11.Do It Yourself! -4

  
いよいよ禁断のアナログにチャレンジ!…と言うわけでもないけれども「4」に突入!



 64.弱点を克服せよ(01.10.21)

 先日の「コラム」で、アナログについてちょっと書いたのだが、いよいよ実践編である。

 ちょうど折よくレコードをたくさん手に入れる機会に恵まれたので、一層頑張らねばならないのだ。手に入れたのは中古盤(まあ当然といえば当然)なので、汚れているものも多い。今までもオーディオテクニカの湿式クリーナーは持っていたが、これはホコリは取れるものの、長年染みついた汚れ、あるいはカビなどには心許ない。そこで購入したのが「レイカ」のクリーナーである。これは「A液」と「B液」に分かれており、「A」で汚れを取り、「B」で仕上げをする、というかなり面倒臭いものだ。さらに「ビスコ」というグリコのビスケットみたいな名前を持つ専用のクロスが必要なのだ。面倒なことが嫌いな私にはかなり似付かわしくないものなのだが、我慢だ。アナログをやるには面倒臭がっていてはいけないのだ

 説明書通り、液をかけて溝に沿って拭き取る、という作業を古いターンテーブルシートを敷いた上で行っていると、袋から出したとき「何だこりゃ」と顔をしかめたくなるような汚れたレコードもビックリするほどの光沢が出てきた。なるほど、さすがである。

 レコードを聴くには超基本的なことがある。それが針圧調整だ。そろそろ適当では済まされまい。新しいカートリッジ「DL-103」も手に入れたことだし、まずはゼロバランスから合わせないと。

 この103は重いほうに当たる。とは言え、ゼロバランスでこんなに苦労するとは思わなかった。ゼロバランスというのはつまり、天秤のようにアームが水平となる状態にする調整なのだが、トーンアームのウェイトを一番端っこ、つまりカートリッジと反対側を重くしても、カートリッジ側が下がってしまうのだ。これはいかん。カートリッジ重過ぎではないか。どうしたらよいのだ。

 まあ重りを増やすしかない。どうするか。以前教えてもらった方法に「洗濯ばさみを使う」というのがあった。早速試してみる。しかし、軽いプラスチック製の洗濯ばさみを付けたところで全く自体は変わらなかった。それでは、ということでその洗濯ばさみに鉛テープをぐるぐる巻き付けてみた。

 するとどうだろう。今まで頑ななまでに下がっていたカートリッジが、ぐーんと上がっていくではないか!やっとこれでバランスがとれる!私は軽く汗ばみながら洗濯ばさみやウェイトの位置を微妙に調整し、ようやく水平になる位置を見いだした。どうだ!

 そして針圧を推奨設定値ギリギリの2.8に。これでどうだ!ってなわけで、早速試聴だ。キース・ジャレットの名盤「ケルン・コンサート」。どうやらオリジナル盤のようだが、何故か格安で手に入ったもの。傷はそれ程ではないが、汚れが目立っていたので早速「レイカ」で念入りにクリーニング。初めて聴くので試聴には適さないかもしれないが、まあそこは細かいことは言わずと。

 針を下ろそうとアームリフターを下げると、何故か外へ引っ張られてしまった。おかしいな。やっぱり針圧軽すぎるんじゃないか。とりあえずインサイドフォースキャンセラーをゼロにして、外への動きを阻止する。「そんなのは応急措置に過ぎないのだが」という不安を殺して、針を下ろす。

 パチパチパチ…うわうわうわ。物凄いノイズの嵐に参ってしまった。音も歪んでいるし、酷いなこりゃ。しかし何故かその歪みやノイズをかき分けて出てくるのはキース奏でる美音。これはまた魅力的。とは言え、何と言っていいのやら、この美音と雑音。これを「レコードの魅力」と言い切ってしまって良いものなのか。

 試しに「サキコロ」などをかけてみる。歪みは少ないが、やはりノイズが目立つ。このレコードにこれほどのノイズはなかったはず。カートリッジがおかしいのか、やはり針圧調整がおかしいのか。

 そこでカートリッジを以前のテクニカ「AT15Ea」に戻してみる。今度は針圧も何の苦労もなくぴったり合う。両方のカートリッジを持ってみて分かったが、テクニカは軽くて103は重い。持ってみて分かるくらいだから、そりゃあアームもバランスが取れないだろう、などと思ったりもする。やはり「サキコロ」はいつもの通りノイズも少なくかかった。何なんだ。今度はゲイリー・バートン&チック・コリアの「クリスタル・サイレンス」。うーん、爽やか。ここでまた103に戻して今度はバランスをとってからの針圧をもっと深めに入れてみる。当然カートリッジの腹が盤をこすってしまっては大変なので少しずつに、だ。さてもう一度「クリスタル・サイレンス」。

 おお、これならば良いじゃないか。しかも、テクニカとの違いも分かる。テクニカがスーッと伸びた透明感のある「爽やか系」ならば、103は「少々こってり系」と言おうか。決して低域が分厚いわけではないが、中域にしっかり音が詰まって、ずっしりした分厚さを醸し出している。このヴァイヴとピアノが織りなす「クリスタル…」だとテクニカの爽やかさが似合うのだが、103のこの肉厚感も悪くない。「ゲイリーの持つマレットがしっかりヴァイヴに当たっている」という感触が伝わってくるのだ。

 またもう一度「ケルン・コンサート」にしてみる。おや、今度はノイズも少なくなったし、歪みもなくなった。やはり針圧のせいだったのだろうか。また、「レイカ」が乾かないうちにかけると、ノイズがかなり乗るらしい。小雨の降る湿度の高いなか、慌ててはいけない、というわけか。

 結局何か結果オーライ的に事態は収束してしまったので、アナログ、という弱点を克服できたのかどうか。まだまだ奥が深い。



 65.アナログ vs デジタル(01.11.11)

 少々強引な戦いかもしれない。正直な話、今の状態ではレコードの方に勝ち目はなさそうなのだが、敢えて「この段階」で比較試聴をしてみたいのだ。お互いが切磋琢磨し合って、さらに高みを目指す…素晴らしいではないか。(意味不明)

 さて、やはり同じ音源のソフトがあるもので勝負をするわけだが、まずはやっぱりこれ、「サキコロ」である。

 1.ソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」…これはなかなか甲乙つけ難い。全体的な音のキレ、オーディオ的な良さはCDにあるのだが、例えばドラムの皮がちゃんと「皮」として聞こえるのはレコードの方だ。CDの方は良質なシンセドラムに聞こえてしまう。

 2.スティーリー・ダン「Aja」…さすがにメンバー本人達がリマスターに立ち会っただけのことはあり、最新リマスターのCDは一歩抜けたものを感じた。しかし、低音の量感はレコードに分がある。CDは少々爽やか過ぎの感も。

 3.クイーン「グレイテスト・ヒッツ」…「地獄へ道連れ」を。自分のCDは一番最初の日本盤で、あまり音が良くない。これは圧倒的にレコードの方が良い。近々発売になるリマスター盤が楽しみになってくる。これはかなり音が良いらしいのだ。

 4.トミー・フラナガン「オーヴァーシーズ」…感想としては「サキコロ」と同じように、エルヴィンのドラムの「乾き加減」に関してはレコードが上だ。とは言え、全体的にはやはりCDに軍配が上がる。CDは輸入盤だが、「remastering 1999」とある。

 5.アース・ウィンド・アンド・ファイアー「天空の女神」…お馴染「レッツ・グルーヴ」を。これはレコードの方が良い。中低域のリズムを強調した、良い意味での「ドンシャリ」サウンド。こういうノリの良い曲はこうしたサウンドが似付かわしい。ちなみにCDは初期のもの。

 6.ピーター・ガブリエル「SO」…これは双方とも譲らず。意外にもそれ程変わらなかった。CDは初期のものなので、リマスター盤のリリースを期待。


 他にもレッド・ツェッペリンなど、比べたいものはたくさんあるのだが、次の機会に譲りたい。分かったことは、決してレコードの音が「アナログっぽく、まろやか」と言うわけでもない、ということだ。初期のCDの方がレンジも狭く、レコードのような味わいこそ薄いが、いわゆる「アナログ的」と言えるのだ。そう言った意味でも、最近流行りのリマスターCDがどんどんリリースされて欲しい、と思う。これで初めてレコードと勝負が出来る、というものだ。



 66.「すーぱーらわん」久々(01.11.24)

 と、言うわけで久しぶりに小型2ウェイ「すーぱーらわん」の登場である。

 試してみたくなったものを買ってきたので、これで実験するのだ。それは「カーボンハット」。そう、カーボンフェルトをユニットの後ろに帽子のように被せて効果的な吸音効果をもたらす、というあれだ。カーボンフェルトの効果は既に夏の北陸で体験済み(キャッ、何か恥ずかしいぞ)。吸音材としては少々高価だが、試してみるだけの価値はある、と踏んだのだ。

 「すーぱーらわん」の特徴はハイ落ち、ローブースト。つまり、ゆったりした「癒し系」とも言うべき音を出す。おそらくウーファーのFW168の音なのだろう。さらに、トゥイーターのFT48Dは中域まで出すようにコンデンサーで調整(10μF)しているので、あまり高域まで伸びていない。もしかしたら、アッテネーターとして使ったセメント抵抗(あるいは選択した抵抗値)にも原因があるかもしれないが。とにかく、余りにも低域が「ぼーん」と目立ってしまう。もう少しこの「質」を向上させたかったのだ。とは言え、締めすぎてしまってはこのスピーカーの魅力は半減してしまうことは確かだ。あくまで、「質」にこだわりたい。

 さてそのカーボンハット。被せるにはユニット側にベロクロのテープを貼り付け、フェルトの方に着けられたベロクロと合わせるようになっている。これ自体は簡単なことだ。ちょっと苦労したのはユニット取付穴がギリギリなため、元に戻すときに引っ掛かってなかなかうまく嵌まらなかったことだ。「ぐい」と強引に押し込み、またネジを締める。8本ネジはあるので、結構面倒なのだ、これが。本当はせっかくユニットを外したのだから内部配線の交換など試みたかったのだが、コンデンサーやコイルが複雑に絡みあう内部を見てやめた。また今度また今度。それに、カーボンハットの効果だけを知りたいということもあるし。

 さて音出しだ。いつもの試聴ディスクを次々にかける。低域の締まりや表現力の向上、具体的にはベースのピチカートがクッキリと鳴らされたことは期待通りだった。さらには、直接関係のないはずの中高域までがクッキリとなってきた、という期待以上の思わぬ効果が現れて驚いた。レンジまでが伸びて聞こえるのだ。これはおそらく、スピーカー内部の高域成分に含まれた汚れや定在波を、カーボンフェルトが吸い取ってくれたためではないかと思う。

 ということで、鳴らせば鳴らすほど効果がはっきりしてきた今回の実験、ひとまず大成功。しばらくは「すーぱーらわん」を聴く日々となりそうだ。



 67.代打ホームラン(02.2.4)

 「電線奮戦記」を短期集中連載していたので久しぶりなのだが、当然何もしなかったわけではないのだ。

 今回はまず、アナログ周辺なのだ。

 話はある事故に遡る。「事故」って大げさなんだけど。

 ただ単に、カートリッジを交換しようと思ったのだ。テクニカ「AT-13Ea/G」をデンオン「103」に変えようと思い、アームからシェルを取り外そうとしたとき、悲劇は起こった

 アームのネジを緩めれば、当然カートリッジは手に収まる、はずである。ところが、何を考えているのかこのカートリッジは、引力にその身をゆだねてしまったのだ。…まあ、手を滑らせてしまったわけで、見事に針先から落下したのだ。

 「ガーン」

 落下した音なのか、ショックを受けたときの擬音なのか不明だが、とにかく針先のカバーもそういう時に限ってしていないのはよくあること。しばらく凝固してしまった私は、何事もなかったかのようにカートリッジを付け替えた。それでしばらく自分をごまかしていた。「何もなかったんだ、そう、なかったに決まっているのだ」と。

