The Room Of Pirate

日本のRockが世界と肩を並べかけた夏の日(2001.10.01 2001.10.21誤記訂正 2001.11.27訂正)

 とてつもないパイレーツが久々に登場しました。
音源が存在するらしい事は知っていましたし、極論すれば放送音源も残っている可能性が高い事も知っていました。
しかし、まさかパイレーツ盤としてこの音源が登場するとは思いませんでした。
これは、1975年の8月、まさに'日本のRockが世界と肩を並べかけた夏の日'の貴重な記録です。
今回、このパイレーツ盤の事を教えてくれた四人囃子公式WEBサイトの掲示板、そし書き込みをした'なむ'さんに、この場を借りてお礼を言いたく思います。
そう、197587日に、今は無き後楽園球場で行われた'WORLD ROCK FESTIVAL EASTLAND'のパイレーツ盤なのです。


World Rock Festival EASTLAND 最近、日本のRockの過去の貴重な音源の発掘がオフィシャル、パイレーツを問わずに進んでいます。
これは、多分、欧米のミュージシャンのテープトレーダ流れによる音源の発掘や発売が今も続いていますが、ようやくその流れが日本のRockにも向いて来たとも言えます。
先日紹介した頭脳警察四人囃子の競演('砂漠はいま....聖ロック祭/頭脳警察+四人囃子=頭脳囃子')もその一つですし、例えば高中正義のプロデビュー前の音源、ダイナマイツGSからよりロックに近づいた最後の輝きを放った新宿でのライブ音源、村八分の未公開スタジオ音源やライブ音源、数え上げればかなりの数の音源が、これまでテープトレイダーの手から離れ、世に出てきました。
しかし、今回紹介する'WORLD ROCK FESTIVAL EASTLAND'の音源は、まさに超弩級の発掘と言えるでしょう。
何と、CD三枚組のボリュームです。
ちなみに、伝え聞く話によると、一応限定100セットのみの発売のようです。
(と言っても、パイレーツですんで、実数は三倍は出ているんじゃないかとも思いますが....あ、ナンバリングは無しでした)


 さて、三枚組のボリュームですが、残念ながら'WORLD ROCK FESTIVAL EASTLAND'の全てを収録したものではありません。
ご存じの方も多いと思いますが、このフェスティバル形式のライブはツアーとして日本数カ所を廻り、日本側から参加したバンドの幾つかは入れ替わりで参加しています。
今回発掘された音源は、そのツアーのメインイベントとも言えた今は無き後楽園球場でのものです。
参加したバンドは、イエロー/JEFF BECK GROUP/カルメンマキ & OZ/クリエイション/四人囃子/NEW YORK DOLLS/FELIX PAPPALARDI & JOE("WORLD ROCK FESTIVAL BAND")の計7バンドでした。
先にも書きましたように、この日のライブは文化放送でダイジェスト版が放送されました。
筆者は、実は当日、このライブをこの目で見、この耳で聞いていましたし、ラジオ放送のダイジェスト版も耳にしています。
ただ、ラジオ放送のほうは、ダイジェストということで、フルレングスで放送されたわけではありませんし、途中にはインタビューが挿入されたりしていました。
今回の音源では、NEW YORK DOLLS、そしてクリエイションの演奏はオミットされています。
音源はそのラジオ放送音源と、会場での隠し録りテープが使用されていますが、イエローOZはラジオ音源ですので、フルセットの収録ではありませんが、隠し撮りテープが使用されたJEFF BECK GROUP/四人囃子/FELIX PAPPALARDI & JOE("WORLD ROCK FESTIVAL BAND")の三バンドは全てフルセットで収録されているところが、このパイレーツ盤の凄いところでしょう。
ちなみに、JEFF BECKのこのツアーでの音源のパイレーツ化は多分、始めてだと思います。
(すみません、同日のライブは'SHE'S A WOMAN'等、別音源が出回ってます。但し、やはりこのマスターによる音源は初出であることは間違いないようです。2001.10.21誤記訂正)
音のほうは、AMラジオ音源、隠し撮り音源ともにモノラルですが、26年前のものと言うことを差し引いても、かなりの高音質です。
ただ、当日会場でも感じたのですが、正直なところPAは完調ではなく、分離の悪い点や一部の楽器の音が聞こえないのは、致し方無いところでしょう。


