13.Do It Yourself! -5



 90.聖剣の実力(02.10.6)

 ふとした出会いこれが中古オーディオ買いの醍醐味とも言える。

 あまり大きな買い物では身が持たないが、ケーブルくらいならば幸せな気分になれるというものだ。

 今回購入したのはデジタルケーブル。キャメロットテクノロジーの、その名も「エクスカリバー」だ。ここのメーカーは本当にアーサー王伝説が好きなのだろう。こういうネーミングは大好きである。定価は2万円程だが、デジタルケーブルとしては少々前のものになる。端子の片方はトランスらしきものが付いていて、何か自転車のチェーンロックのような佇まいだ。さらには両端にフェライトコアまで嵌まっているという対策ぶり。端子自体はオーソドックスで、これが時代を感じさせる部分か。以前このメーカーの電源ケーブルを使っていたことがあったが、同じようにメッシュのチューブでケーブルは覆われている。この仕様は何となく好きだ。太さは少し細目と言った感じで、中身はおそらく撚り線ではあろうが、それほど柔らかくはない。

 さて、現在使っているものと比較してみよう。これがいちばんワクワクするところだ。

 現用デジタルケーブルは一応自作で、オルトフォンの7N同軸アンテナケーブルを使用したもの。端子はオーディオテクニカのものだ。以前同社の市販ケーブル(6N)に差をつけて勝利(73章を参照)し、以来居座っていた。果たして今回はどうだろうか?

 折しも、10月というのに残暑が復活してしまっていた。もうケーブルの交換くらいは大した作業ではあるまい、と高をくくってはいたが、やはり大汗をかいてしまった。またしても機器に汗をこぼさないように注意しながらの作業になってしまい、何とも疲れることになった。結構下の方へ手を伸ばすのはしんどいのだ。

 気を取り直して試聴。やはり定番の「ルパン」などを。

 なるほど、音は思っていたより違う。キャメロットの方が低域に力が出てきた。ベースの「ずーん」と来るところはなかなか圧巻だ。全てのベーシストがチャーリー・ヘイデンのように暗い感じになりがちなのではあるが、弦を引っかく感じが良く出てくるようになった。トランスやフェライトコアといった対策のお陰か、ノイズっぽさが無く、静寂感もよく出している。

 それに対して、高域は大人しくなった。シンバルが少々引っ込んでしまい、ギターの艶もオルトフォンの方が良く出ていた。ただ、キャメロットの方が正統派的(?)な鳴り方かな、という気はする。うーん、しかし悩ましい。ベースもシンバルも大好きなのだ。

 そんなわけで暑いにもかかわらず、タオルを頭に巻き付けて何度もケーブルを付けたり替えたりを繰り返していたが、キャメロットをしばらく使い続けることにした。まあせっかくだし。

 ところが、そんな悩みは簡単に払拭されるようなことを偶然やってしまった。ケーブルではない。まあ、それは別の機会ということで。



 91.鉄か木か(02.10.14)

 ティアック「VRDS-25XS」は本当に手を加えるところが豊富でうれしくなる。

 電源ケーブルはまだベルデンのものをそのまま使っているが、そのうちグレードアップするつもりだ。今回は「足」である。

 そう、このプレーヤーは足がスパイクになっており、スパイクの受け皿がついている。おそらく鋳鉄か何かだと思われるその受け皿はどっしりと重いが、叩くと「ちーん」と音がする。これを替えれば音は変わりそうではないか。

 いわゆる「スパイク受け」と呼ばれるものは結構発売されている。価格もインシュレーター同様、ピンきりだ。いきなり高価なものを試したくはないし、市販品では最も安価なのではないかと思われる山本音響の「PB-10」を使ってみることにした。これは黒檀、つまり堅い木で出来ており、木という天然素材の持つ響きと、金属に近い堅さを持つ黒檀を使用することによる防振性を狙ったものだろう。

 さて、10月だというのに物凄く暑い中、スパイク受けをあてがうという作業はするものではなかった。なかなかスパイクと受けが合わなくて、収まらないのだ。吹き出るが周りを濡らす。25XSはスリットが無いからいいものの、隙間から汗が浸入したらもう大変だろう。きっと壊れる。

 ガタガタな状態から何とか収まったようだ。びくともしなくなった。これで大丈夫だろう。

 このPB-10は小型なので、25XSの大形の足とは見栄えのバランスがとれていない。少々不格好だがまあ仕方があるまい。音が良くなればそれでいいのだ。

 感じの音の方はどうか。試聴盤をいろいろ試してみよう。

 やはり「ルパン」から。ふむ、冒頭のベースは金属の時とさほど変わりはないぞ。そして続くドラムスのブラッシュに刮目した。おお、何とサクッと鳴ることか。当然シンバルもサクサクだ。いいじゃないの、いいじゃないの。何せ金属から木製になったから、逆に大人しくなってしまうかも…と思っていたのだが、結果は逆であった。デジタルケーブルをキャメロットにしたことで少し大人しくなっていたので、ちょうど良かった。前回の最後に「悩みは簡単に払拭されるような云々」と書いたが、これが答えなのでした。いや素晴らしい。いろいろやってみるものだ。



 92.ダメモトでも時には(02.10.20)

 いきなりだが手に入ってしまった。

 レコードプレーヤーである。それはオーストリアはpro-jectというメーカーの、その名も「perspective」という。これがまた、とにかく見た目がかっこいいのだ。だから「ハイファイ堂」のサイトで出品されたとき即座にクリックしてしまったのも仕方があるまい。ただ、既に「商談中」になっていたので、「まあ、ダメモトで」という大変軽いノリで手を上げた事も確かだ。事実自分で3人目ということで、その順番ではおそらく無理だろう、と半分以上諦めていた。

 ところが大逆転、私の番になってしまったのだ。これは買わねばなるまい。冷静になってみると、それなりの値段がするものだ。いや、いいのだ、買うのだ。ここで手を下ろしたら一生後悔するぞ…というわけで、透明なアクリルのボディが素敵な「perspective」は私のものとなった。ようこそ、オーストリアから。

 このプレーヤーはこれまでの日本製(デノンDP-70M ) とは全く違うものだ。見れくれだけではない。まず、ベルトドライヴということ。ターンテーブルの中心軸が直接モーターで回転するダイレクトドライヴは現在では日本製にしか見られない。もっとも、DJにはこの駆動方法しかないだろうが。さらにはフローティング構造をとっていること。メインシャーシとターンテーブル部分をサスペンションで浮かしている構造で、ハウリングを防ぐ狙いがある。そしてトーンアームはストレートアームで、シェルごと交換が出来ないことだ。カートリッジを頻繁に付け替える人には少々面倒だろう。

 さてさて、色気も何もない白い元箱に入ったperspectiveを、部屋に持ち帰る。箱を開けるとまず見つけたのが手袋。なるほど、透明なアクリルシャーシに指紋を付けないようにというものだろう。大げさだとも思いつつ、気の利いた配慮だ。さすが、音楽の都から来ただけのことはある(?)。そして、ダストカバーが登場したが、本体はきれいなのにカバーは細かい傷が多い。何か載せていたのだろうか。しかし内側も傷が多いのは謎だ。もしかしたら使わずにどこかに置きっぱなしだったのかもしれない。まあ、これはとりあえずどこかに置いておくか。

 メインシャーシを取り出して、ラックに設置する。足はスパイクになっているので、受けるものが必要だが、とりあえず今回は「VRDS-25XS」のスパイク受けを使うことにした。前回交換しているのでちょうど浮いていたのだ。これはまた別の機会に替えてみたい。設置してみると、スパイクとスパイク受けのマッチングは思ったより悪くない。サスペンションを止めてあるネジを外すと、おおなるほど、ユラユラだ。ガッチリと固定する日本製とは全く考え方が違う。そこで本体に付属する水準器を見ながら、水平を合わせる(写真参照)。結構時間をかけて調整し、ターンテーブルを載せる。あれ、すると水平が狂う。駄目じゃなーい、やり直し。まだ時間をかけてしまった。そんなに暑くもないのにがたらーりたらりと流れ落ちる。ベルトをモーターとターンテーブルに掛ける。ずいぶん単純なものなのだなあ、などと感心しながら。

 ターンテーブルを回してみる。ちなみにこのプレーヤーは電源はACアダプタ方式を採っている。確かにこの方法は本体に電源を積まないことでノイズ防止にもなるし、コンパクト化を計ることも出来よう。電源ケーブルの交換は当然不可能だが。とにかくスイッチオン。モーターが少々うなりを上げて回りだす。モーター音が少々気になるが、回転自体は静かでスムーズだ。

 次はカートリッジの取り付けだ。何せシェル一体型のトーンアームなので、少々緊張する。カートリッジは常用していたシュアーの「V15タイプ3」を付けようと思っていたのだが、これを付けるにはかなり長いビスが必要なことが分かってとりあえず断念した。代わりにデノンの定番「DL-103」を久しぶりに使ってみようか。103はプロテクターがあるので安心して取り付けることが出来る。しかし、ここで困難にぶつかった。マニュアルに記載されている付属品が無いのだ。

 カートリッジ取付用ゲージなるものが無い。ストレートアームの場合はカートリッジを斜めに取り付けるのだが、当然レコードの溝に対しては真っすぐにならねばならない。これを使って取り付ける角度を調整するものなのだが、確かにこれが無いとつらい。どのくらい斜めにするかが大変分かりづらいのだ。しかし無いものは仕方がない。レコードをターンテーブルに載せて、目分量で付ける位置を決める。後は音出しで調整していくしかあるまい。

 さあ、針圧調整だ。トーンアームにはカウンターウェイトが大きいのと小さいのと、2種類付いていた。少々重い103には大きい方を使う。ゼロバランスや針圧調整は同じスタティックバランスなので今までと変わることはない。針圧は出来るだけ重くして、標準が2.5のところを2.7くらいにする。

 このプレーヤーの良いところの一つにトーンアームケーブルの交換が容易であることだ。普通のRCA端子になっているのだ。今回はまず、付属のケーブルを使うが、当然のことながらここも交換していくつもりだ。最初から替えてはつまらないではないか。ケーブルをこれまた久しぶりに登場の昇圧トランスに繋ぎ、そこからフォノイコに接続する。

 これで完成。いやあ、やっぱり見た目は物凄く恰好良い。音はどうか。レコードはビルエヴァンス「ワルツ・フォー・デビィ」にしよう。盤を載せ、付属のクランプをスピンドルに被せてくるくる回して締めつける。聴く前の儀式としてはなかなか洒落ているではないか。期待に震えてモーターのスイッチを押す。



 93.ビニールの秘めたる実力(02.10.27)

 アームリフターを落とす。絞っていたヴォリュームをゆっくりと上げていく。リスニングポジションまで下がる。そしてライヴハウスの喧騒から、エヴァンスのピアノ、ポール・モチアンのさくさくとしたブラッシュでこの名盤は幕を開ける。雑音感が少なく、心地の良い出だしだ。

 そしてスコット・ラファロの弾くベース…これがあまりにもビンビン出て来るので驚いた。こりゃ凄いな…しかしあまりにも低音感が強いな。これがこのプレーヤーの特徴なのだろうか…などと思っていたらよく見るとアンプの「コンペンセーター」が働いていた。これはアキュフェーズのアンプ特有の装備で、一種のラウドネスだが低域のみに働き、ヴォリュームを下げる程強く働くようになっている。つまり昨晩のリスニングで使用していて、そのままになっていたのだ。いやいや、こりゃ失敗。

 あらためて最初から聴き直す。先程のローブーストにしばらく耳が慣れてしまっていたせいで、低音が軽く感じられてしまうが、やはり全体的にクオリティの上がった音を聴かせてくれた。前のプレーヤーに比べて鮮度感は比較にならないほどである。もっとも、古いプレーヤーだったせいもあるだろう。しかしこのブラッシュの立体感はどうだ。名手ラファロのつま弾くベース。リマスターされたCDに比べれば「ずどん」とは来ないが、無理の無い再生は良い意味で聴きやすい。

 いろいろ聴いてみよう。アートペッパーのリズムセクション、トミフラのオーヴァーシーズ、マイルス先生、ケルンコンサート、ピーターソンなどなど。どれも良いぞ。サックスやトランペットは太く、ドラムはスコーンとはじける。ピアノはころころと転がる。音質がどうのこうの、ということではない。いや、当然音は良くなっている。これまでCDに比べて「軽い」と思っていたレコードの音が、分厚く、粘りが出てきたのだ。しかしそういうことよりも何か、もっと大切なことがあるのだということを思い知ったのだ。そう、「ああ、音楽を聴いているなあ」という充実感とでも言えば良いのだろうか。アナログに、レコードに嵌まっていく人が後を絶たないのがよーくわかった。この魔力なのだ。低音が云々とか言っているうちはまだまだなのだ。オーディオの奥深さを少し垣間見た気がした。

 さて、それでもオーディオ的なこともしてみたい。カートリッジだ。ホームセンターで長めのビスを買ってきて、タイプ3を使ってみようではないか。

 …しかし今度は長すぎた、ビス。思いっきりみっともない感じで取り付けることになってしまった(写真参照)。帯に短し、というやつだがまあ仕方がない。せっかくのプレーヤーのルックスが少々崩れてしまうような気もするが、どうしてもタイプ3の音も聴いてみたいのだ。アームに直接取り付けるので面倒だが、どちらかのカートリッジに決めてしまえばあとは楽な筈。しかし、このアームから出ているリード線はかなり細く、切ってしまうんじゃなかろうかと不安な気持ちにさせられる。