 しかしある日、レコードプレーヤーを手に入れたha○氏のところへ、数枚のレコードとこのテクニカのカートリッジを持って聴きに行った。そこで自分のカートリッジを付け替えた時、左チャンネルが歪みまくってしまっていたのだ。「やっぱり…」落とすもんじゃあない。泣く泣く私は現実を受け入れるしかなかった。

 そうすると唯一のカートリッジは103だけ。これも針圧調整が今一つうまくいかず、あまり使っていなかった。別にCDだけ聴いていればいいのだが、そうなると何故か聴きたくなるのが性(さが)というものであろうか。カートリッジを求めて大須へふらふらと向うのであった。

 まあ「とりあえず」ということだからそんなに高価なものでなくても良いのだ。「ハイファイ堂」で目に付いたのはシュアーの「M44G」。古くからの定番モデルだが、最近はDJにもよく使われているという。タフなのだろう。店員に聞いても「MMならば、下手なやつを買うよりもこいつがいいですよ」と勧めてくれた。ならば安いし、使ってみよう。というわけでゲット。シェルも手に入れて、いそいそと家に帰って早速装着してみる。

 その時、ちょっと対策をした。シェルとカートリッジの間に制振合金「ツァウバー・ディスク」を3枚挟んだのだ。こうした防振対策が、アナログにおいてはかなり有効との事だからだ。そうかもしれない。何せアナログはデリケートだ。ちょっとしたことで音は変わるに違いない。本当は挟む前の状態もこのサイトのネタ的には試してみたかったのだが、あまりにそれは面倒だったのでいきなり対策をして試聴に臨む。

 最近手に入れたレコード「グレート・ジャズ・トリオ」をかけてみる。トニー・ウィリアムスの超絶ドラムと、ロン・カーターのベースが聴きものだ。

 出てきた音は予想以上だった。

 何せ、太い。厚い。ベースもドラムも迫力満点、ベースの弦が太くなったかのようだ。スネアドラムの皮が厚くなったかのようだ。前に前にと音が飛びだしてくる。これはいいや、とばかりに他のジャンルもかけてみる。アース・ウィンド&ファイアなんてどうだろう。…これもいい、いい!パンチ力のあるシンセ音が「ブギー・ワンダーランド」や「レッツ・グルーヴ」を一層楽しい曲にしてくれた。もうノリノリ(古い?)。確かに高域はあまり高いほうまでは伸びていない。超低域も出ていないようだ。でもいいじゃないか。こんなに楽しい音を聞かせてくれるのだから。制振対策もそれなりに効いているのだろう。厚みはありながらも締まった中低域になっていたのだ。それにしてもカートリッジでここまで違う音になるとはなあ。あらためてアナログの奥の深さを思い知らされてしまった。ああ、また俺は新たな深みをのぞき込もうとしているのだろうか。



 68.増殖の一途(02.2.17)
 M44Gの厚い音に気を良くした私だが、やはり落としてしまったテクニカも捨てきれない。と、言うより逆に色々比べてみたくなったわけだ。

 そんなわけで、また「ハイファイ堂」に行って診てもらうことにした。少しカンチレバーがずれているような感じもあるのだ。さらにはV15タイプ3も一応持っていった。「もしかしたらこいつも何とか復活できるかも」という期待があったのだ。

 さて、まずはテクニカだ。まずそこで聴いてみる。あれ、家で聴いたときよりもちゃんと音が出ている。ただ、やはり少々歪みっぽい。しかし、そこで下された診断は随分と拍子抜けさせられるものだったのだ。

 「見たところ、ただ汚れているだけのようですよ。」

 え。そうなの。大騒ぎしていた自分があまりにバカみたいではないか。えええ、と思いながらもクリーニングしてもらうと、音は普通に出てくるようになった。診断・もっとこまめに掃除しましょう、って感じか。やれやれ。ただ、「随分詰まった音ですよねえ」と言われた。こいつの実力だろうか?以前はもう少し抜けの良い音だった筈だが。まあ家でもう一度確かめてみよう。

 あまりにも呆気なく終わってしまったが、次がある。いよいよタイプ3の出番だ。

 ルーペを取りだして何やら見ている。ドキドキしながら診断結果を待つ。

 「これまた、随分汚れてますね。こってりとこびりついている。」

 あれえ。また汚れかい。と思いながらルーペを貸してもらい、見てみると確かに凄い。まあ、これは俺のせいじゃなくて、前のユーザーのせいだわい、と思いながらも、掃除は重要なのだと言うことを再認識させられた。うーん、一応スタイラスクリーニングはそれなりにしていたつもりなんだけど。

 そして、しっかりとクリーニングしたタイプ3は、その場で素敵な音を奏でてくれた。しかも先ほどのテクニカと比べて、随分違った音を鳴らしていた。これならば期待できる。

 帰宅して早速試聴だ。それにしても、MM型カートリッジが一気に3つになってしまった。

 まず、テクニカを聴いてみるが、もう変に音が割れたり歪んだりはしない。しかし、前はもっとスカッと抜けの良い音だった筈。今は随分鼻詰まりの様な音だ。やはり落とした影響だろうか。M44Gはそれに比べると確かに魅力的なカートリッジだ。音に躍動感がある。思わず体を揺らしたくなるのだ。

 さあ、次は復活のタイプ3である。東北のジャズ喫茶「ベイシー」のオーナー、菅原正二氏が愛用しているこの銘機の実力を、遂に試すことが出来るのだ。

 ワクワクしながら針を下ろす。…おお、なるほど。随分と情報量に差が出てくるものだ。細かい音をよく拾っている、と感じた。どちらかと言うと爽やかな音で、コクや艶というものをそれ程主張するわけではない。しかし、逆に変な癖が無いと言え、リファレンス足りうる実力を持っていると確信した。ギターの音色はスッキリとして大変好ましいものだ。同じシュアーでもM44Gは元気のいい腕白坊主だが、タイプ3はよくものの分かった大人という感じだ。これは良い使い分けが出来そうだ。昔のジャズや、ビートを効かした曲を聴きたいときはM44Gを、ギターやピアノなど、アコースティック主体のものはタイプ3が適しているだろう。せっかく診断してもらったが、テクニカにはしばらく出番はなさそうだ、残念ながら。

 あとは、針圧の合わないデンオン103だが、こいつの復活記はまた次回にでも。



 69.伝統の復活(02.3.5)

 MCカートリッジがこれしかない、というのも恥ずかしいのだがとにかく、デンオン103である。

 さらに正直申し上げると、以前合わない針圧(ゼロバランス)に業を煮やした私は伝家の宝刀を抜いた。それは「目分量」だ。聴覚のみに頼る、という一見物凄くカッコ良いが実際には超・適当なのだ。カタカナで「テキトー」と書くのが最も的を射た表現だろう。

 103の高針圧という特徴だけを信じ、とにかくウェイトをぐるぐる回し、そして針を下ろす。聞えてきた音は「お、いいじゃん」というものだったのでしばらく耳を傾けていた。しかし、あることに気付いたのだ。おかしなノイズである。トレース音がやたら大きい。もしや。おいおい。

 そう、黒いカートリッジは思いっきり腹を盤面にこすりつけて泣いていた。まずい。慌てて針を上げる。どうやら無事だったが、危ないところだった。やはり針圧はしっかりと合わせねば。

 というわけで、偶然針圧計をお借りすることが出来たのだ。シュアーのやつだ。しかし結局これもうまく行かなかった。明らかに軽すぎる場合はすーっと針が流れてしまい、いい具合に針圧系のゲージの上に針が乗らなかったのである。重い場合は「ガン!」と跳ね返ってしまい、もう針を壊しやしないかとヒヤヒヤ状態。結構これは慎重な動作を必要とするものらしい。もしかしたらこんなに苦労しているのは俺だけじゃあないのか?とりあえず一息ついた私は、一計を案じた。

 「そうだ、シェルだ。シェルを換えてみよう」

 103に付けていたシェルはオルトフォンのもので、他のテクニカやプレーヤー純正(デンオン)に比べると少々重い。そこで、交換だ。とりあえずは13Ea/Gのシェル(MG-10)を外し、それを103に装着する。オルトフォンの方はタイプ3を付けようとしたのだが、ネジが合わずに断念。意外に長いネジが必要になってしまうのだ、タイプ3の場合は。仕方なく、こちらは元に戻す。ただ戻すだけではシャクなので、制振合金+リード線交換という豪華セット(?)でシェルの弱さを補う策に出た。

 さあ、103のゼロバランスはいかに。…あれ。バランスやけに呆気なく取れてしまった。はあ、やっぱりシェルの重さだったか、ネックは。なーんだ、簡単じゃん。ここまで騒ぎまくったのは一体何だったのだ。103を購入したのは確か6月末頃。ようやくまともにこの音を聴くことが出来るのだ。それにしても…恥ずかしいやら馬鹿馬鹿しいやら。

 音はやはり「中庸」という言葉が最も相応しいだろう。しっかり輪郭を描くピアノ、ヴォーカル。中域重視でレンジは大して広くはないが、きちんと出すべき音は出している、という感じだ。コクかキレか、と問われればコクのタイプになる。

 ただ、あまりに真当すぎて面白みに欠ける、という気もする。M44Gのような面白さがこれには残念ながら無い。まあ、だからこその信頼性なわけだ。決して美音系ではありえないのだが、女性ヴォーカルもその中域の濃さが映え、なかなか悪くない。ソースによって使い分けを楽しむのがベストだろう。

 ただ、このプレーヤーと言うかトーンアーム、標準の状態では重いシェルが絶対付けられないようだ。最近主流の重いシェル、例えばテクニカの「テクニハード」は全く無理ということになる。これは残念で堪らない。やはりシェルはしっかりしたものにしたいのだ。洗濯ばさみをうまく使うにしても、鉛テープを巻き付けるにしても、うまくそれで調整して楽しむことが出来るようにしたいものだ。まだまだ、アナログは奥が深い。やり甲斐のあるものだ、やっぱり。



 70.金ぴか趣味(02.3.10)

 たまたま、コエフ氏からトゥイーター「FT90H」を借りることが出来た。早速試してみたい。

 今は確か「FT90A」という型番にモデルチェンジしているはずだが、これはどちらかと言うとスーパートゥイーターとして使うのが正しいだろう。まず、「すーぱーらわん」からだ。とりあえず上にひょいと乗せてみると、「おお、3ウェイだ(ちょっとインチキな)」という感動もあり、なかなか良さ気である。真鍮製のリングという上着も着込んで高級感もあるため、見た目もバッチリだ。ネットワークは借りた状態からケーブルとコンデンサが付いてきたが、自分のものを使うことにする。「ブルー」に使っていたスプラグのコンデンサとベルデンのYラグ処理済みケーブルだ。フォスのこういったスーパートゥイーターの端子は裸線のままだとどうも付けづらい。Yラグで留めるとしっかりホールドされる。コンデンサの数値は0.22+0.1で0.32μFだが、そのままでやってみよう。

 聞こえてきた音はまさにハイ上がりだった。と言うか、「いかにもトゥイーターを追加しました」みたいなシャカシャカした音になってしまったのだ。うーむ、これは何だかなあ。能率が違うのか。コンデンサの0.1の方を外してみようかとも思ったが、それ以前にこのトゥイーターの音と、「すーぱーらわん」の音がマッチしていないように思えた。おっとり系のスピーカーに、シャープ系を加えてはやはり両者がケンカしてしまうのだ。惜しい。

 そこで、「D-105」の登場となった。こいつならば相性は合うはず。そう思って上に乗せる。オレンジ色のエンクロジャーと相まって、見た目もなかなかである。ケーブルがYラグがついているので、ターミナルとの接続に工夫が必要になる。ただ、既に元のケーブルも「すーぱーらわん」と共用なので、WBTのバナナプラグを直接端子にはめ込み、その後ろからさらにYラグを挟んだバナナプラグを差し込む、という大変ややこしいことになった。接点だらけである。長岡先生が見たら「無駄だらけだよ、こりゃあ」とおっしゃるかもしれない。ただ、自分の経験上では接点の増加が必ずしも音質の劣化に繋がるわけではない、という結論になっている。むしろ良くなることだってあるのだ。

 さて音を出してみると、最初「あれ、鳴っているのかな」という感じだった。近づいて耳を澄ましてみると、確かに鳴っていた。今度はトゥイーターを切って鳴らしてみると、やはりさっきとは違うことが分かった。詰って聞こえた。やはり切る前はスゥーッと伸びていたのだ。そう、これくらいで良いのだろう。あまり主張させてはいけないのだ。最初鳴り過ぎになるのを恐れて後ろに設置したので、心持ち前に出してもう一度鳴らす。これはいい。88ESの高域が素直に伸びたように感じ、全体にくっきりしたきた。ベースのピチカートにも大きく影響するので、決して高音楽器だけが恩恵を被るわけではないのだ。気に入った。どうも最近105の高域に不満があったので、それを解消することができてしまったのだ。素晴らしい。

 問題はこれが借り物であること。まあ、それはかなり後のことだろうから…?



