17. Do it Yourself!-8

   
今回から新しいネタが常に上に来るようにしました。スクロールしなくて済みます。




 231. トランジスタ・グラマー(08.09.21)

 「あれえ」

 新しいスピーカーの音を初めて耳にした瞬間。これまでにも様々な反応をしてきたものだが、今回のには驚きを禁じ得なかった。決して失望の反応ではない。驚愕したのはその音の良さに、である。

 確かに、頭の中ではちゃんとした音になるであろう計算(と言うほどのものではないが)で作ったものではあった。何せ一発勝負でネットワークも箱の中に収めてしまった。容易に交換などは不可能なのだ。背水の陣ではあった。しかし一方では「ダメならまた1から作り直せばいいかな」などと、ネガティヴな考えになったりもしていたのだ。

 そんな考えは見事に吹き飛ばされた。そこに聴こえてくるのはまさに「音楽」「歌」と言ってもいいだろう。何と歌のうまいスピーカーなのだろう。次から次へと豊饒なメロディが紡ぎ出されてくるではないか。しばし時を忘れ、忘我の極地に浸ったのであった。

 そうやって一体どのくらいの時間を過ごしたのだろうか。冷静な判断力が失われてしまった。このスピーカーは魔物だ。音色、と一口に表現されるが、この極彩色は一体何なのだ。何色あるのだ。それがこの無彩色なライトグレーのスピーカーから放出されていることは、何というアイロニー。笑うしかない。

 オーディオ的な言辞も弄してみようか。低域はこの大きさからは想像できない程量感を感じる。こけおどしの低域ではなく、しっかりと芯のあるものだ。締まりと量感の絶妙なバランス。締め過ぎてはいないので、クラシックも美味しく聴ける。ヴォーカルも最初は少しフォーカスが甘いかなとも感じたが、時間とともにしっかりと実態を伴ってきた。さすがクオリティの高いユニットは違う、と唸らされるものだ。

 意外だったのがトゥイーター。車で聞き慣れていてある程度は予測できた音だったのだが、想像以上のパフォーマンスなのだ。やはりこちらもいくらカー用のため耐候性能に力を割いているとは言え、ハイエンドユニットの一角を占めるものだ。こんなに良い音を奏でるユニットだったのか、とあらためて認識させられた。実際にはもう少しアッテネーターを絞った方がバランスが良かったとは思うのだが、それを気にさせない音色の確かさがある。特に録音の優秀なものは全くうるさく聴こえない。力は感じるのにきつくならず、余裕を持って応対しているようなのだ。

 音色の良さを味わうにはソロ楽器が一番。ギター、ピアノ、ウッドベース…などなどいろいろかけてみる。うっとり。陶酔。幻惑。こりゃ本当に良いわ。本当に心を込めて、楽器が歌を唄っているのだ。こんなに素晴らしい事はない。

 これまで作ってきた小型スピーカーはかなりの数に上る。サブとして欲しかったのだ。もちろん「そこにユニットがあるから作る」という面もあるわけだが。しかし、なかなか定着にまで至るものは無かった。タオックのスタンドまで手に入れていたのに、何とも情けないものだった。今回もこれでダメならスタンドは売り払ってしまおうかとさえ考えていたくらいである。

 うれしい誤算、大歓迎である。とっかえひっかえ、CDやレコードを聴く日々が続いた。どの音楽にもを吹き込んでくれる、頼もしい相棒となった。こんなに長い間、メインのバックロード以外のスピーカーを聴き続けている事は久し振りだ。

 そんなわけでメインの方に繋ぎ替えてみる。…なるほど、何故新しいスピーカーを気に入ったのかが分かった。傾向は似ているのだ。これまで作ったものはまるで異なる音が出ていた。やはり好みの音が出てきてくれたら長く使いたくなるものだ。まあ、簡単で単純な話である。

 さすがにメインは彫りが深く、低域はくっきりと締まり、音場感がバッチリと出ている。抜けの良さや鮮度感に関してはネットワークを通さないフルレンジのメリットが最大に発揮されているのだろう。あらためて優れたスピーカーであることを認識させてくれた。

 もう一度ミニサイズへ。そう言えばまだ名前を付けてなかったなあ。残念ながら、ちょっと思いつかない。パッとひらめく事もあるだろうから、とりあえず「mini」と呼ぼう。それで定着してしまうかもしれないが。とにかくまた繋ぎ直して聴く。…なーるほど、そういう事か。どういう事かと言うと、メインに比べてminiは一言で言うと「柔らかい」のだ。音色の傾向は似ているのだが、弦の音などは和らいでくる。ベースやチェロなどの中低域は小さいにも関わらず量感がたっぷりと出てきてこれが気持ちが大変よろしい。緊張感のようなものは若干薄くなるものの、その代わり楽しい音楽が眼前に展開されるのだ。

 欠点を敢えて挙げれば、サックスなどのラッパ系の抜けがもう少し欲しいことと、ハード目なロックに於けるスピード感の足りなさくらいか。どちらもメインと比較しての事で、大きな欠点とは言えない。少なくとも自分にとっては。

 しかしこんなことならば、設計や製作時にもっと色々と気を遣っておけば良かった。例えばスピーカー端子をもっと良いものにするとか、コンデンサやコイルにフォックなど貼付けて制振対策をするなど、細かい事でもっともっと向上したかもしれないのだ。箱に関しても、もっともっと鳴きを抑えるといいかもしれない。まあ、量感が少なくなってしまっては良くはないのだが…

 書き忘れていたが、トゥイーターの上のおでこの部分にある黒い丸はフォックである。いや、制振とかそういう意味は全くなく、空間が空き過ぎてしまって何となく格好が悪いと思ったので、苦し紛れにとりあえず貼ってみたのだ。意外にまとまったのでは?

 いやはや、色々書いてしまったが、とにかく今回は大成功。あらためて思うのが、普通の広さの部屋で使うなら小さいので十分、いや逆に小さい方が何かと有利。バックロードが魅力的なのは言うまでもないのだが、それ以外を作るか、市販品を買うのなら断然小型です。それを近い距離で聴く。間違いないです。同じ価格で小さいのか大きいのか迷っている方、わしは絶対「小さい方」を推します。


 230. 宿題は早めに(08.09.02)

 くどいかもしれないが、暑い。人間、体温よりも高い気温で生活するもんじゃあない。特に名古屋は連日体温並である。微熱の日もある。いや参った。

 でも工作なのだ。心の何処かで「ホントかよ」とつぶやきながら、意外に早くカットが完了したシナ合板を携えて帰宅した。夏休みならいつも待たされる東急ハンズのカットサービスだが、暑さのせいだろうか。まあ、小型スピーカーだから大した手間はないのだけれども。

 さて、ぼちぼちやりますか。それでも梱包を解くだけでも汗だくになってしまった。こんな事で大丈夫なのか。スピーカー工作が原因で熱中症にでもなってしまったら恥ずかしいったらありゃしない。それとも自作派冥利に尽きる、だろうか?

 フロントバッフルを取り出して愕然としてしまった。うわ。コッパチだ。今回トゥイーターは埋め込む形となるので、せっかくだからとウーファーとの距離を縮めてレイアウトしたのだが、そのためにトゥイーターの上が妙に空いてしまったのだ。そもそも、これまでユニットのレイアウトには自信を持っていた。見た目の美しさも大切なのだ。これまで勘に任せるようにやって来て上手く行っていたので、「わしって、美的センスがあるのだ」と自惚れていたわけだ。しかし見事に鼻はへし折られた。とは言え、こんな事でへこんでいてはいけない。前に進むのだ。完成したらそんなに悪くないかもしれないではないか。

 オリンピックをだらだら観ながら接着剤を塗り付けて組み立てて行く。しかし、組んでいくうちに気付いてしまった。はみ出すぞ。ちょっとショックではある。こんな小さな箱で製作に狂いが生じるとは。ダクトの横幅を調整するためにスリットの真ん中に4cm幅の板を挟んでいるのだが、このためにごまかす事が出来ず、リアバッフルが1mm程上に突き出てしまったのだ。うーん何だか悔しい。

 エンクロージャーを完成させる前に、ネットワークを組んでしまわねばならない。スリットダクトとして渡した板にいつものようにテクニカの端子板を取り付け、ウーファーのハイカットに「Jantzen」製1.3mHのコイルをエポキシで接着する。1kY辺りから落として行くのだ。トゥイーターのローカットには「Dayton」製5.6μfのコンデンサと、手元に残っていたフォステクス製0.18mHのコイルを使う。アッテネーターには1.5Ωと5.6Ωのセメント抵抗を選んだ。これで5dBくらい落ちる筈だ。もう少し落とした方が良いような気もしたが、落とし過ぎたらもう対策のしようがない。逆に少しくらいのハイ上がり程度ならば何らかの対策が打てるだろう、と踏んでの選択である。何せ一発勝負なのだ。

 ネットワークを組み終わったら、吸音材である。いつものアコリバのシルク綿をふんわりと入れ、そして今回はカーボンフェルトが手に入っていたのでそれも使おう。箱の上部、側面の上の方、リアの端子よりも上の方に使った。カーボンと言う素材を考慮して、ネットワークや端子部など導電部付近にはシルクの方を選んだのだ。

 内部配線には今回ゾノトーン「SP-220 Meister」を採用した。細さがちょうど良く取り回しのしやすい柔らかさと、適度な価格のバランスが決め手である。もっとも、新しく出たので「じゃあ、使ってみようか」という誠に軽いノリだったのが真実だったりもする。

 さあ、ネットワークも吸音材も完了した。フタを閉めるか。おっとその前に。バッフルの補強をしておこう。今回はフロントバッフルは1枚なので、特にトゥイーターへの振動を抑制したい。フォックを塗ろうかとも思ったが、カー用のトゥイーターということもあり(?)デッドニングをしてみようか。以前車のドア防振用に買ってあった防振材を使ってみよう。これはブチルゴムにアルミ箔を貼付けたような構造になっている。ゴム部はかなり重いものだ。本来は金属、鉄板に使うものではあるが、木材に使っても問題はあるまい。何らかの効き目はある筈だ。そう勝手に確信してフロントバッフル裏に切り刻んで貼付けた。まだ接着していないサイドバッフルにも貼付けた。

 さて。今度こそフタを閉めるぞ。これでようやくエンクロージャーの組み立ては完成である。次は塗装。今回はユニットのイメージからライトグレーを選択した。最近流行っている「ピエガ」あたりのアルミエンクロージャーっぽくて良いではないの。最大の理由は最近買ったライトグレーのパンツ(下着の方ではない)を大変気に入っているからなのだ。タイトなブーツカット。こんなわしでもちょっと足が長く見えるシルエット。これだっ…と言うわけである。この春の流行色でもあったのだ。

 塗ってみるとなかなか良い感じだ。このスピーカーだと木質感は何だかそぐわないような気がしたのだ。組み合わせる色を選ばない、シンプルだがお洒落な色だと思う。

 乾いたらユニット取り付けだが、まずはスピーカー端子を取り付けねば。久し振りにフォステクスの定番「P24B」にした。バナナプラグ、Yラグ共に使用できる事と、ニッケルメッキによる銀色がエンクロージャーの色とマッチするからである。金メッキにすると価格が倍になるからでもあるが…

 実は今回一番苦労してしまったのがユニット取り付けである。トゥイーターは裏から穴に嵌め込むのだが、最終的には現物合わせでの調整となった。つまり、少しずつやすりでギコギコギコギコと削りながら合わせていったのだ。それでもまあまあ上手く行ったのでホッとした。

 意外に苦労したのがウーファーの方だった。最近採っている手法であるファストン端子での接続で躓いてしまったのだ。フォステクスなどと違って本来ファストンで繋ぐ筈のユニットなのだが、少々ユニット側の端子が歪んでしまっていたためなのか、うまく入らないのである。ファストン端子の隙間を緩めようと苦心したり、ユニット側の端子を出来るだけ真っすぐにしようと努力したのだが、どうにもうまく行かない。悪い事にミスもあって作業はさらに難航する事になってしまった。ウーファーへのケーブルが少々短かったのだ。これで作業効率がぐんと落ちてしまった。何せやりにくいったらありゃしない。

 結局、無事端子に入ったのもあるが、一部はあきらめてハンダ付けをした。そしてはまったはいいが、逆にすぐに外れそうになっている所もハンダ付けをしておいた。前回の製作ではファストン端子のお陰でずいぶん楽だったのだが、今回はずいぶん足踏みをしてしまった。まあ、こういう事もある。

 ところで、このウーファーユニットには前の持ち主である友人がワンオフで製作してもらったというアルミ製のアダプターリングが付属している。これと組み合わせてエンクロージャーにユニットをネジ留めすると、物凄く格好の良い出で立ちとなった。ライトグレーのカラーとのマッチングも上々だ。バッフルとフレームとの間に金属を介在させる事で音響的にも効果がありそうだ。

 …と言うわけで完成。毎度楽しみな試聴である。小さな巨人となるか…


 229. 夏休みの宿題(08.08.16)

 、真っ盛りである。

 暑い。いつもに増して今年は暑い。どうなっているんだろう。こんなに暑いと、冷房の効いた涼しい部屋で音楽を楽しむのに限る…のだが、やはり夏と言えば…

 工作である。もう読書感想文とか、自由研究とかする必要はなくなったが、やはり工作はせねばなるまい?暑い時こそ、アクティヴに攻めなければならないのだ。夏なんだから、をかくのは当然なのである。まあ、真冬以外はいつも汗をかいているのだが、わしの場合は。

 また作るのか。我ながら懲りないものだ。と言うより、何を作るのか。以前FE138ES-Rで作った「モアイ138(仮)」は上部だけだったので、下のウーファー部がまだ作っていない。しかし、それより前に作りたいものが出来てしまったのだ。

 友人より譲ってもらったセアスの12cmウーファー。「エクセル」シリーズと言う、同社でも高級タイプである。完成品ならばハイエンド系にしか使われないこのウーファー、どう使ってみるかワクワクしてくるではないか。

 ウーファーなので、トゥイーターを合わせねばならない。あまりいい加減なものは合わせられないだろう。同じセアスにするか、Vifaか、モレルか、はたまたスキャンスピークか…などと悩んでいた所、ポンと自分の持ち物から沸いて出てきたのだった。

 実は、のスピーカーを付け替える事にしたのだ。たまたまソニックデザイン「system77N」の下取り品があったとの事で、普通なら高価なため二の足を踏んでしまうべきものなのだが、新品定価の半額以下という価格にふらっと来てしまったのだ。何せカーオーディオ製品というのは値引きが殆ど無いと言ってもいい。安くしようと思うと、こういう中古を狙うしかないのだ。

 そんなわけで、車の中の音もかなりのグレードアップを果たした。車でここまで出るのか。すばらしい。…それはともかく、だ。つまりはトゥイーターが1セット浮いた事になるわけだ。車には同じソニックデザインの「トレードインボックス」というカジュアルラインを収めていたのだが、高域に物足りなさを感じてトゥイーターだけ交換していた。それがソニックデザインの「SD-25R」というタイプで、今回はこれをホームで使ってみようと思い至ったわけである。これもかなり良いものであり本来暫く車で使いたかったのだが、下取り品がトゥイーターとセットでグレードが上(SD-25N)だったので外す事にした。使わない手は無いだろう。

 しかし、いざ使ってみようとクロスポイントを探すとかなり厄介な事が分かった。ウーファーの方は小口径なのである程度高い所まで引っ張ろうと思っていたのだが、中高域が荒れまくりの特性で、特に10kHzあたりに鋭いピークがあるのだ。これはあまり伸ばしてはまずい。他方、トゥイーターは特性図こそ無いのだがクロスオーバー周波数が5kHz以上推奨のタイプだったのだ。まずい、中抜けになってしまうではないか。スコーカーが要るのか?こんな小口径システムなのに。

 そこでとった対策とは。ウーファーは下の方で切って6dB/octでなだらかに落としていく。特性図を見ると、低域から中低域に比べて中域が盛り上がった特性になっている。落としていっても逆にフラットになるのではないか…という目論見である。また、トゥイーターの方はそれでも出来るだけ下(3.5〜4kHz)まで引っ張って、12dB/octで切る。少々厳しいかもしれないが、頑張って欲しいものだ。

 あとはエンクロージャー。容積はだいたい6リットルくらいだろうか。ダクトはリアに開いてスリットにしよう。その方が箱の補強にもなるだろう。最近お気に入りの斜めカットをまたバッフルに採用しよう。これは横幅をスリムに錯覚させる効果もあるのだ。ネットワークを中に入れ込んでしまうか、外付けにしようかは迷うところだ。ネットワーク用のカッコいい箱でも上手く作ればそれなりに良さげに見えるのだが、どうもアイデアが思い浮かばない。まあいい。中に入れてしまおう。アッテネーターも何とか固定抵抗で済ましてしまおう。可変抵抗はやはり音質的に不満が出てしまうのだ。ただ、そうなると完全にギャンブルではある。これで「しまった、全然合ってなかった!」なんてことになったら、もうアウトだ。ウーファーを取り外して手を突っ込んでも抵抗の交換は困難だろう。まさに一発勝負。やはり男はこうでなくては(?)。

 暑い。そんな暑い最中、私は東急ハンズへ図面を携えて出発するのであった。(続く)  


 228. ブラウン・シュガー(08.07.29)

 もうこれで最後にしよう。

 よくある科白である。そして大抵は嘘、あるいはその場限りのごまかし、またあるいは意志薄弱な呟きに過ぎないものだ。とは言え、本人は大真面目だったりするのだ、少なくともその時は。

 もうお分かりかもしれないが、ケーブルである。また病気が出てしまった。ほぼ満足に近い状態の中で、これ以上ケーブルを交換するのは一種の賭けである。「しまった、やらなきゃ良かった」などと言う事になりかねない。そこで安全策に出る事にしたのだ。

 同じブランドでのグレードアップ。これならバランスを崩す事も無いだろう。つまらない、と言う方もおられよう。実際には自分自身がそう感じているのかもしれない。「どうなるだろう」というドキドキする緊張感は殆ど感じられない事になるのだ。しかし、実験のためにオーディオをやっているわけではないのだ。自分の好きな音を出すためにやっているのだ。そのためにはこれで良い筈なのだ。

 と言うわけで、現在DACからプリの間を繋いでいるカルダス「ニュートラルリファレンス」をこれに替える。カルダス「ゴールデンプレゼンス」である。数カ月前に中古で出た時、「おお、これは!」と食指が動いたものの、価格もあって手を出せないでいた。売れたら売れたでいいや、と様子を見ていたら結局なかなか買い手が付かなかったので「じゃあ、わしが買うぞ」と決意に至ったのだ。

 さてこのケーブル、雑誌の評価ではかなり「柔らかい音」として取り上げられており、昨今の「高解像度、ハイスピード」系とは全く別の性格をしている。カルダス自体がそういったオーディオ的な性能を追究すると言うよりも、音楽を表情豊かに聴かせることに重点を置いているメーカーではあるので、それは承知の上である。ただ、今のところ同社では最も新しい製品であるので、これまでの製品とは何か違うかもしれない、という期待もあった。

 「ニュートラルリファレンス」を下取りに出して手に入れたので、もう後戻りは出来ない。とは言え、同ブランドなので不安は殆ど無いわけだが。それにしても、このシースの色。艶消しのブラウンとはお洒落ではないか。ロングセラーの「クワッドリンク」や「クロス」はブルーやグリーンといった目に付く色だが、これは少々主張しすぎである。それに対してフラッグシップの「ゴールデンリファレンス」はブラックで、逆に面白くない。茶色と言う色は周囲に溶け込みやすく、それでいて自己主張もさり気なくしている、というわけで大変絶妙なのだ。色が良いものはきっと音も良いに違いない、そういうあまり根拠の無い自信が出てきた。

 これをDACからプリへと繋ぐ。さあ試聴だが、まだ真剣モードにはならない。カルダスのケーブルが寝起きの悪い事を分かっているのだ。音を出す。やっぱり。悪くはないがレンジの狭い、こもったような音である。まあ慌てずに様子を見て行こう。「曲げ」に対するエージングという要素が強いので、音を出さなくとも変って行くはずである。

 そんなわけで1週間が過ぎた。以前よりも高域方向への伸びや情報量は向上したようだ。しなやかな、爽やかな感じだろうか。しかし、中低域から低域に関しては少々大人しい。これまでのカルダスから出ていた「分厚さ」や「濃厚さ」がどうも足りないのだ。うーむ、こういう音なのだろうか。新しいタイプは現代的な音にシフトしたのだろうか。

 まあ、これはこれで悪い音ではないしなあ…と無理矢理自分を納得させようかと思ってまたさらに3、4日が経過した。そこでいきなり「来た」

 伸びた。低域がズドーン、と。「あれえ」とばかりにそれまで試聴用にかけていたCDをあらためて聴いてみる。

 「やっと来たかあ。」

 長かった…思わず安堵の息が漏れた。そこにはまさに豊饒な音の天国があった。情報量は多いのだが、それをひけらかすようなことはせず、あくまでも音楽のための情報なのだ。低域はある程度引き締めてはいるが、硬さは微塵も感じさせずに豊かに展開する。ヴォーカルのゾクッとするような気持ちよさと言ったらもう。シンバルの微粒子は音が消えても暫くの間その辺りに漂っているようだ。これが実力か。足りていなかった低域の力が加わると共に、コクもあればキレもある見事なバランスの音世界が繰り広げられたのだ。さすがだ。グレードアップは大成功であった。

 今風な高解像度系のシャキーンとした音を楽しむ方には少々違うかもしれないが、これでCDの音がさらにアナログに近づいた。こういうナチュラルさが欲しかったのだ。とりあえず、「電線病」にはしばらく罹らなくて済むかな、と。


 227. 足並み揃わず?(08.07.14)

 と言うわけで、どの機器もラックにそのまま「ポン置き」していることはない。もっとも、何もしなくたって決して悪いわけではない。むしろ余計な事をして「あれ?」という可能性だってあるのだ。あくまで最終的なチューニングであり、「好みの音」「自分の音」に近づけるためのアプローチとして行なう事なのだ。その試行錯誤自体を楽しむ、という側面もあるのだが。まあ、オーディオはМっ気がないと出来ないのかもしれませんね。

 まず、CDトランスポート。元々この「P-30」にはしっかりとしたスパイク足が付いており、受け皿も純正のアルミ製ではなく、以前使用していた「VRDS-25XS」の鋳鉄製受け皿を使用している。これにはタングステンシートを貼付けているのでさらに強力だ。ここでもう一歩進めてみよう、と試してみたのがこれ。

 ABAの超薄型制振シートである。0.6mm厚と1.4mm厚があるが、前者の薄い方にした。厚い方でも比較的安価なものではあるが、薄い方は何せ安い。しかしまあ、何と貧乏性なことか。そのクリーム色をした何とも素っ気ない、味気ない薄い板をトランスポートの下に敷く。さてさて効果の程はどうか。

 なるほど、まずは音数が増えた。細かい音まで良く出ている。低域の沈み込みが深くなり、引き締まって押し出しも強くなった。音像もくっきりと表現し、また音場も前後左右にいっそう拡がったようだ。それぞれの楽器の分離感も良くなり、透明感も出た。このシート、場合によっては少々騒がしい音になるような話も聞くが、確かに音数が増えて分離感も良くなるので、セッティングや機器との相性次第ではそうなる可能性もあるだろう。しかし、ここで上手く行ったのは幸いであった。

 パワーアンプのジェフロウランド「model102」もそれ程悪くはない足が付いているが、これは日本だけの仕様らしい。本国はただのゴム足のようだ。それはともかく、ここにも試してみたいシートがあった。

 J1プロジェクトハイポリマープレートである。これは8mm厚のシートだが、比較的コストパフォーマンスの高いオーディオボードと言えるだろう。サイズもヴァリエーションが豊富なので、使い勝手も良さそうだ。ジェフのアンプにはこの中で最も小さいサイズのもので間に合う。つまり最も安価なのだ。なんと貧乏性…(以下省略)。まずここで試してみて、良好ならば他の部分にも応用するという事も出来るだろう。

 それまで足の下にあてがっていた山本音響の黒檀インシュ+タングステンシートを外し、ハイポリマープレートを敷く。果たして結果は…

 うーむ今一つだな。何だかモヤッとしてしまったようだ。敷いたばかりの状態はまだ接触面との馴染みが進んでいないので、力を発揮しきれていない場合がある。暫く様子を見ようか。

 2日後。やはり今一つのままであった。失敗か。他の箇所に応用が利かない大きさなので使えないのは勿体ない話だ。DACの下にでも使うか…いやその前にもう少し暴れてみようか。

 プレートと足の間に、元通り黒檀とタングステンシートを挟んでみたのだ。これでどうだ。苦し紛れではあるが、何となく全ての良い所が出そうではないか。

 果たして、結果は吉と出た。キリリと引き締まり、明瞭感が出てきたのだ。ただ、以前の状態と比べてどうなのか、と問われれば「若干マシかな」という程度だろうか。J1の製品はどちらかと言えば癖の少ない、あまり邪魔をしないタイプなので派手な変化はしないのだろう。全体的に少しだけレベルが上がったと思わせる感じである。他の箇所にまでこれを敷こうとまでは思わされなかったことも確かではあるが。ただ、ジェフのアンプはインシュレーターなどでそれ程大きく変化はしないタイプかもしれない。

 最後にプリアンプの下である。とりあえず、という形で純正の足の下にJ1の青いやつを敷いていたが、ここを変えてみたかったのだ。試したかったのはKRYNA-PROマグネシウム製インシュレーターである。この分野の製品としては安いので、やはり気軽に試す事が出来る。この金属高騰の折、いつ値上げするか分からないので早めに行こう。

 購入したのはスパイクになったタイプである。受けの方は買わずに、ハイブリッドで行ってみよう。受けは既に持っている黒檀のものを使うのだ。金属と木の両方の良い所を取れれば、という狙いである。3点支持で、まずはマグネシウムの方を上にしてプリにあてがう。

 なるほど、引き締まった中低域と爽やかな中高域は特徴的だ。何と言うか、良くも悪くも現代的なサウンドになるのだ。自分には少々クール過ぎるだろうか。もっと熱さが欲しい。粘りや厚みが必要なのだ。そこで、インシュレーターの位置をひっくり返してみた。つまり、黒檀が上である。

 これだ。音楽が生き生きとしている。厚みと締まりの両立。粘りと透明感の両立。コクとキレ。金属と木の長所を上手く合わせる事が出来たのではないか。狙いは成功と言えよう。

 そういうわけで、それぞれの機器の下には統一感の無い状態となっていて見た目はあまり良くはないかもしれないが、「自分の音」という点に関してはまずまずうまく行っているのではないかな、と不遜にも思っているのであった。


 226. お洒落は足下から(08.06.20)

 高い。高価だ。高過ぎる。

 インシュレーターの話である。世に出回っているオーディオ用インシュレーターという代物、ただの小さな塊にしか見えないのだが妙に高い。確かにオーディオに用途を限定しているという事で、生産量はごくごく僅かなものだろう。小ロット少量生産では割に合わないというのも分からないではない。それに昨今の原材料費高騰で、さらに高額化に拍車が掛かったと言えるだろう。とは言え、とは言えあまりにも高過ぎやしないか。

 機材をラックにベタ置きでも、こんなものかと思えば特別問題は無い。しかし、やはり色々と弄くってみたくなるのがオーディオマニアの悲しき性。2つ方法がある。1つは自作する事。もう1つはそんな中でもリーズナブルなものをピックアップする事だ。

 まずは前者、自作である。材料集めにはやはりここ、東急ハンズである。スピーカー工作の時はいつもお世話になっているが、あらためて見てみると材料の宝庫なのである。木材、金属、合成樹脂、本当に様々な素材が揃っている。見ているだけでも楽しいが、その中で選んでいこう。

 まずは木材。以前電源タップ用にリオグランデなる木材をセレクトし、大変好印象だった。これの小さなサイコロでもあれば申し分なかったのだが、残念ながら作っていないようなので、オーソドックスに黒檀にしよう。ここで思いついたのが盗作。「リラクシン」で製作・販売しているインシュレーターをそのまま真似して作るのである。材料は黒檀の半球と真鍮の円柱。ちょうど双方の直径が同じものがあるのだ。

 これを互いに接着して、真鍮の底面にフォックを貼る。これで片方はほぼ点接触のインシュレーターが完成するのだ。普通にベタ置きしていたフォノイコの下にあてがってみよう。黒檀の方を機器側にしてみる。ラックは木製なので、金属→木→金属→木という組み合わせの方が良いような気がしたのだ。

 セットしてみると、困った事に機器との接触部分が滑ってしまうのだった。確かにねえ。そこで、フォステクスのタングステンシートを小さく切って先端に貼付けた。これで制振性能も上がるだろう。もう一度セット。今度は落ち着いた。さて音はどうか。

 ふむ。元々そう悪くはない足が付いていたので激変とは行かないが、中低域を中心に重心が下がって、力強さが増したようだ。音楽的には表情が豊かになって、生き生きとしてきた。音に命が宿る、そんな感じだ。これまでこのフォノイコに感じていた「悪い意味での国産臭さ」がかなり解消したように思う。機器とインシュレーターとの相性が良かったのだろう。試みは成功と言えよう。

 次に登場するインシュレーターはカーボンパイプである。「soundJulia」オリジナルの商品だが、これはインシュレーターだけでなく、例えば電源プラグに装着するなど様々な使い方のある面白いものだ。一見、素材がカーボンになっただけの塩ビパイプにしか見えない。重さはその塩ビより軽いのではないか。大変頼りなく見えるが、丈夫そうではある。切断面を見ると、バームクーヘンのように幾層にもカーボンの繊維を積層した事がわかる。これをどこにあてがうのか。レコードプレーヤーの下である。

 「スペースデッキ」のボード下。ラックとの設置面は何の事はない、ただのゴム足なのだ。いかにも頼りないので、何か試してみたかったのだ。そういうわけで、カーボンパイプを前一個、後ろ二個の3点支持でセットする。その配置にしたのは単純にスペースデッキ本体とボードが同様のレイアウトだったからである。

 この音にはちょっと驚かされた。この軽い素材であるのに、何と低域から中低域が厚いのだろうか。しかもぼやけずにキリッと引き締まっている。全体的には明るく弾むような音色で、1本芯がしっかりと通っており、軽やかなのに地に足が付いているのだ。いや不思議だ。思った以上の効果があった。カーボンの黒さから暗い音色を想像してしまうが、全くそういう事はない。

 他の機器の下はどうなっているのか。しばらくセッティングは落ち着いているので、それを次回に紹介する事にしよう。


 225. 素材への拘り(08.06.03)

 ある意味、オーディオというのは全て幻想であろう。

 だからして、あくまで幻想と割り切って、そのまぼろしの世界の中で上手に楽しむのがというものではないか。全ての事象に理屈と理由と仕組みを求めること、これは分からないではないのだが、寅さんのように「それを言っちゃあお終いよ」と言いたくもなる。野暮の極みのように思うのだ。

 やれやれ、最近ぼやきたくなる事が多いですな。

 今回のネタはSHM-CDである。鳴り物入りでの登場となったこの「新素材」CDであるが、実際には昔からこういった類いのものは存在した。金蒸着CDというものも今やかなり懐かしさを感じさせるものだが、近年のガラスを使ったCDはその価格にまずビックリさせられた。いくらオーディオに費用対効果などという言葉はナンセンスとは言え、これはあまりにも現実感がない。

 そんな中で登場したのがSHM-CDである。簡単に言えば盤の材料であるポリカーボネートに上質なものを使って透明度を高め、信号面の読み取りをよりシビアに行なう、というものだ。読み取りなんて出来てしまえば同じではなかろうかとも思うが、実際にクリーナーで盤面を掃除すると音は良くなる。まあ、そういう理屈なんだろう。

 これまでユニヴァーサルが持つ過去の名盤が、ジャズ、ロック、クラシックとジャンルを問わずリリースされたが、値付けが少々高い気がした。特に過去の作品は大抵廉価盤で再発されており、中には通常CDが1,500円、SHM-CDが2,800円という差が出来てしまっているものもあるわけだ。これではよほどの物好きしか買うまい。しかもどれだけ音が良いのやら、聴いてみなけりゃ分からないのだ。

 そのことが分かっていたのか、サンプラーCDをリリースしてきた。「これがSHM-CDだ!」という誠にベタなタイトルで、CDは2枚入っている。ロックの名曲が17曲収録されており、1枚はSHM-CD、もう1枚は同内容の通常CDという構成で、なるほどこれで聴き比べて欲しい、という訳だ。大変分かりやすい。しかも価格は1,000円。ただの17曲のコンピ盤としても破格ではないか。

 そんなわけで買ってきた。ようし、聴き比べてみようじゃないの。

 出来るだけ新しい録音の方が分かりやすいかな、と思ってシェリル・クロウを聴いてみる事にした。まず通常CDから。…うん、聴き慣れてはいるけど良い曲だな。なるほど。さあ、お待ちかねのSHM-CDに入れ替えてプレイボタンを押す。当然またシェリル・クロウを。

 ほう。確かに違うな。エッジの効いたギターに、締まったドラムの音。そしてすっきりしたヴォーカル。鮮度の高い音だ。間違いなく、明らかな違いはある。リマスターしたような、と言えようか。

 ただ、通常CDも決して悪くなかった。こちらはドラムの量感があり、中低域主体のバランスで大変聴きやすかったのだ。SHM-CDはこれに比べると少々細身かな、とも思った。この曲に限っては、「明らかに違いはあるけど、好みの範疇か」というのが結論である。

 では別の曲ではどうか。続けて聴いたエクストリーム(曲はもちろん「モア・ザン・ワーズ」)もシェリルと同様の印象であった。ギターがしっかり鳴っているのはSHM-CDだが、通常CDの方がロックらしい迫力は感じた。一長一短である。

 今度は古めの曲で行ってみるか。フリーの「オール・ライト・ナウ」。いやあ、これまた名曲だな。この曲に関してはドラムが下の帯域まで伸びていたのはSHM-CDで、どちらかと言われればこちらを取るだろうか。通常CDはちょっともやっとした感じだ。ただ、この「もやっと」が当時のロックらしい気もしてしまうのだが。

 最近新作を出したスティーヴ・ウィンウッドが所属していたトラフィック行ってみよう。これはアコギ主体のシンプルな曲で、こういった感じには綺麗な音であるSHM-CDに軍配が上がるか。

 80年代を代表してスタイル・カウンシル。一時期朝の情報番組のオープニングで何度も何度も聴いていたこの曲は、SHM-CDにすると少々きつく、うるさい感じがした。特にキーボードが耳についてしまうのだ。これは通常CDの方がバランスが良いだろう。

 そんなわけで、結局は勝敗はつかないまま、結論も出ないままであった。と言うより、1曲毎にCDを掛け替えるのはさすがに疲れた。ちょっと気分を変えて外に出てみよう。

 とは言ってもやる事は変らない。カーオーディオで試聴である。車にはソニックデザインのスピーカー、JLオーディオのアンプ、ヘッドユニットはアゼスト9255である。まあまあのシステムと思うので、試す価値はある。

 部屋と同じ曲で試すと、感想はほぼ同様の印象であった。だが、サブウーファーのせいで若干量感過多に鳴りやすい特徴を持っているためか、部屋よりはSHM-CD有利ではあった。聴き疲れしそうな面もあるのだが…また、ヴォーカルの定位感もSHM-CDの方がソリッドに決まって、好ましかった。さて、いくら信号待ちにしかCDの掛け替えはしないとは言え、何だか危険な気もしてきたので家に帰ろうか。

 また部屋に戻り、今度はテレビのシステムで聴いてみよう。YAMAHAのAVアンプ(定価¥50,000ほど、たまたま展示品処分で購入)と、デノンのユニヴァーサルプレーヤーDVD-1920(定価¥49,800、たまたま中古で購入)で、スピーカーはFE87Eで以前作ったマトリックス対応3発横長スピーカーである。

 このシステムでは全体的にSHM-CDが良かった。もとより中低域がボンつくのが気になっていたのでちょうど上手い具合にそこを締めてくれるのだ。しかも中高域が綺麗なのでこのシステムからはあまり聴く事の出来なかった鮮明な音を聴く事が出来た。また、このレベルのシステムでも違いを出してくれた事は大きいのではないか。

 色々試した感想としては、確かに違いはあるけれども、それを金額に転化出来るだけの価値があるかどうかは正直な話疑問があるという事だ。特にロックに関しては前述したように、クリアな音になる事が果たして良い事かどうかは分からないのだ。まさしく「好み」のレベルの話になってしまうだろう。

 リマスターではないので、思い通りの音に出来るわけでもない。あくまで「出たとこ勝負」なのだ。この音を聞く限り、古いジャズの音もだいたい想像できる。やはりクリアで中高域主体の音になるのは、一体良いのか悪いのか…個人的には古いジャズは中低域を若干緩めにした方が好い感じになるので、あまり「買い」にはならないかな、と思う。逆に現代のジャズならばクリアで引き締まった音の方が良いので、SHM-CDの出番になるのではないか。ただ、現段階では殆ど往年の名盤しかラインナップにない。これからどうしていくのだろう。クラシックの場合は専門外なのであまり言及しないが、オーディオ好きな人ならクリアになることは好い方向への変化になるだろうか。