 とにかくこれで試聴だ。その前に聴いていたオスカーピーターソンの「ハロー・ハービー」をそのまま演奏する。やはりベースの鳴り方が違う。どちらかというとボワンとした感じで鳴っていた103に比べ、タイプ3はかっちり締めてくる。全体的にレンジが拡がったようで、ベースの低域もさらに下の方まで出しているし、抜けが良くなった。バランスの良さはどうしてもタイプ3に軍配が上がる。それに対して103は音の輪郭をはっきりと描き、厚い中域に特長がある。元々レンジのそれほど広くはない50年代のジャズを聴くのならば103もかなり良いと思う。ただ、いろいろな時代やジャンルの音楽を聴くことを考えればやはりタイプ3の実力に頼りたいところだ。同じジャズでも例えばECMレーベルのような抜けの良さに魅力がある音作りだと103では物足りなくなってくる。まあ、これがカートリッジの面白さなのだ。きっとまた違うカートリッジを使ってみたくなるに違いない。いや、もう何か使いたいのかもしれない。いかん、金がかかりすぎるよ、アナログは。

 ちょっと気になるのがタイプ3に替えてから発生するハム音。それほど大きくはないのだが、103の時は同じ音量では出なかったものだ。アースはとっているのだが、うーむ…また難関が登場してしまった。それもアナログの面白さの一つだったりするのだが。



 94.ハム退治はお任せ(02.11.3)

 「ぶぅ〜〜ん」

 スピーカーの左チャンネルから蚊が耳元でまとわり付いているような音がするのだ。これが噂に聞く、ハム音という奴である。前回書いた通り、タイプ3にカートリッジを交換したら発生してしまったのだ。アナログらしい現象だ。いやあ如何にもな展開、ワクワクしてきたぞ。

 とにかく発生源はどこか。それを調べねばならない。嫌な音を我慢しつつ、ヴォリュームを上げていろいろな部分を触ってみる。トーンアーム…カートリッジ…アクリルベース…ラック…フォノイコ…ケーブル…あ!

 ケーブルに手を触れるとハム音が少しではあるが治まってくる。やはりケーブルだったか。アース線を抜いたりまた付けたり、ケーブルにからめたり床に這わしたりとしてみたが、それはあまり変化がなかった。つまり、ケーブル自体が問題だったのだ。

 実は既に純正ケーブルからあるケーブルに替えていたのだが、これは確か一芯同軸構造のはず。やはりシールドがしっかり施された二芯シールド構造の方が良いのかもしれない。

 そこでピンケーブル自作の開始だ。ケーブルは以前中古扱いで5mまとめ買いしておいた古河のμ-pという、薄いグリーン色の被膜をもつ二芯シールドケーブル。ピンケーブルの完成品としても販売されているものだ。

 使用したピンプラグはパーツ屋で安く手に入れたもの。それでもガッチリしているので安心感がある。ただ内部の構造が少々小さく、ハンダ付けがしづらいことも確かだ。マイナス側の線が特にやりづらかった。また、プラグとケーブルの継ぎ目から中身が見えてしまうということもあり、ブチルゴムテープで補修および補強をした。本当は熱収斂チューブでもあれば格好もつくのだが。そんなわけで、ちょっとばかり苦労しながらケーブルを一組完成させた。もうさすがに汗は出なかった。やはり秋はオーディオが思う存分出来る(?)。

 ケーブルをプレーヤーからフォノイコにつなぎ、アース線はそれに巻き付けるようにして接続した。どうもケーブルの色がプレーヤーの優雅さとマッチしないのが気に入らないが、この際仕方がない。これでハムが治まってくれればありがたいのだが…

 かくして、何も音出しをせずにそのままヴォリュームを上げてみる。さっきまではこうするだけで盛大にハムが出てきていたが、果たして…あら

 何も音がしない。気味が悪いほどだ。ぐるりとヴォリュームノブを回してみるが、あの五月蝿い音は聞えない。あらら。ターンテーブルを回してみる。レコードを聴いてみる。別にこれということもなく、良い音が奏でられる。

 つまり…対策終わり!である。おいおいあっけないぞ、と言いたくなる位、ハムは出なくなった。これでいいのか。いや、ありがたいことだ、本当に。ハム退治は成功したのだ。もっと試行錯誤、紆余曲折、七転八倒するかと思っていたのだが。それなのにこの結果。書くことがないではないか。簡単に言えば「ケーブルを替えました、ハムはなくなりました、終わり」である。

 まあ、たまにはこんなこともある。自分的には素晴らしいことである。これを読んでいる皆さまには少々消化不良だったかもしれませんが、お許しください。ウソは書けないのだ。

 ただ、ケーブルを替えて音も良くなった事も確かだ。厚さが増したというのか、濃厚な中域が特徴的になった。これは喜ばしい。ピアノに艶が乗り、ウットリさせられるのだ。やはりケーブルは重要だったのだ、ということで締めよう。お粗末。



 95.比較は意味が無いかもしれないが(02.12.3)

 レコードプレーヤー「perspective」を購入してからというもの、レコードを買い漁る日々が続いている。楽しいことこの上ないのだが、コマがかなり揃ってきたのでCDとの聴き比べもしてみたくなった。

 CDで試聴盤に使っているものが全てアナログでも手に入れば面白いのだが、さすがにそうは行かないのが現状だ。「ルパン」などもアナログで発売されていた筈だが、まだ見つからない。かなり前には見たことがあったのだが、うーん残念。やはりこういったものは即決断しなければ負けである。

 さて、UAの「turbo」がアナログ盤で手に入ったこともあるので、これをCDと対決?させてみたい。ジャケットがCDとアナログでは違うので分かりづらいが、それがまた購入意欲をそそるのだ。CDのイラストではアナログにするとちょっと…という理由もあるかもしれないが。

 それはともかく、レコードをターンテーブルに載せる。針を下ろすとスクラッチノイズ…このアルバム一曲目はスクラッチノイズから始まるのだ。本物のノイズではない。しかしこれが結構生々しい。曲が始まり、聴き進んでいくと「ほお」と思った。CDの音は後にするつもりだが、何十度も繰り返し折に触れ試聴しているのでその音はある程度覚えている。やはり違うのだ。プレーヤーの性格から来る聴きやすさはわかるが、他は一体なんだろう…その違いをうまく表すことが出来なかったので、CDの方を聴いてみる。

 聴いた。なるほど。聞き慣れた音が出てくる。大体のことが分かってきた。レコードの方は高域に特徴があると見た。どのような楽器、あるいは合成されたサンプリング音なのかは分からないが、さくさくと曲の間中鳴っている音、これがレコードでは目の前に現れて踊っているように感じたのだ。CDだともう少し繊細な感じになり、緻密。オーディオ的にはCDの方が解像度や透明感といった要素で言えば優れているのかもしれない。それに対してレコードから出てくる音はザックリして少々粗いものの力がこもっており、聴いていて楽しいのだ。それはその「さくさく」の他にもギターの音色などにも言えることだった。

 低域に関してはずーんと沈み込むような、かなり下の方の低域まで出してくるCDに対して、あまり下まで欲張らないもののどーんと中低域に力のあるレコード、といったような特徴が出た。これはどちらもそれぞれ良さがある。オーディオ的に言えばCDだろう。何せ繊細感は抜群だ。レンジの広さも凄い。これまである程度自分で「練った」音とも言えるのだ。

 それに対してアナログは音楽を聴くことにかけては上回る部分が多かった。「音楽性が高い」というタームは少々使い古された言い回しで使うことには若干照れもあるのだが、実際そう思ったのだから仕方がない。大ざっぱかもしれないけれども躍動感がある。あまり低いところまでは出ていないけれども中低域に力を感じる。弦の音に自然の艶がある。訴えかけてくる「何か」があるのだ。海外のオーディオ製品は物作り、音作りに「主張」が込められていると言われる。実際そうなのだろう。

 さらには、我がアナログはまだまだこれから、なのだ。いろいろ練り上げていくことが出来るので本当に楽しみだ。例えばカートリッジ、例えばフォノイコライザー…うーん、ワクワクしてくる。



 96.針を巡る悪戦苦闘(02.12.15)

 またしても「買っちゃった」のだ。今度はカートリッジ。中古オーディオというのはどうしても計画的には買えないのが困りものなのだが、それが醍醐味だから仕方のないところだ。

 で、それはシュアー「V15typeV(five)MR」なのだ。「ちょっと待て、おまえは確かtype3を使っているではないか」という声も聞える。確かにその通り。だからかなり迷ったのだが、結局このランクのカートリッジというのが新品にしても中古にしても大変少ないのだ。新品だとテクニカの「AT33PTG」くらいしか無い。オルトフォンだと「コントラプンクトa」や「MC20s」だが、これは中古は出ないうえに新品だとちょっと高い。そんなわけで、あまり面白くはないかもしれないがまたしてもシュアーにしたわけだ。M44Gも持っているのでこれでシュアーは3個目だ。

 MM型というところも現段階では使いやすいということも魅力なのだ。昇圧トランスもデノンのものでどちらかと言うと「103」専用といったタイプ、そうするとMC型を購入するとそこでまた困った問題にぶち当たってしまうわけなのだ。そう言った意味でMC型に魅力を感じてはいるのだが、簡単にカートリッジ交換を楽しめるのがMM型を代表するシュアー、というわけだ。

 さて、カートリッジ交換は結構大変である。現在主流のストレートアームを搭載するperspectiveは、何度も言うようだがシェル毎交換が出来ない。アームに直接カートリッジを取り付けねばならない。一度やってはいるが、面倒なものだ。アナログを主に聴いている人の中には音楽に合わせてカートリッジを交換するケースがある。やはり音の良いユニバーサルアームが必要な気もする。だからSMEは未だに多くの人に好まれているのだろう。

 それはともかく作業に入った。typeVは直接本体がシェルと接触しない構造になっており、いつものように制振合金製チップを挟むという対策が出来ない。残念だが制振ネジなどをいつか試してみたい。取り付けには思ったより時間をかけてしまった。ネジやナットを落としたり、それが意外に見つからずに右往左往しまくったり、と冬だから良かったようなものの、10月までだったら確実に汗だくになっていたところだ。

 散々苦労した揚げ句、さあ音出しだ。レコードは作業前に聴いていた「ワルツ・フォー・デビィ」。ベースがどう出るか、ブラッシュはどうか、ピアノの響きは、などなど苦労した後の音はまた一段と格別…の筈だった。

 ところが、あまりのことに細い目を剥いてしまった。

 左チャンネルからしか音が出ていないのだった。しかもどうやらモノラルだ。どうなっているのか、ひょっとしたら壊れているのかこれは、と思いながら散々苦労して取り付けたtypeVをまた取り外し、type3に戻す。しかし出てきた音は同じ状態。血の気が引いた。いかん。おかしいのはプレーヤーの方か。しかし一体どこが…

 とにかくさらに再びtype3を外す。リード線をピンセットを使って引き抜いていく。緑色のを抜こうとしたときだ。

 「あ」

 前にも書いたかもしれないが、このリード線はとにかく細い。すぐ切れそうだから注意して作業すること、とはオーディオ雑誌にも書かれていたことだ。「はいは〜い」なんて気軽にやっていたが、本当に「やっちまった」。一瞬青くなる。

 しかし、どうやらハンダ付けされているだけのようだ。つまり、簡単に切れてしまうほど接点が弱っていたのだろう。緑色は右チャンネルだからやはりそういうことだったのだ。自分で付ければ何とかなる、とハンダ鏝を用意する。やれやれ、ずいぶん面倒なことになってきたな。慎重にリード線からさらに細い芯線をむき出しにする。これも一回ぶちっと芯線ごと切ってしまった。まあ、長さに余裕はあるから良かったが。ゆらゆらするアームから垂れ下がる細いリード線を、ピンセットで摘んだリードチップにハンダ付けすることは、大変疲れる作業だ。それでも何とか接合されてほっと一息。またまた取り付け作業を行ってさあ試聴。やっと試聴。

 「え」

 事態は全く変わっていなかった。どういうことだ。ぐったり疲れ、訳も分からずリード線を外そうとする。その時、赤いリード線が「ぷち」。

 「は」

 天は我を見放したか。


 97.針に糸を通すのだ?(02.12.22)

 (前回の続き)確かに毛細血管のようなほそーいほそーいリード線なのだ。これを切らずにカートリッジ交換などできるものか。何でこんなに苦労せねばならないのか。ゆっくりレコードを聴きながら過ごそうと思っていた休日なのに、妙な疲れが出てしまった。やれやれ。

 これもアナログの醍醐味?と無理やり自分を納得させてまたまたハンダ鏝の電源を入れる。片づけなくて良かったよ。まあどっちにしてもしばらくその場に置きっぱなしなんだけど。

 もはや投げやりな気分になりかかった自分を抑制し、とにかく赤い線をチップにハンダ付けする。しかしそうした気分の揺れが影響しているのか、なかなかうまくハンダが付かない。何とかつけたものの、もう少ししっかり接合させたかった。ちょっと浮き気味で、あまい接触になってしまった。まあ、音は出るだろう、とにかく音が聴きたいのだおれは。

