乱れ撃ちディスク・レヴュー
2000年(1)


トライセラトップス
 Groove Walk(シングル)
 思えば、あの骨太なアルバムは彼らにとってどういった意味を持っていただろうか。
 答えは「大変重要な意味があった」だ。それがこのニューシングルに表われている。「踊れるロック」を目指して作られたというタイトル・チューンはまさにその通り。初期の「ポップでちょっとセンチなロック」から「なかなか骨太になったポップ・ロック」となり、そして今回の「リズムのしっかり立った、グルーヴィなロック」という、今までのトライセラでありながら、よりグレードアップした彼らがそこにいる。見事な成長ぶりだ。積極的にテレビにも出てアピールしている彼ら、これでもう2作くらいシングルを出して顔を売っておけばかなり良いところまで食い込めるのではなかろうか。
 そうするとこのシングルの3曲のラインナップは勿体無い。どれをリード・シングル(A面)にしても良いくらいのクオリティ、バラバラに出してもヒットするだろうに…逆にこれくらい余裕があるということか。これは期待できそうだ。(00.6.30)



TAHITI 80
 Puzzle
 「heartbeat」という曲がラジオでもよくオンエアされている、フランスのバンド。フランスとは言え、全て英語で歌われているが。
 バンド名やジャケットから連想する通り、まさに「夏」、な感じがなかなか心地よい。音数は少ないが、一頃流行った「ローファイ」とは違った、洗練された印象がある。しかし、やはり決め手は全編に渡って流れているチープなキーボード(ムーグ?)だろう。これが白眉だ。こういう音は今の流行に合致しており、これからさらに暑くなるに従って人気が出そうだ。とは言え、「heartbeat」以外のオンエア曲が出ないと厳しいかもしれないが。
 メンバーのクレジットを見ると、全員「キーボード」ができるようだ。なるほど、そういう音な訳だ。(00.6.30)



RICHARD ASHCROFT
 Alone With Everybody
 あらためて、この人の「声」には何かある、と言わざるを得ない。以前にシングルもレヴューした、元ヴァーヴのヴォーカリストのソロ・デヴュー・アルバムだ。やはりと言うか、シングルはラジオでもよく掛かったり、「月間推薦曲」にもなったり、とヴァーヴ時代よりも恵まれたオンエア環境に(ここ日本では)ある。こうしたダンスモノ以外の曲がよくオンエアされるのは大変喜ばしい状況だ。
 もっとも、アルバム全体を通して言えることだが、ヴァーヴよりも分かりやすいことは確かだ。イギリスにおいてヒットはしたヴァーヴだが、日本では苦戦した。一部の盛り上がりに終わった。結局来日公演も叶わず、解散してしまったのだ。あの特徴的だったサイケデリックな音、これは音楽好きの心を射止めたが、一般ウケはするものではない。
 しかし、このリチャードのソロ、そういったサイケ路線からは一歩距離を置いたオーソドックスな仕上がりとなっている。正直な話、ヴァーヴというバンドはリチャードの個性ばかりが目立っていたので、ソロになってもあり変わらないのではないか、と思っていたのだ。ところがこのヴォーカリストの王道路線とも言える作風は、より一般的な聴衆に訴えるものだろう。
 そこで際立ってくるのが初めに述べたように彼の「声」だ。オーソドックスな音にも関わらず、明るい音にも関わらず、その声にはゾクリとさせられる。やはりそれは彼の心の「闇」なのか。「愛する者たちに捧げる歌」とか言って、実際は…などと勘ぐっても仕方がないが、インタヴューを読むと、彼の充実感はかなりのものだ。もしかしたら「闇」が去った、もの凄くリフレッシュされた状態なのかもしれない。それであの「声」は以前より一層凄みを増している。それは大変なことだ。今度こそ来日して、その声を聴き、そしてその姿を是非とも拝みたいものだ。(00.6.26)



BECK
 Mixed Bizness (シングル)& Stray Blues
 前者はシングルとは言え、様々なリミックスを加えた、お買い得盤。コーネリアスがミックスしたものもあり、これはオリジナルをクールにした感じ。いかにも小山田らしい仕上がりで、「ベック&コーネリアス」、「コーネリアス・フィーチャリング・ベック」と言ってもおかしくはない。個人的には三曲目のレ・リズム・デジタルのいかにも80年代っぽいリミックスが好きだ。オリジナルのお馬鹿度をより高めている点で凄い。思わず笑ってしまうほどだ。最後の「セックス・ロウズ」(1st. シングル)を下敷きにしたインストも笑えた。ケニー・Gのパロディか。
 後者はB面コレクションと言えるもので、初期の貴重な音源も聴ける、ファン向けの企画だが、これもニューアルバムで聴けるファンキィ・アホアホ路線とは違った、「ローファイ」と呼ばれていた頃のスカスカした脱力サウンドが満載、改めてこれがベックの最大の持ち味かな、と思わせる興味深い作品集になっている。
 こうやって、同時に並べてみたが、両者はまるで異なる性格を持っていることが分かる。果たして天才ベックの次の手は?どっちに近いんだろうか。(00.6.24)



ENIGMA、坂本龍一、フェイ・ウォン、etc…
 〜the most relaxing〜 FEEL
 「音楽に癒されるなど真っ平御免」
 音楽からは刺激を受けたいタイプなので、最近の「癒し」ブームはあまり好きではない。まあ、何度も言っていることだけど。しかし、今一番売れている「癒し系」オムニバス、アーティスト的にも興味があり、聴いてみたわけだ。癒されないように、なるだけ音量を上げて…
 しかし、機先を制された。普通より幾分音量が小さいのである。ううむ、敵もやるな。内容は聞いたことのあるものが多いし、人選もなかなかのセンスを感じさせる。イルカのジャケットでお馴染のアディエマスに始まり、姫神、エニグマ、東儀秀樹、坂本教授(あの大ヒット曲ではない)、マイケル・ナイマン、といった演奏ものでは超豪華と言えるメンバーが集結している。歌モノでも、フェイ・ウォン(これは去年ヒットしたファイナルファンタジーのやつ)、サラ・ブライトマン、オリガ(ポーリュシカ・ポーレ)、とこれまた豪華。
 全編通して聴くと、とっ散らかった印象が無く統一感が感じられ、さすが売れているだけのことはあるな、と思わせるものがある。そしてやはり、どの曲も全く刺激的なものはない。音量を上げても優しい感じに包まれるようなのだ。
 結論としては、よく出来たコンピレーションである。夜のBGMにも良いだろう。しかし、個人的にはやはりちょっと退屈。やはり刺激が欲しい。音楽は汗だ。気合いだ。と、再確認も出来てめでたしめでたし。(00.6.22)



BELLE & SEBASTIAN
 fold your hands child, you walk like a peasant
 邦題は「わたしのなかの悪魔」。ジャケ写からの連想だろう。
 ベル&セバスチャン、略して「ベルセバ」と呼ばれているグラスゴー出身のバンドだが、名前のイメージに違わず心地よいメロディと歌声を奏でる。しかしマスコミ嫌いなのか、余りインタビューや写真が無く、彼らに関する情報は少ない。それでもここ日本においても人気が高いのは何と言っても美しくも儚い、悲しげなメロディだろう。
 「90年代のザ・スミス」とも呼ばれていることもあり、実際の歌詞などはただ綺麗なだけではない、いかにもイギリス(スコットランドだ!と怒られそうだが)、といった一筋縄では行かないもののようだ。もっともサウンドの方は、シンプルなロックバンドであるスミスよりもさらに音数は少なく、60年代から70年代を想起させる「ネオ・ネオアコ」といった趣で、これで総勢10人以上の大所帯バンドというから驚く。
 今まではメジャーな人気が出るには少し地味渋路線だったのだが、この新しいアルバムは多少はポップに仕上がっている。「知る人ぞ知る」存在からステップアップするか?ちょっと楽しみではあるが、やはりそれでは「癒し系」にカテゴライズされてしまう?それも悔しいものがある。(00.6.17)




サニーデイ・サービス
 夜のメロディ/恋は桃色(シングル)
タイトル通り、夜に聴いてみた。なかなか良いよ、これ。
 「スローライダー」以来、ようやく自分たちのキャラクターに目覚めたのか、と思わせるような楽曲を連発している彼ら。この、イカしたタイトルやアナクロ感が炸裂するメロディとアレンジ、アルバム「Mugen」の路線を歩んではいるものの、一層拍車がかかった感じだ。現代に甦る古き良きグループ・サウンズっぽい音を単純に楽しむのも良いが、ちょっと気をつければそこに垣間見える「闇」の存在が…そんな気を起こさせる、それが彼らの持ち味だ。
 アルバムは秋発売だそうな。さらに推し進めて全曲モノラル録音、なんてのはどうだろう?(00.6.15)



B.B.KING & ERIC CLAPTON
 Riding With The King
 「クラプトンのニューアルバム!」の様に宣伝されているが、名義はBBキングが先になっている。敬意を表したものなのか。
 最近のクラプトンは、売れっ子プロデューサーと組んでコンテンポラリーな作品を輩出させると共に、レイドバックしたブルース作品もリリースしている。ブルースは彼のルーツであるので、これは一種のヒーリング効果があるのだろう。こちらで見られるクラプトンは、今の「OL御用達のオシャレなオジサン」といったイメージからは自由であり、何か若々しくなったような感さえある。
 まあ、それも当然といえば当然、ブルース界の大御所、キングとの競演なのだ。御年74歳。しかしバリバリの現役であることはこれを聴けば分かる。ちなみに右から聞こえてくるのがそうだ。そして55歳(もうそんな歳だったか!)のクラプトンが嬉々として、ちょっと緊張しながら演奏しているという図が見て取れて、大変興味深い。ロック界ならば超大物、誰もがひれ伏する(?)存在のクラプトンも、ブルースの世界ではまだまだひよっこなのだ。面白いことである。
 ブルース、というと暗いイメージを持たれがちだが、このアルバムを聴けばそんなことは誤解だったことが理解できよう。とにかく、明るく、楽しいアルバムだ。ここからブルースを聴き始めても良いだろう。(00.6.10)



