From the Vaults + 1(Part 5)〜四人囃子/ボックスセット(2002.02.17)

 いよいよ'From the Vaults'のレビューシリーズも最終回を迎える事となりました。
115日の第一回から、今日の第六回で最後となるわけです。
この最終回では、'
From the Vaults'の中でも衆知が認める貴重な発掘音源である、カバーナンバーと演劇'アドルフ・ヒトラー'の為に書かれた劇伴が収録されたDisk 5、そしてこちらはDisk Unionの予約購入者のみに特典として付いた、やはり二曲のカバーナンバーが納められたボーナスディスクを紹介します。
Disk Unionの予約購入者向け特典ディスクは、本来オフィシャルに販売されたものではありませんが、その内容のお宝度からも紹介しないわけにもいかないのです。
では、そんな初期のカバーナンバーを演奏していた四人囃子の姿をレビューしてみてみましょう。


From The Vaults さて、先にも紹介したように、今回紹介するDisk 5は演劇'アドルフ・ヒトラー'の為に書かれた劇伴'藪の中'を除いて、その全てがカバーナンバーです。
四人囃子のカバー演奏と言えば、実は未だお目にかかった事が無いのですけど、その話だけで有名なところと言えば、
Pink Floydの'Echoes'をフルコーラスで演奏していたというのがありますが、今回Disk 5に収録された各曲もそれと同じくらい貴重なものです。
まず、冒頭の三曲はいずれもクレジット等によると'72年頃に演奏されたもので、正確な演奏日とライブ会場が判らないとの事です。
一曲目と三曲目は、四人囃子が当時好きだったというMountainのナンバー、'Never In My Life'と'Nantucket Sleighride'。
ちなみに、'Nantucket Sleighride'のほうは'75年夏の'
WORLD ROCK FESTIVAL EASTLAND'で何とオリジネータであるFelix Pappalardiとともに演奏するという事も後にあった訳ですが、先日発売された'Strange Days No.31'でも森園氏が懐かしそうにそのときのリハーサルの話をしています。
演奏の方は、ダイナミックなリズムといい、オルガンのドライブ感といい、当時未だ19才であった事を考えると、空恐ろしいくらいの演奏。
とにかく、'Never In My Life'のピッキングハーモニクスを多用したギターなんか、もろMountainって感じがします。
'Nantucket Sleighride'の方も、とてもカバーとは思えないくらいぴったりハマった演奏が印象的。
ボーカルも良いですね、若々しい声だ(^^)。
ちと残念なのは、演奏が完全収録で無い点でしょうか??
(マスターの問題かな???)
二曲目はNeil Diamondの'Kentucky Woman'ですが、ライナーにもあるように
Deep Purpleのアレンジで演奏しています。
と言うか、当時Neilの曲というよりも
Purpleのカバーをやっているつもりだったんじゃないでしょうか??
ここでも、演奏は非常に元気が良いというか、特にドラムの力の入り方がなかなか気持ち良いです。
それと、このときの中村氏のベースは唄うというよりも'ザ・サンニン'の頃に近いかも知れませんね??唄うベースではなくてドライブ感とオカズを強調したプレイなんかは、Creamのカバーをやってた頃の感じが、これなんじゃないでしょうかね??きっと。
それと、この頃の坂下氏のオルガンは多分エーストーンのスピネットタイプを使用していたのでしょうけど、かなりHAMMONDっぽい音を出そうと努力している感じです。
残念ながら、この当時のエーストーンのオルガンはHAMMONDっていうより所謂コンボオルガンっぽい音なのですけど、ロータリスピーカやら何やらの味付けで頑張っている様子が良く判ります。