 71.久しぶりの小ネタなど。(02.3.17)

 ちょっとしたことで意外に音が良くなったりすると、結構うれしいものだ。これがオーディオの醍醐味とも言え、機器の買い替えでしかオーディオを楽しめない人は大変不幸だと思う。

 ま、それはともかく。まずはアナログ関係。

 会社の先輩から譲り受けたレコードプレーヤー、デンオンDP-70M。トーンアームから出ているケーブルはごく普通のものだが、RCAプラグが汚れて青錆まで発生している状態。これでいい音を出そうと思ってはいけない。ケーブルの交換ができるかどうかは知らない、と言うかひっくり返してみていないので何とも言えないが、せめてプラグだけでも何とかしたい。

 そこでそのプラグを取り外し、余っていたプラグに付け替えることにした。古いプラグは当然取り外せるような気の利いたものではないので、ニッパーでぶった切る。そして芯線を剥いて新しいプラグを取り付けた。しかし、芯線もシールド線もやはり古いせいなのか、輝きに乏しい。まあ仕方があるまい。

 そして試聴。激変!ということはないが、やはり澄んだ音になったことは確か。気分的にも気持ちが良いものだ。古い機器にはこうしたリフレッシュが必要だろう。さらにフォノイコライザーからアンプへのケーブルを日立「メルトーン」からカルダス「クロスリンク1X」に替えてみる。これの効果はなかなかのものだった。中域が図太くなり、音が前にグイグイ出てくるようになったのだ。どちらかと言うと綺麗だが大人しかった日立に比べ、カルダスは元気の良い音だ。これの方が当然自分の好みだ。

 さらにアナログ回りをもう一つ。活躍の場があまりなかったアクセサリーの登場だ。

 それはレゾナンス・チップ。賛否両論のこのアクセサリー、確かに自分で使ってもどうも効果のほどは今一つ、逆に響きが抑えられてしまうケースもあった。それならば、何をしても音が変わるアナログならばあるいは…と思い立ったわけだ。

 方法は色々考えたが、カートリッジのシェルに付けてみようと決めた。「アナログ再生の本」にも例が出ていたが、シェルとトーンアームの接合部に近いところに付けてみたのだ。もともと制振合金をシェルとカートリッジの間に挟んでいるのでさらに効果は発揮されるかもしれない。

 結果は、まずまずだった。CDに比べるとちょっとボケ気味だった音に、一つしっかりした芯が通ったのだ。高域の伸びや、ヴォーカルの厚みとなって効果は現れた。と、いうことで他の部分よりは良い結果は出た。しかし、それでもよく言われるような「激変!」には程遠いが。まあ、このくらいは変えてもらわなければ、とも思った。

 最後にこれはパソコンデスク回りを。ずっと気になっていたのが左チャンネル側。どうしても音がそちらに寄ってしまうのだ。部屋の引っ込んだ部分にデスクを設置しており、どうしてもオーディオ的には定在波が起こりやすい場所になってしまう。特に左は押し入れの壁が10センチ程度に迫っている状態。後ろは角になっている。条件が悪すぎだ

 そこで登場したのが以前100円だったので買っておいたスポンジの円柱1mあるものだ。とりあえず無造作にそいつをコーナー部分に立て掛ける。ちょっとスピーカーの高さと同じくらいになったので良しとしよう。

 いつものようにパソコンに向ってみて試聴だ。これは正直驚いた。見事に音が真ん中に定位したのだ。もちろんまだまだ改善の余地はあるのだが、使用前のように左に寄り過ぎてしまうことが無くなった。これは素晴らしい。こんなスポンジ一つで音が良くなってしまったのだ。喜ばずにいられようか。しかも100円である。本当に素晴らしい。今回の小ネタの中で一番効果があったのがこれ。うれしいので何度でも言うが100円である。それにしても、環境と言うのは重要なのだな。メインシステムの方もそう言ったところの改善でまだまだ良くなることが出来るわけだ。色々考えて、試してみよう。いや、オーディオは面白い。



 72.朝日のように爽やかに(02.3.25)

 D-105に搭載されているフォステクスFE88ESという限定ユニットは、マグネットがかなり大きい。そのため端子部分を少し余分に削らないと入らない、という誠に窮屈なものなのだ。オフ会などでスーパーフラミンゴや、かず氏作「小鳥ちゃん」、コエフ氏「八角堂」など同じユニットを使用したスピーカーは、みなユニット装着用の穴は裏側をテーパー処理している。つまり右の図のように、ユニットのマグネットと板の間にすき間をなるだけ多くしてやるわけだ。この処理を施したスピーカーはどれも音質の向上が見られることは試聴の結果、確かなことなのだ。

 では自分の場合もきっと同様の結果が得られるに違いない。得られるに違いないのに何故今までずっとやらなかったか。面倒だったからである。ユニット外さなくちゃならないし、やすりをかければ木屑が舞うし、かと言って外に持っていってやるのも大げさだし…

 しかしここで私は遂に重い腰(最近物理的にも重いな)を上げた。やるのだ!と言うわけで早速ユニットを取り外しにかかる。外したユニットを結線したまま上に置き、丸穴用のやすりを使ってザクザク角を削るのだ。その際、当然下には新聞紙、空気室内にはコンビニの袋を入れて、なるだけ木屑を中に残さないようにする。とは言え、やはり削っていると木屑が周りを漂うのは致し方の無いところ。出来るだけ滑らかに角を仕上げて、テーパーを付けてやる。ある程度満足の行く具合に仕上がったので作業はこのくらいにして、再びユニットを装着。本当はまた内部配線も替えたかったところだが、今回それは止めにする。テーパーの効果だけを聴きたい。

 かくして、定番試聴ソフト「ルパンジャズ」が朗々と響き渡ることになった。爽やかだ。まさにこれまで邪魔をしていたものが取れたような、そういう鳴り方なのだ。屈託の無い、透明感も厚みも両立した音。これはやった価値のある作業だったと言える。え、あなたまだテーパー付けてない?そりゃいかんなあ。ぜひやらなくちゃ。88ESユーザーの必須科目ですぞ。



 73.デジタルケーブル3番?勝負!(02.4.7)

 「オーディオベーシック」最新号(3月)のケーブルクロスレビューは、デジタルケーブルを扱っていた。正直うらやましかった。いや、接続が一番簡単そうではないの。スピーカーケーブルは大変だったんだから。

 まあそれはともかく、あれからデジタルケーブルを市販のものに替えていたのだ。オルトフォンの「6N-SDL-007」という、同社ではもっとも安いものを使ってみたのだ。オルトフォンらしい美音系の艶やかな音が、しっかりとハメを外さないカナレとはまた一風違った味わいがあったので、これはいいやとばかりにしばらく使っていた。

 今回「ハイファイ堂」をまたしてもうろついていたら、「半額」というケーブルのロールが山のようにあって私を狂喜させた。「しあわせー」とばかりにケーブルの渦の中にダイヴ…まではしないけれども、とにかく掘り出し品をあさりまくったのだった。何でも、「新古品」つまりアウトレットということだろう。確かにスペース&タイムの6N時代のものや、今ではすっかりラインナップの変わったオーディオクエストの以前のものといったいわゆる「型落ち」が多くを占めていた。中にはカー用もあり、そいつは「ケーブルというより縄じゃん」というよく分からないものだった。

 その中で選んだのはオルトフォン「7N-BS1」アンテナケーブルである。???という感じかもしれないが、そう、こいつは同軸ケーブルだ。つまり、デジタルケーブルだって作ることが可能なのだ。またしても自作の虫が疼いたわけである。

 とりあえず2mばかり購入したケーブルのうち、3分の1ほどをデジタルケーブルに使おう。プラグは同時にスイッチクラフト製を買っておいた。しかし、大変なことになってしまった。ああ、どうしたらいいのだろう。ケーブル自体が太くて、ケースに納まらなかったのである。確かにこのスイッチクラフト、よく見ると程々の太さのケーブルしか入らない構造だ。これはいかん。さすがに余分のプラグはないぞ。

 仕方がない。交換するしかない。この前レコードプレーヤーのプラグを交換したときに使ったオーディオテクニカのやつ。これはハンダ付けが不要だから外すのも簡単だ。しかもこのトーンアームのケーブルならば細いからスイッチクラフトでも余裕があるし。

 そんなわけで、面倒だけども付け替え作業が始まった。まずはトーンアームの方を交換。スイッチクラフトをハンダ付けする。このプラグ、緩くもきつくもなく、かちっと心地よい装着感がある。さすがこの分野では信頼のブランドだ。最近ではベルデンのプラグにも使われていた。

 さあ、あらためてテクニカの方を…って、こっちも惜しいけど入らないじゃん!いかんなあ。まさしくギリギリなのだ。仕方ない。被膜を削ることにした。鉛筆を削るように被膜を薄く削っていく。やれやれ、余計な作業が増えてしまったなあ。なかなか前に進みやしない。

 ようやくプラグを装着する作業に入った。ちなみにこのケーブル、芯線は7N導体が使用されていることは型番からも窺えるのだが、単線なのだ。やはりアンテナ線らしいし、他のオルトフォンは全て撚り線なので、ちょっと違った音が聴けるかもしれない。楽しみだ。

 さあてやっと完成。ケーブル一本作るのに随分時間を費やしてしまった。削った被膜部分もブチルゴムを巻いて補強する。熱収斂チューブでも持っていればよかった。でもアレって結構値段高いしな。いつもの試聴盤「ルパン」を用意。まず現在の音を聴いて後、ケーブルの交換。

 さて音はどうか。やはり単線らしく、ベースが締まってきた。カチッとしているが、それでいて7Nらしく色・艶がしっかり出ている。ケーブルを良いものにしていくと感じることだが、今回も音場感の向上を聴くことが出来た。次に聴いたビル・チャーラップのニューヨーク・トリオ。冒頭に聞こえるベース、これが「ぽかっ」と浮いたのだ。ちょっとした驚きだ。鳴らし込んでいくと、薄めだった量感も文句のないレベルになってきた。ギターも聴こう。うーん、村治佳織のギターも艶やかだ。どちらかと言うとD-105はそっけないと言うか、色つやは乏しい(こういった音は「すーぱーらわん」が得意)のだが、立派に出るようになった。やるじゃないか。あまりたくさんのソフトを聴く時間がなかったのが残念。

 アンテナ線はデジタルケーブル用のものに比べると価格も安い。高いものだと特に被膜の素材に凝っている場合が多く、そう言ったものに比べると確かに安っぽい。しかし、これだけでもかなりの向上が見られた。FLチューブ(網組のやつ)でも被せれば、さらに音質はアップするのではないか。是非とも挑戦してみたい。



 74.大物を作るのだ・その1(02.5.3)

 作るぞ。今回は何せ大物だから期待と不安と悩みと逡巡がごちゃまぜになって、どうも情緒不安定になっていた(大げさな)。しかし、決めたのだ。

 フォステクス限定ユニット「FE168ES」をどんな箱に入れるか。かなり迷ったのだが「コラム」のコーナーでもほぼ意を決したと書いていた、ひょせん氏の「BH-1609ES」を作ることにしたのだ。スペースファクターには優れていそうだが、部品点数が多く、時間がかかるかもしれない。やるならこの4連休しかないのだ。