 そんなこんなで祈るような気持ちで音出し。頼むから右から音よ、出てきておくれ。

 出た。まずはプチプチとしたスクラッチノイズが右チャンネルから出たときの安堵と感動と言ったら、もう。とにかく音質がどうのよりもまずは普通に音が出てくることへの感激というか感謝というか、そんな普段では考えられないような感慨にとらわれていたのだった。

 さて。冷静になろうか。ようやく両方から音が出るようになった「ワルツ・フォー・デビィ」。名手スコットラファロのベースはどうか。

 一言で言うと「強くなった」。リマスターされたCDには敵わないものの、より深く沈み込んだようになり、つま弾く音がはっきりくっきりと聞える。今までベースの音は量感はそこそこ出ていたが、力に乏しい感じがあったのだ。その力が出てきた。オーディオ的に言えば、レンジが拡がり尚且つ低域が引き締まった、ということか。

 また、ベースに出ていたくっきり感はピアノにも言え、エヴァンスの弾くピアノのタッチがより強靱に感じるようになった。あとはドラムのブラッシュ。モチアンの得意とするサクサクとしたブラッシュの実在感ときたら、もう。サクサクが少しだけザクザクになった、と言えばあまり良い印象ではないかもしれない。しかし口当たりの大変良い感触なのだ。より鮮明なのだ。なかなか良い表現を思いつかないのだが。

 例によっていろいろ聴いてみる。それを総合的にまとめると、より現代的になった、と言うことだ。基本的な音調はやはり同じシュアーのV15シリーズなのだが、いっそう解像度が高まり、レンジが拡がった。ただ、type3はかなり使用しているはずなので、同じ土俵での比較にはならないかもしれない。まあ、typeVにしても中古なのでどれくらい使用したかまでは分からないのだが。

 言い方を変えればCDっぽい音になった。ちょっときつくなったかもしれない。自分としては全然問題のないことなのだが、人によってはtype3、さらにはデノン103のまろやかさを選ぶだろう。アナログサウンドにそうしたものを求める人は多いからだ。しかしギターの肌触りやピアノの艶やかさなどはやはりCDに比べると聴きやすいことも確かだ。それに低域レンジが拡がったとはいえ、CDには敵わない。ただベースの音などにCDにはない味わいがあることも言っておきたい。

 レコードとCD。自分のオーディオはそれぞれが独立したものになった、つまりどちらが主でどちらが従と言うものではなくなったのだ。素晴らしい。



 98.次から次へと対策(03.1.3)

 まだまだ針関係はやることがたくさんあって嬉しくて堪らない

 前にも書いた通りtypeVはシェルと本体を離して装着する仕様になっており、以前のように「制振合金」を挟んで振動対策をしてみる、といったことができなかった。ここで登場するのが「制振ネジ」なのだ。直接こいつでシェルとカートリッジを締めつけるわけだ。ネジ2本に\700とは考えてみると凄い価格なのだが、これで音が良くなれば逆に安いものだ。

 普通のネジと違って光沢のないチャコールグレーのネジ。今まで使ってきたワッシャーなどと同じ材質である。これを今まで使っていた普通のネジと取り換える。やはりこういう時もシェル一体型なので少々やりづらい。しかしもうかなり慣れてきたものだ。この前何度も何度も何度も繰り返しそんな作業をしたからか?トラブルは熟達への早道である、なんて出来ればそんなことは無い方が良いな、やっぱり。

 ゲージを使っての調整や、ゼロバランスからの針圧調整など、やることはサクッと全て終わらせ、さあて試聴だ。今回はおなじみピーターソンの「プリーズ・リクエスト」、そのB面だ。レイ・ブラウンのベースがどう鳴るか。これが肝だ。

 さてどうだ。出だしのアルコ(弓弾き)の部分はそれほど変わらない。そしてピッキング。来た、来た来た。おお、沈んだ沈んだ。ある程度予想していたが、やはり低域に効いてきた。ぐーんと沈み込むような深い低音が出来するのだ。見事だ。基本的は音調はそれほど変化はなく、カートリッジの特徴はそのままだが、低域のレンジを拡げてくれるのだ。

 アナログはちょっとした事でも音が変わっていく。何度も言っていることだが今回もその言葉に間違いはなかった。新春一発目のネタは短いながらもこの辺で…



 99.贅沢な使い方(03.1.13)

 いきなりなのだがフォノイコライザーを交換できた。

 その名はヤマハの「C-2」。あれ?と思われる方も大勢いるだろう。往年のプリアンプではないか、と。実は全くもってその通りで、当時15万円というお買い得なプライスと、薄型のナイスなプロポーションで人気だったプリアンプである。

 しかし、これをあくまでフォノイコとして購入したのだ。

 いくら往年の名器とは言え、今プリならばもう少しクオリティの高いものを選ぶ。確かに現用機「E-406V」は完全にパワーアンプあるいはプリアンプとして使えるので、そういったグレードアップも出来るのだ。だが今回はそう言うわけではない。

 前からフォノイコを探していた。さすがに超小型のトーレンス「MM001」では心許なくなってきたのだ。しかし、新品でも価格などの面から適当なものが思い浮かばず、中古でもなかなか出ないので昔のプリアンプでフォノ入力の音に定評のあったもの(アキュフェーズ「C-200」やデンオン「PRA2000」など)を考えていたのだ。そんなことを「ハイファイ堂」で話していたところ、「C-2もフォノ入力には力を入れてましたよ。それと、フォノだけ使うのならば…」と裏技を教えてくれたのだ。

 それは、プリからの出力を「REC OUT」から出すということだった。そうすればトーンコントロールやヴォリュームを通らない。つまり、本当にフォノイコとして利用できるのだ。なるほど。それは面白いではないか。

 そんなわけで2ヶ月が経ったある日、サイトに「C-2」が登場したのだ。早速翌日店に。手には当然「MM001」を携えて。店頭の「C-2」はさすがに長年の風雪(?)に耐えてきただけのことはあって汚れが目立ってはいたが、傷は殆ど無かった。店長がフォノイコとしての使い方で接続して試聴、その後で「MM001」でも聴いてみた。勝負は一瞬でついていた。秒殺だ。あっという間に「C-2」は私のものに。さらば「MM001」よ。

 この「C-2」は若干トーンコントロールにガリがあるらしく、かなりお買い得になっていた。フォノイコしか必要のない私には全く問題がない。ちなみにプリアンプとしての実力は、いわゆる「ヤマハトーン」というやつで、少々細身の音になるという。この時代、とにかくフォノ入力の力が物を言ったのだろう。さあ早速持って帰ろう。簡単に梱包されたそいつを抱えようとして少し驚いた。重いのだ。こんな薄型なのに、なかなかやるな…

 帰宅して梱包を解いてその姿を眺め回し、少しその重さの理由が分かった。薄型の割にはまずまず厚めのシャーシなのだ。叩いても安物にありがちなペナペナした音は出さない。これは期待できるぞ。さあどこに置こう。とりあえずではあるが、CDプレーヤーの上に設置。重し代わりに置いていた真鍮円柱をインシュレーターにする。落ち着いたらラックの中に収めよう。わくわくしながら結線。プレーヤーからのケーブルは針はシュアーなのでMM端子に接続、そしてアンプからのケーブルは「REC OUT」に接続。これで良いはずだ。70年代当時の機械らしく、さすがに電源ケーブルは細く頼りない。当然交換も出来ない。まあこれは仕方があるまい。小さなプラグをタップに差し込む。プラグだけでも替えたほうが良いかもしれない。これだけ古いと接触が心配だ。

 これで音が出ればバッチリ。いつもだとここで音が出ずに四苦八苦する様をつらつらと述べ立てる…所なのかもしれないが、そうした期待は裏切らせていただきます。出ました、音は。あっけなくスピーカーからは朗々と新しいサウンドが鳴り響いたのであった。ちなみに前回と同じく、ピーターソンの「プリーズ・リクエスト」が試聴盤。

 その音だが、やはり以前とはかなり違って聞える。これまでグレードアップしてきたとはいえ克服できなかった音の厚みが加わってきた。つまり、中低域の量感が出てきたのだ。そして中域から中高域にかけても力強さが現れた。まあ、音量自体も上がったように感じる。だからヴォリュームを下げても細身にならないところは嬉しい。全体的にはコッテリとしてきた、と言う感じだ。また、今まで聞えなかったような音、演奏者の息遣いがはっきりと聞えてきたことも言っておきたい。

 確かに低域の低いところ、高域の高いところの伸びはまだまだかもしれない。もう少し切れ込みが欲しいとも言える。しかしこうしたぜいたくを言えるレベルにまでなってきた、ということだ。とにかく今回のグレードアップは大正解。また、いろいろ引っ張り出して聴きまくる日々になりそうだ。



 100.relax!(03.2.9)

 記念すべき(?)100発目のネタは「イス」である。

 「ハア?」なんて言わないで。確かにここに掲載しようかどうしようか迷ったネタではあるんだけど。しかしオーディオにとって重要な要素であることは間違いないのだ。

 現在のスピーカー「BH-1609ES」にをメインとしてからというもの、聴取位置がどうしてもイスが必要な高さになっていた。それで、とりあえずホームセンターでキャンプなどに使う折畳みのパイプイスを¥980くらいで買ってきて使っていたのだが、しばらく座っているとこれがつらい。余計に疲れてくるし、きっとこれは健康にも悪いに違いない。ちゃんとしたイスが要る。間違いないことであった。

 そんなわけでしばらく前から探していたのだ、適当なやつを。とは言え、一口にイスと言っても本当に様々だ。大きさも、値段も、形もだ。また安いもので済ましても失敗しそうだが、そんなに高い金額は出せない。折しも最近はイスが流行ってもいる。雑誌やムック本などでよく採り上げられているが、そういった本に出ているやつは一見安普請に見えてもかなり高額だ。その形に人間工学的なデザインが施されたりしているので、実際に座ってみると納得できるのだろうけれども。

 「何を優先するか」である。それは「快適さ」だろう。そして「適度な高さ」だ。あまり高すぎても良くないし、座イスでは意味がない。そうした要素を総合すると、「リラックスチェア」系のタイプになってくる。心地よくて、低めのイスだ。

 そんなイスを物色して一ヶ月が過ぎようとしていた。そして見つけたのが雑貨ショップ「one's」のオリジナル、その名も「リラックスチェア」。そのまんまである。ちょっと大きいかな、というサイズだったので念のため家に戻ってアバウトに計ってみた。大丈夫だろう。入らないということはない。ただ、床に転がっているモノが多いだけの話だ。ちなみに価格は¥9800。安くも高くもない、というラインだろう。「無印良品」にも殆ど同じタイプのものがあった。おそらくメーカーは同一だろう。

 さて購入も済ませて組立である。それにしても随分簡単というか単純な構造で少し不安になった。積層合板製の骨組と大きなネジと言った風情のシャフトで支えているという具合だ。そこにクッションを載せて完成。本当にこれで約体重70キロの自分が座って大丈夫なのか?まあ、壊れたときはその時だが。

 身を沈めてみる。おお、快適快適。これは楽だ。当たり前だがこれまでのパイプイスとは雲泥の差だ。そうだ、試聴だ試聴だ。オーディオのコーナーなのだから試聴をしないと。

 結果はこれまた良好、じつに良好。これまではユニットを真正面から睨み付けるように聴いていたのだが、この状態だとホーン開口部との距離が開きすぎ、低音が遅れて聞えることがあった。このイスの高さだとユニットより少し低くなり、バランスが非常に良くなったのだ。さらには低音の量感まで増えたような感じもある。まさに良いことずくめ。大変満足だ。やはり良いオーディオを聴くには良いイスは必要不可欠であることを思い知らされた。

 クッションはほぼ真っ白に近いので、とりあえず大きめのバスタオルを掛けている。そのうちこれも好みのものを選んで掛けたりする、という楽しみもある。ようやく快適なオーディオライフが始まった、という実感を得たのであった。まあ、たまに洗濯物置き場になったりもするけど(写真参照)。



 101.置け!磨け!(03.2.25)

 フォノイコとして手に入れたプリアンプ「C-2」は快調だ。しかし結局そのまま何も手を入れずにただ繋いで使っている、と言う状態。これではが廃る(?)。そこで、いろいろやってみよう、とまず今回は2つの事を実践した。

 まず、足周りだ。CDプレーヤー「VRDS-25XS」の上に載せている状態だが、このプリはゴム足が付いており、その下に東急ハンズで買った真鍮2枚を張り合わせた自家製インシュレーター(CDプレーヤーが「X-1」の時代に作ったもの)をあてがっている。つまり機器同士の間に真鍮とゴム足がある、というわけだ。本当はラック内を整理して収めたいところなのだが、それはまた次回と言う事にしよう。このゴム足を介さずに別のものをあてがってみようと言うわけだ。

 登場するのはやはりある程度高さのあるもの(ゴム足よりも背の高いもの)、ということで「黒檀ブロック」だ。これを三点支持でゴム足に触れずに、直接プリの土手っ腹にあてがう。