(番外編)乱れ撃ち・ライヴレヴュー
 ブランキージェットシティ(石川県厚生年金会館)
 出張中、ラジオでの情報が本当に有り難かった。何せ、解散の決まったブランキー、まだチケットがあるというのだからこれは買うしかないでしょう。しかも当日の予定はちょうど金沢。行くしかないでしょう。会場はホテルから歩ける距離。もう願ったり叶ったり。
 さて当日。私の席は最後列から3番目であった。しかし高くなっているし、それ程遠いわけではない。ほぼ正面というのも良い。これならバッチリだ。
 それまで流れていたパンクが鳴り止み、激しいドラムの鼓動。歓声。スポットライト。最強の3人が登場だ。オープニングは新作から「サリンジャー」。ベンジーの声は好調そうだ。それにしても3人とも決まっている。バック・ミュージシャンもなし、3人が並列にポジションをとっており、あくまで「主役は3人」、というスタンスが見て取れる。
 4曲目が最新ヒット「SEA SIDE JET CITY」。やはりこれはかなりCMの影響もあってか、盛り上がる。隣のカップルは、どうやら女性の方がファンだったようだが、この曲には男性の方もノッていた。しかしまあ、良くあんな甲高い声が裏返ったりもせずに出るものだ、と改めて感じる。耳だけでなく、心臓までも突き刺すその声。
 知らない曲に一瞬会場が戸惑いを見せるが、どうやらラストシングルになる、「サタデーナイト」だ。彼らにしてはちょっと「売れ線」っぽい感じの気もするが、ラストなのだ。どんな曲でもOKだ。本当に最後なのだなあ。
 「風になるまで」は好きな曲の一つ。場内も合唱。基本的にどの曲もレコーディング通りのアレンジだが、生演奏の迫力はライヴならではのもので、どの曲も完成度が高いことがわかる。特に達也のドラミングは鬼気迫るものがある。
 照ちゃんがウッドベースに持ち替えての「I LOVE TOKYO」「DERRINGER」も見どころの一つ。とにかく恰好良い。CDではあまり目立たなかった「DERRINGER」のウッドベースがライヴでは際立って聞こえた。
 「赤いタンバリン」でひとまず3人は退場。それまで一切MCは無し。一気に走り抜けた、という感じだ。そしてアンコール。そこで初めてベンジーが口を開く。
 「アンコールありがとう」
 「解散しても3人は、みんなの心の中に…いる!」
 と、普通ならクサくなってしまいがちなことであっても、ベンジーの口から発せられるともの凄く恰好良い。
 「悪いひとたち」かと思ったが、新作からの「不良の森」だった。これは納得。大作である。それにしても、「不良」という言葉がこれほど似合う3人はいないが、ろくでもない形だけの「不良」っぽい連中の何と多い世の中であることか。
 盛り上がる「D.I.Jのピストル」の後は3曲ばかり英語詞のセッションナンバー(の様な曲)を演奏して、唐突に幕を閉じた。
 全体的には全てのアルバムを持っているわけでない自分でも殆ど知っている曲ばかりの、サービス精神溢れる、素晴らしくクオリティの高いライヴだった。いや、本当に行って良かった。もう3人はバラバラになってしまうのだから。3人とも超絶的なミュージシャンであることが良く分かった。ある意味、解散してしまうのも理解できた。こんな凄い3人が一緒では、いつかは離れるときが来るのは当然といえば当然だ。3人であれだけのグルーヴを叩きだしているのだから。火花が散るような、聴く者にも緊張感はびんびん伝わってくる。これを10年もの間、持続させただけでも凄いことなのだ。それを納得しつつ、しかし当然残念に思いながら会場を後にした。(00.6.4)


SUGAR SOUL
 うず
 本当のタイトルはぐるぐる巻きのマークになっていて、「うず」と読みます、などと注釈が親切にもしてあるのだ。
 以前からクラブ系アーティストとしては実力を発揮していた彼女(アイコ、「カブトムシ」のaikoとは当然別人)だが、ドラゴンアッシュ降谷との「Garden」で一躍メジャーな存在になったのは周知の通り。ZEEBRAとも組んだりして話題を提供した後、遂にフルアルバムが完成した。
 一言で言って「センスの良い」アルバムだ。それは有名になる前からそうなのだが、クールな肌触りはそのまま、しかし降谷建治やZEEBRAの影響は彼らが参加した以外の曲にも見事に結実しており、どんどん自信に満ちあふれて行くのを感じさせる。前作のどちらかと言えばアンドロイドのような感触から生身の人間への成長が見られるのだ。
 このシュガー・ソウルも「R&B」とか「ソウル系ディーヴァ」として括っているような風潮が、まあ当然といえば当然だがまかり通っているのが現状だ。しかし、彼女は朗々と歌い上げるタイプではないし、実際「歌がうまい」という訳でも決してないと思う。あくまで「媒体」次第で生きるタイプだ。もっとも前述したように、今回そこから一歩足を踏みだしたことも確かだ。(00.5.28)



塩谷哲、山下洋輔 etc.
 Memories of Bill Evans
 ジャズ・ピアニストの大御所、ビル・エヴァンスの生誕70年、没後20年記念、ということで7組の国内ピアニストが参加したトリビュート盤である。録音にも最高の技術が用いられており、オーディオファンには堪らないソースとなっている。
 さて、自分ははっきり言ってジャズ初心者だ。ビル・エヴァンスもCDを1枚持っているだけ。あまり偉そうなことは言えない。しかしそれでも、言わずにいられない。「これって、ジャズなのか?」ということだ。確かに、皆もの凄い演奏をしているのは素人目(耳?)にも理解できるのだが、あまりにも「奇麗」で「上品」なのだ。録音も然り。思わず「うわー」と言うほど良い音だ。しかし、しかし、だ。ジャズって、偏見かもしれないが良い意味で「猥雑」なものなんじゃないのか?現代のジャズは上品なものなのかもしれない。ハードバップなんて今どき流行らないのだろう。でもなあ、なんか「癒し系」みたいで、こういうのは…どうもなあ。みんなこういうほうが好きなのかなあ…大人だなあ、やっぱり…(00.5.26)



PEARL JAM
 Binaural
 ある意味、現在最もオーソドックスな「ロック」かもしれない。ヒップホップを取り入れたりと言った新しさは無いが、伝統芸能と化した古臭さは一切感じさせない。このパール・ジャムの新作はいつの間にかシーンにおいて特異な位置を占めているような気にさえさせられる。
 曲も「ロック」のオンパレードだ。先行シングル「Nothing As It Seems」こそ、これまでとは違うミディアム・ナンバーだったが、他はもうロック、ロック、ロック!素晴らしい。もはやヴェテランと言ってもいい存在だが、シリアスでシニカルな歌詞といい、相変わらず良い意味で「尖った」ものを持ち続けるエディ・ヴェダーには生き続けて頑張って欲しいし、日本でのヒットも期待したい。
 当時同期とも言えるニルヴァーナ(=カート・コバーン)ばかりが日本ではクローズアップされてしまい、「ニルヴァーナは好きだけど、パール・ジャムはあんまり…」という状態が出来上がってしまっていたのが残念だ。確かにニルヴァーナは「ポップ」さが売りとも言えた。それに対してパール・ジャムは何処か陰うつに聞こえた。しかし「グランジ」という言葉も死語となり、カート・コヴァーンは伝説となって椎名林檎の歌詞に登場する存在となった。
 このアルバム1曲目のイントロは、これから始まるロックへの期待を十分に感じさせるもので、それは最後まで裏切られる事はない。ニルヴァーナ「Nevermind」が、まさにそういうアルバムだった。つまり、遂に彼らの時代が…(00.5.22)



NEIL YOUNG
 Silver & Gold
 何か最近、ヴェテランばかり聴いているような。偶然でしかないけど。
 さて、ニール・ヤングの新作は「ハーヴェスト・ムーン」以来のアコースティック・アルバムとなった。「CSN&Y(クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング)」の再結成アルバムが契機となったようで、ロックアルバムの時はカミソリのような切れ味を持つニールのギターも、若干ウォームな肌触りがある。しかし、こういったアコースティックものには異常に強いニールのこと、ただのユルいカントリー調の作品ではない。やはりあの怖い顔(失礼)でギターをかき鳴らして歌っているのを想像すると、何か緊張感がひりひりと「来る」のだ。さすがである。(00.5.19)



THE BEACH motion picture soundtrack
 デカプリオ主演のこの映画のことは全く知らない。あまり見ようという気もしない。参加アーティストを見てこのサントラを買ったので、逆にジャケットレオ様が写っているのは、何となく恥ずかしいものがある。
 それはともかく、さすが監督が「トレインスポッティング」の人だけあってメンツはブリティッシュで良い。アンダーワールド、レフトフィールド、モビー、エイジアン・ダブ・ファウンデイション、ブラー、そしてニュー・オーダー!リチャード・アシュクロフトもいる。これは豪華だ。強力なナンバーというのが無いのは惜しいが、アーティストだけで買いである。あ、ちゃんと売れ線も押えていて、実際巷で良く流れているのはオール・セインツで、この曲がメイン扱い。自分は逆だが。(00.5.18)