 材料はラワン合板を5枚。かなりの量だ。東急ハンズにカットを依頼したが、カット代金の計算に随分時間がかかったものだ。それでも板自体の料金と合わせて3万円台で済んだのは幸いとも言えよう。ケチってシナ合板ではなく、ラワンにしたためだ。最近はシナアピトンだとか、フィンランドバーチといった、密度が高くて丈夫で鳴きのない合板が流行だ。しかし、そう言った材料はそこらで即手に入るものではないし、値段もさすがだ。ネットで依頼してカットサービスまで含めたら、20万くらい行ってしまうのではなかろうか。やはり自作の王道、コストパフォーマンスで勝負だ。

 さて、連休前日に届いた板の山を見てさすがに唖然。

 「多いな…、これは。どうするんだあ。」

 まさにそんな気持ち。親達には勘当されんばかりの視線を送られるし、なかなか前途多難な予感を催させる。しかし、やはり期待の方が大きい。いい音がしそうだ。

 そして連休がスタート。さあ作業…いや、大切なことを忘れていた。接着剤が無いではないか。以前使った「タイトボンド」はごく僅か残っているが、これでは足りない。ホームセンターへと車を走らせる。目的の接着剤と一緒に端金や、サンドペーパーなども買っておく。本当はペンキも欲しかったのだが、以前よく使っていた半透明のやつが無くなっていたので、とりあえず買わずに帰ってきた。

 家に帰ってまた気が付いた。ターミナルが無いではないか。今回は良いものを使おうか、ということでトリテックのやつでもネットで注文しようと思っていたのだが、思っただけだった。まずい。このスピーカーはスワン族と同じで、ヘッド部分を先に作れば当然ターミナルを早くつけることになる。結局、ヘッド部分を後回しにしよう、ということで決まった。また夕方か翌日の朝にでも買いに行こう。トリテックはないが仕方があるまい。

 合板は4個口で送られてきた。一つ一つが重い。開封して、整理してみよう。この「BH-1609ES」は、ヘッド部分と胴体を最後にドッキングさせるので、分けておくと作業がしやすいと思ったのだ。それにしても開けてみると一層その物量の多さに驚かされる。まあ、慌てずにやっていこう。

 ターミナルに関わりの無いヘッド部分をまず作り、そして胴体部分に掛かる。ここはやはりスワンに似た構造なので、板を縦と横に井桁のように組んで作っていく。実際にやってみるとこれが難物だ。何せ最後に横板を張り合わせないといけないので、ピッタリと寸法を合わせないとずれて貼り合わせることが出来なくなってしまう。慎重に慎重に。余った板で押えてずれないようにしながら貼り合わせていく。

 しかしそれでも悲劇は起こってしまった。

 一方がいつの間にかずれてしまっており、横板を全く貼ることが出来ない状態になっていたのだ。これは泣きたくなった。やはり接着剤だけでの作業のため、いくら板で押さえつけてあったとはいえ、流れていたのだ。それがほんの1ミリ程度であっても、ずれは他のずれを生み、ガタガタになってしまうのだ。何と恐ろしいのだろう。とにかく、修復を図ってみる。

 修復、とは言っても板を引っぺがすしかない。しかし、木工用セメダインはかなりの強度でついてしまっており、力任せに引っ張っても取れるもんじゃあない。ドライバーなどでこじ開けようともしたが、曲がってしまう。結局ノコギリで接着部分をぎしぎしと切る、と言うか引く、と言うか。そうして時々引っ張ってみる。しかしまだ強情だ。こんなに丈夫ならある意味安心なのだが、この場合は物凄くうっとうしい。もう夜になっていたのであまり音も立てられない。明日を待って金づちか何かでぶっ叩いてみようか、と思ったが、とりあえずもう1度引っ張ってみよう、と足で支えてぐいと引っ張ってみると、「ばりばりばりぃぃぃぃ」と音を立てて板は剥がれた。合板なので、本当に層が剥がれてしまっている部分と、逆に板に木口が残ってしまっている部分と、やけに派手なことになってしまった。あーあ、これじゃどうなることやら。やたらと不安のパーセンテージを多くしながらも、翌日に全てを託すことにしよう。



 75.大物を作るのだ・その2(02.5.4)

 朝を迎えたものの、今一つノリが悪い

 当然、前日の不安のせいだ。果たして形になるのだろうか。何か途轍も無く重たいものがのし掛かっているのだ。決して鉛インゴットとかではない。プレッシャーだ。

 「これで取り返しのつかない失敗になったらどうする」

 これまで幾多の危機を乗り切ってきたが、今回のは何せユニットの価格も、板の価格もかなりのものだ。適当なごまかしが効く相手かどうか。参ったなあ…どうするか。とは言え、元来それ程プレッシャーを気にする性格ではないため、気分転換も兼ねてターミナルを買いに大須へ。雨の中パーツ屋で買ったターミナルは本来はスピーカー用ではないだろう。足が短く、ベニヤ板では厚すぎるからだ。実は前日ホームセンターへ行ったときに端子板になるような板切れを買っておいた。これを使ってスピーカー用ターミナルにするのだ。その板に穴を開けたり、といった作業は必要だが。

 さて、そんなわけで昼過ぎから作業はスタートした。

 前日剥がしたところを気を付けながら再び貼り付ける。それを乾燥させる時間を利用してターミナルの製作。この板切れ、とは言っても縁には飾り仕上のしてあるなかなか洒落たものに穴を開け、端子を差し込んでナットを回すとちょうど良い長さが残った。この板より少しでも厚いとアウトだったので、今回は運が良かったと言える。内部配線用ケーブルも結線しておこう。今回は半端ものを安く買った、スペース&タイムの「エントラ」を使う。端子はネジ留めで、ハンダ付けの必要がないのは時間が短縮できて有り難い。

 次はヘッド部分だ。これは順調に進んだ。やはり小さいし、ただ順番に箱を作っていくだけなので楽なのだ。少々浮いている部分も端金を使えば大丈夫。今回の製作で初めて端金を使ったが、やはり便利だ。特に釘うちを最小限に、と思っているので大変有り難い。

 ヘッドを完成させ、先ほど作った端子をブチルゴムで貼り付け、これでヘッド部分はとりあえず完成。さあ、また胴体部分に戻ろう。

 しかし、組み上げていくとどうしてもずれてくる。一体みんなはどうやっているのだろう。カンナを買っておけばよかった。それでもとにかくずれを影響のなるべく少ない部分に逃し、何とかはめていったが、底板を付けていて愕然とした。

 「全然平らにならないじゃないの」

 参った。このままでは愛称が「ピサの斜塔」になってしまわんばかりの勢いだ。いや、下手をするとユニットの重みで倒れてしまうかもしれない。とにかく、横板を端金を使って仮留めし、足りない(2本しかない!)ので以前何かで利用した結束バンドを持ちだして締めつけた。ふう。大して暑くもないのに汗をかかせやがって。しかし、これでどうなるのかよく分からなくなってきた。冗談抜きで、「明日はどっちだ?」という心境で朝日を待とうか。



 76.大物を作るのだ・その3(02.5.5)

 妙に早く目が覚めてしまった。前日の雨と打って変わって、いかにも行楽日和!と言った感じの快晴であった。カーテンを開けっ放しだったので、その明るい日差しが目を覚まさせたのだろう。まあ、作業は早くから始めるに越したことはない。

 ヘッド部分にペーパーをかけ、特にフロント部分はラウンドバッフルにした。処理部分は少ないので、楽にできた。ヘッドの作業は気が楽である。そして問題の、昨日結束バンドで締め上げた胴体部だ。端金を外し、バンドを解く。…ずれているじゃあないか。息が詰りそうなほどの嘆息が思わず漏れる。いびつだ「ひょっとしたら連休中に間に合わないのでは?」という危惧が体を駆け抜ける。予定では今日完成して最終日はどっぷり試聴に浸る、という筈だったのに、おかしいなあ。甘かったなあ。

 また、めりめりめりと引っぺがす。もう何のためらいもなくなった。やり方を変えよう。CW型のように、横板の片方の上に、内部ホーンを配置して組んでいく方法だ。鉛筆で接着部分を書き込み、そしてそこに接着剤を塗って部品を載せていく。この方法でも当然ずれは出てくるが、修正がしやすい。

 ここで10時になったのでホームセンターへ向う。先日とは別のところだ。割と近くに2軒もあるのは有り難いことだ。ここには半透明ペンキがあった。今回はオーソドックスに「チーク」色にする。この形で色まで個性的だとどんなものになるやら想像がつかなかったからだ。そこでまた端金を2本追加、カンナもおそらく学校工作用の安いやつを買った。学校用といえば、懐かしの彫刻刀も買った。これはFE168ESのマグネットがでかいため、端子部分だけユニット穴に座繰りを入れる必要があるからだ。まあ、88ESもそうだったが。

 ヘッドを塗装する。やはりチークを塗るとなかなか高級感が出てくるが、普通な感じでもある。今までの色が普通じゃなかったから当たり前だが。茶系では薄くも濃くもなく、ちょうどいい色だろう。

 カンナを買ってきたので、はみ出そうな部分を削る。最初うまくいかなかったが、一旦うまく行くと、どんどん削れていく。これは楽しい。楽しくて削り過ぎには気を付けよう。暑くて堪らないから、適度で済んだものの。結果としては、削りすぎはしないが、水平を出すのが難しく、別のずれが出来てしまった。もういいよ、別に。ちゃんと立つことさえ出来たら。こうなったら「何を優先するか」が重要になってくる。ずれはなるだけ後ろに追いやったが、前方にもどうしても歪みは出てしまう。仕方がない。これを人に見せたらまた何とか言われるだろうなあ。今回は綺麗に作るつもりは「多少は」あったんだけど。また質実剛健がモットーになってしまったか。しかし、そうこうしているうちにかなりの部分が組み上がってきた。

 端金は4本になったが、まだ片方に全部使ってしまうので1度に両方できないのが痛い。その間にヘッドにユニットを取り付けてしまおう。

 重い。ハンダ鏝が強力なマグネットに吸い寄せられそうになり、なかなかスリリングだ。普通のユニット違って、端子の+と−が随分離れている。それがまたいちいちユニットを動かさねばならず、やりづらい。ようやく出来た!と思ってさあネジ留め…と思ってよく見るとケーブルを逆に付けてしまっていた。うわあああ、また余計な時間を。がっくりしながらやり直し、…の前に、そうだ彫刻刀だ。気が付いてよかった。端子を逃がす座繰りを彫刻刀の丸刀で削る。これはなかなか具合がよろしい。

 その座繰りのお陰ですんなりユニットは収まった。ネジ穴は8個あるが、そのうちの半分を「制振合金」製ワッシャーを入れる。例の真鍮リングは無いが、これでも少しは効果があるだろう。もっとも、このヘッドは大きさがギリギリ、リングをつけたらはみ出してしまうが。ネジ穴は予め開けておいたのだが、短すぎたのか、途中でストップしてしまう。もう1度ネジ穴を大きく開け、ようやく締め終わる。ふう。この作業も意外に疲れる。

 とりあえずヘッドが完成したので、繋げて鳴らしてみる。逆さに置けばチムニーダクトの小型バスレフとなるわけだ。音はさすがに低音は余り出ていないが、ハッキリクッキリ音が出てくる。ピアノのタッチ、ベースのピチカートは生々しさが堪らない。これは期待できるな。さすがにハイ上がりの状態なので、あまり真面目に聴いていると疲れるが。

 疲れる、と言えば今日は朝早かったので何だか眠くなってきた。暗くなってきたし、しばし休憩。ごろりと寝転がるとたちまち夢の中…



 77.大物を作るのだ・その4(02.5.6)

 筋肉痛だ。うーんさすがに今回の自作は力仕事なので、手足腰あちこちが痛い。ただし起床は普通の休日時間だったので、そんなに疲れは残っていない。やっぱり睡眠は必要なんだな。