 結論らしい結論は出せなかったが、まあオーディオなんて結論など無くてもいいと思う。これが絶対だ、などというファシズムはオーディオには似合わない。あくまで自分の好きなように、自分の好きな音を楽しむのが本道と思うのだ。このサンプラーを聴いて良いと思えば、どれか買ってみてもいいかもしれない。1つだけ言える事は、このサンプラー自体は「買い」です。これだけロックの名曲が詰まって¥1,000なんだから。最近軟派なコンピしか無かったから、こういう硬派なものを待っていたのだよ。


 224. 魔法のアブラ(08.05.09)

 今回は久し振りに小ネタである。

 いや、これまで触れていなかったのだが、前回のカルダスで思い出したのだ。

 それは接点のクリーニングである。普通は無水アルコールを定番で使っているのだが、「ここぞ」という時に使う必殺アイテムがあるのだ。

 名古屋市内に「soundJulia」という店があるのだが、ここのオリジナル商品である「スーパーコンタクトオイル」、これが必殺なのである。

 どう必殺なのか。一見これは巷に溢れるオーディオアクセサリーとしての接点復活剤に分類されるものに思える。いや、実際そうか。しかし、一時期流行った「塗り物」とは似て非なるものだ。そう、異種金属の粒子を接点に塗り付けることで導通を良好にする云々…(ずいぶん前にリポートしましたな)といったものでは決してない。とは言え、ただの掃除用品でもないことは確かだ。

 とにかくこれを綿棒につけて端子を磨く。しばらく磨いていなければ物凄く綿棒が黒くなる。アルコールだけでは普通、ここまで黒くはならない。不思議なのだが汚れがたくさん落ちているというヴィジュアル的なインパクトは十分だ。

 そして元通り端子を差し込み、音を出す。明らかな変化があるのだ。アルコールで洗浄しただけの場合、確かに効果は音にも現れてはいるが、あくまで「汚れた音が磨かれた」という範囲は超えない。掃除を終えた気持ちの良さと言う要素はあるにはあるが。

 コンタクトオイルを使用した音。まず最初は高域寄りになってしまう。キラキラした音で、派手と言っても良いだろう。ここで愕然としてはいけない。翌日まで待つのだ。そこからなのである。

 躍動感。滝のように轟々と飛び散る音の塊。ドシッバシッ。擬音まで使ってしまったが、こんな感じである。「Julia」のメインスピーカーはJBLのハーツフィールドだ。まさにこのように、ドバ〜ッと音が飛び出してくるのだ。

 これは素晴らしい。ブレーカーの交換にも似た、蛇口全開感である。しかしそういう男らしさだけでは決してない。高域の細かい粒子がさらに細かくなり、しかもその1粒1粒が太いのだ。空気感とでも言おうか。

 そんなわけで、良い事づく目なのである。ただとにかく元気の良い方向になるので、しっとりまったりした音を好む方には向かないかもしれない。この前のカルダスにもこのオイルを使って磨いたわけで、実際にはちょっとずるかったのだろうか。…いや、確かおぼろげな記憶では「クロス」の時にも初めて購入したオイルに数本付属していた細い綿棒で磨いている筈である。比較は公平です。大丈夫です。


 223. 肉食主義(08.04.22)

 前回までの自作スピーカーネタから話はガラリと変って。

 またしてもケーブルネタである。またかよ、と言われそうだ。そう、またなのだ。実はコイツのお陰で新スピーカーのエージングが遅れてしまったりしていたのだが、まあいい。とにかくケーブルなのだ。

 現れてしまったのだから仕方がない。中古の出物ってヤツはいつもそうだ。そいつの名はカルダス「ゴールデンクロス」。XLRラインケーブルである。

 以前よりパワーとプリの間を繋いでる同カルダスの「クロス」を替えてみたかったのだ。何に替えてみようか、色々思い描いてはいた。

 例えばオーディオクエストはどうだろう。これにすれば、もっとシャキッとしたストレートな、それでいてほんのり色艶のある音色になるだろう。しかし少々細身になってしまうかもしれない。

 ワイヤーワールドならば元気の良い、躍動感溢れる音になるだろう。しかし少々賑やか過ぎてしまうかもしれない。決して現在の音が嫌なわけではなく、それどころか大変気に入っているので、出来れば今の音を崩したくは無かった。我儘なものである。

 そう言った中で、結局最初に出た中古の出物が同じカルダス。つまり、現在の音調はそのまま生かす方向で行きたかった目論見と一致したわけだ。これは手に入れねば。

 「クロス」を下取りに出し、代わりに「ゴールデンクロス」が我が物となった。小豆色のシース、これこそいかにも「カルダスだぞ」と主張しているようでもある。ただ少々使い込んでいるようで、ロゴが消えかかっている。エージングはしっかり済んでいるだろうがカルダスの場合セッティングに対するエージング、つまり外部被覆や曲げに関するエージングが必要になるので、接続直後の音はまだ本当の音ではない事を承知しておかねばならない。

 キャノン端子のオスの方だけ掃除をする。と言うよりメス側は穴が小さ過ぎて綿棒が入らないのだ。細目の綿棒を用意してはあるのだが、それでも無理だった。まあ仕方がない、とそのままプリとパワーの間を小豆色のケーブルで繋ぐ。さあ音はどうか…ちなみにスピーカーは新しい138ES-Rではなく、従来の168ESのバックロードにする。

 ふむ…まあ、いいんじゃないの。中低域がどっしりして、ヴォーカルはふっくら艶やかである。やはり「クロス」に比べると全体的に安定感が増したと言うか、大人の音だろうか。まだ繋いだばかりなので、正確な判断は出来ない。もう少し様子を見てみないと。

 と言うわけで1週間後。最初の特徴はそのままに心持ち低域が締まってきただろうか。とは言え、少々疑問も生じてきた。これだと「クロス」より若干向上した程度である。大人の音、と前述したが逆に言えば大人し過ぎるような感じさえ見受けられる。キャラクターの違いかもしれないが、価格差ほどのことはないではないか。

 こうなれば駄目元、と少々暴れてみようか。不安であったメス側の端子のクリーニング。細い綿棒を探す旅に出た。様々なドラッグストアを回った結果、「サンドラッグ」で発見したベビー用綿棒が一番細かった。これならば入るだろう。

 今度は丹念にメス側をクリーニングする事が出来た。どうだ、と誇らしい気分になる。それにしても綿棒に付着した汚れのひどい事。おそらくこれまで一度もクリーニングしなかったのだろう。やりがいのある作業であった。

 さあもう一度接続。気休めかもしれないが…とCDをかける。

 え。何これ。

 驚愕した。全然違うではないか。

 豊饒とした音楽がそこにはあった。溢れんばかりの情報量、しかしあくまで聴かせどころを突いた出方だ。ヴォーカルの息遣いはぞっとする程、中低域の濃さは肉汁たっぷりの分厚さだが、それは胃にもたれる類いのものではなく、松阪牛のとろけるような美味なのだ。高域もあくまで自然に伸びており、その音色は自己主張し過ぎず音楽に色をさり気なく添える。「クロス」とは次元の異なる格の違いを見事に見せつけた。

 何と言う事だ。つまり端子の汚れにより、このケーブルは力を発揮できずにいたのである。クリーニングしただけでこんなに変るものなのだ。掃除は苦手なのだが、接点の掃除はしっかりしなければなりません。結果的には音も良くなって、めでたしめでたしなのである。


 222. 臥薪嘗胆(08.03.28)

 本当に最初はそうなんだねえ…思わず嘆息した。

 雑誌などのレビューで「まるでAMラジオのような」という表現を目にしていたので、こういう音が出ても失望したりはしなかったが、実際に聴くとやはり少々「引く」ものだ。まあそのうち変るだろう。

 と悠然と構えてはいたものの、そんなに簡単には変らなかった。音量もそれ程出せない時間でもあるので、まあ慌てずに…とCDを替えて聴いて行く。レンジは広くてあまりうるさくないものをかけていく。うーん、まだやかましいなあ、などと思いながら聴いていたが、実力の片鱗は見せていた。

 音場感が凄いのだ。ラックより前方に設置していると言う有利さはあるのだろうが、それにしてもこれまで何組もサブとしてブックシェルフ型を作ってきたのだ。こんなに立体的な音場が出現する事は無かった。所謂「スピーカーが消える」というアレだ。金の掛かったユニットはやはり違うのか。

 そういうわけで初日は終わり、夜帰宅してから寸暇を惜しんで鳴らす日々が始まった。徐々に品位の高さのようなものが現れてきた。どちらかと言えばクール系の音だろうか。木目細かいが力強さも併せ持った、解像度の高さを標榜するタイプだろう。夜なので大音量は出せないため、エージングの速度はおそらく遅々としたものかもしれないが、それでも日々変っていく。しかし、中高域の「シャカシャカ」とした耳障りな部分が残る。見た目の所為もあるかもしれないが、マグネシウムのセンターキャップが存在を主張しているように思えてしまう。うーむ、意味があってマグネシウムなんだろうが、このままでは少々ミスマッチと言わざるを得ない。まあ、これも変っていくのだろう。そう信じよう。今までと違って金属である。エージングのタイミングも異なる可能性はある。

 気長にやるしかないか、とも思いつつ、堪えきれずにトゥイーターを載せる事にした。「T90A-EX」をそのまま繋げるのだ。するとどうだろう、トゥイーターの音色の力でセンターキャップの癖をある程度はねじ伏せる事に成功した。こうなるともう外せない。これで行こう。姿形も昔のB&Wのようで、自画自賛だがなかなかのものじゃないの?

 本当はエージングのためにレンジが広くてパルシヴな音を持つソフト、例えば鬼太鼓座などをドカーンと鳴らしたいところだが、親兄弟との生活のため、なかなかそうも行かない。ある時家族全員が出払った時を見計らって、XLOのバーンインCDを再生したまま自分も出かけた。戻って音楽を再生してみると明らかにきつさは少しほぐれ、低域が伸張していた。やはり効果があるのだ。

 ところが、休日が来るとメインのバックロードに切り替えてしまう。本来ある程度の音量が出せる時間に、ついついメインの方が聴きたくなるのだ。そうして「やっぱりこっちの音がいいな」となって休日中はそのままメインで聴き、エージングは遅れてしまう。悪循環である。このままではメインの座を脅かすことにはなりそうもないではないか。

 そうこうしているうちに完成から1ヶ月が過ぎてしまった。意を決して(大げさな)この休日はメインに切り替えず、こちらで聴こう。またバーンインCDを再生したまま出かけ、帰って鬼太鼓座をヴォリュームを上げて聴く、という荒技を施すとかなりほぐれてきた。太鼓でコーン紙を動かしまくった所為か、中低域の躍動感が出てきたのだ。まさにほぐれた、という言い方が相応しい鳴り方で、やはりこういうエージングはもっと頻繁に行ないたい所なのだが、なかなか出来ないものだ。音を出さずにエージングする方法があったら知りたい。

 と言うわけで、現在はエージング途上である。どこまで行ったら完成なのかは分からないが、日々変化はしているし、それは好い方向のものなので期待は出来る。ヴォーカルの滑舌の良さや生々しさは特筆すべきものになっているし、ギターの音色と響きも艶やかで力強い。この大きさのブックシェルフ・バスレフなので限界はあるが、ベースの引き締まった鳴り方も悪くない。概して168ESに比べると少しクールで力感があるように思われる。好みから言えば、もう少し明るさが欲しい所だ。かなりハイ上がりなのに、何故か明るいとは言い難い音なのだ。とは言え、これも今後どう変化していくか楽しみである。あとはどうしてもドライに感じてしまうことだ。これは168ESが他のフォステクスに比べるとウェットさを出しているということもあるのだが(自分だけそう感じるのだろうか?)

 また、このスピーカー単体で行くのか、ウーファーをプラスするのかということも未だ悩み中である。音色が変ってしまうのではないか?しかし低域を足す事で初めてこいつは完成となるのではなかろうか…などなど。もしウーファーを導入するならば、バイアンプ、はたまたマルチアンプ化など夢は拡がる。これまた禁断の魔術のようで大変に魅力的ではないか。


 211. 前途多難でもなかった(08.03.12)

 そして翌日。昨日の雪が嘘のような良い天気だ。気温も上がってきた。

 午前中からハンズへ板を取りに行く。片チャンネルずつ分けて袋に入れてくれてあった。やっぱりスピーカーとバレているのね。

 早速組立に入る。まず寸法に間違いがないか、合わせてみる。いつもすんなりと終わる工程、今回も…あれ。違う。あ。あーっ

 バスレフダクトの部分、フロントバッフルに設けたポートに対して、ダクトを構成する板材の長さが1cm長いのだ。設計図を確かめてみると…ありゃ、悪いのは自分だった。5cmにすべき所を6cmとしてしまっている。しまったなあ。小さいパーツなので、自分で切ろうにもやりづらい。まあ仕方がない。また明日ハンズへ行って切ってもらおう。

 せっかく組立に没頭しようかという日であったが、バスレフダクトのお陰であまり進める事が出来なかった。リアバッフル以外の部分の箱を組み立てただけである。もっとも、色々やる事はあった。リアバッフルに直接端子を取り付けた。この端子はつい先日までメインのバックロードに付けていたものである。

 ここには書いてなかったが、メインには昨年末頃「クライオ処理を施したロジウムメッキ端子」を付けたのだ。その結果は満足すべきもので、粒立ちが良くなり、少々ギラッとしていたところが大変聴きやすくなって、ヴォーカルがより鮮明になったのだ。メリハリを出しながらもむやみに輪郭を強調していないところが気に入った。

 話は逸れたが、そういう訳で浮いていた古い端子を使う事にしたのだ。本当ならば成功したロジウムメッキ端子をまた使いたい気持ちもあったが、何せ決して安いものでもないのでこのスピーカーが成功したらまたいつか取り換えれば良かろう。別に悪いものでもないのだ。さて、今回は端子を端子板を介さず直接板に取り付けた。この方がやはり音質的にも有利であろうが、何より端子板を作るのが面倒だった事もある。作業時間の節約だ。配線はAETのものを使った。メインのバックロードと同じものである。また、ユニット取り付け部にはファストン端子を圧着で付けた。これは「サウンドクオリティアイ」というカーオーディオの方面で出てきたメーカーのもので、クライオ処理を施している。取り付け、取り外しが楽になるからではあるが、ハンダによる音色の変化を嫌ったためでもある。

 バスレフダクト部を除いた箱の内部を完成させて、さああとは翌日に賭けよう。1日あれば何とかなるだろう。

 連休最終日。朝一でハンズに出かけて…って、結局3日連続でハンズだな。あらためてミスった部分を直してもらって急いで帰宅、製作に取りかかる。

 ダクトの部分を組んでフロントバッフルと底板に取り付ける。ダクトが底板の補強も兼ねているわけだ。予めダクト内部に当たる部分に色を塗っておく。後で表からだと塗りづらいと思ったのだ。ちなみにペンキの色は以前使って余っていたオークにした。勿体なかったのと、結構気に入っていたからだ。

 あとは箱のペーパー掛けだ。目の細かいペーパーを念入りに掛けるのだ。まあ、念入りと言っても自分の事だから大した事はないのだが、我ながら頑張った方ではなかろうか。特に組み立ての過程で出た若干のデコボコはまず少し粗目のペーパーで削った後、細かい方で仕上げたりもした。これだけやれば十分だろう。自分としたら。縁側に降りてきての作業だったが、ちょうど家族が皆出かけていて都合が良かった。

 ふう。夏なら(いや春でもか)汗だくだな。お次は吸音材か。ハンズで購入しておいたエステルウールを側面とリアバッフル裏に貼り、天板裏にはアコリバのピュアシルクを貼付ける。リア部に貼付ける量が少ないかもしれないが、まあいいかな。また調整すれば良かろう。

 残りの接着はフロントバッフルを2枚重ねにするのと、リアバッフルである。幸い、それ程ずれは生じる事なく接着する事が出来た。これで箱の完成である。あとはオーク色をガンガン塗っていくのみ。ペーパーで均したと思っていた部分が実際には傷だらけであった事が判明したり、と「あ、しまった」という箇所もあったが、まあ今更気にしない。もう時間がないのだ。3連休もあっという間に終わってしまう。何とか試聴まで行くのだ。

 無理矢理塗装を終わらせ、夕飯を食らっていよいよユニットの取り付けだ。いつもの事だが、ここまで来ると「やっと音が聴ける…」という胸の高鳴りを禁じ得ないのだ。さらに今回は必殺の限定ユニット「FE138ES-R」、いやが上にも期待は高まるというものだ。ずっしりと重いユニットを一旦バッフルに落とし込んで、ネジ穴の位置合わせを行なう。フレームは6穴なので、位置をしっかり合わせておかないとみっともないのだ。ちなみに今回も鬼目ナットなどは使わない。作業工程が増えるのが嫌だから、というのが当然最大の理由だが、ネジとナットの金属同士が触れ合うのがどうも気に食わないためでもあるのだ。

 そんな訳でしっかりと木ねじを締め込んで装着。ファストン端子なので接続は簡単。スタンドにセッティングして、さあお待ちかねの試聴だ。それまでメインで聴いていたレニー・クラヴィッツの新譜をとりあえず聴いてみる。さてどう出るか…

 うわ。

 ガサガサだ。


 210. やっぱり作った(08.02.26)

 結局作っちゃった

 先日「オーディオコラム」で書いたように、フォステクスの限定13cmフルレンジユニット「FE138ES-R」を散々迷った末(いつものことか)購入したのだ。暫くどんな箱を作ろうか考え中という状態で、あの文章では「まだ当分作らないだろうな」という印象を与えたかもしれない。いや、実際に自分でもそうだったのだが。

 でも作ってしまった。いきなり。

 まあ、そういうものではある。思い立ったら早いのだ。「よし!」とばかりに物差しと鉛筆を振りかざして「ばしばしばし」と設計図を書いて東急ハンズに持って行き、切断された材料をばらまいて、えいやーとばかりに作ってしまうのだ。

 で、何を作ったのか。

 なかなか決まらなかった事は確かだ。設計図として最初に「オーディオベーシック」に掲載されたのがスワン型のバックロード「ターキー」だった。これでもいいかな、と思ったが床専有面積が大き過ぎる。何とかそれを小さくしようと、上に延ばしてみてはどうか、音道を1ターン少なくする(スーパーレアがそうだ)とどうか、などと色々考えた。だが結局、他の設計が出るまで様子を見る事にした。

 「analog」誌に掲載されたネッシー型の共鳴管は文面から察するに、かなりユニットの良さを生かしているような印象を受けたのだが、いくら床専有面積が最小とは言え背が高過ぎて圧迫感が大きいので候補からは外れる。見た目は重要なのだ。それに、自分はあれを置いたら絶対に倒してしまう変な自信もあるのだった。間違いない。

 そして年明け最初の「stereo」誌に掲載されたCW型。これを待っていたのだが、背が低く奥行きの長いこの形は…フォステクスさんには大変申し訳ないのだが、あまりにも格好が悪過ぎないか。ずんぐりむっくりではないか。おそらく理詰めで設計した末、この寸法が理想的なのかもしれない。しかし、ルックスは重要である。あらためて長岡先生の偉大さを再確認してしまった。先生の設計はルックスも良かったのだ。とりあえず、これも背を伸ばして奥行きを詰めて…と実際に仮設計図を書いてみた。ここまで来ればこれで決まりか…とも思えた。ただ、やはり奥行きを詰めるのも限界があり、置く場所が無い事は明らかだった。

 ラックを縦型にするか、と言う事まで考えた。そうすれば現在のメインと並べて設置する事も出来そうだ。しかし、それもかなり面倒な事だ。ラックを何にするのかまで考えねばならないし、そもそも結構な金がかかってしまう。そこまでするべきなのか。

 それが急転直下。その「stereo」をパラパラめくっていると「限定ユニットで『モアイ』を作る」という見出しがあるではないか。ほう。確かにこのユニット、ミッドレンジとしての性能は抜群だろう。バックロードで無理に低域を出さず、セパレート構造となったウーファーに任せるというのも1つの手だ。また、誌面ではオリジナルモアイと同じくトゥイーターにはFT96Hを使っているが、自分の場合はそのままT90A-EXを載せればいいのだ。この組み合わせならば高品位な中高域が期待できる。

 さらに、ある期待を抱いてもいた。それは上のミッドレンジ+トゥイーターだけでかなりイケるのではないか、という事だ。つまりブックシェルフだ。これならばスタンドに設置するだけでいいので、設置場所にあれこれ悩む必要は無い。もし低域に不満が出てくるようならばその時はその時だ。ウーファー部を作ればいいのだ。何よりも、一番手っ取り早くこの限定ユニットの音を聴く事が出来るのだ。これだ。これにしよう。

 そうと決まれば設計だ設計だ。「stereo」の3月号で図面は出るようだが、そこまで待っていられない。それに、2月号でもだいたいの大きさは載っている。オリジナルより奥行きと高さを絞っているようだが、それでは何だか昔のスピーカーみたいであまり格好がよろしくなさそうだ。そこで内容積だけを参考に、幅と高さを変更する事にした。ユニット口径に合わせて幅は狭くした方が格好も良いし、音場感に違いが出るだろう。高さはトゥイーターをマウントするのではなく、載せるだけなので低くても問題は無い。バスレフポートは設計プログラムを参考に、5cm×6cmの開口部と13cmのダクト長とした。これは長さを少し欲張った。ウーファー無しでも低域を伸ばしてやろう、というスケベ心だ。もっともやり過ぎると中低域がへこむのでわずかに、ではあるが。

 フロントバッフル面は2重にするが、四方に斜めカットを施す事にした。見栄えも良くなるし、音場感向上にも貢献してくれるだろう。これで内容積14l弱、幅210×高さ350×奥行280(mm)のエンクロージャーが設計された。

 折しも3連休。さあ、この設計図を東急ハンズに…と思ったらが降ってきた。すぐ止むだろう…と思っていたら何と積もり始めているではないか。やれやれ。出鼻をくじかれたな。暫く様子を見ていたが状況は一向に変る気配がない。もう仕方がない、とばかりに地下鉄を使ってハンズに行き、次の日にまた取りに行く事にした。まあ、二日あれば完成させられるだろう。フルレンジのブックシェルフ、難しい所は別に無いのだ。しかし、この雪。前途多難の前触れか?


 209. 空を見上げて(08.02.10)

 何度も書いている事であるので恐縮だが、我が部屋は散らかっている。

 普通なら謙遜して言う所の「散らかっていますが、どうぞ…」などと言う科白も、「本当だよな。全部捨ててしまえ」と返された事もある。それでも自分が通る場所だけは確保してある…所謂獣道か。モノが多いから仕方がないのだ。片づけてもすぐに増えてしまうので馬鹿馬鹿しくなって片づけなくなってしまう。悪循環だがモノを得ることは楽しいので止められない。

 それに、床が散らかっている事はオーディオ的にも決して悪くは無い筈なのだ。そりゃ、スピーカー塞ぐようにモノがあってはまずいが、適度に散らかっていれば吸音・反射の両面で有利ではないか。定在波防止にも役立つ。こんな良い事は無い。乱雑万歳。

 一見話は変ったように思えるかもしれないが、「リラクシン」でいつも気になっていったのが壁に貼られたデコボコの音響パネル。オリジナルはQRDの出している「スカイライン」だ。ここのはショップオリジナルで店主自ら製作したものが販売されている。確かに他のオーディオショップでも時々見かけるものだが、効果の程はどうなのだろう。

 「部屋は色々モノがあって凹凸があっても、天井は照明以外は真っ平らですよね」とは店主の弁。なるほど、天井にパネルを貼付けるのか。これで天井への音を乱反射させる事で定在波を抑制する、ということか。天井が高くなったような感覚になると言う。

 自分の部屋でどうなるかは試してみなければ分からない。そんな訳で、2つばかり購入した。自分でも作れそうな気がしないでもないが、いや時間さえ掛ければ作れるのだろうが、かなり掛かるだろう。休みを全部潰してまで製作に費やすのも何だか時間が勿体ない。スピーカーなら作っていても楽しいが、こいつはあまり楽しい作業ではなさそうである。塗装だけは自分でする事にした。それでもまあまあの時間が必要との事。

 帰りにホームセンターで天井の色に近いと思われるベージュのペンキを買って早速塗装に取り掛かった。言われていた通り、確かに塗りづらい。細い刷毛で引っ込んだ部分を塗るのはかなりの手間であった。しかも発泡材なので、ペンキをどんどん吸い込んでいく。とは言え元の色は水色なので美観の面では全くよろしくない。必死になって塗りたくり、何とか完遂したのは2時間以上過ぎてからであった。まあ、サッカーを観ながらだったから多少は遅かったかもしれないが。それにしてもいかん。もう夜ではないか。

 何せ日曜日だ。休み中に音を聴きたいではないか。まだペンキが完全に乾ききっていない、少々しっとりした状態だが早速天井に貼付ける事にした。どの辺りにするか。スピーカーの真上からリスニングポジションに向かって少し手前が良さそうだ。イメージ的に出た音がうまく反射されそうな感じである。と言うか、これ以上前にすると蛍光灯が邪魔なのだ。

 しかしこの、天井に貼付けるという作業は意外に大変だ。何せ散らかっているから脚立を設置する場所が無い。付属していた両面テープで「えい」と天井に押し付けた。片方は何となく安定したような気がしたが、もう片方はしばらくすると簡単に落ちてきた。やはり付属していた大型の画鋲で留めよう。もう片方はそのままにしておいたが、結局落ちてきたので結局両方とも画鋲で留めた。ふう。汗をかきそうになってしまった。塗装の色が思っていたより濃い色だったのは誤算だったが、それでも何とかこの日のうちに完成だ。まだ音を聴く時間はある。

 さあ、聴こう。いつもの「メルドー&メセニー」だ。

 おーっ、伸びる伸びる伸びる。気持ちよく高域がスーッと伸びていくのだ。これに比べると今までは何処か引っ掛かっていたようにさえ感じる。つまり出方がスムーズで自然なのだ。「天井が高くなった」とはこの事だろう。空気の広がりは絶対に天井の高さを超えている。

 ヴォーカルを聴くと、定位が一層ハッキリして浮かび上がる。エコーの消え方も自然だ。

 驚いたのが低域。明らかに床鳴りが減ったのだ。我が耳を疑ったが、やはり定在波が減った効果なのだろうか。よって、ぐいっと締まってきた。まさかこういう効果があるとは思わなかった。これはうれしい。それにしても、天井と言うのは今まで色々影響を及ぼしていたのだな。とにかく自然な感じになるということは言える。音楽が開放的に、肩の力が程よく抜けたように鳴るのだ。

 「ルームアコースティック」「ルームチューン」など、いかにも大げさに聞えるが、こうした事だけでもずいぶん変るものである。他に貼りどころがあれば、もっと増やすのも良いかもしれない。


208. 平伏(08.01.28)

 いや、大変だ。出てしまった。

 何がって。ケーブルである。またかよ、と思われるかもしれない。そう、またなのだ。仕方がないのだ。中古買いの宿命なのだ、何度でも書くけど。

 それは電源ケーブル。カルダス「ゴールデンリファレンス」である。ジャジャジャーン。最上級モデルなのである。くぅ〜っ。これがスピーカーケーブルやインターコネクトだったら、はっきり言って中古でもちょっと手が出せない。しかし、電源ケーブルは一本しかないのだ。手が出せる範囲に収まってしまうのだ。

 どこに使うのか。194章でプリにカルダスの「ツインリンク」を差した、とある。そう、ここに使えば同ブランド内でのグレードアップとなるわけだ。音調を変える事なく、レベルアップが狙えると踏んだのだ。それにしてもエントリーからいきなりフラッグシップへの変更か。極端かな。「クロス」あたりがちょうど良いのだが(お財布的にも)、まあなかなか出ないものでもあるし、せっかくだから挑戦したいではないか。

 そんなわけで「ツインリンク」を下取りに、「ゴールデンリファレンス」を見事手に入れた。太さが違う。貫録が違う。ケーブルなのに、何だかオーラさえ出ているように見える。被覆の色自体は全く色気のないチャコールグレーなのだが。

 重たいケーブルを、アコースティック・アーツのプリアンプにぐいっと差し込む。欲を言えばこのブランド、コネクタがごく普通のものなので、もっとしっかりした品質のものにして欲しいものだ。プラグやコネクタでかなり音は変るのだ。外国製は意外にこの辺がアバウトなのだ。まあ、らしいと言えばらしいのだが。

 さあ、音だしである。「メセニー&メルドー」にしようか。

 「うひゃあ」

 思わず口走ってしまった。何なんだ、これは。目茶苦茶良いじゃないの。

 何がどういいのかって、まずは「濃い」事だろう。音が濃い。いや、音だけじゃなくて「表現力」が濃いとでも言うのだろうか。音楽の内容までさらに充実したかのような錯覚を憶えてしまった。「うねる」のである。その曲に込められた「情念」がどろどろと沸き出してきているような…少々例えがおかしくなってしまったが、何せ「俺は今、猛烈に感動している」のである。取り乱しているとしても、お許し戴きたい。とにかく、CDやらレコードやら取っ換え引っ換えして聴きまくった。

 その「濃厚」さはヴォーカルには強く働く。生々しくもか細くならず、太いがぼやけないのだ。特に女性ヴォーカルは色気が立ち上ってきて、むせそうになるほどだ。息を耳もとで吹き掛けられたような気さえした。いや恐ろしい。ギターの音色も艶っぽさが一体何倍増したのだろうか。いつまでも聴いていたい妖しくも心地よい音色だ。いやはや恐ろしい。

 基本的にはカルダスらしいどっしりした中低域を中心にしたピラミッドバランスだ。しかし中高域の音色も普通じゃない。さすが最高峰である。課題があるとすれば、シンバルなどの帯域か。いや、ここも太くなってキレも向上しているのだが、少しギラつきを感じるのだ。まあ、ここは前回からの課題ではあるので、また対策しよう。レコードでは気にならない部分なので、カルダスの所為でもないだろう。やはりCD側の対策になるか。

 カルダスと言えば、昔は高価なケーブルの代表のような存在だったが、現在は以前に比べると値下がりして手に入れやすくなっている。中古になれば尚更だ。現在の経済状況を考えるといつまた値上がりするか分からないので、今がチャンスかもしれない。「音楽性」という言葉はあまり安易に使いたくはないのだが、ここのケーブルは「音楽を分かっている」人が作っていると思わせてくれる事は間違いない。


207. 柔軟剤(08.01.14)

 「シャープな音を少し柔らかくする」のが今回のテーマと言えようか。

 バックロードをお持ちの方々からは、「柔らかくするなんてとんでもない」とお叱りを頂戴しそうな話ではあるが、少しきついところを和らげるだけのことである。硬いのを柔らかくするのは、その逆よりは容易だろう。と言うか、逆はほぼ不可能に近い。

 音色をわずかに、極々わずかにソフトな方向に振るのだ。それはトーンコントロールで高域を下げてしまうと言う事ではない。あくまで音色だ。考えてみると、オーディオというのは音色をどうコントロールするか、に尽きるのかもしれない。

 実際にどうするか。ライン系はDAC〜プリ間もトラポ〜DAC間もカルダスだ。どちらかと言えば高域は柔らかめなケーブルなので、これ以上弄っても同じ事だろう。と、すると残りは電源かセッティングである。まずは電源ケーブルか。

 現在トランスポートにはオーディオクエストのCV-4とtype4で作ったものを差している。これがシャープな音作りに貢献している事は確かだろう。そうすると、交換すれば音色は変る筈。どうするか。今度は何で作ろうか。そろそろネタも尽きてきた。電源ケーブルに使えそうなスピーカーケーブルはそれなりにあるのだが、だいたいどんな音になるのか、想像出来てしまう。これだけ作っていると分かってしまうのだ。

 そんな時ピックアップしたのが完成品の電源ケーブル、ゾノトーンである。オルトフォンジャパンを退社した前園氏が新たに興したケーブル専門メーカーである。個人名を冠するからには、ありきたりの真面目なジャパニーズ・サウンドではあるまい。そう踏んだのである。折しも、その時入った「エイデン」では改装前の売り尽くしセールを行なっており、アクセサリ全品2割引であった。試してみるのも悪くはなかろう。「マイスター」シリーズと「グランディオ」シリーズがあるが、購入したのは安い方の「マイスター」である。

 買ってきたブルーの被膜のケーブルに差し替える。ちなみに、トランスポートとDACはメインとは別にタップを作ってそこから給電している。ケーブルはクエストのCV-6で、コンセントにはフルテックFP-15A(Cu)を選んでいる。メッキは施されていないものということで、自然な音を狙うと言う目的もあったが、何より安いと言う要素が大きかった事も確かだ。それ以前はレヴィトンのもの(おそらくニッケルメッキ)を使っていたが、それに比べると明るく元気が良く、中低域がゴリッと来るところが気に入っている。また、このタップもベースに黒檀を使って安定させている。

 少々話が逸れたが、そのコンセントにゾノトーンを差し込んだ。結果はまずまずうまく行ったと言えよう。被膜の色と違って暖色系の温かみのある音で、芯はしっかり持ちながら柔軟性に富んだ表情を伝えてくれた。きつい感じはほぼ治まり、かと言って生ぬるい音にはならずに済んだのだ。正直な話、かなりホッとしたことは間違いない。このケーブルを選んだのは賭けに等しかったからだ。何せ新しいブランドなので音の傾向はさっぱり分からない。今までのオルトフォンよりもきっと「やんちゃ」な音が出るに違いない、と勝手に期待しただけのことである。それは当たった。強烈な個性やインパクトをアピールするタイプではないかもしれないが、真面目になり過ぎず音楽を楽しませてくれる方向の狙いをそこには感じた。あくまで堅実に音楽を楽しませるところは日本製らしさが残っているが、それは逆に長所と言えるだろう。海外製の場合は音楽を享楽的に快楽的に酔わせてくれるが、人によってはそれを癖と受け止める事もあるだろうからだ。あまり羽目を外さない程度にほろ酔い気分にさせてくれるケーブルと感じた。

 きつさ解消はかなりの部分で解決された。さてもう少し詰めたいところだが…と思っていた所でそれを一旦脇に退けたくなるものが登場したのだ。いや、大変だ。(しかもこのネタ、まだ秋の話なのだ…これも大変)


 206. 秒殺劇(07.12.26)

 そんなつもりは無かったのだが。

 比較試聴してしまった自分が悪いのだ。

 それを人は「魔が差す」と言うのかもしれない。しかし…

 豊田市の「trade-up」のサイトで見つけてしまったのだ、CDトランスポートの「P-30」を。CDをセパレートにしてから、こういうトランスポートが気にはなっていた。が、「VRDS-25XS」もアップグレードしていたし、まだまだそのままで行くつもりでもあった。今回気になってしまったのは、という少々前の機種であることから、価格がかなり安いという事である。高価なものなら端から視界に入ってこないが、手の届く範囲になるものはどうしても気になってしまう。さらに、この個体もクロックのアップグレードを施されているという事実も大いに背中を押していた。

 そんな訳で、店主に相談して比較試聴をすることにしてしまったのだ。家からCDのセットを持ち込み、店で切り替えて聴くのだ。こういう事は大変面白いので、ワクワクする。まず、我が「VRDS-25XS」と我がDAC「ST-2」を接続して「ジャシンタ」を聴く。まあこんなものかな、と思いつつトランスポートを「P-30」に切り替える。

 え。全然違うじゃないの。このどこまでも伸びていくようなブラシ、ヴォーカルの存在感、どすっと来るスネア、引き締まるベース。全てが変った。何てことだ。一瞬で勝負は決まってしまったのだ。「P-30」の、圧勝である。秒殺である。ミルコのハイキックか。ノゲイラの一瞬の腕ひしぎ逆十字か。何枚もCDを持っていったのだが、全く必要は無かったではないか。

 正直な話、トランスポートでこれほどまでに違いが出るとは思っていなかった。これは両者の性能差と言うよりも、「VRDS-25XS」のようなCDプレーヤーのデジタル出力部の問題かもしれない。また、CDプレーヤーは内蔵DACが動いているままなので、ここで劣化が生じるとも言われた。

 まあ、能書きはいいだろう。とにかく自分の耳が勝負を付けてしまった。ここまでの差を提示されてはどうしようもないではないか。「こっちを持って帰ります」。

 そんな訳で、長年連れ添った「VRDS-25XS」を「今までありがとう」とその場に置き、代わりに「P-30」を携えて帰ったのだった。こうなる事は何となく予想はついていたのだが、ここまで即決になるとは思っていなかった。

 さて、この「P-30」は大きさはそれ程変らないのでセッティングは楽である。重量も少し軽い。足がスパイク状になっていて受け皿があることも「VRDS-25XS」と変らないが、三点支持であることが異なる点だ。デジタル出力端子はしっかりしており、さすが専用機と思わせてくれる。ここにカルダスのデジタルケーブルを差し、DACと繋ぐ。いつもの事ながら、音を出す瞬間というのはワクワクするものだ。

 果たして、出てきた音は鮮烈にしてハイスピード、まばゆいばかりであった。店で聴いた時の印象どおりではある。以前も決して悪い音ではなく、特に不満は無かったのだが、上があるという事を思い知らされた。オーディオの面白さでもある。CDを替えて、どんどん聴いて行く。目が覚めるような、という表現が最も相応しいだろう。おそらくDACの力も一層発揮されているのではなかろうか。最初このDACを手に入れた時、あまり音が変らなかったというのはトランスポート側の問題が大きかったと言う事なのか。

 少々気になる部分もある。これまた予想していた事だが、高域に若干のきつさを感じてしまうのだ。予想していたというのは、店での試聴の時に「VRDS-25XS」をトランスポートにした場合、高域にのびが感じられなかったのである。もっさりしてしまっていたのだ。家ではこのような事は無かったので、相対的にハイ上がりになってしまうだろうと思ってはいたのだ。今までの機器を基準にセッティングを行なっているので、これはある程度仕方があるまい。

 さてさて、これを解消するにはどうしたら良いか?


