15.Do It Yourself! -6

思えば遠くに来たもんだ、と感慨に耽りつつ第6章に突入。


 119. 物欲顛末記(03.11.29)

 ある時、ふと思い立ってやったことがここまで私を駆り立ててしまった。自分ではない何かによって予め決められていたかのような、運命とも言うべきことなのだろうか。だとしたら恐ろしいものである。…って、何と大げさな。

 「C-2」はしつこく言っているように「フォノイコライザー」として使っているだけだ。しかし本来はプリアンプなのは皆さんご承知の通り。そして我がプリメイン「E-406V」はパワーとプリに完全分離できる。実験してみたくなるのは当然と言えば当然、何故これまで全くしなかったか不思議なくらいである。

 早速実行に移した。ケーブルが一組あれば済む話なのだ。ささっと結線してプリメインのスイッチを「セパレート」に入れる。これで「C-2」の音が聞こえるわけだ。さてさて…

 その音に驚かされた。決してお世辞にも褒められた音ではない。レンジは上下左右ともに圧縮されたようになっているし、鮮度はがくっと落ちてしまった。しかし、そんな欠点を一笑に付したくなるようなこの中低域の重さはどうだ。多少ブーミーだがそれがどうした。ガッツがあり、音楽の楽しさがいっぱいだ。古いジャズにはこちらの方が良いかもしれない。

 それで分かったこと。プリは音を決めるかなりの部分にかかわっている。こんなに音が変わるのだ。面白いじゃないの。そうか、プリか。これまでプリなんてそんなに重要視していなかった。まあプリメインを使っているからそれはそうだろう。特にCDメインになった昨今、そんなに必要のないものかもしれない。プリメインアンプのプリ部なんてあるんだか無いんだか分からないくらい狭い場所に閉じこめられて窮屈そうにしている。さらに「ソースダイレクト」などと称してプリ部をスキップするスイッチのあるプリメインもかなり多いのだ。

 しかしアナログの面白さにはまり、プリの重要性がにわかに高まってきていたことは間違いない。そうなるともうたまらない。プリだプリだ。かなり良いところまで来たとは言え、どうしても細身の音というこの組み合わせの結果は改善できそうにない。もう少し、厚みが欲しいのだ。言わば足腰を強くしたいのだ。そのためにはプリなのだ、プリ。欲しいぞ

 一体何回プリと言う単語を連呼しているのやら、大体欲しくなったところで新品など買えるわけはないし、どうするのだ。中古で何か「ぽん」と出るのを待つしかないのか。どんなものがいいだろう。トランジスタか、真空管か。同じアキュフェーズにするか、それとも…

 例えばアキュフェーズならば「C-200V」といった往年の名機はかなり安い価格でゲットすることが出来る。しかし、あのブランドはプリアンプでもでかい、ごつい。何故パワーアンプでもないのにあれだけ大きいのか。もっとシンプルに、スマートにならないものなのか。

 惹かれるのは外国製の薄型プリだ。機能もシンプル、大変スマートで愛機「Perspective」ともマッチするだろう。ただ、音は実際どうなのか分からない。さすがにスピーカーはバックロードだし、あまり「眠い」音になってもらっても困る。いくら形がよくても肝心の音が好みでなければ仕方がないのだ。ゴールドムンドあたりになればそんなことは無いだろうが、中古でもかなり高価だ。

 このまま「プリ、プリ…」と念仏のように唱え続けていつしか飽きるのではないか、と自分でも思っていた。事実ちょっと前に新しいデジカメが猛烈に欲しくなって電気屋やパソコンショップを徘徊しまくっていたのだが、結局その熱は冷めているのだ。だがそんな矢先、出会ってしまったのだ。そう、それはまさに運命。

 いつものように「ハイファイ堂」をふらふらしていて見つけてしまったのだ。そのプリアンプは何せフロントパネルがだったのだ。サイドパネルやケースが木製というのは珍しくも何ともない。全体的に木を使用していることで有名なのはユニゾンリサーチだろう。とにかく、見た目は重要だ。「音さえ良ければ姿形はどうでも良い」というのは分からないでもないが、それではこの趣味を楽しむ上であまりにも寂しい気が個人的にはするのだ。ではあの自作スピーカー群はどうなんだって?いや、見た目も美しいと思うんだけど…駄目?

 それはともかく、このプリアンプのブランドは「Sound&parts」というらしい。商品名は「Live5」で、真空管を使っている。まあ、この姿形からしてそうだろう。さあて、どうしようか。あまりに不意打ちで出会ってしまったので、まずこの日は退散することにした。そして帰ってネットで検索してみると、あった。やはり、と言うべきかガレージメーカーの手作り製品だ。メイド・イン・ジャパンだ。かなりいい部品を使っているようで、好感が持てた。特にフォノイコ部には力を入れているようなので、そこが気に入った。よし、明日もう一度行ってみよう。もう売れてしまっていたり予約が入っていたら男らしくすっぱり諦めよう。

 どきどきの翌日。朝も早くから大須に登場。「Live5」は昨日と同じ場所にあり、「商談中」だとか「予約」だとかの札が付いていることは無かった。ふう。助かった。あるのだ。買うか?どうする?まあ待て。落ち着け。試聴せねば。

 意識が何かぶつ切りになってきたが、2階で試聴できることになった。もう一つ、比較対象としてアキュフェーズ「C-280」も聴くことになった。これは当時の高級機種だ。現在だと「C-2800」に相当するのだろうか。まずは本命、「Live5」から。試聴盤はこの日いつの間にかゲットしていたマイルス先生の「ワーキン」だ。

 おお、先生のトランペットが染みる、染み渡るぞ。いいねえ。聴かせる音だ。他の楽器が少しくすんで聞こえるが、これは真空管のウオーミングアップで解消できるだろう。ではしばらく電源は入れっぱなしにしておいてアキュフェーズに換えてみる。すると音は一変、全ての楽器が横一線できれいに整って鳴り渡った。いかにもアキュらしい、きちんとした鳴り方だ。しかもそのレベルはかなり高い。さすがである。しかし先程聴いたようなマイルス先生の「哀愁」が足りない。オーディオ的にはもの凄く良い音なのだが、語りかけてくる「何か」がもう少し欲しい。全体的にちょっときつい音かもしれない。それにしても面白いものだ。こんなに違うとは。

 アンプはそのまま、今度は最新録音のヴィーナスレコードをかけてみる。うーん、さすがベースのピチカートがくっきりはっきり。新しい録音の良さはしっかり出している。さあ、ここで選手交代。「Live5」の再登場だ。…おおお、とろみが出てくる。ベースはアキュに比べればくっきりと言う感じではないが、量感が出て来た。ギターの音色が親しみを帯びてきた。ドラムの皮っぽさが見えてきた。いや面白いなあ。今度は店にある試聴盤、クラプトンの「アンプラグド」を聴く。再びアンプはアキュフェーズにする。

 良い音だ。さすがロックの優秀録音盤。分かりやすく音が良い。2曲ほど聴いてまた「Live5」を。どうやらかなり暖まってきたようで、切れも出てきた。ようやく本来の音が出てきてくれたようだ。たまらんなあ。いつまでも聴いていたい音である。クラプトンのギターの響きと音色、渋いヴォーカル、こんないい「アンプラグド」を聴いたことが無かった。これに決めるしかあるまい。「ではこれで」

 そんなこんなで、我が手中に収まった「Live5」。これでC-2は引退というわけで、後日下取りの約束をしつつ大須を後にしたのであった。いや、一度戻った。レコードを買ったことをすっかり忘れていたのだ。


 120. 分離(03.12.11)

 そこそこ大きな買い物をして家路を急いでいる時間と言うのは、思い返してみるとずいぶん舞い上がっているものだ。よく事故など起こさないものである。これからも気をつけよう。それはともかく、今回も無事家に到着した。感謝。セッティングに早速掛かるのだ。

 設置場所はもう決めてある。MDレコーダーのあるところだ。ほとんど使っていなかったので何の問題もない。軽いからその時だけまた持ち出して繋げばいいだけのことだ。とりあえず、さらばMD。

 C-2の配線を解く。そして新たに「Live5」の配線を始めるのだ。色々ケーブルはあるが、自作が多いのでギリギリ(今風の言い方だと「ギリ」ですな)の長さになっている。設置場所や端子の位置で必要な長さが変わってしまうので、今回はかなり不便を強いられることになった。紆余曲折の末、プリ〜パワー間はアンテナケーブル(オルトフォン7N)で作ったものを、長さが必要になってしまったCD〜プリ間は古いパイオニアのものを、レコードプレーヤー〜プリ間は従来通りカルダスの「クロスリンク」を充てることにした。バランスケーブルが使えないのが惜しい。「Live5」のプリアウトにはバランスもあるのだが、さすがにプリメインであるE-406Vのパワーインはアンバラのみだ。いつかパワーアンプを買った時の楽しみに取って置こうか。

 実はこのプリ、昇圧トランス内蔵なのだった。ここが迷いどころではあったのだ。何せトランスは買ったばかり、勿体ないではないか。結局そういった逡巡を上回る魅力があったので購入を決めたわけだが。とにかくMCカートリッジもダイレクトに繋ぐことが出来る。Fケーブルで作った折り曲げ式単線ピンケーブルはまたマイナス側のケーブルがハンダ付けを者ともせずに剥がれてしまったのでとりあえず撤退。

 電源ケーブルは着脱可能だ。しかし余ってはいないので付いてきた普通のものを使う。本体もそこそこ丈夫な足が付いており、まずはそのままで設置してみる。言わば「素」の状態だ。これでまずはセッティング完成。

 試聴はレコードからだ。何せこのアンプはフォノが魅力のはず。先程聴いていた菅野録音の名盤「ダイアローグ」を。まだ真空管が暖まっていないかな…

 しかし出て来た音に思わず「わー、ごめんなさいごめんなさい」と叫びそうになってしまった。その力強いドラミングに驚かされたのだ。続くベースの唸りがそれはもう、ノックアウトですわ。だんだん暖まってきてさらに力は発揮される。とにかくパワーが横溢しているのだ。繊細なブラッシュワークにも力がこもり、それはミュージシャンのとでも言うべきものではなかろうか。いや恐れ入った。これまで色々グレードアップを重ねて来た中で、なかなか達成されなかった「濃さ、分厚さ」がここでようやく姿を現してきたのだ。うれしい。うれしいぞ、もの凄く。