 試聴盤は「ワルツ・フォー・デビィ」。黒檀ブロックに替えてからの変化はと言えば、これは明らかに変わったと言えよう。中低域に馬力が出てきた。つまり音に厚みが増したようだ。特にベースに図太さが出てきて、リマスターされたCDに似たベースになってきた。これはいい。ただ、その図太さにマスキングされたのか、シンバルやブラッシュといった高域が大人しくなったようだ。もう一度真鍮に戻してみる。こうする事で黒檀ブロックの効果を再確認する。さてどちらを取るか…

 そこで、もう一つの対策。電源である。電源ケーブルを交換できないこのプリだが、せめてプラグだけでも替えようと考えている。しかしその前に、やれるだけの事はしてやろうと思い、今回はプラグの歯を磨く事にした。アルコール液をウェスに付け、ゴシゴシ磨くのだ。さすがに古い機器なので、当然プラグの歯はかなりくすんで汚れている。思ったよりも汚れがウェスにべっとり付き、磨き甲斐があった。プラグやケーブルを持って磨いていたが、気が付くとそのプラグ本体やケーブルもべっとりとしている。ここもついでに磨いてしまおう。今度 は「スーパーウォーター」を使ってプラグやケーブルをゴシゴシ。するとまあ、思わずぎょっと目を向く程汚れがウェスにどろどろと付着することになり、半ばあきれた。前ユーザーはスモーカーだったのだろうか。自分は煙草は全く吸わないから分からないのだが、ヤニ汚れに違いないのだ。とにかく磨いた。それでもまだ取れない汚れが見えたのだが、まあこのくらいにしておこう。キリが無さそうだ。

 さて再び視聴。足下は黒檀ブロックだ。これまた結果は良好だった。鮮度が上がりボケや滲みがなくなる、と想像通りに事が進んだのだ。ブラッシュは再び踊り始め、シンバルはガシャーン。きれいにしたからと言って、音は決して「きれい」になったのとは少し違うようだ。いい意味での「きつさ」が付いてきた。つまり「ハッキリ物を言うようになってきた」のだ。本来の実力を発揮してきたと言う事か。そう言えばこのプリ、導入してしばらく経ってからどんどん良くなってきていた。しばらくフォノ部は使用していなかったのかもしれない。こうして掃除してさらに素顔をさらけだしてきたわけだ。まだ冬なので汗はそれ程かかずに済んだのが幸いだった。やはり掃除は冬に限るのか?



 102.敷物にもこだわる(03.3.16)

 オーディオの「アクセサリ」と呼ばれるものの代表はケーブルインシュレーターだろう。しかし、ケーブルは無くては音が鳴らないのでこの単語は当てはまらないように思う。インシュレーターはまさに「アクセサリ」に相応しい。

 オーディオマニアの例にもれず、自分も各機器の下にいろいろなものを試している事はこれまで書いてきた通りである。最近も「C-2」の下に黒檀ブロックを敷いた事は前回述べた。本当は市販の様々なものも試してみたのだが、何せ高価なものが多い。ほどほどの価格のものもあるが、逆に積極的に使ってやろう、という魅力に乏しかったりするので難しいものだ。

 そんな中で以前より興味を引いていたものがあった。フォステクスが出しているタングステンシート「WS50」だ。かなりの制振効果があるらしいということだが、それでも\5000程度という価格は安いわけでは無いのでずっと迷っていた。何せ車検を通したばかりであまりパァ〜ッと遣う気も抑え目になってしまっているのは致し方あるまい。しかし、気になりはじめたらもう仕方が無い。考えてみると最近の気が狂ったようにレコードを買いまくっている。大した事は無いではないか。

 と、いうわけで購入した「WS50」。MOのケースに収められたそいつは、受け取るとずっしりと重かった。こいつは期待できる。重い事は良い事だ、と反射的に考える癖が身に付いているのだ。

 ケースの裏にはタングステンシートに関する説明が書かれている。それによると、このシートはタングステンそのままでは堅すぎて切ったりする事ができないので、粉にしてバンイダー材を用いて固め、加工しやすいように作ったとの事。また、インシュレーターとして使用すると低域の重心を下げ、力感を出しながらスピード感を向上させるとの事だ。素晴らしいではないか。

 さてどこに使うか。5B四方の正方形が4枚あるのだが、切る事もできるのでスピーカーの下でも良い。ただ、ここは全体的に見直したい場所でもあるし、それに動かすのが重すぎて面倒(この年寄りめ!)だ。レコードプレーヤーの下も面白そうだが、やはり全体に影響を与えたいと言う事で、アンプの下で試してみたい。

 アンプの下にはずっとJ1プロジェクトの青くて四角いやつが敷かれている。価格から言えば当時はタングステンシートよりも高価だったものだ。それに替えてタングステン。しかし、スピーカー程ではないがこのアンプも結構重い。持ち上げておいて素早く敷物を交換する、と言う作業はそうそう楽ではないのだ。ジャッキが欲しいな、と思いながら取り替えにかかる。

 J1プロジェクトはずっと重いアンプの下にあったせいか、棚に貼り付いてしまってなかなか取れない。結構力を込めるとようやくどこかに滑って行った。まあいいや後で何とかしよう、と思いながら「WS50」を代りに敷く。サイズはちょうど良いくらいだ。しまった、予めはみ出る部分を切って他の用途に使えば良かった、とかなりせこいことを思ったがもう敷いてしまった。ラックの裏に回って作業をするとホコリがもうもうと上がった。げほげほ。

 さて音だ。試聴には相変わらずの「ルパン」と、最近手に入れたマル・ウォルドロンの追悼盤「One More Time」だ。これもベースが凄い。

 「ルパン」のベースはもはや一聴瞭然。深く深く沈み込むベースの何と心地よい事か。本当に説明書通りの結果となった。とにかく低域レンジが広がり、クッと締まってきたのだ。ギターやドラムのブラッシュなどの中高域も暴れたところがなくなり、一層はっきりとしてきた。この変化はかなりのものだ。

 マルの方でもベースがより深く「ズーン」と沈み込み、ピアノのアタックが際立ってくる。ただちょっと気になったのは、以前はベースが「ぷるん」とピチカートが主張していたのだが、低域が広がったためなのか弾ける音がいくぶん控えめになってしまったようだ。制振し過ぎているのだろうか。これはまた課題ではあるが、またどこかで調整してやろうと言う意欲にも繋がる。「ズーン」も「ぷるん」も両方欲しいのだ。

 全体的には大成功と言え、アンプの性能がアップしたような印象を受けた。アンプの収納位置は薄い棚板で、本当は下段に収納したいところが操作性が悪くなるので敢えてそうしているのだが、そういう悪条件のためにさらに効果が分かりやすく出たのかもしれない。このシート、他にも色々使ってみたい気にさせられる。次はスピーカーか…



 103.基本に還る(03.3.23)

 ケーブル界(大げさだな)は最近、単線が注目されている。

 スピーカーケーブルにしても電源ケーブルにしてもピンケーブルにしても、撚り線が主流だったものなのだが、徐々に単線が増えてきたのだ。スペース&タイムやオーディオクエストは以前から単線の組み合わせで音を表現してきたが、特に前者は鮮明な音というイメージがある。反面、低域の量感に欠けるような印象を持ちやすい。

 単線、とは言っても大抵は何本かの組み合わせだが、真の単線となると基本はやはり屋内配線に使われる「Fケーブル」になる。これは本当に太い芯線がプラスとマイナスで1本ずつだ。ひょっとしたら、結構イケるのではあるまいか。近頃ケーブル代がどんどん高価に(とは言ってもハイエンドの方々に比べれば微々たるものだが)なっていたことでもあるし、ここらでこういった自作の基本に戻るのも良いではないか。

 実はいつもオフ会でお世話になっているha○家で自作したピンケーブルを聴かせていただいたのだが、瞬間「これは!」と感じたのだ。早速自分でも作ってみよう、と。

 Fケーブル自体は大変安価に手に入るものだが、問題はRCAプラグである。あまり小さいものだと太い単線が収まらない可能性が大だ。ケーブルも1.6@と2.0@があったのだが、当然の如く太い方にした。これはなるべくプラグを大きくせねば。

 そんなわけでパーツ屋で一番大きなプラグを購入。中を見たが広く作られており、これならば太い単線でも十分収まるだろう。

 さて製作。Fケーブルは芯線こそ硬いが被膜は柔らかく、簡単にカッターナイフで剥がす事ができた。芯線をむき出しにすると太くて硬い銅線がキラキラと輝きながら登場した。これは頼もしい。頼もしいのは良いのだが、やはりプラグにハンダ付けするのに一苦労だった。ホット(+)側はちょうど良く収まったので楽だったが、アース(−)側を付けるのに手こずってしまったのだ。何せ硬い銅線、できるだけプラグに密着させてからハンダ付けを…と思うのだが、ちょっとしたことで暴れるようにプラグから離れてしまう。何とか付いた!と思って芯線をまとめようとプラグに近い部分を少し曲げる事になってしまい、その拍子にハンダごとバキッと外れてしまうと言う恐ろしいことが起こったりもした。そんなに簡単にハンダ付けが取れてしまったら接続中危なっかしくてしようがない。スピーカーは限定ユニット。ぶっ飛ばしてしまったら修理代も馬鹿にならない。

 しかしそんな事も何とかクリア。何とか完成した。プラグ付近が何となく弱々しく見えるので、本当は熱収斂チューブかブチルゴムでぐるぐる巻きにしたいところだ。しかし下手にいじってまたハンダ付けが外れてしまうのが嫌だった。さらには全体的にも網組チューブを被せたかった。とにかく見た目は悪い。さすがとも言うべき姿だ。しかしこれで良い音がすれば最高だ。

 どこに繋げるか。レコード側で試してみたいのだ。プレーヤーからフォノイコ間はさすがにシールド対策をしていないケーブルでは不安がある。フォノイコからアンプ間にしてみよう。その間の距離を目分量で測り、その長さで「コ」の字型に曲げる。

 ラックの裏にまわって接続する。このプラグ、接触がかなりきつくできており、グイグイと押し込まないと入らない。端子が傷付いてしまいそうだ。どうにかこうにか接続を終え、再びラックの裏から戻ろうとした。

 そのとき悲劇は唐突に起こった。

 ラックを跨がないと外へは出られない。足の長さに不安があるので踏み台代わりに「すーぱーらわん」のスタンドを置いていた。しかし迂闊だった。スタンドには元々ゴム足を付けていたのだが、はがれてしまっていたのだ。スタンドに足を下ろすと、そいつは前方に滑りはじめた。「あっ」と言う間もなく左足をスタンドに引っ張られた私は、大きくバランスを崩したのだ。そして残る右足は…

 「ガシャーン」破滅と絶望の音がした。

 神はなぜこれほど試練を与えるのか。(続く)


 104. 悲劇と喜劇(03.3.30)

 自分自身はうまく着地できた。しかし、後ろを振り向くことは大変勇気を必要とする事だった。それでも現実をしっかり見つめなければならない。

 恐る恐る振り向いた。そこにはがっくり肩を落としてうなだれているかに見える「パースペクティブ」があった。トーンアームに近い足の部分が傾いていたのだ。スパイク受けが一つ、床に転がっていた。

 少しほっとした。大げさな音がしたものの、それはスパイク受けが床に落ちたのと、スパイクが直接ラックに足を落としたときの衝撃だったのだろう。やれやれ、驚かせやがって。

 とりあえず試しにレコードを聴いてみよう。直後、その安心感はまた不信へと変わった。

 雑音だらけ。何だこれは。まともに音になっていない。そもそもトレース音が異常だ。カートリッジを覗き込んでみてようやく事態を飲み込む事ができた。

 針がめり込んでいる。このカートリッジ、シュアーの「V15typeV MR」は「ダイナミック・スタビライザー」なるものを装備しているのだが、つまりは針の前にブラシを装着しているものなのだ。このブラシによって針がよく見えなかった。迂闊だったが、とにかく針の状態を見た。

 「ぽろ。」カンチレバーはあっさりと落ちた。おいおい。駄目じゃん。見事、お陀仏である。幸いと言うか何と言うか、このカートリッジは現行品であり、MM型なので針交換が可能だ。いくら掛かるかは知らないが、復活はできる。金は掛かるが仕方がない。車をぶつけたようなものだ。しかし実際に最近車をぶつけて修理しているので、「またかよ」の感は否めない。

 ただ、これまた幸いな事にカートリッジならまだある。「type。」久々の復活である。それにしてもまた、カートリッジ交換か。オルトフォンジャパンの方に教えていただいたリードチップの脱着法が早くも役に立った。お陰で割と早く交換が完了、気を取り直して(そうそうあっさりと直せるものではないのだが)ようやく試聴に移ろう。ずいぶん時間が経ってしまった。

 まずはもう一度これまでのカルダス(自作したもの)から。今回はドナルド・フェイゲンの名作「ナイトフライ」だ。まず感じたのは「お、type。もやるじゃん」ということだ。こちらの方が厚みを出してくる。レンジの広がり感と言う点ではちょっと分が悪いかもしれないが、さすが歴史的名機、聴かせどころを心得た音だ。考えてみるとC-2でtype。を鳴らすのはこれが初めてということになるが、リアルタイムで両機が活躍していたのは同じくらいの時期だろう。ひょっとしたら久しぶりの対面かもしれないではないか。そうだとしたらちょっと感動的だ。