 205. 基礎工事はしっかりと(07.12.09)

 ブレーカーやヒューズなど電源環境を整備していると、面白いように音がレベルアップを果たしていく。いや実際面白くて堪らないのだ。ところで、ヒューズを交換する時に機器の後ろを覗き込むと電源タップが傾いているのに気がついた。ケーブルは太くて重いし、タップは細長い形をしているのでどうしても不安定なのだ。音質的にもあまり良い事ではなかろう、と前から気にはなっていて、重りを載せたりなど色々手は打ってきたが、やはりそういう小手先の対応ではうまく行かないものなのだ。

 そこで、今回は対策としてタップの強化をすることにした。どうするのか。極私的な理想としては、タップ自体を作った土台と一体化させるという事だ。どう一体化させるのか…まあ、それはあとで考えるとしよう。まずは東急ハンズである。ネタ探しなのである。土台の素材としては、最初から木と思っていた。どうしても石や金属は特有の音が乗りそうなのだ。金属製のタップを安定させて、しかも余計な音を足さないことを考えれば、自然に素材は木に落ち着く。やはり黒檀などの重くて丈夫そうな木がいいだろう。

 と言う訳で、色々選んできた。写真でもあるが、一番大きなやつがリオグランデという木。サイコロは紫檀、そして円柱は黒檀だ。これらで土台を組み立てる。様々な木のハイブリッドという訳なのだ。どれも重くて堅い木なので、良い結果が出そうだ。

 2本のリオグランデの間に紫檀のサイコロを3個挟んで接着する。若干のソリがあるのだろう、少々隙間が出来るが、構わずに押さえつける。梯子のようになった木材に、黒檀の円柱を足として接着する。4個付けるつもりだったが、ガタが出てしまったので3点支持とした。これで台座の完成である。

 これをどうタップに設置するのか。ただ置いただけではこれまでと同じ事である。離れないようにせねばならない。ブチルゴムで接着してしまうか。タップが汚れてしまうのも何となく嫌だし、スパイクでの点支持を捨てたくもなかった。

 そこで思いついたのは「縛る」ことだ。とは言ってもヒモで縛ったのではすぐに緩くなってしまう。そこで登場するのが結束バンドである。これならばしっかりとロックするので問題は無い。ホームセンターで出来るだけ長いタイプを買ってきた。ところがタップと土台に巻き付けようとしたが全く足りず、結局継ぎ足して巻く事にした。継ぎ足しても強度に変わりはなく、3本巻くとしっかりタップと土台は固定された。びくともしない。

 元通り電源ケーブルを差し込んでセッティングを行なう。見事にぐらつかない。傾かない。どっしりと安定した。何だか無性に嬉しくなった。小さくガッツポーズをしてみた。

 音を聴いてみた。いいじゃないの。見た目通り中低域が安定するかと思ったいたが、いや実際それは当たってはいたのだが、それよりも高域の伸びが際立って感じたのだ。ゆらゆらふらふらしていたのが無くなって余計な振動が減った事で、高域の歪みが減少したわけか。確かに高域は繊細だ。繊細、と言うのは音色の事ではなく、ちょっとした事で変ってしまうという意味である。それを思い知らされた。何事も基礎は重要だ。この場合の基礎というのは、土台の事なのかな。


 204. 山椒は小粒でぴりりと辛い(07.11.18)

 簡単に替えられるところはやってしまおうではないか。

 と言う訳で、次なる電源環境の強化はヒューズである。機器に送られる電気は必ずヒューズを通る。安全面からそうせざるを得ないのだが、あのヒューズ管の中に見える線はいかにも頼りなく、音質に関しては妨げになっているとしか思えない。つまりには必要悪という奴なのだ。

 では、そこを「いいもの」に替えてしまえば良いではないか、という事である。「リラクシン」で販売されているものはやはり「クライオ処理」が施されたものだ。ただ、普通よく見るガラス管のものと違って、セラミック製になっている。これも音質には関係がありそうだ。

 どの機器から替えるか。幸いな事に、プリの電源インレット周辺にヒューズホルダーを発見した。これならば交換が容易だ。全体に影響をもたらすプリならば手始めにはうってつけだろう。ちょうど予備のヒューズが付属していたのでここから容量を調べた。求める容量のクライオヒューズを購入し、早速ホルダーのものを差し替える。これだけで終了だ。あとはエージングするのみ。暫く電源を入れっ放しにしておこう。

 3〜4日が経ち、効果の程をしっかり確かめよう。またまたメセニー&メルドーをかける。

 おおおおっ、今度は何とまとまりの良い音である事か。まず、もやっとした所が無くなり、ぐっと引き締まってきた。それは特にベースの弾け具合に表れる。他には何といっても瑞々しさだろう。鮮度の高いギターの音がこちらに迫ってくる。透明感がありながら薄口にはならないのだ。また、ヴォーカルは口元がきりりと引き締まって大口にならなくなった。この生々しさは出色だ。

 全体的に言える事は、前回ブレーカーで溢れ出てきた莫大なエネルギーを、うまくコントロールしている感じなのだ。アンプのランクが上がったようでもある。何せ見かけは全く変わらないのに音がレベルアップを果たしているのだから、そう思ってしまうというものだ。

 気を良くして、別の機器もヒューズ交換したくなった。まあ当然だろう。調べてみると、DACとアナログプレーヤーの電源ボックスが簡単に替えられることが分かった。前者はプリと同じくヒューズホルダーがあり、後者は捻じ込み式になっている。その他の機器、CDプレーヤーとパワーアンプとフォノイコに関しては中身を覗いてみないと分からない。これは後回しにしよう。

 とにかく、2つの機器のヒューズ容量を調べて、また「リラクシン」でヒューズを2個購入した。まず、アナログプレーヤーの方から交換してみた。ここはただターンテーブルを回転させる、と言うより「スペースデッキ」の場合は回転を支えるだけという役割なので、あまり効果がなさそうな所ではある。果たして効果は…

 まず感じたのは「静かになった」という事だった。一聴すると何だか大人しくなってしまったようにも感じたが、違う。しっかりと落ち着いて、地に足がついたような音なのだ。少年から大人になったような、そんな感じである。レコードなので、当然ノイズは入るのだが、それでも静けさを感じさせる。おそらく回転が安定して、暴れが少なくなったのではなかろうか。オーディオ的に言うとS/N感が上がった、という訳だ。レコードを回すだけでも、その質でずいぶん違ってくるものなのだ。

 さらにDACも替えてみよう。こちらの変化は分かりやすかった。ヴォリューム位置は同じにしていたのにも関わらず、音量が上がったように感じたのだ。このDACの持つ元気の良さがさらにアップしたのだ。明るく、開放的な音はその度合いをさらに深めた。特に痺れたのはベース。パワー感が漲って、ビシバシとこちらに浴びせかかってくる。これは気持ち良い。また、スピーカーからの音離れが良くなって、より音場感が高くなった。つまりは機器自体のクオリティがそのまま1ランクアップしたようだ。

 確かにヒューズとして考えれば高価ではあるのだが、これだけ音質が向上したならばコストパフォーマンスはかなり高いと言わざるを得ない。エージングの時間さえ我慢すれば、そこには至福の時が待っているのだ。

 
 203. 根本から叩き直す(07.11.04)

 オーディオというものは、やりたい事が山のように出てきて、次から次へと片づけていかないと大変なのである。右から左へと流してしまっては何も進歩しない。大人しくまったりと音楽を聴いているだけで良さそうなものなのに、これが終わったらあれ、というように何かやらずにはおれないのだ。

 そんなわけで、今回手を付けたくなったのが電源環境。と言っても、「マイ電柱」をおっ立てるような大げさな事ではない。当たり前であるが。

 きっかけは駄目元のつもりでレゾナンス・チップを大きなブレーカーに貼付けた事であろうか。大して期待もせずに聴いてみると、驚いた事に明らかな音質の向上が見られたのだ。目の前がパッと明るくなったようなその音を聴き、「電源環境を整える必要がある」という思いに駆られてしまったのだ。

 そんな時、ふと立ち寄ったオーディオ店「リラクシン」で奨められたのが、オーディオ用ブレーカーなのである。見た目は何の変哲もないブレーカーなのだが、実際普通の(ブランドの選別はされているのであろうが)ものに「クライオ処理」を施したものなのだ。そんなに効くものなのか、クライオ処理。とは言え、「効いた」という事例には事書かないこのプラスティックの物体、ブレーカーとして考えてしまうと明らかに高価だが見事音質が改善されれば価格以上の効果であろうこの物体。ようし、使ってみようじゃないの。前から興味はあったのだ。

 とは言え、何せうっかり写真を撮り忘れてしまうほどの地味な代物、当然の事ながら「モノを所有する」という喜びには乏しい訳で、音質のみで充足してくれなければならない運命を背負っているのだ。音が良くならなければ困るのである。

 一週間後には交換する事が可能になり、いつもの事だがワクワクしながら音出しである。ここ最近のお気に入り、メセニー&メルドーの「カルテット」である。

 びっくりした。出だしの「カンッ」という音からして違う。以前は只「カン」と言っていただけに聴こえたのが「カンッ…」と「」があるのだ。この違いは大きいぞ。余韻、と言ってしまえばそれまでだが、何かもっと素晴らしいものだ。エージングにはしばらく時間が掛かる、との事なのでもっともっと良くなる事が期待できる。確かに低域が大人しい感じで、このままではまだまだかな、と思わせた。

 エージング、と言っても別に何をする訳ではなく、電気を部屋で使えばそれがブレーカーのエージングになる。時々音を聞きながら一週間、様子を見ていた。その間音は少し不安定に調子が上がったり下がったりして、すこしヤキモキさせた。

 さらに一週間が経った。ここであらためてじっくり聴いてみようではないか。もう一度メセニー&メルドーをトレイに載せた。

 するとどうだろう。大人しかった低域が見事にスイングしているではないか。どちらかと言うと中高域の目立つ盤と思っていたのだが、どうやらそうではなかった。秘められていた低域の力が明るみになったようなのだ。ベースの「ブリッ」とした勢いがこちらに飛んでくる。バスドラが深く沈みこむ。

 そして次から次へと、豊饒な音楽がそこにはあった。単純に音量が上がったようにも感じるが、決してそうではない。濃厚なのに透明、上品にして粗野、色々な言葉が思い浮かぶが、とにかく蛇口全開で音が迸っている。今まではどろりと淀んだ水が流れていて、それが綺麗な水になってどこにも引っ掛かることなく「どばっ」と一気に怒濤のように流れてきた、そんな感じだ。ついでに、テレビの画像も鮮明になった。こっちも効くのか。

 いや驚いた。ブレーカー1つでこんなにも変わるものなのか。やはり電源関連は効くのだ。専用電柱を立てたくなる気持ちも分かるというものだ。

 満足して、また「リラクシン」へ向かう。もう一つ、奨められていた事があるのだ。さらに現在の環境が強化されるのだろう。楽しみだ。


 202. ケーブルを繋ぐための…(07.10.21)
 
 偶然と言おうか必然と言おうか。

 ひょんな事からデジタルケーブルが手に入ってしまったのだ。

 知人にDACを購入した事、あまり音が変わらない事など話していたら、「今、一本浮いているのがあるよ」と。おおっ。貸すから気に入ったら譲るよ、との事だったので、二つ返事で飛びついた。何せそのケーブルはカルダスの「ライトニング15」だ。高級モデルである。何よりも使ってみたいではないか。

 早速その翌日、借りたカルダスに繋ぎ替えてみる。太くて小豆色をしたそのケーブルは、いかにも頼もしい。期待は高まるというものだ。カルダスの場合、新品でなくても曲げに対するエージングが必要なので、最初の音は少しなまっているかもしれない。それでも、出てきた音は期待以上のものだった。

 中低域の量感がまるで違ってきた。その濃厚さはさすがカルダス、と言えるものだ。また、女性ヴォーカルは色気を帯びて聴く者を捕らえて離さない魅力に溢れる。その特長は日を経る事に深まっていき、大変美味しい状態になってきた。この太さはアンテナ線では全く出せなかったものだ。こうなると、もう手放せない。たまらず借りた知人にメールを打つ。

 「譲ってくれ」

 そういう訳で、「ライトニング15」は私のものとなった。

 電源にワイヤーワールド、デジタルケーブルにカルダス、と最強の武装をしたため、さすがに音はパワーアップを果たした。さらに、それまで直置きにしていたのだが以前作った真鍮をフォックとタングステンシートでサンドイッチした自作インシュレーターを噛ますと、カチッと引き締まって来た。何だかケーブルを接続するための箱に過ぎないのではないかという疑問も無いでは無い「ST-2」だが、まあ良いではないか。ケーブル大好きだし。結果的にはかなりの音質向上を果たせたと思う。

 さらに、プレーヤーの電源ケーブルも何とかしよう。ここは自作で行く。前から考えていたのだ。それは、ケーブル2本使いである。具体的に言うと、オーディオクエストの「CV-4.2」と「type4」を使って1本の電源ケーブルに仕上げるのだ。これで比較的安価に「CV-8」に近いケーブルが出来るはずだ。

 1mずつ購入し、軽くより合わせて作る。決して片方のケーブルに全て+と−振り分けるのではなく、両方から+と−を引き出して(つまり実際の赤と黒に合わせて)プラグには接続する。プラグは余っていた明工社のものを使い、インレットはフルテックを使った。ケーブルむき出しでもどうかと思ったので、網組チューブを被せた。これで一見強力そうな電源ケーブルが完成した。

 音も力強くて、なかなか良い。クエストらしい明るさと引き締まった力感がやはり出るのだ。ただ、ちょっと高域がガサついた感じもした。1日置いてもそれは取れなかったので、せっかく被せた網組だが、これを取り去ってみる事にした。どうやって取るか少々迷った末、鋏でヂョキヂョキ切り刻んで剥がしたのだった。しかし、やってはみるもので再び繋ぐとガサつきは見事に無くなっていた。網組はケーブルにピッタリ接触していればそれなりの効果はあるのかもしれないが、隙間があると鳴きが出るのかもしれない。とにかくこれでプレーヤー(トランスポート)側の電源も上手く行った。全体的にはかなりの向上になったろう。

 これが6月の話である。

 そして8月になろうかというある日。遂に決心した。買おう。またかよ。何を、ってケーブルである。前から中古で出品されていて気にはなっていたものの、手を出しかねていたのだ。それはまたしてもカルダス「ニュートラルリファレンス」のバランスケーブルだ。「ST-2」は2番ホットなので、普通に市販のバランスケーブルが使えるのだ。これを利用しない手は無いではないか。

 そういう訳で、「ニュートラルリファレンス」は私のものとなった。

 このケーブルは1mあるので、今度はプリアンプから離すことができる。全く使わなくなったCDレコーダーをどけて、そこに「ST-2」を設置する。さてさて、ケーブルの威力はどうだろう…

 結果はズバリ、正解であった。前も自作とは言えカルダスだったので音色は同系列なのだが、やはり中低域の豊かさと解像感が段違いだ。クロスシリーズとリファレンスシリーズは別の音との事だが、カルダスはカルダス。その厚さ、太さは秀逸である。またしても女性ヴォーカルの色艶が上がり、もうご満悦なのだ。さらにアナログに近いような滑らかさがあり、聴きやすくなった。プリアンプから離したことも良かったのだろう、確実なレベルアップを果たす事が出来たのだった。

 色々あったが、ひとまずはこれでCDのセパレート化は上手く行ったと言えるだろう。それにしても、ケーブルに頼った部分が大きいのはどうかとも思わなくはないが…まあいいでしょう。


 201. 変わらないもの(07.10.06)

 そうは言っても、買い物は楽しい
 買い物をする時のドキドキ、ワクワクする昂揚感は一体何なのだろう。欲しいものが無尽蔵に手に入るとしたら、きっとあまり面白いものではないのだろう。代価としてそれなりの金額を払わなければならない。それは毎日気軽にポンと出せるものではないわけだ。予め限られた、制約された中での活動。だから楽しいのだ、買い物ってやつは。

 …まあ、そうした能書きだか言い訳だかよく分からない前振りはともかく。あらためてノコノコと大須へやって来たわしは、とにかく音を聞いて見る事にした。

 それにしたって、トランスポートがたまたま「P-0」である。反則ではないか、と思いながらしばらくCDを替えつつ試聴していた。正確な判断はこういう場では出来ないが、まあ好みの音ではなかろうか、とぼんやり思っていた。

 ちなみに、ステラボックスというブランドが付いているものの、実際にはゴールドムンドの業務用仕様というやつである。わしはどうもゴールドムンドの出す音と言うのがあまり好きではない。細かい音はたくさん出ていると思うのだが、神経質過ぎる程出ているように聴こえるのだ。また、どちらかと言えばホットな熱い音が好みのわしにとって、ムンドのクールな音はどうも肌に合わないのだろう。

 で、ステラボックス。雑誌等の評価ではムンドの音とは方向性が異なるとの事だったので実際に確かめてみる必要があったのだ。どうやらそれは間違ってはいないようで、タイトな音調ではあるものの、JAZZに向いた元気の良い音だった。これなら好みの範囲だ。所謂ムンドっぽさは感じない。

 そんなわけで。買いました、ステラボックス「ST-2」。何か家の中を漁れば売るものも多少は出てくるだろう。買い物をして何かを売る、というのは贖罪行為なのだろうか。まあいい。

 オーディオ機器としては何だか頼りないような小さな筐体なので、設置場所には困らない。だが、現実問題として所有しているケーブルの長さと言うものがあるのだ。持っていたのが以前アンテナケーブル(オルトフォン、7N)で作った1mのデジタルケーブルと、以前フォノイコとの接続に使っていたカルダスの「G-マスター・リファレンス」で作った50cmのバランスケーブルである。

 当初はCDプレーヤーの上にでも置こうかと思っていたのだが、ケーブルの長さが逆であった。そこで、「あくまで暫定的、暫定的ですからね」と呟きつつもプリアンプの上に置く事になった。小さくて軽い筐体なので、セッティングは物凄く楽である。

 さてさて、音だ音だ。メセニー&メルドーの「カルテット」を早速かける。

 …え。

 どういうこと?どうしてしまったの?冷や汗が流れる音を聞いてしまった。

 かなり焦ってしまったのだが、無理もない事だと思って欲しい。何故かと言うと、変わらないのだ。何がって、音が、である。何も変わらない。試しにそのまま繋がっていた従来のアナログ出力に切り替えてみても、同じではないか。えええええーっ、何故だあああああああああっ。

 そりゃ、細かく聴けば全く同じでは決してないのだが。やはりDACを通した方が緻密だし、所謂分解能も上がってはいる。しかし、しかし、だ。大した違いではない。こんなことってあるのか?耳が悪くなってしまったのだろうか。一応、こんなわしでもケーブルやインシュレーターを変えた時の違いくらいは分かるつもりだ。それなのに、何故。DACを通すと言う、かなり違う事を行なっているにも関わらず、だ。何をしても音は変わる。長岡鉄男先生もおっしゃっており、まさにその通りと思っていたが、こういう事もあるのか。

 音の傾向が似ているという事なのだろう。と、無理矢理にでもそう思わなければやっていられない。ちょっと暴れてみるか。まず電源ケーブルだ。対して考えもせずに、「ST-2」には余っていたAETのものを差していたが、プレーヤーのワイヤーワールドと入れ替えてみよう。

 お、ちょっとはマシになったじゃないの。音に艶やかさと躍動感が加わってきた。やはりDAC部の電源は重要なのだ。さらに、プレーヤー側に差したAETをDIVASに差し替えてみる。大きくは変わらないが生真面目だったところが腕白な調子になってきた。なかなか良い感じだ。

 結局、機器とケーブルの相性はかなりデリケートなものなのだ。あとは、デジタルケーブル。ここを何とかしたいもの。そんな時であった。
 

 200. パンドラの箱(07.09.16)

 それにしても、現段階でも9dB程落としているのに、まだトゥイーターが強いのか。どのくらい落とせば良いのやら…とりあえず、11dBと12dB落とす事が出来るだけの固定抵抗を注文した。それらが届いたら作業開始である。

 リアバッフルのネジを外す。これでウーファーとトゥイーターを端子板に留めているネジを緩めれば簡単に外れる…のだが、やはりトゥイーター側のケーブルが短かった事が災いした。つまり、リアバッフルは少しずれるだけで端子板のネジを回そうにも届かない状態に陥ってしまったのだ。

 仕方ない、トゥイーターを外そう。それ程面倒な事でもない。逆にファストン端子の方を抜けば良いのである。そんなわけで、抵抗を交換する作業に入ろう。

 11にするか12にするか。迷ったのだが一気に落とした方が良いような気がしたので、12dB落とす事にした。コンデンサとコイルと抵抗をまとめてハンダ付けした部分があったのだが、ここをケーブルを接ぎ足す事によって、抵抗を簡単に交換出来る形にした。端子板の残った端子を利用するのだ。一昨年作った「赤い彗星」でもそうしていた。

 再びフタを閉じてトゥイーターを取り付ける。さあ、これでバランスの良い音になるか…期待に胸を膨らませて再びメセニー&メルドーをかける。

 おや。何だか違うな。とにかく、まだウーファーが受け持つ部分は弱いバランスのままだ。トゥイーターの方も特にアッテネーションされたような感じが無く、むしろ2kYから3kYあたりが張っているように聴こえる。これでは何も変わらないどころか、悪くなってしまったではないか。おかしいなあ。どうしたんだろう。何か間違えたかとも思ったが、そんなに難しい事をした訳でもない。

 聴いていくうちに気付いた。高域は落ちているのだ、以前よりも。中域から中高域辺りが逆に張ってしまっているので最初は分からなかったが、間違いない。アッテネーターは効いてはいるのだ。よくは分からないが、インピーダンスの問題とやらだろうか。これがトゥイーターに多くを担当させたことの難しさだろうか。

 せっかく良い音になりそうだったこのスピーカーも、結局はモノになるまではかなり苦労しそうである。今度こそ成功させようと張り切っていたのだが、まだ白旗を揚げるつもりはないものの、調整は小休止としたい。それ程ショックが大きかった事もある。何せ「これでイケるだろう」と目論んで為た事が逆の結果を生んでしまったのだ。またほとぼりが冷めたら挑戦したい。

 そんなわけで。

 話はガラリと変わる。初夏のある日、大須を徘徊しているとハイファイ堂でふと目に入ってしまった。そいつは小さい成りをしているくせに、妙に気にさせられてしまったのだ。

 そいつの名は、ステラボックス「ST-2」D/Aコンヴァーターである。以前CDプレーヤーをアップグレードに出して、こいつをしばらく使っていこうと決めた。さらにこいつを今後生かしていくにはこういったDACを足すことも一つの手段になる訳だ。

 まだ査定中のようで、その辺にポンと置かれたままの状態であった。確かこいつにはバランス出力があった筈…などとぐるぐる見回していると、店長が「値段決まったらお知らせしますよ」などと言ってきた。全く、抜け目がないねえ。

 いくら小さな筐体とは言え、新品定価はまずまずのものだったように思った。それが中古であっても、おそらく人気機種と言う事もあってそうは安くはなるまい。しかも、買い替えではないので下取りに出すものが無いのだ。この事は大きい。

 そうは言っても、だ。この機を逃しては、という逸る気持ちも当然の事ながらあるのだ。他に手頃な価格のDACは無い訳ではないが、どれも今一つと言う印象が強い。最近出たソウルノートは気になるが、中古で出る事はまだあるまい。そうなんだよなー。

 「また来るから、査定済んだら値段教えてよ」

 我ながら、ちょっと呆れる反応ではある。買うの?


 199. 完成だが未完成(07.08.27)

 またこんな事で足を引っ張られるとは…

 FT48Dを取り付ける場合、バッフル側に端子用の穴を開けねばならない。何回もやっている事なので、今回も気楽に(つまりいい加減に)穴を開けたのだが、ファストン端子のせいでトゥイーターが収まらないのだ。これは参った。やっぱりファストン端子など止めて直接ハンダ付けした方が良いのだろうが、ケーブルの長さが足りないと言うこともあり、やはりここは何とかそのまま行きたい。

 棒状のやすりでゴリゴリ削りながら、現物合わせで調整するのは意外に手間取った。ようやくトゥイーターが収まった時にどれほどホッとしたことか。これももう片チャンネル分は早く済ませられた事は言うまでもない。

 ここまで行けばもう後はユニットをどんどんネジ留めしていくだけ。…だった筈なのだが今度はウーファーの方が入らない。ケーブルの分がどうしても引っ掛かるのだ。あー全くもう。なかなか先に進まない苛立ちを隠せず、おもむろに彫刻刀を取り出してケーブルの太さの分をガリガリと削る。これはそうすると意外なほどスムーズに収まった。やれやれ。底面のパッシヴラジエーターの方は当然ケーブルなど無いので簡単である。そうだ、底を持ち上げるためのスパイクを用意していなかった。スパイク受けは既に用意してあった。コーリアンのものだ。大須のサウンドプラザにあることは知っていたので買いに行くと、同じ大きさの物が6個揃わないとの事。何だと。結局2個は大きめの物を使い、それを前面に使用する事にした。つまり前1つ、後ろ2つという通常とは逆のレイアウトになる。前が少し大きいため、心持ち斜め上に傾く事になり、これも結果オーライでいいかもしれない。

 肝心のスパイクだ。ホームセンターに行ってみるがロクな物が無いので、やはり東急ハンズまで向かう。以前は在庫切れだったスパイク状の木片があったので、迷わずこいつにした。本当なら黒檀辺りが良いのだが、仕方がない。金属、例えば真鍮などの円錐もあるのだが、落としてしまった時など、結構危険に思えたので見送った。値段が(特に最近)高いと言う理由もあるのだが。

 早速その木片を底に貼付け、塗装もしっかりするとこれまたなかなか良い感じではないか。軽い木材なので、何度も塗り重ねて少しでも重量を増やそう。

 さて、ここまで来たら漸く完成と言えよう。スパイク受けをタオックのスタンドに置き、その上にスパイクと合わせながら設置する。ふむ、とにかく見た目は合格だ。当然これから出てくる音が悪ければ意味はないのだが。

 最近のお気に入り、ブラッド・メルドーとパット・メセニーの「カルテット」で行こう。

 出てくる音は…うむ、最初のバシャバシャしたシンバルはさすがこのトゥイーターの良さが出て切れ味と滑らかさが共存していて気持ちが良い。ホーントゥイーターの鋭さとは違うが、このドームトゥイーターの音色はかなり良い感じなのだ。ギターの音色もトゥイーターの帯域が広いため、この音色に支配される。滑らかで艶やかだが決してふにゃっとしないのがいい。

 ベースのビシッとしたところ…ちょっとここが弱いかもしれない。と言うより、トゥイーターの音が勝ち過ぎているようなのだ。ウーファーの受け持つ部分が大人しい。パッシヴラジエーターも効いているのだろうか?下からのぞき込んでみるが、ウーファーが頑張ってストロークしている割にラジエーターの方はあまり動いていない。うーむ、バランスが悪かったか。箱が大き過ぎたのかもしれない。この状態だとどちらかと言えば密閉型に近いような鳴り方である。低域が薄いかな、と思っているとかなり下の帯域を時に「ゴーン」と鳴らすのだ。下の方までだら下がりで伸びている事は確かなようだ。

 また、トゥイーター帯域のアッテネーションが足りないようでもある。数値上よりさらに落としたつもりだが、まだ中高域が張っている感触が強いのだ。これはこれで魅力がないでもないが、やはり気になる所である。

 まずは低域、というよりウーファー部から下の帯域の増強を計る事にしよう。エンクロージャーの容積を減らすのが早道だろう。とは言っても、そう簡単にはできないが。

 とりあえず、ひっくり返してパッシヴラジエーターを取り外す。そこから吸音材をさらに多めに詰め込み、メラミンスポンジを切り刻んで色々な所に接着するのだ。定在波抑制にもなるし、少しは容積減らしにもなるだろう。

 これでまたパッシヴを取り付けて聴いてみる。すると明らかに効果は上がった。ウーファーから下が生き生きと鳴り出したのだ。しかしまだまだ物足りないことも確か。まあ、実際にそれ程容積が変化した訳ではない。ただやった事が無駄ではないと分かったので、もう少しやって見よう。

 再びパッシヴを取り外してさらにさらに吸音材のピュアシルクアブソーバーを詰め、以前製作した分の残った板きれだの昔々ちょっと実験してみた三角錐の木片だのを付けられるだけ中に接着しまくった。まあまあ容積は減っただろう。

 さあどうだ。かなり良い線まで来たぞ。明らかに普通のスピーカーのバランスに近づいているのだ。やればやっただけの効果が得られる事は大変楽しい物だ。ただ、やはりトゥイーターの方のアッテネーションも何とかせねばなるまい。次回はここに手を付けよう。つまり、遂にネジを外して裏ぶたを開けるのだ。パンドラの箱にならなければ良いのだが…


 198. 見た目にこだわる(07.08.12)

 「いい音がしそうな気が、ふつふつと立ちこめてきたではないか。」

 と前回の終わりに書いたが、ずいぶんおかしな日本語だったかもしれない。「いい音がしそうな気がする」という場合の「気」とは違って、所謂「気合い」とか「気配」とかそう言った意味での「」のつもりだったのだ。…まあ、そんなことはどうでもよろしい。

 早速斜めカットされたウーファー部のバッフルをフロントバッフルに接着してみると、一層カッコいいものが出来そうだ。ワクワクしてくる。見た目の良いものは音も良い筈である。

 少しずつ箱を組み上げていく。バックロードとは違って基本的には単純な箱なので、作業自体は簡単である。補強材をどこに入れるかと言うくらいだ。天板に付ける事は決めていたが、残り4本ばかり補強用に切った木材がある。パッシヴラジエーター用に穴を開けている底板も補強したいが…うーむ、どこに付けるか。結局一番後ろ、つまりリアバッフルと接触する部分とした。あと2本。オーソドックスにサイドに接着すると言う手もあったが、2本を1本にしてサイド同士に接着させる方法を採った。定在波防止に斜めにする事は当然である。

 箱鳴りを多少なりとも抑制させるため、フォックの塗料をいい加減に塗ってみる。吸音材はアコリバの
ピュアシルク・アブソーバー」がまだたっぷりとあるのでこれをふんだんに使おう。

 リアバッフルは一番最後にネジ留めにするため、先に塗装しておこう。今回久し振りに半透明ステインタイプの水性塗料を使った。シナ合板の木目が綺麗だった事もある。採用したのは「オーク」。リアバッフルの板を先にペーパーを掛け、この色を一筆塗ってみる。

 「これだ…」

 やはり最初の一筆は重要である。これは良い色だ。どんどん塗っていくとそれは強固な確信となる。今までで一番の色合いではなかろうか。接着剤の乾いた箱の方もペーパーを掛け(と軽く言っているが、暑くなってきたこの気候の中、結構つらい)、塗り進めて行く。いいじゃなーい、いいじゃなーい。ちょっとした家具みたいだ。

 そんなノリに乗った気分の中、面倒な事に掛からねばならない。そう、ネットワークである。先に塗装したリアバッフルをひっくり返し、そこにユニット用にくり貫いた丸い板を2つ載せてみる。それぞれをウーファー用、トゥイーター用にするのだ。そして以前も使用したカー用のテクニカ製端子板も載せてレイアウトを考える。その結果、表側に取り付けるターミナルは中心から少しずれる事になった。まあ、大した事ではない。逆にそれもいいではないか。

 レイアウトが決まったら丸い板をネジ留めする。取り換えを容易にするためだ。そしてネットワーク素子を取り付けていく。今回新たに用意したのはウーファー用には2.2mHのコイル(Jantzen製)と18μFのコンデンサ(Dayton製)で、トゥイーター用には1.0mHのコイル(Jantzen製)である。コンデンサは10μFのフォステクスがあったのでそれを流用する事にしていた。アッテネーターにはDaytonのセメント抵抗を5.1Ωを購入して、手持ちのと組み合わせて使う。これで8〜9dB落ちる筈である。

 コイルはエポキシでしっかりと接着し、コンデンサはブチルゴムで取り付ける。そして固定抵抗を最後に…などと文字にしてしまうと簡単なのだが、妙に手間取ってしまっていた。やはりでかいコイルやコンデンサを上手く配置するのが意外に難しく、ベターなセッティングをするのに時間をかけてしまったのだ。余っているスピーカーケーブルで配線をするのだが、これも意味なくどれにしようか迷ったり、これだっ、とばかりに電線をチョキチョキ切り刻んでセットしようとしたら切り過ぎて短かったりなどというドジを踏みつつ時間だけが過ぎていったのだ。もっとも片方が終わればもう片方はえらく短時間で出来てしまう事は、これまた言うまでも無い。そうやって組んだネットワークは我ながら美しい(?)。最後はウーファーとトゥイーター用に用意したケーブルを繋いで完成である。ちなみにウーファーにはAET、トゥイーターにはオーディオクエスト(珍しい、細い撚り線のもの)を用意した。

 このリアバッフルをボディにネジ留めにするわけだ。「スプーンネジ」という強力にねじ込めるタイプのものを使う。なるほど、ぐいぐいねじ込まれていく。強いわ。寸法のずれも殆ど無く、これでとりあえずはエンクロージャーは完成である。

 ちょっと後悔。トゥイーター用のケーブルの長さに余裕が少なかった。取り付けが少々不便になってしまう。今回はファストン端子を使うので、ハンダ付けの煩雑さが無いだけまだ良かったが、それ以上に面倒な事に行き当たってしまったのであった。


 197. 今度こそ(07.07.28)

 せっかくスタンドだけは市販品を買ってあるんだから。

 長い長い、ブックシェルフスピーカー製作遍歴。いつの頃からだったか…「すーぱーらわん(FW168+FD48D)」からだろうか。そして「赤い彗星(Vifa+FD28D)」の頃に買ったのだ、中古でタオックのスタンドを。今のちょっとスマートなアルミ製のやつではなく、武骨な鋳鉄のやつである。長岡先生も使っていたタイプだ。去年作った緑色の小型バックロードは見切った。「失敗!」と。音道短すぎである。あの箱なら同じ12cmでも127Eならば行けるかもしれないし、あるいは83Eあたりの小口径を持っていくという手もある。ただ、そもそも色からして失敗であったと痛切に思う。緑と言う色は心をリラックスさせるためでもあったにもかかわらず、全くそんな気持ちにさせてくれないよ、あのけばけばしい緑色では。

 まあいい。そろそろ重い腰を上げるか。スタンドが勿体ないと言う訳では無いけれども。

 折しも偶然手に入ってしまったユニットがあるのだ。ピアレスのウーファーと、さらにペアを組むパッシヴラジエーターである。見た目は最近大躍進中のスピーカーブランド「ピエガ」に使われているものにそっくりである。実際ピアレスに別注しているらしいのでやはり似ているのだろう。ただ、このユニットの場合は「小型サブウーファー」用らしき部分もあるので、注意が必要かもしれない。

 特性図を見ると、1.5kYから2kYにかけてピークが見られる。これさえ無ければ特性上は上も使えそうだが、やはりここは避けたい。しかしそうなると、使えるトゥイーターは限られてくる。

 逆にわざわざ買う必要は無くなった。そう、FT48Dが浮いているではないか。あのトゥイーターならばかなり下まで引っ張る事が可能だ。1.1か1.2辺りでクロスさせよう。

 どんどん製作が現実味を帯びてきた。ただ問題もある。見た目、ルックスの事だ。トゥイーターの方が大きいので、普通にマウントすると何だかバランスの悪い事になりそうだ。そこでひらめいたのがリニアフェイズ。ウーファーを少し前に出して取り付けたら遠近法で多少はごまかすことができるのはなかろうか、と実際の位相合わせとは全く狙いは異なるが試してみる価値はありそうだ。ウェストレイクのLcシリーズなどであるような形で行ってみよう。段差部分が斜めになるのが結構カッコいいと思うのだ。

 構想はどんどん膨らんできた。あとはパッシヴの取り付け位置。前面は最初から考えていなかったが、背面もネットワークの関係から少々悩む。と言うのは今回は外付けではなく、内部に収めたかったのだ。しかしそうすると定数変更の時に面倒だ。その対策としてリアバッフルを取り外し可能にし、そこにネットワークを全て取り付ける事にした。逆に言えば予めリアバッフルの裏にネットワークを取り付けておき、最後にネジ留めにするのだ。