 レコードの音が向上したことは明白。次はCDを聴く。うーん、確かに前述した「濃さ、分厚さ」はやはりあるのだが、若干鮮度が後退したように思えた。やはり「厚さ」と「解像度」は相反するものなのか。原因の一つはパイオニアのケーブルにあるのではないか、と考えた。このケーブルはどちらかと言うと柔らかめの音の傾向が強い。古いものなので特にそうかもしれない。もう一つはセッティングか。ここで「Live5」にインシュレーターを噛ませてみようか。C-2用だったタオックの「TITE25PIN」をここで登場させる。ボディに直接あてがう形をとるので少々不格好ではあるが、まあそんなに目立つものではない。近視だし。

 出て来た音はほぼ狙い通り。腰が落ち着いた、と言うか中低域にブレがなくなった。これだけでかなり締まってくるものだ。インシュレーターに敏感に反応するようでもある。いいぞいいぞ。濃さはあるのに鮮度感の高い音。特に生楽器の、何と瑞々しいことか。何と深い味わいを醸し出してくれることか。何と…そう、恥ずかしいセリフだが「愛」に満ちていることか。

 次はFケーブルをどこかに使って音を出してみたいが、今回はこの辺にしておこう。何よりも、この豊饒な音の宴になーんにも考えずに酔いしれようではないかっ。そんな気分にさせてくれるアンプである。



 121. 段階的に(03.12.25)

 プリアンプ「Live5」の導入で劇的な変化を遂げた我がオーディオ、何より音が「生き生きとしている」ことがうれしくてたまらない。生楽器の文字通り何と生々しいことか。しかし、更なるステップアップ目指して今回も色々遊んでみるのだ。

 まず、Fケーブル製ピンケーブルをやはりどこかで使いたい。どこか。考えた末決めたのはプリ〜パワー間だ。何せこれまでは無かった経路、どれほど全体に影響するのか大変楽しみではないか。まずは剥がれてしまったハンダ付け部を直さないと。ちょっと曲げたりしただけで太い銅線は引っ張られてハンダもろとも剥がれてしまうのだ。もう一度慎重に慎重に慎重にハンダ付けをしたものの、今度こそ剥がれないぞ、という自信は全くない。やはりFケーブルで作るピンケーブルはリスキーなのだ。あくまで自己責任で制作しなければならない。いつスピーカーをぶっ壊すことになるか、わからないのだ。

 さてさて、とにかく折角復活したのだから試聴だ試聴だ。プリ〜パワー間を接続し、そこで浮いたオルトフォンのアンテナケーブル製ピンをCD〜プリ間に繋ぎ、いつものソフトを鳴らしてみる。

 来たっ。思った通り太いよ、ぶっとい。ある意味「真空管らしい」分厚く、太い音が鳴り渡った。いやあ、復活させて良かった。少々太過ぎの感も無きにしもあらずだが、これは大変魅力的。まずは良いグレードアップとなった。

 お次は、電源ケーブルの番。付属ケーブルを替えてみよう。これについては色々迷った。アンプ&アナログ系でタップを統一しているのだが、このタップまでの距離が長くなってしまっているのだ。だから2メートルくらい長さが欲しい。さてどうするか…

 候補に上がったのは完成品としてはクリプトンが最近出した7000円くらいのもので、見かけは付属と変わらないが評価は高い。価格的にも試してみても良いかな、というものだ。自作するならばアクロテック改めアクロリンクの出したものや、AETが挙げられる。しかし何せ2メートル必要なので、意外に高価になり、自作のメリットが出にくくなる。そこで候補になってくるのがスピーカーケーブル。雑誌などでは色々まずいので掲載されないが、スピーカーケーブルを使っても燃えたりすることはまずないと言っていい。確かにシールド部分に紙などを使っているものは気分的に避けたいが、ほとんどはまず大丈夫だろう。そうしていくと、現在スピーカーに使っているカルダスの切り売り「クロスリンク」なども候補になってくる。

 しかし今回目に付いたのがオルトフォンの「SPK1000Silver」という、\1000/mで売られているスピーカーケーブルだ。これはコストパフォーマンスが抜群と言う評価もある。それに、網組シールドで覆われていることも電源ケーブルにうってつけだ。被覆が透明な素材なので、スケルトン構造で網組が見えるのもルックスを重視する私としては大歓迎である。これにしよう。何と言っても安いし。

 さてさてプラグの方は昔買ったものがそのまま転がっていたはずなので、コネクターを買わねばならない。フルテックの15番も何だか飽きてきたし、別のものにしようかとも思ったが、やはり高価である。そこでほぼフルテックと同価格のオヤイデ電気のものにした。形はオーソドックスなのでフルテックのようにごつくなくて良い。何せケーブルが細身なのでアンバランスにしたくなかったのだ。

 電源ケーブルの製作はこれで何本目になるのやら、とにかく何と言うこともなく完成した。ただ、プラグもコネクターも初めて使うものだった。オヤイデのコネクターは心線をネジで止める方式で、あまり太いケーブルはつらいかもしれない。前に買っていたプラグは「ブライアント」というメーカーのもので、あまりメジャーではない。「スペース&タイム」の電源ケーブルに使われているくらいか。少々個性的な心線の取り付け方ではあったが、格別難しいことはなかった。ブレードの部分がメッキ無し真鍮むき出し、と言うところに興味を引かれたのだ。「メッキ無しの方が有利な場合もある」という説もあるからだ。ただ、比較のしようがないところではあるが。

 完成した長い電源ケーブルを接続、タップにプラグを差し込む。かくして、出てくる音は見た目を裏切らないものだった。やはり中高域の伸びが際立っている。付属ケーブルでは物足りなかったギターの輝き、ブラッシュのサクサク感が出色、ベースのピチカートもくっきりだ。量感を増した中低域のパワー感はそのままで、若干締まる方向になってくれた。ケーブル自体はロープライスだが、効果はかなり大きなものだ。本来の使用法ではないにしろ、さすが評価の高いケーブルである。大成功だ。


 122. 電線七変化(04.1.8)

 画竜点睛ということわざがあるが、CD〜プリ間のケーブルが結局仮のものなのでこれを何とかしたかった。しかし最近身近にいいラインケーブルがなくて困る。しかもこれは1m程欲しいのでそれなりのケーブルとプラグを買うと値段もそれなりになってしまう。果たして自作のメリットはあるのか?という気にもなってしまった。最近は完成品ケーブルも質が上がっていて、そこそこの値段のものでも一昔前と比べるとずいぶん見た目にも高級そうに映る。それだけ人気のジャンルと言うことだろう。オルトフォン、アクロリンク、キンバーケーブル、サエク、MIT、みなそれぞれ魅力的だ。完成品もいいぞ…それに自分の下手くそなハンダ付けよりはよほど信頼も出来る(かもしれない)。どうしようかなあ…

 そんな中で偶然見つけたのがいわゆる「お買い得品」。半額のプライスタグが付けられていたのだが、それはオーディオクエスト「ダイヤモンドバック」だ。まだ型落ちと言うわけではないようだが、近い将来そうなるであろうモデルか。このブランドのイメージはスッキリ、クッキリといった現代的な音。そこのほんのりと艶が乗る…といった感じ。一度使ってみたかったブランドではあった。いいだろう、試してみようじゃないの。

 そんなわけでこの、大リーグみたいな名前のケーブルをCD〜プリ間に使ってみることにした。プラグも被膜の色もきれいなブルーで、見た目も非常に麗しい。ここが手作りケーブルと完成品の違いの一つか。もっとも自作でも手をかければいくらでもルックスの良いものができるのだろうけれども。プラグの形は曲線を描いており、ピンの先は銀色になっている。ロジウムメッキだろうか。1mあるので引き回しは楽だ。コレクトチャックではないが、締め具合は中くらいと言ったところか。きつくも緩くもない。あまりきついとをかくので、このくらいがちょうどいいだろう。心線は当然見えないが撚り戦ではなく単線を一本一本リッツ線にしたものなので柔らかくはない。さて試聴だ。

 いつもの「ルパン」や最近よく聴くマル・ウォルドロンの「ワン・モア・タイム」の2曲目などをかけてみる。予想を裏切ることはなかった。きりっと引き締まった中低域と、瑞々しい高域。そして低域の力感だ。これはなかなか筋肉質な、しかしスーパーヘヴィー級ではなくてクルーザー級、といったところか。スピーディーなのだ。ここがいい。

 しばらく楽しんでいたのだが、ふとした時に気がついたのがノイズ。特に右スピーカーから少しザラザラバチバチした雑音が流れているではないか。ノイズ自体はプリを加えてからはある程度は聞こえていた。スピーカーに耳を近づけない限りは気にならないが、やはり真空管と言うデバイス故だろうか、と気にしないことにしていた。逆にアキュフェーズの低ノイズさを物語る一つの例でもあったのかもしれない。とにかく今回のノイズは片チャンネルからでもあるし、気になった。もしや…と疑ったのがやはりFケーブル。右チャンネルの方を外してみると、外れてはいないまでも、わずかに接触しているという危険な状態になっていた。これでは時間の問題ではないかっ。怖いのでFケーブルはあきらめることにした。結局プリ〜パワー間には先程までCDに使っていた7Nアンテナケーブルを繋げた。音は、やはりFケーブルのような馬鹿力が出てこずに、まったりと大人しい音になる。せっかくケーブルを換えたのにこのままでは元の木阿弥。どうするか。

 そこで。ダイヤモンドバックをプリ〜パワー間に持ってくることにした。1mも必要のない場所だが仕方がない。ここに使うことで、CDだけでなく全てのソフトにオーディオクエストの音が加わることになるのだ。CDにはとりあえずフルカワのμ導体で自作したケーブルを繋げる。さてこれでどうか。

 おお、こうするとCDでもレコードでも艶やかさが加わることになった。何と魅力的。Fケーブルは男性的だがオーディオクエストは女性的と言おうか。しかしお色気だけではなく、実は頭も切れ、しかもスポーツも万能、それでいてツンと済ますことなく楽しく酒を呑んで騒げる女性…そんな感じなのだ。このプリアンプとの相性がいいのかもしれない。それにしても、このプリとパワーの間というのはずいぶんケーブルの影響度が高い場所だったのだ。またしてもケーブルの取っ換え引っ換えにはまりそうな予感である。請うご期待?