 まず、このCDセットでもそうですが、トップに登場したのは後にCharと'ジョニルチャ'を結成するジョニー吉長氏、そして後にOZに参加するラッキー川崎氏が所属していたイエローです。
イエローはこの当時としては珍しいレゲエ系のノリもあるスタイルの六人編成のバンドでしたが、バンドの中心人物はボーカルとパーカッションの垂水兄弟でした。
このライブでは、何と後楽園球場のダックアウト前で円陣を組んで気合いを入れてからステージに登場、トップということで観客を煽ろうとステージからグランドに飛び降りたり(この時のステージは、EL&Pの日本公演なんかと同じでセカンドベース当たりにステージを組んでいましたが、さすがに芝のグランドには客は入れていなかったのです)と、なかなかの熱演(??)だったことを良く覚えています。
PAがかなり調子が悪かったのですけど、さすがに元々ライブでは高い評価を受けていた'M'がイエローに発展したと言うこともあって、個人的には非常に楽しめました。
このCDではラジオ音源から二曲とインタビューが収録されています。
ちなみに、イエローは確かアルバム一枚を残して解散したのですけど、そのときの解散の原因が垂水兄弟の宗教上の問題だったと言います。
(すみません、イエローは一枚目のアルバム'イエロー'の後、日比谷野音で録音したライブアルバム'VIBRATION'を発売後に解散しています。ちなみに某サイトに'ワンステップフェスティバルの映像に垂水兄がいない???と書きましたが、実際はパーカッションの上田伸一氏が見受けられないの間違いでした。以上2001.11.27訂正)


 当日、会場でも驚いたんですが、何と二番目に登場したのはJEFF BECK GROUPでした。
ちなみに、後に判った話ですと、当日病気で体調を崩していたそうです。
後の雑誌の写真なんかを見ても顔色はあんまし良く無かったですね、それにジーンズの社会の窓も半開きでしたし(^^)。
ですが、当時'Blow by Blow'を発売し、その音楽性の高さはかなりの評価を得ていましたし、この体調不良が逆に鬼気迫る演奏をさせたのでしょうか??
当日、見ていても演奏の気合いの入り方はかなりのものでした。
当時、筆者はソロよりも'BB & A'のほうが好きだったんですけど、この演奏を会場で聞いてちょっと考えを変えてしまうくらいショックを受けました。
さて、CDのほうはライブをフルセットで収録しています。
ちょっとベースが聞きずらいかな???ってくらいで、PAもかなり好調だったことが良く判ります。
ちなみに、この日Beckは登場、そして演奏終了後に黒塗りの車(リムジン??)に乗ってグランドを行き来したのですけど、ホント歩くのもしんどかったんすかね???
それとも、大物だって事での演出だったのかしら??


 この大物の後を受けて登場したのはカルメンマキ & OZ
このときは、キーボード無しの編成でした。
このCDではラジオ音源で二曲が収録されていますが、この他にも'午前一時のスケッチ'、'私は風'が演奏されたように筆者は記憶しています。
ちなみに、この音源では'Introduction'としてジャム風の演奏が収録されていますが、この演奏がなかなか凄い。
特にベースの川上シゲのCrimsonJohn Wettonスタイルのファズをガンガンかけたリードベースは圧巻です。
この後、OZにはレギュラーメンバーとしてイエローのキーボード/ラッキー川崎氏が参加し、セカンドアルバムの制作に移るわけで、そういう意味でもこの四人編成時代のライブ音源は貴重なものでしょう。
確か、'私は風'も当然鍵盤無しの演奏だった(ただ、途中でマキがピアノを弾いたような記憶もありますが...)わけですけど、こちらは今回のCDではオミットされていますけど、それが収録されていれば、また凄いものになったんですが....
でも、JEFF BECK GROUPの後でありながら、殆ど気後れする事なく演奏を展開したOZの面々、当日会場でも'日本のRock'もなかなかやるもんだと個人的には非常に納得した演奏でしたね...