 さてさてようやく本番。Fケーブルの登場だ。どんな音になるのか…

 お、出た。という感じだろうか。擬音で表現するならば「スコーン」とまっすぐに音が出てきた。何と言う抜けの良さか。何と言う素直な音調か。繊細でいて骨太さを感じさせる、「文武両道」とも言うべきものだ。色々他にも聴いてみるが、欠点は見当たらない。まったりとした音を好む方には勧められないし、ケーブルで色づけを、というタイプでもないのだが、これはウルトラ・ハイコストパフォーマンス・ケーブルと断言してしまっても間違いない。ブルーノート系のジャズには合わないんじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、自分は結構イケると思う。何と言ってもこの骨太さは魅力だし、管楽器がこっちへ向かってガンガン突き刺さってくる感覚は大変快い。また、もったりしたベースの音と言うイメージの強いブルーノートだが、かなり引き締めてくれるのでうれしいのだ。

 さらに、プレーヤーからC-2までのケーブルをこれまでのフルカワからカルダスに変更してみる。カルダスは少々短かったので、プレーヤーを近付けざるを得ない。最初、もの凄いハムが右チャンネルから鳴り響いてびっくり。プラグを外してみるとアース側のハンダが取れかかっていた。危ないところだった。どうやら短いケーブルを少し引っ張りながら接続したためだろう。改めてハンダ付けをやり直して接続。今度はハムはパッタリと消える。そしてその音は一層グレードアップしたようだ。それはまさに目が覚めるよう。大成功だ。しかし、そこに至るまでは今回かなりの犠牲(?)を強いられる事になってしまった。



 105. 仕上げの電線(03.4.11)

 取り立てて不満はなくとも、まだまだ良くなると思って色々いじってみたくなるのがオーディオマニア(ステレオ・バカと自称している)の性と言うべきか。一年以上スピーカーケーブルはオルトフォンの「SPK300」を使っているが、結構気に入っているわけだ。特に中高域のちょっと湿ったような感じが秀逸、低域はかっちり締めてくれるのがこれまた良かった。ただスピーカーが「すーぱーらわん」の時に替えたのであり、現用機での相性というのはこれしか知らないのでよくわからないことも確かだった。

 敢えて不満とは言わないまでも「もう少し欲しいな」と思っているのが低域、いや中低域の量感だろうか。しかしこれは表裏一体とでも言おうか、かっちりと締まった低域を犠牲にしてまで求めるものでもないような気もする。量感を求めるならばケーブルはサエクの「SPC500」あたりにすればきっと出てくるだろうが、犠牲になるものも多いだろう。

 もしかしたら高級ケーブルにすれば解決する問題なのか。しかしここでそれに挑戦することはしない。前回Fケーブルで作ったピンケーブルが絶大な力を発揮してくれたからだ。決して値段でもないのだ。それにスピーカーケーブルは片チャンネルあたり2mは必要なので価格もかなりのものになってしまう。さすがにスピーカーケーブルまでFケーブルのように硬くて扱いにくいものを使用するのも抵抗がある。

 直に店頭で買うことのできる、手頃かついい音のするスピーカーケーブル。S/Aラボ「ハイエンドホース」カルダスの「クロスリンク1S」に絞られる。前者は解像度優先の音作りなのでスピーカーとの相性はいいかもしれないが、逆に合いすぎてきつい音になりそうな気がする。それに、やはり中低域が薄そうなイメージもある。そうすると残るはカルダスのいちばん安いケーブルか。

 この「クロスリンク1S」は以前「オーディオベーシック」のケーブル試聴記を書かせて頂いたとき、聴いたことがある。ガッツがあって好きな音だった。ただ、ちょっと大ざっぱすぎるかな、と感じていた。しかしこのケーブル、意外にもクラシック派の人たちにも好まれているらしい。これ以上を望むならば高級ケーブルしかないぞ、との事。つまりエージングで落ち着いてくると言うことだろうか。使ってみる価値があるかもしれない。

 そんなわけで4m買って参りました。このケーブルは4本の芯線構造、つまりスターカッド構造(前はスタッカード、なんて言っていた。恥ずかしい)になっている。ノイズを低減させる効果があるらしいが、難しいことはわからない。被膜はまあまあ硬いが、剥きにくいという程でもない。ニッパーだけでサクッと端末は処理することができた。アンプ側は裸線のまま、スピーカー側はバナナプラグを装着して接続する。ラックの後ろに回るのは当然今回は慎重に慎重に。

 接続完了。試聴盤はいつもの「ルパン」だ。

 …おお、なるほど。闊達な音だ。ベースが踊り始めたようだ。アンプの下に敷いたタングステンシートの力で低域の力感は向上していたが、ちょっと音が暗くなってしまったな、と感じていたのだ。それが明るさを取り戻し、しかも輪郭のくっきりとした分かりやすい音になってきた。このケーブルは中域がしっかりしているのだろう。「はっきりものを言う」感じで、ボーカルの色艶も出てくる。当初狙っていた「中低域の量感」に関してはそれ程の向上はなかったが、まあケーブルの性格上仕方がないだろう。それよりも得られるものがあったのだ。エージングも楽しみである。


 106. サイレントで行こう(03.4.26)

 自分は一軒家に住んでいるとは言うものの、親と同居である。一時期流行った言い方をすれば「パラサイト・シングル」というやつだ。まあ、マンションよりもオーディオの環境としては恵まれていると言えるのだろうけれども、「外に音が漏れないだろうか」という不安はそのまま家族にも当てはまる。自室の隣は妹の部屋であり、自分と違って音楽はほとんど聴かない。それどころか物音自体が大嫌いなので、このような兄を持っていることは大変不幸なのかもしれない。

 そこは「おれ様の方が偉いのだ」とばかりに大音響で攻撃してもいいのだが、良い大人のすることではない(とは言え少し遠慮気味に鳴らしていても、もの凄くうるさいらしい)。特に夜遅くに会社から帰宅して寝る前の一時の音楽。かなり小さい音で鳴らしていたのだが、やはり物足りないことおびただしい。

 そんなわけで久しぶりにヘッドフォンを取り出して聴いてみたところ、意外に良かったので少しうれしかった。考えてみればアキュフェーズでヘッドフォンを使ったのは初めてかもしれない。きっとこのアンプはヘッドフォン部分も手を抜いていないのだろう。これは発見だ。

 それならば。もっと良いヘッドフォンならば当然ある程度満足の行く音が得られるのではないか。現在のものではさすがに低域の伸びは物足りないし、どちらかと言うと「薄い」音だ。しかも、パッド部がボロボロと剥がれていて、気がつくと耳に黒いものがぽつぽつと付着してしまっていた。カサブタがいつの間にか出来てしまったと思ったではないかっ。これは買い替えをせねば。仕方がないなあ(嬉しそー)。

 最近はヘッドフォンの記事もオーディオ誌には多くなっている。また、長岡鉄男先生も「オーディオアクセサリー」の中で何点か紹介していたので、それらを参考にしつつ、あとは自分の耳が頼りだ。色々聴いたがオープンエアタイプではソニーのもの(2万円くらい)と、密閉ではやはりソニーのこちらは業務用、つまりスタジオモニタのもの(1万8千円)が候補に上がる。他にはドイツのゼンハイザーの定価5万するものが在庫処分であろう、ニッキュッパで出ていてこれはさすがに良かった。ただ、いくら安くなってはいるものの、予算オーバーだ。ヘッドフォンと言うと、ブランドはだいたい決まっていてあとはオーディオテクニカか、AKGといったところだ。

 やはりソニー2機種に絞られる。オープンエアのさわやかな抜けの良さを採るか、密閉型のしっかりした低域を採るか。しばらく迷ったがやはりヘッドフォンとは言え低域が欲しい。決まった。ソニー・ミュージック・エンタテイメントの「MDR-CD900ST」だ。

 スタジオモニタなので箱もそっけなく、保証書もついていない。大きさも手頃で、高級ヘッドフォンにありがちなバカでかさとは無縁だ。装着感はまずまず。まあ最近の付け心地を重視した設計のものと比べてはいけないだろう。何せ業務用なのだ。最初に鳴らした時、試聴した時と違ってかなりシャカシャカしていたので耳から外してしばらく鳴らしっぱなしにしておいた。エージングである。

 2〜3時間鳴らしておいて再び試聴、と言うか実際にヘッドフォンの時間になった。その時はブルーノートのオルガンジャズを鳴らしていたのだが、ちょっと驚いた。それ程レンジが広いとは思えない音源なのだが、オルガンのベース音をはっきりと聴き取ることができたのだ。これはなかなか良いぞ。最新録音にしてみよう。マル・ウォルドロンにチェンジ。…おお、素晴らしい。ベースの沈み込む低域はズシーンと、ピチカートはくっきりと聴くことが出来る。いや、ヘッドフォン侮りがたし。

 この「MDR-CD900ST」は全体的には中域がしっかりしているものだと思う。だから厚みが出るし、声にリアリティが増してくる。ピアノをたたく音にびっくりさせられる。低域も前述したように十分だが、決してそれを大げさに出すタイプではない。中高域は素直に出しているが、あまり色艶をにじませるような感じではない。いや、色気は全く無いのだ。そっけないと言っても良いだろう。いかにもスタジオモニタ、癖の無さが特長なのだ。逆に癖があったら困るだろう。ハウジングに貼られた「for DIGITAL」のロゴも妙に懐かしく、ロングセラーたることを窺わせるが、これもまた信頼感の証。これから夜のリスニングも楽しみになった。



 107. 太いことは良いことか(03.5.5)

 先日K5さん宅で行われたオフ会に参加してきたのだが、いいものをお土産にいただいてしまった。

 電線である。それもかなり強力なヤツで、一見8ミリくらいで細いのだが、中身は1ミリの銅線が7本も詰まっているのだ。表示を見ると5.5スケアとのこと。なるほど、これをキャブタイヤで覆えばそのくらいだ。こりゃ凄そうだぞ。

 どう使うか。さすがにピンケーブルでは使いづらそうだ。本来の目的通り、電源ケーブルと言う手もあるが、今回はスピーカーケーブルに使ってみよう。スピーカーケーブルは最近カルダスに換えたばかりではあるが、こうした未知のものを使ってみる誘惑には抗いきれない。きっとみんなそうだろう(違うか)。

 黒いのと白いのを4mくらいずつもらってきたので、半分に切って黒を+、赤を−として使う。FLチューブを買ってきて、適当に撚ったそれぞれの線をまとめる。これで一見高級ケーブルの出来上がりだ。本当は熱収斂チューブなどでがっちり互いの線を締め上げたり、ブチルゴムを巻いたりなど色々対策をしたいところだが、とにかくこの電線が持つ素の実力をいち早く知りたいこともあり、そのまま行くことにしたのだ。

 完成したケーブル、もう暑くなってきたので汗防止としてタオルを頭にしっかり巻き、前回滑ってカンチレバーを折る原因となったスピーカースタンドの裏に絨毯用の滑り止めのくずがあったのでそれを敷く。ちょっと動かしてみるが大丈夫。さすが滑り止め。ラックをずらして後ろに回る。その前にスピーカー側には予め結線しておく。こちらはバナナプラグだが、アンプ側は裸線でないと入らない。まあ、太い芯線とは言え線自体が太いのでバラバラになることも無く、結線は比較的楽だった。やっぱり汗はたっぷりかいたけど。さてゆっくりとラックをまたいで滑らなくなったスタンド伝いに着地。完ぺき。

 さて試聴。「ルパン」の出だし、ベースの「ズガーン」がどう出るか。

 出た。しかし思ったよりその差は少ない。まあ、まだ鳴らし始めだし、と色々かけてみる。鳴らしているうちにやはり低域が図太くなってきた。今まで少し薄かったように感じていた中低域のある帯域も出るようになったのか、オルガンのベースもよく聞こえるようになった。今まではここが薄かったのだ。これで最近好きなソウル系オルガンジャズもばっちりだ。

 あとはちょっときつい中高域がエージングでどう変わるか、だ。しかし本日は連休最終日。しばらく音を出せないのがまことに残念、ということで今回はこれにて…




 108. 自作しても懐は痛む(03.5.20)

 前からやろうやろうと思っていてなかなか出来ない、ということは誰しも数多くあるはずだ。

 その一つに「電源タップ」制作があった。現在2つのタップを使っていて、一つは2年以上前に作った通称「おんぼろタップ」。もう一つはベルデンの物だ。前者は見栄えは最低だが、レビトンのコンセントを使っていることもあり音はなかなか良い。後者はロングセラーのためか、今となっては設計がやや古く、音の方も可もなく不可もなし、といった感じなのだ。

 自作をしたいとは言え、もう「おんぼろ」は嫌だ。やっぱりカッコいいタップを作りたい。最近はいろいろと自作用ケースが売られているではないか。オヤイデ電気から2種類出ているが、JIS規格とUL規格用と言うわけだ。やはりULの方を使いたい。しかしネックはその価格。定価で¥17000という、ケースだけにしてはべらぼうに高い。これならそこそこの完成品が購入できるのだから。しかし、逆に言えばこれである程度の物を作れば、完成品ならば高級品に該当することになるではないか。うーん悩ましい。

 そんなこんなで時は過ぎていったが、たまたま店頭でこのケース「MT-UB」を手に取り、買いたくなってしまったのだ。何せ想像以上にずっしりと重い。こりゃ高いのも当然だろう。我ながら単純な物である。逡巡していた時間はごくわずかだった。気がついたら財布をとり出していたのだ。