 123. 重い腰を上げて→腰が据わる。(04.2.1)

 
果たしていいことなのだろうか。

 前回のオーディオクエスト使用で、完成品の魅力を改めて認識してしまったことだ。だって金がいくらあっても足りないではないか。そうは言っても「次は、CD〜プリ間をどうしようか」などと考え、大体2万円以内のケーブルをピックアップしていくのは楽しくてたまらない。オルトフォンやアクロリンクも良いが、最近よく目にする「ゴーツ」なんて見た目も良いし、評判も良さそうだ。この前中古で出ていたのに、買い逃してしまった。やはり迷っても見つけたらすぐゲットしなければ意味がない。

 しかし、いつまでも仮のケーブルでは精神衛生上良くないのだ。何かに決めねば。考えた末、とりあえず「今一度」自作をしてみよう。それで気に入らなければまた考えればいいのである。自作をするならば、今回はとにかくローコストで行こう。そこで線材はコストパフォーマンスの高い、カナレのものを使う。型番は失念してしまったが、4芯スターカッド構造で被膜と心線の間には綿糸が、4本の心線の中心にはポリエチレンのヒモ(?)が入っており、アース線としてはドレインワイヤーも通っているが、さらにアルミ箔でシールドも施されている、という値段の割にはかなり凝った構造になっている。業務用として大量生産されているからこその価格設定だろう。プラグはほんの少し贅沢をしてモニター(ちょっと前まではモニターPCと呼ばれていた)のものを使う。グレーの被膜は見た目にも地味なので、FLチューブを被せよう。型番を忘れてしまったのは、そういうことである。

 4芯なので、2本ずつ撚り合わせるとそれなりに太くなり、ハンダ付けは少々やりづらくなる。それでもFケーブルに比べれば300倍は簡単である。FLチューブの切れ端を絶縁テープで処理したのが今一つ汚らしいが、とにかく「多少は」見た目も良いケーブルができ上がった。

 早速CDとプリを繋ぐ。ちなみにこのケーブル、片方はドレインワイヤーをフローティングさせてあるので、方向性はある。しかしチューブを被せてしまうとそれが分からなくなってしまうのでプラグに矢印を書いておいたのだ。矢印は信号の流れを表す。つまりCDからプリへと矢印は向いているのだ。

 試聴してみると、まずガッチリと安定感のある男性的な音、と感じた。オーディオクエストが女性的、と言ったのと反対かもしれないが、この中域のしっかりした癖の無い音はまさに口数は多くは無いが確実に仕事をこなす、といったタイプの誰からも信頼されるヤツだ。カナレは業務用ということでやはり信頼感がある。レンジの広さを誇示するタイプでは全く無いが、必要にして十分なレンジで、前述したように中域に厚みがあるので素直に「良い音」と感じさせてくれる。「基本」ケーブルとして1本は持っておきたいものだ。

 しばらくはこれで行こう。ただ、端子とケーブルの接合部がどうも頼りなかったので熱収斂チューブで補強した。絶縁テープの処理による汚さもこれでごまかすことが出来、一石二鳥だ。心なしか、音の方もさらにガッチリと腰が据わったような感触を得た。やはりぐらぐらしていたりする部分は音に影響を与えるのだろう。決して気のせいではないと思う。


 124. パンドラの箱(04.2.14)

 二兎を追う者は一兎も得ず、とはオーディオにも当てはまる名言だ。

 こういう音が欲しい、と念じてオーディオに取り組んでいくとたいてい矛盾した事柄に突き当たる。中域のコクが欲しい、分厚い音が欲しい、と思って試行錯誤していくと、キレが失われていくものだ。ここぞと言う時にはぐいっと切れ込んで欲しいものなのだ。「コクもキレも」などと言っていると大体どっちつかずの中途半端な音になりがちなのだ。

 しかし、しかし、だ。やっぱり両方欲しいのだ。欲しいものは欲しいのだ。まるでプラダを欲しがるギャル系女子みたいだが実際そうなのだ。趣味なんだからわがままで何が悪いか。

 やろうやろうと思ってなかなか出来なかったことがあった。現在のスピーカー「BH-1609ES」の内部配線はスペース&タイムの「エントラ」というものを使っているが、このケーブル自体の音は少々細身。このスーパーユニットの実力を完全には発揮しきれていないのではないか、と思い始めていたのだ。これを替えてみたい。厚みもありつつ深く切れ込ませたいのだ。

 なかなか出来ないのはやはり面倒だからだ。ユニットを取り外して古いケーブルのハンダ付けをはがしたり、ターミナルの端子板を外し…などなど考えただけで面倒だ。しかし、年末年始のお疲れモードから復活しつつある今ならばそれも楽しく行えよう。やるなら今だ。

 問題はケーブルをどうするか。そう簡単に付け直したりは出来ないものなので厳選したい。候補としてはS/AラボのSP2020、これは以前「オーディオベーシック」誌のケーブルレビューをした時に聴いた事があり、気に入っていた。他にはオーソドックスにベルデンでもいいだろう。スーパートゥイーターを使っているので格別高域が伸びている必要もないし、中域の充実感はやはり安心感がある。さらに最近気になっていたのがAET。「6N-14G」はSP2020と同価格だが、S/Aラボと同じ会社ということで、グレードアップヴァージョンと考えても良かろう。未聴ながら興味は強く、これを使ってみることにした。直感を信じてみよう。

 このブルーの被膜を持つケーブル、決して細いとは言えないもので、柔らかくもない。だから実際には内部配線には向いていないかもしれない。中で折れ曲がるので端子などにストレスがかかってしまうからだ。しかしそう言ったデメリットを承知の上でこれに賭けてみるのだ。

 まずは首の部分を「パイルダー・オフ」して後ろの端子板を外す…のだが製作時に面倒くさがってブチルゴムテープで貼り付けていた端子板、ヘラを使ってぐいっとやるとどうだろう。めりめりめり…と本体のベニヤを道連れにしてくれた。き、汚い。まあ、ネジ留めにしなかった報いだろう。仕方ない。気を取り直してターミナルからケーブルを外す。ターミナルと「エントラ」はネジ留めだったのでこれは楽だ。いよいよユニット側である。片チャンネル8つもあるネジを緩めていく。そして重い重いユニットを外す。ごとん、ごとんと音を立てながら限定ユニット「FE-168ES」の巨大なマグネット部が姿を現す。端子にハンダ鏝を当て、ケーブルを引っ張って抜いていく。かくして準備は万端。

 いよいよAETの出番。被膜を剥き去ると中身の詰まった芯線が現れた。これは端子に通すのが一苦労だな…と思い、端子の穴をドライバーで少々広げてみた。そうして通してみたがまだスムーズには行かない。そこでいったん芯線の方をハンダ上げしてそれぞれの線がばらけないようにした。すると簡単に通すことが出来る。しっかり端子にハンダ付けして再びユニットをネジ留めする。「良い音出してくれよ…」と願いを込めて。

 もう片方も同じようにしていよいよ音出し。いつもの試聴盤は「ルパン」「ジャシンタ」「ノラ・ジョーンズ」「パット・メセニー」などなど。

 最初の印象はずいぶん硬質な音だな、ということ。粗くてがさっとした感触がある。高域にきつさもかなり感じられた。これに失望してはいけない。エージングが必要なわけだ。それでは、と外出中も不審がられない程度に鳴らしっ放しにしたりなどしつつこなれるのを待った。

 次の週になって聴いてみると粗さやきつさがほぐれ、充実感のある音を聴くことが出来た。低域は明らかにレンジが拡がり、特にそれは力強さとなって表現された。Fレンジが伸びているので目立ちはしないが中域の厚さやコクもレベルアップしている。そのためか、同じヴォリュームだと音量が上がっているような感触もある。まだ高域に若干のきつさを残しているが、これはまだまだエージング不足と見ていいだろう。

 何より向上したのは音場感。前後左右に音が整理されているのだ。ヴォーカルはびしっとセンターに小さく、左右の音もスピーカーに張り付くことなく鳴っている。特に前後感は今まであまり無かっただけに驚いた。ケーブルだけでこんなに変わるのだ。特にユニットに最も近いだけに変わる要素が大きいのだろう。やはり新しいケーブルは単純に低音だの高音だのと言ったファクターだけでなく、こうした面の改善も著しいのだ。また色々な部分でケーブルを替えてみたくなってしまうではないか。


 125. ナチュラル志向(04.3.17)

 音場感。特に最近のオーディオ界では重要視されているような感がある。

 何せ「低音がどうの、中高域が云々」などと言っていてはまだまだオーディオ初心者らしい。左右に拡がるだけでなく、前後感も大切なのだ。そしてビシッと決まる各楽器の位置。ヴォーカルがそこにポッカリ浮かび上がる。これなのだ。

 前回内部配線を変更したことで大きく向上してしまった音場感のレベル。思わぬ効果であったが、やはりその魅力は計り知れない。なるほどみんな夢中になるわけだわい、よしこれを追い込んでいくのも面白いのではないか…

 などと言っていてもこれは機器だけの問題でもないのだ。部屋の問題もかなり大きな要素だ。これまた近ごろ流行のルームチューンというものに話が進んでしまう。まあ待て、落ち着け。こんな汚い部屋では何かを変えても散らかっている本やらレコードやらCDやらの影響の方が大きいのではないか。

 そんな時面白いものを見つけた。アコースティック・リバイブから出ている「ピュアシルク・アブソーバー」というものだ。「ごきげんよう」に出てくるサイコロみたいな箱の中身は綿のような吸音材なのだが、材質がその名の通りシルク、つまり絹なのだ。シルクロードを連想するか、イタリアの派手なネクタイを連想するかは人それぞれだが、とにかくあの高そうな天然素材なのだ。

 前から吸音材には自然素材が良いのではないかと思っていた。合成繊維、合成樹脂で出来たものはどうも信用できない、と言うか体に悪そうではないか。特にグラスウールなど本当に肺に良くない。確かに合成ものの方がばらつきが少ないだろうけれど、天然繊維の持つ風合いやイメージはいかにもナチュラルな音がしそうではないか。アコースティックな音には効くのではなかろうか。

 マニュアル(と言ってもペラ紙1枚)には電源タップのコネクター部や機器の接続部分にふんわりと置く例が載っている。まずはこういう使い方で行くか。と、早速タップのコネクタ部分に少し取って置いてみた。

