乱れ撃ちディスク・レヴュー
2000年(2)


ENYA
 A Day Without Rain
 これまた、意外と息の長いアーティストだ。登場した当時はあの、幾重にも重ねて録音した他にはない斬新な作風が新鮮で、その清楚なルックスと相まってかなりの人気を博した。日本の「夜ヒット」に出演して無理やりな口パクをさせられたのは御愛嬌だったが。
 しかし驚いたことにその人気は未だ衰えるどころか、ますます注目されている存在というのは凄いことだ。しかもベスト盤が出ているのでそれ程ブランクは感じさせないが、実際には前作から5年近く経っているのだ。その人気の理由は、最近の「癒し系」「ヒーリング・ミュージック」のブームが一翼を担っていることは明らかだ。この新作もそれを裏切らない出来となっている。
 ただ、「癒されるだけ」の音楽と違うところは、大音量で聴くともの凄い低音が出てそれに包まれる、というオーディオ的な楽しみも味わえることだ。何度も言うように「癒し系」に異を唱えている私としては、エンヤは決してそういう存在ではない、と声を大にして言いたい。刺激的なのだ。
 それにしてもここまで徹底して毎回同じ作風を維持する、というのも逆に大したものである。これまでの違いといえば、「うた」を前面に出してきたかな、といったところ。声の多重録音を抑え目にした曲も見受けられるのだ。それは良いことだと思う。(00.12.24)



SADE
 Lovers Rock
 思えばずいぶんなキャリアである。登場した当時はそのオシャレでジャジーな雰囲気がたまらなく新鮮で結構好きだったが、ベスト盤をリリースしたあとは少し距離を置いて接していたように思う。あまりにも雰囲気重視の音楽になってしまったように感じたからだ。
 そうしているうちに時は経ち、久しぶりの新作が届いた。FMで新曲「By Your Side」を聴いたとき、「お、結構良いじゃん、シャーデーも」とあたらめて気になる存在となり、アルバムを買ってみたのだ。
 実際、これは良い。音数は少ないが、それだけにヴォーカルの声が存在感を醸し出し、ギターの調べも控えめではあるが心地よく鳴っている。また、以前と異なって感じる点に、ヴォーカルのシャーデー・アデュの歌声が挙げられる。昔はもう少しクールに、悪く言えば「冷たく」聞こえたものだ。逆に言えばそれが売りだったとも言えるが。しかし、この新作から聞こえる彼女の歌声は非常に温かみを感じるのだ。言い換えれば「機械から人間」へなったということか。ちょっとひどい言い方かもしれないが、それだけブランクの間は彼女にとって貴重な時期だったのではないか。魅力的な女性ヴォーカルがまた一人現れた、そんな新作である。(00.12.23)



THEE MICHELLE GEN ELEPHANT
 Live in Tokyo Casanova Said "Live or Die"
 ミッシェルのライヴが凄い、ということは噂では聞いていたが、当然どんなものかは想像が出来なかった。確かに「凄いんだろうな」という漠然としたものはあるにはあったが…
 そしてこのライヴ盤。いや参りました。降参。凄いわ、これは。まあ、ミッシェルというバンドはライヴに向いていることは今までのアルバムを聴けば分かることではあるのだが、やはりあらためて聴いてみるとその迫力にただただ圧倒されてしまうのみ。為す術もなく彼らの叩きだす音の奔流に飲み込まれて自然と体が反応してしまうのみ。いや恐ろしい。
 選曲もヒット曲というよりもライヴでのノリを重点に置いたもの。しかし最新曲「ベイビー・スターダスト」も収録されており、早くもライヴで聴けたことは嬉しい。実際に見てみたいなあ、彼らのライヴ。しかし、生きて帰れないかも…と思わせるだけのことがある、そんなライヴ盤。これがロックだ。ついでに、お値段も¥2100と大変お買い得なのだ。
 ちなみに同時リリースされたのはベスト盤。新作はまだまだ先のようで、気を持たせるものである。(00.12.18)



SHARBETS
 Aurora
 何と、現在ベンジーこと浅井健一は社長なのである。その「SexyStones Records」からのリリースしたニューアルバムというわけだ。一体何人の会社なのだろう。
 それはともかく、前にも書いたことだがベンジーは今活動しまくっている。我々をブランキー解散の余韻に浸らせてくれない速度で作品を出しているのだ。嬉しいのだがちょっと呆気にとられるほどである。
 そしてまた、このシャーベッツの新作には前に出ていたシングル「38 Special」は入っていない。確かに激しい現状への怒りに貫かれた異色作「38〜」は、今回のアルバムにはそぐわないかもしれない。今回のこの作品群、どれもベンジーの得意としていたセンチメンタリズムが爆発しているような、美しいものなのだ。ブランキーのような緊張感を孕むものではない。かといってリラックスしたものでもないのだが。何と言おうか、やはり「美しい」という単語を使わざるを得ない。是非聴いて欲しい。このギターの響き。やはりベンジーならではだ。歌声もベンジーだ。彼は何も変わっていないかのようにそこに存在している。しかしここまでブランキーとは全く違うバンドに聞こえるとは、驚きである。しかもそれが全く違和感を感じさせない。傑作である。(00.12.15)



RAGE AGAINST THE MACHINE
 Renegades
 ヴォーカルのザックが突然脱退してしまった。
 そんな中での今作はカヴァー集ということだが、普通そういった企画に見受けられがちな「リラックス感」のようなものは、このシリアスなバンドのこと、全く存在していない。それどころか、いつもにも増して緊張感がビシビシ伝わってくる「最新作」なのだ。
 名曲「キック・アウト・ザ・ジャム」や、スプリングスティーン「ゴースト・オヴ・トムジョード」といった渋い曲、ストーンズの「ストリート・ファイティングマン」、ディランの「マギーズ・ファーム」と、メジャーではあるがいかにも彼ららしい内容のヘヴィーな曲をセレクトしている。さらにそれが、知らずに聴けば全く分からないくらい「レイジ色」になっていることも特筆モノだ。そのことがやはりこれはお気軽な「カヴァー集」などではないことを雄弁に物語っているのだ。
 しかし、これからバンドはどうなっていくのか?日本でも徐々に浸透し始めたところだっただけに残念だが、あれだけ強烈な主張を持った彼らのこと、すぐに我々にメッセージを伝えるために新しい活動を始めるに違いない。(00.12.11)



JAZZ Millennium(赤盤)
 クリスマスも近いと、こういったジャズのコンピものが数多くリリースされるが、今年は特に多い。しかし実際には結構曲が被っていたりして、数枚買っても勿体無いことも事実だ。このコンピも御多分に漏れないが、バランスの取れた選曲だと思う。ちなみにこれは「赤盤」ということで、他に「白盤」も同時に発売されている。
 選曲は「初心者対象、超メジャー曲がめじろ押し」という、特に「おおっ」と思わせるものはない。セントトーマス、酒とバラの日々、ユードビーソーナイストゥカムホームトゥ、ワルツフォーデビイと、もうはっきり言って「ベタ」である。殆どアルバムで持っているし、あらためて買う理由があるとしたらカーステレオ用か。しかし、私の目を大いに惹いたのは、「デジタルK2、20ビット・スーパーコーディング」の文字であった。つまり、最新のリマスターが全曲に施されているのだ。ステレオバカの私としては、これはもう、買わずにはいられなかった。
 さてさて慣れ親しんだ曲が、本当に「生まれ変わった」ように新鮮で瑞々しいのだ。ビルエヴァンスや、アートペッパーは既にアルバムもリマスター盤を持っていたので同じだったが、その他、特にソニーロリンズ「セントトーマス」や、MJQ「朝日のように爽やかに」が、何と素晴らしい音質になっていたことか!しかし、こうしたリマスタリングの技術は恐ろしい。もはや現代録音と遜色ない(確かに低音、高音は現在より少ないかもしれないが)ではないか。本当にこれが40年以上前の録音なのか、と感嘆せざるを得ないのだ。特に昔のCDで持っている人にはリマスターの凄さ、面白さを手軽に味わっていただける好サンプルだと思う。もちろん、ジャズ入門にも最適。(00.12.9)