 と言う事で、肝心のパッシヴラジエーターの位置は底面に決定した。市販品でも時々見受けられるやり方だ。スパイクで浮かせるようなデザインにしよう。カッコいいじゃないの。ウェストレイクっぽいルックスで底面はスパイク仕様。いいねえ。…などと自画自賛モードに入りつつも設計は進んだ。パッシヴラジエーターがあるのでダクトの計算などする必要が無いのはいいけれども、逆に内容積をどうしたいいのか分からない。あまり大きいとラジエーターの効きが悪いことは何となく分かっていたので、出来るだけ小さく、しかしネットワークがあるからなあ…しかも底面にもユニットがあるからあまり奥行きを短くするとユニットのマグネットやらネットワークやらと干渉しそうだしなあ…

 結局は何でも妥協の産物だ。幅170×高300×奥行250という何だか妙にオーソドックスな寸法で決まった。これで内容積は8lくらいか?ネットワークやら何やらでもっと減るだろう。ウーファー部分のサブバッフルは上を斜めカットにしてもらおう。折しも「stereo」誌7月号での競作に出ていた元フォステクスの浅生氏が製作した作品はバッフルに斜めカットが盛りだくさんで、一瞬「ここまでやっちゃおうかな…」と頭をよぎったがややこしいので止めにした。ここまでやるとウェストレイクっぽさが無くなるし。そんなにウェストレイクを意識したわけでもないが。

 東急ハンズに依頼して出来上がったところで、まず確認したのが斜めカット。見事に45°、綺麗なカットだ。これだけで何だか期待が高まってきた。単純なものである。いい音がしそうな気が、ふつふつと立ちこめてきたではないか。


 196. 癖を付ける(07.07.15)

 フラットだなあ。

 新しいフォノイコ、ラックス「E-1」の音を聴いての感想第一声である。

 とは言っても実際にフラットかどうかなんて分かりゃしないのだが、「フラットな特製の音って、こんな音かなあ」と思わせる、とにかくそんな感じなのだ。レンジは広いし、細かい音も出してくれる。さすが、この価格帯のオーディオの音である。

 しかし、特別ゴリッと来るとか、女性ヴォーカルが堪らなく色っぽいとか、スパーンと弾けるリムショットとか、踊りまくるウッドベースとか、そういった感想はどうしても浮かんでこない。まあ…やはり優等生やオール4や、そんな単語が連想されてしまう音である。

 何だか悪く言っているようだが、そんなこともない。確実な音質アップは果たしているのだ。あとはこちらの腕次第なのだ。素材は良いのだから、そこから先は料理人たるわしの出番なのだ。面白いではないか。やってやろうではないか。腕が鳴るぞ。

 やはりケーブルか。ちょっと暴れ者が良いかもしれないな。そんな時気になっていたのがヴィンテージワイヤー系。ウェスタン・エレクトロニクス社の古い錫メッキ線を使ったものが出ていたのだ。これなら素直じゃなくなりそうだ。普通の音はしないだろう。この、あえてニッケルメッキを施したノイトリックのRCAプラグも素敵だ。こいつでしばらく様子を見てみよう。

 エージングはそこそこ必要とのことなので、色々とかけながら鳴らして慣らす日々が続く。そう、こういうセッティングやらケーブルやらは繋げた瞬間から結論を出してはいけないことは既に何度も経験している。我慢だ。とりあえず繋げた瞬間の音の印象は「意外に普通の音だな」という事だった。この状態だとフォノイコの方がケーブルを支配しているのかもしれない。それまで繋いでいたカルダス「クロスリンク」に比べると若干細身に感じる。

 そしてそして、1ヶ月が過ぎようとしていた。何と気の長い様子見だが、結論はこのくらいかかるのだ。仕方がない。で、どうなったかと言うと、なかなか面白い音に仕上がった。シンバルは「ザキッ」とした鋭くちょっぴり粗めに荒めに鳴って勢いがある。中域は文句なく、ヴォーカルも生々しい。中低域はグッと引き締まった音で、どちらかと言えば細身だろうか。

 欲を言えばもう少し癖っぽさが欲しかった。結構普通のいい音である。逆にこのワイヤーが支持されている理由はこのナチュラルささったのだろう。決して個性を狙うものでも無いのだ。あと気になるのがやはりうるさくなるスレスレの高域。音楽によっては少々荒過ぎる。これはこれで魅力はあるが、バランスとしてはもう少し中低域寄りにしたかったので、どうやら自分の目論見にはこのケーブルは適していないようだ。しかし魅力はあるので、またどこかで復活の時があるだろう。

 またケーブル選びである。やはりカルダス辺りがいいのだろうか。本当ならせめて「クワッドリンク」か「クロス」が欲しいところだが、そんなには出せない。いつか出物が登場したら…ということで、「300 B」にしよう。プリにあてがった電源ケーブル「ツインリンク」が当たったので、同ランクのこいつでも良い結果をもたらしてくれるのではないか…という期待である。一番短く、そして安い50cmので十分なのでお財布的には助かる。

 さあ今回はどうか。例によってカルダスもエージングに時間がかかるので様子を見るしかない。ただ、とりあえず音を出しての感想を述べると、「ったりし過ぎたか」というものだった。確かに中低域の量感は増えたが、全体的にもったりまったりだ。うーむ。おそらくエージングで変わっては来るだろうが、少々心配になってきた。

 そこで。今度は電源ケーブルに目をつけたのだ。そこには「DIVAS」のものが装着されていた。これは決して悪くはないケーブルなので長い事色々なところで使っているが、ここを変えてみよう。今浮いているケーブルにオーディオクエスト「CV-6.2」のものがある。やはりこれを復活させてみようか。

 結果は…やってみて良かった。成功である。躍動感がグッと出てきて、メリハリが付き、量感と締まりのバランスが取れてきたのだ。いや、ケーブルって面白い。さらには日を追う事に300Bの方もこなれてきたのか、エントリーモデルながらカルダスらしい艶と濃さも出てきてくれた。どんどん思惑通りの方向へ行ってくれている。いよいよ最後の仕上げか。

 さすが日本ブランドの機種だけあってそこそこの足がついているのだが、ここに下にタングステンシートを敷いてみようではないか。ここは予想通り低域に沈み込みが深くなり、曖昧な揺らぎがかなり減少した。地に足の付いた音である。やっぱり大地にしっかりと足をつけなければ良いベースは弾けまい。

 これでアナログ環境も完全復活。最初は無表情に歌っていたようなノラ・ジョーンズが今ではしっかり情感を込めまくって歌っている。この違いは大きい。


 195. また一難(07.06.27)

 順風満帆のように見えるかもしれない。しかし不満が全く無いかと問われれば、決してそうでもなかった。

 レコードの方である。アナログの方である。

 CECのフォノイコを通した音が、どうにも不満なのであった。レンジが狭くなってしまい、何だかこもったようなじれったい音に聴こえてしまうのだ。レヴィンソンの時は全く不満は無かったのに、これはどうした事だろうか。確かにCECはそんなにレンジを欲張った音ではなかったとは思う。簡単に言ってしまえば「プリとの相性が悪い」のだろうか。あるいは針か。

 ところで、唐突ではあるが現在常用しているカートリッジはベンツ・マイクロの「ACE-L」である。ずいぶん前から…そう、もう1年くらい経つだろうか。書きそびれていたが実はそうなのだ。たまたま出ていた出物に飛びつき、それがバッチリ当たったのだ。立ち上がりの良さ、繊細でありながら大胆なところ、何よりもこれで聴いていると音楽が本当に楽しい。何よりの事ではないか。雑誌の評価では繊細さばかりが取り上げられているが、結構ゴリッとしたえげつない音(良い意味で)も出せる、万能カートリッジだと思う。

 しかしプリを替えてから何かおかしい。試しに、とカートリッジをコントラプンクトに戻してみる。確かにこちらの方がこの組み合わせにはマッチしているのかもしれない。その代わり、どうにも当たり障りの無い音になる。うーむ、何となく納得が行かないがしばらくこれで様子を見るか…

 そんな矢先。

 レコードを聴いていると右chから音が出なくなった。実はこれが初めてではない。一度修理に出したくらいだったのだ。またか。接触が悪いのか、少し持ち上げて「コンコン」とやると一応音は出るようになる。しかし、あくまで対症療法でしかないのだ。またそのうち出なくなり、その頻度は段々と多くなってくる…

 また修理か。しかしレヴィンソンの時はフォノイコ内蔵だったので問題は無かったが、アコ・アーはラインアンプだ。フォノイコが、フォノイコが無いと、レコードが、レコードが聴けなくなってしまうのだ。これはあまりにも悲しい

 適当なやつをとりあえず手に入れておこうか。テクニカから程々安くていいのが出ていたし、これにしようか。そうすればCECが戻ってきてももう一本のアーム用に繋げておけばいい訳だし。

 そう思っていたら「また」出会ってしまった。

 ラックスマン「E-1」である。これは比較的新しいやつで、中古とは言え価格もそれなりにする。どう考えてもCECから買い替えるものであり、買い足すものではない。しかし入力が2系統あることは大変ありがたい。これ1台で賄えるのだ。うーむ、どうするか。とりあえず音か。

 そんなわけで、店頭で音を聴いてみる。まあ、比較のしようがないのだが、決して悪くない。このあたりの価格帯でそんなに音が悪かったら困るが、逆に「物凄く良い!」という驚きはなかった。迷うところである。
 それでもやはり、2系統使える事のメリットは捨てがたい。しかも滅多に中古市場には出てこない代物だ。音にしても自宅で聴いてみない事にはやはり何とも言えない部分もある。まあ、結局はそうなのだ。買ってみるしかないのだ。

 当初とはずいぶん予定が変わってしまったが、長い目で見ればこの方が良いかもしれない。と自分に言い聞かせてラックスマン「E-1」は自分のものとなった。

 それにしても、アキュフェーズと同じでラックスマンも横幅がかなりある。狭いラックに入るかどうか微妙なところだったが、両端が2〜3mmというごくごく僅かな隙間を残して何とか入れる事が出来た。危ないところだった。もう少しで上段に載せているCDプレーヤーと入替えを覚悟せねばならなかったからだ。筐体自体は薄くて横幅と奥行きがあるので言わばピザボックス型である。棚の隙間から手を突っ込めば結線は出来るので楽と言えば楽である。プリとの接続はこれまではバランスケーブルだったが、これは普通にRCA端子しかないので余っているピンケーブルは…あったあった、カルダス「クロスリンク」で作ったものが。とりあえずこれでいいだろう。プリの唯一のアンバランス端子に接続する。

 前置きがずいぶん長くなってしまった。そんなわけで音出しは次回と言う事で。


 194. 元から光っているが、磨けばさらに光る(07.06.04)

 そんな訳で夜な夜な新しい音を聴く毎日。たとえそれが30分しかなくても構わない。充実したひととき。明日も頑張ろう。しばらくはこのプリアンプが心の栄養であった。まさに栄養剤と言っても良かっただろう。何せアンプ購入後ちょうど27日の間、ぶっ通しで仕事だったのだ。ふらふらでへろへろの中、唯一の光がオーディオと音楽であった。いや、買っておいて良かった。本当に良かった。就寝前の時間だけが自分が自分でいられるような気がした。

 ところで。そうすると。つまり。実はその間あまり大きな音で聴けていなかったのである。中小音量でシンバルを浴びるように聴く事の出来るアンプはそうそう無い(と思う)だろうが、実際に昼間普通に聴く音量を出したらどうなのか。それを試す事が出来たのは購入後4週間を経てからのことであったのだ。

 最近お気に入りのシンバルバシャバシャソフトはパット・メセニーブラッド・メルドーの「カルテット」だ。ドラマーのジェフ・バラードが奏でる(そう、まさに「奏でる」感じだ)シンバルはあたかも金粉を巻散らかすようで、部屋をシンバルで埋め尽くす。これがもう、気持ちが良いったらありゃしないのだ。

 さあ、久し振りの休日。音量上げちゃうぞ、構うものか。と、ヴォリュームをぐいっと思いきって回す。と言うよりリモコンのボタンを押しまくるのだが。

 おお、何と目覚ましい…シンバルのバシャバシャがこれはもう、まさに目の前だ。これでもかこれでもかと痛いくらいに迫ってきた。ベースの低域もパンチ力が相当あってボディに効いてくる。ギターのメリハリとピアノのやや硬い響きを持った凛とした音色は誠に気持ちがよろしい。

 ただ、ほんの「僅か」に高域にきつさを感じないでもない。これをもう少し、本当にもう少し和らげる事が出来れば申し分ないのだ。ケーブルあたりで調整できそうな範囲の事である。そんな訳で早速試してみよう。プリとパワーの電源ケーブルを入れ替えてみた。プリにハーモニックスを、パワーにワイヤーワールド「エレクトラ」だ。

 簡単に結果から言えばこれは失敗のようだ。確かにきつさは治まったが、何だか躍動感まで一緒に薄くなってしまったようで、小さくまとまったつまらない音になってしまったのだ。ただ入れ替えただけでここまで変わってしまうとは…恐ろしいものである。では別の方法を摂るしかないか。

 そうしてたまたま大須をぷらぷらしていて見つけた電源ケーブルがあった。

 それはカルダスインリンク」である。つまりはカルダスのエントリーモデルだ。カルダスならば高域がきつくなる事はあるまい。また、中古で試しやすい価格でもある。これに期待してみようではないか。

 それではプリに差していたワイヤーワールドをどうするか。パワーにはそのままハーモニックスが良いような気がしたので、CDプレーヤーに差す事にした。ここでオーディオクエストが外される事になる。また何処かで復活する事になるかもしれないので残しておこう。

 また同じメセニー&メルドーで行くぞ。さあ、どうだ。

 今度はバッチリ、成功だ。きついと感じていた部分が上手い事「僅か」治まり、聴きやすい音色になったのだ。まさに絶妙の匙加減、と自画自賛である。さらには中低域のコクとトロ味が出てきて、ここはやはりエントリーモデルとは言え、カルダスの特長だろう。良い事ずくめである。

 ただ、やはり少しではあるがメリハリが減退したような感もある。これ以上ケーブルを弄ると何だか訳が分からなくなりそうだし、ガラリと変える必要も無いところなので、目先を変えてみよう。

 ひらめいたのが足下。インシュレーターを何か当てがってみようではないか。様々なものが転がって(本当に床に転がっていたりするので、みっともないったらありゃしないのだが)いるのだが今回は久し振りにj1プロジェクトの青いやつに登場願おう。理由はない。思いつきだ。あるとしたら「それ程劇的に音を変化させないだろう」という目論見だ。ほんの少し効けばいいのだ。昔々、アキュフェーズのプリメインに敷いていた四角くて青いものを足下にあてがう。

 当然試聴盤は変えずに聴く。…よし。思わず小さなガッツポーズ。カルダスで少しばかり緩んだ部分は見事に締まり、復活だ。本当に「ほんのごく僅か」なことだがこれが大きい。いやはや、こうした機器との駆け引きもオーディオの楽しさとあらためて実感。クロームメッキを施されてキラリと光っているつまみが、妙に頼もしく思えてきてしまうのだ。


 193. 買い替えちゃった(07.05.06)

 かくして、アコースティック・アーツ略してアコ・アーは私のものとなった。

 レヴィンソンがまあまあの値段で売れると踏んでの決断ではあった。ところが、翌日レヴィくんを持っていくと残念な事に修理を要する部分があったため、若干査定価格が下がってしまった。まあ仕方がない。結局は新しいものを持てる喜びの前には些細な事である。

 さてセッティングだセッティングだ。突き出したフロントパネル部分がラックに入っていかないことは承知していたので驚く事もしない。奥行きがあるので逆に助かった。結線しやすいのだ。本機はバランス回路のためか、端子もXLRがずらりと並んでおり、入力はバランスが3つ、アンバランスがたった一つという思い切った構成である。ちなみに出力の方はバランス2系統、アンバラ1系統である。ケーブル類はこれまでのものを全て流用する。プリ〜パワー間がカルダス「クロス」、CD〜プリ間がゴールデン・ストラーダ、フォノイコ〜プリ間がカルダス「Gマスターリファレンス」だ。そして電源ケーブルはワイヤーワールド「エレクトラ」だ。とりあえずはインシュレーターなど噛まさず、そのままラックに設置した。さてさていよいよ音出しだ。ただし、もう日曜日も夜になろうとしていた。サザエさんも終わってしまった。あまり大きな音は出せないな。カサンドラ・ウィルソンあたりから行ってみようか。

 おお、ゾリッと来るな。店で聴いたのと印象は余り変わらない。太い、という事だ。一つ一つの音がしっかりと芯を持っていて、こちらに訴えかけてくる。説得力のある音と言おうか。音像がしっかりと地に足を付けて、揺るがない感じだ。それでいて音場の広さも兼ね備えている。硬いか柔らかいかで言えば少々硬い方へ向くかもしれないが、ギスギスした感じは全く無い。金属の硬さと言うより、鉱石の硬さとでも言おうか。宝石ほどの嫌みはないのだ。例えが分かりづらいかな。捕れたての新鮮な魚介類、特に光り物かなあ。ヴォルビックよりもエヴィアンかヴィッテル。コントレックスまでは行かない。

 ますます分からなくなったかもしれない。とにかく鮮度が高く、ぱあ〜っと視界が大きく開けたような感じが強いのだ。情報量も増えたが、うるさくならない。中高域の切れも好みだ。かみそりと切れ味と言うより、ナタに近いのだ。さすがドイツ人、刃物にはうるさいんだろうな。…またよく分からなくなってきたかな。何だかうれしくなってしまったのだ。選択は間違っていなかった。

 一番気に入ったのがシンバル。バシャバシャバシャと降り注いで来るのだ。これは気持ちが良い。シャワーのように全身に浴びたくなる。これも繊細さを持ちながらも太く芯のしっかりしたもので、一部ハイエンド系にありがちなすっきりした音とは違う。あくまで骨太なのだ。やっぱりドラマーは腕が太いのだ。パワフルなのだ。そうでなくちゃ。それでいて耳障りな感じがないのが凄いところ。S/Nが良いのだろう。今度はかなり具体的な事が書けた。これなら分かるかな。

 ヴォーカルは主役感が色濃く出てくる。演奏に溶け込まずにあくまでキリッとそこに「居る」のだ。そして少し後方に伴奏者が。いいじゃないの。あるべき姿ではなかろうか。それはマイルス・デイヴィス先生の作品でも変わらない。マイルス様がそこにいらっしゃいます。ははっ(敬礼)。

 ベースは決して膨らまない。あくまでゴリッと、キリッと、鋼鉄の指でかき鳴らされる。量感についてはもう少し欲しい気もしなくはないが、いやいやいや、それは贅沢。この引き締まりと力感は得難いものがあるのだ。

 音の事ばかり書いてきたが、特筆すべきは静かな事。残留ノイズはほとんど聞えない。スピーカーに思いっきり耳を近付ければごく僅かに聞えるかな?という程度で、ここまで静かとは思わなかった。これは大変うれしい。漸く長年の問題が解消したのだ。
 また、リモコンがあるのも便利だ。ヴォリューム調整しか出来ないが、ずっしりとしたアルミの塊で出来たそいつはなかなか洒落ている。アナログヴォリュームなので、リモコンを操作するとつまみがぐるーりと回る。デジタルヴォリュームが主流になりつつある中で、結構頑固なメーカーのようだ。さすがドイツ人?ただ、筐体はシンプルで目盛りなど付いていないので「さっきと同じヴォリューム位置で…」ということは難しい。デジタルなら数字で表示してくれるが…まあ、頑固なドイツ人(?)なので、この辺は仕方がない。あえてアナログヴォリュームを使っているのだろうから。

 総じて言えば「男前」だ。質実剛健。しかし真面目ながらもお洒落を忘れない。ちょいワルオヤジでは決してないが、自然な色気があるのでかなりモテることは間違いない…そんなプリアンプだ。


 192. 買い替えをするか(07.04.22)

 当然と言えば当然だが気にはなっていた。気にならない訳がない。

 現在活躍中のパワーアンプ、ジェフロウランド「model102」とペアを組むプリ「Capri」がこの冬登場しているのだ。雑誌での評判も良く、見た目も麗しく、当然デザインの整合性はバッチリ。あとは音だ。ペアを組むアンプ同士なんだから、当然音もバッチリ…

 …の筈なのだが、聴いてみるとちょっと好みとは違ってしまっていた。細いのだ。確かに綺麗な音で、繊細感もプラスされるのだが、パワーが持っていた中低域の厚さが薄まってしまうのだ。この組み合わせの音がジェフ氏の考える完成形と言うのであれば、ちょっと違うかなと思わざるを得ない。これなら現在の組み合わせの方が自分にとってはいいだろう。

 そこでまた気になってきていたのがレヴィンソン「No.28L」の発する残留ノイズ。何せヴォリューム位置に関わりなく発生するので、特に夜ひっそり聴きたい時など大変気になってしまう。どうやら仕様のようなので、直らないのだろう。能率の高い自作スピーカーを使っているので仕方のないところなのかもしれない。また、このプリで困っていたのがヴォリューム。確かにこれまた能率の所為もあるのだが、ゲインを最も低く調整していてもあまり上げられないのだ。また、少しつまみを動かしただけでいきなり音量が上がるところがあるため、夜聴く時にちょうど良い音量に出来ないのだ。小さ過ぎるか大き過ぎるか。帯に短し襷に長しか。プリとして最も重要な部分がどうもまずいのだ。音は悪くは無いのだが。いや、むしろ現在の冷ややかなレヴィンソン・サウンドに比べればよっぽどこちらの方が好きなのだが。

 そうこう考えている時に出会ってしまった。

 中古買いの宿命として、出会いはいつも突然である。まだ使い始めて1年が経とうとしている段階の「No.28L」だが、早くも見限ろうとしている自分に驚きを感じたりもする。しかも、手頃なプリと言うのはそんなには無いものだ。そんな中で出会ったのは…

 アコースティック・アーツというドイツのブランド。最近はハイエンド方面でのD/Aコンバータなどで有名だが、セパレートアンプも中価格帯にいいものがある。面白いのはデザインが全て統一されている事で、逆に全部こいつで揃えたらどれがアンプでどれがDACか一瞬迷ってしまって操作がしづらいのではないかと思ってしまうほどなのだ。クロームメッキで鏡面仕上げをされたつまみ類がドイツらしい。

 そのアコースティック・アーツの「PreAmp1 Mk」というその名もズバリなプリアンプ。現在はMk。が出たばかりだが、まだMkも3〜4年前に出たものなので全く古くはない。見つけたのは大須のとある店で、とりあえずその時は存在だけをチェックしておいた。音も聴いてみたかったが、忙しそうだったので次の機会にすることにした。とは言え、当時の自分にはそれ程悠長に構えている訳にも行かない事情もあったのだ。

 忙しくなりそうだったのだ。しばらくは土日が潰れそうなので、次の週には決めないと当分は来られないだろう…そういう焦燥感もあったのだ。実際その後、3週連続で土日が潰れる事になった事を考えれば、その時の選択は間違っていなかったと言える。

 プリアンプに話を戻そう。次の週までの一週間、手持ちの雑誌やネットでリサーチにいそしんだのであった。総合すると「厳格で彫りの深い音」と言った感じか。なるほど、いかにもドイツらしいではないか。決して軽い音にはならないだろう。これなら行けそうだ。唯一の心配が横幅。どうやらかなりワイドなようで、この狭いラックに収まるかどうか。ただフロントパネルのみ突き出ているのでおそらくその寸法だろう。昔使っていたアキュフェーズみたいな状態になるわけか、まあ仕方がなかろう。こうやって、買い物の下調べをすると言うのは楽しいものである。一番良い時かもしれない。

 さてさて次の土曜日。その店の同世代の店長とだべりつつ、「アコ・アー、聴かせてよ」と水を向けると、「あ、あれいいですよ、特にプリ。」と言う返事。本当かよ。最初はプリとパワーの純正組み合わせで聴いてみる。なかなか上品な音である。「これはこれで良いんですけど、hideさんにはちょっと大人し過ぎるでしょ。パワーを別のものにすると結構化けるんですよ」と、プリはそのままでゴールドムンドのパワーに繋ぎ替える。すると、確かに「暴れ」が出てきた。太いのだ。濃いと言うのとは少々違うかもしれないが、骨格のしっかりした芯の太い音だ。淡泊なイメージのあるゴールドムンドからここまで引き出すのならば…行けるぞ、これは。

 またしても買う前と言うのは何かと理由を付けて迷ってみるものである。やれ歯の治療に金がかかるだの、CDをヴァージョンアップしたばかりだの。店長も自分に向かって色々口説いているのだが、実際にはもうほとんど心は決まっていたのだ。焦らしてごめんね。そしてさらば、レヴィンソン。


 191. 買い替えはしない(07.03.03)

 新しいものが良いものとは限らない。

 デジタルものに関してはその文句は当てはまらない、というのが通説ではある。何故なら、特にD/A変換の部分は日進月歩だからだ。

 とは言え、だ。最近のCDプレーヤーは多くがSACDとのコンパチ機になっている。自分で聴いたり、人から感想を聞いたりしている限りでは、結局はCD単体としての性能はかなり厳しいものがあるように思う。つまり、現在使っているCDプレーヤーからグレードアップを図ろうとすると、莫大な出資を強いられる事にもなる訳だ。「いや、自分はSACDの音が良ければCDはどうでもいい」と言うのであれば中堅機でも満足が得られるかもしれない。確かにSACDの音はCDとは異なるもので、よりアナログ的とも言える。しかし、最大の問題はやはりソフト。聴くものが無くちゃあ、仕方がないではないの。

 そんなわけで、今のところデジタルプレーヤーを買い替えるつもりは無い。エソテリックから最近出た「SA-60」という機種はなかなか良い線行っていたが、CDの音が現在使っている「VRDS-25XS」に比べて向上しているかと問われれば、ちょっと迷ってしまう。まあ、上回る部分もあるけどもう少しガッツが欲しいかな、という感じだった。「買い替えたい!」と思わせるほどの違いはなかった。それでもこの機種で定価は何と46万円。何だかねえ。

 しばらくは今のやつを使い続けよう。そうすると、前からティアックが行なっている事に自然と興味は向かうのだ。

 それは、「ヴァージョンアップ」。パソコンがメジャーな存在になってから市民権を得たような単語だが、クロックを交換する、というのがその内容だ。特にティアック(エソテリック)はこれにかなり執心しているような感がある。独立した機種があるくらいなのだ。そもそもクロックとは何か、と問われるとなかなか答えにくい。わしは文系なのでよく分からん、知りたい方はググって下さい、としか言い様がないのだが、とにかく精度が高くなればいいのだろう。おそらくヴァージョンアップする事でより正確になるのだろうな(なんとアバウトな)、という印象がある。

 とは言え、5万円という価格は立ち止まって考えさせられる額だ。3万なら迷う事はない。しかし5万。うーむ、果たしてこれだけ出資する価値のある事なのか。おまけに外観が変わる訳でも無いし。まあ、だからこそ2005年から始まっているサービスなのに、ずっと手を付けずにいたのだが。

 しかし風向きは変わってきた。このサービス、3月末で終了と言う事が決まったのだ。これで迷っている暇は無くなった。やるか。もうやるしかないだろう。終わってしまってから後悔しても遅いのだ。チャレンジしてからの後悔の方がはるかに尊い(?)のだ。

 そんなわけで結局2週間の間、愛機は旅立っていった。つなぎはCDレコーダーYAMAHA「CDR1000」だったのだが、しばらく使っていなかった為なのか、ずいぶん音質が劣化してしまっていた。特に中高域から高域にかけてガサガサである。やはり何でも時々は使ってやらないといけないのだ。ますます愛機の帰還が待ち遠しくなった。

 ほとんどレコードだけを聴く毎日。まあそれも悪くはない、どころか、かなり良かったりするのだが話が進まないので先へ行こう。いよいよ愛機がわが家へ帰ってきた。当然の事だが相変わらず重い。軽さが魅力のCDだが、プレーヤーは重いものもあるのだ。オーディオとはそういうものなのだ。でもこれを2階まで持っていくのはつらい。

 分かってはいたが、見た目は全く変わらない。背面に「エソテリック」のシリアルNo.の入ったステッカーが貼られている事で、ヴァージョンアップしたことを知らせてくれている。

 付属のスパイク受け(フォステクスのタングステンシート貼付)にしっかりセットし、いよいよ音出し。何度も聴いている「ルパン」や「ノラ・ジョーンズ」を用意しておく。

 変わっていない。…と言うのは決して悪い意味ではない。確かにクロック交換くらいで音の特徴がガラリと変わってしまっては基本性能を疑いたくなってしまうと言うものだろう。基本的な音色は変わらず、そのレベルが上がった、と言う事である。

 一番の向上点は予想通り「繊細さ」だろう。音の肌理が細かくなり、そうなったことで空気感と言うべきだろうか、音が周りの空気に自然と溶け込んでいく感じだ。最初は少々それが強調されてきつく感じる瞬間もないではなかったが、エージングで徐々に収まっていった。

 また、ヴォーカルや各楽器の定位感も向上した。これはやはり位相が正確になったと言う事だろうか。特にヴォーカルの口が小さくなった事はリアリティの向上に繋がる。

 元々低域は締まっていて量感のあるプレーヤーではないのだが、さらにガチッと締まってきた。帯域もさらに下の下へまで伸びているようだ。欲を言えばやはり量感が欲しいのだが、それをこのプレーヤーに求めてはいけないのだろう。まあ、いつの日かDACでも入れてみようか。クロックはD/A変換より前の段階なので、そう言った意味でもこのヴァージョンアップは有利になったはずだ。

 1〜2ランクアップした、というのが総合的な評価だ。この音なら支払った5万円以上の価値はある。「物を買った」喜びは乏しいものの、前より10万高い機種を買ったのと同等の内容にはなるので、お勧めではあります。締め切りはもうすぐだが…


 190. ケーブルは見かけによらない(07.02.12)

 海外製の切り売りシールドケーブルなんて、ほとんど存在しないに等しい。

 カルダスの「クロスリンク」くらいのものか。あちらは完成品を使うのがコンシューマーオーディオとしては当然なのだろう。需要も少ないだろうけれども。それにしてはRCAプラグの種類の豊富さは一体何なのだろう。完成品から付け替える人は少ないと思うのだが…

 無いものは仕方がない。ある中から選ぶしかないのだ。そこで登場したのが、近ごろ話題の「ゴールデンストラーダ#201」である。まずスピーカーケーブルから発売されて話題になったものだが、その次にシールドケーブルが出たのだ。現在は電源ケーブルまでリリースされている。

 このケーブルの最大の特徴は「金コロイド液」である。原理はよく知らないが、芯線にこれが隈無くしみ込み渡ることで、一種のリッツ線のような効果になるのだろうか。あるいは逆に撚り線が一体化して単線のようになるのか。とにかく「歪みの少ない、滑らかな音」になると言う。

 正直なところ、好みの音は「歪みは多少あっても仕方がないから、ガッツのある音」なので失敗に終わる可能性もある。ただ、雑誌の評価を色々読むと、決して腑抜けた音という訳ではないようだ。あくまで基本的な解像度は高いものとの事である。選択肢は少ない中の個性派、面白そうではないか。

 左右1mずつ購入、プラグとSFチューブを合わせると1万円を少し超えようかというプライスである。完成品(RCAしかない)だと定価3万円程なので、お買い得であろう。プラグは定番ノイトリックのものだが、新しいデザインになっている。以前の武骨な感じから、少しだけデザイン性を加味したものになっている。

 柔らかいシースなので、処理は簡単である。それではちょちょいのちょい…と軽く考えていたのが甘かった。問題は新しいノイトリックにあった。ケーブルを抑えるカバーの部分、ここが以前のものなら多少太めのケーブルでも伸びてくれて十分に収まったものが、新型は柔軟性が少なく、入っていかないのだ。さらには網チューブを被せていたので問題はさらに深まった。

 これは困った、とばかりにカバーの根元に鋏やカッターで切れ込みを入れて解決を図ったが、どうしてもチューブが引っ掛かってしまう。切れ込みを入れたくらいではなかなか思うように行かない。これも以前のものなら蛇腹状になっていたので途中で切り落としてしまう事も容易だったのに、今回のは硬くて切れない。これでは改善ではなく改悪ではないか、と思いながら泣く泣くチューブは諦める事にした。このケーブル、外観はあまり色気がないのでチューブで隠そうと思ったのだが…また、チューブで締めつける事で少しでも締まった音を出そうと目論んだ訳でもあった。しかし諦めよう。もう面倒だ。

 そんなわけであまり色気の無い、つや消しグレーのケーブルが出来上がった。チューブ代わりの音質チューニングに、「フォック」を巻いておこう。CDプレーヤーとプリを繋ぐと、柔らかいケーブルはだらりと垂れ下がる。今使っているケーブルで、ここまでだらりとなるものは無い。確かに柔らかい音が出そうではある。実際にはどうか…バーンインCDをしばらくかけておいて(ヴォリュームは絞った)から試聴である。

 なるほど。面白い音である。これまでのカルダス「クロスリンク」に比べると、確かに高域の細やかさ繊細な表情がよく出ている。確かに「ガツン」とは来ないので、物足りないかなとも思ったがこれはこれで面白い。特にヴォーカルはさすがである。外観は色気が無いと書いたが、音は色気が滲み出てくるのだ。これは凄い。低域は思いの外締まっているが、それを強調するような事は無く、あくまでさりげなく提示する。レンジ全体は広いが、またしてもそれを誇張している訳ではない。

 感じたのが良い意味で「日本的」だな、と言う事。さりげなく個性をアピールしているのだ。音の隈取りをくっきりさせることはなく、繊細に音を描く。ヴォーカルは色気があると書いたが、楚々とした色気である。こういう出し方はなかなか出来ないのではないか。

 そう言えば、現在CDで聴くソースは女性ヴォーカルや現代のJAZZといった比較的上品なものになっている。ガツンとしたロックやJAZZはアナログで聴いているのだ。ロックの新譜もほとんど車の中で聴くようになっている。そう考えるとこのケーブルは今の環境にうってつけかもしれない。


 189. まだまだケーブル(07.01.29)

 そんなわけで。

 電源環境を久し振りに見直したぞ。果たして吉と出るか凶と出るか。いざ試聴。

 結論から言えば、ほぼ成功だった。パワーアンプの電源ケーブルをクエストからハーモニックスにして、中低域寄りになったのは良かったのだがそうすると高域の伸びが若干ではあるが頭打ち気味になっていた。タップからコンセントまでを派手気味なワイヤーワールドにすることで、高域の伸びが戻って来たのだ。しかもどちらかと言えば硬くストレートな方向に行きがちだったクエストに比べ、柔硬合わせ持つ表現が出来るようになったのだ。これは大きい。ここまで来ると、ただ「硬い」ただ「柔らかい」という一面的な表現では物足りない。音楽には硬い方が良い場合と、柔らかい方が良い場合とが存在するのだ。やはり良質なケーブルは「音楽を分かっている」のだろう。

 あとは「ほぼ」の部分。このワイヤーワールド、平打ちになる前のものなので太さがかなりある。上位機種ではあるので表現力は物凄いのだが、その太さ通りの音が出てくる訳だ。つまり場合によっては低域が緩く感じられる傾向もあった。ここのベースはもっと引き締まって出て欲しい…という瞬間があったのだ。量感が増えるとどうしてもこの問題は付いて回るものではあるだろう。しかし、ここまで来たら克服できそうなレベルのことではなかろうか。あと少しなのだ。詰めてやる

 とは言え、ケーブルにはエージングと言うものもある。これまで経験から、例え新品ではなくとも差す場所を変えたり、特に硬いケーブルに新たな曲げ癖を付けたりした時には再びエージングが必要なのだ。電源の場合はバーンイントーンを流しても仕方がないので、なるべく機器を働かすようにして何日か様子を見た。

 そんな訳で翌週。当初より低域の緩さは軽減されてはいたものの、まだ若干耳に残る。それではあらためて行動に移そう。…まあ、大げさな言い方だがやったことは一つ。「SEP5+」のちょうど真ん中ほどに「フォック」を巻いたのだ。2cmくらいの幅にカットした「フォック」のシートを、太いケーブルを一周するように無造作に巻く。このケーブルの日本での定価を考えると、普通気楽にこんなことは出来ないが、そこは格安で手に入れただけの事はある。結構気軽にこんなことを試せてしまうのだ。

 正直な話、軽いノリでやっただけのことではあった。しかし結果は驚くほどのものだった。少々緩さを感じていた部分が見事に引き締まってきたのだ。しかも力感は変わらない。さすがである。これまでにも数々の結果を残してきた「フォック」だったが、今回も期待以上の働きを示してくれたのだ。あらためてこれは安い、と思わされた。ただ、その代わりに持ち味でもあった派手さや華やかさも僅かながら抑えられるという結果にもなった。効き過ぎる面もあるのだ。まあ、これも「うるささが無くなった」と言い換えることも可能な範囲だ。ケーブルに1.5周巻いた「フォック」を1周ジャストくらいに減らせば、また結果も変わるのかもしれないが、面倒でもあるのでこれでよしとしよう。何より効果は絶大、特にアナログでのドスの効いた中低域はたまらないものがある。