 違いは…うーん、わからん。もう一つのタップにも同じように使ってみたが、やっぱり分からん。では次は、とアンプとCDプレーヤーの電源コネクタの下に置いてみた。結果は…うーん、まあ少々ノイズっぽさが減ったような。繊細感が増したような。いずれも「ような」としか言い様が無い。まずい。失敗したか。

 まだインターコネクト部には使用していない。まずはレコードプレーヤーのコネクタにくるりと巻いてみた。するとどうだろう。楽器の分離感が増し、見通しが良くなったのだ。鮮度感も高くなり、音場感のレベルがまた上がったようだ。さらに、レコードをターンテーブルに乗せたり外したりする時スピーカーから「ぱちっ」という静電気らしいノイズが出ていて気になっていたのだが、それが無くなった。これはいい。やっと効果の表れる個所があった。良かった良かった。やはりアナログ周りは変化や効果がわかりやすい。この吸音材は思い切って部屋のどこかに「どかん」と盛り上げて置く、といったようなやり方が効果的かもしれない。しかし、見栄えが今一つなので実行しなかった。実行して効果的でもそれはそれで何だかいかにも「オーディオ対策してあります」みたいではないか。まだ沢山あるので、ゆっくり思いついたところに使っていこう。


 126. 見栄えにこだわる(04.3.29)

 もう少しで無くしてしまうところだった。

 それは青春時代の想い出…なんかでは当然なく、スピーカーユニットである。フォステクスFE83E、サラウンドのリア用を作ろうと思って買っておいたものだ。テレビの下にあるフロント3チャンネル&マトリックス切替自由自在スピーカーを作ってからもう1年半が過ぎてしまった。いつまで経ってもサラウンドは試してもいないわけだ。やれやれ。だって忙しくってさあ…

 今だって決して暇ではないが、一頃と比べればかなりマシ。大体こんなリア用スピーカーなんてあっという間に出来るではないかっ。お、そうだ、待てよ。せっかくだからたまには小奇麗な仕上げをしてみようか…

 そう思ったのが運の尽き。小さな小さなスピーカー1セット作るのにずいぶんな時間を費やしてしまったのであった。まあ、それは結果の話ではあるが。

 設計と言うか、構造自体はもうほとんど決まっていた。フロントスピーカーの1チャンネル分とほぼ同じ寸法で作るのだ。ダクトは背面にスリットダクトという形を採る。リアスピーカーだからあまり凝った構造やら、大きな容積の箱は必要なかろう、という判断だ。ただ、サブにも使おうとも思ってはいたので、決していい加減なつもりはなかったがフロントスピーカーの鳴りっぷりが良かったこともあり、これで行こうと決めたのだ。

 さて、どう「小奇麗」にするのか。今回はなるだけ角を落とすことに力を入れよう、と思い立った。ただのラウンドバッフルでは面白くない、最近のB&Wだのといったスピーカーみたいに、楕円を描くようなやつが理想だ。しかし、いきなりそれは無理だろう。考えたのが階段状に薄い板を側面および上面に貼り付けてそこをやすり掛けする、というやり方だ。それなら出来そうな気がする。

 材料は加工のしやすさということでMDFを選んだ。フロントバッフルとリアバッフル、そして底面には15mmを使い、側面と上面は5.5mmを3枚重ねるという方法を採ることにした。カットはハンズに依頼し、そしてチャッチャと組み立て…と。あれ。寸法間違えた。久し振りだったからなあ、自分で設計するのは。底面の長さが少し足りなかったのだ。しかし何と言う偶然。逆にリアバッフルが長過ぎたのだ。リアを削ってその分を底面に足せばピッタリ。うーん、おれって天才(違)。

 階段状に少しずつ寸法を減らした板を側面と上面に貼り付けていく。…あれ。また違った。上面の板が小さ過ぎた。これは誤魔化しようもなく、結局翌日ハンズで新たに板を少々購入することにした。前途多難だな。しかし、後から思うとまだまだこんなもんではないのだ。

 とりあえず箱は完成した。階段状になったその形、これはこれで悪くないな。何だかギリシャの古代建築みたいで。それに、だ。こうして完成したものを見てみると、1cmの段差になっている。こんな大きな段差では削っても絶対に平らにはならないではないか。やっぱり頭の中だけで描いた想像図では上手く行かないものだ。どうしようかなあ。このままで完成させてしまおうかなあ。それならばすぐに音も聴けるし。

 ところが、神の声か、悪魔の声か、「この段差に木工パテを塗り込んで行けば、うまく削れるよ」とたまたま家を訪れた友人がささやいた。なるほど。何だかますます深みに嵌まっていくような危機感をうっすらと感じつつも、そのささやきに乗ってみることにしたのであった。


 127. 職人?への道(04.4.12)

 とにかく木工パテだ。チューブに入っているヤツを2本購入してきて、早速階段状の部分ににゅるにゅるにゅると塗ってみる。付属のヘラで均してみるのだが、なかなか上手く行かない。硬化が少しずつでも進行しているので、でこぼこでしかも波打った状態になってしまう。まあいいや、もう一度厚めに塗ってやれ。などといい加減な作業をしている内にあっという間に一本使い切ってしまう。これはいかん。2本では足りそうにないな。まずは乾燥させねば、と切りのいいところで作業をやめて自然乾燥させる。

 翌日。うわ。ひびが入っているではないか。パテ埋めをした部分が水分が乾いたことによって起こってしまったのだ。確かに元々ちょっとした穴や凹みを修正するためのものだ。どうやら何度も塗り重ねないと駄目のようだ。この状態で塗り重ねるのは比較的楽だ。ある程度土台が出来ているからだ。とにかくやすりをかけられるまでには持っていこう。

 なるべく次の休みにはやすり掛けに持っていきたいので、平日の寝る前のちょっとした時間を利用して徐々にパテ埋めを進めていった。しかし、結局ずいぶん汚い状態。まあ、それでもやすり掛けをすればいいのだから。気楽に行こう。

 そしてそして、待ちに待った休日がやって来た。あとは削るだけだ、と久し振りに電動サンダーを持ち出して、庭に出た。爆音を響かせてサンダーが唸る。よおし、行けえ。とばかりにサンダーをエンクロージャーに当てる。爆音にかん高い音を混じらせて削れていく。良いぞ良いぞ…と思ったのもつかの間、「ばさばさばさばさ」と異音を発しだしたのでびっくり。止めるとサンダーに取り付けていたサンドペーパーがボロボロにちぎれてしまっていた。なるほど、ひどいでこぼこで突起状にさえなっていた硬化したパテによってペーパーが負けてしまったのだ。もっと丈夫なヤツを奮発するべきだったか、と思ったがそれでもこの結果にはなっていただろう。と言うより、サンダーでは削っている感触がどうも分かりづらかった。粉塵も凄いのでよく見えないということもある。少し迷ったが、電気ものは諦めることにした。こつこつマニュアルでやって行こう。手の感触が大切に違いない(?)のだ。

 一番粗いサンドペーパーを板きれに巻き付け、ゴシゴシと磨いていく。その前に肥後守で突起状になったパテを削っておいた。これで作業はかなり楽になる。それでもいつの間にか暖かい日差しを感じる季節になっており、これを作り始めた頃はまだかなり寒かったはずだが、と経過した時間に感慨を覚えながら汗をかいた。

 もう少し細かい目のサンドペーパーを掛けていくと、かなりいい感じになってきた。しかし残念ながら、これで完成と言うわけには行かないようだ。かなり削ることは出来たものの、逆にパテ埋めがかなりでこぼこであったことを露呈してしまい、穴だらけと言う状態になってしまったのだ。仕方がない、ここをまたパテで埋めて行く他あるまい。どうやらまた完成は次の週にお預けのようだ。いやはや。

 結局この週もパテ埋め。穴の開いた部分をパテ埋めしていくストイックな作業だ。この頃になると「こつ」を憶えてきたのか、ヘラですくい取ったパテを穴の開いた部分に塗り付けて均していく、というテクニック(?)を使えるようになり、我ながら上手く平面が出せるようになってきたと思う。こうなってくると楽しいったらありゃしない。マーガリンを塗りたくっているような気になりながらも美味しそうな香りは全くない、むしろパテの匂いのせいでかなり健康に悪そうな状態での作業は毎晩、少しずつ行われたのであった。

 そしてまた休日がやってきた。今度は行けるだろう、との確信を抱きながら慈しむようにペーパーを掛けていく。だんだん細かい目のものに切り替えながら、その確信は自信にも繋がっていく。ささくれが出来そうなままで強引に仕上げてきたこれまでのスピーカーに比べて、何と美しいことか。普通ならこれくらい角を取るよ、と人から言われるかもしれない。でもいいのだ。自分でもここまで出来たことがうれしい。途中もう止めようか、とも思ったが続けて良かった。ものを作る喜び、言葉にすればよく言われる使い古されたものだが、やはりそう言わざるを得ないではないか。

 さて、これでまだ終わりではない。色を塗らねば。そして当然、ユニット装着なのだ。


 128. 青は藍より出でて(04.4.23)

 あなたの色は何色?