DRAGON ASH
 Lily's e.p.
 まさにマイペース活動の王道を突き進むドラゴンアッシュ、ニュー・マキシシングルは両A面、というか2曲ともリードシングルなのだ。
 まず「Amploud」はここ最近のヒップホップ路線驀進モノ。それにしても、と思わずにいられない。「Under Age's Song」で頭を殴られるような大衝撃を受け、まだそんなに経ってはいないにも関わらず、彼らはこんなところまで来ているのだ。まさに降谷建二の若さ、ということもあるがこれから先は何をしてくれるんだろう、とワクワクさせる何かが彼らにはあることは間違いない。
 そんなことを考えていたら次の「静かな日々の階段を」だ。「Under〜」路線のスローなライムが直接心に突き刺さる曲で、「陽はまた昇りくりかえす」という歌詞が途中に現れるところにドキッとさせられる。やはり自分にとってのドラゴンアッシュはこういう曲だ。こちらをラジオやテレビではガンガン流して欲しいところだ。
 後半はそれぞれのリミックスが収録されているが、これがまたカッコ良く出来ている。特に「Amploud」の方は各楽器が明確に出ていて(特にエレキベース)こちらの方がオリジナルより好きだ。(00.12.3)



AJICO
 波動(シングル)
 かねてから噂だったUAとベンジー(浅井健一)の競演バンド、これがファースト・シングルだ。2人ともヒイキにしているので、前からもの凄く楽しみだったのだ。
 イントロのベンジーのギターに痺れ、そしてUAの「あの」独特の歌声。こりゃたまりません。タイトル通りの「波動」がリスナーに向けて押し寄せてくる、そんな曲なのだ。考えてみるとUAの新しい曲を聴くのも久しぶりで、それも嬉しいことだ。思えば前作「Turbo」でもベンジーとの共演があった。あれはまだ「手合わせ」といった印象が強かったが、何せ今回は名前まで付けたバンド形態である。まさに強力タッグなのだ。それにしても、これほどまでに素晴らしいサウンドになるとは、期待以上だった。
 前述したように自分はベンジーもUAも好きなのだが、それぞれのファンがどれだけこのユニットに対して思いを抱いているかは分からない。しかし、UAのファンにしても「バンドサウンドのUA」というのは新鮮なはずだし、ブランキーまたはベンジーのファンも、作曲はベンジー(作詞はUA)ということで、彼らしい曲を堪能できるはずだ。絶対お勧めである。(00.11.27)



U2
 All That You Can't Leave Behind
 「昔に戻った」と言われる今作だが、実際はどうか。
 久しぶりなU2の新作は、前作までの「テクノ(っぽい)」路線とは違って、オーソドックスなロックのフォーマットに忠実な作品にはなった。リード・シングルの「Beautiful Day」でそれは如実に現れていたが、全編にわたって貫かれたわけだ。前作「ポップ」と今作との間にリリースされたベスト盤がテクノ期以前だったこと、このことと関係があるのかどうかは分からないが、80年代からのファンには嬉しいことなのだろう。
 しかし、実際にこの作品群が例えば「ブラディ・サンデー」や「プライド」といった曲に近いのか、と問われれば、やはり全面的に肯定するわけにも行かない。あの青臭さに満ちあふれた感覚がベテランとなった彼らに戻ってくるわけはないし、戻って欲しくはない。彼らはもう以前の彼らではないのだから。もし戻ったように彼らが歌っていたらそれは偽善でしかない。やはり「あの」テクノ期を通過した音なのだ。演奏こそオーソドックスだが、あの生き急いでいたような性急さはここにはないのだ。
 簡単に言えば、今作の曲群は「テクノ」風にいくらでも調理できそうなものである。もうあのリズムは染みついているのだ。誤解されてしまっては困るが、言いたいのは「これでこそ今のU2だ」ということである。決して「テクノ期」は無駄ではなかったのだ。むしろ必然だったことが分かる、そんな作品になっている。(00.11.24)



OASIS
 Familiar to Millions
 ビートルズの次がオアシスというのも、なかなか綺麗ではないか、と。
 それはともかく、「ビートルズの再来」的な誠に有り難いフレーズを頂戴していたオアシスだが、今年の春リリースした新作も前作に続いて評判は芳しくなかった。実際あのアルバムが自分のターンテーブル(CDだけどね)に乗ることは殆どないと言っていい。さらにスキャンダルの連続。このバンドはそうしたワイドショー的なゴシップネタを提供することで延命を図っているのではないか、などと勘ぐりたくもなる程だった。
 しかし、このライヴ盤には素直に驚かされた。ウェンブリー・アリーナで行われたものだが、7万人とのこと。はっきり言ってこの一聴して「どれだけ人がいるんじゃあ」という、もの凄い歓声。こりゃ人、多いわ。この大観衆が「ワンダーウオール」や「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」といった大ヒット曲に合わせて大合唱するのだ。いや凄い。これだけ人が多いと声というより「揺れ」「振動」に近いものがある。実際行って確かめたくなったくらいだ。
 ここには定番となった兄弟ゲンカも、ノエルのライヴ離脱騒動も、リアム離婚騒動も、何も関係が無い。ただただ、英国人の「みんなのうた」オアシスがいるのだ。こんなに素晴らしいことはないではないか、といった趣だ。
 そしてライヴ自体のクオリティも良好だ。メンバーのコンディションも良く、リアムもしっかりと歌っている。ひいきのサッカーチーム「マンチェスター・シティ(ユナイテッドではない)」が1部昇格になり、モチベーションも上がっているのか?
 とにかく、久しぶりにオアシスのCDで満足を得た気分だ。次はいつのことになるかわからないが、頼むよ。(00.11.21)



THE BEATLES
 1
 どういう選曲かが注目されたビートルズの最新編集ベストだ。「英米でNo.1になったものを集めた」という大変分かりやすいアルバムとなった。
 それにしても、ベタかもしれないが1位の曲だけで完成度はもの凄く高い。まさに「入門用にピッタリ」という構成だ。普通の人ならば「他にこれ以上何を望むか?」というものである。ぱっと思いつくかぎりでは「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」が無い(これは2位だったらしい)くらいだ。逆に「ジョンとヨーコのバラード」が1位だったのか、というくらいだ。あとは文句あるまい。これを基本として「裏ベスト」を作る楽しみもあるわけだ。これは選曲のし甲斐があるし、面白いものが出来そうだ。
 さて、このアルバムもう一つの楽しみは「デジタル・リマスター」盤ということだ。最も、以前出た「イエローサブマリン・ソングトラック」のような「リミックス」盤とは違い、大きく変えているわけではなく、単純な音質向上である。それでも、これまで軽い音だったものが分厚く鳴り、特に中期から後期に掛けてのリマスターは効果的だ。
 年代順に「ラヴ・ミー・ドゥー」から「ロング・アンド・ワインディング・ロード」まで並べられ、綺麗に終わるこの全27曲の「No.1」集。この中でどの曲が好きか?と問われると大抵迷ってしまう。ビートルズくらい名曲だらけのグループになると、その時その時で好きな曲は変わるのだ。「今、現在」と言われたら、この中では「カム・トゥゲザー」かな。次聴いたら、もう変わっているかもしれないけれど。(00.11.18)