BILLY JOEL
 2000 Years The Millenium Concert
 ビリー・ジョエルの名を最近でこそあまり聞かなくなったが、一昔前は洋楽入門にはうってつけのアーティストで、自分もその一人であった。とにかく分かり易いポップス、そしてあまり過激ではないロック、という悪く言えば当たり障りの無いものだが、それをスタンダードナンバーにしてしまえる力が彼にはある。それはなかなか出来ないことだ。
 さて、久しぶりの新作は「ミレニアム・コンサート」のタイトル通り、ライヴ盤(二枚組)である。もうポップスはやらないものだとばかり思っていたので、今回のヒット曲オンパレードにはびっくりした。そして意外に声も若々しく、そして嗄れることもないというのは、さすが一流のエンターテイナー、と唸らせるものがある。クラプトンのように「ドラッグまみれ⇒オシャレなおじさん」という道を歩んだり、ストーンズのようにまだまだ転がり続けていたり、とキャリアの長いアーティストは様々だ。それについて賛否両論あったりするが、ビリーについては順当な年の重ね方をしている、という印象が強い。
 ちなみに自分が聴いたのは輸入盤だが、国内盤にのみ「素顔のままで」が収録されている。(00.5.14)



BLANKEY JET CITY
 Harlem Jets
 「解散」?!どうやら誤報ではなさそうだ。しかし、当然のことながら信じたくない。もう、3人でやるべきことはやってしまった、ということだろうか。それにしても、思わず「ウソだろ?」と声をあげずにはいられない出来事だ。この新作の封を開けると、「ラストダンス」と銘打たれたファイナル・ライヴの案内が。ああ…
 正直言って、素直にレヴュー出来ない状態だが、期待以上の傑作に仕上がっており、それはそれで満足だ。「これが最後」という集中力がもたらしたものだろうか。しかし、だ。そんなもの無くたって彼らは十分傑作を作ることが出来るのだ。これからだって出来たはずではないか。
 ラストナンバー「Come On」。ブランキーにしては明るいナンバーだ。何故こんなに明るいのか。この明るさで終わられてしまった。何もそんな…そうやって、人の胸にぽっかり穴を開けてブランキー・ジェット・シティーの最後のアルバムは無愛想に幕を閉じる。(00.5.11)



RICHARD ASHCROFT
 A Song For Lovers(シングル)
 90年代を代表する名盤だった、ザ・ヴァーヴの「Urban Hymns」。結局来日も叶わぬまま解散してしまった彼らだが、待ち望まれていたフロントマン、リチャードのソロ・シングルがリリースされたからには聴かずにはおれない。
 タイトル曲は随分とポップな、分かりやすいもので、ちょっと驚いた。普通、解散したバンドのヴォーカリストのソロ、というのは何故か「地味」という印象があるのだ。まあ、あくまで印象に過ぎないのだが、それにしてもキャッチーな楽曲である。これなら日本では、紹介の仕方によってはヴァーヴ時代より売れても不思議ではない。この曲調には賛否両論あるだろうが、インパクト、という点ではこれをデヴューシングルに持ってくるのは正解だと思う。
 他の2曲(輸入盤)はどちらかというとヴァーヴ時代に近いもの。とにかく、彼の声を聞けただけでも十分、という期待以上の、予想外の出来(失礼だが)の3曲だ。(00.5.11)



LOU REED
 Ecstasy
 ジャケ写のルー・リード本人がタイトル通りの顔になっているため僅かに脱力させられるが、内容はなかなかのもの。
 声こそ「ド渋」と言って良いものだが、意外にロックンロールしてのには驚いた。考えてみると、あの暗黒大王のようなヴェルヴェット・アンダーグラウンドから数えると一体何十年のキャリアになるのか。当時の方の元気が無い音楽を演っていたので、今が随分変わったような、明るくなったような印象を受けてしまう。まだまだ頑張っているな、おじさんは(失礼)。
 最近の傑作「New York」(と言っても10年も前だが)に匹敵する作品と言って良いだろう。ただ残念なのは一曲でも目立つものがあれば良かったのだが。全体のクオリティが高いだけに惜しまれる。と、言いながら4月は結構聴いたんだけど。(00.5.5)



ELLIOTT SMITH
 Figure8
 この人のようなアコースティック系のフォーク・ロックが最近日本でもよく耳にするが、こういうのもいわゆる「癒し」として消費されているのだろうか。
 自分は音楽に「癒し」など求めていないのでどうでも良いのだが、それとは関係なしにこのエリオット・スミスは地味ながら良い味を出しているシンガーソングライターだと思う。何せルックスも地味なところが逆にイメージを印象的なものにしてしまうのだ。それはともかく、この新作は結構ロックしていて良い。明るさはないものの、シンプルなバンド・スタイルで奏でられる曲群はポップでさえあり、これなら一般的にもファン層が拡がりそうだ。
 「良い音楽を書けるのはみんな悪いやつに違いない」などと半分本気で信じているのだが、いやいや、こういう「いい人(そうな人)」がもっと日の目を見たって、ねえ。(00.5.4)



エレファントカシマシ
 Good Morning
 音的には一曲目の超絶シングル「ガストロンジャー」が普通の曲に思えるほど変化している。
 それは、打ち込みの多用だ。バンドとして、というより宮本自身がもはやエレカシなのだ、という意志表明のようにも思える。それがここ最近の叙情的なアコースティック・バンドというイメージを自らぶち壊している。思えば、「今宵の月のように」が売れ、婦女子にもファンが出来たり、ということは宮本にとって居心地の良いものであったのかどうか。前作が今一つの結果に終わったあと、突如として「ガストロンジャー」という原点に返ったと言うには失礼なほどブチ切れたシングルを発表、その衝動の向う先であるべきアルバムの行方には大いに興味がそそられた。
 アルバム全体でも「武蔵野」は前作の路線を多少なりとも踏襲してはいるが、それ以外はメロディアスだとかそういった言葉とはかけ離れたものになっている。前述したように打ち込みが全編に渡って音を支配しており、宮本の叫びがよりクローズアップされている。「So Many People」もシングルの時(ドラマのタイアップでもあった)の様なバンドサウンドではなく、打ち込みである。
 このアルバムは聴く人間をかなり選ぶものであることは間違いない。しかし、より多くの人間に耳を傾けて欲しい、という宮本の思いは最近のテレビ出演でも明らかだろう。まあ、あれがプラスかマイナスかは分からないが…(00.4.30)



綾戸智絵 
 Love
 もう新作。もの凄いペースである。出る、とは知らなくてたまたまレコ屋で見つけて購入した。
 今回も怒濤のヴォーカルは健在、CDを大音量で鳴らせばそこはもうライヴハウス。酔いしれましょう、浸りましょう、共に歌いましょう、ノりましょう。
 今作もジャズやスタンダードナンバーだけでなく、例えば槙原範之の「どんなときも。」(これがまた、直訳的な英語で最高)や、ビートルズ「デイ・トリッパー」、色々なアーティストが歌っている「好きにならずにいられない」など、親しみやすい、ある意味直球な曲を「カバー」している。アルバムタイトルの「Love」はジョン・レノンだ。こういったベタとさえ言える超有名曲、「これをジャズで歌うのか!」というポップスを自分流に歌い上げてしまえるのが強みだろう。ジャズでも「ワーク・ソングス」や「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」といった超スタンダードを演っているので、ジャズをあまり聴かない人でも十分に引き込むことができるのが人気の要素の一つだ。
 しかし、人気の最大の理由がこの、唯一無二の「ヴォーカル」であることは言うまでもない。心して聴こう。(00.4.22)



ノーザンブライト
 Northern Songs
 テレビで初めて彼らを見たとき、見かけとその実年齢とのギャップに驚いたことがある。実際は30前後なのだが、どう見ても25以下にしか見えない彼らは、それだけでUKロックっぽい。さらにこのアルバム、ジャケットといい、曲のタイトルといい、見事にUKしている。来日したオアシスの前座を勤めたのも頷ける話だ。
 曲の方もUK的。とは言ってもWINOのようにはっきりとどのバンドに似ている、というものでもなく、しっかりした演奏と実力を伺えるので新人バンドとは思わせない。そこはさすが、意外に「年の功」と言ったところか。
 ただ、「地味」な部分もUKロック的である。時々ふっと聴いてみたくなる良いアルバムであるが、「売れる」となるとまだ難しいかも。彼らはそれでも良いのかもしれないが…(00.4.21)



MUSE
 Showbiz
 さすがに最近はUKもの(以前はブリット・ポップなどと呼ばれていたが)で有望な連中が登場しないなあ、などと思っていたところにこのミューズが「ちょっとだけ」話題だ。
 一聴すると、レディオヘッドを想起させる(プロデューサーも同じ)が、少し違う。あれほどの悲壮感はこのバンドには感じない。もう少しポップだ。他のUKバンドのヴォーカルが技術的にはあまり上手くないのに対して、このヴォーカリストはかなり歌がうまい。これが際立った点で、演奏力にしてもそのレベルは高い。こうした特徴がこのアルバムをデヴュー盤とは思わせない落ち着きと完成度をもたらしている。逆にそれが仇となる危険性も秘めてはいるが。これからどう成長するのか?という楽しみが無いのだ、ここまで完成していては。文句言い過ぎかな、こんな良く出来た作品なのに。でもやはり少し不満、「青さ」がもう少し欲しいところ。(00.4.18)



ザ・コブラツイスターズ
 FMで彼らの「サクラサク」をよく耳にしていたのだが、そのダサく、恥ずかしいフレーズが逆に妙に気になってアルバムを買ってしまった。
 しかしそれは正解。ウルフルズが最近どんどんシリアスになってしまっているので彼らのような存在は必要だ。ヴォーカルがもの凄く前に出て聞こえるのも凄いが、演奏も三味線を使ったりと、和風な部分とオーソドックスなロックがうまく融合されている。「サクラサク」の他にもCMに使われた曲もあり、楽しい作品に仕上がっている。この「ダサさ」と「男臭さ」を売りに、もっともっと上に行って欲しいバンドだ。(00.4.16)