 などと酔っぱらうと必ずそんなセリフをのたまう上司はどこの世界にでもいるのだろうが(いないか)、自作スピーカーに色を塗る時はその人の個性が必ず出るはずだ。それにしてもこれまで様々な色にチャレンジしてきた。オレンジ、グリーン、ブルー、ブラウン。まあ、コーディネート的にはやはりブラウンが一番しっくり来るのだが、オレンジなどはやはり好きな色なのでまた使いたいところだ。しかし、今回はブルーである。なぜか。別にブルーな気分とは関係はない。車だ。そう、今年遂に買ってしまった新車「ist」はダークブルーなのである。この色にしよう。新車購入記念だ。どうだっ。

 そんなわけでペンキを探しだ。「ネイビー」の缶を見つけてこれだろう、と迷わず購入したのだったが、いざ開けてみると何と!「青い」。きれいなコバルトブルーではないか、これは。ネイビー、ってもっと濃いだろ、普通。ネイビー、って藍色のことだろ、一般的には。

 ずいぶん車とは違う色だが逆にこれはこれで良い色だ。まあいいや。結果オーライと言うことでざくざくと完成したエンクロージャーに刷毛をぶつけていく。いいぞいいぞ。例えるのは難しいが、角を落とした姿と相まって、「fra○cfr○nc」あたりに売っていてもおかしくはないおしゃれな雰囲気が出て来たぞ。…自画自賛し過ぎである。

 お次はユニット装着なのだが、その前に吸音材も少し入れておこう。この前買ったアコリバの「ピュアシルク・アブソーバー」を少しつまんで貼り付けておく。さらにユニットの方もフレームに鉛テープを貼って制振を施しておいた。内部配線は先日までメインの方に入っていたスペース&タイムの「エントラ」を使う。ケーブルのエージングは済んでいるわけだが、あんまり関係ないか。

 ハンダ付けを済ませると時刻は6時半、夕方から夜になろうとしていた。間に合った。ようやく音出しができる。完成した姿は苦労して角を削ったおかげでユーモラスな、愛嬌のあるスピーカーになった。青いエンクロージャーと白いコーン紙のコントラストもいいじゃないの。さて音の方はどうか。「すーぱーらわん」用のスタンドを用意して間には浮いていたJ1プロジェクトのインシュレーターを挟む。これにした深い意味はないが、ちょうど青いのでコーディネートという感じで。いつもの試聴盤をかけていこう。

 小ささを感じさせないど迫力の重低音が…なんてことは当然、無い。これは予想通りだったが、それにしても出ないな。中低域もあまり出ていないようだ。ただ、まだがさついた感じが全体的にするのでこれはエージングで解決するだろう。とは言っても最初から中低域が十分出ていた87Eとは音のキャラクターがかなり違うものだ。ほぼ同じ内容積なのでそれが良く分かる。やはりこの2つは別々の箱やダクトの計算が必要であったか。しかし、ここまで来たのだ。何とかこいつで頑張ってみようじゃないか。

 その日はギリギリまで鳴らし込み、平日も出来るだけ鳴らすようにしておいて翌週の休日がやって来た。…何だかこのシリーズはすぐ翌週を迎えてしまうな。適度な音量で鳴らしてみるとエージングは進行していてなかなかいい感じになってきていた。思わず「ふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜っ」と大きく息を吐き出していた。いやあ、正直なところホッとした。一時はどうなることやら、と思っていたからだ。がさつきはほぼ無くなり、繊細な高域を出している。低域および中低域はユニットのキャラクター的にはカチッと締まった小気味の良い音なのだが、最初に比べると低域の「ずうん」という鳴りが出てくるようになった。例えば、ウッドベースが最初は弾く音しか出ていなかったのが、胴鳴りも響いてくるようになったのだ。これは大きな前進だ。まだまだこれから鳴らし込んでいけば良くなっていくだろう。

 やはり得意とするのは女性ヴォーカルだ。ノラ・ジョーンズがポッカリと浮かび上がってくる。一生懸命角を落としただけあって、音場感は素晴らしい。珍しくリアダクトにしたことも一役買っているのだろう。

 まずは完成したことを素直に喜ぶとしよう。現在は夜聴く時のサブとして、女性ヴォーカルやピアノトリオなどを堪能している。本来の目的であった、サラウンドリアとしても使ってみたい。


 129. レコード時代の到来(04.5.9)

 …だってそうでしょう、本当に。こんなにコピーコントロールやら輸入規制法案やらの世の中。そんな世間のしがらみから離れてゆっくり音楽を楽しむにはやっぱりレコードなのだ。間違いない。

 それを後押しするように、今回ブルーノートからレコードで久し振りの復刻が登場したのだ。しかも、CDと同じようにルディ・ヴァン・ゲルダーのリマスターである。こんなにワクワクさせてくれる商品はまたとあるまい。とりあえず、3枚ほど予約を入れてしまった。予約してまで手に入れようとすることなど、自分にとっては滅多にないことである。

 そうして手に入れたのがど定番「Somethin' Else/キャノンボール・アダレイ」「Cool Struttin'/ソニー・クラーク」「Swing, Swang, Swingin'/ジャッキー・マクリーン」だ。前者2枚はヴァンゲルダー氏リマスター盤をCDで持っている。でも買ったのだ。

 やっぱりレコードの大きなジャケットは満足度の高さはCDの比ではない。CDも紙ジャケブームでそうなっているものを多く持っているのだが、言わばレコードの縮小コピー、太刀打ちできるわけがない。大きいことは良いことなのだ。

 CDで持っているものを買った理由はもう一つある。そう、聴き比べだ。現在でも両方持っているものもかなりあるのだが、それはCDの方が音が良い場合になる。例えばリー・モーガンの「サイドワインダー」。このCDは最新のヴァンゲルダー氏リマスター盤で、レコードの方は国内盤(キング)だ。CDがヴァンゲルダーではない、以前のものになるとレコードの方が勝る結果になる。何せ今回はレコードもヴァンゲルダー、同じ傾向の音になるのかどうなのか、かなり気になる聴き比べなのだ。

 音質の良さでも名高い名盤「Somethin' Else」、これを特に聴き比べてみよう。まずは前から持っていたCDを聴き、次にレコードをターンテーブルに乗せる。果たしてその違いは如何に…

 レコードはさすがの厚みを見せつけた。ベースの腹に応える響き、そしてマイルス先生やキャノンボールの吹くペットやサックスの何という生々しさか。音圧、と言うのか本当に音の持つ圧力を肌で受け止める感じだ。CDの方は確かに整って締まりのある良い音なのだが、やはりレコードの持つ「厚み」は出てこない。現代的と言えばそうかもしれないが、やはり線が細い印象をどうしても受けてしまう。シンバルのシャキッとした感じはCDの方が出ていたようだが、総合するとレコードに軍配が上がる。同じヴァンゲルダー氏のリマスターでもCDとレコードではこれほど違うのか。レコードのカッティングは名手である小鐵徹氏で、ここのプロセスでもかなり音決めの重要な位置を占めていることが窺えて面白い。

 他の2枚もほぼ同じ結果であった。さすが敢えて今レコードを再発するにはやはり並大抵の音では受け入れられないだろう。まさにレコードファン向けの、お勧めアイテムだ。

 ふと思い出した。このプリアンプ「Live5」にはMMポジションもあったのだ。リアパネルにはセレクタにない端子が一つ余っていたので何だろう、と思ってSound&Partsにメールで問い合わせたところ、そういう事のようだ。ここに昇圧トランスを繋いでみようか…買ったばかりだったのに引退の憂き目に遭いそうになっていたオルトフォンのトランスが再登場と相成った。

 果たして、出て来た音は悩み多きものであった。これもまた、いいのだ。大人しかったシンバルが主張を始め、床鳴りが大きくなるほど低域のレンジが拡がった。ドスッと来てメリハリのしっかりしたレンジの広い音は、さすが純正組み合わせだと納得させられるものがある。一方、プリ内蔵のトランスも中域主体の上品でしかも芳純な鳴り方をする。結構かまぼこ型のバランスも好きなのだ。ただ、とりあえずしばらくはトランスを付けて鳴らしてみよう。こうなってくるとでは内蔵トランスには別のカートリッジを付けて試したくなってくるが今は103しかないし、取り換えも大変面倒。しかしトランスの付け替えでここまで楽しませてくれたのは意外と言えば意外だった。いささか横道にそれてしまったわけだが、それでもアナログの面白さを再々再認識。いやいや、止められないですな、これは。


 130. メイド・イン・ジャパン(04.5.27)

 一口に「オーディオをグレードアップする」と言っても様々なアプローチがある。

 それは中古屋で偶然見つけたアンプだったりするし、気になる部分を改善しようと積極的にセッティングやケーブルを替えたりすることだってそうだ。当然「これが欲しい!」とばかり、贅沢をせずに金を貯めて高額なハイエンド機器を購入する事も挙げられるだろう。

 さて今回は「このケーブルをどこかに使ってみたい」という欲求である。それもありだろう。実験的ではあるが、上手く行けばグレードアップになる。行かなくてもネタにはなる。最高ではないか?

 そのケーブルとはAET。先日スピーカーの内部配線に使用したものもそうだったが、新たに購入したのは「HIN TWIN」というやつだ。これはスピーカーケーブルにも電源ケーブルにも使えるもので、上級タイプには4芯の「HIN QUAD」がある。ケーブル界もカルダス、ワイヤーワールドなど海外製品も多いが、AETは日本製。ただ日本のブランドと言うだけでなく、あくまで日本で作ったことを「売り」にしているブランドでもある。つまり雑な部分がなく、精度も高くて緻密に作り上げられているということだ。考えてみると日本の会社であっても本当の日本製というものはずいぶんと少なくなってしまった。このケーブル一本で某国営放送の人気番組のように、世界に冠たる日本の技術の一端を窺う事が出来るのだ。

 このケーブルを1m購入した時点でどちらのケーブルとして使うかは決めていた。と言うかこの長さでは電源ケーブルにするしかないのだ。どこに使うか。やはりテーブルタップから壁コンセントに繋ぐケーブルが最も効果が分かりやすいだろう。ここだ

 現在はCSEのケーブルを使っているが、単価はこちらの方が高い。しかし、ケーブルの世界は日進月歩。安いからと言って決して侮れないはずだ。4芯の「QUAD」にしなかったのは値段の事もあるが、雑誌の評価も「TWIN」の方が解像度や透明感などここのケーブル「らしさ」が良く現れているようだったからだ。まあ、端末の処理もしやすいし。

 ケーブルが決まれば次はプラグ。インレットプラグはもはや定番となったフルテックの「FI-15(G)」にした。ここに繋ぐオヤイデのシャーシで作ったタップには金メッキのインレットを付けている。経費節減の意味もあるが、金メッキ同士の方が相性が良いだろうという判断もあっての事だ。コンセントプラグの方は色々迷ったが今回試してみるのはフルテックの「FI-11M(Cu)」という、刃(ブレード)の部分がメッキ無しの銅(OFC)になっているものだ。メッキによって音の傾向が変わってくることは定説になりつつあるが、これは好みの範疇で語ることであるので、メッキ無しと言うのもありということになるわけだ。確かにレヴィトンのホスピタルグレードの音がいいのはメッキがしていないからだ、という説もある。ちなみに銅むき出しの音は雑誌のレヴューによれば元気の良いタイプとの事。ジャズ、ロックにはピッタリだろう。

 フルテックの製品の良いところは作業がしやすい事。特に何の苦労もなく電源ケーブルを1本作る事が出来る。作ってしまってからメッシュのチューブでも被せれば良かったかな、とも思ったがまあいいや。確かにこのケーブルの製品版はメッシュが被せられていた。

