16. Do It Yourself!-7
そんなわけで完全にセパレートアンプが完成。しかし波乱の幕開けの第7章。
138. 「あちら」の世界へ?(04.10.17)
そんなわけで意外な展開を見せつつ、決まったのはメイド・イン・イングランドのCHORD「SPM600」であった。自宅にあるアキュフェーズを下取りに出すためにその日の夜に配送してもらったが、パワーアンプとしてはずいぶん軽い。いわゆる「スイッチング電源」を用いているからだが、こんなちっこいのでパワーが出るのか、と音を聴かなければそう思うだろう。
さてセッティング。スピーカー端子は良いものを使っているが小さくて間隔も狭いのでバナナプラグを付ける事に決めていた。フルテックの「FP-202」という、手頃な価格だがWBTっぽくロックできるタイプのものを買っておいたのだ。これまでアンプとはバラ線のまま繋いでいた「ベッドロック」の4本の単線を、バナナプラグでしっかり留める。このアンプはバランスで繋ぐのが王道のようなので、ようやくバランスケーブルが使える。遊んでいたカルダス「クロスリンク」の自作バランスケーブルでプリ「Live5」と接続する。電源ケーブルはそれまで使っていたCSEをそのまま使う。
それにしても外観の素敵な「SPM600」だが、足は何の変哲もないゴム足なのだ。確かにCHORDのアンプは「インテグラ・レッグ」と呼ばれる側面に付けるオプションの足があり、これがまた近未来的なカッコ良さなのだ。本当はこの方が音質的にも有利なのだろうが、無いものは仕方がない。とりあえずタングステンシートをゴム足の直下に敷く事にした。この部分はこれから色々遊べそうだ。そう言った意味ではインシュレーターを取っ換え引っ換え楽しめるということで、大変有意義ではないか。ゴム足バンザイ、である。最初から良い足が付いていてはこうは行かない。
いよいよ音出し。レコードばかり聴いているこの頃だが、こういう時にはリファレンスCDで行こう。「ルパン」である。
「どぅぷるるん」
冒頭のベースからいきなり違うぞ。それにしても文字にするのは大変難しい。今まではせいぜい「どぅん」だったのだ。別にその後で「ぷるるん」と鳴っているわけではない。その「どぅん」に瑞々しさが加わり、パッと眼前に開けたような。それまでのグレードアップではその「どぅん」を下へ下へとレンジを広げていたのだが、決してそれだけではなかったのだ。ベースは高域も重要だったのだ。こりゃレベルが違うぞ。凄いぞ。
そこからはレコードも含めて聴きまくり。菅野録音のオーディオラボ「ダイアローグ」が、これまた大きくレベルアップを果たしたような音に。良い録音なのは当然だが怖いくらいに良くなっていくソフトである。ノラ・ジョーンズはそれぞれの楽器とヴォーカルの分離感がいっそうはっきりする。特にノラの声が半歩前に出て来たのがうれしい。
そう、前後感を出すのも上手いのだが、全体的には音が前に出て来るのだ。いくら音場感が良くなってきたとは言っても、もう少し前に出て来ればいいのにスピーカーよりほんの僅か後ろに定位することもあったのだ。これがなくなり、スピーカーより前にもステージが展開する事になった。
「ハイエンドオーディオ」という言葉がある。まあ、イメージ的にはマーク・レビンソンとかジェフ・ロウランドとかゴールドムンドなどのブランドだろうか。しかし、この「コード(CHORD)」もその一つになるのかもしれない。現に何百万もする大仰なタイプもあるのだ。今まで「ふーん、凄いね」と距離を置いていた世界ではあったが、一歩踏み入れてしまったかもしれない。
ただ、プリを真空管にしているのは、そういった世界から想像される「冷たさ」のようなものを除いて「熱さ」をパワーに注入する事を狙ったのだ。言わば両方の「良いとこ取り」というわけだが、これは上手く行ったのではないかと思う。
しかしその世界から私は拒絶されたのであろうか。
翌日。会社から帰って僅かの時間でも良い音を聴こう、とアンプに火を入れて階下へ降りて食事を摂っていた。すると「バスッ」「バスッ」と小爆発のような音が聞こえた。最初はまた近所の馬鹿が車で遊んでいるのかと思ったが、その音は間違いなく自分の部屋からだ。何?箸をたたきつけた私は、疲れも忘れて階段を駆け上がった。
139. さすがは外車(04.10.31)
必死の形相(だったと思う)で部屋に飛び込むと、そこでは見事にスピーカーが爆発音を規則正しいテンポで奏でていた。とにかくパワーのスイッチを切ったが、それでもまだ一発断末魔のような小さめの音を出していた。何が起こったんだ?プリもスイッチを一旦切り、もう一度今度は慎重に電源を入れていった。この「SPM600」は電源スイッチの他にスピーカーのオン/オフのスイッチも備えており、ここのスイッチもまずオフにしておいてから電源を入れ、しばらくしてからスピーカーのスイッチを投入した。
…よし、今度は何ともない。ただ、いくら何でもおかしい。おかしい、と思いつつ結局は音を楽しみつつ時間は経っていった。それからだった。時折左スピーカーから「しゃー」というノイズが聞えるのだ。そいつは収まっては現れ、現れては収まり、を繰り返しつつ約一週間が過ぎた。
この「しゃー」は特に古いレコードを聴いているとそれほど気にならない。ところがスリー・サウンズの「ムーズ」(ブルーノートでおねーちゃんのジャケットのやつ)を聴いていたところ、遂に「しゃー」が「しゃああああー」とヴォリュームを上げて登場してきたのだ。何となく悪い予感を感じてその場はアンプの火を落とした。やれやれ、もっと音楽を聴いていたいのに。
しばらく時間を置いて再びアンプに火を入れた。しかしいきなり「しゃああああああああ」とこれまでで一番大きな禍々しい音を出してきた。そして、止める間もなく「バスッ」「ババスッ」と再びあの忌まわしき爆発音が飛び出してきてしまったのだ。うわーっ、もう駄目だ。これでは使い物にならない。
さらにショックな事に、スピーカーから焦げ臭いにおいが漂っていたのだ。これには愕然とさせられた。アンプは修理すれば直るだろう。中古とは言え購入したばかりなのだから保証期間もある。しかしスピーカーユニットは?限定ユニットだから壊れたらなかなか手に入らない。しかも安価なものではないのだ。
逸る気持ちを必死で必死で必死で抑えながら、とにかく音を出して確かめるべく行動に移した。以前サブ用あるいはテレビ用にハードオフで手に入れていたケンウッド「K's」のプリメイン「A-1001」を久し振りに出動させる事となった。ミニコンとは言え、でかいトランスを積んだ本格的なアンプだ。これを繋げて音を出してみよう。
結果はとりあえず胸をなで下ろすことになった。音は全く問題なく出て来た。音量を多少上げても変わった様子は見られない。ただ、それでもネジを外して中を見る事は出来なかった。いや、しなかったと言うべきか。怖いのだ。音は出るんだからそれでいいではないか。
しかし、耳を澄ますとトゥイーターから音が出ていない。まずい。これ借り物なんだから。またしても焦りまくったが、直接繋いでみてコンデンサーが逝ってしまった為ということが判明した。まあ、コンデンサーだけで済んだのだから幸いと言うべきかもしれない。
それにしてもこのケンウッド、思ったより頑張っているではないか。締まりを求めると方向が違うが量感のたっぷりとした中低域がなかなか心地よい。さすが当時「ミニコンとしては音が良い」と言われていた「K's」だけのことはある。ただ、ヴォリュームを上げていくと高域がシャカシャカしすぎてうるさく感じてしまった。自然にラウドネスが効いているような音という感じか。というわけでそこそこの音量で聴くのが妥当だろう。まあ、コードを修理に出す事は決定したのでしばらくはこれで我慢するしかあるまい。
それにしても、ガックリした。せっかくアンプを替えたのに、何と言う事だろう。とりあえず音は聴けるようにはしたものの、心にポッカリと穴が開いたようだ。こうなったら、レコードでも買いまくるか。レコード袋をせっせと持ち帰る日々、しかし捨てる神あれば拾う神アリ。
140. 代打の代打(04.11.6)
ハイエンドからミニコンへ、ひゅるるるるぅと音を立てながらグレードダウンを強いられた中、そんな窮状を知って救いの手が差し伸べられる事になった。簡単に言えば、アンプを貸してもらう事が出来たのだ。ありがたや。
それはブライストンの「B-60」という薄型のプリメイン。このブランド、結構気になっていたので是非音を聴いてみたかった。パワーアンプを物色していた時手頃なラインナップがあったので、聴いてみたかったが置いて有る店が近くに無かったのだ。プリメインだが音の傾向を知ることは出来るだろう。地獄で仏なのだが、それ以上の事かもしれない。いい機会だ。
プリメインとして使うか、パワーとしてか迷ったが、パワーで使う事にした。薄くて場所をとらないのでCDプレーヤーの上に設置でき、結線しやすくする。プリからはクエストの「ダイヤモンドバック」で繋ぎ、スピーカーケーブルは当然「ベッドロック」。電源ケーブルは一緒に貸してもらったMITの「Z-Cord」を使う。現在の凝りに凝りまくった電源ケーブルに比べると普通のコードの両端にフェライトコアが付いているだけ、と見えなくもない。
さて音出し。…おお、中低域が「どしん」と来て、なかなかいいんじゃないの。音が前にぐいぐい来るタイプだし、好きな音だ。あまり装飾のない、そっけない音かもしれないが昔のジャズには良く合う。プリに真空管を使っているので、おそらくこれでもまだ色気が出た方なのではなかろうか。本当はさらに乾燥した音なのかもしれない。
次に電源ケーブルをいつもパワーに使っているCSEのものに替えてみる。すると、中低域のどっしりした感じがさらに強くなり、高域のしゃりしゃりした部分がなくなってさらに聴きやすくなった。それに若干ではあるが艶みたいなものも出て来たし、こちらで行こう。スピーカーケーブルは特に贅沢なものを奢っているわけだし、力は十二分に発揮されているだろう。