TRAVIS
 The Man Who
 レヴューしていなかったのだが、昨年リリースして未だイギリスでは売れまくっている彼ら。日本ではまだそれ程知名度はないが、シャーラタンズも、ブラーも、そしてオアシスも今やセールス面で彼らには勝てない。スーパーバンドなのだ。それは一体何故か。そういえば、数年前イエモンがイギリスでライヴをしたときに対バンだったそうな、当時。ま、それは置いといて。
 このトラヴィス、特徴はポップス性が強いロック、という以外に言葉が見当たらないバンドである。激しさがあるわけではなく、かと言って軟弱ではない。聴きやすさ、という要素ではかなりの高得点だろう。オアシスなどはヴォリュームを落として夜聴くよりも、やはり昼ガンガンに鳴らしたいが、トラヴィスは夜聴いても悪くない。甘々なポップスでもないのでロックリスナーにも受けが良いだろう。どうやらこの微妙なバランス感覚が一番のヒットの要因なのだ。個人的にはあまり引っ掛かりが無くて、物足りなさがどうしても目に(耳に?)付いてしまうが…(00.4.16)



BLANKEY JET CITY
 Sea Side Jet City(シングル)
 こりゃまた、痺れた!もうブランキー一直線な新曲だ。
 ちょっとビートルズを思わせるイントロから、ベンジーの声がそれに割って入る。もう最高。血管の切れそうなハイトーンヴォイスが炸裂、演奏もテンションが高まる。こういう緊張感のある、張りつめた音をやらせたら彼らの右に出るものはいない。まさにカミソリ。切れ味抜群である。思えば、ベンジーのこの高い声、ヴィジュアル系の高音と同列にして食わず嫌いな方もいるかもしれないが、そういったモノとは一線を画する存在感のあるものだ。あまりBGMには向かないもので、どこかで耳にすると辺りには違和感が立ちこめる。それが凄い。好き嫌いを分けるところだろう。
 とにかく、早くアルバムを!(00.4.14)



坂本サトル
 終わらない歌
 いわゆる「弾き語り系」の新人かと思いきや、キャリアの長い人で、「ジガーズ・サン」と言うバンドのヴォーカルを務めてきたとのこと。そういえば聞いたことがあるバンドだ。結構良質のロックをやっていたのではないか。うろ覚えで大変申し訳が無いが。
 とにかく、バンドから弾き語りに転身、ストリートで火がついて再デヴューというわけだ。そうやってさらりと書いてみたが、これは本人にしてみれば一筋縄では行かない道筋だっただろう。その過程ではかなりの葛藤や悩みがあったはずなのだ。この作品は彼のそうした内面の戦いが映し出されているようで、フォークまがいの弾き語りとは一線を画したものになっている。やはりそこには「ロック」なものが迸っているのだ。これが今の強みになっている。
 そしてこの声。耳にも心にも引っ掛かりやすい声だ。山崎まさよしもそうだが、「一度聴いたら忘れない」ものだ。現在一部で熱く盛り上がっている、という状態ではあるが、ブレイクの可能性は十分あるアーティストだ。(00.4.11)



BONNIE PINK
 Let Go
 これが本当のボニーピンクなのだろう。
 ベスト盤やシングルを立て続けにリリースしていたので、「久しぶり」という感はないが、これこそ正真正銘、待ちに待ったボニピンのニューアルバムだ。最近の流れから分かっていたことだが、ここからの彼女は新しい章に入ったと言える。これまでのスウェーデン録音からアメリカへの転換。プロデューサーはトーレ・ヨハンセンからミッチェル・フルームへ交替。「全て自分色に染め上げる」タイプのトーレとは違って、ミッチェルはスザンヌ・ヴェガなどを手掛けたりしており、「素」の魅力を引きだすのに長けたプロデューサーだ。ジャケットのインナースリーブにも二人で写った写真が多く、彼との共同作業だったことが窺い知れる。
 というわけでこの「素」の魅力がたっぷり詰まったこのアルバム、以前のような派手さは後退している。そういえば髪の毛も以前のショッキングピンクではなく、金髪からさらにブラウンになって随分地味なルックスになった。セールス的にもちょっと厳しいかもしれないが、こういうシンプルな、飾り気の無い「いい曲」にもっと耳を傾けて欲しい。彼女の声には他にはない独特な魅力があるので、その強みで廃れることなく息の長いアーティストになるだろう、そういう気にさせる作品だ。(00.4.9)



BUMP OF CHICKEN
 The Living Dead
 今どき珍しいとも言えるオーソドックスなスタイルのニューカマー登場だ。
 ドラゴンアッシュの台頭は日本に於けるヒップホップカルチャーを目覚めさせたが、同時にロックバンドでもある彼らは、「ロック」の無限の可能性をも引き出したとも言えよう。ロックは何でも出来るのだ、と。
 このバンプ・オヴ・チキンは、決して新しさを感じさせるようなバンドではない。とにかく「ロック」としか言い様のないものだ。8ビートで、メロディはたまらなく「来る」。表現はしづらいが凄い奴等が現れたことだけは確かだ。このヴォーカルの声が印象的で、何かこう、歌っているだけで涙を流させるような、そういった力が彼にはある。これは希有な存在だ。特にシングルでもあった「ランプ」は最高。泣けます。(00.4.9)



THE YELLOW MONKEY
 Shock Hearts(シングル)
 次々にリリースされる「実験」シングル、今回はスガシカオなどを手がけた人がプロデュース。
 タイトルは「触発」に引っかけてあるわけだ、なーるほど。前からこの手の言葉遊びは好きな人達なので、お手の物だろう。前2作のシングルがかなりシリアスな曲だったのが、今回はグラム・ロック調のゴキゲンなナンバーで、こういう曲をやらせたら彼らは本当に上手い。初期の代表曲に「Rock Star」というナンバー(恰好良い!)があるが、これに近い感じだ。それにしても、この時代にグラム、というのも彼ららしくて良い。時代の潮流とは別のところにいて、なおかつ一定の評価をセールス面でも保っているのは素晴らしいことだ。
 前作「聖なる海とサンシャイン」はあまり評価が芳しくなかったが、自分はかなり好きな曲の一つになっている。ジワジワと来るのだ、あれは。今回は逆に即効性のある曲で来た。さて世の評価はいかに?グラムが売れて欲しいなあ。
 ジャケットはあの、永井豪先生のイラスト。これがまた、裏ジャケと合わせて素晴らしい。(00.4.7)



PAUL WELLER
 Heriocentoric
 解説じみたことはライナーノーツで増井修氏(元ロッキングオン編集長、新雑誌近日創刊?)が語り尽くしている(当然日本盤のみ)が、地味なアルバムである。もっとも、ソロになってからのこの人の作品というのは基本的には地味だ。だからして、当然のこと新しいファンを獲得することはまず無いと言って良いだろう。しかし、この声を聞きたくて必ずアルバムを買う、という方にはやはり素晴らしい作品なのだ。何せポール・ウェラーなのだ。UKロック界の「兄貴」なのだ。問答無用の存在と言って良かろう。
 地味とは言ったが、この人の声を聞いていると無性に「熱く」させてくれるものがある。さすが兄貴、熱血である(実際はそういう人でもないが、イメージとして)。ただ、これまでのソロ作と違って暑苦しさ、重苦しさと言った要素は少なく、かなりリラックスした感じが窺われるのが興味深い。精神的な充実がそうさせているのだろうか。こういう「大人の余裕」を持ったポール、というのもなかなか良いものだ。(00.4.3)



椎名林檎
 勝訴ストリップ
 特に最近のことだが、どうも林檎嬢を見ているといたたまれない気分に襲われる。あまりに多いメディアへの露出、それに伴う有名税の支払い(写真週刊誌の報道など)が、彼女の心を確実に切り裂いているのではないか、と。現にインタヴューでは弱気な発言も見受けられた。このままでは、カート・コバーンの様になってしまうのではないか?と、大げさに気をもんでしまう。
 しかし、このニューアルバムがそんな私の杞憂など、まるで別の次元へ押し流してくれた。
 率直に言うが、これは大傑作だ。
 既に昨年のうちに完成されていたという、この新作はとにかく内容が濃い。シンメトリカルに配列されている曲順もナイスだが、中身はもっと凄い。とにかく現在の椎名林檎が全てここにある。前作では少々自分を「演じて」いた感もあったが、今回は「素」の彼女が全開なのだ。逆に言えば、ここまで心情を吐露しまくって大丈夫なのか、という気にさえさせられる。また最初に述べた心配に突き当たるわけなのだが…そうは言ってもこれが傑作であることに変わりはないので困ってしまうが。結局彼女はこうやって自分の身を削って作品を生み出すタイプなのか。体には気を付けてくれ、としか言い様がない。
 これは当然のように売れるだろう。歌詞の内容を深く考えなくても高機能のポップ・ソングとして十二分に流通する力が溢れているのだ。しかしそうするとまた、心配になってしまう。困ったものである。(00.4.1)



LED ZEPPELIN
 Latter Days
 いつ出るかと、楽しみにしておりました。
 今回のベストは「聖なる館」から「イン・スルー・…」までからのセレクト。まあ、「リマスターズ」の二枚目と余り変わらないが、ほぼ異論はない。そりゃ言い出せばきりが無いが、最大公約数的にはこれだろう。どの曲もロックの可能性をフルに引きだした名曲ばかり。入門者は前期しか知らない、あるいは「天国への階段」しか知らない人も多いと思うので、是非こちらも聴いてみることをお奨めする。
 上手いこと半分に分かれるものだな、とつくづく感じる。つまり、ハードロックの代名詞とも言える「Early Days」と、何かアートの香りすら感じさせる造形芸術的なこの「Latter Days」。後期ZEPというのは単なるハードロックの枠を銀河の彼方へ吹っ飛ばすようなもの凄い曲を作っていたことがこれを聴けば理解できるだろう。それでいて難解にならず、ポップなところが彼らをして伝説の存在たらしめていることは間違いない。それにしても、何故あの4人でしかそのマジックは発揮されなかったのか、というテーマは幾度となく言われることだが、現在のボーナムを除く3人の活動を見ていると、やはり考えさせられてしまうことだ。(00.4.1)