 早速ケーブルを付け替える。CSEのものと比べると若干細いのだが、CSEは3芯構造なのでその分太いのであり、1本はアースなので実質必要ないのだ。壁コンセントのFIMはガッチリと刃をくわえ込んでいるので抜き差しには力が要る。特に狭いところに手を伸ばして引っ張ったり押したりするのは意外に酷だ。時期も時期、少々ばみながら手を伸ばしてケーブルを取り換え、さあさあお待ちかねの試聴だ。

 最初はそれ程変わるものかな、という気分でもあったのだが、いやいや、これはなかなかどうして。じつに鮮度の高い、瑞々しい音が出てきたではないか。音量自体が上がったようにも感じられる。力感の付いた中低域、さらに下の低域も解像度が上がってきたようだ。どちらかと言えば全体的に締まる方向のようで、それは予想通り。しかし禁欲的な音ではなく、むしろ陽性の元気の良さを十分に感じさせてくれるのだ。解像度を上げる要素はケーブル自体にあって、元気の良さはプラグからだろうか…などと考えてみるものの、実際にそれはわからない。さすがに色々プラグを組み合わせて聞く、という雑誌の特集みたいな事は出来ないのだ。ただ、このプラグの良い意味での「ドンシャリ」さがプラスに働いているような気はする。

 ともかく、この電源ケーブルは大成功。もう戻れない。しかし、だからと言って全てをこのケーブルにしたらまた印象も変わってしまうだろう。この場所に、一部に使ったからこそいい味が出たに違いない。あくまで組み合わせなのだ。…でも他の部分にも使ってみたいなあ。


 131. 上流からどうぞ(04.6.11)

 以前も似たような事を書いた気がするが、すぐやろう、すぐやろうと思っていても結局後回しになってしまうといったような事は枚挙に暇が無い。雑誌の記事で「これ」を発見した時も「これはいいぞ、やってみよう」と威勢よく自分勝手に盛り上がっていたものだ。しかし。そんなこんなで2年近く経ってしまったのだ。

 それはコンセント・ベース。東急ハンズで加工した板を壁コンセントと壁の間のインシュレーターとして使うのだ。これは画期的だったが、十分文系の私にもイメージとして音が良くなりそうなものだった。確かにコンセントを壁に取り付けている部分と言うのはいかにも心許ない。特に現在かなり力を入れないと抜き差しが出来ないコンセントになっているので、何度もやっているうちに根元から破壊してしまいそうなのだ。試してみる価値は十分にあるだろう。

 今回試す事になったのはこれまた偶然、中古の市販コンセントベースを入手する事が出来たからだった。なかなか実行できなかった一つの理由に、自作するか市販のものにするか迷った事もあるのだ。やはり自作派としては…という思いは当然ある。しかし市販のものの方が当然楽だし、ネジ穴も最初から空いている。自作を選ぶとネジは現物合わせになるからかなり面倒だぞ…という思いもあったのだ。

 とにかく、手に入れたのはアコースティック・リバイブの「CB-1」というもの。金属製でずっしりした重さを感じさせてくれる立派な作りだ。ただ、中古の悲しさかネジが付いていなかった。持っていた2.6ミリ径のネジを付けてみると緩い。それでは、とホームセンターで3ミリのものを買ってきた。奮発して(と言っても¥60が¥120になる程度だが。でも倍は倍だし。)ステンレス製にした。真鍮やクロームメッキの物に比べて、おそらくこちらの方が余計な響きを抑える効果もあるのではないかと言う期待も込めて。

 問題は作業スペースの狭さだ。ラックを出来るだけ前に出し、後ろに回る。しかしスピーカーがでんと居座っているのでしゃがむ事が出来ない。部屋の隅に今ではただ置いてあるだけの「スワン」に腰掛けるようにして作業に取り掛かる。コンセントを取り付けている長いネジを外し、「CB-1」をくぐらせてそのネジで壁と固定する。そして固定されたベースにコンセントを4本のステンレスネジで留めるのだ。壁との取り付けネジは沈むようになっているので、コンセントとは直接接触しない。ここがミソだ。広い場所があれば何て事のない作業なのだが、何せ狭くて良くネジ穴も見えない状態なのでやりにくいったらありゃしない。蒸し暑くなってきた今日この頃、当然がぽたぽたぽたぽたと流れ落ちる。冗談抜きに溜め池のように汗を床に落としながら何とかコンセントを固定し、プレートを元通り取り付けて終了。プレートは付けない方が音には良いというのが現在のところ定説だが、何だか精神衛生上よろしくないし、すきま風が吹きそうだし、そこからゴキブリでも出て来そうな勢いなので取り付ける事にしたのだ。また別の素材を探して試してみても良いだろう。

 脱水症状になったような気分だが、音を聴かねば。夏はこれから。こんなことでヘロヘロになっていてはいけない。試聴盤CDはジャシンタ、ノラジョーンズ、ルパン、マルウォルドロンなどなど。レコードはイエス「こわれもの」、スティーリーダン「エイジャ」、ビートルズ「ネイキッド」、「ベース・オン・トップ」などなど。

 音が出た途端、これは明白に違いは出てきた。クッキリ、ハッキリとメリハリのある音だ。ベースのゴリッとした感触がたまらなく、ピアノはピンとエッジが立っている。低域の量感は増してもキリッと締まっているのでぶよぶよしないのだ。全体的に音数も増えたような感触があり、高域も伸びているようだ。そのせいか、若干シャカシャカした感じになった事も否めない。ただこれは対策で何とか出来そうな範疇だ。とにかく音圧の上昇でボリュームが上がったような感覚なのだ。絞ってもエネルギー感が衰えない。雑誌に「激変だ、激変だ」と書かれていたのは間違いではなかった。

 コンセント自身のわずかな振動を抑制される効果もあるのだろうが、壁から伝わる振動を抑える事が大きく効いているような気もする。連続で電源関係の対策を行ったわけだが、確かに奥の深さを味わった。「上流が大切」ということか。


 132. どこまでも続く電線(04.7.10)

 「一時しのぎ」にやった事でも「まあいいか」とずるずる時が過ぎてしまう。企業でこれをしてしまうと色々と大変な事になってしまう事は最近の例でも明らかだ。しかし、個人の趣味なんだから別にどうと言うことも無い。暇が出来たらやればいいのだ。

 そんなわけでケーブル。今回は昇圧トランスとプリアンプ間なのだ。結局プリ内蔵トランスを使わず、オルトフォン同士という相性の良さを選択しているわけなのだが、そこにはオルトフォンのアンテナケーブルで作ったものを接続している。これはこれでバランスは良好なのだが、替えればもっと良くなるのではないかと言う気がしていたのだ。と言うのはこのケーブルをプリ〜パワー間に使った時の線の細さが、どうにも引っ掛かっていたのだ。高域の伸びたような澄んだ音を出すが、少々パワー感に欠けるようなイメージ。それに一芯同軸という構造も気になっていた。デジタルケーブルならば良いのだが。

 しっかりしたオーソドックスな二芯同軸構造のケーブルを使いたい。何を試そうか。今まで使った事の無いものを試したいのだが、選択肢はそれ程多くはない。構造上スピーカーや電源ケーブルよりも高価になってしまう場合が多く、プラグに掛かるコストを含めると完成品を買ってもそれ程変わらなくなってしまう事もあるのだ。

 そういった中でコストパフォーマンスに優れていそうなものを見つけた。オーディオクラフト「KX」という青い半透明の被膜に覆われたケーブルだ。完成品も出ており1m1万とちょっとなので、2m買って¥4,000でお釣りが来るケーブルのみの価格はお買い得と言えよう。あとはプラグを大須のパーツ屋で手に入れれば作るだけ。

 オーソドックスな2芯同軸構造で、インターコネクトケーブルとして作るのはそれ程手間はない。導体は6Nと4Nをミックスさせたことで、高純度銅線の長所である高域への伸びと、OFCの長所である中低域の充実感を両立させたという特長がある。同社はコストパフォーマンスに優れたスピーカーケーブル「KLX」も出しているが、これも同様の特長を持っていて、さらにタフピッチ銅つまり普通の銅線も混ぜているのだ。

 さて完成したケーブルをオルトフォン「T-20」からプリへと接続する。様々なアナログ試聴盤を「でん」と用意し、さあ聴くぞ聴くぞ。この試聴前の緊張がオーディオ馬鹿のだいご味なのである。

 音は…ふーん、どうだろう?というのが第一印象だった。あまり良く変化が分からないのだ。この部分は変化が少ないのだろうか。あれ勿体ないなあ、そんなものなのかなあ、と何枚か掛けていく。

 すると、前よりも少し音が眠いかな、と感じるようになった。いかん、後退ではないか。ちょっぴり慌ててさらに色々掛けて行く。しかし、また変化が出て来たようだ。それに気がついて最初に掛けたレコードをもう一度ターンテーブルに乗せてみる。

 なるほど。このケーブルはどちらかと言うとオーソドックスに展開するタイプなのだ。量感豊かな中低域をベースに、高域はあくまでナチュラルに伸びていく。言ってみればカマボコ型のバランスだが、これは決して悪くはない。解像度重視で突き進むと、どうしてもきつい音になってしまいがちだ。だからと言って柔らかな音というわけではなく、ガツンと来るべきところは来る元気の良さを持っているのがこのケーブルの良いところだろう。線材の混合具合が絶妙だからか。また、前回のコンセント・ベースの導入で少々きつくなっていた高域が素直になった。だからもしも、順序を逆にしていたらこのケーブルは失敗と感じていた可能性はある。この量感を保ったまま、もう少し引き締めを加えたいが…いやはや、難しいものですな。


 133. 山椒をふりかけ(04.8.8)

 「現代はノイズとの戦いです(田宮二郎風に…古っ)」と誰かが言ったか言わないかは知らないが、CD誕生以来特にその傾向は強まっているようなオーディオ界ではある。それは病的なまでの清潔志向、あるいは不健康なほどの健康ブームにも一脈通じるところがある。

 しかし、レコードを聴くようになると少々のノイズなど全く気にならなくなる。傷だらけのレコードから、バチバチプチプチボスッというノイズを押しのけて音楽のパワーがあふれ出てくるのだ。オーディオ的には後退とおっしゃる方もおられようが、逆にオーディオをやっていて良かった、と強く思う今日この頃なのである。