そんなわけで、修理がはかどらないと言う途中経過の連絡を受けてもそれ程慌てず焦らずに過ごす事が出来た。仮の姿だがレコードは楽しく聴く事が出来る。業務用のイメージの強いブライストンだが、それでも音楽を上手く「聴かせる」ことは得意という印象を受けた。解像度やら音数の多さと言うファクターではあまり高得点は付けられないにしてもだ。日本製から海外のものに買い替える人が多いのも頷ける話だ。
この「仮の」状態は20日近く続いた。今週末(つまりこれを書いている前日だが)ようやく修理が終わり、自宅にSPM600は戻ってきた。長いとも言えるが海外製品という事を思えば有る程度の覚悟はしていた。ひょっとしたら英国に送ることになったかもしれないのだ。それに比べれば大した事はないだろう。
マニュアルも依頼しておいたので早速それをめくってみる。一つ気になっていたのがスピーカー端子の繋ぐ位置。やはり違っていた。本体には何の表示も無いので4つある端子の両端に繋いでいたのだが、これだとスピーカー切替が付いているのに両方オンにせねばならなかったのだ。一つ端子を飛ばすように選べばスピーカーを2つ繋ぐ事が出来るわけだ。なるほど。
さらにはバランス端子の詳しい内容。考えてみると、いきなりプリとパワーをバランスで繋ぐなど強引な事をしたものだ。音が出たから良いようなものを。このアンプは2番ホットであった。ティアック(CDプレーヤー)やアキュフェーズは3番ホットだった。つまりそのようにケーブルも作っているので、間違えると危ないところだったのだ。つまり、プリもどうやら2番ホットなのだろう。心線がプラマイ逆になっているだけと言う事になるのでまずは一安心。ただ、これは作り直そう。とりあえずアンバランス端子を使おう。ダイヤモンドバックでプリ〜パワー間を接続する。
さあて、今度こそ。久し振りの再会である。
141. モグラ叩き(04.11.19)
まず一言。「こんな音だったか!」
いや、凄いわ。仮の状態に慣れていたのだろうか、はるかにレベルの異なる音に圧倒された。まず、レンジの広いこと広いこと。低域の伸びと力強くくっきり締まって床を震わせる迫力にただただ唖然。眼前に展開するシンバルは「ざく」だったのが「ざきーん」という感じ。あらためて納得させられる高域の伸び。特にトニー・ウィリアムスなんかは最高である。ギターの瑞々しさと言ったらもう、たまりません。
降参。確かにブライストンで鳴らしていた音は結構好みだったのだが、それを遠くに追いやってしまう凄い音なのだ。よくぞ直って戻って参りました。また、レコードやCDを引っ張り出して聴きまくっていた。
「きぃーーーーーーーん」
あ。またおかしな音が。だがこれは聞き覚えの有る音。プリからである。以前から時折耳鳴りのような音が出ており、ちょっと気にはなっていたのだがパワーの方の暴発で脳裏から吹っ飛んでいた。しかし、また今度は今までより大きいな。
サウンドパーツにメールをしてみると、「真空管が原因の可能性が強い」との事。左右入れ替えて試してみて欲しいということなので、天板を開けてECC82を左右付け替えてみることにしたのだ。
中身を見るのは面白い。単純な構造なので、「なるほど、こうして信号は通るのね」と納得がいくのだ。さてボリュームに近いECC82を抜き、差し替える。そうして天板を開けた状態のまま繋いでみる。電源を入れてそのまま待つ事30分以上。…うーん、何ともないな。そうすると接触不良だったのだろうか。では天板を閉めて元に戻そうか、一件落着かな…とネジを締め始めた。
「きぃーーん」
出た。出てしまった。しかもこれまで左から出ていた耳鳴り音が見事に右から登場しているではないか。間違いない。真空管だ。
とりあえず「ハイファイ堂」に向かい、ECC82を探した。ここにはテレフンケンのものが中古で並んでいた。「Live5」のタマはムラード社のもので英国製だ。テレフンケンはドイツ製。うーん、ここでテレフンケンにしておくか、それともムラードを探すかサウンドパーツに注文するか。結論は、テレフンケンを購入した。つまりは「タマを替えて音はどうなるか」に興味が行ってしまったからである。オーディオマニアの性というやつだ。趣味に近道とか効率とかを求めてはならないのである。音の傾向としては、テレフンケンはどちらかというと切れ味が出る、との事だ。さてどうなるか。
早速差し替えてみる。音を出す。出た。とりあえずしばらく鳴らす。大丈夫だな。じっくり聴いてみる。確かにちょっと違うかな。などと言っているうちに、
「きゅるるるるぅ〜〜〜きゅるきゅるきゅる」
何じゃこの音は。宇宙からの交信じゃあるまいし、笑わせるじゃねえ、畜生めっ。と、江戸っ子でもないのにそんな口調になりながらタマを左右入れ替えてみる。やっぱり原因はテレフンケンのようだ。ああー、やれやれ。
翌日。「Live5」を携えてハイファイ堂に行き、今度は聴きながら様子を見た。能率の低いスピーカーではよく分からないかもしれない。結局前日出た宇宙からの音は聞こえず、とりあえず原因らしい方のタマを交換してもらった。何だか狼少年の気分になりながら。でも「少年」とは図々しいか。
かくして、交換後は全く異常なしで、やはり原因は真空管であったかと思いながら音楽に聴き入ってみると、やはり音が変わっている事が確認できた。
確かにムラードを「コク」のタマとするならばテレフンケンは「キレ」だ。ギターはカッティングの鋭さが増し、恰好良いのだがその分艶やかさが若干後退した。ベースもぐいっと締まったが量感が減っている。ヴォーカルの位置がほんの僅か後ろになっただろうか。シンバルが少々やかましいくらいに盛大に鳴っている。なるほど、違ってくるものである。どちらを取るかと言えば、この切れ味鋭い音も捨てがたいが、やはりムラードの方だろうか。あの輝かしいばかりの艶はなかなか聴く事が出来ない。決めた。ムラードのECC82を探そう。
142. 最近日記のようだが(04.12.5)
前回「探す」などと言ったが、あっけなくムラードは見つかった。よっていつもの如く(?)発見に至るまでの長い道のりをくだくだと書き連ねる必要は全くなくなったのだ。いささか呆気なく感じてしまうが、色々な紆余曲折を「ネタ」としてここに書いてしまっている習慣というものの恐ろしさを感じたりもする。それでも次の週にムラードを見つけた店を覗いてみると残り1個だけになっており、やはりタイミングは大切だった事も改めて感じさせられりもした。
ムラードを手に入れてからもしばらくテレフンケンのままと言う状態は続いた。それはもうしばらくこのカチッとした音を楽しみたいという理由もあったのだが、またしてもCHORDの調子がおかしくなったのだ。やはり左チャンネルからだ。
「シャーーーーーーッ」
来た。来てしまった。また「ぼすん」と言ってしまってはあまりにも怖いのでとりあえず電源を切る。そして2時間後、おそるおそる電源を入れる。お。大丈夫か。しかし1時間くらいすると再び悪夢のノイズが。いかん。これはいかん。再修理か。
ほとほと疲れてしまった。いっそ諦めて、他のパワーを物色しようか…そこまで思い詰めたが、しばらくだましだまし使っていた。平日はどうせ1時間くらいしか使えないので問題はないのだ。そうして休日がやって来る。こわごわではあるが、スイッチを入れっ放しにして聴きまくる。おや。何ともないな。様子を見てみよう。さすがに外出時は恐ろしかったので電源は切っておいたが、結局それ以外の時間は付けっ放しにしていても例のノイズが鳴る事は無かった。
どういうことだろう?修理はオペアンプの交換と言う事だったが、そのエージングだったのだろうか。とりあえずそれから2週間ほど経過した現在でもノイズは出ていない。ただ、油断は出来ないわけなのだが。
そういうわけで再びプリの真空管交換に踏み切った。真新しいムラードを箱から取りだし、ボンネットを開けて取り外したテレフンケンの後に差し込む。もう全く時間のかからない作業だ。しかし音を出す前は緊張するものだ。期待するような音が出てくれるのか。
最初に鳴らした音は「あれ?」と少々首を捻らされるものだった。レンジが明らかに狭まり、カマボコ型で音数も少ない。冷や汗が出かかったが、まあ待て。きっと真空管もエージングが必要だ。辛抱強く待とう。
何枚かレコードやらCDやら聴き続け、ケニー・バレルのブルーノート盤「ミッドナイト・ブルー」(夜はこれがいいんだ、また)をかけた時である。そう、出たのだ。得も言われぬ艶とコクとキレのあるギターの甘く、それでいて力強い音色。これだ、これを待っていたのだ。どんどん聴いて行くうちに「あの」ムラードの音が甦ってくるのを肌で感じた。ヴォーカルはぐいっと前に再登場した。瑞々しさはテレフンケンにもあったのだが、若干メカニカルなものを感じた。ムラードはよりナチュラルな瑞々しさなのだ。人肌とでも言おうか。テレフンケンはストイックだがムラードはエロティックと言い換えても良い。良かった良かった。
さらにはケーブルをバランスに戻してみる。両方とも2番ホットという事で様子を見ていたのだが、どうやらどちらでも大丈夫のようだ。確かにホットもコールドも基本的にケーブルは同じではないか。ただ、ホットとコールドで芯線の方向性を与えているケーブルでは逆になってしまって力を発揮できないのかもしれないが。
これはいっそう艶とコクと中域の張り出しを際立たせる結果となった。まあ、ケーブル自体の性格(バランスはカルダス、アンバラはオーディオクエスト)が違うのであまり公平な比較は出来ないが、やはりプリもパワーもバランス接続をデフォルトとしているだけのことはあって、全体的に厚みがついて中低域がぐっと下がり、鮮度が上がった事は確かだ。高域のしゃりっとした感じが少なくなったのはケーブルの違いだろうか。そうすると他のバランスケーブルも試してみたくなってくる。しかし、もう1本あったS/Aラボのものは長さが足りず、断念せざるを得なかった。またいつかこの部分をネタにする事もあるだろう。