 別に慌てる必要はどこにも無いのだが、こうなってくると他の部分も「替えたらどうなるだろう…」と気になって仕方がなくなってくる。電線病というのは誠に恐ろしいものである。ずっとむずむずしていたのだが、それはCDプレーヤーとプリの間のケーブルだ。ここにはカルダスの切り売り「クロスリンク1i」で作ったバランスケーブルを繋いでいる。そんなに悪いものではなく、むしろコストパフォーマンスに大変優れたケーブルとは思うが、やはりむずむずしてしまったのだ。だがそう簡単には替えられない理由があった。
 それは「VRDS-25XS」のバランス出力が3番ホットであることだ。プリは2番なので、自作ケーブルを繋がざるを得ないのである。ケーブルメーカーについては大抵注文すればそうした仕様も可能ではあるのだが、これまで中古やら特別価格やらでしかケーブルを購入した事の無い自分には正規の価格で買うのは大変つらい。やはりまた切り売りを買って作るとするか…

 とは言え切り売りのシールドケーブルは選択肢が限られてくる。どうしようか。色々考えた末、決めた。今回はあれにしよう。ちょっと話題ではあるあれだ。続きは次回に…



 188. ケーブルはどこまでも(07.01.10)

 そんなわけで、またしてもケーブルである。すいません。

 パワーアンプ「model102」には、以前から使っていたオーディオクエスト「CV-6」で作った電源ケーブルを差していたが、ここを替えてみたかった。しかし、自作用の電線は他にはオヤイデ、AET、アコリバなどなど、もはや音もだいたい想像できるようになっているのであまり食指が動かない。本来ならばカルダスあたりを試したいところだが、やはり高価だ。中古で出ないものかと待っていても、そういう時に限ってなかなか現れない。PSE法などというものが施行されてしまってからは尚更である。

 そんな時見つけたのがこれ。ハーモニックスである。

 「スタジオマスター」と名付けられたこのケーブル、太さ硬さ共に扱いづらそうでなかなかよろしい。国産ブランドではあるが、なかなか味のある濃い音を出してくれるイメージもある。中低域が持ち味のパワーアンプと相性も良さそうで、現在若干高域寄りになっているシステム全体をバランス良くしてくれそうではないか。かなり前からあるケーブルなので少々ベテランではあるが、期待してみたくなった。

 それにしてもこのケーブル、かなりのじゃじゃ馬である。音ではなく、非常に曲げづらいのだ。そのまま差したのではアンプが浮き上がってしまいそうな勢いである。まあ、小さいとは言えそれなりに重量はあるのでそんなこともないだろうが、曲げ癖をつけておこう。エキスバンダーのようになかなか曲がらないのだが。

 差してみて苦労したのはアンプではなく、タップであった。どうしてもケーブルの力で傾いてしまうのだ。こんな不安定な状態では精神衛生上良くないし、きっと音にも影響は出てしまうだろう。そこでインシュレーターあるいはスタビライザーとして使っていた鉛の円柱を載せることで、何とか押さえつけようとした。それでもタップは斜めを向こうとしたが、最適な設置場所を選んで置く事でようやく解決をみた。現在タップの下には大理石を敷いているのだが、どうしても滑りやすいのとカンカンした音になりがちなので、もう少し工夫したいところではある。

 ようやく音出しである。最近お気に入りの女性ヴォーカル、マデリン・ペルーをかける。予想通り、うまくはまってくれたようだ。ずーんと来る中低域が魅力の盤なのだが、このハーモニックスのケーブルはそこのところを美味しく抽出してくれるのだ。あまりにくっきりはっきりし過ぎるとギスギスしてしまって音楽が美味しくなくなる。しかし音質を求めていくと、ともするとそういう生気の無い音にしてしまいがちなのだ。ハーモニックスは音楽を出すのが上手いケーブルの一つだろう。

 さて、もう一つ試したい事があった。実は以前に知り合いから電源ケーブルを超・格安で譲ってもらっていたのだ。それはまたしてもワイヤーワールドで今度は銀色に輝く「SEP5+」である。結構高級なものではある。長さは50cと、なかなか無い長さ(短さ)なのだ。とりあえずはCDプレーヤーに差していたのだが、どちらかと言うと派手な音になるので、真面目な音を出すCDプレーヤーとはマッチングが良く、そのまま使っていたわけだが、やってみたかった事があった。コンセントからタップに繋ぐのである。CDプレーヤーからタップでは長さがギリギリ過ぎたと言う事もあるのだが。

 タップからコンセントまでは元々「CV-6」で作った50cmのケーブルを使っていた。同じ50cmなので、譲り受ける時もここに使う事を想定してはいたのだ。ただ影響力の大きいケーブルなので、癖の少ないクエストから交換すると全てやり直しになる可能性もある。でもまあ、電源ケーブルは交換が容易である。駄目ならまた戻せばいいだけのことだ。

 しかし、このシルバーも平打ちになる前のものなので太い。しかも太いものが2本平行構造になっているので、かなり厄介である。タップに先に差し込み、コンセントへ差そうとすると、タップがズルズルと引きずられるような状態になってしまった。うわ、これはつらい。夏じゃなくて良かった。汗だくになってしまうところである。幸い今は冬。汗が落ちる事は無い。タップにもできるだけ無理の掛からない姿勢を取ってもらってようやくコンセントに収まった。硬いケーブルは恐ろしい。

 そして外したCDの方は、ハーモニックスを装着したため浮いていたCV6(1m)を差し込んで完成。こいつは単線のため硬い事は硬いが、簡単に曲げて癖をつけられるので楽だ。

 あらためて電源状況を説明しておくと、オヤイデのケースで作ったタップには2種類のコンセントを装着している。一つはPSオーディオの「PowerPort」が、もう一つはレヴィトンである。前者にはアナログ関係、つまりレコードプレーヤーとフォノイコの電源が繋がっている。フォノイコの電源ケーブルはDIVASのものだ。レヴィトンにはパワーアンプとCDプレーヤーが繋がっている。パワーにはハーモニックス、CDにはクエストの「CV-6」である。タップと壁コンセントはワイヤーワールド「SEP5+」で繋がれている。壁コンはfimである。プリだけが壁コンと直接、ワイヤーワールド「エレクトラ・パワーコード」で接続されている、という具合だ。

 これが完成形となるか。音だしは次回に続きます。



 187. 背負ったものは…(06.12.24)

 感染してしまったなあ。

 インフルエンザでも、流行りのノロウィルスでも、狂犬病でもない。まあ、引っ張る必要も無いか。そう、またまた電線病である。

 アンプを替えるとケーブルを一新したくなると言われる(そうかな)が、つまりは色々試してみたくなってしまうのだろう。仕方ない、病気なんだから。特にこのパワーアンプ「model102」はケーブルに対する反応が鋭敏で、これまた面白い訳だ。

 今回は何処なのか。ついにオーディオクエスト「ベッドロック」に別れを告げる時が来た。そう、スピーカーケーブルなのである。しかし替えたのは何であろう、またしても同じクエスト「CV-4」なのであった。

 迷った。正直なところ今回はかなり迷った。「特価!」とお買い得価格で出たのは良いが、何せ単純な話芯線は減るのだ。ベッドロックは片ch4本だが、CV4は2本だ。違いは構造と芯線自体のクオリティで、CV4の方が良い素材を使っている。ベッドロックとの価格の比較は時代が違うのであまり意味がないが、芯線の数が同じ「type4」とは3〜4倍の価格差がある。芯線が8本の「type8」よりも高価と言う事は、数が多ければ良いと言うものでも無いのだろう。当然好みという観点から言えば価格は関係ないと言う事もできる。さらに上級機種である「CV-8」ならば芯線の数は同じで、クオリティが高くなるのでグレードアップとして分かりやすいのだが、それは出ていなかった。仕方ない…試してみようではないか、導体クオリティの違いと言うやつを。(その後、「CV-8」の特価も出てきて、ちょっと複雑な思いもしたのだが)

 ところで、ちなみにこのCV4(正確には「CV-4.2」である)は「完成品」である。つまり端末処理がYラグできちんとされたものなのだ。今まで切り売りの線ばかりであったが、何故いかにもハイエンド臭い「完成品」を購入するに至ったか。それはこのオーディオクエスト独自の技術である「DBS」を試してみたかったということも大きい。要するに「電池付きケーブル」である。とは言っても、電池をアクティヴに使っているわけではない。説明を読んでもさっぱり分からないので上手く言えないのだが、絶縁体に電圧をかけているとの事だ。こうすることで、これまたよく分からないのだがバーンイン(エージング)が必要なくなり、最初から「なじんだ」状態で使えると言う事だそうである。…書いていてもどんどん訳が分からなくなるだけなのだが、とにかく良いらしい。最後は何だか投げやりな言い方になったが、まあ実際に良ければ別に文句はない。確かに絶縁体の部分はエージングの大きな要素の一つである事は間違いないのだ。自作スピーカーにおけるエンクロージャーの関係と同じだろう。

 とにかく酸素ボンベのようなものを背負ったケーブルを早速装着してみよう。電池はどうやらスピーカー側のようだ。まあ、その方が格好も落ち着くか。アンプに近いと邪魔でしょうがない。長年お世話になったベッドロックを外し、新たにCV4を繋ぐ。やはり格好が良い。端末処理などがしっかりされたケーブルは、切り売りのざっくりした感じのケーブルに比べてやはりスマートだ。グリーンと言う色もなかなかに洒落ている。いよいよ音だしである。カサンドラ・ウィルソンをかける。

 繊細だ。高域がきめ細やかなシルクの衣擦れを思わせる感触で心地よいではないか。それでいて、オーディオクエストらしく力強さも持ち合わせている。「ガツン」とした部分もちゃんとあるのだ。ただ、さすがに量感は「ベッドロック」に比べると薄くなってはいる。

 この段階では微妙な評価になるが、やはり芯線のクオリティが音に現れたことは間違いない。高域の表現力が格段に上がったのだ。ただ、少々まだ本調子ではないような印象も受けた。いくらDBSの働きでバーンインが要らないと言っても、それはどうなのだろうか。そこで実験。

 DBSを働かないようにする事も可能なのだ。ミニジャックで繋がっているだけなので、ヘッドフォン端子を外すのと変わらない。外して聴いてみると興味深かった。「量感が少し減って少し分解能の増したベッドロック」みたいな音だったのだ。なるほど。バーンインに関係しているのかどうかはともかく、この酸素ボンベは音質に何らかの貢献をしている事だけは間違いないようだ。

 では次に、実際にバーンインしてみようではないか。説明書きでいくらバーンインが必要ないような事が記されていても音自体はまだ生硬で、いかにもエージング不足に思える。そこで取り出したるは、XLOのバーンインディスク。このCDの9トラック目は所謂「バーンイン・トーン」が収録されている。これをかけ続ける事でバーンインが行われるというわけだ。ただしこれはスイープトーンやらホワイトだかピンクだかのノイズが連続して入っている、という恐ろしい代物なのでとても聴いていられない。ちょうど折よく家族が全て出払っていたので、自分も昼飯を食う間にこいつを流しっ放しにしておこう。

 そんなわけで30分程経過して部屋に戻る。驚いた事にこの雑音の音質も変わっているように感じた。音楽は実際にどうか…変わっている!硬さが取れ、見事にしなやかさが出てきているではないか。クエストらしい躍動感と力感もあってこれなら満足だ。量感もかなり改善され、バランスが取れてきたのではないだろうか。やはりエージングは必要の様である。しかしこの音はさすがに纏まりが良い。高域の分解力はいかにも高級さを感じさせてくれる。電池の力も無関係ではないようだ。オーディオクエストは切り売りもあるが、やはりDBSが付いて元々の闊達な音に上品さが加わったように感じる。これまでクエストは「硬い、きつい、うるさい」という評価も一方ではあったが、そういう人も納得させられるだけの表現力が得られたのではないかと思う。


 186. きしめんの食べ方(06.12.03)

 これを書いているうちに「パワーマックス」の新しいヴァージョンがリリースされたようだ。短い間に変更するとは、やはり何か原因があるような気がしてならないが…まあそれはともかく。

 「きしめん」ことワイヤーワールドの電源ケーブルに話を戻そう。とにかく見た目は奇異に映るとしか言い様がない。コンセントプラグはレヴィトンの見た事のないタイプが使われており、コネクタの方はおそらくマリンコだろう。本国のサイトを見るとそれぞれがオリジナルのもののようだが、どうやら上級機種のようだ。

 できるだけ通電中断時間を短くしなければ。素早く「パワーマックス」をプリから抜き、新しいワイヤーワールドをアンプに差し込んだ。よし。一分と掛かってはいまい。これなら早く息を吹き返すだろう。

 いつもの試聴ディスクの一枚、カサンドラ・ウィルソンをかける。生々しいヴォーカルと金属音、深い深い低音が魅力なのだが、どうだろう。ドラムの奏でる金属音が、ちょっときつく感じる。そして低音は以前より抑え目になった。簡単に言えばハイ上がり。うーむ、やはりプリの目覚めとケーブルのエージングが必要なのだろうか。XLOのバーンイン・ディスクは持っているが、音楽信号の流れない電源ケーブルにはあまり意味がないだろう。どちらにしても常時通電のプリではあるので、しばらく様子を見る事にした。

 2〜3日すると、かなり良い方向へ収まってきた。華やかな明るい音色で、JAZZやロックを楽しく聴かせてくれる、そんな音だ。それまでがどちらかと言うと大人しい音だったので、ずいぶんと変化した印象を受ける。高域が伸びているので、空気の音まで聴かせてくれる感じだ。

 しかし、やはり少々派手過ぎかな、という部分は残る。低域の量感ももう少し欲しいところだ。ハイスピードで華やかな高域、というイメージのあるブランドではあったが、まさにその通りなのだろうか。このままでは少々きつい。それともまだエージングの余地はあるのか…

 様々な選択肢はある。1.このまま暫く様子を見る。2.パワーアンプあるいはCDプレーヤーの電源ケーブルと交換してみる。3.タップに使ってみる。「1」で行こうかとも思ったが、気が短いのでこれ以上待てない。何か行動を起こそう。「3」では1.5mという長さがあまりにも勿体ない。やはり「2」か。パワーアンプとケーブルを交換するか…

 パワーアンプと取り換えようと、裏をのぞき込んで手を止めた。また迷ったのか。否、さらに「4」を思い立ってしまったのだ。タップを見た時。プリからの電源ケーブルはタップに繋がっているのだが、パワーアンプの電源ケーブル「CV-6」は直接壁コンに刺さっている。ここから入れ替えてはどうか。つまりパワーの方をタップに刺し、プリからは直接壁コンに繋ぐのだ。これでまだ違和感を感じるようならばケーブルを入れ替えれば良いではないか。

 とにかくやってみよう。1.5mという長さが直接壁コンに繋ぐことを可能にした。ワイヤーワールドを壁のfim製コンセントに刺し、クエストをタップに刺す。これでどうだ。

 音を出して一言。「これだ」。ハイスピードさは損なわれる事なく、うるささが無くなった。締まり過ぎていた低域も、良い塩梅に適度な緩みができ、量感も出てきた。つまり、良いところはそのままに、欠点が解消されたのだ。本当にバランスの良い音になった。確かにタップから壁コンへはやはり「CV-6」なのだ。同じケーブルなのでここは悪くはならない。接点の問題はそりゃあ、多少はあるだろうけれども。ワイヤーワールドの方は、クエストとの相性があまり良くなかった事もあるだろう。コンセントと直接繋ぐ事で本来の持ち味が出てきた、ということになるのだろう。

 やってみて良かった。ちょっと繋げただけで「このケーブルは駄目だ」とか、どうしても結論を急いでしまいがちだが、決して慌ててはいけない。落ち着いて、じっくりやれば結果はついてくるのだ。良い勉強になった今回のケーブル交換でありました。



 185. 持病再発(06.11.12)

 どこから話していいものやら。

 まあいい。唐突に行こう。とにかく買ってしまったのだ。またやってしまった。

 それは電源ケーブル。ワイヤーワールド「エレクトラ・パワーコード」である。それはまた高価なものを、と思われるかもしれないが並行輸入品でかなり割安だったのだ。しかも、現在ワイヤーワールドの電源ケーブルは正規では輸入されていないのだ。例のPSEを取得していないのがその理由だろう。確かに取得できないかもしれない、と思わせるに十分なものではある。なぜか。

 きしめんなのである。何の事かと思われるかもしれないが、現行の電源ケーブルは平打ちの麺を思わせる平行構造を採っているのだ。それはAV方面で話題になっている、HDMIケーブルからも窺う事が出来る。平べったいケーブルは見た目のインパクトもかなり強いが、現在ワイヤーワールドはこの形が最良だと判断しての展開なのだろう。最近スピーカーケーブルでここからは珍しく切り売りのものも発売されているが、これも平打ちではないが内部の構造が細い芯線を平行に並べた形になっているのだ。全てきしめんか。ワイヤーワールドは名古屋に縁があるのかどうかは知らないが、面白いではないか。

 このケーブル、どこに使うか。パワーかプリか、少し迷ったのだがプリにしてみよう。それには訳もあったのだ。その訳とは…

 話は半年ほど前に遡る。プリの「No.28L」に差すケーブルを作ろうと思い立ったのだ。そこには前から使っていたDIVASのものが差し込まれていたのだが、やはりこのプリアンプに合わせたものを作りたい。もう少しランクを上げたかったのだ。

 とは言え、切り売りのケーブルには限りがある。クエストの「CV-6」で作って今も愛用しているが、違うものも試してみたいし現行の「CV-8」はかなり値段が上がってしまった。何かいいものは…と考えていたところ、たまたま立ち寄った某量販店のオーディオコーナーで色々見つけてしまった。

 AET「HCR」、オヤイデ「TUNAMI NIGO」、アコースティックリバイブ「パワーマックス」といった切り売り電源ケーブルが名古屋にしては比較的揃っていたのだ。どれにしようか。暫くうろうろうろうろ怪しげに徘徊しながら考えていたが、結局アコリバにしたのだった。理由は…よく覚えてはいないのだが、グリーンと言う色で決めた訳でも無かろう。当時雑誌に掲載されていた記事の印象もあったような気もする。まあ何せ半年前である。

 ハッベルの黒いプラグと、フルテックのコネクタ(銀メッキ)と共に「パワーマックス」を購入し、貯まったポイントも1,000円分ほどではあるが利用したので合計で10,000円を割る価格で電源ケーブルの材料が揃った。あとは作るだけ。ちょちょいのちょい…

 …でもなかった。何せこのケーブル、外見も太いが、中の芯線もかなり太い。撚り線ではあるが、一本一本も太めだ。つまりプラグやコネクタに通しづらいのだ。おかげでフルテックの方はともかく、ハッベルにはちょっと荷が重かった。元々オーディオ用ではないのだ。何とかぐいぐい押し込んで事無きを得たが、やけに時間がかかってしまった。やれやれ。

 これだけ苦労したのだから良い音が出てくれなければ困る。とは言えプリの電源をいったん落とすと音が元に戻るまで時間がかかるが、どうせケーブルにはエージングが必要なのだ。「期待するなよ」と自分に言い聞かせてケーブルを繋ぎ、音を出してみる。

 まあ、こんなもんか。と言うのか、よく分からなかった。そんなに違いは無いような。暫く様子を見るしかあるまい。エージングだエージングだ。どちらにしても電源はonのままなのだ。

 そういう訳で時間が過ぎていくと特徴が表れてきた。やはり低域の馬力は出てくる。それは見た目の印象通りだろう。安定したピラミッドバランスで、押し出しの良い音だ。レビンソンにしては比較的低域が弱いと言われる「No.28L」にはちょうど良いのではないか、という目論見は当たりつつあった。

 しかし、こう安定した音を聴かされると文句も言いたくなる。高域が地味なのだ。前のケーブルにあった躍動感も薄くなり、それがためにどうにも面白みのない音になってしまったのだ。決して悪い音ではないが、良いかと問われると返答に困ってしまう。何だか割り切れないもやもや感を抱えたまま、時は流れていったのだ。

 と、それがワイヤーワールドへの伏線となっていた訳だ。つまり、お手製の電源ケーブルに対する限界のようなものを感じてしまっていたのである。



 184. 水色から緑色(06.10.29)

 新しいアンプというのは、やはり気持ちが良いものだ。

 中古とは違った、新鮮な気持ちがする。中古だと「使い倒してやろう」というどことなく攻撃的な気分になるのだが、新品と言うのは「大切に使ってやろう」と慈しむ心が湧いてくるのだ。たまには良いかもしれない。

 日曜日を一日中聴きまくる日にするという手もあったが、結局大須へ出かけた。プリの目覚めを待つ、という意味もあった。しかし、そこでまた大いなる判断を迫られる事になってしまった。

 折しも「ハイファイ堂」は2割引セール中であった。そこで暫く前から置いてあったモノがあったのだ。それはカルダスのバランスケーブル「クロス」。現在使っている「クワッドリンク」の1ランク上のタイプなのだが、プライスタグを見て、「まあ、たったワンランク上げるのにここまで投資する事は無いな」と思っていたのだ。しかし、しかしである。2割引というのは心惹かれるではないか。結局、毒を食らわばの気分で「クロス」を手に入れる事にした。クワッドリンクの方は翌週売る事にして。

 というわけで緑色をしたケーブルを携えて帰宅した私ではあるが、まずは暫くそのままで聴く事にする。CDを取っ換え引っ換え、ルパン、ノラジョーンズ、クラプトン、イーグルス、カサンドラウィルソン、チャーリーヘイデンなどなど、聴けば聴くほどその腰が据わって真ん中に凝縮された濃いサウンドに酔い痴れた。プリの調子が出てきたのか、高低両端のレンジがどんどん拡がってきたようだ。

 高級品ではないので、圧倒的に別世界の音に進化したわけでは決してない。むしろ定価ではこちらの方が下になるのだ。それでも「」とか「品位」といったような要素が確実に上がってきた事は確かである。そこはさすがにハイエンドブランドであるジェフロウランドと言えようが、高級機にあるような悪く言えば「金持ちの匂い」みたいなものは全く無い。それが私のような嗜好を持つ者には大変ありがたいのだ。感じるのは巧みにスピーカーを制御して、より良く音楽を鳴らそうと言う態度。簡単に言えば、明るい曲は明るく、暗い曲は暗く鳴らす。当たり前の事のようだがなかなかそうならない場合が多いのだ。どちらかと言えば野放図でじゃじゃ馬なスピーカーが、絶妙の手綱さばきを持つ騎手にその力を上手い方向に制御されて鳴っている、という印象を受けた。欲を言えば高域の切れがもう少し欲しいところだ。

 そう言った事を踏まえつつ、ケーブル交換へ行こうか。水色の「クワッドリンク」を取り外し、緑色の「クロス」を接続する。現在最も長く接続しているケーブルはスピーカーケーブルだろうか。オーディオクエスト「ベッドロック」。もう2年以上になる。最近苦労してYラグを付けた経緯もあるので、まだまだこれは使っていこう。素直で癖の無いところがこのスピーカーとは合っていると思うのだ。

 ケーブル交換後の音は明らかに違った。特に高域方向への伸張は著しく、やはり「クワッドリンク」は中低域主体の音だったのだと言う事が分かる。ただ、ケーブルと言うのは例え中古であってもエージングが必要である事は経験上分かっているのだ。それは、線材の慣らしという要素だけではないからだろう。機器との繋がり、曲げによるストレス(バランスケーブルなら特にそうだ)など、様々な要素があるのではなかろうか。

 しかし、翌日会社から帰って聴くと我が耳を疑う事になった。

 音が悪いのである。一体どうした事だ。高域がシャキシャキと耳障りで、低域が引っ込んでしまっている。これがエージングの結果なのだろうか。ひょっとして、偽物か…カルダスのイミテーションは結構多いのである。「クワッドリンク」に戻そうかとも考えたが、もう少し様子を見る事にした。

 その翌日も同じ状態ではあったが、XLOのエージングCDを掛けっ放しにするなど、対策を試みた。まあ、結論を急ぐ必要はあるまい。

 2日程経ち、ケーブルを元に戻す必要のないことを確認できた事は大変喜ばしい事だった。つまり、音が落ち着いたのである。「クワッドリンク」に情報量と力強さと高域方向への伸びをプラスした音。偽物なんかではなかったのだ。あらためてホッとすると共に、ケーブルの奥深さを思い知ったのであった。

 と言うわけで、欲しかった高域の切れもケーブル交換でほぼ手に入れる事が出来た。「ほぼ」。まあ贅沢な話かもしれないが、まだ行けそうである。欲が出てきてしまったものだ。アンプを換えると、ケーブルもどんどん替えたくなってしまうのは人情と言うもの(?)だが。とは言え当然出費も嵩む。さて、どうするか…


 183. 黒い塊(06.10.09)

 それにしても。

 いつの間に私はこうなってしまったのだろう。

 だってそうだろう。「スワン」などスピーカーを自作して中級機を組み合わせてオーディオを楽しんでいた私が、事もあろうに「マークレヴィンソン」など使ったりして、さらには「ジェフ・ロウランド」まで手に入れようとしている。ブランドだけ並べたら何だかハイエンドマニアみたいではないか。レコードプレーヤーにしても「ノッティンガム・アナログスタジオ」だ。10年前の私ならば「何それ?食べられるの?」の世界ではないか。

 しかし信じて欲しい。決して「ハイエンド」の世界に魂を売ったわけではないのだ。結果としてこうなっているだけである。その証左にスピーカーは頑なに自作である。実際、巷で評価の高い大抵のスピーカーは私の心を動かす事はない。まあ、ペアで2百万クラス以上ならばさすがに驚かされるところもあるが、逆に言えばペア百万程度では全く食指は動かないわけである。我が自作スピーカーは平均点を付ければ50万クラスにも負けるかもしれないが、つまりオール4など絶対取れやしないが、1もあれば5もあるという人間に擬したらば大変魅力的なヤツなのだ。これが我がアイデンティティなのだ。

 話を元に戻そう。前回の続きである。

 一週間後、今度は下取りに出すためにCHORDを抱えて店に入ると、ジェフ・ロウランド「model102」のパッケージが置かれていた。良かった、ちゃんとあった。意味なくホッとしながらその箱を持ち上げてみる。重くはないが、それなりにズッシリするものだ。

 このアンプは上級機にも使われているカルダス製のスピーカー端子が付いているのだが、Yラグ専用である。今使っているスピーカーケーブル、オーディオクエスト「ベッドロック」はバナナプラグになっていた。替えねばならないのでそこでカルダスのYラグを買っておく。圧着やネジ留めではなく、ハンダ付け専用になっているところが珍しい。

 帰宅してまずは真新しいアンプを取り出す。何せ新品など久し振りである。アンプの新品は…そう、学生時代に買ったパイオニアの「A-616」以来ではないか。箱の中から小型ではあるがそれなりに重量感のあるアルミ削り出しの塊が出てきた。ジェフ特有の模様(何と言うのだろう?)は健在なのだが、色がブラックだと印象はかなり変わる。いつものシルバーだとちょっと派手過ぎの感があったが、黒は渋くてお洒落に見える。愛いヤツである。取りあえずCHORDのあった場所に置いてみる。当たり前の事だが、かなり棚の中に余裕が出来た。しかしこの位余裕があった方が良いような気もする。

 まずはスピーカーケーブルの端子処理である。「ベッドロック」のアンプ側の端子をYラグに換えるのだ。これが意外に時間を食ってしまった。ハンダ付けがなかなか上手く行かなかったのだ。ちょうどJリーグ中継真っ只中で気もそぞろだった所為もあろうか、「付いたっ」と思ってもすぐに外れてしまったり、とかなりハンダを無駄にしながら作業は続いた。いつも思うのだが、こういう時の為に作業台など用意しておけばもっとはかどる事だろう。ケーブルと端子をそれぞれ上手く固定するようにしておけば、簡単なはずなのだ。ケーブルは好き勝手な方向へ暴れようとするし、端子は絶えず転がりたがっている。これで正常な作業など出来るわけは無い。しかしいつも思うだけでまたこういう時が来るのだろう。私は自分と言う人間をよく分かっているつもりだ。

 ようやくスピーカーケーブルが完成し、いよいよアンプの結線だ。アンプに装備されたカルダス製の端子は本当に使いやすい。Yラグさえ付いていれば簡単にセットできる。プラスマイナス両方一遍にクランプを回す構造なのがいい。プリとの接続はバランスしか無いが、もとよりバランスケーブルなので全く問題は無い。カルダス「クワッドリンク5C」をガチッと音を立てて接続する。最後にオーディオクエスト「CV-6.2」で作った電源ケーブルを接続すると前面の小さな小さな2つのランプが緑色に点灯した。電源スイッチはないので、これで電源ONなのだ。プリもパワーも付けっ放しになってしまったなあ。プリの残留ノイズはやはり聞こえるが、以前よりは少ない。出力(SPM600→130W、model102→100W)の違いだろうか。

 いよいよ音だしなのだ。店で聴いたのと同じ、ドナルド・フェイゲンをCDのトレイに乗せる。

 あれ。音が出ない。いきなり故障か??一瞬眩暈を覚えるほど焦ったが、よく見るとプリの電源ランプが消えているではないか。え。手探りでプリ電源部の後ろに手を回すと、電源ケーブルが外れてしまっていた。そういう事か。さっきスピーカーケーブルを外す時に引っ掛けて抜いてしまったようだ。しまったなあ。電源を落としてかなり時間が経ってしまった。これでプリは本来の力を発揮できない状態での試聴になってしまった。

 まあ仕方がない。とにかくパワーの音を聴きたいのだ。気を取り直して再度プレーヤーのプレイボタンを押す。音が出た。

 あらためて、素晴らしい、と感じた。プリが寝惚けている事を差し引いてもこの中低域の充実感、そしてビシッと決まるヴォーカルの定位感の良さ、クールさの無い温度感がたっぷりある音色、横より前後に三次元的に展開される音場、とっ散らかった所の無い纏まりの良い「大人な」音、やはり期待通りだ。これでプリが目覚めたら…

 そう言っているうちにもう夜中になっていた。もうあまり音は出せない。続きは翌日だ。


 182. 悪魔の囁き(06.09.23)

 声がした。誰だ。

 どうやらそいつは私の心の裡に直接話しかけてきたようだ。

 「おまえのシステムは、これでひとまず完成なのか?本当か?」

 プリをレヴィンソン「No.28L」に替えてから、とりあえずはこの辺りで暫く…と思っていた。CHORD「SPM600」は少々ノイズっぽいものの音自体は気に入っていたし、何の問題も無いではないか。これでケーブルなどのグレードアップで可能性はどんどん拡がっていくはず…

 しかし。その声は私の脳を刺激する。どんどん侵食されていくのが分かってくる。そうすると気になる部分が出てくるのだ。

 「粗さ」である。サウンドパーツ「live5」と組み合わせていた時には気にならなかったのだが、音の鮮度の高さと歪んでしまう粗さとは表裏一体の関係なのだろうか。ソースによってはずいぶんうるさく感じられてしまうものなのだ。思えば、このchordはlive5という真空管プリと組み合わせるために購入したのだった。ひょっとして、このパワーは元々粗さを持っていたのか。真空管と組み合わせていたためにそれをあまり表に出さず、ちょうど良いバランスを保っていたのではなかろうか。

 そう考えると段々不安に侵されていくのだ。これでいいのか。バカボンのパパでも登場して「これでいいのだ!」と断言してくれればいいのだが、残念ながら彼は存在しなかった。パワーアンプか…

 とは言え、今すぐ行動を起こすつもりは全く無かった。いつもの様に、良いものが出たら考えるか、という程度の気持ちだったのだ。そう。そのつもりだったのだ。

 そんな中、ちょっと気になる存在を以前から意識し始めていた。まだ出たばかりのもので、そいつの名はジェフ・ロウランド「model102」。アルミの塊をくり貫いた筐体の小型である事、ジェフと言うブランドとしては異例とも言える価格(税抜29万円)である事、そして何よりも価格からは信じられないような音質との事……

 見てみたい。聴いてみたい。買う買わないは別として、小さなアンプがどのくらいの力を持っているのかは興味があった。ジェフ・ロウランドは何と言ってもまず見た目の美しさが素晴らしいが、ちょっと美麗に過ぎるような感もあり、音もそういう華美なものというイメージがある。実際にはそういう弱々しい感じは少なく、むしろ力強さのある音だ。ただ所謂「ハイエンド」系のブランドなので、総じて言えば「柔らかい」音ということにはなるだろう。どのブランドでも末弟は上位機種より闊達な印象がある。自分にはその方が合うのではなかろうか。

 豊田市に「trade-up」という店があり、伊勢湾岸道が開通してからはちょくちょく足を運んでいたのだが、そこに102は登場していたのだ。店主もかなり気に入っている様子で、繋いで聴かせてもらった。プリはその時中古で入っていたアキュフェーズで、スピーカーはウェストレイクLC4.75。このスピーカーの音はよく知っているのでちょうど良いだろう。

 いいじゃないの。ウェストレイクがナロウレンジにならずに活き活きと鳴っている。中低域の力感も十分だ。アキュフェーズっぽさも余り感じさせないと言う事は、かなり影響力があるのではなかろうか。店主も「プリのように音が変化する」と言っている。音をまとめるのが大変上手い、という印象を受けた。いいなあ…と暫く聴いていると店主が悪魔の囁きを吹き込んだ。

 「CHORD持って来て、聴き比べてみればいいじゃないの」

 半ばそう考え始めていたのだ。自分の中の悪魔がまた語りかけてきたかと思ったくらいだ。条件が違うものの、この音はかなり魅力的であることは分かった。あとは現在のパワーと比較してどうか、という事なのだ。

 そして翌週。ちょっと聴いてみるだけのはずだったのになあ、と思いながらSPM600を携えて再び豊田市へ。繋がれていた102からまず聴いてみる事にする。持ってきたCDドナルド・フェイゲンの新作「モーフ・ザ・キャット」が試聴盤だ。

 やはり中低域の強さがまず「来る」。ヴォーカルの定位やバックの演奏の位置もバッチリだ。ウェストレイクらしくなく、高域もよく伸びている。

 ここでCHORDに替えてみる。愛用してきたこいつに勝って欲しい気持ちもあるが、ただこいつからはああいう音は出ないだろうな、という事も何となく分かっている。

 出てきた音は確かに馴染みのあるものだった。それにしても、だ。あまりにも先程とは異なるタイプの音だったので少々面食らってしまった。かなり上寄りで元気の良い音だが、中低域が少々寂しく感じる。最大の違いは音場感か。先程と比較するとスピーカーに音が張り付いてしまっているかのような感触だ。CHORDは横には音が拡がるが、Jeffは前後に拡がるのだ。もう一度Jeffにしてみよう。ああ、この音だ。他のCD、ノラ・ジョーンズなども聴いてみる。どう聴いても勝負は明らかか。

 CHORDが勝っている点としては元気の良さだろうか。Jeffはやはり「大人」の音だ。今まで元気の良さという要素をかなりの部分で自分のシステムには盛り込んできた。だからここでJeffにしてしまうと大人しくなってしまうだろうか。否、そんなことはあるまい。そこまで暗い音のアンプではない。むしろJeffらしく明るめの音色だろう。ギターソロなど聴いてみてもそれは確認できる。結局、CHORDは少々粗さが出てしまうのだ。これがこのアンプの魅力でもあるのだが、やはり真空管プリとの組み合わせがあまりにも絶妙だったのだ。覆水盆に返らず。真空管を手放したという時点で、こちらも舞台を去る運命だったということだろうか。

 ほとんどJeffの圧勝という感じではあったが、やはり少し迷った。それはこのくらいの価格で出る中古は何かあっただろうか、ということだ。しかし、あまり思い当たる機種が無かったところで心は決まった。所詮は果敢ない抵抗だったようである。

 「では、一台注文お願いします」



 181. 満天の月(06.09.10)

 夏休みも終わりにさし掛かる頃、私は久しぶりに北陸の地に足を踏み入れた。

 友人に会うことが目的であったが、その友人はかなりのオーディオマニアであり、また新たな新兵器を導入したとの事で拝聴しに行く事と相成ったわけである。

 そこでの音は誠に素晴らしく、まさにハイエンドオーディオとはこういうものかと私を唸らせるに十分なものであり、折しもフェーン現象のため名古屋以上の猛暑となっていたことを忘れさせてくれる心地よい甘露であったのだ。ところで彼はまた、カーオーディオの方でも一廉のマニアだったのである。

 もう4〜5年程前の事になろうか。「studioMesse」というカーオーディオショップでの楽しいひとときをこのサイトで取り上げた事があった。その店のオーナーと共に、カーオーディオのコンテストに出場すべく音の練り上げの真っ最中であった友人は、一つのユニットを車に導入しようとしていたのである。

 車とは言え、スーパーウーファー、ミッドバス、ミッドハイ、トゥイーターという4ウェイマルチでハイエンドなシステムを組み上げていたのだが、その中のミッドハイを替えようとしていたのだ。その部分にはそれはそれは有名なスキャンスピークが付けられていたのだが、練り上げて行くとどうもうまく行かないらしい。そこでこのユニットが登場していた。

 ブロンズ色をしたコーンにセンターキャップのない逆ドーム型とも言えるシンプルな形をした8cmユニット。最近アジア製のユニットが大変出回っているのだが、その一つである「Hi-Vi research」という会社のものである。噂には上っていたが、実際にこの目で見てみると容姿端麗かつ眉目秀麗、ローコストユニットとは思えないルックスである。