 さて、それでも現代はやはりパソコンやエアコンといったノイズの発生源だらけ。こうしたノイズはレコードの出すアコースティックなそれとは違って精神衛生上あまりよろしくないと思われるので、少ないに越した事は無い。そういった用途に気軽に試す事が出来るものがある。フェライトコアである。これをオーディオ機器そのものに使うとよく音がなまる、と言われたりする。ただ、聴きやすい方向にもなるので好みの問題かもしれない。

 今回はそんなわけでオーディオ機器以外に使ってみる。とりあえず大中小まとめて幾つかパーツ屋で買ってきた。パソコンショップなどでも売っているが、同じものでもかなり安く売られているのだ。装着した箇所はパソコンの電源ケーブル、ターミナルアダプタの電源ケーブルとモデムケーブル、パソコン用電源タップのケーブル、エアコンの電源ケーブル、テレビの電源ケーブルとアンテナケーブル、スカパーチューナーの電源ケーブルだ。本当は洗濯機や冷蔵庫にも付けたかったが、それはまた次の機会にしよう。

 もう一つの対策。ショートピンである。最近オーディオ誌でも盛んに取り上げられている、アコリバことアコースティック・リバイブから出た高級ショートピンはさすがに気軽に試すには価格的につらいものがあったので、本当に普通のショートピンを買ってきた。ラックスマンの補修部品扱いのものだ。確かにこれは1個200円と安いが、軽いせいか何となく頼りないものがある。そこで鉛テープを貼り付け、重量アップを図る。これで僅かながらもずっしり感が出た。これをプリアンプの空き端子に差し込む。これだけのことだが何せ暑い夏。がまたしても滴り落ちる。冷房こそ効かせているが、場所的に最も効かないところなのだ。まあ仕方がない。扇風機全開。何とか無事作業は終了した。

 さて音出し。最近手に入れたブルーノートオリジナル盤「アウト・トゥ・ランチ!」を聴こう。これはブルーノートにしては繊細感のある音を出すのだ。

 結論から言えば、確かに効果はあった。見通しが良くなり、かと言ってスカスカになったわけではなく、一つ一つの音の存在感が高まった感じなのだ。高域の伸びがスッキリし、聴きやすさが増した。スピーカーに耳を近づけると、実際のノイズも若干少なくなった。S/N感が高まった、と言うこともできるだろう。やはり色々試してみるものである。激変と言うほどではなく地味な事ではあるが、何せ安価でできることだし、効果は間違いなくあり、しかも精神衛生上にも大変良ろしい。是非お試しあれ。さらにテレビの映像もきれいになると言うオマケ付き。これは良かった。


 134. 仕事の出来る美人OL(04.8.19)

 …などという赤面したくなるフレーズを使って表現したのは、お懐かしやケーブルレビューをした時であった。それはオーディオクエスト。艶やかだがしっかり芯のある音が、そのような連想を生んだのだ。いつかはスピーカーケーブルに使ってみたいと思っていた。この時試聴したのは実際はローエンドと呼んでもいい「Type4」なのだが、折角だからその上級モデルである「CV-4」あたりがいいかな…などと思っている内に時は流れていった。まあ、現在使っているカルダスの「クロスリンク1S」でもそれ程不満が無いこともあるのだが。

 しかし「お値打ち品」に弱い名古屋人、過去何回もゲットしてきたのは所謂「型落ち」。スペース&タイムのピンケーブルがその始まりだったか。そう言えばオーディオクエストにしても「ダイヤモンドバック」を安く手に入れて使っている。とは言えあれはまだ現行品のようだが。

 そんなわけで今回もゲットしてしまったのはお値打ちなオーディオクエストなのだ。ピンケーブルの「Viper(ヴァイパー)」と、スピーカーケーブルの「Bedrock(ベッドロック)」だ。そう、いくらお値打ちとは言え、そんなに安くもないケーブルを2つも買ってしまったのだ!いや、迷ったのだ。さんざん迷ったのだ。最初はスピーカーケーブルだけのつもりだったのだ。ま、よくある事ではあるが「えーい、こうなったら両方だあ」となってしまったのだ。何せ高級ケーブル(あくまで自分にとっては)と言えるものが何とか手に入る価格でそこにあるのだ。ケーブル好き(マニアと言うほどではない、筈)には堪えられないではないか。

 一種の熱病にかかったかのように、その2つのケーブルを抱えて家路へと向かう自分は妙な操状態となっていた。「買っちゃった、買っちゃった」などという歌(そんなものはない)を口ずさみながらハンドルを握っていたのだ。まあ、それ程買い物は楽しいと言う事だ。

 それはともかく、帰ったらすっかり暗くなってしまっていたがケーブル交換である。スピーカーの方は端末処理などやる事が多いので翌日にするとして、まずはピンケーブルである。単純に現在「ダイヤモンドバック」で繋いでいるプリ〜パワー間を換えてみよう。買ってきた「ヴァイパー」は75cmと少し短めで使いやすいサイズだ。ところでオーディオクエストの端子はどちらかと言うと緩めなので抜き差しがしやすい。ただ、これは良い事なのかどうかは分からない。最近はしっかりときつく差し込むタイプが多いからだ。個人的にはあまりきつくても差し込む時に端子同士を傷つける事になりはしないか、と思うのだが。コレットチャックならば話は別。

 さて試聴。出て来た音は基本的にはこれまでの「ダイヤモンドバック」から全体的に底上げがされたような感じだった。なるほど、さすがに同じブランドである。音質の傾向は変わらないのだ。より鮮明な調子で、全てがはっきり、ハキハキとものを言っているようだ。それぞれの楽器が「おれを聴いてくれ」とばかり主張している。

 この使い方にすると、「ダイヤモンドバック」をどこに繋げるかと言う事に掛かってくる。CDにしようかとも思ったが、現在はアナログ最優先なのだ。トランスからプリへ繋げてみようか。しかし、ヒョウタン型のプラグが昇圧トランス「T-20」にささらないのだ。これは痛い。

 ではここに、贅沢にも「ヴァイパー」をどうだ。やってみた。こ、これはもう戻れないかもしれない。この精彩なトーン、ガッチリ締まったベースのピチカート、辺りにバシャバシャと散乱しまくるシンバル。こりゃ良いぞ。やはりこれまでここに使っていたオーディオクラフトのケーブルは音が柔らかかったのか。とは言え、まだ少々荒さときつさを感じるので、ここはエージングで解消されるのではないか。

 しかし、まだスピーカーケーブルが残っている。実践は翌日にしても、更なる向上と発展を望めるのだ。さてさて、胸は高鳴る、スピーカーも高鳴る。


 135. ラックの裏に雨が降る(04.8.29)

 いよいよ「ベッドロック」の番である。ヘッドロックではない。それだと簡単にバックドロップで返されてしまいそうだ。ところが、ちょっとロックする位置を変えてフェイスロックにするとギブアップも奪える危険な技となる。

 …話が逸れまくったが、スピーカーケーブルを換えるというのはそんなにたやすい事では無い。芯線を剥いたり、バナナプラグを付けたり、と準備もしなければならない。しかも、ラックの後ろに回らなければ結線も出来ないのだ。これはつらい。しかも残暑と言うにはまだまだまだまだ暑さは絶好調。たとえペンギンが棲めるくらいに冷房でキンキンに冷やしていたとしても汗は容赦なく滴り落ちそうだ。でもやるのだ。なぜなら、ケーブル大好きだから。

 そんな訳の分からない操状態は続いているようで、まずバナナプラグの装着から始める。このベッドロック、オーディオクエストでは珍しく平行構造を採っている。片方には何と、4本もの単線が1本1本被膜で覆われているというリッツ構造になっているのだ。さらにしかも、それぞれの線の太さが違っている。どうやら太い方が低音用、細い方が高音用と言う風に、バイワイヤに向いたケーブルなのだろう。しかし当然フルレンジの我がスピーカーには関係のない事で、一纏めにしてWBTのバナナプラグに差し込む。WBTは本来専用のスリーブでかしめて使うのだが、ほんの少しハンダ付けをすることで誤魔化す。アンプ側はバナナプラグもYラグも入らないので、被膜を剥がしたそのままの状態でターミナルに差すしかない。それにしても前述したようにリッツ線構造というのは大変面倒だ。一本一本被膜を剥がさねばならない。片チャンネル4本のリッツ線なので、合計32回被膜を剥がす事になったわけだ。こりゃ疲れる。

 さてさてもっと疲れるアンプとの接続。よっこらしょとラック裏に回り、ターミナルを緩める。カルダスのクロスリンクよ、長い間ありがとう、とつぶやきながら今まで使っていたケーブルを取り外す。そしてベッドロックをアンプに接続する。撚り線よりは線がばらけにくいだけ作業がしやすいかと思われたが、そうでもなかった。何せそれぞれが太い単線なので、一旦ばらけてしまうと手に負えなくなるのだ。案の定が。ぽた、ぽた、ぽたぽた、ぽたぽたぽたぽたぽたぽた。雨ではないかっ、まるで。もう止まらない。拭いても拭いても次から次へとあふれ出る汗は、太陽と北風の寓話ではないが遂にはシャツを脱がせる事に成功した。脱いだってたいして状況が変わるわけではないが。

 ラックの裏に雨を降らしながら、何とか接続が終わった。やっぱり夏にする事ではないな、と軽い目まいを覚えながらラックをまたぎ越す。さあ、これできっと良い音を鳴らしてくれるはずだ。そうでなくては困るよ、全く。

 しかし、一聴して顔が曇るのを禁じえなかった。音数は少し増えて音場の立体感もレベルが上がったようなのだが、全体的に鈍い音なのだ。特に中低域から低域にかけてだぶついた感じが見受けられた。量感は増えたが締まりが減ったのだ。これまでのオーディオクエストらしくない音だ。やはり芯線が太過ぎるのか。まずいぞ。汗の代償は。どうしてくれるのだ。

 慌てるな。ケーブルはエージングが肝要だ。とにかく鳴らそう。慣らそう。

 かくして、エージングの日々が始まった。作業した日は既に日曜日だったので、平日、仕事から帰ってからもレコードを鳴らし続けた。あまり大きな音を出せないのが残念だが、とにかく音声信号を流す事が重要だろう。毎晩レコードは鳴り続けた。