143. じゃじゃ馬慣らし(05.1.10)
と言うわけで。
コラムの欄で書いたように我が家にもノッティンガムがやって来た。ある意味ど定番とも言える「スペースデッキ」である。定番とは言っても、どこまでもエスカレートする音質優先ゆえのマニアックな操作性や調整の難解さは現代アナログの常識。こいつもかなりの難物、強情者、じゃじゃ馬ということでも定評がある。ポンと置いてそこそこ鳴る、というタイプではない(らしい)。しかし調整が上手く行った時にはきっと得も言われぬ世界が待っているのだろう。ようし。
しかし、まだ60Y用のプーリーが来ていない段階なのであくまで「とりあえず」置いてみるしかないのであった。まあいい。馬鹿でかい箱から取り出そう。ワクワクしながら布団のように幾重にも詰まったスポンジを剥がし、ターンテーブル、トーンアームとベースボード(当然新品の状態では別々なのだが)、モーター、アンダーボードを順番に取り出す。説明書は日本語のものが入っておらず、紙ペラ1枚、味のある筆記体で書かれた英語のマニュアルが入っていた。これはこれで面白いが。
ちょっと驚いたのは、アンダーボード。足が付いているのだがごくごく普通のゴム足。これでいいのか。考えた末のゴム足なのか、何も考えていないのか、はたまた自分で工夫する余地を残してくれているのか。まああまり硬いものを付けるとハウリングの恐れもあるだろう。これから色々試す事が出来るので楽しいではないか。好意的に考える事にしよう。
アンダーボードを先程まで「Perspective」が載っていた場所に設置する。ゴム足の下にはフォステクスのタングステンシートを敷いてみた。ボード自体は以外に軽い。次にベースボードを。軸受けの中にオイルを差さねばならない。英文のマニュアルを見ると、「ティースプーンに半分ほど」と書いてある。紅茶ねー、さすが英国だなあ、などと妙に感心しながら実際にやってみる。
どことなく紅茶みたいな色をしたオイルはとろ〜りと糸を引くように粘りを伴いながら軸受けの中に吸い込まれて行った。次にターンテーブルをベースボードに設置。スピンドルを先程オイルを仕込んだ軸受けに挿入する。試しに手で回してみる。お、スムーズに回るではないか。いいぞいいぞ。次はモーター、どこに置いてもいいのだが左斜め後ろというオーソドックスな状態にする。プーリーとターンテーブルにベルトを掛け、出来るだけ近づける。あまりテンションを強めてはいけないらしく、たるむ寸前のところにするのがベストなのだそうだ。電源は別筐体になっており、そこに電源ケーブルを差し込み、タップに接続する。プラグはマリンコだろうか、一応いいものを使っている。
さあ、回してみよう。電源スイッチを入れ、よいしょっと声を出しながらターンテーブルに手をかけて回す。おお、上手くいったぞ。回ったままだ。しばらくその回転をじっと見つめる。モーターが若干唸っているが、これはプーリーが正しくなれば改善されるのだろうか。
やはりレコードをかけてみたい。アームにカートリッジを装着する。当然インテグレーテッドアームなのでカートリッジを付けるのも一苦労だ。Perspectiveと同じくリード線は極細なので恐る恐るピンセットを使って差し込んで行く。次は針圧調整だ。目盛りも無いので針圧計を使う。シュアの天秤式のやつを久し振りに登場させ、2.6gくらいにする。錘はスライド式で、意外に楽である。アームの高さも適当にネジを緩めて合わせ、オーバーハングも調整した。まあ、今回はただ音を出してみたいだけなのでそんなにシビアにはやっていないのだが。
さてこれでどんな音が出るのか。「ワルツ・フォー・デビイ」を掛けてみた。…おお、音が出た。まあ、普通出るのだがやはりこういう時は格別だ。しかし当然早回しの音である。ずいぶん明るい曲調になるもんだ、と感心するがそんな正常ではない状態でもこのプレーヤーの持つ能力の片りんは見た思いがした。かなり情報量がありそうだ。これは期待できるぞ。しかしここで気がついた。ピアノとベースの位置が逆ではないか。と言う事は…カートリッジの後ろを懐中電灯で照らしてよーく見てみる。やっぱり。間違えた。真逆にリード線を付けてしまったのだ。当然色分けした通りに付けたつもりだったのだが、その色が示す位置が逆と思っていたのだ。狭い部分なので紛らわしいのだ、全くもう。まあいい。開き直ってトランスに差していたピンジャックを左右入れ替えた。何だか気持ち悪いが同じ事だろう。それにしてもアームケーブルの細いこと。考えがあっての事かもしれないが、交換したくなってしまうのはケーブル好きとしては仕方がない事だろう。交換できるのかな、これ。まあいい。とにかく、あとはプーリー待ちだ。
144. アナログ中毒患者の辿る道(05.1.22)
プーリーはそれから2、3日後にやって来た。なるほど、確かにゴムを掛ける部分は50Yように比べてずいぶん細くなっている。こりゃ回転違うわな。ついでに新しいものの方が、ヘアライン仕上げになっていて、きれいに見える。長年続いているものは少しずつ仕様が変化していくものなのだろう。
さて、50Yのプーリーをぐいっと引っこ抜いて新しい60Y用をぐぐっと差し込む。何だか乱暴なやり方だが、そういうものらしい。こういった部分は日本製品に慣れた身からすると、少々いい加減だなと思わざるを得ない。以前使っていた「Perspective」も、アームがアームレストに今一つしっくり収まらなかったことが少々不満だった。日本製品なら「カチッ」とクリック感を伴って確実に収まるところなのである。
話が逸れたが改めてプーリーにゴムを掛け、エイヤッとターンテーブルを回す。ストロボも大丈夫。さあ、レコードだ。いよいよ本当の音出しである。
確かに音が沢山詰まっているような、それでいて全くうるさくない落ち着いた音調のようだ。低域の伸びも確かに感じられる。良い意味でCDのような解像度の高さがあるのだ。
しかし、そんなに驚かされるような音でもない。と言って失望しているわけではない。何せ、調整がいい加減なのだ。逆にこいつが難物である事がよく分かった。よおし、これから手なずけてやろう。見ていろ、素晴らしい音を出してやるから。
まずはアームの高さだ。レコード盤に針を下ろした状態でよーく見てみる。なるほど、これはアームが高過ぎである。一般的にもアームが高過ぎて針の方が支点よりも低い位置にあると高域が勝った音になると言う。まさに腰高というわけだ。付属のレンチを使ってアームの固定を解く。いきなり緩くなって少し慌てた。こういう部分も精密なんだか粗雑なんだかよく分からない。使い手の腕を試されているような気にはなるけれども。
定規まで取り出してアームの水平をばっちり測り、とりあえずこれで再び針を下ろしてみる。すると。
おお、先程とは打って変わってどっしりとした中低域がそこに出現した。ベースが大地に根を張っているようだ。立体的な音場も見通しが良くなっている。やはりレベルの高い音である。なるほど、確かにアームの水平は基本でもあるし、音は変わるだろう。しかしここまでガラリと変わるとは…正直な話「Perspective」ではここまではならなかった。そうだそうだ、アームの高さを変えたんだから当然針圧ももう一度調整せねば。再びシーソーの登場、慎重に調整する。
うわあ、ごめんなさい。土下座したくなる程であった。ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビィ」、これはどこでも新品1,500円前後で売っているOJC盤である。それがまた、良く鳴るようになったのだ。何せ客のざわめきからして違ったのだ。思わず「えっ」と問い返したくなったほどだ。ステレオ録音とは言え、ただ左右に楽器を振り分けただけのような状態のはずなのに、このざわめきは明らかに前後感、左右の拡がりが出ていた。パアーッと視界が開けたような感触だ。その次にざわめきの中から登場するエヴァンスのピアノ。これも静かなオープニングながらもしっかり芯のある、「これから行くぜ」といった主張が込められた音なのだ。さらにポール・モチアンの繊細なブラシは毛先が見えるようだ。比較的軽めに出ていたスコット・ラファロのベースも響きにしっかりと下の低域が含まれるようになった。地に足がしっかり付いたようだ。こんなに違うのか。これでオリジナル盤なりリマスター盤なりをかけたらどうなるんだろう。さらに、ミロスラフ・ヴィトゥスのベースソロで作られたアルバムがECM盤であるのだが、このベースには驚かされた。「ずごーん」…こんなに低いところまでこのビニール盤には入っていたのか、と思わず呻いてしまった。
さすが、正しく調整して行けば行くほど焦点が合っていくようだ。やった事に対してきちんと応えてくれる良さがここにはある。ここまでの感想としては、「普通な良い音、しかしそのレベルは大変高い」というものだ。あまり色付けをするタイプではない事は確かなのだ。ピラミッドバランスの、ある意味オーソドックスな音なのだ。ただ、その一つ一つの音は丹念に磨き上げられている。磨く、とは言ってもただきれいに磨くのではなく、音楽に合わせてピカピカに磨いたりギラギラに磨いたりテカテカに磨いたり、とTPOをわきまえた磨き方を行っているのも「音楽を分かっている」と思わせてくれて、にくいところなのだ。
残る調整部分の一つ、インサイドフォースキャンセラーはとりあえず真ん中くらいにしている。ここは聴いて最適なところに合わせてくれ、というなかなか恐ろしい事を言っているのだが、確かに少しずらしても音が変わる。ただ、最適なところはなかなか分かりにくかったのでとりあえず真ん中にした。まだまだいじる部分はありそうだが、すこしずつ試して行こう。もうここまで来てしまったのだ、どっぷり浸ってやる。