 いよいよ連休最終日。何とか今日中に作ってしまわねば、という焦りもあるが、あまり慌ててまた失敗、なんてことになっても困る。じっくりやっていこう。端金はどうせ4本、片方づつしか作業はできないのだ。それにしても随分散らかしたもんだ。398円で買ったブルーシートが役に立っているが、終わったらごみはこのまま全部包んで捨ててしまおうか、と思うくらいだ。

 これまでも空いた時間を塗装に使っていたが、まず影響のない部分からペンキを塗っていく。例えば開口部の内部とか、だ。そして横板が両方付いて、途中まで塗装が終了したものと、寝かせた状態で上から横板を載せ、端金を締め、重りに雑誌をどっさり(雑誌ならば重りとして腐るほどある)積んだ状態で、またホームセンターへ向った。

 何故そんなに何度も行くのかと言うと、どうしても買うのを忘れるものが出てきてしまうからだ。今回は実際開口部の下に敷き詰める砂利を買うつもりだったのだが、良いものが無かったので次の機会にしよう。どっちにしても今日中にそこまで出来る気がしないし。とりあえず砂利用の袋(ジッパー付きが便利、ジップロックは商品名)を買い、無くなりかかっていたブチルゴムテープを買う。

 さらに、ウロウロしていた私の目に留まったのが¥1980という値段を付けたサンダーだ。これは安い。かなり作業が楽になること請け合いだ。ちょっと迷った末買った。最初からこれがあればもっと早く済んだかもしれないが、まあ屋内でやるものでもないからそんなに頻繁に使えないかもしれない。

 帰って早速サンダーを試してみよう。2枚重ねにする横板(側板、と言ったほうが良いのかな?)4枚を庭に持ちだし、動かしてみる。音は予想通りうるさい。しかし面取りをしようと当てると、みるみる削れていく。これはいいや。素早く4枚の面取りを終わらせ、ペーパーを細かい目に替えて表面の仕上げをする。あっという間に終わった。5月とは言え、快晴で気温も高い中での作業。手でペーパーなりやすりを掛けていたら、時間も掛かるうえに汗だくになっていただろう。それが今回はサッパリしたもので、やはり文明の利器は違う、と感じさせた。慣れればもっと色々なところに使えるだろう。また、電動ドリルドライバーなどの電動工具もやはり揃えたほうが時間短縮、体力温存の為には必要かもしれない、と思わせた。

 さて、その側板の接着だが、接着剤を少し薄めて刷毛で均一に塗る。そして貼り付けて端金で締めつける。端金の本数の関係で一台ずつしか出来ないが、4本でも足りなかった。それでも浮いた部分が出てきてしまうのである。そこで、締められる部分はCクランプを使った。板を2〜3枚重なっただけの部分ならばこれで挟んでしまえば良い。そうして側板も2枚重ねて重厚感が出てきた。端金を使っている段階では塗装ができない。しばらく置いておき、その間他のスピーカーを片づけたりしながら、様子を見て端金やクランプを外してみる。また浮いてしまったら付け直し、浮かなかったらば外してその部分から塗装していく、という作業となった。完成は近く、ようやく光が見えてきた。

 胴体部分の上蓋と、足の部分を付けさえすればほぼ完成だ。まず足だ。足はブチルゴムで付ける。この方法は簡単なのか難しいのか分からないが、立てた状態になっている胴体をよいしょ、と斜めにするだけで付けられるので簡単なのではないか。それに、音質的にも何がしかの効果があるのではなかろうか、ということもある。足の次は上蓋。そして塗装。これらの作業を時間差でやっていくので思ったより早い時間で出来ていく。上蓋はサイド部分以外塗装の必要がないので、重しを載せたままペンキを塗ることが出来る。ペンキを塗りきってしまうと、つまりは胴体部完成である。

 既に完成していたヘッド部分と胴体部分を接着して本当の完成!なのだが、接着はしないことにした。接着して一つにしてしまったら、運べないほどの重量になってしまうではないか。長岡先生作「モアイ」のようなセパレート構造にすれば、移動するとき便利だ。平面同士を重ねるだけだし、ヘッド部の重さも大したものだから、接着しなくても変わらないだろう。

 と、言うわけで胴体部をリスニング位置へ運ぶ。既に「ブルー」を先ほど撤去し、「105」は何とか邪魔にならないところに動かしている。インシュレーターも三点の位置を確認して設置済みだ。ちなみにインシュレーターだが、いつものテクニカコイン+J1プロジェクトの小さな少し柔らかめのものを載せて二重構造とした。コインだけだと、音が硬過ぎになりそうだったからだ。

 胴体だけならば重いとはいえ、大したこともない。よいしょとインシュレーターの上に載せ、さらにヘッド部をパイルダー・オーン!って感じでドッキング。完全に重なった。これでやっと、やっと、やっと完成!

 さあ試聴試聴。しかし、もう時間は8時を回っており満足な音量は出すことが出来ない。これを書いている段階ではリサ・エクダールちゃんが耳元で囁くように歌っているが(と言うか、机に向かっている、という状態ではそうなる)、まあまともな試聴は来週ですな。ちょっと残念だが、とりあえず今は完成の余韻に浸るのみ…でも歌声は物凄く生々しいですぞ。



 78.どっぷり試聴(02.5.12)

 ムズムズしていたのだ、ここ数日間は。

 何故かって、早く聴きたかったのだ、「BH-1609ES」を。夜中にひそひそと鳴らしたって、何の慰めにもならない。ようやくウィークエンドがやって来た。

 前週出来たばかりに鳴らした時は、予想通りいかにもエージング前のがさついた低音不足な音だった。しかし、がさついてはいるものの、その中高域の生々しさは期待を抱かせるに十分なものだったのだ。

 そんなわけで休日にしては早起きしてしまった。さあどれから鳴らす。どれからだ。

 ところで、まだ開口部のデッドスペースに何も詰めていなかった。D-105と同様、砂利などを詰めて実際には完成なのだ。まあいいや、とりあえず。幾つか聴いてから買いに行こう。

 まず、オーディオ評論家の小林貢氏がプロデュースしている「ライト&シェイド」を聴いてみた。これはリミッターでローカットしていないとかでベースの低域が物凄く伸びているという、チェックにはうってつけのCDだ。

 おおおお、ずごごごーんと深く深くどこまでも沈み込んで行くぞベースが。こりゃ凄い。それにどうやらエージングは鳴らさなくても進行しているようで、かさつきや、低音不足はかなり解消されている。接着剤も固まったのだろう。

 気を良くして買い物へ。砂利も一袋買ったが、キャンプなどで使うような折畳みイスも¥590と安かったので買った。これまでのスピーカーは胡座をかいた姿勢でちょうどよかったのだが、今回はさすがに背が高く、座っていては見上げる格好になってしまい、どうも良くない。低めのイスが必要だったのだ。

 戻って再び試聴へ。もういろいろ。ルパンにケニーバロン、ケーブルレビューで活躍したギタースタンダード、ジョンステッチに綾戸智絵と来てポップスもと言うことでローリンヒルやらクラプトンのアンプラグド、ロックと言えばレッドツェッペリン、そしてクイーンのデジタルリマスターだぞ、おおそうだ長岡ファンにはお馴染のカウボーイジャンキーズもあるぞ、さらにはギター独奏といえばやっぱり可愛い可愛い村治佳織、ジャズに戻ってベースと言えばチャーリーヘイデンにクリスチャンマクブライドそして御大レイブラウン、古いのも行ってみるぞとビルエヴァンスにマイルス先生そしてアートペッパーだ、日が暮れてきたらやっぱりしっとりしたものも例えばブラッドメルドーやらキースジャレットなんかが良いやね、おっと忘れちゃいけないエージングといえば鬼太鼓座、驚異のコントラバスマリンバ。

 …ゼイゼイ。ああ聴いた聴いた。聴きまくってしまったぞ。やっぱり16cmのバックロード、しかも超強力ユニットから繰り出される音は違うもんだな。実際は1枚1枚試聴レポートしようかとも思ったのだが、できん。とにかく圧倒されて終わってしまった。

 ただ、特徴的なことは述べていきたい。低域はさすがに伸びており、と言うか鳴らしていくうちにさらに聞こえてくるようになったのだが、これまでぼやけてしまっていたベースの最低域がくっきりと出てくるのはうれしい。カウボーイジャンキーズに入っている超低域、足を踏みならす音がこれだけ明瞭に聴き取れたのは感動的だった。ただ少々物足りない部分が一点、とは言え徐々に改善されてはきているのだが、例えばD-105に顕著だった開放的にぶりぶりとベースが鳴りわたる、ということがない。言ってみればボツボツとして暗いのだ。まあエージングで変わってくるのかもしれない。実際にかなり開放的になってきたのだ。105は特定の帯域にピークがあったので、それが心地よさにつながっていたということもある。

 しかし、ドラムは圧倒的だ。ジャズでもドラムソロは圧巻、これは低域も然ることながら高域の輝かしさも貢献している。ツェッペリンでもジョンボーナムがばしんばしん叩きまくるのが迫力満点、自宅でこれだけツェッペリンをカッコ良く聴いたのは初めてだ。ロックには小口径よりもやっぱりこれくらい口径があった方が良い。太鼓といえば鬼太鼓座、和太鼓の連発もクッキリと鳴らしてくれた。

 無機質な音なのだろうか、という懸念は払拭された。村治佳織のギターも艶やかに鳴り渡り、マイルスのミュートトランペットはもう、そこにいる!と言わんばかりの生々しさだ。管楽器がこれほど良く鳴るとは予想外だった。古い録音でも意外に強さを見せた。

 まとめると、とにかくその弩迫力たるや圧倒的、これまでとはレベルの違いを見せつけてくれた。いわゆるハイスピードサウンドだが、決して無機質にならず、色気も十分に持ちあわせているのは大したもの。キレが凄いのにコクもある、という感じか。「シャキーンと切れ味はあるけど、薄口なのかなあ」という心配は見事に払拭された。厚みも十分あるのだ。一つ一つの音がハッキリクッキリ出ているのにさらにそれぞれが太く濃い。もう今までは何だったのか、という気さえしてくる。何せ「おお、こんな音も入っていたのか」とまるでオーディオ初心者のような科白を何度も吐いてしまったのだ。

 しかし、D-105も勝てる部分がある。やはり女性ヴォーカルは8cmの方がいい。16cmだとちょっと口が大きく感じてしまうのだ。女性の繊細な声は口径の小さいほうが良いのだろう。

 まだまだ試聴は始まったばかり。エージングもまだまだこれからだ。どんな音に成長していくのか、楽しみったらありゃしない。



 79.バカにしちゃあいけない。(02.5.20)

 と、言うのは開口部の空間である。何の開口部、って当然新作「BH-1609ES」のことである。

 前にも書いたが、開口部の階段状になった部分は砂利などを詰めて埋めるとともに、重量を付加したり鳴きを抑えたりする。これはD-105も同じことだった。砂利は買ってはいたものの、重くて車から下ろすのが面倒だとか、まだ砂が湿っていたとかいう理由でとりあえず古いシャツや靴下といったボロキレを詰めていたのだ。

 さすがにそろそろやらねば、と小さなチャック付きの袋に分けて砂利を詰めていった。本当は汚かったので洗って乾かしたかったのだが、もういいや、とばかりに汚いまま詰めてしまった。まあ気分の問題で音に悪影響はあるまい。綺麗な石ならば音も綺麗になるだろうか。汚い砂利だったらどうだろうか。関係はないだろう。ただ、袋の内側の泥汚れ、褒められたものじゃあない。それにしてもチャック付きの袋というやつは便利だ。

 思い出して、以前買っていた砂粒鉛を取り出した。これも袋に分ける。量的には少ないが、重さは全部で5キロ。1本につき2.5キロだ。これは役に立つだろう。

 そうして小袋に分けた砂利や鉛を入れる。その上にやはりバンダナを被せる。左がブルーで右がグリーン。ついでに首の部分にも撒いてみたくなる。しなかったが。

 実際大して音が変わるわけでもあるまい、と高を括っていたのだが、鳴らしてみて驚いた。

 「すいません」

 思わず謝りたくなるような。それまで聴いていた低音はぼやけていることを思い知らされた。かちっと締まってきたのだ。しかも力が加わった。素晴らしい。特に鳴きを抑える効果が高いのだろう。後ろの板は補強はあるものの1枚だ。ここを砂袋で押さえたことがかなり効いたのではあるまいか。