 そして翌週の土曜日。ドキドキしながら普通の音量で聴いてみた。一聴、ホッとした。良かった…エージングは効いていたようだ。まず、だぶついていた低音はくっきり締まっていた。そうすると音場感の良さ、音像の確かさ、分離感の良さ、伸び切った高域、艶のある中高域といった良さがどんどん感じられてうれしいことこの上ない。確かに少し高い機器を買ったような気分にさせてくれるのだ。

 ただ、ちょっと上品過ぎるかな、という気もする。所謂「ハイエンド系」に近いのだろうか。もう少し下品さとと言うか、雑味も欲しい。特に古いジャズなどは毒気を抜かれてしまったようにも聞える。力がないわけではないが「ガツン」がちょっと足りない。もちろんクオリティは高いのだが。さてどうするか。そうだ、ここを…


 136. 砂糖を入れ過ぎたら塩で辛くする(04.9.12)

 実は。元々ケーブルを買うにしても、スピーカーケーブルではなくて電源ケーブルのつもりだったのだ。プリアンプに使うためだ。現在オルトフォンの人気ハイコストパフォーマンス・スピーカーケーブル「3100silver」を電源ケーブルとして使っている。もう少し中低域の元気の良さが欲しくて、ここを変えれば望みが適うのではないか、と色々物色していたのだ。ところが買ったのはピンケーブルとスピーカーケーブル。あれぇ?いやはや何が起こるか、一寸先は闇だ。

 やはり電源ケーブルを買うか。…いや、さすがにそれはよそう。しかし作ろう。作るのだ。何で作るのか。そう、あるではないか。スピーカーケーブルである。これまで使っていたカルダスの「クロスリンク」で電源ケーブルを作るのだ。このケーブルは中域に力の入ったケーブルなので、きっと電源に使っても同じような効果があるだろう、と予想したのだ。こりゃ作るしかないでしょ。

 製作は思ったより時間が掛かってしまった。それはこのクロスリンクの4芯という構造のためだ。2芯撚り合わせるとかなり太くなってしまい、インレットもプラグも芯線をネジ留めするのに苦労してしまったのだ。何とか強引に押し込んでネジを回した時は既に息が荒くなっていた。はいつもの事である。

 水分補給をしつつ、新たな音を聴く。こんな時は元気を出そう、リー・モーガンの「サイドワインダー」だ。先程は良い音だったが、ちょっと迫力不足になっていたのだ。今度はどうだ。…おお、いいよこれ。見事に荒々しいトランペットが登場した。男一匹ここにあり、といった風情なのだ。ピアノもパキンパキンと乾いた鳴り方がいかにもブルーノート。と言ってクエストによってクオリティは向上しているわけで、ECMのような澄み切った透明感溢れるようなサウンドも得意になっている。オーディオクエスト+カルダス作戦は見事に成功と言えよう。それにしても電源ケーブルは音楽信号は流れないはずなのに、これほど影響力があるものなのだ。

 さて、今回はまだあるのだ。なぜか大理石の小さな板を手に入れた。はっきり言って建築後に発生したタダのゴミである。いくらタダなら何でも貰うと言われている名古屋人の私でも、何の目的も無くこんなものを貰ってくるわけはない。ひらめいたのだ。

 何せ20×15cmくらいしかない小さなカタマリだ。もっと大きければアンプやらプレーヤーの下に敷くことも考えるのだが、当然無理。残るはそう、電源タップである。このオヤイデのタップ、せっかくスパイクインシュレーターが付いているのにただ板きれの上にポンと置いてあるだけ。まあ、無いよりマシかもしれないが何も考えてはいなかった事は明らかだ。壁コンセントがベースボードによってパワーアップしたように、タップも対策でかなりの向上が見込めるのではないか、と。

 そんなわけで置いてみる。ガタがあるので薄いゴムの小片を片隅に差し込む。安定したらタップを置いてみよう。タップが意外に大きいので対角線上に設置する。スパイクが滑るので、鉛シートを細かく切ってスパイクの下に敷く。これで安定した。

 効果はどうだ。これがまた、見事に出た。瑞々しいピアノのタッチ、ぷるんと弾けるベース、腰の据わったバスドラム、パシーンと気持ちの良いスネア、とにかく楽しい。やはりコンセントベースと同じような効果があるのだ。今回は特に好みとするような音色が出たので大成功と言えよう。悪く言えば明るい響きが乗っかっているようで、人によってはマイナスと写るのかもしれない。しかし自分としてはこれでいいのだ。

 最後に。このサイトを見てくださっている方からご指摘を頂いた。前回スピーカーケーブル「ベッドロック」を繋いだわけだが、芯線の分け方が違っていたとの事である。普通の平行構造と同じように考えていたのだが、色の付いた被膜を+、黒を−にするのが正しいわけだ。なるほど、そういう特殊な構造になっていたわけね。さすがオーディオクエスト、単純な平行構造など採るわけはないか。そんなわけで再び結線し直し(また結構をかいた)、しばらくエージングして鳴らしてみる。すると全て納得した。出てくる音の立体感が段違い。レコードではCDに勝てなかった前後感もばっちり、まだ幾分ぶーミーだった低域が「ぐいっ」と音を立てて締まったようだ。これが本当の音だったのか。いや素晴らしい。レベルがまた一つ上がったようにさえ感じる。また、小音量でのクオリティが向上した事も特筆せねばなるまい。確かに低音は出ないが、別にいいやと思わせる中高域の魅力と立体感がたまらないのだ。いや本当に全く、ご指摘ありがとうございました。


 137. 最後のピース(04.10.8)

 「虎視眈々」。

 ずっと様子を窺っていたのだ。いつの頃からか。そう、当然プリアンプを手に入れた時からだ。プリと言えばパワー。いつかはパワー。基本性能はかなり高いものがあるアキュフェーズ「E-406V」だが、プリメインなのだ。インテグレートなのだ。セパレートスイッチでパワーアンプとして使えるとは言え、やはり専用のパワーアンプではないのだ。大体ヴォリュームやらセレクターやら付いていて、これを使わないんだから勿体ないではないか。

 と、言うわけで良いパワーがあれば是非欲しいところだった。さすがにプリを買ったばかりの頃は物欲を控えていたが、一度マランツ・プロの「PA02」が中古で出た時は迷った。かなり迷った。しかしまだプリも買ったばかり、もう少しこのままの状態をキープして色々遊んでみたいという気持ちもあったのであきらめた。と言うよりマラプロの方が行き先を見つけて去っていった。少し悔しかった事も確か。

 そこからはしばらくオーディオ屋巡りが続いた。しかし「パワーアンプ」というだけで具体的な機種を狙っていたわけではないので、決まる事は無かったのだ。「なんかいいの無いかなあ〜」というだけで歩き回る事は面白くはあっても成果は大して上がる事は無いのだ。

 まあ、似たような事を以前「コラム」でも書いていた。くどかったかもしれない。

 そうして夏も終わり、少しは涼しくなってきたかという9月の下旬、このところレコードばかり買っていた「ハイファイ堂」で久し振りにアンプを聴いてみようと言う気になるものが登場した。折しも決算セール中、これはチャンスだ。

 プリと同じサウンド&パーツの「F2a-11」という真空管パワー。当然プリとのマッチングはベストの筈。適当にセットしてもらって聴く事にした。この日は聴く気満々でノラ・ジョーンズとマル・ウオルドロンのCDを持ってきていたのだ。プリは(自宅と)同じ管球式がいいだろう、とオーディオリサーチのものに繋げ、スピーカーは名機JBLの4344があった。

 これで聴くノラ・ジョーンズは大変魅力的。真空管の良さだろう、女性ヴォーカルが本当にうっとりとさせてくれる。ベースがもの凄いマルを聴いても立ち上がりの鋭さは大したもので、このスピードの速さと言うのも真空管の魅力だ。管球式にありがちなまったりとし過ぎてしまうこともなく、繊細さと力強さを兼ね備えた音だ。さらに少し明るめに振った音色も好みだ。決めようか…価格も下取りを入れると全く問題の無いものとなる。さすがアキュフェーズは高く売れる。

 しかし、少し気になった点は低音。良く出ているのだが、逆にいささか出過ぎではなかろうか。と言うよりスピーカーを制動し切れていない感もある。確かにスピーカーは鳴らしにくい事で名高い4344。床にベタ置きという悪条件もあるので大目に見ても良いのだが…気になるとどんどん気にしてしまう。我がスピーカーもかなり音道長の長いバックロードホーン。制動の効いたアンプでないと、かなり緩い低音になってしまうのではなかろうか。いやいや、これをうまく飼いならす事も面白そうではないか…うーん、堂々めぐりになってきた。このままでは迷った末疲れて帰ることにもなりかねなかった。

 ここで店長が「トランジスタのパワーも聴き比べてみましょうか」と言うので、実際に少し気になっていた機種を指定した。CHORDの「SPM600」である。見栄えの良さと適度な価格は魅力なのだが、イメージ的にはハイエンド的な線の細い音を想像していたので、候補に上がるまでには至らなかったのだ。しかし、ここで聴いてみるのも悪くは無いだろう。気分を換える意味でセットしてもらった。

 出て来た音は想像とは違っていた。ガッチリと骨太なベース、しかも締まりが効いてスピーカーの間より少し前に音像が現れた!出だしを聴いただけで引き込まれ、10分にもわたる長い試聴曲をうっとりびっくりしながらも通して聴いた後、再びノラ・ジョーンズに。出た!このディスク得意の立体的な音像。楽器の位置が前後も含めてそこに登場した。ノラの声も録音通りかすれてハスキー。ここは真空管と好みの分かれるところかもしれない。

 とにもかくにも驚かされてしまった。店長も「これ、いいじゃないですか」と自分のお気に入りCDを持ち出して「ちょっといいですか」と聴き出した。見かけは緻密で繊細で優しい音が出そうなこのアンプ、いやいや、これはまさに羊の皮を…ってやつだ。パワーアンプとしては小さいのだがこの「じゃじゃ馬」4344の38cmウーファーをしっかり制動している。これには何度も言うが驚いた。音色的にはあまり脚色もなくオーソドックス、と言うかモニター的。ただ、透明感も凄い。まあ、確かにこのブランドって、業務用でも使われているんだっけか。

 しばらくぼう然としていたが、ここまで来たら言うしかないだろう。このセリフを。

 「じゃあ、こいつを。」