145. 閑話休題(05.2.6)
いきなり「スペースデッキ」が我が家にやって来たのでネタの整理もしないといけないのだ。部屋の整理が先だろう、というツッコミはご勘弁いただきたい。
そんなわけで、これから話すのは少し前の事。毎度お馴染み、ケーブルの話である。
プリ〜パワー間をバランスケーブルで繋いだので、一本ピンケーブルが余る事になった。クエストの「ダイヤモンドバック」をどうしようか。まあ、どうもこうも試してみる場所はCD〜プリ間しかないのだ。接続されていたカナレの自作ケーブルを外し、ダイヤモンドバックを繋いでみた。見た目に関しては、武骨な自作ケーブルと比べて格段の差。ブルーのプラグと被膜が大変美しい。音はどうか。
最近のCDの試聴には以前からの「ルパン」の他にはノラ・ジョーンズの2作目もよく使う。そして新たに加わったのが最近某誌でよく取り上げられている荒谷みつる「ナチュラリズム」だ。これはキレもコクもあるアコースティックギターが炸裂しまくる、痛快盤なのだ。さてどう鳴らしてくれるのか。
おや。何だか力が失われてしまったように聞える。ヴォリュームは触っていないし、どうしたことか。繊細と言えばそうなのかもしれないが、躍動感溢れる瑞々しいギターがちょっと奥に引っ込んでしまった感じだ。うーん。
もう一度カナレに戻してみようか。頭を逆さにして貧血になりそうなのをこらえながらケーブルを換える。また椅子に戻ってCDをスタートさせる。…おお、堂鳴りの低音がしっかりとがっちりと出てくるではないか。音圧感のある、弾けまくるギターがよみがえった。ノラ・ジョーンズも掛けてみる。やはり結果は同じ、ピントがしっかりと合ったようだ。これだっ。
そういうわけで、「ダイヤモンドバック」はカナレの業務用ケーブルに敗れ去る結果となった。これはしかし、あくまで私のシステムでの結果であり、しかもCD〜プリ間でのことでしかない。まだ「ダイヤモンドバック」も活躍の場所はこのシステムの中で存在するかもしれないのだ。そこがケーブルの奥深いところ。とにかく、青いケーブルは一旦お休みということになった。(結局その後「ダイヤモンドバック」はスペースデッキを買う時に色々持って行った下取り品の中に含まれる事となり、現在はもう手元には無いのであった。)
この「カナレの衝撃」には色々考えさせられた。決して値段ではないのだ。特にケーブルの場合はそうなのかもしれない。そう言えば一頃は6Nだ8Nだと騒いでいた高純度競争も一段落し、逆に普通の無酸素銅(OFC)が使われる事も多くなった。それよりも端子のグレード、被膜の素材、撚り方などの構造や作り方の方に比重が置かれるようになっている。次にグレードアップを考えていたのはプリ〜パワー間のバランスケーブルなのだが、ここにカナレを使って端子だけグレードの高いものを使ってみるというのはどうだろう。なかなか良さ気ではないか。
しかしその自信過剰な目論見は早くも頓挫する事を強いられた。キャノン端子で良いものはいきなり高価なのだ。フルテックから出てはいるのだが、何と一個で5,000円以上する代物だったのだ。じゃあ何か、端子だけで2万超えるのか。いくら何でも…上手く行けばいいのだが、失敗した場合のリスクを考えるといくらケーブルが安くても結局高く付いてしまう。どうりで市販ケーブルでもノイトリックが多いわけだ。よっぽど高価なタイプでないと、良質なキャノンプラグは使えないということなのか。
いいの無いかなあ…と思っていたところで見つけたケーブルがあった。それはカルダスの「クワッドリンク5C」。ここのブランドは「ゴールデンクロス」とかの高級ケーブルで有名だが、これはエントリーライン。それでも定価は5〜6万はする代物だ。ちなみに端子はノイトリックで、カスタム仕様と言うわけでも無さそうだ。かなり安かったので、ちょっと迷ったものの手に入れることになった。
早速現在の同じカルダスの「クロスリンク」と交換してみる。バランスケーブルの欠点は端子を差す位置が決まってしまうので捻じらねばならない状況が発生してしまう事だ。今回もぐいっと捻って、つまりケーブルに少々強いストレスを与えて結線せざるを得なかった。もっと線が硬いものなら、軽い機器など浮き上がってしまうのではないだろうか。
それはともかく試聴だ。ギターサウンドはどうか。…うーむ。第一の感想は「ちょっと鈍いかな」というものだった。低域は良く出ているのだが何となく締まりが無く、高域が薄くなっている。ピアノトリオなど聴いて見る。やはりベースは量感があるものの今一つ締まらない。シンバルやブラシの切れが悪い。うーむ。確かにカルダスというのはシャキーンと伸びてカッチリと締まるというタイプではない。量感豊かに表現する、まったりしたタイプとも言える。どちらかと言うとクラシック向けなのだ。とにかくもう少し様子を見ることにしよう。先程かなり捻じってセッティングしたからケーブルもまだ馴染んではいないはず。対策はそれからでも遅くは無かろう。
146. 自分のバランス(05.2.27)
ケーブルにもエージングは重要である、という意味は芯線に音楽信号を流して慣れさせるだけではなく、捻じったり曲げたりすることから生じる物理的なストレスからの慣れも時間が必要だからであろう。スカイブルーの被膜が恰好良いカルダスの「クワッドリンク5C」にも時間が必要に相違ない。毎日短時間でも音楽を流して翌週の休日、ヴォリュームを上げて聴いてみた。
するとどうだろう。接続して最初に感じられた「鈍さ」はもうほとんど消えていた。量感だけが残った感じだ。そして特長の「立体感」が際立って来ていたのだ。特に前後と上下に顕著だ。さすがである。エントリーラインとは言え、カルダスというブランドの持つ血統はきちんと受け継がれていると言うわけだ。
ただ、高域の伸びに関しては向上したと言うわけには行かなかった。やはりそういうケーブルなのだろう。元々それ程高域を欲張っていない音作りだったせいか、何だか物足りないがとりあえずは仕方がない。電源ケーブルあたりでバランスをとって行こうか…
などと思っていたところで、スペースデッキを手に入れたのである。
そうして前に書いたように、しばらくはスペースデッキと戯れる蜜月(と苦悩)の日々が続いた。3〜4週間が経ち、そろそろだろう、と思い立った。再びケーブルだ。
それと言うのも、スペースデッキも比較的低域重視のプレーヤーであり、高域は演出過剰なところが無いので大人しいのだ。クオリティは向上したが、何だか寂しいものを感じても来たのである。贅沢な話かもしれないが、趣味というのは追究しなければ趣味じゃあない。ただのほほんと楽しんでいるのは娯楽でしかないのだ。
さてさて、そんなわけで電源ケーブル探しである。完成品は高価だ。あまりにも高価だ。やはりコネクターとケーブルを自分で付けるのが断然C/Pが高い。完成品で5〜6万のものが、自分で作れば2万以下で出来るのだ。最近は法規制が厳しいので万人に勧められないが、スピーカーケーブルを視野に入れれば選択の余地も拡がる。さあどうしようか。こういう事を考えている時は本当にワクワクするものだ。
しばらく店を彷徨っていたが、決まった。オーディオクエストである。スピーカーケーブルの「CV-6」を使う事に決めた。クエストは電源ケーブルの完成品に関しては日本での販売が無い。向こうのサイトを覗いて見ると、あまり力を入れてはいないようだ。それはさておきこのケーブル、本来は芯線が+−合わせて6本の筈なのだが、8本になっていた。販売店が言うには「代理店さえ知らないまま、マイナーアップデートが行われる事はよくある」との事だ。なるほど。線が1本ずつ増えているとは何だか得した気分。これにオヤイデのプラグ「P-029」とマリンコのコネクターを組み合わせて作ろう。この二つに共通した特長は「メッキレス」ということだ。メッキによって音がかなり変わるとはよく言われているが、正直な話そこまでは分からない。実際に取っ換え引っ換えしたことがあるわけではないのだ。しかし、ケーブルの力を最大限発揮できるのはメッキ無しの方がベターな気がしたのだ。
「CV-6」を結局1.6m購入した。1mはパワーアンプに使おう。そして残りはタップだ。今回大幅にケーブルの引き回しを変えてやろうと思い立ったのだ。まあ、それは後に残しておいてとりあえずはパワーアンプだ。
何せ芯線が8本もあるので、剥くのに時間がかかってしまうのは仕方がない。小さいプラグやコネクタだとこれだけ太いケーブルは入らないかもしれなかったがオヤイデもマリンコも内部の空間に余裕があり、楽に収める事が出来たことは幸運だった。
完成した色のきれいなパワーアンプ用ケーブルは、これまでのようにタップに差さず直接壁コンに差し込んだ。だから1mなのだ。さあ、試聴だ。条件が多少違ってしまうが、出てくる音が重要なのだ。
予想通り、クエストらしい快活な音になった。しかも潤いや艶もしっかり持ち合わせ、スピード感もある。カルダスによって少々物足りなくなってた高域も元気を取り戻した感じだ。鳴らしていくほどにその印象は強まる。音のバランスは自分の好みの方向に見事に整ってきた。いいぞいいぞ。どうしても一人ニヤニヤしてしまうことを止められない。電線抱えてそんな顔をしているところは他人に見せられるものじゃあない。
そして、次はタップ側のケーブルだ。内容がガラリと変わる事になるので、さらに変化して行く事が期待できる。またニヤニヤ…
147. 整理整頓(05.3.12)
このタイトル、文字を見ただけでブルーな気分に襲われてしまう。苦手なのだ。基本的には自分が位置しているところに必要なものは全て揃っているのが好ましい。いちいち収納場所に移動して、さらには引き出しなど開けて、がさごそと目標とするものにたどり着くまでの時間の大いなる無駄と空しさを考えただけで陰うつな空気が立ちこめてくる。たまに無くさないようにと大切にしまい込んだりしたらもう大変。無くすのだ。預金通帳や保険証券。どうなっているのだ。