FATBOY SLIM
 Halfway Between The Gutter And The Stars
 前作はとにかく大ヒットだった。FMでも「らいったばうなう」と、毎日のように鳴りまくり、ダンス・シーンを賑わせたものだ。あの曲「ロッカフェラー・スカンク」は理屈抜きに人々を踊らせる、そんな力のあるものだった。アディダスのCF「ライトヒア・ライトナウ」のカッコよさ、そしてロングヒットとなったノスタルジックなナンバー「ブレイズ・ユー」。まさにヒット曲満載と言った感じだった。
 前置きが長くなってしまったが、意外と静かに「アレ、もうリリースされていたんだ」と言う感じで登場した新作。確かにあの前作に比べれば「地味」かもしれない。あの有無を言わさずにダンスに狂わせてしまうような「赤い靴」的な魔力はこのアルバムには少ない。しかしファットボーイスリムことノーマン・クック、前と同じことをするような男ではないことは最初から分かっていたことだ。
 今作は「踊る」ことより「聴かせる」ことに重きを置いたようだ。じっと座ってそのリズムに集中する。すると、「踊る」ことはないがそれに似た気持ち良さが沸いてくるのだ。最初は「何か大人しいな」と思うかもしれない。しかし、段々と高揚してくる自分がいる。不思議な気分である。体は踊っていないのに何処かが踊っている。そんな感覚。
 ただ、「ロッカフェラー・スカンク」がただただ好きだった、これしか知らない、と言う方にはお勧めできません。(00.11.13)



THE YELLOW MONKEY
 Brilliant World(シングル)
 傑作アルバム「8」のリリースから僅か2ヶ月で新曲の登場だ。まるでJポップ・アーティストのようだが、創作意欲に燃えているのだろうし、激しすぎるライヴも今回は控えめだからか。
 今回の曲は何か「大人」である。もっとも、昨今の吉井和哉の「何となくオヤジな」顔つきからしても、似付かわしいものなのだが、以前の徐々に盛り上がって行って終いには手がつけられなくなるような「王道イエモン節」とは少し趣が異なる仕上がりとなっている。
 とは言え、何度も聴き込んでいくとやはり良い曲である。ちょうどテレビにも出演して歌っていたが、映像で見ると一層良さが染み渡る、そんな曲なのだ。つまり、「ちょっと大人」な「ロックオヤジ」がカッコ付けて歌うと最高に映える、と言ったら良いだろうか。まあ、リスナーである自分も年をとったせいかもしれないが。最初は盛り上がりに欠けるかな、と思ったが、ライヴではもっと盛り上げることも歌い方次第で出来そうだ。
 イエモンのシングルは最近、チャートインの順位は良いのだが、2週目以降はがっくり落ちる傾向にある。特に「LoveLoveShow」以後だ。この曲もおそらくそうなのかもしれないが、まだ「ファン以外の受けが悪い」というアーティストになってしまうのは早すぎると思う。プロモーションのまずさもあるだろうが、ここらでもう一つ「ガツン」というものが欲しい。(00.11.10)



スガシカオ
 4 Flusher
 デビュー当初に比べると、シングルヒットこそ予想より少ないものの、メディアへの露出も多いためか随分市民権を得たスガシカオ。変なメガネも見慣れたことだろう。今作もどろどろした歌詞の世界、黒いフィーリングに溢れた曲作りは健在。いつもながら、こんな爽やかさの無いはずの歌詞、曲を爽やかそうなOLが聴くんだろうか…と思うと、「音楽を流し聴きする層」というものにも確実にアピールする彼は凄いと思わざるを得ない。
 ただ、今作に関しては、「ちょっと薄いかな」という感想を持った。人間というものは欲が深いのか、今までと同レベルの歌詞、曲では満足しなくなってしまうのか。もっともっと「濃い」ものを期待していたのだ。それが残念といえば残念。もしかして本人も「今回はとりあえず、リリース時期だったので。次は凄いよ、濃いよ」と言っているかもしれない。考え過ぎか?もっとも、ポップ性ということならば大変良く出来た曲が多いので、多くの人には安心して薦められるものだ。(00.11.5)



LENNY KRAVITZ
 Greatest Hits
 かっては日本で「レニ・クラ」として大人気(特に3rd)、次の4枚目アルバムもその余勢を駆って随分売れたものの、その後尻すぼみになっていたのがこのレニー・クラヴィッツ。ベスト盤をリリースするのも一見淋しさを催させるが、実際にはそうでもない。英米では5枚目「5」から「Fly Away」がロング・ヒット、「日本で結構ウケたアーティスト」などでは決してない存在となっていたのだ。逆に満を持してのリリースだったわけである。
 デビュー当時は「レトロ・シンガー」的な扱いを受け、実際2枚目までは70年代風サウンドが特徴でもあった。そのイメージは今も変わらないが実際のところ現在は、「オーソドックスなロック・シンガー」というスタンスではなかろうか。彼のサウンドは少々「現代風」になったものの、それ程変わったわけではない。現在の一般的なロックサウンドが、また70年代風に戻ってきた証なのかもしれないのだ。
 さて内容だが、殆ど文句の無い選曲。確かに「隠れた名曲」がそう多くあるわけではないアーティストなので、無理もないかもしれない。私は輸入盤を購入したが、国内盤には1曲追加されている。とは言え、未発表曲というわけでもないのでお買い得感があるかどうかはその曲に対する思い入れ次第である。個人的には2枚目が一番好きなので、やはり「It Ain't Over〜」や「Aiways on the Run」などに魅かれる。しかも今回はデジタル・リマスターが施されており、音質は向上しているのだが、特に中低域の厚みが増した。これが本当に良いのだ。さらに70年代風を突き詰めたような厚い熱いサウンド。レニーの濃い顔にピッタリである。彼のアルバムを何枚か持っている人にもお奨め。(00.11.3)



BLANKEY JET CITY
 Was Here! From 1991 to 2000
 「Was」ってのが淋しい、これで最後の最後、ブランキー感動のベスト盤である。
 東芝から「白盤」、ポリドールから「黒盤」と二社に跨がってリリースされたので、初回特典で二枚とも買うと、両方収納できるボール紙のケースが付いてくる。この昔の輸入盤みたいな箱に写る三人のショットが、これまた恰好良いのだ。
 以前リリースされているベスト「SIX」「国境線上の蟻」とは違う選曲で、ファーストアルバムからは一曲もセレクトされていない。「黒盤」のポリドールからはオリジナル・アルバムは3枚しかリリースされていなかったのだが、「左ききのBaby」「ダンデライオン」という、アルバム未収録のシングルが入ったのが嬉しい。特に後者はこのベストの最後を飾る曲となった。テレビドラマ主題歌で最大のヒット曲となったが、確かに「Harlem Jets」の雰囲気には合わなかったこの曲。ドラマチック過ぎるところがこのベストの最後を飾るにはふさわしいように思う。以前「Harlem〜」のレヴューで、「Come On 」であんなにそっけなく終わるとは云々、と書いたが、今回は逆にクサ過ぎるくらいの終わり方となった。
 ブランキーは解散してしまった。しかし、このような記録は残るわけだし、僕たちの記憶にも深く、もの凄く深く刻まれて残っているのだ。3人が織りなす唯一無二の音。それは容赦なく心地よくハートを突き刺して掻き回した。こんなバンド、そんなにいるもんじゃあない。音楽という、ロックというモノが与える最大の衝撃がここに、ある。(00.10.29)