奥田民生
 Goldblend
 一体この「ユルさ加減」はどこから来るものなのだろうか。
 思えばユニコーン時代から、ずいぶん長いキャリアを持つ人である。しかし評価は下がるどころかうなぎ登り、もはや別格となった感すらある。誰かこの人をまともに貶せる人はいるのか?「ただの釣り好きじゃあないか」などと、思いっきり的外れな事しか言えないではないか。
 大体このタイトル「ゴールドブレンド」にしても、「最近やっとコーヒーが飲めるようになったんで…」という答えとの事。もう「らしい」としか言い様がない。素晴らしい。収録曲もまた同じこと。「マシマロ」「ウアホ」「たったった」…もうまったく。
 この人は「努力」とかそういったものは似合わない。「天才」なのだ。もちろん「天才」は「努力」無くしてありえないとは思う。もしかしたら人知れず黙々と、釣りに行った振りをしながら…やっぱりそれはないのかなあ。素晴らしい。(00.3.26)



AC/DC
 Stiff Upper Lip
 何と久しぶりな。あのAC/DCの新作だ。アンガス・ヤングは相も変わらず半ズボンで頑張っているのだ。一体幾つなのだ。…などと言っても何せ最近すっかり鳴りを潜めていたから知らない人も多いかも知れないな。
 とにかく、自分にしてもこれだけシンプルなハードロックは最近聴いていなかったので逆に新鮮なものがあった。ギターがギュインギュイン、ベースは地を這い、ドラムは楽しそうに、しかし重たく鳴り響く。そしてハイトーン、と言うのかしゃがれ声のヴォーカル。やはりヴォーカルに年齢を感じ取ってしまった感もあるが、ロックの爽快感、疾走感、ポップ性、そしてエンターテイメント性を全開にした彼らの様な存在は貴重だ。たまには「伝統芸能」も悪くはない。特にこのギターのリフ。やっぱりこれがロックだぜ、という気にさせられてしまう。(00.3.24)



グレイプバイン
 Here
 相変わらず彼らの奏でるギターサウンドは心地よい。
 基本的には前作を踏襲した路線と言ってもいいが、やはり今作の方が自信に満ちあふれている。既に彼らのスタイルは完成していた、ということだろう。その自信はサウンド面での力強さに現れている。特に先行シングル「Reverb」は、アルバムにはヴァージョンを変えて収録されているのだが、これが少し変えただけなのだが物凄くガッチリしたロック・サウンドになっており、この曲だけでも大変いい買い物をした気にさせてくれる。
 つまり、最初に「心地よい」と書いたが、サウンド面、それにヴォーカル面で「筋肉」が付いてきたことで、それだけではない特長が出てきたのが今作だ。トライセラトップスの新作もそうだったが、本当にたくましく、骨太になってきた。あとはセールス面。これには異論もあるだろうが、やはり売れて市場に認めさせないと、ここまで来た意味はないと思う。欲を言えばアルバムだけでなく、シングルも売れ(オリコン5位程度は)なければならない、本当は。(00.3.23)



SANTANA
 Supernatural
 サンタナである。往年のロックファンならご存知の「哀愁のヨーロッパ」「ブラック・マジック・ウーマン」の、カルロス・サンタナである。この昨年リリースされた新作、もう承知の方もいらっしゃることだろうけれども、今、彼の地アメリカでは売れまくりなのだ。それどころか、グラミー賞9部門独占なのだ。一体どうなっているのか、と遂に手に取ったわけである。
 なるほど、よくラジオでもかかっていた「スムース」を中心に、大変良く出来たアメリカン・ロックアルバムに仕上がっている。ゲスト陣もローリン・ヒル、クラプトンなどと豪華であり、売れてもちっとも不思議はないものだ。でも絶対「過去の人」として扱われていてもおかしくないサンタナが、これだけのヒットを出すことになろうとは。郷ひろみじゃあるまいし。
 とは言うものの、この人のギター・サウンドは相変わらず一聴してサンタナと分かる個性を変わらず持ち続けている。もっとも余りに分かり易すぎるからなのだが。それがこうした売れるアルバムを作ればまだまだ現役であることを証明したのだ。タイトルも言いえて妙だ。(00.3.19)



DRAGON ASH
 Deep Impact(シングル)
 出たぞ!
 アルバム出してからどうしちゃったの?などと言われているかもしれないが、シュガーソウルやMIHO(自分の彼女ですな)をプロデュースしたりコラボレートしていた降谷建志(&ボッツ)。ついにドラゴンアッシュとしての活動を再開。まあ曲は前からCMでさわりの部分が流れていたのでとっくに出来ていたものだろうけども。「グレイトフル・デイズ」ではZEEBRAやACO(それから二人ともずいぶん注目される存在になった)が共演していたが、今回もヒップホップ界から「ラッパ我リヤ」をフィーチャーしている。
 さてリードシングルはバキバキのヒップホップチューンに仕上がっていて、彼ら自身のプロデュースは「熱さ」を感じさせるいつものドラゴンアッシュ節と言えるものだが、2曲目は同曲をDJクラッシュがリミックスしており、これが逆にもの凄く「クール」な仕上がりでその違いが面白い。リリックも「革命」「日本を変える」「壁はなくなる」など、大ヒットしたアルバムを経て彼らは満足するどころかまだまだやる気である。これが何と言ってもうれしい。革命はこれからなのだ。(00.3.16)



ASIAN DUB FOUNDATION
 Community Music
 ダンス・テクノ系からはかなり注目されている人達だが、名前からも分かるようにアジア系である。そして音の方もアジアン・テイストを巧みに取り入れ、ファーストアルバムはかなりの評価を得て、自分もよく聴いていた。
 そしてセカンドがこれ。一聴して驚いたのは音の違い。アジアっぽさはそのままだが、ファーストのようなチープさ、(よい意味での)うさんくささが消え、かなりシャープで、直接的な音に変身したのだ。以前のノリも好きだったが、当然の進歩、と受け止めよう。何せ音こそ「イロモノ」すれすれのものだが、アティチュードは政治的な人達なのだ。リードシングルは「リアル・グレイト・ブリテン」。現在のイギリス政府を痛烈に批判している。他の曲もそうだが、そうしたメッセージ・ソングでも彼らは明るく陽気なスタンスを崩さない。「まず聴いてもらうことが先決だから」と言っている。これは圧倒的に正しい。(00.3.12)



THE SMASHING PAMPKINS
 Machina/the Machines of God
 前作「アドア」の静謐感が今一つ受け入れられなかったスマパン、今回は打って変わってハードな作品になった。さてセールス面で復活するかどうか。
 とにかくこの新作は「メタル」と言っても良いほどだ。特に一曲目は先行シングルでもあるが、まさに「メタリックなスマパン」を強烈に印象づけるもので、ビリー・コーガンの歪んだヴォーカルと相まってラジオ受けもしそうだ。
 個人的には3枚目で最も売れた「メロンコリー…」が好きだ。あれはヴァリエーションに富んでいながら全編を貫く不思議な統一感があり、独特の世界観を形成していた。今作もある程度はそうした世界観を持ってはいる。ただこれが好みを分けるかもしれないのだが、「メタリック」な方面に寄っている、ということである。感触としては2枚目に近いのか、ファーストを聴いていないので何とも言えないが…
 「アドア」よりは売れるかもしれないが、「全米一位」はもはや厳しい、というのが妥当な線かな。ただ、一聴の価値のある作品であることは間違いなし。(00.3.12)



STEELY DAN
 Two Against Nature
 「変わらないことは、変えることより難しい」
 などと、いつぞやのCMの如きフレーズが思い浮かぶ。いやあ、全く昔と変わらない。この人達、仙人なんだろうか。前作「ガウチョ」から何と20年ものブランクを経て登場したこの新作だが、20年の歳月を感じさせるものは皆無だ。
 このすぐに「スティーリー・ダン」と分かるジャズをベースにしたサウンドは、特に日本での人気が高い。いわゆる「オシャレ系」にも属してしまうのかもしれない。しかし、そういう「軽さ」とは無縁の職人気質の世界が繰り広げられるのが最大の持ち味だ。テクノロジーは進歩し、妥協を許さない彼らの仕事はやりやすくなったはずである。それでもじっくり作り込んだ感のあるこのアルバム、まさにグルメを唸らせる、熟成の出来だ。(00.3.11)



BONNIE PINK
 You Are Blue,So Am I (シングル)
 一般的にはこのボニーピンクは過去の人になりかかっているのかもしれない。確かに、一時期のスウェーデン・サウンドの流行に乗って現れたような印象が強いのだろう。しかし、それは誤解である。彼女はそんな安っぽい流行に消費されるようなアーティストではない。二枚のベストで過去をいったん清算したボニピン、4月のニューアルバムを前にした新曲である。3曲収録されているが、どれがメインでもおかしくない、良い曲ばかりだ。
 プロデューサーが替わって感じることは、「声」で勝負できるシンガーになった、ということだ。以前はサウンド面に多くを拠っていた感もあったが、今の彼女には風格すら感じる。よりシンプルになったバックの音は、その声の存在感をいっそう深く際立たせる。売れる必要はないが、定期的に素晴らしい作品をリリースし続けて欲しい。 (00.3.9)



THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
 カサノバ・スネイク
 うおおおお、ミッシェル最高!…などと完全に思考停止状態に陥らせてくれる、待望の新作だ。
 先行シングル「GT400」がそれまでのゴリゴリ路線から一息ついたナンバーだったのでこれまでとはかなり違う路線になるのか…とも思わせたが、決してそうではなかった。とにかく突っ走って突っ走って一体どこまで行くのか、とツッコミたくなるくらいハードだった前作「ギア・ブルーズ」。確かに今作はあれほどの「危うさ」といったものはない。しかし、どうだろう、この余裕。この一段と磨き上げられたカッコ良さ。もう一生ついていきます、って感じのまさに「ロック」だ。そう、これだ。「ロック」なのだ。もう説明の必要なし。「ロック」が聴きたければミッシェルを聴け!以上。(00.3.2)