それはともかく、以前はカセットデッキやらチューナーやらMDなどゴチャゴチャと繋げていたものだったが、もう使わなくなった。それで2つ使っているタップもコンセントが余っている状態だ。これは勿体ないので1つに統合してしまおうと考えた。前回パワーアンプの電源は直接壁コンに繋いだ。そう、あとは4個口のタップがあれば足りるのである。
そんなわけで前回残したケーブル「CV-6」をタップ用に使う。プラグやコネクターは使い回しにする。それぞれハッベルとフルテックのものだ。両方とも使いやすいのでこれまたあっという間にケーブルは完成。さて、今回はタップの移動だ。
ずっと使っていたオンボロタップ。しかしこいつにはレヴィトンのオレンジ色に輝くコンセントが搭載されているのだ。これを取り外し、オヤイデのタップの片方に装着し直す。オヤイデにはPSオーディオのコンセントを装着しているが、もう一つはコストパフォーマンスを考えて明工社の普及タイプを付けていた。これを外してレヴィトンにしてみよう、せっかくだから。
いっそうグレードアップを果たしたオヤイデタップ、しかしながら今までとは違ってラックの裏側に配置する。つまりは見えないところへ行くわけだ。そうしてチューナーを撤去してとりあえずラックの一部は開いたままになってしまうが、そこにはスペースデッキの電源部を持ってくる。これでラック前のグチャグチャした状態がかなり改善された。タップからコンセントへはさっき作ったクエストのケーブルを繋ぐ。プリからの電源ケーブルはこれまでCDに差していたディーヴァスのケーブルを繋いでみる。CDにはこれまでタップに差していたAETにする。プリをAETというのはちょっとキャラクター的にケンカしそうな気がしたからだ。まあ、またに機会に入れ替えてみてもいいだろう。PSオーディオの方にプリとスペースデッキを差し込み、CDはレヴィトンを差し込む。
さあ、これで試聴だ。レコードはドナルド・フェイゲン「ナイトフライ」で行ってみようか。
…おお、ずいぶん見通しが良くなったものだ。冒頭の「シャラララランンンン…」と来るところが鮮明だ。余計なノイズが少なくなった感じで、一つ一つの音がクッキリハッキリ、それでいてきつくならない。オーディオ的に言うと「分解能や解像度が向上した」と言える変化だが、音圧も上がった印象を受ける。本当に邪魔なものが無くなった、という言い方が当てはまると思う。音楽がより一歩、こちら側に近づいてきたのだ。
チューナーをプリから外したことも大きいのではないか。また、ケーブルと共に床にはい回っていたフィーダーアンテナの悪影響も以前はあったに違いない。耳をスピーカーに近づけてみるとノイズが明らかに少なくなっている。やたらと機器を接続しない、というのは基本中の基本。長岡先生も折りに触れておっしゃっていた。
プリに差したディーヴァスの電源ケーブルも相性が良かったのではなかろうか。スペースデッキも今まで明工社のコンセントに差していたのをPSオーディオに変えたのが静かな回転にさらに良い効果をもたらしたに違いない。何よりも、今まで長く引き回していた電源ケーブルがシンプルな形にまとまった事はやはり良い結果を生むのだ。それをオーディオクエストのケーブルでいっそう魅力を引き出した、と言うことが出来るだろう。
課題はCDでAETのケーブルのためか、音が硬質感を伴うようになってしまった。決して悪い音ではなく、むしろクオリティは高いのだがもう少し瑞々しさというか色気が欲しい。今後見直しを考えるとしよう。まあ、全てが上手く行くとは限らない。
正直なところ、ここまで変化するとは思わなかった。もっと早くやれば良かった。一念発起、整理整頓しなければ。それはオーディオだけではないのだろう。と、これまでの乱雑な人生を見つめ直したくなる出来事ではあった。
148. 金ぴか趣味(05.3.20)
ケーブルも一段落したので、再びアナログの道に戻るとしますか。
…と言うわけでも無いのだが、唐突に買ってしまった。針。カートリッジ。「コントラプンクトa」に不満があるわけでは決してない。力強いその音はジャズを聴くには大変魅力的なのだ。しかし、やはりアナログの醍醐味の一つはカートリッジ交換で色々な音を聴く事が出来る、それなのだ。結局インテグレーテッド式のストレートアームを持つ「スペースデッキ」にしても、容易にカートリッジ交換ができない。それでも他のカートリッジを聴いてみたい。その気持ちは抑えられないのだ。
今持っているカートリッジはデンオン(現デノン)「DL-103」と、シュアの「M44G」だ。どちらもど定番だが、前者はともかく後者はさすがにつらいものがあるだろう。ある意味興味深い組み合わせかもしれないが。どちらにしても、気軽に試す事が出来れば交換してみたいが…というレベルだ。やはりある程度のものは欲しい。
そこに現れたのがまたしても「ハイファイ堂」で見つけた金色に輝くカートリッジだった。「あれは?」と指さし出してもらったのは往年の名機と言っていいだろう、オーディオテクニカの「AT-1000MC」だった。81年に発売した当時(もちろん後付けの知識です、すいません…)は200,000円というプライスタグがついていたものだが、中古でその3掛け程度の価格になっていた。お買い得と言えばお買い得だ。
こんな時はいきなりA型の素顔が現れるもので、石橋を叩きまくる。音を出してみる。問題なさそうだ。さすがに素性の良い音のようだ。でもこの音でいいのか。好みなのか。実際には自分のシステムで聴いてみないと分からないのだ。おそらく現在の「コントラプンクト」とは違うタイプの音だろう。せっかく購入するのならば同じタイプではつまらない。ここはひとつ…
結論に至るまでに約1時間半。しかしこれまで熟慮に熟考を重ねた結果買わなかった事があったのだろうか。今回もやっぱり買ったではないか。そうすると迷った時間と言うのは駐車場代も含めて大変無駄ではある。
下取りに出すものも底を突いた感があるが、今回は掃除も兼ねてチューナーとMDプレーヤーとカセットデッキ。やはりこの辺りはそんなに高値が付くものではない。特にカセットデッキはもはや録音不可能になっており、見事ゼロ査定であった。まあ、どちらにしろ代わりに手に入れたのは大変小さなものなので部屋の整理にはなったが。
取りつけ。またこれを最初からせねばならんのか。まず「コントラプンクト」を外す。慎重にピンセットでリード線を…切れた。がーん、という音が頭の中でうるさく鳴り渡る。勘弁してくれ、全く。修理かなあ、と諦念と不安と僅かな希望を抱いてリード線を見てみる。と、どうやら切れたのではなく「抜けた」と言った方が良さそうだ。先端は銀線が出ているのだ。チップを洗濯ばさみを使って固定してリード線を当てて上からハンダ鏝で熱する。ほっ。再びリード線はチップと繋がった。やれやれ。ただでさえ時間がかかるのに、ずいぶん回り道をしてしまったではないか。何せ日曜日の夕方。もう時間はないのだ。
そして「AT-1000MC」だが、これは純正シェルが付いているのが何とも勿体ない。しかも溝が専用に切ってあるのであまり汎用性がないものなのだ。まあ仕方がない。シェルから外してスペースデッキのトーンアームに付ける。何せスタイラスカバーも付いていない状態だったので恐ろしい事この上ないのだ。ねじもかなり長いものでないと分厚いトーンアームのシェルには付かない。適度な長さのねじを探して仮留めし、リード線を差し込む。仮付けは終わり、次はアームの高さ調整だ。調整ねじをレンチで緩めるのだが、これがまた油断していると「すとん」と落ちてしまうので注意が必要だ。手で支えておいてゆっくりとレンチを回す。「ここだっ」と決めたところでまた締めつける。しかしよーく見るとまだ高過ぎた。うーむ、手がつりそうなのだが。しかし前回も含めて何度も高さ調整を苦心惨憺しているうちにコツは多少なりとも掴んできた。2つのねじをそれぞれ少しずつ緩めつつ、高さを平行にする事が出来た。
次はオーバーハング。今回はコントラプンクトに比べてかなりてこずった。なかなかゲージと合わない。これはアームからやらないと駄目だろうか。ターンテーブルを外さないとアームベースを動かす事が出来ない。1回で合えばいいが、そんなに上手くは行かないだろう。そうすると何度もターンテーブルを外したりアームベースを動かさないといけない。そいつはあまりにも面倒だなあ、などと思っているうちに何とかゲージと合わせる事が出来た。ここかっ。夏じゃなくて良かった。大汗かいてプレーヤーは水浸しになるところだった。普通はアナログはカートリッジのダンパーが柔らかくなる夏場がいいのだが、自分に限っては冬場だ。たとえ音質的には有利でも夏場にこんな事をしていたら、プレーヤーのみならずアンプまで汗が染み入って壊してしまう事さえ、冗談ではなく十分にあり得るのだ。
しかしこの辺で夜は更けてしまった。翌日は平日だし、あんまり時間は取れないな…
149. ゴールドの実力(05.3.29)
会社からいそいそと戻ってすぐさまスペースデッキの許へ。あらためて針圧を調整し、高さをもう一度チェックしたらば試聴にかかろう。何度も聞き慣れたものがいい。そうすると夜でもあるし、「ワルツ・フォー・デビィ」にしようか。
…なるほど、冒頭のブラシの音がサクサクッと来る。「コントラプンクト」ではもう少しざっくりしていた。次のベースは…うーん、引き締まってはいるが少々弱いか。何だか全体的に音が「軽い」な。ベースががつんと来る山本剛「ミスティ」なども試してみるが印象は同様。力はあるはずなのに、何だかもどかしい…そういう感覚だ。どうしたことか。いくらテクニカとは言え、これでは軽過ぎる。
調整だろうか。もう一度オーバーハングゲージを当ててみる。おや。やはりずれている。おそらくネジを締める時に僅かに動いてしまっただろう。もう一度調整し直し、慎重にねじを締めてもう一度ゲージを当てて確認、再び「ミスティ」をかける。