 買ったからには作らねばならない。コンセントも買わなくては。2つ取り付けることが出来るので、違うコンセントを装着してみるのも自作ならではの楽しみだ。1つは決まっていた。最近話題のPSオーディオ「Power Port」(下の写真左)である。なかなか骨太でがしっとした音を出すらしい。もう一つ何か面白い物を付けたいが、さすがに予算が無い。ここはULでもっとも安い明工社のもの(写真右)を使おう。物自体はしっかりしているので問題はないだろう。また面白いコンセントを手に入れたら交換すれば良いのである。とは言えこれも¥2000以上したのだが。

 インレットはかなり前にフルテックの金メッキタイプを買ってあった。ようやく使う時が来たわけだ。さあ、制作だ。しばらく涼しかったが、また暑くなってきた。これは汗をかくな。

 2mm厚の真鍮にクロームメッキを施したケースのフタを開けると、シャーシから浮かすために真鍮の支柱に固定する構造になっていた。なるほど、フタ側にねじ留めするわけではないのだ。かなり支柱は高いので、先にねじ留めしてしまっても配線はやりやすそうだ。実際にコンセントとインレットをねじで留める。そして配線。内部配線には先日使ったFケーブルの残りを使う。本来の電気配線に使うのだからうってつけだろう。「Power Port」と明工社をまず繋ぎ、そして「Power Port」からインレットを繋ぐという形にするが、インレットはハンダ付けが必要だ。今はねじで留めるインレットが発売されていて、そちらの方が絶対に楽だろう。インレットの歯にはかなり大きな穴が開いているので太いケーブルも通すことは出来る。あとはラジオペンチでケーブルを曲げ、そこをハンダ付けする。

 フタをねじ留めして完成。呆気ないほど簡単にできた。もっと中に何か重りを入れたり電磁波対策をしたりなどの工夫も考えられるが、今回は「」のままで行こう。音を早く聴きたいではないか。

 まず、おんぼろタップの替わりに使おう。繋がっているのはアンプ、プリ(フォノイコ)、レコードプレーヤーだ。これをそのまま繋ぎ替える。CDを聴いてみよう。定番の「ルパン」を。

 「くっ」

 これはどういう意味か。決して悔しくて発したセリフではない。音が締まったのだ。「きりっ」と言い換えても間違いではあるまい。前回替えたスピーカーケーブルは「ただただ太い普通の電線」だ。これはやはり見た目通りの音になってきたのだが、中低域から低域にかけて少しブーミーなところがあった。ここをガッチリ締まらせて聴かせてくれたのだ。と言って音が痩せることは無く、むしろ生き生きと厚く鳴っている。中高域から高域にかけての瑞々しさと繊細さも特筆すべきだ。これまでは大ざっぱな鳴り方をしていたのだな、と言うことが分かる。繊細と言ってもひ弱ではなく、むしろ「繊細にして大胆」と言うべき力強さがベースになっているのだ。

 やはり大枚叩いただけのことはあった。懐はかなり痛いのだが、満足度は高い。やはり電源関係も今や機器の一つなのだろう。また、このタップはねじ込み式でスパイク型のインシュレーターが標準装備されている。今回これを床にそのまま置いたのだが、いろいろな置き方が考えられるだろう。それはまた次回にでも…



 109. 抜き差しならぬ…(03.5.28)

 単純に前回の続きなのだ。新しいピカピカな「ゴージャス電源タップ」が完成したことにより、タップで色々遊ぶことができるというわけ。

 まず、この「ゴージャス」は2種類のコンセントが装着されている。一つはPSオーディオ「Power Port」。もう一つは明工社のULタイプだ。前回powerportにアンプとプリ(フォノイコ)を差して試聴したのだが、アンプを明工社に差し替えてみよう。コンセント自体の価格は4分の1程度だが、これで差が無かったらちょっとショックかもしれない。「ルパン」で試聴だ。

 …なるほど。これはこれでなかなか面白い。ガッチリと引き締まっていた音が程よく緩み、暖かみのある音調でジャズのホットな部分を良く醸し出してくれる。全体的に陽性の音で、古いジャズには雰囲気が出ていいかもしれない。細かいことを言わなければこれは結構イケそうだ。この白いコンセントの顔はどこかで見たことがあると思ったが、最初に買ってタップの重要性に気づかせてくれたCSEのタップにはこれが付けられていたのではなかったか。

 しかしもう一度powerportに繋ぎ替えると、やはりクオリティの高さは歴然。ガッチリ逞しくも崩れない低域と、繊細ながらもひ弱さのかけらも無い高域。はっきりと生々しくものを言う中域。これを聴いてしまうと明工社には戻れない。さすがオーディオ専用である。

 さてさてお次はもう一つのタップ、ベルデンのものを「おんぼろタップ」に替えてみよう。タップ自体はおんぼろかもしれないが、コンセントやインレットのクオリティはこちらがかなり高いはず。こちらはラックの裏側なので、ちょっと苦労しながら、を数滴落としながらタップの交換をする。こちらにはCDプレーヤーとCDレコーダー(D/Aコンバータ)、ほとんど使わないMDの電源を差している。

 果たして、出てきた音は先ほどアンプ側のタップで達したクオリティをさらに押し進めたものとなっていた。低域の力感が上がり、中域がリアリティの上昇と共にぐいっと前に迫ってくる。高域は抜けの良さが際立ってきた。電源に関してはしばらくは安泰と言ってもいいだろう。これ以上先は高嶺の花、超ハイエンド、それほど大きな違いはもう出てこないのではないか。そんな気にさせる、電源タップのグレードアップであった。



 110. カラフルなヒモ(03.7.6)

 夏
である。

 汗かきな自分にとって嫌な季節がやって来た。レコードを聴こうとしても盤面にポトリと滴を落としそうになってしまうので、もしかしたら真夏は楽しい楽しい楽しいレコード鑑賞が出来なくなってしまうのではなかろうかという恐ろしい事態を予測している。

 しかしそんな中でもオーディオの前進はして行かねば(?)ならないのだ。手付かずの部分で最も汗をかかずに済むこと…電源ケーブルだ。前回の電源タップでかなりのレベルアップを果たしたと思うが、CDプレーヤー「VRDS-25xs」の電源ケーブルは購入してからずっとベルデンの物を暫定的に付けていた。付属ケーブルよりは幾らかマシ、といった塩梅のものだったので、本当はすぐにでも交換したかったのだが、なんやかんやでそのままになっていた。ちょうど良いケーブルが見つからなかったからでもある。

 仕方がないからスピーカーケーブルでも代用して作ろうか…と思っていたところに、待てば海路の日和あり。気になるケーブルが登場したのだ。

 そいつはDIVASという新しいブランドの、「14-4ct」というやつだ。透明のジャケットに赤と青の被膜に覆われた銅線が2本ずつ内蔵されていて、見た目もきれいだ。最近オーディオ誌でも盛んに取り上げられている、言わば「今が旬」のケーブルなのだ。価格も定価で\3600/mと、高くも安くも無い、という設定がいいではないか。

 とにかくこいつを1m購入、電源ケーブルを製作することにした。しかしこの電線、なかなか一筋縄では行かないヤツだったのである。

 雑誌にも書いてあったのだが、この透明のジャケットがとにかく堅い。カッターでは刃が立たないのだ。「ステレオ」最新号で「カッターの刃を熱するか、ハンダ鏝にカッターナイフを巻き付けて切るしかない」とのことだったので、カッターナイフを着火マンで炙りながら切ることにした。なるほど、そうすれば何とか刃はずぶりと沈んでいく。ただ、すぐ熱は冷めてしまうので何度も何度も炙りながら切っていった。えーい、暑いじゃないかっ

 このケーブルはスターカッド構造で芯線を2組ずつ接続するというもので、合わせるとかなりの太さになる。また苦労したのがプラグに「太すぎて入らない」という事態だ。おかしな想像をしてはいけない。最初せっかくきれいに撚り合わされていた芯線も、結局敢え無く全て入らずにぐしゃぐしゃになってしまう。汗の付きまくった指で撚り合わせてはまずい、と思って近くにあった紙をつまんでその上から撚った。いい加減な手法だが意外にこれが良い感じだ。適度な滑りと引っ掛かりがあり、撚りやすかったのだ。何度も挑戦した結果、何とか両端ともネジ留めすることが出来た。ふう。暑いよ

 意外に大汗をかいたがとにかく完成。CDプレーヤーに接続だ。カラフルな外見に期待しよう。試聴盤はいつもの「ルパン」。

 おーっ、切れ込むねえ。冒頭の「ずーん」と来るベース音。これがびしっと来る。「解像度が高い」とオーディオ的には言えるのだろう。眼前に繰り広げられる生々しい演奏。前回のタップでかなり引き締まってきていたが、いっそうそれが充実してきたのだ。鮮度が高く、透明感もあるが決して薄味にならないところが良い。

 これまでの感想はプレーヤー単体の音であった。今度はDACとして使っている「CDR1000」を通して聴いてみたい。以前まではこれを通して聴く音の方が躍動感があり、レンジも広く感じていたのだが…さて今回の勝負はいかに。

 もはやそれ程気にならない差となっていた。むしろ鮮度感ではプレーヤー単体の方が上回るくらいだ。しかし考えてみれば、トランスポートの電源ケーブルがグレードアップしたことになるので、以前の「CDR1000」で聴いた音よりも向上していたことも言っておかねばなるまい。ジャズではあまり気がつかなかったが、UA「turbo」で聴いたシンセベースの沈み込む音はさすがにDACを通した音が凄い。やはりこのDACは低域まで良く出るのだ。以前よりも引き締まっていながらはっきりと出てくる超低音。そしてトランスポートだけでも電源ケーブルの効果があるということもよく分かった。やはり回転させるものに送り込む電源は重要なのだろう。

 とにかく、それでもプレーヤー単体で普段のリスニングならば十分となった。「CDR1000」の欠点は冷却ファンの音が少々耳に付くことだ。それでも高音質とのトレードオフという気分だったのだが、今回のケーブルで様相は変わってきた。「CDR1000」を通した音の「滲み」みたいなものが気になってきたのだ。これまでは「それも味のうち」とむしろ歓迎する類いの触感だったのだが、プレーヤー単体で聴くスッキリ感の方が今のところはかなり新鮮に感じる。ただ、これは聴く音楽にもよるのだが。それにしてもこのケーブル、「VRDS-25xs」との相性がかなり良いのではなかろうか。気に入った。さらに、デジタル出力のディップスイッチをoffにすると鮮度感が増した。こりやいいわ。



 111. 敗戦処理(03.8.17)

 「汗かき」という恐ろしい理由で去年は夏になったらレコードはぱったりと止めていたが、今年はガンガン聴いている。確かに汗は落ちる。いまのところそれで機器類に致命的な打撃を与えているわけではないし、運動になる?ので良いのではなかろうか。

 それはともかく、最近愛用のカートリッジ「V15type3」の調子が悪くなっていた。針飛びが頻発するようになったのだ。しかも一度飛ぶと、あたかも川面に跳ねる飛び石のようにぴょんぴょん飛んでいき、あっという間に再生が終了と相成ってしまう。傷や埃の無い盤をかけてもそうなるので、おかしいと思ってよく見るとアームが震えているではないか。これではいつ飛んでもおかしくは無い。よく分からないがカンチレバーが弱っているのかもしれない。そう言えば歪みも出てくるようになった。もう限界だろうか。

 仕方がない。とり出したのが定番カートリッジ「DL-103」だ。久しぶりにこいつを使ってみよう。トーンアームがユニバーサル型ではないので交換には注意を要する。特にリード線を外す時だ。これでリード線を切ってしまったりと、バタバタしたことは以前もネタにした通り。今回は無事にことは運び、多少汗をかきながらもバランス調整まで終了。ケーブルをMC端子に繋ぎ替え、音出しである。

 やはりと言うべきか、かなりシュアーとは音が違う。ずいぶんレンジが狭くなってしまったように感じる。中低域はずいぶん図太くなったが、高域はある帯域からスパッと切れている。中低域が厚いので低音が出ているように錯覚するが、あまり下の方は出ていない。

 もちろん良いところもある。中域、ギターやボーカルはよく歌っていて実在感がある。古いジャズの録音にはこの帯域の狭さがピッタリはまっていて、ブルーノートなどには力を発揮するようだ。特にザキッとしたシンバルの力強さはなかなか良い感じだ。ただ、全体的には不満が残る状態となった。大味なのだ。

 これはC-2との相性の問題があるかも知れない。このプリアンプにはMCヘッドアンプが搭載されているはずだが、インピータンス切替が付いていない。103のような40Ωというカートリッジは苦手なのかもしれないのだ。

 しばらくすれば慣れるだろうか、と聴いていたがやはりどうにも我慢が出来ない。前述の通り昔の物ならば良い味も出してはくれるが、例えばベースが物凄いTBMの鈴木勲「ブロウ・アップ」などには全く不向きだ。ベースの低音部も、ピチカートのバチンバチン弾ける音も中途半端。うーん、さすがにこれはギブアップか。