LIMP BIZKIT
 chocolate st★rfish and the hot dog flavored water
 これだけ急激にビッグネームになると、賛否両論の嵐を浴びまくるのは当然といえば当然。現在アメリカで「最もコマーシャルなロックバンド」とはこのリンプ・ビスキットである。日本で言えばグレイかラルクになるのだろうが、もっとダークなイメージが強いか。
 前作でその地位をがっちりと固め、さらには映画「M・I-2」のテーマを担当して大ヒット、もはや人気においてはへヴィ・ロック界(メタルとは違う)トップの存在だ。どちらかと言うとシリアスでへヴィな印象が強かったこのジャンルで、「明るく楽しいアメリカンな」彼らの曲は傍流を主流に変えたと言っても良い。
 さてその映画のテーマも含めた新作アルバム、まさに全米が待っていた、というものだろう。内容も期待に違わぬもので、全編で彼ららしいポップでへヴィな曲調が炸裂している。しかし、個人的にはちょっと物足りなさも残ったことは事実だ。確かにクオリティの高いものなのだが、前作のような「驚き」が足りないのだ。それは確かにこのようなヒップホップも内包したへヴィなロック、というフォーマットが新鮮だったという事は言えるが、余りにも今作は破綻が無いように感じる。実に良く出来た作品、という「果たしてこれはロックにとっては褒め言葉だろうか?」という疑問が沸き上がるのだ。悪く言えば「早くも守りに入った」という言い方も出来よう。「次なる驚き」を期待するのは余りにも酷か。もちろん、こういうロックが大好きな方には自信をもってお奨めしますけど。(00.10.27)



JOHN LENNON
 Plastic Ono Band / Double Fantasy
 ジョンの誕生日に合わせてリリースされた、「イマジン」に続くリマスター盤。
 「イエローサブマリン」や「イマジン」もそうだったが、ただ音が良くなっただけのリマスターとは違う。まさに現代に甦らせる、という言葉がピッタリの出来栄えで、「音質」に関しては今一つ、というビートルズ関係のイメージをひっくり返すには十分過ぎるものなのだ。
 ただ、前回「イマジン」の時に言及したのだが、マスタリングする人物の思い入れが強いのか、過剰に柔らかな音になっており、「愛と平和の人、ジョン・レノン」というイメージを打ち出し過ぎていたように思うのだ。自分はジョンのもっと刺々しい、イカした部分も出して欲しかったので、「イマジン」は少々不満が残った。
 今回はどうか。2作とも概ね良いと思った。「ジョン魂」の方は、何と言っても冒頭「マザー」の鐘だ。あの寒けのする音を見事、頭を揺さぶる音にしてくれた。これでOKである。「ダブル・ファンタジー」も全体的に音質アップ、タイトでしかも重いドラムが心地よい仕上がりで、良質なロック・アルバムになっている。「イマジン」の時ほど余計にいじってはいないようだ。「思い入れ」も悪くはないが、時に原作を思い入れたっぷりにいじりすぎて失敗する映画があるのと同じ、やり方次第ということだろう。
 とにかく、音質云々は抜きにして2作とも名盤である。ロックファンで持っていないならば、是非この機会に御手元に。(00.10.22)



THE SHERBETS
 38 Special(シングル)
 ちょっとくらいは休養期間でもあるのかと思いきや、バリバリと活動しまくっているベンジー。自身が描いた猿の絵(漫画?)のジャケットもイカしている。
 この一昔前のサザンロックバンド名を思わせるタイトル曲だが、今までに無いストレートな歌詞が驚かせてくれる。一瞬エレカシかと思った程だ(さすがに大げさだが)。現状に対する率直な「腐ってない?」というフレーズはベンジーの口から飛びだすと、何か特別なモノと化す。あの突き刺さりそうな高音のヴォイスは言葉を武器に、また芸術品に変えるのだ。ベンジーが「腐ってない?」と言うたびに頭をつい、のけ反らせそうになる自分がいたりするのだ。
 他の2曲も素晴らしく、3曲で¥1200はお買い得と言って良い。ブランキーというもの凄いバンドを解散したばかりでこれ程クオリティの高いものを作ってくるとはさすがである。(00.10.19)



綾戸智絵
 Everyday Everywhere
 前作から半年経ったのでそろそろか…と思っていたが、今回はこのミニ・アルバムともう少し後でリリースされるフルアルバムの2枚になるということ。いやはや恐れ入ります。
 一曲目は初の自作オリジナル。これもそろそろ出すのかな…というところに登場。元々全ての曲を自分流に歌ってしまう人なので、全く違和感はない。シングルにすればヒットするだろうに、と余計なことを考えたりもする。そして「アンチェインド・メロディ」「ワンダフル・トゥナイト」といったもはやスタンダードと言っても良い名曲が、全く違った魅力を持って迫ってくるのだ。
 最終曲は珍しくギター伴奏。意外にこれも違和感なく、と言うよりかなり良い。結局どんな曲を歌っても、全てが「綾戸智絵」なのだ。ジャズとかゴスペルといったジャンルなどもはやどうでも良いだろう。
 ところでジャケットの写真。これまでは言い方は悪いが「若作り」に写った写真を使っていたが、今回はそのままの、しわが鮮明に写ったものが使われている。しかもジャケットいっぱいに、だ。これは自信の現れだろうか。だとしたら嬉しいことだ。(00.10.13)



THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
 Baby Stardust(シングル)
 こういうミッシェルを待っていた!
 傑作「カサノバ・スネイク」から半年ぶりだが、何故か私はあの傑作を繰り返し聴くことが少なかった。凄いロックン・ロールのアルバムであることは疑いの余地はないのだが、突き抜けすぎていたのだ。その恐ろしいまでのテンションに付いていけなかっただろうか。やはり自分にとってはもう少しポップな「チキン・ゾンビーズ」あたりが一番合っていたのだろうか。
 この新曲はテンパった最近までのミッシェルではなく、若干リラックスした彼らを聴くことが出来て個人的には大変嬉しい。ちょっと「ダル」なところも、ミッシェルの魅力なのだから。全曲良いが、最後の3曲目の様なやつをアルバムでももっとお願いしたいところだ。(00.10.10)



RADIOHEAD
 Kid A
 これは2000年ロック界最大の問題作だ。「ロック」を根底から揺さぶるような。
 英国ロックシーンではオアシスのような大衆性こそ無いにしても、それを超える深い音楽性と熱狂的な支持を得てきたレディオヘッド。特に前作「OKコンピューター」は衝撃を持って迎えられ、自分も時々取りだして聴いている愛聴盤でもある。しかし、今作の与える衝撃はさらに大きな、ケタ違いのものとなることは間違いない。
 この作品群はいわゆる「ロック」フォーマットではない。ギターがあって、ドラムがあって…という昔から存在するロックの形をなぞってはいないのだ。では打ち込みか。まあ、そう言えなくもない。しかし、これまであったテクノなどの方式を取り入れたロックなどとも一線を画している。つまり、これまでにない、新しいものなのである。
 インタヴューでも「もうロックなんて退屈じゃないか」という内容のコメントをリーダーのトム・ヨークは残している。ロックではないもの。では何なのか、と言うことになるのだが、自分としてはこれこそが「ロック」なのだ、と解釈したい。ロックではないものを作ることによって現在のロックとは?という疑問を浮かび上がらせることになったからだ。これがロックでなくて何なのだろう。
 さてその内容といえば、今までの文からして得体のしれないおかしな音楽を想像される向きもあるかもしれないが、全くそんなことは無い。紛う方なきレディオヘッドだ。トムの声だ。また何度でも聴きたくなる、良い作品だ。これまで彼らを聴いてきたファンならばためらい無く受け入れられる、そして「これは凄い!」と叫びたくなる名盤だ。(00.10.7)