お、いいじゃないの今度は。ピアノの打鍵からして「筋が通っている」。ベースは量感こそ多くはないが、くっきり引き締まって力感十分だ。また、ブラッシュのサクサク感が何とも言えず美味なのだ。高域の伸びを、レンジの広さを感じさせる音だろう。
ただ、この時点ではどちらが好みかと言えば「コントラプンクト」の方だ。確かに「AT-1000MC」はワイドレンジで、きれいな音を出す。しかし、中低域の量感やギターを鳴らす時のちょっとした艶のようなものが不足しているように思う。全ての平均点は高いが、音楽を演奏する上での魅力に欠けるような気がしたのだ。それに全体的にまだまだ「軽量感」を感じてしまう。しかしこういうものもリファレンスとして持っているのも悪くないな、という印象だった。
そう、「だった」のだ。あくまで「この時点」では。
次の週末になり、思う存分鳴らすことが出来た。色々なレコードをかけているうちに「おや?」と思ったのだ。言い換えればハッとさせられた。こんなにいい音だったのかっ。もう一度、一番最初に掛けた「ワルツ・フォー・デビィ」をターンテーブルに乗せる。違う。この前はこんなに良くなかった。このカートリッジの特徴なのだろうと思っていた「軽さ」が影を潜めていた。こんなに骨太で力強かったのか。ベースは深いところまでずこーんと響き、ブラッシュは「サクサク」としたまま太くなったようだ。爽やかな、という印象は覆された。ビル・エヴァンスという人が実はイメージよりもうんと力強くピアノを弾く事がわかってしまった。大幅なレベルアップではないか。どうなっているんだ。
おそらくこのカートリッジ、しばらく使っていなかったのだろう。それで徐々に往時の実力を発揮し出したのだ。いや驚いた。さすが往年の名機の一つ、物凄い実力である。最初たおやかと思っていたイメージは見事骨太なものに変わった。しかもその骨の髄まで見せてしまう情報量も持っているのだ。怖過ぎる。
ここまで行くと、好みとかそう言ったものを超越している。欲を言えば高域がシャープ過ぎて、若干色気などが欲しいところだが、贅沢と言うものだろう。モニター的と言おうか、あくまで厳格に脚色を加える事もなく、音をきめ細かく提示するのだ。それは録音の悪い盤に対するそっけなさにも現れる。本当にそういう時はそっけないのだ。逆に優秀録音盤には最高のもてなしで迎える。いや恐れ入りました。伊達に金色をしているのではなかった。このカートリッジが生まれたのはCDがまさに登場しようとしていた頃。デジタル時代前夜なのだ。そんな時、オーディオテクニカはアナログ最強を目指してこれを作ったのだろう。CDがこれほどのスピードで席巻するとは予想していなかったかもしれないが、その直前に登場した事は何らかの予感はあったのだろう。このタイミングで出さねば、と。
さてさて、こうなってくると好みに応じてカートリッジを付け替えたくなるのが人情と言うもの。やはりユニバーサルアームは偉大だ。モノラル盤もかなり増えてきたので、モノ針も使いたい。アームか。もう少し先に、と思っていたが、無性に欲しくなってしまった。さすがアナログ、金食い虫である。言わば極道だ。
150. 長い長い腕(05.4.10)
ドレスシャツを首回りに合わせると袖がかなり余ってしまう。したくもないリストバンドをしているが、それ以外に腕が短いというデメリットを感じた事は無い。
だから、と言うわけではないのだがトーンアームも大抵はショートアームが標準である。では何故ロングアームが存在するのか。ノッティンガムでもスペースデッキの上級機にはロングアームのヴァージョンもラインナップされている。モノラル針のように針圧や自重の重いカートリッジを使いたい、SPUを使いたい、などが正しい理由だろうが、やはり男はいつかロングアーム。そういうアナログ極道を進む人間はそれを避けては通れない道なのかもしれない。
そんなわけで。たまたま見つけてしまったロングアームに触手がびくびく動いてしまったのは致し方あるまい。世の中タイミングなのだが、果たしてこの時期というのは良いのか悪いのか。中古と言う事だがまだリリースされてそんなに経ってはいないはずのオルトフォン「AS-309i」を見つけた時はまさに「これだ!」と感じるものがあったのだ。
ユニバーサルアームという事では色々出回ってはいる。一番有名なのはSMEだろう。機能美の極地と感じさせる完成されたデザインは根強い人気があるのも十分に納得。ロングアームなら「3012」で、中古でもかなり高いプライスタグが付けられている。名機というに相応しいアームだ。ただ、中古でもそこそこ高価だし調整箇所があまりにも多すぎる。ショートアームの「3009imp」ならばそこそこ安く入手できるが、軽針圧用(シュアが全盛だったのですな)なのでモノ針は止めておいた方が良い。
日本製でもサエク、FR(フィデリティ・リサーチ)、グレース、オーディオクラフトなどいいものもある。しかしユニバーサルアームは部品点数や接点が多いので、こうした往年の機械はどこかにガタがきている事も考えられる。安く手に入れても結局オーバーホールで金がかかってしまうものなのだ。
また、オーディオテクニカから復刻アーム「AT-1503。a」が限定ながら発売されているがこれは18万と高価だし、中古ではまず出てこない。それに、不器用でヘタレなわしにはリフターが無いのは痛い。アームレストが別になっているのも「スペースデッキ」には構造的に合わせにくいだろう。
そういった諸々の理由からオルトフォンを見つけた時は、迷ったものの「もうこれしかない」と心に決めさせるものがあったのだ。オルトフォンに拘りがあったわけでも無く、どちらかと言えば消去法に近いものではあったが、いつ良いアームが中古で出てくるやらわからないのだ。別にもう少し後で出て来てくれれば気は楽であった。カートリッジを買ったばかりなのだ。スペースデッキだって買ったのは年末だ。ペースが早過ぎるではないか。
しかし、店頭で実物を見てしまったらもう決めたも同然。何せほぼ新品同様。前ユーザーは付けようとして途中で面倒になって挫折したらしい。なるほど。ビスの類いはパッキングされたままだ。それでも例によって腕組みしてうーんうーんと15分くらい迷った末、決めた。だからそこまで来たら絶対買うんだって。
アームのセットにはなかなか良くできたケーブルも入っている。さすが最近のオルトフォンらしいものだ。逆にシェルの一個でも付いてくればいいのに。あとはテンプレートと言うか、アームを装着する位置を決める為のゲージがあるので試しに測ってみた。片方をスピンドルにはめてロングアームを付ける場所は…遠いな。はみ出しそうなくらい遠い。さすがロングと言うだけの事はあるな。それにしても買ってもすぐに使えないのは残念。スペースデッキには別注のアームベースが無いと取り付ける事が出来ないのだ。そのベースの値段は…何?¥8万くらいするって?どうするんだ。どうするんだ、って…さすがにこんなの作れないしなあ。アームベースはターンテーブルベースにねじ留めして、3本ある足の一つとなる構造なのだ。
底なし沼。その泥濘に足を半ば意識的に踏み入れてしまっているのだ。一度はどっぷりと浸かってみるしかないのだろう。売るものはレコードくらいしかなくなっているのだが…そのレコードを聴く為のこと、その筈なのだが。
151. オーディオの健康を考える(05.4.30)
まったく、世の中不景気と言われているにもかかわらず売れているのが「健康」モノだろう。コンビニへ行っても「D○C」だの「ファ○ケル」とか言うサプリメントのコーナーは充実しまくりだ。かく言う自分も「マルチミネラル」とか「ブルーベリーエキス」など買ったりしている。おまじないみたいなものかもしれないが、それを承知で効いたつもりになって満足していれば幸せなのだ。
そんな中、本当に効くアイテムを発見した。「サッカーマガジン」などスポーツ誌でも広告を出していた「ファイテン」のネックレスだ。ネックレス、と言ってもスポーツタイプなのでカジュアルなスタイルにはうまくコーディネートできる。色が多いのもうれしい。これをかけるとアラ不思議、肩の凝りが瞬く間に…いや本当なのだ。恐れ入った。こんなヒモでしばらく悩まされていた頚椎の痛みから来る肩凝りが驚くほど軽減されたのだ。チタンが含まれていると言うが、それがこんな効果をもたらすものなのか。
ふと思いついてこのネックレスをCDの上にしばらく置いてかけ直してみたのだ。するとどうだろう。驚く事に効果があったのだ。音まで本来の元気を取り戻したかのような印象を受けたのだ。音圧が上がったようで、低域はガッチリ引き締まり、高域の伸びも良くなった。人体だけではなく音楽の痛みも癒す、そんなアイテムだったのだ。
これは何とか他にも利用できないものだろうか。などと思っていたら、やはり同じ事を考えている人は大勢いたらしく、既に色々実践されていたのだ。今月号の「stereo」誌にも巻頭のオーディオファイルの方がさりげなく使っていた。まずはこれだ。思いっきり真似よう、臆面も無く。
「ファイテン」のアイテムの一つに「パワーテープ」というものがある。丸い形をしたエレキバン状のテープだが、磁石は無い。チタンがやはり含まれているという事だ。これを電源周りに貼ってみることにした。
コンセントベースとそれに接触するプレートの上に何枚か規則正しく貼った。さらにそこに接続されている電源ケーブルの根元に目立たないように貼ってみた。タップの方にもインレット部付近に一枚。そんな感じでとりあえずはやってみた。あとは肝心の音である。
ノラ・ジョーンズのヴォーカルに思わずぞくっと来た。これだ。もやが取れたようにスッキリと見通しの良い音場表現、仄かに漂う色香、それでいて不必要に柔らかくならず、躍動感を増したその音はまさに「元気の出る音」だ。他にも色々聴いてみた。最近お気に入りの男性ヴォーカル、ジャック・ジョンソンもさらに太く濃く、ざっくりとした肌触りの音を楽しませてくれた。ジャズでもTBMレーベルの「ミスティ」、このピアノの転がること転がること。硬さは取れているのにメリハリははっきりしている。ベースの「ずん」も量感と締まりのバランスが絶妙だ。