 四曲目はNeil Youngの'Cinnamon Girls'。
個人的には、ふーん、こんな曲もカバーでやってたんだ....と驚いちゃいました。
まあ、当時の所謂ニューロックの流れから言うと、今の細かいカテゴライズと違って、一緒くたに紹介されていた時代ではありますし。
この曲は'72422日の埼玉会館での演奏と言うことが判明していますが、つまりURC主催のライブでの音源です。
ボーカルは森園/中村両氏によるツインボーカル。
意外とこうやって聴くと、声がNeilっぽい??
こちらも残念ながらラストはフェードアウト。
さて、このDisk 5の一番の目玉は五曲目の'In Held 'Twas In I'。
'745月の目黒公会堂での演奏、この日の演奏はDisk 2で'一触即発'が収録されています。
こちらはProcol Harumの'68年のナンバーですが、これがかなりきっちりと演奏されておりまして。
所謂ロックオペラと言うとThe Whoの'TOMMY'が有名ですが、実際はPete Townshend自身も認めているように、最初のロックオペラはThe Pretty Thingsの'S.F.Sorrow'(名作です、これ!!!!)なのですが、この'In Held 'Twas In I'もその流れにある曲でして、Pete自身も'S.F.Sorrow'とこの曲からの影響が'TOMMY'にはあるという事も認めているのは有名なお話。
Procol Harumのオリジナルバージョンのような冒頭のナレーションとかは入っていませんが、混声コーラスの部分を何とメロトロンで再現しているんです、この曲!!!
四人囃子がライブでメロトロンを使用した事があることは知っていましたが、まさかこの曲で、しかもスタンダードのテープセットには入っていない混声コーラスのセットの入ったものを使用していたとは!!!
ちなみに、ゲストで茂木氏が参加し、リリカルなピアノを聴かせてくれます。
つまりGary Brooker役が茂木氏で、Matthew Fisher役が坂下氏なわけです。
アレンジのほうは、先にも書いたようにオリジナルバージョンのナレーション等はオミットされていますが、かなり近い雰囲気で再現していますし、何と前半ボーカルパートの笑い声後のSEによる爆裂音まで入れる凝りよう。
それと断言は出来ませんが、意外と中村氏もソロボーカルを取っているみたいですね??これ。
Procol Harumというとどうしてもコンパクトなナンバーを思い出しがちですけど、こうゆう複雑な構成の曲もあるわけでして....
しかし、それを本家のアレンジのままライブで再現してしまっていた四人囃子ってのが凄いとこなんです。
某誌で、この曲が'ネッシー'の構成の源流のようなことが書かれていましたが、それは多分違うでしょうね??
確かに、複数の曲を詰めたような組曲形式のアレンジというアイディアの元にはなっているかも知れませんけど。
この'In Held 'Twas In I'は、そんなことを抜きにしてもProcol Harumのオリジナルアレンジをステージで再現してしまっていたっていう事実のほうが重要な事だと思いますよ??
何せ、今回、このレビューのためにProcol Harumのオリジナルバージョン、何回も聴きましたけど、こりゃ本家よりも凄い演奏なんじゃない??とまで思えて来たりして(^^)。
少なくとも、本家のRobin Trowerのギターよりも森園氏のソロのほうが断然かっこよいもの。


 さてさて、六曲目はPink Floydの'Cymbaline'と来ました。
何と、'74年ワンステップフェスティバルでの演奏なんですが、これも、本家がすっ飛んじゃうような素晴らしい演奏。
森園氏のボーカル/ギターなんか、完全なGilmour博士状態。
エコーを使ったギミック的なオブリの入れ方なんか、大胆不敵というか、何というか...
この当時の日本のバンドで一番エコーマシンの使い方がうまかったのは、多分四人囃子でしょうね???
それと専任のPAスタッフが居たバンドも、フライドエッグを除けば四人囃子くらいだったんじゃないでしょうか????
但し、ちょっと残念なのは、中間部のSEが使われていない点なのですけど、そちらの方は別の日の演奏ではありますがDisk Unionの予約特典ディスクで堪能出来ます。
以前、メンバーの方からも聴いたのですけど、ホントこの当時のライブではモニタの返しがかなりつらかったそうでして、実際ワンステップの時も、しかも野外と言うことで大変だったそうですが、それでもこんだけの演奏しちゃうんですからね....開いた口が塞がらないとはこの事でしょう。
さてさてこのDisk 5ラストを飾るのは、演劇'アドルフ・ヒトラー'の為に書かれた劇伴'藪の中'。
と言っても、演奏は'73年杉並公会堂でのワンマンライブの時のものですんで、純粋に演奏だけのものです。
曲的にはリフの上にソロを色々と重ねていくスタイルで、雰囲気的には初期の
Pink Floydのインプロ的なジャムに近い感じもします。
演劇のほうは'721月に行われていたそうですが、それを除くとこの曲が演奏されたのは、この日だけだったみたいです。
この曲の後、音から判断すると'ピンポン玉の嘆き'に続いたようです。