 MC型である程度のものは前から欲しかった。しかし中古でもなかなか出ることはない。そもそも狙う価格帯である定価¥40000から¥50000くらいのものというのは実際には製品数が少ないのだった。最近はアナログが(小さな)ブームでもあるので、新しいカートリッジも結構出てはいるのだが、どれも10万以上する高価な物ばかり。そう簡単に買えるものかっ。どうやらアナログと言うのはオーディオの中でもハイエンドな、ぜいたくな趣味らしい。

 かくなる上は…カコナール(古すぎ)ではなくて、妥協が必要だ。それも価格の上限を上に持っていくと言う妥協だ。ストレートアームを持つ我が「perspective」であるので、「これを装着したら、しばらくは外さない!」というものが必要ではあるのだ。そうすると前から欲しいと思っていたヤツはある。それだ。それにしよう。決めた。買う(続く)


 112. 決定版となるか(03.8.29)

 買ってきたのはレコードファンならば誰でも憧れるオルトフォン、とは言ってもカブトムシことSPUでは当然ない。現代のオルトフォン、「コントラプンクトa」なのだ。上級機には「コントラプンクトb」、さらには「MCジュビリー」がある。

 迷った末、しばらく鳴らす機会が無くなっていたトライオード「MINI88」を下取りに出すことにした。大変魅力的な真空管アンプだが、鳴らしていなければただの重いもの。ガンガン聴く人に買ってもらった方が幸せと言うものだろう。約3年間ありがとう。ついでにカンチレバーが取れてしまった「V15xMR」も持っていった。

 まあそんなわけで、まずまずの値段でコントラプンクトを買うことが出来た。これで私もオルトフォンユーザー。何だか嬉しい。箱も妙にでかくて、それもまた嬉しい。

 箱を開けると高級そうな面持ちをしたグレーのカートリッジが姿を現す。手に取ってみると結構ずっしりと重さがある。10gとの事だがもっとあるような気さえする。さすがオルトフォンと言うべきか。心配なのは103(8gくらい)でカウンターウエイトがギリギリでバランスをとっていたことだ。大丈夫かな。

 とにかく103を慎重に取り外す。一度リード線を切ってしまってからはどうしてもここで緊張してしまう。良かった…うまく外すことが出来た。そうして厳かに、今度はわくわくしながら「コントラプンクト」を装着にかかる。ネジは貫通させることが出来ないタイプで、シェルの上からネジを締める形になる。そうするとオーディオテクニカのようなシェルは使用できないわけだ。リード線の色を間違えないようにはめ込む。きつくも緩くもなく、手応えを感じつつリード線は収まっていく。

 装着は完了。お次はゼロバランス。しかし予感は的中、バランスをとるためにカウンターウエイトを廻していったら「ごろり」と外れてしまった。うーむ。「perspective」には二種類ウエイトが付いており、重い方を使っていたのだがそれでもだめなのか。オーディオ誌のテストなどではよくこの機種(あるいは同じアームを使ったもの)にコントラプンクトを付けて試聴しているではないか。どういうことだ

 まあ仕方がない。外れたウエイトをさらに重くするしかないか。というわけで鉛テープを目立たないウェイトの後ろの方へベタベタと細かく切って貼り付けた。再び挑戦してみると見事バランスをとることが出来た。針圧は2.5gにとりあえず合わせる。さあ、これで聴く準備は整った。ワクワクしながら昨日聴いたばかりの「モントルーのビルエヴァンス」をターンテーブルに乗せる。

 そこには明らかに昨日とは違う世界があった。分厚くてもモヤッとしないエディゴメスのウッドベース。ピン…と張りつめるようなエヴァンスの全く彼らしいピアノのタッチ。しかもこのカートリッジはエージングにしばらく掛かるとのこと。大体10枚分らしいのでまだまだ実力を発揮していないのだ。そう言えば高域、シンバルやブラッシュなどはまだ堅さがある。これがほぐれていくのか。

 出力が大きいのでボリュームも大きめに出る。しかしボリュームを下げても音が痩せないのも特筆すべきことだ。とにかくどんどんエージングの意味もあり聴いていこう。それにしても嬉しいのはやはりベースが「ぶんっ」「ばちん」とぶりぶりに前に出てくることだ。しかもかなり下の方まで伸びている。低重心が特長なのだろうか。

 そんなこんなで次の日。何枚か聴いていると、大人し目だった高域も主張し始めた。サクッとしたブラッシュはもう少しザキッとして欲しい気もするがスッキリ伸びて気持ちが良い。ジャズは高域が伸びては駄目だ、といった寺島靖国氏の意見も理解できるがやはり懐は深い方がいいではないか。

 ここでCDとの聴き比べも行った。スティーリー・ダンの名盤「Aja」だ。レコードは普通の国内盤、CDは最新リマスター紙ジャケ盤。CDはバランスが良かった。締まりの聴いたタイトなドラム、シンバルワークの巧みさを見事に出している。レコードではシンバルのきらびやかさはCDに一歩譲るが、中低域のパンチ力はCDを上回った。ドスッ、ドスッと空気がこちらに押し寄せてくる。ドラムやベースの迫力は凄いものがあり、バランスとしてはどうか分からないがCDにはない魅力がレコードから引き出されたようだ。

 色々聴いてみるとドラムが魅力的になってきた。ジャズではその乾いた音色と皮の質感までも表現しているよう。ロックはまさに迫力満点。録音エンジニアが狙っている、その曲の「雰囲気」を見事にドラムによって語り尽くしているのだ。

 実際には購入して一週間以上が経過している。どんどん良くなっており、とにかく色々かけまくって楽しんでいる。一つ一つの音にエネルギーがこもっているのだ。その熱さは冷夏(暑いけど)などどこかへ吹き飛ばさんばかりの勢いなのだ。やはりこのレベルになると「役者が違う」ことを認識させられた。



 113. 再会(03.9.13)

 「そう言えば」と唐突に。

 最近では滅多に録音などしないくせに、録音機器がラックには3台もセットされていることに気がついた。いや、当然気はついているのだが面倒なのでそのままにしてあったと言うだけの話。しかも、CDレコーダー「CDR1000」を導入した時にチューナーを撤去してしまったのだった。АVアンプの方にチューナーは付いてはいるものの、やはりメインの方でもたまにFMなど聴きたくなるではないか。夜、こういう原稿を書きながら、とか。

 そんなわけで「チューナー復活&録音機どれか撤去計画」を執行することにした。CDレコーダーは当然外せないが、あとはカセットかMDか。どちらもほとんど最近使っていないが、MDは人に頼まれて録音することもごくたまにある。そうすると3年近く使っていないカセットデッキになる。考えてみるとカーステレオはCDだけになり、仕事も車を使わない部署になった。それでもたまには使うのかなと思いつつ年月が経過していった。そろそろ潮時だろう。

 ではさらば、アイワ最後のピュアオーディオカセットデッキ「XK-007」よ。学生の時買ったものなので思い入れはあるが、仕方がない。空間は無駄にしてはいけないのだ。まあ、とりあえず売ったりせずに持っておこう。今どきカセットデッキは売っても二束三文だし、また引っ張り出して聴きたくなることもあるかもしれない。

 それでは、とカセットデッキをラックから抜き取ることから始めよう。ケーブルを外し、予めエアダスターで埃をある程度吹き飛ばしてから引き抜く。大きいので重そうに見えたが、それほどのことはなく簡単に出すことが出来た。しかし、いくら埃を吹き飛ばしたとは言え、長年降り積もった埃の臭いがつんと鼻を突く。長きに渡り蓄積された埃は熟成されて、なかなか体に悪そうだ。これはいかん、と慌ててタオルをマスク代わりにした。ある程度埃を拭いてからビニール袋を被せておく。

 次はチューナーを出さねば。部屋の片隅のちょうど引っ込んだところに色々(例えばユニットを外したエンクロージャーとか、プリンタの箱など)置いておいたのだったが、チューナーは微かに見える状態。いちいち様々な箱など移してもいられないので手を突っ込んで強引にチューナーをつかんで抜き取ろうと試みた。左手で少し積み重なっている箱などを持ち上げつつ、右手で獲物を引き上げる。ぐい、と引っ張るといきなり「びぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜ん」と弦をはじくような音が。ああびっくりした。実際ギターがあったのだ。

 そんなこんなで汗びっしょりになって取り出したチューナーSONY「ST-S222ESA」、2年ぶりの再会だ。意外に汚くないのは上に色々なものが積まれていたせいか。筐体の埃をふき取り、端子も磨くとそれなりにピカピカになった。

 アンプに接続し、スイッチオン。…あれ。同調が合ってないし。しばらく使っていなかったのでメモリーがクリアされてしまっていたのだ。どうやって局をメモリーさせるんだっけ。意外に時間を食ってしまったがようやく上手くチューニングでき、77.8MHzのzip-FMを流す。

 なーるほど、CDやレコードと比べると明らかにナロウだけど聴きやすい。79.5MHzのradio-iにすると、こちらはzipに比べてずいぶん音が良いではないか。鮮明でレンジも広いのだ。やはり局によっても違うのだ。インターネットラジオやら、最近何かと新しい音楽メディアは増えているが、こういう昔からあるメディアも良いもんだ。



 114. ウッドとアイアン(03.9.23)

 「ハイファイ堂」でふと見つけてしまった、衝動買いの元。

 タオックのインシュレーター、「TITE25PIN」である。こいつは人気商品なので大抵すぐ売れてしまう。見つけたのはラッキーと言うしかないのだ。新品でも他のばか高いインシュレーターに比べればお買い得とも言えるプライスなので、中古ならばまさに衝動買いしてもいいじゃない、の逸品。

 ただ、この3個1組のこいつを何処に使うか。もう1組あればスピーカーの下に試してみたいところだが。アンプにはタングステンシートを敷いているのでとりあえずはこのままで行きたいし、CDプレーヤーは純正スパイク+黒檀スパイク受けの組み合わせが効いている。あとはプリ(フォノイコ)か。

 そんなわけでC-2の下に当てがってみることにした。しかしここにも黒檀ブロック@東急ハンズがインシュレーターとして挟まれている。これに代えてタオックを試してみよう。

 さてこの「TITE25PIN」、名前の通り本体はスパイク状のピンが付いている。そしてステンレス製のスパイク受けとセットになっているのだ。本体はタオックお得意の鋳鉄製、がっちりして重量感たっぷり。いかにも「振動受け止めるぜ!」という気合いに満ち溢れていて、期待はいやが上にも高まってくるというものだ。

 一つずつ黒檀からタオックに交換していく。普通のスパイク+受けの組み合わせは受けを下にするのが普通だが、これは受けを上にするのが標準的な使い方のようだ。まあ確かにスパイク受けの方がずいぶん小さいので、ひっくり返したらずいぶんバランスの悪そうなセッティングになってしまうか。

 交換するとC-2の足下がかなり高級感を増して、見栄えが良くなった。これも精神的な充足度が高い。音だけではないのだ。

 当然音が悪くなってしまっては話にならない。いよいよ音出しだ。レコードの試聴盤はTBMの名盤「ブロウ・アップ」だ。鈴木勲氏の図太いベースを聴く。

 おお、ずいぶん締まったぞ。これまで少々太り気味だったベースに芯がしっかり通り、聴きやすくなったのだ。中高域が堅くなってしまうのではないか、と予想していたのだが意外にそんなことは無く、むしろピアノの音色に艶が乗ってきた。逆に黒檀の方がピシッとした乾いたピアノだったのだ。これは好みの問題かもしれない。

 ドナルド・フェイゲン「ナイトフライ」も、ずっしりと腰の強い中低域をベースに爽やかな高域が楽しい。リッキー・リー・ジョーンズ「パイレーツ」は強烈なドラムが一曲目の途中から現れるのだが、今まで聴いたことの無い下から揺さぶるようなアタックを聴くことが出来た。

 黒檀にも良いところはあったのだが、さすがに専用インシュレーターの実力は凄い。最初はとりあえず、とC-2の下に置いてみたが、結果は大成功。ここが定位置になりそうだ。


 115. マニアしか使わないもの(03.10.6)

 どんどん良くなっていくレコードライフ、しかし大満足というわけではなかったのだ。

 「コントラプンクトa」を導入して「ぐん」とレベルアップを果たしたとは思うのだが、どうもまだこのカートリッジの実力を発揮させてはいないと思うのだ。何故かと言うと、どうも最初からつきまとっていた「ハイ落ち感」が無くならないのだ。確かに低重心が特長かもしれないが、もっとオルトフォンらしい美麗な高域が出ても良いはずなのだ。

 やはり原因はフォノイコか。と言うよりC-2の内蔵ヘッドアンプだろうか。もしかしたら劣化しているのかもしれない。あれだけ定評のあったアンプ、これが本当の実力ではあるまい。それならばやはり昇圧トランスを別に繋げることで解決できるかもしれない。しまったなあ、C-2買う時にデノンのトランス、売っちゃったもんなあ。ただ、あれはハイインピータンス用だったし。オルトフォンだからローインピータンスのものが必要なのだ。

 「昇圧トランス」という名称で思い出すのは、まだオーディオ始めたばかりの高校時代。「レコパル」の増刊号はオーディオ機器一覧のようになっていて、そいつに載っている「昇圧トランス」といういかにも「専門的」「マニアック」な名前を持つ機器、というか物体に妙に心惹かれるものを感じたことがある。「いつかはおれもこういう何だか分からない機器も使いこなすようになるのだろうか」などと。