 音の方も早速聴く事が出来た。スキャンスピークの代わりに仮付けではあるが装着されたその音は、癖の少ないものである事に間違いはなかった。バラバラのユニットの中に新しいユニットを入れて、容易にまとまった音はしないものであろう。見た目だけでも決めてはいたが、あらためて購入の意思をその場で告げる。いや、出会いと言うのはそうしたものであろう。

 名古屋に帰って程なく、ユニットは届けられていた。早速鳴らしてみたい。当然の欲求が私を突き動かしていた。鳴らすのだ。勿論の事、専用のエンクロージャーなど作ってはいない。しかし、8cmならば以前作っているのだ。長い事日の目を見なかったスピーカー「イスト君」。愛車と同じ紺色に塗られたスピーカー。パテなど使って、製作に苦労した割にはあまり鳴らされる事のなかった悲劇のスピーカー。コバルトブルーに塗られたそいつを久方ぶりに引っ張り出した。埃を払う。付いていたユニットFE83Eを取り外す。そして新しいユニットをあてがってみる。穴の大きさはピッタリだ。端子を通すために少々座繰りを入れたものの、加工する必要は無くなった。これはいい。ほんの僅かながら83Eのネジ穴が見えてしまうが、それ程目立つ事の無い状態で取り付ける事が出来た。紺色のボディに銅色のユニット。あたかもそれは夜空に一際映える満月のようでもあった。

 音を聴いてある意味愕然とさせられた。失望したのではない。むしろその逆である。最初からいいのである。このユニット、エージングは必要ないのだろうか。がさついた感じがまるでないのだ。いや驚いた。特性的には確かにハイ落ちになっているので超高域までスカッと伸びてはいないが、それがどうしたと言うのだ。ヴォーカルを聴くにはうってつけの、中域の充実感がある。低域もあまりキリッと締まってはいないものの、この大きさとしては必要十分な量感がある。鳴らし込んで行くにつれてその印象はさらに強くなった。どうやらあまりに箱にこだわらずに、気軽にいい音が得られるユニットのようだ。

 大人だ。この音はまさに大人のものである。たまにはフォステクス以外のユニットも使ってみるものである。83Eとは真逆の音がそこにはあった。こいつは音量をぶち込んでがんがん鳴らす、と言うより夜に小音量でゆったり聴くのにちょうど良い。平日会社から帰った後、半分眠りながら聴くのである。

 ちょっと待て。私はそんなスピーカーを求めて作り続けていたのではなかったか。小型バックロードをそのために作ったばかりではないか。しかし前に書いたように、用途には向かないものであった。試行錯誤は続くのか…と半ばワクワクしながらそう思ったものだった。

 しかし、である。そういう音がいとも簡単に手に入ってしまった。うれしさは当然あるものの、何だか納得が行かないものを感じざるを得ないのだ。これでいいのか…求めるものはもっと苦労して手に入れるものではないのだろうか。

 まあ世の中こういうこともあるのだ。そう思うしかないのだが。贅沢な悩みなのだが。


 180. 試行錯誤錯誤(06.08.27)

 なんとまあ、ここまでカサカサした音は初めてかもしれないな。

 バックロードの鳴らし始めと言うのはカサカサした音、という事はよく言われてきた事ではあったが、ここまで乾きまくった音と言うのはこれまで聴いた事が無い。ちょっと不安に襲われた。失敗かな、と。

 こうなったらエージングに励むしかあるまい、とりあえずは。せっかく作ったんだから。とは言うものの、この時点で夜になっていた。翌日も家族がいればあまり派手な事は出来ない。鬼太鼓座とかドラムレコードとか、パーカッションアンサンブルとか「いかにも」なものをかけるのも少々照れ臭い。音楽で出来るだけレンジの広いもので行こう。

 悲壮な覚悟でもって、マーカス・ミラーだのルパンだのを延々とリプレイし続けた。確かに低域は欲張るつもりはなかった。それにしても、だ。全然出てない。つまり中低域も薄いのだ。低音感がまるで感じられないのだ。また、艶っ気の全く無いヴォーカルはホーンからも盛大に漏れて出ていてメガホン状態だ。こりゃひどい音だなあ…と思いつつひたすらエージングに励んだ。用意していたフェルトをホーン開口部付近に敷くと、中高域の洩れは少なくはなった。

 そうこうしているうちに何日か経ち、そこそこ聴ける音になってきた。ホーンからの音洩れも少なくなっている。いいぞ。ハイ上がりなのは確かだが、だんだんバランスはとれてきた。いいぞいいぞ。ただ、まだまだホーンからの中域の洩れを減らしたい。開口が大き過ぎたかもしれない。もう少し狭めた方が良かっただろうか。

 そこで登場したのがメラミンスポンジのでかい塊。「激落ちキング」などという物凄い名前がパッケージにはついている。これをホーンの幅に合わせて切断し、とりあえず開口部の上にはめ込んでみた。

 そうするとかなり「普通に」なってきた。開口面積も減るが、スポンジなので吸音効果もあるだろう。ただ、装着前にあった開放的な調子がなくなってしまったのだ。まさに奥歯にものが詰まったような感覚か。難しいところである。そこで、3cmあった厚さを半分にして装着してみた。するとちょうどいい按配のようである。これだっ。

 さらにアコリバのシルクアブソーバーを開口部から手を突っ込んで出来るだけ奥の方へ貼り付けた。これで高域の洩れはかなり抑えられるだろう。またさらに、ユニットを外してそのシルクを空気室の側面と、音道の入り口に薄く貼り付けてみた。

 ここまでしたら多少は変わるだろう。とをユニットに落とさないように気を使いながらネジを締め直す。開口部に白い「激落ちキング」を貼り付けたこのスピーカー、何だか白い歯でも生えたようである。一つ目小僧みたいで、なかなかユーモラスだ。

 音はどうか。さすがにかなり落ち着いた。ユニットのエージングが進んでいる事もあるが、明らかに吸音材の効果は現れている。いや、よく最初の状態からここまで来たものだ。確かに低音感は相変わらず薄いが、マーカス・ミラーのベースもビシバシ来るようになった。もうメガホンのようなヴォーカルにならない。バックロードらしい抜けの良さが気持ちよい。

 ただし、メインに切り替えてみると分かるが、やはりハイ上がりである事に変わりはない。エージングが進んでもこの特徴がガラリと変化する事はさすがに無さそうだ。1mに満たない音道の短さがネックなのか。それを承知の上で作ったのだから自業自得だが、このユニットはやはりそれなりのバックロードで真価を発揮するのだろう。

 また、当初の使用目的であった「聴くため」という点ではどうか。メインよりもむしろ能率が高く感じるほどヴォーカルの声が強烈に感じられる。ハイ上がりで元気の良い音調のため、夜聴くには少々うるさく感じてしまうのだ。元気の良い音自体は大好きなのだが、本来の目的からは外れてしまう…好みではなくても少々暗めの音の方が目的には適うのか。

 奇しくもそんな折、面白いものを手に入れる事となった。


 179. 天国と地獄(06.08.17)

 そんなわけで、何だかFE126Eを使ってみたいだけのような気もするプロジェクトは進められていくのであった。設計は決まったので、次は板取である。さらには今回、ちょっと変わった事を試したかったのだ。それはMDFシナ合板の混合である。ネジ穴がバカになりにくいように、バッフル面にはシナ合板を使いたかった。また、加工の容易さから側板にはMDFを使いたかったのだ。異素材(とは言っても同じ木材ではあるが)の混合が振動モードを変えて、音質に良い影響を与えれてくれるのではないか…という目論見も含まれていたりする。コスト面を考えてシナ合板が少なくなるように板取に取り掛かった。

 その結果はシナ合板が900×450、MDFが900×900という範囲内で収まる事となった。しかもそれ程端材も出ずに済みそうで、願ったり適ったりである。かなりの自画自賛モードに入りつつ、金曜の夕方ハンズに設計図を渡し、翌日意外にずっしりと重い板材を持ち帰った。暑い。夏だな。汗かくな、これは。しかし躁状態に突入していたので平気であった。豚は木に登るのか。

 さらに翌日、日曜日の朝である。まずはRを付けるところだけはやすり掛けをしてしまおう、とサンドペーパーを携えて庭に出た。暑いな、やっぱり。日陰を見つけて作業に取り掛かる。粗いペーパーでガシガシと削る。たちまちが吹き出る。MDFに汗が落ちるとちょっと「まずいっ」と思う。紙のようなものだからだ。ガシガシやっていると、体温だけでなく気温も確実に上昇しているのが分かった。しかも、当然日陰が短くなっていく。これは本当にまずい。意外に時間もかかる。今回はホーン開口部もラウンドを付けようとしたので、結構あるのだ。本当は細かい番手のペーパーで仕上げるのだが、これはまた今度にするか。もうだめだ。ここで倒れるわけには行かない。しかも翌日は仕事だ。一時撤退、である。

 気を取り直して、エアコンの効いた部屋で組立に掛かろう。今回は小さいし、CW型なので側板にどんどん板を貼り付けて最後にもう片方の側板を貼り合わせるだけなのでそう難しくはない。とは言え、どうせこの日に完成させられるわけでも無いので、のんびりやって行こう。この大きさなら片づけておく場所も作る事は出来るわけだ。

 そんなこんなで途中まで作って日曜日は更けて行った。いつもならば次の週まで放ったらかしだが、出来るだけ夏休み中に鳴らし込みをしたかったので少し急いだ。ちょっとずつ、会社から帰ってから作業を進めたのだ。元々それ程工程の多いものではない。平日に3回ばかり作業をしたので、夏休みの初日である土曜日には全て組み上がる状態に進めることが出来たのだ。

 最後の側板を貼り合わせる前、内部配線を通しておく必要がある。今回使ったのはオーディオクラフト「QLX」。癖の少ない良いケーブルである。ターミナルは最近売られている500円のものを使ったが、ユニット側にも今回ファストン端子を使う事にした。後で吸音材などの調整をするかもしれない事と、ひょっとしたらユニット交換という可能性もあるからだ。端子はカーオーディオ系では誰もが知っている「オーディア」ブランドのものを使った。金メッキの真鍮製である。

 吸音材はとりあえずアコリバのシルクを空気室の下部にふわりと入れておく。バッフルの裏や音道の板には「フォック」を無造作に塗り付けた。響きの調整と補強のためだ。

 余った板材から開口部の奥に階段状の形を作る事が出来た。さらに背板の補強もする事が出来た。ここまでやって側板を貼り合わせ、翌日の塗装に備えた。

 さてその塗装。何色にしようか。季節は。いかにも夏、といったような暑苦しい色がいいかな。それとも納涼的な色の方がいいかな。ホームセンターへ行き、ペンキコーナーでしばらく佇んでいたが、ようやく決めた色は「若草色」。夏らしいし、涼しげだし、緑という色は目にも優しい。全てを兼ね備えているではないかっ。と、心の奥底で幾許かの不安を抱えながらも早速塗りに掛かった。

 一筆刷毛をバシッと天頂部に走らせる。その途端「ぐ」と手が止まりかかった。こ、この色は…ひょっとして失敗?何だか安っぽい昔のカラーボックスみたいだ。やばい。どうしよう。…ま、まあいいや。チープ感をわざと表現した、みたいな感じで。本当かなあ。

 もう後戻りはできない。いや、出来ないわけではなかったが面倒だった。思う存分刷毛を振るい、音道の奥まで「若草色」に染めまくった。でもこれ、ただの黄緑だと思うけどなあ。もう少しくすんだ色だと思ったのになあ。

 今一つ納得のいかない塗装が終了。いよいよユニット装着だ。FE126Eをバッフルにはめ込んでみる。普通に入れてみたが、ふと思いついた。フレームが菱形になった方がカッコいいかな。そうなのだ。エンクロージャーの横幅が20cmとそこそこ幅広なので、標準的なマウントにすると何だか太って見えるのだ。フレームを斜めにするだけであら不思議。スリムに見える事請け合いなのだ。また自画自賛モードに入りながらネジを締めた。

 完成。毎度お楽しみの音出しだ。ノラ・ジョーンズのCDをかける。さてどんな音が…

 「ガサガサだ」



 178. 夏恒例(06.08.13)

 最近ネタは幾つかあるのだが、更新が遅れてしまっている

 前回のケーブル話も5月の事である。今何月?もはや真っ盛りなのだ。そんなわけで、夏らしく新しいネタで行こうではないか。

 夏と言えば夏休み、夏休みと言えば工作なのである。思い返せば7年前の夏に作った「D-105」のおかげでオーディオ熱が再燃したのだ。本来大汗掻きで夏は苦手なのだが、こんな時こそ(?)工作だ。汗をかいた結果は、きっと良いものに違いない(?)。

 まあ、正直に言えば以前から考えていたのだがずるずると夏になってしまった、といったところか。夜などに小音量で聴くためのサブスピーカーを何とかしようと思っていたのだが、構想にずいぶん時間がかかってしまった。現在サブは2ウェイの「赤い彗星」があるのだが、やはりどうもフルレンジ&バックロードの音離れの良さが好きなのだろう、メインスピーカーで聴いてしまう。結果音量が上がってしまう。やはりバックロードを作るか。しかし、小型でないと置く場所がない。それに折角「赤い彗星」用にタオックのスタンドを中古ながらも購入したのである。これを何とかそのまま生かしたい。

 そこで、小型バックロード。しかしどう設計するのか。FF85Kなど8cmユニットを使えばミニサイズは可能だ。そうするか。いや待てよ。確かにそれが最良の選択と言う事は分かってはいるが、みな結構作っている。やはり作っている人が少ないものをやってみたいではないか。

 そんなことを考えていたので夏になってしまったと言う事だ。様々な考えがようやく一つにまとまった。箱の大きさはほぼ「赤い彗星」と同じくらいにしたかった。高さは少し上げてもいいが、奥行きは30cmに留めたい。幅は20cmで行けるので、小口径ユニットでは勿体ない。そうすると12cmはどうか。このサイズはかなり地味な存在だろう。バックロードならば以前だとFF125Kが定番だったが、現在はFE126Eがある。こちらを是非使ってみたかったのだ。ある程度大きな口径のユニットならば、コーン自体がある程度は低域を出すはずなので、バックロードからの低音の帯域はかなり下の方からでいいわけだ。つまり、ユニットとバックロードのクロスオーバーは低い帯域になるはずだ。それ程ロードに頼る事も無いのではないか。もっとも、本来ならば低い周波数の音を出すならば音道を長くする必要がある。それを敢えて短い音道にすると言う事は、あまり低い帯域の低音はきっぱりと諦めて、バスレフのように中低域を持ち上げる事になるのではないか。あくまで想像でしかないが、小音量で聴くにはうってつけの形式なのではなかろうか。

 決まった。12cmフルレンジFE126Eを使った、「ブックシェルフ・バックロード」である。そうと決まれば早速設計にかかろう。サイズは幅200×高さ350×奥行300と最初から限定されているので楽と言えば楽だし、苦しいと言えば苦しい。空気室をどうするか、音道長をどうするか。どうひねっても音道は1mも出来ない。空気室はある程度大きくしようか。中域を充実させたいからだ。とは言え、ブックシェルフなのであまり無理も出来ない。音道がさらに短くなってしまう。

 などなど、逡巡と妥協と自暴自棄(?)の産物のようではあるが、構想はまとまった。空気室は約1.2l、音道全長は約90cm、ホーンは2.5→4.0→7.5→11.5Bという形で広がっていく。ちょっと広げすぎかなとも思ったが、狭いといかにもホーンを途中で切りましたと言わんばかりなので、これで完成という形にしたかったのだ。はてさて、これが吉と出るか凶と出るか…


 177. 小豆色の細いヤツ(06.08.01)

 小さいのになかなか出来るヤツ、CEC「PH53」。しかしまだまだこいつは力を残している。それはケーブル。ケーブルを替える事で無限の可能性を引き出す事が出来るはずなのだ。とは言え、プリに繋がっているのは持っているRCAで一番高価なオーディオクエスト「Viper」。これ以上のものはもはや望めない。と言うよりフォノイコとの価格バランスもおかしくなるだろう。つまりプリとバランス接続をする。これだ。何度でも言うが、プリはバランスアンプなのである。

 もちろんバランスケーブルはもう余っていない。昔S/Aラボのケーブルで作ったものは安い価格で売ってしまった。手頃なバランスケーブルというものはほとんど存在しないので、また作るしかなかろう。

 最近は自作用のインターコネクトケーブルで良いものがなかなか無い。安いか高いかで、中間がないのだ。やはりカルダスにするか。いつもの青い「クロスリンク1S」が結局手頃だろうか。ちょっとそれもワンパターンだなあ…何か無いかなあ…と思っていたら、見つけたぞ。同じカルダスの「G-マスターリファレンス」を。価格はクロスリンクより少しだけ上だが、細い。まあ、インコネなどは細くて十分なのだ。小豆色のジャケットが渋い。高級シリーズである「ゴールデンクロス」みたいだ。あっちはかなり太いけど。

 ケチなわしは1mだけ買って、0.5mずつ左右に使う事にした。使い勝手が限られるが、まあいいだろう。バランス端子は定番ノイトリックの黒い方(ピンが金メッキ)で良かろう。暑くなりつつある(この時5月中旬)ので、製作にはが欠かせないが仕方があるまい。RCAよりむしろXLRの方が作りやすいものである。被膜を剥がす作業はなかなか困難だったが面白かった。細いのにさすがカルダス、ずいぶん凝った作りになっている。芯線に辿り着くまでに何枚も皮を剥かねばならなかったのだ。外被の下にはストレッチの効いたテープがきつく巻かれ、その下はシールド線、次はまたテープが巻かれており、さらに薄い紙が芯線を包んでおり、その芯線は綿糸と共に撚られていた。写真に撮っておけば良かった。順番がこれで良かったのかちょっと自信がないのだ。

 今回初めて「WBT」のハンダを使う。銀が含まれているのだが、その割には普通のハンダと同じくらいの温度で溶けるので便利だ。まあ、音質にどのくらいの影響があるのかは比較はできない(しない)が、おまじない以上の効果はあるに違いない。また、芯線を剥いた辺りには「フォック」の塗料を軽く塗っておいた。これは意外に効くのではないか。

 完成したバランスケーブル、短過ぎたかもしれぬとちょっぴりヒヤヒヤしながらプリと繋ぐ。しかしラックの上下という位置ではやはり50cmあれば十分なのだ。いよいよ音だしである。ノラ・ジョーンズなど聴いてみよう。

 バランス接続ということでゲインも上がったが、それでも音圧感が違う。元気のある音で中低域のガッツが特長だろうか。オーディオクエストの透明感や繊細な表情とはキャラクターが異なるが、何せカルダスのケーブルはエージングが長時間必要なのだ。しばらく様子を見よう。

 実際には2〜3週間で音はかなり変わった。ガッチリした中低域に元気の良い中高域。目の覚めるような抜けの良さ。カルダスでは完成品のエントリーラインのケーブルは高域がおとなしい傾向があるが、これにはそのような要素は少なく、むしろ若々しさがあって良い。ヴォーカルが良く歌い、楽器が良く鳴るケーブルである。同条件で比較はしていないものの、同じ切り売りの「クロスリンク」よりもクオリティは高いと思う。音の傾向は似ているが、より高級ケーブルに近い解像度の高さを聴かせてくれるのだ。それでいて冷たい感じにならないのでその辺りの匙加減が絶妙である。これはお買い得ケーブルだと確信した。惜しむらくは、もはや販売している店が大変少ない事だ。良いケーブルなんだけどねえ。


 176. 日米同盟(06.07.17)

 早いなあ。タイミングが良いのやら悪いのやら。出てしまったら気になって仕方がない。いっそ欲しいものが絶対に買えないくらい高価なものならスッパリ諦めるのだが生まれついての貧乏性、リアリティのないものは絶対に欲しくならない。だからダメなんだ、向上心が足りないんだ、と言われてしまうと返す言葉もない。

 出たのは何かと言うとCEC「PH53」というフォノイコである。これに限らず、このくらいの価格帯で中古を狙っていた。他にはシェルターやsound、オルトフォンや渋いところではハイフォニックといったものが挙げられるが、実はCECを最初から注目していたわけではなかった。雑誌などの評価も「線が細い」といったものが多く、どちらかと言うと太い音を求める自分には合わないのではないかと思ったのだ。しかし、他に無い特徴があった。プリとバランス接続が可能な点である。アンプにとってこの方が有利なはずなのだ。良い結果をもたらすかもしれない。そんな期待が俄然沸いてきたのだ。

 以前一度しか行った事のない店なので、電話してから向かう。その時「何か気になるものでも?」と訊かれたので目当てのフォノイコを告げておいたら、到着するとすでにセッティングが済ませてあった。果たして、出てくる音は予想以上だった。いいじゃないの、いいじゃないの。そこでレコードを何枚も取っ換え引っ換え聴いていた。

 店主がうれしそうな顔で「これねえ、インシュレーターやらケーブルでずいぶん変わるんですよ。試してみます?」とこっちを見た。そりゃあ、試すよ。試させてくださいよ。わしと同年代の店主は自作らしいインシュレーターや、ヴィンテージのウェスタン製電源ケーブルを繋いだりして、音の違いを顕にした。インシュレーターで低域を締め、ウェスタンのケーブルはさすが、音を上手く古くさくしてくれた。確かに分かりやすく効果が出てくる。面白いなあ

 結局2時間くらい店の中で聴きまくっていた。いやあ、雑誌の評価と言うのも当てにならないものだ。もっとも、電源ケーブルは純正でテストしているだろうから、当然かもしれない。決して分厚い音ではないが、かなり逞しい音になるではないか。

 そういうわけで、CEC「PH53」は自分のものとなった。サイズ的にはプリの電源部の隣でピッタリだ。とは言え、本当は電源部にイコライザなどの敏感な機器を近づけることはあまり良くは無いのだろう。風通しの良く、幅の広いラックが欲しいものだ。

 セッティングの前にカートリッジに合わせた調整が必要である。筐体の底面にディップスイッチが付いているのだ。説明書と首っ引きで「コントラプンクト」に最適な数値に合わせる。まあ、よほどの高出力でもない限りMCカートリッジならだいたい同じ数値になるのだが。ちなみに、アームケーブルがXLRならば調整はいっさい必要ないとの事。しっかし、バランスアームケーブルなんてどこにあるのか、と思ったらCECのサイトにあった。なるほどね。

 電源ケーブルで余っているのはオーディオクエストのスピーカーケーブル「type6」で作ったもの。単線らしい引き締まった音が出るに違いない。プリとは同じクエストの「Viper」で繋ぐ。オルトフォンのロングアームの方をフォノイコに繋ぐ。試聴盤は何が良いかな。よし決めた。ジョニ・ミッチェルの名盤「ブルー」をターンテーブルに載せ、回す。

 おお、カッチリして小気味よい、まるで軽量級ボクサーのような音ではないか。オーディオクエストの個性もあるのかもしれないが、本機のベースはやはり良い意味での軽さだろう。これがスピード感にも繋がり、こちらに向かって軽いフットワークで高速ジャブが何発も放たれてくる。Мっ気があるわけでもないが、気持ちが大変よろしい。

 さらに、筐体の下にインシュレーターを当てがってみよう。今回はその辺に転がっていた真鍮の小さな円柱に薄い「フォック」を貼り付けたものを実験してみた。 

 結果は低域の若干ぼやけた部分がいっそう引き締まって、さらにこれまでの音調が際立つ結果となった。これはチューニングで、柔らかくさせたいならばソフト系のものを使えばいいわけだ。分かりやすい機器である。

 今回感じたのは、こういう小気味よい細身の音と言うのはいかにも日本的だな、と言う事だ。全部国産にすると、あまりにも細いと言うのかナイーヴな音になってしまいがちだが、このように海外機と組み合わせる事で、互いの良いところが現れてきたと思う。これもオーディオの楽しさの一つだ。


 175. 驚愕(06.06.15)

 時間掛かりすぎじゃないのか。

 そうなのだ。このプリアンプ、電源入れてから2日経って本領を発揮し出したのである。あきれるやら感心するやら、とにかくこの場は得も言われぬ音に酔いしれた。ゾクッとするほど生々しいヴォーカル、力強さと艶っぽさの同居したギターの音色、地の底から響くベース。これは参った。

 しかしいろいろ人から聞くところによると、やはりこのスロースターター振りはそういうものであるらしい。つまり、例えば電源ケーブルを交換したりすればその効果を確認するのに最低2日掛かることになる。まあ、ケーブルもエージングがあるからそれでもいいのかもしれないが、なかなかそのペースに慣れるのが大変そうだ。まあ、常時通電と鳴らしっぱなしとは違うのだが。

 また、当時の雑誌を探して読んでみると、ノイズは少々「音量に関わらず」発生するようだ。バランス回路ならば外部からのノイズはキャンセルされるので、原因は電子回路に起因するものではないか、と書かれていた。ふむ。ではある程度あきらめるしかないのか。うーむ。

 音質評価は様々だが、悪いところを言えば「硬質」だとか「軽い」という表現が目に付く。確かに柔らかいというタイプではないし、重厚と言えるような音は出さない。自分がそういうものをあまり求めていないのでこういった評価も気にはならない。先に上級機、例えば「No.26L」でも聴いていたら違う印象も持ったかもしれないが、幸いにして聴いてはいない。そりゃ、上を見たらきりがないのだ。それに「当時のレビンソンの中では28が一番自然な音がして良い」という声もあった。好き嫌いが分かれるアンプなのかもしれない。

 話が逸れたが、どちらにしても電源ケーブルを一度は抜かねばならない作業をする必要がありそうだ。前回少し触れたことだが入力ゲインの調整と、フォノイコのインピーダンス調整である。ケースの上蓋を開けてディップスイッチを操作するのだ。ずいぶん面倒なのだが、面白くもある。

 そして週末。さらに日曜日がそろそろ終わる頃、そうテレビでは「サザエさん」が放映されているような時間だ。いよいよ電源ケーブルを外して上蓋を開けてしまおう。この土日で良くなった音をたっぷりと楽しんだ。心置きなく電源を落とそうではないか。

 六角レンチで左右のねじを外し、フタをずらすとするりと外れた。フタの裏にはダンプのためのゴムシートが大きく貼られていた。確かに叩いても鳴らないわけだ。さて中身はアンプと言うよりまるでパソコンのようだ。真空管アンプであるサウンドパーツとは全く違う。フラットケーブルなどが使われており、当時としてはハイテク系と言えるのではないか。ディップスイッチはすぐに見つかった。マニュアルによると、どうやらフォノイコの方はかなりローインピーダンスに設定されていたようだ。前のオーナーはSPUを好んでいたのだろう。ここを調整してコントラプンクトやテクニカのカートリッジに合うような設定にした。また、入力ゲインは一番少ない数値に合わせる。これで再びフタを閉じ、元通りセッティングをする。文章にすると簡単だが、この間一時間弱と言ったところか。

 もはや電源ケーブルを繋いだばかりの状態における音質は全く期待していないので、音量をチェックする。これでもCDはまだ音が大き過ぎになりやすいが、何とか8時半から9時の位置で収まった。レコードの方も、以前ならナローレンジ気味だった音が両翼の広がったワイドレンジ感を聴き取ることができるようになった。ただし音質自体はまだギスギスしたような状態で、いかにもエンジンが掛かっていないような音である。また2日ばかり待つしか本当の状態は分からないだろう。

 実はこんなことをやっていたのは黄金週間が始まろうとしていたときであった。カレンダー通りの休みであったので、本来なら週中である5月3日にじっくりと聴くことが出来たのだ。そういうわけで、再び甦った高音質を楽しむことが出来たわけだが、レコードの音もやはりインピーダンス調整をして良かった、と言えるバランスの良い音になってきた。ただ、以前まで同じオルトフォンのトランスを通して聴いていた音とは当然と言えば当然だが違いがある。きれいな音だが、以前はナローレンジながらもっと力強さがあった。ここが物足りない。やはりオルトフォンはトランスと合わせるべきなのか。

 また、フォノ入力が1系統しかないのもダブルアームにしている以上不満は出てくる。安いフォノイコでも買ってとりあえず「スペースアーム」の方に当てがっておこうか。しかし、それではあまりにも暫定的に過ぎると言うものだ。結局すぐに手放すのならば逆にもったいない。

 理想的にはユニバーサルアームの方に様々な調整が容易なフォノイコを繋ぎ、調整が面倒な内蔵フォノイコの方にはスペースアームを当てる。これだろう。フォノイコはまた何か面白そうなものが出たら…と思っていた。そうしたら。

 もう出てしまった。


 174. 環境には厳しいが(06.05.27)

 レビンソンユーザーになる、と決めてしまってから一週間。

 ソニックフロンティアの音にも何だか慣れてきている自分がいたりするのだが、それは機器同士のエージングという側面があるのかも知れない。不満だった低域も、実際には密閉型のスピーカーよろしくだら下がりで伸びていて、意外に下の低音を出すのだ。ただ、相変わらずウッドベースが苦手ではあったが。

 ひょっとして電源スイッチが後ろにあって前面にスタンバイボタンがあるのは、滅多に電源を落とす必要はないからだろうか、とも思ったのだがマニュアルを見ると「使わないときは電源を落としてください」と書いてあった。真空管なので電源入れっぱなしは確かに寿命を縮めそうだが、逆にある程度は温めないと本領を発揮しないものだ。そのあたり、難しいところである。結局、毎回後ろに手を回して電源をオン/オフしていたが使い勝手の悪さは否めない。

 そういうわけで、再びエアパッキンにソニックフロンティアを包むときは名残惜しさがあった。たった2週間であったが、なかなか面白かったではないか。自分の腕に覚えがあれば、もっと向上できたかもしれないのだ。安易に次に行ってしまうことは果たしていいことだろうか?

 もちろん、もっと名残惜しかったのは「live5」をラックから取り出すときだった。思わず「ごめんよ」とつぶやいていた。ここのアンプは「音楽を楽しむこと」にかけては最強だった。その強調感のない生々しさは群を抜いていた。また使ってみたい。いつのことになるかは分からないが、その時はプリとパワー、両方お願いすることにしよう。

 少々しんみりしながら2台のアンプを運んで彼らに別れを告げ、新たにレビンソンを積んで帰ってラックにセットする。ひさしぶりの黒いアンプである。別筐体となっている電源部は意外に大きく、こちらを下段に配置した。さて、この「No.28L」は基本的にはバランスアンプであり、XLRケーブルを使うわけなのだが、元々ここのブランドの特徴でもあった接続の仕様である「レモ端子」もある。そういう過渡期のアンプなのだ。CDはXLRケーブルで接続すればいいが、レコードプレーヤーはフォノ端子がそのレモなのだ。「レモピン」と呼ばれるプラグをいったんRCAプラグに装着しなければいけないわけで、その辺が少々音質的にマイナスになりはしないかと気にかかる。独自仕様と言うのは面倒なものだ。結局普及しなかったのも頷ける。

 接続は完了し、電源ケーブルを独立電源部に差し込む。これで電源オンなのだ。スイッチなど存在しないのである。つまり、これは正真正銘「常時通電」アンプというわけか。説明書にもそのように記載されていた。いいんだろうか、この時代にこういう「環境に優しくない」電気製品は。さすがバブルを引きずっていた91年の商品と言うべきか。ちなみに私の入社年度である。どうでもいいことだが、これも購入動機のほんのわずかな要素だったりもするのだ。

 さて、またまたドキドキしながらパワーアンプの電源を入れる。スピーカーからは「シャー」。やっぱり。前よりは少々ましになったとも言えるが、それほどこの「シャー」音については改善が見られなかった。スペックにS/N比が記されていないことでも、そんな気はしていたのだが。

 もう半分この点についてはあきらめを覚えながらノラ・ジョーンズのCDをかけてみる。

 お、まあなかなかいいじゃないの。中低域を中心にしたどっしりしたピラミッドバランス。力が漲っているようで、好みの音調だ。ちょっと高域の伸びが足りないような気もするが、ここ最近のソニックフロンティアによる高域のきらびやかさに慣れていたせいかもしれない。この音ならば付き合っていけそうだ。レビンソンも意外に古くさい音を出すのね。フォノイコの音も似たような傾向だった。

 などと思っていたのだが。翌日、音を出してみると明らかに前日に比べて高域が伸びていた。おや。やはりずっと電源を入れっぱなしというのは、スロースターターになるのだろうか。もちろん好ましい方向への変化なので大歓迎である。鮮やかさが増し、まさに目が覚めてきたという感じだ。

 特徴をまとめるのが実は大変難しい。キャラクターで聴かせるアンプではないことは確かで、バリバリの正統派と言えよう。「精緻で、クールな音」というのが自分の抱いていたレビンソンのイメージだが、決してそうではない。結構熱く、気分を高揚させてくれるような音なのだ。あとはやはり「グレードの違い」というやつだろうか。これまでの音も大変良かったのだが、レベルが上であることを思い知らされた。逆にちょっと悔しいほどである。

 フォノイコの音は、CDと比べると少し劣るかもしれない。カートリッジの組み合わせもあるかもしれないのだが、ゲインやインピーダンスなどを細かく調整できるのでもっと詰めることは可能だろう。調整と言えば、特にCDを聴くときはボリュームつまみをほんの少し回すだけでかなりの音量になってしまうのが困り者だ。バランス回路からだと通常より音量は大きくなるのは経験上知ってはいるが、特にティアックのプレーヤーはゲインが大きいらしい。このアンプは上蓋を開けて入力ゲインとフォノイコ部の調整をする仕組みになっている。また次の機会、来週にでもそれは試してみるとしよう。どうなるか楽しみだ。

 と、日曜日は穏やかに過ぎていった。次の日。少しでも音を聴きたい、とばかりに仕事を終えていそいそと帰宅してパワーアンプのスイッチを入れる。当然プリの電源は入れっぱなしである。CDをトレイに乗せる。最近お気に入りのニール・ヤングの新作だ。イントロの音が…

 「ヤバい

 思わず普段嫌っている若者言葉が出てしまった。まずいことが起こった?いや、全く逆である。何ていい音出しやがるんだ、こいつは…


173. 紆余曲折(06.05.07)

 いったい何のために…

 スピーカーから盛大にノイズを巻き散らかす中、しばらく呆然とその場に佇んでいた。ひょっとしたら最初に出るだけで温まってからは収まるのではないかと言う淡い期待を抱き、水を飲みに行ったりさらにはテレビなど見るともなしに見ていてからまた戻ってみたが、やっぱりと言うか状況に改善は全く見られず、人の気も知らずに元気にノイズを出し続けるスピーカーがあるだけであった。

 こうなったからには仕方がない。人生始まって以来の大ピンチを迎えた気分でCDのプレイボタンを押した。いつものノラ・ジョーンズ。

 何だかずいぶん元気で明るいノラが登場した。良い意味で書くとそうなのだが、サ行が耳に付くし、乾き過ぎた声になってしまっている。バックの音楽もくっきりとメリハリを出しているのだが、アコースティックな音なのに何か人工的に聴こえる。自作派の方に馴染みのある言い方をすれば、フォステクスのフルレンジがFE系からFF系になったような感じだ。だからこれはこれで面白いし明るいサウンドは決して悪くはないのだが、生々しさに欠けた人工的な音色はメインで使うのはどうにもつらいものがある。フルレンジユニットを付け替えるのとは訳が違うのだ。

 さらに、致命的なのは低音が出ないことだ。他にもいろいろ聴いてみたが完全にハイ上がりのバランスで、バスドラムの低域はカチッと締まっていると言えば聞こえがいいが実際は低音不足である。さらにはウッドベースが苦手なのか、こちらは締まらずに「ぼよん」と何とも惚けた音になってしまう。ギラギラな中高域にややボンつく中低域。バランス悪すぎである。そして「シャーッ」音。うーむ、これは克服できるのだろうか。さすがに自信がない。セッティングやケーブルなどでどうにかなるような問題ではなかろう。

 レコードも聴いてみた。音の傾向は当然似たようなものだ。しかも、「live5」のテープアウト端子から出す音はあまり良くないことも分かってしまった。やはりこれはフォノイコ単体ではなく、プリ出力から出して完結しているのだろう。

 また「live5」に繋ぎ直して聴いてみる。ああ、これだこれだこの生々しい音。真空管からのノイズを無視すれば、やはり大変いい音である。しまったなあ。後悔。失望。挫折。オーディオをやっていて、これほど「ハズレ」た経験は初めてかもしれない。ケーブルとかアクセサリ系ならば致し方の無いところだが、何せでかいものだ。早く決めてしまったことが良くなかっただろうか。いわゆる「魔が差した」というやつか。それにしても雑誌の評価とはずいぶん違うものだな。概ね「柔らかい音」と書いてあったが、ギラギラではないか。これのどこが柔らかいのか。まあ中低域、特にベースは柔らかいと言えるかもしれないが…

 一人でブツブツ言っていても仕方のないことだが、やはりオーディオは組み合わせなのだろうな、と思いながらこの週は新しい音で過ごすしか為す術を持たなかった。これらの課題を何とか力技でねじ伏せるか、駄目元でケーブル類を入れ替えたりして暴れてみるか。パワーを今度は替えてみるか。そりゃ堂々巡りになりそうだから止めよう。