 さて'From the Vaults'のほうの収録曲はこれでおしまいなわけですが、先にも書きましたようにDisk Unionで予約購入すると、もう一枚ボーナスディスクが付いてくるという太っ腹企画がありまして、当然筆者もその太っ腹企画に乗った口であります。
話によると、この太っ腹企画、かなり好評だったそうです。
収録されているのは二曲。
一曲目は'741月中野公会堂での'Cymbaline'。
四人囃子にとってこの曲は、ホント十八番なのでしょうね??
で、一番の注目点は先のワンステップでは使用されなかった中間部のドア音や靴音のSEPink Floyd風に再現されているところ。
さすがに本家のように4ch PAや効果音用のスピーカ、そんでもってアジマスコーディネータは使ってないでしょうから、ホール中央に小川の音を再現するとか、靴音が乱舞するなんて技は使えなかったでしょうけど。
それでも、ここまでやっちゃうところが四人囃子らしい!!
で、問題のSEなんですけど、これってオリジナルで作成したんでしょうかね??
まさか、あの岡井氏が大阪まで追っかけて隠し録って来たと言われる本家のSE音じゃないでしょうね???
(でも、SEの音のこもり具合なんかが、そんな雰囲気も感じさせている????)
ちなみに、オルガンの音は先の'74年ワンステップ版より、よりFloydのファルファッサ系の音が聞けますが、このときはエーストーン使ってたんでしょうね??
ここまで来ると、四人囃子版の'Echos'も何とか聴けないものかな???と思わせてくれます。
二曲目は'76年渋谷公会堂での雑誌'GORO'主催のライブでの音源。
この時期は、今回'
From the Vaults'では完全にオミットされていた森園氏脱退事件後の決まっていたライブスケジュールを、サポートにハルオフォンの小林克己氏、安全バンドの中村哲氏を加えて演奏していた頃です。
演奏されているのは、何とFrank Zappaの'Overture To A Holiday In Berlin'。
話によると、メンバー全員、曲は知っていたけどもタイトルを知らなかったという凄いオチが伝わってきていましたが、ここでは終盤に'ネッシー'のコーラスパートを組み込んで演奏されています。
多分、あの'765月の日比谷野音'ゴールデンピクニックス'での演奏でもこの曲は披露された(と言うか、やらざる負えなかった??)と思われますし、筆者がサマーロックフェスティバルで聴いた'ネッシー'のインストパート的な演奏も、多分この曲だと思います。
ただ、この曲聴いて思ったのは、Zappaの曲ってのはホント難しい曲だな??って事。
Zappaがやると、このウネウネした曲が全然違って聞こえますが、本来のメンバー構成では無いとは言え、何かかなり平坦な曲に聞こえちゃうところからも、四人囃子のメンバーでも手こずっているような感じがしますよね???
おかげで'ネッシー'のコーラスパートが逆に凄くカッコ良く聞こえますもん。
ちなみに、この日は岡井氏の唄う'Cymbaline'、佐久間氏のオリジネータボーカルバージョンの'カーニバル'も披露された筈なんですが....


 しかし、今回六回シリーズでレビューした'From the Vaults'とプラスワンのDisk Unionボーナスディスクですが、とにかく色々な事実が確認出来たという事からも、この資料性の高さはまごう事無き一品と言えましょう。
そして勿論収録された演奏の完成度の高さにも、決してオフィシャルに録られていない演奏が殆どとは言え舌を巻かざる負えません。
'Strange Days No.31'のインタビューで岡井氏が'構想三年、実働一ヶ月'などと言っていますが、いやいや、確かにマスタリング作業やらブックレットの追い込みは非常に短期間で行われたのは聞いていますけど、実際に音源のチェックを延々行っていた事も知っていますし(三年前に佐藤満氏が'全部聴くのツライんだよー'って言ってた事を思い出します)、これだけの音源が残っていて、それをファンが聞く事が出来るようになったという事実には、ホント頭が下がります。
多分、これからしばらくは、これを越えるようなボックスセット(日本のバンドのね??)は出てこないんじゃないでしょうかね??
でも、ファンなんて勝手なもの、もうワンセットくらい出てくるんじゃないか??なんて欲が出ちゃいます。
'75年夏の'
WORLD ROCK FESTIVAL EASTLAND'はオミットされましたけど、これも是非皆に聞いて貰いたい音源。
他にも佐久間氏初参加の荻窪ロフト音源やら、佐藤満氏加入後初の渋谷屋根裏音源、忘れちゃいけない日比谷野音の'包'ライブ音源等々、お宝音源はまだまだありますし。
それと、今回の'
From the Vaults'では'羊飼いの唄'、'藪の中'の二曲の未発表曲が収録されましたけど、他にも佐藤氏参加当初に演奏されていた'No.1('ベッドの上で'??)や第二回ワールドロックフェスのみで演奏された森園氏脱退後初のオリジナル曲(これが、インストなんだけど埋もれさせるには惜しい曲)なんかの未発表曲もまだ隠されているんですもの。
まあ、まもなく始まるリマスタCDの再発でそれらの一端が是非ともボーナストラックで収録される事を祈るとしましょう。
でも、きっと佐久間氏のリードボーカル少年シリーズは、絶対にオミットされるんだろーな(^^)、去年の福島で言われちゃったもんな....'抹殺して下さい'って(^^)。

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