 いや、やってみて良かった。本当に、バカにしてはいけないのだ。

 ところで、製作時に書き忘れたことが。まあ恥ずかしいことなので付け加えるのも照れ臭いのだが、どうしても板を合わせていく時点ですき間ができてしまうことが分かった。そこでなるべく見えない後ろ側にそれを持っていくことにした。そしてどうするか。パテで埋めようかとも思ったが、意外にすき間は大きく広い範囲に出てしまった。そこで、目に留まったのは余った板切れ。特に細長い棒状のものが見つかった。しかも長さがドンピシャ。これを使わない手はないぞ。と、いうわけでその棒をすき間となった部分にピッタリと接着したのだ。後ろなので前から見たって全く分からない。逆にちょっとした補強も兼ねてしまっているかもしれない。あーよかった良かった。短い製作時間は妥協の連続である。いかにごまかすか。これが重要になってくるのだ(?)。



 80.スリップ注意(02.5.29)

 エージングは進行中なのだが、順風満帆と言うわけには行かない。何せ平日は帰りが遅いのでとても鳴らせる時間ではなくなっている。だから休日を何よりも待ち焦がれ、そうして土曜日の朝はゴージャスなイス(→小さなキャンプ用のやつ。¥590。78話参照)に深々と腰を下ろし(そんなことをしたらひっくり返るか、壊れます)、リスニングに浸りまくってエージングを進めていくわけだ。

 しかし、久しぶりに大音量で鳴らす「BH-1609ES」は何処かおかしかった。

 床が妙に響くのである。低音が出まくってきたのかな?とも思ったが、その低音も何処か間の抜けた、バックロードらしくないぼやけた音だったのだ。これがエージングの結果だったとしたら物凄く悲しい。そう思ってしばらく佇んでいたのだが、業を煮やしたのか落ち着かなくなったのか、ふと思い立ったように開口部をのぞき込もうとした。接合部に隙間でも出来て日が差し込んでいるのではないかとでも考えたのだろうか。

 すると、開口部ではないが、スピーカーの足下にインシュレーターを見つけた。テクニカのコインインシュレーターは何組も持っているので最初はただ落ちているだけかと思った。しかし、そこにはJ1プロジェクトが貼り付いているではないか。これはこのスピーカーの下に挟んであるはず。頭上に無数のクエスチョン・マークを踊らせながらそれを手に取ると、一番上がべとべとしている。そしてスピーカーを見ると、薄っぺらい黒くて丸いシートをくっつけたまま床にほぼ直接接触していた。

 つまり!このJ1プロジェクトの柔らかいスぺーサーは、素材の異なるもの(少し硬めの素材で柔らかいものを挟んでいる)をサンドイッチした構造になっており、それは接着されているのだ。その柔らかさに加え、下に貼り付けたテクニカのコインだ。これは床に金属部が触れているわけだ。だから滑る。重量の掛け方が真上からではないということなのだろうか、柔らかい部分がずれてきて、「むにゅ」という感じで押しだされるようにインシュレーターがずれ落ちてしまったのだろう。

 しばし感心してしまった。「よくまあ、こんな綺麗に取れるものだ」と。何せこの重いスピーカー、インシュレーターを取り外すのは一苦労なのだ。それなのに自然に取れている。確かによくよく見るとスピーカーは心持ち斜めに立っていた。何か物理の勉強でもしたような気分だったがそんなことは言っておられない。対策だ。

 実際にはインシュレーターを替えようかとも思ったが、代用品もないので、応急措置だ。前に買っておいた薄いゴムシートをインシュレーターより少し大きめに切る。それをインシュレーターと床の間に敷く。つまり滑り止めだ。重いからなかなか面倒な作業だったが、なんとかうまく行った。それにしても、後ろに敷いたインシュレーターもかなりずれていて驚いたものだ。

 そして再び音を出す。床の響きはまあ当然ゼロにはならないが落ち着きを取り戻した感じだ。また引き締まってかちっとした低音が出てきた。ゴムシートは0.3ミリと薄いので直接的な影響はないと言って良かろう。ああ、良かった。それにしても、やはり足下は重要だ。今回は応急措置的なものなので、しっかりした足場を築く必要性に駆られる事件だった。



 81.足下は本当に本当に重要(02.6.10)

 前回薄いゴムをインシュレーターに敷くことでスリップ防止としたのだが、結局またずれてしまった。

 今回の場合はある仕方がなかったのかもしれない。と言うのは、一階の床を修理することになり、それで一日中かなりの振動があったということだったのだ。その結果は見事に現れていた。両方のスピーカーがそっぽを向いた状態にまでなっており、その振動の恐さを見せつけていた。振動自体は大したものではないのかもしれないが、やはり一日中続けば段々ずれていったのだろう。薄ゴムでの対策は本当に応急措置でしかなくなってしまった。ワールドカップ中ではあるが、足場を作っておく必要がありそうだ。

 J1プロジェクトのインシュレーター「P25CT」を諦めるしかない。こう何度もずれて中身が飛びだしてしまっては使い物にならない。代わりに同じJ1の「A36R」を使う。これは定番とも言えるブルーのやつだ。これをテクニカコインと足場の間に敷く。

 足場をどうするか。ホームセンターでMDFの板と、40cm×40cmのカーペットを買ってきた。これで足場を築くのだ。カーペットは防音・防振効果があるのでこれを一番下にしようと思ったのだ。さらには滑り止め用ネットも手に入れておく。板は40cm×38cmにカットする。

 そのつもりで片側だけまず構築してみる。ネットを敷き、その上にカーペット、そしてMDF、J1、テクニカコインの順番だ。砂を詰めて一層重たくなったスピーカーをまた腰を痛めないように持ち上げ、ドシンと設置。これでどうだ。頭をちょっと突いてみる。…ガーン。グラグラではないか。やはりカーペットが良くないようだ。パイル部分は仕方がないとして、その下がもう少し硬い素材の方が良いのだろう。硬質スポンジっぽい素材は確かに柔らかく、物足りない。

 そこでカーペットを外し、ネットの上に板だけで構成する。今度は安定した。カーペットも勿体無いので開口部直下に敷く。これで吸音効果もあろう。実際このカーペットに乗ってみると足音が階下に響きにくそうで、これはこれでそれなりに良さそうだ。

 音を出してみても床からのズドンとした響きは軽減され、さらに引き締まってきた。結果は成功だろう。しかし、ちょっときつい音になっているのが気になった。前回との違いは直接スピーカーと接触しているのがテクニカコインということ。その音がもろに出てしまっているのだろう。前回はやはり柔らかめの素材が効いていたわけだ。うーむ、やはり使いづらいとはいえ、あのバランスを取り戻したい。それに、MDFの厚さがわずか1.5cmというのもいかにも頼りない。あまり背が高くなるのを恐れて慎重にしたからでもあるが、どうやら余裕はある。まだまだ未完成、これからである。



 82.グレードアップの余地(02.7.16)

 「重箱の隅」という言葉があるが、グレードアップを求めて色々突いてしまうのはオーディオファンの業の深さというべきか。

 さて今回のグレードアップ、「コラム」にもちょっと書いたようにコンセントだ。FIMのモデル880という、最近結構雑誌などで話題のやつだが、遂にこいつを搭載するときが来た。音の方はどうだろうか。

 とは言っても既にコンセントは明工社のものに取り換えてはいる。つまり2度目のグレードアップというわけで、初回程の違いはないかな、という予想で試聴に臨んだ。また、このコンセントは雑誌の評価では「中域、高域は抜群」というもので、低域は締まったタイプのようだ。現在のスピーカーがかなり低域が締まっているので、これは相乗効果で一層締まりがきつくなるだろうか。あまり締まって低域が薄くなってしまってもまずいのだが…という不安もあった。とりあえず買ったものの、選択を誤ったか、などと。

 まあ、やってみなけりゃ分からない。装着したコンセントに再びプラグを差し込む。おお、さすがに食いつきがきついぞ。これならば、と良い音を予感させてくれる。

 いつものように「ルパン」などの試聴盤を聴いていく。

 第一印象としては、低域の伸びが拡がった、ということだった。確かに量感で聞かせるタイプではないものの、明らかにレンジが拡大している。締まった、とは言ってもクッキリ感が強まったので前より良く聞こえるのだ。相乗効果は出たが、良い方向でホッとした。

 中域と高域に関しては元々スピーカーの能力が優れているのでそれ程目立たなかったが、音像がより際立ってきた。フォーカスがさらに合ってきた、とでも言おうか。グレードアップはまずまず成功といったところだろう。

 しかし、聴き込んでいくとエージングが進んできたのか、さらに音は向上した。

 やはり中域・高域が得意だったのか、ギターの音が違う。チャーリー・ヘイデン「ノクターン」でパット・メセニーが弾くアコースティック・ギター。以前は硬質な演奏だったのだが、濡れたような艶やかさが出てきたのだ。これは驚いた。弦を張り替えたようではないか。ケーブル試聴の時にも活躍した「ギター・スタンダード」もどちらかと言えば硬い音で、ずっと聴いていると少々疲れてしまうものだったのだが、これも見事に艶やか。かと言って「癒し系」っぽいふわふわの音ではなく、あくまで芯のしっかり詰った音だ。

 もう少し鳴らし込んだり、色々なソフトを聴きたかったが、時間不足だった。また来週、じっくり聴き込もう。それにしても、たかがコンセントなのに、ねえ。大したもんだ。



 83.別の足下にも。(02.7.22)

 私はいつものように大須を徘徊していた。さらにいつものように「ハイファイ堂」でネタを物色していたのだが、ふっとそれを見つけたのだ。オーディオリプラスの石英インシュレーター

 最近このシリーズはリニューアルされたので、中古として売られていたそいつは前のものになるが、評価としては「解像度、透明度が格段にアップ、引き締まった低域と切れ込む高域」というものだったように思う。反面「やや硬質な音になり、低域は量感不足か」という評価も見受けられた。何かこの石英という素材の見た目のままを表したコメントのような気がしてならないが、まあそういうものかもしれない。見た目も重要なのだ。

 とにかく、前から気にはなっていた素材ではあった。ただ、価格の問題もあってそう簡単に導入できるものではなかったのだ。2組あればスピーカーの下にも試したいところだが、売られていたのは一組だけ。どこに試すか…やはりCDレコーダー、つまりD/Aコンヴァーターの下にあてがってみよう。最も影響が出そうなところだからだ。

 それにしても小さいものだ。直径は2cm、高さは1cmしかない。現在あてがっているテクニカの「ハイブリッド・インシュレーター」のように元々の足を避けて直接設置することは不可能だった。仕方がないので元からあるゴム足の下にあてがうことにする。これでは効果が半減かな…と思いつつ、テクニカを取り外し、石英を入れる。足下にあてがう、というのは意外に難しい。一度に全部できればいいが、片方にまず設置し、そしてもう片方を…などとやろうとすると、また設置したほうがずれたり、と結構厄介なのだ。暑いこともあり、イライラしてくる。汗が床にぼたぼたぼたぼたと落ちてくる。前の音を忘れてしまうではないかっ。そうこうしながらようやく設置が終了。ラックと機器の間に積もっていたホコリのせいもあり、ちょっと咳き込んだ。

 さて試聴だ。テクニカのインシュレーターはどちらかと言うとソフト系の音だった。ゴム系と真鍮の組み合わせだが、どう考えてもゴム系が強かろう、といったような。ところで、前週にコンセントを交換して音はさらに目覚ましくなっており、インシュレーターを交換する前にもかなりレベルアップを果たしていた。これまたどうなることだろうか。

 一言で言うとヴォリュームを上げたような効果があった。ガラスの曇りを拭き取ったような、とはよく使われる表現だが、まさにこれだった。まだ曇りがあったのかあ、とも思うのだが本当だから仕方がない。別に硬くなったとか低音不足とかそういったマイナスな要素は聞こえてこない。付属のゴム足に敷いているためだろうか。直接あてがったら特性が長短合わせてハッキリと出た可能性も高い。とにかくこれは良い。コンセントの効果と相まって、一挙にレベルアップを果たしたと言っていいだろう。