 そんなこんなで一週間後。また「ハイファイ堂」に行ってみる。以上のような話をすると、「あまり買え買えと言うのも気が引けますが…」と言いながらウェブ画面を見せてくれた。そこに現れたるのはかの、マーク・レビンソンNo.28Lという型番を持つその黒い物体は、フォノイコ内蔵と言うのも悪くは無い。つまり、ソニックフロンティアとサウンドパーツを両方下取りに出していかがでしょう!というわけだ。なるほど。さらにフォノはMC専用だからトランスも売れるのか。

 しかし、マーク・レビンソンか。言わずと知れたハイエンド王道を突っ走るブランド。悪いわけは無いだろう。これがゴールドムンドとかであれば「ちょっと上品過ぎてねえ…」となるところだが、レビンソンならそうでもないはずだ。とは言え、だ。あまりにベタ過ぎやしないか。「何をお使いですか?」と問われたとする。「サウンドパーツです」とか言うと「え?何ですか」などという反応が楽しくもあるのだが、「レビンソンです」と答えたって「へえ」ってなものだろう。つまらないではないか。

 そんなおかしな拘りを持っていても仕方がない。考えよう。ただ、「シャーッ」音の可能性はあるだろう。結局、海外ブランドと言うのは多かれ少なかれこうしたノイズを発生してしまうものだろうから。それでも今の音からは出来るだけ早くお別れしたかった。現在選択肢がそれしかないのならば。

 「じゃあ、そういうことで」

 毎度のことながら何がそういうこと、なんだか。「買う」とはっきり言いなさいよ、まったく。



172.苦渋の選択(06.04.30)

 実は大いに悩まされていたのだ。アンプのノイズに、である。

 購入直後に修理に出したパワーアンプchord「spm600」だが、また同じようなノイズが発生してきたので再修理に出したものの一向に状況は改善されておらず、思わず大クレームをしようとしたがよくよく調べてみるとプリから出ているノイズであることに気付いたのだ。もちろんパワーからも若干ノイズは出ていたのだが、今回はケーブルを左右ひっくり返したことで発覚した。これも原因がなかなか分からなかったのだが、結局真空管であるということで決着し、新しいムラードを差して静かになった環境でようやく落ち着いて音楽に浸ることが出来た。3ヶ月近くバタバタしていたので、喜びもひとしお、といった気持ちであったのだ。

 だが。そんな平和も長くは続かなかった。一ヶ月と何週間が過ぎた頃、再び真空管と思われるノイズが発生した段階で自分の中で何かが弾けてしまった。「もういやだ」

 正直な話、このプリsound&parts「live5」とパワーchord「spm600」の組み合わせは我ながら絶妙と言うべきもので、ともすればストレート過ぎる音になりがちなパワーをプリがうまくナチュラルな方向にコントロールしていたと思うのだ。他人が見たら絶対にミスマッチでしかない、このペアは本当に自画自賛したくなるほどの音を奏でていた。しかし、物理的にはやはりミスマッチだったということだろうか。実は仲が悪い漫才コンビ、という例えは適当ではないかもしれない。だったらちゃんと仕事だけはしてくれるはずだからだ。

 プリかパワー、どちらを替えるか。プリを残した場合、パワーも真空管にした方がノイズの点からは安心だ。しかし、やはりこのバックロードを真空管アンプで駆動するのは低域の制動というポイントで不安なものである。そうするとプリか。いいプリなのだが…うーむ。

 だいたい、手頃な価格のプリというものはそんなにあるものではない。最近でこそ海外製品で20〜30万円台の価格帯が充実してきたが、なかなか聴くチャンスもない。それにレコードがメインとなっている身としては、フォノ系の充実は欠かせない。かと言って最近のプリはライン専用ばかり。そうなった場合、やはり「live5」はフォノイコとして残すのが正解だろうなあ…

 と言っている間に「ハイファイ堂」のサイトで目を引くプリがあった。ソニックフロンティアというカナダのブランドだ。「line1」という名前を持つそのプリはデザインもなかなか良く、それなら当然(?)音もいいだろう。早速手持ちの雑誌などをひっくり返してみると、あまり良いことは書いていないが、これは海外機だから仕方があるまい。特にパワーと組み合わせて聴かざるを得ないプリは、相性に左右されるのだから。とにかく、評価的には柔らかい音のようだ。あまり柔らか過ぎては好みではないのだが、パワーの「spm600」がどちらかと言えばストレート系なので、相性は悪くないはずだ。フォノ端子は付いていない。まあ、名前からしてそうだろう。気になるのはこれも真空管を使っていること。ノイズが出るかどうかが心配だ。

 翌日は土曜日だったので早速現地へ向かう。現物はなかなか大きく、格好がいい。見た目だけで合格だが、繋ぎ替えて音を聴いた。まあ、そこにあったのはパワーがマッキンのタマで、スピーカーが滅多に見ないソナス・ファベールのアマティ・オマージュ。あまり参考にならない気もしたのだが…

 思ったよりメリハリのある音のようだ。プリの音なのか、実はアマティはこんな音なのかよく分からないが、悪くはない。ギターの音色が艶っぽくてなかなかよろしい。これまでオーディオ機器の「ジャケ買い」で失敗した試しの無い私は割と気軽に「これにしよう」と決めた。いつもはA型らしく、妙に慎重になるのに何故だったのだろう。今回の場合は音に不満があってのことではないからかもしれない。また、迷い過ぎることの反省もあったのかもしれない。

 さてこのプリアンプ、おしゃれな丸形のリモコンも付属しているのがありがたい。意気揚々と引き揚げてセッティングに掛かる。「line1」と「live5」、名前を並べると良いコンビではないか。ボンネットから中をのぞくと、真空管の他にもコンデンサなど有名ブランドの部品がずらりと配置されており、期待を抱かせる。不安は真空管ということから生じるノイズがどうか。

 カルダスのバランスケーブルでパワーと接続し、CDとレコードプレーヤーをプリに繋ぐ。レコードの方は「live5」経由である。さあ、電源をオン!だが、ここでややこしい。電源スイッチが後ろにあるのだ。棚のすき間から腕を伸ばして手探りで電源を入れ、しばしの時間の後インジケータが点灯したら前面のスタンバイボタンを押す。また少し時間が経って初めて動作OKと…うーむ、儀式が長いな。

 そしてパワーの電源も入れる。パワーの青いインジケータが「カチッ」という音ともに光ると、音楽再生可能な状態となるわけで、ここで静まり返った状態が好ましいのだ。「live5」の時はどうしてもノイズが、ノイズが発生してしまっていた。今度こそ…

 「シャーーーーーーーーーッ」

 しまった。やっちまった。思わず天を仰ぐ。



171. 電線病再び(06.3.21)

 もう二度と罹らない、と固く心に決めていた…わけでもないのだが。

 しばらくケーブルを交換していなかった。アンプ類の電源ケーブルを決めてからは全体的にしっくり行っていたこともあるし、これ以上は立ち入ってはならぬ禁断のケーブル無限地獄に嵌まってしまうのでは…という強い危惧があったのだ。

 それから約一年。むずむず、むずむずむず…おや、何の音だろう。どうやら病原菌が再び活性化してきたようだ。やれやれ…と言いながらニヤけてしまうのはいかがなものだろうか。

 原因はトーンアームケーブル。アームに付属していたもので「ほぼ」満足ではあったのだが、やはり純正では満たされないものを感じてしまうのは我ながら悲しい性としか言いようがない。何せ最も微弱な信号を扱うケーブルなのだ。ここに力を入れずしてどこに入れるというのだ。

 とは言え、何せアナログ人口はマニアックなオーディオ人口の中でもさらに少ないわけで、その中からさらにケーブルにこだわる人となるとそれはもう大変少ないことは容易に想像される。つまり、儲からないから割高になるのだ。これはもう、覚悟の上である。悲壮な覚悟である。でも顔がにやけてしまうのだ。やはり病気なのか。

 そんな中で出物が登場してくれるのは大変ありがたい。世の中タイミングなのだ。その名はカルダス、名門である。「ニュートラル・リファレンス」という商品で、価格帯としては「クワッドリンク」「クロス」「ニュートラルリファレンス」「ゴールデンクロス」「ゴールデンリファレンス」という順番になるが、ゴールデンが付くといきなり高価になるので、ミッドプライスゾーンの一番上、ということになるだろうか。という訳で少しばかりハイエンドなケーブルである。しかし繰り返すがトーンアームケーブルは選択の幅が少ない。これの下は今使っているものとさほど変わらないし、上はいきなり10万円コースだろう。

 そんなことを言いつつ、A型の私はとりあえず自分に言い訳をするかの如くいつものように1時間ほど迷った末にケーブルを手にしていた。迷う、というのはもはや単なる儀式にすぎない。しかし、世の中がそうであるように儀式は大切なのだ。

 心配していたのは昇圧トランス「T-20」の狭くなっている端子に差さるのか、ということだったがこれは実際にやってみてホッとした。ほぼいっぱいいっぱいではあったものの、接続することができたのだ。ロジウムメッキが施されたRCA端子部に比べると、アーム側に接続するDIN端子はプラスチック製で若干安っぽく感じる。これはこれで考えがあってのことかもしれない。おまじないのように「フォック」の小片を貼付けておいた。

 音を出してみる。わかりやすく「ノラ・ジョーンズ」をかけてみるが、ヴォーカルが色濃く出て、ギターの鳴りも艶っぽいという中域重視のサウンドだな、という印象であった。このままだと価格ほどのインパクトはないのかな…とも思ったが、付属のマニュアルにはエージング(バーンインと格好付けて言おうか)にかなりの時間をかける必要がある云々…と英語で書かれていた。まあ気長に待つとしよう。

 という訳で一週間が過ぎ家族の出払った中、ちょっとヴォリュームを上げて聴いていると「来た」。

 なんという低域のどっしりした音なのだ。しっかりと腰を落とした関取を思わせる、その安定感よ。低域はまさに基礎なのだ、ということを再認識させてくれた。レコードにはここまでの低い音が入っていたのだ。低域に関してはCDが有利ではあるが、レコードも負けていない。むしろ誇張感の無さが好ましいではないか。

 また、カルダスらしく前後感や立体感も大きな向上を見た。これでセッティングを詰めればアナログであってもかなりのレベルで空間表現が可能ではなかろうか。いやさすがである。

 このようにケーブルの力は絶大だ。またほかに色々な所を変えてみたくなってしまう。いかんなあ、この病気は。


 170. トッピングの妙味(06.2.23)

 アナログの面白いところ、それは「ちょっとしたもの」が音に大変影響を与える事だ。先日試した「フォック」のターンテーブルシートもその一例、しかしシート本体よりもむしろ驚かされたのはシェルにほんの僅か貼り付けたことで一変したことだ。とにかく、ターンテーブルシートと来たら次はスタビライザー、というのが定石だろう。

 以前使っていたレコードプレーヤー「perspective」はクランプ式のスタビライザーが付属していた。そのため、以前持っていたテクニカのもの(型番は忘れてしまったが、まあ昔からある定番のやつだ)はとっくに売ってしまっていた。それをまた買い直すというのも何だか芸が無い。それに形はともかく、灰色をしたゴムの色にオレンジ色という配色は昔のプレーヤーなら合うかもしれないが、「スペースデッキ」には似合わないだろう。とは言え、この時代そんなにスタビライザーの種類が出ているわけではなかった。

 と、言うより全体的に高価なのだ。仕方のない事かもしれないが、昔は高級品だったトーレンスの「スタビライザー」が今では真ん中くらいの価格帯になるのではないか。カーボンや水晶を使ったりなどと差別化を図ってはいるものの、3万やら5万いやいや10万以上などと正気の沙汰とは思えないものも登場している。もう少し他にやる事はあるだろうに。

 話は逸れたが、選択肢は限られていた。テクニカの最新モデル、これは実売9千円程でデザインもまずまず。少々重過ぎるのが気掛かりだ。他には最近アナログ関連で様々な商品をリリースしているベルドリーム、こちらは少々値は張るものの真鍮の質感と姿形がなかなかよろしい。重過ぎず軽過ぎずなところもポイントが高い。もう少し安ければ…

 と言う感じで決め手がなかなか無かったのだが、もう一つ遂に登場したのだった。

 やはり出たか、の「フォック」である。今回はセラミック系の素材と「フォック」を幾層にも重ね合わせて作ったとの事だが、驚いたのはその軽さ。僅か70g程度しかないのだ。スタビライザーとしては今まで考えられなかったことだ。ある程度の重量でもってレコードを安定させるというイメージのあったものであるのに、こんなに軽くて意味があるのだろうか。

 しかしこれまで数々のサウンドアップを果たしてきた「フォック」である。勝算も無しにこういったものを作っては来まい。価格も手頃、これに託してみようではないか。決まった。

 実際にケースから赤色に塗られたスタビライザーを取り出してみるとその薄さにも驚く。本当にこんな赤いせんべいみたいなもので大丈夫なのか、と不安が襲いかかる。祈るような気持ちでスピンドルに通し、レコードに載せる。ちなみにカートリッジは「スペースアーム」に搭載したテクニカAT-33PTG。ロングアームにはまだSPU-MONOが挿されたままだったのだ。レコードは先日手に入れたジェニファー・ウォーンズである。

 こ、これは…素晴らしいではないか。優しい歌声がよりセンターにぐぐっと凝縮され、ピアノはまさに「弾む」感じでバラードでもノリの良さが出てくる。それぞれの楽器が明瞭度を増した感じなのだが押しつけがましさは皆無でむしろ自然なのだ。ガラリと音楽を変えてピンク・フロイド行ってみよう。「狂気」の中から「マネー」を聴く。

 冒頭のレジスターの音からして生々しい。例の「がちゃーん」と言う音で今更あらためてびっくりしてしまうことにさらにびっくり。こんな軽い重石でここまで変わってしまうとは…

 MONOの付いたロングアームの方でも聴いてみよう。クリス・コナーやアニタ・オデイがさらにこちらに寄ってきて歌ってくれる。真ん中にビシッと定位が決まるのだ。モノラルらしい前後感もさらに出て来たようだ。

 さらにカートリッジを替えて、コントラプンクトに。何故だか分からないが、この針は変化の度合いからすればこれまでよりも少ないだろうか。しかし、「音楽を楽しくする」ことにかけては間違いない。「ハジケる」という表現が最も相応しいのではないか。一つ一つの音の粒立ちが良くなって小気味の良い鳴り方をするのだ。「音楽」を分かっているアイテムなのだ、と確信に至る。

 それにしても、こんなに軽くて小さいのにこの絶大な効果。レコードに「重石を載せる」と言うよりちょっぴりトッピングをしたという程度の感覚なのだ。これほど見た目と実際の効果がかけ離れているものも無かろう。ただ、この「赤」という朱色に近いカラーのセンスはどうなんだろう?何らかの効果が塗料にも含まれているのか?考え過ぎか。


 169. モノ好きなあなたに(06.2.5)

 ビートルズのシングル盤を手に入れてしまった。

 「シー・ラヴズ・ユー」と「アイ・フィール・ファイン」なのだが、バリバリの英国オリジナル盤である。値段は当然シングル盤としては高価だ。しかし、しかしである。何といってもビートルズなのだ。そもそもこういう素晴らしい曲が巷で安く売られていることが間違いなのだ。そうなのだ。…と自分に言い聞かせて買った。

 当然モノ針で聴くと、音のカタマリがこちらに押し寄せてくるようだ。「塊」と言う字は「魂」に似ている。そんなことに気付いて我が意を得たり、とばかりに一人納得していたりしたのだ。

 そう言えばいつの間には巷では、と言うかアナログ界ではモノラル針がブームのようになっていた。雑誌でもモノ針の試聴が特集されているご時世。もはやモノラルだからといって音が悪い、と言う人は少なくなっているに違いない。それにしても、ライラの「ヘリコン」やベンツ・マイクロの「ACE」のモノラルタイプが出ているというのは有る意味面白い。どちらも所謂「モノラルらしい」濃さとは無縁だからだ。

 とりあえず、現在持っているモノ針が「DL-102」とテクニカの「AT-MONO」なのでどちらかと言うと入門編だろうか。102などは絶対今のカートリッジからは味わえない貴重な音を持っているが、もう少し「上の」ものも聴いてみたい。

 そんな風に思っていたところ、たまたま、まさにたまたまハイファイ堂の2階でだらだらしていた時だ。ちょうどレコードやらカートリッジやら持ち込まれて来たのだ。レコードはクラシックばかりだったから「ふーん」と傍観していたのだが、カートリッジの一つに目を引かれた。

 それはオルトフォン「SPU-MONO」。オルトフォンのモノラルは「CG25D」が有名で、現行でも末尾に「i」が付いたヴァージョンが発売されている。考えてみるとSPUのSはステレオのSだから、それでモノラルとは若干の矛盾を孕んでいるのだがまあそんな事はどうでもよろしい。とにかく音だ。チェックついでに音を聴いてみよう。

 いいじゃない、いいじゃない。この「濃い」音はまさに独壇場。前の持ち主は結局10時間も使っておらず、例の「CG25Di」に買い替えたとの事だ。なるほど、確かにその方が良いに違いない。しかし幾らチェック用の簡素なシステムとは言え、この音を聴いてしまっては関係ない。25Dは後の楽しみにとっておけば良いだけだ。

 ホクホクしながら帰り、まだ新しいSPU-MONOをロングアームに取り付ける。やはりロングアームにSPUだな、と一人悦に入りながらゼロバランスをとり、針圧を3.5g以上かける。早速例のビートルズのシングルを回す。

 来たーっ、これだこれだ。102の荒々しさも魅力だったが、さすがの厚さと濃さがまさにオルトフォン。スカスカ気味だったリンゴのドラムが「どしん」と来る。ポールのベースが「ずんずん」来る。二人のヴォーカルが飛び出し、目の前で歌ってくれている。感動だ。

 ジャズも行ってみよう。最近買ったアニタ・オデイの新しい重量盤だ。いやはや力強い。アニタ姐さんがすぐそこで歌い、レイ・ブラウンが後ろでしっかりとリズムをキープしている。時折聴かせるベースソロも迫力十分、あと何を言うことがあろうか。

 もうそれからはありとあらゆるモノラル盤を聴きまくるのみ。ナローレンジがやんちゃで気持ち良かった102に対して、こちらはステレオ版同様大人の表現と言おうか。決してレンジが広いわけではないが、102に比べればやはり帯域に余裕がある。何よりもやはり特有の「濃さ」にしびれてしまう。何度でも言おう、モノラル盤を持っていたら絶対針もモノラルで聴きましょう。



 168. 冬の稲妻(06.1.17)

 そんなわけで、元旦早々の買い物はどうだったのか。

 箱を開けると細長い筐体に包まれたトゥイーターと、軽い木材で作られた台座が現れた。取説を見ると、なかなか興味深かった。考えてみると今までホーントゥイーターの新品など買った事が無かったのだ。

 特長がまず1ページ目に記されている。「世界初、リング型純マグネシウム振動板」「超強力アルニコ磁気回路」「感度88dB/100kHz再生を実現」などなど。まあこれは謳い文句なのだが、100kY再生は別途特性のネットワークボックスを購入しなければならない。ステレオ誌「音の館」のコーナーで実験していたが。市販のスピーカーに組み合わせるならば、このネットワークも使った方が効果があるだろう。そのままではホーントゥイーターは刺激が強そうだ。

 さて実際の使い方は普通にコンデンサを一発繋いで−6dB/oct.のローカット、ということになろう。今まで「何となく」こういうものは0.47〜0.68μFで落としていたが、この取説では0.33から1.0μFの使い方を具体的に記している。どうやらこのFE168ESを使ったスピーカーには0.47μFが当てはまるようだ。それならば元々持っているので都合がよろしい。

 今まで使用していたT705を降ろし、新たに真新しい「T90A-EX」を載せる。うむ、スマートになったがやはり新しいというのはいいもんだ。コンデンサは0.47に0.22μFを足して合計0.69μFにしていたが、これで0.22の方は必要がなくなった。そちらは取り外して0.47μFだけにする。今までも大抵逆相接続にしていたので今回もまずはそのようにする。まあ、こういうトゥイーターはただ載せるだけなのでセッティングは楽である。

 待ちに待った音出し。いつもこの瞬間が一番ワクワクするものだ。先程聴いていたカサンドラ・ウィルソンをもう一度かけるのだ。さあ、どこまで変わっているか、それとも大して変わらないのか。

 出た。変わった。やるじゃないか。いや凄いぞこれは。

 と言うのが率直な感想。情報量が多くてアコースティックな音が多いカサンドラのアルバムであるから、違いはいっそうはっきりと出てくるものだ。「カン!」と鳴る打楽器の音は「くっ」と起ち上がってすぐに消えて行く。しかし消えても余韻はしばらく残る。いや、「残る」という表現は正しくは無いだろう。残ってはいないがその空気はしばらくそこに漂っているのだ。それはまさに「実在感」というものだろう。驚かされたのがサックスの音。以前は若干茫洋としたその鳴り方が、一本背筋にしっかりしたものが通り、はっきりとしかも力強く鳴るのだ。倍音成分がしっかり出たからだろうか。さらにカサンドラの声。一聴男性のような彼女の声は、明らかに女性らしくなった。その息遣い、発声、唇の動き、やはり男性のものではない。女性ならではの、誤解を招く言い回しかもしれないが「色気」が辺りに振りまかれたのだ。

 まさに繊細にして鮮烈。浸透力抜群。良い意味で刺激的。ちょっと刺激が強過ぎたかな、と1.5cmくらい後ろに下げるとさらにバランスが良くなった。当然ベースのピチカートや、ドラムのブラッシュ音などはもう動きが目に見えるよう。決して高域だけでなく、全域に渡ってレベルが向上したのでスピーカーを一つ二つ上の機種に買い替えたようなものである。さすがでございました。恐れ入りました。手に入れたのは正解でした。降参です。


 167. 正月早々(06.1.2)

 今更言うまでも無い事だが、趣味というやつはがかかる。

 問題はその趣味のどの辺りにかけるか、ということも大きい。「この部分なら(自分にとって)大金をはたいても、あの部分にかけるのはいかがなものか」といった心情である。

 例えばケーブル。以前は頻繁に交換していたが、最近になってあまり手を出さなくなった。やはり「これ以上掛けるべきではないし、そんなに高いものを使っても効果はもはや僅かだろう」というブレーキがかかっている為だろう。

 また、「これから有る程度ならばもう少し金を出してグレードアップしたい」部分は当然ある。それを無くすとオーディオという趣味は終わってしまう要素も持っているのだ。アンプなどのハードはもはや大金になってしまうが、ちょっとした小遣いで交換できるもの。例えばカートリッジ、例えばスーパートゥイーター。

 今回は後者の話である。現在メインのバックロードで使っているトゥイーターはフォステクスの「T705」というかなり以前のタイプだ。こいつは図体のでかい割に音が大人しい。長岡先生の著書を見ると「実際より能率が低い」そうだ。確かにそんな感じだ。外して聴いても変化はごくごく僅か、これなら付けていてもあまり意味がないではないか。

 とは言え良い中古はなかなか出てこない。たまに出て来ても意外に高価だし、すぐに買い手が付いてしまう。新品は種類が限られている。バックロードと相性の良いホーントゥイーターは結局フォスくらいしかないのだ。

 そんな中登場したのが限定発売された「T90A-EX」だ。最新の素材をふんだんに使った、なかなか良い音のしそうなトゥイーターでかなりそそられるものがあったのだが、如何せん価格が2本で税込み\71400である。これはつらい、つら過ぎる。そんなわけで、限定販売開始日が来てフォステクスオンラインショッピングのサイトを毎日見つめて「う〜〜〜〜ん」と迷いに迷う日々が続いた。

 限定300本、ということなので実質的には150人分か。2、3日経ってもまだサイトに掲載されているので「まだ考える時間があるかな」と思ったのが運の尽き。ある日結局「品切れ」という表示がされていて強制的に諦めさせられたのであった。

 ま、無いものは仕方がない。第一高価だし、また中古で何か出るのを気長に待つとしよう。とふっ切れていた…のも実際にはつかの間のことであった。

 元旦のある日…ってこれは矛盾しているな。そう全くの元旦。いつものように大須へ出掛け、観音様に立ち寄り手を合わせ、オーディオ関係の店を色々覗いて、さあ最後にここをぷらりと冷やかして帰るかと立ち寄ったのも何かの縁だったのだろうか。寄らずに帰宅する事もあるからだ。

 そこに「限定2セット」と大書して鎮座しているではないか、あの「T90A-EX」が。これは参った。出会ってしまったではないか。うーん、どうしよう。実物を見るとやはり姿形も麗しい。写真で見た時は違和感があった奥行きの長さも「こうでなくては」と思わせる説得力を感じさせ、逆に隣にあった従来モデルのT90Aが妙に「ちゃっちい」印象を与えていた。いや、それにしてもどうしよう。

 まあ、いつも通りのことだ。迷った時点で既に負けているのである。迷うという行為は単なる自分に対する言い訳やら正当化やらでしかない。そういうことである。

 と言うわけで、めでたく「T90A-EX」は我が手に収まった。元旦早々いきなり買い物をしてしまった。2006年、これが波乱の幕開けになるのか後は平穏無事な一年になるのか、それは誰も知らない。


 166. 白い靴(05.11.20)

 さすがに涼しくなってきた。もそれ程かかなくなってきた。多少重いものを持ち上げても大丈夫だろう。よし。時は来た。

 そんなわけでメインであるバックロードの足下を見直す時が来た。前からやりたかったことであった。スプルースのまな板にMDFを重ねた状態は、どうも低域が柔らかくなってしまって床への影響も大きかったのだ。これを何とかしたい。以前流行った御影石も考えたが、あまりに重い(床が抜けそうになるのでは)のと、癖が乗りやすいという情報だったので踏み切れなかった。何か他に手頃なものは無いだろうか…と思っていた所になかなか良さそうなものを発見した。

 それはコーリアン。デュポン社の登録商標だったと思うが、要するに人造大理石である。価格も手頃なので試しやすい。ボードでもそんなに迷わずに試すことが出来るものだ。しかし、これを見つけたのが出張先の東京。ボードを担いで帰るのは嫌である、と言うか無理である。そこでインシュレーターにも使えそうな正方形の小片を使うことにした。

 買った時はまだ残暑だったので、しばらく置いたままだったのだが前述の通り時は来た。MDFを抜いて、インシュレーターとまな板の間にこのコーリアンを敷くのである。とは言え、これは結構大変な作業ではあった。MDFを抜く、と簡単に言っても正月恒例かくし芸大会で見られるようなことができる訳がない。当初の目論見はスピーカーを傾けておいてその隙に抜こうとしたのだが、その程度では残念ながら動かすこともままならなかった。傾けるスペースも十分に無いことも敗因なのだが。

 やはりものぐさではダメということか。諦めてスピーカーを一旦移動させることにした。しかし、これがやはり重かった。いや、前はこんなに重かったかな。痛めていたヒザが軋み出した。まずい。つまりは何のことは無い、自分の腕力筋力体力気力が落ちているのだろう。そんな事実を眼前に突きつけられてしばしの間呆然と天を仰いでいたが、いつまでも落ち込んではいられない。

 それでも何とかスピーカーをよっこらしょとずらして板を抜き取り、まな板の上にコーリアンを前2つ、後ろ1つの3点支持をする形で載せる。コーリアンには予め滑り止めということで「フォック」の0.5mm厚シートを貼り付けているのだが、これは当然「プラスアルファ」の効果も期待してのことだ。

 さらにコーリアンの上にそれまで使っていたインシュレーター「テクニカコイン+タングステンシート」を置き、またスピーカーを持ち上げて元通りにする。はあはあぜいぜい。疲れた。くらくらする。やっぱり大型スピーカーは大変だ。やっぱりかいてしまった。

 体力低下と運動不足を痛感しながら試聴に入る。まずはやっぱり定番の「ルパン」から。

 やはり、と言うべきか冒頭のベース音が違う。量感と言う観点からは若干減少したかもしれないが、キリリと引き締まってしかも力強さはぐんと増し、弦をはじく指が見えるようである。弾いた後の余韻もきっちり表現するのでスタジオの空気みたいなものも伝わってくるのだ。床鳴りも明らかに少なくなっている。余計な振動やブレが無くなったことでスプルースの良さである心地よい響きも出て来たようだ。それと共に音像の定位音場の見通しもさらに明確化してきた。ノラ・ジョーンズを聴けばその事が良く分かる。幾重にも重なる楽器の位置が目の前に現れてくるのだ。音場についてはまだまだ先があるはずだが、あとは部屋の問題だけではないかと思う。

 さて、このコーリアンを挟んだことでスピーカーの下は、

 「タングステンシート→テクニカコイン→タングステンシート→コーリアン→フォック(0.5mm)→スプルースのまな板」

 という複雑な異素材を組み合わせた構造になっている。無闇にこういった様々な素材を混ぜ合わせてしまうと、良くない結果を招くことも多い。しかし、これは問題の解決に努めてトライ&エラーを繰り返しながらたどり着いた一つの結果である。何だか川の水を濾過する装置のようで、これはこれでいいんじゃないの、と独り満悦している今日この頃であった。



 165. ファイト一発(05.11.3)

 秋である。やっと長袖が着られると思ったのもつかの間、上着も必要になってきそうなこの頃の勢いである。年々春と秋、という丁度いい季節が短くなってきている。困ったものだ。

 そんなわけでオーディオも衣替えを考えてみよう。…いささか強引な導入だが、別にアンプに服を着せるわけではない。そんなことをしたら火事の原因になりかねないし、音が良くなるわけでもない。

 着目したのはターンテーブルシート。考えてみると東京防音の「THT-291」を先々代のプレーヤーから使い続けているのだ。先々代…デンオンの「DP-70M」ではないか。もうずいぶん遠い昔のような気がする。そろそろ違うシートも使ってみたい所だ。

 とは言え、東京防音のもの以外となると適当なものがなかったということもある。他はいきなり高価なのだ。「試してみる」レベルにはないものばかりになってしまう。確かにターンテーブルシートは重要かもしれないが、あまりにも高価ではあるものの効果の程はどうなんだろう?というものばかりが目に付く。やはりアナログはマニアックな領域なのだな、とため息をついているばかりだったのだ。

 そこで登場したのが近頃やたら元気の良い、「フォック」を使ったものだ。「フォック」といえば、「赤い彗星」のチューニングに使って良い成果を挙げているので信頼性は高い。結局「赤い彗星」は背面もフォックを貼ったり塗ったりでかなり磨かれてきているのだ。さらに最近は車にも使用、トゥイーターを装着しているドアミラー裏部分の制振に使ってこれまたサウンドアップを実感している。

 さてこの「フォック」製ターンテーブルシート、マニアックな仕様になっている。1mm2mmの厚さのシートが一枚ずつ入っているのだ。これをどちらか使うなり、両方重ねて使うなり、お好みに応じてご自由にお使いください、というわけだ。こいつは面白い。早速色々試してみることにしよう。

 まずは現在使っている「THT-291」の上に1mmの方を重ねて実験。この薄い方は穴が穿たれており、接触面を減らそうという意志が感じられる。ここから出る音は確かに変化が感じられた。若干ではあるがレンジが拡がり、特に高域方向への伸びが心地よかった。

 次は「THT-291」を外して2mmの方を載せる。この方がやはり変化の度合いを実感できた。低い方の鳴り方がかっちり引き締まって骨太な表情が男前な感じだ。さらにこの上に先程使った1mmを載せる。すると前述の要素がいっそう引き立って、鮮度の高い、引き締まった音調が際立った。やはりこの使い方がベストだろう。

 とは言え、全体からすると変化はそれ程大きいものではないと感じていた。うーむ、この程度の違いかな…と。それでも色々と聴いて行ったところ、しばらくしてから「来た」。

 ターンテーブルシートにもエージングが必要だったのか。と言うより軽い素材であるので、ターンテーブルとの接触が最初は甘かったのだろう。時間の経過とレコードの重さなどでしっかりと密着したのではないか。とにかく素晴らしいシートだ。

 その音は鮮烈にして筋肉質。レンジはぐっと拡がって、特に「コントラプンクト」では物足りなさを感じていた高域もぐっと伸びていたのだ。音色のキャラクターはとにかく明るい。明るいと言うことは楽しい。音楽をまさに楽しく聴かせてくれるのだ。柔らかさだとか曖昧さと言う要素とは逆になるので、こういう部分に良さを感じる人には向いていないかもしれない。どちらかと言うと直接音主体になるのだ。しかし明らかに音質向上が見られるので、手頃な価格のシートを探している方には安心して勧められるものだ。

 また、付属の0.5mm厚のテープ。これを「コントラプンクト」のシェルにごく僅かに貼り付けたら先程の特長がさらに強まって、まさに盤石となった。カートリッジ付近に貼り付けるのは効き過ぎる場合があるので、多く貼り付けるのは注意が必要だろう。説明書きにも「貼り過ぎると響きを殺し過ぎる可能性が」云々とある。毒にも薬にもなるのだ。だから面白いとも言えよう。



 164. ようやく完成(05.10.10)

 前回からの続きである。「AT33PTG」を装着したスペースアームでさあ試聴、しかしそこから出て来た音は妙にギスギスした、バランスも崩した音だったのだ。ノラの声は虚しく他人事のように聞え、バックの演奏はがしゃがしゃだ。鳴らし始めだからだろうか。

 しばらく様子を見て(聴いて)いたものの、改善される気配はない。やはりまだ調整不足だったのか。もう一度オーバーハングゲージを当ててみる。おや。案の定だったようだ。このゲージには2つスピンドルに差し込む為の穴が打たれているのだが、2つ目は「どうしても合わない場合はこちらで調整してみてください」というものだった。先程はうっかりこちらで調整していたのだ。さすがはスペースデッキ。妥協した調整では言うことを聞いてくれないわけだ。

 あらためて正確に調整する方でトライ。するとどうだろう、全く合わせることが出来ない。参ったなあ…どうやらアーム毎少しだけずらす必要がありそうだ。ターンテーブルを外さねばならないので結構骨が折れるのだ。どちらの方向へずらすべきか…角度から考えると後ろ側へずらせば良さそうだ。

 よいしょ、とターンテーブルを外し、オイルの付着した部分が床に着かないよう注意しながら下ろす。ターンテーブルベースにあるアーム装着ネジを緩め、ほんの少しだけアームを外側へまっすぐ移動させる。そしてビスを締め、再びターンテーブルを載せる。そしてまたオーバーハングゲージをスピンドルにはめ込む。これでまた合わなかったら全てやり直し。緊張もするってもんだ。

 しかし幸いなことに今度こそはピッタリ合わせることが出来た。ふう。もう大丈夫だろう。再度挑戦、ノラ・ジョーンズ。

 やった…今度は「普通に」音が出たのだ。それにしてもあらためてスペースアームの繊細さには驚かされる。しばらく聴いた後、一旦ロングアームの「コントラプンクト」で演奏してまた再び「AT33PTG」に戻る。

 なるほど。アームやトランスの違いはあるだろうが、それぞれのキャラクターの違いが分かって面白い。33PTGはコントラプンクトに比べると明らかにシンバルなどの高域をはっきり出す。そして低域はガッチリ締まって固めだ。これに比べるとコントラプンクトは中低域の量感がかなり増しているように感じるのだ。ヴォーカルは滲みやボケのないフォーカスの合った音像となる。ただ、もう少し前に出て欲しい所だ。演奏のタイトさは良いのだが、ノラのヴォーカルがちょっぴりよそよそしいのが残念と言えば残念。

 もう少し色々聴いてみる。これは合うだろう、と取り出したのがドナルド・フェイゲン「ナイトフライ」。やはりバッチリで、1曲目冒頭の「シャララララ〜〜〜〜ン」と来る所が何度でもリピートして聴きたくなった。CDではないのでそうも行かないが。まさにこのアルバムから連想される「アダルトな夜の大人の洗練された音楽」というイメージが繰り広げられる。先日SPUで聴くことの出来た黒っぽさは全く感じられなくなった。カートリッジ1個でこうも変わるのか。

 ただ、もう少し「どしん」と来て欲しい所が大人しくなってしまう。そこが返す返すも残念…量感と締まりは両立しないのか…との思いを深くしてしまう。

 高域の切れ込みでシャープな音を求める時に力を発揮するのだ。「叩く、こする」ような音は得意だろう。また、2つのスピーカーで聴いたがバックロードホーンで優秀録音盤を聴くとこれがいいのだ。揺るぎのないビシッとした、オーディオ的快感を味わうことができる。さすがは長岡先生絶賛のカートリッジである。

 反面「面白みに欠ける」という最大の弱点はついて回る。「面白みや味付けなどもっての外、ただ忠実に再現すれば良い」という方には諸手を挙げての大推薦、ということになろう。ただ、実際「忠実に再現」しているのかどうかは誰も分からないだろう、というのが今の自分のスタンス。つまり積極的に味付けを楽しみたいのだ。そうやって自分の音を作って行きたい。

 話が少し逸れた。その辺りが少々残念な33PTGではあるが、価格を考えるとやはり依然コストパフォーマンスは高い。しばらく使っていこうと思う。「コントラプンクト」と好対照なのもそれはそれで面白いものだ。ただ、やっぱり低域が「どしん」と出て、高域にもう少し色気があればなあ…

 しかしこれで2本のアームを存分に使う環境は整った。即カートリッジを切り替えられることは、かなり面白いものなのだ。



 163. 両腕が使えるまで(05.9.25)

 我が「スペースデッキ」、ダブルアームにしてなかなか恰好良いではないの、と独り悦に入っていたのだが。

 結局ユニバーサルアームばかり使って元のスペースアームの方は全くと言っていいほど活躍の場が与えられていなかったのだ。何だ格好だけか、と謗られそうだが言い訳もさせてもらいたい。

 以前も少し触れたことだが「AT-1000MC」がおかしいのだ。再調整して演奏させようとすると腹をこすらんばかりの低空飛行になってしまうのだ。レコードが少しでも反っていたらもうダメである。どうしたことだろう。アーム移設の時にどこか引っ掛けたか?とも考えたが心当たりは全く無いし、そうしたら華奢なカンチレバーのこと、折れているに違いない。

 意を決してスペースアームから取り外すことに。カートリッジ交換にはこれがベスト、と言われるタミヤ模型のピンセットはやはり重宝し、比較的楽に外すことができた。取り外したカートリッジを元の専用シェルに取り付ける。そして今度はこれをユニバーサルアームに付けよう。針圧を合わせて、さあどうだ。

 結果は…やはり同じことであった。うーむ、ダンパーが暑さでへたったのか…それなら冬になれば復活するのだろうか。とりあえず様子を見ることにして、スペースアームの方の針をどうするかを考えよう。

 「コントラプンクト」をそちらに移動させると言う手が最も簡単だが、そうするとユニバーサルの方はSPUかモノラル専用と言うことになる。まあ、それもいいのだがちょっと使い方が固定され過ぎてつまらない気もするのだ。どちらかと言うとスペースアームの方はリファレンス的で味付けの少ないタイプを付けておきたい。コントラもオルトフォンであり、やはり味付け系なのだ。

 確かにライラとか、ベンツ・マイクロだとかそう言った現代的カートリッジは欲しい。しかし、さすがにもう少し後にとって置きたいし、今ポンと金は出てこない。やはり実売3万くらいが今の所の限度か。するとあまり選択肢は無い。最近話題の「SUMIKO」というのも面白いが、MMに繋げられる高出力と言うのが逆に今の環境では不便だ。スペースアームはプリ内蔵トランスに繋げることになるからだ。MMポジションはオルトフォンのトランスが繋がっている。

 そうすると結局残るはテクニカの「AT33PTG」くらいしかない。ただ、これはどうも細身でキンキンするというイメージがあって、身近でありながら手を出していなかったのだ。とは言え長岡先生のお墨付きモデル、そう悪いものではあるまい。インピーダンスも中くらいなので丁度使いやすい。

 もう一つこれに決めた理由がある。ビックカメラに売っているのだ。たまったポイントが使えるし、またポイントが貯まる。そんなセコくてみみっちい考えの元、名古屋駅方面へ向かった。

 ビックカメラには他にもオルトフォンの新しい「MC☆(スター)」シリーズも揃っており、下位機種である「MC☆10W」あたりにも心魅かれるものがあったのだが、そんなにオルトフォンばかりになっても芸が無い。別の性格のものが欲しいのだ。初志貫徹、「AT33PTG」を購入した。

 箱を開けると、説明書の他に周波数特性を記したデータと、ブラシ、真鍮のネジ、リード線が出て来た。リード線は「AT6101」として単売もされているものだろう。しかし今回は使わないのだ。ケースもなかなか格好がいい。

 いよいよ装着だが、何せ我儘なスペースアームだ。をかきながら慎重に位置合わせをするしかない。奥の位置ではやりづらいのでぐるりと90°時計回りに回してノーマルなポジションにしてからセッティングに入る。リードチップはきつくも緩くもない、丁度いい塩梅のタイトさで収まったので心底ホッとした。緩いと何かで締めなきゃいけないし、きつければ広げるか無理やりのように押し込むしかないのだ。ここでトラブルが起こる可能性は物凄く、あったのだ。

 アームの高さを何度もやり直しながら調整する。手で支えながらビスを緩めてアームを上下させるのだが、最初に比べればかなり上手く行くようになってきた。油断するとストーンと落ちてしまうのだ。微調整も何もあった物ではない。針圧を1.8gに合わせ、遂には最も面倒なオーバーハングだ。ゲージを使って何度も上から見たり横から見たり正面から見たりを繰り返してようやく位置が決まった。ネジを締め、もう一度針圧を合わせる。ふう。これで何とか調整終了かな。

 緊張の音出し。CDでも聞き慣れたノラ・ジョーンズのアナログ盤(クラシック・レコード重量盤)で行こうか。まろやかであってコクの効いた、それでいてパンチ力のあるバックの音の中からノラの抑えているようで強い意志を秘めたヴォーカルが…というべきところなのだが。あれ?こんなはずでは。


 162. 関節技地獄(05.9.10)

 自作スピーカーを格闘技に例えるなら、バックロード方式でのフルレンジは打撃技と言えるだろう。まあ、これは音のイメージから来るもので分かりやすいと思う。一発でどかーんと決める。それではマルチウェイは関節技になるのか?

 アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ。「PRIDE」のリングで一時絶大な人気を誇った格闘マジシャンだ。相手の攻撃をかいくぐった末の腕ひしぎ十字固めや三角絞めには思いっきり溜飲を下げさせてもらった。つまりこうだ。ネットワークを調整して調整して詰めて詰めた末の音。最後はビシッと三角絞めで決める(極める)。マルチウェイの醍醐味ではあるまいか。

 …何だか良く分からない例えだったが、とにかくネットワークを弄ってみよう、というわけだ。前回ドラム、特にスネアのアタックに不満、と書いたのだがその帯域が弱いのか逆に被ってしまってもやついているのか。現在ウーファーのハイカットに使っているコイルは0.18mH、よくよく見てみるとこれだと3.5kYクロスとなり、比較的中高域はスパッときれいに落ちているこのウーファーに対してはあまり意味のないものということになる。それでも何もないよりは遥かに良かったのだが。

 さてここをもう少し下で切ろう、ということで0.3mHのコイルを購入、交換することに。これで2kYクロスになる。ちなみにトゥイーターのローカットは3kYクロスなのだが、12dB/octで落としている。ウーファーは6dB/oct、わざとクロスポイントにすき間を空けて被りを少なくしようと言う考えだ。これでもっさりした部分を少なくして、カチッとしたスネアが聴けるのではないか…

 果たして効果は「少しは」あった。狙い通り、もっさりしたところは少なくなり見通しの良い音場が出現したのだ。ただ、これだけでスネアがバシッと行くかと言えばそう甘くはなかった。以前よりは出るようになったものの、まだまだである。これ以上下の帯域で切ると、今度はさすがにトゥイーターの定数も変える必要も出てくるだろう。かなり下まで行ける「FT48D」(「すーぱーらわん」に使用)と違い、「FT28D」ではあまり無理は出来ない。とりあえず、この辺りにしておこうか。

 どうしたものか、と思っていると以前買ってそのままになっていたアクセサリーがあった。

 その名は「fo-Q」。「フォック」と読む。所謂「制振」するタイプのものだが、むやみに振動を押さえ付けるようなタイプではないらしい。何種類か出ているのだが、選んだのは裏に接着剤の着いたシートタイプのものである。好きなだけ切って貼り付けるのだ。使い方は自由自在、せっかくだからこの「赤い彗星」で色々試してみよう。

 まずはユニット部分の制振と言うことで、小さく切ったそいつをトゥイーターやウーファーのフランジ部に貼り付けて行った。さてどうか…うーん、よくわからん。まあ若干引き締まったかなあ…という程度か。誤差の範囲と言う気もする。

 次は推奨されているネットワークへ貼り付けてみる。コンデンサ、コイル、端子で導通に影響しない部分に小さく刻んで挑戦だ。今度は確実な変化があった。緩いと感じられた部分が激変ではないにせよ、引き締まってきたのだ。音が全体的に躍動感が出て来た。比較すると使用前はゆったりまったりの方向だったように感じるのだ。音楽が目を覚まして息を吹き返した、そういう感覚である。

 さらに悪のり(?)、液体タイプの「fo-Q」も買ってきてしまった。これは筆で塗るタイプである。こいつをまたネットワークを結ぶケーブルの被膜に塗ってみた。他には端子(貼るタイプとは別の部分に)、コンデンサ(貼るタイプと同時使用)、抵抗、スピーカーケーブルの一部、と塗ってもあまりみっともなくならなさそうな所に試した。この塗料はベージュと言うか、アイボリーと言うかそんな色をしているので、塗ると結構目立ってしまう。元々アンプなどの部品に塗るものなのだ。ペンキと混ぜても効果が変わらないようなら工夫した使い方も出来そうだ。

 さてこの結果、ちょっとびっくりした。元気なのだ。音が元気、と言うのもおかしな表現なのだが実際そう思ったのだから仕方がない。よりリアリティを増して生々しくなったその音色、前に出て歌いまくるヴォーカル、弾けてノリの良いベース、散乱するギター…大げさかもしれないが、やったことに対する効果としては意外な程のパフォーマンスを示してくれた。不思議な塗料である。

 ただ、やっぱりドラム。これに関しては以前よりは「スパーン」と来るようになったが、まだまだ。道のりは遠そうだ。


 161. もっと強くなれ(05.8.25)

 ネットワーク板はその辺に転がっていた黒檀キューブで3点支持をし、ネットワーク自体は見えない形でターミナルだけが突き出るという、恰好良いんだか格好悪いんだかよくわからない姿をスピーカー本体の上に現すこととなった。これも最初から赤く塗っておけば良かったな。

 さて出て来た音は、ほぼ納得の行くものだった。中高域の情報量が増え、繊細感がぐっと出てくるようになったのだ。また、ケーブルを少ない距離ながら替えたことも良い方向へ行ったと思う。ギターの音色が艶やかさを帯び、シンバルの粒子が細かい。

 ただ、ちょっと柔らかい方向へ行き過ぎたような感もある。アッテネーターで悩んでいた時は意識の中で二の次になっていたことだが、特にさんざん聴いた後でメインのバックロードに切り替えて聴いた時に痛感する。これはまあ、双方の性格上致し方ない部分もあるし、このままそう言った特徴を活かして推し進めて行く手もあるだろう。

 また、最近カーオーディオの方も凝っているのだがそちらの音がかなり硬めで、これがまた大変気持ち良いのだ。ソニックデザイントレード・イン・ボックス」搭載の7.7cm口径ウーファーから繰り出される歯切れが良くテンポの良いパンチの効いた中低音を聴いていると、家でもこんな凶暴な音を聴きたい、と思ってしまうのも無理からぬことではなかろうか。実際それはこのVifaのウーファーからはおそらく望めないものかもしれないが、多少は硬くしたいものだ。

 前から少し気になっていたのはフロントバッフル。エンクロージャーの補強は特別にする必要はなかろう、と当初は思っていた。確かに側面や上下は音道を作る板で補強されていると言えよう。が、バッフルは何もしていない。柔らかい15mm厚MDFが一枚だけである。これを何とか出来ないか。

 ふと目に付いたのは「ダイナマット」。これはカーオーディオでドアの内部を制振するのに良く使われるものだ。車に使った残りが少しあった。ホームオーディオにも使えるのではないか。現にトレード・イン・ボックスのエンクロージャーに貼り付けたら低域がガッチリ出るようになったのだ。同じことではないか。

 そんなわけでウーファーを取り外し、バッフル裏にダイナマットを適当な大きさに切り刻んでペタペタと貼り付けていった。ウーファー周りと、トゥイーター周りの下半分までは手が届いたので何とか作業はできた。特にウーファーの振動をトゥイーターへ伝えまいと、両者の間は念入りに行った。さらに念には念を、と音道の入り口に手を伸ばしてその裏側にも小さく切ったダイナマットを何枚か貼り付けた。また、出口の方(つまりダクトですな)にも同様の作業を施した。ただ、どちらもすき間はかなり狭いものなので手が届く範囲でしか出来なかったことは残念だ。製作の途中で気がついて制振を施していれば…とは思うものの、まあその時には気がつかんわな。仕方ない。こうして完成後もいろいろ出来るのも自作の良いところである。市販品だったらこうは行かない。出来るにしても躊躇するだろう、改造なのだから。自作なら何の遠慮も要らないのだ。

 ウーファーを再び装着して見えない改造、いや改良はひとまず完了。改良か改悪かは音を聴いてみないことには何とも言えない。けれどもバッフル面を軽く叩くとさっきまでは軽い音がしていたのが、あまり響かなくなっている。これはいけるぞ…

 地に足が付いた。と、言うのが相応しいだろう。スタンドで浮かされているのにこう感じるのはやはりバッフル裏の制振が効いたということだ。制振は当然低域の伸びに寄与しているのだが、トゥイーターから出る中高音にも効いている。凛とした、と言うような一本筋が通ったものを感じるのだ。ウッドベースの音と言うのは低域は当然のことながら中高域もかなり影響している。ベースがすっくと起ち上がったような安定感を与えてくれるのは、トゥイーターに及ぼす振動を遮断したことが最も大きい要素ではないかと思わせてくれるのだ。

 ただ、不満がないわけではない。ベースは良いがドラムだ。スネアのアタックが今一つ力が弱いのだ。どうしてもモコッとしてしまう。これをどうするかが次の課題となった。果たしてユニットのせいにしてしまうのか、まだまだ制振が足りないのか、それとも…


 160. ザクとは違うのだよ(05.8.14)

 そりゃ確かに散らかしておくのが得意(?)ではある。レコードの山を跨がないと椅子にも座れやしないのだ。それでも気になってきたのが「赤い彗星」の上に雑然と載せられたコンデンサやコイル、仮留めに使っている小型クランプやバナナプラグ。これではやはりいかんだろう。いつかはやらねば、と思いつつずるずると引っ張ってしまった。よし。

 そんなわけで今回はネットワークを完成させるのだ。まずアッテネーターをどうするか迷っていたのだが、結局取り外して固定抵抗で行くことにした。トゥイーターの音がどうもくぐもった感じがするのはアッテネーターが原因ではないかと思っていたのだ。値をどうするか。とりあえずパーツ屋で買ってきたのが1Ωと2Ωの抵抗。せっかく買ったアッテネーターだがまた使うこともあるだろう。取り外して代わりに2Ωのセメント抵抗を付けてみる。

 予想通り鮮度感がぐんとアップした。よほどの腕がない限り、ネットワークは出来るだけシンプルにするべきなのだろう。ぱっと目が覚めたようだ。しかし、予想が外れてしまったこともある。2Ωでは少々ハイ上がりなのだ。これでも決して悪くは無いのだが、もう少し下げたい。少しで良いのだが。この辺のさじ加減は難しいところだがやり甲斐のあるところでもある。

 もう一度抵抗を買いに出掛けるのも抵抗があるな。どうしようか…と思案していたところ「思い出した」。「すーぱーらわん」に使っていた補正回路だ。あれはトリテックのものでクオリティが高い。果たして値は幾つだったか…引っ張り出してみるとだった。これは使える。

 セメント抵抗に替えて付けてみると、ちょっとばかり驚いた。音自体のクオリティがかなり上がったのだ。高域の繊細さがアップしてまさに「トゥイーター」の音らしくなったと言えばいいだろうか。こりゃセメント抵抗には戻せないな。たかが抵抗と侮ってはいかん、ということだ。

 とは言え、実際には4Ωでは少々大人し過ぎかもしれない。うーん、そうすると3Ωか。しかしもうセメント抵抗には戻りたくない。これで行くか。どうしても気になるようだったらネットで注文すれば良かろう。

 ようやく全てを固定できる。まずハモニカ端子をネジ留めし、トゥイーター側のコイルをエポキシで接着する。コンデンサをブチルで固定する。ウーファー側のコイルはもう少し適正な値を考えたいのでブチルで固定するに留め、次は配線だ。

 配線材も替えてみよう。本当はスピーカー本体の内部配線に使いたかったAETの「6N-14AG」だ。ただ、こいつは一見細いのだがブルーの被膜を剥くとかなり多くの線が出てくる。相当締め上げているのだろう。そんなわけで撚り線の割には曲げるのに苦労しながら繋いで行く。

 さらにはターミナルも変更なのだ。端子板の無いタイプで、1セット500円だがバナナプラグもYラグも両方使えるので決めたのである。これをどう使うか。最初げたを履かせて板に留めようかと思ったのだが、直接ネットワーク板に取り付けることにする。つまり、ネットワークなどを取り付ける側とは反対側から差し込んで、配線をハンダ付けする。そしてスピーカーケーブルを接続する時には板をひっくり返して、少々高さのあるインシュレーターを挟むのだ。すると見た目もシンプルな状態の出来上がり。我ながらナイスアイデアだろう。

 しかしうっかりしていた。このターミナルは6mmの穴を開けねばならないのだが、適当な道具が無いのだ。あるのは9mmと12mm。大き過ぎた。そう言えば、と昔買ったままで使っていなかった手回し式のハンドドリルを探し出したものの、こいつも12mmのやつしか付いていなかった。全く、どいつもこいつも役立たずめ、と自分のせいだと言うのに意味無く毒づきながらホームセンターへ向かった。

 何本かセットになったもので安いのがあったのでこれにしよう。わき目も振らずに帰ってエアコンを入れる。かなり汗をかきそうだ。実際にはハンドドリルを初めて使うわけだが、固定しておく道具も場所も無い。仕方無く足で踏みつけながらの穴開け。最初は滑りそうになったが慣れてくるとすいすいドリルは木屑を蛇玉のようにニョロニョロと出しながら先へ進んで行く。

 空けた穴はターミナルにピッタリ。良かった良かった。そこに配線をハンダ付けして、ネットワークのとりあえず完成!見た目もバッチリ、これであとは音だ…


 159. 究極の凄い力(05.7.30)

 最近スピーカーとアナログ関係と2つの話題を行ったり来たりなのだが、今回はアナログの番。

 アームを増設したことで、さらにそれがユニバーサルアームとなればいっそう欲しくなるのは当然カートリッジだ。モノラルカートリッジを2つ入手してラインナップは豊富になったものの、ステレオの方でも何か欲しいところだ。

 さらにその気持ちに追い討ちをかけるようなことが起こった。久し振りに純正の「スペースアーム」を調整して、そこに付いている「AT-1000MC」を鳴らそうとしたのだ。しかし、リフターを下ろすと彼(彼女かもしれないが)は疲れたようにグッタリとその針を沈めてしまい、今にも腹をこすりそうになってしまったのだ。いや、レコードに若干のソリがあると間違いなく当たっている。まずい。一応音は出たが当時の力強い音ではない。明らかにおかしい。

 へたってしまったのか。いくらしばらく聴いていなかったとは言え、あまりにも急ではないか。アームを増設する時に気付かないうちに針を傷めていたのか。確かにカバーが無いとは言え、全く身に覚えが無い。ひょっとするとこのカートリッジはかなり古いもの(81年のはず)なので、ダンパーが弱っているのではないか。買ったのは冬なので気温が低く問題は起きなかったが、夏になって暑くなっている為に症状が出てしまったと。実際は分からないがそうかもしれない。そんなわけで往年のハイエンド機は成り行き注目ということで使うことが出来なくなってしまった。

 これでますます何か欲しいなあ、と思っていたところに出物があれば飛びつきたくなってしまうのは人情。さてそれは。

 ロングアームに付けて一番似合うもの。そう、オルトフォンの代名詞とも言える「SPU」である。ネットで見つけたが遠くではないので車を飛ばして実際に見ることにした。中古品をネット直販で買ったことは一度も無い。この目で見ないとどうもダメなのだ。

 果たしてこの目で確かめた「カブトムシ」は写真よりきれいで安心した。元箱も昔のものと言うことは窺えるがかなり保存状態が良い。前ユーザーは几帳面な人だったのだろう。安心して買うことが出来た。ちなみに「GE」という楕円針の付いたタイプである。

 早速付けてゼロバランスをとろうとすると案の定無理。ロングアームなのにサブウェイトはオプションなのである。と言うことで鉛テープをウェイトに巻き付ける。1周巻き付けてはバランスをとってみたが結局3周目でようやくバランスがとれた。針圧は4g以上と言うことだがウェイトの目盛りは既に狂っているわけだし、シュアの天秤型の針圧計は3gまで。というわけでかなりいい加減に目盛りを合わせてスタートだ。それにしてもやはり、ロングアームとSPUの組み合わせは絵になる。恰好良いではないか。あとは音だ。

 最初は「あれ?」という感じだった。音は小さいし、ヴォリュームを上げても今一つ元気がない。どうしたことか。プリ内蔵トランスが原因だろうか。確かにSPUはインピータンスも低いが出力も低い。それで元気が出ないのかもしれない。ここは純正同士ということで、昇圧トランス「T-20」に繋ぎかえてみよう。

 お、今度はちゃんとした音が出てくる。ただ、まだ今一つ埃っぽいなあ…としばらく聴いていた所、裏返して真ん中くらいまできたところで「来た」。

 これだっ。しばらく使っていなかったのかウォーミングアップに時間がかかったが、この腰の据わったどっしりした音はまさしくイメージしていた通りのSPU。確かにレンジははっきり言って狭いっ。超低域は全く無いし、高域も伸びずにザクッと切れている。しかしこれがいいのだ。古めのジャズは最高。低域が無い変わりに中低域が分厚いのでベースが良く弾み、文字通り音楽の「ベース」になっている。金管楽器は全くうるささを感じさせず、それでいて艶やかに分厚く鳴ってくれる。シンバルは「シャキーン」とではなく「ザキッ」と来る。これがたまらない。聴かせどころを心得た演奏だ。シュアーの「M44G」が似たタイプと言えようが、もっと大人である。

 現代の録音はどうだろう。ピンク・フロイド(現代とは言えないか)には少々ミスマッチだったが、意外に良かったのがノラ・ジョーンズ。ヴォーカルの色艶が最高。ちょっと大人になったノラがしっとりと歌ってくれます。レンジも狭くなるので細かい音は出さないが、「このくらいの方がいいんじゃないか?」と思わせるくらい上手く聴かせる。不似合いかと思われたドナルド・フェイゲン「ナイトフライ」は面白かった。少々不満だった「軽さ」がなくなり、コテコテした厚みが出て来て「実はソウルだったのか!」と内面に秘めていた「黒っぽさ」に気付いたりもしたのだ。まあ、逆に突き抜けるような爽快感は全く無くなるけれども。

 それにしても、この聴かせ上手めがっ。実際オーディオ的というかハイファイ的な特長は無いに等しいのではないか。少なくとも解像度という単語とは全く縁がない。透明感、も同様だ。しかし、オーディオとは奥が深いのだ。こういう音もあるのだ。何と表現したらいいのだろう。「泰然自若」。これが相応しいかもしれない。輪郭を強調していないが妙な力強さがある。さすが、「スーパー・パワー・アルティメット=SPU」。違うか。


 158. PRIDE(05.7.13)

 先日のサッカー、コンフェデレーションカップでのブラジル戦はそのあまりの内容の良さが話題になった。日本サッカーもここまで出来るのだ、ということを世界に発信したのだ。…まあ、その話しは別のコーナーで。

 とにかくこれまで真っ正面から我が自作スピーカーを市販品と比較試聴したことは無かった。バックロードは市販と全く毛色の異なるものなので比較する行為自体があまり意味がないと思っているからでもある。しかし今回バスレフ、と言うのか「いんちきトランスミッションライン」で作った「赤い彗星」の鳴りっぷりはなかなか良く、比較しても面白いのではないか。結構頑張ってくれそうだ。

 製作時にはウェストレイクの「Lc4.75」をお借りしていたのだが、今回は同じ方からアクースティック・ラボの「ボレロ」をお借りすることが出来た。「赤い彗星」対「ボレロ」、何だか異種格闘技の趣だが。

 双方ともウーファーの口径は同じで13cm、「赤い彗星」はフォステクスのソフトドームトゥイーターだが、「ボレロ」の方はここのブランドの特色であろう「逆ドーム型」のトゥイーターを使っている。最近の「ステラ何とか」というシリーズではメタル素材だが、これは繊維のようだ。全体の大きさは幅は同じくらいだが、「赤い彗星」は構造上奥行きが長く、「ボレロ」は背が高い。

 まず「ボレロ」の方から聴いてみる。第一ラウンドはノラ・ジョーンズから行こう。高域のサワサワした感じが情報量とレンジの広さを感じさせる。適度に潤いとがさつきを伴ったノラの声は生々しくも色艶を加えている。そしてびっくりするくらい低い音が聞こえてくるのだ。ウーファーの口径を感じさせないその量感豊かな低音は前面開口のスリットダクトのお陰だろうか。これには感心した。

 ここで早速「赤い彗星」にチェンジ。「ボレロ」の後では低音がずいぶん寂しく感じるし、高い方の音も若干大人しい。ただ中高音が張っているせいか、全体的には明るく聞えさせてくれるのがこのスピーカーの持ち味。それにダクトが後方にあるせいか、このソフトの特長でもある前後感を上手く出しているのだ。

 ここでスピーカーはそのままでソフトをチェンジ。第二ラウンドはマイルス先生の大名盤「カインド・オブ・ブルー」だ。このアルバムは端正とか冷静とかそういった単語が相応しく、最初のヴォリューム位置ではあまりにもベースの音が小さくなってしまったので、音量を上げて再度プレイバック。するとどうだろう、先程は控えめに弾いていたポール・チェンパースのベースが、いかにも彼らしく深くキリッと締まったピチカートを奏でてくれるではないか。結構下の方まで出ている。そうか、このスピーカーはある程度の音量で力を発揮するのだ。トランスミッションラインという構造も確かに音量を必要としそうなイメージがある。逆ホーンのような音道をしているので、かなり音を押し出してやらないといけないのではないか。まあ、あくまでイメージなのだが。

 他にもいろいろ聴いてみたが、有る程度音が出せるのであれば「赤い彗星」はなかなか健闘した。中高域の細かい情報量は「ボレロ」に凱歌が上がるが、「赤い彗星」も色に合致した派手めな音で対抗する。それにまだネットワークが仮留め状態。これを完成させればあるいは…と思わせてくれる。アッテネーターも固定型にしてしまえばさらに良くなるだろう。

 また、「ボレロ」の低域は量感はあるものの若干締まりに欠けるように見受けられた。量感と締まりは両立はほぼしない要素なので、このスピーカーは前者を採っているのだろう。この大きさにはそぐわない朗々とした低音を出すのだ。クラシックを鳴らしたらやはりピッタリはまって、得意分野であることを窺わせた。

 今回「赤い彗星」のポテンシャルが意外にも高いことを知らされて我ながら驚いた。どちらかと言うと実験機の趣が強かったので、ほどほどの音で満足して夜用に小さめな音で聴くことが多かったのだ。ところが今回ヴォリュームを上げてみてその実力を甘く見ていたことが分かった。市販機でしかも小さい割には価格もそこそこ張る「ボレロ」に迫る、いや部分的には勝っていたのだ。当然自分のシステムでの結果であり、そもそもオーディオなんて「好み」なのでこれは絶対評価ではない。ただ、これをさらに詰めて行けばもっと良くなるのだろう。そんな期待が沸き上がってくるのを胸の高鳴りと共に感じている。勝負は次のラウンドだ。ゴングが鳴らされるのはいつだろうか。


 157. モノ申す!(05.6.25)

 割と年季の入ったオーディオマニアでもレコードを見て「これはモノラルかあ、じゃ音悪いな」という声を聞くことがある。こんなにびっくりすることは無い。ハッキリ言って50年代の疑似ステレオなんて、まあ時には良いものもあるが大抵はただ楽器を振り分けただけのいい加減なものである。例えばアート・ペッパーの「ミーツ・ザ・リズム・セクション」なんてその最たるものだろう。あれはあれで面白いが、あまりにも露骨に振り分けられていて少々げんなりすることがある。「やっぱりペッパーはヤク中だったから遅刻して、後でサックス入れたんじゃないか」とそしられても文句は言えまい(?)。

 そんなわけで。モノラル盤にはモノラル針、なのだ。きっとそうなのだ。どう良いのか。それをこれから実証して見せるわけなのだ。実はアームベースを待ち焦がれている間、着々と用意は進められていた。一つは友人から譲ってもらったテクニカの「AT-MONO3/LP」。もう一つは奮発して新品で購入したデンオン(今はデノンだが敢えてそう呼ばせていただく)「DL-102」なのだ。せっかくのユニバーサルアームなのだから、モノ針も一つでは寂しかろう。

 定説では「ジャズには102、クラシックにはテクニカ」ということだそうな。実際はどうか。まずは102の方から試してみることにする。遂にベールを脱ぐ、通称「鉄仮面」だ。シェルはあまり高価なものを付けても、と言うことでテクニカの定番「MG-10」に装着した。ずっしりと重い。シェルは大したことは無いので自重があるのだ。ゼロバランスもかなりウェイトを外側にしないと合わない。そして針圧も3g±1、とかなりヘヴィーだ。重針圧好きとしてはたまらない。ウェイトの目盛りは3gまでだが、ぐるりと1周以上回す。一見針圧0.5gという状態だが実際には3.5g掛けたわけだ。

 いよいよ音出し。レコードはビルエヴァンスの「アト・ザ・ヴァンガード」だ。「円盤新世紀」シリーズのもので、モノラルなのだ。再発物だが果たしてどうか。

 「ビル・エヴァンスは剛腕だった」。あの大学教授然とした眼鏡姿にだまされてはいけない。こんなに力強くピアノを叩いていたのか。このアルバムはどちらかと言うと当時亡くなったばかりのスコット・ラファロに焦点が当てられているが、いやいやどうしてどうして。エヴァンスの男前なことよ。がしがしとピアノを叩き鳴らして嬉々としているではないか。これが本当の姿だったのだ。エヴァンスの繊細なイメージはステレオ時代の産物だったのだ。そう言いたくなるほどの強さ、濃さ。これはいいぞ。

 当然他も好結果。ブルーノートの超名盤「ユタ・ヒップwithズート・シムズ」はズートのテナーがずずずずずぅーっと、下がる下がる。この「下がり」が欲しかったのだ。丁度手に入れたばかりのカーティス・フラー「オープナー」もフラーのトロンボーンがまろやかなコクを伴って太く優しくしかし力強く鳴り渡った。これまた名盤のトミ・フラことトミー・フラナガンの「オーヴァーシーズ」、エルヴィン・ジョーンズのドラミングが名盤たる所以だが、もうたまらない。まるでこれはJBLか。ドラム缶を目の前でひっくり返したような激しさ熱さ厚さ、もう暑い暑い。ウェイン・ショーターの「ジュジュ」は傷だらけだがオリジナル。幾分細身かと思っていたショーターだがいやいやいやいや、すいませんでした。やっぱりあなたも男前だったのだ。そしてお馴染みデイブ・ブルーベック「タイム・アウト」はセカンドプレス、これがまたジョー・モレロのドラムが染みる染みる、スティックを振り下ろす様が目に見えるよう。ポール・デズモンドのアルトもウォーム感たっぷりでこれまた染みます、リーダーのブルーベックは訥々としたピアノ…いえいえとんでもございませんです、撥ねるように楽しそうに汗だくになって(?)ガンガン弾いているではないですか。見直したぞ、ブルーベック。持っているモノラル盤はジャズがほとんどだけど、たまにはロックもあるぞ。ボブ・ディランの「フリーホィーリン」「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」だ。「風に吹かれて」の声を聴いただけでもう降参、太いわ濃いわ厚いわでディラン様万歳一生付いて行きますですハイ、さらにその後のギターやらハーモニカやら眼前にどわーっと展開されてもうノックアウト。

 もはや狂躁状態で手持ちのモノラル盤を聴きまくったが、クリス・コナーの名盤「バードランドの子守歌」を聴いたところで選手交代、テクニカの登場だ。比べてみると、ヴォーカルが大きく前に張り出していたのが102だったが、こちらは心持ち陰影感を秘めてふっくらと鳴る。濃さはやはりあるので物足りなさは全く無いし、それでいて102よりレンジは拡がっているようだ。やはり定説通り、クラシックにはこちらが明らかに向いているだろう。ガサッとした102に対してふわっとしているのがテクニカなのだ。これは盤に応じて使い分けるという楽しみが出来た。どちらも濃厚なことには変わりはないのだ。

 ようやくこの悦楽を知ることが叶った。アナログやるなら、モノラルを知らないのは損であるとしか言い様が無い。


 156. ダブルアーム・スープレックス(05.6.12)

 この技が顧みられることはもはや無いのだろうか。確かに決め技にはなりえないし、かと言ってそのままホールドするのもあまりに強引だ。あくまで繋ぎ技にしかならない、悲しい技なのだ。とは言え今は4の字固めやフライング・ネックブリーカーなど古典技が再びクローズアップされていたりもする。きっとダブルアーム・スープレックスも復活する…事も無いか。最初から地味だったから。

 それはともかく。ようやく届いたのだ。何が?アームベースである。「スペースデッキ」にロングアーム「AS-309i」を装着する為のベースが発注から2ヶ月、忘れた頃(実際は忘れてなどいないが)にやって来たのだった。

 それにしてもアルミ削り出しのずっしりしたこのベース、なかなか期待できるではないか。早速取り付けよう。設置場所だが、左奥の足を外して付けようかと思ったものの、結局現在のアームを左奥に移動させて右側に設置することにした。つまり標準的な場所であり、カートリッジ交換にしても使う頻度にしてもこちらのロングアームがメインになるだろうということで決めたのだ。

 まずターンテーブルを外す。当然オイルがスピンドルに付着しているので慎重に扱って脇に置き、レンチを使って左側のねじを回す。ネジを抜いたら次にアーム側のねじを外す。プラッターの下に手を入れて左側の足を抜き、そちらに右側から元のアームベースを回す。そして次に新しいロングアームベースを右側に置く。とりあえず両方のアームベースを仮留めだがネジを回しておく。このネジ締めが結構苦労した。スライドできる構造になっているため、ベース部のスライド用パーツがぐらぐら動いてしまい、なかなかネジが通らないのだ。懐中電灯で照らしてネジ穴を確認しながらの作業となった。うわあああ、と放り投げそうになりながらも(重いので無理だが)何とか通すことの出来た時の喜びと言ったらもう。元のアームの方はアバウトに締めたのでまた調整し直さねば鳴らないが、とにかく今回は新しいロングアームの方をしっかり取り付けよう。アームに付属するゲージでしっかりセンターからの距離を測ってネジを締めつけ、ターンテーブルをはめ込む。

 さてお次はいよいよアーム本体の取り付けだ。付属していたケーブルを下からくぐらせてリフターを取り付けたアームと接続させ、まずは適当な高さでビスを締める。とりあえずはこれで見栄えだけはダブルアームのプレーヤーが出来上がりだ。モーター部を左前に持ってきてベルトを掛けて完成だ。ふむ、やはり恰好良い。惚れ惚れとするような威容である。ただ大きくはみ出してしまい、CDプレーヤーに接触しそうな勢いである。やはり大きなラックが欲しくなってくるところだ。

 では正確なセッティングに移ろう。もうすぐ音が聴けると思うとゾクゾクしてくる。アームの高さ調整は出来たと思っても実際は高すぎたり低過ぎたりと、なかなか上手く行かない事が多い。やり方はスペースアームと変わらず、レンチを使って埋め込まれたビスを緩めたり締めたり、というものなので慣れてはいる。まあ、何度でも合うまでやればいいだけのことだ。最近はもうそのように割り切っている。これがアナログなのだ。

 ちなみにカートリッジは久し振りに「DL-103」を引っ張り出した。シェルはテクニカのものを付けている。これでとりあえず高さを調整し、次はオーヴァーハングだ。さすが、アーム位置もほぼ正確にしたためか、特別に触る必要はなかった。まあ、テクニカのシェルの場合取付け位置の微調整はそれ程細かくできないので、微妙に違っていても大変困るわけだが。さらに針圧もゼロバランスをとり、2.6gくらいに目盛りを合わせる。このアームにはアンチスケーティングの調整はできない。極めてシンプルなのだ。その為見た目はずいぶん地味である。

 ここまで終わって、ようやく音を聴くことが出来るのだ。スペースアームに指掛けが無かったこともあって、リフターを常用しているので今回も軟弱者!と言われそうだが使わせてもらう。しかしこのリフター、やけに手応えがないな。最初のレコードは「サイドワインダー」である。

 おお、太いぞ、太い。最初のベース「どぅどぅどぅんどぅん」から太いし、リーのトランペットもたっぷり息と魂を吹き込んでいるようだ。そりゃ確かにあまり下の低域や上の高域は出ていないが、それがどうした。逆にシンバルやブラシがざっくりと出て気持ちが良いではないか。「スペースデッキ」で103を使うのは初めてだが、アームとの相性の良さもあるのだろう。また、「Live5」内蔵のトランスも一役買っているに違いない。レンジは程々だが、だからこそ中域の太い鳴り方は好ましく、巷でもてはやされている線の細い精密な音が馬鹿馬鹿しく思えてくる。さすが、ロングセラー。まだまだこれからも活躍しそうである。

 それにしてもロングアームで音溝をなぞるその姿は恰好良い。遠い岩場から長い釣り竿を思いっきり伸ばして絶好のポイントに落とす。そんな一流の釣り師を見ているようだ。

 せっかくカートリッジを替えられるのだから次に行こう。そう、そもそもロングアームにしたのは「わけ」がある。前にも書いたがモノラル針を使いたかったのだ。いよいよ登場である。