CHRISTIAN McBRIDE
 Sci-Fi
 ジャケ写だけ見ればヒップホップ系だが、現代ジャズ界ナンバー1の呼び声も高いベーシスト、クリスチャン・マクブライドのリーダー作なのだ。
 ジャズが決してオシャレなBGMというチンケなモノではないことは、この人のベースがゴリンゴリンとフィーチャーされた曲を聴けば理解できるだろう。さすがベーシストのアルバムだけあって音の重心が低い低い。この人の指はもの凄く強靱な物質でできているのだろう、と思わせるようなベースの力強さはベース好きの私の脳みそを揺さぶってかき回してくれる。快感だ。有名なベーシストに、ジャズ界ではロン・カーターがいるが、彼はどちらかと言うと柔らかいベースを弾く。心地よく響く、と言うタイプだ。しかし、マクブライドは硬く、太い。そして締まりもある。何か誤解を与えそうな表現で申し訳ないが、そういう形容詞がしっくり来るのである。
 曲はやはり1曲目、よく知っているスティーリー・ダンの「Aja」が素晴らしい。スティーリーは最近のジャズ・ミュージシャンにカヴァーされることが多いが、原曲もジャズに近いので全く違和感はない。どちらかと言うとあっさりした感触だった原曲が、マクブライドの骨太ベース一本でこってりとしてくる。これが魅力だ。
 カヴァーと言えば、これまた定番・スティングの「Walking on the Moon」が収録されている。こちらはオシャレ路線を一層突き詰めたような感じがしなくもない。もう少しアクが強くても良かった。全体的に言えることだが、もう少し昔のジャズっぽく、ホーン類が前に出てきてくれると良いのだが。どうも爽やかに空間に漂う、という現代サックスの音では物足りない。
 とにかく、カーステでぶよよんとおかしな低音を低音と思っている人が多い昨今だが、「真の」低音とは、ベースとはこういうものだ。(00.10.4)



椎名林檎
 絶頂集
 フォロワーまで登場する存在となった林檎姫、アルバムリリース後は何をしているんだろう?という人も多かったことだろう。しかし、彼女はいわゆる「売れっ子Jポップ・アーティスト」という奴ではないので、ツアーなどマイペースに活動しているのだ。そしてそんな中でのこの変則的なアルバム、というのか3枚組シングル。それぞれ「虐待グリコーゲン」「天才プレパラート」「発育ステータス」といったバンド名で演奏を展開する。
 「虐待」は、大会場でのツアーの模様。「天才」はスタジオ、「発育」はライヴハウス、とそれぞれ3枚に分ける理由はあるのだ。場所もバンドも違うので当然音も違う。3枚目のアルバムに向けて、彼女はまだまだ次なる前進をしているのだ。
 ただ、逆に言えば試行錯誤と言えなくもない。ここがウェル・プロデュースされた自称アーティストとの違いで、今こういったモノをリリースすることはいくらアルバム後のブランクを懸念したとしても冒険と言うべきことだ。全曲いわゆるポップ・マーケットを意識したものは皆無、ひたすら己の道を追求するこの作品は、下手をするとアルバムが爆発的に売れたにも関わらず全てを御破算にする可能性すら孕んでいるのだ。
 これまでの林檎(的なうた)を望むのならば、矢井田瞳を聴いたほうが良いだろう。林檎自身は、もはやそこにはいないのだ。次のレベルへ、もう歩みを止めることは出来ないのだ。(00.10.1)



BLANKEY JET CITY
 Last Dance
 以前ライヴレビューを書いたが、ブランキーのライヴというのは恐ろしい。3人の音がこれでもか、これでもか、とばかりにこちらに向って襲いかかってくるのだ。それを浴びることの出来るアルバムが登場した。タイトル通り、最後のライヴの模様をCD化したものである。
 ベンジーこと浅井健一は早くもシャーベッツ、UAとのAJICOと活動をし始めている。いつまでもブランキーの解散に涙を流している暇はないのだが、このアルバムを聴くとあの日のライブを思い起こさざるを得ないし、やはりブランキーは最高だ、と認識を新たにしてしまう。
 とにかく全曲息もつかせぬ代表曲のオンパレードで、2枚組で合計118分の長丁場にもかかわらず、あっという間に聴き終えてしまったような気がした。もう1度アンコールをしたい気分になった。それでもまだまだ聴きたい曲があるのだ。「悪いひとたち」「ダンデライオン」「小さな恋のメロディ」「僕の心を取り戻すために」「風になるまで」…他にもたくさんある。いわゆる「ヒット曲」というものは少ない彼らだが、心を捉えて離さないナンバーが何と多いことだろうか。
 昔、3人のもの凄いミュージシャンが緊張感の迸るような、カッコ良い曲を演っていたんだ…それはもう、身震いするほどだったよ…とこのアルバムを聴かせるのだ。そんな日が来るのだろう。しかし、そういう感傷とは遠いところに彼らは存在している。これはあくまで「記録」として残しておき、彼らの「次」を楽しみにしよう。
 こんなに中身の濃いライヴ盤、今までなかった。「アルバムはやっぱりスタジオ盤だよ」と思っていたが、その考えは少々改めねばならないようだ。それにしても、これで最後かあ…とやはりため息をついてしまう、自分もいたりする。未練がましいものだ。(00.9.25)



サニーデイ・サービス
 Love Album
 これはまた、何という作品を作ってきたことか。
 セールス的にはさほど売れているグループではないので大きく取り上げられることはないだろうが、いや売れていないからこそここまで自由にできるのだ、ということを思い知らされる程、このアルバムでの彼ら、いや曽我部恵一は好き勝手なことを楽しそうにやっている。そしてそれは大変心地の良いものなのだ。
 とにかく全体に渡って「ワールド」と呼ぶしかない音世界が表出する。一体いつの間にこんな技を身に付けたのか。前作も傑作と呼べるものだったが、まだアコースティックな、「グループサウンズ風」バンドとして聴ける作品だった。しかし、今作は先行シングルからもある程度の変化は兆していたものの、アルバムとして聴くとこれほどのものだったとは…今、正直言って驚いてばかりだ。
 私の拙い表現では伝えられないので、まずは一人でも多くの人に聴いていただきたい。曲自体はポップで馴染みやすいのでもっと受け入れられてもおかしくないものだ。それなりのオーディオをお持ちの方ならば一層その「ワールド」が現れるだろう。音が、言葉が、非現実的にゆらゆらとたなびく様は、なかなか味わえるものではない。いやこれまた傑作。(00.9.23)



中村一義 
 ERA
 シングルの時に「評論家受けの良いアーティスト」といったようなことを書いたが、やはりこの新作アルバムも各音楽誌は絶賛の嵐のようだ。しかしちょっと違うのは、これまでが悪い言い方をすれば音楽業界誌の確信犯とも言える自家中毒的な賛美だったことに比べて、今回は「本当に凄い」「これは売れる=受け入れられる」という言い方をしているように見受けられることだ。
 それも当然の出来栄えで、全編彼のポップ・センスが爆発した、といった感じだ。前所属レコード会社からの契約満了、という事件は彼にとっては結果的にプラスになったという言い方も出来るくらいである。眠れる獅子が目覚めた、と言っては本人に失礼だろうか。
 実際このアルバムはオリコン・チャートのトップ10内にランキングされたようである。そう、遂に彼は受け入れられたのだ。もう音楽雑誌とその読者層だけの音楽ではない。そう言えば大変さりげなく、彼は日産のCMに出演していた。いつの間にかお茶の間の目にも触れられる存在だったのだ。「外に開かれた」彼の入魂の作品群、これは黙って聴くべし。(00.9.19)