OASIS
 Standing On The Shoulder Of Giants
 何だか大仰なタイトルだけど、いかにもオアシス(=ギャラガー兄弟)らしくて可笑しい。
 さて、来日公演で盛り上がりつつある今日この頃、タイムリーな新作登場、なわけだが、今回は前作の長さにはかなり自覚的だったと見え、ボーナストラックを含めても50分台である。逆に短すぎの感もあるが。イントロ的な1曲目に続いて前にレヴューしたシングル(Go Let It Out!)が流れる辺りは大変興奮させられるものだ。アルバム全体への期待感はいやが上にも高まる。
 …ところが、だ。そこから先、意外と地味なのだ。いや決して悪くはないのだが、得意の「いやでも耳についてしまう熱唱メロディー」が弱いのである。うーん、これはどうしたことか。インタヴューでも「シングル以外は結構ヘヴィーなものが多い」とノエルは語っていたというがその通りだ。ボーナストラックの最終曲が印象に残ってしまう、というのも悲しいものがある。
 ただ、どんな曲でも彼らが演ればオアシスなのは間違いの無いことで、それは彼らの最大の強みだ。折しもメンバーが大幅に変わっており、この新作は前メンバー最後の作品、ということになる。これはきっと一区切り的なアルバムなのかもしれない。何せ新ベーシストは元ライド〜ハリケーン#1のアンディ・ベルだ。2つの実績あるバンドのリーダー格であった男が、得意としていた轟音ギターを捨ててベースに持ち替えてまで、順調と思えたハリケーン#1を解散させてまでオアシスに加入したのだ。このライヴからオアシスはかなりの変貌を遂げるのではないか。あまり「次回作に期待」という言い方はしたくはないのだが… (00.2.26)



JOHN LENNON
 Imagine
 昨年リリースされたビートルズ「イエロー・サブマリン・ソングトラック」に続き、リミックス&リマスターされて現代に甦った、ジョンのソロ名作だ。
 こういう殺伐とした世の中を反映してか、「イマジン」は現代だからこそ世界中で好まれているようだ。そういった訳で今回のリミックスはこのアルバムがセレクトされたのであろう。自分もこの曲の詞はもっとも感動したものの一つで、今後何十年、何百年と伝えていきたい曲だということに異論があろうはずはない。しかし聴かせてやりたい人間は絶対に聴くことはないんだろうし、聴いても何の感慨も覚えないのだろうと思うとやるせなくなることも事実だ。
 ところでこのアルバムはオリジナルを持っているわけではないので音質的な比較は「イマジン」と「ジェラス・ガイ」くらいしか出来ないのだが、やはりステレオ感を生かしていることが挙げられる。ただ左右に音を振り分けていた時代と異なり、今は本当に拡がりや奥行きを出すためのステレオ録音がされているのだ。やや硬質な音だったオリジナルと違って、透明感があり、ヴォーカルもはっきりして、低音はかなりしっかりしている。どちらかというと温かめの音であり、現代の多くの人が思い描くジョンのイメージと一致しているのだろう。個人的には音質が良くなったのはうれしいが、オリジナルの少しがさついた感じや乾いたドラムも好き(今回のリミックスではかなり重くどっしりした感じ)なので、この点では甲乙付け難いものがある。ラジオで小林克也氏が「今回のは回転数を7%くらい速くしている」と裏話を漏らしておられたが、そこはさすがに分からなかった。しかし微妙に現代人に合わせているとは芸が細かい。
 「ジョンのソロなら『ジョンの魂』だろ」という人も多いだろう。どうやら次回のリミックスはそうなるようである。これもオリジナルの無愛想きわまりないところがどうなるのか?楽しみである。(00.2.20)



電気グルーヴ
 VOXXX
 もしかしたら、「ああ、あの『シャングリラ』の人達か、まだ生きていたのねえ」というのが世間の反応なのかもしれない。
 しかし、石野卓球がドイツでDJとして大活躍したことは事実だし、実際には絶え間なく活動をしていたことは確かだ。その間ピエール瀧が何をしていたのかは知らないが。
 そうこうしているうちに、まりん(砂原良徳)が脱退、2人になった電気の初のアルバムである。
 ソロでシリアスなテクノを極めていた卓球、電気でもそれが生かされるか…といった思いは1曲目から粉砕される。思いっきり登場して来た当時の、イロモノと言われていた時代を再現しているかのようだ。次々と繰り出される意味不明のセリフ。なめたようなディスコ・サウンド。しかしこれらが全て高性能なのだ。前作が「テクノ」と呼べた(しかもかなり本格的)のに対し、今作は分類不可能である。「スネークマンショー」とは違うけどねえ…
 それにしても、このCDに入っている低音はもの凄い。いつも聴くヴォリュームで聴いていたら家具が揺れていた。恐ろしい音圧。
 ところでこれ、売れるんだろうか。売れて欲しいことは確かだが…(00.2.13)



GUNS N' ROSES
Live Era '87-'93
 スラッシュ死亡説まで出たっけな、そう言えば。
 そんなガンズのライブアルバムだが、思ったより音質が良かったのは目っけもんである。それはともかく、彼らのロックはやはり圧倒的だ。こういうオーソドックスなハードロックを久しぶりに聴いたが、何故古臭さを感じないのだろうか。今やハードロックの潮流はKORNやリンプ・ビスキットに代表されるヒップホップの要素を取り入れたものだ。ガンズなどアナクロなはずだが…
 それはガンズ&ローゼスは既にロックのスタンダードと言う存在となっていたからに他ならない。つまりZEPやヴァン・ヘイレンといったレベルにあるわけだ。とは言え、彼らはまだ老け込むには早すぎる。新曲も発表(サントラ「End Of Days」に収録)し、そろそろ本格的に活動を再開したガンズ、最近すっかり大人しくなってしまったハードロック界に「喝」を入れる作品に期待したい。(00.2.13)



SNAIL RAMP
 Fresh Brash Old Man
 思えば、日本人向けだね。
 いわゆる「スカ」と言われるロックは「すちゃすちゃすちゃ」というリズムが心地よく、しかも大変ポップでノリがいい。今人気があるのも理解できる。
 そしてその先鋒とも言えるのがこのスネイルランプ。他のバンドと比べて圧倒的に明るく、分かりやすい。これは強みだ。これを標準と考えるとその他のスカ・バンドは何だか気難しい音楽に聞こえてしまうから不思議だ。
 さらに彼らの特徴は「全て英語で歌っていながら、それがもの凄くヘタ」という事実だ。見事にカタカナで歌っている。ケナしているのではない。そのあまりにも潔い歌いっぷりに、日本人の英語コンプレックスなんて、くだらないものだ、と思わせてくれるのだ。でもノリがいいから英語(っぽい)で歌うんだろうな。素晴らしい。
 ちなみに、ロングヒットとなった「Mind Your Step!」はこのアルバムには未収録。(00.2.11)



OASIS
 Go Let It Out(シングル)
 こんなに日本のラジオでオンエアされるとはねえ。
 買う前から何度も耳にした「ごーれりら〜う」というリアムの声。もはや問答無用、と言った感じのオアシス様の新曲だ。もう何も言うことはないが、とにかく曲はオアシス節。細かいことは言わずに楽しむのが粋というものだろう。曲の長くなりがちだったちょっと前に比べても短くなっているので聴きやすいし。
 まあ、もうすぐニューアルバムも出るのでそちらをお奨めしたいが、彼らの魅力の一つにシングルのカップリングが素晴らしいことが挙げられる。当然今回の2曲もいい。こうしたところがファンの多さに繋がっているのだろう。実際、彼らの人気は国民的なもので、「音楽的な」あるいは「ロック的な」評価は本国でも受けていないように見受けられる。誤解を恐れずに言えばグレイかラルクのようなものか。逆に言えばそれ程突き抜けた存在なわけで、「悔しかったら売れてみろ」と言えるレベルなのだ。ただ、前作「Be Here Now」が評価が今一つだった事を考えると、今月出るアルバムが勝負でもある。手ぐすね引いて(?)待つとしよう。(00.2.8)



THEE MICHEL GUN ELEPHANT
 GT400(シングル)
 首が長〜くなるほど楽しみだった、ミッシェルの新曲。
 一体どんな熱いものが迸り出てくるのだろう、という期待はスピーカーから出てくるミディアム・テンポな音に少し気勢を削がれた感じ。と、言うよりいかにミッシェルのイメージが固定していたかを表すものだろう。どんどん激しくなって行ったこれまでの流れから、「ミッシェルはこういうロックしか演らないバンドなのだ」などと。
 彼らはそんなチンケな存在ではなかった。これもまたミッシェルの魅力も一つだ。何せもうすぐニューアルバムだ。それに向けた、ちょっとした御挨拶だろう。自然にぞくぞくしてくる。もうアルバムが聴けるのだ。そしてそれは前作「ギア・ブルース」とはかなり違ったものになりそうだ。いや、もしかしたらこの曲だけがやはり異色であって、やっぱりハードなものだったとしてもうれしい。いやはや、罪深いバンドである。(00.2.8)



THE CURE
 Bloodflowers
 やっぱり、と思った解散話。一体何度目なのか。
 また解散は「しないことにした」そうな。狼少年にしては年をとりすぎたロバート・スミスだが、収録曲にもあるが39歳。とは言え、「年を感じさせない」とか、そう言った表現はしづらい人だ。何せロックスにしろ、音楽にしろ、「年齢不詳」。今年で40、と言われても「ふーん、そう」としか感じない。
 それはともかくこの新作、一言で言えば「キュアーらしさ全開」だ。彼らの特徴であるおどろおどろしさが存分に出ており、ここしばらくやたらポップだった彼らにしては、原点回帰と言っても良いだろう。きっとビデオクリップでは、またデカい蜘蛛やら鱗粉をまき散らしたお化け蝶やら芋虫が暴れ回っていそうだ。タイトルにしたって似合い過ぎだ。もうこの通りの内容、と言えば一番分かりやすかろう。
 解説では「ドラムン・ベースを使った」曲もあるとのことだったが、殆ど気づかせなかったくらいキュアーはキュアーだった。もう「オレ節」炸裂、と言った趣でたいへんよろしい。もう後何十年もこのままで、時々解散するとか何とか言いながらずっとやり続けているのではないか。(00.2.6)