 この後に登場したのは、竹田和夫氏率いるクリエイション
残念ながら、このCDに音源は収録されていませんが、確かラジオではラストナンバーの'TABACCO ROAD'が放送された筈ですので、音源は存在している筈です。
この当時のクリエイションは、ブルースクリエイション時代と比較すると、その演奏内容は格段に進歩していて、まあ所謂ツインリードのCreamという雰囲気も無い訳ではありませんが、当時の日本のロックシーンで、もっとも技術的な評価の高かった竹田氏のギターを中心に、アンサンブル的にも聴き応えのある演奏でした。
ベースの松本氏のブンブン唸るSGベースなんかも、今となっては時代を感じさせるものなんですけど、それはそれで一つの個性なんですね。
まあ、竹田氏の陰に隠れてしまってはいましたが、もう一方のギターの飯島氏のプレイもかなりのものでしたし、何と言ってもドラムの樋口氏のツーバスは迫力モンでした。
ちなみに、竹田氏は当日体調を崩していた(Beckと同じ??)らしいですし、PAの不調にかなりいらだっていたと記憶していますが、それでもあの演奏はクリエイションにとって、一つのエポックメイキングな一瞬だったのでは無いでしょうか??
ご存じのとうり、クリエイションはこのフェスティバルをきっかけにFelix Pappalardiのプロデュースで世界進出を計るわけですが、残念ながら、そちらは不発に終わりました。
ある意味、あこがれのミュージシャンのプロデュースであっても、バンドに合う合わないというのは、どうしても出てしまうんでしょうね???


 さて、この後に登場した、四人囃子が実は今回のこのCDの本当の目玉だと思います。
何せ、オーディエンス録音ながら、楽器のセットアップからラストまでのフルセットが収録された唯一の日本のバンドなのです。
当時は、年初にキーボードの茂木由多加氏が参加、その直後ベースの中村真一氏が脱退、茂木氏と万華鏡ミスタッチでいっしょに活動をしていた佐久間正英氏がヘルプとして参加、その後正式メンバーになるという激しいメンバーチェンジを経ての久々の大きなライブだったのです。
(ただ、後日'電子音楽 イン・ジャパン 1955〜1981'のインタビューで明らかになるのですが、佐久間氏は正式メンバーではありながら、結局'四人囃子'のオフィスには在籍しなかったそうですが...)
当時、四人囃子はシングル盤'空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ'のレコーディングを終えたあたりの時期だと思います。
このツインキーボード編成では、茂木氏がエレピとシンセ、坂下氏がオルガンとシンセをプレイした筈です。
(残念ながら、筆者は四人囃子のライブを見たのは、これが最初でした。それに予備知識もあまりありませんでしたので、この辺の記憶は曖昧です)
四人囃子にピッタリな夏の夕方に登場するなんてのは、出演順がたまたまあったのでしょうが、今考えると粋な演出にも感じられます。
ライブは、当時未発表で後に'ゴールデンピクニックス'に収録される'カーニバルがやってくるぞ(パリ野郎、ジャマイカへ飛ぶ)'からスタートします。
この曲はご存じの方も多いと思いますが、実は茂木氏が四人囃子に持ち込んだミスタッチ時代の曲です。
ミスタッチはギターレスのキーボードトリオでしたので、ツインキーボード、そしてギター入りと言うことで、多分かなり楽器の絡みの部分はいじっているのでは無いでしょうか??
未だ四人囃子向けの完全なアレンジは出来ておらず、当然スタジオ盤や後の演奏と比べると若干異なる部分もあります。
ただ、曲の構成は差ほどいじっていないようにも思え、特に当然この曲を元々演奏していたミスタッチ組、つまり茂木、佐久間両氏の演奏はかなり手慣れたものに聞こえます。
次の曲はこのライブの後に発売された'空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ'。
モリさんのギターが所々遊びを入れてはいますが、こちらは、ほぼ完全にスタジオ盤のアレンジに忠実な演奏です。
ただ、二曲ともPAが完全で無いためか、それとも録音していた場所の問題かは判りませんが、坂下氏のオルガンがオフ気味で聞きづらいのが、残念です。
三曲目は当時、圧倒的な支持を受けていたアルバム'一触即発'のタイトル曲、'一触即発'。
頭のテーマの後、ボーカルが始まったところでの観客の歓声がかなり大きい事からも、この曲が当時の音楽ファンにいかに影響を与えたか、日本のロックシーンにいかにショッキングな事だったかが良く判ります。
当時、筆者はこの曲を始めて聴いて、大変なショックを受けました。
それまで、日本のロックも一応聴いてはいたのですが、興味の大半は欧米、特に所謂ブリティッシュ物が中心でした。
しかし、この日、この演奏を聴いて四人囃子のこの曲は完全に体に刷り込まれ、そして後に四人囃子の追っかけ状態になってしまったのです。
確か、このライブの後、すぐにレコード屋に行き(YAMAHAでした)、'一触即発'を購入、そしてシングルの'空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ'にも手を出したのでした。
さて、このCDでも'一触即発'への観客の反応は凄いもので、ある意味JEFF BECK GROUPを食っちゃったと言っても良いかも知れません。
途中のベースリフの部分ではリズムがひっくり返っているのはご愛敬ですが(^^)。
ただ、返す返すも残念だったのは、坂下氏のオルガンの音のレベルが低い事、それと多分ラストのシンセのパートも坂下氏と茂木氏による絡みがきちんと聞こえない事の二点でしょう。
演奏終了後の観客の反応もすばらしく、わずか25分程度の演奏で観客をここまで満足させた四人囃子という存在が、筆者のなかでどんどん大きくなっていったのは、みなさんにも判って貰えるでしょうか??