 それはともかく、ちょっと前から気になっていたのだ。「ハイファイ堂」にあった中古のトランスを。オルトフォンの「T-20」という小さな箱だ。これならばカートリッジと言わば純正組み合わせ、文句の付けようはあるまい。ただ、価格は\29800でおいそれと買えるものではない。訊いてみると元の定価は\48000とのこと。高級品とは言わないが、なかなか良いものではないか。これなら期待できそうだ。

 ウロウロ意味もなく歩き回ったりして迷うこと約30分。なぜに人は迷ったり考え込んだりすると歩き回るのであろうか。小さいけれどもずっしりとした重さを持つ「T-20」は、晴れて自分のものとなった。ウキウキしながらケーブルを接続…あれ。入らない。入らないじゃあないかっ。思いっきり焦ったが、どうしようもなかった。プレーヤーに接続していたピンケーブルはカルダスの「クロスリンク1S」にWBTのプラグを付けたもの。つまりコレクトチャック式で太めのプラグとなっている。それに対して「T-20」の端子部には何のためなのか、フタをするようにアルミの板で覆われており、窓のようになっていてそこにプラグを差し込むようになっていたのだ。つまり端子が突き出ていない状態になっている。そういうすっきりした後ろ姿にしたかったのだろう。当時はこんな太いプラグなど無かっただろうし、仕方がないと言えば仕方がない。接続する前に綿棒に無水アルコールを付けて掃除をしようとしたのだが、かなりやりづらかったのだった。

 さあ困った。どこかに余ったケーブルは…と。とりあえずMDプレーヤーを接続していた古いケーブルを使うことにしよう。珍しいパイオニア製で、割と太いものだ。確か10年近く前、セールになっていたものを買ったような淡い記憶がある。当時としては新しい「6N」を謳っていたので、とりあえず試してみようか、と。当然その時の所有ケーブルでは一番高価だったのでCDプレーヤーとアンプを接続するのに使われた。CDとの接続はその後、テクニカ、スペース&タイム、カルダス自作、カルダスバランス自作、DACからのS/Aラボ自作、と続く。

 それはともかく、これも太いケーブルのため、プラグもギリギリであった。それでも何とか接続することが出来、ずいぶん時間を掛けてしまったがようやく音を聴くことが出来る状態になった。しかし今回はここまで、試聴レビューは次回と言うことで何とぞご勘弁を…さらには写真も、デジカメの電池が切れてしまっておりました。重ねてご無礼。



 116. ベストカップル(03.10.12)

 いよいよ音を出すのだ。見せてもらおう、いや聴かせてもらおう。オルトフォンペアの実力の程を。

 さっきまで聴いていたのはリー・モーガン「サイドワインダー」。これはCDでも持っており、往年のブルーノートのエンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダー御大本人がリマスターしたCDはもの凄く「良い音」だ。それはレンジがどうの、低域が高域がどうの、というものではない。ジャズの美味しいところがたっぷり詰まっているような、つまり中域重視の音になっているのだ。さすが御大である。それに対してレコードの方は普通の日本盤、キングレコード時代のものだ。東芝EMIのものに比べて音が良いと言われているが、正直比べてはいないのでよくは分からない。しかし、普通のCDに比べれば良いとは思うが、ヴァンゲルダーリマスター盤には敵わない、というのが正直な感想だ力強いベースを聴いてしまうともうだめだ。

 さて前置きはともかく、針を下ろす。最初の「ドゥッドゥドゥンドゥン」とベースが比べどころだ。…来た。おお、CDほどガッチリ締まってはいないものの、力強さと量感はたいしたものではないか。そしてシンバルがきれいに散乱するようになった。「きれい」という言い方は下手をするジャズっぽくないのではないか、と言われそうだがそれは違う。思い通りに飛び散ってくれるのだ。CDでは確かにそれも上手く飛び散るのだが、レコードに比べると作為的と言うか、どことなく人工的だ。やはりレコードは本物が鳴っている、と思わせてくれる。トランスに繋ぐ前は何だか詰まったようなシンバルで、かなりもどかしい思いをしていたのだ。いいぞいいぞ。

 まあ、ブルーノートならば高域が伸びていなくてもそんなに苦にはならない。お次はスティーリー・ダンでも聴いてみますか。…なるほど、確かに最新リマスターCDと比べてしまうと細かいシンバルワークに差が出てしまうが、ここまで出ていれば中低域の量感と押し出しの良さと相まって、レコードの方がポイントが高くなる。レコードは普通の日本盤。オリジナル輸入盤が欲しい一枚ではある。

 そして日が変わって、仮に付けていたパイオニアのケーブルを替えてみることにした。トランスをプレーヤーとプリの間に噛ませることで接点は増えるのだが、逆にケーブルを使えるところが増えたのだ。色々試せるわけで、こんなに楽しいことは無い。

 今回新たにケーブルを作ってしまった。できるだけ小さいプラグを買っていたので、あとはケーブル本体だ。しかしこれは、と言うものが手に入らなかったので残っていたものを使ってみる。以前デジタルケーブルを製作する時に使ったオルトフォンのアンテナケーブルがあった。よって1芯同軸構造で、導体は7N銅なのだ。シンプルな構造ながら導体の純度は高い。これに期待してみる。

 トランスからフォノイコへのケーブルを換えてみたのだが、予想通りスッキリと伸びた高域を聴くことが出来た。中低域も程よく締めてくれるのでバランスの取れた音になってきたのだ。ただ逆にCDの音に似てきたことは良いのか悪いのか。この次はプレーヤーからトランスまでのケーブルを換えてみたい。現在は暫定的に古河のケーブルを使っているが、やはりクオリティを上げたいのだ。

 それにしても、やはりオルトフォン同士の組み合わせ(ケーブルもだ!)は年代のずれを越えて大変良い結果を生んだ。もう最近はレコードばかり聴いている。これだけ投資して色々手をかけているので、それも当然なんだけど。


 117. 制振か整振か(03.11.9)

 この夏は暑かった。

 「え?冷夏だったのでは」という声も聞こえる。確かに世間一般ではその通りだったのだが、何せこの夏は忙しかった。そういう忙しいところにタイミングは悪くトラブルはやって来る。泣き面に蜂とはこのことか、という最悪の状態になっていたのだ。その所為か、夏はへろへろで「暑かった」という記憶しか残っていないという状態に陥る。

 そんなわけでオーディオもまったりとしたことしかできず、あまり重いものを動かす類いのことは死んでもしたくはなかったのだ。まあ誰もそれを責められまい。

 そして今。ようやく体を動かすオーディオを実践する体力・気力が回復してきたのだ。よおし、やるぞお。

 で、何をやるか。まずは気になっていたスピーカーの足下。これだ。15mmMDFの板きれを一枚敷いて間にインシュレーターという、まことにイージーな状態。これを見直す。前から目をつけていたのがまな板だ。ホームセンターで見つけていたのだが、合成樹脂や軽量級の木材が幅を利かせる中、割とずっしりとした重さと30mmの厚さを持つスプルース製のまな板。これはいいんじゃなかろうか、と。スプルースと言う木は確かギターにも使われるものだ。きっと音にいいに違いない。

 幅や長さは2枚合わせると前後が少し余るもののちょうど良い大きさになるので合計4枚購入。「一体まな板を4枚も買ってどうするのだろう」と思われそうだが、まあ何と言うことも無くレジは通過。まあ、考えてみればもっと「?」という買い物をする人は大勢いるのだろう。

 二枚をそのまま置こうとも思ったが、接着することにした。久し振りに登場の木工用ボンドで二枚を合わせ、しばらく置いておく。さあ、そうしたらいよいよ作業だ。タオルを頭に巻き、気合いを入れる。

 これまた久し振りにスピーカーをセパレートする。本当はいい加減に接着した方がいいのだろうが、こういう時もはや一人で持ち上げるにはあまりにも重過ぎるのだ。「よっこらしょ」と腰に負担をかけぬよう、持ち上げて脇に下ろす。インシュレーターは本体に張り付いていた。それをはがすとささくれも一緒についてきてしまった。うーん、何だかボロボロだな。音は気に入っているんだけど。シナ合板ならともかく、ラワン合板というのはまあこんなものかも。

 とにかく接着した「まな板ベースボード」を一番下に置き、その上に今まで敷いていたMDFを置き、インシュレーターを再びセットして本体をまた「よいしょお」と持ち上げてセッティングする。そしてスピーカーユニット部をパイルダー・オン。その作業をもう片方も繰り返すともう汗だく。だいたい11月というのに何故こんなに暑いのか。嫌がらせか。まあいい運動にはなった。

 さて音出しだ音出しだ。手っ取り早く結果を言うと、微妙なものであった。確かに同じ音量では前より床が振動することは少し軽減された。そのため逆に量感が薄くなったような気が最初はしたが、やはり締まる方向へ進んだわけだ。わずか3cmではあるが床から高くなったことで、ホーンから出る低音が床に跳ね返る度合いも少なくなっているはずだ。

 ただ、そういった違いはあくまで「わずかながら」というレベルにとどまった。汗をかいた割には…という気持ちが強いが、木材という素材だからかもしれない。やはりこれが石だったら違ってくるのかもしれない。自分が望んで木材を選んだのだから仕方のない話だが、まだまだやることはある。インシュレーターはそのままなので、次はこれを何とかしてみよう。あまり最初から上手く行き過ぎるのも、ね。


 118. 本命現る(03.11.22)

 そんなわけで前回の続きっぽくなるが、今度はスピーカーのインシュレーターだ。

 使用するのは現在も使っているテクニカのコイン型インシュレーターに、アンプに当てがって大成功したフォステクスのタングステンシート「WS-50」だ。テクニカの上下にこのシートを貼り付けるわけだ。つまりタングステンシートでサンドイッチすることになる。これでぐぐっと引き締まった低音を狙うのだ。東急ハンズで真鍮でもゲットして使おうかとも考えたのだが、何せテクニカコインが沢山余っているので折角だからこいつで作ろうではないか。

 このタングステンシート、はさみで自由に切ることが出来るところがメリット。ちょきちょき切り刻んでテクニカコインに付属の両面テープを使って貼り付けるのだ。コインに合わせて丸く切っては勿体ないので、はみ出さないように四角いままで貼る。とは言ってもちょうどいい大きさにならないので一回バラバラにしてそれを組み合わせたり、と試行錯誤しながら作業を進めていった。

 そして完成。ずいぶん重量が増し、それだけで期待を抱かせてくれるものだ。さあ、次は力仕事。そうは言ってもインシュレーターの交換だけなので、前回のようによっこらしょとスピーカーを移動させることは必要あるまい。ちょっと持ち上げておいてささっと交換。これだ。ジャッキでもあれば楽だけどねえ。まあそれは贅沢と言うもの。左手のかいな力に全てを託そう。

 ここでまた失敗して例えば手を挟んで小指を骨折、などとなればネタとしては面白いかもしれないが、そうはさせるか。何と言うことも無く作業はスムーズに行われ、インシュレーター交換は完了したのであった。

 軽く汗をかきながら試聴だ試聴だ。いつもの「ルパン」をかけてみる。当然交換直前に聴いているものだ。…おお、深いぞ、深い。冒頭のベースがぐぐっと沈み込むのだ。やはり制振する力がかなり効いているのだろう。これまではっきり聴き取れなかった帯域の低い音もくっきりしてきた。いいぞいいぞ。低域のもやつきは他の帯域にも当然影響するわけで、定位感や前後感も以前より良くなってきたのだ。バシッと決まる。やはりセッティングは重要である。システム全体のレベルを上げてくれるのだ。

 シートはまだ余っている。他にも使ってみたいぞ。やはり次はレコードプレーヤー周りか。「Perspective」はボード部をスパイクで支える構造になっていて、スパイク受けはCDプレーヤー「VRDS-25XS」のものを流用している。どちらかと言うと柔らかい音を持つ「Perspective」を少々引き締める役目を担っているのだ。以前このスパイク受の下にJ1プロジェクトの青いスぺーサーを敷いたことがあるのだが、何だかぼやけた音になってしまって見事に失敗だった。素材の異なるものを合わせて敷いたりすると、アラばかりが際立ってしまうことがある。良い反省材料となった。今回は逆のキャラクターを持つものを敷くわけだ。良い結果が出そうな気がする。

 スパイク受けの下に切り刻んだシートを貼り付ける。真ん中と隅の3点に貼ってみよう。そうして元通りスパイクの下にセッティングする。すぐに試聴。ベースがもやつきがちなブルーノート盤、おなじみリー・モーガン「サイドワインダー」を。ここしばらくのアナログ強化計画(計画なんてあったっけ?)によってそのベース音はかなりの改善を見てきたが、今回それはさらに強化されたことを実感した。「ドゥッドゥッドゥン」。来たー。ボブ・クランショウさんがここで弾いているぞ。少々大げさかもしれない。しかしこれがオーディオの楽しみ。今、確かにそこにいたよ。

 そんなわけでしばらく続いた足下の見直し。これでひとまずの完成と言ってもいいだろう。まだ一枚タングステンシートは残っているが、これ以上他の部分に敷いては逆に「締め過ぎ」になってしまうかもしれないので。電源周りに使ってみたい気もするが、それはまたいつかということで。