋根裏にてライブシーンに戻って来ました。
当時の渋谷屋根裏では珍しい夜二回のライブを二日間行い、屋根裏の観客動員記録をうち立てたのは有名な話ですが、それだけ四人囃子に期待するファンも多かったと言うことでしょう。
その後、'
PRINTED JELLY'を発表、全国ツアーもスタートしますが、このあたりの話は、次回のDisk 4のお話として取っておく事にしましょう。


包 四人囃子の'78年は、Rainbowの日本公演サポートアクトを経て、その全勢力を''という一大プロジェクトに向けて行きます。
この''というプロジェクトは、'783月から5月にかけてのアルバム'
'のレコーディングからスタートし、その年の729日/日比谷野音でのワンマンコンサート''へと結実します。
このワンマンコンサートではファンの方ならご存じのとうり、文字どうり野外会場である日比谷野音をテントですっぽり'包む'という最初のプランでスタートしたものでしたが、残念ながら東京都側から許可が出ず、会場の席を全てアルミホイルで'包む'だけに終わってしまいましたが、ライブ自体はそれまでの日本のバンドのライブと異なり、音響、照明、その他効果等を四人囃子サイドで企画、演出を行うという欧米のバンドのようなスタイルで行われたという点がまさに画期的なものでした。
(当時照明を担当した総合企画の照明機材を納めていた倉庫が、このライブの為に空っぽになったというのは有名なお話)
演奏のほうも、旧メンバーの中村氏と森園氏が'一触即発'に参加する等、話題性にも富んだものでした。
ただ、四人囃子はこのライブの後、数本のライブを年内はこなしただけに終わり、しばらく沈黙期間に入るわけですが....
この規模のライブでしたので、さすがにスポンサーからの支援もあったでしょうが、かなり資金的な問題もあったであろう事は想像出来ますし、ライブ自体もこの規模のライブで今なら常識的なステージ進行に準じたリハーサルも十分に行えなかった事なども漏れ聞いています。
いずれにしても、このライブは業界のシステムという点からも、当時としては画期的であったと言う事は間違いないでしょう。


 さて、そんな話じゃなくて、Disk 3後半のレビューを。
まずは'Mongoloid Treck'と'眠たそうな朝には'の二曲。
これは当時オープンしたばかりの一口坂Studioのテストランニングの為に行った録音との事です。
テストランニングというのは、簡単に言えば、新しくできたスタジオのシステムの動作確認テストを実際のレコーディングを行って確認するというもので、四人囃子はこれを仕事として請け負ったようです。
ただ、'
'の正式レコーディングスタート前に行われたのかどうかは時期的な記述がBoxセットにありませんので断言出来ませんが、少なくともDisk 3に納められているFreedomスタジオでのデモテイク収録よりは後ではないかと思います。
実際聴いて見ると、後の'
'のアレンジや使用している音色が似通っていますので、多分Freedomスタジオでの正式レコーディング開始前のものと思われます。
Freedomスタジオでのレコーディングは途中に中断が入っており、この時に行われた可能性が高そうです。
両曲ともテストランニングではありながら、かなり完成度の高いトラックに仕上がっています。
さて'Mongoloid Treck'の方は、佐藤氏の書いたインストゥルメンタルですが、後の'
'よりも演奏時間が長いものとなっていて、''のテイクよりもストレートなギターインストに仕上がっています。
後に、ライブでは佐藤/佐久間両名によるツインギタースタイル(ベースは坂下氏がシンセベースで担当)で演奏されることになりますが、このテイクでもかなり細かい佐藤氏のギターアレンジを確認する事が出来ます。
'眠たそうな朝には'の方は、アレンジ的にも音色的にも'
'に非常に近いものに仕上がっています。
この'眠たそうな朝には'は、元々'77年の全国ツアーで既に演奏されており、それだけアレンジも固まった状態でスタジオに持ち込まれたものと言えます。
特に佐久間氏の曲は事前にアレンジも含めて完成した形で四人囃子に持ち込まれる事が多かったそうです。
まあ、違いを挙げれば、バッキングの鍵盤がピアノで行われ、クラビが使われていない事、シンセサイザーの音が後の'
'よりも若干薄目という点、二回目のボーカルパートに戻る前のギターのチョークが無い点、そしてギターソロが異なる、後半ボーカル前のドラムのブレイクが普通のドラムで行われている等々細かい部分で、大筋は''で使用されるアレンジに準拠しています。
当然、細かい部分はスタジオでの作り込みになりますので、違いがあって当然なのですが....