CHARLIE WATTS JIM KELTNER PROJECT
 そう言えば最近ストーンズは何をしているのだろう。いつもならミックかキースのソロ活動などが話題に上ってきてもおかしくない頃だ。ライヴではかなりの動員数を誇ってはいるものの、新しいアルバム(とは言ってももう何年前かな)についてはセールス面での不調はごまかしきれないものがあり、実際に楽曲としてのパワーを新作に求めることは困難な状態になっていた。そろそろストーンズも「伝統芸能としてのロック」を演るだけのミュージシャンになってしまったのか、と思わせるものがあった。
 そんな中で、チャーリー・ワッツが同じドラマーのジム・ケルトナーと組んだプロジェクトでアルバムを発表した。元々ジャズ志向の強い彼はこれまでもジャズ系の作品をソロ名義で発表してきたが、これもその一つになるだろうか。それにしてもこれは異色作と言って良かろう。まず、全9曲のタイトルが全て往年の名ジャズドラマーになっている。「アート・ブレイキー」「トニー・ウィリアムス」といったように。さらに異色なのはその内容だ。コテコテのジャズではなく、全て打ち込みなのだ。もちろんチャーリーはドラムを叩きまくっているのだが、そこにタイトルが付けられたドラマー達のフレーズを盛り込んでいる、という仕掛けな訳だ。最初は「何と言って良いやら」というものだった。一歩間違えれば、意味不明のゲテモノである。
 しかし、聴き続けていくとこれが意外に気持ちが良い。多少ジャズを聞きかじっている自分としては、聴いたことのあるフレーズに「おっ」と思ってニヤリとしたり、チャーリーの腕前に感心したり、と結構楽しいのだ。というより自分はドラムの音が大好きなのだ。ジャズを聴くようになったのもドラムが原因なのだ。それが例え周りが打ち込みのサウンドであろうと、これだけ楽しく聴けるとは思わなかった。音質も「スコーン」と大変抜けの良いもので、これが楽しさに拍車を掛けて良い。まさに「ドラム万歳!」な作品だ。
 思えばいかにも不良中年、といったストーンズのメンバーの中で、チャーリーだけは「なんだ、このおじいさんは」という風貌だ。やはりちょっと他のメンバーとは趣の違う男である。(00.9.10)




スピッツ
 
 ベスト盤があったのでそんなに久しぶりという気もしないが、2年ぶり以上の新作である。これは日本のアーティストとしてはかなり長いブランクになる。
 長かったのは当然理由があったわけで、その間彼らは様々な葛藤に悩まされていたようだ。「ロビンソン」病とでも言ったら良いのか。しかし、今作でそいつを見事に吹っ切ったと言えるだろう。アルバム先行第一弾シングル「ホタル」は、いかにも「ロビンソン」風の「みんなが期待しているスピッツ王道路線」の名曲だった。まずそういうこれまで通りのカードを見せておいて、第二弾「メモリーズ/放浪カモメはどこまでも」で「こいつは今までとは違うぞ」ということを匂わせたのだ。特に「メモリーズ」はガシャガシャと歪んだ音を出して、何処かふんわりした柔らかいイメージだったスピッツの、隠されていた一面を顕してくれたのだ。
 その「メモリーズ」はアルバムでは「メモリーズ・カスタム」となって、シングルより一層歪ませた音になっている。彼らの「ロック・バンド」としての意思表示だ。「爽やかな、大人しい女性が好みそうなギターポップ」というイメージを打破すべく、このアルバムはリリースされたのだ。
 確かにこのアルバム、全体的にもこれまでと比べて音が良い意味で「うるさく」なっている。夜聴くにはヴォリュームを下げる必要がある。とは言え、スピッツはスピッツ。これまで築き上げてきた「スピッツ節」は音が少々うるさくなったからと言って変わるものじゃあないのだ。個人的には、彼らにはこうした面があると思っていたので違和感は全く無い。セールス的にも順調だし、そんなに拒否反応は無かったのではなかろうか。逆にもっと物議を醸して欲しかったというのはちょっと意地悪な見方かな。(00.9.3)




TMC ALLSTARS
 TMC Graffiti(シングル)
 ドラゴンアッシュの降谷建二が事あるごとに言い続けてきた「共闘」。一見この時代錯誤的で誤解を招きかねないワードはこういった形で実現したのだ。
 2度全国をツアーしたイベント「TMC」。淙々たるメンバーを紹介すると、ドラゴンアッシュを筆頭に、スケボーキング、ラッパ我リヤ、ミサイル・ガール・スクート、ペンパルズ、RIP Slyme、といった、ヒップホップやパンクのバンドがひしめいているのだ。これは豪華だ。そしてこのCDは彼らのヴォーカリストが全て集結、ちょっとした「We Are The World」的に入れ替わりヴォーカルあるいはMCを入れているのだ。ツアー初日が7/27、このCD発売が7/26なので、ツアー紹介を兼ねた挨拶のようなものなのだろう。何だかほほ笑ましくもあるし、そしてツアー前の気合い入れ、といったニュアンスも伝わってきて、素直に彼らの言う「共闘」ってやつに肩入れしたくなるのだ。「今どきの若者」を批判する方々、いやいや彼らの中には凄いやつがいるんですよ、と言いたくなる瞬間。(00.8.31)




COLDPLAY
 Parachute
 オアシスはセールス不振に悩んでいるものの、また最近UK物が元気だ。前回紹介したマンサンもそうだし、もうすぐレディオヘッドの新作もありそうだ。そしてこの期待の新人バンド、コールドプレイはレディオヘッドとよく比較される存在だそうな。
 音を聴いてみると、確かに叙情的なメロディとちょっと線の細いヴォーカル、という点はレディヘとの比較にもされよう。しかし、本家が持つ胸を掻きむしられるような何とも言えない焦燥感を煽り立てる、「あの」音は彼らにはない。つまり、レディへを聴いたときのような驚きはない。
 とは言え、そんな比較は無意味である。このコールドプレイ、アコースティック色の強い、シンプルなロックを奏でており、これが彼らの美点だ。レディオヘッド云々は念頭から消し去って、このギターの音を聴こうではないか。そうすれば、なかなか良いバンドが現れたということが分かる。決してバンド名のように「冷たい」演奏ではないのだ。これで「一発ガツン」と来る曲があればもう言うことはない。(00.8.27)




MANSUN
 Little Kix
 どうも最近のUK物は軟弱でいかんなあ、とお嘆きの貴兄。これから紹介するこのマンサンも決して骨太・ゴリゴリ系では全く無い。むしろやはりメロディで聴かせるタイプだ。
 しかし、これがやけに良いのである。英国でロングセラー驀進中のトラヴィスや期待の新人ミューズと同系統と言えるのかもしれないが、これら2つのバンドに今一つピンと来なかった私もマンサンには魅かれてしまう。前作も良かったが、この新作もメロディが際立って良いのだ。日本での取り上げられ方も上々だし、かなりFMでもかかりそうだ。もしかすると彼らの作り出すメロディは日本人により向いているのかもしれない。
 軟弱系に分類されてしまうのかもしれないが、このメロディには降参してしまう。そしてそれはバックの音がしっかりしたところにも起因しているのだ。タイトでシンプルな音で、軽いのに骨がある。決して装飾過剰な大げさな音にならないことも好ましい要因だろう。これは「ポップ」ではなく「ロック」なのだから。(00.8.20)




BOB DYLAN
 The Best of Bob Dylan Vol.2
 そもそもディランをベスト盤で語るのは間違っているような気もする。何せ60年代のデビューから現在まで現役、アルバムの数も多くしかも様々な変節を経て今に至っているので複雑なのだ。そしてそれを辿っていくことが大変興味深いことなのだが、実際にそんなことを自分がやっているわけでもない。
 とは言え、この日本編集盤の二作目は、何と言っても「ハリケーン」が目当てだった。ちょうど映画の題材にもなったのでタイムリーなのだが、個人的にも「何故Vol.1の時に収録されなかったのか」と納得が行かなかった名曲だ。実際の出来事を題材にし、しかもあれほど凄まじい内容だったことは最近知ったわけだが、曲だけ摂ってみてもその展開は素晴らしいものだ。これ一曲だけでも買う価値あり、と言える。
 「Vol.1」で超有名な曲は既に収録されているのだが、前述の「ハリケーン」の他には、「激しい雨が降る」「I Want You」「雨の日の女」「追憶のハイウェイ61」を収録。一曲目は新曲で、まだまだディラン健在を確信させるものだ。(00.8.18)