 84.備えあれば…(02.8.4)

 実は前からCDプレーヤーを狙っていた。

 現在はトランスポートとして使っているエソテリックX-1は、1990年の製造だからもう12年選手なのだ。その前のCDX-10000は13年目に壊れた。やはりそろそろ…という恐怖感があった。確かに以前と違うのは、壊れてもCDレコーダーCDR1000があるのでリスニングにそれ程支障は来さない、ということだ。とは言え、なかなか最近はプレーヤーで良いものが中古で出てこない。SACDとかDVDオーディオとか新しいフォーマットのコンパチ機が今後主流になる、という情報のためにそれなりの高級機を持っている人は「待ち」状態になっているのだろう。現実はCD専用機のなかなか良いやつが新製品として次々と出ていると思うのだが…あ、それがさらに迷わせる要因になっているわけか。

 とにかくここ最近は良い出物が無かったのだ。しかし、遂に出た。

 いつものように「ハイファイ堂」のサイトをパラパラ見ていたら、ティアックの名機「VRDS-25XS」の姿が!値段もお手ごろだし、これだ!とばかりに問い合わせのボタンをクリックするのにそれ程考える時間は必要なかった。いつまでもA型ではいられないのだ。

 とは言え、手に入る自信はあまりなかった。どうせ自分以外の誰かが先に問い合わせをしているに決まっているだろう、これだけのブツ何だから…と。

 しかし、翌日驚いた。何と自分が一番だったようだ。ラッキーである。傷も殆ど無い美品のようなので、仮「OK」を出し、土曜日現地へ向かう。気の早いことにX-1を携えて、だ。

 かくして、大須で見た「VRDS-25XS」は紛う方なき美品。もう決めた。今がチャンスなのだ。今しかない。というわけで、X-1下取り&VRDS-25XS購入と相成った。さらば、X-1よ。奥行きの深いドシンとした外観と、曲線を随所にあしらったフロントパネル、ディスクの回転が覗き窓からライトアップされて見えるというデザインは大変好きだった。今の日本製オーディオにはこういう遊び心が無いのが残念だ。

 それにしても25XS、奥行きは普通なのだがX-1よりも重いのには参った。故・長岡鉄男先生がいらっしゃったときに試聴したが、こんなに重かったっけな…などと思いながら自宅の二階へ運ぶ。こいつはセッティングが少々面倒だ。足はスパイク状になっており、受け皿を下にあてがう必要があるのだ。まあ、この受け皿を色々替えてみる、という楽しみもあるわけだが。なかなか上手くフィットしない。ようやく「がたん」と収まったようだ。

 さてさて試聴。まず、単体としての音を聴く。さすがに新しいだけあって、X-1単体よりは数段良い。次にこれまでと同じ使い方、つまりトランスポートとして使用して試聴だ。X-1の場合は圧倒的にこの方が良かったわけだが…

 お、さすがに違いは少ない。これならば単体使用でも十分だ。違いと言えば、CDR1000を通したときの方が高域の華やかさが出てきて、低域もわずかではあるが伸びている、というくらいか。やはり25XSはクールさが持ち味なのだろう。好みとしては単体よりもCDR1000だ。

 しかし、これで終わりではないのだ。前述したように25XSはまだインシュレーターや、また電源ケーブル交換というグレードアップが可能なのだ。これでどうなるかはまだ分からない。またもや色々やることが増えてしまって、楽しいかぎりだ。良かった良かった。




 85.あらためて対決(02.8.10)

 何せベストセラー&ロングセラーモデルである。悪いわけはあるまい。

 VRDS-25XSはこれまでのところ、付属の電源ケーブルを使っていた。グレードアップはまずここからだろう。CDR1000(D/Aコンヴァータ)との対決もあるのだ。

 とりあえずは、あたらめてケーブルを購入することはせず、手持ちの材料で勝負しよう。スペース&タイムオムニ8N。これから行ってみよう。プラグは明工社の定番ホスピタル、インレットプラグはこれまた定番フルテックのロジウムメッキタイプだ。ささっと作って、付属ケーブルと差し替える。フルテックはこの機器には差し込みがきつい。元々そういう傾向はあるが、特にこれはそうだ。ベルデンのタップにプラグを差し込む。さあ音出しだ。まずは素の25XSから。

 ふむふむ、高域の切れ込みがさらに向上した感じだ。透明感も強くなったが、CDR1000に切り替えるとやはりパワー感が出てきて、まだまだ25XSは分が悪い感じだ。うーん、決して悪くはないのだが。

 次行ってみよう。ケーブルをベルデンに替えてみる。プラグがそう何個もあるわけもなく、また付け替えるのだ。結構面倒臭い。そもそも前の音を忘れてしまってはまずい、とばかりに急いで作業するから、引っ張るとケーブルがスルリと抜けてしまったりとイライラは募る。何で趣味をやっているのにイライラせねばならんのか。そんなこんなで出来上がったベルデンの黒いケーブルを差し込む。

 今度はバランスの取れた音が出た。スペタイ程の高域の切れ込みは無いものの、低域に量感が加わり、中域は厚みが出た。元々少々緩めの柔らかい音を出すケーブルだが、他の機器がキリリと締まっているので少し味付けをする程度で済んでいるのだろう。とにかく、付属ケーブルから全体的にバランス良く向上を果たした感じだ。

 そしてCDR1000へ。うーん、これは迷うな。付属ケーブル同様、高域の華やかさでCDR1000かな。しかし、中低域の解像度は25XSかな。音楽によって使い分けるのがいいかもしれない。ジャズのシンバルをバシャーンガシャーンと聴くならばCDR1000だ。長岡系ソフトのような解像度の高いソフトは25XSがいいかもしれない。CDR1000より大人しくなるので、きつくなりがちな高域も程よく抑えてくれる。さすが長岡鉄男先生が愛用していただけのことはある。

 しかし考えてみると、ケーブルを替えるたびに25XSだけでなく、CDR1000の音も良くなっているのだ。当然のことで、D/Aコンヴァータとしてしか使っていないのであり、トランスポートは25XSである。やはりトランスポートの性能が上がれば、音も良くなるのだ。今回25XSになったことで、全体の音も向上したのだ。もしトランスポートとしてしか使わないのならば、ちょっと勿体無いかなあ、と内心思っていたのだが、全く杞憂だった。約10年の歳月は、トランスポート性能もしっかり上げていたのだ。そう言えば、同じVRDSメカでも25XSはヴァージョンアップしてもっと「ガッチリ」密着しているようだ。ディスクを挿入したときの「ウィ〜ン、ガチャン」というメカ音。これが意外に響くのだ。人によっては「鬱陶しい」と思うだろうが自分は好きだ。何か音楽を聴く前の儀式…そう、レコードにはあるものだ…が厳かに行われているようではないか。いや、良い買い物をした。



 86.あくまで軽く、夏の工作・1(02.8.14)

 構想はもう2年以上前からあった。やはりテレビ用のスピーカーも作らねば、と。

 しかし何せ、DVDはあるものの殆ど見ないし、だいたいテレビにしたって安い21型だ。スカパーを導入するときに一緒に28型辺りを買ってしまおうかとも思ったが結局断念、買いたいものは他にもたくさんあるし、大きくなれば場所も取るのでかなり後回しということになりそうだ。

 ただ、スカパーには音楽番組が豊富だし、デジタルラジオもある。たまにこれを聴いているがなかなか良いのだ。しかしあまりにも音がしょぼい。アンプも何せローエンドだから限界があろうが、スピーカーもあまりよろしくない。かつてデスクトップ用だったが自作「BS-89t」にその座を追われ、しばらく単なるブックエンドとして余生を送るかと思われたが、テレビのシアター化(?)のため急遽抜擢、しばらくテレビの頭上に乗っかることになったタンノイ「CPA-5」。こいつは正直低音は出ないし、高域もシャリシャリ、中域はガサガサで大ざっぱ、と褒めようと思ってもそう簡単にはできない代物だ。スピーカーを自作にすれば、まだマシな音になるはずである。

 どういったものを作るか。これは迷うところだ。将来的には5.1チャンネル化を狙って、まずは小型のスタンド一体型を2本作るか。どうせスタンド一体型ならばトールボーイにしてもいいか。テレビとラックの間に挟む横長マトリックススピーカーか。

 考えた末、結局横長タイプを作ることにした。テレビの横にあまりスペースが無いという理由もある。しかし、ただ3本使用してマトリックスにしたのではつまらないし、第一「今どきマトリックスか?」という気もする。せっかく3本使うのならば、独立させよう。つまり、一見3つのユニットが付いていてマトリックススピーカーに見えるが、実は真ん中はセンタースピーカーにするのだ。後でリア用を作れば5チャンネルとなる。ウーファーは…逆に作ると高くつきそうだから市販のやつで間に合わせるかもしれないが。

 とにかく自分のナイスアイディア(笑止)に狂喜乱舞しながら、設計にかかる。基本になるのは長岡氏設計の「MX-20AV」だ。これをもっと外見を簡略化、つまりフロントバッフルをフラットにし、3本のユニットを平行に並べる。そして一見一台のスピーカーだが、内部は完全に3分割する。よってバスレフダクトも3つ必要だ。当然寸法はテレビ及びテレビ台に合わせる。そうすると幅500mm、奥行き350mmと決まってくる。ユニットはやはり8cmのFE87Eで決定。「E」が付き新しくなったので試したい気持ちもあるのだ。すると高さは自然に130mmに決まってくる。できればもう少し低くしたいところで、板厚を12mmに落とそうか、とかフロントバッフル板の高さを100mmから90mmくらいにしようかとも思ったが、少々不安なので止めた。ダクトは簡単にスリットダクトを採用、これは補強にもなるはずだ。ダクト長は950mm、開口部は20mm×100mmだが、試しに計算するとポートの共振周波数(f0b)は90Hzくらいだったのでこれでちょうど良かろう、とそのまま決定した。

 その設計図を握りしめ、いやそんなことをしたら読めなくなるのでバッグに収めて東急ハンズへ向う。やはり時期的に混んでいるようで、それ程個所の多いカットでもないにも関わらず翌日の夕方、という納期であった。板はMDFかラワン合板か迷ったが、塗装はこの前メインに使ったものの残りで済ますつもりでいたためラワンにした。サブロクの半裁で(900ミリ四方)十分間に合うものだ。

 ユニットもハンズで調達した。FE87E3本あったので助かった。ここで足りなかったらどう考えても夏休みには終わらない、と言うか始まらない。ターミナルも3組買う。

 裁断が終わった板を持ち帰ってすぐ、作業を始める。まあ今回は簡単なのですぐ終わるだろう。下部の板にフロントバッフルを始めとする板を垂直に接着していく。一つのエンクロージャーを三分割するわけだが、約15cmずつに分けることが出来る。だいたい1チャンネル分の容積が4.5リットルくらいになるのだ。吸音材もエステルウールを少なめに、特に左右のユニットが端ギリギリに取り付けられるのでその近くに貼る。さらに端材を補強として左右の箱に少し斜めにして取り付ける。まあ、おまじない的な要素が強いが、定在波を低減する効果も多少はあるだろう。

 次に内部配線だ。適当なものが残っていたはず、と思っていたのだが意外に細いやつが無く、ちょっと勿体無いかなとも思ったが、オーディオクラフト「QLX」を使った。うーむ、メインスピーカーの内部配線より良いではないか。まあとにかく少しでもいい音になるに越したことはない。

 さて、上蓋となる部分を貼り付けて端金で固定し、一晩寝かせておこう。あとはユニットだ。



 87.あくまで軽く、夏の工作・2(02.8.18)