 面白いのは次の'機械じかけのラム'のデモトラック。
こちらは、当時から'
NEO-N'にかけて良くリハーサルに使用していた池袋のYAMAHAスタジオで収録されたテイクです。
池袋のYAMAHAスタジオは良くは知りませんが、当時から8もしくは16チャンネルのレコーダも常備されていたのでしょう。
録音も数回のダビングが行われており、マルチトラックでの収録が確認出来ます。
しかも、こちらはボーカルパートは入っていないカラオケバージョンです。
面白いのは、殆どアレンジが'
'バージョンと同じ点で、ラストのブレイクを多用したエンディングのエコーのかけ方まで良く似ていまして、まさに''収録前の実験が色々行われていた事が良く判ります。


 この後は、''のレコーディングでも使用されたFreedomスタジオでのデモトラック。
多分、Freedomスタジオでのレコーディングの前半に行われたデモ録りのようですが、作業としてはマルチでダビングも行われており、この時のレコーディングがかなり周到な準備を経て行われている事が良く判ります。
'Mongoloid Treck'は二トラック収録されていますが、二トラック目は一トラック目にギターダビングを施したものとの事です。
ただ、ここでは後の'
'の正式トラックのような8弦ベースもどきの音は使用されていないようです。
実は'
Mongoloid Treck'では8弦ベースの使用が予定されていたのですが、これがレコーディングに間に合わず、最終的には佐久間氏のベースの音を坂下氏のシンセサイザーに繋ぎ、坂下氏がベースのフレーズに合わせて鍵盤でリズムを刻んでフィルターを動かし、8弦ベースのような効果を''の正式トラックでは入れていたのです。
さて、'眠たそうな朝には'については、バッキングの鍵盤がピアノやクラビ等では無くて、ハモンドで行われているのがこのトラックの特徴でしょう。
それと、歌詞も完成版ではありません。
(残念ながら、'77年の全国ツアーで披露された時の歌詞と同じかどうかが、確認が出来ないのですが....)
このトラックもダビングは施されていますが、どちらかと言えばシンセサイザーのダビングが中心で、佐藤氏のギターオーケストレーションは行われておりません。
面白い発見は、ギターソロのバッキングのギターが非常にロック的なリフで構成されている事です。
最後に納めれらているのは'機械じかけのラム'。
こちらは先の池袋YAMAHA版と違い、ボーカル付きです。
ただ、使用されている音色は後の'
'の正式トラックとかなり違い、特にあの特徴的なマリンバやピアノで構成したリフパートの音は未だ未完のもののようです。
それと、やはりこの曲も歌詞が完全に出来ていないようです。
中間に聞こえるシーケンサーによる演奏のような音は、もしかしたら'
'ではクレジットされていながら、結局は同期が完全に出来ないと言うことでトラックダウンの際に削られたNational KX-210の音なのか????


 さて、今回はDisk 3後半の'包'関連のデモトラックのレビューをお送りしました。
Disk 3前半も含めて、ここに納められているトラックを聴いて思うのは、四人囃子が非常にプロフェッショナルな姿勢でレコーディング準備を進めていたという真摯な姿が良く現れているというところでしょう。
日本のロックバンドのレコーディングは、正直に言えばかなりラフなものも当時見受けられ、事実欧米のバンドの録音に比べるとやはり一ランク落ちるものが多かったように思えます。
そんななか、四人囃子が非常に周到な準備を行いレコーディングに臨んでいた事実は、日本のロックバンドの中でも貴重な存在だったと言うこと、そしてこれらのデモトラックとはまったく異なる完全なものに変化した公式アルバムのトラックの数々が至極のものであると言うことを教えてくれる、Disk 3はそんな存在なのです。

To Musical Box