NUMBER GIRL
 殺風景
 叩き付ける。叩き潰す。殴り倒す。斬り付ける。粉砕する。
 もう、こういった形容がもろにハマる、ナンバーガール待望のセカンドだ。それにしても、デヴューアルバムから飛ばしまくって来た彼らだが、今作は音がクリアになって一層迫力がアップした。最初の音に驚いて思わずヴォリュームを絞ったほどだ。もちろん変わったのは音質だけではない。ただただ疾走していた前作に比べ、良い意味でポップになってきたのだ。当然ぶっ飛ばしているのは相変わらずなので安心、いや、暴走度はさらにレベルアップしているのでもはや無敵である。
 クリアな音になったと書いたが、ヴォーカル向井の声は引っ込んでいるのは変わらない。しかし、当然のことながら大人しいのではなく、これで声が前に出てきたら大変なことになるだろう。この位にエフェクトをかけておくのがちょうど良い。
 以前は向井の風貌とキャラクター、歌とのギャップが面白がられもしたが、いつしか何も言われなくなった。もう独自の地位を築きつつあるのだ。と同時に最近ギターの田淵ひさ子が椎名林檎のツアーバンドに加入したり、と話題になっている。これまた大人しそうなルックスに似合わず轟音ギターをかき鳴らす、凄いミュージシャンだ。やはりこのバンド、まだまだ底が知れない。ライヴを見たくなった。(00.8.16)




サニーデイ・サービス
 魔法(シングル)
 ニューアルバムは9月のようで、これは先行シングルとなるのだろうか。それにしても本当に最近のサニーデイは「ツボ」を押えた曲を書いてくる。ポップ・センス爆発!と言った感じだ。買ってすぐに中古屋に売ってしまった時代もあったが、それがウソのようだ。
 ただ、このシングルはこれまでのアコースティック・ネオGS路線からちょっと離れて作り込んだ作品になっている。ヴァージョンが4つもあるのも驚きだが、オリジナルのヴァージョンにしても打ち込み主体の音作りになっている。もちろん今までもそう言った作品が無いわけではなかったが、最もそれがうまく行った、タイトルの「魔法」が似付かわしい曲となった。
 ヴァージョン違いを4つ収めながら、さらにそれらのインストも全て収録している。合計46分というアルバムのような演奏時間、しかし実際は1曲というなかなかにユニークなものになっているが、つまりはこれで1つの作品、ということだ。カラオケ用にインストを入れることが最近の風潮になっているが、それなら全ヴァージョン収録することはないだろう。サウンド面にも自信を持ったサニーデイ、アルバムまでワクワクしながらこの46分のシングルを聴いて待つとしようか。(00.8.10)




中村一義
 1,2,3(シングル)
 昔から「評論家受けするアーティスト」という存在はある。今の所、日本ではこの中村一義がその最右翼、と言っても良いのが現状だ。本人にとってはあまり有り難くないことだろう。
 デヴュー・シングルにライナーがつくこと自体前代未聞、しかもライターが渋谷陽一ということもあって、一部で多いに盛り上がりを見せた彼だが、結局アルバム2枚で前レコード会社は契約を終了させた。そこまで売れなかった訳でもないはずだが、それは「評論家受けするアーティスト」からの脱却を、彼に促した要素の一つであることは想像に難くない。
 と、言うわけでレコード会社を移籍したこの「新生・中村一義」の新曲は素晴らしい。彼の特異性の一つに、「普通に喋る言語を歌詞として歌う」というものがある。これがロックのメッセージの伝達手段として、コロンブスの卵的な衝撃を与えたのだ。しかし、それはロック・ジャーナリストの興奮とは裏腹に、一般的に受け入れられるものではなかった。時代はヒップホップ、というインパクトのある表現方法を選んだのだ。
 この新曲でもこれまで彼が得意にしてきたやり方を踏襲してはいるが、タイトルの「1,2,3」が頻繁に現れることで小気味良いリズムが出て来た。そして解放感溢れる曲調と歌い方と相まって大変印象深いものにしている。これまで彼のアルバムは持っていたものの、今一つ「?」な煮え切らない感想を抱いていた自分も、今回は自信をもって「良い」と言い切れる。いよいよ、「天才」が本性を現すときが来たのだ。(00.8.6)




DEEP PURPLE
 The Very Best of Deep Purple
 「王様」(今は何をしているのやら)の影響もあるのか無いのか、ZEPのように神格化というより少々扱いが「三の線」的になってしまっている感が無きにしもあらず、なパープル。しかし、また私はベスト盤を買ってしまった。これで何枚目だろう。
 しかし、「1枚でかなり長い期間のパープルを楽しめる」と言う点ではこれはまさに「ベスト・オヴ・ベスト」と言えよう。初期のヒット「ハッシュ」から割と新しめ(と言っても80年代)の「Knocking at Your Back Door」まで、およそ20年近くにわたる有名曲の数々。海外のベスト物では定評のある「ライノ」レーベルならでは、の幅の広い、ツボを押えた選曲だ。マニアックな方向には一切行かない、ある意味潔い姿勢がこのアルバムにはある。
 とにかくあらゆるロックファンに、パープルを聴いたことの無い人は特にこれを薦めたい。一体どの曲が好みか、確かめるのも面白いだろう。やっぱり、個人的には9曲目の「ハイウェイ・スター」から10曲目の「スモーク・オン・ザ・ウォーター」が月並みだけど、「来る」。そんなベタが許されるのがパープル。「隠れた名曲」など、彼らには不必要だ。
 ちなみに、全曲デジタル・リマスターが施されて、「多少」音質も良くなっている。ただ、元がそれ程良い録音ではないので、曲によってはそのままの方が良いものもあった。(00.8.3)




電気グルーヴ
 イルボン2000
 ベスト盤か?と言うくらいの選曲。しかし、実はライヴ盤…でもないのだ、これが。
 確かに音源はライヴだ。歓声も入っているし。つまり、あくまで「音源」なのだ。今までありそうでなかった、「ライヴをネタにリミックスしまくり」盤なのである。画期的なのだ。
 最新アルバムの曲は当然として、「誰だ!」「虹」「富士山」あり、そしてあの「シャングリラ」も収録、と超サービス的に豪華だが、すべてライヴ、全てリミックス。これがまた、いいのだ。この様々な曲群が、まさに一つの曲のようにリミックスによって統一されているのである。
 ライヴで生き生きとしているピエール瀧が、卓球のリミックスによって解体されているのが楽しい。瀧がいなけりゃ電気ではないが、そこに卓球の技が炸裂する…まさにこれぞ「電気グルーヴ」の面目躍如、といった感じのベスト・ライヴ・リミックス・ニュー・アルバムとなった。痛快。(00.7.30)




THE YELLOW MONKEY
 8
 個人的にはものすごく待ち遠しかった、イエモンの新作。はっきり言って待った甲斐がありました。
 歌詞カードを取り出すとプレゼント応募券。ここまではよくあることだが、ここ3枚のシングルにこっそり入っていた応募券と組み合わせて応募。景品はTシャツ100枚だそうな。100人ではなく、「100枚が10人に当たる」である。何とまあ、アホな。
 思えば強行日程の無茶なツアー、外部プロデューサーを導入してのシングル三部作。前作からのブランク(ライヴはあったが)はあったものの、バンド的には色々なことがあった。インタビューを読むと、解散してもおかしくない緊迫した状態だったようだ。そんな中での、この傑作。やはりバンドには解散すれすれの緊迫感が必要なのだろうか。ブランキーの事を考えると複雑である。
 しかしメンバーは見事に修業(?)をこなし、自分たちの力で素晴らしいものを作り上げたのだ。「修業」と書いたのはまさにそういうことだろう。シングルでプロデューサーを起用したことは、結局彼らが得られたものは計り知れない力だったということが、この「セルフ・プロデュース」の新作アルバムを聴けば容易に理解できる。
 内容は既発シングルとのダブりが意外と多いが、それも納得できるパワーを持った作品。特に「聖なる海とサンシャイン」は今回は吉井和哉本人のプロデュースだが、シングル(朝本浩文プロデュース)を経由しなければ絶対に出せなかった音だ。まさに盤石。これでもまだ「歌謡ロック」と呼ぶか?いや、良い意味での「歌謡ロック」さは最高に発揮されているけれども。(00.7.28)