これ以上貼ると柔らかくなり過ぎるかもしれない、と思ったのでこのままにしているがまさに「音楽を生き生きと鳴らしてくれる」ことは確かだ。プラシーボかもしれない?それは全く否定するつもりは無いが、元々オーディオとはそうした要素の多い趣味。良けりゃいいじゃないの。一応科学的にも説明?はつきそうでもあるし。オーディオと音楽に活力を注入しますぞ。
152. わすれもの(05.5.5)
と、タイトルをひらがなで書いたのはイエスの大名盤「こわれもの」を意識したのは言うまでもない…が、イエスとこれから述べる内容とは全く関係がない。困ったもんだ。
随分前に、もう3年ほど前だろうか、貰っていたウーファーユニットがあったのだ。いつか使おう使おうと思い、半年ほど前にトゥイーターまで購入しておきながら依然放ったままであった。このまま忘れ去るのか…と思いきや、いきなり作ることにした。毎度のことながら計画性が無い。困ったもんだ。
そのウーファーとはVifaという、デンマークのブランドである。つまりユーロユニットである。ディナウディオとか、スキャンスピークとか、そういう少々こじゃれたところのものだ。口径は13cmで実際にはもっと小さいだろうがまあ、ユーロにはよくある寸法である。型番はP13WH-10-04となっており、貰った中にはコピーで仕様書(英語)が入っていたので見るとカー用のユニットだった。それなら車に取り付けるのも面白そうだが、既に愛車istにはソニックデザインの「トレードインボックス」が載っている。車の方もいつかコーナーを作りたいところだが、それはともかく。やはりこのユニットは何とかホーム用に使いたいところだ。そこでオーソドックスにトゥイーターを乗っけて2ウェイバスレフの小さいヤツでも…と思ったのだがそれでは芸が無い。しかし待てよ。
このVifaというブランド、PMCが使っていたではないか。PMCと言えば何と言ってもトランスミッションラインという低域を伸ばす特殊なエンクロージャー構造を採っていることで有名だ。面白そうじゃないの。これ行ってみようじゃないの。
とは言うもののこの方式、よく分からん。バックロードに似ているが、ホーンは先細りになっている。逆ホーンが近いのだろうが、むしろ効果はダブルバスレフ的かもしれない。普通のバスレフからさらにもう一歩低域を伸長させることに変わりはないからだ。
本家とも言えるPMCもこの方式について多くを語っていない。はっきりした計算式もあるようでないようで、と言う感じで今一つ全貌は明らかにされていないのだ。なるほど、かえって好都合ではないか。面倒くさい計算をしなくてもできるわけだ。まさにわし向けではないか。
そんなわけで、設計はもの凄くいい加減なものとなった。雑誌に載っていたカットモデルを参考にして、音道はだんだん狭くなるようにした。このカットモデルを見ると、吸音材が音道にたっぷりと入っている。ここがまたバックロードとは異なるところだ。これで余計な中高音を吸収するということだろう。当然直角に折り返しなのでその定在波を無くすためということもあるだろうが。あまり入れ過ぎるとどうかなとも思うのだが、まあいい。たまには吸音材だらけというのもよかろう。今回は実験的な要素も多いからだ。
エンクロージャーには15mmのMDFを使うが、音道の仕切り板は9mmにした。内容積を無駄にしないのと、厚さをどこかで変えた方が良いような気がしたからだ。本当は素材も変えたいところだが、それは今回は見送った。それをやると、いっそエンクロージャー側もいろいろ変えたくなってしまってきりがないからだ。フロントバッフルをシナ合板にして残りをMDF…などとやると板取が無駄になって結局材料費だけがかかってしまい、費用対効果については怪しくなってしまうだろう。
大きさは縦30×横18×奥行き30…大体こんな感じで行こう。奥行きを長くして音道を稼ぐのだ。3回半折り返すことになるので約1mの音道ということになる。道幅は折り返す毎に約1cmずつ少なくなって行くことにした。容積は約10リットル。こんなもんだろう。
今回も材料調達及びカットは東急ハンズに依頼した。でき上がった板を見て少し後悔してしまった。フロントバッフルである。ウーファーとトゥイーター、そしてそれを装着するバッフルの位置がルックス的に今一つだったのだ。ユニットをそれぞれもう少し離しても良かった。それに30×18という寸法もキリが良いのでそうしたのだが、28×17くらいに縮めた方が格好が良かっただろう。以前製作した「すーぱーらわん」の時はドンピシャのルックスだったので、今回もそのカンを信用したのだがどうもいい加減だったようだ。まあ仕方がない。製作にとりかかるとしよう。そうだ、書き忘れていたがトゥイーターはフォステクスの「FT28D」である。
153. 日欧対決(05.5.10)
「日本×デンマーク」、サッカーならばなかなか見ごたえのあるゲームになりそうだ。「赤い悪魔」と恐れられたかの国は、屈強な肉体を武器に基本に忠実だが理に適った攻撃を繰り返して華奢な日本人を大いに苦しめるだろう。セリエAで活躍するトマソン(かってフェイエノールトで小野とチームメイトだった)が抜け目なくゴールを伺う。対する日本は中田と俊輔のダブル司令塔でゲームを作る…
サッカーの話ではなかった。そう、ウーファーはデンマーク製のVifaなのだが、トゥイーターはフォステクスなのである。普通ならば同じユーロ系で攻めるべきところを敢えて日本製にしたのだ。…まあ、実際にはたまたま中古で出ていたので買ったのではあるが。この偶然が吉と出るか凶と出るか。これもまた面白いではないか。絶妙のコラボレーションか、お互い相譲らない主張が平行線を描いてとんでもない音になるのか。
そしてネットワークは。箱を作りながらもまだ考えていたが、とりあえず外付けにすることは決定している。あとは定数だ。ウーファーの特性を見ると、口径の小さい割には高域がスパッと切れている。ひょっとしたらコイル無しのスルーでも使えるかもしれない。まずはそうしてみよう。トゥイーターのコンデンサは3.3μfか4.7μfあたりからやってみるか。
今はとにかく箱作り。仕切り板を音道がジグザグになるよう並べて接着(この部分の写真を撮り忘れた!一番肝心なところだったのに)し、そこに吸音材を沢山貼り付けるのだ。「白い吸音材」ことエステルウールを用意しておいたが、音道にびっしり敷こうとしたらあっという間に足りなくなってしまった。いかん。押し入れを引っかき回して以前使ったものの残りを引っ張り出し、多少は足しになったがそれでもまだまだ。まずい。手近にあったスポンジを貼ったが、これはあまり使っては良くないような気がしたので、他に代用になるものを探した。古タオルでも突っ込むか、と覚悟を決めようとしたところ、思い出した。むかーし使ったグラスウールがあるはずだ。使ったのは5年以上前、デスクに設置してある「BS-89T」を作った時だ。再び押し入れに手を突っ込む。見えるところには無いので、本当に手探りで引っかき回してみる。ないなあ。また探してみるとして、先に出来ることをしよう。フロントバッフルの穴から入れられる部分を残して塞いでしまおう。
しかし重大なことを忘れていた。内部配線だ。構造上仕切り板を避けて通していたのでは長くなってしまう。最初に仕切り板に穴を開けてそこを通そうと思っていたのに、一番始めに接着してしまった為に、穴を開けられなくなってしまった。こうなったら長くなるが音道に沿ってケーブルを這わせることにした。外付けネットワークにするので配線はターミナルを使わず、そのまま伸ばしてダクトから出すのだ。ネットワークにターミナルを付けるわけだ。配線材はベルデンの716Mk2、実はこの前まで愛車の中を這い回っていたやつだ。短くて済むのであれば実のところ他の選択肢もあったのだが、まあ仕方がない。このケーブルは高域が出ないのでトゥイーターには正直なところあまり使いたくなかったのだが…
箱を組み終え、ホームセンターへ。ペンキを買いにだ。さて何色にするか。オレンジ、グリーン、無色、ブラウン、ブルー、と来たら残るのは黄色か、赤か、はたまた紫か。紫とは言わないまでも、薄いパープルなんかは紫陽花みたいで悪くないかな。黄色も面白いかも。再びグリーン系もいいぞ。鮮やかなグリーンならば…などとペンキ売場の前で色見本を見ながらぐるぐるぐるぐる考えていたが、結局赤にした。そう、情熱の赤だ。色というのはまさにその日の気分以外の何者でもない。レガみたいでいいじゃないの。後々少々、後悔することになるのだが…
次にカーショップへ向かう。一体何をって?求めたのは端子板、いわゆるハモニカ端子というやつだ。こういうこともあろうかと、前に金メッキのタイプをここで発見していたのだ。4端子のタイプで十分だったのだがそれは売り切れており、6端子のものにするしかなかった。オーディオテクニカのものだった。また、そこに接続する為のY型端子も金メッキタイプを選んだ。
さらに大須でコンデンサやコイル、スピーカー端子、アッテネーターも買ったりしていたらかなりの金額になってしまった。やれやれ、ユニットは既にあったものの結構金食い虫だな、マルチウェイは。やはりフルレンジと違うのはそうしたコストが嵩んでしまうところだ。
再び作業に入る。フロントバッフルの側面の角を少しは削り、ラウンドバッフルにする。僅かのことではあるが、顔が細身になったように見えることは素晴らしい。そしてそして、赤いペンキを塗りまくるのだ。お、いいじゃないの。何だか「シャア専用」って感じで、角でも付けたいところではないか。自画自賛しつつ、乾かして翌日。いよいよユニット装着だ。