SHUUBI
 愛の種目
 レンタルでごめんなさい、とまず言いたいです。
 最近女性ヴォーカルのトレンドは決してR&B系だけでなく、多様化していることは椎名林檎の大ブレイクで明らかだが、以前からCOCCOなど、個性的などちらかといえばロック的なシンガーは存在して、ある程度の人気を得ていた。
 そしてこのSHUUBIであるが、シングルやアルバムのジャケ写のルックスは、意志の強そうな目をしているものの、アイドルでも十分通用しそうなものだ。全く正直に言えば、私はルックスから入った。それでレンタル、というわけである。
 音を聴いてそのルックスに似合わないロック的な佇まいに驚かされた。純然たる「アーティスト」タイプと言っていい。「雲よ月を覆ってしまえ」といったタイトルもそうだが、歌詞のフレーズが所々引っ掛かって気になる。それがいい。詩人タイプでもあるのだろう。そして唱法も自分のものを持っていて、存在感を醸し出している。
 ただ、敢えて弱点を言うならそのオーソドックスな声質か。ラジオなどで聞き流しやすくなってしまうのだ。耳を立てて聴けば、その独特さがいきなり際立って迫ってくるだけに残念だ。シングルが今一つヒットしなかったのもそれが原因だろう。しかし、もの凄く魅力的なアーティストなので、(ルックスも含めて)肩入れして行くことを宣言します。(00.2.5)



SOPHIA
 ミサイル(シングル)
 ヴォーカルの松岡はルックスがいいので曲が化粧品のCMに使われても全く違和感がない。本人が出演してもいいくらいだ。もっとも、ルックスが悪くて化粧品のCMはダメなのか、ということを言っているわけではない、念のため。予想外(失礼!)に前シングル「OAR」が売れたので、この曲はもっと行けるだろう。人気がちょうどいい具合に安定してきているのかもしれない。
 さて、この「ミサイル」、もはやソフィアの王道といっても差し支えないタイプの曲だ。「ゴキゲン鳥」に近い、と言えば分かりやすいか。まあ、さわりの部分はCMで流れているからわかるだろうけど。2曲目の「MARY」は英語詞。こちらは「黒いブーツ」タイプのミディアム・ナンバーでこちらの方が好きな人も多いはずだ。
 最近ずいぶん早いペースでシングルを切ってきているソフィアだが、取りあえずアルバムの情報はまだ聞かない。(もっとも限定でライヴ盤がビデオ付きで出ているが、あれはファンのためのアイテムと言っても良い)それでいいと思う。しばらくこうしてシングルを立て続けに出して欲しい気分だ。そして満を持してリリース!それには決定打となるシングルが必要かもしれない。これがそうなって欲しいが、あくまで起爆剤と言った感じか。(00.2.3)



BONNIE PINK
 Bonnie's Kitchen #2
 予告通り、英語詞によるベスト盤。
 さすが、英語だけのアルバムでも全く洋楽と区別の付かないところは素晴らしい。普通ならば「英語で歌う」ということだけでイッパイイッパイになってしまいがちなところだが、確か外国語大学だったはずの彼女はさらりと何のてらいも意識もなく歌えてしまうのだ。カッコつけじゃなく、「表現したいことがあるから英語で歌う」ということを実践している。それがあの、独特の格好良さに繋がっているのだろう。
 この2枚のベストをリリースして、ボニーピンクは次のステージへと向う。シングル「Daisy」で新境地を開いた彼女、どうやらかなり次のアルバムでは変化があるはずだ。トーレ・ヨハンセンの音(プロデュース)で、どちらかというと「オシャレ」な部類に分けられてしまっていたが、そんな枠で収まりきるキャラクターではないことは間違いない。まさにこれからが本領発揮なのだろう。もう期待は膨らむばかりだ。(00.1.31)



PRIMAL SCREAM
 Xtrmntr
 正しいタイトルは「Exterminater」。母音を全て抜いているわけね。
 先行シングル「Swastika Eyes」で、否応無しに期待を高ぶらせてくれたプライマル、2000年初頭に凄いアルバムを出してきてくれた。
 それにしても思うのは、前作も含めて彼らはいわゆる「ロック」っぽさからは完全に決別したのかな、ということだ。知らない人はこの作品を「ロック」とは言わないだろう。このバンドの歴史は新作を出すたびに作風を変える「カメレオン・バンド」としてのそれだ。「結局こいつら何をやりたいんだ」という評価がいつも付きまとっていた。しかし、前作からそれまで三年寝太郎のようにグータラだったボビー・ギレスビーは熱き人として変わった。今作もやる気満々さがにじみ出たような熱いものだ。それが古典的な「ロック」ではなかった、ということか。
 とは言え、どうしてもプライマルと言えば大傑作「スクリーマデリカ」を想起せざるを得ないが、この新作はその延長線上にあるとボビーは言う。確かにそうかもしれない。ただ、あのやる気無さげなところが素晴らしかった「スクリーマデリカ」と比較すると、この今にも機関銃ぶっ放して廻りのものを全て撃ち殺しかねない今作の熱さとは、対極にあるのではないか、とも感じてしまう。
 どちらにしても2000年前半において、避けては通れないアルバムになることは確かだ。(00.1.30)   



椎名林檎
 「ギブス」&「罪と罰」(シングル)
 「赤盤」「青盤」にディスクには林檎(アップル)が。ナイスな狙いです。
 丁度先日テレビで観た彼女は今度はまゆが無くて(「罪と罰」のビデオと同じだ)なかなか恐く、テレビしか見ない人には彼女のキャラクターが掴みづらいことだろう。
 「ギブス」の方はかなり前に書かれたものらしく、彼女のピュアな部分が良く出ており、長く親しまれそうな曲だ。カップリングはまるでオリジナルのように聞こえるザ・ピーナッツの「東京の女」(ジュリーの作品)、英語詞の「Σ」。最初にピュアさを出しておいてあとはドロドロ。と言った感じか。
 「罪と罰」はもう「情念」としか言い様のない「現在」の椎名林檎がいる。例の「R」音の巻き舌も見事だ。個人的にはこれが椎名論語を好きな一つの理由だ。メジャーとなったアーティストがここまでやれる時代になったことは本当に素晴らしいことだ。そしてギターには彼女の憧れの人、ブランキーの浅井が参加。そんなドロドロのリード曲の後は、往年のディスコ・ヒット「キミノヒトミニコイシテル」のカヴァー。うーん成る程、両方のシングルともバランスをとろうとしているのかな。
 もう次はアルバムだろうか。何せ最近のシングルを集めただけでも一枚出来てしまうくらい作品を発表している彼女、まだまだ表現しきれないことはたくさんありそうだ。(00.1.29)



THE YELLOW MONKEY
 聖なる海とサンシャイン(シングル)
 イエモンの新たな「挑戦」シングル第二弾。
 今作も朝本浩文プロデュースだが、いつものイエモンだった「バラ色の日々」と比べてこちらは明らかに「朝本臭さ」が出ている。洗練された音の中に浮かび上がる吉井のヴォーカル。こういった音は今までの彼らからは聴かれなかったものだ。これまでの過剰とも言えた暑苦しさが無くなったことは果たしていいことなのか、悪いことなのか、判断に苦しむが、当然彼らの暑苦しさを好んでいた自分としては少し寂しさを感じてしまうのは事実だ。ただこれは過渡期なのだ、と思いたい。
 前作もリミックスが入っていたが、何と今作は残り4曲全部別ミックスだ。吉井自身によるアコースティックなもの、屋敷豪太によるものなどが収められており、比べてみるのは面白いが、こんなにリミックスするのはどういうことなのだろうか。今までなかったことだけに、声(インタビュー)を聞いてみたいところだ。(00.1.27)    



(番外編)続・90's トップ10アルバム

 

 ちょっと間が空いてしまったけど、さあ、大詰めのトップ5だ!
 
 5.プロディジー「Fat Of The Land」
   ケミカルに比べると分かりやすい、この「デジタル・ロック」なアルバムは、今聴くと少々色あせている部分も見受けられるが、やはり刺激的であった。ここまでパンクっぽい、いやパンクそのものとも言えるテクノはもの凄く興奮させてくれ、「ロック」を感じさせてくれた。最近名前を聞かないが、また戻ってきて欲しいものだ。とは言え、このアルバムを伝説にするにはこのまま…という気もしないではないが。
   
 4.ヴァーヴ「Urvan Hymns」
   一頃これほどハマったアルバムはなかった。一聴すると地味なのにも関わらず心の襞をかき分けてジットリと浸入してくるような、その音。恐いくらいに良かった。今でも時々ターンテーブルに載せるが、その度にジンワリと、沁みていく。単純に「飽きの来ない」という言葉では言い表せない、不思議な魅力があるのだ。本当に解散が惜しまれる。しかし、リチャード・アシュクロフトのソロ作品には2000年期待だ。
   
 3.オアシス「(What's The Story) Morning Glory?」
   90年代のブリティッシュ界を語るうえでは欠かせない、毎度お馴染の存在となったオアシスだ。「結局ビートルズの真似じゃねえか」という声を見事に封殺したのは、やはりやったモン勝ちの、「みんなで歌える圧倒的なメロディー」には勝てなかった、ということだ。そしてビートルズには無かったグルーヴ感。もっとも今となってはグルーブ不足の感は否めないが、それでもビートルズでは横にノルことは出来なかったはずだ。3作目は少し冗長すぎて評価が分かれたが、それでも傑作だったと個人的には思う。さて遂に新曲、ニューアルバム、そして来日だ。歌おう!
   