 この四人囃子の後に登場したのは一応外タレのNEW YORK DOLLS
David Johansenは、確かにその場に居たわけですが、残念ながらJohnny Thundersらも脱退しており、はっきり言って抜け殻のようなNEW YORK DOLLSの演奏は、正直、あまり誉められたものではありませんでした。
Davidが女性の水着看板みたいなものを持ち出したりと、ある意味ノリの良い楽しいステージを繰り広げていたとも思いますけど、筆者も含めて多分NEW YORK DOLLSに期待していたのはJohnny Thundersらの醸し出すであったであろう怪しさと危なさ、まさに今思えばプレ・パンクだったのですよ。
それにその前の四人囃子の圧倒的な演奏の後ですんで、はっきり言って完全に浮いちゃってたように思います。
ちなみに、このCDには音源のかけらも収録されていません。


 さて、このCDでも最後のセット、そして当然当日も最終セットはFELIX PAPPALARDI & JOE("WORLD ROCK FESTIVAL BAND")
日本側からはボーカルのJoe、ハルオフォンの近田氏の鍵盤、クリエイションの竹田氏のギターと樋口氏のドラム、そして四人囃子のモリさんがギターで参加。
米国側はFelix氏のベースと、William Lee Rayback氏のドラムという編成。
アンコールでは内田裕也氏が登場します。
曲は、Joeのフラワー時代の曲とFelix氏のMOUNTAIN時代の曲、それとこのライブのために書き下ろしされた'World Rock Festival Band'の計六曲。
しかし、このときのJoeのボーカルの冴えは素晴らしく、特に'.Woman(Shadow Of Lost Days)'の超音波ボイスは聞き物。
Felix氏のMOUNTAIN時代の曲('Theme For Imaginary Western'、'Nantucket Sleighride')では、多分MOUNTAINファンだったモリさんはニコニコしながら弾いてたんだろーな(^^)。
ちなみに、当時のライトミュージック誌のインタビューで竹田/モリさん両氏が、Felixの三連嫌いを語っていましたけど、そんなところを気にかけながら聴くのも一考??
個人的にはFelix氏のGIBSON/EB-1が出す野太いベースが時代を感じさせてくれます。
でも、この音ってクセになる音ですよね。
Fender系や今時のベースじゃ殆ど出せない音ですもの。
さて、確かこのライブ、アンコール時に出演者がバットとボールを手に出てきて、グランドからスタンドの観客にボールを打ち込むファンサービスをしたと思います。
でも、スタンドに届かないボールも多かったような気が...
演奏はCDにも収録されているとうり、アンコールでこのライブの仕掛け人の一人でもある内田裕也氏が登場、おきまりの'Rock'n Roll Medley'を披露、そして再度の'World Rock Festival Band'でステージは終了します。


 さて、このライブ、タイトルにも書いたように'日本のRockが世界と肩を並べかけた夏の日'だったと思います。
このライブの後、日本のバンドはそれぞれアルバムを発表、それなりのセールスを記録し、当時日本のロックに非常に冷ややかだったレコード会社の顔を一気に日本のバンドに向けさせました。
ちなみに、カルメンマキ & OZのセカンドアルバムのレコーディングは米国レコーディングでしたが、当時羽田を発つ際にレコード会社のお偉いさんが万歳三唱で送ったなんて笑い話もあります。
ただ、このレコード会社のやり口も所謂日本のロックバンドの青田刈りに繋がり、残念ながら日本のロックシーンも'77年当たりには息切れを起こし、段々所謂歌謡ロックの時代に入って行きます。
まさに、世界と肩を並べつつありながら、結局それがなし得なかった、そんな事実を教えてくれるのが、このCDに納められた記録なのではないでしょうか??
ブートやパイレーツが非合法的な存在であることは否めませんが、そんな事実を伝える媒体の一つであるというのも悲しいかな事実なのだと、そんな思いも頭をよぎる、今日この頃の筆者なのでありました。

 To Pirate