その前にもう一度吸音材を探そう。結局外に出た時も買わなかったし。再び押し入れに。レコードも置いてあるところの奥の方へ手を突っ込む。そうして3分ばかり経過、果たして手にふわっとする布団のような物体を認識。これだっ。引っぱり上げると「ラ○トオン」の袋に入ったグラスウールが。良かった良かった。
グラスウールを出すときに舞う埃は何だか精神衛生上いや実際に健康に良くないので、マスクをして窓を開けてガサガサと取り出す。はさみで切ったそいつをフロントバッフルに空けたユニット用の穴から適量入れておく。これでかなりの吸音ができるだろう。ついでにアコリバの「ピュアシルク・アブソーバー」もトゥイーター周りに詰めておく。何種類かの吸音材を入れることは吸う周波数が異なるので良い効果があるのではなかろうか。それに健康を害するグラスウールを、何だか健康に良さ気な癒し系のシルクを混ぜることで、精神的にも安心するではないか。
さて今度こそユニット装着であるが、とりあえず今回はここまでということで。
154. 赤い彗星(05.5.17)
ユニットを付ける時はいよいよだなあ、などとドキドキするのであるが、今回はネットワークがまだなのでノリは今一つかもしれない。さらにはウーファー用に買ってきたステンレスねじが少々長過ぎ、締めるのにかなり苦労したこともそれを助長した。とは言えユニットを装着して顔を見ると、とりあえず完成した、という思いも強いものだ。さあ、どんな音がするのかと鳴らしてみたい気持ちを抑えつつ、ネットワークを組もう。
まずはハモニカ端子にウーファーとトゥイーター、それぞれから伸びたケーブルを接続する。適当なネットワーク台が欲しいところだが、今回は余った板は手頃な大きさのものがなかったので、がらくた箱の中から過去に余った板きれを引っ張り出して使おう。いい加減にL字型に組んでそこにアッテネーターを付ける。アッテネーターがあると配線がややこしい。理屈が未だによく分からないので、「はて、この線はどこへ行くのやら」などと考え込んでしまったりして時間が無駄に過ぎてしまうのだ。抵抗を使って固定式にしてしまった方が音質的にもコスト的にも時間的にも有利なのだが、色々定数を変えてベストの位置を模索したいということで可変式にしたのだ。とにかくトゥイーターはまず買ってきた3.3μfのフォステクスCTコンデンサをローカットに使う。ウーファーの方はスルーで試してみるので、そのままターミナルへケーブルを繋ぐ。ちなみにターミナルは今回1個\500というなかなかお買い得感の強いものだ。しっかりした外観だがネジを回すと少々がたついてスムーズに回らないところに価格の限界を感じてしまう。
あれをこっちに、これをそっちに、などとイライラカリカリする時間が続いた。物凄く簡素なネットワークなのに。そうしてヨレヨレになりながらも、どうにかこうにかネットワークは完成した。よしっ、やっと音を出せる。そう、音を出すものなんだから。
セッティングだが何故か今我が家にはタオックの丈夫なスタンドがあるのだ。順番を話すと、実はこのスピーカーを製作する前に借りていたのだ。何の為かというと、市販スピーカーの音を聴きたかったからである。そのスピーカーとはウェストレイク・オーディオ。最も小型の「Lc4.75」をお借りすることが出来たのだ。純粋に聴いてみたい、ということとブックシェルフスピーカーを製作するに当たってのリファレンス、と言っては大げさだが参考にしたかったということもあったのだ。ウェストレイクの音は大変好ましかった。アンプの影響力が強いからかもしれないが音色の出方が結構好みだったし、10cmウーファーなので低域は少々ボンついてしまい苦しげではあるものの、中域の厚い逞しい音でモニターとは言っても四角四面はものとは違う、音楽を鳴らしてくれるスピーカーなのだ。
さてさて、スタンドから見た目より遥かに重いウェストレイクを下ろし、代わりに新しい「赤い彗星」を載せる。おっと、さりげなく名前を付けているではないか。まあ、いいでしょうこれで。配線間違えてないかなあ。音出るかなあ。
出た。音が出ただけだが、思わずガッツポーズをとってしまった。それほど心配だったのだ。よかったあ〜とその場にへなへなへなと崩れ落ちそうになりながらも、その音を聴いた。どんな音か。かなり派手め、と言うか明るい音である。これは意外だった。確かにトゥイーターはフォスだが、北欧製ウーファーのイメージや低域が1mの音道を通って出てくる方式であることから「ずううーん」と少々重ためのトーンになるかな、と思っていたのだ。3.3μfのコンデンサだけでトゥイーターをローカットしているということは、6kY付近のクロスだ。それより上の周波数から落ち始めるはずだから、トゥイーターからはそんなに出ていないのだ。だからこの明るさに驚いた。アッテネーターで調整するが、だいたい真ん中あたりがいいようだ。
肝心の「なんちゃってトランスミッションライン」の効果だが、低域はそこそこ出ている。実際にこのユニットを普通のバスレフで鳴らしたことはないので何とも言えない部分はあるのだが、この大きさとしては結構頑張っているのでは、という出方だった。もちろんメインで使っているバックロードと比べたら決して低域がガンガン出ているという感じではないが、いやいやよく頑張っているし、これだけ聴いていればそれ程不満を感じることはない。おかしな癖も感じない。明るく楽しく分厚く熱く音楽を鳴らしてくれて、まさに赤い色が似合うスピーカーになった。
とは言え、果たしてこれで完成なのか。ネットワークをもう少し煮詰めてみよう。このスピーカーは色々試す価値がありそうだ。
155. クロスオーヴァー・イレヴン?(05.5.30)
確かに本家「赤い彗星」のようにハイスピードというわけではない。分厚い中域が魅力のスピーカーなのだ。しかしここで満足してしまってはつまらない、ということでネットワークを弄ってみることにするのだ。何せウーファーはスルー、トゥイーターは3.3μf一発というとてつもなくシンプルなものだ。まずはウーファーから手を入れてみようか。
コイルは0.5mHと0.18mHのものがある。まずは小さい方から試してみよう。ハモニカ端子は本当に便利である。端子にねじ留めしていたケーブルの一端を外し、その間にコイルを挟むのだ。コイルの一方は端子にねじ留め、もう一方はバナナプラグでケーブルと仮圧着する。これでOKだ。
そうしただけで中低域に締まりが加わった。クロスオーヴァーする辺りは思ったほどの変化はないが、低い方に効いたようだ。これはやはりウーファーをスルーで使うことはユニットに負担をかけている、ということなのだろうか。スルーの状態も良かったのだが、こちらを聴いてしまうとやはり違ってくる。
次はコイルを0.5mHに上げてみる。普通ならこれは切り過ぎかもしれない。ユニットが4Ωなので、大体1.2kYあたりでクロスすることになるのだ。しかしトゥイーターは6kYクロスの勘定だ。ずいぶん中抜けのような音になるはず。しかしこれも音を出してみなければ分からないのだ。
実際にはそんなに中域が薄いことにもならず、むしろ今までの中で一番バランスは良さそうに思えた。低域はさらにガッチリと締まって来たのには驚いた。ただ若干すっきりし過ぎかなという感は否めず、ウーファーはそのまま、今度はトゥイーターの方を変えてみようか。
さらに2.2μfのコンデンサを追加して合計5.5μf、クロスは大体4kHz弱といった辺りか。これは悪くない。厚みが増したのは重なる部分が増えたからだろう。ここで終わってしまっても決して間違いではないような気もするのだが、もう少し試してみよう。
次は0.18mHのコイルを再び登場させ、トゥイーターにパラで入れる。つまりこれまで6dB/octで落としていたものを12dB/octにするわけだ。結果は、試してみてよかった。厚みは保ったまま、もたついた部分がなくなって切れが良くなったのだ。確かに数値的にはウーファーとトゥイーターが丁度いい所でクロスしていることにはなる。ただ、トゥイーターの方はクロスオーヴァーが推奨値ギリギリであること(12dB/octにするとクロスの値が変わるのだった)と、コイルは0.18では少な過ぎること、これではうまく落ち切ってはいまい。特別歪んでいるわけではなかったが、若干高域がくすんでいるのはその影響か。あまり無理をさせないでおこう。
と言うわけで2.2μfのコンデンサを再び取り外すと、だいたい3〜4kHz辺りで落ちてくれるはず。さてその音は。うむ、これでしょう。厚み、切れ、コク、伸び、一番高得点だ。苦労した甲斐があったというものだろう。難を言えば最初の個性的な熱い音から、幾分オーソドックスな音になったかなあ、ということか。市販品に近くなってしまったような。これで行こう、とは決めたものの相変わらず仮留めのバナナプラグや小さなクランプがそのまま、というのはそうしたちょっとした引っ掛かりが消えないからである。ハンダ付けをするには暑い季節になってきたからでは…それもあるかもしれない。
…付け足し。内部構造の写真を撮っていなかったので、とりあえず下手くそな略図を載せておきます。まあ、大体こんな感じで、音道には吸音材をたっぷり貼り付けている。「本家」PMCは開口部にも薄いウレタンのようなものが付けられているので、これもチューニングの一つかもしれない。今度試してみよう。。また、作っていて「しまった」と思ったのだが、これでは逆ホーンではあるもののバックロード的な要素もあるかもしれない。空気室に相当する部分が存在するからだ。本来ならばユニットの次の壁をもっと接近させてウーファーから上は吸音材をぎっしり詰めて空気室を無くしてしまった方がよかったかもしれない。もっと低域がぶんぶん唸らせることも出来た可能性もある。後面開口だが、これを前面開口にするだけでかなり変わりそうなのだ。それでも今回まずまずの音を鳴らすことができたので良しとしますか。