 2.ドラゴンアッシュ「Buzz Songs」
   何の予備知識もなく買ったCD。それは自分の目から何万枚の鱗を落とさせたことだろうか。素晴らしい。天才だ。そう確信した。降谷建治19歳。ウソだろう。しかし逆にそれは19歳にしか書けないものでもあった。この時点で自分の中での洋楽・邦楽という区別は完全に崩壊した。しかしこれもまた逆に日本人でなければ作り出せない音・言葉でもあった。「陽はまた昇りくりかえす」「Under Age's Song」といったラップに乗せて繰り広げられるその言葉の世界。文学だ。巷に流布しているクサイ詩など宇宙の彼方に駆逐してしまうだろう。それとは対照的な、いい加減っぽい(あくまで「ぽい」)ロック・ナンバーとのメリハリが実に良い。文句無し。
   
 1.ニルヴァーナ「Nevermind」
   あの「Smells Like 〜」のリフ。これに尽きるだろう。その後グランジやら何やらで流行の寵児となり、祭り上げられ、揚げ句の果ての自殺。絵に描いたようなロックン・ロールな生き様を一見提示してしまったかに見えるカート・コバーン。しかし彼の人生よりも、やはりあのリフだ。あのリフに痺れてしまって、この作品は90年代最大の名盤となったのだ。自分がここで取り上げるまでもなく、これを1位にするパブリシティは多かった。例えカートの死が無くてもそれは揺るぎなかったのではなかろうか。そう信じたい。
  
  
  こうしてみると、いわゆる「ベテラン」と呼ばれる存在が一人もいないことに気がつく。やってはいないが80年代の10組をセレクトしたらきっとまだベテランも登場していただろう。ストーンズ、スプリングスティーン、といったような。しかし音楽というのは常に前へ進んでいくものだと思っている。これは非常にある意味当然とも言えるのではないか。(00.1.21) 

   



(番外編)90's トップ10アルバム

 もう既に総括されまくった感のある90年代、それでも自分なりに振り返ってみたいと思い、この企画を実行することにした。思えばストーン・ローゼスは89年なのだ。加えることが出来ないのだが、彼らの出現が大きくその後のロック界、そして私個人の嗜好に変化をもたらしたことは揺るぎない事実である。
 それではカウントダウン形式で、10位から。
 
 10.ミッシェル・ガン・エレファント「Chicken Zombies」
   最新作である「Gear Blues」も大傑作であるが、印象の強かったこちらにした。何と言っても「日本にもこれだけロックが出来る奴等がいた」という事が素晴らしい。確かに新しさはないかもしれない。しかし「新しさ」を彼らに望むのはどうか。とにかく「ロック」だ。他には何も要らない。
   
 9.ベック「Odelay!」

   彼の名を出さないわけには行くまい。何をもって「90年代」のロックか、と言う問いには「ベック」の存在そのものだ、と言うのがその答えだ。彼の前では「ジャンル」という括りは意味をなさない。そして90年代の終わりになって、またまた凄いアルバムを出してきた。2000年代、彼はどう動くのか?それとも、あくまで「90年代」の人となるのか?興味は尽きない。
   
 8.ドラゴンアッシュ「Viva La Revolution」
   99年を代表するアルバム、そしてバンドとなった。それにしても降谷建治の前へ前へと前進しまくる姿は見ていて本当に気持ちが良いものだ。ベック同様、彼の一挙手一投足に注目したい。ベックはもう30歳近いが降谷はまだ20歳なのだ。注目せずにおれようか。
   
 7.小沢健二「Life」
   今やすっかり過去の人となり、元相棒のコーネリアスは海外で高い評価を挙げている現在ではあるが、この作品が傑作であることは間違いない。例え中古屋で¥580で売られていようともだ。あくまで同じタイプのアルバムを作らなかった事が災いしてしまったが、この姿勢は買いたい。このアルバム後の怒濤のシングルリリースをまとめたアルバムでも出せば「売れた」のだろうが…確かにそれはするべきではなかろう。しかし昨年、何とあの「モータウン」と契約しているのだ小沢は。2000年に再び何かを起こす可能性もある。期待するしかない。
   
 6.ケミカル・ブラザース「Dig Your Own Hole」
   テクノが「ロック」であることを教えてくれたのはまぎれもなく彼らのファーストだ。そして決してそれがマイナーなことではないと知らしめたのがこのアルバムである。現在のロックの一つの提示としてではなく、音楽に対するアティテュードは紛れもなく本流のロックのそれだ。こういったものを聴いていると、未だにいわゆる「ロック」をやっている人達は、一部を除いて単なる伝統芸能になってしまっているんじゃないか?と思わせてしまう。
   
  
  …というわけで、6位まで発表しましたが、5位から上は次回ということで。
  続く!(00.1.16)



SQUAREPUSHER
 Selection Sixteen
 テクノというのはフロアで「踊る」ための音楽ではあるが、中には「聴く」方がいいものもある。また、そういう作り方をするものもある。このスクエアプッシャーは、分類すれば「ドラムンベース」になるが、フロア向けに作った作品は特に激しいものが多く、「ドリルンベース」とも言われる。
 その逆にここ最近のEPではジャズに傾倒した作品が多く、どちらかと言えば「聴く」音楽を作っていた。最近ジャズも聴くようになっていた自分は結構そう言った作品集が好きでもあった。ジャズとは言っても伝統的なものとは異なる、アンビエントな要素も強いもので、音量を上げて聴くとなかなか心地よいのである。
 そして今作は久しぶりに「ドリルンベース」復活。本領発揮である。もっとも、ジャズ路線時代も無駄にはならず、見事に織り交ぜている。思うのはテクノ、というジャンルの人は本当に芸術家指向というか、職人肌というのか、最も真剣に音楽自体に向き合っているということだ。それはやはりジャズに通ずるものがあるのかもしれない。
 とにかく聴いて良し、踊って良しの快作。(00.1.10)



スピッツ
 Recycle Greatest Hits of Spitz
 もう既に音楽誌のレヴューなどでも書かれていることだが、このベスト盤の製作にメンバーは乗り気ではなかったということだ。それはこのヒットシングルを何の工夫もなくただ年代順に羅列しただけ、という構成からも明らかだろう。彼らが関わっていればもっと異なるアプローチになっていたはずなのだ。何せ本当にシングルしかない。それも人気が出始めた頃からとなっている。「大ファン」を名乗るものならば絶対にしない選曲とさえ言える。
 …しかし、だ。逆にここまでベタなベストはある意味潔い。下世話かもしれないがとにかく「売れる」。それにこの単純な年代順というのは割と感慨深い。確かに彼らの音楽性は高い。草野マサムネの書く詞は詩ではないか。ただ、これだけ売れて大衆の中に根づいている存在でもある事は紛れもない事実なのだ。そしてしばらく新作が途絶えている(「花鳥風月」もセレクトものだったし。)こともあり、ここでベスト、と言うのは当然のことではなかろうか。そしてスピッツと共に青春を過ごした者ならば、この順番に並べられた曲がまた当時の甘く、あるいは苦い記憶を呼び覚ましてくれるのだ。そういう役割を、望むと望まないにしろ彼らはもはや背負わされているのである。
 それにしても、こうしてシングルだけを通して聴くと、随分普通のアルバムとは違った感触になるのも確か。レギュラーアルバムがいくつものエピソードを集めた長編小説とするならば、これはそれぞれが独立した、しかしどれも甲乙つけがたい短編小説集、と言ったところか。(2000.1.6)



MISIA
 Love Is The Message
 なかなかに恥ずかしいタイトルではあるが、早くも2000年の傑作が登場だ。
 UAに続いていわゆる「女性R&Bヴォーカル」ブームをリードしてきたミーシャだが、このアルバムは決して「R&B」ではない。デヴュー当時は確かにそういった曲で出てきたので見られがちだが、彼女はそういった枠にはめるべき存在ではない、ということだ。
 とにかく彼女の歌唱力はずば抜けたものがる。この才能は日本だけに留めておくには勿体無いものがあるだろう。どこに出しても恥ずかしくない、流行り廃りに囚われない普遍的な女性ヴォーカリストと言える。現在アメリカでも女性ヴォーカルは花盛りだ。しかしこの中にあって「ミーシャの実力なら十分駆逐できる」勢力はかなりあると思う。失礼ながら国内では不利と思われた(実際そんなことは全くなかったが)ルックスにしても、逆にアメリカでは「オリエンタル」フェイスとして受け入れられやすいと思う。どんどんこうした才能は輸出して、プロモーションをかければ成功するはずだ。
 通して聴くと、この声にどんどん引き込まれて行くのが分かる。ラストの「Lovin' You」のカヴァーはもう圧巻だ。インタヴューなどを読んだことが全く無いので実際にはどういう音楽が好みなのか分からないのだが、他にも様々なタイプの音楽を歌わせてみたくなる、そんな存在。(2000.1.4)



WINO
 WINO
 「日本のオアシス」だなんて言って、大変申し訳ない。
 先日のシャーラタンズ・ライヴレヴューにも書いた通り、彼らの実力は現状ではかなり過小評価されていることは間違いない。やはりどうしても余りに「UKロック」っぽさが鼻についてしまう人からは敬遠されがちだったのだが、それを全く感じさせない、これがWINOだ、文句があるか、という堂々としたものを感じるのだ。それはこのアルバムタイトルにも表われているだろう。そして盤石のバンド・サウンド。日本でこれだけ横にノれるグルーヴを持ったバンドが他にいるか?
 そして今作ではヴォーカルの表現力がもの凄くパワーアップした。「僕は変われるんだ」「前に進むんだ」という歌詞もそうだが、心に引っ掛かる歌を歌えるようになっている。はっきり言ってもうこれでオアシスが云々…という人はロックがわからないのだろう。まだまだセールス的には地味なバンドだが、必ずこれならブレイクするときが来る。それまでどんどん成長して行って欲しい。(2000.1.1)