 一晩暑い中で寝かせたエンクロージャー、さてさて残る作業は塗装とユニット取付だ。私はと言えば既に汗だく。暑いわ。

 メインに使ったチークを塗ることは前にも書いたが、本当はちょっと凝った塗装をしようかとも思ったのだ。ところが準備不足に加えて、考えていた材料が無かったこともあって断念することに。まあ、やっぱり短気な私はさっさと作ってしまえ、ということか。とは言ってもこのチークの色はなかなか良く、ちょっとした天然木っぽさを醸し出してくれて気持ちが良い。そして次はハンダ付けだが、朝からのは一向に退く気配を見せない。ユニットを濡らしてはまずかろう。

 そんなわけで汗を落とさないようタオルを頭にしっかり巻き、ハンダ鏝を握ってユニットの取り付けにかかる。配線材として使用した「QLX」は4芯構造となっており、2本を1本として使うのだが、2本両方はFE87Eの端子には窮屈だった。そこで、1本だけ通し、通したほうともう1本をしっかり撚り合わせてネジってハンダ付けをするということにした。だからハンダが妙に団子状になってしまったのを誰が責められようか。やっぱり下手なだけか。まあとにもかくにも3本のユニットはしっかりと箱に納まった。あっけなく完成!である。

 早速試聴だ試聴だ。やはりメインシステムで聴いてみたい。「すーぱーらわん」用スタンドを接近させて設置し、その上に新作を乗せる。低いので寝転がって聴いても良さそうだ。真ん中のユニットはとりあえず無視して、普通に2チャンネル試聴とした。

 いつもの試聴ソフトを次々とトレイに乗せていく。正直驚いた。いいじゃないこれ。とにかく素直に音が出てくる。低音だってあまり低いほうは苦しそうだが、肝心なところはちゃんと出ている。自分の好きなウッドベースも歯切れよく鳴っている。中高域も本当に「素直に」「普通に」という言葉が相応しく、その個性のなさが逆に好感の持てる音になっている。これはユニットの特徴だろう。FE168ESの物凄い音を聴いてしまったからもう後戻りは出来ない体にはなっているものの、このユニットは十分メインを張ることの出来る音だと思う。先代モデルも女性ヴォーカルで何とも言えない魅力を放つものだったが、新モデルもその特徴は継承していると見た。

 完成したスピーカーの素性に気を良くし、いよいよ本当の使い方に移る。テレビと台の間に設置だ。ところでテレビ台はおよそオーディオには相応しくない、スチール棚だ。カンカンに鳴くわけだ。アンプの下には防振ゴムなど敷いて対策は「一応」しているが、テレビには何もしていなかった。テレビを載せたまま棚を叩くとやはりカンカンと鳴く。そこで東急ハンズで買っていた「おとなシート」の出番だ。こいつは貼るだけで鳴きがすっと治まる、という流し台(シンク)の裏に貼るのが主な目的らしい優れ物だ。早速試してみて叩いてみるとアレ不思議。コツンコツン、という重たい音に早変わり。おそらく鉛テープでも同様の効果が得られるとは思うが、安いので試す価値はある。

 さらにスピーカーと台の間のインシュレーターだ。こいつはあまり高さのあるものを使いたくはない。それに金属系はこの場合恐いものがある。そこで、普段は使わないが防振効果に優れたソルボセインのシートを切って4つのインシュレーターを作る。そのままだとベタ付くので薄いゴムシートで挟むことにした。

 さてテレビを一旦よっこらしょと降し、ホコリを拭き取り、インシュレーターを4隅に配置し、その上にスピーカーを設置し、そして再びテレビをうおりゃあとばかり、ドスンと載せる。最後は本当にドスン、となってしまって少々ヒヤッとしたが、さすがスピーカーは丈夫、これしきのことでどうにかなるものでもない。しかしテレビがもっと大きかったら一人でこんなことは不可能だ。小さくて良かった(?)のかな。(続く)


 88.あくまで軽く、夏の工作・3(02.8.25)

 もう夏休みは終わってしまっている今日この頃だけれども、もう少しお付き合い願いたい。

 さてさてスピーカーとアンプの接続なのだ。ティアックのローエンドAVアンプには日立のピンク色をしたスピーカーケーブルが繋がれている。それをそのまま使って接続するのだが、まずは普通に左右2チャンネルとして使おう。メインシステムと違って、ラックにはキャスターがついているので結線は楽なのだ。

 ソースはいつものCDは使わず、スカパーの衛星ラジオ「スターデジオ」にする。さすがにいつものCDをかけて幻滅を味わいたくない、という防衛本能が働いたのだ。あくまでこのシステムで聴くソースをかければいいのである。

 チャンネルはジャズ系にして、色々聴いてみる。ちょうど「レイ・ブラウン・トリオ」がかかっていたのでこれを中心に聴いた。

 惜しくも最近亡くなったレイ・ブラウンの力感溢れる分厚いベース・サウンド。メインシステムで聴くベースとは一味違ってかなり重たさを強調したような鳴り方をする。それに対して中高域は抜けの良い、陽性のサウンドといった趣だ。スネアドラムの弾け具合やピアノが転がる様子はこのAVアンプからは絶対得られないと思っていたものだ。やはり低域から中低域が少々難しいのだろうか。アンプの限界もあるだろう。図体はでかいが安いAVアンプなのだ。まあミニコンポのアンプ、というクオリティだろう。あとはやはりセッティングか。いくら防振したとは言え、鉄板のラックなのだ。さらにはインシュレーターとして使ったソルボセイン。この少し粘り気のある柔らかい素材の音も付いているような気がする。まあ、一度はアキュフェーズのアンプで鳴らしたので素性はよく分かっているので、おいおい改善していけばいいことだ。それもまた良し。

 問題点も挙げたが、とにかくこれまでよりも大幅な向上を果たしたことも確かだ。低域にしても我慢が出来ないと言うほどのものではなく、よく頑張っていると言える。この重い「ズンズン」来る低音もなかなか良いものだ。チャンネルを変えてポップスやロックにしてみたが、何の問題もない音だった。さらにはMTVなどの映像音楽番組ならば映像があってそちらに目が行くためもあるのか、大変いい音に感じる。

 さて、次行ってみよう。マトリックス結線である。そのためにバナナプラグ3個とケーブルを使って、簡単なアタッチメントを作っておいた。こいつを使えばちょっと繋ぎ替えるだけでマトリックス結線の出来上がりだ。センター部の端子はちょっと真ん中からずれた位置にある。真ん中はダクトにしてしまったからだ。まあ後ろだから別に構わないし、さらには右チャンネルの端子に近づけることで、マトリックス結線をやりやすくなっているという思わぬ効果もあったのだ。

 マトリックス・スピーカーとはどんなものだろう?音を出してみる。

 まさに「なーるほど」というものだった。確かにこれだけ隣接されて付けられたユニットなのに、随分音が広がってくる。純ジャズのようなものとはそれほど相性は良くないが、ポップスやフュージョンといったジャンルはいい。エンヤのようなソースならば尚のことだろう。独特の音場がそこに展開された。両端のスピーカーから出る音は外側へ外側へと向って拡散していくようなのだ。面白い。しばらくその回るような音の中にいた。

 ただ、普通の2チャンネル状態に比べると低音があまり出ない。あの重たい低音に慣れつつあったので少々寂しいものだ。戻してみるとまた「ズンズン」と低音が出てきた。マトリックスは低音が出にくいのだろうか。

 リアスピーカーはないから正確な実験はできないが、5チャンネル以上のソフトも試してみよう。村治佳織のDVDをかけてみた。これはドルビーデジタル5.0チャンネルということだが、とりあえずは前方3チャンネルで聴くしかない。

 例えリアが無くても音の広がりは味わうことが出来る。きっとリアからは残響成分が出ているのだろう、直接音ぽく硬いギターだが通常のステレオよりも映像との一体感が生まれていた。やはりリアが早く欲しくなってくるところだ。

 また、音元出版のサイト「ファイル・ウェブ」の懸賞で当った「dtsサンプラー」がある。これは「ジュラシック・パーク3」といった効果音バリバリの映像がサンプルとして収録されており、実際これをかけてみると凄い。「ずどどどーん」という「いかにも映画」な効果音がサブウーファーも無い状態で見事に再生された。これは先ほどから言及してきた「重たい低音」が功を奏していると言え、やはりこのアンプは「AVアンプ」なのだ、ということだろう。さらにはこのサンプラーにはクイーンの曲がdtsでリマスターされたものが入っている。これも凄い迫力である。とても20年以上前の曲とは思えない生々しさがあった。

 このようにこのスピーカーのお陰で色々楽しむことが出来た。リアスピーカーも出来るだけ早く作りたいが、このままでも十分音の良さを堪能できる。これから少しずつステップアップしていけばいいのだ。



 89・無いと困るもの(02.9.16)

 夏の間はレコードを聴かない。

 いや、これには深いわけがあるのだ。暑いからである。笑わないで欲しい。シャレにならないのだ。夏の間はザブザブと滝のようにを滴らせて床を汚しまくっているのだが、当然レコードなど出し入れしたり、埃を拭いたりしていたら大切なレコードの上に汗がポトリ、さらにまたボトボトと降り注ぐことになるのである。レコードばかりではなく、プレーヤーにも汗が落ちるので大変危ない。針圧調整なども汗の原因となるので要注意だ。決してこれは冗談や大げさに書いているのでも何でもない。私を知っている人間ならばたちどころに納得するであろう。

 そんなわけで秋が来た。とは言えまだまだ残暑はいつもよりは厳しいが、それでももうレコードを聴くくらいは涼しくなってきた。しかしそこで大変なことを思い出した。

 ターンテーブルシートである。

 現在はパイオニアの定番だった「JP-501」を使っていたのだが、中古で手に入れたそれはあまりにもへたっていた。ブチルゴムで出来ているのだが、もはや溶けてベタベタになっている部分も出ている。これでは使い物にならないのだが、一旦専用シートの良さを知ってしまうともうプレーヤーに付属のものでは我慢の出来ない体になってしまっているのだ。困ったものである。

 パイオニアも最近までは「JP-701」という型番で継続していたのだが、もう生産中止となってしまった。このアナログブームの中、大変もったいない話だと思うのだが、オーディオというよりAV、ホームシアター部門に力を注いでいるこの会社が、アナログに対して予算を割くことがもはや無いことも十分に頷ける話だ。非現実的な値段の高級アクセサリーなどに手を出す気は毛頭無いので、手頃な価格でどこか出してくれないものだろうか?

 …などと思っていたら出ました。「THT-291」と言って、東京防音からである。そう、防振ゴムや鉛テープなど制振グッズの元祖とも言えるこのメーカーから出たのだ。素材はブチルではなくてハネナイト、というそのベタな名の通り全く弾まないことがウリの特殊なゴムなのだ。インシュレーターなどにすでに使われていたりもして、同社だけでなくオーディオテクニカも積極的に利用している。価格は¥6,500(希望小売価格)とこれ以上高いと二の足を踏む、という絶妙な設定だ。まあ実売はこれより少し安くはなるが。

 取り寄せてもらうことにして、しばらく時間が掛かるかもしれない、との事だったが意外に早く電話が来て、手に入ることになった。これはうれしい。

 「レコードプレーヤーが高性能になって蘇る」とか、いろいろと売り文句が書かれているパッケージを開くと、ブチルに比べるとちょっと堅いゴムシートが姿を現した。手触りは純正ゴムシートにより近い感じもする。しかし、新品はやはり良い。パイオニアのゴムシートはもう限界だった。ベタベタになって本当に溶けている部分もあり、そこからは異臭までした。それと比べてしまうとピカピカ、ではなくて逆につや消しの渋いチャコールグレーをしたそのシートをプレーヤーに載せ替える。

 それまで聴いていた、パット・メセニーのレコードをもう一度聴いてみる。

 おお、低音域がぐっと座って安定した。ズンズンと力強い。シンバルがちょっとうるさいくらいだった中高域も落ち着きが出て、聴きやすくなった。やはり制振効果が大きいのだろう。全体的には厚みが増し、浮ついた部分が無くなった。そう言えばこのシート、ずいぶん分厚いものだ。素材にしても音にしても、さすが現代の製品という感じだ。古いアナログの世界でも新しいものを取り入れてどんどんリフレッシュしていく、これが理想だろう。手放せないグッズになりそうだ。