Music from and inspired by Mission:Impossible 2
 このタイトル通り、全てが映画に使われたわけではないようだが、全編ロック全開で押しまくるサントラ盤だ。もうあちらこちらで流れているテーマ曲「Take A Look Around」。現在アメリカではトップの人気を誇り、新作もカウントダウン状態のリンプ・ビスキットだ。やはりこの曲も彼ららしいナンバーで、日本でも彼らの認知度は高まるだろう。とにかくハードでダークで、スピーディー、そしてポップだ。
 他にもアメリカン・ハードロック・バンド勢揃い、と言った趣で、メタリカ、ロブ・ゾンビ、バットホール・サーファーズ、フー・ファイターズ(ブライアン・メイと競演)、バックチェリー、と豪華なメンツでいかにも、な感じが出ているのだ。そんな中で清涼剤となっているのがトーリ・エイモス。まさに紅一点女性ヴォーカル。なかなかツボを押えておりますなあ。
 映画を見ていないのだが、このサントラに共通する疾走感は、映画をイメージするのにうってつけだろう。それにしても今のサントラって、こういうロックか、ブラック系のどちらか。もう少しヴァラエティに富んだものはないものか、と思ってしまう。(00.7.23)




PAUL SIMON
 Shining Like A National Guitar
 ポール・サイモンという人は、決して「サイモン&ガーファンクル」の片割れなどというチンケな存在ではない。それはこのベスト盤を聴けばわかることだが、実に多様なアプローチをしているのだ。名作「グレイスランド」で特に顕著になったワールド・ミュージックとのコラボレーション。今でこそよく聴かれるようになった分野だが、それは彼の功績が大きいように思う。あらためて聴くと、初期の曲でもワールド・ミュージック的な要素は十分にあったのだ。確かにS&Gの時代も「コンドルは飛んでゆく」があったが。
 このベスト盤は彼の新旧代表曲がまんべんなくフォローされており、しかもデジタル・リマスターが施されているので音質も良く、各曲の年代の差を感じさせないものになっているのが嬉しい。派手さはないが良い曲ばかりで、S&Gのベストよりもむしろこちらの方を聴くことが多くなるだろう。(00.7.20)




ZEEBRA
 Based On A True Story
 ジャパニーズ・ヒップホップと言えば今やこの人。ドラゴンアッシュ「グレイトフル・デイズ」で「東京生まれヒップホップ育ち」とライムした彼だ。アルバムこそなかなか出さなかったが、先のDAの他にもシュガーソウルなどとの仕事やシングルで露出は多かった。先日NHKにも出演していたのは驚かされたが。
 アルバムの内容は、そうした積極的なメディアの露出に沿ったもの、つまり「ヒップホップの市民権」を得るための闘争とも言える。いつまでもアンダーグラウンドに留まることのぬるま湯感を嫌い、ヒップホップを一般的に認識させよう、という熱い情熱が表われているのだ。確かに今はその時だ。チャンスなのだ。ドラゴンアッシュによってすそ野を広げることの出来た現在、ZEEBRAによって一層ヒップホップはメジャーな表現形態となるだろう。
 「日本にヒップホップは合わない」と言われていたのが、彼のような優れたアーティストが出てくると一体いつの話だったのやら、と思えてくる。日本語でも韻は踏めるのだ。日本でもヒップホップで表現する必然性があるのだ。もう、こんな感想すら古臭くて恥ずかしくさせてしまうのが現状だ。
 ポップスとしても優れたアルバムだ。また、フィーチャリングも多く、この世界の結束感を感じさせて良い。特に姉の方が亡くなってしまった姉妹R&Bデュオ、「ダブル」の参加も嬉しい。(00.7.16)



DRAGON ASH
 Summer Tribe(シングル)
 さあ、暑い暑い夏がやって来た。ってなわけで、ドラゴンアッシュのニューシングルだ!
 それにしてもチューブと見間違わんばかりのジャケット。夏だ。そして内容。これまた、いかにも夏、って感じのチューン。バックトラックも軽快だ。これも彼らの持ち味の一つである。どうしても一般的なドラゴンアッシュのイメージとしては、「革命」を声高に叫ぶミュージックシーンの闘士、といったものがあるだろう。しかし、こういうちょっとおバカなパーティソングをやらせても彼らは超一流なのである。懐が深いと言おうか。
 カップリングはスケボーキングが参加。どちらも理屈抜きに楽しめる曲で、今回はあくまでリラックス・モード、といった趣だ。当然のことながら、新たな闘争モードも期待しているのだが…(00.7.13)



BLANKEY JET CITY
 Saturday Night(シングル)
 もはや泣いても笑っても最後。ラスト・シングルだ。遂にその日が来てしまった。
 CDエクストラ仕様だったり、スクリーンセーバが付いていたりと、妙に最後になってサービスが多い。あの愛想の悪そうなメンバーとのギャップが面白いが。しかし、彼らのファンに対する気持ち、というものを感じ取る事は出来る。
 ライヴで披露されていたことは以前のレヴューでも述べた通り。彼らにしては現代的(?)なナンバーと言え、ある意味非常にポップだ。もしキャリアの途中でリリースされたなら、物議を醸したかもしれない。それ程売れそうな曲だ。
 しかしラストなだけに、この曲、ということが重みを持ってくる。いかにも悲しさに溢れたナンバー、痛々しいナンバー、そう言った曲を最後に持ってこなかったあたりが彼らの凄さなのだ。あくまで疾走感に富んだロックン・ロール・ナンバー。しかしそうでありながら悲しみが漂っている。これがブランキーなのだ。
 とにかく痺れるほど恰好良い。「ロックとはカッコ良さだ」というのを誰よりも体現していたのがブランキー・ジェット・シティだと思う。それにしても、もう伝説になるのか。しかし、自分は誇りに思う。彼らが存在していた時間に立ち会っていたのだ。彼らとロックを共有していたのだ。素晴らしいではないか。(00.7.8)



THE ANIMAL HOUSE
 Ready To Receive
 ライドというバンドをしっている人間はもはや少なくなってしまっているだろう。
 90年代初頭、やたらドラムをパシンパシンと鳴らしまくりながらも美しいメロディを奏でていた彼ら。初期衝動を繊細さを兼ね備えた、ロックにおける新しい提案、とでも言えるそのサウンドは当時「シューゲイザー系」と呼ばれ、フォロワーを数多く生み出したのだ。しかし、アルバムも枚数を重ねるごとにメンバー間の亀裂は深まり、結局解散、と初期衝動を前面に出したバンドが陥る罠に嵌まった形で、その晩年はもはや「ああ、まだいたんだ」という認識でしかなかった、哀れな末路でもあった。
 しかし、彼らが再び表舞台に浮上したのは、アンディ・ベルがハリケーン#1を結成してからである。その威勢の良いサウンドはなかなか良く、2枚アルバムを出した。だが程なくしてアンディがいきなりあのオアシスにベーシストとして加入。何かと話題を提供した。そしてもう片方のフロントマン、マーク・ガードナーの方が長い沈黙を破って遂に復活、結成したのがこのアニマルハウスである。
 前振りが長くなってしまったが、そのサウンドは最近トラヴィスなどのどちらかと言えばメロディ主体の、甘いサウンドが持ち味のバンドとは一線を画している。やはりドラマーがライドからそのままに、ローレンスが叩いていることが強みだ。彼のドラミングは激しさだけでなく、とにかくリズミカル。グルーヴィ。こういうのがUKロックらしさとも言えよう。タイトル曲の「Ready To Receive」がやはり良い。ちょっと大人しい曲も多いが、そう言った曲もノリ、リズムが立っていて心地よい。さて、今後もきちんと活躍してくれるかどうか、ライドのこともあるので不安はあるが、まずは復活おめでとう、という気持ちでいっぱいだ。(00.7.2)